説明

微生物によるアミド化合物の製造方法およびそれに使用する微生物、菌体処理物および酵素

【課題】 高耐熱性ニトリルヒドラターゼを持つ菌株を見出すことによって、より高温で効率的にアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法、並びに当該製造方法で使用するための微生物を提供すること。
【解決手段】 ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を水性媒体中にてニトリル化合物に作用させて対応するアミド化合物に変換することを含む、アミド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を用いて、アミド化合物を製造する方法、並びに当該方法に使用する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微生物などの生体触媒を用いてニトリル化合物をアミド化合物に変換させる方法が多数提案されている。例えば、バチルス(Bacillus) 属、バクテリジューム(Bacteridium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物を用いる方法(特許文献1)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ノカルジア(Nocardia)属に属する微生物を用いる方法 (特許文献2)、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物を用いる方法(特許文献3)、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物を用いる方法(特許文献4)、フザリウム (Fusarium) 属に属する微生物を利用する方法 (特許文献5) 等が挙げられる。上記のように、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する複数種の微生物が知られているが、これらの微生物はいずれも55℃以上の高温では増殖しない中温菌である。
【0003】
また最近では、55℃以上で生育する好熱菌が持つ高耐熱性のニトリルヒドラターゼに着目して、好熱性の菌についても、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する微生物が報告されている。例えば、特許文献6ではバチルス・スミシー(Bacillus smithii)について、特許文献7ではシュードノカルディア・サーモフィラ(Psuedonocardia thermophila)について記載があるが、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)の菌体を用いて、ニトリルニトリル化合物をアミド化合物に変換させる報告はない。
【0004】
【特許文献1】特公昭62−21519
【特許文献2】特公昭56−17918
【特許文献3】特公昭59−37951
【特許文献4】EP188316
【特許文献5】特開昭64−86889
【特許文献6】特開平7−255494
【特許文献7】特開平8−56684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バチルス・スミシー(Bacillus smithii)やシュードノカルディア・サーモフィラ(Psuedonocardia thermophila)の高耐熱性ニトリルヒドラターゼを用いる試みはある程度の成功を収めているのではあるが、これらの好熱菌では生育上限温度が55〜60℃であり、酵素もその温度に対応した温度特性を持つものであった。そこで、本発明は、上記の好熱菌の生育上限温度以上で成育する菌株から、これまで以上の高耐熱性ニトリルヒドラターゼを持つ菌株を見出すことによって、より高温で効率的にアミド化合物を製造できるアミド化合物の製造方法、並びに当該製造方法で使用するための微生物を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の状況を鑑み、鋭意検討を重ねた結果、埼玉県の温泉近傍にある土壌より分離した好熱菌が従来の好熱菌が持つ温度域を超える温度域においても効率的にニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有することを見出し、本発明を完成した。 即ち、本発明は、ニトリル化合物に、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する好熱性微生物の培養液、菌体、又は菌体処理物を作用させ、該ニトリル化合物をアミド化合物に変換させることを特徴とするアミド化合物の製造方法および使用される微生物を提供するものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下の(1)〜(7)に記載の発明が提供される。
(1) ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を水性媒体中にてニトリル化合物に作用させて対応するアミド化合物に変換することを含む、アミド化合物の製造方法。
(2) ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物がジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16である、(1)に記載のアミド化合物の製造方法。
【0008】
(3) 反応温度が20℃〜75℃である、(1)又は(2)に記載のアミド化合物の製造方法。
(4) 反応温度が55℃〜75℃である、(1)又は(2)に記載のアミド化合物の製造方法。
【0009】
(5) ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16(受領番号:FERM AP−20315)又はその変異体。
(6) (1)に記載のアミド化合物の製造方法のために使用する、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物。
(7) ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を有効成分として含む、ニトリル化合物からアミド化合物を製造するための酵素剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来から知られている生育上限温度が60℃までの好熱菌を用いた場合と比較してより高温での反応が可能となり、これにより効率のよいアミド化合物の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明において使用される微生物は、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属し、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する微生物であれば、いかなるものでもよい。また、これらの微生物は、各種の微生物保存機関が保管する微生物を用いてもよいし、いわゆるスクリーニングと呼ばれる手法で自然界から分離した菌株を用いても構わない。具体的には、本発明では次の手法でスクリーニングを行った。まず、様々な場所で採取した土壌を少量とって、水または生理食塩水をいれた試験管内に入れて、2日から14日の間、70℃の振とう培養器の中で振とう培養する。この培養液の一部を取り、汎用的な微生物生育用培地、例えばグルコース、ポリペプトン、イーストエキストラクト、麦芽エキス等を主成分とした液体培地に入れ、の培養温度にて、1日から7日間程度の間培養する。これにより得られる培養液の一部を、前述の微生物生育用培地成分を含む寒天平板培地に広げて70℃でさらに培養し集落を形成させることによって、好熱性微生物を分離することができる。このようにして得られた微生物を、前記培地成分にさらにn−バレロニトリル等のニトリル化合物あるいはクロトンアミド等のアミド化合物を加えた液体培地を入れた試験管あるいはフラスコを用い適当な期間、例えば約12時間から7日程度の間、70℃の培養温度にて培養することによって増殖させる。その培養液または菌体を、たとえばプロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル化合物の水溶液に加えて、例えば20℃の反応温度で約10〜60分間反応させた後、該反応液中におけるアミド化合物の生成の有無を調べることによって、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する好熱性微生物を容易に分離することができる。なお、アミド化合物の検出には、たとえば後述のような液体クロマトグラフィーによる分析方法を用いることができる。また、生成した化合物は液体クロマトグラフィーで分取後、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)、赤外吸収スペクトル(IR)および核磁気共鳴スペクトル(NMR)を用いて同定した。今回得られた菌株は、本発明者らが自然界より単離した、ニトリル化合物のニトリル基に対する高い水和活性を有する好熱性微生物であり、菌株の同定した所、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)であることが判明し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に、受領番号:FERM AP−20315の下、寄託 (受領日:平成16年12月7日) した。また、種種の文献等を調査しても、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物において、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性について記載はなんらない。この点においてジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16 (受領番号:FERM AP−20315) は新菌株と認められる。また、該菌株の変異体、即ち、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16(受領番号:FERM AP−20315) より誘導された突然変異体、細胞融合株および遺伝子組み換え株も本発明方法において利用が可能である。ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16の変異体としては、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する微生物である限り、上記ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16から誘導される任意の変異体を使用することができる。具体的には、自然変異、あるいは化学的変異剤又は紫外線等による人工変異を受けた変異体などが挙げられる。
【0012】
上記したジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16株の菌学的性質は以下のとおりである。
【0013】
(a)形態的性質
培養条件:TM培地
培地組成:1000mlあたり
ペプトン(Bact Peptone) 8 g
MgCl2 0.15g
イーストエキス(Bact Yeast Extract) 4 g
NaCl 2 g
CaCl2 0.18g
ゲランガム 15g
培養温度:70℃
【0014】
1.細胞の形および大きさ
形 : 桿菌
大きさ : 0.8×2.0〜3.0μm
2.細胞の多形性の有無 : −
3.運動性の有無 : +
鞭毛の着生状態:周毛
4.胞子の有無 : +
胞子の部位:端立
【0015】
(b)培養的性質
培養条件:TM培地(前述) 70℃
1.色: 透明〜薄いクリーム色
2.光沢:+
3.色素生産: −
4.表面発育の有無:−
5.培地の混濁の有無:+
【0016】
培養条件:ゼラチン穿刺培養 70℃
1.生育状態:+
2.ゼラチン液化:+
【0017】
培養条件:リトマス・ミルク 70℃
1.凝固:−
2.液化:−
【0018】
(c)生理学的性質
1.グラム染色:不定
2.硝酸塩の還元:−
3.脱窒反応:−
4.MRテスト:−
5.VPテスト:−
6.硫化水素の発生:−
7.デンプンの加水分解:−
8.クエン酸の利用
Koser:−
Christensen:−
9.無機窒素源の利用
硝酸塩:−
アンモニウム塩:+
10.色素の生成
11.ウレアーゼ活性:−
12.オキシターゼ:+
13.カララーゼ:+
14.生育温度
pH:5.5〜8.0
温度:50℃〜75℃
15.酸素に対する態度:通性嫌気性
16.O−Fテスト:−/−
【0019】
(d)糖からの酸産生/ガス産生
1.L−アラビノース:−/−
2.D−キシロース:+/−
3.D−グルコース:+/−
4.D−マンノース:+/−
5.D−フルクトース:+/−
6.D−ガラクトース:−/−
7.マルトース:+/−
8.サークロース:+/−
9.ラクトース:−/−
10.トレハロース:+/−
11.D−ソルビトール:−/−
12.D−マンニトール:+/−
13.イノシトール:−/−
14.グリセリン:−/−
【0020】
(e)その他の性質
1.β−ガラクトシターゼ:−
2.アルギニンジヒドラーゼ活性:−
3.リジンデカルボキシラーゼ活性:−
4.トリプトファンデアミナーゼ活性:−
5.ゼラチナーゼ活性:+
【0021】
本発明の方法において使用される微生物の培養は、一般的な微生物培養方法に準じて行うことができ、固体培養または液体培養〔試験管振盪培養、往復式振盪培養、回転振盪培養、ジャーファーメンター培養、培養タンク等〕いずれも可能である。培養は通常、嫌気的条件下で行う。また、ジャーファーメンターを使用する場合においても、無菌空気を導入は行わない。培養温度は、微生物が生育する範囲で適宜変更できるが、例えば、50℃〜75℃の範囲である。培地のpHは、例えば、5.5〜8.0である。特に、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16微生物の場合、約60℃〜約72 ℃、好ましくは、約65℃〜約70℃の範囲の培養温度で、約6〜約8の培地pHである。培養時間は、種々の条件によって異なるが、通常、約1日〜約7日間程度である。
【0022】
本発明の方法において使用される微生物の培養には、一般細菌における通常の培養に使用される炭素源、窒素源、有機ないし無機塩等を適宜含む各種の培地を使用することができる。炭素源としては、グルコース、グリセロール、デキストリン、シュークロース、有機酸、動植物油、糖密等が挙げられる。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、酵母エキス(イーストエキストラクト)、麦芽エキス、大豆粉、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸、硝酸ナトリウム、 尿素等の有機または無機窒素源等が挙げられる。有機ないし無機塩としては、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸 塩類、酢酸塩類、炭酸塩類およびリン酸塩類、具体的には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素1カリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素1ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム 等を挙げることができる。本発明方法において使用される微生物の有するニトリル基に対する水和活性を高めるために、n−バレロニトリル、クロトノニトリル等のニトリル化合物、クロトンアミド等のアミド化合物を培地に添加するのが好ましい。添加量としては、例えば、培地100ml に対して、約10mg〜約1gを挙げることができる。
【0023】
本発明で用いるニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、n−プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリル、n−バレロニトリル、n−ヘキサンニトリル等の脂肪族ニトリル化合物、2−クロロプロピオニトリル等のハロゲン原子を含むニトリル化合物、アクリロニトリル、クロトノニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和結合を含む脂肪族ニトリル化合物、ラクトニトリル、マンデロニトリル等のヒドロキシニトリル化合物、2−フェニルグリシノニトリル等のアミノニトリル化合物、ベンゾニトリル、シアノピリジン等の芳香族ニトリル化合物、マロノニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物等およびトリニトリル化合物を挙げることができる。
【0024】
本発明の方法では、微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を水性媒体中にてニトリル化合物に作用させることにより、ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物に変換する。ここで言う「ニトリル化合物を水和して対応するアミド化合物に変換する」とは、アセトニトリルではアセトアミド、n−プロピオニトリルではn−プロピオアミド、アクリロニトリルではアクリルアミドのように、ニトリル化合物に水分子が付加したアミド化合物に変換するということである。
【0025】
本発明では、微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を水性媒体中にてニトリル化合物に作用させる。ここで言う「水性媒体中にてニトリル化合物に作用させる」とは、水またはリン酸緩衝液等の水性水溶液に前述のニトリル化合物を加えて作用させることである。たとえばアクリロニトリル等のニトリル化合物の水溶液に加え、一例として20℃の反応温度で5分〜60分間反応させることによってアミド化合物に変換することができる能力を有しているということである。
【0026】
本発明の方法は、例えば、以下のように行うことができる。前述の方法で培養した微生物の培養液、菌体または菌体処理物を水またはリン酸緩衝液等の緩衝液等の水性水溶液に懸濁し、これをニトリル化合物に加えて反応させる。ここで、菌体処理物とは菌体を超音波、ホモジェナイザーおよびフレンチプレス等の通常用いられる処理方法により破砕された菌体破砕物もしくは酵素、あるいは菌体、菌体破砕物、酵素等を共有結合、イオン結合、吸着などにより担体に結合させる担体結合法、高分子の網目構造のなかに閉じ込める包括法等の固定化の方法によって不溶化し、容易に分離可能な状態に加工したものである。反応条件としては、使用する菌体または菌体破砕物の濃度は、例えば、0.01重量%〜20重量%、好ましくは、0.1重量%〜10重量%を挙げることができる。また酵素及び固定化物の濃度は、その精製度または固定化方法等によって変化するが、例えば、前記の菌体または菌体破砕物が有すると同等のニトリル基に対する水和活性が存在するように調製することが好ましい。培養液はそのままの状態で、ニトリル化合物を添加することによって用いることもできるが、好ましくは、前記の菌体または菌体破砕物が有すると同等のニトリル基に対する水和活性が存在するように希釈または濃縮等によって調製することが好ましい。
【0027】
本発明の方法を行う際の反応温度は、ニトリル化合物からアミド化合物への変換反応が進行する限り特に限定されないが、一般的には、5℃〜80℃、好ましくは10℃〜75℃、より好ましくは20℃〜75℃、さらに好ましくは30℃〜75℃、さらに好ましくは40℃〜75℃、さらに好ましくは50℃〜75℃、さらに好ましくは55℃〜75℃、特に好ましくは60〜75℃の範囲内とすることができる。
【0028】
また、反応pHは、例えば5〜10であり、好ましくは6〜9である。反応時間は、例えば5分間〜72時間である。反応pHを上記範囲内で維持すれば、本発明の方法で使用される微生物は、アミド化合物を高濃度に生成蓄積させることもできる。反応液からのアミド化合物の回収は、一般に知られている任意の方法で行うことができる。例えば、反応液から菌体等を遠心分離等によって除いた後、活性炭、あるいはイオン交換樹脂等による処理により、不純物等を除去する。その後、 減圧濃縮、あるいは蒸留濃縮することにより析出させた結晶をメタノール等の有機溶媒を用いて再結晶させれば目的のアミド化合物を得ることができる。
【0029】
上記の通り、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を用いることによって、ニトリル化合物からアミド化合物を製造することができる。即ち、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物は、ニトリル化合物からアミド化合物を製造するための酵素剤として使用することができる。ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を有効成分として含む、ニトリル化合物からアミド化合物を製造するための酵素剤も、本発明の範囲内のものである。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものでない。
【実施例】
【0030】
実施例1(菌体分離)
福岡県北九州市小倉南区長尾の公園で採取した土壌を少量(約1g)とって、生理食塩水を5ml入れた試験管内に入れて、3日間、70℃の振とう培養器の中で振とう培養した。この培養液の一部(0.5ml)を取り、グルコース1.0重量 %、ポリペプトン0.5重量%、イーストエキストラクト0.3重量%からなる培地(pH7.0)に加え、2日間70℃で往復振とう培養した。これにより得られる培養液の一部(0.1ml)を、前述の培地成分を含む寒天平板培地に広げて70℃でさらに2日間培養し集落を形成させることによって、好熱性微生物を分離した。該分離した菌体を、上記と同組成の培地に0.1重量%のn−バレロニトリルを添加した液体培地に接種した後、70℃で24時間培養することにより、検体である培養液を得た。該培養液1mlを9mlの1.1重量%のアクリロニトリル溶液(0.05M−リン酸バッファーpH7. 7)に加えて、反応温度20℃にて反応を開始した。10分後、1mlの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。反応液の一部を液体クロマトグラフィーにて分析し、アクリルアミド生成の有無を検定することによって、ニトリル基に対する水和活性を有する菌株を選抜した。このようにしてニトリロ化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を有する好熱性微生物としてジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16を得た。
【0031】
(液体クロマトグラフィー分析条件)
HPLC:Hitachi D-7000シリーズ
カ ラ ム ;Inertsil ODS-3(GLサイエンス社製)
長さ;200mm
カラム温度 ;35℃
流量;1ml/ min
サンプル注入量 ;10μl
溶液:0.1wt%リン酸水溶液
【0032】
実施例2(菌体培養の生育上限温度)
実施例1により得られたジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16と特開平7−255494に記載されているバチルス・スミシー(Bacillus smithii)の比較を試みたが、この特許出願時点で該バチルス・スミシー(Bacillus smithii)の取り寄せができなかった。そこで、特開平7−255494に記載されている方法で土壌から菌体を分離した後、16SrRNA相同性検索でバチルス・スミシー(Bacillus smithii)と同定した菌体を使用した。この2種類の菌体を、各々実施例1で使用した培地成分を含む寒天平板培地に塗布し、複数の異なる温度で培養を行い,菌体の生育状況を調べた。その結果を表1に示す。ジオバチルス・カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16(本発明菌株)は、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)(対照菌株)よりも高い生育上限温度を持つ好熱性微生物であった。また、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)(対照菌株)の生育温度範囲は特許出願公開平7−255494に記載されているものと同じであった。
【0033】


【表1】

【0034】
実施例3(各温度でのニトリルヒドラターゼ活性の比較)
グリセロール0.2重量%、クエン酸3ナトリウム2水和物0.2重量%、リン酸2水素カリウム0.1重量%、リン酸水素2カリウム0.1重量%、ポリペプトン0.1重量%、 酵母エキス0.1重量%、塩化ナトリウム0.1重量%、n−バレロニトリル0.1重量%、硫酸マグネシウム7水和物0.02重量%、硫酸鉄(II)7水和物0.003重量%、塩化コバルト6水和物0.0002%を含む滅菌済培地(pH7.0)100mlを500ml三角フラスコに入れたものにあらかじめ同培地で培養したジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16の培養液1mlを植菌した。これを70℃で1日間、200stroke/minで回転振とう培養し、菌体培養液を得た。該ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16の菌体培養液300mlから遠心分離(10000×g, 15分) によって菌体を集め、0.05Mリン酸緩衝液(pH7.5)にて洗浄後、同緩衝液50mlに懸濁した。こうして調製した菌体懸濁液について、表2に揚げた反応温度でニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性を測定した。水和活性は以下の様にして求めた。まず、酵素活性の単位(ユニット)は、1分間に1μmol のアクリロニトリルをアクリルアミドに変換する活性を1ユニット(以下、Uと記す。)と定めて、10℃において、5U/mlになる菌体懸濁液を調整した(反応時間は10分間とした)。この菌体懸濁液を用いて、今度は30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、75℃の条件で同様に水和活性を求めた。次にバチルス・スミシー(Bacillus smithii)についても同様にして水和活性を求め、対照区とした。そして、比較を容易にするために各温度におけるバチルス・スミシー(Bacillus smithii)の値を100として、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16の相対的な水和活性をしめしたものが、表2である。ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16の相対水和活性は、30℃から75℃へと高温にする従って、高くなることが示された。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例4(ニトリルヒドラターゼの熱安定性の比較)
活性の熱安定性を調べるために、10℃における25U/mLの菌体懸濁液を調製し、所定時間、所定温度での保温処理を行い、残存活性を測定した。なお、ニトリル化合物をアミド化合物に変換させる水和活性は次の方法によって測定した。9mLの1.1%アクリロニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に1mLの菌体懸濁液を加えて、反応温度10℃にて反応を開始した。10分後、1mLの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。各々の菌株において、保存処理前の活性に対する保存処理後の活性(残存活性)を算出し、算出されたバチルス・スミシーの残存活性を基準(100)とした換算値として表に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
実施例5(各種ニトリル化合物に対する反応)
表4に示す各種ニトリル化合物を対応するアミド化合物に変換させる水和特性について調べた。9mLの1.1%ニトリル溶液(0.05Mリン酸カリウム緩衝液、pH7.5)に1mLの菌体懸濁液を加えて、反応温度30℃にて反応を開始した。10分後、1mLの1規定塩酸を加えることにより反応を停止した。その結果、すべてニトリル化合物を対応するアミド化合物に変換させる水和活性に関する能力を有していた。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、従来の場合と比較してより高温の条件下において、ニトリル化合物からアミド化合物を合成することができる。本発明により、効率のよいアミド化合物の製造が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を水性媒体中にてニトリル化合物に作用させて対応するアミド化合物に変換することを含む、アミド化合物の製造方法。
【請求項2】
ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物がジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16である、請求項1に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
反応温度が20℃〜75℃である、請求項1又は2に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
反応温度が55℃〜75℃である、請求項1又は2に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項5】
ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)M16(受領番号:FERM AP−20315)又はその変異体。
【請求項6】
請求項1に記載のアミド化合物の製造方法のために使用する、ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物。
【請求項7】
ジオバチルス カルドキシロシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticus)に属する微生物の培養液、菌体もしくは菌体処理物を有効成分として含む、ニトリル化合物からアミド化合物を製造するための酵素剤。





【公開番号】特開2006−158323(P2006−158323A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356644(P2004−356644)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】