説明

微生物細胞及び微生物油の低温殺菌方法

【課題】エネルギー入力をより小さくし、より良い品質の油を得るために改良された微生物細胞の低温殺菌プロトコルを提供する。
【解決手段】プロトコルは、少なくとも0.5℃/分の速度で加熱する第一の段階、最大温度が70〜85℃で維持される第二のプラトー段階、少なくとも−0.5℃/分で速度で冷却する第三の段階からなり、時間(t,分)対温度(T,℃)のグラフにおいて温度変化曲線は13000℃・分未満の領域を有する台形状となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の分野)
本発明は、微生物細胞を低温殺菌(pasteurising;パスチャライズ)する方法に関し、40℃〜70℃で、30分以下の間細胞を加熱する工程を含む。低温殺菌(pasteurisation;パスタライゼーション)方法の間の加熱速度は、少なくとも0.5℃/分となり得る。上記低温殺菌方法は、3つの段階、すなわち加熱段階、プラトー(ここでは細胞は一定温度で持続される。)及び加熱段階を含む。仮に上記低温殺菌プロトコルを図画的に描写すると、時間(分)対温度(℃)グラフに基づく領域は、13000℃・分以下となる。低温殺菌の後、ポリ不飽和脂肪酸(PUFA)、例えばアラキドン酸、又は微生物油を、細胞から抽出し得る。上記油は、低い過酸化物価(POV)及び/又は低いアニシジン値(AnV)を有し得る。
【発明の詳細な説明】
【0002】
(緒言)
ポリ不飽和脂肪酸、即ち、PUFAは、天然に見出され、及び多彩な異なるPUFAが、異なる単細胞生物(藻類、菌類など)によって産生される。ある特に重要なPUFAは、多くの長鎖ポリ不飽和脂肪酸(LC−PUFA)の一つであるアラキドン酸(ARA)である。化学的に、アラキドン酸は、cis−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(20:4)であり、LC−PUFAの(n−6)系に属する。
【0003】
アラキドン酸は、多種の生理活性物質、エイコサノイド、即ち、プロスタグランジン、トロンボキサン及びロイコトリエンを含む群として集合的に知られる主要な前駆体である。アラキドン酸は、さらにヒト母乳の脂質フラクションの成分の一つであり、幼児の
適切な神経発達に重要と考えられる。アラキドン酸は、特殊調製粉乳、食品及び動物飼料における用途を含む多種多様な異なる適用を有する。
【0004】
WO−A−97/37032(Gist−Brocades)は、低温殺菌されたバイオマスからの微生物PUFA含有油の調製に関する。しかし、低温殺菌を行う速やかな加熱又は冷却温度が開示されていない。さらに、低温殺菌の間、使用されるエネルギーの総量の計算がなされていない。
【0005】
WO−A−00/15045及びWO−A−01/67886は、ともに食品の調製の用途におけるケカビ目(Mucorales)菌類の使用に関する。これらの文献の第一は、食糧への細胞の包含前にRNA低下を行う必要性に関し、加熱工程を含むことを提案する。別々の低温殺菌又は熱ショックが行われ得る。第二の文献は、RNA含有量を減らすための加熱工程は、真菌細胞が発酵槽に保持され、「成熟される」ことによって避けられ得る。
【0006】
国際特許出願番号PCT/EP01/08902は、油混合物を製造するために、粗ω6PUFA含有油と粗ω3PUFA含有油を組み合わせることによって油混合物を調製し、粗油混合物を精製する方法に関する。
【0007】
バイオマス又は微生物細胞を加熱する工程を含む方法は公知である。微生物細胞は、油の形態のPUFAの抽出より先に低温殺菌され得ることは、WO−A−97/37032からも既知である。しかし、本出願人は、新規な低温殺菌方法が低温殺菌された細胞から抽出され得る油の質を改良し得ることを見出した。特に、生成した油は、ほとんど酸化せず、又は酸化されず、低い過酸化物価(POV)及び/又はアニシジン値(AnV)を有し得る。さらに、本出願人は、この新しい低温殺菌方法がエネルギーをほとんど必要としないのでより効率的であることを見出した。従って、この方法は、油の質を改良し得るだけでなく、エネルギーをほとんど必要としないのでコストを削減し得ることから、有利である。
【0008】
(発明の詳細な説明)
従って、本発明は、微生物細胞の改良された低温殺菌方法を提供する。より少ないエネルギーを要求するが、本発明の低温殺菌方法は、より良質の生成物を可能にさせ得る。
【0009】
従って、本発明の第一の態様は、微生物細胞を低温殺菌する方法に関し、本方法は、40℃〜(60℃又は)70℃(を含む温度)で、30分以下、加熱する工程又は、細胞を少なくとも0.5℃/分の速度で加熱する工程を含む。従って、この態様は、低温殺菌の間、速やかな微生物細胞の加熱を提供し、そのような高速の加熱速度は、当業界に開示されていない。本技術分野では、低温殺菌温度が提供されるが、加熱速度や、このパラメタは重要であること及び相対的に高速は利益を提供し得ることについて評価又は議論はない。実際、早い加熱速度は、酸化を引き起こし、又は細胞から抽出され得るPUFA又は油を低下させることが予期されるので、直感的に反する。
【0010】
第二の発明の第二の態様は、微生物細胞を低温殺菌する方法、すなわち(少なくとも)3段階を含む低温殺菌プロトコルを含む方法に関する。これらは、すなわち、(第一)加熱段階、(第二)プラトー段階(ここで、微生物細胞は、所望の温度、に保持され、又は細胞は、一定の及び/又は最大温度に維持される。)、及び(第三の)冷却段階である。本発明のこの態様は、三段階低温冷却プロトコルとして言及される。このプロトコルが、時間対温度のグラフに描画されると、台形を得る。
【0011】
本発明の第三の態様は、微生物細胞の低温殺菌方法、時間(分)対温度(℃)グラフに基づく領域が13000℃・分以下であるような低温殺菌プロトコルを使用する工程を含む方法に関する。時間対温度グラフに基づく領域は、低温殺菌方法の間、細胞を加熱する拡張されたエネルギー量を提供する。速やかな加熱及び/又は速やかな冷却(それぞれ第二態様の第一段階と第三段階に対応する。)は、有利性、例えばより良い品質の油を提供し得る。さらに、低温殺菌方法に必要とされるエネルギーの量は、当業界に開示されている低温殺菌方法と比較して、削減され得る。従って、この第三の態様は、低温殺菌方法に必要とされるエネルギー入力に関する。
【0012】
本発明の第四の態様は、微生物細胞を低温殺菌する方法に関し、上記方法は、(細胞を加熱し、それによって)高温(T,℃)で、所定の時間(t,分)、例えばプラトー段階で、細胞を維持する工程を含み、ここで、積tT(すなわち、例えばプラトー段階中の、時間と温度のパラメーターの乗算)が、140〜100800℃・分である。理解されるように、この第四の態様は、プラトー段階を含む点で、第二態様に類似する。ここで細胞は、一定又は最大温度で保持され得る。積tTは、このプラトー段階に対する時間対温度グラフに基づく領域を表現し得る。
【0013】
(第一の態様−速やかな加熱)
この態様において、細胞を、細胞の温度が、40℃〜70℃(又は60℃)、30分以下(no more than)(例えば15分以下)を通過するように加熱する。好ましくは、40〜70℃の通過には、40〜50分以下かかる。その代わりに、又はさらに、細胞を少なくとも0.5℃/分の速度で加熱する。当然、微生物細胞は、40℃以下(below)の温度で、開始(又は加熱)される。例えば、細胞は、室温又は周囲温度でよい。上記細胞は、発酵温度、例えば30℃±5℃であり得る。従って、上記細胞は、加熱が開始するときに、20〜40℃、例えば23〜27℃(又は25又は29から、32又は37℃)である。ある場合、例えば発酵が終了した後、微生物細胞は冷却され得る。従って、加熱が開始すると、細胞は、5〜10℃、例えば7〜9℃の(開始)温度を有し得る。
【0014】
微生物細胞は、それらの温度が(60又は)70℃以上に上昇するように加熱され得る。従って、これは、低温殺菌の間、微生物細胞の最終温度とはなり得ない。実際、この細胞は、(60又は)70℃以上の温度に加熱され得る。上記温度は、温度が70〜90、110又は130℃、例えば75〜87℃、及び好ましくは78〜84℃に達するまで、温度が上昇し得る。低温殺菌の間、最大温度は、これらの範囲内でもよいが、いくつかの態様に対して、100、120又は140℃まででもよい。好ましくは、上記細胞をその(最大)温度に保持又は維持する。
【0015】
従って、細胞が、40℃以下の開始温度で、70℃以上の温度まで加熱され得ることが理解されるだろう。40〜70℃の範囲は、時間(及び従って速度)が特定され得る(及び従って計算された)より広い加熱/温度範囲の「スナップショット」を提供し得る。
【0016】
加熱(40〜70℃、30分)は1℃/分の速度であることが計算されるだろう。しかし、速度は、必要であれば、これよりわずかに低くなり得、また第一の態様において、速やかな加熱は、0.5℃/分を上回る加熱速度を意味する。好ましくは、上記速度は、少なくとも0.6、1.0、又は1.5℃/分である。しかし、特に早い加熱速度が、装置及び加熱される微生物細胞の容積又は質量に依存して企図される。2.0又はさらに2.5℃/分を超える加熱速度が本発明の範囲である。
【0017】
特に、速やかな加熱速度は、特別な装置を使用して得られ得る。これは、短期間で高温に達し、そうすることで後に単離され得るPUFA又は微生物油に対する、酸化又は損傷を最小化し得る。従って、加熱は、最大温度、140、150又はさらに160℃までの最大温度に行われ得る。好ましくは、加熱は、100〜180℃、例えば120〜160℃、好ましくは130〜150℃以内の温度範囲までとなり得る。特に速やかな加熱装置を使用すると、これらの温度は、特に迅速に、例えば1分(30秒)未満内に達し得る。そのような温度は、20、30、40又は50秒以内に、達し得、また150、175、200、225、又は250まで生じる。しかし、そのような温度は、例えばもし、注入ヒーター(infusion heater)を使用し、又は相対的に小さいサンプルでは、2、4、6、8又は10秒程の短時間で達し得る。従って、1分あたり、50、100、150又はさらに200℃までの加熱速度が達成できる。1分あたり5又は10〜50又は60℃のより低い加熱速度は、従って可能であり、1分当たり、15〜45℃である。
【0018】
速やかな低温殺菌の間、この速やかな加熱は、より効率的で、より少ないエネルギーを要求するだけでなく、よりよい品質の微生物油(以下の低温殺菌細胞から一旦抽出された)を得るために原因となる少なくとも1つの因子が現れることを見出した。
【0019】
(第二の態様−3段階低温殺菌プロトコル)
第一段階は、加熱段階となり得る。これは、効果において、本発明の第一の態様に記述された速やかな加熱に対応し、従って、第一の態様の全ての特徴及び特性は、必要な変更を加えて、第二の態様の第一の(加熱)段階に適用される。
【0020】
第二段階は、上記細胞がプラトー(温度において)であるときである。上記細胞は、特に所望の温度(プラス又はマイナス1又は2、5又はさらに10℃)で、所望の時間長で、保持され得る。従って、細胞は、一定温度で維持され得る。好ましくは、プラトー段階でのこの温度(又は温度範囲)は、低温殺菌プロトコル中、達した最大温度である。プラトー段階の温度(及び/又は低温殺菌中の最大温度)は好ましくは少なくとも70℃である。それは、90又は100℃以下、好適には70〜85℃、例えば70〜77℃でよい。上記とは別に、それは、80〜160℃、例えば100〜140℃でよい。
【0021】
プラトー段階の時間長又はそこで細胞が所望の又は最大温度で保持される時間は、5秒〜90分、例えば1又は10〜80分、例えば20〜70分であり得る。好ましくは、この時間は、40又は50〜60又は70分、例えば45〜65分、有利には55〜63分である。特に短い時間、例えば8秒〜5分も可能である。
【0022】
第三段階は、冷却段階である。好ましくは、細胞は、加熱開始(又は第一段階)について述べられた範囲と同一又はその範囲内の温度に冷却される。好ましくは、微生物細胞が線形的に(適切な場合、第一及び/又は第三段階で)冷却及び/又は加熱され、すなわち、時間対温度のグラフにプロットされるとき、冷却又は加熱プロファイルが(ほぼ)直線として現れる。細胞を例えば熱交換器及び/又は冷却物質を使用して、例えば周囲温度(に向かって)又は室温以下に放置して冷却してもよく、又は積極的に冷却してもよい。
【0023】
好ましくは、冷却速度は、少なくとも0.4、0.6、1.0、又は1.5℃/分である。これらの値は、細胞を冷却する達成できる冷却速度を表す。しかし、より迅速な冷却速度が、特に積極的冷却が使用されるときは、可能となる。従って、少なくとも2.0、2.5、3.0又はさらに3.5℃/分の冷却速度が、達成できる。しかし、より早い冷却速度、例えば5℃/分以上が可能であり、例えば、7又は10〜50又は60℃/分、好ましくは15〜45℃/分である。
【0024】
好ましい加熱及び/又は冷却速度は、好ましくは少なくとも10、20又は30℃で維持されるが、いくつかの態様において、これは少なくとも40又は50℃の範囲で達成され得る。
【0025】
迅速な加熱段階及び迅速な冷却段階により、低温殺菌に使用されるエネルギー量は、減少され得るということが理解されるだろう。この結果、コスト削減だけでなく、微生物油の質の悪影響ともならなく、実際、油中に有益な効果を有する。
【0026】
(第三態様−時間対温度グラフに基づく領域(エネルギー入力))
第二態様から、本発明の低温殺菌プロトコルが、時間対温度グラフに描画されると、台形が達成されることが明らかであろう。第一(加熱)及び第三(冷却)段階は、形状において三角形であるが、中央の又は第二の(プラトー)段階(第四の態様の題材)は(通常)長方形である。時間対温度グラフに基づく領域は、この系に入力されたエネルギー量を表す。低温殺菌プロトコルを3つの部分に分割することによって、グラフの領域、及びそれによってエネルギー入力を計算し得る。
【0027】
第三態様において、時間(分)対温度(℃)グラフに基づく領域は、13000℃・分以下となる。しかし、達成した量及び11000、10000、9000、8000又はさらに1000℃・分が可能である。本発明の好ましい態様において、この値は、7000、6000又は800℃・分以下でよい。参照されるグラフにおいて、時間がx軸(又は横軸又は横座標)に描写され、0℃が原点を表す。温度が、y軸(又は垂直軸又は縦軸)に描写され、0℃が原点を表す。
【0028】
一旦微生物細胞が低温殺菌温度まで加熱されると、それらを冷却する(又は冷却される)ことができる。細胞を室温又は周囲温度まで又は、少なくとも30℃以下の温度まで通常冷却する。従って、細胞が30℃〜60℃に加熱される時間だけでなく、60℃〜30℃に冷却される時間が存在する。これらの二つの時間を合計して組み合わせて、組合せ30〜60から30℃の加熱又は冷却時間を提供する。好ましくは、この組み合わせは、150分未満、例えば120又は100分未満である。しかし、より小さいサンプルに対しては、より早い時間が達成され、またその組み合わせ時間(30〜60及び30℃へ引き下げる)は、70、50又はさらに30分未満でよい。
【0029】
(第四態様−プラトー段階を有する低温殺菌プロトコル)
このプロトコルは、第二態様に従うことができ、(例えば第一)加熱段階、及び(例えば第二)冷却段階、サンドウィッチ(例えば第二、又は中央又は中間)プラトー段階が存在し得る。しかし、必須ではないが、他の低温殺菌プロトコルが、認識され得る。第四態様は、このプラトー段階の好ましい特徴に関する。第二(及び他の)態様の全ての特徴及び特性を必要な変更を加えてこの第四態様に適用する。
【0030】
細胞は、特定の所望の温度で(プラス又はマイナス1、2、5又は更に10℃)で、温度(T,℃)、時間(t,分)維持され、又は持続される。これらの二つのパラメータは、掛け算されて、積tTを提供する。これは、好適には140又は280〜50000又は100800℃・分である。好ましくは、この積は、500、1000、2000又は3000又はさらに6000〜10000、18000又は25000℃・分である。好ましくは、積tTは、2000〜6000、例えば3000〜5000、最適には4000〜4500℃・分である。いくつかの態様において、積tTは、13〜900、例えば100又は200〜700又は800、好ましくは300〜400、600又は700℃・分である。
【0031】
従って、第三態様と類似の方法で、高温で維持されるとき、積tTが、細胞の時間対温度グラフの下の領域を表す。従って、増倍率tTは、実質的に、プラトー(加熱又は冷却でなく)段階のグラフの下の領域である。
【0032】
(PUFAの抽出)
本発明の第五態様は、微生物細胞からPUFAを得るための方法であって、先に述べたような、本発明の第一、第二、第三又は第四態様のいずれかに従って細胞を低温殺菌する工程、及び低温殺菌した細胞からのPUFAの抽出及び/又は単離工程を含む。
【0033】
本発明の第六態様は、少なくとも40%のアラキドン酸(ARA)を含み及び/又は少なくとも90%のトリグリセリドを有し得る微生物油に関する。この油は、2.5、1.5、0.8、0.6又はさらに0.5のPOV、及び/又は1.0未満のAnVを有し得る。上記油は、第五態様の方法によって調製可能である。
【0034】
(ポリ不飽和脂肪酸(PUFA)及び微生物油)
PUFAは、単一のPUFAでも2種又は3種の異なるPUFAでもよい。それぞれのPUFAは、n−3又はn−6ファミリーとなり得る。好ましくは、それは、C18、C20又はC22PUFAである。それは、少なくとも18炭素原子及び少なくとも3又は4の二重結合を有するPUFAでよい。このPUFAは、遊離脂肪酸、塩、脂肪酸エステル(例えば、メチル又はエチルエステル)として、リン脂質として、及び/又はモノ−、ジ−又はトリグリセリドの形態で提供され得る。
【0035】
好適な(n−3及びn−6)PUFAは、以下のもの、
藻類又は菌類、例えば、(渦鞭毛藻類)クリプテコジニウム(Crypthecodinium)又は(菌類)ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)から好適なドコサヘキサエン酸(DHA,22:6Ω3);
γ−リノレン酸 (GLA,18:3Ω6);
α−リノレン酸 (ALA,18:3Ω3);
共役リノレン酸 (オクタデカン二酸,CLA);
ジホモ(dihomo)−γ−リノレン酸(DGLA,20:3Ω6);
アラキドン酸 (ARA,20:4Ω6);及び
エイコサペンタエン酸(EPA,20:5Ω3)
を含む。
【0036】
好適なPUFAは、アラキドン酸(ARA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)及び/又はγ−リノレン酸(GLA)を含む。特に、ARAが好適である。
【0037】
PUFAは、本発明の方法で低温殺菌された細胞、例えば微生物細胞によって産生され得る。これは、細菌、藻類、菌類又は酵母細胞であり得る。菌類は、好ましくは、ケカビ目(Mucorales)、例えばモルティエーラ(Mortierella)、ヒゲカビ属(Phycomyces)、コウガイケカビ(Blakeslea)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ヤブレツボカビ(Thraustochytrium)、フハイカビ(Pythium)又はエントモプアトラ(Entomophthora)が好ましい。好ましいARA源は、モルティエーラ・アルピーナ(Mortierella alpine)、ブラケスレア・トリスポラ(Blakesleatrispora)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)又はピチウム・インシディオスム(Pythium insidiosum)から由来する。藻類は、渦鞭毛藻類であり得及び/又はチノリモ(Porphyridium)、ニッツチア(Nitszchia)、又はクリプトコジニウム(Crypthecodinium)(例えばクリプトコジニウム・コーニー(cohnii))を含み得る。酵母は、ピチア属又はサッカロミケス(Saccharomyces)、例えばピッチア・シフェリ(Pichia ciferii)を含む。細菌は、プロピオニバクテリウム属となり得る。微生物油は、(室温で)液体でよい。
【0038】
ほとんどのPUFAは、トリグリセリドの形態であることが好ましい。従って、好ましくは、少なくとも50%、例えば少なくとも60%、又は好ましくは少なくとも70%のPUFAが、トリグリセリドの形態である。しかし、トリグリセリドの量は、より高く、例えば油の少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%又は98%でよい。これらのトリグリセリドの内、好ましくは少なくとも40%、例えば少なくとも50%、及び最適には、少なくとも60%のPUFAは、グリセロール(トリグリセリドバックボーンに存在する)の1又は3位としても公知の、α位に存在する。PUFAの少なくとも20%、例えば少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%はβ(2)位である。
【0039】
微生物油は、所望のPUFA、例えばアラキドン酸の少なくとも10、35、40又は45%以上を含んでよい。少なくとも90%のトリグリセリド含有量を有し得る。好ましくは、微生物油は、90〜100%、例えば少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%及び好ましくは99.5%以上のトリグリセリド含有量を有する。典型的に、微生物油は、5%以下(below)、好ましくは1%以下及びより好ましくは0.5%以下の含有量のエイコサペンタエン酸(EPA)を有する。この油は、5%未満、2%未満、1%未満のそれぞれC20、C20:3、C22:0及び/又はC24:0のポリ不飽和脂肪酸(PUFA)を有し得る。遊離脂肪酸(FFA)含有量は、≦0.4、0.2又は0.1でよい。この油は、ほとんどGLA及び/又はDGLAを有しないかも知れない。
【0040】
この微生物油は、粗油でよい。それは、細胞から溶媒、例えば超臨界二酸化炭素、ヘキサン又はイソプロパノールを使用して抽出され得る。
【0041】
(低温殺菌方法)
発酵が終了後、低温殺菌を通常行う。好ましい態様において、低温殺菌は、低温殺菌中の熱が、細胞を殺すので、発酵を終了させるだろう。低温殺菌は、従って、発酵ブロス(又は液体(水性)培地)で行われ得るが、ブロス(broth)から得られる微生物バイオマス上で行われ得る。前者の場合、微生物細胞が発酵槽の内部にある間、低温殺菌が行われ得る。低温殺菌は、微生物細胞の更なるプロセシング、例えば顆粒化(例えば押出)小片化、又は混練の前に、好ましくは行う。
【0042】
好ましくは、低温殺菌プロトコルは、PUFA又は微生物油に悪影響を与え、又は低下させる1種以上の酵素、例えばリパーゼを阻害し、又は不活性化するのに十分である。
いったん発酵が、終了すると、発酵ブロスを濾過してよく、又は別の方法で処理して水又は水性液体を除去する。水の除去の後、バイオマス「ケーク」を得てよい。低温殺菌を行わない場合には、その後脱水細胞(又はバイオマスケーク)が、低温殺菌に施される。
【0043】
(PUFA抽出方法)
PUFA(又は微生物油、通常PUFAを含む)は、(低温殺菌された)微生物細胞から抽出され得る。好ましくは、細胞を含有する(例えば乾燥した)顆粒(例えば押出)から抽出され得る。この抽出は、溶媒を使用して行われる。好ましくは、非極性溶媒、例えばC1−8、好ましくはC2−6、アルカン、例えばヘキサンが使用される。(例えば超臨界状態の液体形態である)二酸化炭素も使用され得る。
【0044】
好ましくは、溶媒を、乾燥した顆粒を浸透させる。好適な微生物顆粒化及び押出技術及びそれに続く微生物PUFAを含有する油の抽出は、WO−A−97/37032に開示される。
【0045】
溶媒によって、粗PUFA含有油が得られるようになる。この油は、更なる処理をせずに、この状態で使用され得、又は1以上の精製段階に施される。しかし、粗油は、通常溶媒、例えば油を抽出するのに使用される溶媒(例えばヘキサン、又はイソプロピルアルコールなどのアルコール)を含み、これは、以下の製錬工程の1(又は好ましくは全て)に付される。好適な精製プロトコルは、国際特許出願番号PCT/EP01/08902(この文献の内容及びここに記載される他の全ては参考としてここに取り込まれる。)に記載される。例えば、この油は、酸処理又はデガミング(degumming)、アルカリ処理又は遊離脂肪酸除去、漂白又は顔料除去、濾過、ウィンテリゼーション(winterization)(又は例えば飽和トリグリセリド除去のための冷却)、臭気除去(又は遊離脂肪酸の除去)及び/又はポリッシング(又は油不溶性物質の除去)を含み得る1以上の精製工程に施される。これら全ての精製工程は、PCT/EP01/08902により詳しく開示され、必要な変更を加えて本出願に開示される工程に適用され得る。
【0046】
生じる油は、特に栄養上の目的に好適であり、(ヒト)食品又は(動物)飼料に添加され得る。例としてミルク、特殊調製粉乳、ドリンク剤、パン及び動物飼料が挙げられる。
【0047】
(微生物細胞)
本発明に使用される微生物細胞(又は微生物)は、PUFA及び微生物に関するセクションで先に説明したいずれのものでもよい。それらは、PUFA又は微生物油を含み、又は産生し得、好適にはPUFA油は、細胞から抽出されるか単離されてよい。それらは、糸状形態で、例えば菌類又は細菌、又は酵母などの単細胞、藻類及び細菌でよい。好適な菌類は、ケカビ目であり、例えば、菌類は、クサレケカビ(Mortierella)属、フィコミセス(Phycomyces)、ブラケスレア(Blakeslea)、アスペルギルス(Aspergillus)でよい。好適な菌類は、モルティエーラ・アルピーナ(Mortierella alpine)、ブラケスレア・トリスポラ(Blakeslea trispora)及びアスパーギルス・テレウス(Aspergillus terreus)である。
【0048】
酵母に関する限り、これらは、好適にピチア属(例えばピチア・シフェリ(Pichia ciferrii)種)又はサッカロミス(Saccharomyces)である。
【0049】
細菌は、プロピオニバクテリウム属であり得る。
【0050】
細胞が、藻類由来の場合、これは、好ましくはデノフラゲレートであり、及び/又はクリプトコジニウム属(Crypthecodinium)に属する。この種の好適な藻類は、クリプトコジニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)である。
【0051】
(加熱)
これは、直接的に又は間接的に(細胞を)加熱することによって行われる。もし直接であれば、加熱は、発酵槽に蒸気を通過させることによってなされる。間接的な方法は、熱交換器を経由して、発酵槽の壁を通してか、又は加熱コイルによるか、又は外部熱交換器、例えばプレート熱交換器を介して培地を使用してよい。
【0052】
通常、低温殺菌を発酵が生じる発酵槽容器内で行う。しかし、いくつかの生物(例えば細菌)にとって、細胞を容器からまず細胞を除去し、次いで低温冷却するのがしばしば好ましい。生物の他の処理、例えば乾燥又は顆粒化の前に、低温冷却を行ってよい。
【0053】
低温殺菌は、通常全てでないが、ほとんどの微生物を殺菌する。低温殺菌に続いて、少なくとも95%、96%又はさらに98%の微生物が殺菌され、生きてない。
【0054】
(酸性化)
いくつかの場合において、低温殺菌された細胞の成長の危険を減少させることが好ましい。一つの可能性は、細胞を好適な酸で酸性化することである。従って、微生物種の増殖を阻止するために、細胞をpH3〜4の範囲に調整することが好ましい。しかし、広域なpHの範囲は、細胞に従って使用され得、pHは、2〜5に、好ましくは約3.3〜3.7の範囲に調節され得る。
【0055】
低温殺菌前に、細胞の酸化を行ってよい。しかし、後で行うのが好ましい。
pHは、いかなる好適な方法、又はいかなる好適な酸によって調節され得る。好ましくは、これは、リン酸、例えば85%、又は希釈された55%又は33%リン酸を使用して達成される。
【0056】
(過酸化物価(POV))
好ましくは微生物油のPOVは、特に粗油に対して4〜8又は12である。しかし、POVは、3.0、2.5又は2.0以下でよい。しかし、より少ないPOV値が、本発明の方法を使用して得られ得、これらの値は、1.5未満又は1.0未満でよい。0.8又は0.6未満及びさらに0.4未満のPOV値が得られ得る。(態様から)値は、1.3(又は0.8)〜0.4の範囲である。(POVに対する)単位は、通常meg/kgである。
【0057】
(アニシジン値(POV))
この値は、アルデヒド含有量の尺度を提供する。好ましくは、微生物のアニシジン値は、特に粗油に対して5、6、7又は10〜15、20又は25である。好適には、AnVは、20以下、例えば15以下である。それは、10以下又は5以下である。好ましくは、POV及び/又はAnV値は、精製油でなく、粗油に言及する。AnV値(好適な実験において)は、15〜5、任意に12〜7の範囲である。
【0058】
(粗油対精製された油)
これらの2種の油のいくつかの差異を以下に表す。それぞれの粗又は精製油が、粗又は精製油についての以下の表での1種以上の特徴を有する。粗油は通常、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸パルミテート)を含む。
【0059】
【表1】



【0060】
好適に、本発明の粗油は、1以上の以下の特徴を有し得る。
(a)2.0〜3.5%(w/w)の不けん化物含有量、
(b)10、50又は100ppm〜1000、1500又は2000ppmまでの溶媒(例えばヘキサン)含有量、
(c)0.1又は0.2%〜1%、例えば0.1〜0.6又は0.3〜0.5%の遊離脂肪酸の含有量、
(d)2、3、4又は6〜10のPOV値、
(e)少なくとも2、3又は5mg/kgのリン含有量、
(f)50又は100ppm〜500ppmのシリコン含有量
(g)0.5〜1又は2%未満の水含有量、
【0061】
(油及びPUFAの使用)
本発明の第六態様は、第五態様の油を含む組成物に関し、適切な場合、(追加の)物質である。この組成物は、食品及び/又は動物又はヒト用の食品サプリメントでよい。本発明の態様において、ヒト消費において、油は、典型的に微生物から得られた油の精製又は精製によって、ヒト消費に好適となる。
【0062】
この組成物は、特殊調製粉乳又は(ヒト)食糧でもよい。ここで、この調製物の組成は、通常の母乳に類似する脂質又はPUFAの量を有するように、調製され得る。これは、妥当な組成物を獲得するために本発明の微生物油を他の油と配合する工程を含んでよい。
【0063】
この組成物は、動物又は海洋食品組成物又はサプリメントでよい。そのような食糧及びサプリメントは、いかなる家畜、特に羊、ウシ及び家禽に与えられてよい。さらに、食糧又はサプリメントは、養殖海洋生物、例えば魚類及び貝類に与えられてよい。従って、この組成物は、そのような動物のために、1種以上の食糧物質又は成分を含み得る。
【0064】
本発明の油は、油として直接販売されまた、適当なパッケージに、典型的には窒素充填された、内部にエポキシフェノールラッカーで被覆されたワンピースアルミニウム瓶に含まれ得る。この油は、1種以上の抗酸化剤(例えばトコフェロール、ビタミンE、パルミテート)を、例えばそれぞれ50〜800ppm、例えば100〜700ppmの濃度で含む。
【0065】
好適な組成物は、例えば経口に投与される医薬的又は獣医学の組成物又は化粧組成物を含み得る。この油は、そのように投与され、又は例えば、殻でカプセル包みされ、従ってカプセルの形態でよい。この殻又はカプセルは、ゼラチン及び/又はグリセロールを含んでよい。この組成物は、他の成分、例えば風味(例えばレモン又はライム香料)又は医薬的に又は獣医学的に許容される担体又は賦形剤を含んでよい。
【0066】
本発明のある態様の特徴及び特性は、必要な変更を加えて別に適用可能である。
【0067】
本発明は、以下の実施例に関連する例によって記載され、説明によって提供されるが範囲の制限を企図しない。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
PUFA油を含む微生物の産生の間、酸化は、酵素活性によって生じると考えられている。低温殺菌は、微生物細胞を処理しながら酸化を安定化させ、微生物油を得る方法として考えられる。安定化の程度は、低温殺菌の条件によることが分かった。
【0069】
従って、どの低温殺菌条件が酸化レベルに影響を与えるか、また特に油の過酸化物価(POV)を決定するために、多くの実験を行った。過酸化物価をAOCS:Cd8−53に詳述される標準的なプロトコルを使用して決定した。
【0070】
実験を以下のプロトコル、発酵、貯蔵、低温殺菌、(微生物油)抽出、油の分析に従う。
【0071】
菌類モルティエーラ・アルピーナ(Mortierella alpine)は、発酵槽の中で培養される。この発酵は、約148時間持続した。M.アルピーナ(alpine)は、アラキドン酸(ARA)と呼ばれるPUFAを産生した。バイオマスを発酵槽から除去し、(−18℃以下の温度で)保存した。
【0072】
M.アルピーナのサンプルバイオマスを、発酵ブロスから除去し、一方で発酵槽の内部で存在し、直ぐに凍結した。
【0073】
種々の低温殺菌プロトコルを試した。低温殺菌を、3種の異なる温度、すなわち40、70及び85℃で行った。このプロトコルは、3段階方法に従い、速やかな加熱の第一の段階の後に所望の温度でのプラトー(第二又は中央の段階)が続き、これは使用される最大温度であった。バイオマスの異なるサンプルが、3つの異なる時間、即ち、1、2及び24時間の中央(プラトー)段階に付された。
【0074】
低温殺菌に続いて、ウェット抽出技術を使用して微生物油を得た。このバイオマスのサンプルを濾過し、(低圧で)圧搾し、また油抽出した。
【0075】
微生物油をその後、第一に過酸化物価(POV)に対してAOCS法を使用して分析した。いくつかのサンプル中のARA含有量を決定した。得られた微生物油は、約420gARA/kgを有することが示された。
【0076】
(詳細なプロトコル:発酵及びサンプル抽出)
発酵ブロスの1リットルを発酵容器から取り出し、濾過した(セイッツ(Seitz)2リットルフィルター、F−FA10)。得られたケークを600mlの脱塩水で洗浄した。ウェットケークを1分間、ブロードライし、0.4MPa(400バール)で(HAFICO(商標)器具、チンクチャープレス、C−OAO21、300−400atm)で圧搾した。その後、ウェット押出物を使用して、500mlヘキサン(メルク社製)により、室温(20〜25℃)、1時間、Ultra Turrax(商標)機で、微生物油を抽出した。その後ヘキサンをデカンテーションした。残存ケークを250mlの新鮮なヘキサン(攪拌しながら30分間)で、室温で、洗浄した。このヘキサンをデカンテーションし、その後最初に抽出したヘキサンに加えた。
【0077】
その後、抽出物をGFAグラスフィルターと組み合わせたグラスフィルターを使用して濾過した。その後ヘキサンを蒸発させ、Rotavapor(商標)機械を使用し、透明な抽出物から、約50℃、約15分間蒸発させた。この油をその後、気密カップに移し、それぞれのサンプルカップを窒素で30秒流した。その後サンプルカップを閉じ、−18℃で保存した。
【0078】
(低温殺菌プロトコル)
3種の異なるプロトコル(A、B及びC)を試験した。それぞれは3つの段階、第一加熱段階、(最大温度での)第二プラトー段階、及び第三冷却段階で構成された。以下の表1は、3種の低温冷却プロファイルを示す。
【0079】
【表2】



【0080】
3種の低温冷却プロファイルA、B及びCは、さらに図1にグラフで示される。理解されるように、温度(T,℃)対時間(t,分)のグラフの下の領域は、各プロファイルの3段階のそれぞれが計算され、その後合計して3つのプロファイルのそれぞれに対するグラフの下の領域のすべてを与える。これらの計算をさらに上記表1に示した。
【0081】
3種の低温殺菌プロトコルA、B及びCに続いて、細胞からの抽出により得られた油について、過酸化物価(POV)を決定した。抽出油のPOVは、それぞれ8.7、14.3及び2.4であった。プロファイルBは、遅い加熱速度及び遅い冷却速度を有し、単に比較として示される。それは、最高のPOV値14.3を与える。
【0082】
対照的に、プロファイルA及びCは共に本発明の範囲内である。プロファイルAは、プロファイルBよりも、第一段階及び第三段階でのより早い加熱速度及び冷却速度を有する。好ましくは、本発明において、加熱及び冷却速度は少なくともプロファイルAで示されたものと同様に早い。プロファイルAは、8.7のPOVを与えた。
【0083】
しかし、最高の結果がプロファイルCを使用して得られ、これはほんの2.4のPOVを有していた。図1で示されるように、これは、非常に迅速な加熱段階であり、また高速の冷却(第三)段階を有していた。
【0084】
(実施例2)
低温殺菌の温度をより広く変化させ、すなわち40℃(比較)、70℃及び85℃で変化させた以外は、実施例1と類似の実験を行った。温度(℃)対時間(分)のプロファイルは、以下の図2及び表2に示される。このプロファイルは、本質的にすべてのサンプルに対して同一であるが、当然、必要に応じて低温殺菌のプラトーを延長(1時間〜4又は24時間)した。
【0085】
【表3】



【0086】
異なる長さの、2種の異なる発酵(両方M.アルピーナ)からのサンプルを試験した。サンプル番号は、11〜20である。表3は、僅かにより長い発酵を有し、約2mのブロスを種菌発酵槽に移し、発酵をさらにグルコースを添加せずに48時間拡張した。
【0087】
低温殺菌の後、約1000Pa(1バール)窒素の圧で濾過から始めてサンプルを処理した。得られたケークは、次いで処理水(約0.6の初期ブロス体積)で洗浄した。脱水を、十分な(fruit)圧力0.3MPa〜0.4MPa(300〜400バール)のピストン圧を使用して、達成した。その後、500mlの新鮮なヘキサンを加え、Ultra−turrax機を1分間使用して、1分間混合した。その後、抽出を約1時間、周囲温度で行った。濾過の後、得られたケークを250mlの新鮮なヘキサンで洗浄し、得られた溶媒を真空下、60〜70℃で揮発させた。その後窒素で脱気し、−18℃で保存した。
【0088】
結果を表3に示した。この表には、第一の及び第二の測定された過酸化物価、これら二つの値の平均、及びアニシジン値(AnV)を含む。POV及びAnVの減少を表3及び4に示す(それぞれより短い及びより長い発酵である)。
【0089】
【表4】



【0090】
結果から、低温殺菌しないと、POVが5.6又は5.7であることが分かる。40℃での低温殺菌は、POVを減少させるが、POVを許容値2.1に減少させるためには、低温殺菌温度での相対的に長時間(例えば24時間)が要求される。
【0091】
より高い温度が、より一層うまくいった。例えば、70℃で1時間のみの低温殺菌は、24時間、40℃での2.1のPOVと比較して、2.2のPOVを提供した。更に良好な値はより高温で得られ、85℃、1時間では、たった1.2のPOV値を与えた(これらの値は、より短い発酵に引用されるが、類似の結果がより長い発酵で成長した細胞でおいて見いだせ得る)。
【0092】
従って、図3及び4は、異なる低温殺菌時間に関して、どのようにPOV及びAnV値を変化させるかをグラフで示す。予想通り、より長い低温殺菌時間は、より低いAnV及びPOV値を与える。しかし、より重要なのは、低温殺菌しながら相対的に高い温度を使用することである。AnV及びPOVでの顕著な減少は、低温殺菌温度(Tpast)が、70℃に増加したとき見られ、さらに低い値は、85℃で見られた。(クロス、黒丸及びアスタリスクによって示された上方の3つの線は、AnV値を示し、一方、ダイヤ、四角及び三角で示されたより低い3本線は、POV値を与える。)
【0093】
以下の表4は、9種の異なる低温殺菌プロトコル(3種の異なるプラトー温度及び3種の異なる時間)に対して計算した積tT(℃・分)を示す。実質的にこの積は、(加熱段階の後、しかし冷却段階の前)プラトー段階のグラフ(時間、t、分対温度、T、℃)の下の領域を表す。
【0094】
【表5】



【0095】
(実施例3)
先に説明したように、菌類M.アルピーナを使用して、生産規模の発酵さらに発酵ブロスを使用して低温殺菌試験を行った。低温殺菌していないブロス(800リットル)を移し、4℃で保存した。その後、ブロスを700リットルの攪拌容器に移して、10種の異なる低温殺菌プロトコルを行った。
【0096】
まず、5種の異なる(最大)温度で、すなわち、140、120、100、80及び60℃において、8秒の滞留(プラトー)時間(最大温度の)で低温殺菌を行なった。次ぎに、140、120、100、80及び60℃で、滞留(プラトー)時間、最大温度で、300秒で低温殺菌を行った。
【0097】
サンプル(2リットル)を取り、次いで−18℃で直接冷凍した。消毒したサンプル(200ml)を取り、冷凍し、粗ARA油を以下のプロトコルを使用してこのサンプルから回収した。
【0098】
発酵ブロス(1.7リットル)のサンプルを1000Pa(1バール)のNにおいて濾過した。ケークを0.6容積の復水(condensed water)で洗浄し、約5分、39.2MPa(400kg/cm)で圧搾した。その後、n−ヘキサン(500ml)を湿ったケークに添加し、Ultra Turrax機を24000rpmで使用して粉砕した。この油を周囲温度(約21℃)で、約110分かけて抽出した。懸濁液をGF/Aワットマンフィルタ−培地を使用して真空で濾過した。このケークを250mlの新しいヘキサンで洗浄した。ヘキサンを15分間、約60〜70℃の温度を有する水浴中で蒸発させた。得られた油をその後気密サンプルカップに移し、30秒間窒素をパージし、その後−18℃で分析する前に閉じ、保存した。
【0099】
図5、6及び7は、分析後のデータを提供する。図6及び7は、2つのセットの実験に対する時間対温度プロファイルを示し、まず8秒間のプラトー(滞留)時間、次ぎに5分間のプラトー(滞留)時間でそれぞれ5℃に設定されてある。グラフから読み取れるように、水平中央線(8秒又は5分を示す)は、プラトー段階を示す。
【0100】
図5は、すべての10種の低温殺菌レジームに対する得られたPOV及びAnV値を示す。見られるように、より低いPOV値は、ますますより高い温度で得られ、またより長い滞留時間(5分)は、より低いPOV値を与えた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】3段階低温殺菌プロトコル(A及びCは、本発明の範囲内であり、Bは、比較として提供される。)に対する温度(℃)対時間(分)のグラフである。
【図2】3種の異なる温度プラトー(40、70及び85℃)における低温殺菌に対する温度(℃)対時間(分)のグラフである。
【図3】AnV及びPOV対時間(時)のグラフである。
【図4】AnV対時間(時)のグラフである。
【図5】2種の異なる(滞留/プラトー)時間(8及び300秒)での低温殺菌に対するPOV(meq/kg)及びAnV対温度(℃)のグラフである。
【図6】8秒の(滞留/プラトー)時間、5種の異なる温度(60、80、100及び140℃)における、温度(℃)対時間(秒)のグラフである。
【図7】5分の(滞留/プラトー)時間、5種の異なる温度(60、80、100及び140℃)における、温度(℃)対時間(秒)のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物細胞を低温殺菌する方法であって、40℃〜70℃を含む温度で、30分未満の間又は0.5℃/分より早い速度で細胞を加熱する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
微生物細胞を低温殺菌する方法であって、以下の3つの段階、
1)(第一の)加熱段階、
2)(第二の)プラトー段階(この段階で前記細胞が、一定の温度で維持される。)、及び
3)(第三の)冷却段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
微生物細胞を低温殺菌する方法であって、時間(分)対温度(℃)のグラフの下の領域が、13000℃・分以下となる、低温殺菌プロトコルを使用して前記細胞を加熱する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
微生物細胞を低温殺菌する方法であって、前記細胞を加熱し、また昇温(T,℃)で、所定の時間(t,分)、積tTが140〜100800℃・分のプラトー段階で、前記細胞を維持する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
(a)前記プラトーが最大温度であり、
(b)時間(t)対温度(T)のグラフにおける低温殺菌プロトコルの形状が、台形であり、
(c)加熱及び/又は冷却が、直線であり、及び/又は
(d)前記細胞が、40℃以下から始まる温度で加熱され及び/又は70℃以上の温度に加熱され、及び/又は
(e)前記細胞が、PUFA又は(任意にPUFA含有)微生物油を含むか、又は産生する、
請求項2又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記微生物細胞が、40℃〜70℃で、15分以下加熱され及び/又は前記細胞が、少なくとも0.6又は1.0℃/分の速度で加熱される請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(a)前記微生物細胞が、少なくとも2℃/分の速度で加熱され、
(b)前記低温殺菌(又はプラトー)温度が、70〜100℃、好ましくは70〜85℃であり、
(c)前記細胞が、少なくとも−0.6又は−1.6℃/分の速度で冷却され、及び/又は
(d)時間(分)対温度(℃)のグラフ下の領域が、10000又は8000℃・分以下である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
PUFA又は微生物油を微生物細胞から得る方法であって、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細胞を低温殺菌し、またPUFA又は微生物油を低温殺菌された細胞から抽出又は単離する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
微生物油であって、少なくとも90%のトリグリセリド含有量、1.5(又は1.0)未満の過酸化物価(POV)及び/又は15未満、任意に12未満のアニシジン値(AnV)を有することを特徴とする微生物油。
【請求項10】
(a)前記PUFAが、C18、C20又はC22Ω−3又はΩ−6脂肪酸を含み、
(b)前記PUFA含有量が、少なくとも40%であり、
(c)前記PUFAが、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)及び/又はドコサヘキサエン酸(DHA)、及び/又は
(d)前記油が、粗又は精製されてない油である、
請求項9に記載の油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78590(P2013−78590A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−251460(P2012−251460)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【分割の表示】特願2004−514829(P2004−514829)の分割
【原出願日】平成15年6月20日(2003.6.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】