説明

微生物数測定用セル、およびこれを用いた微生物数測定装置

【課題】測定感度を向上させ、測定時間の短縮化を図ることが可能な微生物数測定用セルおよびこれを用いた微生物数測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の微生物数測定用セルは、微生物数の集菌を行う集菌電極12、および測定を行う測定電極13を有する測定室6と、測定室6に設けられており試料液が流入する流入口7aと、試料液が流出する流出口7bと、測定室6に設けられており微生物数の測定時に測定液が流入する流入口8aと、測定液が流出する流出口8bと、流入口7aから流出口7bの間に設けられており試料液が集菌電極12を介して流れる集菌流路と、流入口8aから流出口8bの間に設けられており測定液が集菌電極12を流れた後に測定電極13を流れる測定流路と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物数測定用セルおよびこれを用いた微生物数測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の微生物数測定用セル、およびこれを用いた微生物数測定装置は、以下のような構成となっていた。
すなわち、微生物数測定用セルは、試料液に含まれる微生物を測定する測定室と、この測定室に設けられ試料液が流入する流入口と、測定室に設けられ試料液が流出する流出口と、測定室の底部に設けられた測定電極と、を有していた。
【0003】
また、この微生物数測定用セルを用いる微生物数測定装置は、上記微生物数測定セルの測定電極に接続した測定部および交流電源部を備えている。そして、交流電源部が、集菌用の交流電圧を測定電極に印加して微生物をトラップし、次にパルス電圧を測定電極に印加してトラップした微生物を破壊する。その後、測定用の交流電圧を測定電極に印加して、破壊された微生物からの細胞質の流出によるコンダクタンスの上昇を測定し、微生物数を算出する(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−127846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例は、検体中に含まれる微生物数を測定することができるという点で、非常に有益なものであった。一方、測定においては、さらなる高感度化、つまり検体中に含まれる微生物数が少ない場合でも正確に測定したいという要望が高まってきた。
この要望に応える際の課題は、測定時間が長いということであった。
すなわち、従来の微生物の測定においては、微生物を破壊して、この破壊された微生物の細胞質の流出によるコンダクタンスの上昇を測定し、微生物数を算出する。
【0006】
この時、十分なコンダクタンス上昇を得るためには、適切な微生物数を集める必要があるが、試料液に含まれる微生物数が少ない時には、この収集に多大な時間がかかってしまう。この結果、従来の構成では、全体の測定時間が長くなってしまう。
そこで本発明の目的は、測定感度を向上させ、かつ測定時間の短縮化を図ることが可能な微生物数測定用セルおよびこれを用いた微生物数測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明の微生物数測定用セルは、測定室と、第1の流入口と、第1の流出口と、第2の流入口と、第2の流出口と、集菌流路と、測定流路と、を備えている。測定室は、微生物数の測定を行う測定電極と、試料液に含まれる微生物数の集菌を行うとともに測定電極よりも大きい集菌電極とを有する。第1の流入口は、測定室に設けられており、試料液が流入する。第1の流出口は、測定室に設けられており、試料液が流出する。第2の流入口は、測定室に設けられており、微生物数の測定時に測定液が流入する。第2の流出口は、測定室に設けられており、測定液が流出する。集菌流路は、第1の流入口と第1の流出口との間に形成され、第1の流入口から流入した試料液を、集菌電極上を介して第1の流出口へと移動させる。測定流路は、第2の流入口と第2の流出口との間に形成され、第2の流入口から流入した測定液を集菌電極上から測定電極上に向かって移動させる。
【0008】
これにより、効率よく微生物を集めて高精度な測定を実施するとともに、その測定時間を従来よりも短縮することができる。
すなわち、本発明においては、微生物を測定する際には、まず、第1の流入口から試料液を測定室内に形成される集菌流路に流入させる。そして、この試料液中の微生物が、集菌専用の集菌電極上に集められる。次に、この試料液の流入を止めて、第2の流入口から測定液が測定流路に流入される。その後、集菌電極上に集められた微生物をリリースし、このリリースされた微生物が測定電極において受け取られて微生物数の測定が行われる。
【0009】
この微生物数の測定においては、コンダクタンスの上昇分を測定していくため、コンダクタンスの上昇に繋がる外乱要因を排除しながら、試料液中の微生物数の起因する上昇分だけを測定する必要がある。
本発明においては、微生物を集める時には、集菌流路中に、集菌専用の集菌電極を設けて微生物を集めている。ここで、集菌電極を大きくすると、コンダクタンスを上昇させる外乱要因となってしまう。しかし、集菌電極では測定を行わないので、コンダクタンス上昇を気にせずに、試料液に含まれる微生物を効率よく集めることができる。その後、この集めた微生物を、測定に適した測定電極に渡して高精度な測定を実施することができる。
【0010】
この結果、集菌用と測定用とでそれぞれ専用の電極を設けたことで、測定感度を向上させつつ、測定に必要な最低限の微生物を集めるための時間を従来よりも短くすることができるため、測定時間も従来よりも短縮することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微生物数測定用セルによれば、測定感度を向上させ、かつ測定に必要な微生物の数を集めるための時間を短くすることができるため、測定時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る細菌数測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1の細菌数測定装置に含まれる測定電極の拡大図。
【図3】図1の細菌数測定装置の動作時における要部拡大断面図。
【図4】(a),(b),(c)は、図1の細菌数測定装置の動作時における測定電極の要部拡大図。
【図5】図1の細菌数測定装置に含まれる細菌数測定用セルの測定室内の底部を示す平面図。
【図6】図1の細菌数測定装置に含まれる細菌数測定用セルの測定室内の底部を示す平面図。
【図7】図1の細菌数測定装置に含まれる細菌数測定用セルの測定室内の底部を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る細菌数測定装置(微生物数測定装置)について、添付図面を用いて説明する。
図1は、微生物(例えば、細菌)の数を測定するための細菌数測定装置の構成を示している。図1中の符号1は、細菌数を測定する測定セル(微生物数測定用セル)である。
測定セル1は、長方形状の基板2の上部に、中央に長方形状の貫通孔3を有する薄板状のスペーサ4を積層し、スペーサ4の上部に、長方形状の蓋体5を積層して構成されている。これにより、測定セル1の内部には、上下方向に薄い長方体形状の測定室6が形成される。
【0014】
また、測定室6の天井部の右端側(図1の奥側)には、細菌を含んだ試料液を流入させるための流入口(第1の流入口)7aが設けられ、測定室6の天井部の左端側(図1の手前側)には、試料液が流出する流出口(第1の流出口)7bが設けられている。流入口7aおよび流出口7bは、それぞれ蓋体5の上部に突き出すように構成されている。
さらに、測定室6の天井部の一端側(図1の左側)には、細菌数の測定時に使用する測定液を流入させるための流入口(第2の流入口)8aが設けられ、測定室6の天井部の他端側(図1の右側)には、測定液が流出する流出口(第2の流出口)8bが設けられている。流入口8aおよび流出口8bも、それぞれ蓋体5の上部に突き出すように構成されている。
【0015】
流入口7aには、送水チューブ10を介して、試料液を収納した検体リザーバ9aが接続されている。一方、流出口7bには、ポンプ11aおよび送水チューブ10を介して、検体リザーバ9aが接続されている。これにより、測定室6の試料液が、検体リザーバ9aに戻るための帰還路が形成される。
さらに、流入口8aには、送水チューブ10を介して、測定液を収納した測定液リザーバ9bが接続されている。一方、流出口8bには、ポンプ11bおよび送水チューブ10を介して、測定液リザーバ9bが接続されている。これにより、測定室6の測定液が、測定液リザーバ9bに戻るための帰還路が形成される。
【0016】
なお、測定室6の底部には、測定液中の細菌を集めるための集菌電極12、細菌数を測定するための測定電極13が設けられている。そして、集菌電極12で集めた細菌を、測定電極13で受け取った後、細菌を破壊して試料液中の細菌の数を測定する。
なお、測定セル1内における集菌および測定については、後段にて詳細に説明する。
また、集菌電極12および測定電極13は、基板2の基材として用いたPET上に銀を蒸着させた後、例えば、レーザーによって加工形成される。なお、測定電極13は、図2に示すように、櫛歯状の電極13a,13bによって構成されている。櫛歯状の電極13a,13bは、長い経路に渡って、両者が極めて近接した状態で対向配置されている。櫛歯状の電極13a,13bに交流電圧を印加することで、両者間に電界を発生させる。そして、この電界の誘電泳動現象によって櫛歯状の電極13a,13bが対向するギャップ部分に測定液中の細菌をトラップして細菌の数を計測する。
【0017】
なお、集菌電極12も、測定電極13と同様に、櫛歯状の電極12a,12b(図5参照)によって構成されている。櫛歯状の電極12a,12bも、長い経路に渡って、両者が極めて近接した状態で対向配置されている。櫛歯状の電極12a,12bに交流電圧を印加することで、両者間に電界を発生させる。そして、櫛歯状の電極12a,12bが対向するギャップ部分に測定液中の細菌をトラップして細菌の数を計測する。
また、櫛歯状の電極12a,12bは、集菌電極12からそれぞれ引き出されており、図1に示すように、基板2に設けられた接続部14を介して集菌交流電源部15に接続されている。そして、集菌交流電源部15は、制御演算部16に接続されている。
【0018】
一方、測定電極13の櫛歯状の電極13a,13bも、測定電極13からそれぞれ引き出されており、図1に示すように、基板2に設けられた接続部14aを介して、測定部17および測定交流電源部18に接続されている。
また、測定部17は、測定電極13のコンダクタンスを測定し、その測定データを制御演算部16に送る。制御演算部16では、細菌数を演算算出し、その結果が表示部19に表示される。
なお、これらの測定の指示を行う操作部20は、制御演算部16に接続されている。また、制御演算部16には、ポンプ11a、ポンプ11bが接続されている。
【0019】
図3は、測定室6において、測定液が流れる様子を模式的に示した断面図である。
本実施形態においては、図1のスペーサ4の厚さを、例えば、250μmとしている。このため、測定室6の高さは、250μmとなる。この上下方向に薄い測定室6の中を、上流側(図3の左側)から下流側(図3の右側)に向かって、試料液、あるいは測定液が流れていく。
なお、測定室6の底部には、集菌電極12が設けられている。そして、測定液中の細菌を、集菌電極12が形成した電界によって生じる誘電泳動力によって、集菌電極12上にトラップするトラップ空間21が形成される。これにより、トラップ空間21を通過する細菌がトラップされ、集菌される。
ここで、測定電極13においても、集菌電極12と同様に、電界が形成されることにより、トラップ領域(図示せず)が形成される。このトラップ領域(図示せず)を通過する細菌を、トラップして集めた後、細菌の数が測定される。
【0020】
図4は、測定電極13における測定の流れを説明するための図である。図4(a)は、測定電極13に細菌をトラップした時の様子を表している。図4(b)は、このトラップした細菌を破壊する時の様子を表している。図4(c)は、図1の測定部17が細菌数を測定している時の様子を表している。
この測定方法に関しては、公知のものであり、先行技術文献として挙げた特許文献に記載されているため、ここでは詳細な説明は割愛する。なお、細菌数の測定時には、まず、制御演算部16の指示によって測定交流電源部18から測定電極13に交流電圧が印加され、これにより発生した電界によって、図4(a)に示すように、細菌をトラップする。
【0021】
次に、測定交流電源部18が測定電極13に対して細菌破壊用のパルス電圧を印加すると、エネルギーの大きいパルス電圧が印加されたことにより、図4(b)に示すように、細菌の外側を覆った細胞膜が破壊され、細胞膜に多数の小孔が形成される。そして、図4(c)に示すように、細菌の中身の細胞質が、この小孔を通じて外部へと溶出していく。
このとき、溶出した細菌の細胞質は、そのほとんどが高導電率の細胞質である。このため、測定電極13の近傍では、一時的に電解質濃度、つまり、コンダクタンスが上昇する。よって、測定交流電源部18から測定電極13に対して測定用の交流電圧が印加され、測定部17において上昇したコンダクタンスが測定される。その後、上昇したコンダクタンス値が制御演算部16に送られ、上昇したコンダクタンスの最大値に基づいて、試料液中の細菌数を推定する。
【0022】
さて、図5〜図7は、本実施形態における測定セル1を、その上方から透過して見た平面図であって、試料液の流入口7a、流出口7b、および測定液の流入口8a、流出口8b、集菌電極12、測定電極13の位置関係が示されている。
なお、上述したように、試料液の流入口7a、流出口7b、および測定液の流入口8a、流出口8bは、測定室6の天井部に設けられている。また、集菌電極12および測定電極13は、測定室6の底部に設けられている。
【0023】
図5は、集菌時における、測定室6内部の様子を説明するための図である。測定室6は、その中央部から一端側にかけて、長方形状の測定室6の右側(図6の上側)が、測定室6の外方に向けて台形状に拡張されている。そして、この拡張部には、細菌を含んだ試料液を流入させるための流入口7aが設けられている。
これにより、流入口7aから流入した試料液は、台形に沿って放射状に、流入口7aから集菌電極12の方向へと流れ込む。
【0024】
また、測定室6は、その中央部から一端側にかけて、左側(図6の下側)が、測定室6の外方に向けて台形状に拡張されている。そして、この拡張部には、試料液を流出させるための流出口7bが設けられている。
これにより、流入口7aから流入して集菌電極12上を通過した試料液は、この拡張された台形部分に沿って集合し、流出口7bから測定室6外部へと流出される。
【0025】
したがって、流入口7aと流出口7bとの間には、図6に示すように、流入口7aから流出口7b方向とは直交する方向に大きく膨らんだ集菌流路22が形成される。
ここで、集菌電極12は、流入口7aと流出口7bとの間に配置されている。よって、図6に示すように、試料液は、集菌電極12上を介して流れる。
なお、集菌電極12は、その長手方向が、集菌流路22の大きく膨らんだ幅方向(図6中の左右方向)に沿って配置されている。そして、集菌電極12の幅は、集菌流路22の幅と、ほぼ同一の大きさになるように配置されている。
【0026】
また、図7は、細菌数を測定する際の測定室6内部の様子を説明するための図である。
図7に示すように、長方形状の測定室6の一端側(図7の左側)には、測定時に使用する測定液を流入させるための流入口8aが設けられている。また、測定室6の他端側(図7の右側)には、測定液が流出する流出口8bが設けられている。
そして、流入口8aから注入された測定液は、流入口8aから流出口8bまでの間において、測定室6の幅方向に拡張された拡張部分に沿って、膨らみを持って流れる。その後、測定液は、測定室6の左側(図7中の下側)の側壁によって中央部分に向かって絞られるように流れていき、測定流路23が形成される。
【0027】
この時、集菌電極12および測定電極13は、流入口8aと流出口8bとの間に配置されている。このため、図7に示すように、測定液は、集菌電極12上を流れた後で測定電極13上を流れる。
なお、測定電極13については、上述した集菌電極12に比べて、大きさ(櫛歯状の電極13a,13bが対向する対向経路の長さ)が小さくなるように形成されている。
【0028】
この理由について、以下で説明する。
集菌電極12および測定電極13は、それぞれが1対の櫛歯状の電極12a,12bおよび電極13a,13bによって構成されている。これらの櫛歯状の電極12a,12bおよび電極13a,13bは、長手方向に沿った経路に渡って、両者が極めて近接した状態で対向配置されている。ここで、この対向した経路が長い場合には、電流が流れやすくなるため、インピーダンスが低下するとともに、コンダクタンスが上昇する。
【0029】
測定電極13を用いた測定時には、細菌が破壊されることで上昇するコンダクタンスを測定するため、経路長に起因するコンダクタンスの上昇は外乱となることから、このような外乱要因はできるだけ排除されることが好ましい。
一方、集菌電極12を用いた集菌時には、櫛歯状の電極12a,12bができるだけ長い経路を持って、素早く集菌することが望ましい。
そこで、本実施形態の測定セル1では、集菌に適した長い経路を持った櫛歯状の電極12a,12bを、集菌専用の集菌電極12として配置し、測定に適した短い経路を持った櫛歯状の電極13a,13bを、測定専用の測定電極13として配置している。
【0030】
<集菌時および測定時の動作>
本実施形態の測定セル1を含む細菌数測定装置における集菌時の動作と測定時の動作について、以下で説明する。
(集菌時の動作)
まず、図1および図6を用いて、集菌時の動作について説明する。
図1に示す細菌数測定装置では、集菌時には、まず、制御演算部16がポンプ11aを動作させる。すると、検体リザーバ9aに収納された試料液は、送水チューブ10、流入口7aを介して、測定室6に流入する。そして、試料液は、測定室6内において集菌流路22(図6参照)を形成しながら、測定室6の右側(図6の上側)から左側(図6の下側)へと流れていく。その後、試料液は、流出口7bを介して測定室6から流出し、ポンプ11aを介して、検体リザーバ9aへと戻される。
【0031】
次に、制御演算部16は、集菌交流電源部15によって、集菌電極12に対して集菌用の交流電圧を印加する。これにより、試料液中に含まれる細菌が、集菌電極12上に形成されるトラップ空間21に集められる。
そして、集菌電極12に十分に細菌を集めた後、ポンプ11aを停止することで、流入口7aへの試料液の供給が停止される。このため、集菌流路22は、これ以降は非形成状態となる。
【0032】
(測定時の動作)
次に、測定動作について、図1および図7を用いて説明する。
図1に示す細菌数測定装置において、制御演算部16がポンプ11bを動作させると、測定液リザーバ9bに収納された測定液(例えば、純水)は、送水チューブ10、流入口8aを介して、測定室6に流入する。そして、測定液は、測定室6内において、測定流路23(図7参照)を形成しながら、一端側(図7中の左側)から他端側(図7中の右側)へと流れていく。その後、測定液(例えば、純水)は、流出口8bを介して測定室6から流出し、ポンプ11bを介して、測定液リザーバ9bへと戻される。
【0033】
次に、制御演算部16は、集菌電極12に対する集菌用の交流電圧の印加を停止する。すると、集菌電極12上に形成されたトラップ空間21に集められていた細菌は、外力を受けない自由な状態となり、図7に示す測定経路に沿って、集菌電極12よりも下流側に設けられた測定電極13へと流出する。
そして、この時、制御演算部16は、測定交流電源部18によって、まず測定電極13に対して測定電圧を印加する。
【0034】
すると、測定電極13は、大きな集菌電極12によって集められた細菌を、効率よく受け取ることができる。これにより、測定に必要な細菌の数を、効率よく測定電極13上に集めることができる。
その後、上述したように、公知の方法を用いて測定を行い、制御演算部16は、細菌数を求めて、その結果(例えば、1×10の2乗(cfu/ml))を表示部19に表示させる。
【0035】
すなわち、本実施形態では、細菌を集めるときには、集菌に適した大きな集菌電極12を用いて素早く集め、その集めた細菌を測定に適した測定電極に渡して測定する。
これにより、測定に必要な微生物の数を集めるための時間を従来よりも短くすることができるため、測定時間を従来よりも短縮することができる。
さらに、本実施形態においては、図6および図7に示すように、集菌流路22の幅(図6中の左右方向の大きさ)は、測定流路23の幅(図7中の上下方向の大きさ)よりも大きい。つまり、集菌流路22は、上述したように、流入口7aから流出口7bへの方向(図6中の上下方向)とは直交する方向に、大きく膨らんで形成される。
【0036】
この理由について、以下で説明する。
まず、集菌時においては、集菌電極12上を流れる測定液の流速と、集菌電極12によって形成されるトラップ空間21(図3参照)の高さ方向における大きさは、トレードオフの関係にある。
つまり、測定液の流速が遅い場合には、トラップ空間21の高さ方向における大きさは拡大される。しかし、流速が遅いために、単位時間当たりのトラップ空間21を通過する細菌の数は少なくなるため、集菌効率が低下してしまう。
【0037】
このため、トラップ空間21を通過する細菌の数を多くしようとして、流速を大きくすると、集菌電極12が細菌を引きつける力よりも、流速が細菌を運ぶ力の方が大きくなって、トラップ空間21の高さ方向における大きさが小さくなってしまう。よって、流速を遅くしても早くしても、いずれの場合も集菌効率が低下してしまう。
本実施形態においては、図6および図7に示すように、集菌流路22は、その幅が、測定流路23の幅よりも大きくなるように形成される。さらに、集菌流路22は、流入口7aから流出口7bへの方向(図6中の上下方向)とは直交する方向に、大きく膨らんで形成される。そして、この大きな膨らみの下に、集菌電極12が配置される。
【0038】
このため、集菌電極12上に形成されるトラップ空間21にできるだけ多くの細菌を送り込むために、流入口7aに大量の試料液を流し込んだ場合には、流入口7aから流入してくる試料液は、図6に示すように、流入口7a近傍の台形の拡張部に沿って放射状に広がりながら、集菌流路22の膨らみに向かって流れていく。そして、その流速は、徐々に緩やかになりながら低下していく。
【0039】
これにより、集菌電極12においては、この十分に流速が下がった状態で、効率よく細菌を集菌することができる。
また、集菌電極12上に形成されるトラップ空間21を通過した試料液は、流出口7bに向かって集められながら、測定室6から素早く排出される。
したがって、集菌流路22に向けて送り込む試料液の量を多くすることができ、この試料液に含まれる細菌を、集菌電極12上に形成されるトラップ空間21に効率よく集めることができる。
【0040】
その結果、測定に必要な細菌(微生物)の数を集めるために要する時間を、従来よりも短くすることができるため、細菌数を測定する時間も従来よりも短縮することができる。
さらに、本実施形態においては、集菌電極12は、測定室6の形状によって形成される集菌流路22の幅方向の大きさと集菌電極12の幅とがほぼ同一するように形成されている。
【0041】
これにより、流入口7aから集菌流路22に大量に送り込まれた測定液のほぼ全てが、集菌電極12上を通過することができる。このため、集菌電極12上に形成されるトラップ空間21において、効率よく細菌を集めることができる。
その結果、測定に必要な細菌(微生物)の数を集めるために要する時間を従来よりも短くすることができるため、細菌数を測定する時間も従来よりも短縮することができる。
【0042】
さらに、本実施形態においては、測定液として、試料液よりも導電率が低いもの、例えば、純水を用いている。そして、この純水によって細菌が測定電極13の方へ運ばれて測定が実施される。なお、ここでいう純水とは、水道水などの原料水に含まれる電解質やその他の不純物を取り除き、導電率を1μS/cm程度まで下げた水を指す。
ここで、測定電極13では、上述したように、コンダクタンスの測定を行われるが、測定液には、試料液よりも導電率が低い溶液(本実施形態においては、純水)を用いている。このため、測定液によるコンダクタンスの上昇が少ない。一方、測定液のコンダクタンスが高い状態では、パルス電圧が印加され破壊された細菌から溶出した電解質によるコンダクタンス、すなわち測定信号が相対的に小さくなる。このため、より多くの微生物を測定電極13に集める必要が生じ、結果として全体の測定時間が長くなってしまう。
【0043】
本実施形態の細菌数測定装置では、測定液として純水を用いることで、測定液のコンダクタンスが低い状態、つまり、外乱要因が少ない状態で、測定を実施することができる。これにより、外乱要因が少ない状態で、細菌の破壊によるコンダクタンスの上昇を高感度に測定することができる。その結果、測定精度を向上させつつ、測定に必要な微生物の数を集めるための時間を従来よりも短くすることができるので、最近数を測定するために要する時間も従来よりも短縮することができる。
【0044】
なお、上述したように、測定液として望ましい条件は、導電率が低いことである。このため、測定液としては、純水以外にも、導電率の低さが純水と比較しても遜色のない、例えば、マニトールなどのバッファを用いることも可能である。
また、測定液の導電率としては、純水に近い方がよく、例えば、50μS/cm以下、より望ましくは10μS/cm以下であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、測定感度を向上させ、かつ測定時間を短縮することができるという効果を奏することから、微生物数測定用セルおよびこれを用いた微生物数測定装置として広く活用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 測定セル(微生物数測定用セル)
2 基板
3 貫通孔
4 スペーサ
5 蓋体
6 測定室
7a 流入口(第1の流入口)
7b 流出口(第1の流出口)
8a 流入口(第2の流入口)
8b 流出口(第2の流出口)
9a 検体リザーバ
9b 測定液リザーバ
10 送水チューブ
11a ポンプ
11b ポンプ
12 集菌電極
12a,12b 櫛歯状の電極
13 測定電極
13a,13b 櫛歯状の電極
14 接続部
14a 接続部
15 集菌交流電源部
16 制御演算部
17 測定部
18 測定交流電源部
19 表示部
20 操作部
21 トラップ空間
22 集菌流路
23 測定流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物数の測定を行う測定電極と、試料液に含まれる微生物数の集菌を行うとともに前記測定電極よりも大きい集菌電極と、を有する測定室と、
前記測定室に設けられており、前記試料液が流入する第1の流入口と、
前記測定室に設けられており、前記試料液が流出する第1の流出口と、
前記測定室に設けられており、微生物数の測定時に、測定液が流入する第2の流入口と、
前記測定室に設けられており、前記測定液が流出する第2の流出口と、
前記第1の流入口と前記第1の流出口との間に形成され、前記第1の流入口から流入した前記試料液を、前記集菌電極上を介して前記第1の流出口へと移動させる集菌流路と、
前記第2の流入口と前記第2の流出口との間に形成され、前記第2の流入口から流入した前記測定液を前記集菌電極上から前記測定電極上に向かって移動させる測定流路と、
を備えている微生物数測定用セル。
【請求項2】
前記集菌流路の幅は、前記測定流路の幅よりも大きい、
請求項1に記載の微生物数測定用セル。
【請求項3】
前記集菌電極は、その幅方向の大きさが、前記集菌流路の幅とほぼ同じになるように形成されている、
請求項1または2に記載の微生物数測定用セル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の微生物数測定用セルと、
前記第1の流入口に接続された検体リザーバと、
前記第1の流出口に接続された前記検体リザーバへの帰還路と、
前記第2の流入口に接続された測定液リザーバと、
前記第2の流出口に接続された前記測定液リザーバへの帰還路と、
前記測定電極に接続されており、前記測定電極上に集められた前記試料液中の微生物数を測定する測定部と、
前記測定電極に接続されており、前記測定電極に対して測定用の電圧を印加する測定交流電源部と、
前記測定部および前記測定交流電源部に接続されており、前記測定部および前記測定交流電源部を制御する制御演算部と、
前記集菌電極に接続されており、前記集菌電極に対して集菌用の電圧を印加する集菌交流電源部と、
を備えている微生物数測定装置。
【請求項5】
前記測定液の導電率は、前記試料液の導電率よりも低い、
請求項1から4のいずれか1項に記載の微生物数測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−132695(P2012−132695A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282636(P2010−282636)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】