説明

微粉状有機塩および剛直複素環高分子の製造方法

【課題】ゲル状異物数が少ない紡糸・成形・製膜品が得られる剛直複素環高分子を、高い重合再現性にて製造するために好適な芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を提供する。
【解決手段】4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオールに代表される芳香族ポリアミンと、式(C)及び/又は(D)の芳香族ジカルボン酸からなり、レーザー回折/散乱式粒度分布計で測定したメジアン径が2.0〜100μmである芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。


(nは1〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20の芳香族基である。)


(Y及びYはN又はCHである。ただしY及びYの少なくとも一方はNである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミンと芳香族ジカルボン酸よりなる微粉化された塩、およびそれを原料として用いる剛直複素環高分子の製造方法に関するものであり、より詳しくは、剛直複素環高分子のポリリン酸ドープ中の異物量が低減され、機械物性や耐熱性に優れた剛直複素環高分子の製造に適した、微粉状の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩及びそれを原料用いる剛直複素環高分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンズオキサゾールやポリベンズチアゾールに代表される剛直複素環高分子の成形体、特に繊維は、その高い強度や弾性率のため、宇宙、航空、防弾、防塵、および各種補強部材などへの展開が期待されている。このような剛直複素環高分子の製造方法としては、芳香族ポリアミン又はその塩酸塩と芳香族ジカルボン酸をポリリン酸溶媒中で重合せしめる方法(直接重合法)が主に用いられているが、本法により高重合度の剛直複素環高分子を得るためには、製造工程において、原料である芳香族ポリアミン又はその塩酸塩と芳香族ジカルボン酸の仕込みモル比を厳密に1対1に制御する必要があるため、直接重合法では実用に供するだけの重合再現性確保が困難である。この問題点を解決するために、予め芳香族ポリアミン又はその塩酸塩と芳香族ジカルボン酸からなる塩を調製し、これを原料として重合反応に供する方法も提案されている。しかしながら、上記のいずれの方法を用いても、芳香族ポリアミン又はその強酸塩と芳香族ジカルボン酸が、重合溶媒であるポリリン酸へ溶解しにくいため、重合反応の進行が極めて遅く、分解反応がおこってしまい、高重合度の剛直複素環高分子を得るのは困難である。
【0003】
上記問題を解決するために、芳香族ジカルボン酸を6μm以下、又は10μm以下に粉砕し、得られた微粉状芳香族ジカルボン酸を直接重合法に供するとの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1、および非特許文献1)。しかしながら、これらの製造方法では、重合再現性の欠如を充分に解決するに至っていない上に、該製造方法による剛直複素環高分子であっても、これを紡糸する際に工程の不安定化を起こしたり、紡糸により得られた繊維が極めて多数のゲル状の異物(以下、ゲルと略称することがある)を有する物性が劣るものとなったりするという問題に本発明者らは直面した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4092594号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Macromolecules,1984,14,p.915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高重合度で、色調、紡糸や成形時の操業性が良く、ゲル状異物数が少ない紡糸・成形・製膜品を得ることができる剛直複素環高分子を、高い重合再現性にて製造するために好適な芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、原料である芳香族ポリアミン、芳香族ジカルボン酸、該芳香族ポリアミンと該芳香族ジカルボン酸よるなる塩、又はそれらのオリゴマーが未溶解のまま生成した剛直複素環高分子のドープに残留したものが、該剛直複素環高分子の紡糸品や成形品にゲル状の異物の原因であること、そして、従来は芳香族ポリアミンやその塩酸塩は、酸化劣化等の影響を受けやすいため微粉化することが困難であったが、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩として微粉化すれば、そのような酸化劣化を比較的に受けることなく微粉化でき、上記ゲル状異物の発生を著しく抑制できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨を以下に示す。
【0008】
1. 下記一般式(A)および(B)
【化1】

(上記一般式(A)及び(B)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わす。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリアミンと、下記一般式(C)及び(D)
【化2】

(上記一般式(C)において、nは1〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20の芳香族基である。)
【化3】

(上記一般式(D)において、Y及びYはN又はCHである。ただしY及びYの少なくとも一方はNである。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸からなり、レーザー回折/散乱式粒度分布計で測定したメジアン径が2.0〜100μmであることを特徴とする芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
2. 熱質量測定により測定した水分率が3000質量ppm以下である上記1項記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
3. 芳香族ジカルボン酸が上記1項記載の一般式(C)で表されるものである上記1項又は2項記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩と、芳香族ジカルボン酸が上記1項記載の一般式(D)で表されるものである上記1項又は2項記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩とをそれぞれ1種類以上、ポリリン酸溶媒中で反応せしめることを特徴とする、下記一般式(E)及び(F)
【化4】

(上記一般式(E)及び(F)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、nは1〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20の芳香族基である。)
のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第1繰り返し単位、及び、下記一般式(G)及び(H)
【化5】

(上記一般式(G)及び(H)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、Y及びYはN又はCHである。ただしY及びYの少なくとも一方はNである。)
のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第2繰り返し単位からなり、メタンスルホン酸に2.5mg/8mLの濃度で溶解し、25℃において測定した特有粘度が13.0dL/g以上である剛直複素環高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩(以下、モノマー塩と略することがある)、及びそれを原料として用いる剛直複素環高分子の製造方法により、色調、紡糸や成形時の操業性が良く、ゲル状異物数が少ない紡糸・成形・製膜品を得ることができる剛直複素環高分子をえることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、前記一般式(A)および(B)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリアミンと、前記一般式(C)及び(D)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸からなるものである。
【0011】
前記一般式(A)及び(B)におけるArとしては、
【化6】

よりなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましいものとしてあげることができる。
【0012】
更に、前記一般式(A)で表される芳香族ポリアミンとしては、下記一般式(A−1)
【化7】

(上記一般式(A−1)において、Z及びZはそれぞれ独立にNまたはCHである。)
又は、下記一般式(A−2)
【化8】

(上記一般式(A−2)において、Z及びZの定義は上記一般式(A−1)に同じである。)
で表されるものよりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリアミンが好ましいものとして挙げられ、なかでも4,6−ジアミノレゾルシノール(4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール)、2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオールが特に特に好ましい。
【0013】
前記一般式(B)で表される芳香族ポリアミンとしては、下記一般式(B−1)
【化9】

(上記一般式(B−1)において、Z及びZはそれぞれ独立に、NまたはCHである。)
又は、下記一般式(B−2)
【化10】

(上記一般式(B−2)において、Z及びZの定義は上記一般式(B−1)に同じである。)
で表されるものよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
前記一般式(C)で表される芳香族ジカルボン酸としては、例えば、
【化11】

(上記構造式においてnは1〜4の整数であり、n1は1〜3の整数であり、n2及びn3は0〜4の整数である。ただし、n2+n3は1〜4であるものとする。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましいものとして挙げられ、中でも2,5−ジヒドロキシテレフタル酸が特に好ましい。
【0015】
前記一般式(D)で表される芳香族ジカルボン酸は2,5−ピリジンカルボン酸類及び2,5−ピラジンカルボン酸であり、特に2,5−ピリジンジカルボン酸が好ましい。
【0016】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、レーザー回折/散乱式粒度分布計で測定したメジアン径が2.0〜100μmである。当該メジアン径が2.0μmより小さい芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は吸水が顕著であり、加水分解や酸化劣化などにより長期安定性が著しき低下すると共に、これを原料として用いて重合反応を行うと、実用に耐えうる高分子量・高重合度の剛直複素環高分子を得ることができない。前記メジアン径が100μmより大きい芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を原料として用いて重合反応を行うと、ポリリン酸溶媒への溶解性が悪いために重合速度が低く工業生産上極めて不利である。更に、そのような重合反応液には、芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩やそのオリゴマーが未反応・未溶解のまま残存する量が多く、当該重合反応により得られた剛直複素環高分子を紡糸、製膜、又は成形する際に工程の不安定化をもたらしたり、得られた繊維やフィルム、成形体中の異物数が際立って多くなったりするなどの問題を生じる。
【0017】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩のうち、前記一般式(A)又は(B)で表される芳香族ポリアミンと、前記一般式(C)で表される芳香族ジカルボン酸からなるもの(以下、OHモノマー塩と称することがある)については、メジアン径が2.0〜50μmであると好ましく、2.0〜10μmであるとより好ましい。
【0018】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩のうち、前記一般式(A)又は(B)で表される芳香族ポリアミンと、前記一般式(D)で表される芳香族ジカルボン酸からなるもの(以下、Nモノマー塩と称することがある)については、メジアン径が5.0〜100μmであると好ましく、6.0〜95μmであるとより好ましく、6〜10μmであると特に好ましい。
【0019】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、上記一般式(A)および(B)のそれぞれで表わされる芳香族ポリアミンおよびそれらの強酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液と、上記一般式(C)および(D)で表される芳香族ジカルボン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液とを混合することにより製造することができ、特に攪拌しながら混合することが好ましい。
【0020】
なお、上記の芳香族ポリアミンの強酸塩としては、該芳香族ポリアミンと塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、亜リン酸、メタンスルホン酸などよりなる群から選ばれる1種類以上の酸との塩を指し、特に塩酸塩が好ましい。
【0021】
また、上記の芳香族ジカルボン酸のアルカリ金属塩の水溶液としては、該芳香族ジカルボン酸を水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属化合物を含む水溶液に溶解したものでもよい。
【0022】
上記のように混合・攪拌して本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を製造する際、混合・攪拌の速度の制御などにより、生成する当該モノマー塩の粒径を制御することができ、また、生成した当該モノマー塩を任意の方法により粉砕して所望の粒径にすることもできる。生成したモノマー塩を粉砕する方法としては、ジェット気流を利用したスパイラル型、ジェットオーマイザー型、又はカウンタージェット型等の気流式粉砕機を用いて、ジェット気流中で粉砕することが好ましい。
【0023】
その他の衝撃式粉砕機やボールミルのような媒体ミルも使用することはできるが、これらの装置を使用する際は、装置摩耗により異物がモノマー塩に混入したり、衝突や摩擦によって発熱し、モノマー塩が分解・劣化したりしないよう注意が必要である。
上記のような粉砕処理は複数回繰り返してもよく、また粉砕後に気流式分級機などにより分級し粗大粒子をより減らす操作を加えてもよい。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、熱質量分析により測定した水分率が3000質量ppm以下であると好ましく、2500質量ppm以下であるとより好ましく、2000質量ppm以下であると更に好ましい。
【0025】
本発明は、芳香族ジカルボン酸が前記一般式(C)で表されるものである本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩(OHモノマー塩)と、芳香族ジカルボン酸が前記一般式(D)で表されるものである本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩(Nモノマー塩)とをそれぞれ1種類以上、ポリリン酸溶媒中で(重縮合)反応せしめることにより、前記一般式(E)及び(F)のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第1繰り返し単位、及び、前記一般式(G)及び(H)のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第2繰り返し単位からなり、メタンスルホン酸に2.5mg/8mLの濃度で溶解し、25℃において測定した特有粘度が13.0dL/g以上の剛直複素環高分子を得る製造方法についての発明でもある。当該製造方法により得られた剛直複素環高分子は、未溶解のモノマー塩やオリゴマーが少なく、よってこれを紡糸、製膜、及び成形すると、ゲル状異物が少ない繊維、フィルム、成形体を得ることができる。なお、本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子として、例えば
【化12】

である第1繰り返し単位と、
【化13】

である第2繰り返し単位のような、組み合わせも可能であり、更に後述するように、下記構造式
【化14】

で表されるような、芳香族ジカルボン酸として、前記一般式(C)又は(D)で表される以外のものを用いた第3繰り返し単位を含んだものであってもよい。
【0026】
本発明の剛直複素環高分子の製造方法において、上記のようなOHモノマー塩とNモノマー塩とを用いる際の仕込み比は、OHモノマー塩のモル数をα、Nモノマー塩のモル数をβとして下記式(i)を満足する割合が好ましく、
0.1≦α/β≦10 ・・・(i)
下記式(i−1)
0.1≦α/β≦1 ・・・(i−1)
を満足するものであるとより好ましい。
【0027】
前記一般式(E)〜(H)において、Arとして好ましいものは、前記一般式(A)及び(B)に関して前述したものと同じであり、XとしてはO又はSが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子を構成する上記第1繰り返し単位の前記一般式(E)で表されるものとしては、下記一般式(E−1)
【化15】

(上記一般式(E−1)において、Xの定義は前記一般式(E)に同じであり、Z及びZはそれぞれ独立に、NまたはCHである。)
で表されるものが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子を構成する上記第1繰り返し単位の前記一般式(F)で表されるものとしては、下記一般式(F−1)
【化16】

(上記一般式(F−1)において、Xの定義は前記一般式(F)に同じであり、Z及びZはそれぞれ独立に、NまたはCHである。)
で表されるものが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子を構成する上記第2繰り返し単位の前記一般式(G)で表されるものとしては、下記一般式(G−1)
【化17】

(上記一般式(G−1)において、X,Y,およびYの定義は前記一般式(G)に同じであり、Z及びZはそれぞれ独立に、NまたはCHである。)
で表されるものが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子を構成する上記第2繰り返し単位の前記一般式(H)で表されるものとしては、下記一般式(H−1)
【化18】

(上記一般式(H−1)において、X,Y,およびYの定義は前記一般式(H)に同じであり、Z及びZはそれぞれ独立に、NまたはCHである。)
で表されるものが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子としては、上記一般式(E−1)で表される第1繰り返し単位と上記一般式(G−1)で表される第2繰り返し単位の組み合わせからなるもの、又は上記一般式(F−1)で表される第1繰り返し単位と上記一般式(H−1)で表される第2繰り返し単位の組み合わせからなるものが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子としては、第1繰り返し単位と第2繰り返し単位とを下記式(ii)を満たす割合で含有するものが好ましい。
0.1≦(a+b)/(c+d)≦10 (ii)
(上記式(ii)において、a、b、c、及びdは、それぞれ前記一般式(E)、(F)、(G)、及び(H)で表される各繰り返し単位である)
【0034】
上記の第1繰り返し単位と第2繰り返し単位が満たす割合としては、下記式(ii−1)
で表されるものが好ましい。
0.1≦(a+b)/(c+d)≦1.0 (ii−1)
(上記式(ii−1)において、a、b、c、及びdは、それぞれ前記一般式(E)、(F)、(G)、及び(H)で表される各繰り返し単位である)
【0035】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子は、メタンスルホン酸に2.5mg/8mLの濃度で溶解し、25℃において測定した特有粘度が13.0dL/g以上であることが肝要である。剛直系複素環高分子の特有粘度が13.0dL/gよりも低いと、得られる繊維が実用に耐えうる十分な強度を発現しないため好ましくない。本発明における剛直系複素環高分子の特有粘度のより好ましい範囲は13.0〜50.0dL/gであり、剛直系複素環高分子の特有粘度が50.0dL/gよりも高いとドープ粘度が著しく高くなり、重縮合工程において均一に攪拌することができず均一なドープを作製できず、また紡糸工程においても、紡糸口金から押し出すことが不可能となる、単糸切れが発生し紡糸工程が不安定化する、各単糸間での繊度ムラが顕著となる、所望の繊度まで十分にドープを引き伸ばすことができない、などの問題が発生するため好ましくない。上記の剛直系複素環高分子の特有粘度としては、13〜40dL/gであるとより好ましく15〜35dL/gであると更に好ましく、15〜30dL/gであると極めて好ましい。
【0036】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子は、必要により下記一般式(I)及び(J)
【化19】

(上記一般式(I)及び(J)において、Arは前記一般式(A)及び(B)におけるものと同じであり、XはO,S、NHのいずれかを表す)
で表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第3繰り返し単位を更に含有することができる。前記一般式(I)及び(J)において、Arとして好ましいものは、前記一般式(A)及び(B)に関して前述したものと同じであり、XとしてはO又はSが好ましい。上記の第3繰り返し単位は、第1繰り返し単位、第2繰り返し単位、及び第3繰り返し単位の総和を基準として、30モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましい。
【0037】
上記の第3繰り返し単位を剛直複素環高分子に含有せしめるには、本発明の製造方法において、上記の本発明の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩とともに、上記一般式(A)および(B)のそれぞれで表わされる芳香族ポリアミンおよびそれらの強酸塩からなる群より選ばれる1種の水溶液と、テレフタル酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種の水溶液とを混合することにより製造した芳香族ポリアミン/テレフタル酸塩を原料としてもちいて重合反応を行えば良い。なお、該芳香族ポリアミン/テレフタル酸塩はメジアン径が2.0〜100μmであるものが好ましい。
【0038】
剛直系複素環高分子を得るため本発明の製造方法は、前記の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩を原料として、ポリリン酸溶媒中で反応せしめるものである。反応温度は、50〜500℃が好ましく、70〜350℃がさらに好ましい。50℃より温度が低いと反応が進みにくく、500℃より温度が高いと分解等の副反応が起こりやすくなるためである。反応時間は温度条件にもよるが、通常は1時間から数十時間である。反応は窒素などの不活性ガス雰囲気下や加圧下または減圧下で行うことができる。ポリリン酸溶媒としてはPの含有割合が80〜84質量%であるポリリン酸が好ましい。
【0039】
上記反応に際しては、必要に応じてポリリン酸に他の溶媒を添加して用いることが出来る。好ましい溶媒としては1―メチル―2−ピロリドン、1―シクロヘキシル−2―ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン、ジクロロメタン、クロロロホルム、テトラヒドロフラン、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、リン酸等を挙げることが出来るがこれに限定されるものではない。
【0040】
本発明の製造方法における反応液(ドープ)中の剛直複素環高分子の濃度は、好ましくは5〜25質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
本発明の製造方法における反応液(ドープ)中の異物に関しては、ドープを細さ0.06〜0.12mm、長さ6cmに成形して得られたドープ成形体(1つ)を光学顕微鏡で観察して確認される黒色の異物数が500個以下であることが好ましく、300個以下であるとより好ましく、100個以下であると更に好ましい。
【0041】
本発明の製造方法において、反応装置としては任意の装置を使用することができる。ドープ各所での温度ムラや重縮合度ムラの低減や、重縮合反応速度の向上および、ドープ中の不溶成分に由来する異物低減などのために、重縮合反応装置として好ましくは二軸混練機やニーダー、多軸遊星型混練機などが用いられる。
【0042】
上記の反応により得られる剛直系複素環高分子の分解及び着色を防ぐため、反応は乾燥した不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。本発明の高分子には、必要に応じて、各種の副次的添加物を加えていろいろな改質を行うことが出来る。副次的添加物の例としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、静電剤、離型剤、可塑剤、香料、抗菌・抗カビ剤、核形成剤、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤等その他類似のものが挙げられる。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子は繊維、フィルム、及び成形体など各種用途に好適であるが、特に高強度、高弾率性繊維の製造に好適である。
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子紡糸に供するドープを作製する際の溶媒としてはポリリン酸が用いられる。本発明の製造方法における反応時の溶媒としてポリリン酸を使用した場合には反応により得られたドープをそのまま紡糸に供することができる。さらに、反応後ドープ粘度が紡糸に供するには適していない場合には粘度調整のためにポリリン酸をドープに添加し粘度調製することもできる。また、重縮合反応においてポリリン酸以外の溶媒を重縮合溶媒として使用した場合には、重縮合反応によって得られたドープを水などの生成高分子の貧溶媒に接触させ剛直系複素環高分子を再沈殿させて分離し、これをポリリン酸に再溶解させることによっても紡糸用の剛直系複素環高分子溶液(以下、紡糸用ドープと称することがある)を作製することができる。
【0044】
ポリリン酸添加によるドープ粘度調整や、生成した剛直系複素環高分子をポリリン酸へ再溶解する場合においては任意の方法を採用することができ、使用可能な装置として、例えばベント式二軸押出機やニーダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、多軸遊星型混練機などを挙げることができる。
【0045】
本発明の製造方法において、紡糸用ドープ溶媒として使用されるポリリン酸としては、特に、Pの含有割合が80〜84質量%であるポリリン酸が好ましい。溶液中における高分子の濃度は、好ましくは5〜25質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。かかる紡糸用ドープを形成する溶液はライオトロピック液晶質である。
【0046】
本発明の製造方法によって得られる剛直複素環高分子のドープを紡糸することにより引張強度1800mN/tex以上、ときには2200mN/tex以上という際立って強度が優れた繊維を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
1) 芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の水分率
芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の水分率は、熱質量測定装置(理学電気株式会社 Thermo Plus 差動型示差熱天秤 TG−DTA TG8120)を用いて、窒素気流下、150℃で20分間保持したときの質量減少率を水分とした。
【0049】
2) 芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩のメジアン径の測定
芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩の粒度分布は以下のように測定した。レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−920)中にn−プロパノールに分散させた塩の分散液をセットし、湿式バッチセルにて測定し、レーザーが粒子に当たって散乱することを利用して粒度分布を算出した。測定原理はMie散乱理論を用いて粒度分布の計算を行った。
【0050】
3) ポリマーの特有粘度(ηinh
ポリマーの特有粘度(ηinh)は、メタンスルホン酸を用いてポリマー試料濃度2.5mg/8mLで25℃において測定した相対粘度(ηrel)を基に下記式により求めた値である。
ηinh=(lnηrel)/C
(ηrelは相対粘度、Cは試料濃度を表す)
【0051】
4) ドープ中のゲル状異物数
ドープ中の異物数は、反応によって得られたドープを細さ0.06〜0.12mm、かつ、長さ6cmになるよう成形し、これを光学顕微鏡にて観察して黒色のゲル状異物数を数えることにより計測した。
【0052】
[実施例1] Nモノマー塩(2,5−ピリジンジカルボン酸/4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール塩)の合成
4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩191質量部を、窒素で脱気した水1400質量部に溶解した。2,5−ピリジンジカルボン酸150質量部を0.7mol/L水酸化ナトリウム水溶液2670質量部に溶解し窒素で脱気した。4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩水溶液を、2,5−ピリジンジカルボン酸二ナトリウム塩水溶液に約1.5時間かけて滴下し、2,5−ピリジンジカルボン酸/4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール塩の白色沈殿を形成させた。この際、反応温度は70℃に維持した。得られた塩を、濾過し、濾紙上の粉末固体を窒素で脱気した水4000質量部で洗浄し、その後真空条件下にて3時間脱水した。得られた粉末固体を真空条件下、70℃にて16〜24時間乾燥させることにより2,5−ピリジンジカルボン酸/4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール塩(メジアン径90μm)を得た。
【0053】
[実施例2] OHモノマー塩(2,5−ジヒドロキシテレフタル酸/4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール塩)の合成
4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩150質量部を、窒素で脱気した水1100質量部に溶解した。2,5−ジヒドロキシテレフタル酸139質量部を、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液2860質量部に溶解し窒素で脱気した。4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール二塩酸塩水溶液を、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸二ナトリウム塩水溶液に約1.5時間かけて滴下し、4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール/2,5−ジヒドロキシテレフタル酸塩の黄色沈殿を形成させた。この際、反応温度は70℃に維持した。得られた塩を、ろ過し、ろ紙上の粉末固体を窒素で脱気した水4000質量部で洗浄し、その後真空条件下にて3時間脱水した。得られた粉末固体を真空条件下、70℃にて12〜24時間乾燥させることにより2,5−ジヒドロキシテレフタル酸/4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジオール塩(メジアン径130μm)を得た。
【0054】
[実施例3]
実施例1で得たNモノマー塩をメジアン径6.3μmとなるまでジェットミルで粉砕したもの450質量部、実施例2で得たOHモノマー塩をメジアン径6.3μmとなるまでジェットミルで粉砕したもの248質量部、ポリリン酸1400質量部、五酸化二リン900質量部、塩化スズ二水和物4.96質量部を重合装置(二軸遊星型混練機)に仕込み、真空窒素置換を2回実施した後に、重合装置熱媒温度80℃の条件下で30分間攪拌した。その後、約90分かけて熱媒温度を150℃昇温し約1時間、熱媒温度160℃で1.5時間攪拌した。その後、ドープ温度を160℃に昇温し3時間さらにドープ温度170℃で3時間攪拌した。得られたドープは粘性液体であった。該ドープの一部を採取し、水を貧溶媒として用いて再沈殿することにより剛直複素環高分子を得た。Nモノマー塩及びOHモノマー塩の水分率、剛直複素環高分子の特有粘度、ドープ中のゲル状異物数を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
Nモノマー塩(メジアン径90μm)をジェットミルで粉砕せず、OHモノマー塩をメジアン径6.9μmとなるまでジェットミルで粉砕した以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
Nモノマー塩(メジアン径90μm)をジェットミルで粉砕せず、OHモノマー塩をメジアン径2.4μmとなるまでジェットミルで粉砕した以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
Nモノマー塩(メジアン径90μm)をジェットミルで粉砕せず、OHモノマー塩をメジアン径8.5μmとなるまでジェットミルで粉砕した以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
Nモノマー塩をメジアン径1.2μmになるまで、及びOHモノマー塩をメジアン径1.3μmとなるまでジェットミルで粉砕した以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
Nモノマー塩(メジアン径90μm)、OHモノマー塩(メジアン径130μm)のいずれもジェットミルで粉砕せずそのまま反応に用いた以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
Nモノマー塩及びOHモノマー塩のそれぞれをメジアン径1.9μmとなるまでジェットミルで粉砕した以外は実施例3と同様に操作・測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の微粉状芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩は、ゴムやプラスチックの補強材、耐熱フェルトといった産業資材、消防服や安全手袋といった防護用途などでの利用に好適な剛直複素環高分子の原料として非常に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)および(B)
【化1】

(上記一般式(A)及び(B)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わす。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリアミンと、下記一般式(C)及び(D)
【化2】

(上記一般式(C)において、nは1〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20の芳香族基である。)
【化3】

(上記一般式(D)において、Y及びYはN又はCHである。ただしY及びYの少なくとも一方はNである。)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸からなり、レーザー回折/散乱式粒度分布計で測定したメジアン径が2.0〜100μmであることを特徴とする芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
【請求項2】
熱質量測定により測定した水分率が3000質量ppm以下である請求項1記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩。
【請求項3】
芳香族ジカルボン酸が請求項1記載の一般式(C)で表されるものである請求項1又は2記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩と、芳香族ジカルボン酸が請求項1記載の一般式(D)で表されるものである請求項1又は2記載の芳香族ポリアミン/芳香族ジカルボン酸塩とをそれぞれ1種類以上、ポリリン酸溶媒中で反応せしめることを特徴とする、下記一般式(E)及び(F)
【化4】

(上記一般式(E)及び(F)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、nは1〜4の整数であり、Arは炭素数4〜20の芳香族基である。)
のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第1繰り返し単位、及び、下記一般式(G)及び(H)
【化5】

(上記一般式(G)及び(H)において、XはO、S、NHのいずれかを表し、Arは炭素数4〜20の4価の芳香族基を表わし、Y及びYはN又はCHである。ただしY及びYの少なくとも一方はNである。)
のそれぞれで表される繰り返し単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種の第2繰り返し単位からなり、メタンスルホン酸に2.5mg/8mLの濃度で溶解し、25℃において測定した特有粘度が13.0dL/g以上である剛直複素環高分子の製造方法。

【公開番号】特開2011−144138(P2011−144138A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6882(P2010−6882)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】