微生物を利用したアルコール生産方法及び装置
【課題】発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いてアルコールを生産するに際し、アルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させる。
【解決手段】発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するようにした。
【解決手段】発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用したアルコール生産方法及び装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、アセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を利用してアルコール生産を行うのに好適なアルコール生産方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した物質生産方法については古くから様々な研究が進められており、その代表的なものとして、サッカロミセス属の酵母等によるアルコール発酵を利用したアルコールの生産方法が知られている。また、近年では、次世代のバイオ燃料として期待されているブタノールを生産する方法として、クロストリジウム(Clostridium)属の微生物のアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を利用したアルコール(ブタノール、エタノール)の生産方法が注目されている。
【0003】
ABE発酵の具体的な代謝経路として、クロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)のABE発酵の代謝経路を図22に示す。ABE発酵では、グルコース等の糖類等を消費して対数増殖期には主に酢酸や酪酸といった有機酸が生成され(有機酸生成期)、増殖の定常期には主にブタノール、アセトン及びエタノールが6:3:1の比で生成される(ソルベント生成期)。つまり、糖類等からアルコールとしてブタノールとエタノールを同時に生産することができ、特にブタノールを優占的に生産することが可能である(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.T.JONES.1981. Solvent Production and Morphological changes in Clostridium acetobutylicum. Applied and Environmental Microbiology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クロストリジウム属の微生物のABE発酵を利用したアルコールの生産方法は、投入した糖類等の有機物に対してアルコールの生産量(収率)が低く、その改善が望まれていた。
【0006】
また、この問題は、クロストリジウム属の微生物のABE発酵を利用したアルコールの生産方法に限らず、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いたアルコールの生産全般についてあてはまる問題であり、その改善が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いてアルコールを生産するに際し、アルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコールを生産するに際し、アルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物であるクロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)を利用してアルコールを生産する際に、培養液にメチルビオロゲンを添加することで、微生物の生育が阻害されるにもかかわらず、メチルビオロゲンを添加しない場合と比較して、投入した糖類等の基質に対するアルコールの生産量を向上できることを知見した。また、培養液に添加したメチルビオロゲンは培養過程において還元されていた。本願発明者等は、この知見から、メチルビオロゲンを培養液に添加することによって、メチルビオロゲンがABE発酵の代謝経路から電子を引き抜き、その結果としてメチルビオロゲンが還元されると共にアルコール生産性が向上しているものと推定した。
【0010】
本願発明者等は、アルコールの生産性をさらに高めるべく、上記知見に基づいてさらなる検討を行った。その結果、培養液に電極を浸漬し、電極の電位をある範囲に制御して、還元されたメチルビオロゲンを電気的に酸化させながらクロストリジウム アセトブチリカムを培養することによって、アルコールの生産性が向上し、特にブタノールの生産性が大幅に向上することを知見するに至った。
【0011】
本願発明者等は、上記知見に基づき、クロストリジウム アセトブチリカムに限らず、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物全般について、さらには発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物全般について、代謝経路から電子を引き抜くことのできる電子媒体物質を電気的に酸化させて発酵経路から電子を引き抜き続けながら培養を行うことで、アルコール生産性を大幅に向上できる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて本願発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するようにしている。
【0013】
ここで、本発明のアルコール生産方法は、培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、培養液に浸漬した電極と対をなす電極を電解液に浸漬することが好ましい。
【0014】
培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、培養液に浸漬した電極と対をなす電極を電解液に浸漬する本発明のアルコール生産方法は、具体的には以下のアルコール生産装置により実施され得る。即ち、本発明のアルコール生産装置は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、イオン交換膜によって仕切られた対電極槽及び密閉構造の培養槽と、培養槽に収容された培養液と、対電極槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0015】
また、本発明のアルコール生産装置は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、培養槽としての密閉構造の容器と、容器に収容可能な対電極槽としての密閉構造の小容器と、培養槽に収容された培養液と、対電極槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、小容器は培養液と接触する位置の少なくとも一部にイオン交換膜を備えるものとし、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0016】
また、本発明のアルコール生産方法は、培養液にイオン交換膜を介して培養液に浸漬した電極と対をなす電極を接触させることが好ましい。
【0017】
培養液にイオン交換膜を介して培養液に浸漬した電極と対をなす電極を接触させる本発明のアルコール生産方法は、具体的には以下のアルコール生産装置により実施され得る。即ち、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、容器に収容された培養液と、培養液に浸された作用電極と、イオン交換膜の容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、容器内で生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、イオン交換膜は容器の培養液と接触する位置に備えるものとし、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0018】
ここで、本発明のアルコール生産方法及び装置において、アルコール生産微生物はアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、アルコール生産微生物はアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物であり、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物を高密度培養することにより生産されるブタノールの生産性が顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0020】
さらに、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vとしてクロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物を早期に定常期に移行させて高密度化させることができ、且つ有機酸の蓄積が抑えられてアルコール生産に適した状態が形成される。そして、電極(作用電極)の電位を+0.3V〜+0.9Vとして高密度培養を行うことで、ブタノールの生産性が顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0021】
ここで、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vとしてクロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.6Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが特に好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物をより早期に定常期に移行させて高密度化させることができ、しかも最終到達菌体密度も高いものとでき、且つ有機酸の蓄積が抑えられてアルコール生産に適した状態が形成される。そして、電極(作用電極)の電位を+0.3V〜+0.6Vとして高密度培養を行うことで、ブタノールの生産性が極めて顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0022】
因みに、クロストリジウム属の微生物は偏性嫌気性菌であるため、酸化雰囲気(+0.04V以上)では、生育が阻害され、その増殖およびアルコール(ブタノール)生産には還元環境が好適との報告例がある(Mutharasan, G.R.a.R., Altered electron flow in a reducing environment inClostridium acetobutylicum Biotechnology Letters 1988. 10(2): p. 129-132)。これに対し、本発明では、電子媒体物質の還元体を電気的に酸化させるために酸化電位を印加して酸化雰囲気を形成している。このように酸化雰囲気下にてアルコール(ブタノール)生産が促進されたことを示す例は今までに全く報告されていない。また、酸化電位への制御によって、増殖過程において有機酸蓄積が抑制されてアルコール(ブタノール)生産に適した状態が形成されることや、定常期への早期移行が起こることは全く報告されていない。したがって、本発明は従来にない新規な知見に基づく発明である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアルコール生産方法及びアルコール生産装置によれば、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いてアルコールを生産するに際し、投入した有機物に対するアルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることが可能となる。したがって、投入した有機物のアルコールへの変換率を従来よりも高めて、アルコール生産にかかるコストを低減することが可能となる。
【0024】
また、本発明のアルコール生産方法及びアルコール生産装置によれば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコールを生産するに際し、投入した有機物に対するアルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることが可能となり、特に次世代バイオ燃料としての期待が高まりつつあるブタノールの生産量(収率)を従来よりも極めて顕著に向上させることが可能となる。したがって、投入した有機物のアルコールへの変換率、特にブタノールへの変換率を従来よりも高めて、アルコール生産にかかるコストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のアルコール生産方法の概念を示す図である。
【図2】第一の実施形態Aにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図3】第一の実施形態Bにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図4】第一の実施形態Cにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図5】第一の実施形態Dにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図6】第二の実施形態にかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図7】本発明のアルコール生産方法を実施するためのアルコール生産装置の他の構成の一例を示す断面図である。
【図8】各種電子媒体の添加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響を検討した結果を示す図である(実施例1)。
【図9】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図10】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、培養終了後の培養液の酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度及びブタノール濃度を示す図である(実施例1)。
【図11】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、培養終了後のバイアル瓶気相部の水素量と二酸化炭素量を示す図である(実施例1)。
【図12】実施例4で使用した装置の概念図である。
【図13】実施例2で使用した装置の概念図である。
【図14】メチルビオロゲン(MV)の酸化還元特性を示す図である。
【図15】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図16】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、pHの経時変化を示す図である(実施例2)。
【図17】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、酪酸濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図18】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、酢酸濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図19】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、ブタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図20】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、エタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図21】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響について、検討した結果を示す図である(実施例3)。
【図22】クロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)のABE発酵の代謝経路を示す図である。
【図23】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響について、検討した結果を示す図である(実施例4)。
【図24】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図25】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、酢酸濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図26】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、酪酸濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図27】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、ブタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図28】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、ガスパックに回収された水素量と二酸化炭素量を示す図である(実施例4)。
【図29】ブタノール生産量のMV濃度依存性を示す図である(実施例5)。
【図30】実施例4の培養試験における培養液の自然電位変化を示す図である。
【図31】実施例4の培養試験における電流値変化を示す図である。
【図32】実施例2の培養試験における培養液の自然電位変化を示す図である。
【図33】実施例2の培養試験における電流値変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1に、本発明のアルコール生産方法の実施形態の一例を概念的に示す。本発明のアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。
【0028】
アルコール生産微生物2としては、アルコール発酵を行うサッカロミセス等の各種酵母等、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物等が挙げられ、特にABE発酵を行うクロストリジウム アセトブチリカム等のクロストリジウム属の微生物等を用いることが好適であるが、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物であれば特に限定されるものではない。また、微生物は天然物に限らず、遺伝子組換え等の人為的操作が加えられた人工物としてもよい。
【0029】
アルコール生産微生物2の培養液中の菌体密度は、増殖の定常期の菌体密度あるいはそれに近いものとすることが好適である。本発明のアルコール生産方法では、アルコール生産微生物2の1菌体当たりのアルコール生産量を向上させることができる。したがって、培養槽にて培養可能な最大限の菌数ないしはそれに近い菌数を培養液に添加することで、本発明によるアルコール生産量の向上効果を最大限に発揮させることができる。また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いた場合、ABE発酵では、増殖の定常期においてソルベント(アセトン、ブタノール、エタノール)が生産されるので、培養液の菌体密度を増殖の定常期に相当する菌体密度とすることで、培養(高密度培養)開始直後から微生物にアルコールを生産させることができる。
【0030】
但し、アルコール生産微生物2の培養液中の菌体密度を、増殖の定常期の菌体密度あるいはそれに近いものとすることは必須条件ではなく、初期菌体密度を増殖の定常期未満、例えば対数増殖期未満として本発明のアルコール生産方法を実施するようにしてもよい。本発明のアルコール生産方法によれば、アルコール生産微生物の増殖を促進することもできるので、生育段階を早期に定常期に移行させることができる。また、生育段階にて蓄積される有機酸等の副産物の生成が抑えられることによって、アルコール生産に適した状態が形成される効果も相俟って、アルコール生産量の向上効果を最大限に発揮させることができる。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いた場合、培養液の菌体密度を定常期に移行する前の生育段階に相当する菌体密度、例えば対数増殖期に移行する前の生育段階に相当する菌体密度としたとしても、生育段階をソルベント生成期である定常期に早期に到達させ、且つ有機酸の蓄積を抑えてアルコールの生産に適した状態が形成されることによって、クロストリジウム属の微生物のアルコールの生産性を最大限に向上させてアルコール生産を実施することができる。本発明のアルコール生産方法では、このような実施の形態も含まれる。
【0031】
有機物は、アルコール生産微生物2の発酵における代謝産物であるアルコールを得るための基質(アルコール生成源物質)であり、使用するアルコール生産微生物2に応じて適宜決定される。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合には、グルコース等の単糖、デンプン・セルロース・キシラン等の多糖類を基質として使用できるのは勿論のこと、紙・小麦わら・稲わら等の植物繊維質、生ごみ、農産廃棄物、焼酎蒸留廃液、余剰汚泥(活性汚泥)の生ごみの混合物、デンプン廃液、廃パーム繊維などといった各種バイオマス系廃棄物を幅広く基質として使用することができる。このようなバイオマス系廃棄物を用いることで、アルコール生産にかかるコストをさらに低減することができる。
【0032】
培養液への有機物の添加量は特に限定されるものではない。例えばABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いる場合、グルコースを10〜100mM、好適には50mM程度添加すればよいが、必ずしもこの添加量に限定されるわけではない。また、有機物の添加は、アルコールの生産開始前(アルコール生産微生物の開始前)に行ってもよいし、アルコールの生産中に行ってもよい。いずれの場合においても、アルコール生産微生物2に有機物が消費されてアルコールの生産が起こると共に、有機物のアルコールへの変換量の増大を図ることができる。
【0033】
電子媒体物質は、アルコール生産微生物2の生育を阻害することなくアルコール生産微生物2が還元可能な物質であれば特に限定されるものではなく、使用するアルコール生産微生物2に応じて適宜決定されるが、アルコール生産微生物2の生育を阻害するものであっても、アルコール生産微生物2が還元可能な物質であれば使用できる場合もある。
【0034】
例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合、電子媒体物質としてはビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用いることが好適である。ビオロゲン誘導体としては、メチルビオロゲン、エチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン等を用いることができ、メチルビオロゲンを用いることが好適である。尚、これらの物質を用いることで、培養過程にてこれらの物質が還元されると共に、クロストリジウム属の微生物の生育は阻害されるが、生育阻害による悪影響以上に、アルコール生産性が顕著に向上する効果が奏され得る。また、生育の阻害(対数増殖期への移行の遅延)については、後述する増殖過程における酸化電位への制御によってキャンセルすることができる。したがって、増殖過程における酸化電位への制御によって、これらの物質を電子媒体物質として用いることによるアルコール生産性の顕著な向上効果のみを発揮させることができる。
【0035】
また、アルコール発酵(エタノールを生産)を行うサッカロミセス属の酵母等について、ニュートラルレッドやメナジオン等の電子媒体物質を添加することで、グルコースを基質としたエタノールの生産性が変化することが報告されている(Analytica Chimica Acta 597(2007)67-74, Zhao et al, The defferent behaviors if three oxidative mediator in probing the redox activities of the yeast Saccharomyces cerevisiae)。したがって、アルコール発酵(エタノールを生産)を行うサッカロミセス属の酵母等を使用する場合、電子媒体物質としてニュートラルレッドやメナジオン等を用いることができる。
【0036】
培養液への電子媒体物質の添加量は、電子媒体物質の種類、微生物の発酵反応効率、菌体密度等に応じてその最適量が適宜変化するが、。概ね0.5〜10mMまたは1〜10mM、好適には0.5〜5mM、より好適には0.5〜2mM、さらに好適には数mMとすればよい。電子媒体物質の濃度が低すぎると、アルコール生産性の向上効果が得られにくくなる。また、電子媒体物質の濃度が高すぎると、電子媒体物質の種類によっては生育が阻害され過ぎて、アルコール生産性の向上効果が得られにくくなる。例えば、電子媒体物質をビオロゲン誘導体とし、その濃度を0.5〜2mM、特に1〜2mMとすることで、クロストリジウム属の微生物が極めて顕著なアルコール(ブタノール)生産性向上効果を奏し得る。
【0037】
尚、電子媒体物質は、酸化体の形態、あるいは酸化体を含む形態(つまり酸化体と還元体とが併存している形態)のいずれかの形態で培養液に添加することが好適であるが、還元体の形態で培養液に添加しても構わない。即ち、還元体の形態で添加したとしても、培養液に浸漬している電極9によって当該還元体を酸化させることによって、酸化体が次々と生成され、アルコール生産微生物の発酵における代謝経路からの電子の引き抜きを生じさせることができる。
【0038】
培養液の組成は、使用するアルコール生産微生物に応じて適宜決定されるが、上記電子媒体物質のように、電気的に酸化または還元反応を生じ得る物質が実質的に含まれていない培養液を使用することが好適である。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合には、チオグリコレート培地やTYA培地等を用いればよい。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を増殖させて早期に定常期に移行させることを目的とする場合には、チオグリコレート培地を用いることが好適であり、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を定常期または定常期に近い菌体密度として直ちにアルコール生産を行わせることを目的とする場合には酢酸を含むTYA培地を用いることが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
培養液中の電子媒体物質は、アルコール生産微生物2の発酵における代謝経路から電子を引き抜く作用を有している。したがって、電子媒体物質の酸化体は、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)で全て還元体に変換(還元)されて枯渇することになる。本発明では、培養液に浸した電極9(作用電極9)に電位を与えることにより、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)で電子媒体物質の酸化体が変換(還元)されて生じた電子媒体物質の還元体を酸化させ、酸化体に再生させることによって、アルコール生産微生物2に電子媒体物質の酸化体を供給し続けるようにしている。これにより、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)において、アルコール生産微生物2の発酵における代謝経路から電子を引き抜き続けて、代謝反応に何らかの影響を与えることにより、アルコール生産性を向上させることができる。
【0040】
電極9には、電子媒体物質の還元体を酸化することが可能な電極が適宜用いられる。具体的には、炭素板やグラッシーカーボン等の炭素電極、白金電極等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
電極9に与える電位は、アルコール生産微生物の種類、アルコール生産微生物の菌体密度(生育段階)、電子媒体物質の種類、電極9の材質等により変化し得るため、一概には規定できないが、例えば以下の手順により電極9の最小電位と最大電位を導き出すことができる。即ち、アルコール生産微生物を増殖の定常期に相当する菌体密度で含む培養液に電子媒体物質を添加すると共に電極9を接触させて、電子媒体物質の還元体が酸化される範囲の各種電位で高密度培養試験を行う。また、比較試験として、培養液に電子媒体物質を添加して電極9を接触させずに(電位を印加せずに)高密度培養試験を行う。そうすると、比較試験よりもアルコール生産量が増大する電位の範囲が明らかとなる。この電位の範囲の最小値がアルコール生産量を増大させるための最小電位であり、最大値がアルコール生産量を増大させるための最大電位である。また、アルコール生産微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で含む培養液に電子媒体物質を添加すると共に電極9を接触させて、電子媒体物質の還元体が酸化される範囲の各種電位で培養試験を行う。また、比較試験として、培養液に電子媒体物質を添加して電極9を接触させずに(電位を印加せずに)培養試験を行う。そうすると、比較試験よりも増殖促進(対数増殖期への早期移行による定常期への早期移行)が起こる電位の範囲が明らかとなる。この電位の範囲の最小値がアルコール生産微生物の増殖が促進される最小電位であり、最大値がアルコール生産微生物の増殖が促進される最大電位である。
【0042】
本発明者等の実験によると、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を定常期の菌体密度で培養液に含ませ、電極9として炭素電極を用いた場合には、+0.3V以上とすることでエタノール生産量の増大効果が得られること、及び+0.6V以上とすることでブタノール生産量の顕著な増大効果とエタノール生産量の増大効果が得られることが確認されている。このことから、+0.3V超〜+0.6Vの間にブタノール生産量が比較試験よりも増大する最小電位が存在しているものと考えられる。したがって、この場合には、電極9の電位を+0.3V以上とすればよく、+0.3V超とすることが好ましく、+0.6V以上とすることがより好適である。
【0043】
また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極9として炭素電極を用いた場合には、+0.3V〜+1.2Vでクロストリジウム属の微生物の増殖促進効果(対数増殖期への早期移行による定常期への早期移行効果)が見られることが確認されている。具体的には、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用いることによる生育阻害効果(対数増殖期への移行の遅延)を、電極9の電位を+0.3V〜+1.2Vに制御しながら培養することで、キャンセルすることができ、対数増殖期への移行時期が、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合と同程度となる。特に+0.9V〜+1.2Vとすることで、ビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合よりも優れた増殖促進効果が得られ、さらにはビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合と同程度の最終菌体密度とすることができる。さらに着目すべきは、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、電極の電位を+0.3V〜+1.2Vに制御しながら培養することによって、増殖の過程で蓄積する有機酸の生成が抑えられることである。このことによって、アルコール(ブタノール)の生産に極めて適した状態が形成される。換言すれば、定常期(ソルベント生成期)においてアルコール生産性を向上させることができる前駆状態が形成されることになる。以上、クロストリジウム属の微生物の増殖過程においては、電極9の電位を+0.3V〜+1.2Vとすることが好ましく、+0.6V〜+1.2Vとすることがより好ましく、+0.9V〜+1.2Vとすることがさらに好ましい。
【0044】
そして、電極9の電位を制御してクロストリジウム属の微生物の増殖を促進させて定常期に移行させた後は、+0.3〜+0.9Vとすることでブタノール生産量を増大でき、+0.3V〜+0.6Vとすることでブタノール生産量を特に増大できることが確認されている。したがって、電極9の電位を制御してクロストリジウム属の微生物の増殖を促進させて定常期に移行させた後は、電極9の電位を+0.3〜+0.9Vとすればよく、+0.3V〜+0.6Vとすることが好ましい。尚、対数増殖期よりも菌体密度の低い状態から増殖過程を経て高密度状態に至るまで上記酸化電位を印加して培養を行うと、定常期(ソルベント生成期)において、+0.3Vにおいてもブタノール生産性の顕著な向上効果が得られる。つまり、より低い電位に制御して投入電気エネルギーを減らしつつ、ブタノール生産性の向上効果を得ることができるというメリットが得られることになる。
【0045】
尚、定常期(ソルベント生成期)において、電極9の電位を+1.2Vとすると、電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性が若干低下する傾向が見られた。その一方で、+0.9Vでは電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性を向上させることができることから、+0.9V〜+1.2V未満の間に電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性が向上する境界となる電位が存在し得るものと考えられる。しかしながら、アルコール生産を行う上では、印加電位は低くした方がエネルギー的には有利であること、さらには、+0.9Vよりも低い電位(例えば、+0.6V)とした方がより顕著なブタノール生産性の向上効果が奏されることを考慮すれば、定常期における電極9の電位は+0.9V以下とすることが望ましいと言える。
【0046】
以上のことを纏めると、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を高密度培養してアルコール生産を行う場合には、電極9の電位を、+0.3V〜+0.9Vとすればよいが、ブタノールの生産性を顕著に向上させる観点からは、0.3V超〜+0.9Vとすることが好ましく、+0.6V〜+0.9Vとすることがより好ましく、+0.6Vとすることがさらに好ましいと言える。
【0047】
また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませて定常期に移行させる場合には、電極9の電位を、+0.3〜+1.2Vとすればよいが、+0.6V〜+1.2Vとすることが好ましく、+0.9〜+1.2Vとすることがより好ましいと言える。そして、定常期に移行させた後の高密度培養によってアルコール生産を行う場合には、電極9の電位を、+0.3V〜+0.9Vとすることが好ましく、+0.3V〜+0.6Vとすることがより好ましいと言える。最も好ましくは、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませて定常期に移行させる場合には、電極9の電位を、+0.9V〜+1.2Vとし、定常期に移行させた後の高密度培養によってアルコール生産を行う場合には、+0.3V〜+0.6Vとすることである。この場合には、対数増殖期の早期化、最終到達菌体密度の向上及び有機酸の蓄積抑制の全ての効果が奏されてアルコール生産に極めて適した状態が形成され、その後の電位制御によってクロストリジウム属の微生物のアルコール生産性が向上し、これらの効果が相俟って、極めて顕著なアルコール生産性の向上効果が奏されることになる。
【0048】
したがって、クロストリジウム属の微生物を利用し、流加培養等の連続的な培養によってアルコール(ブタノール)生産を極めて効率的に実施することが可能となる。
【0049】
尚、電極9の材質による最小電位及び最大電位の変化は僅かと考えられることから、本発明におけるブタノール生産量の顕著な増大効果は、炭素電極以外の電極を用いた場合にも奏されるものと考えられる。
【0050】
本発明のアルコール生産方法は、例えば図2〜6に示すアルコール生産装置を用いて実施される。以下、本発明のアルコール生産装置の第一の実施形態を図2〜図5に基づいて説明し、本発明のアルコール生産装置の第二の実施形態を図6に基づいて説明する。
【0051】
<第一の実施形態>
第一の実施形態にかかるアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物3からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物3とを含む培養液4に電子媒体物質5を添加し、電子媒体物質5はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を培養液4に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。本実施形態では、培養液4にイオン交換膜6を介して電解液4aを接触させ、作用電極9と対をなす電極10(対電極10)を電解液4aに浸すようにしている。
【0052】
第一の実施形態にかかるアルコール生産方法は、例えば図2〜図5に示すアルコール生産装置1により実施される。即ち、図2〜図5に示すアルコール生産装置1は、イオン交換膜6によって仕切られた二つの槽のうちの一方の槽を培養槽7とし、他方の槽を対電極槽8とし、培養槽7には培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が浸され、対電極槽8には電解液4aが収容されると共に対電極10が浸され、作用電極9と対電極10と参照電極11は定電位設定装置12に結線されている。そして、培養液4にアルコール生産微生物2と有機物3とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質5とを含ませて、定電位設定装置12で作用電極の電位を3電極方式で制御することによりアルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0053】
このように、3電極方式で作用電極9の電位を制御することで、作用電極9の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)12により、作用電極9と参照電極11との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極9と対電極10との間に電流を流し、基準となる参照電極11には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0054】
また、イオン交換膜6は、培養液4に含まれる微生物2、電子媒体物質5、有機物3を対電極槽8に透過させることなく、培養液4中に留まらせ、且つ培養液4に含まれるイオンまたは電解液4aに含まれるイオンを透過させてイオン電流を生じさせ、作用電極9において生じる酸化反応を補完する還元反応を対電極10で生じさせるものである。これにより、電子媒体物質5の還元体が長期に亘って安定に酸化され易くなる。イオン交換膜6としては、電子媒体物質5(酸化体と還元体)を透過させることの無いものを適宜選択して用いる。
【0055】
ここで、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコール生産を行う場合、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用いることが好適であることは上記に述べた通りであるが、この場合には、イオン交換膜6として陰イオン交換膜を用いることが好ましい。プロトン交換膜や陽イオン交換膜を用いると、ビオロゲン及びビオロゲン誘導体がイオン交換膜6に吸着され、作用電極9上での酸化反応を行うことができなくなるが、陰イオン交換膜を用いた場合には、ビオロゲン及びビオロゲン誘導体がイオン交換膜6に吸着されることなく、イオン交換膜6に必要とされる上記機能が維持される。
【0056】
尚、電子媒体物質5の種類によっては、印加する電位によっては、対電極10での還元反応が生じない場合があるので、対電極10での還元反応が生じない範囲で電位を印加する場合には、イオン交換膜6を省略しても良い。また、対電極10での還元反応が生じたとしても、作用電極9側での酸化反応が生じ続ける限り、本発明の効果が奏され得るので、イオン交換膜6の設置は必須ではない。
【0057】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7を密閉構造としている。これにより、培養槽7にて生産されるアルコールが揮発して容器外に拡散するのを防ぐことができる。また、培養槽7を密閉構造とすることで、培養液4の嫌気性雰囲気を制御し易いという利点もある。即ち、培養槽7を密閉構造とすることで、培養を開始する前に培養槽7の遊離酸素を実質的に無くせば、培養槽7への遊離酸素の進入が起こらないので、培養期間中は培養槽7内の嫌気雰囲気を維持し続けて発酵が良好に進行する。特にクロストリジウム属の微生物は嫌気環境下にてABE発酵を行う微生物であることから、このように培養槽7を密閉構造とすることで、クロストリジウム属の微生物にABE発酵を行わせる上で極めて有利な構成となる。
【0058】
さらに、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7内の培養液4の液面よりも下部に、培養槽7内の培養液4を培養槽7の外に導く培養液排出管16aを備え、この培養液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能とした培養液回収手段16により、培養槽7内からアルコールを含む培養液4を採取するようにしている。培養液4に含まれるアルコールは蒸留等により適宜精製することで回収することができる。但し、培養液の回収方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、培養槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺してアルコールを含む培養液4を回収するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端を培養液4に浸けて、管を介してアルコールを含む培養液4を回収するようにしてもよい。
【0059】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7を密閉構造とし、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するガスを培養槽7の外へ導くガス排出管15aを備え、このガス排出管15aをバルブ15bにより開閉可能としたガス回収手段15を有している。このガス回収手段15により、ヘッドスペースに滞留し得るアルコールの揮発分を回収するようにしている。但し、ガス排出管15aのみでヘッドスペースに滞留するアルコールの揮発分を培養槽7の外へ導くようにしてもよいし、培養槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺して、ヘッドスペースからアルコールの揮発分を回収するようにしてもよい。
【0060】
本発明のアルコール生産装置では、培養液回収手段16とガス回収手段15を併せて、アルコール回収手段としているが、ヘッドスペースにアルコールが滞留しない場合には、ガス回収手段15を省略し、培養液回収手段16のみをアルコール回収手段としてもよい。逆に、培養液回収手段16を省略し、ヘッドスペースに滞留するアルコールの揮発分のみを回収するようにしてもよい。
【0061】
また、アルコール回収手段とは別に、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、培養槽7の外部から培養液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、培養液4に栄養源、中和剤、物質生産に必要な物質等を必要に応じて添加することができる。勿論、微生物2をこの導入管から供給することもできるし、有機物3を導入することもできる。また、嫌気条件とするためのガス(窒素ガス等)を供給することもできる。但し、培養液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、アルコール回収手段を培養液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで培養液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。また、電解液4aに物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0062】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、対電極槽8を密閉構造とし、対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するガスを対電極槽8の外へ導くガス排出管17aを備え、このガス排出管17aをバルブ17bにより開閉可能としたガス放出手段17により、対電極10から発生したガスを培養槽7に漏洩させることなく放出するようにしている。但し、対電極槽8におけるガス発生量が少ない場合には、ガス放出手段17を設けずともよい。また、バルブ17bを省略して、ガス排出管17aから常時ガスが放出される構成としても勿論よい。また、対電極槽8を密閉構造とすることは必須条件ではなく、培養槽7の密閉性を阻害しない範囲で開放構造としても構わない。
【0063】
以下、図2に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Aとして説明し、図3に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Bとして説明し、図4に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Cとして説明し、図5に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Dとして説明する。
【0064】
(第一の実施形態A)
図2に示すアルコール生産装置1は、密閉構造の容器20を培養槽7とし、容器20に収容可能な密閉構造の小容器21を対電極槽8とし、小容器21は少なくとも一部にイオン交換膜6を備え、培養槽7にはアルコール回収手段(ガス回収手段15、培養液採取手段16)を備えるものとしている。
【0065】
容器20に小容器21を収容することで、容器20に収容されている培養液4に小容器21が浸され、小容器21の少なくとも一部に備えられているイオン交換膜6は培養液4と接触する。換言すれば、培養液4はイオン交換膜6を介して電解液4aと接触する。
【0066】
培養槽7としての密閉構造の容器20は、対電極槽8としての密閉構造の小容器21を収容可能な大きさの容器であり、形状は特に限定されない。容器の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過性の膜材をヒートシール等により袋状に形成した容器を培養槽7として用いるようにしてもよい。
【0067】
対電極槽8としての密閉構造の小容器21は、培養槽7としての容器20に収容可能な大きさの容器であり、少なくとも一部にイオン交換膜6を備えるものとしている。ここで、小容器21はその全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいが、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成したり、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分は容器20と同様の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばガス不透過性の膜材により構成し、小容器21で発生するガスが容器20の内部に漏洩しないようにしてもよい。
【0068】
対電極10としては、作用電極9における酸化反応を補完する還元反応が生じ得る材質の電極、例えば炭素電極等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
図2に示すアルコール生産装置1によれば、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0070】
(第一の実施形態B)
図3に示すアルコール生産装置1は、上方が開放されている容器23をイオン交換膜6で仕切ることにより開放された二つの槽が形成され、培養槽7としての一方の槽の上方開放部がガス不透過膜またはガス不透過部材24により塞がれているものとしている。同様に、対電極槽8としての他方の槽の上方開放部もガス不透過膜またはガス不透過性部材24により塞がれているものとしている。培養槽7にはアルコール回収手段(ガス回収手段15、培養液採取手段16)を備えるものとしている。尚、図3に示すアルコール生産装置1においては、容器23の密閉性が確保されていれば、培養槽7のヘッドスペースと対電極槽8のヘッドスペースとを完全に仕切る必要はない。
【0071】
ガス不透過膜またはガス不透過部材24としては、各種分野で一般に用いられているものを適宜用いることができる。例えば、ガス不透過部材としては、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過膜としては、例えばイオン交換膜6を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0072】
図3に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0073】
(第一の実施形態C)
図4に示すアルコール生産装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、一方の容器25aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器25bも密閉して対電極槽8としている。この場合、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器25自体のU字型構造によって隔てて配置される。図4に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0074】
(第一の実施形態D)
図5に示すアルコール生産装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器26bも密閉して対電極槽8としている。この場合にも、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器26自体のH字型構造によって隔てて配置される。図5に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0075】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかるアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物3からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物3とを含む培養液4に電子媒体物質5を添加し、電子媒体物質5はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を培養液4に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。本実施形態では、培養液4にイオン交換膜6を介して対電極9を接触させるようにしている。つまり、第二の実施形態におけるアルコール生産方法とは、電解液4aを用いることなく対電極10を直接イオン交換膜6に接触させている点が異なっている。しかしながら、第一の実施形態のように電解液4aを用いずとも、作用電極9と対電極10との間でイオン交換膜6を介してイオン電流は流れるので、第二の実施形態にかかるアルコール生産方法によれば、第一の実施形態と同様に作用電極9の電位を制御して、同様の効果を得ることが可能である。
【0076】
第二の実施形態にかかるアルコール生産方法は、例えば図6に示すアルコール生産装置により実施される。図6に示すアルコール生産装置1は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造の容器50内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器50の外側に対電極10が配置され、容器50に培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が培養液4に浸され、容器50のイオン交換膜6は容器50に培養液4が収容されたときに少なくともその一部がイオン交換膜6と接触しうる位置に備えられ、イオン交換膜6の培養液4の接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。図6に示すアルコール生産装置1では、容器50の培養液4の液面よりも下部に開口部50aが設けられ、開口部50aがイオン交換膜6で塞がれ、容器50の外側のイオン交換膜6の表面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。つまり、図6に示すアルコール生産装置1では、容器50全体が培養槽7として機能することとなる。
【0077】
したがって、図6に示すアルコール生産装置1によれば、容器50を密閉構造としているので、第一の実施形態と同様、培養槽7にて生産されるアルコールが揮発して容器外に拡散するのを防ぐことができる。また、培養液4の嫌気性雰囲気を制御し易いという利点もある。
【0078】
尚、図6に示すアルコール生産装置1では、第一の実施形態と同様に、アルコール回収手段として、ガス回収手段15、培養液回収手段16を備えるようにしているが、上記の通り、ガス回収方法、培養液採取方法は、これらの手段を利用したものには限定されない。また、ガス回収手段15、培養液回収手段16のいずれか一方を省略してもよい。さらに、第一の実施形態と同様、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0079】
以下、図6に示すアルコール生産装置1の詳細について説明する。但し、以下に説明する以外の構成については、第一の実施形態と実質的に同一であり、説明は省略する。
【0080】
容器50は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造としている。容器50の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。尚、図6では、密閉構造の容器50の培養液4の液面よりも下部に設けられた開口部50aをイオン交換膜6により塞ぐようにしているが、容器50の形態や構造は特に限定されない。例えば容器50全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいし、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成してもよいし、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分はガラス等の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えば培養液4と培養液4中の成分の双方を透過させることがない膜材により構成してもよい。要は、容器50に収容される培養液4が容器50の少なくとも一部を構成するイオン交換膜6と接触しうる構造の容器とすればよい。
【0081】
対電極10は、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に接触させるようにしている。本実施形態において、対電極10は板状の炭素電極としているが、対電極10の形状と材質はこれに限定されるものではなく、要は、イオン交換膜6との接触が可能な形状であり、且つ作用電極9における酸化反応に対して電子の授受を補完する還元反応を進行させることが可能な材質の電極とすればよい。また、本実施形態では、対電極10の面積をイオン交換膜6の面積よりも大きなものとしてイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにし、イオン交換膜6と対電極10とを接触させるようにしているが、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10を接触させればよく、必ずしもイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにしてイオン交換膜6と対電極10とを接触させずともよい。但し、イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うことで、対電極10をイオン交換膜6の保護材としても機能させることができると共に、培養液4からのイオンの伝達面が増大する結果として、培養液4の電位制御性を高めることができる利点があり、好適である。イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆う方法としては、例えば、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10を接着することにより、開口部50aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよいし、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10の表面の少なくとも一部に塗布形成されたイオン交換膜6を接着することにより、開口部50aをイオン交換膜6で塞ぎつつ、開口部50aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよい。イオン交換膜6を塗布形成するための薬剤としては、例えばナフィオン分散液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、対電極10の表面にナフィオン分散液を塗布し、ナフィオン分散液が乾燥する前にイオン交換膜6を貼り付けるようにしてもよい。この場合には、イオン交換膜6の対電極10の表面への接着性と接触性とを十分なものとすることができる。
【0082】
ここで、対電極10は多孔質体とすることが好適である。この場合には、イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生したガスを接触面とは反対側の面に通過させやすくなる。尚、対電極10を多孔質体とし、ナフィオン分散液を用いてイオン交換膜6を貼り付けることで、ナフィオン分散液の多孔質体の孔への侵入によりイオン交換膜6と対電極10との接触面積を増大させて電気化学反応をより進行させやすくすることができ、好適である。
【0083】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0084】
例えば、図7に示すように、培養液4と電解質4aをイオン交換膜6ではなく、イオンや微生物を一切透過させることのない不透過部材40で隔て、あるいは培養槽7と対電極槽8を別の容器で形成し、塩橋41(寒天等にKCl等の飽和電解質溶液を入れたもの)を介して培養液4と電解質4aを接触(液絡)させるようにしてもよい。この場合にも、塩橋41によってイオン電流の流れが許容されると共に、電子媒体物質5の対電極槽8への透過を防ぐことができるので、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0085】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0086】
尚、本実施例における電極電位は、全て銀・塩化銀電極電位を基準とするものである。
【0087】
(実施例1)
クロストリジウム属の微生物の増殖に対する電子媒体物質の影響について検討した。
【0088】
100mL容のガラスバイアル瓶に液状チオグリコレート培地を30mL収容し、これにクロストリジウム アセトブチリカム NBCR13948(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を初期菌体密度1.0×107cells/mLになるように添加した。以降の説明では、クロストリジウム アセトブチリカム NBCR13948をクロストリジウム属細菌と呼ぶこととする。また、チオグリコレート培地には、グルコースが27.8mM(5g/L)含まれている。使用したチオグリコレート培地の組成を以下に示す。
[チオグリコレート培地組成(g/L)]
・L−システイン :0.5
・塩化ナトリウム :2.5
・グルコース :5.0
・酵母エキス :5.0
・カゼインペプトン:15.0
・チオグリコール酸:0.5
・pH 7.0
【0089】
そして、培地に以下の電子媒体物質2mMを添加したときのクロストリジウム属細菌の増殖に対する影響について検討した。
・メチルビオロゲン(MV)
・アントラキノン−2,6−ジスルホン酸二ナトリウム(AQDS)
・チオニン
・Fe(III)−EDTA
・ニュートラルレッド
・2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン
・2,6−ジクロロフェノールインドフェノール
【0090】
ガラスバイアル瓶内は窒素置換し、試験期間中はガラスバイアル瓶内を密閉して窒素雰囲気を維持した。また、試験は30℃で実施した。尚、比較試験として電子媒体物質を添加せずに同様の試験を実施した。
【0091】
試験結果を図8に示す。菌体密度は、培養過程において培養液を分取し、分光光度計U−3010(Hitachi)もしくは顕微鏡観察による計測値から算出した。電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合とほぼ同様の増殖傾向が得られた。これに対し、電子媒体物質としてニュートラルレッド、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールを用いた場合には、増殖が全く見られなかった(データ不図示)。電子媒体物質としてMVを添加した場合には、増殖開始時期が大きく遅延し、最終的な到達菌体密度も電子媒体非添加時の37%に低下した。
【0092】
また、電子媒体物質を添加せずに試験を実施した場合、試験前は薄茶色だった培地が試験後には菌体の高密度化に伴って黄色に変化した。一方、電子媒体物質としてMVを添加して試験を実施した場合には、試験前は薄茶色だった培地が試験後には緑色に変化した。ここで、MVは、酸化型の形態においては無色であるが、還元型の形態においては青色となることから、試験後の培地の緑色への変化は、MVの還元体による青色と菌体の高密度化に伴う黄色とが混合した結果として生じたものであると考えられた。このことから、電子媒体物質としてMVを添加してクロストリジウム属細菌を培養することで、クロストリジウム属細菌によりMVが還元されることがわかった。
【0093】
次に、電子媒体物質を添加した場合と、電子媒体物質を添加しなかった場合について、上記試験中における培地のグルコース濃度、上記試験後における培地の酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度、ブタノール濃度の経時変化を液体クロマトグラフィー(Elite Lachrome、日立製)にて測定した。グルコース濃度変化を図9に示し、酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度及びブタノール濃度を図10に示す。図10のグラフは、左から順に、酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度、ブタノール濃度を表している。また、各条件における代謝産物の対糖収率(%、mol−C/mol/C)を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
図9に示される結果から、電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合とほぼ同様のグルコース消費傾向が見られることがわかった。これに対し、電子媒体物質としてMVを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、グルコースの消費開始時期に大きな遅延が見られることがわかった。
【0096】
図10に示される結果から、電子媒体物質とてMVを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、酢酸の生成量を0.5倍に抑えることができると共に、ブタノールの生成量を1.5倍に増加させることができることがわかった。また、酪酸の生成量も抑えられていた。尚、MV添加により最終到達菌体密度は低下したため、菌体あたりのブタノール生産量はMV非添加時に対して4.6倍高いことになる。電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、ブタノール生産量が増大する傾向は見られなかった。
【0097】
以上の結果から、クロストリジウム属細菌を用いたアルコール生産において、培地に電子媒体物質としてMVを添加することで、電子媒体物質を添加しない場合と比較して、クロストリジウム属細菌のABE発酵における代謝産物である酪酸及び酢酸の蓄積量の抑制効果及びブタノールの生産量の増大効果が得られることが明らかとなった。
【0098】
また、培養試験終了後、バイアル瓶内の気相部分のガスを回収し、ガスクロマトグラフィーCR4900(VARIAN)、TCD検出器にて水素と二酸化炭素の定量分析を行った。結果を図11に示す。気相部分のガスの成分分析の結果、発生したガスは主に水素と二酸化炭素であった。二酸化炭素の発生量は、電子媒体の添加の有無及び種類によって大きな変化は見られなかった。一方、水素発生量は、AQDS及びMVを添加した条件下では非添加時と比較して大きく低下する傾向が見られた。
【0099】
ここで、本実施例で使用したクロストリジウム属細菌においては、ブタノール生産経路において発生した還元力 (電子) は増殖期において主に水素生産に使用され、この水素生産への電子の流れを抑制することでブタノールの生産性を向上できることが報告されている(Carolis J. Paredes, S.W.J., Ryan S. Senger, Jacob R. Borden, Ryan Sillers, and Eleftherios T. Papoutsakis, Molecular Aspects of Butanol Fermentation. Bioenergy, 2008.)。MV添加による菌体密度の低下、酢酸及び酪酸の収率低下、水素生産量の低下という3つの結果から、MV添加条件におけるブタノール生産量の増加は菌体構成成分合成や酢酸・酪酸合成に使われていたグルコース由来の炭素および電子がブタノール生産へシフトしたためと推定された。以上より、MVは生育阻害効果を示すが、電子の流れの調整に基づいて代謝を制御できる可能性を持つことが明らかとなった。
【0100】
(実施例2)
実施例1において、クロストリジウム属細菌の代謝の過程におけるMVからの電子の引き抜きがアルコール(ブタノール)の生産性の向上に寄与しているものと考えられた。そこで、還元されたMVを電気的に酸化し、枯渇した酸化型MVを再生して連続的に供給することにより、クロストリジウム属細菌のアルコール生産性にどのような影響が及ぼされるか検討した。
【0101】
本実施例において使用した実験装置の断面図を図13に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(Duran製)を下部開口部で陰イオン交換膜((株)アストム製、型番ネオセプタAMX)を介して連結してH字型の容器26とした。そして、ガラスバイアル瓶の一方を培養槽26aとし、他方を対電極槽26bとした。培養槽26a及び対電極槽26bには蓋をし、蓋の上面にシリコーンゴム栓を設けて、電極(作用電極9、対電極10)と定電位設定装置12とを結線する配線を貫通させた際の容器内の密閉性を確保した。また、培養槽26aには培養液4を採取するための培養液採取部52を設け、試験期間中に適宜培養液4を採取可能とした。
【0102】
培養槽26aには、グルコースを50mM、MVを2mM添加したTYA培地(自然電位+0.1V)を200mL収容し、作用電極9を浸漬させた。TYA培地の組成は、以下の通りとした。
[TYA培地の組成(g/L)]
・グルコース :10.0
・トリプトン :6.0
・酵母エキス :2.0
・酢酸アンモニウム :3.0
・リン酸二水素カリウム :0.5
・硫酸マグネシウム七水和物:0.3
・硫酸鉄七水和物 :0.01
・pH 7.0
【0103】
対電極槽26bには、電解液(NaCl溶液:0.58g/L)を200mL収容し、対電極10を浸漬させた。
【0104】
培養槽26aの作用電極9からの配線と対電極槽26bの対電極9からの配線は、シリコーンゴム栓を通して容器26の外側に引き出し、それぞれ定電位設定装置12に結線した。参照電極11(RE-1B, BAS株式会社)は、培養槽26aの電極差し込み部51に差し込んで培養液4と接触させ、配線を定電位設定装置12に結線した。このように、作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線することで、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。
【0105】
まず、作用電極9を炭素電極(BAS社製)とし、対電極10を白金棒電極(自作)として、上記実験装置を用いてサイクリックボルタンメトリーによりMVの酸化還元特性を測定した。結果を図14に示す。図14に示される結果から、作用電極の電位を−0.6Vよりもプラス側に大きく制御することで、還元されたMVを酸化できることが明らかとなった。
【0106】
次に、作用電極9と対電極10を炭素電極とし、培養液4にクロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を増殖の定常期の菌体密度に相当する6.0×108cells/mLになるように添加し、高密度培養試験を行った。培養条件は以下の通りとした。
・pH : 6.5
・培養温度: 30℃
・培養期間: 114時間
・窒素雰囲気下
・静止菌実験
【0107】
印加電位条件は以下の通りとした。
・通電無し(MV無し)
・通電無し(MV有り)
・+0.6V(MV有り)
・+0.3V(MV有り)
・−0.3V(MV有り)
・−0.5V(MV有り)
【0108】
上記高密度培養試験中における培地のグルコース濃度、pH、酪酸濃度、酢酸濃度、ブタノール濃度、エタノール濃度の経時変化を液体クロマトグラフィー(Elite Lachrome、日立製)にて測定した。グルコース濃度変化を図15に示し、pH変化を図16に示し、酪酸濃度変化を図17に示し、酢酸濃度変化を図18に示し、ブタノール濃度変化を図19に示し、エタノール濃度変化を図20に示す。尚、図15〜図20において、◆が通電無し(MV無し)の実験結果を示し、■が通電無し(MV有り)の実験結果を示し、▲が+0.6V(MV有り)の実験結果を示し、×が+0.3V(MV有り)の実験結果を示し、*が−0.3V(MV有り)の実験結果を示し、●が−0.5V(MV有り)の実験結果を示している。
【0109】
図15及び図16に示される結果から、印加電位条件の違いによるクロストリジウム属細菌のグルコース消費速度、pH変化に殆ど差は見られなかった。
【0110】
図17に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較して酪酸の蓄積量が抑えられることが明らかとなった。
【0111】
図18に示される結果から、MVを添加した場合には、MVを添加しない場合と比較して、電位の印加の有無によらず、酢酸蓄積量が抑えられることが明らかとなった。
【0112】
図19に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較してブタノール生産量が極めて顕著に向上することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV無し)と比較するとブタノール生産量が7倍となり、他の印加電位条件と比較するとブタノール生産量が2倍となることが明らかとなった。
【0113】
図20に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較してエタノール生産量が向上することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV無し)と比較するとエタノール生産量が2倍となり、他の印加電位条件よりも有意にエタノール生産量が増大することが明らかとなった。また、エタノール生産量については、印加電位条件を+0.3V(MV有り)とした場合にも、エタノール生産量の向上効果が若干ではあるが得られることが明らかとなった。
【0114】
以上の結果から、クロストリジウム属細菌を用いたアルコール生産において、作用電極の電位を+0.3Vに制御して、培養の過程でクロストリジウム属細菌に還元されたMVを電気的に酸化することで、クロストリジウム属細菌のエタノール生産性を向上させることができ、作用電極の電位を+0.6Vに制御して、培養の過程でクロストリジウム属細菌に還元されたMVを電気的に酸化することで、エタノール生産性の向上に加えて、ブタノール生産性の顕著な向上効果が得られることが明らかとなった。
【0115】
以上の結果から、+0.3V超〜+0.6Vの間にブタノール生産性が向上し始める最小電位が存在し、+0.6Vとすることで、顕著なブタノール生産性の向上効果が確実に得られ、さらにはエタノール生産性の向上効果も得られることがわかった。
【0116】
(実施例3)
クロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)の初期菌体密度を1.0×107cells/mLとし、実施例2と同様の条件で培養試験を行い、印加電位条件によるクロストリジウム属細菌の増殖について検討した。
【0117】
印加電位条件は以下の通りとした。
・通電無し(MV有り)
・+0.6V(MV有り)
・+0.3V(MV有り)
・ 0.0V(MV有り)
・−0.3V(MV有り)
・−0.6V(MV有り)
【0118】
結果を図21に示す。−0.6V(MV有り)では、クロストリジウム属細菌が増殖しなくなった。これに対し、+0.6V(MV有り)、+0.3V(MV有り)では、他の印加電位条件と比較して増殖速度が増大する傾向が見られ、その効果は特に+0.6V(MV有り)で顕著であった。
【0119】
この結果から、印加電位を+0.3V以上、より好ましくは+0.6V以上として、クロストリジウム属細菌により還元されたMVを酸化しながら培養を行うことで、クロストリジウム属細菌の増殖速度を増大させて、増殖段階をソルベント(アセトン、ブタノール、エタノール)生成期である定常期に移行させる速度を向上できることが明らかとなった。即ち、クロストリジウム属細菌の増殖段階を定常期に移行させる速度を高めて、クロストリジウム属細菌を利用したアルコール生産槽の立ち上げ等を迅速且つスムーズに行うことが可能となることが明らかとなった。
【0120】
したがって、クロストリジウム属細菌の初期菌体密度を対数増殖期未満として、本発明のアルコール生産方法を実施することで、クロストリジウム属細菌の菌体密度を迅速に増殖の定常期の菌体密度に高めて、ソルベント生成期に移行させ、アルコール生産を効率よく行うことができることが明らかとなった。
【0121】
(実施例4)
実施例3の培養試験と類似の培養試験を行い、さらに詳細な検討を行った。
【0122】
図12に示す電気培養装置を用いて実験を行った。培養槽7としての容器20は250mL容のガラスバイアル瓶(Duran製)とした。容器20には蓋30をした。蓋30の上面30aにはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極、管を通した際の容器20の密閉性を確保した。また、シリコーンゴム栓を設けることにより注射針の突き刺しを可能とし、且つ注射針の差し込みにより生じた孔が注射針を抜いた際に塞がるようにした。
【0123】
対電極槽8としての小容器21は、15mL容プラスチックチューブを縦に切断し、切断面に陰イオン交換膜6((株)アストム製、型番ネオセプタAMX)を接着して半筒状に加工した。陰イオン交換膜6の面積は12cm2であった。小容器21の内部には電解液4aを収容すると共に対電極10を収容して電解液4aに浸した。そして、小容器21の上部をシリコン系接着剤で埋めて密閉した。
【0124】
小容器21と作用電極9を培養液4に浸漬し、作用電極9と対電極10の配線は蓋30に設けたシリコーンゴム線を通して容器20の外側に引き出した。銀・塩化銀参照電極11(RE-1B, BAS株式会社)は容器20の側面に設けられた二つの開口部のうちの下方から差し込んで培養液4と接触させた。作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。培養期間中に培養槽7から発生したガスを容器20の上部に設置したアルミニウム製サンプリングバッグ30(ジーエルサイエンス製、商品名:アルミニウムバッグ、1L)に回収した。
【0125】
作用電極9と対電極10は共に炭素板(7.5cm×2.5cm)とした。
【0126】
培養液4は、実施例1で用いたチオグリコレート培地と同様のものにMVを2mM添加したものとした。
【0127】
電解液4aは、実施例1で用いたチオグリコレート培地と同様のもの(MV非添加)とした。
【0128】
培養液4の電位が設定電位で安定した後、定常期のクロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を含む培養液(菌体密度:6.0×108cells/mL)を1%(2.5mL)植菌し、培養過程における通電の効果を検証した。また、対照試験として、MV添加及び非添加での通電無しの試験を実施した。
【0129】
実験は、培養液温度を30℃とし、容器20内を窒素雰囲気として実施した。
【0130】
印加電位条件は以下の通りとした。尚、電位印加条件では、MVを添加した。
・通電無し(MV添加、非添加)
・+1.2V
・+0.9V
・+0.6V
・+0.3V
・−0.6V
・−0.8V
【0131】
菌体の増殖結果を図23に示す。−0.6V、−0.8Vの電位を印加した場合には、クロストリジウム属細菌の生育が全く見られなかった。これに対し、酸化電位である+0.3V〜+1.2Vの電位を印加した場合には、クロストリジウム属細菌の増殖が約20時間後から始まり、51.5時間後に増殖が始まった通電無し(MV添加)と比べて増殖開始までに要する時間が大幅に短縮できた。このことから、MV添加によって阻害された増殖が、MV非添加時(通電無し)と同程度に回復することが明らかとなった。
【0132】
さらに、その中でも高電位を印加した場合(+0.9V、+1.2V)では、増殖開始時期は通電無し(MV非添加)のそれよりも僅かに早まり、最終的な到達菌体密度も通電無し(MV添加)の2倍、通電無し(MV非添加)と同程度であった。
【0133】
また、+0.6V、+0.3Vの電位を印加した場合には、増殖開始時期は通電無し(MV非添加)と同程度に回復したが、最終的な菌体密度は通電無し(MV添加)と同程度に抑制された。
【0134】
次に、培養試験中の培養液のグルコース濃度変化を図24に示し、酢酸濃度変化を図25に示し、酪酸濃度変化を図26に示しブタノール濃度変化を図27に示す。
【0135】
グルコース濃度は、増殖と同期した減少が見られ、その総消費量に培養条件による差異は見られなかった(図24)。
【0136】
グルコースの主要な代謝産物としては、各条件とも酢酸、酪酸、ブタノールが検出された(図25、図26、図27)。通電無し(MV非添加)では、代謝産物が酢酸と酪酸に集中し、ブタノール、エタノールの蓄積量は1mM未満であった。これに対し、通電無し(MV添加)では、蓄積開始時期は遅れたものの、酢酸と酪酸の蓄積が抑制され、ブタノール生産量の向上が確認された。
【0137】
また、MV存在下、酸化電位を印加した場合では、生育(増殖)の早期化に伴い、通電無し(MV添加)と比べて代謝産物の蓄積が開始するまでの期間が大幅に短縮することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV添加)においてはブタノール生産開始まで約60時間を要していたのに対して、酸化電位(+0.3V〜+1.2V)では約20時間後には生産が始まり、ブタノール生産に必要な時間を1/3に短縮できることが明らかとなった(図27)。最終的に到達するブタノール濃度は、+0.6V、+0.3V印加時において最大であり、通電無し(MV非添加)の約7倍にあたる7mM程度まで上昇した。
【0138】
次に、試験終了後の培養液から対糖収率を算出した結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2に示される結果から、通電無し(MV非添加)と比較して通電無し(MV添加)の方がブタノールの対糖収率が向上していることが確認できた。また、+0.3V、+0.6V、+0.9Vの電位を印加することで、ブタノールの対糖収率のさらなる向上効果が得られ、その効果は特に+0.3V、+0.6Vにて顕著であることが明らかとなった。
【0141】
培養試験終了後、ガスバッグからガスを回収し、ガスクロマトグラフィーCR4900(VARIAN)、TCD検出器にて水素と二酸化炭素の定量分析を行った。結果を図28に示す。各条件において二酸化炭素の発生量には大きな違いは見られなかったが、通電無し(MV添加)時および+0.6V、+0.3V印加時では水素発生量は低下し、実施例1と同様に、MV添加により水素生産への電子の流れが抑制されているものと推定された。一方で、+0.9V、+1.2V印加時ではMV非添加時と同程度の水素生産量を示した。このことから、これらの条件においては、酸化型MVが存在するにもかかわらず、水素生産経路への電子の流れはMV非添加時と同様と考えられた。よって、MVの有無だけでなく印加する電位の範囲によっても電子の流れのパターンが異なることが推定された。
【0142】
以上、MV添加(MV還元体)による菌体増殖の阻害効果を抑制し、ブタノール生産開始時期及び生産量の両側面からブタノール生産性をさらに向上させることに成功した。
【0143】
尚、+0.6V、+0.3V印加時では+1.2V、+0.9V印加時と比べ、酢酸・酪酸の蓄積が抑制されると共に、最終到達菌体密度が低く抑えられたため、それら抑制によって酢酸・酪酸の生産や菌体構成成分に使われなかった炭素およびエネルギーがブタノール生産へシフトするようになったと推定された。
【0144】
(実施例5)
実施例1と同様の試験を、以下の濃度のMVにて実施し、培養終了後の培養液のブタノール濃度を測定して、最適なMV添加量を検討した。
・添加無し
・0.1mM
・0.5mM
1mM
2mM
5mM
・10mM
【0145】
結果を図29に示す。MV濃度0.5mM〜10mMにおいて、MV添加無しよりもブタノール濃度が高まることが明らかとなり、その効果は、0.5mM〜2mMの範囲、特に1〜2mMの範囲において顕著であった。一方、MV濃度0.1mMでは、MV添加によるブタノール濃度向上効果は得られなかった。また、MV濃度を10mMよりも高濃度にしてもブタノール濃度向上効果は得られなかった。
【0146】
以上の結果から、MV濃度は、0.5mM〜10mMとすればよく、0.5mM〜5mMとすることが好適であり、0.5〜2mMとすることがより好適であり、1〜2mMとすることがさらに好適であることが明らかとなった。
【0147】
(実施例6)
実施例2と実施例4について、培養試験中における電位の変化や電流値等に基づき、各種考察を行った。
【0148】
実施例4の培養試験における非通電時の培養液の自然電位の変化を図30に示す。非通電時の培養液の自然電位はMVの添加・非添加に関わらず、培養開始時の−0.2Vから徐々に減少し、最終的には−0.5V付近でほぼ安定し、その後、培養後期にゆるやかな上昇を示した。
【0149】
尚、実施例4において、非通電時(MV添加)では増殖に伴い、約30時間後からMVの還元色である青色への培地色の変化が見られた。通電時においては培地色の変化に電位ごとの差異が見られ、−0.6V、−0.8Vでは培養開始時より電気的な還元により培地は青色を呈し、+0.6V、+0.3Vではクロストリジウム属細菌の増殖に伴い青色への変化が見られた。一方、MVの酸化還元電位に対し高電位(+1.2V、+0.9V)印加時では培地色の青色への変化は培養過程を通じて見られなかった。
【0150】
次に、実施例4の培養試験における電流値の変化を図31に示す。電位印加時では増殖に同期した形で電流値の増加が見られ、電位に応じて大小の差異はあるものの、同様な電流値の変動傾向を示した。+1.2V、+0.9V印加時には多くの電流が流れ、電極上でのMVの酸化速度が大きく、クロストリジウム属細菌によるMV還元速度よりも電極による酸化速度が上回った結果、培養液中のMVは培養期間を通じてほぼ酸化状態にあったことが推定された。+0.6V、+0.3Vでの電気培養時には酸化速度の差に起因し、一定のMVの酸化体と還元体が共存している状況であったと考えられる。ここで、還元型MVは反応性が高く、DNAなどにダメージを与えるといった細胞毒性を呈するため(Monk, P.M.S., The Viologens: Physicochemical Properties, Synthesis and Applications of the Salts of 4,4'-Bipyridine, 1999.)培養開始時より還元型MVが著量存在する−0.6V、−0.8Vでは生育は阻害されたと考えられた。
【0151】
次に、電気エネルギー投入に対するエネルギー(ブタノール)増産の効率を算出した。実施例4の電気培養期間を通して流れた電流値の積算から各通電条件において投入された電気エネルギー(ΔWin)は、1659.6J(+1.2V)、526.9J(+0.9V)、63.3J(+0.6V)、33.0J(+0.3V)であった。培養終了時のブタノール生産量を非通電(MV添加)時と各通電条件間で比較した結果、ブタノール生産量の変動分から算出されるエネルギー(ΔWbutanol)は−735.8J(+1.2V)、791.8J(+0.9V)、1234.6J(+0.6V)、1364.6J(+0.3V)であった。よって、実施例4の各通電条件におけるエネルギー効率はΔWbutanol/ΔWin=−0.44(+1.2V)、1.5(+0.9V)、19.5(+0.6V)、41.3(+0.3V)と算出され、+1.2Vでは効率が負であったが、それより低い電位では通電することにより、投入電気エネルギーよりも大きなエネルギー増産効果を得ることができたといえる。実施例4において、ブタノール生産の観点からは+0.3Vの印加が最適であり、通電による投入電気エネルギーの41倍多いエネルギー(ブタノール)増産効果を示す効率的な培養手法であることが明らかとなった。
【0152】
尚、上記において、WinとWbutanolは以下の式により求めた。また、上記におけるΔは、電位印加時と電位無印加時の差分という意味である。
Win=Eap(極間電圧:V)×C(電気量:C)
Wbutanol=
ブタノールの燃焼熱量(2675.9kJ/mol)×ブタノール生産量(mol)
【0153】
次に、実施例2の培養試験における非通電時の培養液の自然電位の変化を図32に示す。非通電時の培養液の自然電位はMV添加では0V付近、非添加では0.1V付近であり、双方ともに徐々に減少し、MV添加では−0.5V付近となり、その後緩やかな上昇を示した。MV非添加では−0.4付近となり、その後上昇を続けた。
【0154】
次に、実施例2の培養試験における電流値の変化を図33に示す。培養試験中に流れた電流値は実施例4におけるそれよりも小さかった。そして、試験終了までに流れた電流値の積算から、ブタノール増産効果の見られた+0.6V印加時における投入電気エネルギーは0.27C×1.3V=0.35Jと算出された。培養終了時、非通電(MV添加)条件に対して+0.6 V印加によって増算されたブタノールに由来するエネルギー量は2341.8Jと算出されたことから、実施例2におけるエネルギー効率ΔWbutanol/ΔWin=2158.1J/0.35J=6166と算出された。この結果から、本発明により、わずかな電気の投入により大きなエネルギーを獲得できることが明らかとなった。
【0155】
次に、試験期間中に流れた電流が全て還元型MVの酸化に利用されたと仮定してMV再生回数を算出した。計算結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
表3に示される結果から、MV再生回数とブタノールの生産促進効果との間には正の相関は見られないことが明らかとなった。このことから、本発明におけるブタノール増産効果の増減は、酸化型MVの継続的な供給のみでは説明できないことがわかった。
【符号の説明】
【0158】
1 アルコール生産装置
2 アルコール生産微生物
3 電子媒体物質
4 培養液
4a 電解液
5 有機物
6 イオン交換膜(陰イオン交換膜)
7 培養槽
8 対電極槽
9 作用電極
10 対電極
12 定電位設定装置
15、16 アルコール回収手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用したアルコール生産方法及び装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、アセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を利用してアルコール生産を行うのに好適なアルコール生産方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した物質生産方法については古くから様々な研究が進められており、その代表的なものとして、サッカロミセス属の酵母等によるアルコール発酵を利用したアルコールの生産方法が知られている。また、近年では、次世代のバイオ燃料として期待されているブタノールを生産する方法として、クロストリジウム(Clostridium)属の微生物のアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を利用したアルコール(ブタノール、エタノール)の生産方法が注目されている。
【0003】
ABE発酵の具体的な代謝経路として、クロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)のABE発酵の代謝経路を図22に示す。ABE発酵では、グルコース等の糖類等を消費して対数増殖期には主に酢酸や酪酸といった有機酸が生成され(有機酸生成期)、増殖の定常期には主にブタノール、アセトン及びエタノールが6:3:1の比で生成される(ソルベント生成期)。つまり、糖類等からアルコールとしてブタノールとエタノールを同時に生産することができ、特にブタノールを優占的に生産することが可能である(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.T.JONES.1981. Solvent Production and Morphological changes in Clostridium acetobutylicum. Applied and Environmental Microbiology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クロストリジウム属の微生物のABE発酵を利用したアルコールの生産方法は、投入した糖類等の有機物に対してアルコールの生産量(収率)が低く、その改善が望まれていた。
【0006】
また、この問題は、クロストリジウム属の微生物のABE発酵を利用したアルコールの生産方法に限らず、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いたアルコールの生産全般についてあてはまる問題であり、その改善が望まれていた。
【0007】
そこで、本発明は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いてアルコールを生産するに際し、アルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコールを生産するに際し、アルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物であるクロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)を利用してアルコールを生産する際に、培養液にメチルビオロゲンを添加することで、微生物の生育が阻害されるにもかかわらず、メチルビオロゲンを添加しない場合と比較して、投入した糖類等の基質に対するアルコールの生産量を向上できることを知見した。また、培養液に添加したメチルビオロゲンは培養過程において還元されていた。本願発明者等は、この知見から、メチルビオロゲンを培養液に添加することによって、メチルビオロゲンがABE発酵の代謝経路から電子を引き抜き、その結果としてメチルビオロゲンが還元されると共にアルコール生産性が向上しているものと推定した。
【0010】
本願発明者等は、アルコールの生産性をさらに高めるべく、上記知見に基づいてさらなる検討を行った。その結果、培養液に電極を浸漬し、電極の電位をある範囲に制御して、還元されたメチルビオロゲンを電気的に酸化させながらクロストリジウム アセトブチリカムを培養することによって、アルコールの生産性が向上し、特にブタノールの生産性が大幅に向上することを知見するに至った。
【0011】
本願発明者等は、上記知見に基づき、クロストリジウム アセトブチリカムに限らず、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物全般について、さらには発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物全般について、代謝経路から電子を引き抜くことのできる電子媒体物質を電気的に酸化させて発酵経路から電子を引き抜き続けながら培養を行うことで、アルコール生産性を大幅に向上できる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて本願発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するようにしている。
【0013】
ここで、本発明のアルコール生産方法は、培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、培養液に浸漬した電極と対をなす電極を電解液に浸漬することが好ましい。
【0014】
培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、培養液に浸漬した電極と対をなす電極を電解液に浸漬する本発明のアルコール生産方法は、具体的には以下のアルコール生産装置により実施され得る。即ち、本発明のアルコール生産装置は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、イオン交換膜によって仕切られた対電極槽及び密閉構造の培養槽と、培養槽に収容された培養液と、対電極槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0015】
また、本発明のアルコール生産装置は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、培養槽としての密閉構造の容器と、容器に収容可能な対電極槽としての密閉構造の小容器と、培養槽に収容された培養液と、対電極槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、小容器は培養液と接触する位置の少なくとも一部にイオン交換膜を備えるものとし、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0016】
また、本発明のアルコール生産方法は、培養液にイオン交換膜を介して培養液に浸漬した電極と対をなす電極を接触させることが好ましい。
【0017】
培養液にイオン交換膜を介して培養液に浸漬した電極と対をなす電極を接触させる本発明のアルコール生産方法は、具体的には以下のアルコール生産装置により実施され得る。即ち、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、容器に収容された培養液と、培養液に浸された作用電極と、イオン交換膜の容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、容器内で生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、イオン交換膜は容器の培養液と接触する位置に備えるものとし、培養液にアルコール生産微生物と有機物とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、アルコール生産微生物により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を定電位設定装置で作用電極と対電極との間に電位差を与えて酸化させながらアルコール生産微生物を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0018】
ここで、本発明のアルコール生産方法及び装置において、アルコール生産微生物はアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、アルコール生産微生物はアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物であり、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物を高密度培養することにより生産されるブタノールの生産性が顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0020】
さらに、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vとしてクロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物を早期に定常期に移行させて高密度化させることができ、且つ有機酸の蓄積が抑えられてアルコール生産に適した状態が形成される。そして、電極(作用電極)の電位を+0.3V〜+0.9Vとして高密度培養を行うことで、ブタノールの生産性が顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0021】
ここで、本発明のアルコール生産方法及び装置において、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vとしてクロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、電極(作用電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.6Vとしてクロストリジウム属の微生物を高密度培養することが特に好ましい。この場合、クロストリジウム属の微生物をより早期に定常期に移行させて高密度化させることができ、しかも最終到達菌体密度も高いものとでき、且つ有機酸の蓄積が抑えられてアルコール生産に適した状態が形成される。そして、電極(作用電極)の電位を+0.3V〜+0.6Vとして高密度培養を行うことで、ブタノールの生産性が極めて顕著に向上し、且つエタノールの生産性も向上する。
【0022】
因みに、クロストリジウム属の微生物は偏性嫌気性菌であるため、酸化雰囲気(+0.04V以上)では、生育が阻害され、その増殖およびアルコール(ブタノール)生産には還元環境が好適との報告例がある(Mutharasan, G.R.a.R., Altered electron flow in a reducing environment inClostridium acetobutylicum Biotechnology Letters 1988. 10(2): p. 129-132)。これに対し、本発明では、電子媒体物質の還元体を電気的に酸化させるために酸化電位を印加して酸化雰囲気を形成している。このように酸化雰囲気下にてアルコール(ブタノール)生産が促進されたことを示す例は今までに全く報告されていない。また、酸化電位への制御によって、増殖過程において有機酸蓄積が抑制されてアルコール(ブタノール)生産に適した状態が形成されることや、定常期への早期移行が起こることは全く報告されていない。したがって、本発明は従来にない新規な知見に基づく発明である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアルコール生産方法及びアルコール生産装置によれば、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いてアルコールを生産するに際し、投入した有機物に対するアルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることが可能となる。したがって、投入した有機物のアルコールへの変換率を従来よりも高めて、アルコール生産にかかるコストを低減することが可能となる。
【0024】
また、本発明のアルコール生産方法及びアルコール生産装置によれば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコールを生産するに際し、投入した有機物に対するアルコールの生産量(収率)を従来よりも大幅に向上させることが可能となり、特に次世代バイオ燃料としての期待が高まりつつあるブタノールの生産量(収率)を従来よりも極めて顕著に向上させることが可能となる。したがって、投入した有機物のアルコールへの変換率、特にブタノールへの変換率を従来よりも高めて、アルコール生産にかかるコストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のアルコール生産方法の概念を示す図である。
【図2】第一の実施形態Aにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図3】第一の実施形態Bにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図4】第一の実施形態Cにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図5】第一の実施形態Dにかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図6】第二の実施形態にかかるアルコール生産装置の一例を示す断面図である。
【図7】本発明のアルコール生産方法を実施するためのアルコール生産装置の他の構成の一例を示す断面図である。
【図8】各種電子媒体の添加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響を検討した結果を示す図である(実施例1)。
【図9】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図10】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、培養終了後の培養液の酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度及びブタノール濃度を示す図である(実施例1)。
【図11】電子媒体添加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、培養終了後のバイアル瓶気相部の水素量と二酸化炭素量を示す図である(実施例1)。
【図12】実施例4で使用した装置の概念図である。
【図13】実施例2で使用した装置の概念図である。
【図14】メチルビオロゲン(MV)の酸化還元特性を示す図である。
【図15】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図16】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、pHの経時変化を示す図である(実施例2)。
【図17】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、酪酸濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図18】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、酢酸濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図19】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、ブタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図20】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の代謝への影響について、エタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図21】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響について、検討した結果を示す図である(実施例3)。
【図22】クロストリジウム アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)のABE発酵の代謝経路を示す図である。
【図23】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖への影響について、検討した結果を示す図である(実施例4)。
【図24】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、グルコース濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図25】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、酢酸濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図26】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、酪酸濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図27】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、ブタノール濃度の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図28】電子媒体添加と電位印加によるクロストリジウム属細菌の増殖及び代謝への影響について、ガスパックに回収された水素量と二酸化炭素量を示す図である(実施例4)。
【図29】ブタノール生産量のMV濃度依存性を示す図である(実施例5)。
【図30】実施例4の培養試験における培養液の自然電位変化を示す図である。
【図31】実施例4の培養試験における電流値変化を示す図である。
【図32】実施例2の培養試験における培養液の自然電位変化を示す図である。
【図33】実施例2の培養試験における電流値変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1に、本発明のアルコール生産方法の実施形態の一例を概念的に示す。本発明のアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、電子媒体物質はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質の還元体を培養液に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。
【0028】
アルコール生産微生物2としては、アルコール発酵を行うサッカロミセス等の各種酵母等、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物等が挙げられ、特にABE発酵を行うクロストリジウム アセトブチリカム等のクロストリジウム属の微生物等を用いることが好適であるが、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物であれば特に限定されるものではない。また、微生物は天然物に限らず、遺伝子組換え等の人為的操作が加えられた人工物としてもよい。
【0029】
アルコール生産微生物2の培養液中の菌体密度は、増殖の定常期の菌体密度あるいはそれに近いものとすることが好適である。本発明のアルコール生産方法では、アルコール生産微生物2の1菌体当たりのアルコール生産量を向上させることができる。したがって、培養槽にて培養可能な最大限の菌数ないしはそれに近い菌数を培養液に添加することで、本発明によるアルコール生産量の向上効果を最大限に発揮させることができる。また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いた場合、ABE発酵では、増殖の定常期においてソルベント(アセトン、ブタノール、エタノール)が生産されるので、培養液の菌体密度を増殖の定常期に相当する菌体密度とすることで、培養(高密度培養)開始直後から微生物にアルコールを生産させることができる。
【0030】
但し、アルコール生産微生物2の培養液中の菌体密度を、増殖の定常期の菌体密度あるいはそれに近いものとすることは必須条件ではなく、初期菌体密度を増殖の定常期未満、例えば対数増殖期未満として本発明のアルコール生産方法を実施するようにしてもよい。本発明のアルコール生産方法によれば、アルコール生産微生物の増殖を促進することもできるので、生育段階を早期に定常期に移行させることができる。また、生育段階にて蓄積される有機酸等の副産物の生成が抑えられることによって、アルコール生産に適した状態が形成される効果も相俟って、アルコール生産量の向上効果を最大限に発揮させることができる。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いた場合、培養液の菌体密度を定常期に移行する前の生育段階に相当する菌体密度、例えば対数増殖期に移行する前の生育段階に相当する菌体密度としたとしても、生育段階をソルベント生成期である定常期に早期に到達させ、且つ有機酸の蓄積を抑えてアルコールの生産に適した状態が形成されることによって、クロストリジウム属の微生物のアルコールの生産性を最大限に向上させてアルコール生産を実施することができる。本発明のアルコール生産方法では、このような実施の形態も含まれる。
【0031】
有機物は、アルコール生産微生物2の発酵における代謝産物であるアルコールを得るための基質(アルコール生成源物質)であり、使用するアルコール生産微生物2に応じて適宜決定される。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合には、グルコース等の単糖、デンプン・セルロース・キシラン等の多糖類を基質として使用できるのは勿論のこと、紙・小麦わら・稲わら等の植物繊維質、生ごみ、農産廃棄物、焼酎蒸留廃液、余剰汚泥(活性汚泥)の生ごみの混合物、デンプン廃液、廃パーム繊維などといった各種バイオマス系廃棄物を幅広く基質として使用することができる。このようなバイオマス系廃棄物を用いることで、アルコール生産にかかるコストをさらに低減することができる。
【0032】
培養液への有機物の添加量は特に限定されるものではない。例えばABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いる場合、グルコースを10〜100mM、好適には50mM程度添加すればよいが、必ずしもこの添加量に限定されるわけではない。また、有機物の添加は、アルコールの生産開始前(アルコール生産微生物の開始前)に行ってもよいし、アルコールの生産中に行ってもよい。いずれの場合においても、アルコール生産微生物2に有機物が消費されてアルコールの生産が起こると共に、有機物のアルコールへの変換量の増大を図ることができる。
【0033】
電子媒体物質は、アルコール生産微生物2の生育を阻害することなくアルコール生産微生物2が還元可能な物質であれば特に限定されるものではなく、使用するアルコール生産微生物2に応じて適宜決定されるが、アルコール生産微生物2の生育を阻害するものであっても、アルコール生産微生物2が還元可能な物質であれば使用できる場合もある。
【0034】
例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合、電子媒体物質としてはビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用いることが好適である。ビオロゲン誘導体としては、メチルビオロゲン、エチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン等を用いることができ、メチルビオロゲンを用いることが好適である。尚、これらの物質を用いることで、培養過程にてこれらの物質が還元されると共に、クロストリジウム属の微生物の生育は阻害されるが、生育阻害による悪影響以上に、アルコール生産性が顕著に向上する効果が奏され得る。また、生育の阻害(対数増殖期への移行の遅延)については、後述する増殖過程における酸化電位への制御によってキャンセルすることができる。したがって、増殖過程における酸化電位への制御によって、これらの物質を電子媒体物質として用いることによるアルコール生産性の顕著な向上効果のみを発揮させることができる。
【0035】
また、アルコール発酵(エタノールを生産)を行うサッカロミセス属の酵母等について、ニュートラルレッドやメナジオン等の電子媒体物質を添加することで、グルコースを基質としたエタノールの生産性が変化することが報告されている(Analytica Chimica Acta 597(2007)67-74, Zhao et al, The defferent behaviors if three oxidative mediator in probing the redox activities of the yeast Saccharomyces cerevisiae)。したがって、アルコール発酵(エタノールを生産)を行うサッカロミセス属の酵母等を使用する場合、電子媒体物質としてニュートラルレッドやメナジオン等を用いることができる。
【0036】
培養液への電子媒体物質の添加量は、電子媒体物質の種類、微生物の発酵反応効率、菌体密度等に応じてその最適量が適宜変化するが、。概ね0.5〜10mMまたは1〜10mM、好適には0.5〜5mM、より好適には0.5〜2mM、さらに好適には数mMとすればよい。電子媒体物質の濃度が低すぎると、アルコール生産性の向上効果が得られにくくなる。また、電子媒体物質の濃度が高すぎると、電子媒体物質の種類によっては生育が阻害され過ぎて、アルコール生産性の向上効果が得られにくくなる。例えば、電子媒体物質をビオロゲン誘導体とし、その濃度を0.5〜2mM、特に1〜2mMとすることで、クロストリジウム属の微生物が極めて顕著なアルコール(ブタノール)生産性向上効果を奏し得る。
【0037】
尚、電子媒体物質は、酸化体の形態、あるいは酸化体を含む形態(つまり酸化体と還元体とが併存している形態)のいずれかの形態で培養液に添加することが好適であるが、還元体の形態で培養液に添加しても構わない。即ち、還元体の形態で添加したとしても、培養液に浸漬している電極9によって当該還元体を酸化させることによって、酸化体が次々と生成され、アルコール生産微生物の発酵における代謝経路からの電子の引き抜きを生じさせることができる。
【0038】
培養液の組成は、使用するアルコール生産微生物に応じて適宜決定されるが、上記電子媒体物質のように、電気的に酸化または還元反応を生じ得る物質が実質的に含まれていない培養液を使用することが好適である。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を使用する場合には、チオグリコレート培地やTYA培地等を用いればよい。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を増殖させて早期に定常期に移行させることを目的とする場合には、チオグリコレート培地を用いることが好適であり、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を定常期または定常期に近い菌体密度として直ちにアルコール生産を行わせることを目的とする場合には酢酸を含むTYA培地を用いることが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
培養液中の電子媒体物質は、アルコール生産微生物2の発酵における代謝経路から電子を引き抜く作用を有している。したがって、電子媒体物質の酸化体は、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)で全て還元体に変換(還元)されて枯渇することになる。本発明では、培養液に浸した電極9(作用電極9)に電位を与えることにより、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)で電子媒体物質の酸化体が変換(還元)されて生じた電子媒体物質の還元体を酸化させ、酸化体に再生させることによって、アルコール生産微生物2に電子媒体物質の酸化体を供給し続けるようにしている。これにより、アルコール生産微生物2の培養の過程(アルコール生産過程)において、アルコール生産微生物2の発酵における代謝経路から電子を引き抜き続けて、代謝反応に何らかの影響を与えることにより、アルコール生産性を向上させることができる。
【0040】
電極9には、電子媒体物質の還元体を酸化することが可能な電極が適宜用いられる。具体的には、炭素板やグラッシーカーボン等の炭素電極、白金電極等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
電極9に与える電位は、アルコール生産微生物の種類、アルコール生産微生物の菌体密度(生育段階)、電子媒体物質の種類、電極9の材質等により変化し得るため、一概には規定できないが、例えば以下の手順により電極9の最小電位と最大電位を導き出すことができる。即ち、アルコール生産微生物を増殖の定常期に相当する菌体密度で含む培養液に電子媒体物質を添加すると共に電極9を接触させて、電子媒体物質の還元体が酸化される範囲の各種電位で高密度培養試験を行う。また、比較試験として、培養液に電子媒体物質を添加して電極9を接触させずに(電位を印加せずに)高密度培養試験を行う。そうすると、比較試験よりもアルコール生産量が増大する電位の範囲が明らかとなる。この電位の範囲の最小値がアルコール生産量を増大させるための最小電位であり、最大値がアルコール生産量を増大させるための最大電位である。また、アルコール生産微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で含む培養液に電子媒体物質を添加すると共に電極9を接触させて、電子媒体物質の還元体が酸化される範囲の各種電位で培養試験を行う。また、比較試験として、培養液に電子媒体物質を添加して電極9を接触させずに(電位を印加せずに)培養試験を行う。そうすると、比較試験よりも増殖促進(対数増殖期への早期移行による定常期への早期移行)が起こる電位の範囲が明らかとなる。この電位の範囲の最小値がアルコール生産微生物の増殖が促進される最小電位であり、最大値がアルコール生産微生物の増殖が促進される最大電位である。
【0042】
本発明者等の実験によると、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を定常期の菌体密度で培養液に含ませ、電極9として炭素電極を用いた場合には、+0.3V以上とすることでエタノール生産量の増大効果が得られること、及び+0.6V以上とすることでブタノール生産量の顕著な増大効果とエタノール生産量の増大効果が得られることが確認されている。このことから、+0.3V超〜+0.6Vの間にブタノール生産量が比較試験よりも増大する最小電位が存在しているものと考えられる。したがって、この場合には、電極9の電位を+0.3V以上とすればよく、+0.3V超とすることが好ましく、+0.6V以上とすることがより好適である。
【0043】
また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませ、電極9として炭素電極を用いた場合には、+0.3V〜+1.2Vでクロストリジウム属の微生物の増殖促進効果(対数増殖期への早期移行による定常期への早期移行効果)が見られることが確認されている。具体的には、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用いることによる生育阻害効果(対数増殖期への移行の遅延)を、電極9の電位を+0.3V〜+1.2Vに制御しながら培養することで、キャンセルすることができ、対数増殖期への移行時期が、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合と同程度となる。特に+0.9V〜+1.2Vとすることで、ビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合よりも優れた増殖促進効果が得られ、さらにはビオロゲン誘導体を用いずに通電することなく培養した場合と同程度の最終菌体密度とすることができる。さらに着目すべきは、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、電極の電位を+0.3V〜+1.2Vに制御しながら培養することによって、増殖の過程で蓄積する有機酸の生成が抑えられることである。このことによって、アルコール(ブタノール)の生産に極めて適した状態が形成される。換言すれば、定常期(ソルベント生成期)においてアルコール生産性を向上させることができる前駆状態が形成されることになる。以上、クロストリジウム属の微生物の増殖過程においては、電極9の電位を+0.3V〜+1.2Vとすることが好ましく、+0.6V〜+1.2Vとすることがより好ましく、+0.9V〜+1.2Vとすることがさらに好ましい。
【0044】
そして、電極9の電位を制御してクロストリジウム属の微生物の増殖を促進させて定常期に移行させた後は、+0.3〜+0.9Vとすることでブタノール生産量を増大でき、+0.3V〜+0.6Vとすることでブタノール生産量を特に増大できることが確認されている。したがって、電極9の電位を制御してクロストリジウム属の微生物の増殖を促進させて定常期に移行させた後は、電極9の電位を+0.3〜+0.9Vとすればよく、+0.3V〜+0.6Vとすることが好ましい。尚、対数増殖期よりも菌体密度の低い状態から増殖過程を経て高密度状態に至るまで上記酸化電位を印加して培養を行うと、定常期(ソルベント生成期)において、+0.3Vにおいてもブタノール生産性の顕著な向上効果が得られる。つまり、より低い電位に制御して投入電気エネルギーを減らしつつ、ブタノール生産性の向上効果を得ることができるというメリットが得られることになる。
【0045】
尚、定常期(ソルベント生成期)において、電極9の電位を+1.2Vとすると、電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性が若干低下する傾向が見られた。その一方で、+0.9Vでは電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性を向上させることができることから、+0.9V〜+1.2V未満の間に電位を印加しない場合よりもブタノールの生産性が向上する境界となる電位が存在し得るものと考えられる。しかしながら、アルコール生産を行う上では、印加電位は低くした方がエネルギー的には有利であること、さらには、+0.9Vよりも低い電位(例えば、+0.6V)とした方がより顕著なブタノール生産性の向上効果が奏されることを考慮すれば、定常期における電極9の電位は+0.9V以下とすることが望ましいと言える。
【0046】
以上のことを纏めると、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を高密度培養してアルコール生産を行う場合には、電極9の電位を、+0.3V〜+0.9Vとすればよいが、ブタノールの生産性を顕著に向上させる観点からは、0.3V超〜+0.9Vとすることが好ましく、+0.6V〜+0.9Vとすることがより好ましく、+0.6Vとすることがさらに好ましいと言える。
【0047】
また、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませて定常期に移行させる場合には、電極9の電位を、+0.3〜+1.2Vとすればよいが、+0.6V〜+1.2Vとすることが好ましく、+0.9〜+1.2Vとすることがより好ましいと言える。そして、定常期に移行させた後の高密度培養によってアルコール生産を行う場合には、電極9の電位を、+0.3V〜+0.9Vとすることが好ましく、+0.3V〜+0.6Vとすることがより好ましいと言える。最も好ましくは、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物について、電子媒体物質としてビオロゲン誘導体を用い、クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で培養液に含ませて定常期に移行させる場合には、電極9の電位を、+0.9V〜+1.2Vとし、定常期に移行させた後の高密度培養によってアルコール生産を行う場合には、+0.3V〜+0.6Vとすることである。この場合には、対数増殖期の早期化、最終到達菌体密度の向上及び有機酸の蓄積抑制の全ての効果が奏されてアルコール生産に極めて適した状態が形成され、その後の電位制御によってクロストリジウム属の微生物のアルコール生産性が向上し、これらの効果が相俟って、極めて顕著なアルコール生産性の向上効果が奏されることになる。
【0048】
したがって、クロストリジウム属の微生物を利用し、流加培養等の連続的な培養によってアルコール(ブタノール)生産を極めて効率的に実施することが可能となる。
【0049】
尚、電極9の材質による最小電位及び最大電位の変化は僅かと考えられることから、本発明におけるブタノール生産量の顕著な増大効果は、炭素電極以外の電極を用いた場合にも奏されるものと考えられる。
【0050】
本発明のアルコール生産方法は、例えば図2〜6に示すアルコール生産装置を用いて実施される。以下、本発明のアルコール生産装置の第一の実施形態を図2〜図5に基づいて説明し、本発明のアルコール生産装置の第二の実施形態を図6に基づいて説明する。
【0051】
<第一の実施形態>
第一の実施形態にかかるアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物3からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物3とを含む培養液4に電子媒体物質5を添加し、電子媒体物質5はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を培養液4に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。本実施形態では、培養液4にイオン交換膜6を介して電解液4aを接触させ、作用電極9と対をなす電極10(対電極10)を電解液4aに浸すようにしている。
【0052】
第一の実施形態にかかるアルコール生産方法は、例えば図2〜図5に示すアルコール生産装置1により実施される。即ち、図2〜図5に示すアルコール生産装置1は、イオン交換膜6によって仕切られた二つの槽のうちの一方の槽を培養槽7とし、他方の槽を対電極槽8とし、培養槽7には培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が浸され、対電極槽8には電解液4aが収容されると共に対電極10が浸され、作用電極9と対電極10と参照電極11は定電位設定装置12に結線されている。そして、培養液4にアルコール生産微生物2と有機物3とアルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質5とを含ませて、定電位設定装置12で作用電極の電位を3電極方式で制御することによりアルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するものとしている。
【0053】
このように、3電極方式で作用電極9の電位を制御することで、作用電極9の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)12により、作用電極9と参照電極11との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極9と対電極10との間に電流を流し、基準となる参照電極11には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0054】
また、イオン交換膜6は、培養液4に含まれる微生物2、電子媒体物質5、有機物3を対電極槽8に透過させることなく、培養液4中に留まらせ、且つ培養液4に含まれるイオンまたは電解液4aに含まれるイオンを透過させてイオン電流を生じさせ、作用電極9において生じる酸化反応を補完する還元反応を対電極10で生じさせるものである。これにより、電子媒体物質5の還元体が長期に亘って安定に酸化され易くなる。イオン交換膜6としては、電子媒体物質5(酸化体と還元体)を透過させることの無いものを適宜選択して用いる。
【0055】
ここで、ABE発酵を行うクロストリジウム属の微生物を用いてアルコール生産を行う場合、電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用いることが好適であることは上記に述べた通りであるが、この場合には、イオン交換膜6として陰イオン交換膜を用いることが好ましい。プロトン交換膜や陽イオン交換膜を用いると、ビオロゲン及びビオロゲン誘導体がイオン交換膜6に吸着され、作用電極9上での酸化反応を行うことができなくなるが、陰イオン交換膜を用いた場合には、ビオロゲン及びビオロゲン誘導体がイオン交換膜6に吸着されることなく、イオン交換膜6に必要とされる上記機能が維持される。
【0056】
尚、電子媒体物質5の種類によっては、印加する電位によっては、対電極10での還元反応が生じない場合があるので、対電極10での還元反応が生じない範囲で電位を印加する場合には、イオン交換膜6を省略しても良い。また、対電極10での還元反応が生じたとしても、作用電極9側での酸化反応が生じ続ける限り、本発明の効果が奏され得るので、イオン交換膜6の設置は必須ではない。
【0057】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7を密閉構造としている。これにより、培養槽7にて生産されるアルコールが揮発して容器外に拡散するのを防ぐことができる。また、培養槽7を密閉構造とすることで、培養液4の嫌気性雰囲気を制御し易いという利点もある。即ち、培養槽7を密閉構造とすることで、培養を開始する前に培養槽7の遊離酸素を実質的に無くせば、培養槽7への遊離酸素の進入が起こらないので、培養期間中は培養槽7内の嫌気雰囲気を維持し続けて発酵が良好に進行する。特にクロストリジウム属の微生物は嫌気環境下にてABE発酵を行う微生物であることから、このように培養槽7を密閉構造とすることで、クロストリジウム属の微生物にABE発酵を行わせる上で極めて有利な構成となる。
【0058】
さらに、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7内の培養液4の液面よりも下部に、培養槽7内の培養液4を培養槽7の外に導く培養液排出管16aを備え、この培養液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能とした培養液回収手段16により、培養槽7内からアルコールを含む培養液4を採取するようにしている。培養液4に含まれるアルコールは蒸留等により適宜精製することで回収することができる。但し、培養液の回収方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、培養槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺してアルコールを含む培養液4を回収するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端を培養液4に浸けて、管を介してアルコールを含む培養液4を回収するようにしてもよい。
【0059】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、培養槽7を密閉構造とし、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するガスを培養槽7の外へ導くガス排出管15aを備え、このガス排出管15aをバルブ15bにより開閉可能としたガス回収手段15を有している。このガス回収手段15により、ヘッドスペースに滞留し得るアルコールの揮発分を回収するようにしている。但し、ガス排出管15aのみでヘッドスペースに滞留するアルコールの揮発分を培養槽7の外へ導くようにしてもよいし、培養槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺して、ヘッドスペースからアルコールの揮発分を回収するようにしてもよい。
【0060】
本発明のアルコール生産装置では、培養液回収手段16とガス回収手段15を併せて、アルコール回収手段としているが、ヘッドスペースにアルコールが滞留しない場合には、ガス回収手段15を省略し、培養液回収手段16のみをアルコール回収手段としてもよい。逆に、培養液回収手段16を省略し、ヘッドスペースに滞留するアルコールの揮発分のみを回収するようにしてもよい。
【0061】
また、アルコール回収手段とは別に、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、培養槽7の外部から培養液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、培養液4に栄養源、中和剤、物質生産に必要な物質等を必要に応じて添加することができる。勿論、微生物2をこの導入管から供給することもできるし、有機物3を導入することもできる。また、嫌気条件とするためのガス(窒素ガス等)を供給することもできる。但し、培養液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、アルコール回収手段を培養液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで培養液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。また、電解液4aに物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0062】
また、図2〜図5に示すアルコール生産装置1では、対電極槽8を密閉構造とし、対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するガスを対電極槽8の外へ導くガス排出管17aを備え、このガス排出管17aをバルブ17bにより開閉可能としたガス放出手段17により、対電極10から発生したガスを培養槽7に漏洩させることなく放出するようにしている。但し、対電極槽8におけるガス発生量が少ない場合には、ガス放出手段17を設けずともよい。また、バルブ17bを省略して、ガス排出管17aから常時ガスが放出される構成としても勿論よい。また、対電極槽8を密閉構造とすることは必須条件ではなく、培養槽7の密閉性を阻害しない範囲で開放構造としても構わない。
【0063】
以下、図2に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Aとして説明し、図3に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Bとして説明し、図4に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Cとして説明し、図5に示すアルコール生産装置を用いた場合を第一の実施形態Dとして説明する。
【0064】
(第一の実施形態A)
図2に示すアルコール生産装置1は、密閉構造の容器20を培養槽7とし、容器20に収容可能な密閉構造の小容器21を対電極槽8とし、小容器21は少なくとも一部にイオン交換膜6を備え、培養槽7にはアルコール回収手段(ガス回収手段15、培養液採取手段16)を備えるものとしている。
【0065】
容器20に小容器21を収容することで、容器20に収容されている培養液4に小容器21が浸され、小容器21の少なくとも一部に備えられているイオン交換膜6は培養液4と接触する。換言すれば、培養液4はイオン交換膜6を介して電解液4aと接触する。
【0066】
培養槽7としての密閉構造の容器20は、対電極槽8としての密閉構造の小容器21を収容可能な大きさの容器であり、形状は特に限定されない。容器の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過性の膜材をヒートシール等により袋状に形成した容器を培養槽7として用いるようにしてもよい。
【0067】
対電極槽8としての密閉構造の小容器21は、培養槽7としての容器20に収容可能な大きさの容器であり、少なくとも一部にイオン交換膜6を備えるものとしている。ここで、小容器21はその全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいが、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成したり、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分は容器20と同様の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばガス不透過性の膜材により構成し、小容器21で発生するガスが容器20の内部に漏洩しないようにしてもよい。
【0068】
対電極10としては、作用電極9における酸化反応を補完する還元反応が生じ得る材質の電極、例えば炭素電極等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
図2に示すアルコール生産装置1によれば、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0070】
(第一の実施形態B)
図3に示すアルコール生産装置1は、上方が開放されている容器23をイオン交換膜6で仕切ることにより開放された二つの槽が形成され、培養槽7としての一方の槽の上方開放部がガス不透過膜またはガス不透過部材24により塞がれているものとしている。同様に、対電極槽8としての他方の槽の上方開放部もガス不透過膜またはガス不透過性部材24により塞がれているものとしている。培養槽7にはアルコール回収手段(ガス回収手段15、培養液採取手段16)を備えるものとしている。尚、図3に示すアルコール生産装置1においては、容器23の密閉性が確保されていれば、培養槽7のヘッドスペースと対電極槽8のヘッドスペースとを完全に仕切る必要はない。
【0071】
ガス不透過膜またはガス不透過部材24としては、各種分野で一般に用いられているものを適宜用いることができる。例えば、ガス不透過部材としては、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過膜としては、例えばイオン交換膜6を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0072】
図3に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0073】
(第一の実施形態C)
図4に示すアルコール生産装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、一方の容器25aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器25bも密閉して対電極槽8としている。この場合、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器25自体のU字型構造によって隔てて配置される。図4に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0074】
(第一の実施形態D)
図5に示すアルコール生産装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器26bも密閉して対電極槽8としている。この場合にも、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器26自体のH字型構造によって隔てて配置される。図5に示すアルコール生産装置1によれば、図2に示すアルコール生産装置1と同様、アルコール生産微生物2によるアルコール生産量を増大させつつも、培養槽7にて生産されるアルコールを容器外に漏洩させることなくその全量を回収することができる。
【0075】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかるアルコール生産方法は、発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物2を用いて有機物3からアルコールを生産する方法において、アルコール生産微生物2と有機物3とを含む培養液4に電子媒体物質5を添加し、電子媒体物質5はアルコール生産微生物2が還元可能な物質とし、アルコール生産微生物2により還元されて生じる電子媒体物質5の還元体を培養液4に浸漬した電極9(作用電極9)に電位を与えて酸化させながらアルコール生産微生物2を培養してアルコールを生産するようにしている。本実施形態では、培養液4にイオン交換膜6を介して対電極9を接触させるようにしている。つまり、第二の実施形態におけるアルコール生産方法とは、電解液4aを用いることなく対電極10を直接イオン交換膜6に接触させている点が異なっている。しかしながら、第一の実施形態のように電解液4aを用いずとも、作用電極9と対電極10との間でイオン交換膜6を介してイオン電流は流れるので、第二の実施形態にかかるアルコール生産方法によれば、第一の実施形態と同様に作用電極9の電位を制御して、同様の効果を得ることが可能である。
【0076】
第二の実施形態にかかるアルコール生産方法は、例えば図6に示すアルコール生産装置により実施される。図6に示すアルコール生産装置1は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造の容器50内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器50の外側に対電極10が配置され、容器50に培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が培養液4に浸され、容器50のイオン交換膜6は容器50に培養液4が収容されたときに少なくともその一部がイオン交換膜6と接触しうる位置に備えられ、イオン交換膜6の培養液4の接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。図6に示すアルコール生産装置1では、容器50の培養液4の液面よりも下部に開口部50aが設けられ、開口部50aがイオン交換膜6で塞がれ、容器50の外側のイオン交換膜6の表面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。つまり、図6に示すアルコール生産装置1では、容器50全体が培養槽7として機能することとなる。
【0077】
したがって、図6に示すアルコール生産装置1によれば、容器50を密閉構造としているので、第一の実施形態と同様、培養槽7にて生産されるアルコールが揮発して容器外に拡散するのを防ぐことができる。また、培養液4の嫌気性雰囲気を制御し易いという利点もある。
【0078】
尚、図6に示すアルコール生産装置1では、第一の実施形態と同様に、アルコール回収手段として、ガス回収手段15、培養液回収手段16を備えるようにしているが、上記の通り、ガス回収方法、培養液採取方法は、これらの手段を利用したものには限定されない。また、ガス回収手段15、培養液回収手段16のいずれか一方を省略してもよい。さらに、第一の実施形態と同様、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0079】
以下、図6に示すアルコール生産装置1の詳細について説明する。但し、以下に説明する以外の構成については、第一の実施形態と実質的に同一であり、説明は省略する。
【0080】
容器50は、イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造としている。容器50の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。尚、図6では、密閉構造の容器50の培養液4の液面よりも下部に設けられた開口部50aをイオン交換膜6により塞ぐようにしているが、容器50の形態や構造は特に限定されない。例えば容器50全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいし、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成してもよいし、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分はガラス等の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えば培養液4と培養液4中の成分の双方を透過させることがない膜材により構成してもよい。要は、容器50に収容される培養液4が容器50の少なくとも一部を構成するイオン交換膜6と接触しうる構造の容器とすればよい。
【0081】
対電極10は、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に接触させるようにしている。本実施形態において、対電極10は板状の炭素電極としているが、対電極10の形状と材質はこれに限定されるものではなく、要は、イオン交換膜6との接触が可能な形状であり、且つ作用電極9における酸化反応に対して電子の授受を補完する還元反応を進行させることが可能な材質の電極とすればよい。また、本実施形態では、対電極10の面積をイオン交換膜6の面積よりも大きなものとしてイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにし、イオン交換膜6と対電極10とを接触させるようにしているが、イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10を接触させればよく、必ずしもイオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにしてイオン交換膜6と対電極10とを接触させずともよい。但し、イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うことで、対電極10をイオン交換膜6の保護材としても機能させることができると共に、培養液4からのイオンの伝達面が増大する結果として、培養液4の電位制御性を高めることができる利点があり、好適である。イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆う方法としては、例えば、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10を接着することにより、開口部50aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよいし、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10の表面の少なくとも一部に塗布形成されたイオン交換膜6を接着することにより、開口部50aをイオン交換膜6で塞ぎつつ、開口部50aを塞ぐイオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよい。イオン交換膜6を塗布形成するための薬剤としては、例えばナフィオン分散液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、対電極10の表面にナフィオン分散液を塗布し、ナフィオン分散液が乾燥する前にイオン交換膜6を貼り付けるようにしてもよい。この場合には、イオン交換膜6の対電極10の表面への接着性と接触性とを十分なものとすることができる。
【0082】
ここで、対電極10は多孔質体とすることが好適である。この場合には、イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生したガスを接触面とは反対側の面に通過させやすくなる。尚、対電極10を多孔質体とし、ナフィオン分散液を用いてイオン交換膜6を貼り付けることで、ナフィオン分散液の多孔質体の孔への侵入によりイオン交換膜6と対電極10との接触面積を増大させて電気化学反応をより進行させやすくすることができ、好適である。
【0083】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0084】
例えば、図7に示すように、培養液4と電解質4aをイオン交換膜6ではなく、イオンや微生物を一切透過させることのない不透過部材40で隔て、あるいは培養槽7と対電極槽8を別の容器で形成し、塩橋41(寒天等にKCl等の飽和電解質溶液を入れたもの)を介して培養液4と電解質4aを接触(液絡)させるようにしてもよい。この場合にも、塩橋41によってイオン電流の流れが許容されると共に、電子媒体物質5の対電極槽8への透過を防ぐことができるので、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0085】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0086】
尚、本実施例における電極電位は、全て銀・塩化銀電極電位を基準とするものである。
【0087】
(実施例1)
クロストリジウム属の微生物の増殖に対する電子媒体物質の影響について検討した。
【0088】
100mL容のガラスバイアル瓶に液状チオグリコレート培地を30mL収容し、これにクロストリジウム アセトブチリカム NBCR13948(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を初期菌体密度1.0×107cells/mLになるように添加した。以降の説明では、クロストリジウム アセトブチリカム NBCR13948をクロストリジウム属細菌と呼ぶこととする。また、チオグリコレート培地には、グルコースが27.8mM(5g/L)含まれている。使用したチオグリコレート培地の組成を以下に示す。
[チオグリコレート培地組成(g/L)]
・L−システイン :0.5
・塩化ナトリウム :2.5
・グルコース :5.0
・酵母エキス :5.0
・カゼインペプトン:15.0
・チオグリコール酸:0.5
・pH 7.0
【0089】
そして、培地に以下の電子媒体物質2mMを添加したときのクロストリジウム属細菌の増殖に対する影響について検討した。
・メチルビオロゲン(MV)
・アントラキノン−2,6−ジスルホン酸二ナトリウム(AQDS)
・チオニン
・Fe(III)−EDTA
・ニュートラルレッド
・2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン
・2,6−ジクロロフェノールインドフェノール
【0090】
ガラスバイアル瓶内は窒素置換し、試験期間中はガラスバイアル瓶内を密閉して窒素雰囲気を維持した。また、試験は30℃で実施した。尚、比較試験として電子媒体物質を添加せずに同様の試験を実施した。
【0091】
試験結果を図8に示す。菌体密度は、培養過程において培養液を分取し、分光光度計U−3010(Hitachi)もしくは顕微鏡観察による計測値から算出した。電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合とほぼ同様の増殖傾向が得られた。これに対し、電子媒体物質としてニュートラルレッド、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールを用いた場合には、増殖が全く見られなかった(データ不図示)。電子媒体物質としてMVを添加した場合には、増殖開始時期が大きく遅延し、最終的な到達菌体密度も電子媒体非添加時の37%に低下した。
【0092】
また、電子媒体物質を添加せずに試験を実施した場合、試験前は薄茶色だった培地が試験後には菌体の高密度化に伴って黄色に変化した。一方、電子媒体物質としてMVを添加して試験を実施した場合には、試験前は薄茶色だった培地が試験後には緑色に変化した。ここで、MVは、酸化型の形態においては無色であるが、還元型の形態においては青色となることから、試験後の培地の緑色への変化は、MVの還元体による青色と菌体の高密度化に伴う黄色とが混合した結果として生じたものであると考えられた。このことから、電子媒体物質としてMVを添加してクロストリジウム属細菌を培養することで、クロストリジウム属細菌によりMVが還元されることがわかった。
【0093】
次に、電子媒体物質を添加した場合と、電子媒体物質を添加しなかった場合について、上記試験中における培地のグルコース濃度、上記試験後における培地の酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度、ブタノール濃度の経時変化を液体クロマトグラフィー(Elite Lachrome、日立製)にて測定した。グルコース濃度変化を図9に示し、酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度及びブタノール濃度を図10に示す。図10のグラフは、左から順に、酢酸濃度、酪酸濃度、エタノール濃度、ブタノール濃度を表している。また、各条件における代謝産物の対糖収率(%、mol−C/mol/C)を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
図9に示される結果から、電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合とほぼ同様のグルコース消費傾向が見られることがわかった。これに対し、電子媒体物質としてMVを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、グルコースの消費開始時期に大きな遅延が見られることがわかった。
【0096】
図10に示される結果から、電子媒体物質とてMVを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、酢酸の生成量を0.5倍に抑えることができると共に、ブタノールの生成量を1.5倍に増加させることができることがわかった。また、酪酸の生成量も抑えられていた。尚、MV添加により最終到達菌体密度は低下したため、菌体あたりのブタノール生産量はMV非添加時に対して4.6倍高いことになる。電子媒体物質として、AQDS、Fe(III)−EDTAを用いた場合には、電子媒体物質を添加しなかった場合と比較して、ブタノール生産量が増大する傾向は見られなかった。
【0097】
以上の結果から、クロストリジウム属細菌を用いたアルコール生産において、培地に電子媒体物質としてMVを添加することで、電子媒体物質を添加しない場合と比較して、クロストリジウム属細菌のABE発酵における代謝産物である酪酸及び酢酸の蓄積量の抑制効果及びブタノールの生産量の増大効果が得られることが明らかとなった。
【0098】
また、培養試験終了後、バイアル瓶内の気相部分のガスを回収し、ガスクロマトグラフィーCR4900(VARIAN)、TCD検出器にて水素と二酸化炭素の定量分析を行った。結果を図11に示す。気相部分のガスの成分分析の結果、発生したガスは主に水素と二酸化炭素であった。二酸化炭素の発生量は、電子媒体の添加の有無及び種類によって大きな変化は見られなかった。一方、水素発生量は、AQDS及びMVを添加した条件下では非添加時と比較して大きく低下する傾向が見られた。
【0099】
ここで、本実施例で使用したクロストリジウム属細菌においては、ブタノール生産経路において発生した還元力 (電子) は増殖期において主に水素生産に使用され、この水素生産への電子の流れを抑制することでブタノールの生産性を向上できることが報告されている(Carolis J. Paredes, S.W.J., Ryan S. Senger, Jacob R. Borden, Ryan Sillers, and Eleftherios T. Papoutsakis, Molecular Aspects of Butanol Fermentation. Bioenergy, 2008.)。MV添加による菌体密度の低下、酢酸及び酪酸の収率低下、水素生産量の低下という3つの結果から、MV添加条件におけるブタノール生産量の増加は菌体構成成分合成や酢酸・酪酸合成に使われていたグルコース由来の炭素および電子がブタノール生産へシフトしたためと推定された。以上より、MVは生育阻害効果を示すが、電子の流れの調整に基づいて代謝を制御できる可能性を持つことが明らかとなった。
【0100】
(実施例2)
実施例1において、クロストリジウム属細菌の代謝の過程におけるMVからの電子の引き抜きがアルコール(ブタノール)の生産性の向上に寄与しているものと考えられた。そこで、還元されたMVを電気的に酸化し、枯渇した酸化型MVを再生して連続的に供給することにより、クロストリジウム属細菌のアルコール生産性にどのような影響が及ぼされるか検討した。
【0101】
本実施例において使用した実験装置の断面図を図13に示す。250mL容の2つのガラスバイアル瓶(Duran製)を下部開口部で陰イオン交換膜((株)アストム製、型番ネオセプタAMX)を介して連結してH字型の容器26とした。そして、ガラスバイアル瓶の一方を培養槽26aとし、他方を対電極槽26bとした。培養槽26a及び対電極槽26bには蓋をし、蓋の上面にシリコーンゴム栓を設けて、電極(作用電極9、対電極10)と定電位設定装置12とを結線する配線を貫通させた際の容器内の密閉性を確保した。また、培養槽26aには培養液4を採取するための培養液採取部52を設け、試験期間中に適宜培養液4を採取可能とした。
【0102】
培養槽26aには、グルコースを50mM、MVを2mM添加したTYA培地(自然電位+0.1V)を200mL収容し、作用電極9を浸漬させた。TYA培地の組成は、以下の通りとした。
[TYA培地の組成(g/L)]
・グルコース :10.0
・トリプトン :6.0
・酵母エキス :2.0
・酢酸アンモニウム :3.0
・リン酸二水素カリウム :0.5
・硫酸マグネシウム七水和物:0.3
・硫酸鉄七水和物 :0.01
・pH 7.0
【0103】
対電極槽26bには、電解液(NaCl溶液:0.58g/L)を200mL収容し、対電極10を浸漬させた。
【0104】
培養槽26aの作用電極9からの配線と対電極槽26bの対電極9からの配線は、シリコーンゴム栓を通して容器26の外側に引き出し、それぞれ定電位設定装置12に結線した。参照電極11(RE-1B, BAS株式会社)は、培養槽26aの電極差し込み部51に差し込んで培養液4と接触させ、配線を定電位設定装置12に結線した。このように、作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線することで、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。
【0105】
まず、作用電極9を炭素電極(BAS社製)とし、対電極10を白金棒電極(自作)として、上記実験装置を用いてサイクリックボルタンメトリーによりMVの酸化還元特性を測定した。結果を図14に示す。図14に示される結果から、作用電極の電位を−0.6Vよりもプラス側に大きく制御することで、還元されたMVを酸化できることが明らかとなった。
【0106】
次に、作用電極9と対電極10を炭素電極とし、培養液4にクロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を増殖の定常期の菌体密度に相当する6.0×108cells/mLになるように添加し、高密度培養試験を行った。培養条件は以下の通りとした。
・pH : 6.5
・培養温度: 30℃
・培養期間: 114時間
・窒素雰囲気下
・静止菌実験
【0107】
印加電位条件は以下の通りとした。
・通電無し(MV無し)
・通電無し(MV有り)
・+0.6V(MV有り)
・+0.3V(MV有り)
・−0.3V(MV有り)
・−0.5V(MV有り)
【0108】
上記高密度培養試験中における培地のグルコース濃度、pH、酪酸濃度、酢酸濃度、ブタノール濃度、エタノール濃度の経時変化を液体クロマトグラフィー(Elite Lachrome、日立製)にて測定した。グルコース濃度変化を図15に示し、pH変化を図16に示し、酪酸濃度変化を図17に示し、酢酸濃度変化を図18に示し、ブタノール濃度変化を図19に示し、エタノール濃度変化を図20に示す。尚、図15〜図20において、◆が通電無し(MV無し)の実験結果を示し、■が通電無し(MV有り)の実験結果を示し、▲が+0.6V(MV有り)の実験結果を示し、×が+0.3V(MV有り)の実験結果を示し、*が−0.3V(MV有り)の実験結果を示し、●が−0.5V(MV有り)の実験結果を示している。
【0109】
図15及び図16に示される結果から、印加電位条件の違いによるクロストリジウム属細菌のグルコース消費速度、pH変化に殆ど差は見られなかった。
【0110】
図17に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較して酪酸の蓄積量が抑えられることが明らかとなった。
【0111】
図18に示される結果から、MVを添加した場合には、MVを添加しない場合と比較して、電位の印加の有無によらず、酢酸蓄積量が抑えられることが明らかとなった。
【0112】
図19に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較してブタノール生産量が極めて顕著に向上することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV無し)と比較するとブタノール生産量が7倍となり、他の印加電位条件と比較するとブタノール生産量が2倍となることが明らかとなった。
【0113】
図20に示される結果から、印加電位条件を+0.6V(MV有り)とすることで、他の印加電位条件と比較してエタノール生産量が向上することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV無し)と比較するとエタノール生産量が2倍となり、他の印加電位条件よりも有意にエタノール生産量が増大することが明らかとなった。また、エタノール生産量については、印加電位条件を+0.3V(MV有り)とした場合にも、エタノール生産量の向上効果が若干ではあるが得られることが明らかとなった。
【0114】
以上の結果から、クロストリジウム属細菌を用いたアルコール生産において、作用電極の電位を+0.3Vに制御して、培養の過程でクロストリジウム属細菌に還元されたMVを電気的に酸化することで、クロストリジウム属細菌のエタノール生産性を向上させることができ、作用電極の電位を+0.6Vに制御して、培養の過程でクロストリジウム属細菌に還元されたMVを電気的に酸化することで、エタノール生産性の向上に加えて、ブタノール生産性の顕著な向上効果が得られることが明らかとなった。
【0115】
以上の結果から、+0.3V超〜+0.6Vの間にブタノール生産性が向上し始める最小電位が存在し、+0.6Vとすることで、顕著なブタノール生産性の向上効果が確実に得られ、さらにはエタノール生産性の向上効果も得られることがわかった。
【0116】
(実施例3)
クロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)の初期菌体密度を1.0×107cells/mLとし、実施例2と同様の条件で培養試験を行い、印加電位条件によるクロストリジウム属細菌の増殖について検討した。
【0117】
印加電位条件は以下の通りとした。
・通電無し(MV有り)
・+0.6V(MV有り)
・+0.3V(MV有り)
・ 0.0V(MV有り)
・−0.3V(MV有り)
・−0.6V(MV有り)
【0118】
結果を図21に示す。−0.6V(MV有り)では、クロストリジウム属細菌が増殖しなくなった。これに対し、+0.6V(MV有り)、+0.3V(MV有り)では、他の印加電位条件と比較して増殖速度が増大する傾向が見られ、その効果は特に+0.6V(MV有り)で顕著であった。
【0119】
この結果から、印加電位を+0.3V以上、より好ましくは+0.6V以上として、クロストリジウム属細菌により還元されたMVを酸化しながら培養を行うことで、クロストリジウム属細菌の増殖速度を増大させて、増殖段階をソルベント(アセトン、ブタノール、エタノール)生成期である定常期に移行させる速度を向上できることが明らかとなった。即ち、クロストリジウム属細菌の増殖段階を定常期に移行させる速度を高めて、クロストリジウム属細菌を利用したアルコール生産槽の立ち上げ等を迅速且つスムーズに行うことが可能となることが明らかとなった。
【0120】
したがって、クロストリジウム属細菌の初期菌体密度を対数増殖期未満として、本発明のアルコール生産方法を実施することで、クロストリジウム属細菌の菌体密度を迅速に増殖の定常期の菌体密度に高めて、ソルベント生成期に移行させ、アルコール生産を効率よく行うことができることが明らかとなった。
【0121】
(実施例4)
実施例3の培養試験と類似の培養試験を行い、さらに詳細な検討を行った。
【0122】
図12に示す電気培養装置を用いて実験を行った。培養槽7としての容器20は250mL容のガラスバイアル瓶(Duran製)とした。容器20には蓋30をした。蓋30の上面30aにはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極、管を通した際の容器20の密閉性を確保した。また、シリコーンゴム栓を設けることにより注射針の突き刺しを可能とし、且つ注射針の差し込みにより生じた孔が注射針を抜いた際に塞がるようにした。
【0123】
対電極槽8としての小容器21は、15mL容プラスチックチューブを縦に切断し、切断面に陰イオン交換膜6((株)アストム製、型番ネオセプタAMX)を接着して半筒状に加工した。陰イオン交換膜6の面積は12cm2であった。小容器21の内部には電解液4aを収容すると共に対電極10を収容して電解液4aに浸した。そして、小容器21の上部をシリコン系接着剤で埋めて密閉した。
【0124】
小容器21と作用電極9を培養液4に浸漬し、作用電極9と対電極10の配線は蓋30に設けたシリコーンゴム線を通して容器20の外側に引き出した。銀・塩化銀参照電極11(RE-1B, BAS株式会社)は容器20の側面に設けられた二つの開口部のうちの下方から差し込んで培養液4と接触させた。作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。培養期間中に培養槽7から発生したガスを容器20の上部に設置したアルミニウム製サンプリングバッグ30(ジーエルサイエンス製、商品名:アルミニウムバッグ、1L)に回収した。
【0125】
作用電極9と対電極10は共に炭素板(7.5cm×2.5cm)とした。
【0126】
培養液4は、実施例1で用いたチオグリコレート培地と同様のものにMVを2mM添加したものとした。
【0127】
電解液4aは、実施例1で用いたチオグリコレート培地と同様のもの(MV非添加)とした。
【0128】
培養液4の電位が設定電位で安定した後、定常期のクロストリジウム属細菌(Clostridium acetobutylicum NBCR13948)を含む培養液(菌体密度:6.0×108cells/mL)を1%(2.5mL)植菌し、培養過程における通電の効果を検証した。また、対照試験として、MV添加及び非添加での通電無しの試験を実施した。
【0129】
実験は、培養液温度を30℃とし、容器20内を窒素雰囲気として実施した。
【0130】
印加電位条件は以下の通りとした。尚、電位印加条件では、MVを添加した。
・通電無し(MV添加、非添加)
・+1.2V
・+0.9V
・+0.6V
・+0.3V
・−0.6V
・−0.8V
【0131】
菌体の増殖結果を図23に示す。−0.6V、−0.8Vの電位を印加した場合には、クロストリジウム属細菌の生育が全く見られなかった。これに対し、酸化電位である+0.3V〜+1.2Vの電位を印加した場合には、クロストリジウム属細菌の増殖が約20時間後から始まり、51.5時間後に増殖が始まった通電無し(MV添加)と比べて増殖開始までに要する時間が大幅に短縮できた。このことから、MV添加によって阻害された増殖が、MV非添加時(通電無し)と同程度に回復することが明らかとなった。
【0132】
さらに、その中でも高電位を印加した場合(+0.9V、+1.2V)では、増殖開始時期は通電無し(MV非添加)のそれよりも僅かに早まり、最終的な到達菌体密度も通電無し(MV添加)の2倍、通電無し(MV非添加)と同程度であった。
【0133】
また、+0.6V、+0.3Vの電位を印加した場合には、増殖開始時期は通電無し(MV非添加)と同程度に回復したが、最終的な菌体密度は通電無し(MV添加)と同程度に抑制された。
【0134】
次に、培養試験中の培養液のグルコース濃度変化を図24に示し、酢酸濃度変化を図25に示し、酪酸濃度変化を図26に示しブタノール濃度変化を図27に示す。
【0135】
グルコース濃度は、増殖と同期した減少が見られ、その総消費量に培養条件による差異は見られなかった(図24)。
【0136】
グルコースの主要な代謝産物としては、各条件とも酢酸、酪酸、ブタノールが検出された(図25、図26、図27)。通電無し(MV非添加)では、代謝産物が酢酸と酪酸に集中し、ブタノール、エタノールの蓄積量は1mM未満であった。これに対し、通電無し(MV添加)では、蓄積開始時期は遅れたものの、酢酸と酪酸の蓄積が抑制され、ブタノール生産量の向上が確認された。
【0137】
また、MV存在下、酸化電位を印加した場合では、生育(増殖)の早期化に伴い、通電無し(MV添加)と比べて代謝産物の蓄積が開始するまでの期間が大幅に短縮することが明らかとなった。具体的には、通電無し(MV添加)においてはブタノール生産開始まで約60時間を要していたのに対して、酸化電位(+0.3V〜+1.2V)では約20時間後には生産が始まり、ブタノール生産に必要な時間を1/3に短縮できることが明らかとなった(図27)。最終的に到達するブタノール濃度は、+0.6V、+0.3V印加時において最大であり、通電無し(MV非添加)の約7倍にあたる7mM程度まで上昇した。
【0138】
次に、試験終了後の培養液から対糖収率を算出した結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2に示される結果から、通電無し(MV非添加)と比較して通電無し(MV添加)の方がブタノールの対糖収率が向上していることが確認できた。また、+0.3V、+0.6V、+0.9Vの電位を印加することで、ブタノールの対糖収率のさらなる向上効果が得られ、その効果は特に+0.3V、+0.6Vにて顕著であることが明らかとなった。
【0141】
培養試験終了後、ガスバッグからガスを回収し、ガスクロマトグラフィーCR4900(VARIAN)、TCD検出器にて水素と二酸化炭素の定量分析を行った。結果を図28に示す。各条件において二酸化炭素の発生量には大きな違いは見られなかったが、通電無し(MV添加)時および+0.6V、+0.3V印加時では水素発生量は低下し、実施例1と同様に、MV添加により水素生産への電子の流れが抑制されているものと推定された。一方で、+0.9V、+1.2V印加時ではMV非添加時と同程度の水素生産量を示した。このことから、これらの条件においては、酸化型MVが存在するにもかかわらず、水素生産経路への電子の流れはMV非添加時と同様と考えられた。よって、MVの有無だけでなく印加する電位の範囲によっても電子の流れのパターンが異なることが推定された。
【0142】
以上、MV添加(MV還元体)による菌体増殖の阻害効果を抑制し、ブタノール生産開始時期及び生産量の両側面からブタノール生産性をさらに向上させることに成功した。
【0143】
尚、+0.6V、+0.3V印加時では+1.2V、+0.9V印加時と比べ、酢酸・酪酸の蓄積が抑制されると共に、最終到達菌体密度が低く抑えられたため、それら抑制によって酢酸・酪酸の生産や菌体構成成分に使われなかった炭素およびエネルギーがブタノール生産へシフトするようになったと推定された。
【0144】
(実施例5)
実施例1と同様の試験を、以下の濃度のMVにて実施し、培養終了後の培養液のブタノール濃度を測定して、最適なMV添加量を検討した。
・添加無し
・0.1mM
・0.5mM
1mM
2mM
5mM
・10mM
【0145】
結果を図29に示す。MV濃度0.5mM〜10mMにおいて、MV添加無しよりもブタノール濃度が高まることが明らかとなり、その効果は、0.5mM〜2mMの範囲、特に1〜2mMの範囲において顕著であった。一方、MV濃度0.1mMでは、MV添加によるブタノール濃度向上効果は得られなかった。また、MV濃度を10mMよりも高濃度にしてもブタノール濃度向上効果は得られなかった。
【0146】
以上の結果から、MV濃度は、0.5mM〜10mMとすればよく、0.5mM〜5mMとすることが好適であり、0.5〜2mMとすることがより好適であり、1〜2mMとすることがさらに好適であることが明らかとなった。
【0147】
(実施例6)
実施例2と実施例4について、培養試験中における電位の変化や電流値等に基づき、各種考察を行った。
【0148】
実施例4の培養試験における非通電時の培養液の自然電位の変化を図30に示す。非通電時の培養液の自然電位はMVの添加・非添加に関わらず、培養開始時の−0.2Vから徐々に減少し、最終的には−0.5V付近でほぼ安定し、その後、培養後期にゆるやかな上昇を示した。
【0149】
尚、実施例4において、非通電時(MV添加)では増殖に伴い、約30時間後からMVの還元色である青色への培地色の変化が見られた。通電時においては培地色の変化に電位ごとの差異が見られ、−0.6V、−0.8Vでは培養開始時より電気的な還元により培地は青色を呈し、+0.6V、+0.3Vではクロストリジウム属細菌の増殖に伴い青色への変化が見られた。一方、MVの酸化還元電位に対し高電位(+1.2V、+0.9V)印加時では培地色の青色への変化は培養過程を通じて見られなかった。
【0150】
次に、実施例4の培養試験における電流値の変化を図31に示す。電位印加時では増殖に同期した形で電流値の増加が見られ、電位に応じて大小の差異はあるものの、同様な電流値の変動傾向を示した。+1.2V、+0.9V印加時には多くの電流が流れ、電極上でのMVの酸化速度が大きく、クロストリジウム属細菌によるMV還元速度よりも電極による酸化速度が上回った結果、培養液中のMVは培養期間を通じてほぼ酸化状態にあったことが推定された。+0.6V、+0.3Vでの電気培養時には酸化速度の差に起因し、一定のMVの酸化体と還元体が共存している状況であったと考えられる。ここで、還元型MVは反応性が高く、DNAなどにダメージを与えるといった細胞毒性を呈するため(Monk, P.M.S., The Viologens: Physicochemical Properties, Synthesis and Applications of the Salts of 4,4'-Bipyridine, 1999.)培養開始時より還元型MVが著量存在する−0.6V、−0.8Vでは生育は阻害されたと考えられた。
【0151】
次に、電気エネルギー投入に対するエネルギー(ブタノール)増産の効率を算出した。実施例4の電気培養期間を通して流れた電流値の積算から各通電条件において投入された電気エネルギー(ΔWin)は、1659.6J(+1.2V)、526.9J(+0.9V)、63.3J(+0.6V)、33.0J(+0.3V)であった。培養終了時のブタノール生産量を非通電(MV添加)時と各通電条件間で比較した結果、ブタノール生産量の変動分から算出されるエネルギー(ΔWbutanol)は−735.8J(+1.2V)、791.8J(+0.9V)、1234.6J(+0.6V)、1364.6J(+0.3V)であった。よって、実施例4の各通電条件におけるエネルギー効率はΔWbutanol/ΔWin=−0.44(+1.2V)、1.5(+0.9V)、19.5(+0.6V)、41.3(+0.3V)と算出され、+1.2Vでは効率が負であったが、それより低い電位では通電することにより、投入電気エネルギーよりも大きなエネルギー増産効果を得ることができたといえる。実施例4において、ブタノール生産の観点からは+0.3Vの印加が最適であり、通電による投入電気エネルギーの41倍多いエネルギー(ブタノール)増産効果を示す効率的な培養手法であることが明らかとなった。
【0152】
尚、上記において、WinとWbutanolは以下の式により求めた。また、上記におけるΔは、電位印加時と電位無印加時の差分という意味である。
Win=Eap(極間電圧:V)×C(電気量:C)
Wbutanol=
ブタノールの燃焼熱量(2675.9kJ/mol)×ブタノール生産量(mol)
【0153】
次に、実施例2の培養試験における非通電時の培養液の自然電位の変化を図32に示す。非通電時の培養液の自然電位はMV添加では0V付近、非添加では0.1V付近であり、双方ともに徐々に減少し、MV添加では−0.5V付近となり、その後緩やかな上昇を示した。MV非添加では−0.4付近となり、その後上昇を続けた。
【0154】
次に、実施例2の培養試験における電流値の変化を図33に示す。培養試験中に流れた電流値は実施例4におけるそれよりも小さかった。そして、試験終了までに流れた電流値の積算から、ブタノール増産効果の見られた+0.6V印加時における投入電気エネルギーは0.27C×1.3V=0.35Jと算出された。培養終了時、非通電(MV添加)条件に対して+0.6 V印加によって増算されたブタノールに由来するエネルギー量は2341.8Jと算出されたことから、実施例2におけるエネルギー効率ΔWbutanol/ΔWin=2158.1J/0.35J=6166と算出された。この結果から、本発明により、わずかな電気の投入により大きなエネルギーを獲得できることが明らかとなった。
【0155】
次に、試験期間中に流れた電流が全て還元型MVの酸化に利用されたと仮定してMV再生回数を算出した。計算結果を表3に示す。
【0156】
【表3】
【0157】
表3に示される結果から、MV再生回数とブタノールの生産促進効果との間には正の相関は見られないことが明らかとなった。このことから、本発明におけるブタノール増産効果の増減は、酸化型MVの継続的な供給のみでは説明できないことがわかった。
【符号の説明】
【0158】
1 アルコール生産装置
2 アルコール生産微生物
3 電子媒体物質
4 培養液
4a 電解液
5 有機物
6 イオン交換膜(陰イオン交換膜)
7 培養槽
8 対電極槽
9 作用電極
10 対電極
12 定電位設定装置
15、16 アルコール回収手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、
前記アルコール生産微生物と前記有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、前記電子媒体物質は前記アルコール生産微生物が還元可能な物質とし、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産方法。
【請求項2】
前記培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、前記電極と対をなす電極を前記電解液に浸漬する請求項1に記載のアルコール生産方法。
【請求項3】
前記培養液にイオン交換膜を介して前記電極と対をなす電極を接触させる請求項1に記載のアルコール生産方法。
【請求項4】
前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用いる請求項1〜3のいずれか1つに記載のアルコール生産方法。
【請求項5】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項6】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含ませ、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vとして前記クロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、前記電極の電位を+0.3V〜+0.9Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項7】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含ませ、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vとして前記クロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、前記電極の電位を+0.3V〜+0.6Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項8】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
イオン交換膜によって仕切られた対電極槽及び密閉構造の培養槽と、前記培養槽に収容された培養液と、前記対電極槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項9】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
培養槽としての密閉構造の容器と、前記容器に収容可能な対電極槽としての密閉構造の小容器と、前記培養槽に収容された培養液と、前記対電極槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記小容器は前記培養液と接触する位置の少なくとも一部にイオン交換膜を備えるものとし、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項10】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、前記容器に収容された培養液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記イオン交換膜の前記容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記容器内で生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記イオン交換膜は前記容器の前記培養液と接触する位置に備えるものとし、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項11】
前記アルコール生産微生物がアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物である請求項8〜10のいずれか1つに記載のアルコール生産装置。
【請求項12】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【請求項13】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記クロストリジウム属の微生物は対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含まれ、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物の生育段階が定常期に移行した後、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【請求項14】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記クロストリジウム属の微生物は対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含まれ、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物の生育段階が定常期に移行した後、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.6Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【請求項1】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する方法において、
前記アルコール生産微生物と前記有機物とを含む培養液に電子媒体物質を添加し、前記電子媒体物質は前記アルコール生産微生物が還元可能な物質とし、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記培養液に浸漬した電極に電位を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産方法。
【請求項2】
前記培養液にイオン交換膜を介して電解液を接触させ、前記電極と対をなす電極を前記電解液に浸漬する請求項1に記載のアルコール生産方法。
【請求項3】
前記培養液にイオン交換膜を介して前記電極と対をなす電極を接触させる請求項1に記載のアルコール生産方法。
【請求項4】
前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用いる請求項1〜3のいずれか1つに記載のアルコール生産方法。
【請求項5】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項6】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含ませ、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vとして前記クロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、前記電極の電位を+0.3V〜+0.9Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項7】
前記電子媒体物質としてビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかを用い、前記イオン交換膜として陰イオン交換膜を用い、前記アルコール生産微生物としてアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物を用い、前記クロストリジウム属の微生物を対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含ませ、前記電極の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vとして前記クロストリジウム属の微生物を生育段階を定常期に移行させた後、前記電極の電位を+0.3V〜+0.6Vとして前記クロストリジウム属の微生物を高密度培養する請求項2または3に記載のアルコール生産方法。
【請求項8】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
イオン交換膜によって仕切られた対電極槽及び密閉構造の培養槽と、前記培養槽に収容された培養液と、前記対電極槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項9】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
培養槽としての密閉構造の容器と、前記容器に収容可能な対電極槽としての密閉構造の小容器と、前記培養槽に収容された培養液と、前記対電極槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記培養槽にて生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記小容器は前記培養液と接触する位置の少なくとも一部にイオン交換膜を備えるものとし、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項10】
発酵における代謝産物としてアルコールを生産するアルコール生産微生物を用いて有機物からアルコールを生産する装置であって、
イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、前記容器に収容された培養液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記イオン交換膜の前記容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記容器内で生産されたアルコールを回収するアルコール回収手段とを有し、前記イオン交換膜は前記容器の前記培養液と接触する位置に備えるものとし、前記培養液に前記アルコール生産微生物と前記有機物と前記アルコール生産微生物が還元可能な電子媒体物質とを含ませて、前記アルコール生産微生物により還元されて生じる前記電子媒体物質の還元体を前記定電位設定装置で前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて酸化させながら前記アルコール生産微生物を培養してアルコールを生産することを特徴とするアルコール生産装置。
【請求項11】
前記アルコール生産微生物がアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属の微生物である請求項8〜10のいずれか1つに記載のアルコール生産装置。
【請求項12】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【請求項13】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記クロストリジウム属の微生物は対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含まれ、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+1.2Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物の生育段階が定常期に移行した後、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.9Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【請求項14】
前記電子媒体物質がビオロゲン及びビオロゲン誘導体の少なくともいずれかであり、前記イオン交換膜が陰イオン交換膜であり、前記クロストリジウム属の微生物は対数増殖期に移行する前の菌体密度で前記培養液に含まれ、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.9V〜+1.2Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物の生育段階が定常期に移行した後、前記作用電極の電位が銀・塩化銀電極電位基準で+0.3V〜+0.6Vに制御されて前記クロストリジウム属の微生物が高密度培養される請求項11に記載のアルコール生産装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図14】
【図22】
【図1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図14】
【図22】
【図1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2012−60992(P2012−60992A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116321(P2011−116321)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「大会講演要旨集 2010年度(平成22年度)大会[東京]」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月5日 社団法人 日本農芸化学会発行の「大会講演要旨集 2010年度(平成22年度)大会[東京]」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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