説明

微生物を利用した水素製造方法及び装置

【課題】水素生成菌以外の微生物を利用して水素製造を行う。
【解決手段】微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9及び対電極10を接触させ、作用電極9と対電極10との間に電位差を与えて微生物2の電子伝達反応により生じた電子受容体物質3の還元体を作用電極9にて酸化させながら微生物2を培養し、培養過程で微生物2に有機物5を分解させながら対電極10から発生する水素を回収するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用した水素製造方法及び装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、バイオマス、有機性廃棄物及び有機性廃水等の有機物から水素を製造するのに好適な水素製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、化学工業や石油精製の分野において、欠かすことのできない重要な工業ガスである。近年では、燃焼等の使用段階において環境負荷物質を排出することのないクリーンエネルギーとしての水素の利用への期待が高まっており、その主な用途である家庭用や自動車用の分散型燃料電池等について、各種研究が急速に進展しつつある。
【0003】
ところで、水素は、水蒸気改質法等の熱化学的方法により製造されるのが現在の主流であり、具体的には、天然ガスやナフサ等の化石燃料を、触媒の存在下、高温高圧で水蒸気と反応させることにより水素が製造されている。しかし、熱化学的方法を利用して水素を製造する場合、高温高圧の反応条件を必要とすることから、これに耐えうる設備が必要となり、設備コストが嵩むといった問題がある。
【0004】
この問題を解決すべく、近年では、微生物を利用した水素製造方法も各種提案されている。微生物を利用することで、熱化学的方法のような高温高圧下での反応は必要がなくなることから、設備コストを大幅に削減することができるという利点がある。例えば、特許文献1では、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を、好気的条件下の蟻酸類含有培養液中で培養して微生物に水素生成機能を発現させ、さらに付加的に嫌気条件下の蟻酸類含有培養液中で培養することで微生物の水素生成機能を向上させ、この微生物を還元状態にある水素発生用溶液に加え、該溶液に有機性基質を供給することにより、水素を製造するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4409893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在提案されている微生物を利用した水素製造方法は、その殆どが微生物(水素生成菌)自体の水素生成能を利用した水素発酵利用型の水素製造方法である。しかしながら、水素生成菌の水素発酵条件等が未だ十分に解明されるに至っていないことや、水素発酵の人為的制御の困難性も相俟って、実用化には至っていないのが現状である。そこで、微生物を利用した水素製造方法について、水素発酵を利用した水素製造方法に拘泥されることなく、全く別の発想に基づいた水素製造方法を確立しておくことも必要と考えられる。
【0007】
また、水素発酵利用型の水素製造方法の場合、利用できる微生物が水素発酵能を有する水素生成菌に限られてしまう。しかしながら、自然界には、水素生成菌以外にも多種多様な微生物が広く存在している。特に、硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物は自然界に広く存在している。したがって、水素生成菌に限ることなく、自然界に存在する様々な微生物を有効利用して水素の製造を行うことができれば、微生物を利用した水素製造方法の汎用性を高めることができ、望ましいと言える。
【0008】
そこで、本発明は、水素生成菌以外の微生物を利用して水素製造を行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物を利用して水素製造を行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行った結果、ある知見を得た。即ち、硝酸呼吸能を有する微生物である大腸菌(Escherichia coli)と最終電子受容体としての硝酸イオンと大腸菌に資化される乳酸とを含む培養液をプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を介して電解液と接触させ、培養液に作用電極を接触させると共に電解液に対電極を接触させ、作用電極と対電極との間に電位差を与えて、作用電極で硝酸呼吸により生じた硝酸イオンの還元体である亜硝酸イオンを酸化させながら大腸菌を培養することで、大腸菌の生育を促進できるとともに、培養過程で対電極から水素を大量に発生させることができることを知見した。また、プロトンを透過可能な陽イオン交換膜を用いることなく、作用電極と対電極を培養液に直接接触させて同様の操作を行うことで、培養過程において対電極から極めて大量の水素が発生することも知見した。
【0011】
その一方で、本願発明者等は、培養液に大腸菌を添加せずに上記と同様の操作を行った場合には、培養液の有機物が分解が見られず、対電極からの水素の発生も殆ど起こらないことを知見した。また、作用電極と対電極との間に電位差を与えずに上記と同様の操作を行った場合には、大腸菌の硝酸呼吸によって生じる亜硝酸イオンの蓄積により、大腸菌の生育が阻害され、有機物である乳酸の分解が起こりにくくなると共に水素の発生も殆ど起こらないことを知見した。
【0012】
本願発明者等は、これらの現象について検討を行ったところ、大腸菌存在下で作用電極と対電極との間に電位差を与えた場合には、大腸菌非存在下で作用電極と対電極との間に電位差を与えた場合と比較して、作用電極と対電極との間を流れる電流値が大幅に向上することを知見した。このことから、本願発明者等は、作用電極と対電極との間に電位差を与えて大腸菌の硝酸呼吸により生じた亜硝酸イオンを作用電極にて硝酸イオンに酸化しながら大腸菌を培養する過程で、大腸菌の硝酸呼吸を介して有機物から回収された電子が対電極に流れ、この電子がプロトンと反応することで水素生成が行われていることを知見するに至った。しかも、作用電極と対電極との間に電位差を与えて大腸菌の硝酸呼吸により生じた亜硝酸イオンを作用電極にて硝酸イオンに酸化しながら大腸菌を培養することで、大腸菌細胞内ATPの濃度が向上することが確認されたことから、有機物から電子を効率的に回収して、これを対電極での水素生成に利用できることも知見するに至った。
【0013】
本願発明者等は、上記知見に基づき、大腸菌等の硝酸呼吸能を有する微生物に限らず、有機物と電子受容体の存在下で電子伝達反応を起こし得る微生物全般について、作用電極と対電極との間に電位差を与えて作用電極にて電子伝達反応により生じる電子受容体の還元体を電気的に酸化させながら微生物を培養しつつ、有機物から電子を効率よく回収し、これを対電極に流して水素生成できる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて本願発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の水素製造方法は、微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液に作用電極及び対電極を接触させ、作用電極と対電極との間に電位差を与えて微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体を作用電極にて酸化させながら微生物を培養し、培養過程で微生物に有機物を分解させながら対電極から発生する水素を回収するようにしている。
【0015】
また、本発明の水素製造装置は、密閉構造の容器と、容器に収容され、微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、培養液に浸された作用電極及び対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、容器の培養液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体が定電位設定装置により作用電極と対電極との間に電位差が与えられることによって作用電極にて酸化されながら微生物が培養される一方で、対電極から発生する水素が水素回収手段により回収されるものとしている。
【0016】
微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液中では、微生物の電子伝達反応が進行して電子受容体物質に電子が与えられて還元される。微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体は、作用電極と対電極との間に電位差を与えることによって作用電極にて酸化されて再生される。これにより、微生物の生育が促進され、培養過程で有機物が効率よく分解されながら対電極から水素が発生する。したがって、これを回収することで、微生物を利用した水素製造を実現し得る。
【0017】
ここで、本発明の水素製造方法において、イオン交換膜を介して培養液と接触させた電解液に対電極を接触させるようにしてもよい。この場合、培養液中の微生物、電子受容体物質及び有機物を対電極が接触している電解液側に透過させることなく、培養液中に留まらせることができる。したがって、対電極の電位の影響を受けることなく、電子受容体物質の還元体が長期に亘って安定に酸化される。
【0018】
イオン交換膜を介して培養液と接触させた電解液に対電極を接触させる構成にて本発明の水素製造方法を実施する場合、以下の構成を備える本発明の水素製造装置を用いるようにしてもよい。
【0019】
即ち、本発明の水素製造装置は、イオン交換膜によって仕切られた培養槽及び密閉構造の水素製造槽を備える容器と、培養槽に収容された微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、水素製造槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、水素製造槽の電解液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体が定電位設定装置により作用電極と対電極との間に電位差が与えられることによって作用電極にて酸化されながら微生物が培養される一方で、水素製造槽の対電極から発生する水素が水素回収手段により回収されるものとしてもよい。
【0020】
また、本発明の水素製造装置は、培養槽としての容器と、容器に収容可能な水素製造槽としての密閉構造の小容器と、培養槽に収容された微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、水素製造槽に収容された電解液と、培養液に浸された作用電極と、電解液に浸された対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、水素製造槽の電解液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、小容器は培養液と接触し得る位置の少なくとも一部にイオン交換膜を備えるものとし、微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体が定電位設定装置により作用電極と対電極との間に電位差が与えられることによって作用電極にて酸化されながら微生物が培養される一方で、水素製造槽の対電極から発生する水素が水素回収手段により回収されるものとしてもよい。
【0021】
さらに、本発明の水素製造装置は、イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、容器に収容された微生物と微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、培養液に浸された作用電極と、イオン交換膜の容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、作用電極と対電極とが結線された定電位設定装置と、対電極から発生する水素を回収する水素回収手段とを有し、イオン交換膜は容器の培養液と接触し得る位置に備えられ、イオン交換膜としてプロトンを透過可能な陽イオン交換膜が用いられ、電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質が用いられ、微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質の還元体が定電位設定装置により作用電極と対電極との間に電位差が与えられることによって作用電極にて酸化されながら微生物が培養される一方で、水素製造槽の対電極から発生する水素が水素回収手段により回収されるものとしてもよい。
【0022】
また、本発明の水素製造方法において、イオン交換膜を用いる場合には、電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質を用い、イオン交換膜としてプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を用いることが好ましい。この場合、培養液にて電子受容体物質の還元体が酸化される際に発生するプロトンがイオン交換膜を透過し、水素生成源として対電極に供給される。したがって、培養液におけるプロトンの蓄積と電解液におけるプロトンの減少とが抑えられてpHの変動が抑えられ、微生物の培養環境及び水素生成環境が長期に亘り安定に維持される。
【0023】
さらに、本発明の水素製造方法において、イオン交換膜を用いる場合には、電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質を用い、電解液を用いることなく、培養液と対電極とをプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を介して接触させるようにしてもよい。この場合には、培養液にて電子受容体物質の還元体が酸化される際に発生するプロトンがイオン交換膜を透過し、これが直接対電極に供給されて水素となるので、これを回収することで、微生物を利用した水素製造を実現し得る。
【0024】
また、本発明の水素製造方法において、微生物として硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物を用い、電子受容体物質として硝酸イオンを用いることが好ましく、大腸菌(Escherichia coli)を用いることがより好ましく、遺伝子組換え大腸菌を用いることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、有機物と電子受容体の存在下で電子伝達反応を起こし得る微生物全般を利用して水素を製造することが可能となる。したがって、硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物に代表される自然界に存在する様々な微生物を利用して水素を製造することができ、微生物を利用した水素製造方法の汎用性を、水素発酵を利用した従来法よりも大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の水素製造方法の概念を示す図である。
【図2】第一の実施形態Aにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図3】第一の実施形態Bにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図4】第一の実施形態Cにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図5】第一の実施形態Dにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図6】第二の実施形態にかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図7】本発明の水素製造方法を実施するための水素製造装置の他の構成の一例を示す断面図である。
【図8】硝酸イオンの存在下または硝酸イオンと亜硝酸イオンの存在下で大腸菌に硝酸呼吸をさせながら培養試験を行った際の増殖曲線を示す図である(参考例1)。
【図9】実験に使用した水素製造装置の構成を示す断面図である(実施例1)。
【図10】実験に使用した水素製造装置の小容器の構成を示す図である(実施例1)。
【図11】炭素電極を用いた場合の亜硝酸イオンの酸化還元特性を示す図である(実施例1)。
【図12】白金電極を用いた場合の亜硝酸イオンの酸化還元特性を示す図である(実施例1)。
【図13】炭素電極を用いた場合の各種電位における亜硝酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図14】炭素電極を用いた場合の各種電極電位における硝酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図15】白金電極を用いた場合の各種電極電位における亜硝酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図16】白金電極を用いた場合の各種電極電位における硝酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図17】各種電極電位で大腸菌の培養試験を行った際の増殖曲線を示す図である(実施例1)。
【図18】電極電位を+1.0Vとして培養試験を行ったときの硝酸イオンと亜硝酸イオンの経時変化を示す図である(実施例1)。
【図19】通電無しで培養試験を行ったときの硝酸イオンと亜硝酸イオンの経時変化を示す図である(実施例1)。
【図20】各種電極電位で大腸菌の培養試験を行った際の培養液の乳酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図21】各種電極電位で大腸菌の培養試験を行った際の培養液の酢酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図22】各種電極電位で大腸菌の培養試験を行った際の培養液のギ酸イオン濃度の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図23】通電の有無及び大腸菌の有無による二酸化炭素及び水素の発生量を示す図である(実施例1)。
【図24】大腸菌を利用した場合の水素製造機構の概念図である。
【図25】培養試験を行った際の電流値の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図26】培養試験を行った際の電圧値の経時変化を示す図である(実施例1)。
【図27】培養試験に用いられた遺伝子組換え大腸菌に導入されたpUC18プラスミドの構成を示す図である(実施例2)。
【図28】遺伝子組換え大腸菌の培養試験を行った際の増殖曲線を示す図である(実施例2)。
【図29】遺伝子組換え大腸菌の培養試験を行った際の細胞内ATP濃度の経時変化を示す図である(実施例2)。
【図30】遺伝子組換え大腸菌の培養試験を行った際のβ−ガラクトシダーゼ活性を示す図である(実施例2)。
【図31】培養試験を行った際の増殖曲線を示す図である(実施例4)。
【図32】培養試験期間中における極間電圧の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図33】培養試験期間中における電流値の経時変化を示す図である(実施例4)。
【図34】培養試験期間中における水素発生量の比較図である(実施例4)。
【図35】培養試験期間中における各種有機酸の蓄積量の比較図である(実施例4)。
【図36】実施例3における培養試験結果(通電無し)を示す図である。
【図37】実施例3における培養試験結果(通電有り)を示す図である。
【図38】炭素源(栄養源)をグルコースとして培養試験を行った結果を示す図である(実施例5)。
【図39】炭素源(栄養源)をグルコースとして培養試験を行った際のグルコースの経時変化を示す図である(実施例5)。
【図40】第三の実施形態Aにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図41】第三の実施形態Bにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図42】第三の実施形態Cにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図43】第三の実施形態Dにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図44】第三の実施形態Eにかかる水素製造装置の一例を示す断面図である。
【図45】炭素源(栄養源)をグルコースとして培養試験を行った際の水素発生量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1に、本発明の水素製造方法の実施形態の一例を概念的に示す。本発明の水素製造方法は、微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9及び対電極10を接触させ、作用電極9と対電極10との間に電位差を与えて微生物の電子伝達反応により生じた電子受容体物質3の還元体を作用電極9にて酸化させながら微生物2を培養し、培養過程で微生物2に有機物5を分解させながら対電極10から発生する水素を回収するようにしている。
【0029】
図1において、容器50はイオン交換膜6によって培養槽7と対電極槽8に仕切られており、培養槽7には微生物2と電子受容体物質3と有機物5とを含む培養液4が収容され、対電極槽8には電解液4aが収容されている。また、培養液4には作用電極9が浸され、電解液4aには対電極10が浸されている。
【0030】
本発明において、培養液4にて培養する対象となる微生物2には、有機物5と電子受容体物質3の存在下にて電子伝達反応が進行し得る微生物全般を用いることができる。換言すれば、電気的に酸化することができる物質を呼吸基質とする微生物全般を用いることができる。例えば、以下に示す化学反応式により電子受容体物質3を還元し得る能力を有する微生物全般を用いることができる。
MnO4 +3e- + 4H+ → MnO2 + 2H2O(O2 + 4e- + 4H+ → 2H2O) ・・・・(1)
MnO2 + e- + H+ → MnOOH ・・・・(2)
MnOOH + e- + 3H+ → Mn2+ + 2H2O ・・・・(3)
NO3- + 2e- + 2H+ → NO2- + 2H2O ・・・・(4)
NO2-+ e- + 2H+ → NO + H2O ・・・・(5)
SeO42- + 6e- + 8H+ → Se + 4H2O ・・・・(6)
HSeO3- + 4e- + 5H+ → Se + 3H2O ・・・・(7)
AQDS(キノン類) + 2e- + 2H+ → AQDSH2 ・・・・(8)
CrO42- + 3e- + 5H+ → Cr(OH)3 + H2O ・・・・(9)
U(VI) + 2e- → U(IV) ・・・・(10)
Fe3+ + e- → Fe2+ ・・・・(11)
ニュートラルレッド(酸化体) → ニュートラルレッド(還元体)・・・・(12)
メチルビオロゲン(酸化体) → メチルビオロゲン(還元体)・・・・(13)
【0031】
本発明の水素製造方法は、水素発酵を利用した従来の水素製造方法のように水素生成菌に限ることなく、水素生成菌以外の様々な微生物を利用できるという利点がある。例えば、本発明では、電子伝達反応において上記反応を生じ得る酸素呼吸、マンガン還元菌、硝酸還元菌、亜硝酸還元菌、セレン酸還元菌、亜セレン酸還元菌、キノン還元菌、クロム還元菌、ウラン還元菌、鉄還元菌、ニュートラルレッド還元菌、メチルビオロゲン還元菌などを用いることができ、特に、本発明では、化学反応式(4)により電子受容体物質3を還元し得る能力を有する微生物、即ち、自然界に広く存在している、硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物を利用して水素を製造できるところに利点がある。硝酸呼吸能を有する微生物は、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アクアスピリラム(Aquaspirillum)属、アゾスピリラム(Azospirillum)属、バチルス(Bacillus)属、ブラストバクター(Blastobacter)属、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属、ブランハメラ(Branhamella)属、クロモバクテリウム(Chromobacterium)属、サイトファーガ(Cytophaga)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、フレキシバクター(Flexibacter)属、ハロバクテリウム(Halobacterium)属、ヒポミクロビウム(Hyphomicrobium)属、キンゲラ(Kingella)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、リソバクター(Lysobacter)属、ネイセイリア(Neisseiria)属、パラコッカス(Paracoccus)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ウォリネラ(Wolinella)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、チオバチルス(Thiobacillus)属、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属、チオミクロスピラ(Thiomicrospira)属、チオスフェラ(Thiosphera)属等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
そして、硝酸呼吸能を有する微生物の中でも特に、硝酸呼吸により培養液に亜硝酸イオンが蓄積されやすい微生物を培養対象とすることが好適である。亜硝酸イオンが蓄積されやすい微生物は、亜硝酸イオンの生物毒性によって、生育が阻害されやすく、培養し難い。しかしながら、本発明の水素製造方法では、硝酸呼吸により生じた亜硝酸イオンを酸化して硝酸イオンに再生するようにしていることから、亜硝酸イオンが蓄積されやすい微生物についても生育を促進して、水素製造を良好に行い得る。硝酸呼吸により培養液に亜硝酸イオンが蓄積されやすい微生物としては、大腸菌(Escherichia coli)、ブラディリゾビウム ジャポニカム(Bradyrhyzobium japonicum)、クレブシエラ プネウモニア(Klebsiella pneumonia)、エンテロバクター エアロゲネス(Enterobacter aerogenes)、チオバチルス チオパラス(Thiobacillus thioparus)、リゾバクター アンチビオティカム(Lysobacter antibioticum)等が挙げられ、特に大腸菌(Escherichia coli)が該当するが、これらに限られるものではない。
【0033】
培養液4には、微生物2の培養に必要な元素や栄養源を含むものを適宜用いればよい。例えば、微生物2として大腸菌を用いる場合には、乳酸ナトリウム、KHPO、NHCl、MgCl、カザミノ酸及び微量元素からなる溶液を培養液4として用いればよい。
【0034】
電解液4aには、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの電解質が添加された溶液等を用いればよい。また、培養液4には、通常電解質成分が含まれていることから、培養液4を電解液4aとして用いるようにしてもよい。
【0035】
有機物5は、微生物2への炭素源及び電子供与体として機能し得る物質、つまり微生物2に資化され得る物質であれば特に制限されるものではなく、例えば、バイオマスや有機性廃棄物、有機性廃水等も用いることが可能である。したがって、本発明によれば、このような廃棄物系の有機物を分解処理しながら、水素製造を行うことができるという利点がある。特に、大腸菌は、多様な有機物(炭素源)資化性を有していることから、バイオマスや有機性廃棄物、有機性廃水を分解処理し易く、入手も容易であり、本発明の水素製造方法の培養対象微生物に用いて好適である。
【0036】
イオン交換膜6は、培養液4に含まれる微生物2、電子受容体物質3、微生物2の電子伝達反応によって生じる電子受容体物質3の還元体、有機物5を対電極槽8に透過させることなく、培養液4中に留まらせ、且つ培養液4に含まれるイオンまたは電解液4aに含まれるイオンを透過させてイオン電流を生じさせ、作用電極9において生じる酸化反応を補完する還元反応を対電極10で生じさせるものである。これにより、微生物2の電子伝達反応によって生じた電子受容体物質3の還元体が長期に亘って安定に酸化される。イオン交換膜6としては、電子受容体物質3及びその還元体を透過させることのないものを用いる。
【0037】
ここで、電子受容体物質3としてプロトン(H)が酸化還元反応に関与する物質を用い、このような物質を電子受容体とできる微生物を用い、イオン交換膜6としてプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を用いることが好適である。この場合には、培養液4にて微生物2の電子伝達反応が進行することにより生じたプロトンを電解液4aに透過させて、対電極10で水素を製造するための基質(水素生成源)とすることができる。したがって、培養液4におけるプロトンの蓄積と、電解液4aにおけるプロトンの減少を抑えて、培養液4及び電解液4aのpHの変動を抑え、微生物の培養環境及び水素生成環境を長期に亘り安定に維持することができる。尚、プロトンが酸化還元反応に関与する電子受容体物質とは、酸化還元反応において直接プロトンが関与するもののみならず、間接的にプロトンが関与するもの(例えば有機物分解過程で発生したプロトンが全体反応として関与するもの)も含んでいる。具体的には、酸化還元反応において直接プロトンが関与する硝酸還元(A)、間接的にプロトンが関与する鉄還元(B)等が挙げられる。
(A)硝酸還元
C3H6O3+H2O→C2H4O2+CO2+4H++4e-
2NO3-+4H++4e-→2NO2-+2H2O
(全体)C3H6O3+2NO3-→C2H4O2+CO2+2NO2-+2H2O
(作用極での反応)NO2-+H2O →NO3-+2H++2e-
(B)鉄還元
C3H6O3+H2O → C2H4O2+CO2+4H++4e-
4Fe(III)+4e- → 4Fe(II)
(全体)C3H6O3+H2O+4Fe(III) → C2H4O2+Fe(II)CO2+4H+
【0038】
尚、イオン交換膜6を設けずとも、対電極10で電子受容体物質3の還元反応が生じない場合がある。例えば、電子受容体物質3を硝酸イオンとした場合、少なくとも−1.5V〜+1.5V(銀・塩化銀電極電位基準)の範囲では硝酸イオンが亜硝酸イオンに還元される反応は生じないことから、この範囲では、イオン交換膜6を設けずとも、対電極10での硝酸イオンの還元反応は生じない。このような場合には、対電極10における電子受容体物質3の還元反応を抑制する意味でのイオン交換膜6の設置は必須ではない。
【0039】
ここで、培養液4には、微生物2の呼吸などの電子伝達反応に関与することなく、電子受容体物質3の還元体よりも酸化されにくい酸化還元物質を添加するようにしてもよい。この場合、培養液4の溶液電位を制御し易くなる。但し、本発明の水素製造方法においては、作用電極9において電子受容体物質3の還元体を酸化できればよく、酸化還元物質の培養液4への添加は必須ではない。
【0040】
培養液4の電子受容体物質3の含有量は、微生物2の電子伝達反応の効率や菌体密度に応じてその最適な量が適宜変化するが、概ね1〜100mM、好適には10mM程度とすればよい。
【0041】
尚、培養液4に電子受容体物質3を含有させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、電子受容体物質3がイオンの場合には、その塩を培養液4に添加して溶解させればよい。また、電子受容体物質3の還元体を培養液4に溶解させ、作用電極に電位を印加してこれを酸化させることにより、培養液4に電子受容体物質3を含有させるようにしてもよい。具体的には、電子受容体物質3を硝酸イオンとする場合には、硝酸ナトリウム等の硝酸塩を培養液4に添加して溶解させてもよいし、培養液4に亜硝酸塩を添加して亜硝酸イオンを溶解させ、作用電極9に電位を印加して亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化させることにより培養液4に硝酸イオンを含有させるようにしてもよい。
【0042】
また、培養液4は、培養する微生物に適した雰囲気(好気性または嫌気性)に制御する。培養する微生物が偏性嫌気性微生物の場合には、培養液4に遊離酸素が溶け込んでいると微生物が失活する場合があるので、培養液4を窒素やアルゴン等の不活性ガスでパージして遊離酸素を追い出して嫌気性環境を形成してから、培養を行うことが好ましい。培養する微生物が通性嫌気性微生物の場合には、培養液4に溶け込んでいる遊離酸素を消費しながら呼吸を行い、遊離酸素濃度が低下するにつれて徐々に電子受容体物質3を利用した電子伝達反応が進行するようになるので、培養槽7を密閉して実質的に酸素の侵入を防ぐような構造とすれば、偏性嫌気性微生物の場合のように嫌気性環境を形成せずともよい。培養する微生物が好気性微生物の場合には、培養液4にエアレーション等を行い、遊離酸素を溶存させて遊離酸素を一定濃度以上に維持しながら培養を行うことが好ましい。近年では、好気環境下において硝酸呼吸を行う微生物も発見されており(Thiosphaera pantotropha LMD 92.63(FEMS microbiology ecology 18 (1995) 113-120、後に分類変更されてParacoccus pantotropha LMD 92.63に名前が変更)、Pseudomonas denitrificans LMD84.60、Alcaligenes faecalis LMD89.147等)、本発明では、このような微生物を利用して水素製造を行うことも可能である。
【0043】
本発明では、微生物2の電子伝達反応により生じた電子受容体物質3の還元体を作用電極9により酸化して再生し、電子受容体物質3を微生物2に供給し続けることができる。これにより、微生物2の生育が促進される。
【0044】
ここで、電子受容体物質3の還元体を酸化するための作用電極9の電位は、使用する電極の種類に応じて設定される。電子受容体物質3として硝酸イオンを用いた場合を例に挙げて具体的に説明すると、作用電極9を炭素板やグラッシーカーボン等の炭素電極とした場合には、作用電極9の電位を+0.9V以上とすれば微生物の硝酸呼吸により生じた亜硝酸イオンの酸化が起こる。作用電極9を白金電極とした場合には、電位を+0.8V以上とすれば亜硝酸イオンの酸化が起こる。したがって、使用する電極に応じて、電子受容体物質3の還元体を酸化するための電位を適宜設定すればよい。
【0045】
ここで、例えば亜硝酸イオンのように、微生物2の電子伝達反応によって生じる電子受容体物質3の還元体が毒性を呈する場合には、作用電極9の電位を高め、電子受容体物質3の還元体を酸化する速度を高めて電子受容体物質3の還元体の蓄積を防ぐことが好ましいが、作用電極9の電位を高め過ぎると、微生物によっては生育が阻害される場合がある。そこで、例えば以下の手順により作用電極9の好適電位を導き出すことができる。即ち、培養液4に作用電極9を接触させて、電子受容体物質3の還元体が酸化される範囲の各種電位で培養試験を行う。また、比較試験として、培養液4に作用電極9を接触させずに(電位を印加せずに)培養試験を行う。作用電極9の電位をある一定値に到達するまで高める程、微生物の対数増殖期が延び続けるが、作用電極9の電位がある一定値を超えると、微生物の対数増殖期が徐々に短くなり、最終的には培養液4に作用電極9を接触させずに培養試験を行った場合と同程度あるいはそれよりも短くなる。対数増殖期の長さが最大となる電位を適正電位と呼び、適正電位よりも高い電位で且つ対数増殖期が電位を印加していない場合と同程度となる電位を限界電位と呼ぶ。上記培養試験結果から、適正電位と限界電位を導き出すことができる。そして、作用電極9の電位は、電子受容体物質3の還元体が酸化される電位以上で尚且つ限界電位以下とすることが好ましく、電子受容体物質3の還元体が酸化される電位以上で尚且つ適正電位以下とすることがより好ましく、適正電位とすることが最も好ましい。
【0046】
作用電極9の電位を制御し始めるタイミングについては、電位を制御していない場合の対数増殖期中、好適には対数増殖期中期付近とすればよい。電位を与えるタイミングが早すぎると微生物の生育が阻害される虞がある。逆に電位を与えるタイミングが遅すぎると電子受容体物質3の還元体が毒性を有する場合には、これが蓄積して微生物の生育が阻害される虞がある。但し、微生物によっては、培養初期(培養開始時)から作用電極9の電位を制御しても生育が阻害されない場合もある。例えば、硫酸還元菌やメタン生成菌などの環境微生物、酵母、硝酸還元菌の中でもParacoccus pantotropha等については、培養初期から作用電極9の電位を制御しても生育が阻害されないことが本願発明者等の実験により確かめられている。このような微生物については、培養初期(培養開始時)から作用電極9の電位を制御しても問題は無い。尚、大腸菌については、作用電極9の電位を制御するタイミングは、培養開始から3時間経過後、好適には培養開始から3〜20時間の間、より好適には培養開始から3〜17.5時間の間とすれば、大腸菌の生育を十分に促進することができる。したがって、水素製造を行うための電位制御開始タイミングは、培養開始から3時間経過後のできるだけ早い段階とすることが好適である。これにより、大腸菌の生育促進を図りつつも、培養過程での水素回収を確実に行うことができる。
【0047】
このように、作用電極9の電位を制御して電子受容体物質3の還元体を酸化して再生しながら微生物2を培養することで、電位を印加しない場合よりも対数増殖期を大幅に延長させることができ、その結果として最終菌体密度が大幅に向上する。また、本願発明者等の実験によれば、培養期間中に大腸菌の細胞内ATP濃度の上昇が見られたことから、1菌体当たりの電子伝達反応(1菌体当たりの有機物からの電子回収速度)が促進される効果も期待される。
【0048】
そして、培養液4での微生物2の培養過程において、微生物2の電子伝達反応により有機物5から電子が回収され、この電子により電子受容体物質3が還元される。そして、作用電極9で電子受容体物質3の還元体が酸化されることによって、作用電極9から対電極10に向けて電子が流れる。つまり、有機物5から回収された電子が対電極10に流れ込み、これがプロトンと反応して水素を生成する。しかも、培養液4にて微生物2の生育が促進される結果として、菌体密度の向上効果と1菌体当たりの有機物からの電子回収効率(電子回収速度)の向上効果とが相俟って、電子伝達反応が起こりやすくなり、電子が対電極10に流れ込み易くなって、対電極10における水素生成速度が高まる。したがって、対電極10から発生するガスを回収することによって、水素を大量に含むガスを効率よく回収することができる。
【0049】
ここで、本発明の水素製造方法には、さらなる利点がある。即ち、微生物2が物質生産能を有する場合には、1菌密度当たりの物質生産能を向上させながら微生物2を培養することが本願発明者等の実験により確認されている。したがって、微生物2に物質を効率よく生産させながら、水素を製造することができる。尚、微生物に生産される物質には、微生物が直接生産する物質は勿論のこと、微生物の生産物が他の物質と化学反応した結果生じる物質、即ち微生物が間接的に生産する物質も含まれる。
【0050】
例えば、β−ガラクトシダーゼ生産能を発現させた遺伝子組換え大腸菌を培養対象微生物2とし、培養液4に有機物5としてラクトースを含む物質を添加して培養を行うことで、β−ガラクトシダーゼによりラクトースが分解されてグルコースとガラクトースが生成される。本発明によれば、培養過程において水素製造を行いながら、β−ガラクトシダーゼ生産能を発現させた遺伝子組換え大腸菌のβ−ガラクトシダーゼ活性を大幅に向上させて、β−ガラクトシダーゼの生産量を大幅に向上させることができる。換言すれば、対電極10(対電極槽側)では水素を製造しながら、培養液4(培養槽側)では水素とは別の有用物質の生産を行うことができ、2つの有用物を同時に生産できる極めて優れた微生物利用型の物質生産方法となる。
【0051】
また、その他にも、例えばヘミセルロースからバイオ燃料になる脂肪酸エステル類、脂肪アルコール(Nature 463, 7280 (Jan 2010))、エタノール、水素、生分解性プラスチックPHA、コハク酸、1,3-プロパンジオール、2,3-プロパンジオール、アスパラギン酸、アラニン、インターロイキン・インスリンなど医薬品、セルラーゼ・リパーゼ・キトサナーゼ・プロテアーゼなどのタンパク質などの生産を極めて効率よく実施し得る。
【0052】
本発明の水素製造方法は、例えば図2〜6、図40〜45に示す水素製造装置により実施される。以下、イオン交換膜6を設けた場合の実施形態として、第一の実施形態を図2〜図5に基づいて説明し、第二の実施形態を図6に基づいて説明する。また、イオン交換膜を設けない場合の実施形態として、第三の実施形態を図40〜図44に基づいて説明する。
【0053】
<第一の実施形態>
第一の実施形態にかかる水素製造方法は、微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9と参照電極11を接触させ、電解液4aに対電極10を接触させ、作用電極9と対電極10と参照電極11とを定電位設定装置12に結線し、培養液4と電解液4aをイオン交換膜6を介して接触させ、作用電極9の電位を3電極方式で制御して、微生物2の電子伝達反応により生じる電子受容体物質3の還元体を酸化させながら培養を行い、培養過程で有機物5を微生物2に分解させながら対電極10から発生する水素を回収するようにしている。
【0054】
第一の実施形態にかかる水素製造方法は、例えば図2〜図5に示す水素製造装置1により実施される。即ち、図2〜図5に示す水素製造装置1は、イオン交換膜6によって仕切られた二つの槽のうちの一方の槽を培養槽7とし、他方の槽を対電極槽8とし、培養槽7には電子受容体物質3を含む培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が浸され、対電極槽8には電解液4aが収容されると共に対電極10が浸され、作用電極9と対電極10と参照電極11は定電位設定装置12に結線され、定電位設定装置12により作用電極の電位を3電極方式で制御するようにしている。
【0055】
このように、3電極方式で作用電極9の電位を制御することで、作用電極9の電位を厳密に設定電位に制御することができる。詳細には、定電位設定装置(ポテンシオスタット)12により、作用電極9と参照電極11との間の電位差を測定し、この電位差が設定電位に達するように作用電極9と対電極10との間に電流を流し、基準となる参照電極11には一切電流が流れないようにしている。尚、3電極方式による電位制御については、例えば、電気化学測定法(上)、技報動出版株式会社、第1版15刷、2004年6月発行の6〜9ページにその詳細が記載されている。但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0056】
また、図2〜図5に示す水素製造装置1では、対電極槽8を密閉構造とし、対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留する水素を対電極槽8の外へ導く水素排出管17aを備え、この水素排出管17aをバルブ17bにより開閉可能とした水素回収手段17により、対電極10から発生した水素を回収するようにしている。但し、水素回収方法は、この方法には限定されない。例えば、水素回収手段17を備えることなく、対電極槽8の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺して、ヘッドスペースから水素を回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、水素の回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、対電極槽8から水素が漏れ出すことがない。対電極10から発生する水素をこのように回収することで、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素を漏れなく回収することができる。
【0057】
また、図2〜図5に示す水素製造装置1では、培養槽7を密閉構造とし、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留するガスを培養槽7の外へ導くガス排出管15aを備え、このガス排出管15aをバルブ15bにより開閉可能としたガス回収手段15により、培養槽7内のガスを回収するようにしているが、対電極槽8の場合と同様、ガス排出管15aのみでヘッドスペースに滞留するガスを培養槽7の外へ導くようにしてもよいし、培養槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺して、ヘッドスペースからガスを回収するようにしてもよい。このように構成することで、微生物2が揮発性物質やガスを生産する際にこれを漏れなく回収することができる。また、培養槽7を密閉構造とすることで、培養液4の嫌気性雰囲気を制御し易いという利点もある。
即ち、培養槽7を密閉構造とすることで、遊離酸素の進入が起こらないので、通性嫌気性微生物を培養対象微生物とした場合には、培養槽7に残存する遊離酸素が消費されれば、呼吸形態を完全に電子受容体物質3を利用した電子伝達反応へ移行させることができる。また、偏性嫌気性微生物を培養対象微生物とした場合にも、培養を開始する前に培養槽7の遊離酸素を実質的に無くせば、培養槽7への遊離酸素の進入が起こらないので、培養期間中は嫌気条件を維持し続けて電子受容体物質3を利用した電子伝達反応を行わせることができる。尚、培養槽7のこれらの構成は本発明における必須の構成ではなく、微生物2が揮発性物質やガスを生産しない場合や、培養液4の嫌気性雰囲気を維持する必要が無い場合(例えば好気性微生物を培養対象とする場合)、または別の方法で嫌気性雰囲気を維持する場合には、培養槽7を密閉せずに開放構造としてもよく、ガス回収手段15を備えずともよい。
【0058】
さらに、図2〜図5に示す水素製造装置1では、培養槽7内の培養液4の液面よりも下部に、培養槽7内の培養液4を培養槽7の外に導く培養液排出管16aを備え、この培養液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能とした培養液採取手段16により、培養槽7内から培養液4を採取するようにしている。但し、培養液4の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、培養液採取手段16を備えることなく、培養槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺して培養液4を採取するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端を培養液4に浸けて、管を介して培養液4を採取するようにしてもよい。このようにして培養液4を回収することで、微生物2が生産した物質を培養液4から回収することができる。尚、培養槽7のこの構成は本発明における必須の構成ではなく、微生物2が生産した物質を培養液4から回収する必要が無い場合には、培養液採取手段16を備えずともよい。
【0059】
また、ガス回収手段15や培養液採取手段16とは別に、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、培養槽7の外部から培養液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、培養液4に栄養源、中和剤、物質生産に必要な物質等を必要に応じて添加することができる。勿論、微生物2をこの導入管から供給することもできるし、有機物5を導入することもできる。また、嫌気条件とするためのガス(窒素ガス等)を供給することもできる。但し、培養液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、ガス回収手段15や培養液採取手段16を培養液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで培養液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。また、電解液4aに物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0060】
以下、図2に示す水素製造装置を用いた場合を第一の実施形態Aとして説明し、図3に示す水素製造装置を用いた場合を第一の実施形態Bとして説明し、図4に示す水素製造装置を用いた場合を第一の実施形態Cとして説明し、図5に示す水素製造装置を用いた場合を第一の実施形態Dとして説明する。
【0061】
(第一の実施形態A)
図2に示す水素製造装置1は、密閉構造の容器20を培養槽7とし、容器20に収容可能な密閉構造の小容器21を対電極槽8とし、小容器21は少なくとも一部にイオン交換膜6を備えると共に水素(対電極10から発生する水素)を容器20の外に排出する水素回収手段17を備えるものとしている。
【0062】
容器20に小容器21を収容することで、容器20に収容されている培養液4に小容器21が浸され、小容器21の少なくとも一部に備えられているイオン交換膜6は培養液4と接触する。換言すれば、培養液4はイオン交換膜6を介して電解液4aと接触する。
【0063】
培養槽7としての密閉構造の容器20は、対電極槽8としての密閉構造の小容器21を収容可能な大きさの容器であり、形状は特に限定されない。容器の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過性の膜材をヒートシール等により袋状に形成した容器を培養槽7として用いるようにしてもよい。
【0064】
対電極槽8としての密閉構造の小容器21は、培養槽7としての容器20に収容可能な大きさの容器であり、少なくとも一部にイオン交換膜6を備えるものとしている。ここで、小容器21はその全体をイオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいが、袋状の容器の片面だけをイオン交換膜6で構成したり、一つの面のさらに一部分をイオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的にイオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分は容器20と同様の上記材質で構成してもよいし、イオン交換膜6以外の膜材、例えばガス不透過性の膜材により構成し、小容器21からの水素(対電極10から発生する水素)が容器20の内部に漏洩しないようにしてもよい。
【0065】
対電極10としては、作用電極9における酸化反応を補完する還元反応が生じ得る材質の電極、例えば炭素電極、白金電極等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0066】
図2に示す水素製造装置1によれば、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素と、培養槽7のヘッドスペースに滞留するガスとを、独立して漏れなく回収することができる。
【0067】
ここで、第一の実施形態Aでは、小容器21を密閉構造とすることが好ましいが、小容器21は必ずしも密閉構造とせずともよい。即ち、小容器21の上部を開放して対電極10から発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させて滞留させると、小容器21を密閉構造とした場合と比較して微生物の生育が若干低下するものの、対電極10からは水素が大量に発生し、通電せずに培養した場合と比較して優れた生育促進効果を奏しうる。そして、この場合には、培養槽7のヘッドスペースからガスを回収することで、対電極10にて発生した水素に加え、微生物2が産生したガスを同時に回収できる利点がある。培養槽7を密閉構造として、ガス回収手段15または水素回収手段17からヘッドスペースのガスを回収することで、対電極10から発生した水素を漏れなく回収することができる。
【0068】
尚、対電極10から発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させて滞留させた場合の微生物の生育低下の要因としては、例えば対電極10から微生物の生育に悪影響を及ぼすガスが発生しており、このガスが培養液4に溶け込むこと等が推定される。したがって、対電極10から発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させる形態とした場合には、例えば培養槽7のヘッドスペースから吸引等により速やかにガスを回収・除去し続けることで、小容器21を密閉構造とした場合と同様の生育促進効果がもたらされ、その結果として水素が大量に発生する(水素生成速度の促進)効果も奏され得るものと考えられる。
【0069】
(第一の実施形態B)
図3に示す水素製造装置1は、上方が開放されている容器23をイオン交換膜6で仕切ることにより開放された二つの槽が形成され、培養槽7としての一方の槽の上方開放部がガス不透過膜またはガス不透過部材24により塞がれているものとしている。同様に、対電極槽8としての他方の槽の上方開放部もガス不透過膜またはガス不透過性部材24により塞がれているものとしている。そして、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素を回収するための水素回収手段17が備えられている。
【0070】
ガス不透過膜またはガス不透過部材24としては、各種分野で一般に用いられているものを適宜用いることができる。例えば、ガス不透過部材としては、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、ガス不透過膜としては、例えばイオン交換膜6を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0071】
図3に示す水素製造装置1によれば、図2に示す水素製造装置1と同様、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素と、培養槽7のヘッドスペースに滞留するガスとを独立して漏れなく回収することができる。
【0072】
ここで、図3に示す水素製造装置1において、対電極槽8から発生するガスを培養槽7に漏れ出さないようにする構成とすることが好ましいが、対電極槽8のヘッドスペースと培養槽7のヘッドスペースを連通させて対電極10から発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させるようにしても構わない。この場合にも、第一の実施形態Aにおいて説明した通り、本発明の効果は十分に得られる。また、この場合、培養槽7を密閉構造として、ガス回収手段15または水素回収手段17からヘッドスペースのガスを回収することで、対電極10から発生した水素を漏れなく回収することができる。
【0073】
尚、本実施形態において使用できる容器23の材質は、第一の実施形態Aと同様である。本実施形態において使用できる対電極10についても、第一の実施形態Aと同様である。
【0074】
(第一の実施形態C)
図4に示す水素製造装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、一方の容器25aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器25bも密閉して対電極槽8としている。この場合、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器25自体のU字型構造によって隔てて配置される。したがって、図2に示す水素製造装置1と同様、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素と、培養槽7のヘッドスペースに滞留するガスとを独立して漏れなく回収することができる。
【0075】
尚、本実施形態において使用できる容器25の材質は、第一の実施形態Aと同様である。本実施形態において使用できる対電極10についても、第一の実施形態Aと同様である。
【0076】
(第一の実施形態D)
図5に示す水素製造装置1は、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bがイオン交換膜6を介して開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器26bも密閉して対電極槽8としている。この場合にも、培養液4と電解液4aがイオン交換膜6を介して接触すると共に、培養槽7の培養液4の液面よりも上部の空間と対電極槽8の電解液4aの液面よりも上部の空間とが容器26自体のH字型構造によって隔てて配置される。たがって、図2に示す水素製造装置1と同様、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素と、培養槽7のヘッドスペースに滞留するガスとが混合されることなく、独立して漏れなく回収することができる。
【0077】
尚、本実施形態において使用できる容器26の材質は、第一の実施形態Aと同様である。本実施形態において使用できる対電極10についても、第一の実施形態Aと同様である。
【0078】
<第二の実施形態>
第二の実施形態にかかる水素製造方法は、微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9と参照電極11を接触させ、培養液4にイオン交換膜を介して対電極10を接触させ、作用電極9と対電極10と参照電極11とを定電位設定装置12に結線し、作用電極9の電位を3電極方式で制御して、微生物2の電子伝達反応により生じる電子受容体物質3の還元体を酸化させながら培養を行い、培養過程で有機物5を分解させながら対電極10から発生する水素を回収するようにしている。つまり、第一の実施形態における水素製造方法とは、電解液4aを用いることなく対電極10を直接イオン交換膜6に接触させている点が異なっている。しかしながら、第一の実施形態のように電解液4aを用いずとも、作用電極9と対電極10との間でイオン交換膜6を介してイオン電流は流れるので、第二の実施形態にかかる水素製造方法によれば、第一の実施形態と同様に作用電極9の電位を制御して、同様の効果を得ることが可能である。但し、第二の実施形態にかかる水素製造方法においては、水素生成源たるプロトンを培養液4から対電極10へ供給する必要がある。したがって、電子受容体物質3は酸化還元反応時にプロトンが関与する物質とし、イオン交換膜6もプロトンが透過可能な陽イオン交換膜とする必要がある。
【0079】
第二の実施形態にかかる水素製造方法は、例えば図6に示す水素製造装置により実施される。図6に示す水素製造装置1は、プロトンを透過可能な陽イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造の容器50内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器50の外側に対電極10が配置され、容器50に培養液4が収容されると共に作用電極9と参照電極11が培養液4に浸され、容器50の陽イオン交換膜6は容器50に培養液4が収容されたときに少なくともその一部が陽イオン交換膜6と接触しうる位置に備えられ、陽イオン交換膜6の培養液4の接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。図6に示す水素製造装置1では、容器50の培養液4の液面よりも下部に開口部5aが設けられ、開口部5aが陽イオン交換膜6で塞がれ、容器50の外側の陽イオン交換膜6の表面の少なくとも一部に対電極10が接触して配置されているものとしている。つまり、図6に示す水素製造装置1では、容器50全体が培養槽7として機能することとなる。また、図6に示す水素製造装置1では、対電極10から発生する水素を回収するため、対電極10の周囲を包囲して対電極10を密閉するガス不透過部材19aと、密閉された空間に滞留する水素を外側に排出する水素排出管19bと、水素排出管19bを開閉するためのバルブ19cとを備える水素回収手段19を備えるようにしているが、対電極10から発生する水素を回収する手段はこの構成に限定されるものではない
【0080】
したがって、図6に示す水素製造装置1によれば、対電極槽8のヘッドスペースに滞留する水素と、培養槽7のヘッドスペースに滞留するガスと、対電極10から発生する水素とが混合されることなく、独立して漏れなく回収することができる。また、容器50を密閉構造としているので、第一の実施形態と同様、容器50内を嫌気条件に制御し易い利点もある。
【0081】
尚、図6に示す水素製造装置1では、第一の実施形態と同様に、ガス回収手段15、培養液採取手段16を備えるようにしているが、上記の通り、ガス回収方法、培養液採取方法は、これらの手段を利用したものには限定されない。また、第一の実施形態と同様、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。
【0082】
以下、図6に示す水素製造装置1の詳細について説明する。但し、以下に説明する以外の構成については、第一の実施形態と実質的に同一であり、説明は省略する。
【0083】
容器50は、プロトンを透過可能な陽イオン交換膜6を少なくとも一部に備える密閉構造としている。容器50の材質としては、例えば、ガラス、プラスチック、絶縁処理を施した金属、コンクリート等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。尚、図6では、密閉構造の容器50の培養液4の液面よりも下部に設けられた開口部50aを陽イオン交換膜6により塞ぐようにしているが、容器50の形態や構造は特に限定されない。例えば容器50全体を陽イオン交換膜6で形成した袋状の容器としてもよいし、袋状の容器の片面だけを陽イオン交換膜6で構成してもよいし、一つの面のさらに一部分を陽イオン交換膜6のみで構成するようにしてもよい。部分的に陽イオン交換膜6を用いる場合には、その他の部分はガラス等の上記材質で構成してもよいし、陽イオン交換膜6以外の膜材、例えば培養液4と培養液4中の成分の双方を透過させることがない膜材により構成してもよい。要は、容器50に収容される培養液4が容器50の少なくとも一部を構成する陽イオン交換膜6と接触しうる構造の容器とすればよい。
【0084】
対電極10は、陽イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に接触させるようにしている。本実施形態において、対電極10は板状の炭素電極としているが、対電極10の形状と材質はこれに限定されるものではなく、要は、陽イオン交換膜6との接触が可能な形状であり、且つ作用電極9における酸化反応に対して電子の授受を補完する還元反応を進行させることが可能な材質、つまり、作用電極9において還元反応が生じる際に酸化反応を進行させることが可能な材質の電極とすればよい。また、本実施形態では、対電極10の面積を陽イオン交換膜6の面積よりも大きなものとして陽イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにし、陽イオン交換膜6と対電極10とを接触させるようにしているが、陽イオン交換膜6の培養液4との接触面とは反対側の面の少なくとも一部に対電極10を接触させれば、陽イオン交換膜6を介して培養液4から対電極10にプロトンが伝達するので、必ずしも陽イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うようにして陽イオン交換膜6と対電極10とを接触させずともよい。但し、陽イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆うことで、対電極10を陽イオン交換膜6の保護材としても機能させることができると共に、培養液4からのプロトンの伝達面が増大する結果として、培養液4の電位制御性を高めることができる利点があり、好適である。陽イオン交換膜6全体を対電極10で完全に覆う方法としては、例えば、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10を接着することにより、開口部50aを塞ぐ陽イオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよいし、容器50の開口部50aの周囲に接着剤を塗布して対電極10の表面の少なくとも一部に塗布形成された陽イオン交換膜6を接着することにより、開口部50aを陽イオン交換膜6で塞ぎつつ、開口部50aを塞ぐ陽イオン交換膜6全体と対電極10とを接触させるようにしてもよい。陽イオン交換膜6を塗布形成するための薬剤としては、例えばナフィオン分散液が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、対電極10の表面にナフィオン分散液を塗布し、ナフィオン分散液が乾燥する前に陽イオン交換膜6を貼り付けるようにしてもよい。この場合には、陽イオン交換膜6の対電極10の表面への接着性と接触性とを十分なものとすることができる。
【0085】
ここで、対電極10は多孔質体とすることが好適である。この場合には、陽イオン交換膜6と対電極10との接触面で発生した水素を接触面とは反対側の面に通過させやすくなる。尚、対電極10を多孔質体とし、ナフィオン分散液を用いて陽イオン交換膜6を貼り付けることで、ナフィオン分散液の多孔質体の孔への侵入により陽イオン交換膜6と対電極10との接触面積を増大させてプロトンから水素を生成する電気化学反応をより進行させやすくすることができ、好適である。
【0086】
また、培養槽7として機能する容器5は、第一の実施形態と同様、密閉構造とすること、及びガス回収手段15等を備えることが好ましいが、必ずしもこれらの構成を採らずともよい。
【0087】
<第三の実施形態>
第三の実施形態にかかる水素製造方法は、微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9と対電極10と参照電極11とを接触させ、作用電極9と対電極10と参照電極11とを定電位設定装置12に結線し、作用電極9の電位を3電極方式で制御して、微生物2の電子伝達反応により生じる電子受容体物質3の還元体を酸化させながら培養を行い、培養過程で有機物5を微生物2に分解させながら対電極10から発生する水素を回収するようにしている。つまり、第三の実施形態にかかる水素製造方法においては、イオン交換膜と電解液を用いることなく、培養液に全ての電極を接触させている点において第一の実施形態及び第二の実施形態と異なる。
【0088】
第三の実施形態のように、イオン交換膜6を設けない場合には、対電極10から発生するガスが培養槽7のヘッドスペースに滞留して微生物の生育が若干低下する虞があるものの、対電極10から極めて大量の水素が発生すると共に、通電しない場合と比較して優れた生育促進効果を奏しうる。
【0089】
また、本願発明者等の実験によると、イオン交換膜6を設けて且つ培養槽7のヘッドスペースに対電極10にて発生したガスが移行する形態とした上記第一の実施形態Aの水素製造装置で試験を行った場合よりも、イオン交換膜6を設けずに試験を行った場合の方が微生物の生育が促進されることが確認されている。このことから、イオン交換膜6を設けないことによって、作用電極9と対電極10との間の電流値が増大し、微生物の生育が促進されやすくなるものと考えられる。
【0090】
さらに、本願発明者等の実験によると、イオン交換膜6を設けて且つ培養槽7のヘッドスペースに対電極10にて発生したガスが移行する形態とした上記第一の実施形態Aの水素製造装置で試験を行った場合よりも、イオン交換膜6を設けずに試験を行った場合の方が対電極10からの水素発生量が顕著に増加すること、及び微生物の代謝産物の分解が促進されることが確認されている。このことから、イオン交換膜6を設けないことによって、作用電極9と対電極10との間の電流値が増大し、微生物が利用できる電子・炭素が増加するものと考えられる。
【0091】
また、イオン交換膜6を設けない場合には、水素製造装置の構成の簡素化を図ることができると共に、作用電極9と対電極10との間の極間電圧低下によるエネルギーロスの低減を図ることができる。
【0092】
このように、イオン交換膜6を設けずに本発明を実施することで、種々の恩恵が得られる。
【0093】
第三の実施形態にかかる水素製造方法は、例えば図40〜図44に示す水素製造装置1aにより実施される。即ち、図40〜図44に示す水素製造装置1aは、微生物2と微生物2の電子受容体として機能する電子受容体物質3と微生物2に資化され得る有機物5とを含む培養液4に作用電極9と対電極10と参照電極11とが浸され、作用電極9と対電極10と参照電極11は定電位設定装置12に結線され、定電位設定装置12により作用電極9の電位を3電極方式で制御するようにしている。但し、作用電極9と対電極10の極間電圧のみで作用電極9の電位を制御できる場合には、3電極方式とせずともよい。
【0094】
ここで、第三の実施形態のように、イオン交換膜6を設けない場合、水素製造中に対電極10へのプロトンの移行が活発に起こる結果として、対電極10を腐食させてその機能を失わせる虞がある。したがって、第三の実施形態においては、対電極10として、作用電極9における酸化反応を補完する還元反応が生じ得る材質で尚かつ耐酸性の電極を用いることが好ましい。例示すると、白金電極等が挙げられるが、これに限定されるものではなく、例えばガラス電極やステンレス電極等を用いてもよい。作用電極9については、第一の実施形態及び第二の実施形態と同様、例えばグラッシーカーボン等の炭素電極や白金電極等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
また、図40〜図44に示す水素製造装置1aでは、第一の実施形態及び第二の実施形態と同様、対電極10から発生する水素を回収するための水素回収手段17が備えられている。また、微生物が産生するガスを回収するためのガス回収手段15が備えられている場合もある。但し、第一の実施形態及び第二の実施形態と同様、水素回収手段17とガス回収手段15とを備えることなく、注射器等によって水素やガスを回収するようにしてもよい。
【0096】
さらに、図40〜図44に示す水素製造装置1aでは、培養槽7内の培養液4の液面よりも下部に、培養槽7内の培養液4を培養槽7の外に導く培養液排出管16aを備え、この培養液排出管16aをバルブ16bにより開閉可能とした培養液採取手段16により、培養槽7内から培養液4を採取するようにしている。但し、培養液4の採取方法は、この方法に限定されるものではない。例えば、培養液採取手段16を備えることなく、培養槽7に開口部を設けて合成ゴム等の弾性材料で塞ぎ、注射器の注射針を刺して培養液4を採取するようにしてもよい。または両端が開口された管の一端の注射器に接続し、他端を培養液4に浸けて、管を介して培養液4を採取するようにしてもよい。
【0097】
尚、ガス回収手段15や培養液採取手段16、水素回収手段17とは別に、培養液4に物質を添加・供給する手段を設けるようにしてもよい。具体的には、培養槽7の外部から培養液4に物質を添加・供給することのできる開閉可能な物質導入管を備えるようにしてもよい。この場合には、培養液4に栄養源、中和剤、物質生産に必要な物質等を必要に応じて添加することができる。勿論、微生物2をこの導入管から供給することもできる。また、嫌気条件とするためのガス(窒素ガス等)を供給することもできる。但し、培養液4に物質を添加・供給する手段は必ずしも備える必要はなく、ガス回収手段15や培養液採取手段16、水素回収手段17を培養液4に物質を添加・供給する手段として併用するようにしてもよい。また、上記のように注射器の注射針を弾性材料に差し込んで培養液4に物質を添加・供給するようにしてもよい。
【0098】
以下、図40に示す水素製造装置を用いた場合について第三の実施形態Aとして説明し、図41に示す水素製造装置を用いた場合について第三の実施形態Bとして説明し、図42に示す水素製造装置を用いた場合について第三の実施形態Cとして説明し、図43に示す水素製造装置を用いた場合について第三の実施形態Dとして説明し、図44に示す水素製造装置を用いた場合について第三の実施形態Eとして説明する。
【0099】
(第三の実施形態A)
図40に示す水素製造装置1aは、密閉構造の容器20を培養槽7とし、培養槽7に収容された培養液4に作用電極9と対電極10と参照電極11とが浸され、作用電極9と対電極10と参照電極11とが定電位設定装置12に結線されている。つまり、第三の実施形態Aは、第一の実施形態Aから小容器21(イオン交換膜6)、ガス排出管22及びガス回収手段15を削除したこと以外は、実質的には第一の実施形態Aと同様の構成を有している。したがって、図40に示す水素製造装置1aにより本発明を実施することで、イオン交換膜6を設けない場合の上記効果が奏される。
【0100】
図40に示す水素製造装置1aでは、対電極10から発生し、培養槽7内の培養液4の液面よりも上部の空間(ヘッドスペース)に滞留する水素を培養槽7の外(水素製造装置1aの外)へ導く水素排出管17aを備え、この水素排出管17aをバルブ17bにより開閉可能とした水素回収手段17により、水素を回収するようにしている。但し、水素回収方法は、この方法に限定されない。例えば、水素回収手段17を備えることなく、培養槽7の上部に開口部を設けて合成ゴム等(例えばシリコーンゴム)の弾性材料でこの開口部を塞ぎ、開口部を塞ぐ弾性材料に注射器の注射針を刺してヘッドスペースからガスを回収するようにしてもよい。合成ゴム等の弾性材料は、注射針を引き抜くと孔が塞がる。したがって、水素の回収を行わないときには、注射針を引き抜いておいても、培養槽7から水素が漏れ出すことがない。
【0101】
また、培養液4中の微生物2がガスを産生する場合には、このガスと対電極10から発生する水素を同時に回収することができる。つまり、第三の実施形態Aにおいては、水素回収手段17が第一の実施形態におけるガス回収手段15としても機能し得ることになる。
【0102】
尚、培養槽7のヘッドスペースから吸引等により速やかにガスを回収・除去し続けて、対電極10から発生するガスの培養液4への溶け込みを防ぐことで、より優れた生育促進効果がもたらされ、、その結果として水素が大量に発生する(水素生成速度の促進)効果も奏され得るものと考えられる。
【0103】
(第三の実施形態B)
図41に示す水素製造装置1aは、容器5内に作用電極9と参照電極11が配置され、容器5内に培養液4を収容し、容器5の培養液4の液面よりも下部に穴を設けておき、この穴を対電極10で塞いで、容器5を密閉構造としている。そして、作用電極9と対電極10と参照電極11とが定電位設定装置12に結線されている。つまり、第三の実施形態Bは、第二の実施形態からイオン交換膜6を削除したこと、及び対電極10を包囲して対電極10から発生する水素を滞留させるための密閉空間を削除したこと以外は、実質的には第二の実施形態と同様の構成を有している。したがって、図41に示す水素製造装置1aにより微生物を培養することで、イオン交換膜6を設けない場合の上記効果が奏される。
【0104】
また、第三の実施形態Aと同様、水素回収手段17等により対電極10から大量に発生する水素を回収することができる。したがって、第二の実施形態のように、対電極10を包囲して対電極10から発生する水素を滞留させるための密閉空間を容器5の外側に設ける必要がない。そして、第三の実施形態Aと同様に、培養液4中の微生物2がガスを産生する場合には、このガスと対電極10から発生する水素を同時に回収することができ、水素回収手段17が第一の実施形態におけるガス回収手段15としても機能し得る。
【0105】
尚、第三の実施形態Aと同様、培養槽7のヘッドスペースから吸引等により速やかにガスを回収・除去し続けて、対電極10から発生するガスの培養液4への溶け込みを防ぐことで、より優れた生育促進効果がもたらされ、、その結果として水素が大量に発生する(水素生成速度の促進)効果も奏され得るものと考えられる。
【0106】
(第三の実施形態C)
図42に示す水素製造装置1aは、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器25aと25bが開口部で連結されてU字型の容器25が形成され、容器25内に培養液4を収容し、容器25a側を培養槽7とし、容器25b側を対電極槽としている。つまり、第三の実施形態Cは、第一の実施形態Cからイオン交換膜6を削除したこと以外は、実質的には第一の実施形態Cと同様の形態を有している。したがって、図42に示す水素製造装置1aにより本発明を実施することで、イオン交換膜6を設けない場合の上記効果が奏される。尚、この構成を採用する場合には、容器25bのヘッドスペースから容器25aのヘッドスペースへのガスの移行は起こらないので、このことに起因する微生物の生育低下を抑制することができるという効果も期待できる。
【0107】
尚、容器25a側のヘッドスペース部は、第一の実施形態Cと同様、密閉構造とすること、及びガス回収手段15等を備えることが好ましいが、必ずしもこれらの構成を採らずともよい。また、容器25は、容器25aと容器25bを連結したものには限定されず、一体成形されたものを用いても構わない。
【0108】
(第三の実施形態D)
図43に示す水素製造装置1aは、収容される液体の液面よりも下部に開口部を備える二つの容器26aと26bが開口部で連結されてH字型の容器26が形成され、一方の容器26aを密閉構造として培養槽7とし、他方の容器26bを開放して対電極槽8としている。つまり、第三の実施形態Dは、第一の実施形態Dからイオン交換膜6を削除したこと以外は、実質的には第一の実施形態Dと同様の形態を有している。したがって、図42に示す水素製造装置1aにより本発明を実施することで、イオン交換膜6を設けない場合の上記効果が奏される。尚、この構成を採用する場合には、容器26bのヘッドスペースから容器26aのヘッドスペースへのガスの移行は起こらないので、このことに起因する微生物の生育低下を抑制することができるという効果も期待できる。
【0109】
尚、容器26aは、第一の実施形態Dと同様、密閉構造とすること、及びガス回収手段15等を備えることが好ましいが、必ずしもこれらの構成を採らずともよい。また容器26は、容器26aと容器26bを連結したものには限定されず、一体成形されたものを用いても構わない。
【0110】
(第三の実施形態E)
図44に示す水素製造装置1aは、容器23に培養液4を収容し、培養液4に作用電極9と対電極10と参照電極11とを浸し、これらの電極を定電位設定装置12に結線し、容器23に収容された培養液4の液面よりも上部のヘッドスペースを二層に区画し、一方の区画23cに対電極10から発生する水素を滞留させ、もう一方の区画23dにこのガスが移行するのを抑制するようにしている。そして、ヘッドスペース23cに滞留する水素を回収するための水素回収手段17が設けられている。したがって、図44に示す水素製造装置1aにより微生物を培養することで、イオン交換膜6を設けない場合の上記効果が奏される。
【0111】
また、この場合、ヘッドスペース23cからヘッドスペース23dへのガスの移行は起こり難いので、このこと起因する微生物の生育低下を抑制することができるという効果が期待できる。
【0112】
また、第三の実施形態Eの構成とした場合には、第三の実施形態Cや第三の実施形態Dよりも作用電極9と対電極10を接近させやすいので、作用電極9と対電極10との間の極間電圧のさらなる低下や、電流値のさらなる増大が期待できる。
【0113】
尚、ヘッドスペース23dは、密閉構造とすること、及びガス回収手段15等を備えることが好ましいが、必ずしもこれらの構成を採らずともよい。
【0114】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0115】
例えば、図7に示すように、培養液4と電解質4aをイオン交換膜6ではなく、イオンや微生物を一切透過させることのない不透過部材40で隔て、あるいは培養槽7と対電極槽8を別の容器で形成し、塩橋41(寒天等にKCl等の飽和電解質溶液を入れたもの)を介して培養液4と電解質4aを接触(液絡)させるようにしてもよい。この場合にも、塩橋41によってイオン電流の流れまたは培養液4から電解液4aへのプロトンの移動が許容されると共に、電子受容体物質3やその還元体の対電極槽8への透過を防ぐことができるので、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0116】
また、培養槽7に光を照射し、有機物5と共に光を微生物2の電子供与体として利用することにより、電子伝達反応を促進させるようにしてもよい。この場合、有機物5だけでなく光からも電子を回収してこれを対電極10に流し、さらに効率よく水素を製造することができる。
【0117】
さらに、イオン交換膜6に代えて、透析膜を使用してもよい。透析膜を使用することで、透水性が確保されるので、イオン交換膜6を設けない場合と同様、作用電極9と対電極10との間の極間電圧の低下効果や、電流値の増大効果が奏される。しかも、透析膜はガスバリア性を有しているので、対電極10から発生したガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させることがなく、このことによる微生物の生育低下を抑制することもできる。
【実施例】
【0118】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0119】
尚、本実施例における電極電位は、全て銀・塩化銀電極電位を基準とするものである。
【0120】
(参考例1)
硝酸呼吸を利用した大腸菌の培養について検討した。
【0121】
100mL容のガラスバイアル瓶に以下の組成を有する培養液を30mL収容し、これに大腸菌(E.coli JM109)を初期菌体密度1.0×10cells/mLになるように添加した。
[培養液の組成(L−1)]
・乳酸ナトリウム: 4.72g
・KHPO: 4.2g
・NHCl: 0.6g
・MgCl・7HO: 0.08g
・カザミノ酸: 5.0g
・微量元素溶液: 1mL
[微量元素溶液の組成(L−1)]
・FeSO・7HO: 0.2g
・CuSO・5HO: 1.0g
・NaMoO・2HO: 0.034g
・CaCl・2HO: 0.015g
・NaSeO: 0.5g
【0122】
培養液と大腸菌を入れたガラスバイアル瓶を6個用意し、これを同数づつ2グループに分けた。
【0123】
一方のグループの培養液には、硝酸塩(NaNO3)を添加して硝酸イオン濃度を10mMとした。他方のグループの培養液には、硝酸塩(NaNO3)と亜硝酸塩(NaNO2)を添加して硝酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度を共に10mMとした。
【0124】
ガラスバイアル瓶に窒素ガスを充填して蓋を閉め、培養環境を嫌気条件とした。また、培養液のpHは7.0 、培養液温度は30℃として菌数の経時変化を吸光度(OD660)により測定した。
【0125】
結果を図8に示す。図8中、◆は培養液の硝酸イオン濃度が10mMの場合の増殖曲線を示し、■は培養液の硝酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度が共に10mMの場合の増殖曲線を示している。尚、図8中には、比較実験として硝酸イオンと亜硝酸イオンを添加せずに培養した場合の増殖曲線を▲にて示している。図8に示される通り、硝酸イオンを添加した場合と硝酸イオン及び亜硝酸イオンを添加した場合のいずれにおいても、培養開始から24時間が経過した後には、菌数の減少が見られた。この結果から、硝酸イオンが硝酸呼吸により還元されて亜硝酸イオンになると、大腸菌の生育が阻害されることが示唆された。また、培養液に亜硝酸イオンが含まれている場合には、亜硝酸イオンが含まれていない場合よりも生育速度が低下することが確認された。また、最終的に得られる菌体量も少なかった。
【0126】
以上の結果から、大腸菌の硝酸呼吸能を積極的に利用して培養を実施する場合には、大腸菌自信の硝酸呼吸に伴う亜硝酸イオンの蓄積が大腸菌の生育促進および嫌気プロセスの効率化を考える上で障害となり得ることがわかった。
【0127】
(実施例1)
硝酸呼吸によって生じた亜硝酸イオンを酸化させながら大腸菌を培養することで、大腸菌を生育促進し得るかどうか検討した。
【0128】
(1)実験装置
図9に示す水素製造装置を用いて実験を行った。培養槽7としての容器20は250mL容のガラスバイアル瓶(Duran製)とした。培養液4は容器20の八分目程度まで入れた。容器20には蓋30をした。蓋30の上面30aにはシリコーンゴム栓を設けて、配線や電極、管を通した際の容器20の密閉性を確保した。また、シリコーンゴム栓を設けることにより注射針の突き刺しを可能とし、且つ注射針の差し込みにより生じた孔が注射針を抜いた際に塞がるようにした。
【0129】
対電極槽8としての小容器21は、イオン交換膜6を成型して袋状(以下、袋21と呼ぶ)とした。実験で用いた小容器21の形態を図10に示す。具体的には、イオン交換膜(ナフィオンK、デュポン製)をヒートシーラーで熱圧着により加工して上部が開口した袋状の容器21とし、袋21の内部には電解液4aを収容すると共に対電極10を収容して電解液4aに浸した。そして、対電極10と定電位設定装置12を結線するための配線31をガス排出管22に通した。ガス排出管22は両端が開口されており、一端を小容器21の内部に、他端を容器20の外側に配置するようにして、小容器21内で発生するガスが容器20の外側に排出されるようにした。つまり、本実施例では、ガス排出管22を水素回収管17aとした。袋状の小容器21の上部の開口部は、シリコン接着剤32で塞いだ。
【0130】
小容器21と作用電極9とを培養液4に浸漬し、小容器21のガス排出管22と作用電極4の配線は蓋30に設けたシリコーンゴム栓に通して容器20の外側に引き出した。銀・塩化銀参照電極11(RE-1B, BAS株式会社)は容器20の外側からシリコーンゴム栓に通して差し込むことにより培養液4と接触させた。培養液採取管16は容器20の外側からシリコーンゴム栓に通して差し込むことによりその一端を培養液4と接触させた。作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。培養液採取管16の他端は注射器と接続して培養液4を採取可能とした。培養中は攪拌子34により培養液4を攪拌した。
【0131】
培養液4の組成は、以下の通りとした。
[培養液の組成(L−1)]
・乳酸ナトリウム: 4.72g
・KHPO: 4.2g
・NHCl: 0.6g
・MgCl・7HO: 0.08g
・カザミノ酸: 5.0g
・微量元素溶液: 1mL
[微量元素溶液の組成(L−1)]
・FeSO・7HO: 0.2g
・CuSO・5HO: 1.0g
・NaMoO・2HO: 0.034g
・CaCl・2HO: 0.015g
・NaSeO: 0.5g
【0132】
電解液4aは、NaCl溶液(0.58g/L)とした。
【0133】
(2)亜硝酸イオンの酸化還元特性
培養液4に亜硝酸イオンとしてNaNO2を0.85g/L添加し、作用電極9を炭素電極(BAS社製)とし、対電極10を白金棒電極(自作)として上記水素製造装置を用いてサイクリックボルタンメトリーにより酸化還元特性を測定した。結果を図11に示す。図11に示される結果から、亜硝酸イオンは、電気化学的に酸化されるが、還元されない性質を有することが明らかとなった。
【0134】
この結果について、作用電極9を白金電極(BAS株式会社製)に替えて再現性を確認した。結果を図12に示す。炭素電極を用いた図11の場合と同様、亜硝酸イオンは電気化学的に酸化されるが、還元されなかった。
【0135】
次に、培養液4に亜硝酸イオンとしてNaNO2を0.85g/L添加し、作用電極9と対電極10を炭素電極とした場合の作用電極9の電極電位に対する亜硝酸イオン濃度の経時変化と硝酸イオン濃度の経時変化について検討した。亜硝酸イオン濃度の経時変化を図13に示し、硝酸イオン濃度の経時変化を図14に示す。尚、亜硝酸イオン濃度と硝酸イオン濃度の測定はイオンクロマトグラフィー(ICS-1500、DIONEX製)により行った。この実験結果から、作用電極9の電極電位を+0.9V以上とすると、亜硝酸イオンが酸化され、これに伴い硝酸イオンが生成されることが明らかとなった。そして、電極電位を大きくするに伴い、亜硝酸イオン濃度をより速く低減でき、硝酸イオン濃度をより速く増加できることが明らかとなった。
【0136】
次に、作用電極9の電極電位に対する硝酸イオン濃度の経時変化について、作用電極9と対電極10を白金電極に替えて同様の実験を行った。亜硝酸イオン濃度の経時変化を図15に示し、硝酸イオン濃度の経時変化を図16に示す。作用電極9の電極電位を+0.8V以上とすることで亜硝酸イオンの酸化に伴う硝酸イオンの生成が見られた。また、作用電極9の電極電位を+0.9Vとした場合には+0.8Vの場合よりも硝酸イオンの生成量が低下したものの、+1.0V、+1.2Vと電極電位を上昇させるに従って、硝酸イオンの生成量が増加する傾向が見られた。
【0137】
(3)培養試験方法
培養液4には、硝酸イオン源として、硝酸ナトリウム(NaNO)を0.85g/L添加した。また、大腸菌(E.coli JM109)を初期菌体密度1.0×10cells/mLになるように添加した。
【0138】
培養槽7には窒素を充填して嫌気条件とし、温度(培養液温度)30℃、培養液のpHを7.0とした。そして、培養開始から17.5時間後、作用電極9(炭素電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+0.8V、+0.9V、+1.0Vに制御して培養試験を行った。また、比較試験として通電無し(作用電極への電位の印加を行わない)の場合の培養試験も実施した。培養期間中の菌数の経時変化を吸光度(OD660)により測定した。
【0139】
また、大腸菌の代謝への影響を調べるため、培養期間中の培養液4の乳酸イオン濃度、酢酸イオン濃度、ギ酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィー(ICS-2000、DIONEX製)にて測定した。
【0140】
(4)培養試験結果
各種電極電位における菌数の経時変化を図17に示す。+0.8Vでは通電無しの場合との差が見られなかったが、+0.9Vとすることで通電無しの場合と比較して対数増殖期が大幅に延長されて最終菌体密度が大幅に向上する効果が見られ、+1.0Vとすることでこの効果がより顕著に見られることが確認された。尚、作用電極9(炭素電極)の電位を銀・塩化銀電極電位基準で+1.2Vとした場合について別途実験を行った結果、通電無しの場合と比較して対数増殖期が大幅に延長されて最終菌体密度が大幅に向上する効果が見られたが、その効果は+1.0Vの場合ほどではなかった。
【0141】
次に、最終菌体密度が最も向上した+1.0Vの場合について、硝酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度の経時変化を測定した。結果を図18に示す。また、比較のために、通電無しの場合について、硝酸イオン濃度と亜硝酸イオン濃度の経時変化を測定した結果を図19に示す。図19に示されるように、通電無しの場合には、硝酸イオンが大腸菌の硝酸呼吸により消費されるのに伴い、亜硝酸イオンが徐々に蓄積していることが確認された。一方、電極電位を+1.0Vとした場合には、亜硝酸イオンが酸化されて硝酸イオンに再生されていることが確認された。尚、培養開始から48時間目あたりで見られた亜硝酸イオンの蓄積は、大腸菌の菌数の増加に伴って硝酸呼吸による硝酸イオン消費速度が作用電極9による亜硝酸イオン酸化速度を超えたために生じたものと考えられる。
【0142】
以上の結果から、大腸菌の硝酸呼吸能を積極的に利用して培養を行うためには、電極電位を+0.9V〜1.2Vに制御することが好ましいことが明らかとなった。また、上記(2)の実験結果から、炭素電極を用いた場合に亜硝酸イオンの酸化が生じる最小電位が+0.9Vであったことから、電極の電位を亜硝酸イオンの酸化が生じる電位以上に制御すれば、本発明の効果が得られることが明らかとなった。このことから、白金電極を用いた場合には、電極の電位を+0.8V以上に制御すれば、本発明の効果を得られるものと考えられた。
【0143】
また、上記(2)の実験結果から、電極電位を高めた方が亜硝酸イオンの酸化速度を高めることができることが確認されたが、培養試験においては、+1.0Vで最も優れた効果が得られた。このことから、+1.2Vでは、本発明の効果を得られる反面、電極電位自体によって微生物の生育が阻害されていることが示唆された。
【0144】
以上より、炭素電極を用いた場合、電極電位は+0.9V〜+1.2Vとすればよいが、+0.9V超〜+1.2V未満とすることが好ましく、+1.0V程度とすることがさらに好ましい。
【0145】
また、白金電極を用いた場合、電極電位は+0.8V〜+1.2Vとすればよいが、+0.8V超〜+1.2V未満とすることが好ましく、+0.9V〜+1.2V未満とすることがより好ましく、+1.0V程度とすることがさらに好ましい。
【0146】
つまり、大腸菌を培養対象微生物とした場合には、電極電位が+1.2Vを超えると限界電位(対数増殖期が電位を印加していない場合と同程度となる電位)を超える可能性があり、+1.0V付近に適正電位(対数増殖期の長さが最大となる電位)があるものと考えられる。
【0147】
次に、培養期間中の培養液4の乳酸イオン濃度の経時変化を図20に示し、酢酸イオン濃度の経時変化を図21に示し、ギ酸イオン濃度の経時変化を図22に示す。基質である乳酸イオンは大腸菌の増殖と相関した減少傾向を示し、+1.0Vを印加した条件において最も減少した。生育した菌体あたりの乳酸消費量は非通電時の値を1とした場合、電気培養時はそれぞれ1.58(+1.0V)、1.23(+0.9V)、1.3(+0.8V)という値を示し、菌体当たりの乳酸消費量が高い傾向を示した。顕著な生育促進効果の得られた+1.0Vでは菌当たりの乳酸の分解を活性化することができたと推定される。炭素源資化が活性化されたことから、細胞内では有機物分解処理能や物質生産に用いることができる炭素およびエネルギー量が向上していると考えられるため、生育促進だけでなく有機物分解処理能や細胞内物質生産においても電気培養によるプラスの効果が得られることがわかった。
【0148】
また、主要な代謝産物である酢酸イオンの蓄積も同様に+1.0Vを印加した条件において最大であった。乳酸イオンの減少量に対する酢酸イオンの蓄積量の比率としてはどの電位条件においても同程度(乳酸イオンの減少:酢酸イオンの蓄積 = 5:3) であったことから、+1.0V印加時の生育促進効果は通電による代謝経路の変化に起因するものではないと推定された。
【0149】
尚、培養終了時の培養液4のpHは通電の有無に関わらず6.0〜6.5の範囲に収まっていたことから、通電によるpHの変動によって大腸菌の生育が阻害されることはないことが明らかとなった。また、培養終了時に生育基質である乳酸イオンは培養液中に残存していたことから、本実験では、乳酸イオンの不足も起こっていないものと考えられる。但し、電解能力は電極の変更(素材、面積)によって向上できる可能性があり、電極の変更(素材、面積)により大腸菌の増殖をさらに促進できる可能性があるものと推定される。
【0150】
(5)培養期間中に発生したガスの組成分析
作用電極9と炭素電極とし、ナフィオンN117(デュポン製)により作製した袋状の小容器21の上部の開口部をシリコン接着剤32で塞ぐことなく開放しておき、また、ガス排出管22を備えずに対電極10から発生したガスが培養槽7のヘッドスペースに移行するようにして、上記と同様の培養試験を実施し、培養期間中に培養槽7から発生したガスと対電極槽8から発生したガスを容器20の上部に設置したフッ化ビニル樹脂製サンプリングバッグ(アズワン製、商品名:テドラーバッグ、1L)に回収し、回収したガスの量と組成を分析した。ガスの量は水上置換法により分析し、ガスの組成はガスクロマトグラフィー(VARIAN、CR4900)で分析した。また、比較試験として、通電を行わなかった場合と、大腸菌を入れずに通電を行った場合について、ガスの発生量と組成を分析した。
【0151】
結果を図23に示す。通電の有無で比較したところ、二酸化炭素の発生量は乳酸代謝の差に相応した差に留まっていた。尚、二酸化炭素は、大腸菌の乳酸代謝によって生じる副産物であることから、大腸菌が存在している培養液4から発生して培養槽7のヘッドスペースを経て回収されたものである。一方で、水素の発生量は+1.0Vの電位を印加しながら電気培養を行った場合では非通電時と比べ顕著な違いが見られ、非通電時の0.024mLに対して約6800倍の163.4mL±1.7mLに達していた。通電の有無による大腸菌の生育促進効果に対して水素発生量が顕著に多いこと、培養期間中に対電極からの活発なガス発生が目視にて確認されたことから、この水素発生は対電極における電極反応に依存しているものと考えられた。次に、実験的に水の電気分解の寄与を評価するために、大腸菌非存在下、同一条件で通電試験を行ったところ、水素発生量は2.3mL±0.95mLと電気培養の場合と比べて顕著に低いものであり、流れた電流値も小さかった(図25)。これに対し、大腸菌存在下で通電試験を行った場合には、流れた電流値が顕著に増加していた(図25)。よって培養過程における対電極10からの大量の水素発生には大腸菌が寄与しているものと考えられた。
【0152】
ここで、図24に本発明における水素生成機構の概念図を示す。
【0153】
大腸菌非存在下、両電極で起こりうる反応と標準電極電位(E vs SHE)は以下の通りである。
作用電極:O2 + 4H+ + 4e- = 2H2O、 E0= 1.229V ・・・・(a)
対電極 :2H+ + 2e- = H2、E0= 0.000V ・・・・(b)
【0154】
これに対し、大腸菌が存在する場合、培養槽にて乳酸分解と硝酸呼吸とが起こると共に、作用電極上での亜硝酸酸化反応が起こる。つまり、作用電極での反応が上記(a)から以下の(d)に変化する。
硝酸呼吸:C3H6O3 + 2NO3- → C2H4O2 + CO2 + 2NO2- + 2H2O ・・・・(c)
亜硝酸酸化反応:NO3- + 2H+ + 2e- = NO2- + H2O、E0= 0.835V ・・・・(d)
【0155】
亜硝酸の酸化にて得られた2Hは、陽イオン交換膜N117を透過して対極槽8に移行し、同じく亜硝酸の酸化により作用電極から対電極に流れ込んだ電子と対電極上で反応することにより、水素発生反応が起こる。
【0156】
ここで、対電極で起こる反応のE0は、大腸菌の有無によらず同一であるが、作用電極で起こる反応が大腸菌の硝酸呼吸によって変化するため、大腸菌存在下では非存在下と比べて水素発生に必要なΔEが小さくなる。さらに反応(d)に必要な亜硝酸は大腸菌の硝酸呼吸(c)により、常に供給されるため、水素生産に必要な電子を安定して対電極に送ることが可能である。また、本実施例で使用した対電極を陽イオン交換膜が取り囲んだ形状の装置を用いたことも、効率的なプロトン移動を促して、活発な水素生産に寄与したものと考えられる。以上の条件が組み合わさった結果、水の電気分解より少ないエネルギー(理論上76kJ少ない)を投入し、大腸菌の生育促進のために電気培養をおこなうことにより、乳酸から大腸菌が引き抜いた電子を水素として回収可能となったと言える。
【0157】
ここで、亜硝酸の酸化により得られた電気量は、培養期間中に流れた電流値(図25)から、2142Cと算出された。本実施例において乳酸の主要な代謝産物は酢酸であることから乳酸分解は4電子反応であり、電気培養(+1.0V)を行った場合の乳酸分解量は約30mMであったことから、大腸菌の乳酸代謝から得られる電気量は2316Cと算出された。よって、大腸菌が乳酸から引き抜いた電子のうち、硝酸還元及び亜硝酸酸化反応を経由し、作用電極から対電極に送られた電子の割合(Coulombic efficiency)は92.5%であると見積もられた。
【0158】
そして、作用電極にて回収された全ての電子が、回路内の抵抗による消費を無視し、仮に水素生成反応に用いられたとすると、上記(d)の反応は、2電子反応であることから、理論上は11.1mmol(248.6mL)の水素が生産される計算になる。これに対し、実際の水素生産量は163.4mLであったことから、流れた電流の65.7%、即ち、大腸菌が乳酸から引き抜いた電子の60.9%を水素として回収できることが明らかとなった。
【0159】
ここで、水素生産の側面から本実施例のエネルギー効率を計算したところ、投入電気エネルギーに対して得られた水素(燃焼熱量)としてのエネルギー回収効率は、(WH2/Win)=2084.9/5891.18×100=35.4%であった。
【0160】
尚、WH2は、水素の燃焼エネルギー(285.83kJ/mol)に実際の水素生産量163.4mLのモル数(7.29mmol)を掛けて算出した。また、Winは、図25に示す電流のグラフの積分値(2142A・sec)に図26に示す電圧(極間電位)のグラフの積分値(415848V・sec)を掛け、この値を培養期間(42×60×60sec)で割って、算出した。
【0161】
以上の結果から、大腸菌が硝酸呼吸において硝酸に捨てた電子(乳酸から回収した電子)と生育促進のための電気エネルギーの一部を対電極において水素(化学エネルギー)として回収することが可能であることが明らかとなった。
【0162】
(実施例2)
遺伝子組換え大腸菌を用いて、通電無しの場合と電極電位を+1.0Vとした場合について、実施例1の(1)と同様の実験装置を用いて、実施例1と同様の方法で培養試験を実施した。
【0163】
遺伝子組換え大腸菌には、図27に示すpUC18プラスミドを大腸菌(E.coli JM109)に導入してβ−ガラクトシダーゼ生産能を発現させた大腸菌であるE.coli JM109-pUC18を用いた。
【0164】
通電無しの場合と電極電位を+1.0Vとした場合について、培養液4に乳酸を添加して培養試験を実施し、培養期間中の菌数の経時変化を吸光度(OD660)により測定した。培養液より一部試料をサンプリングし、細胞内ATPの測定を行った。測定はルシフェール250プラス及びルミテスターC−100N(キッコーマン)を用い、キット付属のプロトコールに従い行った。また、培養液より一部試料をサンプリングし、細胞を溶解した試料を粗酵素溶液としてo-nitrophenyl-beta-D-galactopyranoside (ONPG) の分解に伴う吸光度変化および菌体濁度の測定値から菌体あたりの活性を算出し、β−ガラクトシダーゼ活性とした。尚、この実験では、pUC18にコードされているβ−ガラクトシダーゼ生産能の発現誘導剤として、通電開始と同時にイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、β−ガラクトシダーゼの大腸菌内での生産を始めさせた。
【0165】
菌数の経時変化を図28に示す。電極電位を+1.0Vとすることで、通電無しの場合よりも菌密度が約2.5倍に増加した。
【0166】
次に、細胞内ATPの定量を行った結果を図29に示す。生育と相関する形でATP濃度は増加し、非通電時と比較し+1.0Vの電位印加時ではATP量が約3倍増加することが確認できた。この結果から、ATP量の増加に伴う物質生産(遺伝子発現)の向上が期待された。
【0167】
β−ガラクトシダーゼ活性を図30に示す。電極電位を+1.0Vとすることで、通電無しの場合よりもβ−ガラクトシダーゼ活性が4.5倍に増加した。電極電位を+1.0Vとすることで、通電無しの場合よりも菌密度が約2.5倍に増加したことから、電極電位を+1.0Vとすることで、通電無しの場合よりも培養槽全体におけるβ−ガラクトシダーゼ活性を11.5倍に向上できることが明らかとなった。
【0168】
この結果から、物質生産能を持たせた遺伝子組換え大腸菌全般、さらには物質生産能を有する微生物全般について、本発明により硝酸呼吸能を積極的に利用して培養を行うことで、物質生産能を向上できることが明らかとなった。
【0169】
そして、この実験の際にも、対電極10からの水素の発生が確認できたことから、水素の製造を行いながらも、同時に培養槽7にて微生物に物質を生産させることが可能であることが明らかとなった。
【0170】
(実施例3)
袋状の小容器21の密閉性と大腸菌の生育の関係について検討した。
【0171】
<条件1>
実施例1の(1)の実験装置を用い、作用電極9と対電極10を共に炭素電極として、実施例1と同様の方法で大腸菌の培養試験を実施した。培養試験は、通電有り(+1.0V)と通電無しで実施した。
【0172】
<条件2>
実施例1の(5)の実験装置を用い、作用電極9と対電極10を共に炭素電極として、実施例1と同様の方法で大腸菌の培養試験を実施した。培養試験は、通電有り(+1.0V)と通電無しで実施した。
【0173】
<条件3>
実施例1の(5)の実験装置を用い、作用電極9と対電極10を共に炭素電極とし、サンプリングバッグをフッ化ビニル樹脂製からアルミニウム製(ジーエルサイエンス製、商品名:アルミニウムバッグ、1L)に変更して、実施例1と同様の方法で大腸菌の培養試験を実施した。培養試験は、通電有り(+1.0V)と通電無しで実施した。
【0174】
培養試験期間中の培養液4のOD660を測定し、菌体密度の経時変化を調査した結果を図36と図37に示す。図36が通電無しの結果であり、図37が通電有りの結果である。
【0175】
図36に示される通り、通電無しの場合には条件1〜3での生育の違いは見られなかったが、図37に示される通り、通電有りの場合には、条件1から3に向かうに従い、生育が低下する傾向が見られた。但し、図36と図37を比較すると、いずれの条件においても通電有りの方が最終菌体密度が高められており、いずれの条件においても通電による生育促進効果は確実に得られることが明らかとなった。つまり、袋上の小容器21を密閉構造とすることなく、対電極10にて発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させたとしても、本発明の効果は十分に奏されることが明らかとなった。つまり、微生物の生育を促進させることによって、有機物からの電子回収効率を高め、水素生成速度を向上させることが可能であることが明らかとなった。
【0176】
但し、本発明の効果をより顕著なものとする上では、袋状の小容器21を密閉構造として、対電極10にて発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させないようにすることが好ましいことが明らかとなった。
【0177】
また、図37に示されるように、条件2よりも条件3の方が生育が低下する傾向が見られたが、この現象は以下のように考察することができる。即ち、ガス回収に用いたサンプリングバッグが、条件2と条件3では異なり、条件3で使用したアルミニウム製サンプリングバッグの方が、条件2で使用したフッ化ビニル樹脂製サンプリングバッグよりも固く、膨らむためにより高い圧力を必要とすることであった。したがって、条件2よりも条件3の方が培養槽7のヘッドスペースに対電極10から発生したガスが滞留し易くなる状況にあり、例えば培養槽4にガスが溶け込む等の影響によって、大腸菌の生育を低下させたものと考えられた。このことから、対電極10にて発生するガスが培養槽7のヘッドスペースに移行するような形態とする場合には、培養槽7のヘッドスペースから速やかにガスを除くことが望ましいと考えられた。
【0178】
(実施例4)
1.実験条件
以下の4条件(A)〜(D)により培養試験を実施した。
【0179】
<条件(A):イオン交換膜有り、通電無し>
実施例3の条件3にて使用した実験装置と同様の装置を用い、通電を行うことなく培養試験を実施した。
【0180】
<条件(B):イオン交換膜有り、通電有り>
条件(A)について、作用電極9の電極電位を+1.0Vとして培養試験を実施した。作用電極9と対電極10は共に炭素電極(BAS社製)とした。
【0181】
<条件(C):イオン交換膜無し、通電有り、電極C/C>
袋状の小容器21とガス排出管22を備えずに、対電極10を直接培養液4に浸した以外は、条件(A)と同様の実験装置を用い、作用電極9の電極電位を+1.0Vとして培養試験を実施した。作用電極9と対電極10は共に炭素電極(BAS社製)とした。
【0182】
<条件(D):イオン交換膜無し、通電有り、電極C/Pt>
条件(C)について、対電極10を炭素電極から白金電極(BAS社製)に代えて培養試験を実施した。
【0183】
また、サンプリングバッグに回収されたガスは、ガスの量を水上置換法を用いて分析し、ガスの組成をガスクロマトグラフィー(VARIAN、CR4900)で分析して、これらの分析結果を基に、水素ガス量を計算した。
【0184】
さらに、条件(A)〜(D)において、大腸菌の代謝状況を確認するため、培養試験終了後の培養液4の乳酸濃度、酢酸濃度、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸濃度をイオンクロマトグラフィー(ICS-2000、DIONEX製)にて測定した。
【0185】
上記以外の培養条件は、実施例1と同様とした。
【0186】
2.実験結果
<菌体密度>
条件(A)、(B)、(D)について、菌体密度(OD660)の経時変化を図31に示す。図31に示される結果から、条件(A)と比較して、条件(B)及び(D)の方が対数増殖期が長期化して定常期の菌数が増加しその傾向は、条件(B)よりも条件(D)の方が顕著であった。
【0187】
ここで、条件(C)については、対電極10に用いた炭素電極が培養試験中に腐食して培養液4の色が黒色となり、菌数測定ができなかった。このことから、条件(C)においては、対電極10が電極として十分に機能しなくなっているものと考えられた。
【0188】
<極間電圧>
条件(B)〜(D)について、作用電極9と対電極10との間の極間電圧の経時変化を図32に示す。イオン交換膜6を設けていない条件(C)及び(D)において、イオン交換膜6を設けた条件(B)よりも、極間電圧が低下する傾向が見られた。このことから、イオン交換膜6を設けずに本発明を実施することで、極間電圧を低下させてエネルギーロスを低減する効果が奏されることが確認できた。
【0189】
<電流値>
条件(B)〜(D)について、作用電極9と対電極10との間の電流値の経時変化を図33に示す。条件(B)及び条件(D)において、培養対象微生物とした大腸菌の対数増殖期に対応する時期に電流値の大幅な増大が見られ、増殖の定常期に向かうにしたがって電流値が低下し、その後一定になる傾向が見られた。電流値の大きさは、イオン交換膜を設けていない条件(D)の方が大きかった。このことから、条件(B)及び(D)のいずれにおいても、微生物の増殖の過程で電子の授受が生じており、特にイオン交換膜を設けない場合において、電子の授受が活発に起こっていることが示唆された。尚、条件(C)においては、条件(B)及び(D)で見られた対数増殖期における電流値の増大が見られなかったことから、対電極10として使用した炭素電極が電極として十分に機能しなくなっていたものと考えられた。
【0190】
<水素量>
条件(A)〜(D)について、水素発生量を図34に示す。尚、条件(C)については、上記の通り、対電極10の炭素電極が腐食して電極として機能していなかったものと考えられることから、条件(C)の実験結果は除外して検討を行った。図34に示される結果から、通電を行うことで、水素が大量に発生し、イオン交換膜6を設けずに培養を行うことで、水素発生量が顕著に増加することが明らかとなった。
【0191】
<乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸>
条件(A)、(B)、(D)について、培養試験終了後の培養液4の乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、ピルビン酸濃度を図35に示す。図35では、各有機酸毎に左から条件(A)、(B)及び(D)の順でグラフを並べている。尚、炭素源として初期投入した培養液4の乳酸濃度は20mMである。図35に示される結果から、イオン交換膜6を設けた場合には、プロピオン酸とギ酸を蓄積させずに培養できることが確認され、イオン交換膜6を設けずに培養を行った場合には、プロピオン酸とギ酸に加えて、酢酸とピルビン酸についても蓄積させずに培養できることが確認された。
【0192】
このことから、イオン交換膜6を設けずに培養を行うことによって、有機酸を蓄積させることなく、有機物を最終生成物(CO等)に分解させることができ、微生物に炭素源としての有機物を極めて効率よく利用させて培養を行うことができることが明らかとなった。つまり、イオン交換膜6を設けずに培養を行うことで、微生物の代謝産物の分解が促進され、微生物が利用できる炭素や電子が増加し、その結果として微生物の生育促進効果、対電極10における水素発生量の増加効果が奏されているものと考えられた。
【0193】
尚、イオン交換膜6を設けずに培養を行う場合、培養槽7のヘッドスペースに対電極10において発生するガスが必ず移行することになり、また対電極10において発生するガスが培養系4に直接溶け込むことから、これらの影響による生育低下が懸念されたが、本実験結果によれば、実施例3の条件1(袋状の小容器21を密閉構造として、対電極10にて発生するガスを培養槽7のヘッドスペースに移行させないようにした形態)とほぼ同等の生育促進効果が得られることが確認できた。しかも、イオン交換膜6を設けずに本発明を実施する場合には、装置構成の簡素化を図ることができ、極間電圧の低下によるエネルギーロスの低減を図ることができ、対電極からの水素発生量も顕著に増加させることができ、しかも代謝産物の分解を促進して炭素(栄養)源としての有機物を極めて効率よく利用できることから、本発明を実施する上で極めて有利な形態であることが明らかとなった。
【0194】
(実施例5)
実施例4の条件(A)、(B)及び(D)について、大腸菌の炭素源(栄養源)を乳酸からグルコースに代えて、同様の培養試験を実施した。
【0195】
結果を図38に示す。条件(D)について、条件(A)及び(B)よりも優れた生育促進効果が奏されることが確認された。
【0196】
また、図39に示されるように、条件(D)について、条件(A)及び(B)よりも大腸菌によるグルコース消費が促進されていることが確認できた。
【0197】
さらに、図45に示されるように、条件(A)については水素の発生が殆ど見られなかったのに対し、条件(B)及び(D)では共に水素の発生が見られた。また、水素発生量は、条件(B)よりも条件(D)の方が多く、イオン交換膜を設けないことによる水素生成量の増大効果がこの実験からも確かめられた。
【0198】
以上の結果から、本発明による水素生成がグルコースを用いた場合にも生じることが明らかとなった。このことから、本発明により、有機物を幅広く利用して水素製造を行うことが可能であり、その効果は特にイオン交換膜を設けない場合に顕著なものとできることも明らかとなった。
【0199】
また、以上の結果から、イオン交換膜6を設けずに本発明を実施することで、炭素源を乳酸とした場合のみならず、グルコースとした場合についても、生育促進効果が奏されることが明らかとなった。
【0200】
尚、生育に関する結果は、例えばグルコースの代謝産物である酢酸の分解が、乳酸を炭素源とした実施例4の場合と同様に、イオン交換膜6を設けない場合に促進されることや、乳酸を炭素源とするよりもグルコースを炭素源とした方が分解に伴ってpHが低下し易くなるが、イオン交換膜6を設けないことで、対電極10でのプロトンの還元反応が速やかに起こり、培養環境のpHの低下が抑制された状況になることによるものと推定される。
【符号の説明】
【0201】
1 水素製造装置
2 微生物
3 電子受容体物質
4 培養液
4a 電解液
5 有機物
6 イオン交換膜
7 培養槽
8 対電極槽
9 作用電極
10 対電極
12 定電位設定装置
17、19 水素回収手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物と前記微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と前記微生物に資化され得る有機物とを含む培養液に作用電極及び対電極を接触させ、前記作用電極と前記対電極との間に電位差を与えて前記微生物の電子伝達反応により生じた前記電子受容体物質の還元体を前記作用電極にて酸化させながら前記微生物を培養し、培養過程で前記微生物に前記有機物を分解させながら前記対電極から発生する水素を回収することを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
イオン交換膜を介して前記培養液と接触させた電解液に前記対電極を接触させる請求項1に記載の水素製造方法。
【請求項3】
前記電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質を用い、前記イオン交換膜としてプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を用いる請求項1または2に記載の水素製造方法。
【請求項4】
前記電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質を用い、前記電解液を用いることなく、前記培養液と前記対電極とをプロトンを透過可能な陽イオン交換膜を介して接触させる請求項2に記載の水素製造方法。
【請求項5】
前記微生物として硝酸イオンを最終電子受容体として硝酸呼吸を行うことにより亜硝酸イオンを生成する硝酸呼吸能を有する微生物を用い、前記電子受容体物質として硝酸イオンを用いる請求項1に記載の水素製造方法。
【請求項6】
前記微生物として大腸菌(Escherichia coli)を用いる請求項2に記載の水素製造方法。
【請求項7】
前記微生物として遺伝子組換え大腸菌を用いる請求項2に記載の水素製造方法。
【請求項8】
密閉構造の容器と、前記容器に収容され、微生物と前記微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と前記微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、前記培養液に浸された作用電極及び対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記容器の前記培養液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、前記微生物の電子伝達反応により生じた前記電子受容体物質の還元体が前記定電位設定装置により前記作用電極と前記対電極との間に電位差が与えられることによって前記作用電極にて酸化されながら前記微生物が培養される一方で、前記対電極から発生する前記水素が前記水素回収手段により回収されるものとしたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項9】
イオン交換膜によって仕切られた培養槽及び密閉構造の水素製造槽を備える容器と、前記培養槽に収容された微生物と前記微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と前記微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、前記水素製造槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記水素製造槽の前記電解液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、前記微生物の電子伝達反応により生じた前記電子受容体物質の還元体が前記定電位設定装置により前記作用電極と前記対電極との間に電位差が与えられることによって前記作用電極にて酸化されながら前記微生物が培養される一方で、前記水素製造槽の対電極から発生する水素が前記水素回収手段により回収されるものとしたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項10】
培養槽としての容器と、前記容器に収容可能な水素製造槽としての密閉構造の小容器と、前記培養槽に収容された微生物と前記微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と前記微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、前記水素製造槽に収容された電解液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記電解液に浸された対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記水素製造槽の前記電解液の液面よりも上の空間に滞留する水素を回収する水素回収手段とを有し、前記小容器は前記培養液と接触し得る位置の少なくとも一部に前記イオン交換膜を備えるものとし、前記微生物の電子伝達反応により生じた前記電子受容体物質の還元体が前記定電位設定装置により前記作用電極と前記対電極との間に電位差が与えられることによって前記作用電極にて酸化されながら前記微生物が培養される一方で、前記水素製造槽の対電極から発生する水素が前記水素回収手段により回収されるものとしたことを特徴とする水素製造装置。
【請求項11】
イオン交換膜を少なくとも一部に備える容器と、前記容器に収容された微生物と前記微生物の電子受容体として機能する電子受容体物質と前記微生物に資化され得る有機物とを含む培養液と、前記培養液に浸された作用電極と、前記イオン交換膜の前記容器の外側の面の少なくとも一部に接触している対電極と、前記作用電極と前記対電極とが結線された定電位設定装置と、前記対電極から発生する水素を回収する水素回収手段とを有し、前記イオン交換膜は前記容器の前記培養液と接触し得る位置に備えられ、前記イオン交換膜としてプロトンを透過可能な陽イオン交換膜が用いられ、前記電子受容体物質としてプロトンが酸化還元反応に関与する物質が用いられ、前記微生物の電子伝達反応により生じた前記電子受容体物質の還元体が前記定電位設定装置により前記作用電極と前記対電極との間に電位差が与えられることによって前記作用電極にて酸化されながら前記微生物が培養される一方で、前記水素製造槽の対電極から発生する水素が前記水素回収手段により回収されるものとしたことを特徴とする水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図34】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図24】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図45】
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【公開番号】特開2012−39998(P2012−39998A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44388(P2011−44388)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月 財団法人電力中央研究所発行の「電力中央研究所報告 電気を用いた革新的微生物変換技術の開発(その1)−物質生産に向けた大腸菌の電気培養− 研究報告:V09026」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】