説明

微生物の数または量を測定する方法および装置

【課題】食肉や魚介類の表面に付着する生菌数を簡便かつ迅速に検出する。
【解決手段】本願発明は、細菌の生体内に存在するATP量を利用して細菌数を推定するものであって、食肉等の生鮮食料品の表面に付着する細菌によるATP量とKM吸光度スペクトルとの間に正の相関が認められることに鑑みて、270±5nmの光を生鮮食料品の表面に照射し、そのKM吸光度スペクトルを用いて演算によって付着生菌数を推定するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物の数または量を測定する方法および装置に係り、とくに被測定物の表面に付着している細菌等の微生物の数または量を測定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品を貯蔵あるいは販売する際に、その表面に細菌が付着すると、この細菌によって食品が汚損され、鮮度が低下し、やがて腐敗する。従って、生鮮食品の表面に細菌がどの程度付着するかを知ることは、生鮮食品の鮮度、あるいは腐敗の状況を知る上で極めて重要である。
【0003】
一般に生鮮食料品は、その内部から浸出する液状成分がこの生鮮食品の表面に付着するとともに、この表面の液状部分に大気中に存在する細菌が侵入し、増殖することによって細菌で食品の表面が汚損される。そして菌の数が増加するとともに、やがて細菌は食品の内部に浸入し、その組織を破壊し、腐敗を進行させる。微少な細菌の付着は、食品等に対して旨みを付与することも考察されるものの、細菌によって、食品に有害性を与え、あるいはまたその腐敗を早めることになる。
【0004】
従来の食品の表面に付着する細菌の数の測定は、次のようにして行なわれていた。すなわち培養法の場合には、食品の表面を綿棒によって拭取り、仮に食品の表面に細菌が存在していた場合には、この細菌を綿棒の綿の中に移し、そしてこの綿棒を滅菌溶媒中に浸漬し、これによって溶媒中に採取した細菌を導く。そして細菌が混入した溶媒を培地で培養する。例えば標準寒天培地を使う場合には、この培地中に、上記細菌を含むと思われる溶媒を滴下し、35℃、48時間培養を行なう。そしてこの後に、光学顕微鏡下において、所定の倍率で、一定の範囲内における細菌の数をカウントし、これによって細菌の数または量を測定する。
【0005】
このような従来の培養法による食品の表面に付着した細菌の数あるいは量を測定する方法は、食品の表面に付着した細菌を綿棒で拭取って滅菌溶媒中に浸漬し、この溶媒を培地に滴下して培養し、そして光学顕微鏡によって測定するものであるが、操作に時間がかかるばかりでなく、その操作も面倒である。従って、例えばスーパーマーケット等において販売する食品について、貯蔵あるいは販売される食品が細菌にどの程度汚損されているか、あるいはまた細菌によって腐敗が進行しているかどうかを簡便であって確実にかつ迅速に知ることができない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−534336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明の課題は、迅速に被測定物の表面に付着している細菌等の微生物の数または量を測定することができる測定方法および測定装置を提供することである。
【0008】
本願発明の別の課題は、被測定物の表面に付着している細菌等の微生物の数または量を、極めて簡単な操作によって測定する方法および装置を提供することである。
【0009】
本願発明の別の課題は、食品と接する工具、道具、容器、装置等であって、これらの工具、道具、容器、装置の食品と接する部位に付着している細菌の数または量を迅速かつ簡便に測定する方法および装置を提供することである。
【0010】
本願発明の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想、およびその実施の形態によって明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の主要な発明は、被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、
前記付着している微生物中に存在するATP(Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)の量に応じた分光特性を利用してATP量を求め、該ATP量から前記微生物の数または量を推定することを特徴とする微生物の数または量を測定する方法に関するものである。
【0012】
ここで、前記被測定物が食品であるとともに、前記微生物が細菌であって、食品に付着した細菌の数または量を測定してよい。また前記被測定物が食品と接する工具、道具、容器、装置であって、該工具、道具、容器、装置の食品と接する部位に付着している細菌の数または量を測定してよい。また前記分光特性が被測定物の表面の反射光、透過光、または吸収光による分光特性であってよい。また前記分光特性がピーク値を示す波長の光を照射してよい。また紫外領域の波長の光を照射してよい。また270nm±5nm、285±5nm、300±5nm、320±5nm、380±5nmの何れかの波長の光を照射してよい。
【0013】
本願の別の主要な発明は、被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、
前記被測定物の表面に付着した微生物層による前記被測定物に対する酸素供給量の減少に伴う被測定物の分光特性の変化を利用して前記微生物の数または量を推定することを特徴とする微生物の数または量を測定する方法に関するものである。
【0014】
ここで、前記被測定物が食肉であって、前記食肉の表面に付着した微生物が形成する微生物層によって前記食肉の表面への酸素供給量が減少すると食肉由来のオキシミオグロビンが酸化して生成されたメトミオグロビンが還元されてミオグロビンに変化し、該ミオグロビンの分光特性の変化を利用してよい。また578±5nmの波長の光を照射してよい。
【0015】
測定装置に関する主要な発明は、所定の波長域の光を投射する発光手段と、
前記発光手段が発した光であって被測定物の表面に付着された微生物の数または量に応じて光強度が変更される等によって変調された光を受光する受光手段と、
前記受光手段による光の強度から被測定物の表面に付着している微生物の数または量を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算された値を出力する出力手段と、
を具備する微生物の数または量を測定する測定装置に関するものである。
【0016】
ここで、被測定物の種類を入力する入力手段を有してよい。また前記演算手段は、被測定物の種類に応じた特性値を記憶しているデータベースを参照して微生物の数または量を演算してよい。また付着する微生物の数または量が測定される被測定物の表面の微生物が付着していない状態での前記発光手段による光の投射に伴う分光特性を予め測定するとともに、測定された分光特性に応じて補正を行なってよい。
【発明の効果】
【0017】
本願の主要な発明は、被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、付着している微生物中に存在するATP(Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)の数または量に応じた分光特性を利用してATP量を求め、該ATP量から微生物の数または量を推定するようにしたものである。
【0018】
従ってこのような微生物の数または量を測定する方法によると、被測定物の表面に付着している細菌等の微生物を採取し、これを培地で培養することなく、単に被測定物の表面に光を当て、表面に付着している微生物中に存在するATPによる変調の分光特性を利用してATP量を求めるとともに、このATP量から微生物の数または量を推定することが可能になり、極めて短時間でしかも簡便な方法によって被測定物の表面に付着する微生物を測定することが可能になる。
【0019】
本願の別の主要な発明は、被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、被測定物の表面に付着した微生物層による被測定物に対する酸素供給量の減少に伴う被測定物の分光特性の変化を利用して微生物の数または量を推定するようにしたものである。
【0020】
従ってこのような微生物の数または量を測定する方法によると、被測定物、とくに食肉の表面に付着した微生物が形成する微生物層遮断に伴う食肉に対する酸素供給量の減少によって、食肉由来のオキシミオグロビンが酸化して生成されたメトミオグロビンがさらに還元され、これによってミオグロビンを生ずる。このようなミオグロビンは特有の分光特性を示し、この分光特性を用いて上記食肉の表面を覆う微生物層の厚さから微生物の数または量を推定することが可能になり、とくに食肉の鮮度の低下あるいは汚損の状態をより確実に測定することが可能になる。
【0021】
測定装置に関する発明は、所定の波長域の光を投射する発光手段と、発光手段が発した光であって被測定物の表面に付着された微生物の数または量に応じて強度が変化する等によって変調された光を受光する受光手段と、受光手段による光の強度から被測定物の表面に付着している微生物の数または量を演算する演算手段と、演算手段によって演算された値を出力する出力手段と、を具備するようにしたものである。
【0022】
従ってこのような微生物の数または量を測定する測定装置によると、発光手段によって所定の波長域の光を被測定物の表面に照射し、表面に付着した微生物の数または量に応じて強度が変化する等によって変調された光を受光してその強度から被測定物の表面に付着している微生物の数または量を演算して推定することが可能になり、この演算によって得られた推定値を出力手段で出力し、これによって被測定物の表面に付着する微生物の数または量を瞬時に測定することができ、極めて簡便でかつ迅速な方法による微生物の測定を可能にする測定装置を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ATPの分子構造を示す構造式である。
【図2】被測定物の表面に細菌が発生する状態を説明するための要部拡大断面図である。
【図3】理論を確立する実験の流れ図である。
【図4】保持時間に対するATP量の変化を示すグラフである。
【図5】保持時間に対する細菌数の変化を示すグラフである。
【図6】ATPの量と細菌の数との相関関係を示すグラフである。
【図7】照射光に対する分光反射特性を示すグラフである。
【図8】図7に示す反射特性を吸光特性に変換し、保持時間0hの吸収特性を差引いたグラフである。
【図9】吸光度とATP量との相関関係を示すグラフである。
【図10】照射光に対する反射率二次微分値の変化を示すグラフである。
【図11】318nmの反射率二次微分値とATPの量との相関関係を示すグラフである。
【図12】578nmの反射率二次微分値と一般生菌数との相関関係を示すグラフである。
【図13】鮮度測定装置の構成を示す正面図である。
【図14】同鮮度測定装置の使用状態の斜視図である。
【図15】鮮度測定装置のシステム構成を示すブロック図である。
【図16】鮮度測定装置による測定動作を示すフローチャートである。
【図17】補正のためのキャリブレーションデータの保持動作を示すフローチャートである。
【図18】キャリブレーションデータでの補正を含む鮮度測定装置による測定動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。本願発明の第1の実施の形態は、ATP(Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)を用いて肉や魚あるいは野菜の表面、あるいは上記の食品と接する工具、道具、容器、装置の食品と接触する部位に付着する細菌等の微生物の数または量の測定を行なうものである。ATPは、通常生体内に存在し、植物や動物、微生物細胞の機能を維持するのに必要なエネルギーを放出する物質であって、このATPが分解することによってエネルギーを放出する。すなわちATPは、分子量が507.2の高エネルギー物質であって、生物の種々の代謝活動に関与している。図1に示すリボースにエステル結合しているリン酸の数によって、変化する。
【0025】
リン酸が3つのATPは、その内の1つのリン酸を失うことによってADP(Adenosine diphosphate:二リン酸)に変化し、さらにもう1つリン酸を失うと、AMP(Adenosine monophosphate:一リン酸)になる。そしてATPからADPになるときに7.3Kcalのエネルギーを放出する。このようなエネルギーが、細胞の機能を維持するために用いられる。
【0026】
一方でATP量によって、微生物の発光が変化することが知られている。この発光の変化は、ルシフェリン・ルシフェラーゼ反応である。これはホタルの発光と類似のものであって、ATP量に依存する反応である。ルシフェリンとATPが反応すると、アデニル酸ルシフェリンとなり、このアデニル酸ルシフェリンと酸素が、次に示す式のように、ルシフェラーゼという酵素の存在下で酸化的脱炭酸反応によって分解され、反応の過程によって得られるエネルギーの一部が発光という反応として現れる。従ってこの発光を定量することによってATPの定量を行なうことができる。本願発明は、決定されるATP量とATPの分光特性から、決定するATP量が、微生物の数または量と対応することを基本原理とする。なお、発光が細菌等の微生物のみならず、バックグラウンドである食品等のATPに由来するものが含まれている場合には、バックグラウンド由来のATPによる発光量を除くことにより、微生物由来のATP量を測定できる。
【0027】
【化1】

【0028】
次に本願発明の理論を確立するための実験について説明する。この実験においては、図2に示すように、被測定物20として、豚肉を用いている。ここで図2Aに示す豚肉20は、時間の経過とともに内部から肉汁35が浸出し、これによって豚肉20の表面に液膜を形成する。そして空気中の細菌36が肉汁35に付着し、やがて細菌35が増殖を始めると、被測定物20である豚肉の表面が次第に細菌36によって汚損され、やがてこの細菌36が豚肉20の内部に浸入してその腐敗を促す。
【0029】
本実験においては、日本産の豚肉であって、屠殺3日後の豚肉を入手し、この豚肉の筋を除いて適当な大きさに切り、滅菌シャーレに入れて15℃で保存している。そして保存後0h(時間)後、24h後、48h後、72h後、84h後、96h後の6種類の試料を作成した。なお実験においては、各種類について4個ずつの種類を作成している。
【0030】
このような試料について、図3に示す実験を行なっている。すなわちまず各種類の試料について、分光器45によって反射スペクトルを得ている。またそれぞれの試料について、シャーレに入れたままの状態でその表面を綿棒で拭取っている。綿棒は、滅菌された超純水で予め湿らせておき、4cm×4cmの範囲を縦、横それぞれを2回ずつ拭取って細菌の採集を行なっている。そしてこの綿棒の先端を殺菌済のハサミで切落とし、9ccの滅菌水の中に入れて十分に攪拌し、これによって生菌懸濁液の調製を行なった。そしてこのような生菌懸濁液のサンプル溶液100μlの発光量をルミノメータによって測定し、これによってATP量を得た。
【0031】
また上記の生菌懸濁液中の細菌数をカウントするために、サンプル溶液1ccを培養プレートに滴下し、この後に35℃で48時間培養した。そしてその後に光学顕微鏡で生菌数をカウントして得ている。すなわちこの実験では、上記6種類の豚肉について、ATP量と、生菌数と、反射スペクトルの3つのデータを得ている。
【0032】
図4は、上記6種類の豚肉についてルミノメータによってATP量を定量したものである。すなわち保存時間が0h後、24h後、48h後、72h後、84h後、96h後のそれぞれについて、ルミノメータで得られたATP量をグラフで示している。このグラフから明らかなように、保存時間72hまでは、指数関数的にATP量が増加することが確認されている。
【0033】
図5は、保存時間が0h後、24h後、48h後、72h後、84h後、96h後の培養プレート上における培養生菌数の変化を示している。このデータからも明らかなように、保存時間が72hまでは、付着生菌数がほぼ指数関数的に増加し、その後はほぼ一定の値に推移することが確認されている。この変化は、図4に示すATP量の変化とほぼ同様の変化である。
【0034】
図6は、ATP量を横軸にとり、生菌数を縦軸にとったときのATP量と生菌数との相関を調べた結果を示している。ここでATPの増加に従って、生菌数が直線的に増加することが確認されている。そして両者の相関係数rは、r=0.98になっており、非常に高い相関係数である。ここでは、保存期間が6種類の豚肉について、それぞれ4個ずつの試料を用いたデータであって、n=4×6=24のデータである。
【0035】
次に分光分析による吸光特性について説明する。図7は、図3に示す分光器45によって光を照射したときの反射スペクトルを示している。ここで、反射率よりも吸光度の方が理解し易いので、クベルカムンクの式によって、相対拡散反射率をKM(クベルカムンク)吸光度に変換した。ここでクベルカムンクの式とは、次の式を言う。Rを相対反射率とし、Sを散乱係数とし、Kを吸収係数(濃度に比例)とすると、クベルカムンクの式は、次のようになる。
K/S=(1−R)/2R
ここで分光器のデータを直接用いると、バックグラウンドを構成する豚肉本体の情報が含まれているので、解析しづらいために、バックグラウンドによる反射量を取除くことが好ましい。図8は、保存時間0h後の豚肉のKM吸光度をバックグラウンドデータとして、24h後、48h後、72h後、84h後、96h後のデータからそれぞれ差引いたKMスペクトルであって、波長に対する吸収量を示している。このデータから明らかなように、波長が270nmにおいて、吸収量が高いピークを示していることが確認される。
【0036】
そこで、波長がピーク値の270nmの近傍であって268nmにおける吸光量とATP量との相関関係を調べたところ、図9に示す値が得られ、比較的高い相関があることが確認された。すなわち、波長が270nmの前後の、光吸収量によってATP量が推定できることが確認されている。
【0037】
図10は、紫外領域から可視領域までの波長域の光を、保存時間0h後、24h後、36h後、48h後、60h後、および72h後のそれぞれの保存時間の豚肉に対して照射したときの、反射率の二次微分値の変化を示している。この二次微分値の変化から、上記の実験値以外に、318nmからの波長域で高いピークを検出している。このときの反射率二次微分値に対するATP量の相関関係を調べたところ、図11に示すように、相関係数r=0.94の値が得られた。従って決定係数R=0.89の値となる。従ってこのような高い相関係数を有する318nm付近の光を照射することによっても、ATP量、およびこのATP量を経由する一般生菌数の推定が可能になる。
【0038】
このように微生物の数または量を推定するための波長としては、上述の如く、270nm±5nm、285±5nm、300±5nm、320±5nm、380±5nmの光を用いることが好ましいことが実験によって見出された。その領域を外れると、測定値に誤差を生じ、あるいはまたKM吸光量とATPの量との間の相関が低くなることになり、これによって誤差を生ずる。
【0039】
以上の実験から明らかなように、豚肉の表面付着細菌中のATPに特有の吸光波長は、270nm付近、285nm付近、300nm付近、320nm付近、380nm付近であった。また豚肉表面の細菌のATP量と付着生菌数との間に高い相関関係が見られた。またKM吸光度スペクトルと表面ATP量との間に正の相関性が認められた。従って拡散反射スペクトルからATP量が予測されるとともに、ATP量から一般生菌数を予測するというプロセスの妥当性が確認されている。
【0040】
次に第2の実施の形態について説明する。上記図10に示す分光特性において、とくに可視領域の578nmにおいて、上記318nmのピーク値よりもさらに高いピーク値を示している。ここでとくに図10は、上述の如く、豚肉表面の分光反射スペクトルの二次微分値を示しており、とくに578nmにおいて、二次微分値が0h後、24h後、36h後、48h後、60h後、72h後の順に小さくなっている。保存時間が上記の各時間の場合における二次微分値と一般生菌数との対応を見た結果が図10に示される。二次微分値の値が小さくなるとともに一般生菌数が増加し、相関係数がr=−0.92の値になっている。従ってその決定係数R=0.84の値になる。すなわち極めて高い値を示した。また分光特性において、可視領域は紫外領域よりも変化が著しいことが、図10のピークの変化から明らかになっている。
【0041】
紫外領域ではない可視領域の578nmに高い相関が認められたのは、次のような理由によると考えられる。すなわち578nmは、ミオグロビンとその誘導体に特有の吸収帯である。豚肉に由来するミオグロビンの変化と微生物の増殖とによって、照射光に対する反射率が変化することを捉えている。そのメカニズムは次の通りである。
【0042】
(1)スライス直後の豚肉においては、ミオグロビンはオキシミオグロビンとして存在している。オキシミオグロビンは鮮赤色を示す。
【0043】
(2)オキシミオグロビンが、酸素の存在下で酸化されると、メトミオグロビン(褐色)に変化する。そしてこのときに微生物が増殖すると、
(3)豚肉の表面に微生物層が形成される。この微生物層によって豚肉表面への酸素の供給が不足するために還元反応を生じ、メトミオグロビンがミオグロビンに変化する。ミオグロビンは暗紫色を示す。
【0044】
ミオグロビンの変化が微生物の増殖を的確に反映していることが、図10および図12に示す相関データから明らかであることが理解される。すなわち、578nmで、反射率二次微分値(反射率自体も)と一般生菌数とが高い相関を示すことが明らかになった。
【0045】
上述の第1の実施の形態および第2の実施の形態の原理に基づく微生物の数または量の測定を行なう具体的な装置は、図13〜図15に示される。この装置は図13および図14に示すようにキャビネットがほぼ直方体状をなす本体10を備え、この本体10には下方に延びるグリップ11が取付けられている。そして本体10の先端部に、前方に突出するように発光器12が取付けられる。そしてこの発光器12の下側であって本体10の前面側には受光器13が取付けられている。また本体10の側部には表示パネル15と、入力釦16とが取付けられている。これに対して本体10の上面には出力表示パネル18が設けられ、この出力表示パネル18によって、受光器13が受光した反射光を基にして、微生物の数または量の結果を表示するようにしている。
【0046】
図14に示すように、このような測定装置は、本体10の下側のグリップ11を手で持って、測定釦21を押して発光器12から所定の波長域の光を豚肉等の被測定物20に対して照射し、被測定物からの反射変調光を受光器13によって検出するとともに、その受光量から演算処理によって、微生物の数または量の推定を行なうようにしている。
【0047】
図15はこのような測定装置のシステム構成を示しており、発光器12は駆動部24に接続されており、この駆動部24によって発光器12が駆動されて所定の波長域の光を発するようにしている。そして駆動部24は発光制御部25によって制御される。また発光制御部25は制御用CPU26によって制御されるようになっている。上記制御用CPU26には入力操作部27が接続されている。なお本体10の側面に設けられている入力釦16は入力操作部の一部を構成している。
【0048】
これに対して受光器13は検出部28に接続されており、この受光器13が受光した光の検出を行なう。検出部28は演算用CPU29に接続される。そして演算用CPU29はメモリ30と接続されている。メモリ30はデータベースを保持しており、このデータベース中に、各種の生鮮食品に関するATP量またはミオグロビンの変化と貯蔵時間との関係を示すデータを保持している。また上記演算用CPU29は表示駆動部31と接続されている。この表示駆動部31が出力表示パネル18から成る表示部を駆動するようにしており、この表示部18によって、測定された微生物の数または量の出力表示を行なう。
【0049】
図16はこのような測定装置による測定の動作をフローチャートによって示している。実際に測定を行なう場合には、まず本体10の入力操作部27の入力釦16によって測定しようとする生鮮食品の種類を入力する。食品の種類としては、肉類や魚類等の動物性食品あるいは野菜等の植物性食品の種類である。そしてこのような被測定物の種類を入力したならば、この後にグリップ11に設けられている測定釦21を押圧する。するとこのような測定釦21の押圧によって、発光制御部25が駆動部24を介して発光器12を作動させ、この発光器12によって所定の波長域の光を発する。
【0050】
このような光が、図14に示すように、被測定物に照射される。従って被測定物20からの変調光を受光器13が検出する。そして受光器13が受光した光の反射強度が検出部28で検出されるとともに、演算用CPU29はデータベース29によって予め登録されている各種の食品の種類に応じたデータベースから、対応する測定物のデータを読出し、このようなデータに基づいて被測定物の表面に付着する細菌の数または量の算出を行なう。そしてこのような微生物の数または量の算出結果は、表示駆動部31を介して、表示部18によって表示される。
【0051】
図16に示す一連の動作は、とくに検出光の照射以降は、ほぼ瞬時に達成されるために、極めて短時間で被測定物の微生物の数または量の測定が行なわれることになる。またこのような測定は、演算用CPU29と接続されているメモリ30に保持されているデータベースに取込まれたデータの種類に応じて、各種の動物性食品や植物性食品の細菌による汚染度の測定を行なうことができ、極めて広い範囲の微生物の数または量の測定が可能になる。しかも微生物の数または量の測定の際に、図14に示すように、被測定物に対して発光器12から単に光を極めて短時間照射するだけであるから、被測定物20が変質することがなく、被測定物を測定後に廃棄する必要がなくなる。
【0052】
図17および図18は、キャリブレーションデータを用いて補正を行なうようにした演算動作を示すものである。この場合には図17に示すように、無菌の対象物に対して検出光を照射するとともに、反射光を検出する。そして反射強度の演算を行ない、反射強度の演算値を、キャリブレーションデータとして、メモリ30に保持しておく。
【0053】
次に測定の際に、図18に示すように、キャリブレーションデータを用いて補正する。すなわち被測定物の種類を入力し、検査光を照射し、反射光を検出するとともに、反射強度の演算を行なう。そしてこの後に、図17に示す手順で取得しているキャリブレーションデータであって、メモリ30に保持されているデータを用いて補正を行なう。そしてこの後にデータベースを参照し、生菌数の算出を行ない、算出結果を表示部18で表示する。
【0054】
以上本願発明を図示の実施の形態によって説明したが、本願発明は上記実施の形態によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。
【0055】
例えば上記実施の形態は、食用の豚肉の表面に付着する細菌数を求める場合について利用しているが、本願発明は、その他の食品、例えば魚や野菜、あるいは果物の表面に付着した細菌の測定に用いることも可能である。また本願発明は、食品に接触する工具、道具、容器、装置等の付着細菌数の検出に用いることも可能である。例えばスーパーマーケット等の販売店において、食品を加工するための包丁やまな板、陳列ケース等の表面に付着する細菌数の測定に用いることができる。あるいはまた食品の販売に供される容器の表面に付着する細菌数の検出に用いることも可能である。あるいはまた、屠殺場等における食品の処理に用いられる装置の食品と接触する部位の細菌数の検出に用いることができる。さらにはまた、医療機関等において、ドアの取手、引き手、水道の蛇口のコック、その他の部位に付着する細菌数を検出するのに用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明は、食肉や魚類等の生鮮食品の表面に付着する細菌の数の検出に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 本体
11 グリップ
12 発光器
13 受光器
15 表示パネル
16 入力釦
18 出力表示パネル
20 被測定物
21 測定釦
24 駆動部
25 発光制御部
26 制御用CPU
27 入力操作部
28 検出部
29 演算用CPU
30 メモリ
31 表示駆動部
32 表示部
35 肉汁
36 細菌
41 ルミノメータ
43 培養プレート
45 分光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、
前記付着している微生物中に存在するATP(Adenosine triphosphate:アデノシン三リン酸)の量に応じた分光特性を利用してATP量を求め、該ATP量から前記微生物の数または量を推定することを特徴とする微生物の数または量を測定する方法。
【請求項2】
前記被測定物が食品であるとともに、前記微生物が細菌であって、食品に付着した細菌の数または量を測定することを特徴とする請求項1に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項3】
前記被測定物が食品と接する工具、道具、容器、装置であって、該工具、道具、容器、装置の食品と接する部位に付着している細菌の数または量を測定することを特徴とする請求項1に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項4】
前記分光特性が被測定物の表面の反射光、透過光、または吸収光による分光特性であることを特徴とする請求項1に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項5】
前記分光特性がピーク値を示す波長の光を照射することを特徴とする請求項4に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項6】
紫外領域の波長の光を照射することを特徴とする請求項5に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項7】
270±5nm、285±5nm、300±5nm、320±5nm、380±5nmの何れかの波長の光を照射することを特徴とする請求項5または6に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項8】
被測定物の表面に付着している微生物の数または量を測定する方法において、
前記被測定物の表面に付着した微生物層による前記被測定物に対する酸素供給量の減少に伴う被測定物の分光特性の変化を利用して前記微生物の数または量を推定することを特徴とする微生物の数または量を測定する方法。
【請求項9】
前記被測定物が食肉であって、前記食肉の表面に付着した微生物が形成する微生物層によって前記食肉の表面への酸素供給量が減少すると食肉由来のオキシミオグロビンが酸化して生成されたメトミオグロビンが還元されてミオグロビンに変化し、該ミオグロビンの分光特性の変化を利用することを特徴とする請求項8に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項10】
578±5nmの波長の光を照射することを特徴とする請求項9に記載の微生物の数または量を測定する方法。
【請求項11】
所定の波長域の光を投射する発光手段と、
前記発光手段が発した光であって被測定物の表面に付着された微生物の数または量に応じて変調された光を受光する受光手段と、
前記受光手段による光の強度から被測定物の表面に付着している微生物の数または量を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算された値を出力する出力手段と、
を具備する微生物の数または量を測定する測定装置。
【請求項12】
被測定物の種類を入力する入力手段を有することを特徴とする請求項11に記載の微生物の数または量を測定する測定装置。
【請求項13】
前記演算手段は、被測定物の種類に応じた特性値を記憶しているデータベースを参照して微生物の数または量を演算することを特徴とする請求項12に記載の微生物の数または量を測定する測定装置。
【請求項14】
付着する微生物の数または量が測定される被測定物の表面の微生物が付着していない状態での前記発光手段による光の投射に伴う分光特性を予め測定するとともに、測定された分光特性に応じて補正を行なうことを特徴とする請求項11に記載の微生物の数または量を測定する測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−268792(P2010−268792A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96866(P2010−96866)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】