説明

微生物培養シート

【課題】菌数検査などに用いられ、高性能かつ操作が簡便な微生物培養シートを提供する。
【解決手段】基材シートと前記基材シートの上に形成された培地層と、前記培地層を被覆するカバーシートとからなる微生物培養シートであって、前記培地層は、カラギーナン100質量部にPVPを20〜160質量部配合した培地基材を含有することを特徴とする。PVPを配合することで、高濃度の培地基材を使用して、簡便に、高性能の微生物培地シートを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌数検査などに用いられ、吸水量、吸水速度に優れ、コンパクトかつ操作が簡便な微生物培養シートに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の存在を確認し、または微生物数を測定する方法として、寒天平板混釈法があり、予め滅菌したシャーレに形成した寒天培地が使用される。この方法は、寒天培地を高圧蒸気滅菌するためのオートクレーブや、微生物検査を無菌的に行うことのできる検査室が必要であり、微生物のサンプリングから試料液の調整、分注、培地との混釈、培養、計数に至る微生物検査の操作には熟練を要する。そこで、高度の熟練を必要とすることなく簡便に微生物検査を行える微生物培養シートとして、乾燥培地が開発されている。
【0003】
例えば、支持体の上部表面上に形成された水ベース接着剤組成物層と上記接着剤組成物層に付着されたゲル化剤を含む冷水溶解性粉体と前記冷水溶解性粉体を被覆するカバーシートとからなる培養基装置がある(特許文献1)。カバーシートを剥がし、水性テストサンプルを、冷水溶解性粉体層の上に置くとゲル化剤が素早く水和し、微生物の増殖を維持する再構築培地を形成し、カバーシートを被覆し所定時間インキュベートすると、コロニーを透明なカバーシートを通して計数することができる、という。
【0004】
また、1個以上の吸水部を有し、前記吸水部以外の部分が撥水性となっている基材と、前記吸水部を密封するフィルムとからなるシート状培養用容器もある(特許文献2)。培地及び吸水性樹脂が塗布されたシート状の基材と、基材側に吸水性樹脂が形成された透明なフィルムとからなり、培地及び吸水性樹脂に微生物を接種し、その上にフィルムを貼り付けることにより培養することができるため、従来のペトリ皿やシャーレと比較して、軽く、嵩張らないという利点がある、という。フィルムを剥がしてすべての吸水部が漬かるように容器を液体培地に浸漬してから引き上げると、吸水部のみに液体培地が吸収され、吸水部以外の撥水性部分には液体培地が付着しないため、独立した培地が容易にかつ確実に得られ、所望の微生物を培地に接種した後にフィルムで吸水部を密封すれば、この状態で微生物の培養を観察することができる。
【0005】
また、防水性の基材シートと該基材シート上に被せられるカバーシートとを有し、少なくとも基材シート上には培地混合物の層が設けられてなる微生物の微生物培養シートにおいて、前記培地混合物層の上に、接種する被検液の広がりを一定にするための疎水性インキによる外枠層を設けたことを特徴とする微生物培養シートもある(特許文献3)。実施例では、基材シートとして厚さ100μmの透明な2軸延伸ポリエステルフィルムを用い、その上に培地混合物層用塗工液をコンマコーターにより乾燥時の塗工量が30g/m2となるように塗工し、前記培地混合物層の上に、内径50mm、外径70mmのドーナッツ状パターンを、疎水性インキRAM(セイコーアドバンス社製)でスクリーン印刷して外枠層を形成している。
【0006】
更に、方形の粘着シート上に円形の多孔質マトリックス層と水溶性高分子化合物層とを積層し、上部に方形の透明フィルムを配設した微生物培養器もある(特許文献4)。多孔質マトリックス層上に試料液を添加すると、試料液が多孔質マトリックス層に保持され、この保持された水によって多孔質マトリックス層に接した水溶性高分子化合物層が溶解し、生じた水溶性高分子化合物水溶液と生育栄養成分によって微生物の生育しうる環境となる。この微生物培養器では、微生物は水溶性高分子化合物層内部までは侵入せず、更に多孔質マトリックス層の表面まで押し上げられるため、多孔質マトリックス層の表面または表面近傍にコロニーが形成され、透明フィルムが粘着シートと接着することでシート状微生物培養器として利用でき、軽量で嵩が低く取り扱いを容易にできる、という。
【特許文献1】特許公報3383304号公報
【特許文献2】特開平7−289235号公報
【特許文献3】特開平8−280377号公報
【特許文献4】国際公開WO01/044437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微生物検査では多数の検体を処理する必要があり、簡便に操作できることが好ましい。しかしながら、前記特許文献1記載の培養基装置は、支持体上の水ベース接着剤組成物層の全面に、キサンタン・ガム、グアー・ガム、コーカスト・ビーン・ガム、カルボキシメチル・セルロース、ヒドロキシエチル・セルロース、アルギンなどゲル化剤を含む冷水溶解性粉体を付着するものであるが、被検液を粉体上に均一に一定面積に広げることが困難であり、このためスプレッダーで被検液を拡げて使用するものである。よって検体ごとのスプレッダーが必要となり、スプレッダーによって検体を前記冷水溶解性粉体の上で拡げる操作も必要となる。したがって、吸水性に優れる培地基材を使用し、より迅速かつ簡便に使用しうる微生物培養シートが望まれる。
【0008】
また、微生物培養基を有機溶媒を使用せずに製造できれば環境保全に優れる。微生物検査では、一般に37℃で20時間以上の培養を行った後に検出した微生物のコロニー数を計数するが、上記培養期間内に水分が蒸発すると培養が困難となる場合があり、水分を確保するため吸水倍率に優れる培地を使用する必要性が高い。前記特許文献2記載のシート状培養用容器は、撥水性の基材上に円形の吸水部を突出させて形成するため吸水部は撥水性基材に接着しうるものを使用する必要があり、実施例ではポリアクリル酸ナトリウムやシクロヘキサノンなどに溶解させたアクアコークなどが使用されている。同様に、特許文献3の培養装置も、ポリエチレンオキシド〔アクアコーク 住友精化(株)製〕の10重量%トルエン溶液を使用し、有機溶媒を使用して培地層を形成している。したがって、より吸水量や吸水速度に優れ、水溶性溶媒を使用して培地層を形成し得る微生物培養シートが望まれる。
【0009】
また、微生物培養シートは、簡易に使用しうる点に特徴があり、安価に製造しうることが好ましい。特許文献4の微生物培養器は、水溶性高分子化合物層と多孔質マトリックス層との少なくとも2層を必要とする。また、菌体が多孔質マトリックスに入り込んで増殖が進行すると、発生したコロニーが見にくく、特に菌体が接近して増殖した場合、計数が難しくなる場合がある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みて、吸水倍率に優れる培地層を使用し、簡便かつ正確に微生物の観測および計数を行うことができる微生物培養シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、微生物培養シートについて詳細に検討した結果、培地層を構成する培地基材としてカラギーナンは、極めて吸水量および吸水速度に優れること、培地基材としてカラギーナンにポリビニルピロリドン(PVP)を配合すると、高濃度の培地基材を調製することができるため、単位面積当たりの培地基材量を容易に確保できること、カラギーナンやPVPは吸水するとゲル化するため、カバーシートで被覆すると培地層と密着し、他の固定部材を使用しなくてもカバーシートを基材シート側に固定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、基材シートと前記基材シートの上に形成された培地層と、前記培地層を被覆するカバーシートとからなる微生物培養シートであって、前記培地層は、カラギーナン100質量部にポリビニルピロリドンを20〜160質量部配合した培地基材からなることを特徴とする、微生物培養シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、培地基材としてカラギーナンやポリビニルピロリドンを使用するため、有機溶媒を使用せず、水溶性の培地溶液を調製して培地層を形成することができるため、環境保全に優れる。
【0014】
上記カラギーナンは、吸水量および吸水速度が高く、被検液を迅速に吸水できるため、得られる微生物培養シートは操作性に優れる。
本発明の微生物培養シートは、カラギーナンにPVPを配合することで高濃度に培地基材を含有する培地基材水溶液を使用することができ、吸水速度に優れ、かつ保水量を高く維持できる。
【0015】
また、本発明の微生物培養シートは、培地層を被覆するカバーシートを有するため、培養操作中の落下菌などによる汚染を防止することができ、同時に培地層の水分の蒸発を防止することができる。上記カバーシートの内側に、前記培地層と対抗する位置に培地層を形成し、または前記枠層に対向する位置に粘着層を形成すると、カバーシートによる被覆および水分の蒸発をより確実に防止することができ、培養精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第一は、基材シートと前記基材シートの上に形成された培地層と、前記培地層を被覆するカバーシートとからなる微生物培養シートであって、前記培地層は、カラギーナン100質量部にポリビニルピロリドンを20〜160質量部配合した培地基材からなることを特徴とする、微生物培養シートである。
【0017】
本発明の微生物培養シートは、前記基材シートの上に形成された培地層と対向するように、培地層が形成されていてもよく、前記基材シートの上の培地層の上に、疎水性インキからなる枠層が形成されていてもよく、このような疎水性インキとして、UV発泡インキを使用することができる。
【0018】
また、本発明の微生物培養シートにおいて、前記カバーシートは、前記基材シート上に形成された枠層と対向するように、粘着層が形成されていてもよい。更に、前記カバーシートは、前記基材シートに固設されていてもよい。
【0019】
(1)微生物培養シートの構成
本発明の微生物培養シートの好適な態様の一例を図1(a)、(b)に示す。図1(a)は平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A’断面図である。図1では、方形の基材シート(10)の全面に培地層(30)が形成され、かつ前記培地層(30)を被覆するように、カバーシート(40)が設けられている態様が示されている。なお、本発明において、基材シート(10)の形状は、方形に限定されず、円形、楕円形、多角形、不定形などいずれであってもよい。
【0020】
本発明の微生物培養シートは、図2の断面図に示すように、カバーシート(40)に、培地層(30’)が形成されていてもよい。基材シートの上の培地層(30)と、カバーシート(40)に設けられた培地層(30’)とが対向して配設されるため、例えば、基材シート(10)の上の培地層(30)に被検液を接種した後にカバーシート(40)で培地層(30)を被覆すると、前記被検液が培地層(30,30’)に吸水され、双方の培地層(30,30’)で微生物を生育することができる。また、培地層(30,30’)を構成する培地基材は、カラギーナンや更にPVPを含有するものであり、ゲル化によって培地層(30、30’)が粘着性を発揮し、両培地層(30、30’)が密着するため粘着層などを形成することなく、カバーシート(40)を基材シート(10)側に固着することができる。これにより、培地層(30、30’)の乾燥を防止することができ、かつカバーシート(40)上の培地層(30’)内で微生物を培養することで、カバーシート(40)側からの微生物の検出を容易にすることができる。
【0021】
また本発明の微生物培養シートは、図3(a)の部分透視平面図および図3(b)のA−A’線断面図に示すように、基材シート(10)の全面に培地層(30)を形成し、前記培地層の上に円形の枠層(20)を形成したものであってもよい。枠層(20)によって培地層(30)に接種した被検液の吸水範囲を限定することができる。なお、枠層(20)の形状も円形に限定されるものではなく、方形、楕円形、多角形、不定形などいずれであってもよいが、培地層(30)に接種した被検液の吸水範囲が所定の面積を確保しうるように枠層が形成されることが好ましい。また、この態様において、図4の断面図に示すように、更にカバーシート(40)に、基材シート(10)の上の培地層(30)と対向するように培地層(30’)が形成されていてもよい。前記したように、被検液を上下の培地層(30,30’)で吸水するとゲル化しこれらが密に接触し、培地層(30、30’)の乾燥を防止することができる。更に、図5に示すように、前記枠層(20)と対向するように、カバーシート(40)に粘着層(50)が形成されていてもよい。枠層(20)と粘着層(50)が密着することで、培地層(30、30’)の乾燥や汚染をより効果的に防止することができる。
【0022】
なお、本発明の微生物培養シートにおいて、「基材シートの上」とは、基材シートに直接接触する場合の他、基材シートを下に、カバーシートを上にした場合に、基材シートの上方も含むものとする。したがって、基材シート(10)とカバーシート(40)との間には、他の層を含んでいてもよい。例えば、図6の断面図に示すように、基材シート(10)上に粘着層(50)、保護層(60)を順次積層し、この保護層(60)に培地層(30)を形成し、培地層(30)の上に枠層(20)を形成してもよい。培地層(30)に被検液を接種し、カバーシート(40)でこの培地層(30)を被覆すると、カバーシート(40)が基材シート(10)側に粘着層(50)によって固着され、培地層(30)の乾燥と汚染を効率的に防止することができる。また、培地層(30)の下層に保護層(60)が積層されるため、被検液の粘着層(50)への浸出を防止することができ、同時に粘着層に含まれる成分の培地層(30)への溶出を防止して微生物を生育させることができる。なお、図6では、基材シート(10)の下方に、更に格子印刷層(70)を積層する態様を示す。
【0023】
また、基材シート(10)や枠層(20)の形状は、上記に限定されず、例えば、方形の基材シート(10)に方形の培地層(30)が形成されるように、枠層(20)を形成してもよい。基材シート(19)と培地層(30)とが共に方形であり、培地層(30)の上に枠層(20)が升目状に形成され、区分された複数の培地層(30)が形成され、カバーシート(40)が基材シート(10)の端部に固設された態様を図7(a)、(b)に示す。図7(a)は平面図であり、図7(b)は、図7(a)のB−B’断面図である。図7では、カバーシート(40)は、培地層(30)を被覆し、かつ枠層(20)の上部に密着できるように、2つの角部(C1,C2)が形成される態様となっている。なお、図7とは相違するが、カバーシート(40)に、前記基材シート(10)上に形成された枠層(30)と対向するように培地層(30)や粘着層(50)が形成されていてもよい。
【0024】
(2)基材シート
本発明で使用する基材シートは、防水性を有することが必要であり、培地層を形成する際の乾燥処理に耐える耐熱性を有することが好ましく、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックシートが使用できる。基材シートは、無着色の透明でもよいが、発泡により白色を呈するものや白色に着色したものは生育させたコロニーを計数し易い点で好ましい。プラスチックシート以外では、耐水加工を施した紙も使用可能であり、例えば、紙基材に合成樹脂を塗工または押し出しコートしたもの、或いは、プラスチックフィルムをラミネートしたものなどを使用することもできる。
【0025】
基材シートは、カールなどがなく平坦であることが好ましく、その厚さは、特に限定はされないが、通常、25〜500μm、より好ましくは50〜250μmである。本発明では、カラギーナンとPVPとを培地層を構成する培地基材として使用するため、培地基材としてカラギーナンを単独で使用する場合よりも培地基材水溶液中の培地基材濃度を高く設定することができ、相対的に水分量が低減するため乾燥時間を短縮することができ、短時間に吸水量および吸水速度に優れる培地層を形成して熱履歴による変形を回避することができる。なお、基材シートには、予め水に不溶性で微生物の生育に影響を与えないインキで枡目印刷柄が印刷されていてもよい。枡目印刷柄によってコロニーの計数を容易にすることができるからである。印刷の版式は、特に限定されず何でもよいが、着色剤、樹脂、溶剤などの選択範囲が広い点でグラビア印刷などが好ましい。枡目の大きさは1cm角程度が適当である。
【0026】
本発明の微生物培養シートは、培地層で生育させたコロニーを観察、計数するものであり、カバーシート側から観察および計数することができるが、基材シート側から観察および計数してもよい。この場合には、基材シートは、透明であることが好ましい。
【0027】
(3)培地層
基材シートおよびカバーシートに設ける培地層(30、30’)を構成する培地基材として、本発明ではカラギーナンを好適に使用することができる。カラギーナンは、海草(主として紅藻類)から抽剤で抽出し、それから分離して得られるが、本発明で使用するカラギーナンは、抽剤の種類(例えば希アルカリ水溶液、熱水)あるいは分離手段に制約されることがなく、いずれの抽剤あるいは分離手段を用いて製造されたものも使用することができる。
【0028】
カラギーナンは、吸水量が高く吸水速度も速く、本発明では培地基材としてカラギーナンを好適に使用することができ、本発明では、カラギーナン100質量部に対し、PVPを20〜160質量部の範囲で配合する。カラギーナンの水溶液は極めて粘度が高いため、高濃度の水溶液は基材シートへの塗工が困難となる場合があるが、PVPはカラギーナンよりも粘度が低いため、PVPを併用することで培地基材濃度を高くすることができ、これによって吸水量や吸水速度を高く維持することができる。PVPを配合する場合には、カラギーナン100質量部に対し、PVPを20〜160質量部、より好ましくは30〜130質量部の範囲で配合する。20質量部を下回ると、PVPを配合した効果が少なく、一方、160質量部を超えると、カラギーナンの高吸水量、高吸水速度を損なう場合がある。
【0029】
本発明の培地層には、微生物の栄養成分としては、例えば、一般細菌検査用としては、酵母エキス・ペプトン・ブドウ糖混合物、肉エキス・ペプトン混合物、ペプトン・大豆ペプトン・ブドウ糖混合物等や、これらにリン酸二カリウム及び/または塩化ナトリウムを加えた混合物が、大腸菌・大腸菌群検査用としては、デソキシコール酸ナトリウム・ペプトン・クエン酸鉄アンモニウム・塩化ナトリウム・リン酸二カリウム・乳糖・ニュートラルレッド混合物、ペプトン・乳糖・リン酸二カリウム・エオジンY・メチレンブルー混合物等が、ブドウ球菌用としては、肉エキス・ペプトン・塩化ナトリウム・マンニット・フェノールレッド・卵黄混合物、ペプトン・肉エキス・酵母エキス・ピルビン酸ナトリウム・グリシン・塩化リチウム・亜テルル酸卵黄液混合物等が、ビブリオ用としては酵母エキス・ペプトン・蔗糖・チオ硫酸ナトリウム・クエン酸ナトリウム・コール酸ナトリウム・クエン酸第2鉄・塩化ナトリウム・牛胆汁・ブロムチモールブルー・チモールブルー混合物等が、腸球菌用としては、牛脳エキス・ハートエキス・ペプトン・ブドウ糖・リン酸二カリウム・窒化ナトリウム・ブロムチモールブルー・塩化2,3,5−トリフェニルテトラゾリウム混合物等が、真菌用としては、ペプトン・ブドウ糖混合物、酵母エキス・ブドウ糖混合物、ポテトエキス・ブドウ糖混合物等が用いられる。これらの中から発育させようとする微生物に応じて一種またはそれ以上を選択し、混合して使用することができる。なお、微生物を含有する被検液に、微生物の生育栄養成分を含む水を加えることで、微生物の生育しうる培地としてもよい。
【0030】
更に、培地層には微生物に代謝され得る染料を添加することができる。このような染料は、培養過程で発育する微生物に代謝され、コロニーが着色されるため、コロニー数の計数を極めて容易にする効果がある。このような染料として具体的には、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(以下TTCと表示)、p−トリルテトラゾリウムレッド、テトラゾリウムバイオレット、ペテトリルテトラゾリウムブルーなどのテトラゾリム塩やpH指示薬がある。微生物の生育に伴い、発色または変色して微生物の生育が見やすくなり、また、特定の微生物が有する酵素の発色または蛍光酵素基質を加えておくことで、特定の微生物が検出できる。
【0031】
さらに検出目的以外の微生物の生育を抑える選択剤を加えてもよく、また特定の微生物を検出するために発色または蛍光酵素基質を加えてもよい。このような選択剤としては、抗生物質,合成抗菌剤等の抗生剤、色素、界面活性剤、無機塩等が用いられる。抗生物質としては、メチシリン,セフタメタゾール,セフィキシム,セフタジジム,セフスロジン,バシトラシン,ポリミキシンB,リファンピシン,ノボビオシン,コリスチン,リンコマイシン,クロラムフェニコール,テトラサイクリン,ストレプトマイシン等が例示でき、合成抗菌剤としては、サルファ剤,ナリジクス酸,オラキンドックス等が例示できる。また、色素としては、静菌または殺菌作用のあるクリスタルバイオレット,ブリリアントグリーン,マラカイトグリーン,メチレンブルー等が例示できる。また、界面活性剤としては、Tergitol7,ドデシル硫酸塩,ラウリル硫酸塩等が例示できる。また、無機塩類としては、亜セレン酸塩,亜テルル酸塩,亜硫酸塩,窒化ナトリウム,塩化リチウム,シュウ酸塩,高濃度の塩化ナトリウム等が例示できる。これら以外にもタウロコール酸塩,グリシン,胆汁末,胆汁酸塩,デオキシコール酸塩等を用いることができる。
【0032】
培地層は、培地基材であるカラギーナンを水に溶解した培地水溶液を基材シートの上に塗工して形成することができる。前記培地水溶液には、培地基材としてカラギーナンのほかにポリビニルピロリドンや前記微生物の栄養成分、コロニー検出用の染料、選択剤などを配合してもよい。
【0033】
本発明において、基材シートおよびカバーシートの上に形成する培地層の厚さは、培地層を構成する培地基材の吸水量や吸水速度、培地層の面積などによって適宜選択することができ、カラギーナンを培地基材に含有する場合には、例えば乾燥時の塗工量が5〜50g/m2の範囲で好適に微生物を培養することができる。上記範囲で、被検液を迅速に吸水することができる。なお、基材シートとカバーシートとに形成する培地層(30,30’)の組成は同一でも異なっていてもよく、厚さも同一でも異なっていてもよい。なお、微生物培養シートが枠層を有する場合には、培地層が被検液を吸水した後に、前記枠層の高さと等しくなるように培地層を配設することが好ましい。
【0034】
(4)枠層
本発明では、基材シートの上に疎水性インキからなる枠層が形成され、これにより、接種する被検液の広がりを一定にすることができる。枠層に用いる疎水性インキは、疎水性であるため、培養に際してカバーシートを持ち上げ、基材シートに設けたUV発泡インキからなる枠層で囲まれた培地層の上に被検液を滴下し、カバーシートを降ろしてその上から軽く押さえるだけで、特別な器具を使用することなく被検液をUV発泡インキからなる枠層で囲まれた領域全体に均一に広げることができる。培地層が被検液の水分を吸収し、膨潤・ゲル化し、予め含有させた栄養成分が溶出し、被検液中の微生物は均一に分散してゲルに捕捉されるため、そのまま孵卵器に入れて培養することができ、培養により計数の容易なコロニーが形成できる。
【0035】
培地層の上に枠層が形成されると、被検液を接種される培地層の面積を所定範囲に限定することができ、これによって所定液量に含まれる微生物数の計測を容易かつ正確に行うことができる。したがって、枠層の幅は、上記目的を達成できればよく、均一幅に限定されるものではないが、最細部が幅0.5〜5.0mmであることが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0mmである。上記範囲であれば、培地層が吸水した場合でも、培地層の形状を維持でき、かつ枠層の内側と外側との区切り部として機能することができる。また、一般には枠層の高さは、30〜1000μm、より好ましくは100〜500μmである。30μmを下回ると、被検液を広げた際、枠層からはみ出しやすくなり、または被検液を吸水するために必要な培地層(30)の面積が広くなり微生物数の計数が困難となる場合がある。一方、1000μmを超えても吸水後の培地層(30)の上部に空間部が発生するため、カバーシートをした状態での微生物数の計数が困難となる場合があり、製造コストの面でも不利となる。また、枠層の形状が円形である場合、円形の大きさには限定はないが、好ましくは直径3〜7cmである。
【0036】
使用する疎水性発泡インクは、培養に際して接種した被検液の広がり面積を枠層で囲まれた一定の面積に保つために設けるもので、被検液が水系であることからこれを反発できる疎水性インキを用いるものである。従って、枠層に用いるインキとしては、水溶性インキとか親水性のインキでない限り、殆どのインキが使用でき着色していてもよい。また、疎水性インクとして、熱発泡インクやUV発泡剤なども好適に使用することができる。例えば、バインダーとしてポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、そして、塩素化ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、また、塩化ゴムや環化ゴム等のゴム類などを用いたインキが使用できる。これらのインキは単に疎水性であるというよりも撥水性であれば更に好ましく、この点から上記の樹脂にシリコーン類やワックス類を添加したインキは更に好ましい。また、枠層に用いるインキは、疎水性、撥水性であると同時に、塗膜の厚さを厚くする必要があり、上記の樹脂に従来公知の発泡剤等を添加して、発泡インキとして使用することも効果的である。このようなインキを用いて形成する枠層の形状は、特に限定はされず自由であるが、枠層の内部に接種した被検液を枠内一杯に均一に広げるには、例えば角形であるよりは円形である方が広げ易い。従って、枠層としては、内側が円形である例えばドーナッツ状などが好ましい。なお、疎水性インキには、添加剤として、消泡剤、重合禁止剤、顔料分散剤などを添加してもよい。また、通常使用される着色顔料を、15質量%未満の範囲で含有してもよい15質量%を超えると、発泡を阻害する虞れがあるため好ましくない場合がある。
【0037】
印刷方法は、スクリーン印刷のほか、グラビア印刷、凸版印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他等の印刷方式であってもよい。
(5)カバーシート
本発明において、カバーシートは、培養中の落下菌などによる汚染を防止すると共に、培地層の水分蒸発を防止する作用を有する。カバーシートは、防水性、水蒸気不透過性を有すると同時に、微生物の培養後、カバーシートを通してコロニーを観察および計数できるように、透明であることが好ましく、例えば、前記基材シートで挙げたようなポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックフィルムを使用することができる。更に、被検液を接種するためにカバーシートを基材シートから持ち上げる際に、適度の柔軟性が確保されることが好ましい。従って、カバーシートの厚さは、10〜200μm程度が好ましく、20〜70μm程度が更に好ましい。なお、カバーシートの開け閉め等の作業性を考慮すると、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルムまたは易剥離性ポリオレフィンフィルムが特に好ましい。カバーシートは、どのような形状であってもよいが、雑菌の進入を防ぐために、培地層を被覆できるよう、培地層よりも大きいサイズとする必要がある。更に、カバーシートに、培地層や粘着層を形成する場合、これらが適度に接着される必要があり、各層の密着性を確保するためにカバーシートの塗工面にコロナ放電処理などの前処理をすることができる。なお、カバーシートは、培養する微生物の種類により、適した気体透過性、主に酸素透過性を有することが好ましく、この点も考慮して選定する。
【0038】
本発明において、カバーシートは、培地層を被覆できればよく、微生物培養シートに固設されている場合に限定されない。したがって、別個に容易したカバーシートを用いて、被検液を接種した培地層を被覆してもよく、図7に示すように、カバーシートを予め基材シートに固設させる態様であってもよい。
【0039】
(6)粘着層
本発明では、基材シートやカバーシートに粘着層を形成することができる。このような粘着剤は、培地層を被覆したカバーシートを固定し、培地層の蒸発や汚染を防止する目的で配設され、基材シートを密封できればいかなる種類のものを用いてもよいが、作業性を考えると粘着シートと透明フィルムとが再接着できる程度に、弱い粘着力を有する粘着剤が好ましい。例えば、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤が好ましく、特に再剥離タイプ及び微粘着タイプのアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。具体的には、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレート等の炭素数が2〜12のアクリレート100質量部に対し、カルボキシル基や水酸基、アミノ基等の官能基を含有するモノマーを2〜15質量部共重合させたポリマーに、粘着付与剤としてロジン、キシレン樹脂、フェノール樹脂などを加え、メラミン類、イソシアネート類、エポキシなどで架橋したものなどを使用することができる。また、粘着層はどのような形状でもよいが、粘着シートと透明フィルムとの接着部分に隙間がなく接着できる配設されることが好ましい。
【0040】
粘着層の厚さは、特に制限はなく、カバーシートが培地層を被覆し、かつ基材シートと接着しうる粘着性を確保できればよい。
なお、本発明では、粘着層によってカバーシートと基材シートに密着させているが、カバーシートで培地層を密封できれば粘着層に限定されず、把持部材を使用したり、重石を配設する方法などであってもよい。
【0041】
(7)保護層
基材シートの上に粘着層を形成した場合には、粘着層の上に保護層を形成し、この保護層の上に培地層を形成することが好ましい。培地層が被検液を吸水した後に、粘着層へ被検液が吸水性されるのを防止し、粘着層に含まれる成分によって微生物の生育が阻害されるのを防止するためである。
【0042】
したがって、保護層は上記基材シートやカバーシートと同様に、防水性、水蒸気不透過性を有するものを好適に使用することができる。保護層が透明であれば、基材シート側からコロニーを観察および計数することもできる。
【0043】
保護層は、あらかじめ形成したフィルムやシートを前記粘着層上に積層する方法でもよいが、上記基材シートやカバーシートを形成しうる樹脂を塗工して形成してもよい。保護層の厚さは、上記目的を達成できれば特に限定はなく、一般には、25〜100μmが好適である。
【0044】
(8)格子印刷層
本発明に用いられる微生物培養シートには、格子印刷層が形成されていてもよい。このような格子印刷層は、基材シートの下層に升目が印刷された樹脂フィルムや紙基材が積層される態様であってもよいが、前記基材フィルムに格子印刷がなされ、格子印刷層を形成するものであってもよい。また、カバーシートに、格子印刷が形成されていてもよい。
【0045】
(9)製造方法
本発明の微生物培養シートは、基材シートと前記基材シートの上に形成された培地層と、前記培地層を被覆するカバーシートとからなる微生物培養シートであって、前記培地層は、カラギーナン100質量部にポリビニルピロリドンを20〜160質量部配合した培地基材を含有するものである。培地層は、気泡などがなく培地基材が均一に分散されていることが好ましく、培地層を形成する培地水溶液にも気泡などが含まれないことが好ましい。一方、カラギーナンは、吸水量や吸水速度に優れるが、その水溶液は粘度が高く、一旦、気泡が形成されるとそれを排除することが困難である。本発明においてカラギーナンにPVPを配合することができるが、PVPは吸水性に優れ、かつ水溶液を調製する際に気泡を発生することがなく、かつ高濃度に溶解しても培地水溶液の粘度の上昇が少なく、このため塗工操作および乾燥操作を簡便に行うことができるからである。培地水溶液中の培地基材の濃度は、2〜20質量%、より好ましくは4〜15質量%である。4質量%を下回ると乾燥に時間がかかり製造効率が低下する場合があり、一方、20質量%を超えると粘度が高くなり塗工操作が困難となる場合がある。
【0046】
本発明において、培地水溶液を塗工する場合には、上記培地基材と微生物の栄養成分などを水に溶解若しくは懸濁させ、所定の割合で混合および攪拌して得た培地水溶液を、ロールコート、バーコート、エアナイフコート、コンマコート、グラビアコートなどの公知の方法で塗工する。培地層は、乾燥時の塗工量が5〜50g/m2となるように塗工する。5g/m2を下回ると、被検液を吸水するために広範囲の培地層を必要とし、50g/m2を上回ると乾燥時間が長くなり、また被検液の平面方向への広がりが不十分となるため微生物が観察や計数が困難となる場合がある。なお、コーティング装置の乾燥能力にもよるが、特に水系の塗布液を使用する場合、1回コートで塗工しきれない場合は数回に分けて塗工してもよい。コーティング方式の利点は、塗工量を安定化できること、および材料のロスが少なく生産性の良いことである。次いで加熱乾燥することにより培地層を形成することができる。
【0047】
培地層の形成に際し、培地水溶液を基材シートやカバーシートに印刷してもよい。印刷方法としては、スクリーン印刷のほか、グラビア印刷、凸版印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他等の印刷方式で行うことができる。
【0048】
本発明の微生物培地シートが、基材シートに粘着層、保護層および培地層が積層され、培地層上に枠層が形成される場合には、基材シートに粘着層、保護層、培地層、枠層の順に形成してもよく、予め粘着層が形成された基材シートの所定範囲に保護層を形成し、次いで培地層を塗工し、次いで枠層を印刷してもよい。枠層の印刷方法としても、スクリーン印刷のほか、グラビア印刷、凸版印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他等の印刷方式であってもよい。
【0049】
本発明の微生物培養シートは、培地層に被検液を接種した後にカバーシートで培地層を被覆し、これを培養するため、カバーシートの一部が基材シートに固設されていることが操作上、簡便である。ただし、直接スタンプや拭き取り試験などの場合、カバーシートが無いことで作業効率が向上する場合には、カバーシートを取り除いて使用してもよい。
【0050】
カバーシートと基材シートとが同一部材で構成される場合には、別個に作成したカバーシートを基材シートにヒートシールやラミネート接着、その他によって固設してもよいが、カバーシートと基材シートとを同質の材料を使用し、図8(a)の平面図、図8(b)の断面図に示すように基材シート(10)とカバーシート(40)とを連設したまま基材シート(10)に枠層(20)と培地層(30)とを形成し、カバーシート(40)を折り曲げて微生物培養シートを形成してもよい。図8(c)にその断面図を示す。この方法によれば、カバーシートに培地層(30’)や粘着層(50)を形成する場合でも、基材シート(10)とカバーシート(40)が連設されているため、基材シート(10)の上の培地層(30)と対向する位置に正確かつ簡便に培地層(30’)を形成することができる。
【0051】
本発明の微生物培養シートは、ガンマ線照射やエチレンオキサイドガス滅菌等の滅菌を施し、本発明の微生物培養シートの製品とする。
本発明の微生物培養シートは、含まれる微生物栄養成分の種類や、使用する基材シート、カバーシートの通気性その他に応じて各種の微生物の培養を行うことできる。
【実施例】
【0052】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(実施例1)
水100質量部をディスパーで撹拌しながらカラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部を加えて溶解した培地基材を用いて、粘度および発泡の有無を評価した。また、この培地基材水溶液を透明なポリエステルフィルム(東洋紡社製E5100)の上に塗工し、100℃で5分間乾燥して培地層を形成した。乾燥時の塗工量は、5g/m2であった。得られた試料を20cm2に切断したものを精製水に1分間浸漬して浸漬前後の重量差を吸水量として評価した。これを初期吸水量とする。
【0053】
一方、水100質量部をディスパーで撹拌しながらカラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部を加えて溶解し、これにカルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル化学工業株式会社製、商品名「CMCダイセル1110」)2質量部、PVA(日本合成化学工業株式会社製、商品名「ゴーセノールPVA−EG05」)10質量部、またはPVP(関東化学株式会社製、商品名「K90」)5質量部を加えて各培地基材水溶液を調製し、それぞれ透明なポリエステルフィルム(東洋紡社製E5100)を基材シートとして塗工し、100℃で10分間乾燥して培地層を形成した。調製された基材シートと培地層とからなる試料の吸水性を、それぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

(結果)
カラギーナンにCMCNaを配合すると、培地基材水溶液の粘度が上昇して高濃度の塗工が困難となり、塗工量および吸水量を測定することができなかった。また、カラギーナンにPVAを配合すると、培地基材水溶液が発泡し、均一な培地層を形成することが困難となり、また吸水量も低下した。一方、カラギーナンにPVPを配合した培地基材水溶液は、粘度が上昇せず、発泡もなく、吸水量が向上した。
【0055】
(実施例2)
水100質量部にカラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部とPVP(関東化学株式会社製、商品名「K90」)5質量部を溶解して培地基材水溶液を調整し、厚さ100μmの透明なポリエステルフィルム(東洋紡社製E5100)上に厚さ250μmに塗工し、100℃における膜の水分率が12質量%以下になるように100℃で乾燥し、乾燥時の塗工量が5g/m2のカラギーナンとPVPとからなる培地層を形成した。これを20cm2に切断したものを精製水に1分間浸漬して浸漬前後の重量差を吸水量として評価した。これを初期吸水量とする。また、乾燥時に水分量が12質量%以下になる時間を測定した。結果を、表2示す。
【0056】
また、培地基材水溶液の塗工厚を500μmとした以外は上記と同様にして培地層を形成し、上記と同様にして吸水量、塗工量を評価した。
【0057】
【表2】

(比較例1)
カラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部とPVP(関東化学株式会社製、商品名「K90」)5質量部に代えてカラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部を溶解した以外は、実施例2と同様に厚さ250μm、500μmに塗工し、吸水量、塗工量を評価した。結果を、表2示す。
【0058】
(結果)
表2から明らかなように、培地基材の水分量を12質量%に設定し、培地基材がカラギーナン単独の場合とカラギーナンにPVPを配合した場合とを比較すると、塗工厚が同一であればPVPを配合することで乾燥時の塗工量を多くし、かつ初期吸水量を向上させることができた。前記したように、微生物培養シートの初期吸水量は0.5g/min以上であることが好ましく、カラギーナン4質量部とPVP5質量部とからなる培地基材を使用する場合には、培地水溶液の塗工厚を250μmとして乾燥し、乾燥時の塗工量が5g/m2、初期吸水量0.63g/minの微生物培養シートを製造できた。
【0059】
一方、カラギーナン4質量部の水溶液を使用する比較例1では、塗工量が5g/m2の微生物培養シートを調製するために、培地基材水溶液を500μm塗工する必要であり、乾燥時間も長時間が必要となった。なお、比較例1の水溶液は粘度が高いためカラギーナンのより高濃度の溶液を調製することができず、従って前記ポリエステルフィルムの上に、乾燥時の塗工量が20g/m2となる試料を調製することができなかった。
【0060】
(実施例3)
水100質量部にPVP(関東化学株式会社製、商品名「K90」)を5質量部溶解し、ついでカラギーナン(新田ゼラチン社製、商品名「ニッタカラギーナンI2」)4質量部、TTCを0.01質量部、ペプトン1質量部、酵母エキス0.5質量部、ブドウ糖0.2質量部を溶解して培地水溶液を調整し、厚さ100μmの透明なポリエステルフィルム(東洋紡社製E5100)上に乾燥時の塗工量が5g/m2に塗工し、100℃で乾燥して培地層を形成した。
【0061】
一方、カバーシートとして厚さ25μmのPETフィルム(ルミラー(片面コロナ放電処理)東レ株式会社製)を用い、前記培地水溶液を乾燥時の塗工量が5g/m2になるように塗工し、100℃で乾燥し培地層を形成した。
【0062】
上記基材シートとカバーシートとをそれぞれγ線で滅菌して実施例3の微生物培養シートとした。
菌株として大腸菌を使用し、液体培地(NUTRIENT BROTH)にて37℃で24時間振盪培養を行った菌液を滅菌生理食塩水で菌数が102/mlとなるように希釈して、培養試験に用いる菌液を作成した。上記の菌液を、実施例3の微生物培養シートの培地層の上に滅菌済みのピペットで各1ml接種し、その上にカバーシートを培地層を設けた面を下にして乗せ、その上から軽く押さえて被検液を培地層全体に広げ、約1分間静置してゲルを形成させた後、孵卵器に入れ、37℃で48時間培養した。
【0063】
培養後に発生したコロニー数をそれぞれ計数した。培養試料数は5個作成した。結果を表3に示す。
(比較例2)
実施例3の菌液1mlを従来の混釈法により、ペトリ皿に準備した標準寒天培地20mlに混釈して比較用の培養試料を作成した。この培養試料を実施例と同様に、孵卵器に入れて37℃で48時間の培養を行った。
【0064】
培養後に発生したコロニー数をそれぞれ計数した。培養試料数は5個作成した。結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

(結果)
実施例3と比較例1との生育菌数を測定比較した。表3に示すように両者の相関は極めて良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の微生物培養シートは、菌数検査などに用いることができ、コンパクトかつ操作が簡便で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る、基材シート、培地層およびカバーシートとからなる微生物培養シートの一例を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図2】本発明に係る、基材シート、培地層およびカバーシートとからなる微生物培養シートであって、カバーシートに培地層が形成された態様の断面図である。
【図3】本発明に係る、基材シート、培地層およびカバーシートとからなり、培地層の上に形成された微生物培養シートの一例を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図4】本発明に係る、基材シート、培地層およびカバーシートとからなる微生物培養シートであって、培地層の上に枠層(30)が形成され、カバーシートに、前記枠層の内側に対抗するように培地層(30’)が形成された態様の断面図である。
【図5】図4の微生物培養シートのカバーシートに、基材シートに形成した枠層(20)と対向するように粘着層(50)が形成された態様の断面図である。
【図6】本発明に係る、基材シート、粘着層、保護層および培地層からなり、培地層の上に枠層が形成された態様の断面図である。
【図7】本発明に係る、基材シート、培地層、枠層およびカバーシートとからなる微生物培養シートであって、基材シート上に複数の培地層が形成され、カバーシートが基材シートに固設される態様を示す平面図(a)および断面図(b)である。
【図8】本発明に係る、基材シート、培地層、枠層およびカバーシートとからなる微生物培養シートの製造方法を説明する図であって、基材シートとカバーシートとを連設させ、基材シートの上に培地層と枠層とを形成し、カバーシートを折り曲げて微生物培養シートを形成する態様を示す平面図(a)および断面図(b)、(c)である。
【符号の説明】
【0068】
10・・・基材シート、
20・・・枠層、
30・・・培地層、
40・・・カバーシート、
50・・・粘着層、
60・・・保護層、
70・・・格子印刷層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートと前記基材シートの上に形成された培地層と、前記培地層を被覆するカバーシートとからなる微生物培養シートであって、
前記培地層は、カラギーナン100質量部にポリビニルピロリドンを20〜160質量部配合した培地基材からなることを特徴とする、微生物培養シート。
【請求項2】
前記カバーシートは、前記基材シートの上に形成された培地層と対向するように、培地層が形成されることを特徴とする、請求項1記載の微生物培養シート。
【請求項3】
前記基材シートの上の培地層の上に、疎水性インキからなる枠層が形成されることを特徴とする、請求項1または2記載の微生物培養シート。
【請求項4】
前記カバーシートは、前記基材シート上に形成された枠層と対向するように、粘着層が形成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の微生物培養シート。
【請求項5】
前記カバーシートは、前記基材シートに固設されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の微生物培養シート。
【請求項6】
前記疎水性インキが、UV発泡インキである、請求項2〜5のいずれかに記載の微生物培養シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−153500(P2009−153500A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338531(P2007−338531)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】