微生物細胞の生理状態評価方法
【課題】微生物細胞のバイアビリティとバイタリティとを同時にかつ正確に測定することができる、細胞の生理状態評価方法の提供。
【解決手段】本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。
【解決手段】本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、フローサイトメーターを用いた、微生物細胞のバイアビリティおよびバイタリティの両方を同時に測定して解析し得る、微生物細胞集団の生理状態の評価方法に関する。
【0002】
背景技術
酵母のような微生物を用いて発酵、醸造や物質生産をする場合に、生産にこれから用いようとする微生物細胞の生理状態を予め把握しておくことは、発酵の成否を予見し、高品質で安定した製品を得る観点から、極めて重要である。
【0003】
微生物細胞の生理状態は、2つの側面、すなわち細胞の生死を区別するバイアビリティと、細胞自体の活性を示すバイタリティと、から把握し、評価することができる。微生物細胞の生理状態を、バイアビリティとバイタリティの両側面から把握することで、単に微生物が「生きている」というものだけではなく、「生きている」中でもさらに「活き」がいい「元気なもの」であるか否かを知ることができる。
【0004】
微生物細胞のバイアビリティを判定する技術としては、スライドカルチャー法、プレートカルチャー法、細胞染色をもとにしたメチレンブルー法、フルオレセオインジアセテート(FDA)法、1−アニリノ−8−ナフタレンスルホン酸マグネシウム塩法、TO−PRO3染色法(小林弘司ら,防菌防ばい,31,7,2003(非特許文献1))などが知られている。
【0005】
この内、例えば、メチレンブルー法は、酵母に取り込まれたメチレンブルーが生細胞中の還元力によって無色化されることを利用するものである。またFDA法は、取り込まれたFDAが生細胞に存在するエステラーゼによって分解され、生細胞内で蛍光を発することを利用するものである。これらの方法はともに簡便ではあるが、染色のされ方や測定者間で差が生じやすく、また、細胞の増殖力とは必ずしも一致しない。
【0006】
一方、微生物細胞のバイタリティ(活性)を判定する方法としては、代謝活性を利用したアシディフィケーションパワー法、細胞内pH(ICP)法などや、発酵試験法などがある。
【0007】
この内、細胞内pH(ICP)法は、細胞内に蛍光物質を取り込ませてpH6以下の低pH環境下に置き、所定時間経過後に細胞内pHを指標として、細胞の活性を測定する方法である(特開平5−76393号公報(特許文献1))。この方法については、さらにフローサイトメーターを組み合わせて、微生物集団の活性分布を測定する方法も開発されている(特開2002−168870号公報(特許文献2))。しかしながら、ICP法は、細胞の生死(バイアビリティ)を判定することができないため、微生物細胞の集団の生理状態を把握する観点からは、必ずしも満足できるものではなかった。
【0008】
例えば、特開2006−238771号公報(特許文献3)やKaouther Ben Amorら, AEM,68,11,2002(非特許文献2)には、微生物細胞の「バイアビリティ」と「バイタリティ」の両方を同時に評価する方法が報告されている。これらにおける方法は、1レーザーのフローサイトメーターを用いたものであり、バイアビリティをプロピジウムイオダイドで、バイタリティをFDA染色後の蛍光強度を用いて測定するものである。しかしながら、個々の細胞によってフルオレセインおよびその誘導体の取り込み量が異なり、励起光照射によって発生する蛍光の強度は、取り込まれたフルオレセインの細胞内濃度によって左右されるので、測定された蛍光強度の絶対値では細胞個々の正確なバイタリティを測定するのが難しいといえた。
【0009】
したがって、バイアビリティとバイタリティを同時かつ正確に測定する方法が依然として求められている。
【0010】
【特許文献1】特開平5−76393号公報
【特許文献2】特開2002−168870号公報
【特許文献3】特開2006−238771号公報
【非特許文献1】小林弘司ら,防菌防ばい,31,7,2003
【非特許文献2】Kaouther Ben Amorら, AEM,68,11,2002
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今般、細胞内pHを測定するICP法で使用される色素に加えて、特定のDNA染色色素をさらに用いて同時に細胞を染色し、得られた細胞を、各色素に対応する個別の波長を有する2種類の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、個々の細胞質内pHを計測することができ、それによって個々の細胞の活性(バイタリティ)を迅速に測定すると同時に、さらに個々の細胞の生死(バイアビリティ)判定も同時にかつ正確に行うことに成功した。また色素の選択と、照射する励起光波長の選択の結果、同時染色に伴う相互干渉等もみられず、個々の細胞についてのバイタリティおよびバイアビリティを正確かつ効率的に判定可能であった。得られる結果は、個々の細胞のデータの積み重ねであることから、細胞集団について評価する従来の方法に比べて格段に正確性の高いものであった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0012】
よって、本発明は、微生物細胞のバイアビリティとバイタリティとを同時にかつ正確に測定することができる、細胞の生理状態評価方法の提供をその目的とする。
【0013】
本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、細胞膜非透過性のDNA染色色素は、4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(TO−PRO 3色素)である。
【0015】
本発明の一つの好ましい態様によれば、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体が、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートである。
【0016】
本発明の一つの好ましい態様によれば、2種類の励起光の波長がそれぞれ、410nm〜510nmおよび540nm〜700nmから選択されるものであり、測定する3種類の蛍光波長が510nm〜640nmから2種、かつ、600nm〜800nmから1種選択される。
【0017】
本発明の別の好ましい態様によれば、650nm〜680nmの蛍光強度を測定することによって微生物細胞の生死(バイアビリティ)を判定し、それに基づいて、全細胞群から死滅細胞を除いた生細胞群における、細胞活性(バイタリティ)を得ることを含む。
【0018】
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、蛍光強度の測定によって得られた細胞内pH値が、所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を細胞活性が高いものと判定することを含んでなる。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、微生物が食品用の酵母または細菌である。
【0020】
本発明の微生物細胞の生理状態評価方法によれば、微生物細胞のバイアビリティとバイタリティを同時にかつ正確に計測することが可能となる。これにより、細胞の活性情報に加えて、細胞の生死判別の結果も得られるため、両者の結果から、生細胞の割合と、その生細胞の活性を知ることができるため、評価対象の細胞またはその集団のより厳密な生理状態を迅速に評価することができる。また、本発明の方法は、細胞活性を絶対値として得ることができるため、例えば三段階の評価基準で分類して評価していた従来の方法よりも、より正確に細胞の生理状態の評価をすることができる。また本発明によれば、同一細胞の細胞内pHと細胞の死滅率が同時に解析可能であるため、目的とする細胞もしくは細胞集団の糖消費経過を正確に予測することができる。本発明による方法は、適切な酵母ハンドリングや醸造における仕込発酵条件の設定に威力を発揮し得るものであり、ビール醸造などをはじめとする各種醸造過程において工程管理指標としての利用が期待される。
【発明の具体的説明】
【0021】
微生物細胞の生理状態評価方法
本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、前記したように、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。ここで、微生物細胞の生理状態評価とは、微生物の細胞活性の良否と、細胞の生死の状態に基づく、評価のことを言う。
【0022】
本発明において、測定対象となる「微生物」としては、例えば、酵母、細菌(乳酸菌、ビフィズス菌等)など食品等の分野に有用な微生物が挙げられる。ここで酵母としては、分類学上酵母の範疇に入るものであればいずれもであっても良い。酵母の例としては、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母等であって、微生物学的にはサッカロマイセス(Saccaaromyces)に属するものが挙げられる。また酵母には、例えば醸造業者が使用目的に応じて育種したものも包含され、そのような「変異種」(変異株)も本発明における微生物に包含される。
【0023】
本発明において、「細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体」とは、細胞膜透過性を有する色素の誘導体であって、それ自体は蛍光性を有しないが、ひとたび細胞内に入ると、細胞内のエステラーゼによって加水分解されて、蛍光性を示すpH感受性の色素化合物に変換されうるものを言う。すなわち、このような色素前駆体としては、例えば、pH感受性蛍光色素が、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を少なくとも有するものであり、この官能基が低級カルボン酸(例えば炭素数1〜4)または低級アルコール(例えば炭素数1〜4)によりエステル化されたものが挙げられる。すなわちこの場合、前記色素前駆体とは、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素のエステル誘導体である。エステル誘導体とすることで、細胞膜透過性とすることができる一方で、細胞内に入るとエステラーゼの作用により、エステルが加水分解され、蛍光性を有するpH感受性色素となる。ここでpH感受性の蛍光色素とは、外部のpHに依存して蛍光性を変化させうる色素のことをいう。
【0024】
本発明においては、pH感受性蛍光色素としては、例えば、フルオレセインおよびその誘導体、クエン1およびその誘導体、1,4−ジヒドロキシ−フタロニトリルおよびその誘導体、ウンベリフェロンおよびその誘導体、5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホネート(ダンシル)発色基、カルボキシセミナフトロダフルオル(carboxy-seminaphthorhodafluor)(カルボキシSNARF)、カルボキシ−セミナフトフルオレセイン(カルボキシSNAFL)等が挙げられる。このような色素を、前記したように予めエステル化することによって、本発明の細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体とすることができる。
【0025】
細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体の具体例としては、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテート、5−カルボキシフルオレセインジアセテート、6−カルボキシフルオレセインジアセテートや2’,7’−ビス(カルボキシエチル)−5(6)−カルボキシフルオレセイン・テトラアセトオキシメチルエステル等が挙げられる。本発明においては、この内、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートがより好ましい。5(6)−カルボキシフルオレセインは、細胞質に入った後、他の膜系に再移行し難い性質を持っている。
【0026】
本発明において、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」とは、細胞膜透過性を有しない色素であって、細胞膜が破壊された細胞内に入り込んで、細胞の染色体(DNA)を染色して蛍光を発し得る色素化合物を言う。本発明ではさらに、該DNA染色色素は、前記したpH感受性蛍光色素とは異なる励起波長で蛍光を発しうるものである。すなわち、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」としては、このような性質を具備する限りいずれの色素であっても使用することができる。本発明においては、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」は、好ましくは、TO−PRO 3(invitrogen社より入手可能、TO−PRO−3 iodide)(4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(4-[3-(3-methyl-2(3H)- benzothiazolylidene)-1-propenyl]-1-[3-(trimethylammonio)propyl]-Quinolinium diiodide))である。
【0027】
微生物細胞を、pH感受性蛍光色素で染色するには、もしくはその細胞膜透過性の色素前駆体を微生物細胞内に取り込ませるには、通常、酵母細胞などの微生物細胞をその水性縣濁液中で例えば0℃〜常温で色素前駆体と所定持間、例えば数秒〜60分間程度、好ましくは低温(0〜10℃)で5〜30分間接触させればよい。また微生物細胞をDNA染色色素で染色するには、微生物細胞内をpH感受性蛍光色素を染色するタイミング、またはその細胞膜透過性の色素前駆体を微生物細胞内に取り込ませるタイミングとは関係なく、いずれのタイミングにおいて染色を行っても良い。通常、酵母細胞などの微生物細胞をその水性懸濁液中で例えば0℃〜常温でDNA染色色素と所定時間、例えば数秒以上接触させればよい。
【0028】
本発明においては、微生物細胞を、pH感受性蛍光色素およびDNA染色色素で同時染色する。このため、同時染色する場合、通常、微生物細胞をその水性縣濁液中で、pH感受性蛍光色素前駆体およびDNA染色色素と、例えば0℃〜常温で所定持間、例えば数秒〜60分間程度、好ましくは低温(0〜10℃)で5〜30分間接触させればよい。
【0029】
本発明においては、微生物細胞内にpH感受性蛍光色素を取り込ませた後、微生物細胞をpH6以下の酸性条件下、好ましくは5以下の条件下に所定時間保持する。pHの下限は2.0付近にあり、好ましくはpH2.6〜3.5程度である。このような低pH条件を調整するには、例えば微生物の水性懸濁液に無機酸(塩酸、硫酸など)または有機酸(燐酸、酢酸、クエン酸など)を添加すればよい。また所定のpHを維持するためには、通常酸性緩衝剤(燐酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液など)を用いてpH調整すればよい。微生物細胞を上記のような低pHの条件下に保持する時間は、微生物細胞内pHが実質的に変化しなくなるまでの時間が好ましく、通常1分〜400分程度まで、好ましくは5分〜100分、特に好ましくは30分〜100分程度である。
【0030】
また、低pHの条件下における温度は、通常微生物細胞が活性を有する、もしくは代謝活動を行い得る温度であり、例えば酵母(ビール酵母、パン酵母など)では、好ましくは0℃から30℃程度であり、細菌(例えば乳酸菌、ビフィズス菌など)では0℃から37℃程度である。
【0031】
このように色素を細胞に取り込ませた後に、細胞を低pH条件下に置くと、活性の高い細胞は、細胞外pHが低くても細胞内pHの低下は小さいが、細胞が弱って活性が低下すると、細胞内pHも低下する傾向にある。これは微生物のプロトン排出能に基づく傾向であると言える。このような理論に制限されるものではないが、本発明は、かかる現象を利用するものである。
【0032】
微生物の染色方法および活性測定用サンプルの調製の条件は、例えば、酵母の測定に関する特開平5−76393号公報、および特開2002−168870号公報に記載された方法に準拠することができ、後述する実施例にも具体的に記載されている。
【0033】
本発明の方法において、pH感受性蛍光色素とDNA染色色素を取り込ませた微生物細胞に、2種の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定する。これにより、微生物細胞内pHを測定すると同時に、細胞の生死判別(細胞の死滅率)を測定する。
【0034】
照射する励起光としては、使用するpH感受性蛍光色素とDNA染色色素のそれぞれを励起して蛍光を発せさせることができる色素に対応する2種類の波長の励起光であって、互いの励起光での蛍光に影響のない波長の励起光であることが望ましい。例えば、pH感受性蛍光色素として5(6)−カルボキシフルオレセインを使用し、DNA染色色素としてTO−PRO 3を使用した場合には、410〜510nmと540〜700nmのそれぞれの範囲内の波長を有する2種類の励起光を使用する。前者の波長範囲ものが5(6)−カルボキシフルオレセインで使用できものであり、後者の波長範囲がTO−PRO 3で使用できるものである。通常、これら励起光波長はそれぞれ、約488nmと約633nmが使用される。
【0035】
また、測定される3種類の蛍光波長としては、使用するpH感受性蛍光色素とDNA染色色素のそれぞれに対して使用した励起波長に対応して適宜決定することができ、例えば、pH感受性蛍光色素として5(6)−カルボキシフルオレセインを使用し、DNA染色色素としてTO−PRO 3を使用した場合には、5(6)−カルボキシフルオレセインについて510〜640nmの蛍光波長範囲から2種類選択され、TO−PRO 3について600〜800nmの蛍光波長範囲から選択される。前者の波長範囲においては、2種類の蛍光波長は、例えば、約525nmと約550nm、約525nmと約575nm、約525nmと約590nm、約525nmと約610nm、および、約525nmと約635nmなどの組み合わせから好ましく選択することができ、より好ましくは、約525nmと約575nmの組合せ、または約525nmと約550nmの組合せから選択できる。後者の波長範囲においては、好ましくは、約660nmが使用される。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法においては、励起波長として、410〜510nmと540〜700nmとの範囲からそれぞれ1波長で、2種類を使用し、410〜510nmの励起光に対して510〜640nmの中から2種類の蛍光波長を使用し、540〜700nmの励起光に対して600〜800nmの中から1種類の蛍光波長を使用する。
【0037】
微生物細胞内に取り込まれたpH感受性蛍光色素は、上記のように励起光を照射すると所与の細胞内pHに応じた蛍光を発する。所定の1励起波長によって発生する蛍光を所定の2波長において測定して得た2つの蛍光強度値と蛍光色素が置かれているpH条件との関係を予め求めて検量線を作成しておき、さらに、励起光により微生物細胞が発生する蛍光の強度を測定することにより、細胞内pHを知ることができる。この場合、例えば酸性緩衝液のpH系列と得られる2つの蛍光測定値の比との関係を予め求めて検量線を作製すればよい。検量線の作成は、例えば、5(6)カルボキシフルオレセインを酸性緩衝液のpH系列に溶解した液に無蛍光性の多孔性微粒子を添加し、フローサイトメーター測定を実施し2つの蛍光強度を計測して、その両測定値の比と上記pH系列との関係を求めればよい(例えば、特開2002−168870号公報の実施例(4)および図6参照)。
【0038】
本発明による方法は、上記のような本発明による微生物細胞内pH測定法を用いることを特徴の一つとするものである。本発明の一つの態様において、得られた細胞内pH値が所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を活性が高いものと判定する。本発明の他の一つの態様において、微生物細胞活性を、個々の細胞の活性または細胞集団の活性の分布状態として表わす。
【0039】
具体的には、前記のようにして測定された微生物細胞内pHは当該細胞の活性と相関があり、細胞内pH値が大きい細胞ほど活性が大きいので、対象とする微生物に対して、予め細胞内pH値と細胞活性についての情報を用意しておけば、細胞内pH値から当該細胞の活性を把握することができる。
例えば、酵母であれば、測定した酵母細胞内pH値を当該酵母本来のもしくは固有の細胞内pH値(活性の低下のない本来の高い活性を有する酵母を活性測定に用いた場合に得られる細胞内pH値)と比較し、その差が小さいものほど活性が高いと判定することができる。この値は、微生物の種類および使用する低pH値により異なり得るが、通常は例えば酵母で4.8〜6.5程度であり、乳酸菌、ビフィズ菌で6〜8程度である。また、得られた細胞内pH値を所定値と比較して、例えば所定値を酵母で6.0、乳酸菌、ビフィズス菌で6.5と設定してこの所定値と比較してこれより高いものを活性が高いと判定することができる。このような判定法を用いれば、例えば微生物(特に食品用の酵母、細菌)を産業上の目的で発酵等に利用する場合において、本発明による微生物活性評価を実施し、例えば所定値より低いpH値が得られたとき、あるいは測定されたpH値と微生物本来の細胞内pH値ととの差がある一定値以上になった時はその細胞を使用しないことにより、常に活性の高い細胞のみを利用することができる。
【0040】
一方、細胞の生死は、上記のように励起光を照射すると細胞の生死に応じた蛍光を発するため、これに基づいて細胞の生死判別をすることができる。
具体的には、3種類の蛍光波長のうち660nmの蛍光強度をX軸に取り、その頻度を表すグラフを作成する。DNA染色色素の染色で陽性となる死細胞と表記したエリアに死滅細胞が示される。このグラフから、生死細胞分布がわかる。
【0041】
本発明の方法をより具体的に説明すると、まず、3種類の蛍光波長のうち例えば660nmの蛍光強度をX軸に取り、その頻度を表すグラフ(図1)を作成する。TO−PRO3のようなDNA染色色素の染色で陽性となる図1の死細胞と表記したエリアに死滅細胞が示される。このグラフから、生死細胞分布がわかる。次いで、例えば525nm、および575nmの比から、上記のように、標準粒子にて作成した検量線を用いて細胞内pHを算出する。また、算出した細胞内pHをグラフに示したのが図2である。
【0042】
本発明において、蛍光強度の測定はフローサイトメーターにより測定する。フローサイトメーターは、流体中の粒子(細胞など)にレーザー光による励起光を照射し、個々の粒子から発生する蛍光を測定するフローサイトメトリーの原理を用いた測定器を意味するものてあり、本発明において、通常のフローサイトメーターの他に、細胞分取装置をさらに備えたセルソーター等も包含する。
【0043】
本発明は、前記したように、微生物個々の細胞内pHに基づく細胞活性の測定と、細胞の生死判別とを同時に行うことができ、従って、微生物試料について個々の細胞の活性とその生死を同時に解析できるばかりでなく、標品となりうるその微生物集団(ロット)の細胞の生死判別と生細胞の活性の詳細な分布を知ることができる。
【0044】
なお本明細書において、「約」や「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例1:
ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)として、酵母1(新鮮酵母)と酵母2(劣化酵母)の2種類のサンプルを用意した。
メッシュ(サイズ:70μm)を通して大きなデッケ分を取り除いた酵母を2ml分取し、MESバッファ(pH6.2、50mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、NaCl 110mM、KCl 5mM、MgCl2 1mM)で洗浄した。その後、以下の条件で酵母へ各試験区の試薬(色素)を添加した。
試験区A: 終濃度1mM 5(6)カルボキシフルオレセインジアセテート
試験区B: 終濃度10μM TO−PRO 3
試験区C: 前記試験区AおよびB同時
【0047】
各試験区の溶液を、0℃にて30分放置した後、pH3のクエン酸/リン酸バッファ(50mM NaCl、110mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2)で洗浄後、同バッファに懸濁させた。0℃で90分放置後、従来の蛍光光度計での測定と、フローサイトメーターによる測定・同時解析とを行った。
この内、従来の蛍光光度計での測定は、具体的には、特公平3−24442号公報および特願平5−76393号公報に記載されている条件に従い、蛍光光度計(島津製作所性、分光蛍光光度計「RF−500」)で2波長の励起光(441および488nm)に対する518nmにおける蛍光強度を計測し、その蛍光強度の比をとり、予め作成した検量線より細胞内pHを求めた。
【0048】
フローサイトメーターによる測定は、特開2002−168870号公報に基づいて、まず、励起光は488nmと633nmの2種類を使用し、488nmの励起光に対する525nmと575nmの蛍光強度値の比から、標準粒子にてpHに対する平均値をプロットして検量線を作成した。この検量線を使用して、実際に測定したサンプルにおける細胞内pH値を求め、また、633nmの励起光に対する660nmの蛍光強度を測定した。
【0049】
結果は図3〜10に示されるとおりであった。
図3〜6は、酵母1(新鮮酵母)についての結果であり、図3および図4は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図5および図6はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
また、図7〜10は、酵母2(劣化酵母)についての結果であり、図7および8は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図9および図10はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
これらの結果から、試験区Aと試験区C、試験区Bと試験区Cのデータに差がないことがわかった。従って、カルボキシフルオレセインジアセテート単独、TO−PRO 3単独の染色と、同時染色とでは、細胞内pH並びに生死細胞分布の計測値に差がなく、同時に解析が可能であることが確認された。
【0050】
実施例2:
実施例1と同様に、ビール酵母を用意して、メッシュを通して大きなデッケを取り除いた。酵母を蒸留水で2回洗浄し、遠心して上清を捨て3mlにした酵母に対し、SDS溶液(50mM Tris,5%SDS,pH9.0)を7ml加えて、振盪攪拌機(vortex)を用いて混合した。これを37℃で15分インキュベーションし、5%SDS溶液(pH9.0)で6日間(1回/日)洗浄して死滅酵母とした。
その後、メチレンブルー(MB)法、およびTO−PRO3染色により酵母死滅率を確認し、別途用意した新鮮酵母と混合することによって、死滅酵母率0%、25%、50%、75%、および90%の各酵母サンプルを調製した。
調製済みの酵母をそれぞれ、実施例1の要領で蛍光光度計での測定とメチレンブルー法による死滅率測定、フローサイトメーターにより細胞内pHと死滅率を同時測定・解析すると共に、発酵試験に供した。
発酵試験は、麦汁を用いて9℃で発酵させ、7日間サンプリングを行った。
【0051】
結果は表1、および図11〜12に示されるとおりであった。
表1では混合した酵母細胞の死滅率を各測定法について比較した結果を示す。
図11は、フローサイトメーターによる解析結果を示す。図11の左の列は細胞内pH、右の列は660nmの蛍光強度の分布であり、細胞生死判別の結果を示す。図の上から順に、上記の死滅酵母率を有するサンプルにそれぞれ対応する。
図12は、発酵試験の糖消費の経過を示す。従来のように細胞内pHのみの測定では、生細胞のみを対象としたため、細胞内pHがほぼ同じような分布を示してしまうため、図12のような糖消費経過の違いが予測できなかった。しかしながら、本発明によれば、同一細胞の細胞内pHと死滅率が同時に解析可能となるため、図12のように糖消費経過を予測できるようになった。
【0052】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】660nmの蛍光強度をX軸に取り、Y軸にその頻度を表した、細胞の死滅率を示すグラフの例である。
【図2】フローサイトメーターによる細胞内pH値を表すグラフの例である。
【図3】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Aの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図4】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Cの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図5】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Aの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図6】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Bの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図7】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Aの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図8】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Cの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図9】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Aの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図10】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Bの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図11】実施例2のフローサイトメーターによる解析結果を示す。図の左の列は細胞内pH、右の列は660nmの蛍光強度の分布であり、細胞生死判別の結果を示す。
【図12】実施例2の発酵試験の糖消費経過の結果を示す。
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、フローサイトメーターを用いた、微生物細胞のバイアビリティおよびバイタリティの両方を同時に測定して解析し得る、微生物細胞集団の生理状態の評価方法に関する。
【0002】
背景技術
酵母のような微生物を用いて発酵、醸造や物質生産をする場合に、生産にこれから用いようとする微生物細胞の生理状態を予め把握しておくことは、発酵の成否を予見し、高品質で安定した製品を得る観点から、極めて重要である。
【0003】
微生物細胞の生理状態は、2つの側面、すなわち細胞の生死を区別するバイアビリティと、細胞自体の活性を示すバイタリティと、から把握し、評価することができる。微生物細胞の生理状態を、バイアビリティとバイタリティの両側面から把握することで、単に微生物が「生きている」というものだけではなく、「生きている」中でもさらに「活き」がいい「元気なもの」であるか否かを知ることができる。
【0004】
微生物細胞のバイアビリティを判定する技術としては、スライドカルチャー法、プレートカルチャー法、細胞染色をもとにしたメチレンブルー法、フルオレセオインジアセテート(FDA)法、1−アニリノ−8−ナフタレンスルホン酸マグネシウム塩法、TO−PRO3染色法(小林弘司ら,防菌防ばい,31,7,2003(非特許文献1))などが知られている。
【0005】
この内、例えば、メチレンブルー法は、酵母に取り込まれたメチレンブルーが生細胞中の還元力によって無色化されることを利用するものである。またFDA法は、取り込まれたFDAが生細胞に存在するエステラーゼによって分解され、生細胞内で蛍光を発することを利用するものである。これらの方法はともに簡便ではあるが、染色のされ方や測定者間で差が生じやすく、また、細胞の増殖力とは必ずしも一致しない。
【0006】
一方、微生物細胞のバイタリティ(活性)を判定する方法としては、代謝活性を利用したアシディフィケーションパワー法、細胞内pH(ICP)法などや、発酵試験法などがある。
【0007】
この内、細胞内pH(ICP)法は、細胞内に蛍光物質を取り込ませてpH6以下の低pH環境下に置き、所定時間経過後に細胞内pHを指標として、細胞の活性を測定する方法である(特開平5−76393号公報(特許文献1))。この方法については、さらにフローサイトメーターを組み合わせて、微生物集団の活性分布を測定する方法も開発されている(特開2002−168870号公報(特許文献2))。しかしながら、ICP法は、細胞の生死(バイアビリティ)を判定することができないため、微生物細胞の集団の生理状態を把握する観点からは、必ずしも満足できるものではなかった。
【0008】
例えば、特開2006−238771号公報(特許文献3)やKaouther Ben Amorら, AEM,68,11,2002(非特許文献2)には、微生物細胞の「バイアビリティ」と「バイタリティ」の両方を同時に評価する方法が報告されている。これらにおける方法は、1レーザーのフローサイトメーターを用いたものであり、バイアビリティをプロピジウムイオダイドで、バイタリティをFDA染色後の蛍光強度を用いて測定するものである。しかしながら、個々の細胞によってフルオレセインおよびその誘導体の取り込み量が異なり、励起光照射によって発生する蛍光の強度は、取り込まれたフルオレセインの細胞内濃度によって左右されるので、測定された蛍光強度の絶対値では細胞個々の正確なバイタリティを測定するのが難しいといえた。
【0009】
したがって、バイアビリティとバイタリティを同時かつ正確に測定する方法が依然として求められている。
【0010】
【特許文献1】特開平5−76393号公報
【特許文献2】特開2002−168870号公報
【特許文献3】特開2006−238771号公報
【非特許文献1】小林弘司ら,防菌防ばい,31,7,2003
【非特許文献2】Kaouther Ben Amorら, AEM,68,11,2002
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今般、細胞内pHを測定するICP法で使用される色素に加えて、特定のDNA染色色素をさらに用いて同時に細胞を染色し、得られた細胞を、各色素に対応する個別の波長を有する2種類の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、個々の細胞質内pHを計測することができ、それによって個々の細胞の活性(バイタリティ)を迅速に測定すると同時に、さらに個々の細胞の生死(バイアビリティ)判定も同時にかつ正確に行うことに成功した。また色素の選択と、照射する励起光波長の選択の結果、同時染色に伴う相互干渉等もみられず、個々の細胞についてのバイタリティおよびバイアビリティを正確かつ効率的に判定可能であった。得られる結果は、個々の細胞のデータの積み重ねであることから、細胞集団について評価する従来の方法に比べて格段に正確性の高いものであった。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0012】
よって、本発明は、微生物細胞のバイアビリティとバイタリティとを同時にかつ正確に測定することができる、細胞の生理状態評価方法の提供をその目的とする。
【0013】
本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、細胞膜非透過性のDNA染色色素は、4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(TO−PRO 3色素)である。
【0015】
本発明の一つの好ましい態様によれば、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体が、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートである。
【0016】
本発明の一つの好ましい態様によれば、2種類の励起光の波長がそれぞれ、410nm〜510nmおよび540nm〜700nmから選択されるものであり、測定する3種類の蛍光波長が510nm〜640nmから2種、かつ、600nm〜800nmから1種選択される。
【0017】
本発明の別の好ましい態様によれば、650nm〜680nmの蛍光強度を測定することによって微生物細胞の生死(バイアビリティ)を判定し、それに基づいて、全細胞群から死滅細胞を除いた生細胞群における、細胞活性(バイタリティ)を得ることを含む。
【0018】
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、蛍光強度の測定によって得られた細胞内pH値が、所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を細胞活性が高いものと判定することを含んでなる。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、微生物が食品用の酵母または細菌である。
【0020】
本発明の微生物細胞の生理状態評価方法によれば、微生物細胞のバイアビリティとバイタリティを同時にかつ正確に計測することが可能となる。これにより、細胞の活性情報に加えて、細胞の生死判別の結果も得られるため、両者の結果から、生細胞の割合と、その生細胞の活性を知ることができるため、評価対象の細胞またはその集団のより厳密な生理状態を迅速に評価することができる。また、本発明の方法は、細胞活性を絶対値として得ることができるため、例えば三段階の評価基準で分類して評価していた従来の方法よりも、より正確に細胞の生理状態の評価をすることができる。また本発明によれば、同一細胞の細胞内pHと細胞の死滅率が同時に解析可能であるため、目的とする細胞もしくは細胞集団の糖消費経過を正確に予測することができる。本発明による方法は、適切な酵母ハンドリングや醸造における仕込発酵条件の設定に威力を発揮し得るものであり、ビール醸造などをはじめとする各種醸造過程において工程管理指標としての利用が期待される。
【発明の具体的説明】
【0021】
微生物細胞の生理状態評価方法
本発明による微生物細胞の生理状態評価方法は、前記したように、微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる。ここで、微生物細胞の生理状態評価とは、微生物の細胞活性の良否と、細胞の生死の状態に基づく、評価のことを言う。
【0022】
本発明において、測定対象となる「微生物」としては、例えば、酵母、細菌(乳酸菌、ビフィズス菌等)など食品等の分野に有用な微生物が挙げられる。ここで酵母としては、分類学上酵母の範疇に入るものであればいずれもであっても良い。酵母の例としては、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母等であって、微生物学的にはサッカロマイセス(Saccaaromyces)に属するものが挙げられる。また酵母には、例えば醸造業者が使用目的に応じて育種したものも包含され、そのような「変異種」(変異株)も本発明における微生物に包含される。
【0023】
本発明において、「細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体」とは、細胞膜透過性を有する色素の誘導体であって、それ自体は蛍光性を有しないが、ひとたび細胞内に入ると、細胞内のエステラーゼによって加水分解されて、蛍光性を示すpH感受性の色素化合物に変換されうるものを言う。すなわち、このような色素前駆体としては、例えば、pH感受性蛍光色素が、フェノール性水酸基またはカルボキシル基を少なくとも有するものであり、この官能基が低級カルボン酸(例えば炭素数1〜4)または低級アルコール(例えば炭素数1〜4)によりエステル化されたものが挙げられる。すなわちこの場合、前記色素前駆体とは、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素のエステル誘導体である。エステル誘導体とすることで、細胞膜透過性とすることができる一方で、細胞内に入るとエステラーゼの作用により、エステルが加水分解され、蛍光性を有するpH感受性色素となる。ここでpH感受性の蛍光色素とは、外部のpHに依存して蛍光性を変化させうる色素のことをいう。
【0024】
本発明においては、pH感受性蛍光色素としては、例えば、フルオレセインおよびその誘導体、クエン1およびその誘導体、1,4−ジヒドロキシ−フタロニトリルおよびその誘導体、ウンベリフェロンおよびその誘導体、5−ジメチルアミノナフタレン−1−スルホネート(ダンシル)発色基、カルボキシセミナフトロダフルオル(carboxy-seminaphthorhodafluor)(カルボキシSNARF)、カルボキシ−セミナフトフルオレセイン(カルボキシSNAFL)等が挙げられる。このような色素を、前記したように予めエステル化することによって、本発明の細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体とすることができる。
【0025】
細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体の具体例としては、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテート、5−カルボキシフルオレセインジアセテート、6−カルボキシフルオレセインジアセテートや2’,7’−ビス(カルボキシエチル)−5(6)−カルボキシフルオレセイン・テトラアセトオキシメチルエステル等が挙げられる。本発明においては、この内、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートがより好ましい。5(6)−カルボキシフルオレセインは、細胞質に入った後、他の膜系に再移行し難い性質を持っている。
【0026】
本発明において、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」とは、細胞膜透過性を有しない色素であって、細胞膜が破壊された細胞内に入り込んで、細胞の染色体(DNA)を染色して蛍光を発し得る色素化合物を言う。本発明ではさらに、該DNA染色色素は、前記したpH感受性蛍光色素とは異なる励起波長で蛍光を発しうるものである。すなわち、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」としては、このような性質を具備する限りいずれの色素であっても使用することができる。本発明においては、「細胞膜非透過性のDNA染色色素」は、好ましくは、TO−PRO 3(invitrogen社より入手可能、TO−PRO−3 iodide)(4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(4-[3-(3-methyl-2(3H)- benzothiazolylidene)-1-propenyl]-1-[3-(trimethylammonio)propyl]-Quinolinium diiodide))である。
【0027】
微生物細胞を、pH感受性蛍光色素で染色するには、もしくはその細胞膜透過性の色素前駆体を微生物細胞内に取り込ませるには、通常、酵母細胞などの微生物細胞をその水性縣濁液中で例えば0℃〜常温で色素前駆体と所定持間、例えば数秒〜60分間程度、好ましくは低温(0〜10℃)で5〜30分間接触させればよい。また微生物細胞をDNA染色色素で染色するには、微生物細胞内をpH感受性蛍光色素を染色するタイミング、またはその細胞膜透過性の色素前駆体を微生物細胞内に取り込ませるタイミングとは関係なく、いずれのタイミングにおいて染色を行っても良い。通常、酵母細胞などの微生物細胞をその水性懸濁液中で例えば0℃〜常温でDNA染色色素と所定時間、例えば数秒以上接触させればよい。
【0028】
本発明においては、微生物細胞を、pH感受性蛍光色素およびDNA染色色素で同時染色する。このため、同時染色する場合、通常、微生物細胞をその水性縣濁液中で、pH感受性蛍光色素前駆体およびDNA染色色素と、例えば0℃〜常温で所定持間、例えば数秒〜60分間程度、好ましくは低温(0〜10℃)で5〜30分間接触させればよい。
【0029】
本発明においては、微生物細胞内にpH感受性蛍光色素を取り込ませた後、微生物細胞をpH6以下の酸性条件下、好ましくは5以下の条件下に所定時間保持する。pHの下限は2.0付近にあり、好ましくはpH2.6〜3.5程度である。このような低pH条件を調整するには、例えば微生物の水性懸濁液に無機酸(塩酸、硫酸など)または有機酸(燐酸、酢酸、クエン酸など)を添加すればよい。また所定のpHを維持するためには、通常酸性緩衝剤(燐酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液など)を用いてpH調整すればよい。微生物細胞を上記のような低pHの条件下に保持する時間は、微生物細胞内pHが実質的に変化しなくなるまでの時間が好ましく、通常1分〜400分程度まで、好ましくは5分〜100分、特に好ましくは30分〜100分程度である。
【0030】
また、低pHの条件下における温度は、通常微生物細胞が活性を有する、もしくは代謝活動を行い得る温度であり、例えば酵母(ビール酵母、パン酵母など)では、好ましくは0℃から30℃程度であり、細菌(例えば乳酸菌、ビフィズス菌など)では0℃から37℃程度である。
【0031】
このように色素を細胞に取り込ませた後に、細胞を低pH条件下に置くと、活性の高い細胞は、細胞外pHが低くても細胞内pHの低下は小さいが、細胞が弱って活性が低下すると、細胞内pHも低下する傾向にある。これは微生物のプロトン排出能に基づく傾向であると言える。このような理論に制限されるものではないが、本発明は、かかる現象を利用するものである。
【0032】
微生物の染色方法および活性測定用サンプルの調製の条件は、例えば、酵母の測定に関する特開平5−76393号公報、および特開2002−168870号公報に記載された方法に準拠することができ、後述する実施例にも具体的に記載されている。
【0033】
本発明の方法において、pH感受性蛍光色素とDNA染色色素を取り込ませた微生物細胞に、2種の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定する。これにより、微生物細胞内pHを測定すると同時に、細胞の生死判別(細胞の死滅率)を測定する。
【0034】
照射する励起光としては、使用するpH感受性蛍光色素とDNA染色色素のそれぞれを励起して蛍光を発せさせることができる色素に対応する2種類の波長の励起光であって、互いの励起光での蛍光に影響のない波長の励起光であることが望ましい。例えば、pH感受性蛍光色素として5(6)−カルボキシフルオレセインを使用し、DNA染色色素としてTO−PRO 3を使用した場合には、410〜510nmと540〜700nmのそれぞれの範囲内の波長を有する2種類の励起光を使用する。前者の波長範囲ものが5(6)−カルボキシフルオレセインで使用できものであり、後者の波長範囲がTO−PRO 3で使用できるものである。通常、これら励起光波長はそれぞれ、約488nmと約633nmが使用される。
【0035】
また、測定される3種類の蛍光波長としては、使用するpH感受性蛍光色素とDNA染色色素のそれぞれに対して使用した励起波長に対応して適宜決定することができ、例えば、pH感受性蛍光色素として5(6)−カルボキシフルオレセインを使用し、DNA染色色素としてTO−PRO 3を使用した場合には、5(6)−カルボキシフルオレセインについて510〜640nmの蛍光波長範囲から2種類選択され、TO−PRO 3について600〜800nmの蛍光波長範囲から選択される。前者の波長範囲においては、2種類の蛍光波長は、例えば、約525nmと約550nm、約525nmと約575nm、約525nmと約590nm、約525nmと約610nm、および、約525nmと約635nmなどの組み合わせから好ましく選択することができ、より好ましくは、約525nmと約575nmの組合せ、または約525nmと約550nmの組合せから選択できる。後者の波長範囲においては、好ましくは、約660nmが使用される。
【0036】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法においては、励起波長として、410〜510nmと540〜700nmとの範囲からそれぞれ1波長で、2種類を使用し、410〜510nmの励起光に対して510〜640nmの中から2種類の蛍光波長を使用し、540〜700nmの励起光に対して600〜800nmの中から1種類の蛍光波長を使用する。
【0037】
微生物細胞内に取り込まれたpH感受性蛍光色素は、上記のように励起光を照射すると所与の細胞内pHに応じた蛍光を発する。所定の1励起波長によって発生する蛍光を所定の2波長において測定して得た2つの蛍光強度値と蛍光色素が置かれているpH条件との関係を予め求めて検量線を作成しておき、さらに、励起光により微生物細胞が発生する蛍光の強度を測定することにより、細胞内pHを知ることができる。この場合、例えば酸性緩衝液のpH系列と得られる2つの蛍光測定値の比との関係を予め求めて検量線を作製すればよい。検量線の作成は、例えば、5(6)カルボキシフルオレセインを酸性緩衝液のpH系列に溶解した液に無蛍光性の多孔性微粒子を添加し、フローサイトメーター測定を実施し2つの蛍光強度を計測して、その両測定値の比と上記pH系列との関係を求めればよい(例えば、特開2002−168870号公報の実施例(4)および図6参照)。
【0038】
本発明による方法は、上記のような本発明による微生物細胞内pH測定法を用いることを特徴の一つとするものである。本発明の一つの態様において、得られた細胞内pH値が所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を活性が高いものと判定する。本発明の他の一つの態様において、微生物細胞活性を、個々の細胞の活性または細胞集団の活性の分布状態として表わす。
【0039】
具体的には、前記のようにして測定された微生物細胞内pHは当該細胞の活性と相関があり、細胞内pH値が大きい細胞ほど活性が大きいので、対象とする微生物に対して、予め細胞内pH値と細胞活性についての情報を用意しておけば、細胞内pH値から当該細胞の活性を把握することができる。
例えば、酵母であれば、測定した酵母細胞内pH値を当該酵母本来のもしくは固有の細胞内pH値(活性の低下のない本来の高い活性を有する酵母を活性測定に用いた場合に得られる細胞内pH値)と比較し、その差が小さいものほど活性が高いと判定することができる。この値は、微生物の種類および使用する低pH値により異なり得るが、通常は例えば酵母で4.8〜6.5程度であり、乳酸菌、ビフィズ菌で6〜8程度である。また、得られた細胞内pH値を所定値と比較して、例えば所定値を酵母で6.0、乳酸菌、ビフィズス菌で6.5と設定してこの所定値と比較してこれより高いものを活性が高いと判定することができる。このような判定法を用いれば、例えば微生物(特に食品用の酵母、細菌)を産業上の目的で発酵等に利用する場合において、本発明による微生物活性評価を実施し、例えば所定値より低いpH値が得られたとき、あるいは測定されたpH値と微生物本来の細胞内pH値ととの差がある一定値以上になった時はその細胞を使用しないことにより、常に活性の高い細胞のみを利用することができる。
【0040】
一方、細胞の生死は、上記のように励起光を照射すると細胞の生死に応じた蛍光を発するため、これに基づいて細胞の生死判別をすることができる。
具体的には、3種類の蛍光波長のうち660nmの蛍光強度をX軸に取り、その頻度を表すグラフを作成する。DNA染色色素の染色で陽性となる死細胞と表記したエリアに死滅細胞が示される。このグラフから、生死細胞分布がわかる。
【0041】
本発明の方法をより具体的に説明すると、まず、3種類の蛍光波長のうち例えば660nmの蛍光強度をX軸に取り、その頻度を表すグラフ(図1)を作成する。TO−PRO3のようなDNA染色色素の染色で陽性となる図1の死細胞と表記したエリアに死滅細胞が示される。このグラフから、生死細胞分布がわかる。次いで、例えば525nm、および575nmの比から、上記のように、標準粒子にて作成した検量線を用いて細胞内pHを算出する。また、算出した細胞内pHをグラフに示したのが図2である。
【0042】
本発明において、蛍光強度の測定はフローサイトメーターにより測定する。フローサイトメーターは、流体中の粒子(細胞など)にレーザー光による励起光を照射し、個々の粒子から発生する蛍光を測定するフローサイトメトリーの原理を用いた測定器を意味するものてあり、本発明において、通常のフローサイトメーターの他に、細胞分取装置をさらに備えたセルソーター等も包含する。
【0043】
本発明は、前記したように、微生物個々の細胞内pHに基づく細胞活性の測定と、細胞の生死判別とを同時に行うことができ、従って、微生物試料について個々の細胞の活性とその生死を同時に解析できるばかりでなく、標品となりうるその微生物集団(ロット)の細胞の生死判別と生細胞の活性の詳細な分布を知ることができる。
【0044】
なお本明細書において、「約」や「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例1:
ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)として、酵母1(新鮮酵母)と酵母2(劣化酵母)の2種類のサンプルを用意した。
メッシュ(サイズ:70μm)を通して大きなデッケ分を取り除いた酵母を2ml分取し、MESバッファ(pH6.2、50mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、NaCl 110mM、KCl 5mM、MgCl2 1mM)で洗浄した。その後、以下の条件で酵母へ各試験区の試薬(色素)を添加した。
試験区A: 終濃度1mM 5(6)カルボキシフルオレセインジアセテート
試験区B: 終濃度10μM TO−PRO 3
試験区C: 前記試験区AおよびB同時
【0047】
各試験区の溶液を、0℃にて30分放置した後、pH3のクエン酸/リン酸バッファ(50mM NaCl、110mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2)で洗浄後、同バッファに懸濁させた。0℃で90分放置後、従来の蛍光光度計での測定と、フローサイトメーターによる測定・同時解析とを行った。
この内、従来の蛍光光度計での測定は、具体的には、特公平3−24442号公報および特願平5−76393号公報に記載されている条件に従い、蛍光光度計(島津製作所性、分光蛍光光度計「RF−500」)で2波長の励起光(441および488nm)に対する518nmにおける蛍光強度を計測し、その蛍光強度の比をとり、予め作成した検量線より細胞内pHを求めた。
【0048】
フローサイトメーターによる測定は、特開2002−168870号公報に基づいて、まず、励起光は488nmと633nmの2種類を使用し、488nmの励起光に対する525nmと575nmの蛍光強度値の比から、標準粒子にてpHに対する平均値をプロットして検量線を作成した。この検量線を使用して、実際に測定したサンプルにおける細胞内pH値を求め、また、633nmの励起光に対する660nmの蛍光強度を測定した。
【0049】
結果は図3〜10に示されるとおりであった。
図3〜6は、酵母1(新鮮酵母)についての結果であり、図3および図4は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図5および図6はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
また、図7〜10は、酵母2(劣化酵母)についての結果であり、図7および8は、試験区Aと試験区Cにおける細胞内pH値を示す。また図9および図10はそれぞれ、試験区Cおよび試験区Bの細胞生死判別(死滅率)の結果を示す。
これらの結果から、試験区Aと試験区C、試験区Bと試験区Cのデータに差がないことがわかった。従って、カルボキシフルオレセインジアセテート単独、TO−PRO 3単独の染色と、同時染色とでは、細胞内pH並びに生死細胞分布の計測値に差がなく、同時に解析が可能であることが確認された。
【0050】
実施例2:
実施例1と同様に、ビール酵母を用意して、メッシュを通して大きなデッケを取り除いた。酵母を蒸留水で2回洗浄し、遠心して上清を捨て3mlにした酵母に対し、SDS溶液(50mM Tris,5%SDS,pH9.0)を7ml加えて、振盪攪拌機(vortex)を用いて混合した。これを37℃で15分インキュベーションし、5%SDS溶液(pH9.0)で6日間(1回/日)洗浄して死滅酵母とした。
その後、メチレンブルー(MB)法、およびTO−PRO3染色により酵母死滅率を確認し、別途用意した新鮮酵母と混合することによって、死滅酵母率0%、25%、50%、75%、および90%の各酵母サンプルを調製した。
調製済みの酵母をそれぞれ、実施例1の要領で蛍光光度計での測定とメチレンブルー法による死滅率測定、フローサイトメーターにより細胞内pHと死滅率を同時測定・解析すると共に、発酵試験に供した。
発酵試験は、麦汁を用いて9℃で発酵させ、7日間サンプリングを行った。
【0051】
結果は表1、および図11〜12に示されるとおりであった。
表1では混合した酵母細胞の死滅率を各測定法について比較した結果を示す。
図11は、フローサイトメーターによる解析結果を示す。図11の左の列は細胞内pH、右の列は660nmの蛍光強度の分布であり、細胞生死判別の結果を示す。図の上から順に、上記の死滅酵母率を有するサンプルにそれぞれ対応する。
図12は、発酵試験の糖消費の経過を示す。従来のように細胞内pHのみの測定では、生細胞のみを対象としたため、細胞内pHがほぼ同じような分布を示してしまうため、図12のような糖消費経過の違いが予測できなかった。しかしながら、本発明によれば、同一細胞の細胞内pHと死滅率が同時に解析可能となるため、図12のように糖消費経過を予測できるようになった。
【0052】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】660nmの蛍光強度をX軸に取り、Y軸にその頻度を表した、細胞の死滅率を示すグラフの例である。
【図2】フローサイトメーターによる細胞内pH値を表すグラフの例である。
【図3】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Aの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図4】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Cの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図5】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Aの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図6】実施例1の結果であって、新鮮酵母についての試験区Bの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図7】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Aの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図8】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Cの場合の細胞内pH値を示すグラフである。
【図9】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Aの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図10】実施例1の結果であって、劣化酵母についての試験区Bの場合の細胞の死滅率を示すグラフである。
【図11】実施例2のフローサイトメーターによる解析結果を示す。図の左の列は細胞内pH、右の列は660nmの蛍光強度の分布であり、細胞生死判別の結果を示す。
【図12】実施例2の発酵試験の糖消費経過の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる、微生物細胞の生理状態評価方法。
【請求項2】
細胞膜非透過性のDNA染色色素が、4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(TO−PRO 3色素)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体が、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2種類の励起光の波長がそれぞれ、410nm〜510nmおよび540nm〜700nmから選択されるものであり、測定する3種類の蛍光波長が510nm〜640nmから2種、かつ、600nm〜800nmから1種選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
650nm〜680nmの蛍光強度を測定することによって微生物細胞の生死(バイアビリティ)を判定し、それに基づいて、全細胞群から死滅細胞を除いた生細胞群における、細胞活性(バイタリティ)を得ることを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
蛍光強度の測定によって得られた細胞内pH値が、所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を細胞活性が高いものと判定することを含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
微生物が食品用の酵母または細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
微生物細胞を、細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体と、細胞膜非透過性のDNA染色色素とを用いて同時染色して、pH6以下の酸性条件下に保持し、得られた細胞に、2種類の波長の励起光を照射して蛍光を発生させ、3種類の波長の蛍光強度をフローサイトメーターを用いて測定することによって、微生物細胞の細胞内pH値に基づく細胞活性(バイタリティ)と、細胞の生死(バイアビリティ)判定とを同時に得ることを含んでなる、微生物細胞の生理状態評価方法。
【請求項2】
細胞膜非透過性のDNA染色色素が、4−[3−(3−メチル−2(3H)−ベンゾチアゾリリジン)−1−プロペニル]−1−[3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]−キノリニウムジイオジド(TO−PRO 3色素)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞膜透過性のpH感受性蛍光色素前駆体が、5(6)−カルボキシフルオレセインジアセテートである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2種類の励起光の波長がそれぞれ、410nm〜510nmおよび540nm〜700nmから選択されるものであり、測定する3種類の蛍光波長が510nm〜640nmから2種、かつ、600nm〜800nmから1種選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
650nm〜680nmの蛍光強度を測定することによって微生物細胞の生死(バイアビリティ)を判定し、それに基づいて、全細胞群から死滅細胞を除いた生細胞群における、細胞活性(バイタリティ)を得ることを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
蛍光強度の測定によって得られた細胞内pH値が、所定値より高いかまたは微生物本来の細胞内pH値との差が小さい細胞を細胞活性が高いものと判定することを含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
微生物が食品用の酵母または細菌である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−153395(P2009−153395A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331812(P2007−331812)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】
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