説明

微粒化ノズル装置

【課題】粗大な水滴を実質的に含まず、微小水滴を効率よく生成させ、雰囲気を冷却または加湿可能なノズル装置を提供する。
【解決手段】ノズル装置は、加圧液体を吐出して円錐状に液滴(ミスト)を噴霧するノズル(一流体ノズルなど)1と、分離ユニット4とを備えており、分離ユニット4は、円筒状筒体5と、噴霧孔2の近傍に配設され、粗大液滴が混在する噴霧外周域の液滴を分離する分離プレート7と、この分離プレートに形成され、噴霧内方域の微細液滴の通過を許容する開口部8と、分離プレート7の内面に取り付けられた多孔体又は吸収体9と、分離プレート7から前方に延びるフード5aとを備えている。開口部8を通過した微小液滴の揮散及び蒸発潜熱を利用して雰囲気を加湿又は冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿、冷却などに有用な微小の水滴(例えば、低流速の微小液滴)を生成するのに適した微粒化ノズルを備えたノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加湿、冷却などのために水を微粒子化して噴霧するノズルとして、2MPa以上の高圧で、微小径のオリフィスから噴霧する一流体ノズルが知られている。このノズルは、超音波による加湿、二流体(水と空気など)を用いた加湿に比較して、エネルギー消費が著しく少ないという利点がある。
【0003】
しかし、水を加圧して噴霧するため、噴霧水滴の粒径分布が広く、噴霧水滴の全体を微粒化できない。そのため、ノズルの高さなどを調整することが行われている。例えば、特開2006−177578号公報(特許文献1)には、水をミストとして噴霧して対象の空間の温度を低下する降温用噴霧システムにおいて、水をミストとして噴霧する噴霧ノズルの設置高さとミストの噴霧量を、上記噴霧ノズルから噴霧されるミストのザウター平均粒径に基づいて設定することが開示されている。この噴霧システムでは、ミストのザウター平均粒径に基づいて噴霧ノズルの設置高さおよびミストの噴霧量を設定することにより、人を濡らすことなく適切に冷却している。
【0004】
しかし、夏などの高温期にミストの蒸散による潜熱を利用して雰囲気の冷却に利用する場合、噴霧距離を長くする必要がある。一方、加湿に利用する場合、加湿のための吸収距離を長く設計するとともに、蒸発しない水滴を所定の装置で除去する必要があり、装置全体が大型化し、コンパクトな噴霧ノズル装置とすることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−177578号公報(段落[0006][0007])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、粗大な水滴を実質的に含まず、微小水滴を効率よく生成できるノズル装置を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、粗大な水滴を効率よく除去でき、噴霧水滴の粒径分布幅の狭い微小水滴を生成できるノズル装置を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、噴霧距離を調整することなく、雰囲気を有効に冷却または加湿可能なノズル装置を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、エネルギー消費が少なくコンパクトなノズル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、錘状の噴霧外周域に大きな水滴が混在し、内方域には大きな液滴が存在せずに非常に小さな液滴が占めていることに着目し、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、噴霧口の近傍で、噴霧外周域の水滴を分離すると、液滴径の大きな粗大液滴を効率よく除去でき、液滴径が非常に小さな微粒化水滴をミスト状に噴霧できることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明のノズル装置は、加圧液体を噴霧孔から吐出して錘状に液滴(ミスト)を噴霧する。特に、一流体ノズルを利用して加圧液体を噴霧孔から吐出させ、錘状に液滴(ミスト)を噴霧する。このノズル装置は、噴霧孔の近傍で、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離するための分離ユニットを備えている。そのため、外周域で粗大な液滴が混在する液滴を除去し、内方域の微小液滴の揮散を利用して雰囲気を加湿又は調湿できるとともに、微小液滴の潜熱を利用して雰囲気又は空間を冷却できる。そのため、本発明のノズル装置は、加湿(調湿)又は冷却用ノズル装置ということができる。
【0012】
前記分離ユニットは、噴霧中心(軸の)線上に中心部が位置し、かつ噴霧域の外径よりも小さな内径を有する開口部(噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域)を備えていてもよい。このような開口部を形成すると、噴霧内方域の液滴を円滑に通過させて噴霧できる。また、分離ユニットは、例えば、噴霧孔から0.5〜25cm離れた噴霧中心線上(又は軸線上)に、噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域を位置させて配設してもよい。このような形態では、噴霧液滴の合体・成長を抑制でき、微粒子化した液滴を噴霧できる。さらに、分離ユニットは、Dv99(累積粒度曲線の99%(体積換算)に対応する粒径)が50μmの液滴の通過を許容する領域を備えている。換言すれば、分離ユニットは、噴霧外周域において液滴径50μmを越える液滴の通過を規制し、噴霧内方域(前記開口部など)において液滴の通過を許容する。
【0013】
さらに、分離ユニットの内面には液滴を吸収可能な多孔体又は吸収体を取り付けてもよい。このような多孔体又は吸収体を利用すると、噴霧液滴から粗大な液滴を効率よく分離して除去できる。さらには、ボックス状密閉空間などの密閉空間内で、噴霧孔が、分離ユニットのうち噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域に向いた状態で、ノズル及び分離ユニットを配設してもよい。分離ユニットからは噴霧方向にフード(例えば、防風カバー)を延出させてもよい。このような形態では噴霧域を独立させることができ、隣接する噴霧域との合流、液滴の合体・成長を抑制できる。ノズル装置又は分離ユニットには、分離された液滴を回収するための通路を形成してもよい。この通路を利用して、分離された液滴を排出してもよく吐出ポンプ(ノズルへ液体を供給するポンプ)に案内してもよい。また、分離ユニットのうち噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域はメッシュ状に形成してもよい。例えば、前記開口部にはメッシュ状部材を装着してもよい。メッシュ状の領域を利用すると、噴霧液滴に粗大液滴が混在していても粗大液滴が混在する液滴を効率よく分離・除去でき、微粒子化した液滴を噴霧できる。
【0014】
本発明は、ノズルの噴霧孔から加圧液体を錘状に噴霧し、加湿又は冷却するための方法であって、噴霧孔の近傍に、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離するための分離ユニットを設け、微小液滴により加湿又は冷却する方法も包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、噴霧外周域に存在する粗大液滴を分離ユニットで分離できるため、粗大液滴(水滴など)を実質的に含まず、微小液滴(水滴など)を効率よく生成できる。特に、エリミネータなどの複雑な分離装置を用いることなく、粗大な水滴を効率よく除去でき、噴霧水滴の粒径分布幅の狭い微小水滴を生成できる。そのため、噴霧距離を調整することなく、有効に雰囲気又は対象物を加湿または冷却できる。しかも、一流体ノズルを利用することにより、ノズル装置のエネルギー消費を低減でき、コンパクト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明のノズル装置を示す概略断面斜視図である。
【図2】図2は本発明の他のノズル装置を示す概略斜視図である。
【図3】図3は本発明のさらに他のノズル装置を示す概略斜視図である。
【図4】図4は本発明のノズル装置のノズルの一例を示す概略断面図である。
【図5】図5は図4のV−V線概略断面図である。
【図6】図6は図4のノズル先端部の流路を示す拡大概略断面図である。
【図7】図7は実施例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、必要に応じて添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明のノズル装置を示す概略断面斜視図である。この例のノズル装置は、加圧液体(例えば、加圧水)を吐出して円錐状に液滴(例えば、水滴のミスト)を噴霧するための噴霧孔2を備えた一流体ノズル1と、このノズルを装着するための壁部3と、この壁部に装着され、かつ噴霧孔2の近傍で、噴霧流の噴霧内方域の液滴(例えば、水滴)の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴(例えば、水滴のミスト)を分離するための分離ユニット4とを備えている。
【0019】
この分離ユニット4は、円筒状の密閉空間内で、噴霧孔2が、噴霧方向に向けて臨んだ形態(噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域(通過領域)に向いた状態)で壁部3に装着されている。すなわち、分離ユニット4は、前記壁部3から噴霧孔2を中心軸として前方方向(又は噴霧方向)に延びる円筒状中空筒体5と、この筒体内に、噴霧孔2から所定間隔H(この例では、1〜3cm)を離れ、かつ噴霧孔2に対向して配設された分離プレート(分離板)7と、この分離プレートに形成された開口部(又は通気部)8とを備えている。前記分離プレート7は、噴霧孔2から円錐状に拡がる噴霧流Fの噴霧域(又は噴霧径)よりも外径d1が大きく形成されており、前記開口部8は、噴霧中心(軸の)線上に中心部が位置し、かつ噴霧域の外径よりも小さな内径d2を有している。また、前記分離プレート7の内面(噴霧孔側の側面)には、不織布などで形成され、液滴を吸収可能な多孔体又は吸収体9が取り付けられている。
【0020】
なお、分離プレート7よりも前方の円筒状筒体5は、噴霧方向に延出する円筒状フード5aを形成しており、防風カバーとして機能させることができ、安定な噴霧状態を維持する。また、円筒状筒体5のうち分離プレート7の下部には、分離プレートで分離され、かつ多孔体又は吸収体9から滴下する水滴を回収するため、吐出ポンプに通じる通路(排出口)10が形成されている。
【0021】
このような分離ユニット4において、分離プレート7の開口部(又は通気部)8は、噴霧内方域の液滴(例えば、水滴ミスト)の通過を許容する領域(通過領域)を形成し、分離プレート7のうち前記開口部8を除く部位は、噴霧外周域の液滴(例えば、水滴ミスト)の通過を規制して液滴を分離(又は除去)する。すなわち、噴霧孔からの円錐状噴霧域(又は噴霧流F)の外周域には粗大液滴が存在し、内方域には粗大液滴が殆ど存在せず微細液滴が占めている。そのため、前記外周域の粗大液滴は、分離プレート7と衝突して、内方域(又は中央域)の微細液滴と分離(又は除去)される。また、粗大液滴を実質的に又は殆ど含まない内方域(又は中央域、d2で囲われる領域)の微細液滴を開口部8から通過させて噴霧でき、微小液滴の潜熱を利用して雰囲気を加湿又は冷却できる。しかも、分離ユニット4からはフード5aが延出しているため、風などの外的要因により、噴霧気流が乱されることなく、液滴の揮散(又は蒸発)及び蒸発潜熱を利用して、噴霧域の雰囲気又は空間を加湿又は冷却できる。
【0022】
なお、ノズル装置は、単一のノズルに限らず、複数のノズルを備えていてもよい。図2は、本発明の他のノズル装置を示す概略斜視図である。この例では、複数のノズル1が所定間隔をおいて配設され、各ノズル1が、コンパートメント状に区画又は隔離され、独立して密閉空間内に配置されている。
【0023】
より詳細には、このノズル装置は、板状壁部13に複数のノズル1が所定間隔をおいて装着され、前記板状壁部13には複数の四角枠状のボックスで構成された分離ユニット14が装着されている。この分離ユニット14では、底板15a、天板(図示せず)及び両側板15bで長細い空間が形成され、この空間は複数の区画プレート16で四角枠状のボックスに区画されている。また、四角枠状のボックスのフロント部には、前記噴霧孔2から所定間隔をおいて分離プレート(分離板)17が取り付けられ、小部屋(又はコンパートメント)状の密閉空間を形成している。そして、各密閉空間において、各ノズル1の噴霧孔2はそれぞれ分離プレート(分離板)17と対向して前方方向に向いており、分離プレート(分離板)17には、噴霧孔2の噴霧中心線(又は軸線)を中心として円形の開口部18が形成されている。なお、前記区画プレートの下部には、滴下する水滴を回収するため、吐出ポンプに通じる通路(排出口)20が形成されている。
【0024】
このようなノズル装置でも、各ノズル1の噴霧孔2から円錐状の形態で噴霧流Fを噴霧でき、噴霧流Fの外周域に粗大液滴が混在する液滴を各分離プレート17で分離し、開口部18を通じて微小液滴の噴霧流を噴霧できる。しかも、各ノズル1の噴霧孔2からの噴霧流Fが、両側板15bおよび区画プレート16で区画されているため、噴霧流Fが互いに干渉することがない。そのため、複数のノズルを並列に配置しても隣接する噴霧流Fが互いに合流して粗大液滴を形成することがなく、広い範囲を均一に加湿又は冷却できる。
【0025】
前記分離ユニットは、噴霧孔の近傍で、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離できればよく、前記分離プレートのうち噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域(又は通過領域)は必ずしも全体に亘り開口している必要はない。図3は本発明のさらに他のノズル装置を示す概略斜視図である。
【0026】
この例では、分離プレート27の上記通過領域が、メッシュ部材(又はメッシュ状通気部材)28で形成されている点を除いて、ノズル装置は図1又は図2と同様の構造を有している。なお、壁部23に装着されたノズル1の噴霧孔2からは、底板25a、天板(図示せず)及び両側板25b,25bで囲まれた状態で、円錐状の噴霧流Fが分離プレート27に向かって噴霧される。符号30は通路(排出口)を示す。
【0027】
このようなメッシュ部材28で前記通過領域を形成すると、仮に粗大液滴が混在していても、メッシュ部材28との接触で粗大液滴(又は粗大液滴が混在した液滴)を除去できる。さらに、粗大液滴が混在していなくても、噴霧流Fの内方域の液滴のうち比較的大きな液滴を除去し、より小さな液滴を噴霧できる。
【0028】
なお、メッシュ部材の開口径(メッシュ径)は、噴霧内方域の液滴が通過可能であればよく、例えば、0.1〜10mm程度の範囲から選択でき、通常、0.3〜2mm、好ましくは0.5〜1.5mm程度であってもよい。
【0029】
なお、ノズルは、加圧液体を噴霧孔から吐出して錘状に液滴を噴霧可能であればよく、ノズルの構造は特に制限されず、一流体ノズル又は二流体ノズルのいずれであってもよいが、本発明は噴霧外周域に比較的粗大な液滴が分布する傾向が強い一流体ノズルに適用するのが好ましい。また、一流体ノズルの構造は特に制限されない。なお、ノズルは、通常、微小液滴を小さな流速で噴霧する場合が多い。図4は本発明のノズル装置のノズルの一例を示す概略断面図であり、図5は図4のV−V線概略断面図であり、図6は図4のノズル先端部の流路を示す拡大概略断面図である。
【0030】
このノズルは、壁部に対する装着部(図示する例では、上流側外周部のネジ部)31aを有するノズル本体31と、このノズル本体の中心軸線に沿って形成された流路と、この流路内に配設された逆止弁と、この逆止弁の下流に形成され、旋回流を生成させるための旋回流生成手段(旋回流生成要素)と、この旋回流生成手段の下流に形成され、旋回流を噴霧するための噴霧孔とを備えている。
【0031】
前記ノズル本体31の流路は、ノズル本体31の上流に形成された流入流路(この例では、円筒状流路)32(32a,32b)と、この流入流路の下流端に形成された円錐状傾斜壁(この例では、上流方向に向かって流路径が狭まる傾斜壁、又は円錐状流路壁)33と、この傾斜壁に接触可能な円錐状接触部材(この例では、上流方向に向かって径が狭まる傾斜壁を有する接触部材)34と、この接触部材の下流に形成された収容流路35と、この収容流路内に配設され、かつ前記接触部材34を上流方向に付勢するためバネ部材36と、このバネ部材を収容流路35の下流端で係止するための係止部材37と、この係止部材の下流に形成され、下流方向に向かって流路径が狭まる傾斜流路(又は円錐状流路)38と、この傾斜流路の壁面に形成され、上流からの流体を旋回させるために旋回溝39と、この旋回溝の下流端に連なるリング状溝40と、このリング状溝に連なり、ノズル本体31の下流端に形成された噴霧孔(オリフィス)41とを備えている。なお、流入流路は上流側から下流側に向かって段階的又は連続的に流路径が狭まっていてもよい。この例では、流入流路32は、上流側の経大な第1の流入流路32aと、この第1の流入流路の下流端に形成され、第1の流入流路32aよりも流路径が小さな第2の流入流路32bとで構成されている。また、この例では、バネ部材(付勢部材)36は接触部材34と一体化し、収容流路35内で軸方向に往復動可能なキャップ状ケーシング34a内に収容されている。さらに、この例では、2つの旋回溝39が、それぞれ、ノズル本体31の軸芯から離れて軸方向に沿って形成されている。
【0032】
なお、一流体ノズルとしては、加湿又は冷却用に利用される種々のノズル、例えば、前記特許文献1に記載の噴霧ノズルなどであってもよい。例えば、噴霧ノズルは、略円筒状のノズル本体と、このノズル本体の中心軸に沿って、流入流路、この流入流路よりも流路径が狭まり、かつ下流端に玉受け部を有する径小流路、この径小流路の下流側に径小流路よりも径大に形成され、逆止弁を収容するための収容流路、前記逆止弁のバネ部材により前記玉受け部に付勢されたボールと、前記収容流路の下流端に形成され、逆止弁を係止可能な径小な流路を有する突起部(又はリブ)と、この突起部の下流に形成された筒状流路と、この筒状流路内で軸方向に往復動可能な往復動部材(又は駒)と、この往復動部材の外周面に形成され、旋回流を生成するための螺旋状又は湾曲状溝と、前記筒状流路の下流側に流路径が狭まって形成された円錐状流路と、この円錐状流路の先端に連なる噴霧孔(オリフィス)とを備えていてもよい。
【0033】
ノズルにおいて、付勢部材は必ずしも必要ではないが、液体の圧力に応じて噴霧するためには付勢部材を備えた逆止弁を備えているのが好ましい。また、旋回流を与えるための流路(旋回溝など)は必ずしも必要ではなく、旋回流を付与するための溝の形態は、特に制限されず、ノズル本体の軸方向に対して平行に又は交差して形成してもよく、湾曲又は螺旋状に形成してもよい。
【0034】
ノズルのオリフィス径(ノズルの最小径)は、例えば、0.05〜1mm(例えば、0.06〜0.8mm)、好ましくは0.07〜0.5mm(例えば、0.08〜0.4mm)、さらに好ましくは0.08〜0.35mm(例えば、0.1〜0.3mm)特に0.12〜0.25mm)程度であってもよい。
【0035】
圧力は、例えば、2〜25MPa(例えば、3〜20MPa)、好ましくは3〜15MPa、さらに好ましくは4〜10MPa(例えば、5〜10MPa)程度であってもよい。
【0036】
さらに液体の流量は、10〜300ml/分(例えば、20〜250ml/分)、好ましくは30〜200ml/分(例えば、40〜150ml/分)、さらに好ましくは40〜100ml/分程度であってもよい。
【0037】
噴霧孔からの噴霧流(錘状の噴霧流)の形状も特に制限されず、円錐状、楕円錘状、多角錘状(四角錘形、六角錘状など)であってもよい。噴霧孔からの噴霧流の形状は、通常、円錐状、四角錐状などである場合が多い。
【0038】
一般的に一流体ノズルや二流体ノズルで錘状に噴霧した場合、噴霧の外周部に比較的大きな液滴が分布する傾向がある。特に、一流体ノズルはその傾向が強い。このような点に着目して、本発明では噴霧外周部又は外周域の液滴を分離・除去する。分離ユニットは、噴霧孔から所定距離だけ離れた部位で、噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域(通過領域)を位置させて、噴霧外周域の液滴(粗大液滴を含む液滴)を分離・除去すればよく、通常、噴霧孔と分離部(噴霧外周域の液滴(粗大液滴を含む液滴)を分離する部位)との距離Hは、例えば、0.5〜25cm(例えば、0.8〜20cm)、好ましくは1〜15cm(例えば、1.2〜12cm)、さらに好ましくは1.5〜10cm(例えば、1.5〜5cm)程度であってもよい。なお、後述する実施例から明らかなように、噴霧流の外周域には粗大液滴が混在し、内方域(又は中心域)には粗大液滴が存在せず、径が非常に小さな液滴だけが存在する。また、噴霧流の液滴径は、噴霧孔から離れるにつれて、液滴の合体・成長(噴霧流の外周域の液滴と内方域の微細液滴との混合に伴う合体・成長など)が生じるためか、粗大液滴が生成し、この粗大液滴は、エリミネータなどの複雑な装置を用いなければ除去できない。これに対して、噴霧孔の近傍で、噴霧流の外周域の粗大液滴を分離すると、噴霧孔から遠ざかっても、微細な液滴の噴霧流を維持できる。
【0039】
分離ユニットの通過領域(開口部など)を通過する液滴のDv99は、50μm以下、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に20μm以下程度であってもよい。また、通過領域(開口部など)を通過した噴霧流は、Dv99=50μmを越える粗大液滴を実質的に含まないのが好ましい。
【0040】
前記噴霧液の粒子径(又は液滴径)は、慣用の方法、例えば、レーザー光線を利用する方法、ストロボを利用する方法、顕微鏡写真を利用する方法などにより測定することができる。なお、液体の粒子径は多分散性であるため、通常、平均粒子径で表す場合が多い。平均粒子径には、算術平均粒子径、ザウター平均粒子径などが知られている。本発明では、スプレー中心において、噴霧液のザウター平均粒子径(D32)は、1〜35μm(例えば、2〜30μm)、好ましくは2〜25μm(例えば、3〜20μm)、さらに好ましくは4〜15μm(例えば、5〜12μm)、特に、4〜10μm(例えば、5〜8μm)程度である。なお、前記ザウター平均粒子径(D32)は、試料中の液滴の体積の総和と表面積の総和との比であり、下記式で算出される。
【0041】
ザウター平均粒子径(D32)=Σdini/Σdini
(式中、diは成分iの粒子径、niは粒子径diの成分iの粒子数を示す。)。
【0042】
噴霧流の平均流速は、例えば、0.1〜20m/s程度の範囲から選択でき、通常、0.5〜15m/s(例えば、1〜12m/s)、好ましくは1.2〜10m/s(例えば、1.5〜8m/s)程度であってもよい。
【0043】
分離ユニットにおいて、噴霧外周域の液滴を分離・除去する部位(前記分離プレート)は、噴霧域の外径よりも小さな内径を有する前記通過領域(噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域(通過領域)、メッシュ状などであってもよい開口部)を有しており、この通過領域(例えば、開口部)は、噴霧中心(軸の)線上から中心部がずれていてもよいが、噴霧外周域の粗大液滴を効率よく除去するため、通常、噴霧中心(軸の)線上に中心部が位置している。なお、吐出口からの噴霧流の断面形状に対して通過領域(例えば、開口部)の形状は異なっていてもよいが、噴霧流の断面形状に対応させて通過領域(例えば、開口部)の形状を形成するのが好ましい(例えば、円錐状噴霧に対しては円形の開口部、四角錘状の噴霧に対しては四角形の開口部など)。特に、通過領域(例えば、開口部)の中心部を、噴霧中心(軸の)線上に位置させると、噴霧外周域の液滴を全体に亘り均等に分離できる。
【0044】
噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域又は通過領域(例えば、メッシュ状などであってもよい開口部)の径d2は、噴霧流の噴霧径(前記通過領域での外径)d1の10〜95%程度との範囲から選択でき、通常、20〜90%(例えば、25〜85%)、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは35〜70%程度であってもよい。なお、噴霧流の断面形状が楕円形や多角形などの異方形状である場合には、前記通過領域の径d2及び噴霧流の噴霧径d1は、中心からの長軸と短軸との平均値、中心から各辺への距離の加算平均値を意味する。
【0045】
分離ユニットにおいて、中空円筒状の筒体などの筒体は必ずしも必要ではなく、筒体などで噴霧流を包囲することなく、ノズルの噴霧孔に対して所定間隔をおいて分離プレートを配置してもよい。このように、噴霧孔からは噴霧流を直接的に開放系に噴霧してもよいが、粗大液滴の除去効率を高めるため、噴霧孔からの噴霧流を覆う空間内(例えば、前記筒状空間内)で粗大液滴を除去するのが好ましい。すなわち、密閉空間内で、噴霧孔が、分離ユニットの通過領域(例えば、開口部)に向いた状態(又は対向した状態)で、ノズル及び分離ユニットを配設するのが好ましく、通過領域(例えば、開口部)を除き、噴霧流は筒体又は枠体で覆われ又は囲われ、密閉又は閉鎖空間(ボックス状空間)を形成している。換言すれば、ノズルの噴霧孔からの錘状の噴霧流から粗大液滴を有効に除去・分離するためには、ノズルの噴霧孔から分離部位(分離プレートの配設部位)に至る空間を中空筒体で覆い、噴霧内方域の液滴の通過を許容する流域(開口部など)を除いて密閉状の空間(密閉した形態の空間)を形成するのが好ましい。中空筒体の断面形状は、前記円形状に限らず、楕円形状、多角形状(三角形、四角形、五角形、六角形状など)であってもよい。中空筒体の断面形状は、通常、円形状、楕円形状、四角形状などである場合が多い。
【0046】
このように、分離ユニットは、噴霧孔に対して所定間隔をおいて対向する分離プレートで構成してもよいが、通常、噴霧孔が露出した形態で、噴霧孔を覆って(又は取り囲んで)噴霧方向に延びる中空筒体と、この筒体内に配設され、かつ噴霧孔に対して所定間隔をおいて対向する分離プレートとを備えている。
【0047】
複数のノズルを備えたノズル装置において、各ノズルは、縦方向、横方向に所定間隔をおいて配設してもよく、縦横方向に所定間隔をおいて配設してもよい。さらに、中空筒体(又はボックス)内でそれぞれ独立させて各ノズルの噴霧孔からの噴霧流を生成させてもよい。
【0048】
分離ユニットから噴霧方向(前方方向)に延びるフード(防風カバー)は必ずしも必要ではないが、フードを形成することにより、流れを乱すことなく噴霧流を噴霧できる。
【0049】
さらに、加湿や冷却に利用されるノズル装置では、液体の流量が小さく、分離ユニットが過度に濡れることが少ないため、分離ユニット(分離プレートなど)の内面(噴霧孔に対して対向する内面)に取り付けた多孔体又は吸収体は必ずしも必要ではないが、必要により、分離ユニットの内面には液滴を吸収可能な多孔体又は吸収体を取り付けてもよい。多孔体や吸収体は、不織布に限らず、織布、スポンジなどであってもよい。さらに、分離ユニットは、前記分離プレートに代えて開口部が形成されたシート又はボード状の多孔体や吸収体で形成してもよい。
【0050】
さらには、分離ユニットで分離された液滴を回収するための通路(案内流路)も必ずしも必要ではないが、通路(案内流路)を形成することにより、分離ユニットが過度に濡れても、液滴が滴下するのを抑制できる。この通路(案内流路)は排出ドレインに通じていてもよく、ノズル装置の吐出ポンプに通じていてもよい。
【0051】
噴霧孔からは種々の方向に噴霧流を噴霧でき、上方向、斜め上方向、横方向、斜め下方向、下方向などに噴霧流を噴霧してもよく、これらの噴霧流を組み合わせて(例えば、下方向及び横方向の双方の方向などに)噴霧してもよい。
【0052】
なお、液体の種類は用途に応じて選択でき、有機溶媒であってもよいが、ミストの揮散を利用した加湿(又は調湿)、液体の蒸発潜熱を利用した雰囲気又は空間の冷却には、通常、水が使用される。
【0053】
前記のように、本発明では、ノズルの噴霧孔から加圧液体を錘状に噴霧し、噴霧孔の近傍に、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離するための分離ユニットを設け、分離ユニットの液滴通過領域を通過した微小液滴を利用して、雰囲気又は空間を有効に加湿又は冷却できる。そのため、本発明は、微小又は微細液滴の揮散(又は蒸発)、蒸発潜熱を利用して、雰囲気又は空間を加湿又は冷却する方法として有用である。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、液滴径(粒子径)及び流速は次のようにして測定した。
【0055】
液滴(又は噴霧液)の粒子径及び流速は、位相ドップラー式レーザー粒子分析計又は粒子径測定装置(TSI社製、PDPA装置「FSA4000/4W水冷Arレーザー」)を利用し、噴霧液に2本のレーザーを照射して測定した。なお、前記2本のレーザーの交差点を測定点とした。
【0056】
スプレー中心において吐出孔から120mmの位置で液滴の粒子径及び流速を測定した(測定粒子数:10000個)。また、得られた粒子径データ(粒度分布)からザウター平均法により、ザウター平均粒子径を算出した。
【0057】
実施例1
オリフィス径0.2mmのノズルを用い、水の流量50ml/分、水圧(噴霧圧)6MPa及び噴霧角度80°で水を加圧して噴霧孔から下方向に円錐状に噴霧し、ノズルの噴霧孔からの距離(噴霧距離又は噴霧高さ)H及び噴霧中心からの距離Lと粒子径との関係を、位相ドップラー式レーザー粒子分析計(PDPA)を用いて調べた。なお、噴霧距離Hが100mmでの円錐状の噴霧流の外径は約120mmφであった。ザウター平均液滴径(D32)とDv99とを測定した。結果を表1及び図7に示す。図7では表1の条件E,F,G,Hのデータとともに、条件I(噴霧距離H=1200mm、噴霧中心からの距離L=0cm)での粒子径(μm)とカウント数との関係を示している。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、噴霧距離Hが300mm以上では、液滴径が大きな水滴が混在し、噴霧中心からの距離Lが20mm以上であると、液滴径が大きな水滴が混在し、冷却感ではなく濡れた感触を与える。
【0060】
実施例2
オリフィス径0.2mmのノズルを用い、水の流量50ml/分、水圧(噴霧圧)6MPa及び噴霧角度80°で水を加圧して噴霧孔から下方向に円錐状に噴霧し、ノズルの噴霧孔からの距離(噴霧距離又は噴霧高さ)H及び噴霧中心からの距離Lを変えて、位相ドップラー式レーザー粒子分析計(PDPA)を用いて、液滴径の分布、Dv99及び平均流速を測定した。なお、上記特性は、分離板を備えた分離ユニットの有無により測定した。分離ユニットは、各辺50mmの四角枠状ボックスで構成され、ノズルの噴霧孔から20mmの前方には、ノズルの噴霧中心線上に内径10mmφの開口部が形成された分離板を備えている。また、分離板の位置での円錐状の噴霧流の外径は約30mmφであった。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、分離ユニット(分離板)を配設することにより、噴霧距離Hが大きくなっても液滴径が大きくなるのを抑制できる。そのため、雰囲気の加湿及び冷却に有用である。特に、暑い夏場では爽やかな冷気を効率よく生成できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、簡単でコンパクトな構造であるにも拘わらず、粗大液滴を除去して微細液滴の噴霧流を噴霧できる。そのため、微細液滴の揮散又は蒸発を利用して雰囲気又は空間を効率よく冷却できるとともに、微細液滴の蒸発潜熱を利用して雰囲気又は空間を効率よく冷却(又は降温)できる。そのため、乾燥時(冬場など)及び高温時(夏場など)に、噴霧域の空間を冷却(降温)又は加湿するための加湿又は冷却用ノズル装置(又は加湿又は冷却方法)として有用である。
【符号の説明】
【0064】
1…ノズル
2…噴霧孔
4,14…分離ユニット
5…筒体
7,17…分離プレート
8,18…開口部
9…多孔体又は吸収体
10,20…通路
28…メッシュ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧液体を噴霧孔から吐出して錘状に液滴を噴霧するためのノズルを備えた装置であって、噴霧孔の近傍で、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離するための分離ユニットを備えているノズル装置。
【請求項2】
ノズルが一流体ノズルである請求項1記載のノズル装置。
【請求項3】
分離ユニットが、噴霧中心(軸の)線上に中心部が位置し、かつ噴霧域の外径よりも小さな内径を有する開口部を備えている請求項1又は2記載のノズル装置。
【請求項4】
噴霧孔から0.5〜25cm離れた噴霧中心線上に、噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域を位置させて、分離ユニットが配設されている請求項1〜3のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項5】
分離ユニットが、累積粒度曲線の99%に対応する粒径Dv99が50μm以下の液滴の通過を許容する請求項1〜4のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項6】
分離ユニットの内面に液滴を吸収可能な多孔体又は吸収体が取り付けられている請求項1〜5のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項7】
密閉空間内で、噴霧孔が、分離ユニットのうち噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域に向いた状態で、ノズル及び分離ユニットが配設されている請求項1〜6のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項8】
分離された液滴を回収するための通路が形成されている請求項1〜7のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項9】
分離ユニットから噴霧方向にフードが延出している請求項1〜8のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項10】
分離ユニットのうち噴霧内方域の液滴の通過を許容する領域がメッシュ状に形成されている請求項1〜9のいずれかに記載のノズル装置。
【請求項11】
ノズルの噴霧孔から加圧液体を錘状に噴霧し、加湿又は冷却するための方法であって、噴霧孔の近傍に、噴霧内方域の液滴の通過を許容し、かつ噴霧外周域の液滴を分離するための分離ユニットを設け、微小液滴により加湿又は冷却する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−161309(P2011−161309A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23371(P2010−23371)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000142023)株式会社共立合金製作所 (24)
【Fターム(参考)】