説明

微生物発電方法及び微生物発電装置

【課題】負極室の微生物を加温するためのエネルギーを利用して、従来よりも効率的な発電を行う。
【解決手段】槽体30内に2枚の板状のカチオン透過体31,31が互いに平行に配置されることにより、該イオン透過性非導電性膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該イオン透過性非導電性膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。正極室33に酸素含有ガスを流通させ、負極室に負極溶液Lを供給し、好ましくは負極溶液を循環させる。正極室33に供給する酸素含有ガスを加温して負極室32を微生物の最適温度に加温すると共に、正極室33の酸素還元触媒の酸素還元活性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法及び装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
【0003】
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、及び電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
【0004】
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、及び微生物種の選択等について様々な検討及び開発が行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0005】
特許文献1には、正極室と負極室とを固体電解質よりなるアルカリイオン導電体で隔て、正極室内及び負極室内をリン酸緩衝液(バッファ)でpH7とし、正極室内のリン酸緩衝液(カソード液)に空気を吹き込んで発電を行うことが記載されている。
【0006】
特許文献2には、正極室と負極室とを区画する電解質膜に接するように、正極板として多孔質体を設置し、正極室に空気を流通させ、多孔質体の空隙中で空気と液とを接触させることが記載されている。(以下、このように正極室内に空気を流通させ、空気中の酸素を電子受容体として利用する正極を「エアーカソード」と称す場合がある。)
【0007】
エアーカソードを用いる微生物発電装置であれば、カソード液が不要で、また、正極室に単に空気を流通させるのみで良く、カソード液中への曝気の必要がないといった利点がある。
【0008】
従来、このようなエアーカソードを用いた微生物発電装置において、発電効率の向上を目的として、エアーカソードの電極反応促進用の触媒についての検討がなされており、例えば、特許文献2には、白金等の白金属元素が有効であると記載され、実施例においては、白金を担持したファーネスブラック粒子をPTFE(テフロン(登録商標))バインダーで結着したものをエアーカソードとしている。
【0009】
即ち、エアーカソードを用いた微生物発電装置では、正極で、負極で生成した電子を受け取り、酸素分子が還元されて生成した酸素イオンと、1)負極から移動したプロトンとの反応で水が生成するか(正極室と負極室とを区画する電解質膜としてカチオン透過膜を用いた場合)、或いは、2)水から生成した水酸イオンが負極に移動して水を生成するが(正極室と負極室とを区画する電解質膜としてアニオン透過膜を用いる場合)、いずれの場合にも、エアーカソードでは通気した酸素含有ガスの酸素分子が酸素イオンに還元される必要があるため、通常は、この酸素分子の還元効率の向上のために、Pt,Co,Mn,Fe等の触媒が用いられている。
【0010】
ところで、微生物は、通常、中温微生物(37℃程度が最適)と高温微生物(55℃程度が最適)に分けられ、これらの微生物は、各々、その最適温度までは、環境温度が高いほど活性が高くなり、通常は、10℃環境温度が上昇すると、2倍から2.5倍程度活性が向上する。従って、例えば、増殖の遅いメタン醗酵菌などでは、廃水や反応槽を加温することにより、効率を向上させている。
【0011】
特許文献3には、このような中温微生物も高温微生物も微生物発電装置に適用できることが記載されているが、このような微生物発電装置にあっても、用いた微生物の活性を有効に発揮させるためには、微生物が保持される負極室をその最適温度に加温する必要がある。このため、従来、エアーカソードを用いた微生物発電装置にあっては、微生物発電装置全体を恒温室内に収納したり、負極室や負極室に供給する負極溶液を加温することにより微生物をその最適温度環境に保持することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−133326号公報
【特許文献2】特開2004−342412号公報
【特許文献3】特許第3022431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、負極室の微生物を加温するためのエネルギーを利用して、従来よりも効率的な発電を行うことができる微生物発電方法及び微生物発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明(請求項1)の微生物発電方法は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室とを備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、該正極室に加温した前記酸素含有ガスを供給することを特徴とするものである。
【0015】
請求項2の微生物発電方法は、請求項1において、前記正極は酸素還元触媒を含むことを特徴とするものである。
【0016】
請求項3の微生物発電方法は、請求項1又は2において、前記正極室に加温した酸素含有ガスを供給することにより、前記負極室内温度を65℃以下に加温することを特徴とするものである。
【0017】
請求項4の微生物発電方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記正極室が空気、酸素富化空気又は純酸素であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明(請求項5)の微生物発電装置は、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、該正極室に酸素含有ガスを供給する手段とを備えた微生物発電装置において、該正極室に供給される酸素含有ガスを加温する手段を設けたことを特徴とするものである。
【0019】
請求項6の微生物発電装置は、請求項5において、前記正極は酸素還元触媒を含むことを特徴とするものである。
【0020】
請求項7の微生物発電装置は、請求項5又は6において、前記正極室に加温した酸素含有ガスを供給することにより、前記負極室内温度を65℃以下に加温することを特徴とするものである。
【0021】
請求項8の微生物発電装置は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記正極室が空気、酸素富化空気又は純酸素であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、正極室に供給する酸素含有ガスを加温することにより、負極室を、負極室内の微生物に最適な温度に加温する。このため、加温された酸素含有ガスが導入される正極室は、負極室よりも更に高温に加温されることとなり、正極室の正極に担持された触媒の酸素還元活性が高められ、この結果、発電効率が向上する。即ち、正極の酸素還元触媒は、温度が高い程その酸素還元活性が高くなり、温度が10℃上昇すると、酸素還元活性は2〜3倍に向上する。本発明では、正極室に加温した酸素含有ガスを供給することにより、負極室の加温と共に正極室をも加温し、しかも正極室を負極室よりも高温に加温することができ、高い触媒活性を得ることができる。
【0023】
これに対して、微生物発電装置全体を加温する方法や負極室のみ或いは負極室に導入する負極溶液を、負極室内の微生物に最適な温度に加温する方法では、正極室をこの負極室内の微生物に最適な温度以上に加温することはできず、このため、加温により触媒の活性を十分に高めることはできない。
【0024】
本発明によれば、負極室内の微生物の加温のためのエネルギーを利用して、正極室内を負極室内の微生物の最適温度よりも高い温度に加温して高い触媒活性を得、発電効率を著しく向上させることができる。
【0025】
本発明において、正極室内の正極は酸素還元触媒を含むものである(請求項2,6)。
【0026】
また、正極室に供給する酸素含有ガスを加温することにより、負極室内温度を65℃以下に加温することが好ましい(請求項3,7)。
【0027】
この酸素含有ガスとしては、空気、酸素富化空気又は純酸素を用いることができる(請求項4,8)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の微生物発電方法及び微生物発電装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
第2図は本発明の微生物発電方法及び装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0031】
槽体1内がイオン透過性非導電性膜2によって正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内にあっては、イオン透過性非導電性膜2に接するように正極5が配置されている。
【0032】
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、イオン透過性非導電性膜2に直に、又は1〜2層程度の微生物の膜を介して接しており、イオン透過性非導電性膜2がカチオン透過膜であれば、負極6からイオン透過性非導電性膜2にプロトン(H)が受け渡し可能となっている。
【0033】
正極室3内は、空室であり、ガス流入口7から空気などの酸素含有ガスが導入され、ガス流出口8から排出配管25を経て排ガスが流出する。
【0034】
本発明においては、この正極室3に導入する酸素含有ガスとして、適当な加温手段で加温した酸素含有ガスを導入する。即ち、従来は負極室4内の微生物をその最適温度に保持するために、例えば負極溶液を別途設けた加温槽で加温することが行われているが、本発明では、この負極溶液の加温の代りに、正極室3に導入する酸素含有ガスを加温して負極室4が負極室4内の微生物の最適温度となるようにする。この加温手段としては特に制限はなく、例えば、正極室3への酸素含有ガス導入配管にヒーターや熱交換器を設ける方法を採用することができる。なお、加温した酸素含有ガスの通気だけでは負極室4の温度を十分に上昇させられない場合は、補助的に負極室4を加温してもよい。
【0035】
多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には流入口4aから負極溶液Lを導入し、流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
【0036】
正極室3内で生じた凝縮水が凝縮水流出口13、凝縮水配管14、凝縮水タンク15、配管16、弁17介して循環配管10に導入可能とされている。なお、配管16がポンプ11の吸込側に接続されているため、弁17を開くとタンク15内の凝縮水が配管16に吸引される。ただし、弁17の代わりにポンプを配管16に設けてもよい。タンク15は、不溶性物質を沈降分離させる作用も有する。
【0037】
正極5と負極6との間に生じた起電力により、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
【0038】
正極室3に加温した酸素含有ガスを通気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液Lを循環させることにより、負極室4内では、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
【0039】
上記反応で生じたプロトンHは、イオン透過性非導電性膜5Aのカチオン透過膜を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。この正極反応で生成したHOは凝縮して凝縮水が生じる。この凝縮水には、イオン透過性非導電性膜2のカチオン透過膜を透過してきたK,Naなどが溶け込み、これにより凝縮水がpH9.5〜12.5程度の高アルカリ性となる。
【0040】
負極室4では、微生物による水の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、負極溶液LのpHが7〜9となるように、正極室3の凝縮水が負極溶液Lに対し添加される。この正極室凝縮水は、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。なお、凝縮水は酸素を含む場合があるため、活性炭充填塔のような脱酸素装置によって凝縮水を脱酸素処理した後、負極溶液に添加するようにしてもよい。このように、正極室5からの高アルカリ性の凝縮水が負極溶液Lに添加されることにより、負極溶液LのpHが7より低くなることが防止される。
【0041】
第1図は本発明の特に好ましい形態に係る微生物発電装置の概略的な断面図である。
【0042】
略直方体形状の槽体30内に2枚の板状のイオン透過性非導電性膜31,31が互いに平行に配置されることにより、該イオン透過性非導電性膜31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該イオン透過性非導電性膜31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。
【0043】
負極室32内には、各イオン透過性非導電性膜31と直に、又は1層〜2層程度の生物膜を介して接するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、イオン透過性非導電性膜31,31に対し軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられるのが好ましい。
【0044】
正極室33内には、イオン透過性非導電性膜31と接して正極35が配置されている。この正極35は、パッキン36に押圧されてイオン透過性非導電性膜31に押し付けられている。正極35とイオン透過性非導電性膜31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、接着剤で接着してもよい。
【0045】
正極35と槽体30の側壁との間は、酸素含有ガスの流通スペースとなっている。
【0046】
この正極35及び負極34は、端子37,39を介して外部抵抗38に接続されている。
【0047】
負極室32には、流入口32aから負極溶液Lが導入され、流出口32bから廃液が流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
【0048】
負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。各正極室33には、ガス流入口51から加温された酸素含有ガスが流入し、排ガスがガス流出口52から流出する。
【0049】
正極室33内の凝縮水は、凝縮水流出口53、配管54を介して凝縮水タンク55に導入され、貯留される。この凝縮水タンク55内の凝縮水は、配管56、弁57、循環配管42、ポンプ43を介して負極室32に供給可能とされている。
【0050】
配管56がポンプ43の吸込側に接続されているため、弁57を開くとタンク55内の凝縮水が配管50に吸引される。なお、弁57の代わりにポンプを配管56に設けてもよい。
【0051】
負極溶液のpHをpH計60で検出し、このpHが7〜9となるように制御器(図示略)によって弁57が制御される。
【0052】
この第1図の微生物発電装置においても、正極室33に加温した酸素含有ガスを流通させ、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
【0053】
この発電運転に伴って、正極室33に高pHの凝縮水が生成し、タンク55に貯留される。微生物反応によりpHが低下しようとする負極室32に、正極室33で生じた高pHの凝縮水を該タンク55から添加することにより、負極室32内のpHを7〜9に維持する。
【0054】
次に、この微生物発電装置の微生物、負極溶液などのほか、イオン透過性非導電性膜、負極及び正極の好適な材料等について説明する。
【0055】
負極溶液L中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
【0056】
負極溶液Lとしては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ごみ等の有機性廃棄物を用いることができる。
【0057】
負極溶液L中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0058】
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
【0059】
負極溶液Lは、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
【0060】
負極溶液Lは有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液は、下水、食品工場排水などの有機性廃水であってもよい。負極溶液L中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
【0061】
正極室に流通させる酸素含有ガスとしては、空気が好適であるが、純酸素や、酸素を富化させた空気を用いることもできる。
【0062】
本発明では、この正極室に導入する酸素含有ガスを予め所定温度に加温する。この酸素含有ガスの加温の程度は、負極室内の温度を負極室内の微生物の最適温度に維持できる温度とされる。従って、負極室内に植菌された微生物が中温微生物の場合には、37℃程度で最適であるため、負極室内の温度を25〜45℃、特に30〜40℃に維持することができるように、酸素含有ガスを加温する。また、負極室内に植菌された微生物が高温微生物の場合には、55℃程度が最適であるため、負極室内の温度を40〜65℃、特に45〜60℃に維持することができるように酸素含有ガスを加温する。
【0063】
従って、酸素含有ガスの加温の程度は、負極室内の微生物の種類(負極室の最適温度)と、正極室に通気する酸素含有ガスの通気量によって適宜決定される。このため、酸素含有ガスとして空気を用いる場合と、純酸素や酸素富化空気を用いる場合とで、その必要とされる通気量が異なる結果、加温の程度が異なるものとなる。即ち、空気に対して、例えば純酸素は、必要とされる正極室への通気量は1/5程度で足り、従って、負極室の加温に必要な加温の程度は、純酸素の方が通気量が少ない分空気よりも高くする必要がある。例えば、負極室温度を17℃から37℃に加温する場合、空気であれば50℃に加温した空気を正極室に通気すればよいが、純酸素を正極室に通知する場合、純酸素は100℃程度に加温する必要がある。この結果、空気を用いる場合よりも純酸素を用いる場合の方が高温のガスを正極室に通気することとなり、従って、正極室内をより高温に加温して、正極の触媒温度を高め、触媒活性をより一層高めることができる。
このようなことから、酸素含有ガスのコスト面では、純酸素よりも空気を用いることが好ましいが、酸素含有ガスの加温による正極触媒活性の向上効果を得る上では、空気よりも純酸素や酸素富化空気を用いる方が有利である。
【0064】
この酸素含有ガスの加温には、前述の如く、各種のヒーターや熱交換器を用いることができる。
【0065】
なお、正極室からの排ガスは、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。また、この排ガスの温度が高い場合は、この排ガスと正極室に供給される酸素含有ガスとの熱交換で酸素含有ガスを加温しても良い。また、加温した酸素含有ガスの通気だけでは負極室の温度を十分に上昇させられない場合は、補助的に負極室を加温してもよい。
【0066】
イオン透過性非導電性膜としては、非導電性でイオン透過性のあるカチオン透過膜又はアニオン透過膜等のイオン透過膜であれば良く、各種イオン交換膜や逆浸透膜等を用いることができる。イオン交換膜としては、プロトン選択性の高いカチオン交換膜、又はアニオン交換膜を好適に使用でき、例えばカチオン交換膜としてはデュポン株式会社製ナフィオン(登録商標)、株式会社アストム製のカチオン交換膜であるCMB膜等が使用できる。また、アニオン交換膜としては、アストム製アニオン交換膜やトクヤマ製アニオン型電解質膜などが好適である。イオン透過性非導電性膜は、薄くて丈夫であることが好ましく、通常、その膜厚は30〜300μm、特に30〜200μm程度であることが好ましい。
【0067】
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
【0068】
このような多孔質の負極を直接に又は微生物層を介してイオン透過性非導電性膜に当接させた場合、電子メディエータを用いることなく、微生物反応で生じた電子が負極に渡るようになり、電子メディエータを不要とすることができる。
【0069】
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
【0070】
負極は全体の厚さが3mm以上40mm以下、特に5〜20mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
【0071】
本発明では、負極室を複数の分室に分割し、各分室を直列接続することで各分室でのpH低下を抑制した上で負極室内の液のpHを調整するようにしてもよい。負極室を分割すれば、各分室での有機物分解量が小さくなる結果、炭酸ガスの生成量も小さくなるため、各分室でのpH低下を少なくできる。
【0072】
正極は、導電性基材と、該導電性基材に担持された酸素還元触媒とを有することが好ましい。
【0073】
導電性基材としては、導電性が高く、耐食性が高く、厚みが薄くても十分な導電性と耐食性、更には導電性基材としての機械的強度を有するものであれば良く、特に制限はないが、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス、ステンレスメッシュ、チタンメッシュ等を用いることができ、これらのうち、特に耐久性と加工のしやすさ等の点から、グラファイトペーパー、グラファイトフェルト、グラファイトクロス等のグラファイト系基材が好ましく、とりわけグラファイトペーパーが好ましい。なお、これらのグラファイト系基材はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂によって疎水化されたものであっても良い。
【0074】
正極の導電性基材の厚さは、厚過ぎると酸素の透過が悪くなり、薄過ぎると、基材に必要な強度等の要求特性を満たすことができないことから、20〜3000μm程度であることが好ましい。
【0075】
酸素還元触媒としては、Pt等の貴金属のほか、Co、Mn、Feや、また、安価で且つ触媒活性が良好であるところから、二酸化マンガン等の金属酸化物が好適であり、その担持量は、0.01〜2.0mg/cm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
説明の便宜上まず比較例を挙げる。
【0077】
[比較例1]
7cm×25cm×2cm(厚さ)の負極室に、厚さ1cmのグラファイトフェルトを2枚重ねて充填して負極を形成した。この負極に対して、イオン透過性非導電性膜としてカチオン交換膜(デュポン株式会社製 商品名(登録商標)「ナフィオン115」)を介して正極室を形成した。正極室は7cm×25cm×0.5cm(厚さ)であり、田中貴金属社製Pt触媒(Pt担持カーボンブラック,Pt含有量50重量%)を、5重量%ナフィオン(登録商標)溶液(デュポン社製)に分散させた液を、PTFEで撥水処理した厚さ160μmのカーボンペーパー(東洋カーボン社製)に、Pt付着量が0.4mg/cmとなるように塗布し、50℃で乾燥させて得られたものを正極として、上記カチオン交換膜と密着させた。
負極のグラファイトフェルトと正極のカーボンペーパーには、ステンレス線を導電性ペーストで接着して電気引出し線とし、2Ωの抵抗で接続した。
【0078】
負極室には、pHを7.5に維持し、酢酸1000mg/Lと燐酸及びアンモニアを含む負極溶液を通液した。この負極溶液は予め、別水槽で35℃に加温し、この水槽で加温した液を負極室へ10mL/minで通液することにより、負極室の温度を35℃に加温した。なお、負極溶液の通液に先立って、他の微生物発電装置の流出液を植菌として通液した。
正極室には、常温の空気を0.5L/minの流量で通気した。
その結果、負極室の通液開始から3日後には発電量はほぼ一定となり、負極1mあたりの発電量は140W(発電効率140W/m)となった。その際、正極室排ガスの温度は22℃であった。
【0079】
[実施例1]
比較例1において、負極溶液の加温を行わず、常温の負極溶液を通液し、正極室に供給する空気は、リボンヒーターを巻いた配管に通すことにより加温し、この加温空気を正極室に供給したこと以外は同様にして発電を行った。
その結果、負極室内を35℃に保つためには、正極室に供給する空気の温度を48℃にする必要があり、正極室内温度が48℃となったことにより発電効率は220W/mと、大幅に向上した。
【0080】
[実施例2]
実施例1において、正極室に供給する酸素含有ガスとして、空気の代りに純酸素を用い、正極室への純酸素の通気量を0.1L/minとしたこと以外は同様にして発電を行った。
その結果、負極室内を35℃に保つためには、正極室に供給する純酸素の温度を93℃にする必要があり、正極室内温度が93℃となったことにより発電効率は312W/mと、更に向上した。
【符号の説明】
【0081】
1,30 槽体
2,31 イオン透過性非導電性膜
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と
を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法において、
該正極室に加温した前記酸素含有ガスを供給することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項2】
請求項1において、前記正極は酸素還元触媒を含むことを特徴とする微生物発電方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記正極室に加温した酸素含有ガスを供給することにより、前記負極室内温度を65℃以下に加温することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記正極室が空気、酸素富化空気又は純酸素であることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項5】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室と、
該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と
を備えた微生物発電装置において、
該正極室に供給される酸素含有ガスを加温する手段を設けたことを特徴とする微生物発電装置。
【請求項6】
請求項5において、前記正極は酸素還元触媒を含むことを特徴とする微生物発電装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記正極室に加温した酸素含有ガスを供給することにより、前記負極室内温度を65℃以下に加温することを特徴とする微生物発電装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記正極室が空気、酸素富化空気又は純酸素であることを特徴とする微生物発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−170828(P2010−170828A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12149(P2009−12149)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)