説明

微生物分離装置

【課題】 検出対象とする微生物を、微小領域に選択的に捕捉、分離、回収を行う微生物分離装置を提供する。
【解決手段】 試料水中に含まれる特定の微生物を捕捉し、分離、回収するに当たり、基板1a上に試料水の流路2が形成され、この流路の途中に分離対象微生物をその形状的特徴により捕捉することが可能な複数の微生物捕捉穴4が配設されてなる捕捉部3を有するマイクロチップ1と、分離対象微生物を含む試料水をマイクロチップに流し込むための試料水供給手段10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水道の原水水質管理、浄水水質管理、その他水処理水質管理、環境水質管理、食品衛生管理、養殖施設管理等において、微生物を含む可能性のある試料水中から、特定の微生物を簡易な装置により選択的に捕捉し、分離、回収するための微生物分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水道の浄水水質の検査、環境水の富栄養化度の検査、食品や製品の検査、食品加工施設の工程管理、養殖漁業施設の水質検査等において、微生物の検出が行われている。特に、病原性微生物の処理水や製品を通じた拡散により、人の健康に重篤な影響を及ぼす可能性があり、対象となる病原性微生物の検出、もしくは、病原性微生物の発生の指標となる微生物の検出が求められている。障害の発生及び拡大を防止するため、できる限り迅速に微生物の検出を行う必要がある。
【0003】
しかしながら、従来の微生物の検出は、培養によって形成されたコロニーを観察する方法が中心であり、この方法は簡便に行えるという利点はあるけれども、結果が得られるまでに時間がかかり、さらに、操作に熟練を要するといった問題点があった。
【0004】
また、浄水場で問題になっているクリプトスポリジウムやジアルジアといった原虫類の場合には、上記のような培養による検出は不可能であり、現状の検出方法では前処理から検出を行うまでに、多くの煩雑な過程が必要で、その操作に熟練を要した。さらに、原虫類の場合は、少量であっても問題となる可能性があるため、希薄な大量の試料水中から、当該微生物のみを検出することが求められる。
【0005】
近年、遺伝子、DNA、免疫といった分子生物学的な手法を、これらの微生物の検知や同定に適用する方法が提案されている。これらの分子生物学的な手法では、対象微生物に固有の塩基配列や抗原を選択的に識別することが可能であり、特異的に対象微生物を検知することが可能である。
【0006】
しかし、これらの手法で使用するDNA断片や抗体等は対象とする微生物以外の微生物、もしくは、鉱物質の濁質等の夾雑物等に非特異的に吸着することがあり、誤認識の原因となる。実際には、微生物は純粋な状態で存在しているわけではなく、他の多くの微生物及び懸濁物質と共存しており、誤認識を完全に排除するのは困難である。
【0007】
また、一般的に生物のDNAによる検出を行う場合、細胞を破砕してDNAもしくはRNAを取り出し、場合によってはこれらをPCRもしくはRT-PCRにより増幅した上で、検出対象DNAと相補プローブとの結合を検知することにより、対象とする生物が存在することを確認する。しかし、この場合も擬陽性の可能性があるが、既に微生物の構造は破壊されており、形状因子、内部構造等の情報から検証することは不可能である。
【0008】
これらの状況に鑑み、中空糸膜を利用した分離、回収システム(例えば、特許文献1参照。)、固定化プレート上での抗体及びDNAによる二重標識検出法(例えば、特許文献2参照。)、水中の原中およびそのオーシストの検出方法(例えば、特許文献3参照。)が開示されている。これらの特許文献に記載された技術により、中空糸膜フィルタ等を用いた多段の分離処理工程及びそれに回収率を向上させる処理工程を付随させることにより、高効率かつ大量に連続的に対象微生物を回収でき、さらに、プレート上に固定化した微生物を抗体及びDNAにより二重に染色した上、細胞の形状的因子を判別因子に加えることにより、精度向上を図り、試料水中から特定の対象微生物のみを選択的に検出することが可能となる。
【特許文献1】特開平10−314552号公報
【特許文献2】特許第3127244号公報
【特許文献3】特開平11−193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、微生物を検出するために使用する固定化プレートとしては、ニトロセルロース製メンブレンフィルタ等のディスク状のフィルタを想定しており、検出部の面積が比較的大きくなることから、検出に画像処理を適用する上で、顕微鏡視野の移動のためのステージ走査機構、もしくは、励起レーザー光の走査機構が必要になり、装置の大型化、コストの高騰化、走査に要する時間による応答遅れが避けられないというような問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を解決するためになされたもので、検出対象とする微生物を、微小領域にて選択的に捕捉、分離、回収を行うことのできる微生物分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、試料水中に含まれる特定の微生物を捕捉し、分離、回収する微生物分離装置において、
基板上に試料水の流路が形成され、流路の途中に分離対象微生物をその形状的特徴により捕捉することが可能な複数の微生物捕捉穴が配設されてなる捕捉部を有するマイクロチップと、
分離対象微生物を含む試料水をマイクロチップに流し込むための試料水供給手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の微生物分離装置において、マイクロチップを通過した排水を回収し、試料水供給手段に戻す試料水循環手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の微生物分離装置において、マイクロチップに物理的洗浄手段を付設させたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、マイクロチップに洗浄液を流し込むための洗浄液供給手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、マイクロチップは基板の表面に被せる遮蔽板を含み、基板は導電性材料でなり、かつ、微生物捕捉穴以外の平板部分が絶縁層によって電気的に絶縁され、遮蔽板の捕捉部に対向する部位に、絶縁層を介して、電極が埋設され、この電極と基板との間に電圧を印加することによって試料水の流路に電界を発生させる電圧印加装置を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、マイクロチップは基板の表面に被せる遮蔽板を含み、基板は非導電性材料でなり、微生物捕捉穴の内部に第1電極が設けられ、遮蔽板の捕捉部に対向する部位に、絶縁層を介して、第2の電極が埋設され、第1及び第2の電極間に電圧を印加することによって試料水の流路に電界を発生させる電圧印加装置を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、微生物捕捉穴に固定化され、対象微生物を抗原として認識する抗体を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、微生物捕捉穴に向かう方向に試料水の流れを作るように、遮蔽板の流路面に突起を設けたことを特徴とする。
【0019】
請求項9に係る発明は、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、対象微生物を選択的に識別して吸着することのできる蛍光色素もしくは発光色素で標識した生物材料をマイクロチップに供給するための、染色用生物材料供給手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の微生物分離装置において、マイクロチップの基板が透明な材質で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記のように構成したことにより、検出対象とする微生物を、微小領域に選択的に捕捉、分離、回収を行う微生物分離装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図面に示す好適な実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1(a)及び(b)は本発明に係る微生物分離装置の第1実施例を構成するマイクロチップ1Aの平面図及び縦断面図である。このマイクロチップ1Aは、基板1aと、その表面に被せる遮蔽板1bとで構成されている。基板1aの表面には、試料水のフロー流路2と、その途中に分離対象微生物を捕捉する捕捉部3とを備えている。そして、フロー流路2の一端部、すなわち、図面の左側端部には遮蔽板1bを貫通する試料水供給口5が形成され、フロー流路2の他端部、すなわち、図面の右側端部には底方向に貫通する試料水排水口6が形成されている。
【0024】
捕捉部3はフロー流路2の長手方向中間部にて横方向に亀甲状に広がっており、その広がり部分には分離対象微生物をその形状的特徴により捕捉することが可能な複数の微生物捕捉穴4が配設されている。試料水は後述する外部の試料水供給手段により、試料水供給口5からフロー流路2に導入される。このための試料水供給手段として、チューブポンプもしくはプランジャポンプ等の微小流量を制御することが可能なマイクロポンプが好適である。特に、微生物を含む試料水には粒子状物質が含まれることから、濁質を送液するのに適した上記ポンプが望ましい。
【0025】
マイクロチップ1Aの材質としては、シリコン、金属、プラスチック、ガラス、セラミック等の使用が可能である。フロー流路2及び微生物捕捉穴4の加工については、フォトリソグラフィと化学的エッチング処理を組み合わせる方法や、レーザー加工、マイクロ機械加工等を利用する。
【0026】
図2(a)及び(b)はクリプトスポリジウムを選択的に捕捉することを目的としてデザインしたマイクロチップ1Aの捕捉部3を部分的に断裁して示した斜視図及び微生物捕捉穴4の形状を示す斜視図である。クリプトスポリジウムは直径5μmの球状をしており、これを捕捉するために開口部の直径が10μm、深さが10μmの円柱状の微生物捕捉穴4を50μm間隔で配置している。材質はシリコン基板を使用している。
【0027】
このマイクロチップ1Aの試料水供給口5を通して基板1a上に、クリプトスポリジウム(Cryptsporidium parvum)のオーシストを含む懸濁液20ml(1.0×10cells/ml)を滴下し、洗浄後、抗クリプト抗体によせる染色及びFISH法による染色を行った。その結果を図3(a)及び(b)に示す。
【0028】
抗体による染色については、FITC標識抗体を基板1a上に滴下し、37℃で1時間インキュベートを行った。FISH法による染色については、Cy3標識クリプトスポリジウム特異的プローブを用い、Hybridization buffer(0.9mol/l NaCl, 20 mmol/l Tris-HCl, 0.05%SDS, 2pmol/μl oligonucleotide probe, pH7.2)中で48℃1時間ハイブリダイゼーションを行った。規則的に配置された穴の存在位置で、両方の色素での発光が確認されることから、穴内に微生物が捕捉されていることがわかる。抗体については、クリプトスポリジウム以外の粒子への非特異吸着による発光が確認される。これに対してFISH法ではクリプトスポリジウム以外の発光は確認できない。このように、捕捉した粒子が対象微生物であるか否かを確認する手段として、抗体による染色もしくはFISH法による染色等、生物情報を利用した検出方法を適用することが有効である。さらに、2つの染色方法の結果を比較することは、誤認識を防止するのに有効な手段となる。
【0029】
図4(a)〜(d)は、マイクロチップ1Aの捕捉部3に配設する微生物捕捉穴4の変形例を示したものである。開口部が円の場合には円柱状の他、(a)に示す円錐状の微生物捕捉穴4a、(b)に示すすり鉢状の微生物捕捉穴4b等が適用できる。開口部が四角の場合には、(c)に示す直方体の微生物捕捉穴4c、(d)に示す四角錘の微生物捕捉穴4d等の形状が適用できる。
【0030】
図5は、図1及び図2に示したマイクロチップ1Aの端部を簡略化して示すと共に、試料水供給手段及びその循環機構を取り入れた微生物分離装置の系統図である。ここで、試料水は試料水供給ライン7を通じて、リザーバタンク9に導入される。このリザーバタンク9に所定量の試料水を導入した後、試料水供給弁8を閉じ、試料水供給ポンプ10によってマイクロチップ1Aの試料水供給口5に試料水を供給する。試料水は、捕捉部3を通過した後、試料水排水口6より排出される。この排出液を循環ポンプ12により、再度リザーバタンク9に戻し、マイクロチップ1Aに供給する。この循環工程においては、循環弁13を開の状態に、排水弁14を閉の状態にしておく。所定の時間循環を繰り返した後、循環弁13を閉じ、排水弁14を開き、液を排出する。この循環過程において微生物を含む粒子状物質はマイクロチップ1Aの捕捉部3を複数回通過することになり、捕捉率が向上する。
【0031】
試料水排水口6より液を排出した後、染色抗体供給手段15、もしくは染色DNAプローブ供給手段16から、捕捉部3に蛍光色素や発光色素により染色された抗体、もしくはDNAプローブを注入する。このとき使用する抗体は、対象微生物を抗原として作製した抗体が適用できるが、できればモノクローナル抗体であることが望ましい。また、DNAプローブは対象微生物に特異的な塩基配列と対合するようにデザインしたものを使用する。
【0032】
一定時間反応させた後、洗浄処理を行い、非特異的に吸着した抗体もしくはDNAプローブを除去した後、マイクロチップ1Aを観察する。このとき蛍光像もしくは発光像を確認することにより、対象微生物の有無を検出することができる。
【実施例2】
【0033】
図6は本発明に係る微生物分離装置の第2実施例の概略構成を示した系統図であり、図中、第1実施例を示す図5と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここでは、リザーバタンク9と試料水供給ポンプ10との接続経路に、洗浄液供給弁18を介して、洗浄液保存容器17が新たに接続され、さらに、捕捉部3が形成された基板1aの外底部に図示省略の超音波発振器によって駆動される超音波振動子19が装着されたマイクロチップ1Bを用いた点が図5と異なっている。
【0034】
この実施例においては、第1実施例と同様に、試料水の導入、循環、排出の工程を実行する。次に、洗浄液保存容器17から、試料水供給ポンプ10により、洗浄液をマイクロチップ1Bに供給する。ここで、洗浄液としては界面活性剤、アルコール、有機溶剤、酸、アルカリ等を使用する。界面活性剤の効果として、マイクロチップ1Bの表面と粒子との界面に、洗浄液が浸透し、表面と粒子との距離を離すことにより、表面から粒子が引き離されるのに必要なポテンシャルエネルギーを低減することがある。その結果、対象微生物は穴の内面との相互作用が大きいのに対し、それ以外の粒子の相互作用は小さいことから脱離しやすくなり、対象微生物のみが微生物捕捉穴に捕捉されることになる。
【0035】
粒子状物質が金属の酸化物である場合、酸による洗浄が有効である。これらの酸化物については、抗体、DNAプローブと非特異吸着を起こす場合があり、誤認識を防止するために、除去することが望ましい。この場合、対象とする酸化物を溶解可能な酸、例えば、酸化鉄を除去するために塩酸を用いることが有効である。その他、亜鉛やアルミニウム等の両性酸化物についてはアルカリ洗浄も適用可能である。ただし、言うまでもなく、洗浄液によりマイクロチップ1B及び対象微生物がダメージを受けないものを選定することが必要である。
【0036】
このとき、微生物捕捉穴4からの対象微生物以外の粒子状物質の脱離を促進するために、物理的洗浄手段を備えることが有効である。図6の例では、超音波振動子19をマイクロチップ1bの底部に装着しており、振動による機械的エネルギーを粒子状物質に与えることにより、脱離に必要なエネルギーを供給する。同様に、加熱によりエネルギーを供給することによっても、脱離を促進することが可能となる。ただし、過剰の振動や過熱によって対象微生物も脱離してしまう可能性もある。これを防止し、かつ他の粒子状物質を効果的に除去するために、最適な洗浄条件を設定する必要がある。
【0037】
上記の洗浄液による洗浄及び物理的洗浄手段はそれぞれ単独で使用しても良いし、両者を組み合わせて使用することも、効果的である。
【0038】
生物に対する選択性を向上させるのに、抗体を利用することは最も効果的な手法である。穴の内面に抗体を固定化しておくことにより、穴に到達した対象微生物を強固に捕捉することが可能となる。シリコン基板上への抗クリプトスポリジウム抗体の固定化については、下記に例示するプロセスで実現できる。
【0039】
すなわち、微生物捕捉穴4を作製したシリコン基板の穴部に10%KOH-エタノール溶液を滴下し30分放置して洗浄し、アルゴン(Ar)ガスで乾燥して、2%-MEPTES(3-mercaptopropyl triethoxysilane)トルエン溶液に60分浸漬する。その後、洗浄及びアルゴンガス乾燥をした後、1mM-GMBS(N-(γ-maleimidobutyryloxy)succinimide ester)エタノール溶液に30分浸漬する。さらに、洗浄後、0.5mg/ml-Strptavidinを滴下し、一晩インキュベートする。Blocking buffer(1%-BAS,0.01%-NaN3)に20分以上浸漬した後、Deposition buffer(10mM-PBS+10mM-NaCl+10mM-Sucrose,0.1%BSA)中に混合したBiotin標識抗クリプトスポリジウム抗体を穴部にスポッティングすることにより、穴内に抗クリプトスポリジウム抗体を導入する。
【0040】
抗体と生物との結合は強固であるため、抗体の固定部位は可能な限り微生物捕捉穴4内に限定することが望ましい。しかし、微生物捕捉穴4の周面に抗体が固定されている場合でも、微生物捕捉穴4内とでは脱離に必要とするエネルギーが異なることから、適切な洗浄条件を設定すれば、微生物捕捉穴4内に優先的に対象微生物を捕集することができる。
【実施例3】
【0041】
図7は本発明に係る微生物分離装置の第3実施例の概略構成図である。同図において、マイクロチップ1Cは、基板1aの捕捉部3に対向する遮蔽板1bのフロー流路2側の表面部に板状の電極20が装着され、この電極20は試料水の浸入を阻止すると共に、電気的に絶縁するための絶縁層21で覆われている。この場合、基板1aとして導電性の材料、例えば、導電性シリコン基板もしくは金属板が使用されている。そして、基板1aと電極20との間に電圧印加装置23の正極及び負極の各リード線が接続され、これによって、試料水に電界を作用させて微生物を効果的に捕捉する微生物捕集機構が構成されている。
【0042】
この微生物補修機構により、帯電している粒子を微生物捕捉穴4に移動させることができる。一般的に微生物は負に帯電しており、基板1a側が正に、電極20側が負になるように電圧を印加することによって、基板1aから遮蔽板1bに向かう電界を発生させることにより、効率的に微生物を捕捉することができる。
【0043】
このとき、微生物捕捉穴4の開口部以外を絶縁層により被覆することにより、電界を微生物捕捉穴4に集中させ、微生物捕捉穴4への微生物の導入を促進することができる。絶縁層の形成方法としては有機又は無機材料による被覆や、微生物捕捉穴4をマスクした状態で、基板1aを酸化処理又は窒化処理する方法がある。より微細な加工を高精度に実施するためには後者が望ましい。
【実施例4】
【0044】
図8(a)(b)は本発明に係る微生物分離装置の第4実施例を構成するマイクロチップの断面図及びその部分構成を示す斜視図である。図中、第3実施例を示す図7と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。ここに示したマイクロチップ1Dは、第3実施例と同様に、電界により微生物を捕集するものであるが、基板1aとして、例えば、ガラス、プラスチック、セラミック等を用いることができ、特に、透明性の高い材料を使用することにより、位相差像、微分干渉像等の光学的な顕微鏡観察が容易になるという利点がある。
【0045】
なお、これらの材料は非導電性であり、電界による微生物の捕集を行う場合、電界を発生させるための補助電極が必要になる。そこで、この実施例では、微生物捕捉穴4の底面の周端部にリング状の補助電極24aを形成したり、あるいは、微生物捕捉穴4の内周面に補助電極24bを形成したりしている。これらの補助電極24a又は24bと電極20との間に電圧を印加することにより、図7に示した第3実施例と同様に、電界による帯電粒子の集積が可能となる。この構成により、底面の透明性を犠牲にすることなく、電界による捕集と、光学顕微鏡観察を実現することができる。特に、光学顕微鏡観察が必要でない場合には、言うまでもなく、微生物捕捉穴4の底面全面を補助電極とすることもできる。
【実施例5】
【0046】
図9(a)(b)は本発明に係る微生物分離装置の第5実施例を構成するマイクロチップの断面図及びその要部を示す斜視図である。この実施例に係るマイクロチップ1Eは基板1aに複数の微生物捕捉穴4が配設されて捕捉部3を形成している。遮蔽板1bのフロー流路側の表面部には、微生物捕捉穴4にそれぞれ対応させて複数の突起25が突設されている。これらの突起25は、基板1aに遮蔽板1bを装着したとき、微生物捕捉穴4よりも試料水が流れる上流側に位置するように形成され、これによって、突起25毎に微生物捕捉穴4側に水流を向ける作用をさせることができる。その結果、試料水に含まれている粒子状物質が微生物捕捉穴4に到達する確率が高くなり、捕捉率が向上する。
【0047】
突起25は、円柱状、棒状、円錐状等の形状のものを用いることができる。突起25の形状、寸法については、流れ方向の転換作用を向上させるためには大きい方が良いが、あまり流路が狭くなると抵抗が大きくなり、流速の低下、粒子状物質による閉塞が発生する懸念がある。これらの状況を考慮して最適なサイズを選定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る微生物分離装置の第1実施例を構成するマイクロチップの平面図及び縦断面図。
【図2】クリプトスポリジウムを選択的に捕捉することを目的としてデザインしたマイクロチップの捕捉部を部分的に断裁して示した斜視図及び微生物捕捉穴の形状を示す斜視図。
【図3】抗体染色及びFISH法によるクリプトスポリジウムの染色例を示した図。
【図4】マイクロチップの捕捉部に配設する微生物捕捉穴の変形例を示した図。
【図5】第1実施例における試料水供給手段及びその循環機構を取り入れた系統図。
【図6】本発明に係る微生物分離装置の第2実施例の概略構成を示した系統図。
【図7】本発明に係る微生物分離装置の第3実施例の概略構成図。
【図8】本発明に係る微生物分離装置の第4実施例を構成するマイクロチップの断面図及びその部分構成を示す斜視図。
【図9】本発明に係る微生物分離装置の第5実施例を構成するマイクロチップの断面図及びその要部を示す斜視図。
【符号の説明】
【0049】
1A〜1E マイクロチップ
1a 基板
1b 遮蔽板
2 フロー流路
3 捕捉部
4 微生物捕捉穴
5 試料水供給口
6 試料水排水口
7 試料水供給ライン
8 試料水供給弁
9 リザーバタンク
10 試料水供給ポンプ
12 循環ポンプ
13 循環弁
14 排水弁
15 染色抗体供給手段
16 染色DNAプローブ供給手段
17 洗浄液保存容器
18 洗浄液供給弁
19 超音波振動子
20 電極
21 絶縁層
23 電圧印加装置
24a,24b 補助電極
25 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水中に含まれる特定の微生物を捕捉し、分離、回収する微生物分離装置において、
基板上に試料水の流路が形成され、前記流路の途中に分離対象微生物をその形状的特徴により捕捉することが可能な複数の微生物捕捉穴が配設されてなる捕捉部を有するマイクロチップと、
分離対象微生物を含む試料水を前記マイクロチップに流し込むための試料水供給手段と、
を備えたことを特徴とする微生物分離装置。
【請求項2】
前記マイクロチップを通過した排水を回収し、前記試料水供給手段に戻す試料水循環手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の微生物分離装置。
【請求項3】
前記マイクロチップに物理的洗浄手段を付設させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物分離装置。
【請求項4】
前記マイクロチップに洗浄液を流し込むための洗浄液供給手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項5】
前記マイクロチップは前記基板の表面に被せる遮蔽板を含み、前記基板は導電性材料でなり、かつ、前記微生物捕捉穴以外の平板部分が絶縁層によって電気的に絶縁され、前記遮蔽板の前記捕捉部に対向する部位に、絶縁層を介して、電極が埋設され、この電極と前記基板との間に電圧を印加することによって試料水の流路に電界を発生させる電圧印加装置を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項6】
前記マイクロチップは前記基板の表面に被せる遮蔽板を含み、前記基板は非導電性材料でなり、前記微生物捕捉穴の内部に第1電極が設けられ、前記遮蔽板の前記捕捉部に対向する部位に、絶縁層を介して、第2の電極が埋設され、前記第1及び第2の電極間に電圧を印加することによって試料水の流路に電界を発生させる電圧印加装置を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項7】
前記微生物捕捉穴に固定化され、対象微生物を抗原として認識する抗体を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項8】
前記微生物捕捉穴に向かう方向に試料水の流れを作るように、前記遮蔽板の流路面に突起を設けたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項9】
対象微生物を選択的に識別して吸着することのできる蛍光色素もしくは発光色素で標識した生物材料を前記マイクロチップに供給するための、染色用生物材料供給手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の微生物分離装置。
【請求項10】
前記マイクロチップの基板が透明な材質で構成されていることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の微生物分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−262825(P2006−262825A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88306(P2005−88306)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(591033744)
【出願人】(502327621)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】