説明

微生物の細胞から油を生成する方法

【課題】微生物(または単細胞)由来の油、好ましくは1種以上のポリ不飽和脂肪酸(PUFA)を含有する油を、単細胞生物(または微生物の細胞)から抽出(およびその後、単離)する方法、及び装置を提供する。
【解決手段】発酵後、微生物細胞を低温殺菌し、洗浄して、細胞壁を機械的(均質化など)、物理的(沸騰または乾燥)、化学的(溶媒)または酵素的(細胞壁分解酵素)な技術により溶解または破壊する工程。遠心分離によって達成されて、前記油を含む油状の相(上層)が得られる。この油状の相を(細胞質細片を含む)水相から分離する(PUFAを含む)前記油を、得られた細胞壁細片から分離する工程。更に、前記油を抽出し、必要に応じて、前記油からPUFAを精製または単離する工程が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、微生物(または単細胞)由来の油、好ましくは1種以上のポリ不飽和脂肪酸(PUFA)を含有する油を、単細胞生物(または微生物の細胞)から抽出(およびその後、単離)することに関する。本発明の方法は、微生物の細胞壁を破壊または溶解して、その後、得られた細胞片から前記油を分離することを伴う。本発明は、前記方法によって回収される微生物由来の油、好ましくはPUFAを含むものにも関する。
【0002】
ポリ不飽和脂肪酸、すなわちPUFAは、天然起源であり、しかも広く様々な異なるPUFAが異なる単細胞生物(藻類、真菌類など)によって産生される。PUFAは、食品(幼児用調製粉乳など)、栄養補給食品および医薬への包含など、多くの用途を有している。
【0003】
大抵の微生物由来のPUFA産生プロセスにおいて、微生物は、最初に発酵槽内において好適な培地で培養される。次いで、微生物由来のバイオマスを回収し、処理すると、その後、好適な溶媒を用いてバイオマスから脂質を抽出できる。脂質は、通常、精製工程に数回付される。脂質は、(酸素存在下での)加熱および/またはリパーゼもしくはリポキシゲナーゼに起因するものなどの脂肪分解または酸化条件に付されると、分解することがあるためである。前記プロセス中は注意しなければならない。先行技術には、酸化を回避する(ことによって、例えば、細胞の開放を阻止して、その内容物の酸素への曝露を阻止することなどの)ために、PUFAを、全体的に無処置の細胞から溶媒を用いて抽出することが開示されている(国際公開第97/36996号パンフレットおよび同第97/37032号パンフレット参照)。溶媒の使用は、微生物由来のバイオマスから脂質を取り出すのに通常知られた方法である(国際公開第98/50574号パンフレット)。
【0004】
前記抽出法は、数年間用いられているが、溶媒を除去する必要があり、そしてそのことが余分なコストをもたらす。加えて、得られる脂質を食品に使用するのであれば、ヘキサンなどの特定の溶媒は、完全に除去するか、あるいはほんの少量のみを残すことが重要である。ヘキサンを蒸留によって除去する場合は、加熱を伴う。加熱は、コストを増やすばかりか、脂質分解をも引き起こすことがある。更に、環境のことを考慮するにつれて、脂質の抽出のための溶媒の使用は段々と高価でかつ不人気となっている。
【0005】
すなわち、本発明は、前記問題を解決するか、または少なくとも軽減しようと努めるものである。本出願人は、PUFAを包含するもののような脂質が、微生物細胞から溶媒を必要とせずに効率良く抽出できることを見出した。
【0006】
したがって、本発明の第1の態様によれば、油(または脂肪もしくは脂質であって、これらの用語は、互換的に使用される)を微生物細胞から生成する方法を提供する。本発明の方法は、(a)(微生物細胞の)細胞壁を破壊(または溶解)して、前記細胞から油を放出(または遊離)することを含む。次に、(微生物または単細胞由来の)油を、(b)得られた細胞壁細片の少なくとも一部から分離してよい。その後、(微生物由来の)油(または1種以上のPUFA)を、(c)回収し、精製および/または単離してよい。本発明の方法を用いると、溶媒を必要とせずに、前記油の良好な収率が達成される。好ましくは、前記油は、PUFA、すなわち1種以上のPUFAを包含する。好ましくは、(段階(a)および(b)を包含する)本発明の方法は溶媒を用いない。
【0007】
最近のPUFA調製法は、微生物を無処置にしておくことを主張している(国際公開第97/36996号パンフレット)。この公報には、微生物由来のバイオマスが微生物を発酵させることによって発生し、発酵後、細胞を加熱するPUFA産生法が記載されている。バイオマスから水を除去して、得られる物質を押出成形して多孔性の顆粒を形成する。次に、PUFAを、顆粒内の無処理の細胞から、溶媒(通常、ヘキサン)と接触させることによって抽出する。その後、ヘキサンを留去して、未精製の油を製造する。望ましくない酸化を生じさせると考えられることから、この方法では全体を通して、細胞を無処置にしておき、大気中の酸素がPUFAに接触させないようにしている。しかし、良好な品質のPUFA油は、細胞が事実上溶解すれば達成され得るということが分かった。すなわち、大気による潜在的な酸化を、溶媒の必要を避けるという利点によって、更に埋め合わせることができる。
【0008】
PUFAおよび微生物
PUFAは、単一のPUFAであっても、2種以上の異なるPUFAであってもよい。
PUFAは、n−3系であっても、n−6系であってもよい。好ましくは、C18、C20またはC22PUFA、あるいは少なくとも18個の炭素原子と3個の二重結合を有するPUFAである。
【0009】
PUFAは、遊離脂肪酸、塩、脂肪酸エステル(例えば、メチルもしくはエチルエステル)の形、リン脂質として、および/またはモノ−、ジ−もしくはトリ−グリセリドの形で提供されてもよい。
好適な(n−3系およびn−6系)PUFAは、以下のものを包含する。
ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6ω3系)、好適には(渦鞭毛藻類(dinoflagellate))Crypthecodiniumまたは(真菌類)Thraustochytriumなどの藻類また真菌類由来のもの、
γ−リノレン酸(GLA、18:3 ω6系)、
α−リノレン酸(ALA、18:3 ω3系)、
共役リノレン酸(オクラデカジエン酸、CLA)、
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3 ω6系)、
アラキドン酸(ARA、20:4 ω6系)、および
エイコサペンタエン酸(EPA、20:5 ω3系)。
【0010】
好ましくは、PUFAは、アラキドン酸(ARA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)および/またはγ−リノレン酸(GLA)を包含する。特にARAが好ましい。
【0011】
PUFAは、天然(例えば、植物または海洋)起源であっても、あるいは単細胞または微生物から派生したものであってもよい。すなわち、PUFAは、微生物、藻類または植物起源(または資源)であって(またはこれらを由来とするものであっても)よい。特にPUFAは、バクテリア、真菌または酵母によって産生され得る。真菌が好ましく、特にMortierella、Phycomyces、Blakeslea、Aspergillus、Thraustochytrium、PythiumまたはEntomophtoraなどのMucorales目の真菌である。好ましいARA源は、Mortierella alpina、Blakeslea trispora、Aspergillus terreusまたはPythium insidiosum由来のものである。藻類は、渦鞭毛藻類であるか、および/またはチノリモ(Porphyridium)、NitszchiaまたはCrypthecodinium(例えば、Crypthecodinium cohnii)を包含する。酵母は、Pichia属または酵母菌属(Saccharomyces)のもの、例えば、Pichia ciferiiを包含する。バクテリアは、Propionibacterium属のものであってよい。
【0012】
本発明の方法において、微生物細胞(または微生物)は、最初に、(例えば、水性の)培養培地を含む発酵槽などにおいて好適に培養または発酵され得る。発行条件は、得られるバイオマス中での高い油および/またはPUFA含量のために最適化されてよい。所望により、発酵が終了した後などに、微生物を死滅および/または低温殺菌してよい。これは、望ましくない酵素、例えば、前記油を分解したり、あるいはPUFAの収率を低下させるかもしれない酵素を不活性化することであってよい。
【0013】
次に、発酵ブロス(バイオマスおよび培養培地)を、発酵槽から取り出して(例えば、流出させて)、細胞壁破壊装置(例えば、ホモジナイザー)に通してもよい。必要に応じて、液体(通常は水)を(最初に)ここから取り除く。好適な固−液分離技術を使用してよい。この工程(脱水)は、遠心分離および/または濾過によって行われてよい。前記細胞を、例えば水溶液(水など)を用いて洗浄して、細胞外の水溶性または水分散性化合物を除去してもよい。その後、前記細胞は、破壊または溶解の準備に付されてよい。
【0014】
細胞溶解(段階(a))
次に、微生物細胞の細胞壁を破壊(または溶解)する。この工程は、酵素的、物理的または機械的な方法または技術のうち1以上を用いて、例えば、高いせん断条件で達成されてよい。物理的な技術は、前記細胞を、十分な温度に加熱および/または乾燥することによって、細胞壁を破壊することを包含する。これには沸騰も包含される。
【0015】
酵素的な方法は、1種以上の酵素、例えば、細胞壁分解酵素による溶解を包含する。細胞壁分解酵素は、溶解性酵素であってよい。他の酵素としては、(例えば、アルカリ性)プロテアーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キチナーゼおよび/またはペクチナーゼが挙げられる。塩、アルカリおよび/または1種以上の界面活性剤または洗剤などの前記以外の細胞壁分解物質を、代わりに使用しても、または1種以上の酵素と組み合わせて使用してもよい。物理的、機械的および/または酵素的な方法の組み合わせも考えられる。
【0016】
機械的な技術を用いる場合、これは、例えばホモジナイザーを用いた均質化を包含し得る。これは、ボールミル、または細胞壁を破壊し得るその他の装置であってよい。好適なホモジナイザーは、ポライトン・ホモジナイザー(polyton homogenizer)のような、高圧ホモジナイザー(例えば、300〜500kg/cmもしくはbarの圧力)を包含する。これ以外の均質化技術は、粒子、例えば、砂および/またはガラスビーズとの混合を伴ってよい(ビーズミルの使用、等)。代替の機械技術は、粉砕装置、例えば、ホモブレンダー(homoblenders)の使用を包含する。細胞壁を破壊する前記以外の方法としては、超音波、噴霧乾燥および/または加圧または高圧の適用が挙げられる。この最後の技術は、コールド−プレス(cold−pressing)と呼ばれ、100〜600または700bar(気圧またはkg/cm)、例えば、150〜500bar、最適には200〜400barの圧力で行われてよい。
【0017】
均質化は、細胞壁を破壊する好ましい方法である。ホモジナイザーには、高いおよび/または低い破壊(例えば、均質化)圧力で、1〜3回パスしてよい。例えば、Gaulin(登録商標)ホモジナイザーを使用してよい。破壊(例えば、均質化)中の圧力は、300〜900bar(気圧またはkg/cm)、例えば、400〜800bar、任意に500〜600または700barであってよい。必要に応じて、150〜300barまでのような、より低い圧力を用いてもよい。そのため、作業圧は、ホモジナイザーの種類やパス回数などに依存して、150〜900barまで変えることができる。
【0018】
細胞溶解は化学的に行われてもよいが、本発明の方法(におけるこの段階)では望ましくは溶媒を用いないため、好ましくは化学的な方法を使用しない。
【0019】
細胞壁の破壊は、発酵から得られたブロスについて行われてもよく、例えば、細胞が培養培地に未だ含まれていても、あるいはそのような培地が存在していてもよい。1種以上の添加物は、破壊中に添加されてもまたは含まれていてもよく(NaClなどのアルカリ金属塩など)、あるいは破壊後に(例えば、均質化されたブロスに)添加されてもよい。破壊中には、有機溶媒(メタノールやクロロホルムなど)が好ましくは存在しない。破壊は、(場合により洗浄および/または濃縮された)バイオマスについて行われ(た後、固−液分離に付されて)てもよい。すなわち、破壊は、細胞と水を含むが溶媒を含まない(水性の)組成物について行われる。
【0020】
細胞壁破壊を改良するために、破壊を、乾燥物質含量約10〜200g/Lで行ってもよい。これは、発酵後などの発酵ブロスについてであっても、あるいは例えば、ブロスを脱水および/または固−液分離に付した後でブロスから派生されてもよい。
【0021】
必要に応じて、細片からの油の分離を促進するために、分離誘導因子(separation inducer)をこの段階で、例えば均質化された材料に、添加してよい。
【0022】
細胞片からの油の分離(段階(b))
次に、微生物由来の油を、形成された細胞壁細片の少なくとも一部から分離する。この段階では、油状または脂質の相もしくは層の中であってよい(そしてこれはPUFAを含み得る)。これらは上層または一番上の層であり得る。この層は、(より下層の)細胞壁細片などを含む水層の上にある。次いで、(PUFAを含む)油状の層を水層(または相)から分離させる。1種以上の界面活性剤または洗剤が、このプロセスを援助するために存在していても、または添加されてよい。
【0023】
少なくとも幾つかの細胞壁細片からの油の分離は、機械的な方法を用いることにより、特に遠心分離によって好ましく達成または援助される。好適な遠心分離機は、Westfalia(登録商標)(半ば工業化された規模および工業化規模のもの)またはBeckmann(登録商標)(例えば、実験室用遠心分離機)から入手され得る。(例えば、実験室規模の遠心分離機での)遠心分離は、2または4分〜8または15分間、3または5〜7または12分間、最適には4または5〜6または10分間続けてよい(滞留時間)。
【0024】
遠心力(g)は、1,000または2,000〜10,000または25,000gまで、例えば、3,000または5,000〜8,000または20,000g、最適には4,000〜6,000gあるいは7,000〜9,000gであってよいが、遠心分離は、12,000g、15,000g、20,000gまたは25,000までのg−遠心力で使用され得る。遠心分離は、4,000〜14,000rpmまで、例えば、6,000〜12,000rpm、最適には8,000〜10,000rpmであってよい。1回以上の遠心分離が必要であり得る。最大g遠心力は、特定の遠心分離機を使用すれば、もっと小さくでき、例えば、Westfalia(登録商標)遠心分離機(モデルNA−7など)を用いれば6,000gであってよい。流速は、毎時100〜500リットルまで、例えば、毎時150〜450リットル、最適には毎時200〜400リットルであってよい。遠心分離により、2相系(脂肪性または油状の上層と下層の水層)または3相系(脂肪性または油状の上層、中間の水層、および通常、細胞片を含む下層)となり得る。
【0025】
分離誘導因子、または分離を助ける試薬を添加してもよい。これらは、前記段階(a)中、(a)の後であって(b)の前、あるいは(b)中に含まれていても、または補われてもよい。これは、別個の油相および水相の形成を助け得る。前記誘導因子は、水相の比重を高めるので、水相の比重は油状の相よりも大きな比重となり得る。好適な誘導因子は、アルカリ金属塩、例えば、NaClを包含する。前記誘導因子は10〜150g/Lの濃度、例えば、30〜130g/L、最適には50〜100g/Lで添加されてよい。
【0026】
前記油は、カロテノイド、例えば、β−カロテンを含んでいなくてもよい。破壊および分離の後で、本発明の方法は、前記油または1種以上のPUFAを抽出、精製または単離する工程を更に含んでいてよい。
【0027】
溶媒回避
本発明の方法の一つの利点は、溶媒の必要を回避できることである。(この点に関し、溶媒は水を排除する。というのも、培養培地は通常、水性であり、そして細胞は水で洗浄され得るためである。)すなわち、前記段階(a)における細胞壁の破壊中、または段階(b)における細胞壁細片の少なくとも一部からのPUFAの分離中には、溶媒(例えば、有機溶媒)を使用しなくてよい。好ましくは、前記油または1種以上のPUFAの抽出、精製または単離中には溶媒(例えば、有機溶媒)を使用しない。そのため、本発明の方法は溶媒を本質的に含まなくてよい。したがって、段階(a)、(b)および任意に(c)も、前記油(またはPUFA)のための溶媒を必要とせずに、ヘキサンなどのアルカン、アルコール(例えば、メタノール)またはハロアルカン(例えば、クロロホルム)のような溶媒(有機溶媒など)を用いずに行うことができる。
【0028】
好ましくは、界面活性剤の使用も回避し、破壊および分離段階(a)および(b)のいずれか一方または両者も、界面活性剤を必要とせず、例えば洗剤の不存在下で行われてよい。
【0029】
本発明の第2の態様は、前記第1態様の方法で調製され得る(調製された)油に関する。
【0030】
前記油がPUFAを包含すれば、PUFAは好ましくは専ら(例えば、50%以上、70%または90%、あるいは95%が)トリグリセリドの形態である。
【0031】
前記油は、以下の特徴(または成分)を1つ以上有する。
(a)ステロール、例えば、デスモステロール、または細胞片を、例えば、0.01〜1.0%、例えば、0.05〜0.5%、好ましくは0.1〜0.2%、
(b)リン脂質またはトリグリセリド、例えば、0.1〜2.0%、例えば、0.3〜1.5%、好ましくは0.5〜1.0%、および/または
(c) 0.1%以下、0.05%以下または0.001%以下のジグリセリド。
前記油は、必要に応じて、酸および/またはアルカリで精製および/または処理されてよい。
【0032】
PUFA(またはPUFA含有油)は、下流での加工、例えば、デガミング(degumming)、中和、漂白、脱臭またはウィンタリゼーション(einterization)に更に付されてよい。
【0033】
全般的なプロトコル
そのため、好ましい本発明の方法は、以下の工程を含む。
(a)微生物細胞を、例えば、微生物由来の油または少なくとも1種のPUFAを産生する条件下で培養する工程、
(b)場合により、前記細胞を加熱または低温殺菌して、細胞を死滅させるおよび/または望ましくない酵素を不活性化する工程、
(c)場合により、遠心分離、濾過または好適な固−液分離技術などによって(水性の)液体を除去する工程(例えば、脱水)、
(d)場合により、微生物細胞を、例えば水で洗浄して、好ましくは細胞外の水溶性または水分散性化合物を除去する工程、
(e)前記微生物細胞の細胞壁を、例えば物理的、酵素的または機械的な技術(ホモジナイザーまたはボールミルを用いた均質化など)により、破壊または溶解する工程;この工程は、微生物細胞中に含まれるある種の油および/またはPUFAを放出し得る。(機械的な)破壊は、化学的および/または酵素的な破壊で補われるかまたは置き換えられてもよい。分離誘導因子(例えば、後続の段階において、2層の形成を助けるもの、を添加してもよい)、
(f)微生物由来の油(またはPUFA)を細胞壁細片から分離して、例えば、油相を形成した後、それを得られた細胞壁細片および/または水相から分離する工程;この工程は、遠心分離を包含し、場合により1種以上の塩を添加して(アルカリ側へ)pHシフトしてよく、そして1種以上の細胞分解酵素、界面活性剤または乳化剤の存在を伴ってもよい。(例えば、上層の)油相と(例えば、下層の)水相を分離することができる。前記油相は、PUFAを含み得る。水相は、細胞片を含み得る、
(g)前記油(またはPUFAを油相から)抽出、精製または単離して、例えば、PUFA含有油を得る工程、および
(h)任意の酸処理(またはデガミング)、アルカリ処理(または中和)、漂白、脱臭、冷却(またはウィンタリゼーション)。この工程は、遊離脂肪酸(FFA)、タンパク質、リン脂質、微量の金属、顔料、炭化水素、石鹸、酸化生成物、硫黄、顔料分解生成物、ステロール、飽和トリグリセリドおよび/またはモノ−またはジ−グリセリドのような望ましくない物質を除去し得る。
【0034】
熱処理または低温殺菌は、好ましくは1種以上の油(またはPUFA)分解酵素を不活性化または変性する。加熱温度は、70〜90℃まで、例えば、約80℃であってよい。これは、リパーゼおよび/またはリポキシゲナーゼなどの酵素を不活性化または変性し得る。
【0035】
(例えば、水溶性および/または油溶性の)酸化防止剤、例えばビタミンC、パルミチン酸アスコルビルおよび/またはトコフェロールを1種以上添加してよい。これは、段階(b)の後で行われても、あるいはもっと後続の段階、例えば抽出後であって、精製前もしくは精製後(前記工程(h))などに行われてもよい。
【0036】
加熱工程は1回以上であってよく、それによって例えば、他の望ましくない化合物または物質を除去する。例えば、加熱は酸性pHで行ってよく、それによって例えば、リン脂質、微量金属、顔料、炭化水素および/またはタンパク質などの成分を除去する。ここで、加熱温度は、50〜80℃まで、例えば、55〜75℃、最適には60〜70℃であってよい。pHは、1〜6まで、例えば2〜5、最適にはpH3〜4であってよい。これは、デガミング、および/またはタンパク質および/または水溶性もしくは水分散性化合物の除去をもたらす。
【0037】
代替的にまたは前記工程に加えて、更なる加熱を、この時点ではアルカリ性のpHで用いてもよい。pHは、8〜13まで、好ましくは9〜12、最適にはpH10〜11であってよい。前記温度は、前述の記載と同じであり得る。
【0038】
装置(工業的なプロセスプラント)
本発明の第3態様は、第1態様の方法を行うための装置に関する。すなわち、この第3の態様は、以下の手段を包含する。
(a)微生物細胞を培養(または発酵)するための手段(例えば、発酵槽)であって、任意に以下の手段と(例えば直接)連結しているもの、
(b)微生物細胞の細胞壁を破壊(または溶解)するための手段(例えば、ホモジナイザー)であって、任意に以下の手段と連結しているもの、
(c)(得られた)油を(得られた)細胞片から分離するための手段。
【0039】
前記細胞および培養培地(例えば、ブロス)は、前記(b)の手段に直接通してよい。各手段は、前記第1の態様の方法の段階の順に追従するように、記載した順に配置する。前述の破壊および分離工程のうちのいずれかまたは全てを行うための手段を提供してもよく、例えば、分離誘導因子を(均質化した材料に)添加する手段や、あるいは前記全般的なプロトコルに記載した工程を行うための手段(例えば、加熱/低温殺菌手段、固−液分離手段、等)が挙げられる。
【0040】
本発明の一態様の特徴は、必要な変更を加えて(mutatis mutandis)、別の態様に適用可能である。
【0041】
本発明を実施例を用いて更に説明するが、以降の実施例は、単に例示目的で提供するものである。
【0042】
実施例1:Mortierella alpinaの発酵ブロスからの未精製のPUFA(ARA)油の調製
アラキドン酸(ARA)を含有するMortierella alpinaの発酵ブロス(予め、65℃で1時間低温殺菌したもの)を、MC−4 APV Gaulin(登録商標)ホモジナイザーを用い、600bar(600気圧)で1回均質化して、細胞壁を破壊した。NaClを均質化したブロスに添加して、最終濃度100g/Lとした。その後、均質化したブロスをSorval RC 5B遠心分離機を用い、9,000rpm(約20,000g(遠心力)に相当)で10分間遠心分離すると、アラキドン酸が豊富な上層の油層と、細胞片を含む下層の水層が得られた。未精製のPUFA油を回収した。
【0043】
油の収率は9%であった(前記細胞中の油を基準とする)。(油)層は、およそ以下の組成を有していた:デスモステロール0.1%、リン脂質0.7%、トリグリセリド6.7%、ジグリセリド0.1%、水70%、並びに培地成分および細胞片20%。
【0044】
実施例2:Mortierella alpinaの発酵ブロスからの未精製のPUFA(ARA)油の調製
アラキドン酸(ARA)を含有するMortierella alpinaの発酵ブロス(予め、65℃で1時間低温殺菌したもの)を、MC−4 APV Gaulin(登録商標)ホモジナイザーを用い、600bar(600気圧)で1回均質化して、細胞壁を破壊した。次いで、均質化したブロスを、Westfalia(登録商標)NA−7分離板形遠心沈降機(disc centrifuge)を用い、最大速度(約8,000rpm、円盤スタックにおける約8,000g(遠心力)に相当)で遠心分離すると、アラキドン酸が豊富な上層の油層(遠心分離で回収されたもの)と、細胞片を含む下層の水層が得られた。未精製のPUFA油を回収した:油の収率は95%であった(細胞中の油を基準として)。未精製の油は、およそ以下の組成を有していた:ステロールおよび細胞片1〜2%、リン脂質3〜4%%、モノグリセリド4%、ジグリセリド6%、そして残りはトリグリセリドであった。
【0045】
実施例3:Crypthecodinium cohniiの発酵ブロスからの未精製のPUFA(DHA)油の調製
藻類Crypthecodinium cohniiの発酵ブロス(予め、65℃で1時間低温殺菌したもの)20リットルを、発酵させた後、APV Gaulin(登録商標)ホモジナイザー(型:Lab 60/60−10TB SX)を用い、それぞれ600bar(600気圧)で3回均質化して、藻類の細胞壁を溶解させた。その後、均質化したブロスにNaClを添加して、最終濃度を50g/Lとした。ラボスケールの遠心分離機(Beckman(登録商標)JM/6E)を用いて、ブロスを800mLずつに分けて5,000g(遠心力)でそれぞれ5分間遠心分離することにより、油を回収した。これにより、DHAの豊富な脂肪性の上層(未精製の油)および下層の水層を得た。未精製の油を脂肪性の上層から回収した。
【0046】
実施例4:Crypthecodinium cohniiの発酵ブロスからの未精製のPUFA(DHA)油の調製
藻類Crypthecodinium cohniiの発酵ブロス(予め、65℃で1時間低温殺菌したもの)20リットルを、発酵させた後、APV Gaulin(登録商標)ホモジナイザー(型:Lab 60/60−10TB SX)を用い、それぞれ600bar(600気圧)で3回均質化して、藻類の細胞壁を溶解させた。その後、ラボスケールの遠心分離機(Beckman(登録商標)JM/6E)を用いて、ブロスを800mLずつに分けて5,000g(遠心力)でそれぞれ5分間遠心分離することにより、未精製の油を回収した。これにより、DHAの豊富な脂肪性の上層(未精製の油)および下層の水層を得た。未精製のPUFA油を脂肪性の上層から回収した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微生物の細胞の細胞壁を破壊して油を放出させる工程、および
(b)前記工程(a)で形成された細胞壁細片の少なくとも一部から油を分離する工程を含む
微生物の細胞から油を生成する方法。
【請求項2】
細胞が、物理的、酵素的または機械的に破壊される請求項1記載の方法。
【請求項3】
破壊が、均質化を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
(c)前記微生物由来の油または1種以上のPUFAを抽出、精製または単離する工程
を更に含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(b)における分離が遠心分離によるものである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
分離が、油状の層と水層の形成をもたらす請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
油状の層が、水層よりも上層である請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記油が、1種以上のポリ不飽和脂肪酸(PUFA)を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記油が、C18、C20またはC22ω−3系またはω−6系PUFA(任意にARA、EPA、DHAおよび/またはGLA)であるPUFAを含有する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
微生物の細胞が、酵母、バクテリア、真菌類または藻類の細胞である請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
段階(a)および/または(b)が、有機溶媒を含まない請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記段階(a)および(b)、そして任意に(c)においても、(前記油またはPUFA等のための)溶媒を用いない請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
段階(a)の前に、微生物の細胞を、前記油が生産され得る条件で培養または発酵し、および必要に応じて前記細胞を低温殺菌および加熱することを含む請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
細胞壁の破壊が、1種以上の細胞壁分解酵素または界面活性剤によって促進される請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
分離誘導因子が前記(b)中に存在する請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の方法で生成されるPUFAを含有する微生物もしくは単細胞由来の油、またはPUFA。
【請求項17】
(a)微生物の細胞を培養するための手段、
(b)微生物の細胞の細胞壁を破壊して、該細胞から油を放出させるための手段、および
(c)前記油を、前記破壊によって得られた細胞片の少なくとも一部から分離するための手段
を包含する、微生物の細胞から油を生成するための装置。
【請求項18】
(a)が発酵槽を包含し、(b)がホモジナイザーを包含し、および/または(c)が遠心分離機を包含する請求項17記載の装置。

【公開番号】特開2012−19794(P2012−19794A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196284(P2011−196284)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【分割の表示】特願2002−516339(P2002−516339)の分割
【原出願日】平成13年8月1日(2001.8.1)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】