説明

微生物の培養システム及び微生物の培養方法

【課題】微生物の培養効率の向上を図るとともにコストを削減することができる微生物の培養システム及び培養方法を提供することを課題とする。
【解決手段】微生物及び培養液Lを貯留する袋状の培養槽2と、培養槽2で培養した微生物を回収する回収ステーション3と、を有し、培養槽2は、海Sに浮かべられており、回収ステーション3は、その上部が水位の変化によって露出又は水没するように水中に設置されており、水位が下がり、回収ステーション3の上部に載置された培養槽2が水面から露出した際に、微生物を含んだ培養液Lをこの培養液Lの重力で培養槽2から排出しつつ、微生物の回収を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成によって微生物を培養する微生物の培養システム及び微生物の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成によって微生物を培養して二酸化炭素を固定し、増殖した微生物を工業原料、食品、医薬及び飼料等に利用する技術が知られている。この微生物の培養は、その生産性が低いことが課題となっており、研究開発が進められている。微生物の培養の生産性を上げるためには、微生物を含んだ培養液に光及び二酸化炭素を最適な環境下で、効率的に供給するとともに、イニシャルコスト及びランニングコストの小さい装置が必要となる。
【0003】
例えば、従来の培養装置は、培養槽に貯留された培養液が大気中に開放された開放系と、閉鎖された閉鎖系とに大きく分類される。開放系の培養装置では、上方が開放した箱状の培養槽が用いられる。このような開放系の培養装置によれば、培養槽を簡素化できるため、初期投資を削減できるというメリットがある。しかし、外部から培養槽内に異物、雑菌等が混入し、培養に悪影響を与えるという問題がある。
【0004】
一方、閉鎖系の培養装置の一つとして、閉鎖空間を備えたチューブ型の培養槽(以下、チューブ型培養槽とも言う)が用いられる。チューブ型培養槽では、このチューブ型培養槽の内部に培養液を流通させて微生物を培養させる(特許文献1参照)。特許文献1に係る発明によれば、異物の混入や二酸化炭素の放出等を防ぐことができるため、培養効率を高めることができる。
【0005】
特許文献1に係る発明では、チューブ型培養槽の内径を5cmに設定している。このようにチューブ型培養槽の内径が小さいと、チューブ型培養槽の内部を流通する培養液の温度が上昇しやすい。一般に、培養を行うための最適な温度は、25〜35℃と言われている。したがって、チューブ型培養槽を用いた従来の培養装置では、チューブ型培養槽の近くに冷却用のスプリンクラーを設置して培養液の温度上昇を抑制することが行われている。
【0006】
ここで、チューブ型培養槽の内径を大きくすれば、培養液の温度上昇を抑制することができ、さらには、培養液の容量を大きくできるので微生物の生産性を向上することができるとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−121835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、チューブ型培養槽の内径を大きくすると、チューブ型培養槽の下部に流れる培養液に光が効果的に到達せず、培養効率が低下するという問題があった。この問題を解決するためにチューブ型培養槽の内部に撹拌装置などを設置して培養液を撹拌することが考えられるが、培養液を撹拌するためには大きな動力が必要となり、ランニングコストが大きくなるという問題があった。
【0009】
また、内径が小さいチューブ型培養槽を用いて培養の大容量化を達成するためには、チューブ型培養槽の全長を長くしなければならなかった。そのため、イニシャルコストが嵩むとともに、広い設備面積を確保しなければならなかった。また、チューブ型培養槽の全長を長くすると、培養された微生物の回収作業が煩雑になるとともに、回収コストも大きくなるという問題があった。
【0010】
また、前記したようにチューブ型培養槽の内径が小さいと、培養液の温度が上昇しやすいため、培養液の温度管理が困難であった。スプリンクラー等で対処することはできるが、スプリンクラーに対するイニシャルコスト及びランニングコストが嵩むという問題があった。
【0011】
本発明は、前記した問題に鑑みて創案されたものであり、微生物の培養効率の向上を図るとともにコストを削減することができる微生物の培養システム及び培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、微生物及び培養液を貯留する袋状の培養槽と、前記培養槽で培養した前記微生物を回収する回収ステーションと、を有し、前記培養槽は、海など水面に浮かべられており、前記回収ステーションは、その上部が水位の変化によって露出又は水没するように水中に設置されており、水位が下がり、前記回収ステーションの上部に載置された前記培養槽が水面から露出した際に、前記微生物を含んだ前記培養液をこの培養液の重力で前記培養槽から排出しつつ、前記微生物の回収を行うことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、培養槽は海などの水面に浮いているため、波や潮位の変化、風雨によって不規則に揺動する。これにより、培養槽内の培養液を撹拌することができるため、微生物に均一に光を照射することができる。また、培養槽は水面に浮いているため、培養槽内の温度の上昇を抑えることができる。また、水位が下がり、回収ステーションの上部に載置された培養槽が水面から露出した際に、培養液の重力を利用して培養液を排出することにより、培養槽から微生物を回収することができる。
【0014】
要するに、本発明では自然環境を利用して微生物の培養及び回収を行うことができるため、培養システムのイニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。また、水位の上下動を利用することで、培養槽内の微生物の回収を容易に行うことができる。なお、培養槽を浮かべる場所は、海、川、湖、池など自然環境下であって、水位の変化がある場所が挙げられる。
【0015】
また、前記培養槽は、排水バルブを備え、前記回収ステーションは、前記排水バルブよりも下に設けられた分離槽を備え、前記分離槽は、フィルターを備え、前記排水バルブから排出された微生物を含んだ培養液を前記フィルターに通し、前記フィルターで前記微生物を回収することが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、フィルターを備えた分離槽が排水バルブよりも下に備えられているため、重力を利用してフィルターで微生物を捕捉することができる。
【0017】
また、前記回収ステーションの表面は、前記分離槽に向けて下方に傾斜していることが好ましい。かかる構成によれば、効率よく微生物を回収することができる。
【0018】
また、前記分離槽で分離された前記培養液を再利用するための移送手段を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、養分や未成長の微生物が残存する培養液を再利用することができるためコストを低減できる。
【0019】
また、前記微生物を貯留する微生物貯留槽と、前記回収ステーションで回収された前記微生物を前記微生物貯留槽へ搬送する搬送装置と、を備えていることが好ましい。かかる構成によれば、微生物の回収効率を高めることができる。
【0020】
また、前記培養槽は、この培養槽内の気体を調整する気体調整手段と連通していることが好ましい。かかる構成によれば、培養槽内の気体を調整することができる。
【0021】
また、本発明は、微生物及び培養液を貯留する袋状の培養槽を海などの水面に浮かべて培養する培養工程と、水中に設置された回収ステーションの上に前記培養槽を位置させる配置工程と、水位が下がり、前記回収ステーションの上部に載置された前記培養槽が水面から露出した際に、前記微生物を含んだ前記培養液をこの培養液の重力で前記培養槽から排出しつつ、前記微生物の回収を行う回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
かかる方法によれば、培養槽は海などの水面に浮いているため、波や潮位の変化、風雨によって不規則に揺動する。これにより、培養槽内の培養液を撹拌することができるため、微生物に均一に光を照射することができる。また、培養槽は水面に浮いているため、培養槽内の温度の上昇を抑えることができる。また、水位が下がり、回収ステーションの上部に載置された培養槽が水面から露出した際に、培養液の重力を利用して培養液を排出することにより、培養槽から微生物を回収することができる。
【0023】
要するに、本発明では自然環境を利用して微生物の培養及び回収を行うことができるため、培養システムのイニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。また、水位の上下動を利用することで、培養槽内の微生物の回収を容易に行うことができる。なお、培養槽を浮かべる場所は、海、川、湖、池など自然環境下であって、水位の変化がある場所が挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る微生物の培養システム及び微生物の培養方法によれば、微生物の培養効率の向上を図るとともにコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一実施形態に係る微生物の培養システムを示す概略平面図である。
【図2】図1のA−A線矢視側面図である。
【図3】第一実施形態に係る回収ステーションを示す平面図である。
【図4】図1のB−B線矢視側断面図である。
【図5】第一実施形態に係る微生物の培養システムの配置工程を示す平面図である。
【図6】図5のC−C線矢視側断面図である。
【図7】第一実施形態に係る回収工程を示す側断面図である。
【図8】第二実施形態に係る回収工程を示す側断面図である。
【図9】第三実施形態に係る回収工程を示す図であって、(a)は側断面図、(b)は平面図である。
【図10】培養槽の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、第一実施形態に係る微生物の培養システム1は、微生物を培養する複数の培養槽2と、培養槽2を係留するとともに微生物の回収を行う回収ステーション3と、培養槽2の気体の調整を行う気体調整手段4と、回収した微生物を収集する微生物収集手段5と、を主に有する。培養槽2は海Sに浮かべられており、回収ステーション3は海底に設置されている。
【0027】
培養槽(バイオリアクター)2は、培養液L及び微生物を貯留して、微生物を培養する容器である。培養槽2は、本実施形態では回収ステーション3の周囲に放射状に8個設けられている。培養槽2の数は特に制限されるものではない。
【0028】
培養槽2は、図2に示すように、培養容器11と、係留タグ12と、排水バルブ13と、気体調整管14とを主に有する。培養容器11は、円柱形状を呈し、比較的柔らかい樹脂で形成された中空部材である。培養容器11の中に培養液Lと微生物が貯留される。培養容器11は、貯留する微生物に日光を照射させるために透明であることが好ましい。培養容器11の大きさは特に制限されないが、本実施形態では、直径1.6m、長さ50mに設定している。培養容器11の形状は、本実施形態では円柱形状としたが、培養液を貯留できる袋状の容器であれば他の形状であってもよい。
【0029】
係留タグ12は、図2に示すように、培養容器11の両端面に二箇所ずつ設けられている。係留タグ12は、海底に立設された係留杭K1,K2に連結ワイヤW1,W2を介してそれぞれ連結されている。これにより、培養槽2が漂流するのを防ぐことができる。
【0030】
係留杭は、図1に示すように、培養槽2を浮かばせる位置に対応して立設されている。係留杭は、本実施形態では一の培養槽2に対して二本ずつ設けられており、合計16本(係留杭K1〜K16)立設されている。角柱を呈する各係留杭K1〜K16の対向する側面には、縦方向にスリット(図示省略)が形成されている。一方、連結ワイヤW1,W2の先端には、弾性変形可能なクリップ(図示省略)が形成されている。連結ワイヤW1,W2は、係留杭K1〜K16に対して着脱自在に形成されているとともに、潮位が変化して培養槽2が上下動する際に、前記したクリップが係留杭K1〜K16の前記スリット内を移動するように形成されている。
【0031】
排水バルブ13は、図2に示すように、培養容器11の中央下部に設けられている。排水バルブ13は、培養容器11内の微生物を含んだ培養液Lを排出するためのバルブである。排水バルブ13は、本実施形態では、培養容器11の中央下部に設けられているが、培養容器11の下部であれば他の部位であってもよい。培養容器11の端面に設けられていてもよい。
【0032】
気体調整管14は、培養容器11の端面の上部に連結されている。気体調整管14は、培養槽2に給気又は排気するための可撓性の管である。気体調整管14の先端にはプラグ14aが形成されている。プラグ14aは、気体調整手段4のソケット36に連結される。
【0033】
培養槽2の中で培養する微生物の種類は、微細藻など光合成を行う生物であれば特に制限されない。培養液Lは、撹拌効率を考慮して、培養槽2の40%程度の容量で貯留することが好ましい。培養槽2は、本実施形態では前記したように構成したが、これに制限されるものではない。例えば、培養容器11の外周面に側方に張り出す羽根部材を設けて、波に応じて培養槽2を揺動しやすくしてもよい。
【0034】
回収ステーション3は、図4に示すように、脚部21,22と、テーブル23と、分離槽24と、を主に有する。
【0035】
脚部21,22は、海底S1に立設されており、テーブル23を支える部位である。テーブル23は、脚部21,22の上に設けられており、平面視円形であって、中央に向けて傾斜するすり鉢状を呈する。テーブル23の表面は分離槽24に向けて下方に傾斜している。テーブル23の直径は、少なくとも培養槽2の長さよりも大きい直径で形成されていることが好ましい。テーブル23は、微生物を回収する際に、培養槽2が配置される部位である。テーブル23の表面に、滑り止め層を設けてもよい。
【0036】
分離槽24は、図3及び図4に示すように、有底筒状を呈し、テーブル23の中央に設けられている。分離槽24は、培養液Lと微生物とを分離する部位である。分離槽24の下端には開閉弁が設けられており、この開閉弁を開けることで分離槽24内を流下する培養液Lを海Sへ排出することができる。分離槽24の内部には、仕切り板24aとフィルター25とが設けられている。
【0037】
仕切り板24aは、分離槽24に対して傾斜した板状部材である。仕切り板24aは、フィルター25を設置するための部材である。仕切り板24aにおいて、フィルター25を設置する位置には、上下方向に連通する連通孔(図示省略)が形成されている。また、仕切り板24aの下端側は、回収管43に臨んでいる。つまり、仕切り板24aの下端と回収管43は同じ高さ位置になっている。これにより、フィルター25によって濾し取られた微生物が、自重によって仕切り板24aから傾斜方向に流下して回収管43側に流れやすくなっている。
【0038】
フィルター25は、培養液Lに含まれる微生物を濾し取る器具である。フィルター25は、本実施形態では微生物を捕捉可能なカートリッジフィルターを用いている。フィルター25は円筒状を呈し、その上端も網状体で覆われている。フィルター25の上から流下した培養液Lは、フィルター25の外側から内側に流れ、フィルター25の中空部と仕切り板24aの前記連通孔を介して海Sに排出される。
【0039】
フィルター25は、本実施形態では4本設けているが、本数を制限するものではない。また、微生物を濾し取るとともに培養液Lを排出可能であれば他の形態のフィルターを用いてもよい。
【0040】
回収ステーション3の上端は、満潮時には海中に潜り、干潮時には海中から露出するように形成されている。本実施形態では、満潮時において、培養槽2が回収ステーション3の上に位置しても、培養槽2と回収ステーション3とが接触しない高さで回収ステーション3が形成されている(図4参照)。一方、干潮時には海面S2が分離槽24の下に位置するように回収ステーション3が形成されている(図7参照)。
【0041】
気体調整手段4は、図1に示すように、陸地Gに設置された気体調整装置31と、リング状の分配配管32と、気体調整装置31と分配配管32とを連結する気体連結管33とで主に構成されている。
【0042】
気体調整装置31は、培養槽2に二酸化炭素を給気するとともに、培養槽2内で発生した酸素を排気する装置である。気体調整装置31には、二酸化炭素の給気と酸素の排気を制御する制御手段(図示省略)が設けられている。
【0043】
分配配管32は、図3に示すように、回収ステーション3の周囲にリング状に配設される管である。分配配管32は、気体連結管33を介して気体調整装置31に連結されている。また、分配配管32は、支持部34を介して回収ステーション3の側面に固定されている。
【0044】
分配配管32には、外側に向けて延設された分岐管35が形成されている。分岐管35は、培養槽2に対応して所定の間隔をあけて8個形成されている。各分岐管35の先端にはソケット36がそれぞれ形成されている。
【0045】
ソケット36は、図2に示す気体調整管14のプラグ14aが連結される部位である。ソケット36には、ストップ弁(図示省略)が形成されている。ソケット36にプラグ14aが連結されると流路が連通して気体が流通し、ソケット36からプラグ14aが引き抜かれるとストップ弁によってソケット36側の流路が遮断される。
【0046】
制御手段(図示省略)は、本実施形態では、二酸化炭素の供給と酸素の排気とを交互に又は並行して所定の時間で行うように設定されている。なお、具体的な図示はしないが、培養槽2に培養液のpHを計測するpH計、培養槽2内の温度を計測する温度計、光量を計測する光量子計、培養槽2内の酸素濃度を計測する酸素濃度計、培養槽2内の二酸化炭素濃度を計測する二酸化炭素濃度計等の計測器を少なくとも一つ設置して、制御手段は、これらの計測結果に基づいて、二酸化炭素の給気量及び給気のタイミングを制御したり、酸素の排気量及び排気のタイミングを制御したりしてもよい。
【0047】
微生物収集手段5は、図1に示すように、回収ポンプ41と、微生物貯留槽42と、分離槽24と微生物貯留槽42とを連結する回収管43とを有する。微生物収集手段5は、回収ステーション3で回収された微生物を収集する。
【0048】
回収ポンプ41は、微生物を圧送する動力源であって、回収管43に設置されている。回収管43は、分離槽24の側部と微生物貯留槽42とを連結する。なお、仕切り板24a及びフィルター25により、フィルター25で微生物を捕捉した後に、微生物が自重により分離槽24の側部から回収管43側に流れるようになっている。
【0049】
本実施形態では、回収ポンプ41と回収管43とで特許請求の範囲の「搬送装置」を構成しているが、これに限定されるものではない。搬送装置は、フィルター25で捕捉された微生物を微生物貯留槽42に搬送可能であれば他の形態であってもよい。
【0050】
次に、微生物の培養システム1を用いた微生物の培養方法について説明する。
微生物の培養方法では、微生物を培養する培養工程と、回収ステーション3の上に培養槽2を位置させる配置工程と、水位が下がった際に、培養槽2から微生物の回収を行う回収工程と、を行う。
【0051】
培養工程では、図1に示すように、微生物及び培養液Lが貯留された培養槽2を海Sに所定時間浮かべて微生物の培養を行う。培養槽2内の二酸化炭素及び酸素濃度の調整は、気体調整手段4によって行う。
【0052】
配置工程では、図2に示すように、所定時間培養を行った一つの培養槽2の気体調整管14をソケット36から外すとともに、連結ワイヤW1,W2を係留杭K1,K2からそれぞれ外す。そして、図5及び図6に示すように、この培養槽2を回収ステーション3のテーブル23の上方に移動する。より詳しくは、培養槽2の排水バルブ13が分離槽24の鉛直方向上方に位置するように移動する。
【0053】
配置工程は、満潮時など培養槽2を回収ステーション3の上方に移動した際に、培養槽2と回収ステーション3とが接触しない水位の時に移動するのが好ましい。移動した後は、培養槽2が漂流しないように、培養槽2の連結ワイヤW1を係留杭K9へ、連結ワイヤW2を係留杭K1へ係合させる。図6に示すように、培養槽2を移動した後は、回収ステーション3から離間して、テーブル23の上方で培養槽2が係留される。培養槽2を回収ステーション3の上方で係留したら、潮が引くまで待機する。
【0054】
回収工程では、培養槽2から培養液Lを排出して微生物を回収する。図7に示すように、潮が引いて海面S2の水位が下がると、培養槽2及び回収ステーション3の上部が海面S2から露出する。回収工程は、本実施形態では、海面S2が分離槽24よりも下に位置する時に行う。この際、培養槽2は、比較的柔らかい樹脂で形成されているため、すり鉢状に形成されたテーブル23に沿って略V字状に形状を変える。
【0055】
そして、培養槽2の排水バルブ13を開けると、重力によって微生物を含んだ培養液Lが分離槽24内に流下する。培養液Lがフィルター25を通過することにより、微生物はフィルター25に捕捉され、培養液Lはフィルター25内の中空部及び仕切り板24aの連通孔(図示省略)を介して海Sに排出される。
【0056】
また、フィルター25で捕捉された微生物は、その自重により仕切り板24a上を流下し、分離槽24の側部から回収管43側に排出される。そして、回収ポンプ41によって、陸地Gに設置された微生物貯留槽42に微生物が搬送される。
【0057】
培養槽2内が空になったら排水バルブ13を閉じて、新たに培養液L及び微生物を培養槽2の開口(図示省略)から注入する。そして、例えば満潮時など、培養槽2と回収ステーション3とが接触しない位置まで海面S2の水位が上昇したら、培養槽2を係留杭K1,K9から外し、元の位置に移動して、培養槽2を係留杭K1,K2(図1参照)に係留する。そして、新たに注入された培養液L及び微生物で培養工程を行うとともに、他の培養槽2に対して配置工程及び回収工程を行う。
【0058】
このように培養工程、配置工程、回収工程を水位の上下動に合わせて培養槽2ごとに順番に行うことで、微生物の培養及び回収を連続的に行うことができる。
【0059】
以上説明した微生物の培養システム1によれば、培養槽2は海Sに浮いているため、波や潮位の変化、風雨によって不規則に揺動する。これにより、培養槽2内の培養液Lが撹拌されるため、微生物に日光を均一に照射することができる。培養槽2の内面に微生物が付着すると微生物の培養効率が低下することがあるが、本実施形態では培養槽2が揺動するため、培養槽2の内面に微生物が付着することを防止できる。
【0060】
また、培養槽2は水面に浮いているため、培養槽2内の温度の上昇を抑えることができる。これにより、培養効率を高めることができる。また、培養槽2内の撹拌や冷却を自然の力を用いて行うため大がかりな動力や装置を必要としない。これにより、イニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。
【0061】
また、水位が下がり、回収ステーション3の上部に載置された培養槽2が水面から露出した際に、培養液Lの重力を利用して培養液Lを排出し、培養槽2から微生物を回収することができる。従来、培養槽2から微生物を回収する際は、培養槽2から培養液Lを排出するための大型のポンプ等が必要であったが、本実施形態では水位の上下動で発生した落差を利用するため、コストを大幅に削減できる。また、培養槽2を回収ステーション3の上方に移動させた後は海面S2が下がるのを待つだけであるため、回収作業も容易である。
【0062】
また、複数の培養槽2を設けることで、培養の大容量化を図ることができるとともに、培養工程と回収工程を各培養槽2ごとに連続的に行うことができるため、生産効率を高めることができる。
【0063】
また、培養槽2を回収ステーション3に移動する際は、海面S2上で行うため、小さい力で移動させることができる。また、回収ステーション3は、本実施形態では分離槽24に向けて下方に傾斜しているため、回収工程の際に培養液Lを効率よく排出させることができる。
【0064】
また、気体調整手段4を備えているため、培養槽2内の気体を培養に適した条件で調整することができる。また、微生物収集手段5を備えているため、回収ステーション3で回収した微生物を容易に収集することができる。
【0065】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態に係る微生物の培養システム1Aは、図8に示すように、培養槽2から排出した培養液Lを、中身が空の培養槽2aへ搬送して再利用する点で第一実施形態と相違する。第二実施形態に係る説明では、第一実施形態との相違点を中心に説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0066】
図8は、第二実施形態に係る回収工程を示す側断面図である。図8に示すように、係留杭K9には、中身が空の培養槽2aが係留されている。第二実施形態に係る回収ステーション3は、脚部21,22と、テーブル23と、分離槽24と、移送パイプ52と、ポンプ53と、を主に有する。中身が空の培養槽2aには、連結ホース54が接続されてる。
【0067】
テーブル23は、第一実施形態と同様にすり鉢状に形成されている。テーブル23の中央には分離槽24が形成されており、分離槽24の内部には第一実施形態と同様に、仕切り板24a及びフィルター25が形成されている。
【0068】
移送パイプ52は、分離槽24の下端に接続されたパイプである。移送パイプ52の先端にはソケット36が形成されており、中間部分にはポンプ53が設置されている。ポンプ53は、脚部21に取り付けられている。
【0069】
連結ホース54は、中身が空の培養層2aの上部に接続された可撓性のホースである。連結ホース54の先端に形成されたプラグ54aは、移送パイプ52のソケット36に連結されている。移送パイプ52、ポンプ53及び連結ホース54によって、ろ過後の培養液Lを中身が空の培養槽2aへ搬送する。移送パイプ52、ポンプ53及び連結ホース54とで、特許請求の範囲の「移送手段」を構成している。
【0070】
第二実施形態に係る微生物の培養方法では、微生物を培養する培養工程と、回収ステーション3の上に培養槽2を位置させる配置工程と、水位が下がった際に、培養槽2から微生物の回収を行う回収工程と、培養槽2から排出された培養液Lを中身が空の培養槽2aへ搬送する移送工程と、を行う。培養工程、配置工程、回収工程は第一実施形態と同等であるため説明を省略する。
【0071】
移送工程では、回収工程で排出された培養液Lを中身が空の培養槽2aに搬送する。具体的には、移送工程では、ポンプ53を作動させて、移送パイプ52及び連結ホース54を介して微生物と分離された培養液Lを中身が空の培養槽2a内へ搬送する。
【0072】
第二実施形態では、第一実施形態と同等の効果に加えて、以下の効果を奏する。培養槽2で培養された培養液Lには、栄養物質や未成長の微生物が残存している。第二実施形態によれば、排出された培養液Lを搬送して新たな培養工程で再利用することができる。このため、栄養物質や未成長の微生物を新たな培養で利用できるため、培養効率を高めることができる。また、培養液Lを再利用することでコストを削減できる。なお、移送工程では、培養槽2内の培養液Lを全て搬送させることが好ましいが、培養液Lの一部を搬送させるだけでもよい。
【0073】
また、第二実施形態では移送工程でポンプ53を設けたが、これに限定されるものではない。例えば、潮位差が大きく、中身が空の培養槽2aの上部の位置が、分離槽24の下部よりも低い場合は、培養液Lを重力流で搬送してもよい。これにより、生産性をさらに向上させることができる。
【0074】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態に係る微生物の培養システム1Bは、図9に示すように、主に回収ステーション3Bの構造が第一実施形態と相違する。第三実施形態に係る説明では、第一実施形態との相違点を中心に説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0075】
図9は、第三実施形態に係る回収工程を示す図であって、(a)は側断面図であり、(b)は平面図である。図9の(a)に示すように、第三実施形態に係る培養槽2Bの排水バルブ13Bは、培養容器11の端面の下部において、側方に張り出すように設置されている。
【0076】
回収ステーション3Bは、脚部21,22と、テーブル23Bと、分離槽24Bと、ストッパー板61と、を有する。テーブル23Bは、図9の(a)及び(b)に示すように、平面視矩形状を呈し、一端側が下方に傾斜している。回収ステーション3の周囲には、培養槽2を係留するための係留杭K1〜K8が設置されている。回収ステーション3Bでは、例えば7個の培養槽2Bを係留できるようになっている。
【0077】
分離槽24Bは、上方が開放した有底筒状の容器であって、脚部22の外側に設置されている。分離槽24Bの底部には、開口26が形成されている。分離槽24Bの内部には、仕切り板24aとフィルター25とが形成されている。
【0078】
ストッパー板61は、テーブル23Bの端部に立設する板である。ストッパー板61は、培養槽2Bから微生物を回収する際に、培養槽2がテーブル23Bから落ちないようにするための部材である。ストッパー板61は、分離槽24Bの位置に対応して、培養槽2の端部を受け止められる程度の大きさで形成されている。ストッパー板61の下側には、培養槽2の排水バルブ13Bを逃がすための切欠き61aが形成されている。
【0079】
第三実施形態に係る微生物の培養方法では、微生物を培養する培養工程と、回収ステーション3の上に培養槽2を位置させる配置工程と、水位が下がった際に、培養槽2から微生物の回収を行う回収工程と、を行う。培養工程は第一実施形態と同等であるため説明を省略する。
【0080】
配置工程では、培養槽2Bの一つを係留杭K1から外して、回収ステーション3Bの上に移動する。配置工程は、満潮時など培養槽2Bを回収ステーション3Bの上方に移動した際に、培養槽2Bと回収ステーション3Bとが接触しない水位の時に移動するのが好ましい。この際、培養槽2Bが漂流しないように、培養槽2Bの連結ワイヤW1を係留杭K1へ、連結ワイヤW2を係留杭K8へ係合させる。培養槽2Bを係留したら、潮が引くまで待機する。
【0081】
回収工程では、培養槽2Bから培養液Lを排出して微生物を回収する。図9に示すように、潮が引いて海面S2の水位が下がると、培養槽2Bが海面S2から露出する。本実施形態では、回収工程は、海面S2が分離槽24Bよりも下に位置する時に行う。培養槽2Bは、ストッパー板61があるため、テーブル23Bから落下しない。この際、排水バルブ13Bの先端を、ストッパー板61の切欠き61aに挿通させて分離槽24Bの上方に位置させる。
【0082】
培養槽2Bの排水バルブ13Bを開けると、重力によって微生物を含んだ培養液Lが分離槽24B内に流下する。培養液Lがフィルター25を通過することにより、微生物はフィルター25に捕捉され、培養液Lは開口26から海Sに排出される。
【0083】
また、捕捉された微生物は、その自重により仕切り板24aの上を流下し、分離槽24Bの側部から回収管43側に排出される。そして、回収ポンプ41によって、陸地Gに設置された微生物貯留槽42に微生物が搬送される。
【0084】
培養槽2B内が空になったら排水バルブ13Bを閉じて、新たに培養液L及び微生物を培養槽2の開口(図示省略)から注入する。そして、例えば満潮時など、培養槽2Bと回収ステーション3Bとが接触しない位置まで海面S2の水位が上昇したら、培養槽2Bを係留杭K1,K8から外し、元の位置(図9の(b)の点線で示す位置)に移動して、培養槽2Bを係留杭K1に係留する。そして、新たに注入した培養液L及び微生物に対して培養工程を行う。
【0085】
以上説明した第三実施形態によっても第一実施形態と同等の効果を奏する。また、回収ステーション3の表面の形状は、第一実施形態ではすり鉢状としたが、本実施形態のように平坦にして傾斜させてもよい。
【0086】
なお、第三実施形態に、第二実施形態で説明した移送パイプ52及びポンプ53を設けて、微生物と分離した培養液Lを中身が空の培養槽に搬送して再度利用できるようにしてもよい。
【0087】
[変形例]
図10は、培養槽の変形例を示す斜視図である。図10に示すように、培養槽2Cの形状を扁平な直方体としてもよい。培養槽2Cは、透明であって、比較的柔らかい樹脂で形成されている。培養槽2Cの大きさは特に制限されないが、例えば、縦0.5m、横2.0m、奥行き50.0mで形成されている。培養槽2Cは、扁平な形状をしているため海面S2の動きに追従しやすい。これにより、培養液Lの撹拌効率を高めることができる。また、培養槽2Cは、扁平な形状をしているため、日光を均一に取り入れやすい。
【0088】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では培養槽2を海Sに浮かべる場合を例示したが、川、湖、池など自然環境下であって、水位の変化がある場所に浮かべてもよい。
【0089】
また、図1の微生物の培養システム1を複数個設けてもよい。これにより、微生物の収集量を増やすことができる。また、微生物収集手段5を設けずに、フィルター25で捕捉された微生物を直接回収してもよい。また、培養槽2の培養液の養分を調整する養分の調整装置を設けてもよい。また、培養槽2内に還元剤を入れて、酸素濃度を調整してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 微生物の培養システム
2 培養槽(バイオリアクター)
2a 中身が空の培養槽
3 回収ステーション
4 気体調整手段
5 微生物収集手段
11 培養容器
12 係留タグ
13 排水バルブ
14 気体調整管
14a プラグ
23 テーブル
24 分離槽
25 フィルター
31 気体調整装置
32 分配配管
33 気体連結管
34 支持部
35 分岐管
36 ソケット
41 回収ポンプ
42 微生物貯留槽
43 回収管
52 移送パイプ
53 ポンプ
54 連結ホース
G 陸地
S 海

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物及び培養液を貯留する袋状の培養槽と、
前記培養槽で培養した前記微生物を回収する回収ステーションと、を有し、
前記培養槽は、海など水面に浮かべられており、
前記回収ステーションは、その上部が水位の変化によって露出又は水没するように水中に設置されており、
水位が下がり、前記回収ステーションの上部に載置された前記培養槽が水面から露出した際に、前記微生物を含んだ前記培養液をこの培養液の重力で前記培養槽から排出しつつ、前記微生物の回収を行うことを特徴とする微生物の培養システム。
【請求項2】
前記培養槽は、排水バルブを備え、
前記回収ステーションは、前記排水バルブよりも下に設けられた分離槽を備え、
前記分離槽は、フィルターを備え、
前記排水バルブから排出された微生物を含んだ培養液を前記フィルターに通し、前記フィルターで前記微生物を回収することを特徴とする請求項1に記載の微生物の培養システム。
【請求項3】
前記回収ステーションの表面は、前記分離槽に向けて下方に傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の微生物の培養システム。
【請求項4】
前記分離槽で分離された前記培養液を再利用するための移送手段を備えていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の微生物の培養システム。
【請求項5】
前記微生物を貯留する微生物貯留槽と、
前記回収ステーションで回収された前記微生物を前記微生物貯留槽へ搬送する搬送装置と、を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の微生物の培養システム。
【請求項6】
前記培養槽は、この培養槽内の気体を調整する気体調整手段と連通していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の微生物の培養システム。
【請求項7】
微生物及び培養液を貯留する袋状の培養槽を海などの水面に浮かべて培養する培養工程と、
水中に設置された回収ステーションの上に前記培養槽を位置させる配置工程と、
水位が下がり、前記回収ステーションの上部に載置された前記培養槽が水面から露出した際に、前記微生物を含んだ前記培養液をこの培養液の重力で前記培養槽から排出しつつ、前記微生物の回収を行う回収工程と、を含むことを特徴とする微生物の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−65603(P2012−65603A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213868(P2010−213868)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】