説明

微生物の迅速検出・測定方法

【課題】飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理のような日常の大量の検査に適用でき、汚染菌数が少ない試料の場合でも精度良く微生物を検出できる、迅速・簡便・安価な微生物の検出方法を提供すること
【解決手段】微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように部分乾燥して調製した平板湿潤培地を用いて微生物の培養・検出を行なう。該平板塗抹法による微生物の迅速検出方法により、飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理のような日常の大量の検査において、迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の迅速検出・測定方法、特に、飲食品、臨床材料、医薬品、化粧品等における大腸菌群やカビなどの汚染微生物を迅速・簡便・安価に、かつ精度良く検出・測定する方法及びそのための検出用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品や医薬品及び環境など、さまざまな分野の製品や製造工程の管理において、微生物の検出や測定を行なうことは製品や製造工程の衛生管理や汚染の回避或いはバイオハザード等の面から重要である。特に、飲食品については、食の安全性を確保する上で、汚染微生物の管理は重要な管理項目となっており、その中でも、大腸菌群は食品衛生管理上の重要な汚染指標菌となっている。例えば、乳製品や清涼飲料水等においては、食品衛生法によりその基準が成分規格として定められている。
【0003】
近年、微生物の検出手法については、PCR法のような遺伝子検出法や、免疫学的手法等を利用した技術の発展により、多くの簡易、迅速測定法が開発され、キット化されている。しかし、現在、汚染微生物についての微生物試験の公定法は、培養法が基本となっている。したがって、該微生物試験においては、微生物検出用の培地が用いられる。微生物を培養する培地は通常、特定の微生物の増殖に必要な栄養分および他の成分を含有する水溶液中に寒天等の凝固材を分散させることによって調製される。微生物の検査法は「食品衛生法」、「食品衛生検査指針」、「衛生試験法・注解」などで検査法が規定されているが、賞味期限が短い飲食品、例えば、乳、果汁などのチルド飲食品の製造工場等においては、特殊な機器を使用せずとも迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物が検出できる技術が求められている。
【0004】
これらの迅速・簡便に必要な微生物が検出できる方法として、いくつかの検出法や、そのためのキットが開示されている。例えば、特開2002−186496号公報、及び特開2002−360296号公報には、グラム陽性細菌生育阻害培地に生育した細菌集落に、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドのような発色合成酵素基質を直接滴下して、大腸菌群を8乃至14時間という短時間で迅速に検出・測定する方法及び検出キットが開示されている。該開示された方法のものは、特殊な発色合成酵素基質を使用することから高価であり、大量の検査を実施する飲食品工場では使いにくいという制約があり、また、塗抹法であるので、混釈法のような煩雑さはないものの、試料接種量は特開2002−186496号公報のものでは、その具体例に示されているように、約0.1mlであり、試料中の大腸菌群数が少ない場合には、正確に検出できないという問題がある。この問題を解決するため、特開2002−360296号公報のものでは、0.5ml程度まで塗抹できる技術が紹介されているが、培地を冷却固化後室温に1週間放置し、十分に乾燥させるというように、培地調製に際して、長時間と煩雑な管理が必要となり、大量の検査を実施する飲食品工場では使いにくいという制約がある。
【0005】
また、特表2004−515236号公報には、基材と、基材の上面に装着された非吸収性の培養面を含む台座と、基材に取り付けられた可撓性のカバーシートと、培養面に堆積した培地からなる微生物培養装置が開示されており、該微生物培養装置を用いて、微生物を培養し、コロニー検出等を行なうには、水性試料を培養面に置き、カバーシートを下げることによって、水性試料を培養面全体にわたって広げるようにして用いることが示されている。該微生物培養装置においては、培地に、グアーガム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド等の冷水可溶性ゲル化剤を加えることが、基板層にポリスチレン発泡体を含ませることが示されており、該微生物培養装置においては、その実施形態において、水性試料、約1ml〜約5mlの量を用いることが示されている。
【0006】
この微生物培養装置は、エンドユーザーが用いる際に、追加の装備や操作なしに用いるようにしたものであり、使用の簡便さがあるが、反面、シャーレを使用せずに、培地を装備したシート状の微生物培養装置を使用しており、1mlの試料を十分に吸収させるためには、ゲル化剤の他にポリスチレン発泡体を用いる等の工夫が必要であり、該装置を準備しておくには、その培養装置の構造が複雑でコストが高くなってしまうという問題がある。したがって、大量の検査を実施する飲食品工場では使いにくいという制約がある。また、該培養装置は、現在、一般に微生物の検出に用いられている平板培養法の微生物培養装置とは、異なるタイプの培養装置であり、該装置を用いての微生物の検出も、例えば、32℃で、48時間インキュベートすることが必要等、長時間の培養を要し、迅速・簡便な微生物の検出が要望される飲食品工場等の微生物の検査には適用しがたいという制約がある。
【0007】
従来、大腸菌群の検査には、一般的には、デソキシコーレイト寒天培地を用いた平板生(湿潤)培養法が用いられている。しかし、これらの平板生培地は、試料溶液接種量が通常0.1〜0.2mlと少なく、試料中の大腸菌群数が少ない場合には、正確な検出がしにくく、また、培養時間も例えば35℃で20〜48時間と長い時間が必要とされる。そこで、これらの培地を改良して、迅速かつ簡便に大腸菌群の検査を行なう方法としてラビットメディア−DO(以下、「RM−DO」或いは「ラビットメディア」と表示する。)培地及びX−GAL試液を用いる方法が開発されている(RM−DO法:日本家政学会誌, Vol.55, No.5, 399-403, 2004)。
【0008】
RM−DO培地は、デソキシコーレイト寒天培地に準じた粉末成分を所定量より5%以上多い水量で溶解し、シャーレに分注・固化した後余剰水分を乾燥させた平板生培地であり、X−GAL試液は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−GAL)をジメチルホルムアミドに溶解した溶液であり、大腸菌群が有する酵素であるβ−ガラクトシダーゼの発色酵素基質として用いられる。この方法では、試料溶液接種量が1mlの接種が可能であり、また、培養時間も、例えば、35℃で12時間の培養と比較的短時間の培養で検査を行うことが可能であるが、該RM−DO法は価格的に割高であることから、大量の検査を実施する飲食品工場では使いにくいという制約があったり、また、培地の調製における乾燥において、長期間を要したり(例えば、室温に1週間放置)、或いは、培地への試料溶液の吸収が牛乳のような試料溶液によっては吸収が完全でなく、一部湿潤の状態で残り、正確な検出の障害になったりして、飲食品の製造工場等において、特殊の機器を使用せず、迅速・簡便・安価かつ精度良く、微生物の検出を行なう方法としては必ずしも満足のいくものとはなっていない。
【0009】
【特許文献1】特開2002−186496号公報
【特許文献2】特開2002−360296号公報
【特許文献3】特表2004−515236号公報
【非特許文献1】日本家政学会誌、Vol.55、No.5、399-403、2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理において用いられる微生物の検出や測定方法は、日常の大量の検査を実施する必要性から、その検査方法は、迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物を検出できる方法が要求される。特に、飲食品工業の製品の微生物管理においては、通常、微生物汚染があった場合でも、製品出荷時において汚染菌数はかなり少なく、したがって、汚染菌の検出感度不良による微生物事故を防ぐためは、汚染菌数が少ない場合でも対応できるように、汚染菌の検出感度を上げる技術が求められている。
【0011】
そこで、本発明の課題は、飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理のような日常の大量の検査に適用できる、迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物を検出できる方法、及び、特に、汚染菌数が少ない試料の場合でも、適用して精度良く微生物を検出できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討する中で、微生物検出用の平板湿潤培地を用いた平板塗抹法による微生物の迅速検出方法において、該平板湿潤培地に、吸収剤としてカルボキシメチルセルロース及び/又はグルコマンナンを所定量添加し、かつ、該培地を特定な条件で乾燥することにより、(1)培地の試料溶液の吸収及び分散特性を改善して、従来の0.1mlから1mlへの試料溶液の塗抹量を可能として、汚染菌数が少ない試料でも精度の良い検出を可能とし、しかも、培地における試料溶液のすばやい吸収と、均質な分散により、高い検出精度を得ることが可能であること、(2)平板湿潤培地の調製に際しての余剰水分の乾燥時間を、従来の室温1週間から、40℃5時間に大幅に短縮でき、日常の大量の検査に用いる培地の調製に適用可能とすることができること、(3)しかも、該培地の乾燥を速めることよって起こる、培地の「亀裂」、「縮み及びシャーレからの剥離」、「乾燥不十分」、「乾燥過多」等の問題を回避できること、(4)微生物の検出に際しての、微生物の培養時間を、大腸菌群では従来法(デソ法)の20±2時間から、12〜13時間、カビでは、従来法(PDA法)の5日間から、1〜3日と大幅に短縮できること、(5)高価な試薬を用いないことから、安価な培地の調製が可能であることを見い出し、該知見から、日常の大量の検査に適用できる、迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物を検出できる方法を提供することが可能であることを見い出し、更に、汚染菌数が少ない試料の場合でも、適用して精度良く微生物を検出できる方法を提供することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を部分乾燥して調製した平板湿潤培地を用いて微生物の培養・検出を行なうことを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出方法からなる。該培地の部分乾燥による減重量は、5〜15重量%が良く、9〜12.5重量%がさらに好ましい。本発明において、微生物検出用の平板湿潤培地としては、デソキシコーレイト寒天培地又はポテトデキストロース寒天培地を用いることができる。
【0014】
本発明において、微生物の培養・検出に用いる平板湿潤培地を調製するに際して、培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥するには、培地の乾燥を、40℃以下の低温乾燥により行うことが好ましい。また、該平板湿潤培地の調製における培地の乾燥に際しては、培地の乾燥後の水分含量が公定法の微生物の培地の水分含量と同じ又はほぼ同じになるように、培地調製の際の加水量を公定法の微生物の培地の水分含量より増量して調製しておくことが好ましい。本発明において、検出する微生物は、特に限定されないが、その微生物の検出の態様として、大腸菌群又はカビの検出を挙げることができる。
【0015】
本発明は、本発明の微生物の検出方法として、デソキシコーレイト寒天培地を用いた大腸菌群の検出方法を包含する。該培地を用いた大腸菌群の検出においては、培地に生育促進剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween 80)及びペプチドを単独若しくは組み合わせて使用することができる。該ペプチドとしては、大豆ペプチド及び/又はホエイペプチドを挙げることができる。また、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween 80)を培地に添加した場合に、コロニーの色が薄くなったり、或いは白っぽくなった場合には、該培地に、ニュートラルレッドを添加することにより、コロニー数をカウントし易くすることができる。
【0016】
また、本発明は、本発明の微生物の検出方法として、ポテトデキストロース寒天培地を用いたカビの検出方法を包含する。更に、本発明は、微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥して調製することを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための微生物の培養・検出用培地の調製方法及び該調製方法によって調製された平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための汚染菌の検出感度を高めた微生物の培養・検出用培地を包含する。
【0017】
すなわち具体的には本発明は、[1]微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を部分乾燥して調製した平板湿潤培地を用いて微生物の培養・検出を行なうことを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[2]微生物検出用の平板湿潤培地として、大腸菌群測定用としてデソキシコーレイト寒天培地を、或いはカビ測定用としてポテトデキストロース寒天培地を用いることを特徴とする上記[1]記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[3]培地の部分乾燥を、40℃以下の低温で、培地の減重量が5〜15%であるように行うことを特徴とする上記[1]又は[2]記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[4]平板湿潤培地の調製において、培地の乾燥後の水分含量が公定法の微生物の培地の水分含量と同じ又はほぼ同じになるように、培地調製の際の加水量を公定法の微生物の培地の水分含量より増量することを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法からなる。
【0018】
また本発明は、[5]培地に生育促進剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート及びペプチドを単独若しくは組み合わせて使用することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[6]ペプチドが、大豆ペプチド及び/又はホエイペプチドであることを特徴とする上記[5]記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[7]培地にニュートラルレッドを添加することを特徴とする上記[2]〜[6]のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法や、[8]微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥して調製することを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための微生物の培養・検出用培地の調製方法や、[9]上記[8]記載の微生物の培養・検出培地の調製方法によって調製された平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための汚染菌の検出感度を高めた微生物の培養・検出用培地からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、例えば、飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理のような日常の大量の検査に実用的に適用できる、迅速・簡便・安価にかつ精度良く必要な微生物を検出でき、汚染菌数が少ない試料の場合でも、適用して精度良く微生物を検出できる微生物の迅速検出方法、及びそのための検出培地、該培地の調製方法を提供する。
【0020】
すなわち、本発明の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法は、1mlの試料溶液の塗抹量を可能として、汚染菌数が少ない試料でも精度の良い検出を可能とし、また、培地における試料溶液のすばやい吸収と、均質な分散、更には微生物の生育の促進の可能な高品質な検出培地により、微生物の検出に際しての微生物の培養時間を大幅に短縮して、迅速かつ高い検出精度の微生物の検出を可能として、飲食品工場等における製品や製造工程の微生物管理のような日常の大量の検査に適用できる迅速・簡便かつ精度良く必要な微生物を検出できる微生物の迅速検出方法を提供する。しかも、本発明の微生物の迅速検出方法は、コスト的にも安価であり、また、該微生物の迅速検出方法で用いる検出培地は、短時間で、かつ高品質なものを簡便に調製することが可能であり、日常の大量の検査のための検出培地として提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥して調製した平板湿潤培地を用いて微生物の培養・検出を行なうことを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出方法からなる。
【0022】
本発明においては、本発明で調製される平板湿潤培地を用いて、平板塗抹法により、微生物の検出・菌数の測定を行う。好気性菌、通性嫌気性菌においては、塗抹法による方が、微生物の生育速度が早く望ましいが、従来では、平板塗抹法による場合に、試料液の塗布量が0.1mlと制約されていたので、汚染菌数が少ない試料のような場合に分析精度の関係から、混釈法が用いられていた。本発明においては、試料液の塗布量を1mlと増量することを可能とし、平板塗抹法による精度の高い微生物の検出・測定を行うことができる。
【0023】
本発明の微生物の迅速検出方法で用いられる平板湿潤培地は、微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥して調製される。本発明の平板湿潤培地の調製において、該条件での吸収剤の添加と乾燥処理の組合わせが必須であり、吸収剤の添加のみ、或いは、乾燥処理のみのいずれの場合でも、培地における試料溶液の良好な吸収と均質な分散が得られず、精度の高い微生物の検出・測定を行うことができない。本発明においては、上記条件での吸収剤の添加と乾燥処理の組合わせにより、検出培地の良好な吸収性と分散性を得ることができ、培地における試料溶液の塗抹量を従来の0.1mlから1mlに増やすことを可能として、汚染菌数が少ない試料の場合でも、精度良く微生物を検出することを可能とした。
【0024】
また、本発明においては、上記条件での吸収剤の添加と乾燥処理の組合わせを採用することにより、本発明の検出方法で用いる平板湿潤培地を短時間で、かつ高品質なものを簡便に調製することが可能であり、日常の大量の検査のための検出培地を提供することができる。本発明において、培地の乾燥は、40℃以下の低温乾燥で、5時間程度の乾燥時間で行うことができる。従来法では、培地の乾燥に室温で1週間程度の乾燥が必要とされた。これは、本願発明のように、吸収剤の添加と組み合わせない乾燥では、培地が乾燥条件(温度、湿度、風量、時間)に敏感で、室温で1週間というような、温和な条件で、長時間の乾燥が必要であったが、本願発明の条件で乾燥することにより、例えば、乾燥機、インキュベータ、孵卵器を使用して乾燥させた場合に問題となる、「培地の亀裂」、「培地の縮み及びシャーレからのはがれ」、「乾燥不十分」、及び「乾燥しすぎによる干上がり」のような問題を生じることなく、これらの乾燥手段を用いて乾燥することが可能であるため、短時間の乾燥で品質の良い検出用培地を調製することが可能であり、合格品の歩留まりも高い。
【0025】
本発明において、培地の乾燥に際しては、培地の乾燥後の水分含量が公定法の微生物の培地の水分含量と同じ又はほぼ同じであることが望ましい。平板培地を乾燥させて重量で5〜15重量%程度の水分を飛ばすのでその分をあらかじめ加えておく必要がある。又、デソキシコーレイト培地のメーカーにより差があり、デソキシコーレイト培地によっては、平板培地作成後に斑点状の着色が現れることがあり、上記のように培地の水分量を調整することにより、斑点の問題を解決することができる。
【0026】
本発明の検出方法で用いる平板湿潤培地を調製するために用いる平板湿潤培地としては、微生物検出用に用いられている検出培地を用いることができ、特に限定されないが、大腸菌群検出用培地としてはデソキシコーレイト寒天培地を、カビ検出用培地としてはポテトデキストロース寒天培地を用いることができる。デソキシコーレイト寒天培地を用いて大腸菌群の検出を行なうに際しては、培地に生育促進剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween80)、及び大豆ペプチド、ホエイペプチドのようなペプチドを単独または組み合わせて用いることにより、微生物の生育を促進して検出時間を短縮することができる。
ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートの培地中の添加量は1%未満、好ましくは0.0005%〜0.0025%が望ましい。
【0027】
デソキシコーレイト寒天培地を用いて大腸菌群の検出を行なうに際して、平板培地上で菌を赤く染色し見やすくするために、ニュートラルレッドを培地中に添加することができる。添加率は特に限定されないが、培地中に0.0004%〜0.00065%加えることが好ましい。また、培地に生育促進剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween 80)を添加する場合に、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートを培地に添加することにより、「コロニーの色が薄くなるまたは白っぽくなる」という問題が発生することがある。このような問題が生じた場合においてもニュートラルレッドを添加することは有効である。例えば、大腸菌群測定の場合には、ニュートラルレッドをデソキシコーレイト培地処方の約15%添加することでコロニー数をカウントしやすくなり、上記のような外観上の問題を解決することができる。
【0028】
本発明において調製される微生物検出用の平板湿潤培地は、試料溶液の優れた吸収性と均質な分散性を有し、菌数の少ない試料の精度の良い検出に必要とされる、1mlの試料溶液の迅速な吸収を可能とする。例えば、従来法においてはその吸収性に問題があった牛乳のような試料においても、1mlの試料溶液を1時間以内で、完全に吸収分散することができた。本発明の迅速検出方法によれば、大腸菌群では12〜13時間(従来のデソキシコーレイト法では、20±2時間)、カビでは1〜3日間(従来のPDA法では5日間)で検査することができる。また、本発明において調製される微生物検出用の平板湿潤培地は、コロニーの形成性(発育性)が良く、例えば、大腸菌群の検出においては、12〜13時間の培養で、典型的なデソキシコーレイト培地のコロニーとして確認することができる。
【0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
[本発明の吸収剤の添加と乾燥処理の処理の併用効果の検討]
【0031】
(平板培地を乾燥しない方法の検討)
<試験方法>:
デソキシコーレイト平板培地原料として表1記載の吸収剤を加えて平板培地を作成後、試料溶液として、滅菌ガラスピペットで採取した1.0mlの牛乳或いは100%オレンジジュースを平板培地に流し込み、平板培地を「円を描くような感じでほぼ水平に、時には少し傾斜させながら」ゆっくり動かし試料を平板全面に広がるように塗抹した。なお、吸収剤候補の検討素材としては、水分の吸収力が大きいことが知られているものを選んだ。
【0032】
<結果>
結果を表1(平板培地を乾燥しない場合の吸収剤の評価)に示す。表に示されるように、吸収剤の種類に関わらず全くこれらの飲料を吸収することができなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
(平板培地の乾燥条件の検討)
上記の検討結果から、吸収剤の添加と平板培地の乾燥処理を併用することを考慮して、平板培地の乾燥条件を検討した。吸収剤を加えた平板培地の乾燥条件を検討した結果、冷却凝固させた平板培地を、40℃のインキュベーターで反転させ、シャーレの蓋は少しずらして一部開放状態で5時間程度乾燥させると良いことを確認した。この乾燥処理により、シャーレ1枚(培地量20ml)あたり、目安として1.8〜2.5g重量が減少することを確認した。
【0035】
(吸収剤の添加及び乾燥処理の併用の評価)
上記平板培地の乾燥条件の検討を踏まえて、乾燥処理を実施したデソ平板培地を使用して試験を実施した。
【0036】
<培地の調製>
60℃のイオン交換水200mlに吸収剤候補品(単独及び組み合わせ)を表2記載の濃度になるように添加し、ミキサーで溶解する。更に、デソキシコーレイト培地(極東化学製デソキシコーレイト寒天培地)18gを加え、全部で440mlになるようにイオン交換水で希釈し、よく撹拌する。40分間蒸し器にかけ(100℃、40分)、途中攪拌する。蒸し器から取り出して、シャーレに20ml分注し、平板培地を作成した。更に、前述の方法で平板培地の乾燥処理を行った。
【0037】
<吸収剤の選択>
吸収剤の検討素材として、水分の吸収力が大きいことが知られているでんぷん、グルコマンナン、ポリアクリル酸Na、寒天、ゼラチン、乳糖、CMC(カルボキシメチルセルロース)、キチンを選んだ。
【0038】
<評価方法>
培地に1mlの牛乳又は果汁として100%オレンジジュースを添加し、培地に吸収されるかどうかをチェックした。
【0039】
<評価結果>
結果を表2及び3(平板を乾燥させる方法における吸収剤の評価)に示す。表2及び3に示すように、吸収剤として必要な機能である、吸収しない、溶けづらいなどの問題がないカルボキシメチルセルロース(CMC)が優れていることが判明した。培地中への添加量としては、0.1%〜1%が好ましかった。又、グルコマンナンは果汁では効果があったが、牛乳では吸収が不十分であった。なお、下記の表にデータは示さないが、乳糖、キチンについても吸収剤としての性能を評価したが、牛乳或いは100%オレンジジュースは全く吸収されなくて結果は×であった。なお、表2及び3の果汁は100%オレンジジュースを示す。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【実施例2】
【0042】
[本発明の培地における生育促進剤の検討]
【0043】
<試験方法>
コロニーを12時間前後で形成させ、判別し易くさせることを目的として、生育促進剤を検討した。検討素材として、いずれの素材も微生物の増殖効果が知られている、ペプトン、酵母エキス、Tween 80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート;関東科学(株))、脱脂粉乳、SCDブイヨン(トリプトソイブイヨン培地:栄研化学(株))、シュクロース、乳糖、グルコース、ビール酵母、ホエイペプチドFE135(DMVinternational社)、ハイニュート−SMP(不二製油製大豆ペプチド)を候補物質として検討した。吸収剤としてCMCを0.2%添加したことを除き、前記の方法で平板培地を作成した。供試菌としてはエンテロバクターまたは原乳を使用し、イオン交換水で希釈し300〜3000個/mlの菌濃度の菌液を調整した。その菌液を牛乳又は100%オレンジの試料に10%添加し30〜300個/mlの菌濃度試料液とした。滅菌ガラスピペットで試料液を採取し平板培地に1ml流し込み、平板培地を「円を描くような感じでほぼ水平に、時には少し傾斜させながら」ゆっくり動かし試料を平板全面に広がるように塗抹し、32〜35℃で12−13時間培養した。
【0044】
<結果>
結果を表4(生育促進剤のコロニー形成促進効果)に示す。表4に示されるように、コロニーの形成が良くかつ判別がし易いことからTween 80及びハイニュート−SMPを採用した。尚、SCDブイヨンは表に結果は示さないが、生育促進剤としての効果は×であった。表4の結果からTween 80の0.00125%、0.0005%の濃度の場合、ハイニュート−SMP0.5%の濃度の場合、及びホエイペプチド0.5%及びFE−135が0.1%の濃度の場合において、コロニーが比較的識別しやすくかつ生育促進効果が得られた。
【0045】
【表4】

【実施例3】
【0046】
[各種培地によるエンテロバクターの検出試験]
本発明の微生物検出培地(以下、「改良デソ平板培地」)及び対照として、デソ培地(混釈培養)、及びラビットメディア−DOを用いて、エンテロバクターの検出試験を行なった。
【0047】
(培地の調製)
(1)改良デソ平板培地の調製:
【0048】
<培地の作成>
60℃のイオン交換水200mlに不二製油製大豆ペプチド(ハイニュート−SMP)2g、カルボキシメチルセルロース(CMC)0.8gを加えミキサーで溶解した。更に、デソ培地(極東化学製デソキシコーレイト寒天培地)18g、0.5%Tween 80 1ml、ニュートラルレッド0.002gを加え、全部で440mlになるようにイオン交換水で希釈し、よく撹拌した(なお、従来は400mlになるようにイオン交換水を添加するのが一般的であるが、本技術ではこの後平板を乾燥させて重量で約10%の水分を飛ばすため、その分をあらかじめ加えておくために440mlとした。)。40分間蒸し器にかけ、途中攪拌する(フラスコを平らな所に置いて水平に円を描くように攪拌する。)蒸し器から取り出したら55℃になるまでスターラーで攪拌する(ニュートラルレッド溶解のため)。シャーレに20ml分注し、平板を作成した。
【0049】
<平板培地の乾燥>
冷却凝固させた改良デソ平板を、40℃のインキュベーターで反転させ、約5時間乾燥(目安として重量で、1.8〜2.5g減少させた)させた。
【0050】
<調整後の使用期限>
検出培地調整後の使用期限としては、8℃以下で保存して、一ヶ月である。
【0051】
(2)デソ培地の調製:
【0052】
<試薬の配合比>
デソ培地(極東化学製)18gを加え、イオン交換水で400mlとした。
【0053】
<培養条件>
培養温度は32〜35℃、培養時間は12hまたは18hとし、混釈培養とした。具体的な検査方法は食品衛生検査指針(厚生労働省監修:食品衛生検査指針、微生物編、P129−145、(社)日本食品衛生協会、2004)に従い,デソキシコーレイト寒天培地を用い,混釈培養法により大腸菌群数を測定した。
【0054】
(3)ラピットメディア−DO法による大腸菌群迅速検査法
<使用培地>:ラピットメディア−DO(森永乳業株式会社機能素材事業部)
【0055】
<検査方法>:
(a)試料液1mlを滅菌ピペットで採り、ラピットメディア−DO培地上に滴下する。
(b)試料接種後、すみやかに試料液を培地全面に吸着させる。
(c)培地に試料が吸収されたことを確認し、恒温器で蓋を上にして33±3℃で12〜13h培養する。
【0056】
(各種培地によるエンテロバクターの検出)
【0057】
<試験方法>:
(一)本試験に使用した供試菌は、原乳を増菌させて採取した菌を使用した。分離菌株の同定は、市販同定キットAPI20ストレップ(シスメックス・ビオメリュー株式会社)を使用し、同定結果よりエンテロバクター(Enterobacter cloacae)と判定(EXCELLENT IDENTIFICATION TO THE GENUS)された。
(二)滅菌生理食塩水(0.85%)で上記のエンテロバクターを3000個/mlの濃度に調整し供試菌液とした。
(三)滅菌試験管に殺菌済みの各種試料(牛乳、コーヒー牛乳、100%オレンジジュース、ホームメイドスタイルオレンジジュース)をそれぞれ13.5mlとり、その上に供試菌液1.5ml添加しタッチミキサーで十分にブレンドし菌濃度が約300個/mlの各種飲料の試料を調製した。
(四)牛乳、コーヒー牛乳、100%オレンジジュース、ホームメイドスタイルオレジュースについて、エンテロバクターを300個/mlとなるように添加し、12時間(但しデソ混釈は12時間および18時間)前記した温度で培養後、菌数の測定を行った。表5に示した菌数は飲料1mlあたりの菌数で、サイズはコロニーの直径を示す。培地としては、デソ改良培地(塗抹)(表5に示されるデソ改良培地の培地組成による:まる数字1〜4)、デソ培地(混釈)、ラピッドメディア(塗抹)を培地として使用した。尚、この実験ではコロニーの色を赤くする目的でTween 80を無添加とした。色に関してはニュートラルレッドの色がより強く出て赤いコロニーが形成されるというような顕著な効果は認められなかった。
【0058】
<結果>
結果を表6(各種培地によるエンテロバクターの検出)に示す(表中、+の意味は12時間培養から18時間培養の間に新たに検出されたコロニーの個数を示す。また、〜の意味はコロニーのサイズの範囲を表す。18時間培養では最大コロニーだけのサイズのみを記録。混釈法ではコロニーのサイズにバラツキがある。)。この試験例で、Tween 80無添加の試験を行ったが、コロニーの色が赤くなる効果は認められなかった。ハイニュートSMP(不二製油製大豆ペプチド)0.5%添加だけでも成長促進効果は認められた。但し、Tween 80を無添加とした影響によりコロニーのサイズはわずかに「小さ目」であった。改良デソ塗沫法とラピッドメディア塗沫法の12時間培養の結果では、ほぼ同等の菌数を検出できている。塗沫法は混釈法の12時間培養はもとより18時間培養と比較してもエンテロバクターの検出感度が優れている。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【実施例4】
【0061】
[各種試料における検出菌数の比較試験]
本発明の微生物検出法(以下、「改良デソ法」:培地組成は表5のデソ改良培地まる数字3を用いた。)及び対照としてラビットメディア法を用いて、各種試料におけるエンテロバクターの菌数比較を行なった。
【0062】
<供試試料>
以下の各種飲料(牛乳、乳飲料、清涼飲料、果汁)を試験に供した:
乳飲料(コーヒー乳飲料、バナナ乳飲料、いちごミルク乳飲料、カフェミルク乳飲料、マンゴー入り乳飲料)、清涼飲料(カフェラテ)、果汁飲料(100%オレンジ果汁飲料、グレープフルーツ果汁飲料、ホームメイドスタイルパイン果汁飲料、ホームメイドスタイルアップル果汁飲料)。
【0063】
<試験方法>
上記各種飲料にエンテロバクターを30〜300CFU/mlとなるように添加し、改良デソ法(培地組成は表5のデソ改良培地まる数字3)、ラピッドメディア法を使用して、菌の検出を行ない、検出した菌数を比較した。培養温度は改良デソ法が32〜35℃、ラピッドメディア法が30〜36℃、培養時間は12−13時間とした。改良デソ法とラピッドメディア法による菌数に飲料の種類による影響は認められなかったため、全てを集計した結果を図1に示す。尚、n数は46とし、それぞれ改良デソ法とラピッドメディア法で分析を行った。
【0064】
<結果>
結果を図1(改良デソ法−ラピッドメディア法の菌数相関)に示す。図1のグラフのデータについて、改良デソ法とラピッドメディア法の相関係数を計算した所0.88077であり、高い相関関係を示した。又、表7(改良デソ法−ラピッドメディア法菌数比較(CFU/ml)に示すように改良デソ法とラピッドメディア法で菌数平均値にも差は認められなかった。
【0065】
【表7】

【実施例5】
【0066】
[各種試料における各検出方法によるエンテロバクターの菌数比較]
本発明の微生物検出法(以下、「改良デソ法」:培地組成は表5のデソ改良培地まる数字3を用いた。)及び対照としてラビットメディア法、混釈デソ法を用いて、各種試料におけるエンテロバクターの菌数比較を行なった。
【0067】
<試験方法>
各種飲料での改良デソ法の効果を調査することを目的として試験を実施した。エンテロバクターを生理食塩水で希釈し、それぞれ表8記載の飲料にて最終希釈(菌濃度 30〜300CFU/ml)し、改良デソ法(培地組成は表5のデソ改良培地まる数字3とした)、ラピッドメディア法、混釈デソ法により菌数を測定した。
【0068】
<結果>
結果を表8(各種試料(飲料)でのエンテロバクターの検出方法による菌数の比較)に示す。混釈デソ法を基準に考えた場合、改良デソ法およびラピッドメディア法は短時間判定にも係らずコロニーの形成が良好であった。特に、果汁での菌数において混釈デソ法と比較し顕著な効果が確認できた。
【0069】
【表8】

【実施例6】
【0070】
[原乳中の大腸菌群による改良デソ法の評価]
本発明の微生物検出法(以下、「改良デソ法」:培地組成は表5のデソ改良培地まる数字3を用いた。)及び対照としてラビットメディア法、混釈デソ法を用いて、各種試料(飲料)における原乳中の大腸菌群による改良デソ法の評価を行なった。
【0071】
<試験方法>
供試菌源として原乳を使用し、原乳を生理食塩水で希釈し、表9に記載の飲料で最終希釈した。試験方法は表8の方法と同様な方法で実施した。
【0072】
<結果>
結果を表8(原乳中の大腸菌群による改良デソ法の評価)に示す。原乳中に含まれる広義の大腸菌群を対象に各検査の検出状況を確認した場合、改良デソ法およびラピッドメディア法の精度には差はなかった。大腸菌群の検出に関して、混釈法に比べ塗抹法の方が全般的に、迅速且つ多くコロニーを形成する傾向にある。これは、大腸菌群が好気性・通性嫌気性であるため条件の良い培地表面での形成が行われるものと推測される。
【0073】
【表9】

【実施例7】
【0074】
[本発明の微生物検出法を用いたカビの検出試験]
本発明の微生物検出法[以下、「改良PDA平板培地法」:平板培地へ吸収剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用し、培地にはPDA(ポテトデキストロース寒天培地)を使用]を用いて、カビの検出試験を行なった。
【0075】
<改良PDA平板培地の調製>
(1)500mlのプラスチックビーカーに、イオン交換水(60℃)200ml、CMC 0.8gを入れて、ミキサーで溶解する。(2)(1)でミキサーで溶解したものを500mlの三角フラスコに入れてPDA15.6gを加え、それから1%(W/V)クロラムフェニコール含有エタノール溶液4mlを加えて、全量440mlになるようにイオン交換水を加える。(3)該(2)で調製したものに攪拌子を入れ、スターラーでよく攪拌する。(4)更に、121℃で15分滅菌する。(5)55℃程度まで冷却させ、シャーレに20ml分注し、平板を作成する。(6)凝固させたPDA平板培地を、40℃のインキュベーターで反転させ、5時間程度乾燥(目安として1.8〜2.5g減少)させ、改良PDA平板培地を調製した。
【0076】
<塗抹法と混釈法による果汁飲料中の各種カビ類の菌数比較>
塗沫法と混釈法でのカビ培養試験にあたり、0.05%Tween 80生理食塩水で調製したカビ3種(ペニシリウム、クラドスポリウム、ムコール)の胞子液を使用して行い、塗沫法が混釈法よりもカビ検出が早いことを確認した。塗沫法では生育の早いカビ(ペニシリウム、クラドスポリウム)は25℃培養1日目で白い菌糸体がコロニー状に形成され明らかにカビが検出されたと判定できる状態であった。同様の効果が果汁においても得られるかどうかの確認実験を行った。
【0077】
<試験方法>
カビの菌数を迅速に測定すること及びカビが菌糸体を形成した時点での判定に果汁の色や果汁のパルプが影響するかどうかを目的として、本発明の塗抹法と混釈法の試験を実施した。果汁は、いずれも果汁のパルプ分を含むホームメイドスタイルオレンジとホームメイドスタイルグレープフルーツの2品とし、殺菌して実験に供した。カビとして、ペニシリウム属、ムコール属、クラドスポリウム属を使用した。0.05%Tween 80生理食塩水でカビの胞子液を調整し、別途記載の条件で殺菌処理を実施し、胞子以外の菌を死滅させた。ここで、クラドスポリウムまる数字1とクラドスポリウムまる数字2は同種のカビではあるが、採取源と初発菌数が異なっており、クラドスポリウムまる数字2の方が初発菌数は多い。
【0078】
胞子液1mlあたりの菌数測定に当たっては、1日後から5日後まで毎日菌数を測定したが、塗抹法にあたっては、培養1日、2日、3日後、混釈法にあたっては、培養1日、2日、5日後の菌数を表10(塗抹法と混釈法による果汁飲料中の各種カビ類の菌数比較)に示した。培養温度は25℃である。[表9中の略号の意味を次に示す:HGF(ホームメイドスタイルグレープフルーツジュース);HOJ(ホームメイドスタイルオレンジジュース)。なお、HGF120は、121℃、15分、HGF100は、100℃、10分の殺菌処理を実施した。HOJ120は、121℃、15分、HOJ100は、100℃、10分の殺菌処理を実施した。121℃、15分は確実に滅菌するためであり、100℃、10分はできるだけ現実に近い熱履歴サンプルとするために設定した。殺菌条件の違いによってカビの生育に差が生じるのかどうかを確認した。
【0079】
<結果>
結果を表10(塗抹法と混釈法による果汁飲料中の各種カビ類の菌数比較)に示す。果汁を試料とした場合でも塗沫法の効果を確認することができた。カビが菌糸体を形成しコロニー状になった時点でカビ検出と判定することが十分可能であり、果汁の色やパルプ分は判定の障害にならないことが判明した。塗抹法ではペニシリウム属とクラドスポリウム属で1日、ムコール属でも3日で菌数を測定できた。混釈法では5日経過しても菌数は塗抹法より少なかった。この理由としてカビは好気性菌であり、混釈法では十分な酸素がカビに供給されなかったことが原因であると思われる。
【0080】
【表10】

【実施例8】
【0081】
[カビの種類と検出方法による菌数の変化]
本発明の微生物検出法[「改良PDA平板培地法」(塗抹培養法)]と対照として、「混釈培養法」を用いてカビの種類と検出方法による菌数の変化について試験を行なった。
【0082】
<試験方法>
前述のクラドスポリウム属、ペニシリウム属、ムコール属を使用して、(A):PDA混釈、(B)PDA塗沫、(C)PDA塗沫+水シャーレの3種類の培養法でカビの菌数測定を実施した。なお、(C)は湿度を上げることでカビの生育が促進されるかどうかを確認することを目的とした。0.05%Tween 80生理食塩水で胞子液を調整し、PDA平板に1ml塗沫し、25℃で培養した。上記3種類のカビについて最初の菌濃度が数百〜数千個/mlと数個〜数十個/mlの場合の2通りについて培養実験を行った。なお、表11には、最初の菌濃度が数百〜数千個/mlの場合の結果を示した。[表11中の略号の説明を次に示す:(A):PDA混釈;(B)PDA塗沫;(C)PDA塗沫+水シャーレ;(C)は水を入れたシャーレをPDA塗抹シャーレと一緒に同一のビニール袋に入れ、湿度を上げて培養する実験、水入りシャーレの蓋は開けておく(プラスチックシャーレの蓋に4〜5箇所穴をあけておき塗沫シャーレと同じポリ袋に入れるか、又は蓋のできる同一のプラスチック容器にいれて25℃で培養する。)。]
【0083】
<結果>
結果を表11(カビの種類と培養方法による菌数の変化)に示す(表中、計測不能は個々のコロニーの境界が不明確であったため、コロニー数の計測が不可能であったことを示す。+:30〜300CFU/ml)。塗沫培養法は、混釈培養法に比べカビ検出率、検出するまでの日数の両方で明らかに優っている。培地の湿度を上げることを目的とした「水シャーレ」に、塗抹法での生育促進効果をさらにアップさせる効果は認められなかった。上記3種類のカビについてB、Cの塗抹法では最初の菌濃度が数百〜数千個/mlの場合はいずれも25℃1日培養で明らかにカビと判定できるコロニー状の菌糸体が形成された。ペニシリウム、クラドスポリウムは2日目では色がつき始めてきた。
【0084】
一方、菌濃度が数個〜数十個/mlの場合ではデータは示さないが、1日目では検出できず2日目ではカビ検出を確認できた。色がつき始めるのは3日目からであった。塗抹法はカビ発生の異常事態の早期発見に効果的であった。混釈培養法ではカビ検出率にバラツキが認められた。ペニシリウムは混釈培養法でも菌糸体の形成が早くカビ検出の確認が早目にできたが、クラドスポリウムとムコールは混釈培養法での検出は遅かった。
【0085】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施例の各種試料における検出菌数の比較試験の結果において、改良デソ法−ラピッドメディア法の菌数の相関について示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%を添加し、該培地を部分乾燥して調製した平板湿潤培地を用いて微生物の培養・検出を行なうことを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項2】
微生物検出用の平板湿潤培地として、大腸菌群測定用としてデソキシコーレイト寒天培地を、或いはカビ測定用としてポテトデキストロース寒天培地を用いることを特徴とする請求項1記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項3】
培地の部分乾燥を、40℃以下の低温で、培地の減重量が5〜15%であるように行うことを特徴とする請求項1又は2記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項4】
平板湿潤培地の調製において、培地の乾燥後の水分含量が公定法の微生物の培地の水分含量と同じ又はほぼ同じになるように、培地調製の際の加水量を公定法の微生物の培地の水分含量より増量することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項5】
培地に生育促進剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート及びペプチドを単独若しくは組み合わせて使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項6】
ペプチドが、大豆ペプチド及び/又はホエイペプチドであることを特徴とする請求項5記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項7】
培地にニュートラルレッドを添加することを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載の平板塗抹法による微生物の迅速検出方法。
【請求項8】
微生物検出用の平板湿潤培地に、吸収剤として培地に対して、カルボキシメチルセルロース0.1〜1重量%及び/又はグルコマンナンを0.05〜0.5重量%添加し、該培地を乾燥による培地の減重量が5〜15重量%であるように乾燥して調製することを特徴とする平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための微生物の培養・検出用培地の調製方法。
【請求項9】
請求項8記載の微生物の培養・検出培地の調製方法によって調製された平板塗抹法による微生物の迅速検出に用いるための汚染菌の検出感度を高めた微生物の培養・検出用培地。

【図1】
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【公開番号】特開2010−119364(P2010−119364A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298004(P2008−298004)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(594197388)小岩井乳業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】