説明

微粒子の濃縮・分級のための流路構造および方法

【課題】大きな粒子を回収する際にも小さな粒子が含まれることなく回収することができる、微粒子の濃縮・分級機構およびその装置を提供する。
【解決手段】流路11の側面における1つ以上の分岐点17と、分岐点において前記流路に接続され、長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路12を1つ以上有する流路構造を用い、前記流路に、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入し、前記分岐点において、一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにし、一定の大きさ以下の粒子は前記流路の下流へと導入されないようにすることにより、導入した全ての一定の大きさ以下の粒子を含む流体、もしくは一定の大きさ以上の粒子を全く含まない流体を前記分岐流路から回収し、一定の大きさ以上の粒子の濃度が高くなった流体を前記流路の下流から回収する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の濃縮・分級方法に関し、さらに詳細には、動植物細胞、オルガネラ、微生物、エアロゾル、セラミック粒子、ポリマー粒子、エマルション、無機粒子、金属ナノ粒子などの粒子を濃縮し、分級する際に用いて好適な微粒子の濃縮・分級方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、動植物細胞、オルガネラ、微生物などの粒子を濃縮・分級する方法は、基礎研究のみならず、血液からの造血幹細胞の分離・濃縮といった医学分野や、環境中に存在する菌の分離などの分野において重要である。
【0003】
また、エアロゾル、セラミック粒子、ポリマー粒子、エマルション、無機粒子、金属ナノ粒子などの粒子を濃縮・分級する方法は、化学工学、粉体工業、電子産業、精密機械工業などの分野において重要である。
【0004】
従来の微粒子を分級する技術としては、例えばフローサイトメトリーを利用した分離方法があり、他にも一般的に、遠心分離法、沈降分離法、静電気を用いた分離方法、フィルトレーション、フィールドフローフラクショネーションなどが知られている。
【0005】
しかし、フローサイトメトリーでは対象となる粒子を蛍光でラベルする必要があり、また、大量処理が困難であり、複雑な装置が必要となるといった問題点があった。
【0006】
また、遠心分離法、沈降分離法、静電気を用いた分離方法では、一度に大量の粒子を処理することが可能である反面、分級精度が低い、粒径が極めて小さいものを分離することが困難である、などといった問題点があった。
【0007】
また、フィルトレーション、フィールドフローフラクショネーションでは、分級精度は高いが、分離する際に時間が多くかかってしまう、一度に大量処理ができない、連続的な操作ができない、といった問題点があった。
【0008】
また近年、微細加工技術を用いて作製した流路構造を持つ、マイクロ流路デバイスでの微粒子の分級・濃縮方法が提案されており、この方法では重力、遠心力、電場、磁場などの外部からの力を用いることなく、粒子を含んだ流体をある特定の流路構造に導入するだけで、粒子を大きさによって分離することが可能である。
【特許文献1】 特願2005−232590
【0009】
しかしながら、これらの方法では粒子を含む流体のみを導入するということで、導入した全ての粒子を回収することができず、また、小さな粒子のみを回収することは可能であるが、大きな粒子を回収する際には小さな粒子が含まれてしまうという問題点がある。
【発明の開示】

【発明が解決する課題】
【0010】
本発明は、従来の技術の有する上記のような問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、動植物細胞、オルガネラ、微生物、エアロゾル、セラミック粒子、ポリマー粒子、エマルション、無機粒子、金属ナノ粒子などを分離する際、粒子を認識することなく、迅速かつ大量に分離することができ、導入した全ての粒子を回収することができ、大きな粒子を回収する際にも小さな粒子が含まれることなく回収することができる、微粒子の濃縮・分級機構およびその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、途中に少なくとも1つの分岐流路を持つ流路に、粒子を含む流体と粒子を含まない流体を連続的に導入した際、流路の下流または分岐流路の下流へと導入される流量は、それぞれの流路の幅、長さ、深さ、径などにより決定され、さらに粒子の挙動は流路の大きさと流体の分配比によって支配されるということに着目してなされたものである。
【0012】
本発明のうち請求項1に記載の発明は、所定の方向に延長される流路Aと、流路Aの側面における1つ以上の分岐点と、前記分岐点において前記流路Aに接続され、長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路を1つ以上有する流路構造を用い、前記流路Aの一端から、流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入することにより、前記分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにすることができ、ある一定の大きさ以下の粒子は前記流路Aの下流へと導入されないようにすることができるため、導入した全てのある一定の大きさ以下の粒子を含む流体、もしくはある一定の大きさ以上の粒子を全く含まない流体を前記分岐流路から回収することができ、ある大きさ以上の粒子の濃度が高くなった流体を前記流路Aの下流から回収することができる、というものである。
【0013】
従って、本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、粒子を含む流体と含まない流体を流路構造内に連続的に導入させることにより、ある一定以上の大きさの粒子の濃度が、導入前の流体中の粒子濃度と比較して高くなった流体と、ある一定以上の大きさの粒子をまったく含まない流体を別々に回収することが可能となる。
【0014】
さらに、分岐流路のスケールおよび本数を適当に設定することにより、導入した粒子を含む流体の中に含まれる粒子を全て分離・回収することが可能となる。
【0015】
本発明のうち請求項2に記載の発明は、所定の方向に延長される流路Aと、流路Aの側面における複数の分岐点と、前記複数の分岐点それぞれにおいて前記流路Aに接続され、長さ、幅、深さ、径がどのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路を1つ以上有する流路構造を用い、前記流路Aの一端から、流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入することにより、前記複数の分岐点のうちの少なくとも1つの分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにすることができ、ある一定の大きさ以下の粒子は前記流路Aの下流へと導入されないようにすることができ、また前記複数の分岐点のうちの少なくとも1つの分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子が前記分岐点において前記分岐流路に導入されるようにすることができるため、導入した全てのある一定の大きさ以上の粒子は前記流路Aの壁側近傍に濃縮され、さらに、前記複数の分岐流路のいくつかから濃縮された粒子を回収することができる、というものである。
【0016】
従って、本発明のうち請求項2に記載の発明によれば、ある一定の大きさより小さい粒子を分岐流路に導入する一方で、ある一定の大きさ以上の粒子を分岐流路に導入せずに流路Aの壁面近傍に濃縮することができるため、さらに、下流の分岐流路において、ある一定の大きさ以上の粒子が濃縮された流体を回収することが可能であり、また、導入前に含まれていた全ての粒子を回収する、あるいは取り除くことも可能である。
【0017】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路Aの途中に存在する前記分岐流路は、前記流路Aの片側断面のみに存在する、というものである。
【0018】
従って、本発明のうち請求項3に記載の発明によれば、流路Aの片側の側面のみに分岐点を設けることで、導入した粒子を含む流体と粒子を含まない流体のうち、導入時点で粒子を含んでいた流体の部分を効率的に取り除くことが可能となり、粒子の回収効率を容易に高めることができ、さらに操作も容易になる。
【0019】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、請求項1、請求項2または請求項3のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように流体を導入する方法として、入り口を複数個設け、少なくとも1つの入り口から粒子を含む流体を、少なくとも1つの入り口から粒子を含まない流体を導入する、というものである。
【0020】
従って、本発明のうち請求項4に記載の発明によれば、流路Aの入り口を複数個作製し、それぞれ適当な入り口から粒子を含む流体、あるいは粒子を含まない流体を導入させることにより、簡便に粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を流路Aに導入することが可能である。
【0021】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を導入する方法として、前記流路Aに、入口と前記分岐流路との間において一度前記流路Aから分岐し、かつ前記分岐流路よりも上流において再び前記流路Aに接続される分岐流路(迂回流路とする)を1つ以上設け、粒子を含む流体を入り口から導入させることにより、ある一定の大きさ以上の粒子を含まない流体、あるいは粒子を全く含まない流体を迂回流路に導入し、前記分岐流路よりも上流で再び前記流路Aに導入する、というものである。
【0022】
従って、本発明のうち請求項5に記載の発明によれば、流路Aの入り口と分岐流路の間に、ある一定以上の大きさの粒子が導入されない迂回流路を設け、その迂回流路を前記分岐点よりも上流で再び流路Aに合流させることにより、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を流路Aに導入することが可能となるため、複数の入り口を作製し、粒子を含まない溶液を別に用意して導入しなくてもよい。
【0023】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を導入する方法として、前記流路構造に遠心力、電場あるいは磁場を加える、というものである。
【0024】
従って、本発明のうち請求項6に記載の発明によれば、分岐流路が流路Aの断面において片側のみに存在する流路構造の場合、流路Aに遠心力、電場や磁場などを加えることにより、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を流路Aに導入することが可能であるため、複数の入り口を作製し、粒子を含まない溶液を別に用意して導入しなくてもよい。
【0025】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路の幅、深さ、径のいずれかのスケールが、少なくとも部分的に1センチメートル以下のオーダーであり、前記流路内における流体の流れは少なくとも部分的に安定した層流になる、というものである。
【0026】
従って、本発明のうち請求項7に記載の発明によれば、流路内の流れは安定した層流であるので、粒子の動きが乱れることがないため、正確な粒子の分離・濃縮が可能となる。
【0027】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、流体とは液体である、というものである。
【0028】
従って、本発明のうち請求項8に記載の発明によれば、液体中に懸濁した粒子を分離・濃縮することが可能となる。
【0029】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、流体とは気体である、というものである。
【0030】
従って、本発明のうち請求項9に記載の発明によれば、気体中に分散した粒子を分離・濃縮することが可能となる。
【0031】
また、本発明のうち請求項10に記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8または請求項9のいずれかの1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、粒子とは細胞である、というものである。
【0032】
従って、本発明のうち請求項10に記載の発明によれば、例えば、血液細胞を分離・濃縮することや、環境水中や大気中などに含まれる微生物を分離・濃縮することが可能となり、非常に有用である。
【0033】
また、本発明のうち請求項11に記載の発明は、請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10のいずれかの1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、前記流路とはマイクロチップに形成されたマイクロチャネルである、ということである。
【0034】
従って、本発明のうち請求項11に記載の発明によれば、流路の形状を正確にコントロールすることができ、また、流路の直列化、並列化が容易になるため、分離性能の向上や処理量の向上が期待できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、以上に述べられたような特徴を有するため、粒子を含む流体と粒子を含まない流体を、ある形状をもつ流路に導入するだけで、導入した全ての粒子を大きさにより分離・濃縮し回収することが可能となり、更に大きな粒子を回収する際にも小さな粒子が含まれないようにすることができる、という優れた効果を発揮する。
【0036】
また、本発明は以上に述べられたような特徴をするため、フローサイトメトリーや遠心分離法、沈降分離法、静電気を用いた分離法などの従来の粒子の分離または濃縮技術と比較して、複雑な装置や外力を必要とせず、短時間で大きさによる粒子の分離・濃縮が可能となる、という優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付の書類に基づいて、本発明による微粒子を濃縮・分離する流路構造およびその方法の形態を詳細に説明する。
【0038】
図1(a)(b)には、本発明による微粒子の分離・濃縮のための流路構造およびその方法の原理が示されており、図1(a)(b)は最も基本的な粒子の分離・濃縮の一例である。
【0039】
図1(a)において、ある所定の方向に延長される流路11は途中に分岐流路12を有しており、矢印13は流路11に導入される流体の流れの方向を表しており、矢印14,15はそれぞれ分岐流路12に導入される流体の流れの方向と、流路11の下流に導入される流体の流れの方向を示している。また、点線16は、分岐流路12に導入される流体の部分と流路11の下流に導入される流体の部分の境界を表している。なお、請求項における流路Aとは流路11のことであり、流路Aにおける分岐点は、分岐点17である。
【0040】
流路11に大きな粒子と小さな粒子を懸濁させた流体を連続的に導入する。分岐流路12へ導入される流量がある値より小さければ、流路11の壁近傍を流れる小さな粒子のみが分岐流路12へ導入され、大きな粒子はその径が分岐流路12の流路幅より小さくても分岐流路12へは導入されず、流路11の下流に導入される。つまり、分岐流路12からはある大きさ以上の粒子を含まない流体を回収することができる。
【0041】
また、図1(b)のように流路11に分岐流路を複数設け、粒子を含まない流体(流体18)と粒子を懸濁させた流体(流体19)を流路11に導入し、各々の流路に導入する流量を調節することにより、多段階での分離・濃縮が可能となる。ここで、流体18と流体19の境界を点線23で表す。
【0042】
なお、この場合は流路11の下側に分岐流路を設けたが、当然上側、あるいは紙面に対して表裏のどちらか片側あるいは両側などに設けてもよい。
【0043】
また、流路11と分岐流路の構造を適当にデザインすることによって、流体19の流体の部分およびある一定の大きさよりも小さな粒子を分岐流路群20から全て取り除けるようにすることができ、そのようにすることによって分岐流路群20よりも下流の流路11ではある一定の大きさ以上の粒子が壁側に一列に並び、分岐流路21−aからは粒子22−aを、分岐流路21−bからは粒子22−bを、分岐流路21−cからは粒子22−cを、それぞれ全て導入前よりも濃縮した状態で回収することができる。ここで、粒子22−a、22−b、22−cはそれぞれ大きさが異なっており、22−aが一番小さく、22−cが一番大きい粒子である。
【0044】
なお、各分岐流路に導入される流体の流量の調節は、流路下流においてバルブを取り付ける、流路下流の温度を調節することにより流体の粘度を変化させる、などの方法が考えられるが、流路の抵抗を考慮した流路構造をあらかじめデザインしておくことが簡単な方法である。
【0045】
なお、図1(b)の流路構造では、濃縮した後に粒子を3回に分けて選抜する原理が示されているが、選抜するための流路(流路21−a,21−b,21−cに相当)は0本でも、1本でも、2本でも、4本以上でもよい。
【実施例】
【0046】
以下、添付の書類に基づいて、本発明による微粒子を濃縮・分離する流路構造およびその方法の実施例を詳細に説明する。
【0047】
図2(a)(b)(c)には、本発明による微粒子を濃縮・分離する流路構造およびその方法の実施形態を備えたマイクロチップ24が示されており、図2(a)は図2(b)と(c)におけるA矢視図であり、図2(b)は図2(a)におけるB−B線による断面図であり、図2(c)は図2(a)におけるC−C線による断面図である。また、図3(a)は図2(a)における流路全体の拡大図であり、図3(b)は図3(a)の一部48−aの拡大図であり、図3(c)は図3(a)の一部48−bの拡大図である。
【0048】
このマイクロチップ24は、粒子を含む流体と粒子を含まない流体を連続的に導入した際、直径約7μm以上の粒子を含まない流体と直径7μm以上の粒子を含む流体とを別々に回収すると同時に、直径が約20〜18μm,18〜15μm,15〜14μm,14〜12μm,12〜11μm,11〜10μm,10〜8μm,8〜7μmの粒子を選択的に分離・濃縮することができるマイクロチップであり、高分子材料、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)により形成された2枚の平板状の基板25、基板26により形成されている。
【0049】
なお、マイクロ流体デバイスの材料としてはPDMSの他にも、アクリル等の各種ポリマー材料、ガラス、シリコン、ステンレス、セラミックス、各種金属などを用いることができる。
【0050】
基板25の下面25−aには、流路構造が形成されており、例えばその深さは25μm程度であるが、この値は例えば0.1μmから1cmまで任意の値に設定することが可能である。
【0051】
入口27は粒子を含む流体の、入口28は粒子を含まない流体の入口であり、出口29〜37は流体の出口である。
【0052】
また、流路38は入口27、28と出口29を結ぶ流路であり、途中、3つの幅が異なる部分38−a、38−b、38−cから成り立ち、その一部である38−bには分岐流路群39および分岐流路40〜47が存在する。なお、流路38は請求項における流路Aに相当する流路である。
【0053】
なお、流路38の全体の長さは、例えば約7mmであり、部分38−a、38−b、38−cの幅は例えばそれぞれ100μm、40μm、100μmであるが、これらの値は必要に応じて1μm以上の任意の値に調節することができる。
【0054】
また、出口30〜37はそれぞれ流路38−bから分岐流路40〜47を介して接続されている。さらに、それぞれの分岐流路(例えば40)は、細い部分(例えば40−a)と太い部分(例えば40−b)から成っており、それぞれの幅は30μmと60μmであり、隣り合う分岐流路の中心間距離は130μmである。また、これらの値は必要に応じていずれも1μm以上の任意の値に調節することができる。さらに、これらの流路は同じ太さでもよい。
【0055】
分岐流路40〜47における細い部分の長さは40−aでは1620μm、47−aでは15000μmというように、出口40から47に近づくにつれて長くなるように設計されている。この設計により分岐流路40には直径約18〜20μmの粒子が、分岐流路41には直径約15〜18μmの粒子が、分岐流路42には直径約14〜15μmの粒子が、分岐流路43には直径約12〜14μmの粒子が、分岐流路44には直径約11〜12μmの粒子が、分岐流路45には直径約10〜11μmの粒子が、分岐流路46には直径約8〜10μmの粒子が、分岐流路47には直径約7〜8μmの粒子がそれぞれ選抜されるようになっているが、これらの値は必要に応じて1μm以上の任意の値に調節することができる。
【0056】
また、分岐流路群39は、それぞれ長さ18mmである40本の分岐流路(39−1〜39−40)から成り、マイクロチップ24の側面において外部に開放されている。また、これらの長さは1μm以上の任意の値に調節することができ、本数も40本より少なくても多くてもよい。
【0057】
また、それぞれの分岐流路(例えば39−40)は、細い部分(例えば39−40−a)と太い部分(例えば39−40−b)からなっており、それぞれの幅は20μmと40μmであり、隣り合う分岐流路の中心間距離は70μmである。また、これらの値も1μm以上の任意の値に調節することができ、さらに、これらの流路は同じ太さでもよい。
【0058】
分岐流路39−1〜39−40における幅が細い部分の長さは、39−1−aでは約14000μm、39−40−aでは約9000μmというように、39−1−aから39−40−aへ徐々に長くなるように設計されている。この設計により、40個の分岐点において、それぞれの分岐点を通過する流体の約2%ずつを分岐流路群39の分岐流路一つ一つに導入することが可能である。
【0059】
以上の構成において、上記したマイクロチップを用い、動植物細胞、オルガネラ、微生物、エアロゾル、セラミック粒子、ポリマー粒子、エマルション、無機粒子、金属ナノ粒子等の粒子を濃縮・分離するための方法を説明する。
【0060】
まず、水や空気などの流体中に粒子を懸濁させたもの、あるいは、血液や、環境水などのように初めから分離対象となる粒子が懸濁している流体を用意する。
【0061】
また、粒子を含まない流体を用意する。
【0062】
そして、用意した粒子を含む流体を入口27から、粒子を含まない流体を入口28からそれぞれマイクロチップ24内に連続的に導入する。この際、流路内における流体の流れはできるだけ層流の状態を保ったまま導入する方が望ましい。
【0063】
マイクロチップ24の流路構造に導入させた場合、出口30、31、32、33、34、35、36、37からそれぞれ約6.8%、5.2%、4.0%、3.2%、2.4%、2.0%、1.6%、1.2%の流体が流出することが期待されている。
【0064】
実際に、3μmと5μmの蛍光粒子をデキストラン溶液5wt%に懸濁させたものと、デキストラン溶液5wt%を、シリンジポンプを用いてそれぞれ入口27、28からマイクロチップ24に流量20μL/minで連続的に導入したところ、どちらの粒子もほぼ100%分岐流路群39へ導入されることが確認された。
【0065】
なお、デキストラン溶液でなくてもよい。また、血液を希釈して導入すると、赤血球と白血球を分離し、さらに白血球を種類ごとに分離して、回収できる。
【0066】
マイクロチップ24では、入り口を2つ作ることにより、粒子を含む流体と粒子を含まない流体を使用し、それぞれの部分に分けたが、図4に示すマイクロチップ49のような構造を用いると、粒子を含む流体のみを流路内に導入するだけで、流路の途中において、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて導入することができ、複数の入口を設け、粒子を含む流体と含まない流体をそれぞれ導入するのと同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、マイクロチップ24のような構造において、入口は2つ以上でもよく、マイクロチップ49のような構造においては、入口は1つ以上でもよい。
【0068】
図4(a)は、図4の(b)(c)におけるA矢視図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線による断面図であり、図4(c)は図4(a)におけるC−C線による断面図である。
【0069】
マイクロチップ49は、入り口52から粒子を含む流体を導入した際、直径1.0μm以上の粒子を含む流体と直径1.0μm以上の粒子を含まない流体に分離することができ、さらに、直径約1.0〜1.5μm、1.5〜2.0μm、2.0〜2.5μmの粒子をそれぞれ選択的に分離・濃縮することができるマイクロチップである。
【0070】
流路構造は、基板50の下面50−aに形成されており、その深さは例えば5μm程度である。この値は、0.1μm以上の任意の値に調節することができる。
【0071】
流路53は、出口56、57、58、59を有しており、入口52は粒子を含む流体を導入するための入り口である。
【0072】
流路53は、5つの幅の異なる部分53−a〜eから成り立ち、その一部53−bと53−cは分岐流路群54を共有しており、53−dは分岐流路群55および分岐流路60〜62を有する。
【0073】
分岐流路群54は、50本の分岐流路から成り立ち、流路53−bと流路53−cを結ぶような構造をしているが、この本数は1本以上の任意の数に調整できる。また、分岐流路群54は、1.0μm以上の粒子を含まない流体が導入されるように設計されている。
【0074】
分岐流路群55は、長さ25mmである80本の分岐流路から成り立ち、マイクロチップ49の側面において外部に開放されているが、必要に応じて80本以上でも以下でもよい。また、分岐流路群55は、1.0μm以上の粒子を含まない流体が導入されるように設計されている。
【0075】
それぞれ出口57、58、59につながる流路60、61、62は、径が1.0〜1.5μm、1.5〜2.0μm、2.0〜2.5μmの粒子が選択的に導入されるように設計されている。これにより、それぞれの出口から、それぞれの大きさの粒子を濃縮した形で回収することが可能である。
【0076】
また、図4に示すようなデザイン以外にも、図5(a)(b)(c)に示すようなデザインであっても同様の効果を得ることができる。
【0077】
図5(d)は、遠心力、電場あるいは磁場などのマイクロデバイスの外部からの力を用いる場合のデバイスの例である。この場合、流路のうち少なくとも1部分に矢印63の向きに遠心場、磁場や電場を加えることにより、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて導入することができるため、入口を2つ以上設けた場合や流れの分割、統合を利用した場合と同様の効果を得ることができる。
【0078】
また、図6(a)(b)(c)(d)(e)(f)に示すように、分岐流路群を太く長い流路につなげ、1つの出口から流体を排出できるようなデザインを用いてもよい。ここで、図6(a)は粒子を含む流体と粒子を含まない流体を連続的に導入するデバイスであり、図6(b)〜(e)は粒子を含む流体のみを連続的に導入するデバイスであり、図6(f)は粒子を含む流体のみを連続的に導入し、さらに遠心場、磁場や電場をかけるデバイスである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法を用いると、例えば集塵装置として、医療分野においては血液検査の際に、または、水質検査において、水中に僅かしか含まれない菌や微生物を調査する際に利用可能である。
【0080】
本発明に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法を用いると、例えば複雑な細胞集団の中に含まれる極わずかな、形態の異なる細胞を、複雑な装置を用いずに、濃縮・分離・選抜することができ、生化学や医療などにおいて極めて有効である。
【0081】
さらに本発明に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法を用いると、環境水中にわずかに含まれる微生物の濃縮・分級や、合成されたポリマー粒子の分離、またエマルションのようなやわらかい粒子の濃縮・分級も可能になり、非常に有用である。
【0082】
また、本発明に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法を用いると、空気中のエアロゾル、花粉、ハウスダスト等の微粒子を、効率的に分離、回収することができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明による微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法の原理図を示している。
【図2】本発明による微粒子の濃縮・分級の実施形態を備えたマイクロチップ21を示し、図2(a)は図2(b)と(c)におけるA矢視図であり、図2(b)は図2(a)におけるB−B線による断面図であり、図2(c)は図2(a)におけるC−C線による断面図である。
【図3】また、図3(a)は図2(a)における流路全体の拡大図であり、図3(b)は図3(a)の一部45−aの拡大図であり、図3(b)は図3(c)の一部45−bの拡大図である。
【図4】本発明による微粒子の濃縮・分級の実施形態を備えたマイクロチップ58を示し、図4(a)は図4(b)と(c)におけるA矢視図であり、図4(b)は図4(a)におけるB−B線による断面図であり、図4(c)は図4(a)におけるC−C線による断面図である。また、図4(d)は図4(a)における流路全体の拡大図である。
【図5】図5(a)(b)(c)は、本発明による微粒子の濃縮・分級における、迂回流路を用いた流路構造の例であり、(d)は遠心場、電場、磁場などの力を用いて微粒子を分離・濃縮するための流路構造の例である。
【図6】図6(a)(b)(c)(d)(e)は、本発明による微粒子の濃縮・分級における、分岐流路群をまとめて1つの出口につなげた流路構造の例である。
【符号の説明】
【0084】
11:流路
12:分岐流路
13:流体の流れの方向
14:流体の流れの方向
15:流体の流れの方向
16:流体境界
17:分岐点
18:流体の一部
19:流体の一部
20:分岐流路群
21:分岐流路
22:粒子
23:流体境界
24:マイクロデバイス
25:基板
26:基板
27:入口
28:入口
29:出口
30:出口
31:出口
32:出口
33:出口
34:出口
35:出口
36:出口
37:出口
38:流路
39:分岐流路群
40:分岐流路
41:分岐流路
42:分岐流路
43:分岐流路
44:分岐流路
45:分岐流路
46:分岐流路
47:分岐流路
48:デバイスの一部
49:マイクロデバイス
50:基板
51:基板
52:入口
53:流路
54:分岐流路群
55:分岐流路群
56:出口
57:出口
58:出口
59:出口
60:分岐流路
61:分岐流路
62:分岐流路
63:外部からの遠心力、電場あるいは磁場等の力の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に延長される流路Aと、流路Aの側面における1つ以上の分岐点と、前記分岐点において前記流路Aに接続され、長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路を1つ以上有する流路構造を用い、
前記流路Aの一端から、流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入することにより、
前記分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにすることができ、ある一定の大きさ以下の粒子は前記流路Aの下流へと導入されないようにすることができるため、
導入した全てのある一定の大きさ以下の粒子を含む流体、もしくはある一定の大きさ以上の粒子を全く含まない流体を前記分岐流路から回収することができ、ある大きさ以上の粒子の濃度が高くなった流体を前記流路Aの下流から回収することができる、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項2】
所定の方向に延長される流路Aと、流路Aの側面における複数の分岐点と、前記複数の分岐点それぞれにおいて前記流路Aに接続され、長さ、幅、深さ、径などのスケールのうちいずれか1つ以上が適当に調節された分岐流路を1つ以上有する流路構造を用い、
前記流路Aの一端から、流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように導入することにより、
前記複数の分岐点のうちの少なくとも1つの分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子は前記分岐点において前記分岐流路に導入されないようにすることができ、ある一定の大きさ以下の粒子は前記流路Aの下流へと導入されないようにすることができ、また前記複数の分岐点のうちの少なくとも1つの分岐点において、ある一定の大きさ以上の粒子が前記分岐点において前記分岐流路に導入されるようにすることができるため、
導入した全てのある一定の大きさ以上の粒子は前記流路Aの壁側近傍に濃縮され、さらに、前記複数の分岐流路のいくつかから濃縮された粒子を回収することができる、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路Aの途中に存在する前記分岐流路は、前記流路Aの片側断面のみに存在する、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分かれるように流体を導入する方法として、
入り口を複数個設け、少なくとも1つの入り口から粒子を含む流体を、少なくとも1つの入り口から粒子を含まない流体を導入する、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項5】
請求項3に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を導入する方法として、
前記流路Aに、入口と前記分岐流路との間において一度前記流路Aから分岐し、かつ前記分岐流路よりも上流において再び前記流路Aに接続される分岐流路(迂回流路とする)を1つ以上設け、粒子を含む流体を入り口から導入させることにより、
ある一定の大きさ以上の粒子を含まない流体、あるいは粒子を全く含まない流体を迂回流路に導入し、前記分岐流路よりも上流で再び前記流路Aに導入する、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項6】
請求項3に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路Aに流体を連続的に導入する際、粒子を含む流体の部分と粒子を含まない流体の部分に分けて流体を導入する方法として、
前記流路構造に遠心力、電場あるいは磁場を与える、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項7】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5または請求項6のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路の幅、深さ、径のいずれかのスケールが、少なくとも部分的に1センチメートル以下のオーダーであり、前記流路内における流体の流れは少なくとも部分的に安定した層流になる、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項8】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
流体とは液体である、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
流体とは気体である、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項10】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8または請求項9のいずれかの1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
粒子とは細胞である、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。
【請求項11】
請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6、請求項7、請求項8、請求項9または請求項10のいずれかの1項に記載の微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法において、
前記流路とはマイクロチップ内に形成されたマイクロチャネルである、
微粒子の濃縮・分級のための流路構造およびその方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−175684(P2007−175684A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381256(P2005−381256)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(504402474)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】