説明

微生物の検出方法

【課題】液体サンプル中の微生物をフィルター上に捕集及び染色して検出するに際し、染色ノイズの発生を抑制し、高い感度及び精度で簡便に検出できる微生物の検出方法の提供。
【解決手段】液体をフィルター4に供給する供給口11を有するファンネル1及びフィルター4を使用し、微生物を含有する液体サンプルをろ過し、フィルター4上に微生物を捕集する工程(1)と、染色液をろ過し、捕集された微生物を染色する工程(2)と、洗浄液をろ過し、フィルター4を洗浄する工程(3)とを行うに際し、工程(3)で洗浄液のろ過面を、工程(1)の液体サンプル及び工程(2)の染色液のそれぞれのろ過面を包含するように拡大して、洗浄液をろ過する。ろ過面の拡大は、リング状の内径調整具2を工程(1)及び(2)で装着し、工程(3)で外すことで行うのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター上に捕集した微生物を染色して検出するに際し、フィルターの染色ノイズ発生を抑制可能なフィルターろ過システム、該ろ過システムに使用する、ろ過面の面積を変更可能な調整具、及びこれらフィルターろ過システム又は調整具の使用に好適な微生物の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体サンプル中に含有される微生物の検出は、飲食品の品質検査や、生化学分野の各種試験において種々汎用されている技術である。
そして、微生物の検出方法としては、従来、例えば、図10に示すようなフィルターろ過装置を使用して、フィルター上に微生物を補修し、これを染色して検出する方法が汎用されている。
より具体的には、ファンネル7、フィルター8及びベース9を使用してろ過装置を組み立て、まず液体サンプルをファンネル7に供給してろ過し、フィルター上に微生物を捕集する。次いで、染色液をファンネル7に供給してろ過し、フィルター上に捕集された微生物を染色する。次いで、洗浄液をファンネル7に供給してろ過し、フィルターを洗浄して、微生物の染色以外でフィルター上に残留している余剰の染色液を極力除去する。これにより、フィルター上の染料を光学的に検出することで、所望の微生物を検出できることになる。
【0003】
しかし実際には、染色液をろ過した際に、ファンネル7のリム押さえ部72とフィルター8の上面との間、並びにフィルター8の下面とベース9との間に、染色液が滲み出すことがある。これは、リム押さえ部72とフィルター8の上面、並びにフィルター8の下面とベース9とを、それぞれ完全に密着させることが困難であり、微細な空隙部が生じることがあるからである。空隙部が生じると、例えば毛細管現象等により、染色液が滲み出してしまうのである。これは、例えば、ファンネル7、フィルター8及びベース9を、クランプ等を使用して一体に固定してろ過装置を組み立てた場合でも、これらの材質の組み合わせによっては、避けることができない。なお、図10においては、染色液の滲み出しを説明するために、染色液を強調して図示している。
一旦空隙部に染色液が滲み出してしまうと、洗浄液をろ過しても、滲み出した染色液を十分に洗浄して除去することができず、フィルター上に染色ノイズが発生してしまう。すると、染料の検出時に、微生物を染色している染料と染色ノイズとを区別できなくなり、S/N比が低下して、微生物を高精度に検出できないという問題点があった。
【0004】
そこで、この問題点を解決する手法として、微生物を捕集したフィルターをろ過装置から外し、染色液を染み込ませた染色パッドの上に載置して、所定箇所を染色し、洗浄液で余剰の染色液を除去する微生物の検出方法が提案されている(非特許文献1参照)。この方法によれば、余剰の染色液はフィルター上に残留し難いため、洗浄操作は重要ではなく、洗浄操作を省いても、フィルター上に染色ノイズはほとんど発生しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ChemScan RDI 取扱説明書、グンゼ産業株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、染色パッドを使用する上記方法は、微生物の染色効率が著しく低く、染色に長時間を要するだけでなく、フィルター上のすべての微生物を染色できないことがあり、微生物の検出感度および検出精度が著しく低いという問題点があった。また、操作が煩雑であり、微生物の検出効率が低いという問題点があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、液体サンプル中の微生物をフィルター上に捕集及び染色して検出するに際し、染色ノイズの発生を抑制し、高い感度及び精度で簡便に検出できる微生物の検出方法、該検出方法で使用するフィルターろ過システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、洗浄液をろ過する時のフィルター上のろ過面を、微生物を含有する液体サンプル及び染色液をろ過する時のフィルター上のろ過面を包含するように拡大して、洗浄液をろ過することで、染色ノイズの発生を抑制でき、このようなろ過面の拡大は、特にリング状の調整具を別途使用することで容易に達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、液体をフィルターに供給する供給口を有するファンネル及びフィルターを使用して、微生物を含有する液体サンプル、該微生物を染色する染色液、該染色液を洗浄する洗浄液を順次ろ過し、フィルター上に捕集された微生物を染色して検出する方法であって、微生物を含有する液体サンプルをろ過し、フィルター上に微生物を捕集する工程(1)と、微生物を捕集後に、染色液をろ過し、捕集された微生物を染色する工程(2)と、微生物を染色後に、洗浄液をろ過し、フィルターを洗浄する工程(3)と、を有し、工程(3)において洗浄液のろ過面を、工程(1)における液体サンプルのろ過面及び工程(2)における染色液のろ過面を包含するように、これらろ過面よりも拡大して、洗浄液をろ過することを特徴とする微生物の検出方法を提供する。
本発明の微生物の検出方法においては、前記工程(1)及び(2)において、前記ファンネルと前記フィルターとの間に、該ファンネルの供給口の内径よりも小さい内径を有するリング状の内径調整具を、該内径調整具の内周が前記供給口の内周よりも径方向内側に位置するように密着配置してろ過を行い、前記工程(3)において、前記内径調整具を外してろ過を行うことが好ましい。
また、本発明の微生物の検出方法においては、前記工程(1)及び(2)において、前記ファンネルの供給口内に、該供給口の内径よりも小さい内径を有する筒状の内径調整具を、その開口端を前記フィルターに密着させて配置し、前記液体サンプル及び染色液を該内径調整具内に供給してろ過を行い、前記工程(3)において、該内径調整具を前記フィルターから離間させ、前記洗浄液を供給してろ過を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体サンプル中の微生物をフィルター上に捕集及び染色して検出するに際し、染色ノイズの発生を抑制し、高い感度及び精度で簡便に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るフィルターろ過システムを例示する概略構成図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B線における断面図である。
【図2】本発明に係る調整具の他の実施形態を例示する斜視図である。
【図3】本発明に係る調整具の他の実施形態を例示する平面図である。
【図4】本発明に係る他の実施形態の調整具を備えたフィルターろ過システムを例示する正面図である。
【図5】本発明に係るフィルターろ過システムの他の実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A線における断面図、(c)は調整具を(b)の配置位置から移動させた時の断面図である。
【図6】本発明に係る検出方法の工程(1)及び(2)におけるファンネル、調整具、フィルター及びベースの配置状態を例示する図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図7】本発明に係る検出方法の工程(3)におけるファンネル、フィルター及びベースの配置状態を例示する図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図8】実施例1における解析画像を強調処理した結果を示す図である。
【図9】比較例1における解析画像を強調処理した結果を示す図である。
【図10】従来のフィルターろ過装置を使用して染色液をろ過した時の染色液の残留状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
<フィルターろ過システム及び内径調整具>
まず、本発明に係るフィルターろ過システム及び内径調整具について説明する。
図1は、本発明に係るフィルターろ過システムを例示する概略構成図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のB−B線における断面図である。
ここに例示するフィルターろ過システムは、フィルター4に液体を供給するファンネル1と、液体をフィルター4でろ過して得られたろ過液を集液するベース3と、ファンネル1とフィルター4との間に挿入される内径調整具(以下、調整具と略記することがある)2とを備える。そして、ファンネル1、調整具2、フィルター4及びベース3は、この順で通常はほぼ同心状に組み立てられる。これらを組み立てる際は、周知のろ過装置と同様にクランプを使用して固定すると良い。
【0013】
ろ過に供する液体サンプル中の微生物は、フィルターで捕集可能なあらゆるものが対象となる。
そして、フィルター4は、ろ過による微生物の捕集に使用されるものであればいずれでも良く、種々の市販品等から目的に応じて適宜選択できる。また、所定のポアサイズを有するポリカーボネイト、ポリエステルなどの樹脂製シートや、これらシート表面を金属などでコーティングしたもの(例えば、国際公開第2006/049200号パンフレット参照)を使用しても良い。
【0014】
ファンネル1は、フィルター4へ液体を供給する、内径dの供給口11を有する。そして、該供給口11の開口端は、ベース3との間で、調整具2やフィルター4を挟持するリム押さえ部12となっている。
は、調整具2の内径dよりも大きければ、その値は特に限定されないが、微生物の検出に使用することを考慮すると、通常は50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましく、10〜25mmであることが特に好ましく、12〜20mmであることが最も好ましい。
ファンネル1は、上記の点を除けば、その他の形態および材質については通常のファンネルと同様のもので良く、市販品を使用しても良い。例えば、材質であれば、好ましいものとしてガラス、ステンレス及び各種樹脂類が例示できる。
【0015】
調整具2はリング状であり、ファンネル1とフィルター4との間に挿入及び挟持され、フィルターろ過時には、ファンネル1の供給口11からフィルター4へ前記液体サンプルや染色液を通液させるものである。より具体的には、調整具2は、その上部のリム押さえ部12との接触部及び下部のフィルター4との接触部が平坦に形成され、リム押さえ部12及びフィルター4と密着可能とされている。
【0016】
調整具2の内径dは、dよりも小さければ良いが、通常はdの12〜88%であることが好ましく、40〜85%であることがより好ましく、60〜80%であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、後記する染色ノイズを除去する高い効果が得られるだけでなく、ろ過面を必要以上に小さくすることがないので、液体サンプルや染色液を短時間でろ過できる。
調整具2の外径Dは、d及びベースの内径dよりも大きければ良く、この範囲内において任意に選択できる。
調整具2の厚みTは、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択し得るが、取り扱い易さを考慮すると、通常は1〜10mmであることが好ましい。
【0017】
調整具2の材質は、液体サンプルや染色液を吸収し易かったり、これらを変質させたりするなど、ろ過に支障をきたさないものであれば特に限定されず、具体的には、金属類、合金類、樹脂類が例示でき、これらの中から目的に応じて適宜選択すれば良い。例えば、ファンネル1及びフィルター4との密着度を一層向上させ、液体サンプルや染色液の滲み出し抑制効果を一層高めるという観点からは、樹脂類などの弾力性を有するものが好ましい。また、耐久性という観点からは、耐食性を有するものが好ましく、例えば、合金類であればステンレス、樹脂類であれば、ポリテトラフルオロエチレン等の各種フッ素樹脂が好適である。あるいは、これら弾力性又は耐食性を有するもので任意の材質を被覆しても良い。その他、複数種類の材質の複合体でも良く、好ましいものとして、ステンレスと樹脂を貼り合せたものが例示できる。この場合、ステンレス面はリム押さえ部12と接触するように、樹脂面はフィルター4と接触するように配置すれば、より効果的である。
【0018】
ベース3は、フィルター4による液体のろ過で得られたろ過液を集液するものである。
ベース3の内径dは、ろ過時にろ過液が漏出しない範囲であれば特に限定されないが、dよりも大きいことが好ましく、dと同等以上であることがより好ましい。このようにすることで、短時間でろ過できるだけでなく、後記するように、ろ過液導入側の開口端部32とフィルター4との密着面への、染色液の滲出が一層確実に抑制できる。
ベース3は、上記の点を除けば、その他の形態および材質については通常のベースと同様のもので良い。例えば、材質であれば、ファンネル1と同様のものが例示できる。そして、例えば、図1に示すように、フィルター4を安定して保持できる点から、開口端部32内側に焼結ガラス板31を備えたものが好適である。
【0019】
本発明の調整具は、図1に示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、種々の実施形態とすることができる。
図2は、本発明に係る調整具の他の実施形態を例示する斜視図である。
本実施形態に係る調整具2’は、外径D2’のリングの径方向外側周縁部より高さH22’、厚みT22’の側壁22’が立設されており、これ以外の点は、図1に示す調整具2と同様である。
調整具2’おいて、D2’−2T22’の値は、リム押さえ部12の最大径よりも小さく、リング上面23’にリム押さえ部12の下部を密着できるようになっている。外径D2’及び厚みT22’は、このような条件を満たし、かつD2’−2T22’の値が調整具2の外径Dと同様となるように適宜調整すれば良い。
22’は特に限定されないが、取り扱い易さを考慮すると、通常は1〜20mmであることが好ましい。
このように側壁22’が立設されていることにより、調整具2’をファンネル1とフィルター4との間に挿入して挟持した時に、側壁22’がリム押さえ部12に当接し、調整具2’の配置位置のずれが抑制される。
【0020】
図3は、本発明に係る調整具のさらに他の実施形態を例示する平面図である。
本実施形態に係る調整具5は、通液部50及び取っ手部51とからなり、該取っ手部51をつまむことで、ろ過システムに対して挿入及び取り外しを容易に行えるように、取り扱い性を向上させたものである。
通液部50は、図1に示す調整具2と同様であり、内径d及び外径Dのリング状である。
通液部50の外周面500上には、当該面上の一点を略中心とする、内径d51及び外径D51の略半リング状である取っ手部51が突設されている。
取っ手部51の厚みは通液部50の厚みと同等である。
【0021】
通液部50及び取っ手部51のサイズは、目的に応じて適宜設定し得る。
例えば、取っ手部51のサイズは指先やピンセットなどでつまみ易いように設定するのが良く、通液部の内径d及び外径Dが、前記d及びDと同様である場合には、d51は3〜16mmであることが好ましく、4〜12mmであることがより好ましく、5〜10mmであることが特に好ましい。また、D51はd51の大きさを考慮して設定すれば良く、通常d51よりも3〜10mm大きいことが好ましく、4〜6mm大きいことがより好ましい。
【0022】
本発明の取っ手部が設けられた調整具は、ここに示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、種々の実施形態とすることができる。
例えば、図3において、取っ手部51の厚みは通液部50の厚みと異なっていても良いし、同じ厚みでもあっても、通液部50と略同一平面内に設けられていなくても良い。具体的には、取っ手部51表面が、通液部50表面と直交するように、図3に示す位置から回転させられていても良いし、回転の角度は90°以外でも良い。また、通液部50との間に段差が形成されていても良い。
【0023】
一方、調整具は、フィルターのろ過面と平行な面内において移動可能にファンネル又はベースと連結されていても良い。図4はこのような調整具を備えたフィルターろ過システムをフィルターと共に例示する概略構成図である。
図4に示すように、ファンネル1には固定部材20が取り付けられ、該固定部材20には、調整具2を支持するL字状の支持部材21が連結部210を介して連結されている。より具体的には、連結部210は、その先端側の所定範囲が、固定部材20に設けられた軸穴に挿通され、その長手方向を回転軸として固定部材20に対して回転可能とされている。すなわち、調整具2は、前記連結部210を回転軸として回転し、フィルター4のろ過面と平行な面内において移動可能となっている。
本実施形態においては、調整具2が上記のように移動可能となっているので、ろ過システムに対する挿入及び取り外しが容易であり、取り扱い性が向上したものである。
なお、調整具2は、フィルター4のろ過面に対して並行に移動可能であれば良く、例えば、固定部材20はベース3に取り付けられていても良いし、ファンネル1又はベース3に一体成形されていても良く、着脱可能に取り付けられていても良い。支持部材21も連結部210を備えていればL字状のものに限定されない。支持部材21の固定部材20への連結方法、及び調整具2の支持方法は、周知の方法から適宜選択すれば良い。
【0024】
ここまでは、リング状の調整具について説明したが、筒状の調整具を使用することもできる。
図5は、本発明に係るフィルターろ過システムの他の実施形態を例示する概略構成図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A線における断面図、(c)は調整具を(b)の配置位置から移動させた時の断面図である。
本実施形態に係るフィルターろ過システムは、フィルター4に液体を供給するファンネル61と、液体をフィルター4でろ過して得られたろ過液を集液するベース63と、ファンネル61内に挿入された調整具62とを備える。そしてこれらは、通常はほぼ同心状に組み立てられ、組み立てにはクランプを使用できる。
【0025】
ファンネル61は、内径d61の供給口611を有する。そして、該供給口611の開口端613は平坦に形成され、フィルター4の上面と密着可能とされている。
ベース63は、内径d63の開口端632を有し、該開口端632は平坦に形成され、フィルター4の下面と密着可能とされている。
【0026】
調整具62は筒状であり、供給口611内に配された一方の開口端623側は、内径がd62に拡大されている。そしてフィルターろ過時には、フィルター4へ前記液体サンプルや染色液を通液させるものである。調整具62の前記開口端623は平坦に形成され、ファンネル61内において、フィルター4の上面と密着可能とされている。ここに示すように、d62はd61よりも小さい。
調整具62は、図5(c)に示すように、その中心軸方向に移動可能であり、引き上げ時には、フィルター4の上面との間に所定のスペースが形成される。そして、フィルター4の上面と密着している状態で、他方の開口端622は、ファンネル61から突出している。
【0027】
ファンネル61、調整具62及びベース63の材質は、前記のファンネル1、調整具2及びベース3と同様である。
そして、d61は前記dと、d62は前記dと、d63は前記dとそれぞれ同様である。
調整具62の厚みT62は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択し得るが、取り扱い易さを考慮すると、通常は2〜4mmであることが好ましい。
【0028】
ここに示すフィルターろ過システムにおいては、例えば、調整具62の他方の開口端622側より、該調整具62内にシリンジ(図示略)の注入口を挿通し、シリンジ内の液体を調整具62内に供給することで、液体をフィルターに供給し、ろ過できる。
調整具62の前記開口端622側の外径は、ファンネル61の上部開口部612側の内径よりも僅かに小さくすることが好ましい。そして、シリンジの注入口外径を、前記開口端622側の内径より僅かに小さくすることが好ましい。このように設計することで、ファンネル61の上部開口部612側において、シリンジの注入口、調整具62及びファンネル61の間に空隙部が生じるのを抑制できるので、外部からの微生物の混入を抑制しながら、シリンジ内の液体をろ過できる。
【0029】
筒状の調整具は、ここに示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、種々の実施形態とすることができる。
例えば、図5において、調整具62はその内径が一方の開口端623から他方の開口端622へかけて略同等となるようにしても良い。また、調整具62の開口端622又はその近傍には、取っ手部を設けても良い。調整具62は、フィルター4の上面と密着している状態で、その開口端622が前記のようにファンネル61から突出していることが好ましいが、前記取っ手部を設ける場合には、ファンネル61から突出していなくても良い。
【0030】
<微生物の検出方法>
次に、本発明に係る微生物の検出方法について説明する。
本発明に係る微生物の検出方法は、ファンネル及びフィルターを使用して、微生物を含有する液体サンプル、該微生物を染色する染色液、該染色液を洗浄する洗浄液を順次ろ過し、フィルター上に捕集された微生物を染色して検出する方法であって、微生物を含有する液体サンプルをろ過し、フィルター上に微生物を捕集する工程(1)と、微生物を捕集後に、染色液をろ過し、捕集された微生物を染色する工程(2)と、微生物を染色後に、洗浄液をろ過し、フィルターを洗浄する工程(3)と、を有し、工程(3)において洗浄液のろ過面を、工程(1)における液体サンプルのろ過面及び工程(2)における染色液のろ過面を包含するように、これらろ過面よりも拡大して、洗浄液をろ過することを特徴とするものである。
本発明の検出方法によれば、ファンネルとフィルター、並びにフィルターとベースとの間への染色液の滲出が抑制され、調整具とフィルターとの間に染色液が滲出しても、洗浄液で除去でき、微生物の染色以外でフィルター上に残留している余剰の染色液を除去できるので、微生物検出時のノイズを大幅に低減でき、目的とする微生物を高精度に検出できる。
以下、各工程について順次説明する。
【0031】
(工程(1))
工程(1)においては、フィルター上の前記液体サンプルのろ過面を、後記する工程(3)における洗浄液のろ過面に包含されるように縮小する。ここで、「液体サンプルのろ過面が洗浄液のろ過面に包含される」とは、「液体サンプルのろ過面周縁部が、洗浄液のろ過面周縁部と接することなく、液体サンプルのろ過面が洗浄液のろ過面に含まれる」ことを指す。ろ過面の縮小方法は、工程(3)における「ろ過面の拡大方法」のところで説明する。
液体サンプルのろ過は、ろ過時間を短縮するために、減圧ろ過又は加圧ろ過で行うのが好ましい。
【0032】
(工程(2))
工程(2)においては、フィルター上の前記染色液のろ過面を、工程(1)と同様に、工程(3)における洗浄液のろ過面に包含されるように縮小する。
通常、工程(2)は、工程(1)終了後にそのまま続けて行えば良く、このようにすることで検出方法を簡略化できる。
【0033】
染色液は、微生物を光学的に検出できるものであればいずれでも良く、微生物の種類や検出方法等に応じて適宜選択すれば良い。具体的には、CFDA(5(6)−carboxyfluorescein diacetate)等を使用して酵素活性を検出する蛍光検出、DAPI(4’,6−diamidino−2−phenylindole)等を使用して核酸を検出する蛍光検出、ATPを検出するルシフェリン発光検出、FISH(fluorescence in situ hybridization)染色による蛍光検出など、公知の染色方法で使用する染色液が例示できる。
染色液をろ過することにより、フィルター上に捕集された微生物が染色される。なお、ここで「染色液のろ過」とは、単にフィルターを通して染色液を通液させることを指し、必ずしもフィルター上に染色液中の成分を捕集することを指すものではない。
【0034】
染色液のろ過は、工程(1)における液体サンプルのろ過と同様に行えば良い。ただし、微生物を十分に染色するためには、フィルター上に染色液を所定時間保持しておくことが好ましい。そのためには、常圧下で染色液をファンネルに注いだ後、所定時間保持し、それから減圧又は加圧して染色液をろ過するのが好ましい。この時の、染色液をフィルター上に保持する時間は、染色液の種類に応じて適宜調整すれば良いが、通常1〜120分であることが好ましく、3〜30分であることがより好ましく、5〜15分であることが特に好ましい。
【0035】
(工程(3))
工程(3)においては、先に述べたように、フィルター上の前記洗浄液のろ過面を、工程(1)における液体サンプルのろ過面、及び工程(2)における染色液のろ過面をいずれも包含するように拡大する。
本工程におけるろ過面の拡大方法は、上記目的を達成できるものであればいずれの方法でも良い。代表的な方法を以下に例示する。
【0036】
(I)ファンネルの内径拡大
ろ過面の拡大は、工程(3)において、工程(1)及び(2)で使用したファンネルよりも内径の大きいファンネルを使用することで行えば良い。本工程で使用するファンネルは、内径が異なること以外は、工程(1)及び(2)で使用するファンネルと同様のもので良い。
【0037】
(II)リング状の内径調整具の使用
本発明において、ろ過面の拡大は、前記ろ過システムで説明したリング状の調整具を使用して行なうことが好ましい。具体的には、工程(1)及び(2)においては、調整具を使用して液体サンプル及び染色液をろ過し、工程(3)においては、調整具を外して洗浄液をろ過する。工程(1)〜(3)では、同じファンネル及びベースを使用できる。
工程(1)及び(2)におけるファンネル、調整具及びフィルターの配置状態をベースと共に、前記フィルターろ過システムを引用して図6に例示する。図6(a)は正面図、(b)は平面図である。また、工程(3)におけるファンネル、及びフィルターの配置状態をベースと共に、図7に例示する。図7(a)は正面図、(b)は平面図である。
【0038】
工程(1)及び(2)においては、図6に示すように、ファンネル1とフィルター4との間に前記調整具2を挿入し、調整具2の内周20がファンネルの供給口11の内周10よりも径方向内側に位置するように配して、調整具2の上部とファンネル1のリム押さえ部12、並びに調整具2の下部とフィルター4の上面とをそれぞれ密着させる。そして、フィルター4の下面とベース3の開口端部32とを密着させる。この状態で、液体サンプル及び染色液を順次ろ過する。
そして工程(3)においては、図7に示すように、前記調整具2を外して、フィルター4の上面とファンネル1のリム押さえ部12とを密着させ、フィルター4の下面とベース3の開口端部32とを密着させて、洗浄液をろ過する。
【0039】
工程(1)及び(2)においては、フィルター4の上面側は、その所定領域が調整具2と密着されており、この密着面より径方向内側の面は露出され、直径dのろ過面4aとなる。そして、液体サンプル及び染色液のろ過時に、これらはろ過面4aにおいてろ過されるが、ろ過面4aの径方向外側、すなわち調整具2とフィルター4上面との密着面に、染色液が僅かに滲み出すことがある。したがって、工程(2)終了時におけるフィルター4上面の染色液付着面は、ろ過面4aよりも僅かに広い領域になる可能性がある。一方、調整具2を使用し、dを好ましくはdよりも大きく、より好ましくはdと同等以上とすることで、フィルター4下面とベース3の開口端部32との密着面においては、フィルター4を通過した染色液の滲み出しが抑制される。
【0040】
これに対して、工程(3)においては、調整具2が外され、フィルター4の上面側は、その周縁部近傍がファンネル1のリム押さえ部12と密着されており、この密着面より径方向内側の面は露出され、直径dのろ過面4bとなる。この時、dはdよりも大きく、ろ過面4bは、前記ろ過面4aを包含する。したがって、洗浄液はフィルター上面及び下面の染色液付着面を確実に通過するので、微生物の染色以外でフィルター上に残留している余剰の染色液を確実に除去できる。このように、洗浄液が染色液付着面を確実に通過するようにするためには、先に述べたようにdをdよりも小さくすることが好ましい。
【0041】
(III)筒状の内径調整具の使用
本発明において、ろ過面の拡大は、前記ろ過システムで説明した筒状の調整具を使用して行なうことも好ましい。例えば、図5に示したろ過システムを使用する場合、工程(1)及び(2)においては、図5(b)に示すように、調整具62を、その開口端623をフィルター4の上面と密着させて配置し、液体サンプル及び染色液をろ過する。そして、工程(3)においては、図5(c)に示すように、調整具62を引き上げてフィルター4の上面から離間させ、開口端623とフィルター4の上面との間に所定のスペースを形成して、ろ過面を拡大し、洗浄液をろ過すれば良い。
【0042】
工程(3)において洗浄液は、微生物の染色以外でフィルター上に残留している染色液を除去でき、染色された微生物を傷つけたり破壊したりするものでなければいずれでも良く、染色液や微生物の種類に応じて適宜選択すれば良い。通常は、各種水溶液、好ましくは各種緩衝液を使用すれば良い。
また、洗浄液のろ過は、工程(1)における液体サンプルのろ過と同様に行えば良い。
そして、洗浄液のろ過の回数は特に限定されるものではなく、適宜調整し得る。例えば、一回のろ過に使用する洗浄液の量を考慮して決定すると良い。
なお、ここで「洗浄液のろ過」とは、単にフィルターを通して洗浄液を通液させることを指し、必ずしもフィルター上に洗浄液中の成分を捕集することを指すものではない。
【0043】
工程(3)においては、ろ過面を拡大して洗浄液をろ過する前に、予め洗浄液をろ過しておいても良い。すなわち、工程(2)に次いで、ろ過面を拡大することなく洗浄液をろ過し、次いでろ過面を拡大してからさらに洗浄液をろ過することで、微生物の染色以外でフィルター上に残留している余剰の染色液を除去する効果が一層向上する。ろ過面の拡大前に使用する洗浄液の種類は、ろ過面の拡大後に使用するものと同様で良い。そして、ろ過面の拡大前の、洗浄液のろ過の回数は特に限定されるものではなく、適宜調整し得る。例えば、上記のろ過面の拡大後の場合と同様で良い。
【0044】
ろ過を行う際に、調整具、ファンネルのリム押さえ部、フィルター等を密着させる場合には、クランプ等を用いてこれらを一体に固定することが好ましい。
【0045】
工程(1)〜(3)におけるろ過は、上記の点以外は、通常のフィルターろ過を行う場合と同様に行えば良い。
【0046】
本発明においては、ろ過時に洗浄液がフィルター上面及び下面の染色液付着面を確実に通過するので、微生物の染色以外でフィルター上に残留している余剰の染色液を確実に除去できる。特に内径調整具を使用することで、効果的に余剰の染色液を除去できる。したがって、フィルター上に捕集された微生物を高い感度及び精度で検出できる。また、通常のろ過操作とほぼ同様の操作で実施できるので、微生物を簡便に検出できる。さらに、従来のファンネル及びベースを使用することも可能なので、汎用性が高く、低コストで微生物を検出できる。
【実施例】
【0047】
以下、具体的な実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
ADVANTEC社製ファンネル(d;16mm)と、図3に示すステンレス製調整具(D;25mm、d;12mm、R51;6mm、r51;3.5mm)を適用した図1に示すろ過システムと、ポアサイズ0.4μmのポリエステル製フィルターを使用して、ろ過装置を組み立て、以下の試験を行った。なお、ファンネル、調整具、ベース及びフィルターは、クランプで一体に固定した。
まず、大腸菌(Escherichia coli)を分散させたPBS(Phosphate Buffered Saline)100mlをファンネルに注ぎ、減圧ろ過して、フィルター上に大腸菌を捕集した。
次いで、200μg/mlのCFDA染色液(Molecular probes社製)2mlをファンネルに注ぎ、そのまま室温で10分間保持して染色してから、CFDA溶液を減圧ろ過し、さらに20mlのPBSをファンネルに注ぎ、減圧ろ過した。
次いで、リングを取り外し、それ以外は上記と同様にろ過装置を組み立てた。そして、PBS30mlをファンネルに注ぎ、減圧ろ過して、フィルターを洗浄した。
次いで、洗浄済みフィルターを、マイクロファインダー(アサヒビール株式会社製)で解析した。解析画像を強調処理した結果を図8に示す。図8に示すように、フィルター上に大腸菌が検出された。この時、染色ノイズは発生せず、大腸菌を正確に検出できた。
【0048】
[比較例1]
調整具を使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で試験を行った。この時の解析画像を強調処理した結果を図9に示す。図9に示すように、CFDA染色液がフィルター上のリム押さえ部との接触面に染み出し、これがPBSで洗浄できず、染色ノイズが発生し、そのうちのいくつかは大腸菌と誤判定されてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、飲食品の品質検査、生化学分野の各種試験、血液製剤の細菌検査などに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1,61・・・ファンネル、10・・・供給口の内周、11,611・・・供給口、12・・・リム押さえ部、2,2’,5,62・・・内径調整具、20・・・内径調整具の内周、3,63・・・ベース、4・・・フィルター、4a・・・液体サンプル及び染色液のろ過面、4b・・・洗浄液のろ過面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体をフィルターに供給する供給口を有するファンネル及びフィルターを使用して、微生物を含有する液体サンプル、該微生物を染色する染色液、該染色液を洗浄する洗浄液を順次ろ過し、フィルター上に捕集された微生物を染色して検出する方法であって、
微生物を含有する液体サンプルをろ過し、フィルター上に微生物を捕集する工程(1)と、
微生物を捕集後に、染色液をろ過し、捕集された微生物を染色する工程(2)と、
微生物を染色後に、洗浄液をろ過し、フィルターを洗浄する工程(3)と、
を有し、
工程(3)において洗浄液のろ過面を、工程(1)における液体サンプルのろ過面及び工程(2)における染色液のろ過面を包含するように、これらろ過面よりも拡大して、洗浄液をろ過することを特徴とする微生物の検出方法。
【請求項2】
前記工程(1)及び(2)において、前記ファンネルと前記フィルターとの間に、該ファンネルの供給口の内径よりも小さい内径を有するリング状の内径調整具を、該内径調整具の内周が前記供給口の内周よりも径方向内側に位置するように密着配置してろ過を行い、
前記工程(3)において、前記内径調整具を外してろ過を行うことを特徴とする請求項1に記載の微生物の検出方法。
【請求項3】
前記工程(1)及び(2)において、前記ファンネルの供給口内に、該供給口の内径よりも小さい内径を有する筒状の内径調整具を、その開口端を前記フィルターに密着させて配置し、前記液体サンプル及び染色液を該内径調整具内に供給してろ過を行い、
前記工程(3)において、該内径調整具を前記フィルターから離間させ、前記洗浄液を供給してろ過を行うことを特徴とする請求項1に記載の微生物の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−15530(P2013−15530A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195481(P2012−195481)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2007−313332(P2007−313332)の分割
【原出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000000055)アサヒグループホールディングス株式会社 (535)
【Fターム(参考)】