説明

微生物の迅速測定方法及び捕捉装置

【課題】空気中の浮遊微生物を効率よく捕捉し、迅速測定法を利用して、一般細菌のみならず、耐熱性好酸性菌や耐熱カビ等の耐熱性微生物も捕捉することができ、しかも迅速に検出を行うことができる、微生物の迅速測定方法、及び、該方法の使用に適した微生物捕捉装置を提供する。
【解決手段】微生物の迅速測定方法は、耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉し、該メンブレンフィルター上に捕捉した微生物を培地上で培養した後、培養された微生物中のATPをバイオルミネッセンス反応により検出し、吸引は、圧縮空気を利用したエゼクター4により行われる。微生物捕捉装置1は、コンプレッサーからの圧縮空気を利用して誘因流路から周囲空気を吸引するエゼクター4と、エゼクター4の誘因流路に接続されてメンブレンフィルター12を支持するホルダー13と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に浮遊する微生物を迅速に測定するための方法及び該方法の実施に適した微生物捕捉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浮遊微生物を捕捉する装置として、空気流を寒天培地に衝突させて該培地に浮遊微生物を捕捉する衝突型浮遊微生物捕捉装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、液体中の微生物を迅速に測定する方法として、微生物を含む液体を濾過膜で濾過して濾過膜に捕捉し、短時間培養し、次いで液状発光試薬を噴霧して微生物及びその近傍に接触させて、微生物のATP(アデノシン三リン酸)をバイオルミネッセンス法によって光学的に検出する迅速測定法が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−149064号公報
【特許文献2】特開平11−137293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の衝突型浮遊微生物捕捉装置は、空気流中の大半の浮遊微生物が培地上で跳ね返る等して捕捉されずに排気とともに排出されると考えられ、捕捉効率が低く、そのうえ、培養に長時間を要し、判定するまでに少なくとも5日程度を要していた。また、従来の衝突型浮遊微生物捕捉装置は、一般細菌や真菌は測定できるが、特に食品製造区域で問題となる耐熱性好酸性菌や耐熱カビ等の耐熱性微生物は測定できない。耐熱性好酸性菌や耐熱カビは、測定を可能にするために、いわゆるヒートショック(例えば70℃、10分)を与える必要があるが、このような高温で寒天培地を加熱すると、寒天培地が溶けてしまうからである。
【0006】
また、従来の迅速測定法においては、液体中の微生物を対象とし、空気中の浮遊微生物を対象としていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、空気中の浮遊微生物を効率よく捕捉し、迅速測定法を利用して、一般細菌のみならず、耐熱性好酸性菌や耐熱カビ等の耐熱性微生物も捕捉することができ、しかも迅速に検出を行うことができる、微生物の迅速測定方法、及び、該方法の実施に適した微生物捕捉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る微生物の迅速測定方法は、耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉し、該メンブレンフィルター上に捕捉した微生物を培地上で培養した後、培養された微生物中のATPをバイオルミネッセンス反応により検出し、空気の吸引は、圧縮空気を利用したエゼクターにより行うことを特徴とする。
【0009】
前記迅速測定方法において、前記培養前に、微生物を捕捉したメンブレンフィルターを加熱処理することにより、メンブレンフィルターに捕捉した耐熱性微生物にヒートショックを与えても良い。
【0010】
また、本発明に係る微生物捕捉装置は、耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉する微生物捕捉装置であって、コンプレッサーからの圧縮空気を利用して誘因流路から周囲空気を吸引するエゼクターと、該エゼクターの誘因流路に接続されて前記メンブレンフィルターを支持するホルダーと、を有することを特徴とする。
【0011】
前記ホルダーがカップ状部を有し、該カップ状部の底部にメンブレンフィルターが支持されていることが好ましい。
【0012】
さらに、前記微生物捕捉装置は、前記誘因流路に接続され前記メンブレンフィルターを収容するチャンバーを更に備え、該チャンバーは、前記誘因流路に接続される誘因流路側接続口部と、外部空気を導入するための外気導入用接続口部と、前記誘因流路側接続口部と前記外気導入口部との間に前記メンブレンフィルターを支持する前記ホルダーと、を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る微生物の迅速測定方法によれば、メンブレンフィルターを強制吸気流路に配置して浮遊微生物を捕捉することにより、浮遊微生物を効率よく捕捉することができるうえに培養時間を短縮できるとともに、ATPのバイオルミネッセンス反応による迅速測定法により、トータル検出時間が大幅に短縮できる上、メンブレンフィルターを熱処理することで耐熱性好酸性菌や耐熱性カビのような特定微生物も検出し得る。
【0014】
また、圧縮空気を利用したエゼクターにより空気を吸引すれば、圧縮空気は通常、食品工場等では常用されており、これを利用して浮遊微生物を捕捉できるため、コストの低減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る微生物捕捉装置の第1実施形態を一部断面で示す側面図である。
【図2】本発明に係る微生物捕捉装置の第2実施形態を一部断面で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態について、以下に図1〜2を参照して説明する。図1は、微生物捕捉装置の第1実施形態を示している。
【0017】
第1実施形態の微生物捕捉装置1は、コンプレッサー(図示せず。)からの圧縮空気を供給するエアチューブ2が接続された流量制御用のレギュレーター3、レギュレーター3に接続されたエゼクター4、エゼクター4の排出側に接続された無菌フィルター5、エゼクター4の誘因流路6に接続された、真空ゲージ7、バルブ8、流量表示計9、流量センサー10、ホルダーアダプター11、及び、ホルダーアダプター11に着脱自在に支持されてメンブレンフィルター12を支持するホルダー13、を備えている。エゼクター4は、内部にディフューザー(図示せず。)を備えており、圧縮空気の導入によりディフューザーが高速で空気を噴出させることにより、誘因流路6から空気を誘因し、無菌フィルター5を通じて排出する。
【0018】
ホルダー13は、螺子結合により、メンブレンフィルター12を挟持し得る一対の挟持片13a、13bを備える。挟持片13a、13bは、誘因流路6に連通する内部流路を有している。挟持片13aは、アダプターホルダー11に挿着し得るノズル部13a1を有し、挟持片13bはカップ状部13b1を有している。カップ状部13b1の底にエゼクター4の誘因流路6が開口し、該開口の近傍のカップ状部の底部にメンブレンフィルター12が支持される。メンブレンフィルター12は、その周囲部がホルダー13によって密閉されているため、エゼクター4の誘因流路6は、メンブレンフィルター12を介してのみ吸気するように構成されている。
【0019】
メンブレンフィルター12は、耐熱性好酸性菌や耐熱性カビ等の耐熱性微生物にヒートショックを与える際の加熱処理に耐え得る耐熱性を備えるものを使用する。斯かるメンブレンフィルター12の素材としては、セルロース混合エステルを好適な例として挙げることができる。また、メンブレンフィルター12の細口径は、一般には0.1〜10μmであり、捕捉すべき微生物の大きさに応じて適宜選択することができる。この種のメンブレンフィルター12は、例えば、アドバンテック東洋(株)から販売されているものを使用することができる。
【0020】
レギュレーター3の制御により一定流量で吸引した場合、吸引量(リットル)と吸引時間とは比例関係にあることが実験的に確認されており、所望の吸引量を得るには、吸引時間を測定すれば良い。但し、メンブレンフィルター12を乾燥状態で使用するため、捕捉された微生物が長時間乾燥状態に晒されることにより死滅しないよう、吸引時間が調整される。実験的には、15分程度の乾燥吸引において、メンブレンフィルター12上の微生物が生存していることが確認されている。なお、流量は、適宜設定することができる。
【0021】
エゼクター4からの排気部に、無菌フィルター5を接続することにより、コンプレッサー(図示せず。)からの圧縮空気中に浮遊している微生物を排出するのを防止し得る。
【0022】
上記構成を有する微生物捕捉装置1は、図外のコンプレッサーからエアチューブ2を通じて圧縮空気が送られると、エゼクター4が誘因流路6に負圧を発生させ、メンブレンフィルター12を介して空気を吸引することによりメンブレンフィルター12に微生物を捕捉するようにしたので、従来の衝突方法に比較して効率良く浮遊微生物を捕捉することができる。
【0023】
また、ホルダー13がカップ状部を有することにより、仮にメンブレンフィルター12で跳ね返った微生物が存在したとしても、カップ状部の内壁に衝突して再びメンブレンフィルター12に吸引されるので、捕捉漏れが少なくなる。
【0024】
また、本発明に係る微生物捕捉装置は、コンプレッサーからの圧縮空気を利用して空気中の浮遊微生物を採集する。浮遊微生物の迅速測定が特に必要な食品工場や医薬品工場等には、通常、コンプレッサーが設置えられ、各種装置の駆動等に圧縮空気が使用されている。従って、本発明の微生物捕捉装置1は、この種の工場等に既に備え付けられている設備を利用して、浮遊微生物を採集することができるので、微生物捕捉装置自体のコストの低減が図られる。
【0025】
次に、微生物捕捉装置の第2実施形態について、図2を参照して説明する。第1実施形態と同様の構成部分については、同符号を付して説明を省略する。
【0026】
第2実施形態の微生物捕捉装置20は、誘因流路6に接続されるチャンバー21を備えている。チャンバー21は、2分割体21a、21bを螺子結合により結合しており、各分割体21a、21bの間にメンブレンフィルター12を挟んで支持する、すなわちホルダーが構成されるとともに、メンブレンフィルター12を内部に収容することができる一方の分割体21aには、誘因流路6に接続される誘因流路側接続口部22が設けられ、他方の分割体21bには、外部空気を導入するための外気導入用接続口部23が設けられている。
【0027】
斯かる第2実施形態の微生物捕捉装置20は、測定区域G外に配置し、外気導入用接続口部23に、測定区域内から引き出したポートにホース24を接続する一方、レギュレーター3の接続部に圧縮空気供給用ホース2を接続する。
【0028】
ホース2に圧縮空気が導入されると、エゼクター4の作用により、ホース24を介して吸引された測定区域G内の空気が、チャンバー21内のメンブレンフィルター12で濾過され、誘因流路6を通じて、エゼクター4内のディフューザー(図示せず。)から、無菌フィルター5を通って排出される。
【0029】
第2実施形態の微生物捕捉装置20によれば、クリーンルームのように微生物が殆ど存在しない区域の浮遊微生物を測定する際に、微生物捕捉装置20を当該区域内に持ち込まずに測定することができるため、当該区域内を汚染する危険性がなく、当該区域内の微生物数を純粋に測定することができる。
【0030】
次に、本発明に係る微生物の迅速測定方法の実施形態について、説明する。
【0031】
上記第1実施形態又は第2実施形態の微生物捕捉装置によって浮遊微生物を捕捉したメンブレンフィルター12は、ホルダーから取り外し、標準寒天培地(PCA)、抗生物質添加ブドウ糖・ペプトン寒天培地(GPA)、或いは、抗生物質添加ポテト・デキストロース寒天培地(PDA)等の培地上に載せて、所定時間培養する。例えば、生菌数を測定する場合は、PCAを用いて36℃、20時間の培養を行い、真菌数を測定する場合は、GPAを用いて25℃、44時間の培養を行う。
【0032】
耐熱性好酸性菌や耐熱性カビの測定を行う場合は、培養の前に、メンブレンフィルター12を加熱処理(例えば、70℃、10分)することにより、耐熱性好酸性菌や耐熱性カビに、いわゆるヒートショックを与えて活性化させておく。ヒートショックを与えるための加熱処理条件は、対象となる微生物の種類に応じて適宜設定されるが、一般には、70〜75℃、5〜10分である。
【0033】
所定の培養を行った後、ルシフェリン−ルシフェラーゼ発光試薬を添加し、微生物の生体細胞内のATP(アデノシン三リン酸)を、バイオルミネッセンス(生物発光)反応により発光させ、生物発光測定装置にかけて、微生物のコロニーを計数する。生物発光測定装置は、公知の装置を使用することができ、例えば、日本ミリポア(株)から市販されている生物発光画像解析システム等を使用することができる。
【0034】
なお、上記実施形態ではエゼクターによる吸引を例示したが、本発明に係る微生物の迅速測定方法においては、真空ポンプ、その他の吸引手段を用いて吸引することも可能である。
【0035】
上記のような測定方法によれば、空気中を浮遊する微生物を効率よく捕捉することができるので、バイオルミネッセンス反応による生物発光測定を組み合わせることで、測定日数を大幅に短縮することが可能となる。実験によれば、例えば、一般細菌なら約24時間、真菌なら約48時間で判定ができることが確認されている。また、従来では測定が困難であった空気中の耐熱性好酸性菌や耐熱性カビも測定することができる。
【0036】
試験例
本発明方法の実施例と、従来の比較例とについて、試験を行った。試験条件は、以下の通りである。サンプリングは、微生物的に管理されていない室内で実施した。
【0037】
[実施例]
図1に示した微生物捕捉装置により浮遊微生物を捕捉したメンブレンフィルターを、培地に載せて培地上で微生物を培養し、日本ミリポア(株)製生物発光画像解析システムを用いて測定した。
【0038】
・メンブレンフィルター;メーカー MILLIPORE社
品番 EZHAGG474
細口径 0.45μm
素材 セルロース混合エステル
・吸引空気量 100L 6回
・吸引時間 各3分
・培地 A: 標準寒天培地
B: 抗生物質添加ブドウ糖・ペプトン寒天培地
・培養条件 A: 36℃、20時間
B: 25℃、44時間
[比較例]
MERCK社製の衝突型微生物捕捉装置(品名:メルクエアーサンプラー 品番:MAS100)を用いて空気吸引により培地上に捕捉した微生物を培養し、コロニー数をカウントした。
【0039】
・培地 A: 標準寒天培地
B: 抗生物質添加ブドウ糖・ペプトン寒天培地
・吸引空気量 100L 3回
・吸引時間 各1分
・培養条件 A: 36℃、3日
B: 25℃、5日
試験結果を下記表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から、実施例は、比較例に比較して、効率良く微生物を捕捉でき、短期間で測定できることが判った。
【符号の説明】
【0042】
1,20 微生物捕捉装置
4 エゼクター
13 ホルダー
21 チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉し、該メンブレンフィルター上に捕捉した微生物を培地上で培養した後、培養された微生物中のATPをバイオルミネッセンス反応により検出し、
前記吸引は、圧縮空気を利用したエゼクターにより行われることを特徴とする、微生物の迅速測定方法。
【請求項2】
耐熱性を有するメンブレンフィルターを介して空気を吸引することにより空気中に浮遊する微生物を該メンブレンフィルター上に捕捉する微生物捕捉装置であって、コンプレッサーからの圧縮空気を利用して誘因流路から周囲空気を吸引するエゼクターと、該エゼクターの誘因流路に接続されて前記メンブレンフィルターを支持するホルダーと、を有することを特徴とする前記微生物捕捉装置。
【請求項3】
前記ホルダーがカップ状部を有し、該カップ状部の底部にメンブレンフィルターが支持されていることを特徴とする請求項2に記載の微生物捕捉装置。
【請求項4】
前記誘因流路に接続され前記メンブレンフィルターを収容するチャンバーを更に備え、該チャンバーは、前記誘因流路に接続される誘因流路側接続口部と、外部空気を導入するための外気導入用接続口部と、前記誘因流路側接続口部と前記外気導入口部との間に前記メンブレンフィルターを支持する前記ホルダーと、を備えることを特徴とする請求項2に記載の微生物捕捉装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−183066(P2012−183066A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92364(P2012−92364)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【分割の表示】特願2006−356262(P2006−356262)の分割
【原出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】