説明

微生物培養シート固定用台紙、台紙付き微生物培養シート、連設微生物培養シート、収納トレイおよびコロニー数のカウント方法

【課題】作業性に優れる微生物培養シート固定用台紙およびこの台紙に微生物培養シートを固定した台紙付き微生物培養シートなどを提供する。
【解決手段】複数の微生物培養シートを固定するための微生物培養シート固定用台紙であって、前記微生物培養シートの角部を挿入して固定するための切り欠き部、または微生物培養シートを固定するための粘着剤層が形成されている。台紙に微生物培養シートを固定した台紙付き微生物培養シートは菌液の接種が容易であり、かつ撮像により複数の微生物培養シートのコロニーの画像データを形成でき、この画像データに基づいてコロニー数をカウントできるため、微生物検査における画像処理工程、コロニー数カウント工程を効率的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の微生物培養シートを固定するための微生物培養シート固定用台紙、および前記台紙に微生物培養シートが脱着可能に固定された台紙付き微生物培養シートなどに関し、より詳しくは、台紙に微生物培養シートが固定されているためカバーシートのめくり操作や菌液の接種が容易であり、かつ台紙を介して略水平に移動できるため菌液接種後の微生物培養シートを台紙と共にただちに培養装置へ搬入することができ、撮像により複数の微生物培養シートの画像データを形成でき、画像データに基づいてコロニー数をカウントできるため、微生物検査の各作業を効率的に行うことができる台紙付き微生物培養シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の存在を確認し、または微生物数を測定するため、従来の寒天培地に代えて各種の微生物培養シートが開発されている。例えば、多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層とからなる培地積層物を粘着シートに接着し、その上に透明フィルムを被せた構造のシート状培地が開示されている(特許文献1)。培地積層物よりも大きな粘着シートの中央部に培地積層物が接着され、前記培地積層物の上に透明フィルムをかぶせ、この透明フィルムの培地積層物からはみ出している部分を粘着シートの培地積層物が接着されていない部分と接着させたものである。菌液を接種するには、前記透明フィルムを粘着シートから剥がし、菌液を培地積層物に加え、透明フィルムを再び被せて培養する。
【0003】
また、上面を有する基材と、前記基材の上記上面に装着され、かつ非吸収性の培養面を含む台座と、前記基材に取り付けられ、かつ底面を備える可撓性のカバーシートと、前記培養面および前記カバーシートの底面から選択される1または複数の面に堆積した培地とを含む微生物シートもある(特許文献2)。試料がこぼれないように液状試料の拡散を制限し、結果として均一な形状およびサイズの拡散試料をもたらすことができる、という。
【0004】
微生物培養シートに使用される培地層は乾燥培養層であり、菌液を接種することで乾燥培養層に加水し、微生物の培養環境を形成しつつ微生物を生育させることができる。次いで、菌液を接種した微生物シートを所定時間、所定温度で培養した後に、細菌の存在を計測したり同定することができる。乾燥培養層の組成を変更することで、好気性細菌用、大腸菌用、大腸菌群用、腸内細菌用、酵母用、黄色ブドウ球菌用、一般細菌用など、異なる用途の微生物培養シートを調製することができる。
【0005】
食品衛生法では、食肉製品や魚肉ねり製品など特定の食品について細菌学的成分規格を設定し、例えば食肉製品であれば、一般生菌数、大腸菌、黄色ブドウ球菌などが所定の基準に適合することを要求している。いずれも正確を期すため2枚の培地を使用することが好ましく、一般生菌数を測定するには、異なる希釈倍率で各2枚ずつ評価する。例えば、微生物培養シートを4枚を用いて、100倍希釈液について2枚接種し、1,000倍希釈液について2枚接種し、希釈倍率を勘案してコロニー数の平均値を算出する。従って、ある検体について、一般生菌数と、大腸菌と黄色ブドウ球菌とを評価する場合、一般生菌数用の微生物培養シートを4枚、大腸菌用の微生物培養シートを2枚、黄色ブドウ球菌用の微生物培養シートを2枚準備し、机上に広げてそれぞれに検体菌液を接種し、それぞれの規格に基づいて培養したのちに、コロニーを観察している。
【0006】
一方、微生物コロニーの計測を自動化し、それによって人的過誤を低減する技術もある(特許文献3)。生物学的生育培地の1つ以上の画像を受信するステップと、前記生物学的生育堵地の内部に付随するコロニーの第1の数を同定するステップと、前記生物学的生育培地の周辺部に付随するコロニーの第2の数を同定するステップと、前記第1の数が閾値未満である場合に、前記生育培地の生育領域縁からの画定された距離内の1つ以上のコロニーを前記第2の数から除外するステップとを含む、コロニーの自動計測方法である。生物学的生育培地を一枚ずつ生物学的スキャンニング装置に投入し、画像を形成し、得られた画像を画像分析を実施するためのプロセッサーを含む外部コンピューターに通信し、所定のルールによってコロニーを計測する、というものである。生物学的生育培地には、生育プレートを同定するために使用されるバーコート゛やその他の識別マーキングなどが表示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−245693号公報
【特許文献2】特表2004−515236号公報
【特許文献3】特表2007−533296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載される微生物培養シートはシート状物であるため薄く、寒天培地などと相違してコンパクトで、収納容積や培養容積をコンパクトにできる利点がある。しかしながら、微生物培養シートは乾燥培養層を使用するため、菌液が培地上に徐々に広がって培地に浸み込むため、培養環境を確保して微生物を培養し、正確にコロニーを評価するには、接種後の菌液を所定範囲に菌液が広がるように円形の押圧部を有するスプレッダーで押圧したり、または接種後の菌液が培地にしみこむまでの1〜3分程度の間、カバーシートを被覆した後、水平に放置する必要がある。微生物培養シートは、一般に縦90mm、横70mm程度、重さ1g未満の小型、軽量体であるため、接種後に水平を維持しつつ培養装置へ移動することは極めて困難であり、菌液が乾燥培養層に膨潤するまでの所定時間がロスになっている。細菌学的成分規格に適合するか否かの評価が求められる検体数は極めて多く、より効率的な操作が可能な微生物培養シートの開発が望まれる。
【0009】
また、上記したように、例えば、一般生菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌などを評価する場合、一般生菌数用の4枚の微生物培養シート、大腸菌群用の2枚の微生物培養シート、黄色ブドウ球菌用の2枚の微生物培養シートを机上に並べて菌液を順次接種するが、合計8枚の微生物培養シートを並べる操作が必要であり、所定時間の手間がかかる。さらに、各微生物培養シートのカバーシートを剥がして菌液を接種する際にも、微生物培養シートが小型であるため動きやすい。また、接種後の微生物培養シートを培養する際にも、個別に培養装置に投入する必要がある。従って、より効率的に菌液を接種し、培養しうる微生物培養シートの開発が望まれる。
【0010】
また、培地のコロニーを評価する場合、特許文献3に開示されるように、コロニーの自動計測ができれば人手による計測工程を回避することができる。生物学的生育培地として微生物培養シートを使用すると、画像形成装置による画像データ(jpg.jpeg.bmp.tiff等の画像ファイル)形成が容易である。しかしながら、特許文献3記載の方法は、微生物培養シートから一枚ずつ画像を形成してコロニー数を計測するものである。一枚ずつスキャニングユニットに挿入しなければならず、画像形成に所定の時間が必要となる。従って、より効率的に画像データ形成が可能な微生物培養シートの開発が望まれる。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、微生物培養シートを簡便に固定しうる微生物培養シート固定用台紙を提供することを目的とする。
【0012】
また本発明は、操作性高く菌液の接種を効率的に行うことができ、菌液接種後の培養処理も容易に行うことができる、台紙付き微生物培養シートを提供することを目的とする。
【0013】
また、微生物培養シートの画像データを形成してコロニー数を自動計測する際にも、複数の微生物培養シートについて、画像形成を短時間で行うことができる台紙付き微生物培養シートまたは連設微生物培養シートを提供する事を目的とする。
【0014】
更に、台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートを収納しうる収納トレイを提供する事を目的とする。
【0015】
加えて、前記台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートを使用するコロニー数のカウント方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、微生物培養シートについて詳細に検討した結果、微生物培養シートを微生物培養シートよりも大きな台紙に固定すれば、微生物培養シートが安定するため菌液の接種が容易であること、また、菌液を接種した後に微生物培養シートを水平に維持することが容易であるため、菌液接種後に微生物培養シートの水平を維持し培養装置へ搬入できるため、菌液が乾燥培養層に浸透するまでの時間を有効利用できること、台紙に複数の微生物培養シートを固定すれば、菌液を接種する際の複数の微生物培養シートの準備作業や接種操作、並びに培養装置への投入作業が容易であること、このような台紙付き微生物培養シートは、画像処理によるコロニー数の自動カウントを行うことができること、その際、複数の微生物培養シートについて一度に画像を形成すれば、微生物培養シートを一枚ずつ画像形成する場合と相違して短時間で画像を形成しうること、更には、微生物培養シートを基材シートを介して連設した連設微生物培養シートを使用する場合にも台紙付き微生物培養シートと同様に画像形成を簡便に行うことができることなどを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明は、複数の微生物培養シートを固定するための微生物培養シート固定用台紙を提供するものである。
【0018】
また本発明は、前記微生物培養シートの角部を挿入して固定するための切り欠き部、または微生物培養シートを固定するための粘着剤層が形成されていることを特徴とする、上記微生物培養シート固定用台紙を提供するものである。
【0019】
また本発明は、色補正用のカラーチャートまたはグレースケール、および/または位置認識マーカーが表示されていることを特徴とする、上記微生物培養シート固定用台紙を提供するものである。
【0020】
また本発明は、上記微生物培養シート固定用台紙に複数の微生物培養シートが固定された台紙付き微生物培養シートを提供するものである。
【0021】
また本発明は、前記微生物培養シートが、基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された乾燥培養層と、前記乾燥培養層を被覆するカバーシートとからなることを特徴とする、上記台紙付き微生物培養シートを提供するものである。
【0022】
また本発明は、基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された複数の乾燥培養層と、前記複数の乾燥培養層をそれぞれ被覆するカバーシートとからなる、連設微生物培養シートを提供するものである。
【0023】
更に、本発明は、上記台紙付き微生物培養シート、または連設微生物培養シートを収納するトレイであって、複数の棚を積層してなる前記台紙付き微生物培養シートまたは連設微生物培養シートを収納する棚段部と前記棚段部の上部を被覆する蓋部とからなり、前記棚は、底面部と前記底面部の外周に立設される側壁部とからなり、前記側壁部の上端に複数の嵌合凸部が形成され、かつ側壁部の底面部に前記嵌合凸部と嵌合しうる複数の嵌合凹部が形成されてなり、前記棚段部は、上段の棚の前記嵌合凹部に下段の棚の前記嵌合凸部を嵌合させて連結させたものであることを特徴とする、収納トレイを提供するものである。
【0024】
加えて本発明は、上記台紙付き微生物培養シート、または連設微生物培養シートに菌液を接種し、培養してコロニーを発現させ、当該コロニーを含む前記台紙付き微生物培養シートまたは連設微生物培養シートの画像データを形成し、前記画像データに含まれる前記コロニーが発現した複数の培養層の画像データを使用して個別に各培養層のコロニー数をカウントすることを特徴とする、コロニー数のカウント方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の微生物培養シート固定用台紙によれば、複数の微生物培養シートを固定できるため、操作性に優れる。
【0026】
本発明の台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートによれば、細菌学的成分規格の評価などに際して同じ培地について複数の微生物培養シートを使用する場合に、複数の乾燥培養層が固定または連設されているため、接種前の微生物培養シートの準備作業、接種操作、培養装置への移動を台紙を介して行うことができ、操作性に優れる。
【0027】
本発明の台紙付き微生物培養シートは、台紙に微生物培養シートが脱着可能に固定されているため、菌液を接種しなかった微生物培養シートは、台紙からはずして従来通りに個別に使用することができ、微生物培養シートの無駄がない。
【0028】
本発明の台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートによれば、複数の微生物培養シートが固定又は連設されているため、複数の微生物培養シートについて一度に画像データを形成することができ、画像データ形成が容易であり、効率的にコロニー数の自動カウントを行うことができる。
【0029】
本発明の収納トレイは、複数の棚を嵌合によって積層してなる棚段部からなり、培養装置の高さなどに応じて積層数を簡便に調整できるため、培養装置への搬入や培養操作を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る微生物培養シート固定用台紙の一例を説明する図である。
【図2】本発明に係る微生物培養シート固定用台紙に表示しうる色見本配列表の一例を説明する図であり、色見本配列表としてカラーチャートとグレースケールチャート、位置認識マーカーとを含む態様を示す図である。
【図3】本発明に係る微生物培養シート固定用台紙に8枚の微生物培養シートを4枚ずつ2段に固定した態様を説明する図である。
【図4】本発明に係る台紙付き微生物培養シートを説明する図であり、図4(a)は、平面図であり図4(b)は図4(a)のX−X線断面図である。微生物培養シートは、基材シートの上に円形の乾燥培養層が形成される態様を示し、台紙に形成した2条の粘着剤層によって脱着可能に固定されている。
【図5】図5(a)は、本発明に係る台紙付き微生物培養シートの平面図であり、図5(b)は、図5(a)のX−X線断面図である。微生物培養シートは、基材シートの一部に凹部を形成し、この凹部に乾燥培養層を形成される態様を示す。
【図6】本発明に係る台紙付き微生物培養シートの平面図であり、シリアルナンバー記載表示のある台紙に2つの微生物培養シートが固定される態様を説明する図である。
【図7】図7(a)は本発明に係る台紙付き微生物培養シートの平面図であり、図7(b)は、図7(a)のX−X線断面図である。A4判の台紙に8枚の微生物培養シートが、2枚ずつ4段形成された態様を説明する図である。
【図8】図8(a)は本発明に係る連設微生物培養シートの平面図であり、図8(b)は、図8(a)のX−X線断面図である。A4判の基材シートに8枚の微生物培養シートが、4枚ずつ2段形成された態様を説明する図である。
【図9】本発明に係る収納トレイの斜視図である。
【図10】本発明に係る収納トレイの斜視図であり、複数の棚を積層してなる棚段部とその上部を被覆する蓋部とから構成される態様を説明する図である。
【図11】本発明に係る収納トレイを構成する棚を説明する図であり、図11(a)は斜視図、図11(b)は平面図、図11(c)は底面図、図11(d)は側面図を示す。
【図12】複数の棚を嵌合により積層し、その上部に蓋部を被覆して本発明に係る収納トレイを組み立てる方法を説明する図である。
【図13】本発明に係る収納トレイを構成する棚の他の態様を説明する図であり、図13(a)は斜視図、図13(b)は平面図、図13(c)は底面図、図13(d)は側面図を示す。
【図14】原画層データの傾き補正処理を説明する図である。
【図15】実施例2で得た原画層データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の第一は、複数の微生物培養シートを固定するための微生物培養シート固定用台紙である。前記台紙には、明度の低い色による外枠が形成されていてもよく、微生物培養シートの角部を挿入して固定するための切り欠き部、または微生物培養シートを固定するための粘着剤層が形成されていてもよく、色補正用のカラーチャートまたはグレースケール、および/または位置認識マーカーが表示されていてもよい。
【0032】
本発明の第二は、前記微生物培養シート固定用台紙に複数の微生物培養シートが固定された台紙付き微生物培養シートである。
【0033】
本発明の第三は、基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された複数の乾燥培養層と、前記複数の乾燥培養層をそれぞれ被覆するカバーシートとからなる、連設微生物培養シートである。
【0034】
また、本発明の第四は、上記台紙付き微生物培養シート、または上記連設微生物培養シートを収納するトレイであって、複数の棚を積層してなる前記台紙付き微生物培養シートまたは上記連設微生物培養シートを収納する棚段部と前記棚段部の上部を被覆する蓋部とからなり、前記棚は、底面部と前記底面部の外周に立設される側壁部とからなり、前記側壁部の上端に複数の骸合凸部が形成され、かつ側壁部の底面部に前記嵌合凸部と嵌合しうる複数の験合凹部が形成されてなり、前記棚段部は、上段の棚の前記嵌合凹部に下段の棚の前記嵌合凸部を嵌合させて連結させたものであることを特徴とする、収納トレイである。
【0035】
また、本発明の第五は、上記台紙付き微生物培養シート、または連設微生物培養シートに菌液を接種し、培養してコロニーを発現させ、当該コロニーを含む前記台紙付き微生物培養シートまたは連設微生物培養シートの画像データを形成し、前記画像データに含まれる前記コロニーが発現した複数の培養層の画像データを使用して個別に各培養層のコロニー数をカウントすることを特徴とする、コロニー数のカウント方法である。前記画像データに含まれる位置認識マーカーを用いて画像データの位置補正を行い、ついで、カラーチャートおよびグレースケールを用いて色補正を行い、培地に含まれるコロニーに対応する画素をカウントしてもよい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
(1)微生物培養シート固定用台紙
本発明の微生物培養シート固定用台紙は、微生物培養シートを固定する平板状物である。図1に本発明の微生物培養シート固定用台紙(A)の平面図を示す。微生物培養シート固定用台紙(A)は、少なくとも外周に紺、焦げ茶、黒など明度の低い色による枠(F)が形成されていることが好ましい。フラットベッドスキャナなどで台紙(A)の画像を撮影した後の画像解析において、台紙(A)の外枠の認識が容易だからである。本発明で使用する台紙(A)には、更に、複数の微生物培養シートを固定するための各固定位置がわかるように仕切りなどが形成されるものであってもよい。図1に示す微生物培養シート固定用台紙では、黒い縁取りの内側に4つずつ2段、合計8つの仕切り線(L)で区切られた区画(a)が形成される態様を示す。この区画(a)のそれぞれに微生物培養シートを固定することができる。この微生物培養シート固定用台紙(A)は、微生物培養シートを固定する位置がわかればよく、前記仕切り線(L)は無くても良い。例えば、固定すべき位置に対応して微生物培養シートの角部を挿入する切り欠き部(b)などが形成される場合には、仕切り線(L)が無くても固定位置を簡便に理解することができる。なお、図1では、仕切り線(L)と切り欠き部(b)との双方を有する態様を示す。
【0037】
微生物培養シート固定用台紙(A)の材質は、紙のほか、合成樹脂、金属、これらの複合材などであってもよい。微生物培養シートの固定方法は特に限定は無いが、脱着可能に固定できれば複数回の使用が可能となり好ましく、台紙(A)の材質などに応じて適宜選択することができる。図1では、台紙(A)に微生物培養シートの角部を挿入しうる切り欠き部(b)を形成する態様を示したが、このような切り欠き部(b)に代えて微生物培養シートの角部を固定するフォトコーナー等を添付するものなどであってもよい。更に、台紙(A)に粘着層を形成し、この粘着層を介して微生物培養シートを固定してもよい。前記切り欠き部(b)や仕切り線(L)は、台紙(A)の材質に応じて適宜選択することができ、例えば仕切り線(L)は印刷のほか、エンボス加工の凹凸などで形成してもよい。
【0038】
更に、前記台紙(A)は、用途に応じて、色補正用のカラーチャートやグレースケールなどの色見本配列表(70)、位置認識マーカー、シリアルナンバー(80)などを表示してもよい。この台紙に微生物培養シート(B)を固定し、菌液を接種し、培養してコロニーを形成させた場合に、コロニーを含む画像データを形成することで、コロニー数の自動カウントを行うことができる。その際、台紙(A)に上記色見本配列表(70)を表示すれば、画像データに含まれる色見本配列表(70)によって画像データの色補正を行い、測定精度を向上させることができる。
【0039】
本発明では、色見本配列表(70)としては、カラーチャート(71)とグレースケールチャート(73)とを含むものを例示できる。図2に、このような色見本配列表(70)の一例を示す。なお、カラーチャート(71)は、グレースケールを除く基本12色を含むカラー配列であり、図2では、18色のカラーチャートを表示している。また、グレースケールチャート(73)は、白から黒までの無彩色を明暗で階調表示したものである。 このような色見本配列表(70)としては、図2に示すように、色見本配列表の4隅に位置認識マーカー(75a、75b、75c、75d)を表示するものであってもよい。画像解析の際に、画像データに含まれる色見本配列表(70)に表示された位置認識マーカーを使用して台紙の位置、ひいては、各微生物培養シート(B)の位置あわせを行うことができ、正確に各微生物培養シート(B)のコロニーを観察並びにコロニー数をカウントすることができる。
【0040】
本発明の台紙(A)は、各微生物培養シート(B)の固定位置に更に他の文字や柄などが表示されるものであってもよい。例えば、「欠」などの文字を表示しておけば、微生物培養シートを離脱した箇所に欠の文字が表示されるため、コロニー数の自動カウントの際に、「欠」の文字がある場合には測定しないプログラムと対応させてカウントさせることができる。
【0041】
微生物培養シート固定用台紙(A)に固定する微生物培養シートの数は、複数であれば特に限定はない。台紙の長手方向に微生物培養シートを4枚ずつ2段固定するものの他、3枚ずつ2段固定するものなどが例示できる。大型の微生物培養シートを使用する場合は、1枚をこの台紙に固定してもよい。台紙(A)が微生物培養シート(B)よりも大きい場合には、菌液を接種した後の水平の確保が容易で、菌接が乾燥培養層にしみこむまでの間に水平を維持しつつ培養装置へ搬送することができ、菌液の接種から培養までの時間を短縮することができる。
【0042】
本発明において、台紙(A)のサイズは、固定する微生物培養シート(B)を考慮して適宜選択することができる。複数の微生物培養シート(B)を台紙(A)に固定する場合には、日本工業規格(JIS)のA系列のA4サイズやB系列のB5またはB4サイズの台紙(A)を使用することが好ましい。台紙(A)の材料の入手が容易であること、およびコロニーを画像処理後に自動カウントする場合にも、フラットベットスキャナを用いて画像形成を容易に行うことができるからである。また、解像度として、A判用紙やB判用紙に対応するドット数が規定されていることが一般的であるため、解像度の選択も容易に行うことができる。
【0043】
(2)台紙付き微生物培養シート
本発明の台紙付き微生物培養シート(100)は、上記微生物培養シート固定用台紙(A)に複数の微生物培養シート(B)が固定されたものである。図3に、図1に示す微生物培養シート固定用台紙(A)に8枚の微生物培養シート(B)を固定した態様を示す。
【0044】
本発明では、複数の微生物培養シート(B)を前記台紙(A)に固定できればよく、図4を参照して、台紙(A)と微生物培養シート(B)とを粘着剤層(C)を介して固定する態様を説明する。図4(a)の平面図は、微生物培養シート(B)が台紙(A)に固定されている平面図である。微生物培養シート(B)は市販品でもよく一般には、図4(b)のX−X線断面図に示すように、少なくとも基材シート(10)と前記基材シートの一方の面に形成された乾燥培養層(20)と、前記乾燥培養層を被覆するカバーシート(30)とを有する。台紙(A)に形成される粘着剤層(C)は、微生物培養シート(B)の背面の上部や中央部が固定されるように、線状に一箇所形成してもよく、上部と下部との二箇所に線状の粘着剤層(C)を形成してもよい。更に、微生物培養シート(B)の背面の全面が固定されるように背面と同じ面積の粘着剤層(C)を形成してもよい。図4(b)は、二本の粘着剤層(C)で微生物培養シート(B)を固定した本発明の台紙付き微生物培養シート(100)の側面図である。台紙(A)に二本の線状の粘着剤層(C)を形成すると微生物培養シート(B)を安定して固定でき、微生物培養シート(B)のカールなどを回避することができる。
【0045】
本発明で使用する微生物培養シート(B)は、一般には、基材シート(10)と前記基材シートの一方の面に形成された乾燥培養層(20)と、前記乾燥培養層を被覆するカバーシート(30)とを有するものである。更に他の構成を含む微生物培養シートであってもよい。図4(a)に示すように、基材シート(10)やカバーシート(30)などに、希釈倍率記入欄(40)が表示されていてもよく、更に培地識別カラーバー(50)などが表示されていてもよい。希釈倍率記入欄(40)は、菌液の希釈倍率を記載する欄であり、10倍希釈液の場合は、−1の下の欄にチェックをいれ、100倍希釈液の場合は、−2の下の欄にチェックを入れることができ、希釈倍率の記入を簡便に行うことができる。また、培地識別カラーバー(50)は、一般生菌数用は赤、大腸菌は緑、黄色ブドウ球菌は黄色などで表示することができ、培地の種類を外観から目視により判別することができる。
【0046】
さらに、バーコードなどの識別子(60)が表示されるものであってもよい。図4(a)では、二次元バーコードの態様を示すが、一次元バーコードであってもよい。このような識別子に、微生物培養シート(B)の個別情報、例えば培地種類、シリアルナンバーなどを入力しておけば、バーコードリーダーで読み取り、微生物培養シート(B)の個別情報を入手することができ、微生物培養シート(B)に記載した検体番号などと対応させることができる。
【0047】
微生物培養シート(B)は、更に、日付記入欄や検体番号記入欄などを表示するものであってもよい。
【0048】
なお、図4の微生物培養シート(B)は、基材シート(10)の上に円形の乾燥培養層(20)が形成される態様を示すが、基材シート(10)の全面に乾燥培養層(20)が形成されるものであってもよい。また、カバーシート(30)が乾燥培養層(20)と接触する面にも培養層が形成されるものであってもよい。更に、基材シート(10)の一部に凹部を形成し、この凹部に乾燥培養層(20)を形成するものであってもよい。このような態様を図5に示す。図5(a)は、台紙(A)にこのような微生物培養シート(B)を固定した本発明の台紙付き微生物培養シート(100)の平面図であり、図5(b)は図5(a)のX−X線断面図である。
【0049】
本発明の台紙付き微生物培養シート(100)は、複数の微生物培養シート(B)が固定されるが、好ましくは2〜10枚、より好ましくは4〜10枚、特に好ましくは4〜8杖である。台紙に2枚の微生物培養シート(B)が固定される態様を図6に示す。本発明では、各微生物培養シート(B)が、台紙(A)に固定されているため、菌液を接種しなかった微生物培養シート(B)を台紙(A)から外して、従来と同様の方法で使用することができる。
本発明の台紙付き微生物培養シート(100)を使用する場合は、菌液を接種する操作者の前に載置し、検体番号、日付、希釈倍率などを記載した後に菌液の接種を行う。この際、検体情報を記入した台紙付き微生物培養シート(100)を90°回転させて菌液の接種を行ってもよい。台紙付き微生物培養シート(100)を載置する方向によって、微生物培養シート(B)のカバーシート(30)の剥離方向が異なるため、操作者に簡便な方向を選択して使用することができる。
【0050】
また、図7に、微生物培養シート(B)の上部に希釈倍率記入欄(40)が表示されたものを台紙(A)に横2枚ずつ4段、合計8枚固定し、かつ色見本配列表(70)(図示せず)をカバーシート(30)の開放端側に表示した台紙付き微生物培養シート(100)である。図7(a)はその平面図、図7(b)はX−X線断面図である。この台紙付き微生物培養シート(100)は、短手方向を操作者の手前に載置して検体番号、日付、希釈倍率などを記入することができ、これを回転することなく微生物培養シート(B)のカバーシート(30)を操作者の右側から左側に剥離し、菌液を接種することができる。
【0051】
(3)微生物培養シート
本発明で使用する微生物培養シートは、少なくとも基材シート(10)と前記基材シートの一方の面に形成された乾燥培養層(20)と、前記乾燥培養層を被覆するカバーシート(30)とを有するものであればよい。
【0052】
基材シート(10)としては、乾燥培養層(20)の形成に適する耐水性や機械的強度を有するものを広く使用することができる。基材シートは、単層でもよく2層以上の積層体であってもよい。基材シートとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミドなどのプラスチックシートを好適に使用できる。これらのプラスチックシートは、透明性に優れ、基材シートを通してコロニーを観察することができる。また、紙基材や合成樹脂を主原料として紙のように成型された合成紙であってもよい。なお、基材シートには、微生物の生育に影響を与えないインキで升目印刷柄が印刷されるものであってもよい。
【0053】
乾燥培養層は、微生物の発育に適する水分を含有するためのゲル化剤に、更に栄養成分その他を含有するものである。ゲル化剤としては、水吸収性(または水膨潤性)かつ水不溶性であり、水を吸収しまたは水により膨潤した際に実質的にその形状を保持し得るものであり、ポリビニルアルコール(PVA)、変性PVA、セルロース誘導体、澱粉およびその誘導体、セルロース誘導体および澱粉以外の多糖類、アクリル酸およびその誘導体、ポリエーテル、およびタンパク質などの水溶性ポリマーの架橋物;澱粉系吸水性ポリマー;セルロース系吸水性ポリマー;アクリル系吸水性ポリマー;無水マレイン酸系コポリマー;ビニルピロリドン系コポリマー;ポリエーテル系吸水性ポリマー;アクリル繊維加水分解物;およびその他の吸水性ポリマー、グアーガム、サイリウムシードガム、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ローカストビーンガム、アルギンなどがある。
【0054】
乾燥培養層に配合しうる栄養成分としては、例えば、一般生菌検査用としては、酵母エキス・ペプトン・ブドウ糖混合物、肉エキス・ペプトン混合物、ペプトン・大豆ペプトン・ブドウ糖混合物等が、大腸菌・大腸菌群検査用としては、ペプトン・クエン酸鉄アンモニウム・乳糖等が、ブドウ球菌用としては、肉エキス・ペプトン・マンニット・卵黄混合物、ペプトン・肉エキス・酵母エキス・ピルビン酸ナトリウム等が、ビブリオ用としては酵母エキス・ペプトン・庶糖・チオ硫酸ナトリウム・クエン酸ナトリウム等が、腸球菌用としては、牛脳エキス・ハートエキス・ペプトン・ブドウ糖等が、真菌用としては、ペプトン・ブドウ糖混合物、酵母エキス・ブドウ糖混合物、ポテトエキス・ブドウ糖混合物等が用いられる。これらの中から発育させようとする微生物に応じて一種またはそれ以上を選択し、混合して使用することができる。更に、発色指示薬、抗生物質などの選択剤、基質、緩衝剤(pH調整剤)など他の成分を含有させてもよい。なお、発色指示薬としては、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(以下TTCと表示)、p−トリルテトラゾリウムレッド、テトラゾリウムバイオレット、ペテトリルテトラゾリウムブルーなどのテトラゾリム塩やニュートラルレッド混合物、フェノールレッド、プロムチモールブルー、チモールブルー混合物などのpH指示薬がある。微生物の生育に伴い、発色または変色して微生物の生育が見やすくなり、また、特定の微生物が有する酵素の発色または蛍光酵素基質を加えておくことで、特定の微生物が検出できる。
【0055】
カバーシートは、培養層との接触が容易な柔軟性を有すると共に、防水性、水蒸気不透過性を有するものを好適に使用することができる。培養後にカバーシートを通してコロニーを観察および計数できるように、カバーシートは透明であることが好ましい。例えば、上記基材シートと同様に、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドなどのプラスチックシートを使用することができる。なお、基材シートに升目印刷柄が印刷されていない場合、カバーシートに升目印刷柄が印刷されていてもよい。
【0056】
このような微生物培養シート(B)は、希釈倍率記入欄や二次元バーコードなどの識別子が印刷された基材シートを使用し、この基材シートの上方に少なくともゲル化剤を含有する乾燥培養層を形成して製造することができる。例えば、基材シートの上に接着剤を塗工し、上記ゲル化剤や栄養成分、発色指示薬、選択剤、基質、緩衝剤(pH調整剤)など他の成分を粉末状で均一に接着させて調製することができる。接着剤としては、微生物の発育に阻害性を与えないものであれば使用することができる。好ましくは水に不溶性の接着剤、例えばアクリル系の感圧接着剤などが使用できる。また、少なくともゲル化剤を含み、その他に栄養成分、発色指示薬、選択剤、基質、緩衝剤(pH調製剤)から1種以上を含有する培地液を印刷や塗布、塗工、噴霧などによって基材シートの上方に形成してもよい。培地液は直接基材の上に成分を固着可能とするために、少なくとも接着性のある成分が溶解しているもの、かつ乾燥培養層を構成する成分を溶解、もしくは分散させたものである。なお、乾燥培養層は、前記図4に示すように基材シートの上面の一部に形成してもよく、図5に示すように、基材シートの凹部に形成してもよい。
【0057】
本発明では、乾燥培養層を使用することで、寒天培地と同様に微生物コロニーを観察及び計数することができ、かつ極めて寒天培地を使用する場合よりも優れた視認性を確保しうることが判明した。なお、培養層の乾燥は、培地液に含まれる前記溶媒を除去できればよく、温度、圧力など、従来公知の方法に準じて乾燥することができる。
【0058】
(4)台紙付き微生物培養シートの製造方法
本発明の台紙付き微生物培養シートは、前記した台紙(A)に微生物培養シート(B)を固定したものである。台紙の材質によって適宜選択できるが、台紙(A)に印刷その他によって前記仕切り線(L)や、カラーチャートやグレースケールチャートなどの色見本配列表、位置認識マーカー、シリアルナンバーなどを形成する。また、台紙(A)に、図1に示すように微生物培養シート(B)を固定するための貫通孔からなる切り欠き部(b)を形成する場合には、所定形状の抜き打ち型などで貫通孔を形成すればよい。微生物培養シート(B)を固定するためのフォトコーナーを添付してもよい。
【0059】
一方、台紙(A)に粘着剤層を形成する場合には、シリアルナンバー記入欄や色見本配列表(70)などを印刷した後に粘着剤層を形成する。
粘着剤としては、従来公知の粘着剤を使用することができる。例えば、アクリル酸エステル系、メタアクリル酸エステル系などのアクリル系粘着剤がある。また、天然ゴムやラテックスなどのゴム系粘着剤を使用することもできる。その他、シリコーン系粘着剤を使用することもできる。このような粘着剤には、必要に応じて更に、界面活性剤、消抱剤、増粘剤、耐水化剤、分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、インク定着剤、染料定着剤、蛍光染料、有色染料、滑剤、消臭剤、脱臭剤、抗菌剤等の助剤を添加することもできる。
【0060】
本発明で使用する粘着剤層は、固定した微生物培養シートを再剥離できる程度の固定性を有すればよく、前記粘着剤層のJIS−Z−0237に準拠する、−10℃〜70℃の条件下におけるアルミニウム板に対する180度引き剥がし粘着力が、100g/25mm〜600g/25mmであり、更に、アルミニウム板に貼付け後、−10℃〜70℃の条件下で30日間経過した時点でのJIS−Z−0237に準拠する180℃引き剥がし粘着力が、100g/25mm〜600g/25mmである。
【0061】
粘着剤は、微生物培養シートを固定する箇所に限定して形成することが好ましい。例えば、微生物培養シートを線状の2本の粘着剤層で固定する場合には、台紙の該当位置に4本の線状の粘着剤層を形成し、微生物培養シートを所定箇所に順次固定することで製造することができる。なお、長尺の台紙に連続的に粘着剤層を形成し、この粘着剤層に微生物培養シート(B)を順次固定し、所定位置で長尺の台紙を切断する方法であってもよい。
【0062】
(5) 連設微生物培養シート
本発明の連設微生物培養シートは、基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された複数の乾燥培養層と、前記複数の乾燥培養層をそれぞれ被覆するカバーシートとからなる。前記した台紙付き微生物培養シート(100)と同様に、複数の微生物培養シートが連設することで水平の維持が容易で、菌液を接種した後の培養装置への搬入を短時間で行え、コロニー形成後の画像形成も容易である。
【0063】
本発明の連設微生物培養シート(100’)の好適な態様を図8(a)の平面図および図8(b)のX−X線断面図に示す。図8は、基材シート(10’)の上に複数の乾燥培養層(20’)が形成され、かつ前記乾燥培養層(20’)を被覆する複数のカバーシート(30’)が固定された態様を示す。基材シート(10’)とカバーシート(30’)とが重複する部分を微生物培養シート(B’)とすれば、複数の微生物培養シート(B’)が同じ基材シート(10’)に形成されて連なるため、「連設微生物培養シート」と称する。本発明の連設微生物培養シート(100’)は、一枚の基材シート(10’)を使用して複数の微生物培養シート(B’)が形成される場合であってもよく、各微生物培養シート(B’)ごとに容易に分離できるように、基材シート(10’)にミシン目などが形成されていてもよい。
【0064】
本発明の連設微生物培養シート(100’)で使用する基材シート(10’)としては、例えば、台紙付き微生物培養シート(100)の台紙(A)と同様に、微生物培養シート(B’)のカバーシート(30’)よりも大きく、好ましくは微生物培養シート(A’)が2以上連設されるもの、より好ましくは6〜10、とくに好ましくは6〜8が連設されるものである。基材シート(10’)のサイズとしては、微生物培養シート固定用台紙(A)と同様に、A4判やB4判などのものを好適に使用することができる。コロニー形成後に、スキャナなどで画像データを形成するのが容易だからである。
【0065】
本発明の連設微生物培養シート(100’)では、基材シート(10’)に、前記した微生物培養シート固定用台紙(A)と同様の色見本配列表(70)やシリアルナンバー(80)を表示してもよい。複数の微生物培養シート(A’)にコロニーを形成した場合、複数の微生物培養シート(B’)の画像データの形成を一度に行い、かつコロニー数の自動カウントを簡便に行うことができる。
【0066】
上記連設微生物培養シート(100’)は、基材シート(10’)に複数の乾燥培養層(20’)を形成し、各乾燥培養層(20’)を被覆するようにカバーシート(30’)を固定することで調製することができる。本発明の連設微生物培養シート(100’)によれば、台紙(A)への固定化手段を形成することなく複数の乾燥培養層(20’)が固定されるため、より軽量化かつ薄型化することができる。
(6) 収納トレイ
本発明の台紙付き微生物培養シート(100)や連設微生物培養シート(100’)は、菌液を接種した後に培養装置に搬入し、培養することができる。この際、台紙付き微生物培養シート(100)や連設微生物培養シート(100’)を所定のトレイに収納してトレイごと培養装置に搬入すれば、搬入操作を容易に行うことができると共に多量の台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートを培養装置に搬入できるため、培養操作を効率的に行うことができる。このような収納トレイの斜視図を図9に示す。図9に示す収納トレイ(200)は、複数の棚からなる棚段部(120)の上部に蓋部(130)を被覆したものである。
【0067】
蓋部(130)を取り外した態様を図10に示す。この収納トレイは、図10に示すように、複数の棚(110)を積層してなる棚段部(120)とその上部を被覆する蓋部(130)とからなる。図9、図10に示す棚(110)の斜視図を図11(a)に、平面図を図11(b)に、底面図を図11(c)に、側面図を図11(d)に示す。図11に示すように、棚(110)は、底面部(111)と前記底面部(111)の外周に立設される側壁部(113)とからなり、前記側壁部(113)の上端に複数の嵌合凸部(115)が形成され、かつ側壁部(113)の底面部に前記嵌合凸部(115)と嵌合しうる複数の嵌合凹部(117)が形成されている。このような棚(110)を、例えば、図11の斜視図に示すように、上段の棚(110)の前記嵌合凹部(117)に下段の棚(110)の前記嵌合凸部(115)を嵌合させて連結させ、棚段部(120)を形成し、最上段の棚(110)の上に蓋部(130)を被覆すれば、蓋部(130)の上に未使用の台紙付き微生物培養シート(100)や連設微生物培養シート(100’)を戟置することができる。図11では、2枚の棚のみを示すが、本発明では目的に応じて複数の棚を連結して組み立てることができる。
【0068】
上記棚のサイズは、台紙付き微生物培養シート(100)や連設微生物培養シート(100’)のサイズに応じて、適宜選択することができる。例えば、図11に示す収納トレイがA4判(縦210mm×横297mm)の台紙付き微生物培養シート(100)を収納する場合には、図11(b)に示すように、棚(110)の底面部(111)の幅(Wl)を297mmを超えるように設定し、長さ(Ll)を210mmを超えるように設定することができる。なお、長さ(L1)は、210mmより短くし、例えば200mmにすれば、台紙付き微生物培養シート(100)の前端の10mmが収納トレイから突出するため、台紙付き微生物培養シート(100)の挿入や取出しを容易に行うことができる。なお、収納トレイ(200)の長さ(L2)は、上記した長さ(L1)に背面部(119)の厚みを加えたものであり、適宜選択することができる。また、棚(110)は、図11(d)に示すように、側壁部(113)の高さ(h1)を5〜50mm、より好ましくは8〜30mm、特に好ましくは8〜20mmとする。なお、嵌合凸部(115)の高さ(h2)は、3〜20mm、より好ましくは3〜15mm、特に好ましくは5〜12mmである。また、嵌合凹部(117)の深さ(d1)は、前記嵌合凸部と同様に、3〜20mm、より好ましくは3〜15mm、特に好ましくは5〜12mmである。この範囲で上下の棚を嵌合させ安定して連設することができる。なお、本発明では、図11に示すように、側壁部(113)には、窓部(113a)が形成されるものであってもよい。窓部(113a)の形成によって側壁部(113)からの雰囲気の流通が可能となり、培養装置に搬入した後の微生物培養シート(B)を迅速に培養温度に昇温することができる。同様に、底面部(111)も、台紙付き微生物培養シート(100)などが載置される程度の支持部を有すればよい。図11では、底面部(111)に方形の貫通部(111a)が二つ形成された態様を示す。更に、棚(110)は、側壁部(113)と側壁部(113)とを連設する背面部(119)が更に配設されるものであってもよい。この背面部(119)は、側壁部(113)の高さ(h1)より低く構成され、背面部(119)からの雰囲気の流通を可能にしている。
前記棚(110)は、相互に嵌合により組み合わせて積層することができる。図12に示すように、棚(110)を相互に嵌合して積層し、その上部を蓋部(130)で被覆すれば、本発明の収納トレイを組み立てることができる。
【0069】
発明で使用する棚(130)は、上記に限定されるものではない。図13に示すように、底面部(111)の全面が支持部で構成されるものであってもよい。また、側壁部(113)と背面部(119)とが同じ高さで構成されるものであってもよい。なお、底面部(111)は、台紙付き微生物培養シート(100)などを支持できればよく、軽量化や雰囲気の流通を向上させるため、全面に円形や方形、多角形などの貫通孔が形成されたり、網目状で構成してもよい。
【0070】
本発明の収納トレイは、棚および蓋部をそれぞれ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、その他、ポリアミド系樹脂などを使用し、射出成形などで製造することができる。
【0071】
(7)台紙付き微生物培養シートおよび連設微生物培養シートの使用方法
本発明の台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートの使用方法として、図3に示す台紙(A)に8枚の微生物培養シートが固定されたものを使用し、菌液を接種した台紙付き微生物培養シート(100)を収納するために本発明の収納トレイを併用する場合で説明する。連設微生物培養シート(100’)の場合も同様である。
【0072】
例えば、4検体について一般生菌数と大腸菌とを評価する場合には、一般生菌用の台紙付き微生物培養シート2枚、大腸菌用の台紙付き微生物培養シート1枚を机上に広げ、菌液を接種する予定の微生物培養シート(B)に希釈倍率を、カバーシート(30)の上から希釈倍率記入欄(40)に記入し、空きスペースに検体番号を記入する。また、各検体について定法に従って異なる希釈倍率の菌液を調製する。なお、台紙付き微生物培養シートごとにシリアルナンバーを記入してもよく、記入後に一般生菌用の台紙付き微生物培養シート2枚と大腸菌用の台紙付き微生物培養シート1枚とは、菌液の接種前に本発明の収納トレイの蓋部の上に置くことができる。
【0073】
上記検体について、上記検体情報を記入した大腸菌用の台紙付き微生物培養シートと一般生菌用の大腸菌用とを、短手方向を操作者の手前にして載置し、カバーシート(30)を、例えば、右から左に剥離し、大腸菌用の2枚の微生物培養シート(B)に菌液を接種し、ついで一般生菌用の2枚の微生物培養シート(B)に所定の希釈倍率の菌液を接種し、ついで異なる希釈倍率の菌液を2枚の微生物培養シート(B)に接種する。この操作を検体毎に4回繰り返す。これにより、大腸菌用の台紙付き微生物培養シート1枚に4検体が接種され、一般生菌用の台紙付き微生物培養シート2枚に4検体を接種することができる。本発明の台紙付き微生物培養シートは、各微生物培養シート(B)が台紙(A)に固定されているため、微生物培養シート(B)のカバーシート(30)のめくり操作を安定して容易に行うことができる。微生物培養シート(B)の乾燥培養層(20)に菌液を接種しカバーシート(30)を被覆した後に、1〜3分間、菌液が乾燥培養層(20)に浸潤するまで水平を確保して放置する必要がある場合でも、微生物培養シート(B)よりも大きな台紙に固定されているため水平の確保が容易であり、菌液を接種した後に台紙(A)を介して収納トレイに8枚の微生物培養シート(B)を一括して収納する事ができる。ついで、培養装置に収納トレイ(200)ごと搬入し所定時間の培養を行う。この際、蓋部(130)は装着しなくてもよい。
【0074】
なお、本発明の収納トレイは、複数の棚を嵌合して積層して組み立てることができるため、例えば、図10に示す10枚の棚(110)からなる棚段部(120)を5枚の棚(110)ごとに分割し、一方に一般生菌用の台紙付き微生物培養シートを収納し、他方に大腸菌用の台紙付き微生物培養シートを収納して培養装置に搬入し、培養することができる。
【0075】
また、本発明では、収納トレイの棚に台紙付き微生物培養シートを一枚ずつ収納してもよいが、一般生菌用の台紙付き微生物培養シートを2枚重ねて一つの棚に収納してもよい。
【0076】
所定時間の培養終了後に培養装置から取出し、目視、コロニーカウンター、その他の方法でコロニーを観察する。
【0077】
(8)コロニー数自動カウント
本発明の台紙付き微生物培養シート(100)や連設微生物培養シート(100’)は、前記微生物培養シート(B’,B)に菌液を接種し、培養してコロニーを発現させ、このコロニーを含む台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートの画像データを形成し、前記画像データに含まれる前記コロニーが発現した複数の培養層の画像データを使用して個別に各培養層のコロニー数をカウントする事ができる。その際、各培養層に含まれるコロニーに対応する画素をコロニーと判断し、画像解析によりコロニー数を自動カウントすることができる。
本発明では、台紙(A)に複数の微生物培養シート(B)を固定して菌液の接種、培養、撮像による画像データを取得できるため、1の撮像操作により複数の微生物培養シート(B)の画像データを取得できる点に特徴がある。画像データから、コロニー数をカウントする方法は公知であり、乾燥培養層(20)に対応する画像データからそれぞれの微生物培養シート(B)のコロニー数をカウントすることができる。
台紙(A)に、カラーチャートやグレースケール、位置認識マーカーなどを表示することができる。台紙(A)にこのような表示が含まれると、撮像した画像データにもこれらの表示が含まれる。よって前記位置認識マーカーを用いて画像データの位置補正を行い、ついで、カラーチャートおよびグレースケールを用いて色補正を行い、その後にコロニー数をカウントすることができる。なお、このような画像解析によるコロニー数カウントは、位置補正プログラムや色補正プログラム、コロニー数カウント用のプログラムが構築された処理装置に画像データを入力して行うことができる。以下、位置補正や色補正を行う場合の態様を説明する。なお、台紙付き微生物培養シート(100)を使用する場合で説明するが連設微生物培養シート(100’)でも同様である。
【0078】
(a)画像データの取得
フラットベッドスキャナやデジタルカメラなどにより、培養後の台紙付き微生物培養シートの画像データ(Dl)を取得することができる。画像の解像度は任意に選択することができる。好ましくは150〜600DPIである。
画像データ(Dl)は、微生物培養シートに菌液を接種して培養し、コロニーを発現させ、このコロニーを含む台紙付き微生物培養シートの画像データである。従って、この画像データには、各微生物培養シート(B)の培地層とこの培地層に発現されたコロニー、更には台紙に記載されたシリアルナンバーや色見本配列表などの全てが含まれる。
【0079】
(b)位置補正
たとえば、画像データ(Dl)に含まれる色見本配列表(70)に表示された位置認識マーカー(75a、75b、75c、75d)を検出して画像データ(Dl)の傾きや位置を補正することができる。前記図2に示すように、位置認識マーカー(75a、75b、75c、75d)が円とその中に表示される十字線とで構成されている場合、画像データの各画素について外側に向かうにつれて輝度が所定の条件で変化するか否かを判定し、この条件を満たす画素を位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)の中心位置(座標)にあるものと判断する。
【0080】
具体的には、画像データ(Dl)の各画素を公知の変換式によりRGB表色系から輝度(Y)に変換する。ここで、2つの画素同士の輝度の差が所定の閾値より小さいときにそれらは同一の輝度を有するものと判断する。そして画像データの各画素について、以下の判断を行う。なお、ここでは、輝度値レンジを0〜255としている。
【0081】
まず、対象画素を中心として、垂直から複数の角度方向に移動しながら輝度を調べ、移動するにつれて輝度が一旦異なる値となった後に再び中心の輝度と同一になり、更に4方向の距離(半径)が一致したら、この輝度からなる形状を、中心と半径から得られる円と仮定する(図14(a)参照)。更に、対象画素から隣接する同一輝度の画素を次々に繋げていくと、90°間隔の4方向で円周に到達する(図14(b)参照)。
【0082】
以上の条件が満たされた場合、その画素は位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)の中心であると判断する。なお、本発明では、位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)のうち75cは、中心が白色、その他の位置認識マーカ(75a、75b、75d)は、中心が黒色で表示されているので、位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)と判断されたものの内、中心画素の輝度が所定の闇値(例えば上記レンジの中間値)以上のものを白色表示の天地認識用反転マーカ75cと判断する。
【0083】
各位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)から同一輝度で伸びる線分の一つを更に伸ばしていくと、4つの位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)が一組になって、中心座標を(cx、cy)とする長方形が形成されるので(図14(c)参照)、このときの各位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)の中心画素の座標(x1、yl)、(x2、y2)、(x3、y3)、(x4、y4)からこの長方形Rの傾きθを算出する。この傾きθを逆方向に回転させた補正座標を求めることを繰り返す。画像データの座標(X1,Yl)の補正座標を(X2,Y2)とし、傾き補正された長方形R’の幅をW、高さをHとすれば、傾き補正後の長方形の頂点の座標は、左上頂点を原点として、右上頂点(W−1,0)、左下頂点(0,H−1)、右下頂点(W−1、H−1)で表すことができ、この補正後の長方形R’の中の各座標(X2,Y2)から逆に補正前の座標(X1,Yl)を求めることができる。この処理によって得られた補正画像データ(D2)は、原画像データ(Dl)の長方形R内の各画素座標(X1,Yl)が傾き補正された長方形R’内の補正座標(X2、Y2)に変換された画素の集合体である。この補正画像データ(D2)は、長方形Rの幅と高さおよび中心座標(cx、cy)で定められる傾きのない長方形にトリミングされているので、各培養済み微生物培養シート(B)やカラーチャート(71)やグレーススケールチャート(73)、これらチャートの各色などの各領域を予め長方形R内の相対的位置(論理座標)で特定しておくことにより、原画像データ(Dl)の解像度に依存することなく各領域を補正画像データ(D2)の全体から相対的に位置決めすることができる。また、画像データ(Dl)が天地逆になっている場合には、長方形の頂点となる4つの位置認識マーカ(75a、75b、75c、75d)における反転マーカ(75c)の位置関係(座標)から原画像データ(Dl)において天地が逆になっていると判断することができるので、180度回転させて天地も補正することができる。
【0084】
(c)画質補正処理
さらに、色見本配列表(70)を用いて色相および明度などの画質補正処理を行うことができる。
すなわち、微生物培養シート(B)は、菌種によって異なる培地が使用され、例えば、一般生菌用培地には、TTC(トリフェニルテトラゾリウムクロライド)が含まれ、これを還元して赤色のTPE(トリフェニルフォルマザン)を生じさせて赤色コロニーとして観察し、黄色ブドウ球菌は酸性フォスファターゼにより酵素基質X−Phos(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−D−フォスフェート)を分解して青色のインディゴを生成し、大腸菌群は、培地中の酵素基質が大腸菌群のもつβ−ガラクトシダーゼに反応してX−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−ガラクトピラノシド)またはMagenta−Gal(5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリルβ−ガラクトピラノシド)を加水分解し、酸化重合を経て赤紫ないし紫色の5,5−ジブロモ−6,6−ジクロロインディゴを生成し、大腸菌は特異的に持つβ−グルクロニダーゼが酵素基質X−GLUC(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−グルクロニド)を上記同様に分解して青色の5,5−ジブロモ−4,4−ジクロロインディゴを生成する。例えば、大腸菌群と大腸菌の両方を同じ培地で培養して各菌種ごとにコロニー数をカウントする場合には、大腸菌群の赤紫から紫の集落と、大腸菌の青色集落とを判別しなければ、菌種ごとのコロニー数カウントを正確に行うことができない。このため、画像データ中の画素の色相や明度を補正する。補正の対象となる画像データは、上記した位置補正を行った補正画像データ(D2)である。このような色補正は、公知の方法を使用することができる。
【0085】
たとえば、画像データは各画素データがRGB表色系によって表されているが、これを一旦色相(H)、明度(L)、彩度(S)により表現したHLS表色系に変換し、テーブル値との比較および線形補間して画質補正を行った後に再びRGB表色系に変換することで、画質補正処理を行うことができる。具体的には、台紙付き微生物培養シート(100)に表示されている色見本配列表(70)のカラーチャート(71)の各色に色相順に1から番号を付け、これに基準値(Hl)と測定値(H’1)とを対応づけて、色相(n)に基準値(Hn)、測定値(H’n)を対応させ、色相(max)に基準値(Hmax)、測定値(H’max)を対応させたカラー比較テーブルを作成する。同様にグレースケールチャート(73)の各色に明度順に1から番号を付け、これに基準値(Ll)と測定値(L’1)とを対応づけて、明度(n)に基準値(Ln)、測定値(L’n)を対応させ、明度(max)に基準値(Lmax)、測定値(L’max)を対応させたこれに基準値と測定値とを対応つけてグレースケールチャート比較テーブルを作成しておく。
【0086】
基準値は、予め基準とする特定のスキャナでカラーチャート(71)の各色およびグレースケールチャート(73)の各色のデータを取得し、上記によりRGB表色系からHLS表色系に変換した値である。また、カウント値は、原画像データ(Dl)に含まれるカラーチャート(71)の各色、およびグレースケールチャート(73)の各色(グレースケール)に対応する部分の各画素をRGB表色系からHLS表色系に変換した値である。なお、各色のデータとは、その領域に含まれる複数画素のRGB各要素を平均化した値とする。その後、画像データ(D2)の各画素をHLS表色系に変換したHについて、例えば、補正色相値hを求め、同様にL,Sについても補正色相値1、補正色相値sを求め、これをRGB表色系の値に変換し、位置並びに色相および明度が補正された画像データ(D3)を得る。
【0087】
例えば、画像データ(D2)の各画素をHLS表色系に変換した色相Hは、前記カラー比較テーブルを参照して、色相値レンジを1〜360と設定した場合、H≧H’maxのときは、h0=Hmax、hl=Hl+360、h’0=H’max、h’1=H’1、であり、ここでもしもh’0>h’1ならば、h’1=h’1+360とする。H<H’1のときは、h0=Hmax−360、hl=Hl、h’0=H’max、h’1=H’1であり、ここでもしもh’0>h’1ならば、h’0=h’0−360とする。以上以外の場合は、H’n≦H’n+1となるnを1から増分して見つける。h0=Hn、hl=n+1、h’0=H’n、h’1=H’n+1.そしてh=h0+((hl−h0)×(H−h’0)/(h’−h’0))として補正色相値hを求める。ここで、h<0ならば、h=h+360とし、h>360ならば、h=h−360とする。
【0088】
明度についても、上記グレースケールチャート比較テーブルを参照して、上記と同様にして補正明度値1を求めることができる。このようにして補正されたHLS表色系の値であるh、1、S(彩度補正を行わない場合は、1=L)をRGB表色系の値に変換する。これにより、位置並びに色相および明度が補正された画像データ(D3)を得ることができる。
【0089】
(d)コロニー数カウント
この画像データ(D3)についてコロニー数の自動カウントを行う。画像データ(D3)の相対座標で特定される乾燥培養層(20)について、所定の順序で移動させながら、各培養層の画像領域に含まれるコロニー数を測定する。なお、培養層として微生物培養シートを使用するか否かを問わず、培養後の培地を撮像し、得られた画像データからコロニー数をカウントする方法は公知である。本発明の台紙(A)を用いた場合の各微生物培養シートのコロニー数の自動カウントは、下記の方法で行うことができる。
【0090】
本発明では、例えば、1枚の台紙に8枚の微生物培養シート(B)が固定されているため、位置補正された画像データについて、予め台紙付き微生物培養シート(100)の各培養層に対応する位置をコロニー設定箇所と設定し、各微生物培養シート(B)のコロニー数をカウントすることできる。このような培養位置の設定は、対応する台紙付き微生物培養シートの形状や微生物培養シートの固定数などに応じて適宜設定することができる。更に、各コロニー数カウント位置では、培地全体をコロニー数測定位置とすることもできるし、培養層の予め設定した所定箇所のみをコロニー数測定位置に設定することもできる。更に、予め台紙(A)に仕切り線(L)や枠(F)が形成されている場合には、画像データに含まれる仕切り線(L)や枠(F)を識別して微生物培養シート(B)や培養層を認識し、コロニー数測定位置に設定することができる。特に、枠(F)が形成されていると、台紙(A)のサイズを容易に認識することができるためコロニー数測定位置の認識を過誤なく速やかに行うことができる。
【0091】
画像データに含まれる各コロニー数カウント位置では、培養層のコロニーに対応する画素を検出することで測定することができる。一般生菌用培地のコロニー数をカウントする場合には、TTC(トリフェニルテトラゾリウムクロライド)が還元されたTPE(トリフェニルフォルマザン)が赤色コロニーとして観察されるため、画像データ(D3)の中から、微生物培養シートの培養層に対応する位置に存在する赤色コロニーの画素を選択し、カウントする。
【0092】
より具体的には、一般生菌による赤色コロニーの色をRGB表色系の数値で特定し、画像データ(D3)から上記数値の画素を検出し、コロニー数としてカウントする。その際、培地の色をRGB表色系の数値で特定し、コロニー数カウント位置の培地の色が規定値であり、かつ赤色コロニーのRGB表色系の数値である場合に目的のコロニーとしてカウントしてもよい。この際、コロニーの最小面積として、画像データ(D3)が例えば300DPIで構成される場合、4画素以上の範囲をコロニーとして、カウントしてもよい。このようなコロニーの最小面積は、任意に設定することができる。
【0093】
培養層は、評価する菌液によって異なるため、予め培養層の色やコロニーの色を設定することで、異なる培養層のコロニー数を正確にカウントすることができる。なお、コロニー数カウントについては、上記画像データ(D3)を対象にして、従来公知の方法、例えば、株式会社エルメックスが提供するコロニーカウンティングシステム「アイザック/iSac」(登録商標)などのコロニーカウントプログラムを使用して行うことができる。
【0094】
本発明で使用する台紙(A)にシリアルナンバーが記載され、微生物培養シート(B)にも検体番号と二次元バーコードに入力されたシリアルナンバーとが記載される場合には、これらを対比させることで、ある微生物培養シート(B)とその微生物培養シート(B)を含む画像データ(Dl)とを簡便に対応させることができる。
【実施例】
【0095】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0096】
(実施例1)
グアーガムとサイリウムシードガムとを4:6質量部に混合したゲル化剤を224g、可塑剤としてグリセリンを28g、バインダーとしてPVP(ポリビニルピロリドン)を70g、トリプトンを26.7g、ビーフエキスを3.3g、イーストエキスを1.0g、ソルビトールを0.5g、リン酸水素ニナトリウムを3.0g、ピルビン酸ナトリウムを1.5g、TTCを0.05gを混合して塗布液を調整した。
この塗工液0.36gを、希釈倍率記入欄を印刷した縦90mm、横70mm、紙基材の略中央にディスペンサーによって、半径25mmの円形に塗工した。この塗布層を50℃で15分間乾燥して乾燥培養層を形成した。
ついで、厚さ50mmのポリエチレンテレフタレートフィルムを前記乾燥培養層を形成した基材の上に積層し、端部を接着し、γ線で滅菌して本発明の微生物培養シート(B)とした。
坪量39g、縦210mm、横297mmのA4判の台紙に、台紙の下端から15mm、80mm、105mm、170mmを中心にして、左端から9mmの位置から、長さ280mm、幅10mmの粘着剤層を4本形成した。ついで、前記粘着剤層の上に、図3と同様に、4枚ずつ2列、上記微生物培養シート(B)を8枚脱着可能に固定し、台紙付き微生物培養シート(100)を製造した。
【0097】
前記台紙付き微生物培養シート(100)の微生物培養シート(B)のカバーシートをめくり、菌液を1ml接種し、カバーシートを被覆する作業を8枚の微生物培養シートについて行い、接種時間を測定した。また、この作業を6枚の台紙付き微生物培養シートについて行い、接種時間を測定した。結果を表1に示す。台紙付き微生物培養シートに固定される8枚の微生物培養シートに、約36秒で菌液を接種することができた。従って、48枚の微生物培養シートに接種するのに要した時間は、わずか3.6分であった。
【0098】
(比較例1)
実施例1で調製した微生物培養シート(B)を8枚用意し、各微生物培養シート(B)に実施例1で使用した菌液を1mlずつ接種し、8枚の接種に要した時間を測定した。これを6回繰り返した。結果を表1に示す。8枚の微生物培養シートに菌液を接種するのに平均47秒を要し、48枚の微生物培養シートに接種するのに4.7分を要した。
【0099】
(比較例2)
基材シートの全面に培養層が形成され、カバーシートの前記培養層に対向する面にも培養層が形成される微生物培養シートを使用して、カバーシートを剥がして培養層に菌液を1mlずつ接種し、カバーシートを被覆した後、菌液の上からスプレッダーで押圧して円形の凹部を形成する作業を微生物培養シート8枚について行い、要した時間を測定した。これを6回繰り返した。結果を表1に示す。8枚の微生物培養シートに菌液を接種するのに平均85秒を要し、48枚の微生物培養シートに接種するのに8.5分を要した。
【0100】
(比較例3)
基材シートの中央に円形の培養層が形成され、前記培養層の外周に粘着剤層が形成され微生物培養シートを使用して、カバーシートを剥がして培養層に菌液を1mlずっ接種し、カバーシートを被覆する作業を微生物培養シート8枚について行い、要した時間を測定した。これを6回繰り返した。結果を表1に示す。8枚の微生物培養シートに菌液を接種するのに平均124秒を要し、48枚の微生物培養シートに接種するのに12.4分を要した。
【0101】
【表1】

【0102】
(結果)
実施例1と比較例1とから、本発明の台紙付き微生物培養シートを使用すると、23%(=(1−(3.6/4.7))×100(%))の時間短縮を行うことができた。また、実施例1と比較例2とを対比すると、58%(=(1−(3.6/8.5))×100(%))の時間短縮を行うことができた。更に、実施例1と比較例3とを対比すると、3分の1の時間で菌液を接種することができた。
【0103】
(実施例2)
実施例1で調製した菌液を接種した台紙付き微生物培養シートを48時間、36℃で培養し、培養後に台紙付き微生物培養シートの表面からスキャナによって画像データを取得し、画像データ取得時間を計測した。画像データを図15に示す。目視により、培養層に赤色コロニーを観察することができる。
【0104】
この画像データを、位置補正プログラム、色補正プログラム、コロニーカウントプログラムが構築された処理装置に送り、位置補正、色補正を行い、TPE(トリフェニルフォルマザン)の赤色をコロニー数としてカウントし、位置補正、色補正並びにコロニー数カウントに要する時間を測定した。結果を表2に示す。なお、コロニーカウントプログラムは、株式会社エルメックス社のアイザックを使用した。これを6枚の台紙付き微生物培養シートについて行った。結果を表2に示す。
【0105】
(比較例4)
比較例1で調製した菌液を接種した微生物培養シートを48時間、36℃で培養し、培養後に各微生物培養シートの表面からスキャナによって画像データを取得し、画像データ取得時間を計測した。
【0106】
この画像データを、実施例2と同様にして位置補正プログラム、色補正プログラム、コロニーカウントプログラムが構築された処理装置に送り、8枚分の画像データについて、位置補正、色補正並びにコロニー数カウントに要する時間を測定した。これを48枚の台紙付き微生物培養シートについて行った。結果を表2に示す。
【0107】
表2に示すように、本発明の台紙付き微生物培養シートを使用すると、1回のスキャナ操作で8枚の微生物培養シートの画像データを入手できるため、画像データ形成の手間を簡便に行う事ができ、かつ画像データ形成時間を短縮することができる。
【0108】
また、本発明の台紙付き微生物培養シートによれば、一度の位置補正並びに色補正によって8枚の微生物培養シートの位置ならびに色補正を行うことができるため、8枚の微生物培養シートのコロニー数カウントを短時間で行うことができる。
【0109】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の台紙付き微生物培養シートや連設微生物培養シートは、台紙や基材シートに複数の微生物培養シートが形成されているため、複数の菌液の接種が容易であり、台紙や基材シートが大きいため菌液を接種した後に微生物培養シートを水平に維持して接種後ただちに培養装置に搬入することができ、処理時間を短縮でき有用である。
【符号の説明】
【0111】
10,10’・・・基材シート、
20、20’・・・乾燥培養層、
30,30’・・・カバーシート、
40・・・希釈倍率記入欄、
50・・・培地識別カラーバー、
60・・・識別子、
70・・・見本配列表、
80・・・シリアルナンバー、
100・・・台紙付き微生物培養シート、
100’・・・連設微生物培養シート、
110・・・棚、
120・・・棚段部、
130・・・蓋部
200・・・収納トレイ、
A・・・微生物培養シート固定用台紙、
B・・・微生物培養シート、
B’・・・連設微生物培養シートにおける微生物培養シート、
C・・・粘着剤層
F・・・枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の微生物培養シートを固定するための微生物培養シート固定用台紙。
【請求項2】
前記微生物培養シートの角部を挿入して固定するための切り欠き部、または前記微生物培養シートを固定するための粘着剤層が形成されていることを特徴とする、請求項1記載の微生物培養シート固定用台紙。
【請求項3】
色補正用のカラーチャートまたはグレースケール、および/または位置認識マーカーが表示されていることを特徴とする、請求項1または2記載の微生物培養シート固定用台紙。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の微生物培養シート固定用台紙に複数の微生物培養シートが固定された台紙付き微生物培養シート。
【請求項5】
前記微生物培養シートは、基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された乾燥培養層と、前記乾燥培養層を被覆するカバーシートとからなることを特徴とする、請求項4記載の台紙付き微生物培養シート。
【請求項6】
基材シートと前記基材シートの一方の面に形成された複数の乾燥培養層と、前記複数の乾燥培養層をそれぞれ被覆するカバーシートとからなる、連設微生物培養シート。
【請求項7】
請求項4記載の台紙付き微生物培養シート、または請求項6記載の連設微生物培養シートを収納するトレイであって、
複数の棚を積層してなる前記台紙付き微生物培養シートまたは前記連設微生物培養シートを収納する棚段部と前記棚段部の上部を被覆する蓋部とからなり、
前記棚は、底面部と前記底面部の外周に立設される側壁部とからなり、前記側壁部の上端に複数の嵌合凸部が形成され、かつ側壁部の底面部に前記嵌合凸部と嵌合しうる複数の嵌合凹部が形成されてなり、
前記棚段部は、上段の棚の前記嵌合凹部に下段の棚の前記嵌合凸部を嵌合させて連結させたものであることを特徴とする、収納トレイ。
【請求項8】
請求項4記載の台紙付き微生物培養シート、または請求項6記載の連設微生物培養シートに菌液を接種し、培養してコロニーを発現させ、当該コロニーを含む前記台紙付き微生物培養シートまたは連設微生物培養シートの画像データを形成し、
前記画像データに含まれる前記コロニーが発現した複数の培養層の画像データを使用して個別に各培養層のコロニー数をカウントすることを特徴とする、コロニー数のカウント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−80881(P2012−80881A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202302(P2011−202302)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000128418)株式会社エルメックス (6)
【Fターム(参考)】