説明

微生物の院内感染症の治療用医薬の製造におけるタウロリジンまたはタウラルタムのような抗微生物薬剤の使用

【課題】消化管、腸管または胃腸の微生物感染症の治療に使用するための治療剤、好ましくは経口投与可能な治療剤の提供。
【解決手段】細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化、またはそれらの組合わせによって作用する抗微生物薬剤の抗微生物有効量を患者の胃腸に導入することからなる方法および組成物。特に、多剤耐性感染症、たとえばVREおよびMRSAの治療におけるタウロリジンおよび/またはタウラルタムの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物感染症を有する患者の治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質の広範な使用は、微生物の多剤耐性に重要な影響を与え、抗生物質耐性微生物の数を著しく増加させている。
【0003】
腸球菌(Enterococci)の抗生物質耐性株、たとえば Enterococcus faeciumおよび Enterococcus faecalis のバンコマイシン耐性株(VRE)、ならびにブドウ球菌(Staphylococci)の抗生物質耐性株、たとえばメチシリン耐性の Staphylococcus aureus(MRSA)は重篤な院内感染症および下痢を起こすことがある。集中治療室における共通した院内感染は肺炎、尿管感染症、敗血症、カテーテル敗血症および術後創傷感染症である。
【0004】
抗生物質耐性微生物は、入院患者、特に長期間治療施設においてVREの集落形成をもつ患者および集団治療に復した患者間の重篤な罹病率および死亡率の増加に関与し、今や大きな公衆衛生の危機を生じている。抗生物質耐性株によって引き起こされる生命の危険がある感染症の管理は、治療的選択の範囲がきわめて限定されていることから特に困難である。院内感染症の発症率およびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の集落形成は全世界において急増している。治療は現在では、抗生物質または効能未確定の実験的物質の組合わせが選択されている。S. aureus の臨床的分離株におけるバンコマイシン耐性の潜在的出現は危険である。有効な予防には、患者間のVREの伝達を防止することが必要である。
【0005】
化合物タウロリジンTaurolidine(Taurolin−登録商標)およびタウラルタムTaurultamは、好気性および嫌気性細菌、マイコバクテリアおよびかびに対して広いスペクトルの
活性を有する既知の抗微生物性物質である。抗生物質とは異なり、これらの化合物は大量の細菌トキシンの放出を生じさせない。それらは患者に局所的に注射または輸液により、歯および顎の感染症、創傷感染症、骨炎、内毒素血症、腹膜炎、敗血症および敗血症ショックに際し投与するための抗生物質の代替物として示唆されていた。しかしながら、これらの化合物はインビボにおける半減期が短いことが知られていて、それらはこれまで腸管の感染症の治療用として示唆されたことはなかった。
【0006】
本技術分野には、抗生物質の多剤耐性を有する微生物によって感染した患者の治療のための改良された方法に対する緊急の要求がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一態様においては、本発明は消化管、腸管または胃腸の微生物感染症の治療に使用するための治療剤、好ましくは経口投与可能な治療剤の製造における、細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化、およびそれらの組合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物剤の使用を提供する。好ましくは、本発明に使用される薬剤は抗生物質耐性微生物に対して有効な非抗生物質薬剤である。
【0008】
さらに他の態様においては、本発明は、患者の微生物による消化管感染症を治療するように、細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化およびそれらの組合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤の抗微生物有効量を患者の腸管に導入することからなる、微生物感染症の患者を治療する方法を提供する。好ましくは、薬剤は経口的に投与される。
【0009】
本明細書において用いられる「患者」の語は、消化管の微生物感染症を有する哺乳動物患者、特にヒトの患者を意味する。
【0010】
本発明により使用される抗微生物性化合物は、徐効性殺菌剤である細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出および/またはエキソトキシン不活性化作用のある抗微生物性化合物である。好ましくは、これらの化合物は、細胞壁架橋結合による細胞壁構成成分を不活性化する非抗生物質抗微生物薬剤、エンドトキシンを放出させない非抗生物質抗微生物薬剤、エキソトキシンを不活性化する作用のある非抗生物質抗微生物性化合物、およびそれらの組合わせからなる群より選択される。特に好ましい化合物は、細胞壁架橋結合化合物、たとえばタウロリジンおよびタウラルタムである。タウロリジンは、グラム陽性およびグラム陰性、好気性および嫌気性細菌を含め、例外的に広い抗微生物性および抗菌活性スペクトルを有するユニークな抗微生物薬剤である。耐性はインビボまたはインビトロのいずれにおいてもこれまで観察されたことはない。さらに、この化合物は大部分の酵母状菌および糸状菌に対しても有用な活性を有する。
【0011】
化合物タウロリジンおよびタウラルタムはUS-A-5,210,083 に開示されている。この内容は参照により本明細書中に組み入れられる。
【0012】
したがってさらに他の態様においては、本発明は、細菌感染症、かび感染症またはそれらの組合わせの患者における治療方法であって、感染症が治療されるように、患者の消化管にタウロリジン、タウラルタムまたはそれらの組合わせを導入するため経口的に投与することからなる方法を提供する。
【0013】
本発明に用いられる抗微生物化合物は、微生物の細胞壁を攻撃、破壊および/または破裂するように作用し(ムレイン生合成、タンパク質生合成、DNAトポロジー等の妨害)、微生物細胞から微生物トキシンの放出を生じる本技術分野において通常理解されている慣用の抗生物質とは異なっている。
【0014】
本発明をタウロリジンおよびタウラルタムに関してさらに説明するが、本発明はまたトキシンを全くまたはその実質的に重要な量を放出しない、細胞壁構成成分を不活性化する他の抗微生物性化合物の使用にも適用できる。すなわち、本発明は、タウロリジン、タウラルタムおよび実質的に同様の様式で作用する抗微生物薬剤に適用することができる。
【0015】
上述のように、本発明は微生物感染症、たとえば細菌感染症、かび感染症またはそれらの組合わせを有する患者の治療方法を意図するものである。特に本発明は、細菌および/またはかびによる消化管感染症の治療に関する。本発明の方法は特に細菌の集落形成を有する患者の治療、たとえばMRSAおよびVREのような多剤耐性細菌に関連した感染症の治療に適している。
【0016】
さらに他の態様においては、本発明は、患者の微生物による消化管感染症を治療する方法であって、患者の消化管に抗生物質耐性微生物に対して有効な非抗生物質抗微生物薬剤を導入することからなる方法を提供する。
【0017】
本発明は、特に消化管、腸管または胃腸の微生物感染症に適用可能であり、抗生物質耐性の微生物、たとえばグラム陰性もしくはグラム陽性細菌の抗生物質耐性微生物株、ならびに抗生物質耐性および多剤耐性腸球菌株、抗生物質耐性および多剤耐性ブドウ球菌、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Staphylococcus aureus、バンコマイシン
耐性 Enterococcus faecalis(VRE)株およびメチシリン耐性 Staphylococcus aureus(MRSA)株による消化管の感染に対して使用するのに有利である。
【0018】
抗微生物性薬剤は錠剤、カプセル、溶液、懸濁液、坐剤等として、好ましくは腸溶性コーティング錠もしくはカプセルとして投与し、生物学的利用性の保証、薬剤の効果の制御および副作用の回避が可能である。
【0019】
好ましい実施態様においては、抗微生物剤は経腸的に投与される。適当な投与方法の一つは経口投与である。腸管下部または結腸の微生物感染症の治療には、患者の消化管への直接投与、たとえば経口および/または経直腸的投与が好ましい。重篤な微生物感染症の場合、細菌は血流中にも存在することがある。このような場合には、薬剤を、局所的たとえば経口および/または経直腸経路、ならびに全身的たとえば中心カテーテルによる両者で投与することが望ましい。すなわち、さらに他の実施態様は、抗微生物薬剤の注射および/または静脈内投与の単独、または経口および/または経直腸的投与との組合わせが包含される。
【0020】
特に好ましい実施態様においては、抗微生物薬剤は、患者の消化管内における微生物の増殖および/または再生を阻害するため、治療の経過を通じて薬剤が実質的に連続して患者の消化管内に存在するように投与される。軟質または硬質カプセルの腸溶性コーティングは、酸感受性を安定化し、耐容性を改善し、経口投与後の胃損傷、胃障害および胃粘膜刺激を回避するのに利用できる。腸溶性コーティングは作用の発現を遅延させ、小腸での標的放出を可能にする。
【0021】
本発明はまた、微生物感染症の治療用の医薬組成物にも適用される。すなわち本発明のさらに他の態様においては、細胞壁構成成分の不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化、およびそれらの組合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤とともに、薬剤と有効に共同して遅延放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤、または薬剤と有効に共同して持続放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤のいずれかよりなる医薬組成物を提供する。
【0022】
本発明による特に好ましい消化管の微生物感染症の治療用の医薬組成物は、細胞壁構成成分の不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化、およびそれらの組合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤の抗微生物有効量を包含し、(1)抗微生物薬剤と有効に共同して遅延放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤を包含し、経口的に投与した場合、薬剤が患者の腸管に達するまで薬剤の放出を遅延させる遅延放出処方、および(2)薬剤が患者の腸管に達したのち薬剤を実質的に連続して放出するように、薬剤と有効に共同して持続放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤を含む持続放出型処方からなる群より選択される処方とした組成物である。特に好ましい持続放出性処方物では、薬剤は患者の腸管に到達したのち少なくとも1時間、さらに好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8時間またはそれ以上の間実質的に連続して放出される。
【0023】
持続および遅延放出性処方物は以下の方法により調製することができる。
1)薬剤の放出を制御するための各種マトリックスの使用。このようなマトリックスは、様々なポリマー(たとえば、US-A-5,618,559,US-A-5,637,320およびUS-A-5,648,096参照)、セルロースを主要な成分とする材料(たとえば、US-A-5,607,695,US-A-5,609,884,US-A-5,624,683,およびUS-A-5,656,295 参照)、脂肪酸とポリグリセロール(たと
えばUS-A-5,593,690,US-A-5,602,180 およびUS-A-5,628,993 参照)、ならびにゼラチン誘導体(たとえば、US-A-5,593,690 参照)を包含する。
【0024】
2)ポリマー性およびビニル性コーティングを包含する胃抵抗性コーティング(たとえばUS-A-5,639,476,US-A-5,637,320,US-A-5,616,345,US-A-5,603,957,US-A-5,656,291,US-A-5,614,218,US-A-5,541,171 およびUS-A-5,541,170 参照)およびセルロースを主要な成分とする材料(たとえば、US-A-5,510,113 およびUS-A-5,603,975 参照)の使用。
【0025】
3)放出を延長する活性成分への添加物、たとえば脂肪酸の使用(たとえば、US-A-5,597,562 参照)。
【0026】
US-A-5,6590,170 には、薬剤を腸および結腸に制御された速度で送達するための剤形が開示されている。
【0027】
上に引用した米国特許それぞれの内容は参照により本明細書中に組み入れられる。
【0028】
好ましい実施態様においては、抗微生物薬剤は、患者における微生物感染症を実質的に消失させるために、約5〜10日間の期間にわたって実質的に連続して患者に投与される。タウロリンは、今日までに試験したすべての、Enterococcus faecalis および Enterococcus facium、VREおよびMRSAを含むグラム陰性およびグラム陽性細菌株に対しインビトロで有効なことが証明されている。
【0029】
腸球菌は自然に広く分布し、主として結腸で集落形成する。通常、腸球菌は病原性ではない。しかしながら、抗生物質、たとえばバンコマイシンの濫用ならびに動物飼料への抗生物質の添加により、尿路感染症、膀胱感染症および創傷感染症における共生菌叢として多剤耐性菌株が単離できる。
【0030】
腸球菌感染症の最も危険な型は心内膜炎である。このような感染症では慢性的下痢も生じる。VREはそれらの耐性が他の細菌株、たとえば Staphylococcus aureus もしくは Staphylococcus epidermidis に移行するので、特に危険である。
【0031】
VREは腸に感染して、激しい下痢を起こすことができる。これは、本発明により、抗微生物薬剤の経口投与により治療できるが、患者に敗血症も存在する場合には2%滅菌溶液としての抗微生物薬剤の同時静脈内投与が望ましい。
【0032】
激しい院内感染を起こすことがあるMRSAは、特に広範に蔓延し、死亡頻度が高い。多くの場合、患者は、感染の個人間の移行を防止するために隔離する必要がある。
【0033】
MRSA感染症特にコアグラーゼ陰性のブドウ球菌感染症は、抗微生物薬剤単独の静脈内投与によって治療できるが、患者が激しい下痢を経験している場合は、経口および静脈内の両投与の組合わせが望ましい。MRSAは、患者の皮膚および粘膜に感染することも患者の尿中に存在することもあり、他の患者に容易に移行する。さらにMRSA感染患者はときに髄膜炎を有することがある。
【0034】
タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、タウロリジンおよび/またはタウラルタム約0.1〜3重量%(たとえば、約0.5%)濃度の水溶液として投与される。適当な組成物は、US-A-5,210,083に開示されている。タウロリジンおよび/またはタウラルタムの水溶液は治療期間中に総量約0.5〜5リットル(これはタウロリジン1日1リットル/
2%、20〜30g/24時間/成人ヒト患者に相当する)が投与される。
【0035】
本発明による重篤な微生物の消化管感染症の治療は、慣用の治療に比べて多くの患者の生命を救うことができる。タウロリジンおよびタウラルタムは細菌を徐々に破壊し、細菌の細胞壁を架橋し、これにより細菌トキシンの放出を防止する。細菌細胞壁の架橋はそうでなければ高度に毒性の細菌トキシンを不活性化する。さらに、細胞壁に対するこのユニークな作用機構には、微生物による耐性の発生は観察されていない。
【0036】
タウロリジンおよび/またはタウラルタムは、感染の結果として起こる血液の単球による患者でのサイトカインの過剰産生を防止する。ヒト血液への抗生物質の添加はTNF−aの上昇を招来するが、抗生物質処理培養液へのタウロリジンおよび/またはタウラルタムの添加は放出されたエンドトキシンのほぼ完全な中和の結果として、TNF産生の上昇が防止される。
【0037】
代表的な抗生物質は迅速に作用するが、タウロリジンおよび/またはタウラルタムは徐々に細菌を死滅させる。しかも、菌血はタウロリジンおよび/またはタウラルタムによる治療を長期にわたって継続する間に消失する。細菌トキシンの放出は防止され、サイトカインの過剰産生は起こらない。
【実施例】
【0038】
次に本発明を以下の実施例によって例示するが、これらは本発明の限定を意図するものではない。
【0039】
実施例 1 (カプセル)
1.軟質ゼラチンカプセル
System Scherer(登録商標)、サイズ 16長円形
内容:500mg タウロリジン(結晶)
Miglitol(登録商標)─中鎖トリグリセライド
Softisan 367(登録商標)─硬質脂肪
600mg(カプリル、カプリン、ステアリルトリグリセライド)
総充填重量:1100mg
2.硬質ゼラチンカプセル
Qualicap(登録商標)Lilly、透明/サイズ0
内容:300mg タウロリジン(結晶)
6mg タルク、Aerosil(登録商標)、ステアリン酸-Mg 8:1:1
(添加物)
総充填重量:306mg
【0040】
実施例 2 (錠剤)
物 質 量(mg/錠)
1.タウロリジンまたはタウラルタム 300
Emdex(登録商標)─(デキストレート*) 200
直接打錠デキストレート
ステアリン酸マグネシウム 10
2.タウロリジンまたはタウラルタム 300
Methacell(登録商標) K4M premium
(ヒドロキシプロピルメチルセルロース) 200
コーンスターチ 12
ステアリン酸マグネシウム 10
メタノール中胃液抵抗性 Endragit(登録商標) および
ジブチルフタレート(7.2部および0.8部)
3.タウロリジンまたはタウラルタム 500
Methocell(登録商標) E15LV premium 250
微結晶セルロース 50
ステアリン酸マグネシウム 10
4.タウロリジンまたはタウラルタム 300
Methocell(登録商標) E15LV premium
(ヒドロキシプロピルメチルセルロース) 200
微結晶セルロース 50
タルク 16
ステアリン酸マグネシウム 2
Aerosil(登録商標) 200 2
胃液抵抗性 Endragit(登録商標)─(ポリメタクリレート)
*デキストレート:デンプンの制御酵素加水分解(USP/HF 23/18)により
得られたサッカリドの精製混合物
【0041】
用量:1日に3〜4錠もしくはそれ以上、重篤な症例には1日にタウロリジン10mgもしくはそれ以上を患者に送達するのに十分な錠剤またはカプセルを投与する。
【0042】
実施例 3
メチシリン耐性 Staphylococcus aureus(MRSA)およびバンコマイシン耐性 Enterococcus faecalis(VRE)株に対するタウロリジンの最小阻止濃度(MIC)
緒言
メチシリン耐性 Staph. aureus(EMRSA 15)
ブドウ球菌は、それらの耐性により、現在では重篤な院内感染に最も関与する病原体である。
ペニシリナーゼ耐性のβ−ラクタム抗生物質たとえばメチシリンに対して、約10%のブドウ球菌株が耐性を有している。メチシリン耐性は多剤耐性を発現することが多いので臨床的にきわめて問題が大きい。それは侵襲を開始し、トキシン仲介感染過程を処置することは困難である。これらのブドウ球菌はバンコマイシンを除きジャイレース阻害剤を含めたすべての抗生物質に対して耐性である。
【0043】
バンコマイシン耐性 Enterococcus faecalis
臨床実務において、Enterococcus faecalis のバンコマイシン耐性株は増加しつつある。
【0044】
結論
細菌の細胞壁とのその化学的な作用機構により、タウロリジンは、抗生物質たとえばメチシリンおよびバンコマイシンに耐性の病原菌に対してインビトロで完全に有効である。
【0045】
メチシリン耐性 Staphylococcus aureus(MRSA)およびバンコマイシン耐性 Enterococcus faecalis(VRE)株に対するタウロリジンのMIC
試験株
すべての試験株は Hammersmith Hospital, London に入院した患者から採収された臨床単離株であった。Staphylococcus aureus の株(表皮性メチシリン耐性株 15−EMRS
A 15)およびバンコマイシン耐性 Enterococcus faecalisは局所培養コレクションから
の広く選択されない単離株であった。しかしながら、株の選択は単離株が個々の患者からの連続的な単離株ではないことを保証するように実施した。
【0046】
局所的なEMRSA 15 株は典型的に、メチシリン(クロキサシリン)を包含するペニシリン類、エリスロマイシン、クリンダマイシン、シプロフロキサシン、アミノグリコシドおよびムピロシンにインビトロで耐性を有する。通常遭遇するHAM−Iと命名されたVRE株は、インビトロでのアンピシリン、エリスロマイシン、バンコマイシン、テルコプラニンに対する耐性に加えて、高レベルのゲンタマイシン耐性を示す。
【0047】
ディスク感受性試験
すべての定常的な感受性試験は、5%溶解ウマ血液を含む Unipath(Oxoid)診断感受性試験寒天上、標準ディスク拡散法(Stokes)を用いて実施した。
【0048】
対照微生物
ブドウ球菌の試験−Staphylococcus aureus(Oxford株)NCTC 6571
腸球菌の試験−Enterococcus faecium NCTC 12697
【0049】
接種および試験操作
試験および対照微生物の接種は、37℃での一夜、Unipath(Oxoid)ブレインハートインフュージョンブロス培養から調製した。これらのよく撹拌した培養液から、2滴(t/u ml)を滅菌水3mlに移した。この懸濁液を用いて先端に滅菌綿をつけた綿棒を湿らせ
、ついでこれを試験プレートの接種にロータリープレーターで使用した。
【0050】
抗生物質ディスク
感受性試験には以下のディスクセットを用いた。
ブドウ球菌
トリメトプリム 5μg ゲンタマイシン 10μg
ベンジルペニシリン 1単位 クロキサシリン 5μg
エリスロマイシン 15μg リファンピシリン 2μg
クリンダマイシン 2μg テイコプラニン 30μg
フシジン 10μg シプロフロキサシン 1μg
バンコマイシン 30μg ムピロシン 30μg
腸球菌
アンピシリン 10μg
バンコマイシン 30μg
テイコプラニン 30μg
ゲンタマイシン 200μg
クロラムフェニコール 20μg
エリスロマイシン 15μg
【0051】
メチシリン感受性試験
ブドウ球菌のメチシリン(クロキサシリン)感受性は、メチシリン試験ストリップ(Methi-test, Medical Wire Limited−MW 981)および高濃度接種物を用いて確認した。これは一夜栄養寒天プレート培養からの5つのコロニーを3mlの水に加えて調製した。
【0052】
感受性および耐性対照を含む各微生物について、高濃度接種懸濁液をループに満たし、一方向に Unipath(Oxoid)診断感受性試験プラス5%溶解ウマ血液寒天プレートを横切って筋をつけた。次いでメチシリンストリップをプレートの表面に接種物と直角に配置した。各試験プレートに4種までの試験株、プラス感受性(Oxford Staphylococcus NCTC 6571)および耐性対照を収容した。このプレートを30℃で一夜インキュベートした。
【0053】
試験の解釈
メチシリン
対照域より<5mm小さい試験域を感受性とする。対照より<5mm小さい領域を耐性とする。メチシリンについて不確定なカテゴリーはない。
【0054】
他の薬剤
メチシリン試験を除いて、結果の解釈は以下の基準に基づいて行う。
感受性:対照域より大きい、対照域と等しいまたは対照域より3mm以上小さくない試験域
耐性:3mm未満の試験域
不確定:3mm以上であるが、対照域より3mm未満しか大きくない試験域
【0055】
タウロリジンMIC
タウロリジンMICは標品の無水微粉化タウロリジン、バッチ番号E/40522/4(Geistlich Pharm AG, Wolhusen, Switzerland)のサンプルを用い測定した。
【0056】
タウロリジンの原水溶液は、水中に2g/100mlのタウロリジンを含有するように調製した。この製造は、可溶化および121℃(15psi)への15分間加熱によった。
【0057】
この原液を使用し、タウロリジンの二重希釈系列をUnipath(Oxoid)栄養ブロス2号中に、滅菌丸底微量希釈トレーを用いて調製した。この希釈液に薬剤を含まない、試験微生物の懸濁液を含有するブロス等容量を加え、最終接種密度約103cfuを得た。接種物は各試験微生物について、Unipath(Oxoid)栄養ブロス2号中に薬剤を含まない一夜ブロス培養液から調製した。
タウロリジンの最終試験濃度は次の通りとした。
2,000mg/l 735mg/l
1,500mg/l 250mg/l
1,000mg/l 190mg/l
750mg/l 125mg/l
500mg/l 62mg/l
【0058】
すべての試験は37℃で18時間インキュベートして行った。MICは生育の可視的証拠を示さない薬剤の最低濃度と定義した。
【0059】
結果
ディスク感受性試験およびタウロリジンMICの結果を以下にまとめる。調べた株についてのタウロリジンに対する感受性のレベルは参考株に比較して、または完全に感受性の株について実施した以前の試験からの結果と比較して、差はないようにみえる。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例 4
Enterococcus 種のタウロリジン感受性
世界的に、Enterococcus faecium および Enterococcus faecalis のバンコマイシン耐性株(VRE)の関与する、入院患者間の罹患率および死亡率は増大している。長期間、施設に入っている患者および一般施設に復した患者の間に見られるVREによる1集落形成の増加は特に困難であり、今や大きな公衆衛生上の危機を提供している。これらの株により引き起こされる生命に危険のある感染症の管理は治療範囲がきわめて限定されているので特に困難である。タウロリジン(タウロリン−登録商標,Geistlich Pharm AG, Switzerland)は、非経口または局所投与用の抗微生物薬剤であり、抗微生物活性の広いスペクトルならびにサイトカイン調節(抗エンドトキシン)活性により特徴づけられる。
【0062】
臨床単離株ならびに Enterococcus faecium(n=20,7種のバンコマイシン耐性株)
および Enterococcus faecalis(n=53,5種のバンコマイシン耐性株)のパネルのタウロリジンに対するインビトロ感受性を調べた。E. faecium(MIC最頻値 375μg/ml,範囲 125〜500μg/ml)および E.faecalis(MIC最頻値 375μg/ml,範囲 95〜375μg/ml)の株の間の感受性の程度には差はなかった。すべての場合、タウロリジンの最小殺菌濃度(MBC)はMICについての相当する値の2希釈内にあり、殺菌作用様式が確認された。
【0063】
腸球菌のバンコマイシン感受性もしくはバンコマイシン耐性株、またはヨーロッパの様々な場所(スイス、ドイツ、UK)から得られた株について、MICおよびMBCの間の差は認められなかった。これらの限られたインビトロデータに基づき、タウロリジンはVREによって引き起こされる重篤な、または生命に危険のある感染症を有する選ばれた患者に対してさらに治療的選択を提供する。腸球菌のバンコマイシン感受性およびバンコマイシン耐性株に対するこの薬剤の活性は、これらの増大する共通の細菌病原体に対して利用可能な限られた治療手段にタウロリジンが更なる方向を付加することを指示する。結果を表1に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例5
2%タウロリジン溶液を各種の細菌に対し5×104CFU/ウエルで、Manual of Clinical Microbiology, 6th edition, P.R.Murryら, pp 1334-1335に従って試験した。結果は表2に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管、腸管または胃腸の微生物感染症の治療に使用するための治療剤の製造における細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化およびそれらの組合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤の使用。
【請求項2】
上記薬剤は抗生物質耐性微生物に対して有効な非抗生物質薬剤である請求項1記載の使用。
【請求項3】
上記治療剤は錠剤、溶液剤、懸濁剤または坐剤の形態で投与される請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
上記治療剤は、上記薬剤が治療過程を通じて胃腸内に連続的に存在するように投与される請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
上記治療剤は、上記薬剤の経口および/または直腸投与で使用し、場合により上記薬剤の静脈内投与と組合わせて使用する請求項1〜4のいずれかに記載の使用。
【請求項6】
微生物感染症は抗生物質に耐性の微生物による請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
微生物感染症は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌による請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
微生物感染症は、腸球菌(Enterococci)および/またはブドウ球菌(Staphylococci)による請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
微生物感染症は抗生物質耐性腸球菌および/またはブドウ球菌による請求項8記載の使用。
【請求項10】
腸球菌はバンコマイシン耐性の Enterococcus faecalis(VRE)である請求項9記載の使用。
【請求項11】
ブドウ球菌はメチシリンに耐性の Staphylococcus aureus(MRSA)である請求項9記載の使用。
【請求項12】
微生物感染症は抗生物質耐性の Enterococcus faecium による請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
抗微生物薬剤はタウロリジン(taurolidine)、タウラルタム(taurultam)およびそれらの組合わせからなる群より選択される請求項1〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化およびそれらの組み合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤と、薬剤と有効に共同し遅延放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤または薬剤と有効に共同して持続放出性を付与する医薬的に許容される賦形剤のいずれかとからなる医薬組成物。
【請求項15】
遅延放出性を付与する上記賦形剤は、上記薬剤が経口的に投与された場合、患者の腸管に達するまで、上記薬剤の放出を遅延させることができる請求項14記載の組成物。
【請求項16】
持続放出性を付与する上記賦形剤は上記薬剤が患者の腸管に達したのち少なくとも約3時間の間、好ましくは少なくとも約8時間の間上記薬剤を実質的に連続して放出させることができる請求項14記載の組成物。
【請求項17】
微生物感染症の治療のための請求項14〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
患者の上記微生物感染症を治療するために、細胞壁構成成分不活性化、エンドトキシン非放出、エキソトキシン不活性化およびそれらの組み合わせで作用する抗微生物薬剤からなる群より選択される抗微生物薬剤の抗微生物有効量を患者の胃腸に導入することからなる微生物感染症を治療する方法。
【請求項19】
微生物による患者の消化管感染症を治療する方法において上記患者の消化管に、抗生物質耐性微生物に対して有効な非抗生物質抗微生物薬剤を導入することからなる方法。

【公開番号】特開2010−174032(P2010−174032A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−84729(P2010−84729)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【分割の表示】特願2000−527254(P2000−527254)の分割
【原出願日】平成11年1月6日(1999.1.6)
【出願人】(500039717)エド・ガイストリヒ・ゼーネ・アクチエンゲゼルシャフト・フューア・ヒェーミシェ・インドゥストリー (2)
【Fターム(参考)】