説明

微生物の濃縮装置及び濃縮方法

【課題】磁性体又はその凝集体粒子の存在下で微生物を同時に濾過させることにより、迅速な微生物の濃縮が可能となる微生物の濃縮装置及び濃縮方法を提供することにある。
【解決手段】微生物を含有する水と磁性体又はその凝集体を接触させてスラリー液を作る混合槽6と、前記スラリー液を微生物と磁性体又はその凝集体からなるケーキと水に分離する濾過器4と、前記スラリー液を濾過器に供給するポンプ2bと、前記濾過器で分離されたケーキを微生物と磁性体に分離する磁気分離機構を備えた分離槽8とを具備することを特徴とする微生物の濃縮装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、微生物の濃縮装置及び濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類に代表される水中の微生物には有用な物質を合成するものが多く存在し、特定の藻類を培養して有用物質を生産する研究が進んでいる。前記微生物としては、例えば、健康食品として利用されるクロレラや、非化石資源の燃料として利用可能なオイル生産菌が挙げられる。
【0003】
これらを有効に利用するためには、水中で培養したあとに濃縮する操作が必要となる。濃縮する方法としては、例えば遠心分離法や膜分離法が挙げられる。しかし、前者は処理速度が遅く生産性が悪いという問題があり、後者は膜の細孔に微生物が詰まり、膜の交換や洗浄を頻繁に行わなくてはならないという問題がある。また、これらの手法は微生物に大きい圧力をかけるため、微生物そのものの死滅や有用物質の水中への流出などが起こる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−210158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、磁性体と微生物の物理的な接触後に磁気分離をおこなっているため、微生物の濃度が低い場合には接触確率が低下して回収に時間がかかるという問題や、磁気分離のみの回収では回収速度の低下や回収漏れが起こる可能性ある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、磁性体又はその凝集体粒子の存在下で微生物を同時にろ過させることにより、迅速な微生物の濃縮が可能となる微生物の濃縮装置及び濃縮方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、微生物を含有する水と磁性体又はその凝集体を接触させてスラリー液を作る混合槽と、前記スラリー液を微生物と磁性体又はその凝集体からなるケーキと水に分離する濾過器と、前記スラリー液を濾過器に供給するポンプと、前記濾過器で分離されたケーキを微生物と磁性体に分離する磁気分離機構を備えた分離槽とを具備することを特徴とする微生物の濃縮装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る微生物の濃縮装置の説明図。
【図2】図1の濃縮装置の分離槽の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る微生物の濃縮装置及び濃縮方法について説明する。なお、本実施形態は下記に述べることに限定されない。
(実施形態)
本実施形態に係る微生物の濃縮装置について、図1を参照して説明する。
培養槽1から微生物を含有する水(被処理水)をポンプ2aにより配管3a、3bを介して攪拌機4を備えた混合槽5へ供給する。攪拌機6を備えた磁性体タンク7から磁性体を含むスラリー液をポンプ2bにより配管3cを介して混合槽5へ供給する。混合槽5で被処理水と磁性体を含む均一なスラリー液を作製した後、スラリー液をポンプ2cにより配管3dを介して、水平に配置されたろ布8を備えた濾過器9に送り、微生物と磁性体からなるケーキと水に分離する。濾過器9内のろ布8上に堆積したケーキを、培養槽1からポンプ2aにより配管3aを介して送られた被処理水を洗浄液として洗い流し、配管3dを介して攪拌機10を備えた分離槽11へ送る。分離槽11内ではケーキ中の磁性体から微生物を剥離させ、磁性体のみを電磁石12を用いた磁気分離で回収する。回収した磁性体を、培養槽1から配管3a、3eを介して送られる洗浄水で洗い流し、配管3fを介してスラリー液として磁性体タンク7へ送る。分離槽11で磁性体から剥離した微生物を含有する液は、濃縮水として得られる。磁性体タンク7へ送られた磁性体は、再度、混合槽5に送られて再利用される。
【0010】
次に、図1の濃縮装置の個別の構成について詳細に述べる。
(培養槽及び対象とする微生物)
本実施形態では、微生物の濃縮を行うため、微生物を含有する水を対象としている。図1の濃縮装置では、微生物を培養する培養槽1から直接水を供給しているが、これに限定されるわけではなく、濃縮する対象と目的によっては、池や川などから直接供給しても構わない。
【0011】
対象とする微生物は特に問わないが、例えば大腸菌などの細菌類や、アオコ、クロレラなどの藻類、ビール酵母などの酵母菌類、ウイルス類、オイル生産菌などが挙げられる。後述するが、本実施形態においては、微生物の粒子径は、添加する磁性体に対して0.5〜5倍程度となることが好ましく、また磁性体を含有する粒子の水中の分散と濾過時の通水速度の関係から、磁性体を含有する粒子は1〜5μmが好ましい。このことより、対象とする微生物の大きさが0.5〜25μmのものが、本発明で濃縮するのに適している。
【0012】
(混合槽)
混合槽5は、培養槽1から送られた微生物を含有する水と磁性体タンク7から送られた磁性体を含有する粒子を均一に混合するものである。混合槽5の容器形状、容量、材質等は特に制限されない。また、邪魔板を設けるなど、均一な混合ができるようにしたり、液体がショートカットできないようにしたりしておくのが良い。混合槽5には必要に応じて混合機などの攪拌手段や、レベルセンサー等を設けることが好ましい。混合槽5内の滞留時間は、磁性体が微生物スラリー溶液と均一に混ざるだけの時間を有すればよく、例えば1分以上あれば十分である。この時、添加した磁性体を含有する粒子と微生物が混合槽5中で接触する必要はなく、均一な状態で濾過器9に送ることができればよい。
【0013】
(濾過器)
磁性体と微生物を含有するスラリーから、固液分離する濾過器9は、磁性体と微生物からなる濾過ケーキが形成されれば特に問わない。濾過の手段としては、例えば減圧濾過、加圧濾過が挙げられ、処理速度の面から加圧濾過が好ましい。但し、上向流濾過のような濾過ケーキが形成されないものは使用することができない。本実施形態の濾過機構は、微生物よりも若干大きいか微生物よりも小さい磁性体を添加して、微生物の周りに磁性体の層を形成し微生物の変形を抑えるとともに、磁性体粒子間を水が抜けることにより高速処理を行うことを特徴としている。
【0014】
濾過ケーキが形成されないと、変形しやすい微生物同士が凝集し、水の通り道を塞いでしまうため高速処理ができない。また、濾過面が地面と垂直な横方向に水が流れ濾過器の場合、濾過途中でろ過ケーキが崩れてしまうことがあり、制御が難しくなる可能性がある。従って、本実施形態では、ろ布のろ過面が水平に配置され、水が地面に対して鉛直方向に上部から下部へ通水される濾過器を用いることが好ましい。
また、濾過器9は、溜まった濾過ケーキを解体・洗浄するための水を供給する給水口を具備している。これにより、濃縮されたスラリーは、分離槽11へ送られる。
【0015】
(分離槽、磁性体と微生物の分離)
濾過器9の洗浄により得られた濃縮されたスラリーは、分離槽11に送られる。分離槽11には、攪拌機10と電磁石12が配置されており、スラリーを混合しながら磁性体のみを電磁石12で除去し、微生物が濃縮された液を得る。この時、微生物と磁性体を分離させるために、pH調整や塩などの薬剤の添加を行うことができる。これらの操作により、分離された濃縮水は分離槽11より排出される。また、磁気分離した磁性体は、磁場解放後に洗浄液と混合され、スラリーとして磁性体タンク7に送られる。
【0016】
上記分離槽としては、例えば図2のような分離槽が挙げられる。
図中の符号21は円筒状の分離槽を示す。この分離槽21には、攪拌機構が配置されている。ここで、攪拌機構は、駆動装置22と、この駆動装置22に軸支された攪拌軸23と、この攪拌軸23の先端に取付けられた攪拌羽根24とから構成されている。前記分離槽21の外周部には、電磁石25,26が取付けられている。また、分離槽21の上部には、給水口27,28が夫々設けられている。一方の給水口27からは濾過器から得られる高濃度の磁性体と微生物を含んだ洗浄水が供給され、他方の給水口28からは培養槽からの少量の洗浄水が供給される。更に、分離槽21の下部側壁には、排水口29,30が夫々設けられている。一方の排水口29からは微生物濃縮水が排出され、他方の排水口30からは給水口28からの少量の洗浄水でスラリー化した磁性体が磁性体タンクに排出される。なお、図2の分離槽において、磁気分離機構としては磁性体ではなく永久磁石を用いることができる。この場合、シリンダーなどに固定した永久磁石を動作させ、分離槽外壁との距離を変化させることにより分離・回収を行う。
【0017】
(磁性体タンク、磁性体)
磁性体タンク7に溜められた磁性体は、混合槽5に供給し、微生物を含む水と混合する。磁性体の供給方法は特に問わないが、粉末の乾燥状態や水分をやや含むペースト状態、水に分散したスラリー状態などが挙げられる。分離槽11から磁性体が水分を含んだ状態で磁性体タンク7に送られるため、ペースト状態かスラリー状態で供給することが好ましい。
【0018】
本実施形態においては、上記磁性体以外に磁性体の凝集体,即ちポリマーにより表面が被覆された磁性体が凝集した凝集体も用いることができる。この凝集体は、磁性体をコア、その表面を被覆するポリマー層がシェルを構成するコア/シェル構造の1次粒子が凝集して2次凝集体を構成している。
【0019】
磁性体の種類は磁性を有すれば特に限定されないが、例えば鉄、および鉄を含む合金、あるいは磁鉄鉱,チタン鉄鉱,磁硫鉄鉱,マグネシアフェライト,コバルトフェライト,ニッケルフェライト,バリウムフェライトなどのフェライト系化合物を用いることができる。この中でもフェライト系化合物は、水中での安定性に優れているので、好適に用いることができる。特に、磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0020】
磁性体の形状は特に限定されないが、球状、多面体、不定形、繊維状などが挙げられる。磁性体を含有する粒子のサイズは水中に分散すれば特に限定されないが、濾過時の通水量と水中の分散性から好ましい範囲が存在する。通水量は、磁性体の粒子間の空隙を流れるため、1μm以上の粒子径のものであれば十分な通水量を得ることができる。また、水中の分散を考えると、5μm以下のものは沈降速度が遅く均一に分散するため好ましい。以上のことから、1〜5μmの磁性体が好ましいといえる。磁性体を添加する量は、被濃縮液中に存在する微生物濃度の1〜20倍程度入れるのが良い。
【0021】
磁性体を含む粒子の平均粒子径は、水中の微生物の大きさの0.1〜10倍が好ましい。ここで、平均粒子径が上記数値範囲を外れると、十分な濾過速度を得ることができない。また、平均粒子径は、レーザー回折用により測定することができる。具体的には、例えば、株式会社島津製作所製の商品名:SALD−DS21型測定装置などにより測定することができる。
【0022】
凝集体による磁性体表面のポリマーの表面厚さを製造時に決定するには、ポリマーと磁性体の混合割合と、ポリマーの密度,磁性体の比表面積から計算する。即ち、添加するポリマーの重量と密度から添加するポリマーの体積を求め、磁性体の比表面積から求めた磁性体の表面積で除すると、平均被覆厚さとなる。また、凝集体の粒子径の制御は噴霧液の種類や噴霧方法によって異なるが、凝集体を小さくするには噴霧乾燥する液滴の径を小さくすればよく、例えば噴霧ノズルの噴霧圧力を高くしたり、噴霧速度を遅くしたり、あるいは噴霧ディスクの回転を早くすると、製造される凝集体の粒子径は小さくなる。
【0023】
一方、既にできている凝集体中のポリマー被覆厚さの測定方法としては、光学顕微鏡やSEMなどによる観察で測定しても良いが、好ましくは無酸素状態で高温に上げ、ポリマー複合体を熱分解させて重量減少量,即ちポリマー被覆重量を求め、粒子の比表面積からポリマー層の平均厚さを計算すると正確に求めることができる。
【0024】
(実施例)
以下、図1の濃縮装置を用いて、微生物の濃縮試験を実施した場合について説明する。
微生物としては、平均粒子径2μmの大腸菌、7μmのクロレラを用いた。磁性体は、平均粒子径0.2μm,1μm,2μmのマグネタイトと、平均粒子径4μm,8μm,30μmのMn−Mg−Srフェライトを用いた。
【0025】
まず、微生物の濃度を1000mg/L(湿潤換算)に調整した被処理液を培養槽1内に用意した。次に、この被処理液を混合槽5に入れるとともに、磁性体タンク7から各マグネタイトを10000mg/Lとなるように混合槽5に添加して、ろ過速度2m/h以上となるように流量を調整し、ろ布表面に20mmスラッジが溜まるようろ過処理を行った。次いで、ろ過終了後、通水した1/10の水で洗浄をかけ、微生物が10倍濃縮したスラリー液を得た。このスラリー液を分離槽11に導入し、攪拌機10で混合しながら電磁石12を動作させ、磁性体のみを電磁石12に固定した後、微生物が濃縮した液を回収した。また、同量の水を加えて微生物が分離した磁性体をスラリー化した後、磁性体タンク7に輸送した。この磁性体は問題なく再利用できることを確認した。
【0026】
下記表1は、各微生物と磁性体の関係をまとめたものである。なお、一部は比較のため磁性体粒子を入れないで濃縮試験を行っている。
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、粒子を入れない場合は微生物がろ布の目に詰まり、ろ過が不能であった。添加する磁性体の粒子径を大きくしていくと、大腸菌,クロレラ共に1μm以上において通水速度2m/hを得ることができた(但し、大腸菌,クロレラ共に0.2μm磁性体添加では一部の磁性体がろ布を通過した)。更に、大腸菌では4μmまで、クロレラでは8μmまでの磁性体で通水速度2m/hを確保することができた。この後、粒子径を大きくしたところ、通水速度は悪くなっていった。以上のことから、適切な粒子径の磁性体を添加してろ過すれば、濃縮した微生物溶液を得られることが明らかになった。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…培養槽、2a,2b,2c…ポンプ、3a,3b,3c,3d,3e,3f…配管、4,6,10…攪拌機、5…混合槽、7…磁性体タンク、8…ろ布、9…濾過器、11…分離槽、12,25,26…電磁石、21…分離槽、22…駆動装置、23…攪拌軸、24…攪拌羽根、27,28…給水口、29,30…排水口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含有する水と磁性体又はその凝集体を接触させてスラリー液を作る混合槽と、前記スラリー液を微生物と磁性体又はその凝集体からなるケーキと水に分離する濾過器と、前記スラリー液を濾過器に供給するポンプと、前記濾過器で分離されたケーキを微生物と磁性体に分離する磁気分離機構を備えた分離槽とを具備することを特徴とする微生物の濃縮装置。
【請求項2】
前記磁性体を含有する粒子の平均粒子径が、水中の微生物の大きさの0.1〜10倍であることを特徴とする請求項1に記載の微生物の濃縮装置。
【請求項3】
前記濾過器は水平に配置されたろ布を備え、前記スラリー液は濾過器の上部から供給されて下部から排水されることを特徴とする請求項1記載の微生物の濃縮方法。
【請求項4】
前記磁性体はマグネタイトであることを特徴とする請求項1に記載の微生物の濃縮装置。
【請求項5】
前記微生物がアオコであることを特徴とする請求項1に記載の微生物の濃縮装置。
【請求項6】
前記微生物がクロレラであることを特徴とする請求項1に記載の微生物の濃縮装置。
【請求項7】
微生物を含有する水と磁性体又はその凝集体を接触させてスラリー液を作製する工程と、このスラリー液を濾過器に供給する工程と、前記スラリー液を濾過によりケーキと水に固液分離する工程と、前記ケーキを微生物と磁性体に分離して微生物の濃縮された液を得る工程とを有することを特徴とする微生物の濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187083(P2012−187083A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55803(P2011−55803)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】