説明

微生物除去評価装置および微生物除去評価方法

【課題】より正確な評価を可能とする微生物除去評価装置を提供することを目的とする。
【解決手段】除去物質による微生物の殺菌または不活化能力を測定する微生物除去評価装置100Aであって、微生物を含む第1ガスを内部に収容する浮遊準備室1と、オゾンを含む第2ガスを内部に収容するオゾン準備室2と、浮遊準備室1とオゾン準備室2とを仕切り、自身の開閉によって浮遊準備室1とオゾン準備室2との間の連通または遮断を制御する仕切り扉110と、浮遊準備室1とオゾン準備室2とを連通させて得られた第1ガスと第2ガスとの混合ガスの一部を採取する採取装置5と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物除去評価装置および微生物除去評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細菌類やウイルス(以下、これらを「微生物」と称する)を原因とする感染症を防ぐための方法が検討されている。これに伴い、感染症を発症させる細菌類の殺菌や滅菌およびウイルスの不活性化(以下、これらを「微生物除去」と称する)の方法が研究されている。
【0003】
ところで、除去対象となる微生物は、家具や器具などの表面に付着しているものの他に、水滴やほこりに付着して空気中に浮遊しているものも存在する。このような気相に浮遊している微生物を除去する方法としては、殺菌力やウイルスを不活化する性質を有する気体を気相に混合し、微生物と接触させる方法が一般的である。
【0004】
このような浮遊している微生物除去の効果を評価するための方法として、例えば特許文献1に記載の方法が提案されている。すなわち特許文献1の方法では、既知の容積を有する密閉容器の内部にイオン発生装置を設置し、該イオン発生装置から殺菌力を有するイオンを供給して、容器内に注入する微生物に対する該イオンの殺菌力を評価している。この際、供給するイオン量は、イオン発生装置の駆動条件によって変化させることができることとしている。
【0005】
または、風洞内に上流側から評価対象となる微生物を供給し、風洞内に設置したイオン発生器により気相にイオンを供給することで、微生物とイオンとを風洞内で混合し接触させ、風洞の下流において微生物を回収するという流通式のワンパス方式により微生物除去を行う。一方で、イオンを発生させない他は同条件で風洞内を通過させた微生物を風洞下流で回収し、両試験での微生物量を比較することにより、イオンによる微生物除去性能を評価する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4142974号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、微生物除去性能については、微生物に暴露する物質の濃度(C)と暴露時間(T)との積である「CT値(Concentration-Time Value)」を用いて評価する。CT値は、微生物の除去に効果のある物質について効果を示す指標であり、値が同じであれば得られる微生物除去効果が同じであるという考えに基づく指標である。
【0008】
ここで、上記方法についてCT値を用いた評価を行う場合、次のような理由から試験条件の管理が困難となり、試験精度が低下するおそれが生じる。
【0009】
まず、試験環境内において試験条件(濃度条件)に分布が発生することにより、試験精度が低下するおそれが生じる。すなわち、特許文献1で採用する密閉容器を用いる方法では、微生物やイオンを容器の側壁に設けられた注入管やイオン発生装置から供給するが、このような装置構成では、注入管やイオン発生装置の周辺において、微生物やイオンの濃度が局所的に高濃度となることが容易に推測される。空調系を用いて湿度を調整する際にも同様に、局所的に湿度が高い環境が発生するおそれがある。
【0010】
または、特許文献1で採用する流通式のワンパス方式では、風洞の上流に配置したイオン発生装置からイオンを供給しているため、風洞の下流に行くに従いイオンが消費され濃度が低下することとなる。特許文献1に記載されている装置構成では、下流において別途イオンを供給することはできないため、正確なCT値の評価を行うことが難しい。
【0011】
これらの理由により、濃度条件に分布を生じると、試験環境内では場所によって評価結果に差を生じることとなり、精度の高い評価が行えなくなるおそれがある。
【0012】
また、試験環境内においてイオン発生装置が汚染されることにより、試験精度が低下するおそれが生じる。すなわち、特許文献1に記載の方法では、容器または風洞の内部に、放電などの電離現象を用いてイオンを発生するイオン発生装置を配置している。このような方法を採用するイオン発生装置では、放電電極の汚染がイオン発生の性能に影響を与えるが、特許文献1のように試験環境内に配置されているイオン発生装置は、試験環境に由来する汚染を受けることとなるため、イオン発生量が変化するおそれがある。
【0013】
さらに、イオンの種類や評価条件によっては、微生物に対する暴露時間が長時間必要となるが、特許文献1で採用する流通式のワンパス方式では、暴露時間は流速および風洞の長さによる制限が生じる。したがって、必要とする暴露時間が確保できず、評価が完了しないおそれが生じる。または、長時間の暴露時間を確保するためには、風洞の長さを変更する必要があり、効率的な評価が行えない。加えて、長い風洞を用いる必要がある場合には、温度や湿度の条件を一定の条件に設定することも困難となる。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、より正確な評価を可能とする微生物除去評価装置および微生物除去評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、本発明の微生物除去評価装置は、除去物質による微生物の殺菌または不活化能力を測定する微生物除去評価装置であって、前記微生物を含む第1ガスを内部に収容する第1準備室と、前記除去物質を含む第2ガスを内部に収容する第2準備室と、前記第1準備室と前記第2準備室とを仕切り、自身の開閉によって前記第1準備室と前記第2準備室との間の連通または遮断を制御する仕切り部材と、前記第1準備室と前記第2準備室とを連通させて得られた前記第1ガスと前記第2ガスとの混合ガスの一部を採取する採取装置と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第1準備室と第2準備室とのそれぞれにおいて独立して準備した第1ガス(微生物)と第2ガス(除去物質)とを、既知の容積を有する準備室内で混合させることができることから、試験条件である微生物の濃度および除去物質の濃度を正確に規定することができる。また、予め第1準備室または第2準備室の容積で希釈した第1ガス、第2ガスを用いるため、微生物や除去物質を試験室に直接供給する場合と比べ、微生物や除去物質が局所的に高濃度とならず、濃度分布の発生を抑制することができる。さらに、閉空間である準備室内において微生物と除去物質とを混合する、所謂バッチ式の試験とすることができるため、流通式と比べて試験時間の制御が容易となり試験時間の設定の自由度が増える。このような装置内で除去物質と混合された微生物を採取することにより、正確に濃度が規定された試験条件において微生物除去評価が可能な微生物除去評価装置とすることができる。
【0017】
本発明においては、前記第1ガスを撹拌して前記第1準備室の内部に前記微生物を均一に浮遊させる第1撹拌装置を有することが望ましい。
この構成によれば、第1ガスの濃度分布が均一なものとなるため、均一な濃度の第1ガスを用いて混合ガスを形成し、より正確な微生物除去評価を行うことが可能となる。また、第1撹拌装置によって形成される気流により、前記第1ガスと前記第2ガスとの混合を促進することができる。
【0018】
本発明においては、前記第2ガスを撹拌して前記第2準備室の内部に前記除去物質を均一に浮遊させる第2撹拌装置を有することが望ましい。
この構成によれば、第2ガスの濃度分布が均一なものとなるため、均一な濃度の第2ガスを用いて混合ガスを形成し、より正確な微生物除去評価を行うことが可能となる。また、第2撹拌装置によって形成される気流により、前記第1ガスと前記第2ガスとの混合を促進することができる。
【0019】
本発明においては、前記第1準備室の内部の温度及び湿度と、前記第2準備室の内部の温度及び湿度と、を均一に制御する空調制御装置を有することが望ましい。
この構成によれば、前記第1ガスと前記第2ガスとを混合する際に試験条件が変動することがないため、所望の試験条件を形成しやすく、正確な微生物除去評価が可能な微生物除去評価装置とすることができる。
【0020】
本発明においては、前記第1準備室と前記第2準備室とを連通させて得られた前記混合ガス中の前記除去物質の濃度が一定に保たれるように、外部から前記第1準備室または前記第2準備室に除去物質を供給する除去物質供給装置を有することが望ましい。
除去物質は、微生物との反応や自然分解などによる無効消費により徐々に消費されるため、初期濃度から低下していく。そのため、通常は試験時間が長時間に及ぶ場合や除去物質の減衰幅が大きい場合、除去物質の濃度条件は試験初期と試験後期とで異なってしまう。しかしこの構成によれば、除去物質供給装置により適宜除去物質を追加することができるため、除去物質の濃度減衰による試験条件の変化を抑制した微生物除去評価を行うことが可能な微生物除去評価装置とすることができる。また、試験を行う第1準備室および第2準備室の外部に除去物質供給装置を設けることにより、微生物等の試験に由来する汚染物質による除去物質供給装置の汚染を抑制することができ、除去物質を安定的に供給することができる。
【0021】
本発明においては、前記除去物質供給装置は、前記除去物質を含む第3ガスを内部に収容し、前記第1準備室または前記第2準備室との間に配置された仕切り部材の開閉によって、前記第1準備室または前記第2準備室との間の連通または遮断を制御可能な第3準備室を有することが望ましい。
この構成によれば、第3準備室において正確に濃度が規定された除去物質を用意しておくことにより、除去物質の減衰に応じて仕切り部材を開けて接続し、第3準備室から濃度制御された除去物質を供給することができる。したがって、除去物質の濃度減衰による試験条件の変化を抑制した微生物除去評価を行うことが可能な微生物除去評価装置とすることができる。
【0022】
本発明においては、前記第1準備室の内部に、前記微生物を液体に懸濁させた懸濁液を噴霧する前記微生物供給手段を有することが望ましい。
この構成によれば、懸濁液の濃度と噴霧量によって容易に微量の微生物を第1準備室内に供給することができ、正確に濃度を制御することが可能となる。また、懸濁液の媒質が水である場合には、第1準備室内の湿度調整も同時に行うことができる。
【0023】
また、本発明の微生物除去評価方法は、除去物質による微生物の殺菌または不活化能力を測定する微生物除去評価方法であって、前記微生物と前記除去物質とを、各々独立して気相中に所定の濃度で浮遊させた後に、両者を混合させて微生物除去を行う混合処理と、前記微生物と前記除去物質とが混合した混合ガスの一部を採取し、採取した混合ガスに含まれる前記微生物を回収する回収処理と、回収された前記微生物の活性度に基づいて、前記除去物質の微生物除去性能を評価する評価処理と、を有することを特徴とする。
【0024】
この方法によれば、独立して所定の濃度で準備した微生物と除去物質とを混合させることにより、正確な濃度条件で微生物の除去評価を行うことができる微生物除去評価方法とすることができる。
【0025】
本発明においては、前記回収処理に先だって、前記混合気体に含まれる前記除去物質の濃度を測定し、所定の濃度の前記除去物質を追加する追加処理を行うことが望ましい。
この方法によれば、必要に応じて除去物質の濃度を制御することができるため、除去物質の濃度管理が用意である。また、除去物質が無効消費により減衰する場合、試験を長時間維持することが困難であるが、この方法によれば不足分の除去物質を正確な濃度で追加可能であるため、長時間の微生物除去評価が可能な微生物除去評価方法とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、正確に濃度が規定された試験条件により、従来のものよりも精度良く微生物除去評価を行うことが可能な微生物除去評価装置、および微生物除去評価方法とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る微生物除去評価装置を示す概略説明図である。
【図2】本発明の微生物除去評価方法を示す概略説明図である。
【図3】第2実施形態に係る微生物除去評価装置を示す概略図である。
【図4】第2実施形態に係る微生物除去評価装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、図1〜図2を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る微生物除去評価装置および微生物除去評価方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0029】
図1は、本実施形態に係る微生物除去評価装置100Aを示す概略説明図である。図に示すように、本実施形態の微生物除去評価装置100Aは、チャンバー100と、チャンバー100に接続された微生物供給手段3と、除去物質供給手段4、採取装置5を備えている。
【0030】
本発明において「微生物」とは、真菌、細菌およびウイルスを含むものである。また、「除去物質」とは、これら微生物について、真菌や細菌であれば殺菌または滅菌する、ウイルスであれば不活化する性質を有する物質を指している。ここでは、微生物としてインフルエンザウイルス、除去物質としてオゾンを例に挙げ、以下の説明を行う。
【0031】
チャンバー100は、内部に複数の仕切り扉(仕切り部材)110を有しており、仕切り扉110によってチャンバー100内部が複数(図では4つ)の小室に分割されている。チャンバー100の内部表面は、ガラス、フッ素樹脂、ステンレスなど確実な殺滅処理に対応できる材料で形成することが望ましい。
【0032】
仕切り扉110は、開閉自在に設けられており、必要に応じて各小室同士を連結可能となっている。仕切り扉110としては、バタフライ弁やゲート弁など通常知られた機構を用いることができ、例えば、オサメ工業製のサニタリー式粉体用バタフライバルブなどを例示することができる。
【0033】
仕切り扉110で分割された各小室のうち一つは、インフルエンザウイルスを所定の濃度で予め浮遊させる浮遊準備室(第1準備室)1として用いられ、他の小室は、予め所定の濃度のオゾンを準備するオゾン準備室(第2準備室)2として用いられる。本実施形態では、チャンバー100の一端に配置された小室を浮遊準備室1とし、浮遊準備室1にオゾン準備室2Aが隣接して設けられ、オゾン準備室2Aに隣接してオゾン準備室(第3準備室)2Bが、さらにオゾン準備室2Bに隣接してオゾン準備室(第3準備室)2Cが設けられている。
【0034】
浮遊準備室1には、微生物供給手段3が接続されている。微生物供給手段3は、空気圧により液体を吸い上げ噴霧するアスピレーター31と、インフルエンザウイルスの懸濁液3xを貯留する貯留槽32とを有しており、懸濁液3xを吸い上げる空気圧を利用して浮遊準備室1内に懸濁液3xを噴霧する構成となっている。懸濁液の媒質が水である場合には、微生物供給手段3は、インフルエンザウイルスの供給とともに浮遊準備室1内を加湿する加湿手段(空調制御装置)としても機能する構成となっている。
【0035】
アスピレーター31としては、滅菌処理が容易であるものが望ましく、例えば、ビーコマニュファクチャリング社製のフッ素樹脂製アスピレーターを例示することができる。
【0036】
浮遊準備室1の床面には、内部を撹拌する羽状の第1撹拌装置11が設けられ、同様にオゾン準備室2の床面には、内部を撹拌する羽状の第2撹拌装置21が設けられている。ここでは、チャンバー100外に設けられたマグネチックスターラー12により各々の撹拌装置11,21を非接触で動かし、内部の気相を撹拌する構成となっている。これらの構成は、噴霧したインフルエンザウイルス懸濁液の飛沫、またはインフルエンザウイルスの沈降を防止し、気相中に均一に浮遊させることを目的としている。
【0037】
浮遊準備室1内に供給するインフルエンザウイルスの懸濁液3xの飛沫が直径3μmから5μm、インフルエンザウイルスの大きさが直径0.1μm、これらの比重を仮に1と仮定すると、stokesの式より沈降速度が0.7mm/sと算出される。そのため、第1撹拌装置11、第2撹拌装置21は、この沈降速度以上の上昇気流を生じさせるように駆動させる。
【0038】
各々のオゾン準備室2には、オゾン供給手段(除去物質供給手段)4が接続されている。オゾン供給手段4は、オゾン発生器41と、オゾンを含む気体を加湿する加湿槽42と、加湿槽42に直列に接続され過剰な水滴を除去するデミスタ43と、を備えており、各オゾン準備室2にバルブ44を介して接続されている配管を通じてオゾンを供給可能となっている。すなわち、オゾン供給手段4は、必要に応じて加湿手段としても機能する構成となっている。また、オゾン準備室2の外部に接続されたオゾン供給手段4は、試験環境に由来する汚染物質に汚染されることがなく、オゾンを安定供給することができる。
【0039】
また、オゾン発生器41で発生したオゾンを含む気体を加湿するかどうかは、切り替えバルブ45,46により選択可能となっているため、加湿しないでオゾンを含む気体のみをオゾン準備室2内に供給することも可能である。さらに、例えば不図示の空気ポンプ等を加湿槽42に接続し、空気のみを供給することでオゾン準備室2内の湿度調整をすることも可能である。
【0040】
また、浮遊準備室1には、採取装置5が接続されている。採取装置5は、浮遊準備室1の床面から内部に突き出て設けられ、内部の気体を浮遊微生物と共に吸引するサンプリング管51aと、サンプリング管51aに接続され、微生物を回収する回収部材51,52と、サンプリング管51aを介して浮遊準備室1内の気体を吸引する吸引ポンプ53と、を有している。
【0041】
回収部材51としては、通常知られたゼラチンフィルターを用いることができ、回収部材52としては、ゼラチンフィルターを透過した排ガスに含まれる微量のウイルスを確実に回収するため、液体内でバブリングして回収するトラップ管などを用いることが可能である。回収部材52には、オゾンを中和分解するチオ硫酸溶液が貯留された貯留槽54が接続されており、微生物回収後の液体に含まれるオゾンを分解処理する構成となっている。
【0042】
なお、吸引ポンプ53の下流側に、熱や活性炭吸着によってオゾンを分解する分解装置55を備えていても良い。この分解装置55は、バルブ56を介してチャンバー100と接続しておくことで、試験終了後のチャンバー100内に残留するオゾンを分解するために用いることもできる。
【0043】
さらに、微生物除去評価装置100Aは、浮遊準備室1およびオゾン準備室2内の温度や湿度を測定する温湿度モニター61と、内部のオゾン濃度を測定するオゾンモニター62とが設けられている。オゾンモニター62では、バルブ62aを介してチャンバー100内の気体を取り込んでオゾン濃度を測定し、バルブ62bを介して測定後の気体をチャンバー100内に戻すことで、ウイルス量の変化を抑制している。
【0044】
各モニターによる測定結果は、制御装置7に伝えられ、オゾン発生器41やチャンバー100に設けられたヒーター(空調制御装置)63、加湿槽42に接続された不図示の空気ポンプ等を制御して、浮遊準備室1およびオゾン準備室2の温度、湿度、オゾン濃度を制御する。浮遊準備室1およびオゾン準備室2は閉空間であるため、温度や湿度、オゾン濃度を制御することで均一な試験条件とすることができ、良好に制御された試験条件にて微生物除去の試験を実施することができる。
【0045】
また、制御装置7には、吸引ポンプ53も接続されており、吸引ポンプ53の動作を制御することとしている。具体的には、制御装置7に別途伝えられる仕切り扉110の開閉状態の情報に基づき、接続された浮遊準備室1とオゾン準備室2Aの空間容積、あるいは更にオゾン準備室2B、2Cを加えた空間容積に応じてサンプリング量を調整するため、吸引ポンプ53の動作を制御する。
【0046】
なお、インフルエンザウイルスの漏洩による接触を防ぐために、チャンバー100、微生物供給手段3、回収部材51、52はドラフト8内に設置することが好ましい。
本実施形態の微生物除去評価装置100Aは、以上のような構成となっている。
【0047】
次に、図2を用いて本実施形態の微生物除去評価装置100Aを用いた微生物除去評価方法について説明する。説明を容易にするため、図では微生物除去評価装置100Aのうち一部のみを示している。
【0048】
なお、通常の試験と同様に、ブランク試験やポジティブコントロールを実施することは言うまでもない。また、オゾンの自然分解量についても予め評価しておくこととする。
【0049】
まず、図2(a)に示すように、不図示の微生物供給手段3を用いて、浮遊準備室1内にインフルエンザウイルスを含む懸濁液3xの飛沫を噴霧し、浮遊準備室1の容積で希釈された所定の濃度のインフルエンザウイルスが浮遊する第1ガスを準備する。浮遊準備室1の床面では第1撹拌装置11が作動し、飛沫の沈降を防いでいる。
【0050】
同様に、オゾン供給手段4を用いて、オゾン準備室2A内にオゾン4xを供給し、オゾン準備室2A内にオゾン準備室2Aの容積で希釈された所定のオゾン濃度の第2ガスを準備する。オゾン準備室2の床面では第2撹拌装置21が作動し、オゾン濃度の均一化を促進している。
【0051】
これら浮遊準備室1およびオゾン準備室2Aの内部は、不図示の空調制御装置により温度および湿度が制御されており、第1ガスおよび第2ガスの温度および湿度は予め均一に保たれている。
【0052】
次いで、図2(b)に示すように、浮遊準備室1とオゾン準備室2Aとの間を仕切る仕切り扉110を開き、両準備室の空間を接続する(混合処理)。接続された浮遊準備室1とオゾン準備室2Aとを合わせた空間が、試験室10となる。
【0053】
両準備室を接続すると、試験室10内において、第1ガスと第2ガスとが混合し混合ガスを形成する。すなわち、浮遊する懸濁液3xの飛沫(またはインフルエンザウイルス)やオゾン4xは拡散し、試験室10内において均一な濃度となる。微生物除去の試験は、試験室10内で均一になった当該濃度において実施することとなる。試験室10内の床面では第1撹拌装置11、第2撹拌装置21が作動し、懸濁液3xの飛沫の沈降を防ぐとともに、第1ガスと第2ガスとの混合を促進する作用を生じさせる。第1ガスと第2ガスとは、同じ温度および湿度となっているため、混合に際してこれらの試験条件が変動することがない。
【0054】
ここで、拡散容積が広がることにより、懸濁液3xの飛沫やオゾン4xの濃度は下がるため、濃度低下を考慮した濃度で、予め浮遊準備室1とオゾン準備室2Aとでインフルエンザウイルスとオゾンとの濃度調整を行っておく。また、全試験時間に対して短時間のうちに拡散が終了するように、予備実験等により予め拡散条件を設定しておくと良い。
【0055】
次いで、図2(c)に示すように、懸濁液3xの飛沫(インフルエンザウイルス)とオゾン4xとの混合から所定の時間が経過した後、すなわち、インフルエンザウイルスを所定の時間オゾンに暴露した後に、吸引ポンプ53を作動させてインフルエンザウイルスを回収する(回収処理)。
【0056】
吸引ポンプ53によって吸引される試験室10内の気体(混合ガス)には、オゾン、インフルエンザウイルス、不活化したインフルエンザウイルス、が含まれるが、これらのうち、インフルエンザウイルスと不活化したインフルエンザウイルスとを回収部材51,52によって回収する。
【0057】
回収されたウイルスは、通常知られた方法により培養され、感染力価が測定される(測定処理)。ウイルスを回収するまでに暴露したオゾンの濃度は、オゾン準備室2Aで用意したオゾン量と試験室10の容積とによって正確に求めることができ、ウイルスを回収するまでにオゾンを暴露した時間も正確に求めることができる。そのため、測定される感染力価が得られたCT値を正確に求めることができる。
【0058】
また、オゾン濃度を調整するために、試験途中においてオゾンを追加する必要が生じた場合は、試験室10に隣接するオゾン準備室2B内に必要な量のオゾン4xを供給し、試験室10とオゾン準備室2Bとの間の仕切り扉110を開くことにより追加する。この場合、試験室10とオゾン準備室2Bとを合わせた空間が、新たな試験室となる。
以上のようにして、本実施形態の微生物除去評価方法を行うことができる。
【0059】
したがって、以上のような構成の微生物除去評価装置100Aによれば、正確にウイルス濃度とオゾン濃度とが規定された試験条件において微生物除去評価が可能な微生物除去評価装置とすることができる。
【0060】
また、以上のような構成の微生物除去評価方法によれば、独立して所定の濃度で準備した微生物と除去物質とを混合させることにより、正確な濃度条件で微生物の除去評価を行うことができる微生物除去評価方法とすることができる。
【0061】
なお、本実施形態では、微生物供給手段3やオゾン供給手段4によってチャンバー100内を加湿することとしたが、滅菌水を噴霧しチャンバー100内を加湿する加湿手段を別途設けることとしても良い。
【0062】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る微生物除去評価装置101Aの説明図である。本実施形態の微生物除去評価装置101Aは、第1実施形態の微生物除去評価装置100Aと一部共通している。異なるのは主に、チャンバーの形状と、チャンバー内を仕切る仕切り扉の配置である。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。また、ここでは説明を容易にするため、チャンバーとチャンバー内の構成のみを示しており、チャンバー外に接続される付帯設備については省略している。
【0063】
本実施形態の微生物除去評価装置101Aが有するチャンバー101は、平面視で略十字を示す形状をしている。チャンバー101の内部には、4つの仕切り扉110によって仕切られており、十字の交差部分に該当する位置の浮遊準備室1と、十字の各端部に該当する位置の4つのオゾン準備室2と、が形成されている。すなわち、各オゾン準備室2はそれぞれ独立して浮遊準備室1と接続可能となっている。
【0064】
浮遊準備室1の床面には第1撹拌装置11が配置され、各オゾン準備室2の床面にはそれぞれ第2撹拌装置21が配置されている。更に、オゾン準備室2の仕切り扉110に面する側面には、別途の撹拌ファン23が設けられている。撹拌ファン23は、仕切り扉110が開けられた際に、オゾン準備室2内に準備されるオゾンを浮遊準備室1側へ送り出す対流を形成し、浮遊準備室1内に浮遊する微生物と、オゾン準備室2内に浮遊するオゾンと、の拡散および混合を促進する機能を有する。
【0065】
以上のような構成の微生物除去評価装置101Aにおいては、複数のオゾン準備室2が直列に接続されている第1実施形態のチャンバー100と比べて各準備室同士の距離が近く、オゾン準備室2から新たにオゾンを追加する際に、オゾンの拡散に要する時間を短時間とすることができる。そのため、オゾンが拡散するまでの濃度が不均一な状態を短くすることができ、より正確な微生物除去評価が可能な微生物除去評価装置とすることができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、浮遊準備室1の側壁に隣接してオゾン準備室2を4つ設けることとしたが、必要に応じてオゾン準備室2を増やしたチャンバーとすることができる。
【0067】
オゾン準備室2は、図3と同様に、浮遊準備室1の側壁に隣接することとしても良く、例えば浮遊準備室1の床側や天井側に設けることとしても良い。さらに、図4に示す微生物除去評価装置102Aが備えるチャンバー102のように、浮遊準備室1の側壁に隣接する点は図3と同様にして、図3のチャンバー101を縦に2つ積み上げたように各オゾン準備室を積み重ね、中央の浮遊準備室1の周囲に複数(図では8つ)のオゾン準備室2を配置するような構造とすることもできる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…浮遊準備室(第1準備室)、2A…オゾン準備室(第2準備室)、2B〜2C…オゾン準備室(第3準備室)、3…微生物供給手段、3x…懸濁液、4…オゾン供給手段(除去物質供給手段)、5…採取装置、11…第1撹拌装置、21…第2撹拌装置、63…ヒーター(空調制御手段)、100A〜102A…微生物除去評価装置、110…仕切り扉(仕切り部材)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除去物質による微生物の殺菌または不活化能力を測定する微生物除去評価装置であって、
前記微生物を含む第1ガスを内部に収容する第1準備室と、
前記除去物質を含む第2ガスを内部に収容する第2準備室と、
前記第1準備室と前記第2準備室とを仕切り、自身の開閉によって前記第1準備室と前記第2準備室との間の連通または遮断を制御する仕切り部材と、
前記第1準備室と前記第2準備室とを連通させて得られた前記第1ガスと前記第2ガスとの混合ガスの一部を採取する採取装置と、を有することを特徴とする微生物除去評価装置。
【請求項2】
前記第1ガスを撹拌して前記第1準備室の内部に前記微生物を均一に浮遊させる第1撹拌装置を有することを特徴とする請求項1に記載の微生物除去評価装置。
【請求項3】
前記第2ガスを撹拌して前記第2準備室の内部に前記除去物質を均一に浮遊させる第2撹拌装置を有することを特徴とする請求項1または2に記載の微生物除去評価装置。
【請求項4】
前記第1準備室の内部の温度及び湿度と、前記第2準備室の内部の温度及び湿度と、を均一に制御する空調制御装置を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の微生物除去評価装置。
【請求項5】
前記第1準備室と前記第2準備室とを連通させて得られた前記混合ガス中の前記除去物質の濃度が一定に保たれるように、外部から前記第1準備室または前記第2準備室に除去物質を供給する除去物質供給装置を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の微生物除去評価装置。
【請求項6】
前記除去物質供給装置は、前記除去物質を含む第3ガスを内部に収容し、前記第1準備室または前記第2準備室との間に配置された仕切り部材の開閉によって、前記第1準備室または前記第2準備室との間の連通または遮断を制御可能な第3準備室を有することを特徴とする請求項5に記載の微生物除去評価装置。
【請求項7】
前記第1準備室の内部に、前記微生物を液体に懸濁させた懸濁液を噴霧する前記微生物供給手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の微生物除去評価装置。
【請求項8】
除去物質による微生物の殺菌または不活化能力を測定する微生物除去評価方法であって、
前記微生物と前記除去物質とを、各々独立して気相中に所定の濃度で浮遊させた後に、両者を混合させて微生物除去を行う混合処理と、
前記微生物と前記除去物質とが混合した混合ガスの一部を採取し、採取した混合ガスに含まれる前記微生物を回収する回収処理と、
回収された前記微生物の活性度に基づいて、前記除去物質の微生物除去性能を評価する評価処理と、を行うことを特徴とする微生物除去評価方法。
【請求項9】
前記回収処理に先だって、前記混合ガスに含まれる前記除去物質の濃度を測定し、所定の濃度の前記除去物質を追加する追加処理を行うことを特徴とする請求項8に記載の微生物除去評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−41524(P2011−41524A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192314(P2009−192314)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】