説明

微物採取用具

【課題】犯罪現場などに残存する微物、特にDNA型鑑定に必要な微細な細胞片を効率良く採取すると共に、他人の細胞が混入する危険性がなく、資料の取り違えが起こり難く、さらに資料残余の適正な管理と長期保存が可能な微物採取用具を提供する。
【解決手段】台紙50と、該台紙50の一部又は全部に着脱自在に設けられた剥離シート40と、粘着面の両端に支持部20を付けた透明粘着テープ10と、ここで、該透明粘着テープ10の粘着面の一部が該剥離シート40に貼着されており、該透明粘着テープ10の非粘着面の一部又は全部を覆う透明保護シート30と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微物、特に犯罪現場などに遺留された微物を採取・搬送・保存するための用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、DNA型鑑定の高度化に伴って、犯罪鑑識におけるDNA型鑑定の重要性が増している。また、DNA検出感度の向上に伴って,微細な資料(接触資料)からの鑑定が急増している。
また、該資料の取り違え防止のために、立証措置の徹底、資料採取から搬送、保管、鑑定着手までの期間の厳密な管理が求められている。さらに、再鑑定に対する配慮から、鑑定残余の保存と適切な管理が義務づけられている。
【0003】
従来、DNA型鑑定のための資料採取は、蒸留水で湿らせた綿棒やガーゼ片、市販の粘着テープやリタックシートを用いて行われてきた。また、ポリウレタンゲルシートの粘着性を利用した微物採取用具を用いた方法も既に知られている(参照:特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−117915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蒸留水で湿らせた綿棒やガーゼ片による資料採取では、DNA型鑑定に必要な細胞片は水に溶けないために、採取効率は低い。さらに、該資料採取では、乾燥した状態では粘着性がないため微量の資料を採取することは困難であった。
加えて、該資料採取では、水で湿った状態では細菌によるDNAの分解が進行するため早期の乾燥が必要であり、乾燥時に異物が混入する可能性や資料を取り違える危険性があった。なお、採取された細胞数を確認することができないために、DNA型鑑定の成否を判断することは困難であり、微量な資料を再鑑定用に残すことは不可能であった。
【0006】
市販の粘着テープやリタックシートによる資料採取では、採取者が資料採取時に粘着面の一部を掴む必要があり、該採取者の細胞片が混入する可能性がある。また、資料採取後の粘着面を保護するため清浄なポリ袋などに収納する必要がある。しかし、粘着力があるため取り扱いが難しく、異物が付着しないように細心の注意が必要であった。さらに、粘着力が強い場合、一度採取された細胞を剥がすことは困難であり、粘着面の一部を切り取って鑑定する必要があり、該粘着面のみならず非粘着面にも異物が付着する危険性があった。
【0007】
ポリウレタンゲルシートの粘着性を利用した微物採取用具による資料採取では、粘着力が比較的弱いために、陳旧で強固に付着した細胞片を採取することは困難である。
また、鑑定の際は、一度採取された微物を綿棒などで拭き取る操作が必要であり、操作が煩雑であると共に資料取り違えの危険性が生じる。さらに、微物採取用具に捕集された全ての細胞片をDNA型鑑定に利用することは不可能であり、資料の残量を確認し、保管することも困難であった.
【0008】
本発明の課題は、上記資料採取の問題点を解決した微物採取用具を提供することである。より詳しくは、犯罪現場などに残存する微物、特にDNA型鑑定に必要な微細な細胞片を効率良く採取すると共に、他人の細胞が混入する危険性がなく、資料の取り違えが起こり難く、さらに資料残余の適正な管理と長期保存が可能な微物採取用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、「台紙と、該台紙の一部又は全部に着脱自在に設けられた剥離シートと、粘着面の両端に支持部を付けた透明粘着テープと、ここで、該透明粘着テープの粘着面の一部が該剥離シートに貼着されており、該透明粘着テープの非粘着面の一部又は全部を覆う透明保護シートと、を含む微物採取用具」が上記課題を解決できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
「1.微物採取用具であって、
台紙と、
該台紙の一部又は全部に着脱自在に設けられた剥離シートと、
粘着面の両端に支持部を付けた透明粘着テープと、ここで、該透明粘着テープの粘着面の一部が該剥離シートに貼着されており、
該透明粘着テープの非粘着面の一部又は全部を覆う透明保護シートと、を含み、
微物採取時において該剥離シートの存在により台紙の汚染防止が可能となり、並びに、 微物採取後において該剥離シートを剥がして、該微物が付着した透明粘着テープの粘着面と該台紙の貼着により異物混入を防止可能であることを特徴とする、微物採取用具。
2.前記剥離シートは前記台紙の一部のみに着脱自在に設けられており、並びに、前記支持部の一方が、該剥離シートが設けられていない台紙の部分に貼着されていることを特徴とする前項1に記載の微物採取用具。
3.前記微物が、細胞片、塗膜片、金属片、プラスチック片、及び/又は、繊維片である前項1又は2に記載の微物採取用具。
4.皮膚細胞、口腔内細胞、鼻汁斑、精液斑,白色繊維片が微物である場合には台紙の色は濃色であり、飛沫血痕、黒色短毛,黒色若しくは藍色繊維片が微物である場合には台紙の色は淡色であることを特徴とする前項1〜3のいずれか1に記載の微物採取用具。」
【発明の効果】
【0011】
本発明の微物採取用具は、以下の効果を示す。
(1)支持部に一連番号や符号を記入することができるため、採取資料の特定が容易である。
(2)微物採取時において剥離シートの存在により台紙の汚染防止が可能である。
(3)微物採取後において剥離シートを剥がして、微物が付着した透明粘着テープの粘着面と台紙の貼着により異物混入を防止可能である。
(4)透明粘着テープの非粘着面の一部又は全部を覆う透明保護シートの存在により、資料が十分に採取できたかを容易に確認でき、さらには資料の残存量を容易に把握することができる。
(5)資料残余がある場合は、透明粘着テープの残り部分を台紙50に貼着して保存することができる。
(6)採取・搬送・鑑定・保存の何れの段階でも、転写したり移し替えたりする必要がないために、資料のすり替えや取り違えの危険性を排除することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る微物採取用具を示す斜視図。
【図2】別の本実施態様に係る微物採取用具(支持部と剥離紙が結合している形態)を示す斜視図。
【図3】本実施形態に係る微物採取用具の表面図、裏面図、及び断面図。
【図4】本実施形態に係る微物採取用具の使用図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、何ら請求項の範囲を限定するものではない。
【0014】
(本発明の実施態様の微物採取用具の構成)
本発明の実施態様の微物採取用具100は、図1に示すような形態であり、詳しくは、以下の通りである。
短手方向(縦)2cm、長手方向(横)3cmの透明粘着テープ10(例えば、セロファンテープ)の粘着面の両端に支持部20を付けており、該支持部20と該透明粘着テープ10の非粘着面の一部又は全部が透明保護シート30(例、透明アセテート製の保護シート)により覆われている。
なお、透明粘着テープ10は、粘着力が水溶液中でも僅かにしか低下しないものが好ましく、さらに、DNAを抽出するために、PCRを阻害する物質を含まないものが好ましい。
剥離シート40(好ましくは、透明な剥離シートであり、シリコン製である)は、着脱自在に台紙50(例、剥離紙)の一部又は全部に設けられている。
さらに、該透明粘着テープ10の粘着面の一部が該剥離シート40に貼着している。
加えて、本発明の実施態様の微物採取用具の作製に際しては、ヒト細胞による汚染を回避するため、好ましくはクリーンベンチを用いて行う。
【0015】
(本発明の別の実施態様の微物採取用具の構成)
本発明の別の実施態様の微物採取用具110は、図2に示すように、支持部20の一方(参照:図2の201)と、剥離シート40を設けた台紙50の片端を結合させた形態である。
【0016】
(本発明の実施態様の微物採取用具の使用方法)
本発明の微物採取用具100の使用方法は、以下の手順であるが特に限定されない。
(1)図3に示すように、支持部20の裏面(参照:図3の矢印301)に採取番号を記載する。
(2)透明保護シート30に一部又は全部が覆われている透明粘着テープ10を、剥離シート40が設けられた台紙50から剥がす{参照:図4(1)}。
(3)該透明粘着テープ10を、資料採取箇所を覆うように密着させる{参照:図4(2)}。
(4)該透明粘着テープ10を該透明保護シート30の上から数回〜数十回強く押しつけることにより、該透明粘着テープ10の粘着面に資料を付着させることにより、該資料を採取する{参照:図4(3)}。
(5)上記(4)の資料採取後は、剥離シート40を台紙50から剥がし{参照:図4(4)}、該透明粘着テープ10を台紙50に貼着して、該透明粘着テープ10の粘着面を保護する{参照:図4(5)}。
【0017】
(採取した資料の鑑定方法)
DNA型鑑定では、透明保護シート30越しに、実体顕微鏡や生物顕微鏡を用いて採取した資料を観察する。観察後において、使用する資料の量が決まったら、台紙50から透明粘着テープ10を剥がし、さらに該透明粘着テープ10の非粘着面を覆っている透明保護シート30を捲る。
加えて、必要とする資料量に合わせて透明粘着テープ10を切り取り、さらに、直接、プラスチック製遠心チューブに入れる。次に、試薬を該チューブに加えた後に、DNAを抽出する。すなわち、本発明の微物採取用具で採取した微物を含む透明粘着テープ10の前処理は不要である。
さらに、資料残余がある場合は、透明粘着テープ10の残り部分を保護シート30で再び覆い、台紙50に貼着して保存することができる。
【0018】
(本発明の別の実施態様の微物採取用具の使用方法)
本発明の微物採取用具110の使用方法は、以下の手順であるが特に限定されない。
(1)採取者は、台紙50と結合していない方の支持部20を掴んで、透明粘着テープ10を剥離シート40から剥がす。
(2)該透明粘着テープ10を、資料採取箇所を覆うように密着させる。
(3)該透明粘着テープ10を該透明保護シート30の上から数回〜数十回強く押しつけることにより、該透明粘着テープ10の粘着面に資料を付着させることにより、該資料を採取する。
(4)上記(3)の資料採取後は、保護シート30で覆われた透明粘着テープ10を、剥離シート40を剥がした台紙50に貼着し、該透明粘着テープ10の粘着面を保護する。
なお、微物採取用具110は、台紙50と透明粘着テープ10が一体化しているため、資料採取時やDNA型鑑定後に資料残余が生じた場合でも台紙50を紛失しない。
【0019】
(本発明の微物)
本発明の微物は、組織片、細胞片、塗膜片、金属片、プラスチック片、及び/又は、繊維片を対象とするが特に限定されない。より詳しくは、皮膚細胞、口腔内細胞、鼻汁斑、精液斑,白色繊維片、飛沫血痕、黒色短毛,黒色若しくは藍色繊維片を例示するが特に限定されない。
【0020】
(本発明の微物採取用具の特徴)
採取者は、本発明の微物採取用具の支持部20を掴んで資料採取作業を行うため透明粘着テープ10の粘着面に触れる恐れがない。
透明粘着テープ10は、被採取箇所に圧着する際には、透明保護シート30の上から押し付けられるために非粘着面にも触れる必要がなく、採取者の細胞が混入する危険性がない。
さらに、資料採取後は、粘着テープ10の粘着面を、剥離シート40を剥がした台紙50に貼着して保存するため、異物が混入する可能性はほとんどない。
【0021】
皮膚細胞、口腔内細胞、鼻汁斑、精液斑,白色繊維片が微物である場合には、好ましくは台紙50の色は濃色である。また、飛沫血痕、黒色短毛,黒色若しくは藍色繊維片が微物である場合には、好ましくは台紙50の色は淡色である。
このように採取する微物により、台紙50の色を変えることにより、採取された微物の形状を肉眼で確認し易く立証措置も容易に行える。
さらに、 実体顕微鏡や生物顕微鏡を用いて採取資料を観察することができるため,採取された資料量を確認することができ、DNA型鑑定に必要な細胞数を容易に推定することができる。
【0022】
DNA型鑑定を行う場合は、台紙50から剥がした透明粘着テープ10の非粘着面を覆っている透明保護シート30を捲って、透明粘着テープ10の全体又は一部を切り取り、直接DNA抽出を行うことが出来る。よって、採取した全ての細胞を鑑定に使用することが可能である。
【0023】
DNA型鑑定において、資料残余が生じた場合は、残った透明粘着テープ10を再度台紙50に貼着し、透明保護シート30を戻して粘着テープの非粘着面を覆うことで、鑑定人の細胞が混入する危険性を排して長期に保存することが出来る。
さらに、本発明の微物採取用具を用いて採取された資料は、採取・搬送・鑑定・保存の何れの段階でも、転写したり移し替えたりする必要がないために、資料のすり替えや取り違えの危険性を排除することが出来る。
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(微物採取用具によるDNA検出)
使用済み長袖シャツの袖口・襟部、使用済みズックの靴ひも・中敷き、使用済み綿手袋の外側・内側、布製椅子の背もたれ、及び、清浄なガラス片に付着した指紋から、微物採取用具100及び微物採取用具110を用いて細胞片を採取し、採取した全量を用いてDNAを抽出した。
【0026】
上記抽出したDNA抽出液の10分の1を用いて、市販のマルチプレックスSTR検査キットであるアイデンティファイラー(ライフテクノロジーズ社製)による型判定を行った。該判定では、すべての資料で正確な型判定結果であった。
さらに、微物採取用具100及び微物採取用具110を用いて得られたDNA量を比較したところ、両者に有意な差異は認められなかった。
【実施例2】
【0027】
(微物採取用具によるコントロール実験)
微物採取用具100及び微物採取用具110の未使用の透明粘着テープ(セロファンテープ)全体を用いてDNAが抽出されるかどうかを確認した。該抽出液の全量を用いて、市販のマルチプレックスSTR検査キットであるアイデンティファイラー(ライフテクノロジーズ社製)による型判定を行った。いずれも型判定可能なピークは得られず、ヒト細胞の付着は検出されなかった。
【0028】
微物採取用具100及び微物採取用具110の未使用の透明粘着テープ(セロファンテープ全体)を用いて抽出した抽出液の全量を標準DNA(1ナノグラム)と共に加えて、市販のマルチプレックスSTR検査キットであるアイデンティファイラー(ライフテクノロジーズ社製)による型判定を行い、DNA抽出液を加えない対照と比較した。いずれの試料も、対照と同じ結果が得られた。
以上により、透明粘着テープであるセロファンテープの材質や粘着剤はPCRを阻害せず、DNA型鑑定に影響を及ぼさないことを確認した。
【符号の説明】
【0029】
10:透明粘着テープ
20:支持部
30:透明保護シート
40:剥離シート
50:台紙
60:長手方向矢印
70:短手方向矢印
100:本発明の実施例の微物採取用具
110:本発明の別の実施例の微物採取用具
201:台紙と結合させた支持部
301:矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微物採取用具であって、
台紙と、
該台紙の一部又は全部に着脱自在に設けられた剥離シートと、
粘着面の両端に支持部を付けた透明粘着テープと、ここで、該透明粘着テープの粘着面の一部が該剥離シートに貼着されており、
該透明粘着テープの非粘着面の一部又は全部を覆う透明保護シートと、を含み、
微物採取時において該剥離シートの存在により台紙の汚染防止が可能となり、並びに、 微物採取後において該剥離シートを剥がして、該微物が付着した透明粘着テープの粘着面と該台紙の貼着により異物混入を防止可能であることを特徴とする、微物採取用具。
【請求項2】
前記剥離シートは前記台紙の一部のみに着脱自在に設けられており、並びに、前記支持部の一方が、該剥離シートが設けられていない台紙の部分に貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の微物採取用具。
【請求項3】
前記微物が、組織片、細胞片、塗膜片、金属片、プラスチック片、及び/又は、繊維片である請求項1又は2に記載の微物採取用具。
【請求項4】
皮膚細胞、口腔内細胞、鼻汁斑、精液斑,白色繊維片が微物である場合には台紙の色は濃色であり、飛沫血痕、黒色短毛,黒色若しくは藍色繊維片が微物である場合には台紙の色は淡色であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の微物採取用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113820(P2013−113820A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263138(P2011−263138)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(511291164)株式会社 シリカ高研 (1)
【Fターム(参考)】