説明

微粉炭の燃焼試験装置

【課題】 無重力環境で正確に微粉炭燃焼テストを行う。
【解決手段】 一端が閉塞され、他端が開放された透明な筒体1aを有する燃焼容器1と、燃焼容器1の開放側に設けられた着火装置4と、微粉炭の火炎の伝播状況を筒体の外から撮影するカメラ6とからなり、無または微小重力下で微粉炭の燃焼試験を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は微粉炭の燃焼技術を開発するうえで、重要な微粉炭粒子群の燃焼特性をテストするための微粉炭の燃焼試験装置に関する。
【0002】
【従来の技術】石炭はその埋蔵量の大きさから将来のエネルギー源として依然重要であるが、他の燃料に比べ単位エネルギーあたりの二酸化炭素の排出量が多く、また、硫黄・窒素酸化物が生成するため、そのクリーンで高効率な燃焼技術の開発が求められている。微粉炭酸素燃焼技術は、微粉炭を酸素・二酸化炭素雰囲気で燃焼させることで排ガスをすべて二酸化炭素として回収できる方法であり、二酸化炭素回収の他、窒素酸化物の低減にも大きな効果が期待できる。このような新しい微粉炭燃焼技術を開発するうえで、微粉炭粒子群の燃焼特性を知ることは重要であるが、その燃焼機構が複雑であり、実験手法の点からその正確な基礎データはあまり得られていない。
【0003】石炭粒子の基礎的な燃焼機構については、その実験的・理論的研究がいくつかのレビューにまとめられている。しかし、これら常重力における実験では、粒子を均一に分散させることが極めて困難であり、粒子の沈降・自然対流の影響により燃焼場の攪乱が起こり、実験装置・手法によって実験結果がばらついてしまうという問題がある。一方、無または微小重力下では、粒子の沈降がないため、比較的均一に微粒子群を空間中に分散でき、また、自然対流の影響を除去できるため、本質的な微粒子群燃焼挙動を観察できると考えられる。
【0004】図4は第35回燃焼シンポジウム講演論文集(平成9年11月1日発行)に発表された「微小重力場における微粉炭粒子群の燃焼特性」(P446〜448)に記載されたかかる試験装置の概略図である。図において、aは透明な石英製の密閉容器であり、中空な球形をしており、内部が燃焼室fになっている。bは微粉炭の分散管で環状をしており、微粉炭を噴出する複数の孔が明けられている。cは着火装置である。dは高速度カメラ、eはビデオカメラである。テストは北海道の(株)地下無重力実験センタ(JAMIC)で行った。ここでは10-4g以下の微小重力環境が約10秒間得られる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】かかる試験装置において燃焼室fが密閉空間になっているので、燃焼の進行にともなって内部圧力が上昇し、火炎の伝播速度が加速してしまい、正確な火炎伝播速度が測定できない。また、容器aの壁面に輻射ヒータがないため、実際の微粉炭焚きボイラのように壁面から輻射熱を受けるような条件下でのテストができない。
【0006】本発明は従来技術のかかる問題点に鑑み案出されたもので、無または微小重力下において、微粉炭の燃焼試験を行う際に、燃焼室内の圧力が上昇して火炎伝播速度が加速してしまうことのない、微粉炭の燃焼試験装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明の微粉炭の燃焼試験装置は、一端が閉塞され、他端が開放された透明な筒体を有する燃焼容器と、該燃焼容器の閉塞側に設けられた微粉炭の分散装置と、該燃焼容器の開放側に設けられた着火装置と、微粉炭の火炎の伝播状況を筒体の外から撮影するカメラとからなり、無または微小重力下で微粉炭の燃焼試験を行うものである。
【0008】上記筒体の周壁に加熱装置を設けることが好ましい。
【0009】次に本発明の作用を説明する。燃焼容器の閉塞側に設けられた微粉炭の分散装置から分散用の気体と共に微粉炭を燃焼容器内に噴出する。燃焼容器は無または微少重力下にあるので、微粉炭は重力の影響で沈降することがなく燃焼容器内に一様に分散される。微粉炭が燃焼容器内に一様に分散した後、燃焼容器の開放側に設けた着火装置により、着火を行う。着火後、燃焼容器内に浮遊した微粉炭粒子が燃焼し、その火炎が燃焼容器の閉塞側に向かって伝播して行くが、その状況はデジタルビデオカメラにより撮影される。燃焼容器の他端が開放されているので、微粉炭が燃焼して燃焼容器内部が昇温しても、内部の圧力が上昇することがなく、火炎の伝播速度が加速することがない。したがって、正確な火炎伝播速度を得るための燃焼テストを行うことができる。
【0010】さらに、筒体の周壁に加熱装置を設ければ、実際の微粉炭炊きボイラのように壁面から輻射熱を受けるような条件を模擬したテストを行うことができる。
【0011】
【発明実施の形態】以下本発明の1実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の微粉炭の燃焼試験装置の概略図である。図において、1は燃焼容器である。燃焼容器1は透明な石英製の筒体1aと、筒体1aの一端を閉塞する蓋体1bとからなる。
【0012】蓋体1bの内側に微粉体の分散装置3が設けられている。微粉炭の分散装置3は1mm程度の多数の孔が設けられた半球状の整流板3aと、微粉体分散用のガスを貯蔵するガスボンベ3bと、ガスボンベ3bと整流板3a内とを接続する配管3cと、配管3cの途中に設けられた電磁弁3dとからなる。
【0013】4は燃焼容器1の開放端側に設けられた着火装置で、先端にニクロム線のコイルを有しており、通電することによって発熱する。5はスチールまたはガラスウールで空気は自由に通過するが、微粉炭は通過しないようになっていて、燃焼容器1の開放端を閉塞して設けられている。6は微粉炭の火炎の伝播状況を筒体1aの外から撮影するデジタルビデオカメラである。
【0014】7は筒体1aの周壁に設けられた加熱装置である。加熱装置7は筒体1aの外周に螺旋状に巻き付けたニクロム線からなり通電することにより、筒体1aの周壁が加熱されて輻射壁になる。11はタイマリレーで、微粉炭噴射、着火、カメラの撮影、加熱装置の通電などのタイミングを調節する。12はイオンプローブである。イオンプローブ12は、筒体1aの長手方向に沿って設けられており、イオンセンサ12aがイオンプローブ12に所定の間隔で取り付けられている。13は圧力計、14はA/Dコンバータ、15はパソコンである。
【0015】次に本実施形態の作用を説明する。燃焼容器1の閉塞側の蓋体1bの内側に設けられた微粉炭の分散装置3から分散用の気体とともに、燃焼容器1内に微粉体を噴出する。微粉炭を半球状の整流板3a内に収容しておき、電磁弁3dを開放するとガスボンベ3b内の気体が整流板3a内に流入し、そこで微粉炭を撹拌しつつ、整流板3aの小孔から微粉炭と共に噴出する。燃焼容器1は無または微小重力下にあるので、燃焼容器1内に浮遊する微粉炭は重力の影響で沈降することがなく、燃焼容器1内に一様に分散している。なお、燃焼容器1の開放端はスチールウール5により閉塞されているので、微粉炭が燃焼容器1外に流出ことはない。微粉炭が燃焼容器1内に一様に分散した後、燃焼容器1の開放側に設けた着火装置4により着火を行う。着火はニクロム線コイルに通電することにより行う。着火後、燃焼容器1内に浮遊した微粉炭粒子が燃焼し、その火炎が燃焼容器1の閉塞側に向かって伝播して行くが、その状況はデジタルビデオカメラ6によって撮影される。
【0016】燃焼容器1の他端が開放されているので、微粉炭が燃焼して燃焼容器1の内部が昇温しても、内部の圧力が上昇することがなく、したがって、火炎の伝播速度が加速することがなく、正確な火炎伝播速度を得るための燃焼テストを行うことができる。
【0017】さらに、筒体1aの周壁に加熱装置7を設けているので、周壁は輻射熱を発生する輻射壁になり、実際の微粉炭焚きボイラのように壁面から輻射熱を受ける条件下で燃焼テストを行うことができる。
【0018】落下塔により得られる微少重力環境の持続時間はせいぜい10秒なので、微粉炭噴射、着火、カメラ撮影、加熱装置7の通電などの順序やタイミングは非常に重要であるが、これらの調節はタイマリレー11により行われる。微粉炭の火炎はイオン化しているので、筒体1aの長手方向に沿って設けられたイオンプローブ12により火炎の伝播速度を計測することができる。
【0019】図2および図3は本発明の微粉炭の燃焼試験装置を使用して行った燃焼テストの結果を示す図である。図2は微粉炭の粒子間距離と火炎伝播速度との関係を示す図であり、パラメータとして周壁の温度、周囲ガスの組成(N2 が60%、O2 が40%またはCO2 が60%、O2 が40%)を選んでいる。図3は同様のパラメータについて、火炎をデジタルビデオカメラで、着火から0、0.1、0.2、0.2、0.3秒後に撮影した写真である。このように本発明の微粉炭の燃焼試験装置の実用性が証明されている。
【0020】本発明は以上述べた実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように本発明の微粉炭の燃焼試験装置は、無または微小重力環境下で微粉炭の燃焼テストを行うにあたって、一端が開放された筒体を有する燃焼容器を用いたので密閉容器を用いた従来の試験装置と異なり、容器内の圧力上昇がなく、正確な燃焼テストを行うことができる。さらに、周壁に加熱装置を設けているので、周壁は輻射熱を発生する輻射壁となり、実際の微粉炭焚きボイラのように壁面から輻射熱を受ける条件を模擬することも可能であるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の微粉炭の燃焼試験装置の概略図である。
【図2】本発明の微粉炭の燃焼試験装置を用いて行ったテスト結果のグラフである。
【図3】同じくテスト結果の写真である。
【図4】従来の微粉炭の燃焼試験装置の概略図である。
【符号の説明】
1 燃焼容器
1a 筒体
3 微粉体の分散装置
4 着火装置
6 カメラ
7 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一端が閉塞され、他端が開放された透明な筒体を有する燃焼容器と、該燃焼容器の閉塞側に設けられた微粉炭の分散装置と、該燃焼容器の開放側に設けられた着火装置と、微粉炭の火炎の伝播状況を筒体の外から撮影するカメラとからなり、無または微小重力下で微粉炭の燃焼試験を行うことを特徴とする微粉炭の燃焼試験装置。
【請求項2】 上記筒体の周壁に加熱装置を設けた請求項1記載の微粉炭の燃焼試験装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−337060(P2001−337060A)
【公開日】平成13年12月7日(2001.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−159968(P2000−159968)
【出願日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】