説明

微生物計測方法及び装置

【課題】
高効率で対象微生物を分離し、作業の自動化・省力化を図ることを課題とする。
【解決手段】
本発明では、検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉して微生物を計測する微生物計測方法において、前記検査対象水に界面活性剤と酸を添加するステップ301と、前記膜を用いて前記検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉するステップ303と、前記微粒子を回収するステップ309とを含む微生物計測方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を計測する方法及び装置に関し、特に、河川及び湖沼などの環境水や上下水道の各処理プロセスの処理水など存在する原虫、細菌、ウイルスといった水系感染性微生物を計測する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境中には多種多様な化学物質が存在するため、水道原水となる河川や湖沼などの環境水も様々な化学物質で汚染されていると考えられる。しかし、このような水環境の水質問題のほかにクリプトスポリジウムなどの原虫類、腸管出血性大腸菌O157やレジオネラ菌などの細菌、ウイルスなどによる水系感染症の発生が大きな社会問題となっている。
【0003】
これらの水系感染症の集団発生を防ぐためには水処理プロセスにおける原因微生物を高頻度にモニタリングすることが必要不可欠である。特に新興の水系感染症の原因となっているクリプトスポリジウムやジアルジアなどの原虫の検査方法(例えば、厚生労働省から示された「クリプトスポリジウム暫定対策指針」1998年に指針の改正)では、クリプトスポリジウムの検査手順は大きく分けて、試料採取、ろ過濃縮、剥離懸濁、分離精製、免疫蛍光染色、顕微鏡観察からなる。
【0004】
試料採取ステップでは、容量10〜20Lのポリエチレン容器に河川水など水道原水は10L、浄水や水道水は40Lを採取する。次に、ろ過濃縮ステップでは、直径47mm又は90mm、ポアサイズ5μmの親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスク膜を加圧又は吸引式の膜ホルダーに取付け、採取した試料を全量ろ過する。クリプトスポリジウムのオーシストは直径4〜5μm程度であるので、このステップにより試料中の微粒子とともに混入しているクリプトスポリジウムを分離することができる。剥離懸濁ステップでは、試料をろ過したディスク膜を50mLの遠心管に入れ0.02%ピロリン酸ナトリウム、0.03%EDTA−3Na、0.01%Tween80からなる誘出液(1%PET)を添加し、激しく攪拌する。これにより試料中の微粒子とともに膜に捕捉されたクリプトスポリジウムをディスク膜から剥離させる。次に遠心分離を行い、クリプトスポリジウムを含む微粒子と誘出液を分離し、誘出液を取り除き減容化する。続いて、分離精製ステップでは、上述の試料中の微粒子を含む懸濁液からクリプトスポリジウムを分離する。クリプトスポリジウムを特異的に認識する抗体が結合した免疫磁気ビーズを懸濁液に添加し、一定時間撹拌後、免疫磁気ビーズを磁石により容器に固定し、懸濁液を取り除く。免疫磁気ビーズにはクリプトスポリジウムが結合しており、pH変化により免疫磁気ビーズからクリプトスポリジウムを脱離させ、クリプトスポリジウムを回収する。免疫蛍光染色、顕微鏡観察ステップでは、回収したクリプトスポリジウムに蛍光標識した抗クリプトスポリジウム抗体を添加し、クリプトスポリジウムを標識し、蛍光顕微鏡で観察する。
【0005】
また、特開2006−094821には、微生物と微生物以外の粒子を含んだ多量の液体中から効率良く微生物のみを分離し、微生物を計測する微生物計測装置が記載されている。特に、この微生物計測装置が、ろ過状態を良好に保つため、界面活性剤又はイオン系界面活性剤を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−094821
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浄水処理プロセスにおいて、環境中に存在する水系感染性微生物を適切に除去あるいは消毒殺菌し安全な水道水を供給するためには、検出対象微生物を高頻度に測定し、その測定結果を処理プロセスにフィードバックする必要がある。
しかしながら、クリプトスポリジウムなどの病原性原虫類、腸管出血性大腸菌O157やレジオネラ菌などの細菌、ウイルスの検査方法、特にクリプトスポリジウムの検査方法は前述のとおり、クリプトスポリジウムを捕捉し回収するとき、試料の微粒子によりディスク膜が目詰まりをおこし、短時間でろ過速度が低下するため全試験工程にかかる時間が長くなり迅速な測定ができず、大量の試料を効率よく処理できないという問題もある。また、蛍光顕微鏡観察では他の微生物との識別に高度な熟練を要するため、1時間に1回あるいは1日に1回程度の高頻度な測定が望まれている。さらに、上述のろ過濃縮及び剥離懸濁にけるクリプトスポリジウムの回収率は多くの場合、数十%〜80%前後と変動が大きく、計測値のバラツキも大きい。さらに計測値の再現性や検出精度の面から改善すべき問題点が多い。
【0007】
このように微生物の検査において検査精度が低いことや操作が複雑であるため熟練した技術が必要であり、長時間の作業のため作業者の負担が大きいため、作業ステップの自動化や省力化が望まれている。
【0008】
本発明は、上述の問題点を鑑み、クリプトスポリジウムなど水系感染微生物を試料水中から短時間で大量の試料水から高効率で検出対象微生物を分離し、検出感度を高め、作業の自動化・省力化を図ることができる、微生物計測方法及び装置を提供することを課題とするものである。また、膜閉塞物質を分散や溶解して膜の目詰まりを防ぐことも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉、回収して微生物を計測する微生物計測方法を提供する。この微生物計測方法は、検査対象水に界面活性剤と酸を添加するステップと、膜を用いて検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉するステップと、微粒子を回収するステップとを含む。検査対象水は、河川や湖沼等から採水されたものであることが好適である。検査対象水に界面活性剤と酸を添加するステップでは、土壌由来の高分子の有機物等、膜の閉塞を促進する物質を分散又は溶解して膜の目詰まりを防止する。膜は、親水性かつ表面が平滑な膜であることが好適である。なお、本発明の微生物計測方法は、上記手順で行うことが好ましいが、上記手順に限定されるものではない。
【0010】
また、上記の微生物計測方法で、微生物を含む微粒子を捕獲するステップの後に、検査対象水を、界面活性剤を含むpHが中性付近の洗浄液に切り替えるステップと、膜に対して検査対象水側から通水するステップと、膜を用いて検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉するステップと、微粒子を回収するステップとを含む。検査対象水は、河川や湖沼等から採水されたものであることが好適である。検査対象水をpHが中性付近の洗浄液に切り換えることによって、膜上に捕捉された検出対象の微生物を分散させて回収しやすくする。膜は、親水性かつ表面が平滑な膜であることが好適である。なお、本発明の微生物計測方法は、上記手順で行うことが好ましいが、上記手順に限定されるものではない。
【0011】
また、本発明に係る微生物計測方法では、微粒子を回収するステップが、洗浄液を膜に対してろ液側から逆流させて膜上に捕捉された検出対象の微生物を膜から脱離させるステップと、膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を回収するステップとを含むことが好適である。
【0012】
また、本発明に係る微生物計測方法では、膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水するステップが、膜上に溜まった試料液を膜に対して検査対象水側から加圧するステップを含むことが好適である。
【0013】
さらに、上記課題を解決するために、本発明は、検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉、回収して微生物を計測する第1の微生物計測装置を提供する。この微生物計測装置は、検査対象水に界面活性剤と酸を添加する手段と、膜を用いて検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉する手段と、微粒子を回収する手段とを備える。検査対象水は、河川や湖沼等から採水されたものであることが好適である。検査対象水に界面活性剤と酸を添加するステップでは、土壌由来の高分子の有機物等、膜の閉塞を促進する物質を分散又は溶解して膜の目詰まりを防止する。膜は、親水性かつ表面が平滑な膜であることが好適である。
【0014】
また、本発明の微生物計測装置は、更に検査対象水を、界面活性剤を含むpHが中性付近の洗浄液に切り替える手段と、膜に対して検査対象水側から通水する手段と、膜を用いて検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉する手段と、微粒子を回収する手段とを備える。検査対象水は、河川や湖沼等から採水されたものであることが好適である。検査対象水をpHが中性付近の洗浄液に切り換えることによって、膜上に捕捉された検出対象の微生物を分散させて回収しやすくする。膜は、親水性かつ表面が平滑な膜であることが好適である。
【0015】
また、本発明に係る微生物計測方法では、微生物を回収する手段が、洗浄液を膜に対してろ液側から逆流させて膜上に捕捉された検出対象の微生物を膜から脱離させる手段と、膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を回収する手段とを備えることを好適とする。
【0016】
また、本発明に係る微生物計測方法では、膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水する手段が、膜上に溜まった試料液を膜に対して検査対象水側から加圧する手段を備えることを好適とする。
【0017】
界面活性剤には、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等を使用する。具体的には、例えば、Tween80、ポリエチレングリコールモノ−p−イソオクチルフェニルエーテル(Triton X−100)、ポリオキシエチレンソスビタンモノラウレート(Tween20)、ノニデットP−40(Nonidet P−40)、n−テトラデシル−N、N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルフォネート(ZWITTERGENT3−40)、3−((3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ))プロパンスルホン酸(CHAPS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)から選択される少なくとも一を使用することが好ましいが、これに限定されない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の微生物計測方法及び装置は、試料水中の病原性微生物を試料水から分離するとき、膜の微細孔内又は表面上に試料中の夾雑物が蓄積することによってろ過性能が低下することを防止するものである。さらに、本発明の微生物計測方法及び装置は、短時間で、自動的に検出対象の微生物を膜から回収することができる。よって、作業の自動化及び省力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る微生物計測方法及び装置の実施の形態について説明する。
図1に、本発明に係る微生物計測方法を実施するための装置に用いるろ過器100についてその一実施の形態を示す。なお、本発明に係る微生物計測方法及び装置では、様々な微生物を計測することができる。本実施の形態では、その一例として、クリプトスポリジウムを計測する。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るろ過器100は、その本来の機能を果たすトラックエッチ膜101(以下、膜101)を備えている。膜101は、メッシュクロス102を支持体とし、膜固定パッキン103で固定されている。この全体をフローセル上部104とフォローセル下部105とで挟み込んでいる。これによって、膜101を介して試料水とろ液が分離できる構造となる。
【0021】
ろ過器100内の圧力変化により、膜101が変形して伸びることがある。これによって、膜101の孔径が広がることがある。したがって、本実施の形態では、試料水の供給圧による膜101の変形を防ぐため、ろ液が流下でき、膜101の形状を保持できる支持体の上に膜101を固定した。支持体としてはメッシュクロス102を用いることができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン製の目開き30メッシュクロス(NBC社)を用いることができる。また、樹脂製の焼結板も用いることができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン製の通過径200μmのプラスチックフィルター板(フロン工業)を用いることができる。
【0022】
フローセル上部104には、試料水供給口111と、試料水から分離された微生物を含む懸濁液を回収する試料回収口112と、試料水から分離された微生物を含む懸濁液を空気圧により回収するための加圧/吸気口113とが設けられている。
フローセル下部105には、ろ液排出口114と、洗浄水供給口115とが設けられている。
試料水から分離された微生物を回収するため、微生物回収口112は、下側に傾けた構造であることが望ましい。これにより、膜上部104に溜まったクリプトスポリジウムを含む液を微生物回収口112に流下させ、効率よく回収することができる。
【0023】
さらに、本実施の形態では、磁石入りの撹拌子106を用いて、膜101上を撹拌する構造としている。撹拌子106はフローセルの下部105に設置するマグネティックスターラーを用いて磁力により回転させることができる。フローセル上部104に設置する(図示せず)こともできる。
試料となる環境水中には藻類や砂などの夾雑物が多く含まれ、これが膜の微細孔に入り込み目詰まりしたり、膜表面上に蓄積し、ろ過性能が低下したりする。また、クリプトスポリジウムは夾雑物とともに膜表面に付着するため、クリプトスポリジウムを回収するときに、膜から剥がす必要がある。
これに対して、攪拌子106は、試料水中の夾雑物が膜101の微細孔に目詰まりすることを防ぐことができる。さらに、攪拌子106は、クリプトスポリジウムが膜101表面に付着することによって回収率が低下してしまうことを防ぐことができる。
【0024】
次に、図2及び図3を用いて、本発明に係る微生物計測方法の実施形態について説明する。図2は、本発明に係る微生物計測方法を実施するための装置についてその一実施の形態を示す。図3には、本発明に係る微生物計測方法の一実施形態についてその流れを示す。
【0025】
本実施の形態の装置は、上記図1について説明した、ろ過器100と、試料タンク211と、洗浄液タンク212と、廃液タンク213、試料回収タンク214と、バルブ208、負圧圧力計209と、正圧圧力計210と、バルブ(216〜227)とを備える。ろ過器100は、ラインL21によって試料タンク211と、ラインL22によって洗浄液タンクと、ラインL23によって廃液タンクと、ラインL24によって試料回収タンクとそれぞれ接続されている。
【0026】
まず、河川原水などの環境試料にクリプトスポリジウムの誘出液として用いられている100%PET(2%(w/v)ピロリン酸ナトリウム、3%(w/v)EDTA−3Na、1%(v/v)Tween80)を終濃度0.1%PETになるように検査対象水に添加する。なお、2%(w/v)ピロリン酸ナトリウム及び3%(w/v)EDTA−3Naは分散剤として用い、1%(v/v)Tween80は界面活性剤として用いている。続いて、塩酸を終濃度0.1モル/Lになるように添加して撹拌する(ステップ301)。このとき、Tween80の終濃度は0.01%(v/v)とする。この試料水を試料タンク211に移す(ステップ302)。
ここで、酸の種類としては、硝酸、クエン酸なども挙げることができ、濃度は例えば0.01モル/L〜0.2モル/Lとする。
【0027】
バルブ215、バルブ216を開き試料供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動する(ステップ303)。廃液タンク213内は減圧され、ろ過器100内も減圧されるため試料水はろ過器100内に吸引される。ろ液は膜101(図1)を透過し、ろ液排出口114から廃液タンク213内に排出される。ここで、廃液タンク213は耐圧性のものを使用することが望ましい。このとき、エアポンプ208による吸引圧力は負圧圧力計209で測定される。膜の破断圧力は、69kPaである。したがって、安全をみて、吸引圧力が45〜50kPaになるようにエアポンプの運転を制御する。これにより試料水は一定圧力でろ過される。また、例えば、試料中の鋭利な粒子が膜を傷つけて膜が破断した場合、45〜50kPaに制御されていた吸引圧力が正圧側に急激に変化するため、この圧力変動をモニタすることで試料調整の運転中止を判断することができる。
【0028】
試料水のろ過が終了したら、エアポンプ208を停止し、バルブ215、バルブ216を閉じ、バルブ224、バルブ225を開き、配管内を大気開放として残圧を除く(ステップ304)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
【0029】
クリプトスポリジウムを検出するため、蛍光物質で標識された抗クリプトスポリジウム抗体を使用する。試料が酸性であると、抗クリプトスポリジウムがクリプトスポリジウムに結合できない。さらに、蛍光物質の蛍光活性を消失させてしまう。
ここで、試料水は、界面活性剤及び塩酸が添加されているため、pHは2程度である。したがって、洗浄液を用いて、膜101上に捕捉されたクリプトスポリジウムを含む粒子及びろ過器100内に付着している酸性の水滴を、中性付近にする必要がある。
【0030】
したがって、次に、pHが中性付近の洗浄液をろ過器100内に通水し、膜101上に捕捉されたクリプトスポリジウムを含む粒子及びろ過器100内を洗浄する。バルブ217、バルブ219、バルブ216を開き洗浄水供給流路を形成し、バルブ221を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ305)。廃液タンク213内は減圧され、ろ過器内も減圧されるため洗浄水タンク212の洗浄水はろ過器100内に吸引される。洗浄水は膜101を透過し、ろ液排出口から廃液タンク213内に排出される。このとき、エアポンプ208による吸引圧力は負圧圧力計209で測定される。膜の破断圧力は69kPaであるので安全をみて、吸引圧力が45〜50kPaになるようにエアポンプの運転を制御する。なお、pHが中性付近になるまでの時間を予め測定しておく。洗浄時間は、この時間に基づいて決定される。洗浄時間の経過後、エアポンプを停止し、バルブ217、バルブ219、バルブ216を閉じ、バルブ224、バルブ225を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ306)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
【0031】
洗浄液には、誘出液100%PETを希釈した0.1%PET溶液を用いた。この誘出液は「クリプトスポリジウム、解説と試験方法」(日本水道協会)に記載されている誘出液であり、クリプトスポリジウムの試験方法で用いられている。この誘出液のpHは、例えば7〜8である。これは粒子の分散剤として用いられているため、捕捉された粒子を膜101から脱離させやすくする。洗浄液は0.1%PETに限らず、pHは中性付近の緩衝液も使用することができ、好ましくは界面活性剤を含んでいることが望ましい。
【0032】
続いて、ろ過器100の試料側を陰圧にし、洗浄液をろ液側から逆流させることによって膜101を逆洗する。粒子を膜101から剥離させるためには、膜上を磁石入りの撹拌子106を用いることだけでは不十分である。これによって、膜101上に捕捉されたクリプトスポリジウムを含む粒子を効率よく回収することができる。
【0033】
バルブ217、バルブ220を開き洗浄水逆流流路を形成し、バルブ221、バルブ224を開きエアポンプ208を作動させる(ステップ307)。これにより、ろ過器の加圧/吸気口からエアが吸引され、ろ過器内は減圧されるため洗浄水タンク212の洗浄水は洗浄水供給口からろ過器100内に流入し、膜101を透過し膜101上に溜まる。このとき予め設定した量の洗浄液が膜101上に溜まるように時間を設定しておき、設定時間経過後、バルブ217、バルブ220を閉じ、エアポンプを停止する(ステップ308)。このとき、膜上からより効率よく粒子を脱離させるため、膜上に溜まった洗浄液を磁石入りの撹拌子106で撹拌し続けることが望ましい。その後、バルブ221、バルブ224、バルブ225を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
【0034】
バルブ218を開き試料回収流路を形成し、バルブ222、バルブ223を開きエアポンプを作動させる(ステップ309)。これにより、ろ過器の加圧/吸気口からエアが供給され、ろ過器100内は加圧され、膜上に溜まったクリプトスポリジウムを含む洗浄液は試料回収タンク214に圧送される。このとき試料回収口のチューブは膜101上の直上まで接近し、ろ過器100も試料回収口側に傾いており、洗浄水が試料回収口に溜まっていることが望ましい。
【0035】
試料を回収したら、エアポンプ208を停止し、バルブ218を閉じ、バルブ225を開き、配管内を大気開放とし残圧を除く(ステップ310)。大気に開放した後、バルブを初期の状態に戻す。
【0036】
回収したクリプトスポリジウムを含む試料に、クリプトスポリジウムと選択的に結合し、蛍光物質により標識された標識抗体を添加し、クリプトスポリジウムを蛍光標識する。このクリプトスポリジウムは蛍光顕微鏡やフローサイトメーターで検出する。
【実施例1】
【0037】
本発明者らは、本発明に係る微生物計測方法及び装置の上記効果を検証するため、環境水に界面活性剤と、酸又はアルカリとを添加し、ろ過性能の比較を行った。
【0038】
界面活性剤はクリプトスポリジウムの試験方法で用いられている2%ピロリン酸ナトリウム、3%EDTA−3Na、1%ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート(Tween80)からなる誘出液(100%PET、「クリプトスポリジウム、解説と試験方法」日本水道協会)を用いた。
【0039】
試料水は多摩川河川原水を用い、所定の濃度になるように100%PETを添加した。また、酸として塩酸、アルカリとして水酸化ナトリウムを用い、これらも所定の濃度になるように試料水に添加した。条件を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
上述の試料水を、図2及び図3に記載した方法でろ過を行い、各試料のろ過性能の比較を行った。膜は試料中のクリプトスポリジウムを捕捉するための親水性でかつ表面が平滑な孔径2μmのトラックエッチ膜(ワットマン社、商品名ニュークレポア膜)を用いた。クリプトスポリジウムオーシストの粒径は3〜5μmであり、またトラックエッチ膜の孔径はプラス0%、マイナス10%の精度を有するため、ほぼ100%でクリプトスポリジウムを膜上に捕捉することができる。
【0042】
上述のトラックエッチ膜(膜の直径142mm、有効ろ過面の直径124mm)を介して試料水を吸引ポンプにより一定流量(100mL/分)をろ過し、このときの使用限界の吸引圧力に到達するまでの時間と通水量を比較した。なお、膜の破断圧力は69kPaであるので安全をみて50kPaを使用限界の指標とした。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
条件2の100%PETを終濃度0.1%すなわち界面活性剤Tween80の終濃度が0.01%を添加し、塩酸を終濃度で0.1モル/Lとなるように添加するとろ過できる河川原水の量が最も多くなった。
【0045】
一方、水酸化ナトリウムを添加した場合は他の条件に比べ短時間で吸引圧力が上昇することが確認され、膜の目詰まりを促進する物質が生成していると考えられた。このことから、吸引圧力が30kPaに到達した時点でろ過を停止した。水酸化ナトリウムを添加した河川原水にはゲル状の沈殿物が生成していたため、これが膜の目詰まりの原因になっていると考えられたため、河川原水に界面活性剤とともにアルカリを添加することは不適切であると判断した。
【0046】
次に、本発明での回収率を測定した。多摩川河川原水10Lにクリプトスポリジウムの代替粒子であるクリプトレーサー(水道技術研究センター)を平均100.3個添加し、終濃度0.1モル/Lの塩酸と0.1%のPETをそれぞれ添加しよくかき混ぜた後、上述のろ過器でろ過を行った。クリプトレーサーは紫外線を照射することにより、青色の蛍光を発するのでクリプトレーサーの個数を蛍光顕微鏡で計数することができる。
【0047】
膜上に捕捉された粒子を含む懸濁液を回収した後、孔径1.0μmの親水性PTFE膜(ミリポア)を用いてろ過し、その膜を紫外線照射のもと蛍光顕微鏡でクリプトレーサーを計数した。約90%の回収率でクリプトレーサーを検査対象水中から分離して測定することができた。以上より、河川原水に界面活性剤とともに酸を添加しpHを下げることで、河川原水をろ過する速度が増し、ろ過時間の短縮とろ過量の増大とともに高回収率でクリプトスポリジウムを回収することができた。
【0048】
なお、クリプトスポリジウムオーシストの細胞壁は酸に耐性があるため、酸の添加によりダメージはほとんどないと考えられる。
【0049】
環境水中には砂や泥などの無機粒子のほかにフミン質などの土壌有機物も多く含まれている。フミン質は動植物の遺体が土壌中の微生物によって分解又は重合を受け生成した有機化合物である。このときの分解・重合反応は非常に複雑であるため、フミン質は特定の構造を有する単一物質ではなく、複雑な構造をもった複数の化合物の混合物であると考えられている。
【0050】
フミン質の主要な成分はアルカリ及び酸に対する挙動からフミン酸、フルボ酸、フスム質に分類される。すなわちアルカリ性溶液に可溶で酸性溶液に不要な区分をフミン酸、アルカリ性溶液に可溶で酸性溶液に可溶な区分をフルボ酸、アルカリ性溶液及び酸性溶液にも不要な区分をフスム質と分類している。
【0051】
例えば、フミン酸は不定形の高分子であり分子量は10〜10の範囲といわれている。膜での環境水のろ過において、フミン酸のような高分子がろ過の途中で微粒子に絡まりつき、膜の微細孔を詰まらせる原因となっていることに、本発明者らは想到した。
【0052】
界面活性剤は一般的に微粒子の分散性を向上させることが知られているが、フミン質などの高分子の分散性などへの効果は低いと仮定した。
【0053】
本発明者らは、このような経緯で、本発明に想到した。本実施例1の結果は、「クリプトスポリジウムなど水系感染微生物を試料水中から短時間で大量の試料水から高効率で検出対象微生物を分離し、検出感度を高め、作業の自動化・省力化を図ることができる」という効果が本発明に期待できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る微生物計測方法及び装置のろ過器の概略図である。
【図2】本発明に係る微生物計測装置の構成図である。
【図3】本発明に係る試料調整方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
100 ろ過器
101 膜
102 メッシュクロス
103 膜固定パッキン
104 フローセル上部
105 フローセル下部
106 磁石入り撹拌子
208 エアポンプ
209 負圧圧力計
210 正圧圧力計
211 試料タンク
212 洗浄水タンク
213 廃液タンク
214 試料回収タンク
215〜227 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉、回収して微生物を計測する微生物計測方法において、
前記検査対象水に界面活性剤と酸を添加するステップと、
前記膜を用いて前記検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉するステップと、
前記微粒子を回収するステップと
を含むことを特徴とする微生物計測方法。
【請求項2】
検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉、回収して微生物を計測する微生物計測方法において、
前記微生物を含む微粒子を捕獲するステップの後、前記検査対象水を、界面活性剤を含むpHが中性付近の洗浄液に切り替えるステップと、
前記膜に対して検査対象水側から通水するステップと、
前記膜を用いて前記検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉するステップと、
前記微粒子を回収するステップと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の微生物計測方法。
【請求項3】
前記微粒子を回収するステップが、
洗浄液を前記膜に対してろ液側から逆流させて膜上に捕捉された検出対象の微生物を膜から脱離させるステップと、
前記膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水するステップと
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物計測方法。
【請求項4】
前記膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水するステップが、
前記膜上に溜まった試料液を前記膜に対して検査対象水側から加圧するステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の微生物計測方法。
【請求項5】
検出対象とする微生物の粒径よりも小さい孔径の膜を用いて検査対象水をろ過して、検出対象の微生物を捕捉、回収して微生物を計測する微生物計測装置において、
前記検査対象水に界面活性剤と酸を添加する手段と、
前記膜を用いて前記検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉する手段と、
前記微粒子を回収する手段と
を備えることを特徴とする微生物計測装置。
【請求項6】
前記検査対象水を、界面活性剤を含むpHが中性付近の洗浄液に切り替える手段と、
前記膜に対して検査対象水側から通水する手段と、
前記膜を用いて前記検査対象水をろ過して微生物を含む微粒子を捕捉する手段と、
前記微粒子を回収する手段と
を備えることを特徴とする請求項5に記載の微生物計測装置。
【請求項7】
前記微粒子を回収する手段が、
洗浄液を前記膜に対してろ液側から逆流させて膜上に捕捉された検出対象の微生物を膜から脱離させる手段と、
前記膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水する手段と
を備えることを特徴とする請求項5または6に記載の微生物計測装置。
【請求項8】
前記膜上に溜まった検出対象の微生物が含まれる試料液を採水する手段が、
前記膜上に溜まった試料液を前記膜に対して検査対象水側から加圧する手段を備えることを特徴とする請求項7に記載の微生物計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−201421(P2009−201421A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47411(P2008−47411)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】