説明

微生物の検出および計数

生存微生物を、前記微生物を含むことが疑われる試料中で検出し、計数する方法であって、(1)前記試料の前記微生物を少なくとも1つの修復化合物および成長培地と接触させる工程、(2)工程(1)の生成物をインキュベートする工程、そして(3)前記生存微生物を検出し、定量化する工程を含み、微生物がレジオネラ・ニューモフィラ種のものであり、修復化合物が代謝に対して直接的もしくは間接的に影響を及ぼして、微生物の酸化ストレスを軽減する方法。本発明は、レジオネラ・ニューモフィラ種の生存微生物を、前記微生物を含むことが疑われる試料中でより正確に検出し、計数するためのキットも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)種の生存微生物を検出し、計数する方法に関する。本発明は、かかる方法での使用に適したキットも包含する。この方法およびキットによって、生存微生物をより迅速に定量化することが可能になる。
【0002】
レジオネラ菌は、土壌および非海洋水生生息地などの湿潤環境中に偏在する。これらは、温水および冷水設備、空調設備の冷却塔、および水加湿器においても見いだされる。
【0003】
レジオネラ、特にレジオネラ・ニューモフィラは、一般的には「レジオネラ症」として知られ、感染者にとって致命的であることが多い急性細菌性肺炎を引き起こし得る病原菌である。
【0004】
従来、レジオネラ・ニューモフィラの検出および計数は細胞培養によって行われる。この方法は、平板計数を用いて培養可能な細菌を測定することによるか、またはフィルター膜法を用いてマイクロコロニーを測定することによって行うことができる。これらの技術は、細菌がコロニーもしくはマイクロコロニーを形成する能力によって生菌を評価する。残念なことに、かかる方法は、通常、コロニー若しくはマイクロコロニーを形成させるために3〜10日を要する。水設備が依然として稼働中であるならば、この間にもヒト感染の許容できない危険性が存在する。
【0005】
全レジオネラ微生物を検出する他の方法は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術を含む。PCRは、DNAポリメラーゼを用いて、体外酵素的複製によってDNAの断片を増幅する。技術の過程で、生じるDNAを複製の鋳型として使用し、これによって連鎖反応が起こり、この反応ではDNA鋳型は指数的に増幅される。PCRは、数百万もしくはそれ以上のDNA断片を生成させることによって、1つもしくはいくつかのDNA断片を増幅させることができる。典型的には、かかる方法は、Diederenら,J Med Microbiol. 2007年1月;56(Pt 1):第94-101頁に記載されている。
【0006】
しかしながら、PCRの欠点は、試料が重合反応阻害物質を含む傾向があるので、一貫して定量的な結果を提供しないことである。さらに、この技術は、事前のDNA精製工程に依存し、その結果、DNAが失われる可能性があり、存在するレジオネラが結果として過小評価される可能性がある。ある程度までは、定量的であるリアルタイムPCRによってこれらの欠点は克服される。しかしながら、この技術は、生細胞と死細胞とを区別することができない。
【0007】
別の技術は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)であり、この技術では、蛍光物質で標識されたオリゴヌクレオチドプローブが細菌細胞中に浸透する。リボソーム核酸(rRNA)がその標的として知られるプローブに対して正しい配列を有している場合、このプローブはそれ自体がその標的に付着し、その後のいずれの洗浄工程によっても除去されない。プローブが固定された細菌は、したがって蛍光シグナルを発する。この蛍光シグナルを次いで、フローサイトメトリー、固相サイトメトリー、または落射蛍光顕微鏡法などの技術によって定量化することができる。典型的なFISH技術は、Dutil Sら,J Appl Microbiol.2006年5月;100(5):第955-63頁に記載されている。しかしながら、FISH技術を単独で用いて、生存レジオネラ・ニューモフィラの合計数を検出することはできるが、残念なことに、この方法では、分裂できて結果としてコロニーを形成できるレジオネラ・ニューモフィラ菌のみを排他的に同定することができない。
【0008】
生存レジオネラ・ニューモフィラを計数するためのさらなる方法は、ChemChrome V6を含み、Delgado-Viscogliosiら,Appl Environ Microbiol. 2005年7月;71(7):第4086-96頁に記載されている。この方法により、レジオネラ・ニューモフィラの定量化ならびに、生菌と非生菌の区別とが可能になる。この方法は、抗体および細菌生存マーカー(ChemChrom V6)を用いたレジオネラ細胞の特異的検出と、計数のための落射蛍光顕微鏡法の使用を組み合わせる。しかしながら、この技術は、生菌と非生菌細胞とを区別するが、コロニー形成細菌を別々に同定することができない。
【0009】
US20070218522号は、生存レジオネラおよび他の従属栄養好気性菌を検出し、定量化する方法および組成物を記載し、この方法は、吸収性媒体、レジオネラのマイクロコロニーの迅速な検出および定量化のための成長促進および成長選択的物質を含むディップスライドの使用を含む。この技術は、損傷細菌を計数しない。
【0010】
EP1329515号は、過酸化水素を含む気体環境における微生物の存在について、この気体環境を、ピルビン酸の塩を含む寒天成長培地と接触させ、微生物のコロニーを発生させることによって試験する方法に関する。
【0011】
成長培地、例えば栄養寒天プレート上でのコロニーの成長が関与する技術は、一般的に、より正確であると見なされる。したがって、計数法は、依然として全生菌数を得るための方法の好適な選択肢である。このことは一般的に、微生物を含むことが疑われる試料を、固体栄養源もしくは成長培地を含むプレート上に塗布することを意味する。このような技術は、一般的に、プレーティングと呼ばれる。全生菌数とは、本発明では、観察者が識別できる集団を産生できる細菌の合計数を意味する。典型的には、これは、栄養寒天プレートなどの成長培地の表面上の可視コロニーを意味する。
【0012】
しかしながら、環境中のレジオネラ・ニューモフィラなどの微生物は、微生物がその環境状況において成長し、増加することを防止することができる1以上のストレスを受ける可能性がある。このようなストレスを受けた微生物は全く分裂しないか、または通常の培養条件下で可視コロニーを形成しない。この環境において、微生物細胞の一部は、一般的に、飢餓、殺生剤の存在、熱ショックおよび乾燥などの環境条件のためにストレスを受ける。さらに、これらの細胞は、微生物のプレーティング技術が、大気中の酸素の存在によってすでにストレスを受けている微生物細胞のストレスを悪化させ得る、脆弱な生理状態にあり得る。さらに、これはストレスを受けた細菌の人工的な死に至る可能性があり、合計生菌数の過小評価につながる。
【0013】
加えて、プレーティング法を用いた、生存レジオネラ・ニューモフィラの過小評価は、その病原性に関して有害になる可能性がある。
【0014】
1970年代以降、プレーティング過程中の酸化ストレスの影響を制限するために、活性酸素(ROS)の捕捉剤を使用すべきであることが報告されている。このことは、Speckら,repair and enumeration of injured coliforms by a plating procedure, Appl Microbiol 29,第549-50頁(1975年);Martinら,Catalase:its effect on microbial enumeration. Appl Environ Microbiol 32,第731-4頁(1976年);Brewerら,Beneficial effects of catalase or pyruvate in a most-probable-number technique for the detection of Staphylococcus aureus. Appl Environ Microbiol 34,第797-800頁(1977年);McDonaldら,Enhanced recovery of injured Escherichia coli by compounds that degrade hydrogen peroxide or block its formation. Appl Environ Microbiol 45,第360-5頁(1983年);Marthiら,Resuscitation effects of catalase on airborne bacteria. Appl Environ Microbiol 57,第2775-6頁(1991年);Busch and Donnelly Development of a repair-enrichment broth for resuscitation of heat-injured Listeria monocytogenes and Listeria innocua. Appl Environ Microbiol 58,第14-20頁(1992年);ならびにDukanら,Oxidative stress defense and deterioration of growth-arrested Escherichia coli cells. J Biol Chem 274,第26027-32頁(1999年)によって報告された。
【0015】
しかしながら、前記例のすべてにおいて、本発明者らは、ROSは、化合物がROSと化学的に反応する直接経路によって還元されると考える。
【0016】
Berubeら,"Rapid detection and identification of Legionella pneumophila by membrane immunoassay", Applied and Environmental Microbiology, 1989, 55, 第1640-1641頁は、モノクローナル抗体を用いた免疫ブロット法によるレジオネラ・ニューモフィラの検出および同定を記載する。損傷細菌の問題に対処するための手段は提供されない。
【0017】
Pine等の論文(Role of keto acids and reduced-oxygen-scavenging enzymes in the growth of Legionella species. J Clin Microbiol 23, 33-42頁(1986年))は、ケト酸および還元酸素捕捉酵素の添加の必要性は、レジオネラ・ニューモフィラの成長を最適化するためであることを記載し、この微生物の標準的計数のために使用した培地中でのこれらの物質の使用を示唆した。
【0018】
しかしながら、ケト酸および還元酸素捕捉酵素単独の使用は、修復されるストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラ細胞を修復し、正確な計数を可能にするためには不十分である。これは、レジオネラ・ニューモフィラに対して特異的な成長培地、例えば緩衝活性炭酵母エキス(BCYE)寒天培地を用いる場合に特に当てはまる。実際、レジオネラ・ニューモフィラの正確な計数に有用な標準培地の最適化に関して利用可能なデータはない。
【0019】
したがって、本発明の目的は、レジオネラ・ニューモフィラを正確に計数するための方法を見いだすことである。これは、プレーティング技術を用いるその標準法に関して特に該当する。
【0020】
このように本発明にしたがって、本発明者等は、生存微生物を、前記微生物を含むことが疑われる試料中で検出し、計数するための方法であって、
(1)前記試料の前記微生物を少なくとも1つの修復化合物および成長培地と接触させる工程、
(2)工程(1)の生成物をインキュベートする工程、および
(3)前記生存微生物を検出し、定量化する工程を含み、
微生物がレジオネラ・ニューモフィラ種のものであり、修復化合物が代謝に対して直接的もしくは間接的に影響を及ぼして、微生物の酸化ストレスを軽減する方法を提供する。
【0021】
酸化ストレスとは、本発明では、ROSの濃度(内因性産生および外因性産生)と、微生物が反応性中間体を容易に解毒するか、または結果として生じる損傷を効率的に修復する能力との間の不均衡を意味する。微生物の通常の代謝過程がこのように破壊されると、フリーラジカルおよび酸化剤、例えば過酸化物の形成のために有害な影響が起こる可能性があり、微生物細胞の成分、例えば、DNA、タンパク質または脂質への損傷に至る可能性がある。
【0022】
微生物の代謝に影響を及ぼすとは、微生物細胞内の天然の内部化学的過程に変化をもたらすことを意味する。
【0023】
内因的に、とは、微生物細胞内に酸化ストレスを軽減するような変化がもたらされることを意味する。これは、例えば、微生物内の代謝過程に対する変化であり得る。微生物細胞内のROSの除去を含んでもよい。
【0024】
望ましくは、修復化合物は、ROSの形成の阻害及び/又は分解をする少なくとも1つの化合物であってもよいし、またはこのような化合物を含んでもよい。一般的に、このことは、代謝の修飾によって達成される。
【0025】
しかしながら、修復化合物は、ROSの形成の阻害及び/又は分解を間接的に行う少なくとも1つの化合物であってもよいし、またはこのような化合物を含んでもよい。ROSに対して間接的に影響を及ぼすこのような化合物は、微生物の代謝の干渉によってこれを行うことができる。このような化合物は、内因的に、例えば好気的呼吸中にROSを間接的に減少させると見なすことができる。
【0026】
本発明者等は、本発明の方法がストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラ細胞の修復を誘発し、かくして全生菌数をより正確に提供することを見いだした。意外にも、本発明者等はこの方法によって、必要とされるインキュベーション時間が減少することも見いだした。一般的に、本発明者等は、この方法がインキュベーション時間を数時間短縮でき、場合によっては少なくとも1日短縮できることを見いだした。場合によっては、本発明の方法は、従来法と比較して、インキュベーション時間を数日まで、例えば5日まで短縮することができる。
【0027】
意外にも、本発明者等は、本発明の方法が、妨害微生物、すなわちレジオネラ・ニューモフィラ以外の微生物の減少をもたらすことができることも見いだした。
【0028】
本発明の方法は、望ましくは、ストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラ微生物細胞を、ROSの形成の阻害及び/又はROSの減少及び/又はROSの除去を行う少なくとも1つの化合物と接触させることを含み、ストレスを受けた細胞の修復を誘発する傾向がある。
【0029】
試料を集める際に、レジオネラ・ニューモフィラ微生物を修復化合物と直接接触させることができる。したがって、微生物を含むと考えられる水の試料をその中に集める容器は、すでに修復化合物を含んでいてもよい。あるいは、レジオネラ・ニューモフィラを含む水の試料を集めてから、分析のために修復化合物を含む希釈水で希釈してもよい。さらなる代替法において、場合によって希釈された試料を、修復化合物を含む成長培地と接触させてもよいし、または微生物を成長培地と接触させた後に修復化合物を適用してもよい。
【0030】
本発明の一形態は、望ましくは、前記試料を修復培地、好ましくは前記修復化合物を含む非選択的修復培地と接触させ、次いでこれを成長培地、好ましくは、選択的成長培地と接触させることを含む。好ましくは、修復培地は液体であり、さらに好ましくはブロスである。修復培地が液体である場合、これは好適には液体修復法と称する。典型的には、液体修復法では、試料をまず修復化合物を含む液体培地中に導入する。理想的には、液体修復法はストレスを受けた細菌を非選択的液体培地中で修復させる。好ましくは、液体修復法は液体培地としてブロスを用いる。一般的に、微生物を含む液体培地を次いで成長培地に移す。ストレスを受けた微生物は、成長培地に移す前に修復しておくか、または成長培地と接触させて修復するかのいずれかである。さらに好ましくは、成長培地は選択的成長培地である。典型的には、微生物を含む液体培地を、選択的成長培地プレート、例えば選択的寒天成長培地プレート上にプレートする。
【0031】
別の好適な形態において、工程(1)は、前記培地を成長培地、好ましくは、前記修復化合物を含む非選択的成長培地と接触させ、次いで、これもまた前記修復化合物を含む修復培地とこれとを接触させることを含む。好ましくは、修復培地は非選択的修復培地であり、さらに好ましくは固体、特に好ましくは、選択的寒天成長培地である。修復培地が固体である場合、これは固体修復法と称する。典型的には、固体修復法は、試料と、修復化合物を含む非選択的成長培地とを接触させることを含む。続いて、これと、修復化合物を含む選択的成長培地とを接触させることができる。この形態では、選択的成分およびROSの形成を防止するか、ROSを減少させるか、またはROSを除去する(1つもしくは複数の)化合物は非選択的培地中に拡散する。望ましくは、非選択的成長培地は、非選択的寒天成長培地で有り得る。好適には、この形態において、試料を任意の非選択的寒天上にプレートし、次いでROSの形成を防止するか、ROSを減少させるか、またはROSを除去する(1つもしくは複数の)化合物を含む選択的寒天成長培地を非選択的寒天成長培地上に重ねることができる。
【0032】
さらに別の形態において、すでに修復化合物を含んでいる選択的成長培地に試料を適用することができる。このような選択的成長培地は、選択的寒天成長培地であってよい。試料のプレーティングは、すでに記載したようにして行うことができる。
【0033】
さらに別の形態において、試料をエアゾル形態の水から集めることができる。典型的には、エアゾルは冷却塔もしくは空調装置中に位置してもよい。望ましくは、本発明の方法にしたがって試験する前にエアゾルから水を凝縮させる。別の好適な形態において、工程(1)は、エアゾルからの前記試料と、修復培地、好ましくは、前記修復化合物を含む非選択的修復培地を含む希釈水とを接触させ、次いでこれを、これもまた前記修復化合物を含む成長培地と接触させることを含む。
【0034】
本発明の前記形態の全てにおいて、成長培地はレジオネラ・ニューモフィラの成長に適していなければならない。好適な成長培地種類は文献に記載され、当業者に周知である。通常、成長培地は活性炭およびシステインを含まなければならない。
【0035】
選択的成長培地は選択的寒天成長培地であることが好適であり、さらに好ましくは、緩衝活性炭酵母エキス(BCYE)寒天成長培地である。BCYE成長培地は、抗生物質サプリメントの添加によって選択的になる。抗生物質を含む非常に望ましいBCYE成長培地は、GVPC(グリシン、バンコマイシン、ポリミキシンB、シクロヘキシミド)として知られている。
【0036】
プレーティング法は文献で記載され、当業者に周知である。典型的には、この方法は、ある量のこれらの水試料を、ペトリ皿に入れておいた寒天ゲル上に塗布することを含む。これはペトリ皿法または寒天プレーティング法と称する。寒天プレーティングの目的は、微生物を含むことが疑われる水(細菌懸濁液と称する)のアリコート、典型的には100μlをペトリ皿中の固体培地上に塗布することである。ガラスビーズまたは細胞スクレーパーを使用して、細菌懸濁液を寒天プレート上に塗布することができる。塗布後、液体のほとんどは寒天に吸収され、寒天表面上には細菌の薄膜が残る。インキュベーションによってコロニー形態での細菌成長が寒天表面上で起こる。インキュベーションは、微生物に最も適した温度で起こり、このような温度は文献で記載され、当業者に周知である。典型的には、この温度は30℃〜50℃、例えば、約37℃である。
【0037】
修復化合物は、微生物の酸化ストレスを軽減するために有効な量で添加しなければならない。好ましくは、これは微生物細胞中のROSを減少させるか、または実質的に除去するために有効な量である。
【0038】
本発明の好適な一形態において、修復化合物は、少なくともチオグリコール酸またはその塩を含む。望ましくは、チオグリコール酸はチオグリコール酸塩の形態であり、通常、ナトリウム塩の形態である。チオグリコール酸または塩は、ROSを外因的に除去する。好ましくは、培地中に存在するチオグリコール酸もしくは塩の量は0.01〜1質量%の濃度(チオグリコール酸塩として計算)である。
【0039】
本発明の別の好適な形態において、修復化合物は、カタラーゼ、アスコルビン酸(又はその塩)、メタ重亜硫酸(又はその塩)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、3,3’−チオジプロピオン酸(TDPA)(又はその塩)およびピルビン酸(又はその塩)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む。これらの化合物は、ROSを減少もしくは除去することが判明している。アスコルビン酸およびピルビン酸を使用する場合、これらは好ましくは、培地中にナトリウム塩として計算して、0.01〜1質量%の濃度で存在する。DMSOは好ましくは0.01〜0.1質量%の濃度で使用し、カタラーゼは望ましくは、0.001〜0.1質量%の範囲の濃度で存在する。ピルビン酸、特にピルビン酸ナトリウムが特に好適である。
【0040】
本発明のさらに好適な形態において、修復培地または成長培地は、チオグリコール酸(又は塩)と、カタラーゼ、アスコルビン酸(又はその塩)、メタ重亜硫酸(又はその塩)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、3,3’−チオジプロピオン酸(TDPA)(又はその塩)およびピルビン酸(又はその塩)からなる群から選択される少なくとも1つとの両方を含む。チオグリコール酸塩とピルビン酸ナトリウムとの組み合わせが特に好適である。
【0041】
修復化合物が、ROSの形成を間接的に阻害及び/又は分解させる少なくとも1つの化合物であってもよいし、またはこのような化合物を含んでもよい場合、前記化合物は、微生物の代謝を妨害することによって、ROSのレベルを低下させ得る。典型的には、かかる化合物はアミノ酸もしくはそれらの塩を含む。特に好適な化合物は、グルタミン酸もしくはグルタミン酸塩である。
【0042】
本発明のさらに好適な形態において、修復化合物は、グルタミン酸もしくはグルタミン酸塩、特にナトリウム塩を含む。一般的に、グルタミン酸もしくはグルタミン酸塩の量は、ナトリウム塩として計算して、0.01〜5質量%である。
【0043】
修復化合物が、ピルビン酸もしくはピルビン酸塩(特にナトリウム塩)と、グルタミン酸もしくはグルタミン酸塩(特にナトリウム塩として)との両方をあわせて含むのが特に好適である。このピルビン酸もしくはピルビン酸塩とグルタミン酸もしくはグルタミン酸塩との組み合わせは、いずれかの化合物をそれぞれ単独で使用するよりも高い培養可能なレジオネラの評価(ひいてはより正確な評価)を可能にする点で相乗効果を誘発するようである。さらに、本発明者等は、この組み合わせによって、特に液体培地中でのレジオネラ・ニューモフィラの発生中の遅滞期のさらなる減少がもたらされることを見いだした。このような液体培地中での遅滞期が減少する結果、寒天プレート上で可視コロニーを得るために必要な時間が減少する。
【0044】
望ましくは、ピルビン酸塩およびグルタミン酸塩の量は前述のとおりである。グルタミン酸塩のピルビン酸塩に対する比が、1:1〜50:1、特に5:1〜20:1、さらには7:1〜15:1の範囲であるのが特に好適である。
【0045】
グルタミン酸塩は酸化防止剤としては知られていない。しかしながら、間接的に、グルタミン酸塩は成長中に天然に形成されるROSの体内生産または高分子に対する影響(酸化)を低下させることができるようである。
【0046】
理論に限定されないが、グルタミン酸はレジオネラの代謝を変えて、ピルビン酸塩の影響を増大させ、レジオネラの代謝のこの妨害は、細胞内ROSの形成を間接的に阻害及び/又は分解すると考えられていた。
【0047】
ケト酸及び/又は還元酸素捕捉酵素を修復培地及び/又は成長培地とともに含むのも望ましい。ケト酸及び/又は還元酸素捕捉酵素は、本発明の修復化合物と見なされない。それでも、これらの化合物と、前記修復化合物のいずれか、またはこれらの組み合わせの一方もしくは両方を含むことが有益であり得る。
【0048】
生存微生物の検出および定量化は、文献で記載されている既知技術のいずれかによって実施することができる。典型的には、このことは、栄養寒天プレートなどの成長培地の表面の可視コロニーを計数することを意味する。
【0049】
本発明の方法は、レジオネラ・ニューモフィラの存在の正確な定量的測定を容易にする。さらに、インキュベーション時間を著しく減少させることができる。この方法は、工業用冷却水、飲用水、および天然水から選択される群のいずれか由来の試料中のレジオネラ・ニューモフィラを検出するのに適している。
【0050】
本発明は、レジオネラ・ニューモフィラ種の生存微生物を、前記微生物を含むことが疑われる試料中でさらに正確に検出し、計数するためのキットであって、
(1)少なくとも1つの修復化合物、
(2)成長培地、
(3)インキュベーションのための手段、
(4)微生物を検出し、定量化するための手段
を含み、修復化合物が代謝に直接的若しくは間接的に影響を及ぼして、微生物の酸化ストレスを軽減し、
微生物がレジオネラ・ニューモフィラ種のものであり、修復化合物が代謝に直接的もしくは間接的に影響を及ぼして、微生物の酸化ストレスを軽減するキットを含む。
【0051】
キットは、本発明の第1の態様に関して記載された実施形態のどれでも含むことができる。
【0052】
キットは、本発明の方法を用いた使用に適し、レジオネラ・ニューモフィラのさらに確実な計数を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、BCYE培地(四角)およびBCYE培地+0.1%ピルビン酸塩(菱形)上での殺生剤処理後の培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの計数を示す。
【図2】図2は、標準培地(BCYE)上で得られた培養可能なレジオネラの数と、本発明で記載する2つの化合物(ピルビン酸塩およびグルタミン酸)を添加した培地上で得られる培養可能なレジオネラの数との間の比を示す。
【図3】図3は、レジオネラ・ニューモフィラの懸濁液を、1Lの滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)を最終濃度3×10細菌/Lで含む1つのフラスコに添加、濃縮した後、該懸濁液からのアリコートをGVPC上にプレートした、コロニー数の計数結果を示す。
【図4】図4は、培養可能なレジオネラを含む環境試料を濾過によって濃縮し、同懸濁液からのアリコートをGVPC上にプレートした、コロニー数の計数結果を示す。
【図5】図5は、標準培地(BCYE)上で得られる培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの数ならびにPBSまたはPBS+ピルビン酸塩での希釈後にピルビン酸を添加した標準培地上で得られる培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの数を示す。
【0054】
以下の実施例で本発明を説明する。
【0055】
実施例1
レジオネラ・ニューモフィラの懸濁液を、50mlの滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)を最終濃度10細菌/mlで含む5つのフラスコに添加した。殺生剤溶液を添加して、10〜30mg/Lの範囲の最終濃度を得た。1つのフラスコを平行して実験し、殺生剤を含まない対照とした。使用した殺生剤は、THPS(テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムスルフェート)である。
【0056】
均質化後、全ての懸濁液を暗所で撹拌しながら60分間37±1℃でインキュベートした。殺生剤をPBS中で2回洗浄(5,000×g、10分)することによって除去した後、細菌を計数する。連続希釈を行い、同希釈物からの100μlの2アリコートを、BCYE寒天プレートおよび0.1%のピルビン酸塩を添加したBCYE上にプレートする。
【0057】
結果を図1に示す。図1は、BCYE培地(四角)およびBCYE培地+0.1%ピルビン酸塩(菱形)上での殺生剤処理後の培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの計数を示す。殺生剤の存在は、微生物にストレスを与えるためである。結果から、微生物がストレスを受ける場合、ピルビン酸塩の存在下ではるかに多くの微生物が計数されることがわかる。殺生剤の不在下では、微生物はストレスを受けない。この場合、ピルビン酸塩の存在および不在は同じ結果をもたらすことがわかる。このことは、ピルビン酸塩の存在下でストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラ微生物は修復され、したがってより正確な読みが得られることを示す。
【0058】
実施例2:
レジオネラ・ニューモフィラの懸濁液を、50mlの滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)を最終濃度10細菌/mlで含む1つのフラスコに添加した。殺生剤溶液を添加して、15mg/Lの最終濃度を得た。使用した殺生剤は、THPS(テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムスルフェート)である。
【0059】
均質化後、懸濁液を暗所で撹拌しながら60分間37±1℃でインキュベートした。殺生剤をPBS中2回洗浄(5,000×g、10分)することによって除去した後、細菌を計数する。連続希釈を行い、同希釈物からの100μlの2アリコートをBCYE寒天プレート、0.1%のピルビン酸塩を添加したBCYE、0.1%のピルビン酸塩および1%のグルタミン酸を添加したBCYEならびに1%のグルタミン酸を添加したBCYE上にプレートする。結果を図2に示す。図2は、標準培地(BCYE)上で得られた培養可能なレジオネラの数と、本発明で記載する2つの化合物(ピルビン酸塩およびグルタミン酸)を添加した培地上で得られる培養可能なレジオネラの数との間の比を示す。
【0060】
標準培地(BCYE)中にピルビン酸塩を添加すると、殺生剤処理後に検出される培養可能なレジオネラが増大する(「BCYE+ピルビン酸塩」上の培養可能なレジオネラの数は、培養可能なレジオネラ標準培地の数よりも45倍多い)。グルタミン酸単独を標準培地(BCYE)中に添加すると、殺生剤処置後に検出される培養可能なレジオネラは減少する(×0.2)。驚くべきことに、ピルビン酸塩およびグルタミン酸を添加すると、培養可能なレジオネラは増大し、化合物単独を用いて観察されるよりも多い。このことは、ピルビン酸の存在下で、ストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラ微生物は、グルタミン酸を添加してより修復され、したがってより正確な読みが得られることを示す。
【0061】
実施例3:
レジオネラ・ニューモフィラの懸濁液を、1Lの滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)を最終濃度3×10細菌/Lで含む1つのフラスコに添加した。濾過により濃縮した後、同懸濁液からの100μlの2アリコートを、GVPC寒天プレート(GVPC)、0.1%のピルビン酸塩および1%のグルタミン酸(GVPC+X)を添加したGVPC上にプレートする。37℃でインキュベーション後0日、3日、5日および10日にコロニー数を計数した。結果を図3に示す。インキュベーションの3日目に、GVPC培地上ではコロニーは見ることができず、GVPC添加培地上ではすでに300コロニーが計数されていた。インキュベーションの5日目および10日目に、GVPC上で100コロニーを計数でき、GVPC添加培地では300コロニーを計数できた。添加培地を使用することにより、標準GVPC上で計数されるよりも少なくとも2日前にコロニーが計数された。
【0062】
実施例4:
培養可能なレジオネラを含む環境試料を濾過によって濃縮した。濃縮物から、同懸濁液からの100μlの2アリコートをGVPC寒天プレート(GVPC)、0.1%のピルビン酸塩および1%のグルタミン酸を添加したGVPC(GVPC+X)上にプレートする。コロニーの数を37℃でのインキュベーションの5日後に計数した。この場合、標準培地(GVPC)上ではレジオネラコロニーは計数できず、17個の非レジオネラコロニーが計数できた。対照的に、添加培地(GVPC+X)上では少なくとも10のレジオネラコロニーが計数でき、非レジオネラコロニーは2個しかなかった。これを図4に示す。
【0063】
実施例5
レジオネラ・ニューモフィラの懸濁液を、10細菌/mlの最終濃度の滅菌リン酸緩衝食塩水(PBS)50mlを含む1つのフラスコに添加した。殺生剤溶液を添加して、15mg/lの最終濃度にした。使用した殺生剤は、THPS(テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムスルフェート)である。
【0064】
均質化後、懸濁液を暗所で撹拌しながら60分間37±1℃でインキュベートした。PBS中で2回洗浄(5,000×g:10分)することによって殺生剤を除去した後、細菌を計数する。PBSまたは0.5%のピルビン酸塩を添加したPBS中のいずれかで連続希釈を行う。各希釈緩衝液(ピルビン酸塩を添加するか、もしくは添加しない)から、同希釈物からの100μlの2アリコートをBCYE寒天プレート、0.1%のピルビン酸塩を添加したBCYE上にプレートする。結果を図5に示す。図5は、標準培地(BCYE)上で得られる培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの数ならびにPBS(斜線)またはPBS+ピルビン酸塩(黒色)で希釈後にピルビン酸を添加した標準培地上で得られる培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの数を示す。
【0065】
すでに観察されたように、標準培地(BCYE)中にピルビン酸塩を添加すると、PBSのみを使用して溶液を希釈する場合に、殺生剤処理後に検出される、培養可能なレジオネラ・ニューモフィラの増加につながる。驚くべきことに、希釈緩衝液中にピルビン酸塩を添加すると、標準培地(BCYE)上で検出される培養可能なレジオネラ・ニューモフィラは増加するが、ピルビン酸塩を添加した標準培地上でも増加する。このことは、希釈緩衝液中にピルビン酸塩が存在することによって、ストレスを受けたレジオネラ・ニューモフィラがより修復されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存微生物を含むことが疑われる試料中の前記微生物を検出し、計数する方法であって、
(1)前記試料の前記微生物を少なくとも1つの修復化合物および成長培地と接触させる工程、
(2)工程(1)の生成物をインキュベートする工程、
(3)前記生存微生物を検出し、定量化する工程を含み、
前記微生物がレジオネラ・ニューモフィラ種のものであり、前記修復化合物が代謝に対して直接的もしくは間接的に影響を及ぼして、前記微生物の酸化ストレスを軽減する、方法。
【請求項2】
前記修復化合物が、ROSの形成の阻害及び/又は分解を行う化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(1)が、前記試料を、修復培地、好ましくは前記修復化合物を含む非選択的修復培地と接触させ、次いでこれを成長培地、好ましくは、選択的成長培地と接触させることを含む、請求項1もしくは2記載の方法。
【請求項4】
前記修復培地が液体、好ましくはブロスである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程(1)が、前記培地を、成長培地、好ましくは非選択的成長培地と接触させ、次いでこれを前記修復化合物を含む修復培地と接触させることを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記修復培地が、選択的修復培地、好ましくは固体であり、さらに好ましくは、選択的寒天成長培地である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(1)が、前記試料を、前記修復化合物を含む成長培地と接触させることを含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記成長培地が、緩衝化活性炭酵母エキス(BCYE)またはGVPC寒天成長培地である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
修復化合物が、チオグリコール酸(又はその塩)を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記修復化合物が、カタラーゼ、アスコルビン酸(又はその塩)、メタ重亜硫酸(又はその塩)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、3,3’−チオジプロピオン酸(TDPA)(又はその塩)およびピルビン酸(又はその塩)からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記修復化合物が、チオグリコール酸(又はその塩)およびピルビン酸(又はその塩)を含む、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記修復化合物が、グルタミン酸(又はその塩)を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記修復化合物が、グルタミン酸(又はその塩)およびピルビン酸(又はその塩)を含む、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記修復培地及び/又は成長培地が、ケト酸及び/又は還元酸素捕捉酵素を含む、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
レジオネラ・ニューモフィラ種の生存微生物を、前記微生物を含むことが疑われる試料中でさらに正確に検出し、計数するためのキットであって、
(1)少なくとも1つの修復化合物、
(2)成長培地、
(3)インキュベーションのための手段、
(4)前記微生物を検出し、定量化するための手段を含み、
前記微生物がレジオネラ・ニューモフィラ種のものであり、前記修復化合物が代謝に対して直接的もしくは間接的に影響を及ぼして、前記微生物の酸化ストレスを軽減する、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−516051(P2011−516051A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502329(P2011−502329)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053295
【国際公開番号】WO2009/121726
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【出願人】(500379381)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシャルシュ シアンティフィク (17)
【氏名又は名称原語表記】Centre National de la Recherche Scientifique
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, FR−75016 Paris, France
【Fターム(参考)】