説明

微生物の検出方法

【課題】流体に含まれる微生物を迅速かつ高感度に検出する方法を提供すること。
【解決手段】微生物の検出方法であって、(1)濾過膜を用いて流体を濾過する工程、(2)濾過膜を液体培地に浸漬し、該濾過膜に捕捉された微生物を培養する工程、(3)培養物を濃縮する工程、(4)濃縮培養物から微生物のDNAを抽出する工程、(5)抽出したDNAを鋳型としてPCRを実施する工程、および(6)得られたPCR産物を検出する工程を含む微生物の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、組織工学の急速な進歩により、培養皮膚などの生細胞を利用した製品が開発されている。そのような製品においては、構成する細胞の安全性はもちろんのこと、微生物の汚染がないという確証が要求される。培養皮膚などの生細胞を利用した製品は最終滅菌ができないため、製造工程において微生物が混入しないよう充分に注意を払う必要がある。また、最終製品の無菌性も保証することが必要となる場合がある。
【0003】
培養皮膚は、やけどを負った患者などから採取した少量の細胞を培養することによって製造され、細胞を採取した患者本人に移植される(自家培養皮膚移植)か、または他人に移植される(同種培養皮膚移植)。このため、採取した細胞が真菌、細菌またはウイルスに感染していないことを確認する必要がある。とくに、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)などによる深在性(全身性)真菌症は、易感染患者が高率に罹患する感染症として医療上の問題となっている。また、シュードモナス・エルジノーザ(Pseudomonas aeruginosa)などによる緑濃菌症は、抵抗力の低下した宿主に日和見感染を起こし、皮膚の化膿、尿路感染、呼吸器感染、敗血症の原因となり、院内感染を起こしやすいという問題を有する。
【0004】
古くからの真菌の検出方法としては、臨床検体を、たとえばペトリ皿上で培養し、臨床検体に含まれる真菌を増殖させて、形成された真菌のコロニーを検出する方法が行なわれてきた。しかしながら、とくに真菌は増殖が遅いため、コロニー形成まで長時間を要した。このため、培養皮膚を患者へ適用する前に検出結果が得られないという不具合が生じた。
【0005】
医療用具GMPにおける細菌・真菌否定試験としては、サンプルを濾過した濾過膜を7〜14日間培養し、培養液が濁っていないことを目視で確認するという方法が一般的に採用されている。しかしながら、この方法による培養皮膚の無菌試験の場合でもやはり、培養皮膚を患者へ適用する前に試験結果を得ることができない。
【0006】
そのほか、真菌の抗原を免疫学的に検出する方法、真菌の菌体成分または代謝産物を生化学的に検出する方法などがあるが、いずれも検出感度が低く、多くの時間を要する方法である。
【0007】
試験結果を得るまでに長時間を要するという問題を解決する方法として、真菌DNAを直接的に検出する方法が数多く公開されている。具体的には、真菌の特定の遺伝子配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、PCRにより遺伝子を増幅して真菌を検出する方法である。このような方法は、前述の方法よりも迅速に真菌を検出することができ、さらに、検出感度も向上した。とくに、特許文献1には、たとえば、カンジダ・アルビカンスの18S rRNA遺伝子の核酸配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いることにより、該遺伝子を増幅し、増幅産物を電気泳動法やドットブロットハイブリダイゼーション法などにより検出する方法が開示されている。この方法により、従来、数日から数週間要した真菌の検出を1日以内に終わらせることが可能となった。しかしながら、特許文献1に開示されている方法では従来のPCR法を適用しており、1〜2ml程度のサンプルしか利用することができない。該方法を培養上清が数百ミリリットルに達する組織または組織等価物の浸漬液などの液体に適用する場合には、得られた培養上清のごく一部を使用することになる。したがって、微生物の検出感度が不充分であるだけでなく、試験結果の信頼性の低下などの不具合も生じる。
【0008】
PCRを用いるそのほかの真菌検出方法についても、検出感度は充分ではない。また、培養皮膚などの組織等価物の浸漬液をサンプルとした真菌の検出方法については、まったく開示されていなかった。
【0009】
さらに、細菌の迅速検出法としては、培地の炭素原として14Cで標識したブドウ糖を用い、代謝により産生されるCO2を検出する方法も知られている(非特許文献1)。しかしながら、該方法では真菌と細菌を区別して検出することができないという問題点があった。また、生細胞を含有する製品(たとえば組織等価物)に関しては、生細胞自体がCO2を産生するため、該方法を適用することができない。
【0010】
したがって、組織または組織等価物、とくに培養皮膚において有用な、真菌および細菌などを含む微生物の検出方法が望まれていた。
【0011】
管理環境中の空気中の微生物の検出方法としては、エアーサンプラーを用いて一定量の空気を吸引し、空気中の微生物を寒天培地に衝突させ、そののち該寒天培地を培養し、生育したコロニー数を測定する方法が知られている(非特許文献2および3)。しかしながら、目視でコロニーが確認できるようになるには、増殖速度が速い菌体でも少なくとも2日、増殖速度が遅い菌体においては4日以上の培養が必要である。また、酵母様真菌および細菌のコロニーの形は円状であることから、コロニーの形から両者を識別することは困難であり、菌の同定を行なう場合には、菌体からDNAを抽出するなど、さらに時間を要するといった問題があった。そのほかにも、たとえば、一定量の空気を吸引する毎に寒天培地を交換する必要があるため、大量の寒天培地が必要となる点、寒天培地での培養期間は日本薬局方により5日以上と定められているため、寒天培地を培養するための場所が数日に渡って必要になる点、または菌体の検出を1日でも早く確認するために、培養期間中コロニーの有無を観察しなければならず、サンプルが多い場合はもちろん、寒天培地の観察に手間がかかるといった点などが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−89254号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】社団法人日本空気清浄協会編、「クリーンルーム環境の施工と維持管理」、第1版、(株)オーム社、2000年7月20日、p.65〜75
【非特許文献2】日本薬局方解説書編集委員会編、「第14改正 日本薬局方解説書」、東京廣川書店、平成13年6月27日、p.F−140〜162
【非特許文献3】佐藤健二ら編、「滅菌済み医療用具GMP・バリデーション入門講座」、財団法人 医療機器センター、平成14年2月21日、p.87〜107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記従来技術の問題点に鑑み、本発明は、迅速かつ高感度に微生物を検出する方法を提供することを目的とする。とくに、本発明は、組織または組織等価物の浸漬液などの液体に含まれる微生物を迅速かつ高感度に検出する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、気体に含まれる微生物を迅速かつ高感度に検出する方法を提供することも目的とする。すなわち、本発明は流体に含まれる微生物を迅速かつ高感度に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
微生物を迅速かつ高感度に検出する方法について研究を重ねた結果、組織または組織等価物の浸漬液などの液体の濾過膜による濾過、該濾過膜を用いる前培養およびPCRを組み合わせることにより、液体に含まれる微生物が迅速かつ高感度に検出されることを見出した。さらに、液体だけでなく気体に含まれる微生物をも迅速かつ高感度に検出することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、微生物の検出方法であって、
(1)濾過膜を用いて流体を濾過する工程、
(2)濾過膜を液体培地に浸漬し、該濾過膜に捕捉された微生物を培養する工程、
(3)培養物を濃縮する工程、
(4)濃縮培養物から微生物のDNAを抽出する工程、
(5)抽出したDNAを鋳型としてPCRを実施する工程、および
(6)得られたPCR産物を検出する工程
を含む微生物の検出方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の微生物の検出方法を用いれば、流体における微生物の存在の有無を確認することができ、たとえば、組織または組織等価物の浸漬液における微生物の存在の有無を、培養皮膚などの移植前に確認することができる。従来の方法では約1mlのサンプルを使用しており、その検出感度は菌体100個/ml以上であったが、本発明の方法を用いれば、約150mlのサンプルを処理することができ、そのサンプルに含まれる微生物1個を検出することが可能である。また、これまでの細菌・真菌の検出は、サンプルを濾過した濾過膜を7〜14日間培養し、培養液が濁っていないことを目視で確認する方法と、浸漬液の一部をサンプルとするPCR法であった。前者においては、7〜14日間という長い期間が必要という問題があった。後者においては、期間は1〜2日間と短いが1〜2ml程度のサンプルしか利用することができないために、数百ミリリットルに達する組織または組織等価物の浸漬液に適用する場合には、得られた培養上清のごく一部を使用することになり、微生物の検出感度が不充分であるだけでなく、試験結果の信頼性の低下という問題があった。しかしながら、本発明の微生物の検出方法は、組織または組織等価物の浸漬液などの液体を午後に採取した場合、次の日の午後には検査結果を得ることができるため(約24時間)、非常に優れている。
【0018】
さらに、本発明の微生物の検出方法は、気体にも適用することができる。従来の方法では、濾過対象の気体が大量である場合、エアーサンプラーに設置する寒天培地を一定量の気体を吸引する毎に交換する必要があるため、大量の寒天培地が必要となり、大量の使用済みの寒天培地を処理しなければならないという問題点があった。しかしながら、本発明の微生物の検出方法を用いると、廃棄物の量を減らすことができる。
【0019】
本発明の微生物の検出方法を用いると、使用するプライマーの種類により、微生物の検出結果が得られるだけでなく検出された微生物が真菌であるか細菌であるかを識別することができる。また、PCRで増幅されたDNA断片(PCR産物)の塩基配列をDNAシーケンサーで解析することにより、流体の採取から短時間で菌種の同定をすることも可能である。さらに、菌種に特異的な配列とハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用すれば、菌種の同定を同時に行なうことも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明をより詳細に説明する。
【0021】
本明細書において、「濾過」とは、液体または気体を濾過膜などの多孔質の物質に通すことを意味する。
【0022】
本明細書における用語「流体」は、液体または気体を意味する。
【0023】
本明細書における用語「液体」は、微生物を含む可能性のある液体を意味し、たとえば、組織もしくは組織等価物の浸漬液、臓器の浸漬液または血液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本明細書における用語「組織」は、生体から摘出された各種組織を意味する。組織の例としては、たとえば、皮膚、角膜、軟骨、脂肪組織、筋肉、血管、神経、羊膜、胎盤またはリンパ節などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書における用語「組織等価物」は、生きた細胞を含有する構造物、または生きた細胞が生体適合性材料に組み込まれた構造物として定義される。組織等価物の例としては、たとえば、生細胞と生体高分子または生細胞のみからなる培養皮膚、培養角膜、培養軟骨、培養骨、培養腎臓、培養肝臓、培養網膜、培養神経、培養心臓または培養内耳などがあり、生きた細胞を含有する構造物である限りこれらに限定されるものではない。
【0026】
前記培養皮膚には、培養表皮、培養真皮および複合培養皮膚などが含まれる。培養表皮とは、たとえば、ケラチノサイトなどの哺乳動物の表皮から得た表皮細胞を培養し増殖させることにより製造する表皮細胞シート、またはコラーゲン、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ラミニン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、フィブリン、ゼラチンなどの生体高分子材料、および/またはポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリレートなどの細胞接着性の良い非生分解性の合成高分子材料に表皮細胞を組み込んだ構造物である。培養真皮とは、たとえば、哺乳類の真皮から得た線維芽細胞を培養し増殖させ、コラーゲン、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ラミニン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、フィブリン、ゼラチンなどの生体高分子材料、および/または合成高分子であるポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリレートなどの細胞接着性の良い非生分解性の合成高分子材料に組み込んだ培養真皮シートである。複合培養皮膚とは、前記培養真皮状の構造物にさらに表皮細胞を組み込んだ生体の皮膚に近い構造物である。
【0027】
前記培養角膜とは、たとえば、哺乳類の角膜から得られた角膜上皮細胞、実質細胞および/または内皮細胞を培養し増殖させることにより製造したシート状の構造物、またはコラーゲン、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ラミニン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、フィブリン、ゼラチンなどの生体高分子材料、および/または合成高分子であるポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリレートなどの細胞接着性の良い非生分解性の合成高分子材料に哺乳類の角膜から得た角膜上皮細胞、実質細胞および/または内皮細胞などを組み込んだ構造物である。
【0028】
前記培養軟骨とは、周知の方法により製造される、細胞または細胞が基材に組み込まれた構造物からなる人工軟骨である。培養軟骨としては、たとえば、キトサン、コラーゲンおよび/またはリン酸カルシウムなどの生体適合性材料からなる三次元構造の担体に、軟骨細胞および/または間葉系幹細胞などを組み込むことにより製造された構造物を挙げることができる。
【0029】
本明細書における用語「組織または組織等価物の浸漬液」は、(i)患者から組織片を採取してから組織または組織等価物供給機関(たとえばメーカー)へ輸送される際に使用された液体、(ii)前記組織等価物の製造工程で使用された液体、または(iii)製造された組織等価物を保存するために使用された液体などを含む。
【0030】
「患者から組織片を採取してから組織または組織等価物供給機関へ輸送される際に使用された液体」は、採取した組織片を目的地に輸送する間、該組織片を浸漬した液体である限りとくに限定されるものではない。「患者から組織片を採取してから組織または組織等価物供給機関へ輸送される際に使用された液体」としては、たとえば、哺乳動物から採取した皮膚を保存する際に用いた液体または皮膚を緩衝液でリンスした後に回収される液体などが含まれる。
【0031】
「組織等価物の製造工程で使用された液体」は、組織等価物の製造中に組織等価物に対して添加され回収される液体であるかぎり、とくに限定されるものではない。「組織等価物の製造工程で使用された液体」は、たとえば、哺乳動物から採取した細胞を緩衝液でリンスした後に回収される液体である。さらに、組織等価物を構成する細胞を培養した後に得られる培養上清、細胞を分散させるためのトリプシン処理を実施した後に回収される液体および組織等価物の培養培地を交換する際に回収される液体などもまた、組織等価物の製造工程で使用された液体に含まれる。
【0032】
「製造された組織等価物の保存のために使用された液体」は、完成から実際に適用されるまでの間に組織等価物に添加された後に回収される液体であるかぎり、とくに限定されない。
【0033】
「組織または組織等価物の浸漬液」に使用し得るものの具体例としては、ダルベッコ改変イーグル基本培地(DMEM)、リン酸緩衝液、リンガー液、リンガー−ロック液、タイロード液、アール液、ハンクス液、ロック液、イーグルの最小必須培養液、ハム(Ham)の合成培養液F12、Green培養液、レイボビッツ(Leibovitz)のL−15培養液、ならびに無血清培養液MCDB153、MCDE151、MCDE104、MCDB131、MCDB402、MCDB201、MCDB302、MCDB105およびMCDB110などが挙げられる。また、組織等価物を製造後に凍結保存する場合には、前記の培養液または緩衝液に凍結保護剤を添加した凍結保存液を使用することができる。凍結保護剤としてはグリセロール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、プロピレングリコール、エチレングリコール、蔗糖、カルボキシメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)および二糖類(トレハロース等)などを挙げることができ、これらの中から1種類以上選択して前記の培養液または緩衝液に添加することができる。
【0034】
本明細書における用語「臓器」は、生体から摘出された各種臓器を意味する。臓器の例としては、たとえば、肝臓、すい臓、腎臓または心臓などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本明細書における用語「臓器の浸漬液」は、臓器移植などの際、摘出された臓器を病院間で輸送する場合に一時的に臓器を浸漬、保存するために使用された液体などを含む。
【0036】
「臓器の浸漬液」に使用し得るものの具体例としては、DMEM、リン酸緩衝液、リンガー液、リンガー−ロック液、タイロード液、アール液、ハンクス液、ロック液、イーグルの最小必須培養液、ハムの合成培養液F12、Green培養液、レイボビッツのL−15培養液、ならびに無血清培養液MCDB153、MCDE151、MCDE104、MCDB131、MCDB402、MCDB201、MCDB302、MCDB105およびMCDB110などが挙げられる。また、前記の培養液または緩衝液に凍結保護剤を添加した凍結保存液を使用することもできる。凍結保護剤としてはグリセロール、DMSO、プロピレングリコール、エチレングリコール、蔗糖、カルボキシメチルセルロース塩、CMCおよび二糖類(トレハロース等)などを挙げることができ、これらの中から1種類以上選択して前記の培養液または緩衝液に添加することができる。
【0037】
さらに、細胞を除去していない採取された血液そのもの、および血液から細胞を除去した液体成分なども、本発明の微生物の検出方法を用いて微生物汚染を検出することができる。血液から細胞を除去した液体成分としては、血清または血漿などが挙げられる。血清は、たとえば、乾燥注射器を用いて採取した血液を放置し、血球といくつかの血液凝固因子(フィブリノーゲンまたはプロトロンビンなど)を含む血餅を血液から取り除くことによって得られる。血漿は、たとえば、採取された血液に血液凝固阻止剤を添加し、該血液を遠心することにより沈殿した血球を血液から取り除くことによって得られる。
【0038】
本明細書における用語「気体」は、微生物を含む可能性のある気体を意味し、たとえば、少なくとも酸素を含む空気が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本明細書における用語「微生物」は、たとえば、組織もしくは組織等価物の使用前および使用中、または臓器を摘出する際においてその汚染の原因となる真菌および/または細菌などを含む。
【0040】
真菌としては、たとえば、カンジダ属、ハンセヌラ属、サッカロマイセス属、トリコスポロン属、クリプトコッカス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、ブラストマイセス属、コクシジオイデス属、ニュウモシスチス属、マラセジア属またはデバリオマイセス属などに属する真菌が含まれる。さらに具体的に、そのような真菌には、たとえば、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・ルシタニエ(Candida lusitaniae)、カンジダ・クルゼイ(Candida krusei)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)またはニュウモシスチス・カリニ(Pneumocistis carinii)が含まれる。
【0041】
細菌としては、たとえば、バチルス属、ストレプトコッカス属、シュードモナス属、エシェリキア属またはスタフィロコッカス属などに属する細菌が含まれる。さらに具体的に、そのような細菌には、たとえば、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、ストレプトコッカス・パイオジェン(Streptococcus pyogenes)、サルモネラ・チフムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ボンゴリ(Salmonella bongori)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)またはスタフィロコッカス・エピダーミディス(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)およびシュードモナス・エルジノーザが含まれる。
【0042】
本発明の検出方法では、検出結果の信頼性を高めるために、濾過対象が液体の場合には、液体全体をサンプルとして用いる。対象の液体をすべて濾過膜を用いて濾過することにより、該液体に含まれる微生物を捕捉する。濾過対象が気体である場合には、濾過膜をエアサンプラーに適用し、エアーサンプラーによって気体を吸引することにより、該気体に含まれる微生物を捕捉する。
【0043】
本明細書において「エアサンプラー」とは、空気中の微生物を濾過膜に衝突させることによって微生物を捕捉し得る装置である限り、とくに限定されるものではない。たとえば、寒天培地を微生物が衝突するようにセットされたエアーサンプラーなどを使用することができる。寒天培地がセットされたエアーサンプラーを使用する場合には、該寒天培地に濾過膜を載せ、エアーサンプラーによって気体を吸引することにより、該気体に含まれる微生物を捕捉することができる。なお、寒天培地に濾過膜を載せると、濾過膜は湿った状態になる。乾燥状態の濾過膜を使用した場合、静電気の影響により微生物を濾過膜上に定量的に捕集できない可能性があるため、湿った状態の濾過膜を使用することが好ましい。
【0044】
本発明において、濾過に使用する濾過膜としては、濾過膜の孔径が0.2μm〜0.45μmであることが好ましい。濾過膜の孔径が0.2μm未満の場合には、目的とする微生物以外の細胞屑などが濾過膜に残存し、濾過膜が目詰まりをおこす傾向がある。濾過膜の孔径が0.45μmより大きい場合には、目的とする微生物が濾過膜を通過してしまう傾向がある。濾過膜の目詰まりを防ぐために、さらに孔径の大きい濾過膜(たとえば、孔径8μm)を重ねてもよい。また、液体に細胞の残骸が多く含まれるなど、目詰まりをおこす可能性がある液体を濾過対象とする場合には、液体を分割し、それぞれを別の濾過膜で濾過することが好ましい。1つのサンプルを複数の濾過膜で濾過した場合、下記の培養工程においてそれら複数の濾過膜をまとめてもよいし、濾過工程以降はそれぞれ単独に本発明の方法を適用してもよい。
【0045】
組織または組織等価物の浸漬液などの液体は、微生物の増殖を予防するために抗生物質を含む場合がある。そのような場合には、浸漬液を濾過した後の濾過膜に抗生物質が吸着され、続く培養工程に悪影響を与える。したがって、本発明の微生物の検出方法においては、組織または組織等価物の浸漬液などの液体を濾過した後、濾過膜をリンスすることが好ましい。濾過膜をリンスすることにより、濾過膜に吸着した抗生物質を洗い流すことができ、続く培養工程における微生物の増殖が阻害されないため、より確実に微生物を検出することができる。そのような濾過膜のリンスには、たとえばレシチン、ポリソルベート希釈液(LP希釈液)、ブドウ糖・ペプトン液体培地(GP液体培地)、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト液体培地(SCD液体培地)、チオグリコール酸培地(TG培地)、サブロー・ブドウ糖培地、ブドウ糖・ペプトン培地(GP培地)、リン酸緩衝液(pH7.2)、リン酸緩衝食塩水液(pH7.2)、ペプトン・食塩緩衝液(pH7.0)、ならびに前記培地にまたは前記緩衝液にレシチンもしくはポリソルベートを添加した培地または緩衝液などを使用することができる。真菌を検出対象とする場合の濾過膜のリンスには、GP液体培地、SCD液体培地、ポテト・デキストロース液体培地、サブロー・デキストロース液体培地、またはこれらの培地にレシチンもしくはポリソルベートを添加した培地などを使用することが好ましい。細菌を検出対象とする場合の濾過膜のリンスには、SCD液体培地、TG培地、プレインハートインフュージョン液体培地、ニュートリエント液体培地、またはこれらの培地にレシチンもしくはポリソルベートを添加した培地などを使用することが好ましい。
【0046】
本発明の微生物の検出方法において、濾過膜に捕捉された微生物は一定時間培養される。濾過膜に捕捉された微生物を培養することにより、流体に含まれる数個の微生物の検出が可能となる。
【0047】
前記培養で使用する培養培地は、少なくとも組織等価物を生体材料として使用する際に問題となる真菌および/または細菌が増殖する培地であればとくに限定されず、当業者により適宜選択され得る。たとえば、真菌および細菌を検出対象とする場合は、SCD培地またはGP培地などの培地を用いることができる。真菌のみを検出対象とする場合はGP液体培地、SCD液体培地、サブロー・ブドウ糖液体培地、ポテト・デキストロース液体培地またはサブロー・デキストロース液体培地を用いることが好ましい。細菌のみを検出対象とする場合はSCD液体培地、TG液体培地、プレインハートインフュージョン液体培地またはニュートリエント液体培地を用いることが好ましい。
【0048】
本発明の微生物の検出方法において、培養方法は振とう培養または撹拌培養であることが好ましい。
【0049】
本発明の微生物の検出方法において、微生物の培養時間は5時間から24時間が好ましく、12時間から24時間がより好ましい。細菌のみを検出対象とする場合は、培養時間を5時間から24時間とすることが好ましい。真菌を検出の対象とする場合は、培養時間を8時間から24時間とすることが好ましい。細菌の場合で5時間未満、真菌の場合で8時間未満の培養では、検出に充分な程度に微生物が増殖していない傾向がある。培養時間が24時間を超える場合には、24時間の培養と比較して検出感度が変わらない傾向がある。
【0050】
本発明の微生物の検出方法において、微生物の培養温度は、たとえば20〜37℃とすることができる。また、細菌においては培養温度を30〜35℃とすることが好ましく、真菌においては培養温度を20〜25℃とするのが好ましい。しかしながら、培養温度はこれらに限定されるものではなく、検出対象の微生物に最適な培養温度は当業者により適宜設定され得る。
【0051】
微生物の培養速度はそれぞれ異なり、真菌は細菌と比べて増殖速度が遅い傾向にある。したがって、培養物の一部を使用するのみでは、検出感度が充分とはいえない場合がある。したがって培養終了後は、増殖した微生物すべてを回収してつぎの工程で使用することが好ましいため、培養物を遠心などにより濃縮する。遠心により上清を除去し、沈殿した培養物からDNAを抽出する。DNAの抽出法としては、たとえばトリトンX−100、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤を用いるDNA抽出法など、あらゆる常法を適用することができる。抽出したDNAは、フェノール処理やクロロホルム処理を行ない、ついでエタノール沈殿法またはイソプロパノール沈殿法を実施することにより精製してもよい。
【0052】
本発明の微生物の検出方法におけるPCRには、通常のPCR法を適用することができ、鋳型として前述の工程を経て抽出されたDNAを、かつ目的の微生物のDNA配列を検出し得るプライマーを用いる限り、とくに限定されない。
【0053】
PCRは、二本鎖DNAの一本鎖への変性、一本鎖DNAとプライマーとのアニーリングおよびDNAポリメラーゼによる相補性DNAの合成というサイクルの繰り返しである。アニーリング温度は、通常、プライマーとして使用するオリゴヌクレオチドの融解温度(Tm)以下に設定する。Tmを求める式は当業者に公知であり、たとえば以下の式によりTmを算出することができる(細胞工学別冊「バイオ実験イラストレイテッド」(3)本当に増えるPCR、13〜43頁、1996年、(株)秀潤社発行)。
【0054】
Tm(℃)=4×(%GC)+2×(%AT)−2n
(%GC):オリゴヌクレオチド中のGC含量(%)
(%AT):オリゴヌクレオチド中のAT含量(%)
n:オリゴヌクレオチドの長さ
【0055】
本発明の微生物の検出方法において、PCRは、たとえば真菌と細菌とに分けて実施することができる。あるいは、1つのPCR用反応液中に2組以上のプライマー、たとえば目的の真菌に対するプライマーと目的の細菌に対するプライマーを同時に使用して、PCRを実施してもよい。
【0056】
前記PCRに用いるプライマーの配列は、たとえば、真菌または細菌において保存されており、かつ特異的な遺伝子またはその一部を増幅し得る配列を選択して設計する。真菌または細菌において保存され、かつ特異的な遺伝子としては、rRNA遺伝子が好ましい。プライマーとして最も適当な配列は、一般的に入手可能なデータベース(たとえば、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)またはRDP(Ribosomal Database Project))に基づく調査により適宜選択することができる。なお、rRNAを増幅するプライマーとしては、以下の各組み合わせが知られている。
【0057】
真菌を検出し得るプライマーは、18S rRNA遺伝子またはその一部の配列に基づいて設計することが好ましい。そのようなプライマーの組み合わせとしては、5’−ACTTTCGATGGTAGGATAG−3’(配列番号1)からなるプライマーと5’−TGATCGTCTTCGATCCCCTA−3’(配列番号2)からなるプライマーとの組み合わせ、および配列番号2と5’−CTGAGAAACGGCTACCACAT−3’(配列番号3)との組み合わせが知られており(K. Makimura, et al. (1994), J. Med. Microbiol., 40, 358-364)、本発明の検出方法に使用することができる。これらのプライマーにより、カンジダ属、サッカロマイセス属、アスペルギルス属およびハンセヌラ属などの臨床的に重要な感染症を引き起こす真菌を含む25種78菌株の18S rRNAを増幅することができる。それぞれ配列番号1および配列番号2に示す塩基配列からなる二種類のプライマーをPCRに用いた場合、そのPCR産物は約687bpである。それぞれ配列番号2および配列番号3に示す塩基配列からなる二種類のプライマーをPCRに用いた場合には、そのPCR産物は約600bpである。
【0058】
細菌を検出し得るプライマーとしては、5’−GTGCCAGCAGCCGCGGTA−3’(配列番号4)からなるプライマー(Tsuguo Sasaki, et al.(1996), PDA Journal of Pharmaceutical Sciences & Technology, 51, 242-247)と5’−ACGTCATCCCCACCTTCCTC−3’(配列番号5)からなるプライマー(Kui Chen, et al.(1989), FEMS Microbiology Letters, 57, 19-24)との組み合わせ、および配列番号4からなるプライマーと5’−AGGCCCGGGAACGTATTCAC−3’(配列番号6)からなるプライマー(前掲Kui Chen, et al.)との組み合わせが知られており、本発明の検出方法に使用することができる。これらのプライマー配列は、少なくともバチルス・ズブチルス、ストレプトコッカス・パイオジェン、シュードモナス・エルジノーザ、サルモネラ・チフムリウム、サルモネラ・ボンゴリ、エシェリキア・コリおよびストレプトコッカス・エピダーミディスの間で100%一致しており、約677bpまたは約876bpの16S rRNA遺伝子断片を増幅することができる。このほか、細菌検出用のフォワードプライマーとしては5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’(配列番号7)(P.A. Eden et al., Int. J. Syst. Bacteriol. 41, 324(1991); W. G. Weisburg et al., J. Bacteriol., 173, 697(1991);および D. A. Relman et al., Mol. Microbiol., 6, 1801(1992))、5’−TCAAAKGAATTGACGGGGGC−3’(配列番号8)(KはdTまたはdGを示す。D. A. Relman et al., N. Engl. J. Med., 327, 293(1992);および D. A. Relman et al., N. Engl. J. Med., 323, 1573(1990))、5’−GAGGAAGGTGGGGATGACGT−3’(配列番号9)(前掲D. A. Relman et al., N. Engl. J. Med., 323, 1573(1990);およびK. Chen et al., FEMS Microbiol. Lett. 48, 19(1989))などが知られており、細菌検出用のリバースプライマーとしては5’−GGACTACCAGGGTATCTAAT−3’(配列番号10)(前掲D. A. Relman et al., N. Engl. J. Med., 327, 293(1992);およびK. H. Wilson et al, J. Clin. Microbiol. 28, 1942(1990))5’−GGTTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号11)(前掲P.A. Eden et al.,; 前掲W. G. Weisburg et al.;および前掲D. A. Relman et al., Mol. Microbiol., 6, 1801(1992))などが知られている。
【0059】
細菌の前記プライマー配列と、細菌の16S rRNA遺伝子に相当するヒトの18S rRNA遺伝子配列との相同性は60%以下と低く、適切なPCRの条件を選択すればヒトの18S rRNA遺伝子断片が増幅されることはない。また、真菌の前記プライマーを用いた場合においても、適切なPCRの条件を選択すればヒトの18S rRNAの遺伝子断片が増幅されることはない。PCRの条件は当業者により適宜設定され得る。
【0060】
本発明の微生物の検出方法において、PCRにより増幅されたDNA断片(PCR産物)は、当分野において一般的に実施されている方法により、検出することができる。PCR産物の検出法としては、たとえば、アガロースゲルなどを用いる電気泳動、PCR産物に対する標識プローブを用いるハイブリダイゼーションアッセイ、またはPCR−ELISA法などの本分野における公知の検出法を適用することができる。PCRで増幅されたDNA断片(PCR産物)の塩基配列をDNAシーケンサーで解析することにより、菌種の同定も可能であると考えられる。
【0061】
ハイブリダイゼーションアッセイの場合には、PCR産物またはその一部の配列に対して相補的なオリゴヌクレオチドと検出可能な標識とからなる標識プローブを使用する。標識としては、当分野において通常使用されるあらゆる標識を利用することができ、たとえば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼもしくはベータ−D−ガラクトシダーゼなどの酵素類、蛍光色素またはラジオアイソトープを使用することができる。アルカリホスファターゼなどの酵素類を標識として使用する場合には、PCR産物と標識プローブとをハイブリダイゼーションさせ、酵素とその基質(発色物質、蛍光物質または発光物質など)とを反応させ、ついで基質の発色、蛍光または発光などを検出することにより、PCR産物を検出することができる。
【0062】
PCR−ELISA法の場合、たとえば、PCR増幅の際にジゴキシゲニン(DIG)で標識した塩基を取り込ませ、ついでDIGに対する抗体を用いるELISAを行なうことにより、PCR産物を検出することができる。
【0063】
以上のようにしてPCR産物が検出された場合は、組織、組織等価物、臓器、血液または気体などが微生物に汚染されていることを意味する。
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
以下に記載したGP液体培地、LP希釈液およびSCD液体培地などの試薬ならびに試験管、マイクロチューブ、ピンセットなどの器具はすべて、事前にオートクレーブ滅菌(121℃、20分間)した。ジャンボコニカルチューブは、日本ベクトン・ディッキンソン(株)製、カタログ番号FALCON2075を用いた。酢酸カリウムに関しては、実施例1において、フルカ(Fluka)社製、カタログ番号60035、実施例2〜4において、和光純薬工業(株)製、カタログ番号166−03545を用いた。イソプロパノールおよびエタノールは、それぞれ、和光純薬工業(株)製、カタログ番号166−04836、および和光純薬工業(株)製、カタログ番号057−00456を用いた。TE(pH8.0)に関しては、実施例1において、ニッポンジーン(株)製、カタログ番号316−90025、実施例2〜4において、ニッポンジーン(株)製、カタログ番号00579Jを用いた。濾過膜に関しては、実施例1において、孔径0.2μmの濾過膜(ザルトリウス(株)製、カタログ番号13107−47−ACN)、実施例2〜4において、孔径0.2μmの濾過膜(ポール(株)製、カタログ番号4803)、実施例5において、孔径0.45μmの濾過膜(ザルトリウス(株)製、カタログ番号13106−47−ACN)、実施例6において、孔径0.45μmの濾過膜(ザルトリウス(株)製、カタログ番号13106−47−ACN)および孔径0.2μmの濾過膜(ポール(株)製、カタログ番号4803)、実施例7において孔径0.22μmの濾過膜(ミリポア(株)製、カタログ番号ATSMTTD60)を用いた。フィルターホルダーおよびマニホールドは、アドバンテック東洋(株)製、カタログ番号KGS−47TFおよびアドバンテック東洋(株)製、型番KM−3を用いた。ディスポループ(ガンマー滅菌済み)は、アズワン製、カタログ番号GI−0457−05を用いた。ミリフレックス(正式名:ツインヘッドMilliflex センサーII吸引濾過)およびアダプター(正式名:MFPP アダプター改良型)は、それぞれ、ミリポア(株)製、カタログ番号MXPS20015、およびポール(株)製、カタログ番号Y−0705−2を用いた。エアーサンプラーとして、M Air Tミリポアテスター(ミリポア(株)製、カタログ番号ATAS PLR01)を用い、微細孔サンプリングプレートは、ミリポア(株)製、カタログ番号ATAH EAD01を用いた。PCRサーマルサイクラーMPは、宝酒造(株)製、型名TP3000を用い、ポラロイドカメラは、フナコシ(株)製、型番DS−300(M)を用いた。SYBR Greenに関しては、実施例1および5において、SYBR GreenI(×10000)(宝酒造(株)製、コード番号F0513)、実施例2〜4および6において、SYBR Green(BMA社製、カタログ番号50513)を用いた。
【0066】
実施例1
<菌液の調製>
(A) 試験管1本に、GP液体培地(ブドウ糖、ペプトン液体培地(粉末)(日本製薬(株)製、カタログ番号397−00225)28.5g/超純水1l)10mlを分注した。つぎに、該GP液体培地にカンジダ・アルビカンス(財団法人発酵研究所における受託番号IFO 1594菌株)のコロニー1個を接種し、ピペッティングにより菌体を充分に分散させた。この菌液を、室温(約25)℃で18時間培養した。
【0067】
(B) 試験管10本に、GP液体培地を9mlずつ分注した。GP液体培地を分注した試験管の1本に、マイクロピペットを用いて前記(A)で調製した菌液1mlを添加して混合し、10倍希釈液を調製した。チップを交換し、以後同様にして、1010倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例1においては、106〜1010倍希釈菌液を使用した。
【0068】
(C) 容量225mlのジャンボコニカルチューブ6本それぞれに、ウシ胎児血清(JRHバイオサイエンシーズ社(JRH Biosciences, Inc.)製)を3%含有するGreen培地(Green+3%FBS)150mlを入れ、さらに、ストレプトマイシン、ペニシリンおよびアンホテリシンBからなる抗生物質(ライフテックオリエンタル(株)製、カタログ番号15240−096、最終濃度:ストレプトマイシン 100μg/ml、ペニシリン 100単位/ml、アンホテリシンB 0.25μg/ml)1.5mlを各チューブに添加し、混合した。ついで、前記(B)で調製した106〜1010倍希釈菌液をそれぞれ1.0mlずつ添加し、混合した。なお、希釈菌液のかわりにGP液体培地1.0mlを添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0069】
<菌液の濾過>
孔径0.2μmの濾過膜をフィルターホルダーにセットし、ついでフィルターホルダーをマニホールドにセットした。つぎに、50mlピペットを用いて前記(C)で調製したサンプル50mlをファネルに入れ、すべて吸引濾過した。吸引濾過をさらに2回繰り返し、サンプルのすべてを吸引濾過した。
【0070】
<濾過膜のリンス>
LP希釈液(LP希釈液「ダイゴ」(日本製薬(株)製、カタログ番号397−00281)2本/超純水2l、最終濃度:ポリペプトン 1g/l、レシチン 0.7g/l、ポリソルベート80 20g/l、pH7.0〜7.4)50mlをファネルに添加し、ついで吸引濾過することにより、ファネルの内壁をリンスした。同様のリンスをさらに2回繰り返した。
【0071】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、30mlのGP液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで室温(25℃)で一晩(15〜20時間)、振とう培養を実施した。
【0072】
<菌体の回収>
一晩培養した後、ピンセットによりGP液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。GP液体培地を遠心し(2000g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(15000g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0073】
<PCR用の鋳型の調製>
各マイクロチューブに溶解液(100mM トリス・HCl(pH7.5)、30mM EDTA・2Na、0.5%(重量/容量)SDS)を100μlずつ添加し、菌体を懸濁した。ボルテックスミキサーにより菌体を5秒間撹拌し、ついで、100℃で15分間インキュベーションした。各マイクロチューブに2.5Mの酢酸カリウム溶液100μlを添加、混合したのち、氷上で60分間インキュベーションした。各マイクロチューブを4℃で遠心し(12000rpm、5分間)、上清を新しいマイクロチューブに移した。上清と同量のイソプロパノールを添加し、DNAの沈殿物を得た。各マイクロチューブを遠心し(15000rpm、10分間)、静かに上清を除去した。ついで、99%エタノール0.5mlを添加し、混合したのち、4℃で遠心して(15000rpm、10分間)上清を除去した。沈殿物に70%エタノール0.5mlを添加し、混合したのち、さらに4℃で遠心して(15000rpm、10分間)上清を除去した。沈殿物をペーパータオル上で軽く乾燥させたのち、50μlのTE(pH8.0)を添加し、DNAを溶解した。
【0074】
<PCR>
反応混合液50μlを0.2mlのPCRチューブに調製し、氷上で保持した。反応混合液の組成は、5μlの(10×)PCR緩衝液(Taqポリメラーゼの付属品)、4μlのdNTP混合液(Taqポリメラーゼの付属品)、プライマー各0.3μM、2.5μlの鋳型DNA、0.25μlのTaqポリメラーゼ(5U/μl)(宝酒造(株)製、カタログ番号R001A)および超純水である。プライマーとしては、配列番号1および配列番号2に示す配列を有する2種のプライマーを用いた。また、鋳型DNAとしては、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>において調製されたカンジダ・アルビカンス IFO 1594菌株のDNAを用いた。なお、本実施例で用いたdNTP混合液は、dATP、dTTP、dCTPおよびdGTPを各2.5mM含有する溶液である。
【0075】
PCRサーマルサイクラーMPに各PCRチューブをセットし、つぎのプログラムでPCRを実施した。本実施例において、PCRは、95℃で5分間インキュベーションし、ついで95℃で45秒間、55℃で1分間および72℃で2分間を1サイクルとしてこれを30サイクル行ない、さらに72℃で10分間インキュベーションすることで実施した。アニーリング温度は、前述の式により算出したプライマーの融解温度を参考にして設定した。
【0076】
<アガロース電気泳動>
泳動バッファー(1×TAE)を、つぎのようにして調製した。9.6gのトリス・HCl(pH8.0)、1.48gのEDTAおよび2.28mlの酢酸を超純水1900mlに溶解した。1NのNaOHで溶液をpH8.1に調整したのち、さらに超純水を加えて2000mlとした。
【0077】
前記PCR産物50μlに10μlのローディングバッファー(ブロモフェノールブルー0.25%(重量/容量)、グリセロール25%(容量/容量)、超純水)を加えて混合した。ついで、これらのサンプル20μlをアガロースゲル(アガロースS(ニッポンジーン(株)製、カタログ番号312−01193)1.2g/1×TAE 100ml)にローディングし、100Vで25分間、電気泳動を実施した。
【0078】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR GreenI(×10000)を10μl加え、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0079】
PCR産物の染色の結果、106倍希釈菌液および107倍希釈菌液からカンジダ・アルビカンス IFO 1594菌株のDNAが検出された。以下の試験例に記載のように、107倍希釈菌液中の生菌数は1個であった。
【0080】
試験例1
実施例1の菌液の調製(B)において調製した希釈菌液中の生菌数を、以下の混釈法により測定した。すなわち、前記105〜1010倍希釈菌液1mlを直径90mmシャーレに分注した(n=2)。各シャーレに、オートクレーブ後45℃に保持していたサブロー・ブドウ糖寒天培地(サブロー・ブドウ糖寒天培地(粉末)(日本製薬(株)製、カタログ番号390−01011)32.5g/超純水500ml)を15mlずつ分注して、穏かに撹拌し、寒天が固化するまで静置した。寒天が固化したのち、各シャーレを倒置して25℃のインキュベータ内で培養した。培養から4日後および5日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0081】
測定の結果、107倍希釈菌液に含まれるカンジダ・アルビカンス IFO 1594菌株は1個であった。
【0082】
実施例2
<菌液の調製>
(A) カンジダ・アルビカンス IFO 1594菌株のコロニー1個を採取し、サブロー・ブドウ糖寒天培地(試験例1と同様に作製)に塗抹し、30℃で24時間培養した。
【0083】
(B) 試験管10本に、GP液体培地を9mlずつ分注した。GP液体培地を分注した試験管の1本に、前記(A)で培養したコロニーをディスポループ2ループ分を接種し、10mlピペットで菌を懸濁して10倍希釈液を調製した。得られた菌液1mlを、GP液体培地を分注した試験管の1本にマイクロピペットを用いて添加して混合し、102倍希釈液を調製した。チップを交換し、以後同様にして、108倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例2においては105〜108倍希釈菌液を使用した。
【0084】
(C) 容量225mlのジャンボコニカルチューブ1本に、180mlのGP培地を入れ、さらに、50mg/mlのゲンタマイシン(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15750−060)および250μg/mlのアンホテリシンB(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15290―018)をそれぞれ900μlを添加し、混合した。
【0085】
<菌液の濾過>
ミリフレックスにアダプターをセットし、ついで孔径0.2μmの濾過膜を装着したファネルをアダプターにセットした。つぎに、25mlピペットを用いて前記(C)で調製したGP液体培地30mlおよび(B)で調製した105倍希釈菌液1.0mlをそれぞれファネルに入れて混合し、吸引濾過した。106〜108倍希釈菌液についても、同様に操作を行なった。なお、希釈菌液のかわりにGP液体培地を1.0ml添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0086】
<濾過膜のリンス>
LP希釈液(実施例1と同様に作製)50mlをファネルに添加し、ついで吸引濾過することにより、ファネルの内壁をリンスした。同様のリンスをさらに2回繰り返した。
【0087】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、25mlのGP液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで室温(25℃)で20時間、振とう培養を実施した。
【0088】
<菌体の回収>
培養後、ピンセットによりGP液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。GP液体培地を遠心し(1310g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(16100g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0089】
<PCR用の鋳型の調製>
PCR用の鋳型の調製は、実施例1の<菌体の回収>において回収された菌体の代わりに、実施例2の<菌体の回収>において回収された菌体を使用するほかは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>と同様に行なった。
【0090】
<PCR>
PCRは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAの代わりに、実施例2の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAを使用するほかは、実施例1の<PCR>と同様の条件で行なった。
【0091】
<アガロース電気泳動>
アガロース電気泳動は、実施例1の<PCR>において増幅されたPCR産物の代わりに、実施例2の<PCR>において増幅されたPCR産物を使用するほかは、実施例1の<アガロース電気泳動>と同様に行なった。
【0092】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR Greenを10μl加え、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0093】
PCR産物の染色の結果、105倍、106倍および107倍希釈菌液からカンジダ・アルビカンス IFO 1594菌株のDNAが検出された。
【0094】
試験例2
実施例2の菌液の調製(B)において調製した希釈菌液中の生菌数を、以下の混釈法により測定した。すなわち、前記105〜108倍希釈菌液1mlを直径90mmシャーレに分注した(105倍、106倍および108倍希釈菌液に関してはn=2、107倍希釈菌液に関してはn=4)。各シャーレに、オートクレーブ後50℃に保持していたサブロー・ブドウ糖寒天培地(実施例1と同様に作製)を14mlずつ分注して、穏かに撹拌し、寒天が固化するまで静置した。寒天が固化したのち、各シャーレを倒置して25℃のインキュベータ内で培養した。培養から4日後および5日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0095】
測定の結果、105倍、106倍および107倍希釈菌液に含まれる生菌数は、それぞれ、111個、9.5個および2.5個であった。
【0096】
実施例3
<菌液の調製>
(A) サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)における受託番号ATCC 9763菌株)のコロニー1個を採取し、サブロー・ブドウ糖寒天培地(試験例1と同様に作製)に塗抹し、32℃で24時間培養した。
【0097】
(B) 試験管10本に、GP液体培地を9mlずつ分注した。GP液体培地を分注した試験管の1本に、前記(A)で培養したコロニーをディスポループ2ループ分を接種し、10mlピペットで菌を懸濁して10倍希釈液を調製した。得られた菌液1mlを、GP液体培地を分注した試験管の1本にマイクロピペットを用いて添加して混合し、102倍希釈液を調製した。チップを交換し、以後同様にして、108倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例3においては104〜108倍希釈菌液を使用した。
【0098】
(C) 容量225mlのジャンボコニカルチューブ1本に、180mlのGP培地を入れ、さらに、50mg/mlのゲンタマイシン(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15750−060)および250μg/mlのアンホテリシンB(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15290―018)をそれぞれ900μlを添加し、混合した。
【0099】
<菌液の濾過>
ミリフレックスにアダプターをセットし、ついで孔径0.2μmの濾過膜を装着したファネルをアダプターにセットした。つぎに、25mlピペットを用いて前記(C)で調製したGP液体培地30mlおよび(B)で調製した104倍希釈菌液1.0mlをそれぞれファネルに入れて混合し、すべて吸引濾過した。105〜108倍希釈菌液についても、同様に操作を行なった。なお、希釈菌液のかわりにGP液体培地を1.0ml添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0100】
<濾過膜のリンス>
ポリソルベート加洗浄液「ダイゴ」(日本製薬(株)製、カタログ番号395−01561)約100mlをデカンテーションでファネルに添加し、ついで吸引濾過することにより、ファネルの内壁をリンスした。同様の操作をさらに2回繰り返し、合計300mlの洗浄液で濾過膜をリンスした。
【0101】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、30mlのGP液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで室温(25℃)で20時間、振とう培養を実施した。
【0102】
<菌体の回収>
培養後、ピンセットによりGP液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。GP液体培地を遠心し(2000g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(15000g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0103】
<PCR用の鋳型の調製>
PCR用の鋳型の調製は、実施例1の<菌体の回収>において回収された菌体の代わりに、実施例3の<菌体の回収>において回収された菌体を使用するほかは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>と同様に行なった。
【0104】
<PCR>
PCRは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAの代わりに、実施例3の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAを使用するほかは、実施例1の<PCR>と同様の条件で行なった。
【0105】
<アガロース電気泳動>
アガロース電気泳動は、実施例1の<PCR>において増幅されたPCR産物の代わりに、実施例3の<PCR>において増幅されたPCR産物を使用するほかは、実施例1の<アガロース電気泳動>と同様に行なった。
【0106】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR Greenを10μl加え、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0107】
PCR産物の染色の結果、104倍、105倍、106倍および107倍希釈菌液からサッカロマイセス・セレビシエ ATCC 9763菌株のDNAが検出された。108倍希釈菌液からはサッカロマイセス・セレビシエ ATCC 9763菌株のDNAは検出されなかった。
【0108】
試験例3
実施例3の菌液の調製(B)において調製した希釈菌液中の生菌数を、以下の混釈法により測定した。すなわち、前記104〜108倍希釈菌液1mlを直径90mmシャーレに分注した(n=3)。各シャーレに、オートクレーブ後50℃に保持していたサブロー・ブドウ糖寒天培地(実施例1と同様に作製)を14mlずつ分注して、穏かに撹拌し、寒天が固化するまで静置した。寒天が固化したのち、各シャーレを倒置して32.5℃のインキュベータ内で培養した。培養から4日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0109】
測定の結果、104倍、105倍、106倍および107倍希釈菌液に含まれる生菌数は、それぞれ、100個以上、42.3個、2.3個および0.3個であった。108倍希釈菌液に関しては、コロニーは検出されなかった。
【0110】
実施例4
<菌液の調製>
(A) 試験管1本に、GP液体培地(実施例1と同様に作製)10mlを分注した。つぎに、該GP液体培地にアスペルギルス・フミガタス(財団法人発酵研究所における受託番号IFO 33022菌株)の胞子および菌子をディスポループ1ループ分を接種し、GP液体培地に懸濁した。この菌液を、25℃で20時間培養した。
【0111】
(B) 試験管5本に、GP液体培地を9mlずつ分注した。GP液体培地を分注した試験管の1本に、5mlピペットを用いて前記(A)で調製した菌液1mlを添加して混合し、10倍希釈液を調製した。ピペットを交換し、以後同様にして、103倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例4においては前記(A)で調製した菌液(原液)〜103倍希釈菌液を使用した。
【0112】
<菌液の濾過>
ミリフレックスにアダプターをセットし、ついで孔径0.2μmの濾過膜を装着したファネルをアダプターにセットした。つぎに、25mlピペットを用いてGP液体培地30mlおよび(B)で調製した菌液(原液)1.0mlをそれぞれファネルに入れて混合し、すべて吸引濾過した。101〜103倍希釈菌液についても、同様に操作を行なった。なお、希釈菌液のかわりにGP液体培地を1.0ml添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0113】
<濾過膜のリンス>
実施例4においては抗生物質を使用しなかったので、ファネルの内壁をリンスしなかった。
【0114】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、30mlのGP液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで27℃で20時間、振とう培養を実施した。
【0115】
<菌体の回収>
培養後、ピンセットによりGP液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。GP液体培地を遠心し(1310g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(16100g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0116】
<PCR用の鋳型の調製>
PCR用の鋳型の調製は、実施例1の<菌体の回収>において回収された菌体の代わりに、実施例4の<菌体の回収>において回収された菌体を使用するほかは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>と同様に行なった。
【0117】
<PCR>
PCRは、実施例1の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAの代わりに、実施例4の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAを使用するほかは、実施例1の<PCR>と同様の条件で行なった。
【0118】
<アガロース電気泳動>
アガロース電気泳動は、実施例1の<PCR>において増幅されたPCR産物の代わりに、実施例4の<PCR>において増幅されたPCR産物を使用するほかは、実施例1の<アガロース電気泳動>と同様に行なった。
【0119】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR Greenを10μl加え、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0120】
PCR産物の染色の結果、1倍、10倍、102倍および103倍希釈菌液からアスペルギルス・フミガタス IFO 33022菌株のDNAが検出された。
【0121】
試験例4
アスペルギルス・フミガタス IFO 33022菌株は菌糸をもち胞子を形成するカビであるため、菌体の希釈菌液の検出感度をコロニー数(cfu)で示すことができない。そこで、アスペルギルス・フミガタス IFO 33022菌株の希釈菌液の検出感度をコロニー数(cfu)で示すのではなく、DNA量で表示した。すなわち、1倍、10倍、102倍および103倍希釈菌液のPCR用鋳型(DNA)を抽出し(実施例1と同様)この鋳型8μlをマイクロチューブに入れ、TE72μlと混合して10倍希釈した。TEを対象として、この鋳型の260nmの吸光度をUV可視分光光度計(ベックマンコールター製、型番DU640)を用いて測定した。DNA量を求める式は当業者に公知であり、例えば以下の式によりDNA量を算出することができる(細胞工学別冊「バイオ実験イラストレイテッド」(1)分子生物学の基礎、61〜62頁、1995年、(株)秀潤社発行)。
【0122】
2本鎖DNA(μg/μl)=(260nm吸光度)×0.05×希釈倍率
【0123】
260nmの吸光度の測定の結果、1倍、10倍、102倍および103倍希釈菌液に含まれるアスペルギルス・フミガタス IFO 33022菌株のDNA量はそれぞれ0.9μg、0.67μg、68.3ngおよび4.25ngであった。このことから、アスペルギルス・フミガタス IFO 33022菌株のDNA量が4.25ngあれば、同様の方法で検出できることが明らかとなった。
【0124】
実施例5
<菌液の調製>
(D) 試験管1本に、SCD液体培地(ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト粉末培地(日本製薬(株)製、カタログ番号396−00991)8.5g/超純水500ml)10mlを分注した。つぎに、該SCD液体培地にバチルス・ズブチルス(財団法人発酵研究所における受託番号IFO 3134)のコロニー1個を接種し、ピペッティングにより菌体を充分に分散させた。
【0125】
(E) 試験管10本に、SCD液体培地を9mlずつ分注した。SCD液体培地を分注した試験管の1本に、マイクロピペットを用いて前記(D)で調製した菌液1mlを添加して混合し、10倍希釈液を調製した。チップを交換し、以後同様にして、108倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例5においては、105〜108倍希釈菌液を使用した。
【0126】
(F) 容量225mlのジャンボコニカルチューブ8本それぞれに、150mlのGreen+3%FBSを入れ、さらに、ゲンタマイシン(インビトロジェン(株)製のカタログ番号15750−060)およびアンホテリシンB(商品名「ファンギゾン」、インビトロジェン(株)製、カタログ番号15290−018)をそれぞれ50μg/ml、0.25μg/mlの濃度になるように添加した。ついで、前記(E)で調製した105〜108倍希釈菌液をそれぞれ1.0mlずつ添加し、混合した。なお、希釈菌液のかわりにSCD液体培地1.0mlを添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0127】
<菌液の濾過>
孔径0.45μmの濾過膜をフィルターホルダーにセットし、ついでフィルターホルダーをマニホールドにセットした。つぎに、50mlピペットを用いて前記(F)で調製したサンプル50mlをファネルに入れ、すべて吸引濾過した。吸引濾過をさらに2回繰り返し、サンプルのすべてを吸引濾過した。
【0128】
<濾過膜のリンス>
LP希釈液(実施例1と同様に作製)50mlをファネルに添加し、ついで吸引濾過することにより、ファネルの内壁をリンスした。同様のリンスをさらに2回繰り返した。
【0129】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、30mlのSCD液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで35℃で一晩(12〜18時間)、振とう培養を実施した。
【0130】
<菌体の回収>
一晩培養した後、ピンセットによりSCD液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。SCD液体培地を遠心し(2000g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(15000g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0131】
<PCR用の鋳型の調製>
各マイクロチューブの懸濁液0.5mlを、1.5mlエッペンドルフチューブに移し、4℃で遠心した(15000g、10分間)。遠心後、上清を除去し、沈殿をトリトンX−100を含むTE(10mM トリス・HCl(pH8.0)、1mM EDTA、1.0%(重量/容量)トリトンX−100)50μlに懸濁した。ついで、各サンプルを100℃で20分間処理し、氷上に静置した。
【0132】
<PCR>
反応混合液50μlを0.2mlのPCRチューブに調製し、氷上で保持した。プライマーとしては、配列番号4および配列番号5に示す配列を有する2種のプライマーを用いた。また、鋳型DNAとしては、実施例5の<PCR用の鋳型の調製>において調製されたバチルス・ズブチルス IFO 3134のDNAを用いた。反応混合液の組成は、プライマー各0.5μMおよび2.0μlの鋳型DNAを用いたほかは実施例1の反応混合液と同様の組成である。
【0133】
PCRサーマルサイクラーMPに各PCRチューブをセットし、つぎのプログラムでPCRを実施した。本実施例において、PCRは、94℃で2分間インキュベーションし、ついで94℃で1分間、61℃で1分間および72℃で1分間を1サイクルとしてこれを30サイクル行ない、さらに72℃で1分間インキュベーションすることで実施した。アニーリング温度は、前述の式により算出したプライマーの融解温度を参考にして設定した。
【0134】
<アガロース電気泳動>
前記PCR産物50μlに10μlのローディングバッファーを加えて混合した。ついで、これらのサンプル15μlをアガロースゲル(アガロースS 2.9g/1×TAE 100ml)にローディングし、100Vで30分間、電気泳動を実施した。
【0135】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR GreenI(×10000)を10μl加えて混合し、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0136】
PCR産物の染色の結果、105〜108倍希釈菌液すべてからバチルス・ズブチルス IFO 3134のDNAが検出された。以下の試験例5に記載のように、106倍、107倍、および108倍希釈菌液に含まれるバチルス・ズブチルスは、それぞれ30個、4個および0.5個であった。
【0137】
試験例5
実施例5の菌液の調製(E)において調製した希釈菌液中の生菌数を、以下の混釈法により測定した。すなわち、前記105〜108倍希釈菌液1mlを直径90mmシャーレに分注した(n=2)。各シャーレに、オートクレーブ後45℃に保持していたSCD寒天培地(SCD寒天培地(日本製薬(株)製、カタログ番号396−00991)8.0g/超純水200ml)を15mlずつ分注して、穏かに撹拌し、寒天が固化するまで静置した。寒天が固化したのち、各シャーレを倒置して35℃のインキュベータ内で培養した。培養から4日後および5日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0138】
測定の結果、105倍、106倍、107倍、および108倍希釈菌液に含まれるバチルス・ズブチルス IFO 3134は、それぞれ200個、30個、4個および0.5個であった。
【0139】
実施例6
<菌液の調製>
(D) シュードモナス・エルジノーザ(財団法人発酵研究所における受託番号IFO 13275菌株)のコロニー1個を採取し、SCD寒天培地(試験例5と同様に作製)に塗抹し、32.5℃で24時間培養した。
【0140】
(E) 試験管11本に、SCD液体培地(実施例5と同様に作製)を9mlずつ分注した。SCD液体培地を分注した試験管の1本に、前記(D)で培養したコロニーをディスポループ2ループ分を接種し、10mlピペットで菌を懸濁した。得られた菌液1mlを、SCD液体培地を分注した試験管の1本にマイクロピペットを用いて添加して混合し、10倍希釈液を調製した。チップを交換し、以後同様にして、1010倍希釈菌液を得るまで希釈を繰り返した。以下、実施例6においては、106〜1010倍希釈菌液を使用した。
【0141】
(F) 容量225mlのジャンボコニカルチューブ6本それぞれに、150mlのSCD液体培地を入れ、さらに、50mg/mlのゲンタマイシン(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15750−060)および250μg/mlのアンホテリシンB(インビトロジェン(株)製、カタログ番号15290―018)をそれぞれ150μlを添加し、混合した。ついで、前記(E)で調製した106〜1010倍希釈菌液をそれぞれ1.0mlずつ添加し、混合した。なお、希釈菌液のかわりにSCD液体培地1.0mlを添加したものを、ネガティブコントロールとした。
【0142】
<菌液の濾過>
孔径0.45μmの濾過膜をフィルターホルダーにセットし、ついでフィルターホルダーをマニホールドにセットした。つぎに、50mlピペットを用いて前記(F)で調製したサンプル50mlをファネルに入れ、すべて吸引濾過した。吸引濾過をさらに2回繰り返し、サンプルのすべてを吸引濾過した。
【0143】
<濾過膜のリンス>
LP希釈液(実施例1と同様に作製)50mlをファネルに添加し、ついで吸引濾過することにより、ファネルの内壁をリンスした。同様のリンスをさらに2回繰り返した。
【0144】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、ピンセットで濾過膜を取りだし、30mlのSCD液体培地を入れた50ml遠沈管に濾過膜を浸漬し、ついで35℃で19時間、振とう培養を実施した。
【0145】
<菌体の回収>
培養後、ピンセットによりSCD液体培地から濾過膜を無菌的に除去した。SCD液体培地を遠心し(1310g、10分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(16100g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0146】
<PCR用の鋳型の調製>
PCR用の鋳型の調製は、実施例5の<菌体の回収>において回収された菌体の代わりに、実施例6の<菌体の回収>において回収された菌体を使用するほかは、実施例5の<PCR用の鋳型の調製>と同様に行なった。
【0147】
<PCR>
PCRは、実施例5の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAの代わりに、実施例6の<PCR用の鋳型の調製>において調製された鋳型DNAを使用するほかは、実施例5の<PCR>と同様に行なった。
【0148】
<アガロース電気泳動>
アガロース電気泳動は、実施例5の<PCR>において増幅されたPCR産物の代わりに、実施例6の<PCR>において増幅されたPCR産物を使用するほかは、実施例5の<アガロース電気泳動>と同様に行なった。
【0149】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR Greenを10μl加えて混合し、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0150】
PCR産物の染色の結果、106倍、107倍および108倍希釈菌液からシュードモナス・エルジノーザIFO 13275菌株のDNAが検出された。109倍および1010倍希釈菌液からはシュードモナス・エルジノーザIFO 13275菌株のDNAは検出されなかった。
【0151】
試験例6
実施例6の菌液の調製(E)において調製した希釈菌液中の生菌数を、以下の混釈法により測定した。すなわち、前記106〜1010倍希釈菌液1mlを直径90mmシャーレに分注した(n=3)。各シャーレに、オートクレーブ後50℃に保持していたSCD寒天培地(試験例5と同様に作製)を15mlずつ分注して、穏かに撹拌し、寒天が固化するまで静置した。寒天が固化したのち、各シャーレを倒置して35℃のインキュベータ内で培養した。培養から3日後および5日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0152】
測定の結果、106倍、107倍および108倍希釈菌液に含まれる生菌数は、それぞれ、100個以上、34個および2.7個であった。109倍および1010倍希釈菌液に関しては、コロニーは検出されなかった。なお、同様の実験を4回繰り返し行なったが、いずれも生菌数が1〜数個でも検出が可能であった。
【0153】
さらに、0.45μmの孔径の濾過膜の代わりに孔径0.2μmの濾過膜を用いて同様の実験を行なった場合も、シュードモナス・エルジノーザ IFO 13275菌株のDNAは検出された。
【0154】
実施例1〜3、5および6ならびに試験例1〜3、5および6の結果より、濾過前の生菌数が1〜数個の場合でも、菌体の存在を検出できることが分かった。また、実施例1〜3、5および6の結果より、培地に抗生物質が含まれている場合でも、濾過前に1〜数個の菌体が存在すれば、菌体の存在を検出できること、および、実施例4の結果より、抗生物質が含まれていない場合でも、数個の菌体が存在すれば、菌体の存在を検出できることが分かった。このことは、組織もしくは組織等価物の浸漬液、臓器の浸漬液または血液に少数の菌体が存在すれば、抗生物質が含まれているか否かにかかわらず、菌体の存在を検出できることを意味する。
【0155】
濾過膜の孔径に関しては、実施例6の結果より、孔径0.2μmおよび孔径0.45μmの濾過膜のどちらの濾過膜を使用しても、細菌の存在を検出できることが分かった。また、一般的に真菌は細菌よりもサイズが大きいことから、実施例6の結果は孔径0.45μmの濾過膜を使用した場合でも、真菌の存在を検出できることを意味する。
【0156】
実施例7
<気体の濾過>
M Air TミリポアテスターにM Air TカセットTSA培地充填済み(以下、TSA培地をSCD寒天培地と称する)をセットし、ついでSCD寒天培地の蓋を開け、ピンセットを用いてSCD寒天培地上に滅菌した孔径0.22μmの濾過膜を載せた。ついでM Air Tミリポアテスターに微細孔サンプリングプレートをセットし、蓋をした。つぎに、微生物を含むと思われる非清浄区域(メニコンBIOセンター、2階機械室)における空気200リットルを、M Air Tミリポアテスターを用いて吸引した。なお、濾過膜は直径70mmのサイズに切断し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)したものを使用した。
【0157】
<濾過膜に捕捉された菌体の培養>
吸引濾過後、微細孔サンプリングプレートを外し、ピンセットで濾過膜を取りだし、50mlのSCD液体培地(日本製薬(株)製、カタログ番号396−00991)8.5g/蒸留水500ml)を入れたγ線滅菌済みのコンテナ(アシスト(株)製、カタログ番号75.9922.414S)に濾過膜を浸漬し、ついで30℃で22時間、振とう培養を実施した。なお、コンテナにSCD液体培地50mlを入れたものを、ネガティブコントロールとし、30℃で22時間、振とう培養を実施した。
【0158】
<菌体の回収>
培養後、培養物をそれぞれ50ml遠沈管に移し、ついで遠心し(3000g、15分間)、上清を静かに除去した。沈殿を1.0mlのPBS(−)に懸濁し、懸濁液をマイクロチューブに移した。マイクロチューブを4℃で遠心し(15000g、10分間)、上清を静かに除去した。
【0159】
<PCR用の鋳型の調製>
各マイクロチューブにトリトンX−100を含むTE(実施例5と同様に作製)を100μlずつ添加し、菌体を懸濁した。ついで、各サンプルを100℃で20分間処理し、氷上に静置した。
【0160】
<PCR>
反応混合液50μlを0.2mlのPCRチューブに調製し、氷上で保持した。プライマーとしては、配列番号4および配列番号5に示す配列を有する2種のプライマーを用いた。また、鋳型DNAとしては、実施例7の<PCR用の鋳型の調製>において調製されたDNAを用いた。反応混合液の組成は、0.5μMの配列番号4に示す配列を有するプライマー、1μMの配列番号5に示す配列を有するプライマー、0.5μlのTaqポリメラーゼ(5U/μl)および2.0μlの鋳型DNAを用いたほかは実施例1の反応混合液と同様の組成である。
【0161】
PCRサーマルサイクラーMPに各PCRチューブをセットし、実施例5の<PCR>と同様のプログラムでPCRを実施した。
【0162】
<アガロース電気泳動>
アガロース電気泳動は、実施例5の<PCR>において増幅されたPCR産物の代わりに、実施例7の<PCR>において増幅されたPCR産物を使用するほかは、実施例5の<アガロース電気泳動>と同様に行なった。
【0163】
<PCR産物の染色>
100mlの1×TAEにSYBR Greenを10μl加えて混合し、染色液を調製した。電気泳動後のアガロースゲルを染色液に浸漬し、暗所で2時間静置させた。ついで、アガロースゲルにUV(λ=254nm)を照射し、ポラロイドカメラを用いて写真を撮影した。
【0164】
PCR産物の染色の結果、メンブレンを入れて培養した培地から680bp付近にバンドが検出された。なお、ネガティブコントロールからはバンドは検出されなかった。680bp付近にバンドが検出されたことから、配列番号4および配列番号5に示す配列を有する2種のプライマーによって検出される細菌であることが推測された。
【0165】
比較例1
M Air TミリポアテスターにM Air TカセットTSA培地充填済み(以下、TSA培地をSCD寒天培地と称する)をセットし、ついでSCD寒天培地の蓋を開けたのち、微細孔サンプリングプレートをセットし、蓋をした。つぎに、実施例7と同様、微生物を含むと思われる非清浄区域(メニコンBIOセンター、2階機械室)における空気200リットルを、M Air Tミリポアテスターを用いて吸引した。なお、空気の吸引は、実施例7とほぼ同時に行なった。微細孔サンプリングプレートを外し、寒天培地に蓋をし、27℃のインキュベータ内で培養した。培養から1日後、2日後、3日後、4日後および7日後に、形成されたコロニー数を目視で計測した。
【0166】
測定の結果、1日後、2日後、3日後、4日後および7日後に検出されたコロニー数は、それぞれ、0個、4個、6個、8個および8個であった。したがって、比較例1の方法では、菌体の捕捉から微生物を検出するまでに少なくとも2日以上必要であることが分かる。
【0167】
一方、実施例7の方法を用いれば、菌体を午後に採取した場合、次の日の午後には検査結果を得ることができる(約30時間)。また、実施例7の方法を用いると、菌体は濾過膜上に捕捉されるため、濾過対象の気体が大量である場合でも、エアーサンプラーに設置する寒天培地を一定量の気体を吸引する毎に交換することなく、濾過膜を交換することによって、1枚の寒天培地だけで微生物の検出が可能である。さらに、PCRで増幅されたDNA断片(PCR産物)の塩基配列をDNAシーケンサーで解析することにより、菌種の同定も可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0168】
配列番号1:真菌の18SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号2:真菌の18SリボソームRNA遺伝子の検出用リバースプライマー
配列番号3:真菌の18SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号4:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号5:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用リバースプライマー
配列番号6:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用リバースプライマー
配列番号7:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号8:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号9:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用フォワードプライマー
配列番号10:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用リバースプライマー
配列番号11:細菌の16SリボソームRNA遺伝子の検出用リバースプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質を含む組織または組織等価物の浸漬液、臓器の浸漬液および血液中の微生物の検出方法であって、
(1)濾過膜を用いて抗生物質を含む組織または組織等価物の浸漬液、臓器の浸漬液および血液を濾過する工程、
(2)得られた濾過膜をリンスする工程、
(3)濾過膜を液体培地に浸漬し、該濾過膜に捕捉された微生物を培養する工程、
(4)培養物を濃縮する工程、
(5)濃縮培養物から微生物のDNAを抽出する工程、
(6)抽出したDNAを鋳型としてPCRを実施する工程、および
(7)得られたPCR産物を検出する工程
を含む微生物の検出方法。
【請求項2】
前記工程(3)における培養時間が、5時間から24時間である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が真菌または細菌である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記濾過膜の孔径が0.2〜0.45μmである請求項1、2または3記載の方法。
【請求項5】
前記工程(6)におけるPCRが、それぞれ配列番号1および配列番号2に示される塩基配列からなる2種類のプライマーを用いて実施される請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項6】
前記工程(6)におけるPCRが、それぞれ配列番号4および配列番号5に示される塩基配列からなる2種類のプライマー、またはそれぞれ配列番号4および配列番号6に示される塩基配列からなる2種類のプライマーを用いて実施される請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項7】
前記工程(7)における検出が、アガロースゲルを用いる電気泳動またはハイブリダイゼーションアッセイにより実施される請求項1、2、3、4、5または6記載の方法。
【請求項8】
前記組織等価物が培養皮膚または培養角膜である請求項1、2、3、4、5、6または7記載の方法。
【請求項9】
前記培養皮膚が培養表皮、培養真皮または複合培養皮膚である請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2009−82153(P2009−82153A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20579(P2009−20579)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【分割の表示】特願2003−114435(P2003−114435)の分割
【原出願日】平成15年4月18日(2003.4.18)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】