説明

微弱光の検出方法及びその検出装置

【課題】受光器を極低温に冷却することなく、微弱光の検出を可能とすること。
【解決手段】背景光測定用の第1の試料が放射する光を第1の受光器で受光して、第1の受光信号を得る第1の計測ステップと、背景光測定用の第2の試料が放射する光を第2の受光器で受光して、第2の受光信号を得る第2の計測ステップと、前記第1の受光信号と前記第2の受光信号との第1の差分を得て記録する第1の演算記録ステップと、発光体を含む第3の試料が放射する光を、前記第1の受光器で受光して第3の受光信号を得る第3の計測ステップと、背景光測定用の第4の試料が放射する光を前記第2の受光器で受光して、第4の受光信号を得る第4の計測ステップと、前記第3の受光信号と前記第4の受光信号との第2の差分を得て記録する第2の演算記録ステップと、前記第2の差分から前記第1の差分を差し引いた第3の差分を得て記録する第3の演算記録ステップを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微弱光の検出方法及びその検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素は、動植物の生命活動において極めて重要な役割を果たしている。活性酸素には、O(スーパーオキシド),H(過酸化水素),OH,NO、(一重項酸素)等がある。
【0003】
活性酸素と発光試薬を反応させると、微弱な可視光が発生する。この微弱な光を検出することによって、活性酸素の存在を検知することができる。しかしながら、一重項酸素のみに反応する適当な発光試薬は、存在しない。このため、他の活性酸素に比べ、一重項酸素の研究は、遅れている。
【0004】
ところで、一重項酸素は、基底状態の酸素(三重項酸素)に緩和する過程で微弱な光を発生する。この緩和過程には、2つの一重項酸素が関与する2分子反応と、一重項酸素が単独で緩和する1分子反応がある。
【0005】
2分子反応では、630nmの光が発生する。この光を測定して、活性酸素を検出することも考えられる。しかし、この光の波長630nmは、生体内部の諸物質による吸収波長や発光波長と重なっている。このため、630nmの光は、一重項酸素の検出には適していない。
【0006】
一方、1分子反応では、1268nmの光が発生する。この波長は、生体内部の諸物質での吸収や発光とは重ならない。従って、1268nmの光は、一重項酸素の検出に適している。本発明者等は、既に、この波長を用いた、一重項酸素の検出方法を提案している。
【特許文献1】特許第3017721号公報
【特許文献2】特開2000−199758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一重項酸素の発光強度は微弱である。このため、一重項酸素が放射する光を受光器(光検出器)に照射しても、受光器に流れる光電流は、暗電流以下にしかならない。
【0008】
このような光電流を検出することは、一般的に困難である。
【0009】
ここで、暗電流とは、熱励起によって受光器に発生する電流のことである。例えば、pinフォトダイオード(pin photodiode;PIN-PD)の空乏層に、熱励起によって電子―正孔対が発生すると、空乏層内の電界によって、この電子と正孔が反対方向に引き離され、暗電流が発生する。
【0010】
本発明者等が提案した一重項酸素の検出方法では、受光器は30K以下の極低温に冷却される。このような温度では暗電流が略完全に消失するので、一重項酸素が放射する微弱光を検出することが可能になる。
【0011】
しかし、光検出器を30K以下に冷却するためには、長時間の冷却が必要である。このような長時間の冷却は、測定効率を著しく低下させる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、受光器を極低温に冷却することなく、一重項酸素等が放射する微弱な光の検出を可能とする、微弱光検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本微弱光の検出方法は、背景光測定用の第1の試料が放射する光を第1の受光器で受光して、第1の受光信号を得る第1の計測ステップを具備する。
【0014】
また、本微弱光の検出方法は、前記第1の計測ステップと同時に、背景光測定用の第2の試料が放射する光を、第2の受光器で受光して、第2の受光信号を得る第2の計測ステップを具備する。
【0015】
また、本微弱光の検出方法は、前記第1の受光信号と前記第2の受光信号との第1の差分を得て記録する第1の演算記録ステップを具備する。
【0016】
また、本微弱光の検出方法は、発光体を含む第3の試料が放射する光を、前記第1の受光器で受光して第3の受光信号を得る第3の計測ステップを具備する。
【0017】
また、本微弱光の検出方法は、前記第3の計測ステップと同時に、背景光測定用の第4の試料が放射する光を、前記第2の受光器で受光して、第4の受光信号を得る第4の計測ステップを具備する。
【0018】
また、本微弱光の検出方法は、前記第3の受光信号と第4の受光信号との第2の差分を得て記録する第2の演算記録ステップを具備する。
【0019】
更に、本微弱光の検出方法は、前記第2の差分から前記第1の差分を差し引いた第3の差分を得て記録する第3の演算記録ステップを具備する。
【発明の効果】
【0020】
本微弱光の検出方法によれば、受光器を極低温に冷却することなく、一重項酸素等が放射する微弱光を検出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0022】
図1は、上述した一重項酸素の検出方法に用いる、微弱光検出装置2の構成を説明する図である。尚、以後、図面が異なっても対応する部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
【0023】
この微弱光検出装置2は、測定試料が配置される遮光試料室6、受光器が配置される遮光受光室11、及び試料注入ユニット24を有している。遮光試料室6は、大気圧、室温に保たれる。一方、遮光受光室11内は真空に保たれ、第1の受光器8、第2の受光器、及び冷却板17は、測定にあたっては、極低温(30K以下)に保たれる。
【0024】
遮光試料室6には、試料容器4が配置されている。
【0025】
試料容器4には、第1の試料12を保持する第1の試料受容室14と、第2の試料16を保持する第2の試料受容室(発光容器)18が設けられている。ここで、第1の試料12は、例えば、一重項酸素等の発光体を含む薬液である。第2の試料16は、背景光測定用の試料である。例えば、第2の試料16は、発光体を含まない点を除き、できる限り第1の試料12と同じ組成になるように調製された薬液である。
【0026】
試料容器4は、複数の薬液を瞬間的に混合して試料を調製する、いわゆるラピッド・ミキシング容器である。第1の試料受容室(発光容器)14には、3つの薬液流入路20a, 20b, 20cが接続されている。一方、第2の試料受容室16には、3つの薬液流入路22a, 22b, 22cが接続されている。
【0027】
薬液流入路20a, 20b, 20c及び薬液流入路22a, 22b, 22cは、第1の試料受容室14に第1の試料12を注入し、同時に、第2の試料受容室18に第2の試料16を注入する試料注入ユニット24に接続されている。
【0028】
遮光受光室11には、第1の試料12が放射する光を検出する第1の受光器8と、第2の試料受容室18に保持された第2の試料16が放射する光(熱輻射等)を検出する第2の受光器10が配置されている。ここで、第1の受光器8及び第2の受光器10は、pinフォトダイオードである。
【0029】
第1の受光器8及び第2の受光器10は、差動増幅器19に接続されている。
【0030】
一重項酸素の測定は、以下のように行われる。
【0031】
まず、遮光受光室11の中に設置された、第1の受光器8及び第2の受光器10および冷却板17は冷却器(図示せず)によって、30K以下の極低温に冷却される。従って、第1の受光器8及び第2の受光器10の暗電流は、略完全に消失する。
【0032】
次に、第1の試料受容室14及び第2の試料受容室18夫々に、一重項酸素を含む第1の試料12と、背景光測定用の第2の試料16を、同時に注入する。
【0033】
すると、第1の受光器8には、第1の試料12に含まれる一重項酸素が放射する、測定光26が入射する。更に、第1の受光器8には、熱輻射等の一重項酸素の発光には起因しない背景光28aが入射する。尚、背景光とは、検出対象の光(例えば、一重項酸素の発光に起因する光)と共に、受光器に入射する光のことである。
【0034】
ところで、第2の受光器10に対面する第2の試料16には、一重項酸素は含まれていない。このため、第2の受光器10には、背景光28bのみが入射する。
【0035】
上述したように、第2の試料16は、一重項酸素を含まない点を除き、できる限り第1の試料12と同じ組成になるように形成されている。更に、第1の試料受容室14及び第2の試料受容室18等も、できる限り同じ構成になるよう形成されている。このため、背景光28a,28bの強度及び分布は、略等しくなる。
【0036】
従って、差動増幅器19によって、第1の受光器8の出力と第2の受光器10の出力の差分を得ると、測定光26に起因する光起電力だけが検出される。
【0037】
しかし、光検出器8,10を30K以下に冷却するためには、長時間の冷却時間が必要である。このような長時間の冷却時間は、測定効率を著しく低下させる。
【0038】
このような測定効率の低下を回避するため、本実施の形態では、光検出器8,10を短時間で冷却可能な低温(例えば、100K)に冷却して測定を実施する。
【0039】
しかし、100K程度の低温では冷却効果が十分でないので、暗電流は、十分に小さくはならない。このため、微弱光の測定に際して、暗電流の影響を無視することができない。
【0040】
暗電流が微弱光の測定に及ぼす影響をなるべく小さくするために、第1の光検出器8及び第2の光検出10には、なるべく特性の揃った受光素子が用いられる。しかし、両受光器の暗電流を、完全に一致させることは不可能である。このため、測定光26が放射されていない時でも、差動増幅器19には、出力が発生する。
【0041】
そこで、本実施の形態では、暗電流によって差動増幅器19に発生する出力(以下、ベースラインと呼ぶ)を予め測定しておく。そして、微弱光を測定する際には、差動増幅器19の出力から、このベースラインを差し引いて、測定光26を検出する。
【0042】
図2は、本実施の形態の微弱光の検出方法を説明するフロー図である。
【0043】
本実施の形態では、まず、背景光測定用の第1の試料が放射する光を、第1の受光器8で受光して、第1の受光信号を得る(第1の計測ステップ30)。
【0044】
背景光測定用の試料とは、検出対象の光を放射する発光体を含む試料と、同一の背景光を形成するように、形成された試料のことである。例えば、一重項酸素を含む液体と、同一又は近似した組成を有する液体である。具体的には、過酸化水素水と次亜塩素酸を反応させて一重項酸素を発生させて、測定試料とする場合、過酸化水素水が背景光測定用の試料になる。
【0045】
この第1の計測ステップ30と同時に、背景光測定用の第2の試料が放射する光を第2の受光器10で受光して、第2の受光信号を得る(第2の計測ステップ32)。
【0046】
次に、差動増幅器19によって、上記第1の受光信号と上記第2の受光信号との第1の差分(ベースライン)を得て記録する(第1の演算記録ステップ34)。
【0047】
この第1の差分(ベースライン)は、第1の受光器8及び第2の受光器10の暗電流の相違に起因する。
【0048】
次に、発光体(一重項酸素)を含む第3の試料が放射する光を第1の受光器8で受光して、第3の受光信号を得る(第3の計測ステップ36)。
【0049】
ここで、第3の試料とは、例えば、過酸化水素水、次亜鉛素酸、及びサンプル薬液(例えば、ヒスチジン、リコピン等の一重項酸素の消去材を含む溶液)である。
【0050】
上記第3の計測ステップと同時に、背景光測定用の第4の試料が放射する光を上記第2の受光器10で受光して、第4の受光信号を得る(第4の計測ステップ38)。
【0051】
次に、差動増幅器19によって、第3の受光信号と第4の受光信号との第2の差分を得て記録する(第2の演算記録ステップ40)。
【0052】
次に、上記第2の差分から上記第1の差分(ベースライン)を差し引いた、第3の差分を得て記録する(第3の演算記録ステップ42)。
【0053】
このように、本実施の形態では、第2の差分から第1の差分(ベースライン)を差し引くので、第3の差分からは、暗電流の影響が除去されている。このため、第3の差分は、測定光の強度にのみ比例するようになる。
【0054】
故に、本実施の形態によれば、暗電流が残存する低温でも、一重項酸素等の放射する微弱な光の検出が可能になる。従って、微弱光の検出を短時間で実施できるようになる。
【実施例1】
【0055】
(1)測定装置
図3は、本実施例で使用する微弱光の検出装置44の構成を説明する図である。
【0056】
本微弱光の検出装置44は、遮光試料室6、遮光受光室11、試料注入ユニット24、演算制御装置46、駆動パルス発生ユニット48、増幅器50、アナログ・デジタル変換器(A/D変換器)52及びスイッチユニット54を有している。
【0057】
遮光試料室6は、大気圧、室温に保たれる。一方、遮光受光室11は、測定にあたっては、真空に保たれ、第1の受光器8、第2の受光器10、及び冷却板17が低温(例えば、100K程度)に保たれる。
【0058】
―遮光試料室―
遮光試料室6には、試料容器4が配置されている。
【0059】
試料容器4には、第1の試料12を保持する第1の試料受容室14と、第2の試料16を保持する第2の試料受容室18が設けられている。ここで、第2の試料は、背景光測定用の試料である。
【0060】
試料容器4は、複数の薬液を瞬間的に混合して試料を調製する、いわゆるラピッド・ミキシング容器である。第1の試料受容室14には、3つの薬液流入路20a, 20b, 20cが接続されている。一方、第2の試料受容室18には、3つの薬液流入路22a, 22b, 22cが接続されている。
【0061】
薬液流入路20a,20b,20c及び薬液流入路22a, 22b, 22cには、夫々、試料注入ユニット24が接続されている。
【0062】
試料注入ユニット24は、各薬液流入路に薬液を注入する。すると、各薬液は、各薬液流入路と試料受容室とをつなぐ連結路56a,56bで瞬間的に混合される。混合された各薬液は、第1の試料12又は第2の試料16となって、夫々、各試料受容室14,18に注入される。
【0063】
各試料受容室14,18から溢れた薬液は、各薬液流出路58a,58bを経由して試料容器4の外部に排出される。
【0064】
また、遮光試料室6には、2つ光学フィルタ60a,60bが配置されている。これら2つの光学フィルタ60a,60bは、それぞれ、試料受容室14,18と光透過窓62a,62bの間に配置されている。光学フィルタ60a,60bは、一重項酸素が放射する波長1268nmの光を抽出するフィルタである。
【0065】
また、試料容器4、光学フィルタ60a,60bの周囲、および光透過窓62a,62bの周囲には、恒温水64が流れる恒温水流路管59a,59b等が配置されている。この恒温水64の流れによって、試料容器4等の温度は一定に保たれる。
【0066】
―遮光受光室―
遮光受光室11には、第1の試料12が放射する光を検出する第1の受光器8と、第2の試料16が放射する光を検出する第2の受光器10が配置されている。また、遮光受光室11には、後述するスイッチユニット54と差動増幅器19が配置されている。ここで、第1の受光器8及び第2の受光器10は、pinフォトダイオードである。
【0067】
尚、第1の受光器8及び第2の受光器10は、冷却機(図示せず)に接続された冷却板17に固定されている。この冷却板17の冷却作用により、第1の受光器8及び第2の受光器10は、約100Kに冷却される。
【0068】
―試料注入ユニット―
試料注入ユニット24は、第1の試料受容室14に第1の試料12となる薬液を注入し、同時に、第2の試料受容室18に第2の試料16となる薬液を注入する装置である。
【0069】
試料注入ユニット24は、各薬液流入路20a, 20b, 20c,22a, 22b, 22cに接続される複数のシリンジ(図示せず)を有している。
【0070】
薬液流入路20a, 20b, 20cには、これらのシリンジから、調合されて第1の試料12となる薬液が注入される。一方、薬液流入路22a, 22b, 22cには、調合されて第2の試料16となる薬液が注入される。
【0071】
―電子機器群―
図4は、本微弱光の検出装置44を形成する電子機器群65の構成を説明する図である。
【0072】
本電子機器群65は、第1の受光器8と第2の受光器10を有している。また、本電子機器群65は、スイッチユニット54を有している。
【0073】
第1の受光器8及び第2の受光器10は、InP基板上に形成されたInGaAsを光吸収層とするpinフォトダイオードである。
【0074】
スイッチユニット54は、電界効果トランジスタ製の第1のスイッチ66aと、同じく電界効果トランジスタ製の第2のスイッチ66bを有している。この第1のスイッチ66aは、第1の受光器8の出力端子間を短絡するスイッチである。同様に、第2のスイッチ66bは、第2の受光器10の出力端子間を短絡するスイッチである。
【0075】
ここで、第1の受光器8と第1のスイッチ66aは、第1の試料12が放射する光を検出する第1の受光器ユニット68aを形成する。同様に、第2の受光器10と第2のスイッチ66bは、第2の試料16が放射する光を検出する第2の受光器ユニット68bを形成する。
【0076】
図5は、第1の受光器ユニット68aの等価回路74を説明する図である。尚、第2の受光器ユニット68bの等価回路は、第1の受光器ユニット68aの等価回路と同じある。従って、第2の受光器ユニット68bに関する説明は省略する。
【0077】
第1の受光器ユニット68aの等価回路74は、光電流と暗電流の和に相当する電流源76と、pinフォトダイオードの接合容量に相当する容量78と、内部抵抗80と、スイッチ66aによって形成されている。尚、光電流は、一重項酸素等の発光体が放射する光及び背景光等によって形成される。
【0078】
スイッチ66aが閉じると、容量78の両端が短絡され、容量78に蓄積していた電荷が放電される。その後、スイッチ66aが開くと、電流源76によって容量78が充電され、出力端子82a,82bの間に電圧が発生する。この電圧は、光電流と暗電流を積分した値に比例する積分信号である。すなわち、出力端子82a,82bの間には、光電流と暗電流の積分信号が出力される。
【0079】
以上の説明から明らかなように、第1の受光器8及び第2の受光器10は、光を受光して電圧を発生する受光器である。
【0080】
尚、出力端子82a,82bの間の電圧が高くなると、受光器8に順方向電流が流れて、出力電圧が光電流と暗電流の積分値に比例しなくなる。そこで、スイッチ66aを定期的に閉じて、容量78を放電する必要がある。
【0081】
ところで、第1の受光器8及び第2の受光器10は冷却されているので、内部抵抗80は十分に高い。このため、内部抵抗80による漏れ電流は、無視することができる。
【0082】
スイッチ66a,66bの開閉は、一定の周期で繰り返されるトリガ信号84によって制御される。トリガ信号84は、駆動パルス発生ユニット48によって形成される(図4参照)。この駆動パルス発生ユニット48は、演算制御装置(パーソナルコンピュー等)46が備えるトリガ信号制御装置70によって制御される。
【0083】
この駆動パルス発生ユニット48とトリガ信号制御装置70は、第1の受光器ユニット68a及び第2の受光器ユニット68bを繰り返し動作させるトリガ信号を発生する、トリガ信号発生ユニット72を形成している。
【0084】
また、本微弱光の検出装置44は、差動増幅器19、増幅器50、及びA/D変換器52を有している。差動増幅器19の第1の入力端子には、第1の受光器ユニット68aの出力端子82a(高電圧側の出力端子)が接続されている。一方、差動増幅器19の第2の入力端子には、第2の受光器ユニット68bの出力端子(高電圧側の出力端子)が接続されている。従って、差動増幅器19は、第1の受光器ユニット68aの出力から、第2の受光器ユニット68bの出力を差し引いて出力する。
【0085】
差動増幅器19の出力は、増幅器50によって増幅され、A/D変換器52によってデジタル信号に変換され、演算制御装置46に備えられたメモリA又はメモリBに保持される。ここで、メモリA及びメモリBに記録されるデータは、トリガ信号84の一周期分である。すなわち、メモリA及びメモリBには、第1の受光器ユニット68aの出力と、第2の受光器ユニット68bの出力との差分の時間変化が記録される。尚、上記差分の時間変化とは、第1のスイッチ66a(又は、第2のスイッチ66b)の開放後の経過時間に対する、差分の変化のことである。
【0086】
ここで、差動増幅器19、増幅器50、及びA/D変換器52は、第1の受光器ユニット68aの出力と、第2の受光器ユニット68bの出力との差分の時間変化を得る第1の演算ユニット86を形成している。
【0087】
尚、「差分の時間変化」とは、各時刻における「差分」の集合体である。従って、「差分の時間変化を得る」は、出力の差分を得ることの一態様である。
【0088】
駆動パルス発生ユニット48は、トリガ信号84の他に、試料注入ユニット24に、第1の試料12となる薬剤の注入及び第2の試料16となる薬剤の注入を実行させる駆動パルス88を供給する(図4参照)。この動作も、トリガ信号制御装置70によって制御される。
【0089】
すなわち、駆動パルス発生ユニット48とトリガ信号制御装置70は、試料注入ユニット24に、第1の試料12となる薬剤の注入及び第2の試料16となる薬剤の注入を実行させる駆動パルス88を供給する試料注入パルス発生ユニット90を形成している。
【0090】
ところで、上述したメモリAには、トリガ信号84に同期して、差動増幅器19(正確には、第1の演算ユニット86)の出力が繰り返し記録される。但し、(試料注入ユニット24を駆動する)駆動パルス88が発生すると、メモリAの更新は一時停止し、駆動パルス88の発生直前の出力が一周期分保持される。
【0091】
すなわち、メモリAは、第1の受光器ユニット68aの出力と、第2の受光器ユニット68bとの出力の差分を繰り返し記録し、駆動パルス88の発生直前の上記差分の時間変化を保持する第1の記録ユニット96を形成する。
【0092】
一方、メモリBには、トリガ信号84に同期して、駆動パルス88の発生直後の、差動増幅器19(正確には、第1の演算ユニット86)の出力の時間変化が、トリガ信号84の一周期分、記録される。すなわち、メモリBは、駆動パルス88の発生直後の上記差分の時間変化を記録する第2の記録ユニット98を形成する。
【0093】
ところで、演算制御装置46は、演算装置100を備えている。
【0094】
この演算装置100は、メモリAに保持された上記差分(駆動パルス88の発生直前の、差動増幅器19の出力)の時間変化と、メモリBに記録された上記差分(駆動パルス88の発生直後の、差動増幅器19の出力)の差分の時間変化を算出し、メモリC(第3のメモリユニット99)に記録する。
【0095】
すなわち、演算装置100とメモリCは、第1の記録ユニット96に保持された上記差分の時間変化と、第2の記録ユニット98に記録された上記差分の時間変化の差分を得て記録する第2の演算ユニット102を形成する。
【0096】
(2)検出方法
微弱光の検出は、図2を参照して説明した手順を基礎として実施される。
【0097】
図6は、本微弱光の検出装置44の動作を説明するタイミングチャートである。
【0098】
図6の横軸は時間である。図6には、上から順番に、トリガ信号84、一重項酸素を発生する試料(一重項酸素を含む試料)となる薬液の注入前の、第1の受光器8の出力(第1の受光信号108)、一重項酸素を発生しない試料(一重項酸素を含まない試料)となる薬液の注入前の、第2の受光器10の出力(第2の受光信号110)が記載されている。
【0099】
また、図6には、第1の受光信号108と、第2の受光信号110との第1の差分112(ベースライン)が記載されている。
【0100】
この第1の差分112(ベースライン)は、トリガ信号84の一周期毎に、メモリAに記録され且つ更新される。そして、一重項酸素を発生する試料(一重項酸素を含む試料)となる薬液の注入直前の第1の差分128の時間変化が、メモリAに記録される。
【0101】
また、図6には、駆動パルス88、一重項酸素を発生する試料(一重項酸素を含む試料となる薬液)となる薬液の注入後の、第1の受光器8の出力(第3の受光信号114)、一重項酸素を発生しない試料(一重項酸素を含まない試料)となる薬液の注入後の、第2の受光器10の出力(第4の受光信号116)が記載されている。
【0102】
また、図6には、第3の受光信号114と、第4の受光信号116との第2の差分118が記載されている。
【0103】
更に、図6には、第2の差分118(測定光強度+ベースライン)と第1の差分128(ベースライン)との差分である、第3の差分120(測定光強度)が記載れている。
【0104】
本微弱光の検出方法では、まず、冷却板17を約100Kに冷却する。この冷却操作により、第1の受光器8及び第2の受光器10は、冷却された状態になる。
【0105】
図7は、演算制御装置46の操作画面101を説明する図である。微弱光の検出装置44の制御は、この画面を操作することによって実施される。
【0106】
まず、瞬時混合システムコントロール画面104を操作して、試料注入ユニット24の動作条件を設定する。この操作により、試料注入ユニット24の各シリンジには、リザーバ(図示せず)に充填された所定の薬液が吸引される。
【0107】
この時、(第1の試料受容室14の)薬液流入路20aに接続されたシリンジには、過酸化水素水が吸引される。また、同薬液流入路20bに接続されたシリンジには、次亜塩素酸が吸引される。また、同薬液流入路20cに接続されたシリンジには、一重項酸素の消去剤(例えば、ヒスチジン、リコピン)を溶かした純水等の試験対象となる薬剤が吸引される。
【0108】
更に、(第2の試料受容室18の)薬液流入路22aに接続されたシリンジには、過酸化水素水が吸引される。また、同薬液流入路22bに接続されたシリンジには、過酸化水素水が吸引される。また、同薬液流入路22cに接続されたシリンジには、一重項酸素の消去剤(例えば、ヒスチジン、リコピン)を溶かした純水等が吸引される。
【0109】
次に、各シリンジに吸引された薬液が、各薬液流入路に注入される。各薬液流入路に注入された薬液は、連結部56a,56bで混合され、夫々、第1の試料受容室14及び第2の試料受容室18に注入される。
【0110】
第1の試料受容室14に注入された混合液は、過酸化水素水と次亜塩素酸が反応して一重項酸素を発生する。
【0111】
この状態で一重項酸素が消失するまで待機し、第1の試料受容室14に注入された混合液を、背景光測定用の第1の試料とする。
【0112】
第2の試料受容室18に注入された混合液は、次亜塩素酸を含まない点を除き、第1の試料受容室14に注入される混合液と略同一組成である。故に、第2の試料受容室18に注入される混合液も、背景光測定用の試料となる。
【0113】
次に、トリガ信号条件設定画面106を操作して、トリガ信号84の間隔tと幅Δtを設定する。
【0114】
すると、トリガ信号制御装置70が、駆動パルス発生ユニット48を制御して、トリガ間隔t、幅Δtのトリガ信号84を発生する(図6参照)。トリガ信号84は、スイッチユニット54に供給される。
【0115】
尚、トリガ信号84の間隔tは、例えば、10秒であり、1〜100秒の範囲で可変設定できる仕様である。また、トリガ信号84の幅Δtは、1秒程度で固定されている。
【0116】
―第1の計測ステップ―
トリガ信号84が、スイッチユニット54に供給されると、第1の受光器8の出力端子82a,82bを短絡する第1のスイッチ66aが閉じられる。
【0117】
Δtが経過しトリガ信号84が終了すると、第1のスイッチ66aが開き、第1の受光器8の出力端子間に、背景光に起因して第1の受光器8に発生する光電流と、第1の受光器8の暗電流との積分値に相当する電圧(第1の受光信号108)が出力される(図6参照)。
【0118】
すなわち、第1の受光器8を冷却した状態で、第1の受光器8の出力端子間を短絡する第1のスイッチ66aを閉じ、更に第1のスイッチ66aを開いた後に、第1の受光信号108を得るステップが実行される。
【0119】
以上手順によって、第1の計測ステップ30と同時に、背景光測定用の第1の試料が放射する光を第1の受光器8で受光して、第1の受光信号108の時間変化を得る第1の計測ステップ30が実行される(図2参照)。
【0120】
―第2の計測ステップ―
同様に、トリガ信号84は、第2のスイッチ66bを開閉する。
【0121】
その結果、第2の受光器10を冷却した状態で、第2の受光器の出力端子間を短絡する第2のスイッチ66bを閉じ、更に、第1のスイッチ66aの開放と同時に、第2のスイッチ66bを開放した後に、第2の受光信号110を得るステップが実行される(図6参照)。
【0122】
ここで、第2の受光信号110は、背景光に起因して第2の受光器66bに発生する光電流と、第2の受光器66bの暗電流との積分値に相当する信号である。
【0123】
以上の手順によって、背景光測定用の第2の試料16が放射する光を、第2の受光器10で受光して、第2の受光信号110の時間変化を得る第2の計測ステップ32が実行される(図2参照)。
【0124】
―第1の演算記録ステップ―
第1の受光信号108と第2の受光信号110は、夫々、第1の演算ユニット86を形成する差動増幅器19の入力端子に供給される。
【0125】
すると、第1の演算ユニット86は、第1の受光信号108と、第2の受光信号110との第1の差分(ベースライン)112を生成して、演算制御装置46に供給する(図6参照)。
【0126】
ここで、この第1の差分112(ベースライン)は、第1の受光器8と第2の受光器10との暗電流の相違に起因する信号である。
【0127】
演算制御装置46は、この第1の差分112の時間変化を、トリガ信号84の一周期毎に、逐次メモリAに記録し更新する。
【0128】
以上の手順によって、第1の受光信号108と、第2の受光信号110との第1の差分112の時間変化を得て記録する第1の演算記録ステップ34が実行される(図2参照)。
【0129】
―ベースライン測定の繰り返し―
トリガ信号84は、周期的に発生する。このトリガ信号84に同期して、第1の受光信号108を得て記録する第1の計測ステップ30、第2の受光信号110を得て記録する第2の計測ステップ32、及び第1の差分112の時間変化を得て記録する第1の演算記録ステップ34が繰り返される(図6参照)。
【0130】
第1の演算記録ステップ34によって得られる、第1の差分112(ベースライン)の時間変化は、操作画面101の差分信号表示画面122に逐次表示される。
【0131】
ところで、受光器8,10に入射する背景光は、各試料受容室へ薬液を最初に注入した直後は、大きく変動する。これは、試料容器4等が放射する背景光が薬液(試料)を透過して受光器8,10に入射する際、薬液(試料)の状態によって異なる擾乱(散乱、吸収等)を受けるためである。このような背景光の変動を安定化するには、薬液(試料)を長時間、安静に保つ必要がある。
【0132】
ところで、背景光には、遮光試料室6を開放した時にその各部材に蓄えられ、その後、除々に放出される畜光も含まれている。このような畜光も、長時間に亘って各部材から放出され、背景光を不安定化させる一因になる。
【0133】
このような種々の要因によって、各試料室への薬液の注入直後は、第1の差分112(ベースライン)が大きく変動する。このような状況下では、微弱光の検出は不可能である。
【0134】
そこで、本実施例では、第1の差分112(ベースライン)が安定化するまで、第1の計測ステップ30、第2の計測ステップ32、及び第1の演算記録ステップ34を繰り返し実施して、第1の差分112が安定化してから、次のステップに進む。
【0135】
ここで、第1の差分112(ベースライン)が安定化かしたか否かの判断は、差分信号表示画面122に逐次表示される第1の差分112(ベースライン)を、測定者が観察して行う。但し、この判断は演算制御装置46に行わせてもよい。
【0136】
―測定試料の注入―
測定者は、第1の差分112(ベースライン)が安定したと判断すると、操作画面101のトリガ信号ON/OFFボタン124を押す。例えば、観察中の第1の差分112の最終値(測定周期の最後における値)と、一つ前の測定周期における第1の差分112の最終値の差が、観察中の第1の差分112の最終値の1/10以下になった場合に、第1の差分112の差分が安定したと判断する。
【0137】
この操作によって、トリガ信号ON/OFFボタン124は、ON状態になる。
【0138】
すると、トリガ信号制御装置70が、駆動パルス発生ユニット48を制御して、駆動パルス88を発生する(図4及び図6参照)。
【0139】
この駆動パルス88は、試料注入ユニット24に供給される。駆動パルス88が供給されると、試料注入ユニット24は、薬液流入路毎に上述した薬液を注入する。
【0140】
この時、第1の試料受容室14には、一重項酸素が発生し、波長1268nmの光が放射される。尚、同時に発生する630nmの光は、光学フィルタ60aによって遮断される。
【0141】
尚、駆動パルス88は、トリガ信号ON/OFFボタン124をON状態にした後の
最初のトリガ信号126に、僅かに遅れて発生する(図6参照)。
【0142】
一方、演算制御装置46は、トリガ信号ON/OFFボタン124が押されると、メモリAに記録中の第1の差分(ベースライン)128を、一周期(=t+Δt)分保持する。そして、演算制御装置46は、トリガ信号ON/OFFボタン124がON状態の間は更新しない。
【0143】
―第3の計測ステップ、第4の計測ステップ、及び第2の演算ステップ―
トリガ信号ON/OFFボタン124がON状態になった後も、トリガ信号84は継続的に生成される。
【0144】
このトリガ信号84に従って、第1の計測ステップ30と同様の手順に従って、発光体(一重項酸素)を含む試料が放射する光を、第1の受光器8で受光して第3の受光信号114の時間変化を得る、第3の計測ステップ36が実行される(図6参照)。
【0145】
また、第3の計測ステップ36と同時に、第2の計測ステップ32と同様の手順に従って、背景光測定用の第4の試料が放射する光を、第2の受光器10で受光して、第4の受光信号116の時間変化を得る第4の計測ステップ38が実行される(図6参照)。
【0146】
更に、第1の演算ステップ34と同様の手順に従って、第3の受光信号114の時間変化と、第4の受光信号116の時間変化との第2の差分118を得て記録する第2の演算記録ステップ40が実行される(図6参照)。
【0147】
第2の演算記録ステップ40の結果は、メモリBに記録される。
【0148】
すなわち、第1の差分(ベースライン)112時間変化が安定した後に、第3の計測ステップ36、第4の計測ステップ38、及び第2の演算記録ステップ40を実施して、第2の差分118(測定光強度+ベースライン)の時間変化を得て記録する。
【0149】
尚、第2の演算ステップ40は、トリガ信号84に同期して、繰り返し実行されてもよいし、第3の計測ステップ36及び第4の計測ステップ38を最初に実施した直後に一度だけ実施されてもよい。
【0150】
尚、測定者が、操作画面101のトリガ信号スイッチON/OFFボタンを押すと、後述する第3の演算ステップの終了後、改めて第1の測定ステップ30及び第2の測定ステップ32が再開する。これにより、微弱光検出プロセスが再開する。
【0151】
―第3の演算ステップ―
上記第2の演算ステップ40が終了した段階で、メモリAには、第3の計測ステップ36及び第4の計測ステップ38を最初に実施する直前に得た、第1の差分118(ベースライン)の時間変化が記録されている。
【0152】
また、メモリBには、第3の演算ステップ40によって得られた第2の差分128(測定光強度+ベースライン)の時間変化が記録されている。
【0153】
演算制御装置46の演算装置100は、メモリAおよびメモリBにアクセスして、第2の差分118の時間変化(測定光強度+ベースライン)から、第1の差分128の時間変化(ベースライン)を差し引いて、第3の差分(測定光強度)120の時間変化を算出する(図6参照)。
【0154】
すなわち、第3の計測ステップ36及び第4の計測ステップ38を最初に実施する直前に得て記録した第1の差分128の時間変化と、第2の差分118の時間変化に基づいて、第3の演算記録ステップ42を実施して、第3の差分(測定光強度)120の時間変化を得る。
【0155】
第3の差分(測定光強度)120の時間変化は、メモリCに記録され、操作画面101の発光信号表示画面130に表示される。微弱光の強度は、この第3の差分120の時間変化の傾きに比例する。尚、第3の差分120は、演算制御装置46の処理時間Tだけ遅れて、メモリCに記録される。
【0156】
図8は、差分信号表示画面122及び発光信号表示画面130の一例を説明する図である。図8に示した発光信号表示画面122には、第1の差分128(ベースライン)の時間変化に加えて、第2の差分118の時間変化が表示されている。横軸は時間であり、一目盛りが1秒である。縦軸は電圧であり、一目盛りが1Vである。
【0157】
一方、発光信号表示画面130には、微弱光強度の積分値を表す第3の差分120の時間変化が表示されている。横軸は時間であり、一目盛りが1秒である。縦軸は電圧であり、一目盛りが500mVである。
【0158】
以上説明したとおり、本実施例では、まず、第1の受光器8及び第2の受光器10の出力の差(第1の差分128)を予め測定しておく。この第1の差分128は、受光信号に含まれる暗電流の寄与分である。
【0159】
次に、微弱光を発生させて第1の受光器8で受光し、第1の受光器8及び第2の受光器10の出力の差(第2の差分118)を測定する。そして、この第2の差分118から、予め測定しておいた第1の差分128を差し引いて、暗電流の影響を除いた、微弱光の強度を得る。
【0160】
従って、本実施例によれば、光受光器8,10の冷却温度が、暗電流が残存している低温(例えば、100K程度)であっても、暗電流の影響を除去して、微弱光を検出することが可能になる。
【0161】
このため、本実施例によれば、受光器を極低温に冷却することなく、一重項酸素等が放射する微弱光を検出することが可能になる。従って、本実施例によれば、微弱光の検出時間が短くなる。
【0162】
また、本実施例では、第1の差分112(ベースライン)の変化を観察して、第1の差分112(ベースライン)が安定化した直後に、微弱光の測定を実行する。従って、測定開始後、背景光が確実に安定化するまで、長時間待機する必要がなくなる。故に、本実施例によれば、微弱光の検出時間が、更に短くなる。
【実施例2】
【0163】
図9は、微弱光の強度を表す第3の差分120の時間変化を分類した図である。
【0164】
横軸は時間であり、縦軸は第3の差分120の強度(測定光強度)である。図9の最上部には、トリガ信号84が記載されている。
【0165】
図9の上から2番目からは、トリガ間隔tと、微弱光を放射する発光体の寿命τとの大小関係に基づいて分類した、第3の差分(測定光強度)の時間変化が示されている。
【0166】
上から2番目に記載された時間変化132は、発光体の寿命τがトリガ間隔tより十分長い場合に生じる。この場合には、一定の傾きの時間変化が繰り返される。
【0167】
上から3番目に記載された時間変化134は、発光体の寿命τがトリガ間隔tの数倍程度の場合に生じる。この場合には、時間変化134は、傾きを漸減させながら、小さくなっていく。この傾きの変化を調べることにより、発光体の寿命τを知ることができる。
【0168】
上から4番目に記載された時間変化136は、発光体の寿命τが、トリガ間隔tより短い場合に生じる。この場合には、最初のトリガ間隔tの間だけ、第3の差分が大きく変化する。2回目以降のトリガ間隔tの間は、第3の差分は殆ど変化しない。このような場合には、最初のトリガ間隔tの終了時点に於ける第3の差分の強度から、発光体の総量を推定することができる。
【0169】
上から5番目に記載された時間変化138は、発光体の寿命τがトリガ間隔tより十分に長く、且つ発光強度が極めて弱い場合に生じる。このような場合には、トリガ間隔tを広げることによって、微弱光の測定が可能になる。
【0170】
ところで、上から3番目に記載された時間変化134のように、傾きが除々に変化する場合には、以下のように第3の差分(測定光強度)を記録してもよい。
【0171】
まず、各トリガ信号84の終了後、所定の時間Δtが経過する度に、第3の計測ステップ及び第4の計測ステップを実施する。そして、これらの測定ステップの結果に基づいて、トリガ信号84の一周期毎に第3の差分を得てメモリに記録する。
【0172】
このようにすれば、僅かなメモリ容量で、長時間に亘る微弱光強度の変化を記録することができる。
【0173】
そこで、本実施例では、各トリガ信号84が終了し所定の時間Δtが経過する毎に、各計測ステップを実施する。
【0174】
本実施例の微弱光の検出方法は、実施例1の各ステップに相当するステップを有している。但し、実施例1の第1〜第4の計測ステップ30,32,36,38に相当するステップでは、各受光器8,10の出力端子間を同時に開放してから一定の期間Δtが経過した後に、夫々の受光信号を得て記録する。尚、以後、実施例1の各ステップに相当するステップは、実施例1の各ステップと同じ名称で呼ぶ。
【0175】
すなわち、第1の計測ステップ30は、第1の受光器8の出力端子間及び第2の受光器10の出力端子間を同時に開放してから一定の期間Δtが経過した後に、第1の受光信号を得るステップである。同様に、第2の計測ステップ32、第3の計測ステップ36、及び第4の計測ステップ38は、夫々、第1の受光器8の出力端子間及び第2の受光器10の出力端子間を同時に開放してから一定の期間Δtが経過した後に、第2の受光信号、第3の受光信号、及び第4の受光信号を得るステップである。
【0176】
そして、本実施例では、第1の計測ステップ30、第2の計測ステップ32、及び第1の演算記録ステップ34を繰り返し、第1の差分が安定化した後、第3の計測ステップ36、第4の計測ステップ38、及び第2の演算記録ステップ40を、一定の周期で繰り返し実施する。
【0177】
本実施例では、更に、第3の計測ステップ36及び第4の計測ステップ38を最初に実施する直前に得て記録した第1の差分と、第2の演算記録ステップ40を繰り返して得られる第2の差分に基づいて、第3の演算記録ステップ42を繰り返して実施する。
【0178】
従って、本実施例によれば、僅かなメモリ容量で、微弱光の減衰過程を記録することができる。
【0179】
尚、本実施例で使用する微弱光検出装置は、図3乃至図8を参照して説明した、微弱光の検出装置44と基本的には同じである。
【0180】
但し、第1の演算ユニット86は、各受光器の出力端子間を開放してから一定の期間Δtが経過した後の、第1の受光器ユニット68aの出力と第2の受光器ユニット68bの出力の差分を得る。
【0181】
また、第1の記録ユニット96は、各受光器の出力端子間を開放してから一定の期間Δtが経過した後の、各受光器の出力の差分を記録する。第2の記録ユニット98、第3の記録ユニット99においても同様である。
【0182】
(変形例)
以上の例は、一重項酸素を発光体とする微弱光の検出方法に関するものである。
【0183】
しかし、本微弱光の検出方法は、他の発光体が放射する微弱光の検出にも適用できる。
【0184】
例えば、本微弱光の検出方法は、O(スーパーオキシド),H(過酸化水素),OH,NO等の活性酸素と、それらの蛍光試薬が形成する発光体が放射する可視光の検出にも適用できる。但し、これらの活性酸素を検出する受光器には、可視光に反応するSi製のpinフォトダイオードを使用する必要がある。
【0185】
これらの発光体が放射する可視光は、必ずしも、微弱ではない。しかし、O(スーパーオキシド)等が微量存在する場合には、その放射光も微弱になる。このような場合、本微弱光の検出方法は有益である。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】本発明者等が提案した一重項酸素の検出方法に用いる、微弱光検出装置の構成を説明する図である(関連技術)。
【図2】実施の形態の微弱光の検出方法を説明するフロー図である。
【図3】実施例1で使用する微弱光検出装置の構成を説明する図である。
【図4】微弱光検出装置が備える電子機器全体の構成を説明する図である(実施例1)。
【図5】受光器ユニットの等価回路を説明する図である。
【図6】実施例1の微弱光検出装置の動作を説明するタイミングチャートである。
【図7】演算制御装置の操作画面を説明する図である。
【図8】差分信号表示画面及び発光信号表示画面の一例を説明する図である。
【図9】微弱光の強度を表す第3の差分の時間変化を分類した図である。
【符号の説明】
【0187】
2・・・微弱光検出装置(関連技術) 4・・・試料容器
6・・・遮光試料室 8・・・第1の受光器
10・・・第2の受光器 11・・・遮光受光室
12・・・第1の試料 14・・・第1の試料受容室
16・・・第2の試料 17・・・冷却板
18・・・第2の試料受容室 19・・・差動増幅器
20a, 20b, 20c・・・薬液流入路
22a, 22b, 22c・・・薬液流入路
24・・・試料注入ユニット 26・・・測定光
28a, 28b・・・背景光
30・・・第1の計測ステップ 32・・・第2の計測ステップ
34・・・第1の演算記録ステップ 36・・第3の計測ステップ
38・・・第4の計測ステップ 40・・・第2の演算記録ステップ
42・・・第3の演算記録ステップ 44・・・微弱光の検出装置(実施例1)
46・・・演算制御装置 48・・・駆動パルス発生ユニット
50・・・増幅器 52・・・A/D変換器
54・・・スイッチユニット
56a,56b・・・連結部 58a,58b・・・薬液流出路
59a,59b・・・恒温水流路管
60a,60b・・・光学フィルタ 62a,62b・・・光透過窓
64・・・恒温水 65・・・電子機器群
66a,66b・・・スイッチ
68a,68b・・・受光器ユニット 70・・・トリガ信号制御装置
72・・・トリガ信号発生ユニット
74・・・受光器ユニットの等価回路 76・・・電流源
78・・・容量 80・・・内部抵抗
82a,82b・・・出力端子 84・・・トリガ信号
86・・・第1の演算ユニット
88・・・(試料注入ユニットの)駆動パルス
90・・・試料注入パルス発生ユニット 96・・・第1の記録ユニット
98・・・第2の記録ユニット 99・・・第3のメモリユニット
100・・・演算装置
102・・・第2の演算ユニット 101・・・操作画面
104・・・瞬時混合システムコントロール画面
106・・・トリガ信号条件設定画面
108・・・第1の受光信号 110・・・第2の受光信号
112・・・第1の差分 114・・・第3の受光信号
116・・・第4の受光信号 118・・・第2の差分
120・・・第3の差分 122・・・差分信号表示画面
124・・・トリガ信号ON/OFFボタン
126・・・トリガ信号 128・・・第1の差分
130・・・発光信号表示画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背景光測定用の第1の試料が放射する光を第1の受光器で受光して、第1の受光信号を得る第1の計測ステップと、
前記第1の計測ステップと同時に、背景光測定用の第2の試料が放射する光を第2の受光器で受光して、第2の受光信号を得る第2の計測ステップと、
前記第1の受光信号と前記第2の受光信号との第1の差分を得て記録する第1の演算記録ステップと、
発光体を含む第3の試料が放射する光を、前記第1の受光器で受光して第3の受光信号を得る第3の計測ステップと、
前記第3の計測ステップと同時に、背景光測定用の第4の試料が放射する光を前記第2の受光器で受光して、第4の受光信号を得る第4の計測ステップと、
前記第3の受光信号と前記第4の受光信号との第2の差分を得て記録する第2の演算記録ステップと、
前記第2の差分から前記第1の差分を差し引いた第3の差分を得て記録する第3の演算記録ステップを具備する、
微弱光の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検出方法において、
前記第1の受光器及び前記第2の受光器が、光を受光して電圧を発生する受光器であって、
前記第1の計測ステップ及び前記第3の計測ステップは、夫々、前記第1の受光器を冷却した状態で、前記第1の受光器の出力端子間を短絡する第1のスイッチを閉じ、更に前記第1のスイッチを開いた後に、前記第1の受光信号又は前記第3の受光信号を得て記録するステップであり、
前記第2の計測ステップ及び前記第4の計測ステップは、夫々、前記第2の受光器を冷却した状態で、前記第2の受光器の出力端子間を短絡する第2のスイッチを閉じ、更に、前記第2のスイッチを開放した後に、前記第2の受光信号又は前記第4の受光信号を得て記録するステップであることを、
特徴とする微弱光の検出方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微弱光の検出方法において、
前記第1乃至第4の計測ステップは、夫々、前記第1乃至第4の受光信号の時間変化を得るステップであり、
前記第1乃至第3の演算記録ステップは、第1乃至第3の差分の時間変化を得て記録するステップであり、
前記第1の計測ステップ、前記第2の計測ステップ、及び第1の演算記録ステップを繰り返し、
前記第1の時間変化が安定したと判断した後に、前記第3の計測ステップ、前記第4の計測ステップ、及び前記第2の演算記録ステップを実施し、
前記第3の計測ステップ及び前記第4の計測ステップを最初に実施する直前に得て記録した前記第1の差分の時間変化と、前記第2の差分の時間変化に基づいて、前記第3の演算記録ステップを実施することを、
特徴とする微弱光の検出方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の微弱光の測定方法において、
前記第1乃至第4の計測ステップが、前記第1の受光器の出力端子間及び前記第2の受光器の出力端子間を開放してから一定の期間が経過した後に、夫々、前記第1乃至第4の受光信号を得るステップであって、
前記第1の計測ステップ、前記第2の計測ステップ、及び第1の演算記録ステップを繰り返し、
前記第1の差分が安定した後に、前記第3の計測ステップ、前記第4の計測ステップ、及び第2の演算記録ステップを、一定の周期で繰り返し実施し、
更に、前記第3の計測ステップ及び前記第4の計測ステップを最初に実施する直前に得て記録した前記第1の差分と、前記第2の差分に基づいて、前記第3の演算記録ステップを繰り返し実施することを、
特徴とする微弱光の検出方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の微弱光の検出方法において、
前記発光体が一重項酸素であることを、
特徴とする微弱光の検出方法。
【請求項6】
第1の試料を保持する第1の試料受容室と、
第2の試料を保持する第2の試料受容室と、
前記第1の試料受容室に前記試料となる第1の薬剤を注入し、同時に、前記第2の試料受容室に前記第2の試料となる第2の薬剤を注入する試料注入ユニットと、
前記試料注入ユニットに、前記第1の薬剤の注入及び前記第2の薬剤の注入を実行させる駆動パルスを供給する駆動パルス発生ユニットと、
前記第1の試料受容室に保持された試料が放射する光を検出する第1の受光器ユニットと、
前記第2の試料受容室に保持された第2の試料が放射する光を検出する第2の受光器ユニットと、
前記第1の受光器ユニット及び前記第2の受光器ユニットを繰り返し動作させるトリガ信号発生ユニットと、
前記第1の受光器ユニットの出力と前記第2の受光器ユニットの出力の差分を得る第1の演算ユニットと、
前記差分を繰り返し記録し、前記駆動パルスの発生直前の前記差分を保持する第1の記録ユニットと、
駆動パルス発生直後の前記差分を記録する第2の記録ユニットと、
前記第1の記録ユニットに保持された前記差分と、前記第2の記録ユニットに記録された前記差分との差分を得る第2の演算ユニットを具備する、
微弱光の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−145305(P2010−145305A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324922(P2008−324922)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】