説明

微弱光標本撮像装置

【課題】一台の装置で標本の位置を変えずに蛍光観察と発光観察を行うことが出来、一般的な冷却CCDを用いて安価、且つ小型な微弱光標本撮像装置を提供する。
【解決手段】蛍光を含む微弱光を発する点光源を有する標本10の標本像を結像する、対物レンズ11と結像レンズ12を有する結像光学系1と、標本に照明光源からの光を照射して蛍光を射出させる照明光学系2と、複数の画素を有し、標本像に対応する画像を撮像する撮像手段3とを備える撮像装置であり、照明光学系は、照明光源からの光が、対物レンズを経由せずに標本に照射するように構成され、結像光学系は、略テレセントリックであり、対物レンズと結像レンズの間に、標本からの蛍光を波長選択的に抽出するフィルタ13を備えるとともに、点光源からの微弱光を集光して、画素と略同じ大きさ又は画素よりも小さいエアリーディスクを形成するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微弱光を発する標本を撮像する微弱光標本撮像装置に関し、特に微弱な蛍光を発する標本、生体発光をする標本等の微小な発光源を有する標本の撮像に最適な微弱光標本撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞生物学、分子生物学などの研究分野では、緑色蛍光蛋白質(GFP:Green Fluorescent Protein)や生物発光酵素であるルシフェラーゼ遺伝子を発現のレポーターとして働かせ、細胞内の特定部位や機能蛋白質に蛍光標識や発光標識を付して生体細胞を観察する必要性が高まっている。
【0003】
GFPを用いる観察では、GFPが励起光の照射に応じて蛍光を発する蛋白質であり、GFPを作用させた標本に大きな強度の励起光を照射して蛍光を得るため、標本に損傷を与えやすく、1〜2時間程度の観察が限度であるのに対し、ルシフェラーゼを用いる観察では、ルシフェラーゼが自己発光酵素であり、標本に損傷を与える励起光を必要としないため、5日間程度の観察が可能である。
一方、GFPを用いる観察では、例えば、共焦点レーザ走査型顕微鏡によって励起光を標本の一点に収斂し、蛍光の発光量を増大させることが可能であるのに対し、ルシフェラーゼを用いる観察では、励起光によって発光量を増大させることができないため、ルシフェラーゼから自己発光される微弱光によって標本を観察せざるを得ない。
【0004】
一般に、微弱光を捉える用途は幅広く、ルシフェラーゼを用いた観察に限らず、GFPを用いた観察でも励起光を弱めて観測する場合や、DNAチップの蛍光測光、微生物の鞭毛の暗視野観察などの用途がある。このような用途に対して高感度の冷却CCDカメラの開発が盛んに行われている。
【0005】
また、従来、微弱光を捉える用途においては、標本からより多くの光を集光できるようにするため、標本の像を結像する光学系に開口数(NA:Numerical Aperture)の大きな対物レンズが使用されている。なお、対物レンズによって標本側のNAを大きくすることとは別に、顕微鏡の結像レンズの像側に縮小倍率を有するレンズを配置して結像側のNAを大きくする構成が用いられることもあるが、その目的は、目視で観察する視野とCCDが撮像する視野の大きさを一致させることにあって、微弱光の観察のためではなかった。
【0006】
図2は縮小倍率を有するレンズを配置した結像光学系の一例を示す説明図である。図2に示す例の結像光学系は、縮小倍率を有するレンズ104が、対物レンズ102および結像レンズ103からなる光学系の像空間である、結像レンズ103と像面106との間の空間に配置され、全体として像側にテレセントリックな結像光学系となっている。標本101上で光軸OA3上にある物点101aと光軸OA3から外れた物点101bは、レンズ104が配置されない場合、それぞれ像面106上の像点106a,106bに結像されるが、レンズ104が配置された場合、それぞれ像面105上の像点105a,105bに結像される。また、この例では、像点105bは、像点106bに比べて約1/2倍の高さに結像されている。なお、レンズ104の配置の有無にかかわらず、結像光学系の射出瞳Puの位置および口径は変化しないように構成されている。
【0007】
また、図2に示すような像側にテレセントリックな結像光学系は、従来、測長顕微鏡等によく利用され、近年ではCCDカメラに必須の光学系として利用されている。像側にテレセントリックな結像光学系は、射出瞳が無限遠に位置し、この光学系を射出して各像点に向かう主光線が光軸に平行となる光学系である。通常、CCDカメラでは、撮像面に対する光の入射角が大きくなるにつれて感度が低下する。このため、撮像面全体で均一かつ高感度に撮像を行うには、CCDカメラの各画素に入射する光の主光線を撮像面に垂直にすることが必要であり、これを実現するため、像側にテレセントリックな結像光学系が必須とされている。
【0008】
像側にテレセントリックな結像光学系は、この他にも、例えば、次の特許文献1、2に記載の顕微鏡等によく利用される。
特許文献1に記載されている顕微鏡は、対物レンズの交換に伴う射出瞳位置の変化に応じて交換可能な光学手段を配置することによって、対物レンズを交換した場合にも像側をテレセントリックな状態に維持できるようにしている。
また、特許文献2に記載されている顕微鏡は、光軸に対してCCDカメラの撮像面を多少傾けることによって、レーザ光線を用いた場合にも撮像面上に干渉縞を生成させることなく、鮮明な観察画像が得られるようにしている。
【0009】
なお、CCDカメラにおいては、高感度化とは別に高解像力化の開発も行われており、例えば、画素サイズが2〜3μm、画素数が500万個という高精細なCCDカメラが実現されている。そして、このような高精細なCCDカメラと顕微鏡とを組合せることによって、バーチャルスライドといわれる装置が開発されている。バーチャルスライドでは、倍率が20倍程度で、像面湾曲およびディストーションを小さく抑えた結像光学系を用いて、標本を複数の領域に分割して撮像した複数の画像をあらかじめ取得し、取得した各画像を画像データ上でつなぎ合わせた後、電子的な拡大処理である電子ズームによって5〜100倍程度の任意倍率の画像をモニタ上に表示させるようにしている。このようにして、バーチャルスライドは、実際の顕微鏡と標本がその場になくても、高精細な標本の画像をモニタに表示できるため、医学生用の教材として利用されている。
【0010】
ところで、ルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として細胞に導入し、ルシフェラーゼ活性による細胞からの発光量を指標にしてルシフェラーゼ遺伝子の発現の強さを調べる際、ルシフェラーゼ遺伝子の上流や下流に目的のDNA断片をつなぐことによって、このDNA断片がルシフェラーゼ遺伝子の転写に及ぼす影響を調べることができる。また、ルシフェラーゼ遺伝子の転写に影響を及ぼすと思われる転写因子などの遺伝子を発現ベクターにつないでルシフェラーゼ遺伝子と共発現させることによって、その遺伝子産物がルシフェラーゼ遺伝子の発現におよぼす影響を調べることができる。
【0011】
ルシフェラーゼ遺伝子などのレポーター遺伝子を細胞に導入する方法には、リン酸カルシウム法、リポフェクチン法、エレクトロボレーション法などがあるが、これらの方法は、導入の目的や細胞の種類に応じて使い分けられる。そして、ルシフェラーゼ活性による細胞からの発光量の測定では、細胞溶解液をルシフェリン、ATP、マグネシウムなどを含む基質溶液と反応させた後、光電子増倍管を用いたルミノメーターによって発光量が定量される。この測定では、細胞を溶解した後に発光量が測定されるため、ある時点での発現量が細胞全体の平均値として計測される。
【0012】
また、遺伝子の発現量の経時変化を捉えるためには、生きた細胞からの発光量を時系列に測定する必要がある。例えば、細胞を培養するインキュベーターにルミノメーターの機能を設け、培養している全細胞集団から発せられる光量を一定時間ごとに測定することによって、一定の周期性をもった発現リズムなどを計測することができる。この場合、細胞全体の経時的な発現量の変化が計測される。
【0013】
一方、遺伝子の発現が一過性である場合には、個々の細胞での発現量に大きなばらつきが生じる。例えば、HeLa細胞などのクローン化した培養細胞であっても、細胞膜表面のレセプターを介した薬剤の応答が個々の細胞でばらつくことがある。すなわち、細胞全体としての応答は検出されなくとも、数個の細胞は応答している場合がある。この場合、細胞全体からではなく個々の細胞での発現量を測定することが重要である。
【0014】
また、個々の細胞の発光を顕微鏡等で観察するためには、生きた細胞からの発光量が極めて弱いため、たとえば、フォトンカウンティングCCDカメラ、光増幅冷却CCDカメラ等の高感度CCDカメラを用い、30分程度の長時間の露光を行わなければならないという問題があり、それに対する一つの解決方法が、例えば、次の特許文献3に記載の微弱光標本撮像ユニットにおいて提案されている。
特許文献3に記載の微弱光標本撮像ユニットは、発光などの微弱光を発する点光源を有した標本の標本像を結像する結像光学系と、入射する光を受光する複数の画素を有し、前記標本像に対応する画像を撮像する撮像手段とを備える撮像ユニットであって、前記結像光学系は、該結像光学系の標本像側にテレセントリックであるとともに、前記点光源からの微弱光を集光して前記画素に略同じ大きさ、あるいは、前記画素より小さいエアリーディスクを形成することで、1つの画素の受光量および起電流を増大させ、S/N比を向上させて。短い露光時間で標本を撮像できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2990871号公報
【特許文献2】特開2000−235150号公報
【特許文献3】WO2006/088109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、微弱光を放つ試料に対し、より詳細に観察・解析を行いたいとの研究分野の要求がある。
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載の技術は、この要求に対応しうる十分な手段を備えていない。
【0017】
具体的には、上述した細胞生物学、分子生物学などの研究分野においては、蛍光と比較して発光観察は、観察波長数が少ないため、観察波長数が多くとれる蛍光を利用した蛍光観察を発光観察と組合せて行いたいという要求がある。また、撮像部位を2つ設ける等の複雑な構成の装置ではなく、簡単な構成な装置で発光観察と蛍光観察を行いたいとの要求がある。
しかしながら、従来の装置では、発光もしくは蛍光を1台の装置で観察する場合には、複数の撮像部位を持たなければならないという問題点を有していた。
【0018】
また、微弱光を観察する為にはフォトンカウンティングカメラや光増幅カメラ等の高感度カメラを使う必要があるが、高感度カメラは一般的な冷却CCDカメラと比較して、機能が向上する分、価格が高価になり一部の研究者しか使用出来ない状況になっている。
【0019】
一般的なCCDを用いて微弱光を観察するための方法の一つとしては、結像光学系の倍率を低倍に設定することにより構成レンズ枚数を減らして光のレンズ透過率を高めて、明るさ(NA)を上げるという方法がある。
しかしながら、結像光学系をテレセントリック光学系に構成した場合、結像レンズの焦点位置は対物レンズの後側焦点位置にしなければならず、結像レンズの倍率が下がると結像レンズの焦点距離が短くなり、その結果、対物レンズと結像レンズとの間の距離を短くしなければならなくなる。
本件出願人の経験では、一般的なCCDを用いて微弱光を観察する条件としては、明るさ(NA)を確保するためには、倍率が0.36倍以下の結像レンズが必要である。すると、結像レンズの主点から対物レンズにおける結像レンズ側レンズ面までの距離が65mm以下となる。また、結像光学系を通る光束の径を、通常の顕微鏡での光束の径14.5mmに設定した場合、照明光と検出光との分離のために対物レンズと結像レンズとの間に配置すべきダイクロイックミラーは、照明光と検出光の分離の関係上、光束に対し斜め45度に配置する必要があるため、26mm径のダイクロイックミラーを使用する場合には、高さが18mm必要となる。しかし、そのような高さでは、対物レンズと結像レンズの間の距離が短いために、照明光と蛍光を分離するダイクロイックミラーを、対物レンズと結像レンズとの間に配置することが出来ない。ダイクロイックミラーを対物レンズと結像レンズとの間に配置するためには、撮像光学系を大型な光学系で構成せざるを得ない。
【0020】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、一台の装置で標本の位置を変えずに蛍光観察と発光観察を行うことが出来、しかも、一般的な冷却CCDを用いて安価、且つ小型な微弱光標本撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明による微弱光標本撮像装置は、少なくとも蛍光を含む微弱光を発する点光源を有する標本の標本像を結像する、対物レンズと結像レンズを有する結像光学系と、前記標本に照明光源からの光を照射して蛍光を射出させる蛍光励起照明光学系と、入射する光を受光する複数の画素を有し、前記標本像に対応する画像を撮像する撮像手段と、を備える撮像装置であって、前記蛍光励起照明光学系は、前記照明光源からの光が、前記対物レンズを経由することなく前記標本に照射するように構成され、前記結像光学系は、略テレセントリックであって、前記対物レンズと結像レンズの間に、前記標本からの蛍光を波長選択的に抽出するエミッションフィルタを備えるとともに、前記点光源からの微弱光を集光して、前記画素と略同じ大きさ又は前記画素よりも小さいエアリーディスクを形成するように構成される、ことを特徴としている。
【0022】
また、本発明の微弱光標本撮像装置においては、前記蛍光励起照明光学系は、少なくとも一部が前記結像光学系の略光軸上に配置されるとともに、前記標本に応じて波長選択的に光励起可能な励起フィルタが該蛍光励起照明光学系の光路に挿脱可能に構成され、前記結像光学系は、前記エミッションフィルタが該結像光学系の光路に挿脱可能に構成されるのが好ましい。
【0023】
また、本発明の微弱光標本撮像装置においては、結像レンズの焦点距離が65mm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一台の装置で標本の位置を変えずに蛍光観察と発光観察を行うことが出来、しかも、一般的な冷却CCDを用いて安価、且つ小型な微弱光標本撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる微弱光標本撮像装置の全体構成の一例を示す模式図である。
【図2】縮小倍率を有するレンズを配置した、像側にテレセントリックな結像光学系の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて具体的に説明する。
第一実施形態
図1は本発明の第一実施形態にかかる微弱光標本撮像装置の全体構成の一例を示す模式図である。
第一実施形態の微弱光標本撮像装置は、少なくとも蛍光を含む微弱光を発する点光源を有する標本10の標本像を結像する結像光学系1と、標本10に光源からの光を照射し、蛍光を射出させる蛍光励起照明光学系2と、入射する光を受光する標本像に対応する画像を撮像する撮像手段としてのカメラ3を備えて構成されている。
【0027】
結像光学系1は、光軸OA2に沿って配置された、対物レンズ11と、結像レンズ12を有している。
対物レンズ11は、光学レンズ11aと、開口絞り11bと、対物レンズ枠11cを有して構成されている。光学レンズ11a、開口絞り11bは、カシメ等によって対物レンズ枠11c内に保持されている。開口絞り11bは、開口径が固定の絞りで構成されている。また、対物レンズ11は、無限遠補正されたレンズ系として構成されている。
結像レンズ12は、光学レンズ12aと、結像レンズ枠12bを有して構成されている。光学レンズ12aは、カシメ等によって結像レンズ枠12b内に保持されている。
また、結像光学系1は、略テレセントリックに構成されている。
また、結像光学系1は、対物レンズ11と結像レンズ12の間に、エミッションフィルタ13を備えている。エミッションフィルタ13は、標本10からの光のうち、所望の蛍光波長の光のみを透過し、それ以外の波長、特に励起波長の光をカットする特性を有している。また、ここでのエミッションフィルタ13は、例えば、ターレットやスライダ等を介して対物レンズ11と結像レンズ12の間の光路に挿脱可能に構成された、透過波長帯域の異なる複数の波長吸収フィルタで構成されており、標本10に応じて波長選択的に目的とする蛍光波長の光のみを透過可能になっている。
また、結像光学系1は、標本10上の点光源からの微弱光を集光して撮像素子3の画素に略同じ大きさ又は画素よりも小さいエアリーディスクを形成するようになっている。即ち、結像レンズ12は、撮像面3a1上にある画素内の受光領域に内接する大きさのエアリーディスクを形成、即ち、エアリーディスク径と画素内の受光領域の大きさとが略等しくなるように、標本10上の点光源の像を撮像面3a1上に結像するように構成されている。
【0028】
蛍光励起照明光学系2は、照明光源2aと、照明光シャッター2bと、照明ファイバ2cと、励起フィルタ2dを有して構成されている。
照明光源2aは、幅広い波長域の光を照射する。照明光シャッター2bは、開閉により標本10への光の照射・非照射の状態を制御することができるように構成されている。照明ファイバ2cは、照明光源2aからの光を標本10へ導くように配置されている。そして、照明ファイバ2cの出射端は、結像光学系1の略光軸OA2上に配置されている。励起フィルタ2dは、例えば、ターレットやスライダ等を介して蛍光励起光照明光学系2の光路に挿脱可能に構成された、透過波長帯域の異なる複数の波長吸収フィルタで構成されており、標本10に応じて波長選択的に光励起可能となっている。
【0029】
カメラ3は、CCD素子3aと、赤外光カットフィルタ3bと、カメラ筐体3cとを備えている。
カメラ筐体3cと、結像レンズ枠12bは、それぞれの枠の端部に設けられている螺子で嵌合する構造となっており、螺子の嵌め合い距離を調整することにより、結像レンズ12とCCD素子3aの焦点面3a1間の距離の調整が可能となっている。
【0030】
標本10は、微弱光を発する点光源を有する試料として、ルシフェラーゼ発現させ、且つ局在部位を蛍光染色した細胞を格納したスライドガラスからなる。
【0031】
その他、図1中、4は標本10を配置し、且つ標本10をXYの2軸方向に位置移動可
能にするためのXYステージであり、標本10における所望の観察位置に位置合せする際
に使用する。5は本体架台である。
本体架台5には対物レンズ11が取付けられており、Z方向位置操作用の操作ダイヤル5aを換作することによりXYステージ4に対して直交する方向に対物レンズ11を移動
させることが可能である。6は本体架台5を保持するためのベース架台である。
【0032】
このように構成された第一実施形態の微弱光標本細胞撮像装置を用いて、まず、蛍光観察を行う場合について説明する。
蛍光観察を行う場合には、観察者は、照明光シャッター2bを開くように操作する。これにより照明光源2aから出射された幅広い波長を有する光が、照明ファイバ2cへ入射する。照明ファイバ2cの照明光源2a側端面(入射端)より入射した光は照明ファイパ2cを介して標本10側端面(出射端)より標本10側へ出射し、励起フィルタ2dに入射する。励起フィルタ2dは、入射した光のうち、選択された波長吸収フィルタのフィルタ性能に応じた波長の光のみ透過させる。そして、標本10は、励起フィルタ2dを透過した光により蛍光物質が励起され、蛍光を発する。標本10より発生した蛍光は、対物レンズ11の光学レンズ11aへ入射する。対物レンズ11は、無限遠補正されたレンズ系であり、この対物レンズ11の前側焦点位置に焦点合わせされた標本10上の各点光源からの光を開口数NAoでテレセントリックに捉え、それぞれ平行光束にして射出する。対物レンズ11から射出した各平行光束は、対物レンズ11の後側焦点位置に配設された開口絞り11b上に集光して射出瞳を形成した後、エミッションフィルタ13へ入射する。
【0033】
エミッションフィルタ13に入射した光のうち、選択された波長吸収フィルタのフィルタ性能に応じた、観察を所望する発光波長の光のみが、エミッションフィルタ13を透過し、不必要な光は、エミッションフィルタ13にカットされる。エミッションフィルタ13を透過した光は、結像レンズ12に入射する。結像レンズ12は、前側焦点位置が開口絞り11b上の射出瞳位置と合致するように配置されており、開口絞り11bを通過した各平行光束を集光して、光軸OA2に垂直なCCD3aの撮像面3a1上に標本10の像を開口数NAiでテレセントリックに結像する。このとき、結像レンズ12は、赤外光カットフィルタ3bによって発生する球面収差、非点収差等を補正する。このようにして、対物レンズ11および結像レンズ12は、標本10上の点光源ao,boからの光を集光して、それぞれ撮像面3a1上の像点ai,biに結像する。このとき、像点biに結像する光の主光線CR2は、結像レンズ12によって光軸OA2に平行にされて、撮像面3a1に垂直に入射する。同様に、像点bi以外の撮像面3a1上の各点に結像する光の主光線も、結像レンズ12によって光軸OA2に平行にされて、撮像面3a1に垂直に入射する。
【0034】
また、上述したように、結像レンズ12は、撮像面3a1上にある画素内の受光領域に内接する大きさのエアリーディスクを形成する。即ち、結像レンズ12は、エアリーディスク径と画素内の受光領域の大きさとがほぼ等しくなるように、標本10上の点光源の像を撮像面3a1上に結像する。これによって、本実施形態にかかる微弱光標本撮像装置では、1つの画素の受光量および起電流を増大させ、S/N比を向上させて、標本10上の各点光源を高感度に撮像することができる。
【0035】
CCD3aに入射した光は、CCD3aにより光電変換されて観察結果である2次元画像の電子データとして出力され、不図示のパソコンに送信されて不図示のモニタに表示される。
【0036】
次に、発光観察を行う場合について説明する。
発光観察を行う場合には、観察者は、照明光シャッター2bを閉じるように操作する。これにより照明光源2aからの光は標本10へ入射されなくなる。すると、標本10では蛍光励起されずに発光のみ発生する状態となる。標本10より発生した発光は、対物レンズ11の光学レンズ11aへ入射する。対物レンズ11は、無限遠補正されたレンズ系であり、この対物レンズ11の前側焦点位置に焦点合わせされた標本10上の各点光源からの光を開口数NAoでテレセントリックに捉え、それぞれ平行光束にして射出する。対物レンズ11から射出した各平行光束は、対物レンズ11の後側焦点位置に配設された開口絞り11b上に集光して射出瞳を形成した後、エミッションフィルタ13へ入射する。
【0037】
エミッションフィルタ13に入射した光のうち、選択された波長吸収フィルタのフィルタ性能に応じた、観察を所望する発光波長の光のみが、エミッションフィルタ13を透過し、不必要な光は、エミッションフィルタ13にカットされる。エミッションフィルタ13を透過した光は、結像レンズ12に入射する。結像レンズ12は、前側焦点位置が開口絞り11b上の射出瞳位置と合致するように配置されており、開口絞り11bを通過した各平行光束を集光して、光軸OA2に垂直なCCD3aの観察面3a1上に標本10の像を開口数NAiでテレセントリックに結像する。このとき、結像レンズ12は、赤外光カットフィルタ3bによって発生する球面収差、非点収差等を補正する。このようにして、対物レンズ11および結像レンズ12は、標本10上の点光源ao,boからの光を集光して、それぞれ撮像面3a1上の像点ai,biに結像する。このとき、像点biに結像する光の主光線CR2は、結像レンズ12によって光軸OA2に平行にされて、撮像面3a1に垂直に入射する。同様に、像点bi以外の撮像面3a1上の各点に結像する光の主光線も、結像レンズ12によって光軸OA2に平行にされて、撮像面3a1に垂直に入射する。
【0038】
また、上述したように、結像レンズ12は、撮像面3a1上にある画素内の受光領域に内接する大きさのエアリーディスクを形成する。即ち、結像レンズ12は、エアリーディスク径と画素内の受光領域の大きさとがほぼ等しくなるように、標本10上の点光源の像を撮像面3a1上に結像する。これによって、本実施形態にかかる微弱光標本撮像装置では、1つの画素の受光量および起電流を増大させ、S/N比を向上させて、標本10上の各点光源を高感度に撮像することができる。
【0039】
CCD3aに入射された光は、CCD3aにより光電変換されて観察結果である2次元画像の電子データとして出力され、不図示のパソコンに送信されて不図示のモニタに表示される。
【0040】
なお、本実施形態では、開口絞り11bは、開口径が固定の絞りで構成したが、開口数NAo,NAiを変更できるように、例えば、対物レンズ11の外部の光路に配置した開口径が可変な絞りで構成しても良い。
【0041】
また、対物レンズ11は、本体架台5に対し着脱可能にすることにより、標本10の観察条件等に応じて、焦点距離および開口数NAiの少なくとも一方が異なる交換用の対物レンズと交換できるようにしても良い。
【0042】
ところで、上述したように、一般的なCCDを用いて微弱光を観察するための方法の一つとしては、結像光学系の倍率を低倍にすることにより構成レンズ枚数を減らして光の透過率を高めて明るさ(NA)を上げるという方法があるが、結像光学系をテレセントリック光学系に構成した場合、結像レンズの焦点位置は対物レンズの後側焦点位置にしなければならず、結像レンズの倍率が下がると結像レンズの焦点距離が短くなり、その結果、対物レンズと結像レンズの配置距離を近くしなければならなくなる。
本件出願人の経験では、−30℃程度の一般的な冷却CCDを用いて微弱光を観察するための条件としては、明るさ(NA)を確保するためには、倍率が0.36倍以下の結像レンズが必要である。すると、結像レンズ12の主点から対物レンズ11における結像レンズ側レンズ面までの距離fが65mm以下となる。また、結像光学系を通る光束の径を考慮して、通常の顕微鏡での光束の径14.5mmに対し、26mm径のダイクロイックミラーを使用する場合、対物レンズ11と結像レンズ12の間の距離が短いために、照明光と蛍光を分離するダイクロイックミラーを、対物レンズ11と結像レンズ12との間に配置することが出来ない。
しかるに、本実施形態の微弱光標本撮像装置は、蛍光励起照明光学系2を、照明光源2aからの光を、対物レンズ11を経由させることなく標本10に照射するように、蛍光透過照明光学系として構成したので、対物レンズ11と結像レンズ12の間には、ダイクロイックミラーを設ける必要がなく、エミッションフィルタ13を挿入するのに十分なスペースが確保されている。一般的なエミッションフィルタの厚さは6mm程度であり、結像レンズ12と対物レンズ11のとの間の距離に対して十分な余裕があるので、さらに結像レンズ12の倍率を上げることも可能である。
【0043】
また、励起フィルタ2d、エミッションフィルタ13は、上述したように、複数のフィルタを着脱可能な構成とし、観察を所望する蛍光波長にあわせて光路に対して入れ替え可能な構成にすると、複数の蛍光試薬での観察に対応することが可能である。
【0044】
以上のように、本実施形態にかかる微弱光標本撮像装置によれば、蛍光透過照明による蛍光観察が出来、且つ照明光をシャッターでカットすることにより発光観察も可能となる。また、蛍光透過観察及び発光観察に使用する撮像素子であるCCDも、一つで足り、複数のCCDを用いなくて済むので簡単な構成が実現できる。
また、テレセントリックな光学系で透過蛍光観察可能な構成となっているため、一般的なCCDでの微弱光観察が可能な明るさ(NA)を確保することができる。具体的には結像レンズの倍率が0.36倍以下、結像レンズの焦点距離が65mm以下の構成が可能となる。その結果、大口径の結像光学系を用いる必要がなく小型に装置を構成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の微弱光標本撮像装置は、細胞生物学、分子生物学など、GFPやルシフェラーゼ遺伝子を発現のレポーターとして働かせ、細胞内の特定部位や機能蛋白質に蛍光標識や発光標識を付して生体細胞を観察することが求められる分野に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 結像光学系
11 対物レンズ
11a 光学レンズ
11b 開口絞り
11c 対物レンズ枠
12 結像レンズ
12a 光学レンズ
12b 結像レンズ枠
13 エミッションフィルタ
2 蛍光励起光照明光学系
2a 照明光源
2b 照明光シャッター
2c 照明ファイバ
2d 励起フィルタ
3 撮像手段(カメラ)
3a CCD素子
3b 赤外光カットフィルタ
3c カメラ筐体
4 XYステージ
5 本体架台
5a 操作ダイヤル
6 ベース架台
10 標本
101 標本
101a,101b 物点
102 対物レンズ
103 結像レンズ
104 レンズ
105,106 像面
105a,105b,106a,106b 像点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも蛍光を含む微弱光を発する点光源を有する標本の標本像を結像する、対物レンズと結像レンズを有する結像光学系と、前記標本に照明光源からの光を照射して蛍光を射出させる蛍光励起照明光学系と、入射する光を受光する複数の画素を有し、前記標本像に対応する画像を撮像する撮像手段と、を備える撮像装置であって、
前記蛍光励起照明光学系は、前記照明光源からの光が、前記対物レンズを経由することなく前記標本に照射するように構成され、
前記結像光学系は、略テレセントリックであって、前記対物レンズと結像レンズの間に、前記標本からの蛍光を波長選択的に抽出するエミッションフィルタを備えるとともに、前記点光源からの微弱光を集光して、前記画素と略同じ大きさ又は前記画素よりも小さいエアリーディスクを形成するように構成される、
ことを特徴とする微弱光標本撮像装置。
【請求項2】
前記蛍光励起照明光学系は、少なくとも一部が前記結像光学系の略光軸上に配置されるとともに、前記標本に応じて波長選択的に光励起可能な励起フィルタが該蛍光励起照明光学系の光路に挿脱可能に構成され、
前記結像光学系は、前記エミッションフィルタが該結像光学系の光路に挿脱可能に構成されることを特徴とする請求項1に記載の微弱光標本撮像装置。
【請求項3】
結像レンズの焦点距離が65mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の微弱光標本撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−112394(P2011−112394A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266658(P2009−266658)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】