説明

微生物農薬製剤

【課題】環境に対する安全性や、微生物農薬製剤の有効性を維持可能な展着剤を使用し、農薬の展着を効果的に促進できる微生物農薬製剤を提供すること。
【解決手段】病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌と、バイオサーファファクタントと、を含有する微生物農薬製剤は、その展着性を高めるため微生物が産生するバイオサーファクタントを用いているので、環境に対する安全性が高く、微生物農薬製剤に含まれる生菌に対する影響も少ない。更に、上記バイオサーファクタントは、少量の使用量であっても、十分な展着性を発揮することができるので、環境に対する安全性や、微生物農薬製剤の有効性を維持しつつ、微生物農薬製剤の展着を効果的に促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオサーファクタントを含有する微生物農薬製剤、当該微生物農薬製剤に用いられる展着剤、及び病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌の、植物表面への展着性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物病害は、植物への化学農薬の散布により防除することが一般的であった。しかしながら、化学農薬の使用は、残留化学物質の土壌中への蓄積、或いは予期せぬ生物相への影響など、自然環境に対する弊害ないしは悪影響をもたらすおそれがある。また、化学農薬抵抗性の病原菌や病害虫の発生により、化学農薬による防除効果が低下するという問題も知られていた。更に、近年では、食物の安全性の向上及び環境保護の促進のため、環境への影響が少ない、微生物資材を使用した微生物農薬製剤の開発がなされており、これらの微生物農薬製剤の使用による病原菌・病害虫の防除方法が注目を集めている。
ところで、植物の葉の表面は、クチクラと呼ばれる蝋を主成分とする皮膜で覆われており、このクチクラの有する疎水性のために、植物の葉の表面は一般的に疎水性であることが知られている。このため、病原菌や病害虫の防除のため、植物の葉に直接農薬を散布した場合においても、農薬に含まれる有効成分が植物の葉に付着せずに落下したり、雨等により洗い流されたりすることや、植物の葉の表面に均一に接触しないことが知られていた。
植物の葉の表面における、農薬のこのような不十分な展着の問題を解消するため、従来、農薬に展着剤を添加することが一般的であった。例えば、特許文献1には、アルキルフェノールの1種以上にアルキレンオキシドを添加した化合物を含有することを特徴とする農薬用展着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−260741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の農薬用展着剤は、化学的に合成された展着剤であり、特許文献1の農薬用展着剤の使用に当たっては、その安全性について十分に検討する必要がある。また、特許文献1に記載の農薬用展着剤は、微生物農薬に用いられるものではなく、微生物農薬に使用される生菌の生育状態に影響を与えるか否かも明らかではない。
従って、本発明は、環境に対する安全性や、微生物農薬製剤の有効性を維持可能な展着剤を使用し、農薬の展着を効果的に促進できる微生物農薬製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の態様は、病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌と、バイオサーファファクタントと、を含有する微生物農薬製剤である。
本発明の第二の態様は、本発明の微生物農薬製剤に使用される展着剤であって、上記バイオサーファクタントを含む展着剤である。
本発明の第三の態様は、植物表面に、本発明の展着剤を適用する工程を含む、病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌の、植物表面への展着性を向上させる方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の微生物農薬製剤は、その展着性を高めるため、微生物が産生するバイオサーファクタントを用いているので、環境に対する安全性が高く、微生物農薬製剤に含まれる生菌に対する影響も少ない。
更に、上記バイオサーファクタントは、少量の使用量であっても、十分な展着性を発揮することができる。従って、環境に対する安全性や、微生物農薬製剤の有効性を維持しつつ、微生物農薬製剤の展着を効果的に促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】コムギの葉の表面に伸展させたB.subtilisから形成されるコロニーを示す図面である。
【図2】コムギの葉の表面に伸展させたP. antarcticaの細胞を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<微生物農薬製剤>
本発明の微生物農薬製剤は、病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌(以下、「農薬活性微生物」と呼称することがある)と、バイオサーファクタントと、を含有する。
【0010】
[病原菌又は病害虫の防除に有効な菌]
農薬活性微生物としては、従来公知のものを使用することができ、特に限定されるものではない。即ち、農薬活性微生物としては、病原菌防除効果と、病害虫防除効果との何れか一方又は両方を有する、公知の微生物を有する微生物を使用することができる。具体的には、例えば、ペーシロマイセス(Paecilomyces)属、ボーベリア(Beauveria)属、メタリジウム(Metarhizium)属、ノムラエア(Nomuraea)属、バーティシリウム(Verticillium)属、ヒルステラ(Hirsutella)属、クリシノミセス(Culicinomyces)属、ソロスポレラ(Sorosporella)属、トリポクラディウム(Tolypocladium)属、フザリウム(Fusarium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、バチルス(Bacillus)属、及びエキセロハイラム(Exserohilum)属からなる群から選択される少なくとも1種の微生物を使用することができる。
より具体的には、ペーシロマイセス属に属する農薬活性微生物として、例えば、ペーシロマイセス・テヌイベス(Paecilomyces tenuipes)、ペーシロマイセス・フモソロセウス(Paecilomyces fumosoroseus)、ペーシロマイセス・ファリノーサス(Paecilomyces farinosus)等に属する微生物;ボーベリア属に属する農薬活性微生物として、例えば、ボーベリア・バッシアナ(Beauveria bassiana)、ボーベリア・ブロングニアティー(Beauveria brongniartii)等に属する微生物;メタリジウム属に属する農薬活性微生物としては、例えば、メタリジウム・アニソプリエ(Metarhizium anisopliae)、メタリジウム・フラボビリデ(Metarhizium flavoviride)、メタリジウム・シリンドロスポラエ(Metarhizium cylindrosporae)等に属する微生物;ノムラエア属に属する農薬活性微生物として、例えば、ノムラエア・リレイ(Nomuraea rileyi)等に属する微生物;パーティシリウム属に属する農薬活性微生物として、例えば、パーティシリウム・レカニ(Vertici11ium lecanii)等に属する微生物;フザリウム属に属する農薬活性微生物として、例えば、フザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・エクイセティ(Fusarium equiseti)等に属する微生物;トリコデルマ属に属する農薬活性微生物として、例えば、トリコデルマ・アウレオピリディー(Trichoderma aureoviride)等に属する微生物;バチルス属に属する農薬活性微生物として、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等に属する微生物;並びにエキセロハイラム属に属する農薬活性微生物として、例えば、エキセロハイラム・モノセラス(Exserohilum monoceras)等に属する微生物を使用することができる。これらの農薬活性微生物は、単独で用いてもよく、場合によって2種以上併用して用いてもよい。
【0011】
本発明の微生物農薬製剤に用いられる農薬活性微生物は、従来公知の定法により培養することにより得ることができる。そのような培養方法としては、例えば、農薬活性微生物を、これが増殖可能な培地で培養し、遠心分離等の手段を用いて、菌体を回収する方法を挙げることができる。
本発明の微生物農薬製剤に用いられる農薬活性微生物は、微生物の生菌であるが、当該微生物の生菌は、微生物農薬製剤の製剤としての保存安定性の観点から、胞子の形態であることが好ましい。このため、上記農薬活性微生物の培養方法においては、培養の終期において微生物の生菌を胞子の形態にするために、培地の組成、培地のpH、培養温度、培養湿度、培養する際の酸素濃度などの培養条件を、その胞子の形成条件に適合させるように培養することが好ましい。特に、本発明の微生物農薬製剤においては、製剤の保存安定性の観点から、水分含量を35質量%以下とすることが好ましい。
本発明の微生物農薬製剤に含まれる農薬活性微生物の含有量は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、微生物農薬製剤の全量に対して5質量%以上12質量%以下とするのが好ましく、7質量%以上10質量%以下とするのが更に好ましい。また、当該農薬活性微生物の含有量は、コロニー形成単位に換算して、10cfu/g以上1011cfu/g以下、好ましくは108cfu/g以上1011cfu/g以下であることが好ましい。
【0012】
[バイオサーファクタント]
本発明の微生物農薬製剤は、バイオサーファクタントを含む。ここで、バイオサーファクタントとは、微生物が植物油や糖質などの各種バイオマスを原料として生産・分泌する両親媒性脂質の一種である。糖型バイオサーファクタントは、その分子中に親水基として糖鎖構造を有し、疎水基として各種の中鎖および長鎖脂肪酸(飽和、不飽和、分枝、ヒドロキシ型など)が上記親水基に結合した糖脂質界面活性剤としての分子構造をとっている。各種バイオサーファクタントの中でも糖型バイオサーファクタントは、生産性に優れることから最もよく研究され、細菌及び酵母によって生産される多くの種類の物質が報告されている。
バイオサーファクタントの具体例としては、ラムノリピッド、ソホロリピッド、マンノシルエリスリトールリピッド、トレハロースリピッド、セロビオースリピッド、オリゴ糖リピッドなどバイオサーファクタントなどが知られているが、本発明においては、上記の中でも、特にマンノシルエリスリトールリピッドが好ましい。マンノシルエリスリトールリピッドは、草花や土壌など身近な環境に広く分布する、シュードザイマ(Pseudozyma)属やウスチラゴ(Ustilago)属などの酵母によって生産されることから、高い安全性が見込まれる。例えばシュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)及びシュードザイマ・ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に属する微生物由来のマンノシルエリスリトールリピッドを使用することが可能であり、特にシュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)に属する微生物は、マンノシルエリスリトールリピッドの生産性に優れることから、これから得られるマンノシルエリスリトールリピッドを用いることが望ましい。
【0013】
本発明に用いるマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELともいう)は、MEL生産微生物の培養によって得られ、その化学構造の代表例は以下の式(1)に示され、4−O−β−D−マンノピラノシル−エリスリトールをその基本構造とするものである。
【化1】

(1)
【0014】
ここで、上記式(1)中、R1は炭素数2以上24以下、好ましくは6以上18以下の脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。R2は、水素またはアセチル基を表す。R3は水素または炭素数2以上24以下、好ましくは2以上18以下の脂肪族アシル基であり、直鎖あるいは分岐状の飽和または不飽和脂肪族アシル基を含む。2箇所あるR2及びR3は同一であっても異なっていてもよい。上記置換基R1及びR3の脂肪族アシル基の種類及びその炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類中の脂肪酸の種類に基本的には依存するが、その炭素数は使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化の程度により変化する。したがって、得られる各MELは、通常、置換基Rの脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0015】
MELの代表例としてはMEL−A、MEL−B、MEL−C、MEL−Dの4種類が知られている(北本大、薬学雑誌、128、695 (2008))。その化学構造を以下に示す。
【化2】

【0016】
ここで、上記式中、R1は上記式(1)と同様の基であり、Acはアセチル基を表す。
上述のシュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)に属する微生物は、MEL−A、−B、−Cを混合物として生産することが知られており、その主成分はMEL-Aである。これらはシリカゲルカラムクロマトグラフィーなど、一般的に用いられる分離生成方法によって単離精製することができる。本発明では混合物のまま用いても良いし、単離されたものを用いてもよい。
【0017】
ソホロリピッド(以下、SLともいう)は、ソホロース(β1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖)或いはヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシ脂肪酸(構造中にヒドロキシル基を有する脂肪酸)とからなる糖脂質であり、ヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型と、分子内のソホロースと結合したラクトン型と、に大別される。一般的に、発酵生産によって得られるSLは、ラクトン型と酸型の混合物として得られ、通常、ラクトン型を50%以上含む。
【化3】

【0018】
ここで、上記式中、R1、R2は、水素またはアセチル基を表し、同一であっても異なっていてもよい。また、nは9以上17以下の整数である。発酵生産によって得られるSLは、酸型、ラクトン型の含有比、R1、R2のアセチル基含有率、及び脂肪酸の炭素数(n)が、使用するSL生産菌により変化する。したがって、得られる各SLは、通常、アセチル基、脂肪酸鎖長部分の組成が異なる酸型、ラクトン型SLの混合物の形態である。
本発明に用いるソホロリピッドは、生産する微生物、製造法に依らず用いることができる。SLを生産する微生物の例としては、例えばスターメレラ(キャンディダ)・ボンビコーラ(Starmerella(Candida) bombicola)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、又はキャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)等に属する微生物が挙げられ、このうち特に、スターメレラ(キャンディダ)・ボンビコーラに属する微生物が生産性に優れることから好ましい。これらは保存機関から分譲された菌株、あるいはその継代培養菌株であってもよい。
酸型、及びラクトン型ソホロリピッドは、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなど、一般的に用いられる分離精製方法によって単離精製することができる。上記のうち、本発明では非イオン型界面活性剤であるラクトン型ソホロリピッドを使用することが可能であり、ラクトン型ソホロリピッド単離して用いることがより望ましいが、これを主成分として含む混合物を用いても良い。
本発明の微生物農薬製剤において用いられるバイオサーファクタントの使用量は、0.0001質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上0.8質量%以下であることが更に好ましい。バイオサーファクタントの使用量が上記の範囲内であることにより、微生物農薬製剤の安全性、有効性、及び展着性を良好なものとすることができる。
【0019】
特に、本発明の微生物農薬製剤に用いられるバイオサーファクタントは、微生物による発酵により得られる安全性が高い界面活性剤であると共に、低濃度でも高い界面活性を示す。このため、これらバイオサーファクタントを含む展着剤を使用しても、農薬活性微生物や適用対象となる農産物に対する悪影響が少なく、土壌汚染の原因にもならないので、様々な微生物農薬製剤において、安全に使用することができる。
本発明の微生物農薬製剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記バイオサーファクタント以外に、シクロデキストリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、タルク、及びクレイ等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は、微生物農薬製剤の分野において、従来公知の添加量で微生物農薬製剤に添加すればよい。また、以上の添加剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
<展着剤>
本発明は、微生物農薬製剤に使用される展着剤であって、上記バイオサーファクタントを含む展着剤に関する。
ここで、本発明のバイオサーファクタントを含む展着剤は、本発明の目的を損なわない範囲で特に限定されるものではなく、バイオサーファクタント及び溶媒のみを含む組成物であってもよいし、バイオサーファクタント以外に、本発明の展着剤の展着性を損なわない他の添加剤を含むものであってもよい。
例えば、本発明の展着剤は、上記のバイオサーファクタント以外にも、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、及びリグニンスルホン酸塩を含んでいてもよい。
【0021】
本発明の展着剤に使用される溶媒としては、微生物農薬製剤に使用される溶媒と相溶性を示す限り、如何なる溶媒であってもよいが、例えば、水、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びジメチルスルホキシド等の溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
<病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌の、植物表面への展着性を向上させる方法>
本発明は、バイオサーファクタントを含む展着剤を使用した、病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌の、植物表面への展着性を向上させる方法にも関し、上記方法は、植物表面に、本発明の展着剤を適用する工程を含む。
ここで、本発明の展着剤を植物表面に適用するに当たっては、展着剤を単独で適用してもよいし、農薬活性微生物を含む組成物中に展着剤を添加して、農薬活性微生物と共に、植物表面に展着剤を適用してもよい。即ち、本発明において、農薬活性微生物を散布するにあたっては、予め、本発明の展着剤のみを散布し、次いで農薬活性微生物を含む微生物農薬製剤を散布してもよいし、農薬活性微生物を含む微生物農薬製剤中に本発明の展着剤を混合し、農薬活性微生物と本発明の展着剤を同時に散布してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
MELにより微生物の固体表面での付着性が増加することを明らかにするために、農薬活性微生物としても用いられている真正細菌Bacillus subtilisをOD595値で0.19となる濃度で含有する細胞懸濁液に、0.008%及び0.032%となるようにMELを添加して、混合液100μlをプラスチックウェル内に入れ、1時間保持した。その後に懸濁液を除去後滅菌蒸留水を100μl入れ、ウェル表面上に付着した細胞量をウェル内の595nmにおける吸光度を測定することにより評価した。
同様に、真菌としてPseudozyma antarcticaをOD595値で0.5となる濃度で含有する細胞懸濁液にも、0.008%から0.08%のMELを添加し、上記と同様の方法で、ウェル表面上に付着した細胞量を調べた。以上の結果を表1に示す。
表1:MELが添加された真正細菌及び真菌細胞の固体表面上への付着の程度

【0025】
表1から明らかなように、真正細菌又は真菌の懸濁液にMELを添加することにより、ウェル表面上に付着した真正細菌及び真菌の細胞数は増加し、しかもMEL濃度が高いほうが、細胞数の増加の程度が大きかった。
【0026】
<実施例2>
真正細菌としてB. subtilis、及び真菌としてP. antarcticaの細胞懸濁液(それぞれ、OD595値で0.31および0.1となる濃度)に対し、濃度が0.008%から0.08%となるようにMEL及びTween 20を添加し、この混合物それぞれ1μLをプラスチックウェルの固体表面上に滴下した。滴下5分後、滴下液の伸展面積を測定することにより、MELが懸濁液の伸展性に与える影響を評価した。結果を図2に示す。
表2:界面活性剤が添加された真正細菌又は真菌細胞懸濁液の固体表面上での伸展面積

【0027】
表2から明らかなように、いずれの懸濁液も、MELの添加により懸濁液が伸展する面積は増加し、しかも同濃度のMELとTween 20を添加した試料を比較した場合、MELを添加した試料のほうが、Tween 20と比べても展着性は優れていた。
【0028】
<実施例3>
真正細菌としてB. subtilis、及び真菌としてP. antarcticaの細胞懸濁液を、濃度が0.008%から0.08%となるようにMELと混合して、10μlの混合液を面積が250mm2から300mm2程度のコムギの葉の表面に滴下した。滴下後、B. subtilisについては、抗生物質を添加した培地を用いたスタンプ法により葉面に伸展する細胞を培養し、コロニーの出現する領域の広さにより、細胞懸濁液の伸展の程度を評価した。また、P. antarcticaでは、葉面上に伸展した細胞をカルコフルオールにより染色し、蛍光顕微鏡で観察することで、細胞懸濁液の伸展の程度を調べた。その結果、B.subtilis及びP. antarcticaともにMELが存在することにより細胞は広範囲に伸展し、その程度は同等の濃度となるように添加した既存の展着剤成分であるTween 20よりも優れていた(図1及び2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌と、バイオサーファファクタントと、を含有する微生物農薬製剤。
【請求項2】
前記バイオサーファクタントが、糖脂質界面活性剤である請求項1に記載の微生物農薬製剤。
【請求項3】
前記バイオサーファクタントが、ラムノリピッド、ソホロリピッド、マンノシルエリスリトールリピッド、トレハロースリピッド、セロビオースリピッド、及びオリゴ糖リピッドからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の微生物農薬製剤。
【請求項4】
前記バイオサーファクタントを、0.0001質量%以上5質量%以下含有する請求項1から3のいずれかに記載の微生物農薬製剤。
【請求項5】
請求項1から4に記載の微生物農薬製剤に使用される展着剤であって、前記バイオサーファクタントを含む展着剤。
【請求項6】
植物表面に、請求項5に記載の展着剤を適用する工程を含む、病原菌又は病害虫の防除に有効な生菌の、植物表面への展着性を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246256(P2012−246256A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119946(P2011−119946)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】