説明

微生物熱量計を用いた菌数の測定方法及び該測定方法に用いる寒天培地

【課題】様々な食品中の菌数を測定することができる微生物熱量計を用いた菌数の測定方法及び該測定方法に用いる寒天培地を提供すること。
【解決手段】微生物熱量計を用いた食品中の菌数を測定する方法であって、測定に使用する塊状の寒天培地を測定用容器中に投入し所定の温度に平衡化する工程と、前記寒天培地に流動性を有する試料を添加する工程と、試料が添加された寒天培地を一定温度で保持しながら発生する熱量を測定する工程と、を有することを特徴とする、微生物熱量計を用いた菌数の測定方法及び該測定方法に用いる寒天培地によって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物熱量計を用いた食品中の菌数の測定方法及び該測定方法に用いる寒天培地に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中の菌数は、その食品の衛生度の指標となる。そのため、食品業においては、製品の微生物学的な品質を保証するため、製品だけではなく、製品の原材料や製造過程で調製される中間原料など、食品中の菌数を迅速に測定することが極めて重要である。
【0003】
従来、菌数の測定は、平板寒天培養法によって行われる。すなわち、段階的に希釈した試料を寒天培地に塗抹あるいは混釈培養し、1〜2日後に寒天培地上に出現したコロニーを計数することで菌数を算出する。しかし、平板寒天培養法は、コロニーが出現するまでに長時間を必要とするため、食品中の菌数を迅速に測定することができない。また、試料や培地の調製にコストや労力を費やすという欠点もある。
【0004】
このような背景から、迅速に食品中の菌数を測定する方法の一つとして、微生物熱量計を用いた菌数の測定方法が開発されている。すなわち、微生物が増殖する際に放出する代謝熱を熱量計で測定し、所定の熱量計出力値に達する時間と食品中の初期菌数との相関性に基づき食品中の菌数を測定するものである。例えば、佐藤らは、豚肉片を微生物熱量計の測定用容器に直接収めて測定する方法(直接法)と豚肉片の乳剤を液体培地に添加して測定用容器内で静置培養する方法(間接法)を検討し、直接法及びトリプトソイブイヨン(TSB)液体培地を用いた間接法によって豚肉中の一般生菌数を測定できることを報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤善博ら、「獣医畜産新報」、1990、43(12)、p.768−771
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微生物熱量計を用いた菌数の測定方法における直接法では、検体となる食品を微生物熱量計の測定用容器に直接収め、該食品中に存在する微生物の増殖に伴う代謝熱を測定することで該食品中の菌数を算出する。しかし、水分活性の低い食品や微生物の生育が定常期に達している発酵食品などは、その食品中では増殖することができないために該食品中の菌数を測定することができないといった問題がある。
【0007】
一方、液体培地を用いた間接法では、該食品の乳剤を液体培地中に添加し、該食品中に存在する微生物の増殖に伴う代謝熱を測定することで該食品中の菌数を算出する。しかし、納豆などの好気性細菌が優勢な食品では、液体培地中の溶存酸素濃度が低く、微生物熱量計に静置条件下で設置した液体培地中では増殖することができないために該食品中の菌数を測定することができないといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、様々な食品中の菌数を測定することができる微生物熱量計を用いた菌数の測定方法及び該測定方法に用いる寒天培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、所定の形状の寒天培地を用いることで、水分活性の低い食品や微生物の生育が定常期に達している発酵食品、好気性細菌が優勢な食品など、様々な食品中の菌数を微生物熱量計によって迅速で正確に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、測定に使用する塊状の寒天培地を測定用容器中に投入し所定の温度に平衡化する工程と、前記寒天培地に流動性を有する試料を添加する工程と、試料が添加された寒天培地を一定温度で保持しながら発生する熱量を測定する工程と、を有することを特徴とする、微生物熱量計を用いた菌数の測定方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、微生物熱量計による菌数の測定に用いる寒天培地であって、寒天培地が、塊状である、微生物熱量計用寒天培地を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る微生物熱量計を用いた食品中の菌数の測定方法によれば、迅速で正確に様々な食品中の菌数を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る菌数の測定方法を説明した図である。
【図2】本実施形態に係る寒天培地の形状の一例を示した図である。
【図3】菌数が異なる各種納豆菌懸濁液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図4】熱量計出力値150μVに達する時間と各種濃度の納豆菌懸濁液の初期菌数との相関関係を示す図である。
【図5】測定に使用した円柱状寒天培地を示す図である。
【図6】異なる粒径の円柱状寒天培地を用いた納豆菌懸濁液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図7】異なる粒数の円柱状乾燥ブイヨン寒天培地を用いた納豆菌懸濁液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図8】異なる培地成分濃度の円柱状乾燥ブイヨン寒天培地を用いた納豆菌懸濁液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図9】異なる寒天濃度の円柱状乾燥ブイヨン寒天培地を用いた納豆菌懸濁液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図10】希釈段数が異なるホタテ抽出液の熱量計出力曲線を示す図である。
【図11】熱量計出力値100μVに達する時間とホタテ抽出液の希釈段数との相関関係を示す図である。
【図12】一般生菌数が異なる豚挽肉乳剤の熱量計出力曲線を示す図である。
【図13】熱量計出力値100μVに達する時間と各種濃度の豚挽肉乳剤の初期一般生菌数との相関関係を示す図である。
【図14】大腸菌群数が異なる豚挽肉乳剤の熱量計出力曲線を示す図である。
【図15】熱量計出力値100μVに達する時間と各種濃度の豚挽肉乳剤の初期大腸菌群数との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態における微生物熱量計を用いた食品中の菌数の測定方法について説明する。図1は、本実施形態に係る菌数の測定方法を説明するための図である。
【0015】
本実施形態における微生物熱量計は、従来から知られている微生物熱量計を用いることができる。
【0016】
本実施形態において、微生物熱量計に用いる測定用容器を滅菌し、これに滅菌した塊状の寒天培地を無菌的に投入し、恒温器中で所定の温度に平衡化する(S1)。次いで、この平衡化した測定用容器内の寒天培地上に菌数の測定に用いる流動性を有する試料を速やかに添加する(S2)。なお、寒天培地を投入した該測定用容器および微生物熱量計内の温度を事前に所定の温度に平衡化することによって測定開始直後の微生物熱量計の熱量計出力値を安定させることができ、これにより、微生物の増殖に伴う代謝熱の熱量を正確に測定することができる。
【0017】
前記寒天培地は、対象となる微生物が増殖できれば特に限定されず、例えば、乾燥ブイヨン寒天培地、普通寒天培地、標準寒天培地、デソキシコレート寒天培地などを挙げることができる。
【0018】
前記寒天培地の形状は、微生物熱量計に用いる測定用容器内に入れることができる塊状であれば特に限定されないが、表面積の広さ及び成型加工性の観点から、図2に示す球形10、回転楕円体形12、円柱形20、楕円柱形22、多角柱形30〜34、星形多角柱形40及び42、星型多面形50及び52、円錐形60、楕円錐形62、円錐台形70、楕円錐台形72、多角錐形80〜84又は多角錐台形90〜94が好ましい。また、これら形状の寒天培地を単独又は複数混合して用いることができる。
【0019】
前記寒天培地の成型方法は、測定に使用する寒天培地を所望の形状に成型することができれば特に限定されないが、成型加工性の観点から、平板寒天培地を調製した後、該平板寒天培地から所望の形状の型を用いて型抜きする方法及び所望の形状の型に寒天培地を流し込み成型する方法が好ましい。
【0020】
前記寒天培地の寒天濃度は、寒天濃度が低い場合には成型した寒天培地が容易に崩れてしまい、一方で、寒天濃度が高い場合には成型時の型に寒天が粘着して取り出す際に寒天培地が壊れてしまうため、寒天培地の形状維持の観点から、2.5〜5.0%(w/v)が好ましい。
【0021】
前記寒天培地の総表面積は、総表面積が広い場合にはこぼれることなく寒天表面上に添加することが可能な食品乳剤の量が多くなり、結果としてバイアル中の総菌数を増やすことができるため、好気性細菌が十分に増殖できる観点から、16cm以上が好ましく、24cm以上がより好ましい。
【0022】
前記塊状の寒天培地は、一定空間内における寒天培地の表面積を確保するため、1個当たりの寒天培地の体積が小さすぎる場合では寒天培地間の接触面積が増加して全寒天培地の露出している総表面が減少すること、全寒天培地の総体積が大きすぎる場合では酸素供給を行うヘッドスペースが減少すること、および実用性の観点から、1個当たりの体積が0.4〜0.9cmで、5〜10個を測定用容器に投入することが好ましい。
【0023】
本実施形態において、試料が固形状の食品の場合には、該食品をストマッカー処理やホモジナイズ処理等によって流動状に調製したものを用いる。一方、液状の食品や飲料等は、そのまま使用することができる。
【0024】
前記流動性を有する試料を、測定用容器内の寒天培地に添加し密封した後(S2)、試料が寒天培地表面全体に塗布されるように測定用容器を軽く振ることで寒天培地と試料とを十分に接触させ、これを微生物熱量計内で一定温度に保持する(S3)。これにより、試料中の微生物が寒天培地上で増殖を開始し、該微生物の増殖に伴う代謝熱の熱量を連続的に測定する(S4)。
【0025】
また、菌数を算出するにあたっては、あらかじめ平板寒天培養法によって測定した菌数が既知の流動性を有する試料を用いて同様の方法で熱量を測定し、初期菌数と所定の熱量計出力値に達する時間との関係を示す検量線を作成することで、菌数が未知の試料について、所定の熱量計出力値に達する時間から該試料の初期菌数を算出する(S5)。
【0026】
次に、本発明の実施形態における微生物熱量計用寒天培地について説明する。
【0027】
本実施形態における寒天培地の種類は、対象となる微生物が増殖できれば特に限定されず、例えば、乾燥ブイヨン寒天培地、普通寒天培地、標準寒天培地、デソキシコレート寒天培地などを挙げることができる。
【0028】
前記寒天培地の形状は、微生物熱量計に用いる測定用容器(バイアル)内に入れることができる塊状であれば特に限定されないが、表面積の広さ及び成型加工性の観点から、図2に示す球形10、回転楕円体形12、円柱形20、楕円柱形22、多角柱形30〜34、星形多角柱形40及び42、星型多面形50及び52、円錐形60、楕円錐形62、円錐台形70、楕円錐台形72、多角錐形80〜84又は多角錐台形90から94が好ましい。
【0029】
前記寒天培地の寒天濃度は、寒天濃度が低い場合には成型した寒天培地が容易に崩れてしまい、一方で、寒天濃度が高い場合には成型時の型に寒天が粘着して取り出す際に寒天培地が壊れてしまうため、寒天培地の形状維持の観点から、2.5〜5.0%(w/v)が好ましい。
【0030】
前記寒天培地の総表面積は、総表面積が広い場合にはこぼれることなく寒天表面上に添加することが可能な食品乳剤の量が多くなり、結果としてバイアル中の総菌数を増やすことができるため、好気性細菌が十分に増殖できる観点から、16cm以上が好ましく、24cm以上がより好ましい。
【0031】
前記寒天培地の成型方法は、測定に使用する寒天培地を所望の形状に成型することができれば特に限定されないが、成型加工性の観点から、平板寒天培地を調製した後、該平板寒天培地から所望の形状の型を用いて型抜きする方法及び所望の形状の型に寒天培地を流し込み成型する方法が好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0033】
1.納豆菌の菌数
試料として、納豆菌粉末(成瀬発酵化学研究所社製)25mgを0.1%ペプトン水10mLに懸濁した納豆菌懸濁液を用いた。また、調製した納豆菌懸濁液を原液として段階的に0.1%ペプトン水で10倍、100倍及び1000倍に希釈することで各種納豆菌懸濁希釈液を調製した。なお、納豆菌懸濁液希釈中の菌数を常法に従って標準寒天培地を用いた平板培養法によって測定したところ、原液中の菌数は4.38×10CFU/300μLであった。希釈倍率より算出することで、10倍希釈液中は4.38×10CFU/300μL、100倍希釈液中は4.38×10CFU/300μL、1000倍希釈液中は4.38×10CFU/300μLとした。
【0034】
微生物熱量計(Antares0204FP型;けいはんな文化学術協会微生物計測システム研究所製)の平衡化は、35℃で24時間保持することで行った。
【0035】
測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)2.0g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.5gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の寒天培地を調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。なお、調製した円柱状寒天培地を図5に示した。
【0036】
前記円柱状寒天培地10粒を空の測定用容器(バイアル)に入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量を測定することで熱量計出力値が150μVに到達するまでの時間を調べた。また、その結果を図3に示した。
【0037】
図3に示すように、全ての場合において、熱量計出力曲線は左右対称に近い形を示し、菌の増殖に伴う代謝熱を良好に測定することができた。また、熱量計出力値が150μVに到達するまでの時間は、納豆菌原液では7.4時間、10倍希釈液では9.0時間、100倍希釈液では10.6時間、1000倍希釈液では11.7時間と、初期菌数が多い試料ほど短時間であった。さらに、初期菌数と150μVに達するまでの時間との相関関係を調べたところ、R=0.9929と高い相関性が認められた(図4)。
【0038】
このように、好気性細菌である納豆菌の菌数について、円柱状寒天培地を用いた微生物熱量計によって迅速かつ正確に測定できることが判明した。
【0039】
2.培地の種類及び粒径について
熱量計出力曲線に及ぼす寒天培地の種類及び粒径の影響について、以下の検討を行った。
【0040】
微生物熱量計の平衡化は、上記1.と同様に行った。また、測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、普通寒天培地の場合では、普通寒天培地(日水製薬社製)1.75g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)0.5g(寒天終濃度2.5%(w/v))を純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。一方、乾燥ブイヨン寒天培地の場合では、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)1.5g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.25gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これら寒天培地をそれぞれ無菌的にシャーレ内に入れて、厚さ8mmの平板状の各種寒天培地を調製し、あらかじめ滅菌した直径8mm、10mm又は12mmのパンチャーでそれぞれ型抜きすることで各種円柱状寒天培地を調製した。
【0041】
上記各種円柱状寒天培地の総重量、総表面積及び総体積がそれぞれ出来るだけ同様となるように、直径が8mmの場合は10粒、直径が10mmの場合は7粒、直径が12mmの場合は5粒を空の測定用容器(バイアル)にそれぞれ入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量の測定を行った(図6)。また、1バイアル中の各種寒天培地の総表面積を表1に示した。なお、試料は上記1.の納豆菌懸濁液(原液)を用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
図6に示すように、乾燥ブイヨン寒天培地を用いた場合には、普通寒天培地を用いた場合と比べて短時間で発熱が開始したが、最大出力値は普通寒天培地の方が高い値を示した。一方、普通寒天培地及び乾燥ブイヨン寒天培地ともに、それぞれ円柱の直径が異なる寒天培地を用いても同様の熱量計出力曲線を得ることができた。
【0044】
このように、乾燥ブイヨン寒天培地又は普通寒天培地のどちらを用いても熱量を十分に測定することができた。また、試験した範囲内において、寒天培地の粒径の違いによる熱量計出力曲線の差異はなかった。
【0045】
3.培地の表面積及び体積について
熱量計出力曲線に及ぼす寒天培地の表面積及び体積の影響について、以下の検討を行った。
【0046】
微生物熱量計の平衡化は、上記1.と同様に行った。また、測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)1.5g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.25gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の寒天培地を調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。
【0047】
上記円柱状寒天培地2粒、4粒、6粒、8粒又は10粒をそれぞれ空の測定用容器(バイアル)に入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量の測定を行うとともに、内径30mm、高さ65mmの測定用容器(バイアル)内に調製した該培地の平板寒天培地(培地量として5ml又は20ml添加)についても同様に熱量の測定を行った(図7)。また、1バイアル中の寒天培地の総表面積を表2に示した。なお、試料は上記1.の納豆菌懸濁原液を用いた。
【0048】
【表2】

【0049】
総表面積及び総体積について、図7に示すように、測定用容器(バイアル)に入れる円柱状寒天培地の粒数が4〜10粒(総表面積16.4〜41.0cm:総体積2.5〜6.3cm)の場合、平板寒天培地(表面積7.1cm:総体積5.0及び20.0cm)の場合と比べて熱量計出力値が高い値を示した。また、円柱状寒天培地の粒数が2粒(培地の総表面積8.2cm:総体積1.3cm)の場合では、平板寒天培地を用いた場合と同様の経過を示した。
【0050】
4.培地濃度
熱量計出力曲線に及ぼす寒天培地の培地濃度の影響について、以下の検討を行った。
【0051】
微生物熱量計の平衡化は、上記1.と同様に行った。また、測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)0.375g、0.75g、1.5g又は3.0g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.25gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の各種寒天培地をそれぞれ調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。
【0052】
上記各種円柱状寒天培地7粒をそれぞれ空の測定用容器(バイアル)に入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量の測定を行った。また、その結果を図8に示した。なお、試料は上記1.の納豆菌懸濁原液を用いた。
【0053】
図8に示すように、純水50mLに対する乾燥ブイヨン粉末(日水製薬社製)の添加量が1.5g及び3.0gの場合に最も短時間で発熱を開始した。また、乾燥ブイヨン粉末(日水製薬社製)の添加量が多いほど、すなわち、培地成分量が多いほど最大出力値が高い値を示した。
【0054】
5.寒天濃度
熱量計出力曲線に及ぼす寒天培地の寒天濃度の影響について、以下の検討を行った。
【0055】
微生物熱量計の平衡化は、上記1.と同様に行った。また、測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)2.0g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.25g、1.75g又は2.5gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の各種寒天培地をそれぞれ調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。なお、細菌用粉末寒天(日水製薬社製)0.75g添加の場合では、以下に示す円柱状寒天培地に試料を接種した後、円柱状寒天培地全体に行き渡らせるために軽く振ることで円柱状寒天培地が崩れてしまったので、試験に用いることができなかった。
【0056】
上記各種円柱状寒天培地7粒をそれぞれ空の測定用容器(バイアル)に入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量の測定を行った。また、その結果を図9に示した。なお、試料は上記1.の納豆菌懸濁原液を用いた。
【0057】
図9に示すように、全ての場合において、発熱を開始する時期が同じであったが、寒天濃度が高くなるほど最大出力値が高くなる傾向を示した。
【0058】
6.乾燥ホタテ貝柱抽出液の発熱測定
試料の調製は、乾燥ホタテ1粒(6.77g)を滅菌水10mLに加え、常温で1日間保持することで行った。また、調製したホタテ抽出原液を段階的に0.1%ペプトン水で10倍、100倍及び1000倍希釈することで各種ホタテ抽出希釈液を調製した。
【0059】
微生物熱量計の平衡化は、上記1.と同様に行った。また、測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)2.0g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.5gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の各種寒天培地をそれぞれ調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。
【0060】
上記円柱状寒天培地10粒をそれぞれ空の測定用容器(バイアル)に入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、前記試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量を測定することで熱量計の出力値が100μVに到達する時間を調べた。また、その結果を図10に示した。
【0061】
図10に示すように、熱量計の出力値が100μVに到達する時間は、ホタテ抽出原液では2.9時間、10倍希釈液では4.8時間、100倍希釈液では6.7時間、1000倍希釈液では8.8時間と、初期一般生菌数が多い試料ほど短時間で発熱を開始した。また、希釈段数と100μVに達するまでの時間との相関性を調べたところ、R=0.9988と高い相関性が認められた(図11)。
【0062】
実際に乾燥ホタテ貝柱の一般生菌数推定を行うためには、無菌的にミキサー等で粉砕した後、希釈水を添加したものを熱量計に供する必要があるが、乾燥ホタテのような水分活性の低いサンプルであっても、微生物熱量計による円柱状寒天培地を用いた一般生菌数の測定方法によってその一般生菌数を迅速かつ正確に測定することが可能と考えられる。
【0063】
7.豚挽肉中の一般生菌数及び大腸菌群数
試料として、20℃で一晩放置することで増菌させた市販豚挽肉25gを滅菌した0.1%ペプトン水225mLに添加した後、ストマッカー処理して調製した豚挽肉乳剤を用いた。また、該豚挽肉乳剤を原液として段階的に滅菌した0.1%ペプトン水で10倍、100倍、1000倍及び10000倍に希釈することで各種豚挽肉乳剤希釈液を調製した。なお、これら豚挽肉中の一般生菌数及び大腸菌群数を常法に従って平板培養法によって測定した。すなわち、標準寒天培地を用いて測定した豚挽肉乳剤原液中の一般生菌数は、5.7×10CFU/gで、10倍希釈液中は5.7×10CFU/g、100倍希釈液中は5.7×10CFU/g、1000倍希釈液中は5.7×10CFU/g、10000倍希釈液中は5.7×10CFU/gであった。一方、デソキシコレート培地を用いて測定した豚挽肉乳剤原液中の大腸菌群数は、(1.75×10CFU/g)で、10倍希釈液中は(1.75×10CFU/g)、100倍希釈液中は(1.75×10CFU/g)、1000倍希釈液中は(1.75×10CFU/g)、10000倍希釈液中は(1.75×10CFU/g)であった。
【0064】
微生物熱量計(Antares0204FP型;けいはんな文化学術協会微生物計測システム研究所製)の平衡化は、35℃で24時間保持することで行った。
【0065】
測定に使用する寒天培地の調製は、以下のように行った。すなわち、一般生菌数を測定する場合、乾燥ブイヨン(日水製薬社製)2.0g及び細菌用粉末寒天(日水製薬社製)1.5gを純水50mLに加えてオートクレーブ滅菌した。これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の寒天培地を調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。一方、大腸菌群数を測定する場合、デソキシコレート寒天培地(日水製薬社製)2.25gを純水50mLに加えて加熱溶解した後、これを無菌的にシャーレ内に入れ、厚さ8mmの平板状の寒天培地を調製し、あらかじめ滅菌した直径10mmのパンチャーで型抜きすることで円柱状寒天培地(直径10mm、高さ8mm)を調製した。
【0066】
前記の各種円柱状寒天培地10粒を空の測定用容器(バイアル)にそれぞれ入れ密封条件下で2〜3時間、35℃で平衡化した後、試料300μLを接種し、軽く振って試料を円柱状寒天培地全体に行き渡らせた後、微生物熱量計に設置し、設置30分間後から熱量を測定することで熱量計出力値が100μVに到達するまでの時間を調べた(図12及び14)。
【0067】
豚挽肉中の一般生菌数について、図12に示すように、熱量計の出力値が100μVに到達する時間は、豚挽肉乳剤原液では4.6時間、10倍希釈液では5.9時間、100倍希釈液では7.2時間、1000倍希釈液では10.0時間、1000倍希釈液では12.4時間と、初期一般生菌数が多い試料ほど短時間で発熱を開始した。また、初期一般生菌数と100μVに達するまでの時間との相関性を調べたところ、R=0.9699と高い相関性が認められた(図13)。
【0068】
一方、豚挽肉中の大腸菌群数について、豚挽肉中にはデソキシコレート寒天培地中で生育可能な大腸菌群以外の微生物は認められなかったため、微生物熱量計における発熱は大腸菌群によるものと考えられ、図14に示すように、熱量計の出力値が100μVに到達する時間は、豚挽肉乳剤原液では6.3時間、10倍希釈液では8.1時間、100倍希釈液では10.0時間、1000倍希釈液では12.3時間、1000倍希釈液では16.1時間と、初期大腸菌群数が多い試料ほど短時間で発熱を開始した。また、初期大腸菌群数と100μVに達するまでの時間との相関性を調べたところ、R=0.9717と高い相関性が認められた(図15)。
【0069】
このように、豚挽肉中の一般生菌数及び大腸菌群数について、測定に使用する円柱状寒天培地を選択することで、目的に適う菌数を微生物熱量計によって迅速かつ正確に測定できることが判明した。
【符号の説明】
【0070】
10…球形寒天培地
12…回転楕円体形寒天培地
20…円柱形寒天培地
22…楕円柱形寒天培地
30…三角柱形(多角柱形)寒天培地
32…四角柱形(多角柱形)寒天培地
34…六角柱形(多角柱形)寒天培地
40…星型五角柱形(星型多角柱形)寒天培地
42…星型六角柱形(星型多角柱形)寒天培地
50…星型正十二面体形(星型多面体形)寒天培地
52…六十面体形(星型多面体形)寒天培地
60…円錐形寒天培地
62…楕円錐形寒天培地
70…円錐台形寒天培地
72…楕円錐台形寒天培地
80…三角錐形(多角錐形)寒天培地
82…四角錐形(多角錐形)寒天培地
84…六角錐形(多角錐形)寒天培地
90…三角錐台形(多角錐台形)寒天培地
92…四角錐台形(多角錐台形)寒天培地
94…六角錐台形(多角錐台形)寒天培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物熱量計を用いた食品中の菌数を測定する方法であって、
測定に使用する塊状の寒天培地を測定用容器中に投入し所定の温度に平衡化する工程と、
前記寒天培地に流動性を有する試料を添加する工程と、
試料が添加された寒天培地を一定温度で保持しながら発生する熱量を測定する工程と、
を有することを特徴とする、
微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項2】
前記塊状の寒天培地を複数個投入することを特徴とする、
請求項1に記載の微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項3】
前記寒天培地が、球形、回転楕円体形、円柱形、楕円柱形、多角柱形、星形多角柱形、星型多面形、円錐形、楕円錐形、円錐台形、楕円錐台形、多角錐形、多角錐台形からなる群から選ばれる1種又は2種以上からなることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項4】
前記寒天培地の総表面積が、16cm以上であることを特徴とする、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項5】
前記寒天培地の寒天濃度が、2.5%(w/v)〜5.0%(w/v)であることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項6】
前記流動性を有する試料が、食品を均質化処理したもの、食品を水抽出処理したもの、液状の食品、飲料のいずれか1種であることを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の微生物熱量計を用いた菌数の測定方法。
【請求項7】
微生物熱量計による菌数の測定に用いられる寒天培地であって、
寒天培地が、塊状に形成された、
微生物熱量計用寒天培地。
【請求項8】
前記寒天培地が、球形、回転楕円体形、円柱形、楕円柱形、多角柱形、星形多角柱形、星型多面形、円錐形、楕円錐形、円錐台形、楕円錐台形、多角錐形、多角錐台形のいずれかの形状である、
請求項7に記載の微生物熱量計用寒天培地。
【請求項9】
前記寒天培地の総表面積が、16cm以上である、
請求項7又は8に記載の微生物熱量計用寒天培地。
【請求項10】
前記寒天培地の寒天濃度が、2.5%(w/v)〜5.0%(w/v)である、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の微生物熱量計用寒天培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−223181(P2012−223181A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−276394(P2011−276394)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本食品保蔵科学会 日本食品保蔵科学会第60回大会講演要旨集 2011年6月18日
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】