説明

微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法

【構成】 微粉炭吹き込み高炉操業において、微粉炭吹き込み量を150kg/t-p 以上とし、投入水素量を15〜20kg/t-pとし、さらに酸素を 3〜5 %富化する。
【効果】 微粉炭吹き込み量の増加による炉内通気性の悪化による操業不安定、熱効率の低下、さらに置換率の低下を防止し、150kg/t-p 以上の微粉炭吹き込み操業が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高炉の微粉炭吹き込み操業に関し、さらに詳しくは、微粉炭を150kg/t-p 以上吹き込む微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】石油価格の大幅な高騰を契機に、高炉においては補助燃料として吹き込んでいた重油を全面的に中止するオールコークス操業に移行した。その後、高炉操業の安定化とコークスの代替として経済効果が高い微粉炭吹き込みが注目され、現在では、日本国内高炉の過半数で採用されるまでに至った。
【0003】上記のように、エネルギーコスト低減のため、微粉炭吹き込み操業を実施する高炉が多いが、それらの微粉炭吹き込み量はたかだか150kg/t-p 程度である。欧州ではそれ以上の報告(150〜200kg/t-p)もあるが、ほとんど全てがごく短期間のデータであり、その間の炉熱、通気、降下性をみても非常に不安定なもので、長期に安定して150kg/t-p 以上の微粉炭吹き込み操業を達成する技術はまだない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】微粉炭吹き込み操業において、微粉炭吹き込み量を増加していくためには、以下のような技術的課題を解決しなければならない。
■微粉炭比アップとともにコークス量が減少し、鉱石/コークスが高くなることによる炉内通気性の悪化。
■羽口での微粉炭燃焼量増加とともに、ガス流が周辺流化し炉体からの放散熱アップによる熱効率低下。
■熱流比(固体熱容量/ガス熱容量)が低下することにより炉内ガス温度が上昇し、炉頂からの顕熱がアップすることによる熱効率低下。
【0005】すなわち、炉内通気性の悪化による操業不安定、熱効率の低下、さらに置換率(微粉炭と置き換えることができるコークスの量)の低下により150kg/t-p 以上の微粉炭吹き込み操業が達成されていない。
【0006】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、水素投入と酸素富化によって、微粉炭吹き込み量を150kg/t-p 以上にすることが可能である微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】微粉炭吹き込み高炉操業において、微粉炭吹き込み量を150kg/t-p 以上とし、投入水素量を15〜20kg/t-pとし、さらに酸素を 3〜5 %富化する微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法である。
【0008】
【作用】投入水素は、送風中に含まれる大気中の湿度 3〜25g/Nm3 、コークス中の水素0.3〜0.5 %、微粉炭中の炭化水素 3〜6 %等から投入されるが、不足分の水素量は水蒸気として羽口から投入する。これらの水素量の全てを投入水素量として、15〜20kg/t-pに限定する。
【0009】図6に投入水素量とレースウエイ深度との関係を示す。図6に示すように、投入水素量の増加に伴いガス密度の低下、ガス粘性の低下によりレースウエイ近傍の通気性が改善されレースウエイ深度は大きくなる傾向にある。したがって、投入水素量を15〜20kg/t-pとすることによって、レースウエイを深長することができ、かつ水素還元による直接還元率の上昇抑制によって、鉱石/コークスが高くなることによる炉内通気性の悪化、また、ガス流が周辺流化し炉体からの放散熱アップによる熱効率低下を防止することができる。
【0010】図7に微粉炭170kg/t-p 吹き込み操業でのシミュレーション結果に基づく投入水素量の変化に伴う炉内融着帯形状の変化を示す。投入水素量の増加とともに、レースウエイ1が深長となり、炉心部へのガス量が増加し融着帯2の形状がW字形から逆V字形へと変化し、炉内通気性が改善される。
【0011】通常、送風中の酸素量は21%(容量)で、本発明では、酸素量を 3〜5 %富化し、送風中の酸素量を24〜26%にして微粉炭多量吹き込み操業を行うものである。
【0012】図8に炉頂温度が 160〜200 ℃のときの酸素富化率と微粉炭比との関係を示す。図8から明らかなように、微粉炭比を150kg/t-p 以上に増加した場合でも、炉頂温度を200 ℃以下に維持するためには、酸素を 3〜5 %富化する必要がある。すなわち、酸素を 3〜5 %富化することによって、熱流比の低下を抑制し、炉頂温度上昇による熱効率の低下を防止することことができるとともに、羽口前温度も確保することができる。
【0013】
【実施例】以下に、微粉炭吹き込み量を増加した高炉操業データに基づいて本発明法の実施例を詳細に説明する。図1に投入水素量を一定(12kg/t-p)として、微粉炭比を増加させた従来技術の炉内全圧損、炉体放散熱量失の変化(○印)を示す。従来技術では、微粉炭比が増加すると、鉱石/コークスの上昇にともなって、通気性が悪化して炉内全圧損が大きくなり、特に微粉炭比が170kg/t-p 以上になるとその傾向が強くなる。また、炉内ガスの周辺流化による炉体放散熱量が多くなる。一方、投入水素量を15kg/t-p以上とした本発明法(×印)では、微粉炭比が増加しても、それほど炉内全圧損が大きく、また炉体放散熱量が多くなることはない。
【0014】図2に微粉炭比と水素ガス利用率、直接還元率との関係を示す。投入水素量を一定にした従来技術(○印)では、微粉炭比に関係なく水素ガス利用率は一定であり、そのため、高微粉炭比では、鉱石/コークスが上昇するため、直接還元率(吸熱反応)が増大し、その分の熱補償が必要となる。一方、水素投入量を(15〜20kg/t-p)増加した本発明法(×印)では、水素ガス利用率が上昇し、それにより直接還元率はほぼ一定である。したがって、水素投入量を増加することによって別途熱補償は不要となる。
【0015】図3に微粉炭比と熱流比(固体熱容量/ガス熱容量)との関係を、図4に熱流比と炉頂温度との関係を示す。酸素富化を行わない従来技術(○印)では、微粉炭比上昇とともに、熱流比が低下し、それに伴い炉頂温度が上昇するが、酸素を富化した本発明法(×印)では、熱流比の低下、炉頂温度の上昇を抑制することができ、炉頂温度上昇による熱効率の低下を防止することができる。
【0016】以上のように、微粉炭吹き込み量を増加させた場合にも、本発明法により高炉の安定操業を行うことができる。すなわち、高炉の安定性が維持される(炉内圧損の上昇が抑制される)ことは、図1に示した。また、熱効率を低下させずに微粉炭比を増大させ得ることは、図1、図2、図3および図4に示す通りであるが、それらを集約した形で微粉炭とコークスの置換率との関係を図5に示す。従来技術(○印)では、微粉炭比150kg/t-p 以上で置換率が低下するのに対して、本発明法(×印)では、ほぼ一定であり、微粉炭の効率が低下することなく、高微粉炭比操業が達成されていることがわかる。
【0017】
【発明の効果】本発明は、微粉炭吹き込み高炉操業において、微粉炭吹き込み量を150kg/t-p以上とし、投入水素量を15〜20kg/t-pとし、さらに酸素を 3〜5 %富化する微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法であって、本発明法によれば、微粉炭吹き込み量の増加による炉内通気性の悪化による操業不安定、熱効率の低下、さらに置換率の低下を防止し、150kg/t-p 以上の微粉炭吹き込み操業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】微粉炭比と炉内圧損および炉体熱損失との関係を示す図である。
【図2】微粉炭比と水素ガス利用率、直接還元率との関係を示す図である。
【図3】微粉炭比と熱流比(固体熱容量/ガス熱容量)との関係を示す図である。
【図4】熱流比と炉頂温度との関係を示す図である。
【図5】微粉炭とコークスの置換率との関係を示す図である。
【図6】投入水素量とレースウエイ深度との関係を示す図である。
【図7】シミュレーション結果に基づく投入水素量の変化に伴う炉内融着帯形状の変化を示す図である。
【図8】炉頂温度を一定にしたときの酸素富化率と微粉炭比との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…レースウエイ、2…融着帯。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 微粉炭吹き込み高炉操業において、微粉炭吹き込み量を150kg/t-p 以上とし、投入水素量を15〜20kg/t-pとし、さらに酸素を 3〜5 %富化することを特徴とする微粉炭多量吹き込み時の高炉操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−100911
【公開日】平成6年(1994)4月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−248198
【出願日】平成4年(1992)9月17日
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)