説明

微粒子コーティング有機材料及び有機材料の微粒子コーティング方法

【課題】合成有機材料に各種の機能を付加する場合、結晶化度以外にも配向度fも大きく寄与していることが判明し、強酸により表面を活性化させる前処理を不要にすると共に、フッ素系有機材料に後加工による液相中での着色や蓄光化等の表面修飾することが可能な微粒子コーティング有機材料及び有機材料の微粒子コーティング方法を提供するものである。
【解決手段】結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、この基材表面にシラン系またはアルミネート系またはチタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤を介して、粒径10μm以下の金属やセラミックの無機物の微粒子を固定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属やセラミック、また最表面を金属やセラミックで覆われた有機物の微粒子を合成有機材料の基材表面に固定させた微粒子コーティング有機材料及び有機材料の微粒子コーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成有機材料で形成された繊維を、高比重・高強度の繊維とする方法として、顔料などの微粒子を最初から合成有機材料原料スラリーに混合しておき、これを繊維に成型する微粒子原着法がある(特許文献1)。またPVDやCVD等の「乾式法」による大規模な装置で基材表面を表面修飾する方法や、導電性粉末の微粒子を樹脂に含有させて導電性ペーストを作製し、これを基材表面にコーティングしてセラミック多層回路基板を製造する後加工法がある(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、予め樹脂に微粒子を含有させる微粒子原着法では、内部に埋もれた微粒子のために樹脂基材全体の材料強度が低下する。また微粒子を多量に含有させると成型性が悪く、また成型後には、もはや比重の調整ができず、更に加工後には材料特性の調製変更が効かないなど、加工条件と基材性能の一意性の問題がある。またPVDやCVD、微粒子を樹脂に含有させたペーストを基材表面にコーティングさせる乾式法は、大掛かりな装置や、高価な装置が必要であるため、安価に大量に製造できない問題があった。更に基材の形態も平面基材が中心であり、凹凸がある自由曲面を有する基材では影部に微粒子が回り込まずコーティング方法として欠点があった。
【0004】
このため、本発明者は、湿式法により、合成有機材料で形成された繊維やフィルムまたはバルク体成型品の表面に、金属やセラミック、有機物の微粒子を強固に付着・固定して、任意の機能を付加することができる微粒子コーティング有機材料及び有機材料の微粒子コーティング方法(特許文献3)を先に開発した。
【0005】
この方法は、合成有機材料で形成された繊維やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、予め基材を強酸と酸化剤を混合した溶媒中に浸漬して基材表面の活性化処理を行なってから、結合剤に微粒子を分散させた溶媒中に浸漬し、これをシラン系またはアルミネート系、もしくはチタネート系の結合剤のうち少なくとも1種の結合剤に、粒径30μm以下の金属やセラミック、有機物の微粒子を分散させた溶媒中に浸漬し、その溶媒中で当該微粒子を基材表面に付着・固定させる方法である。この場合、合成有機材料の結晶化度は少なくとも20%以上が望ましく、特に釣り糸の場合には、実用上、結晶化度90%以上が必要であった。
【0006】
しかしながら実用上、結晶化度90%未満の合成有機材料については各所の機能を十分に付加することができず、また合成有機材料は処理前に強酸により表面を活性化させる前処理が必要であった。そのため工程も増え、またその前処理で使用する強酸により基材自体が傷んだり、強酸として用いる硫酸などの毒劇物も使用するため製造周囲への環境負荷も大きかった。またフッ素系有機材料の場合には、後加工で且つ液相中での着色等の表面修飾方法がそもそも従来存在しなかった。
【特許文献1】特開2004−169267
【特許文献2】特開2002−16345
【特許文献3】特開2006−257566
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を改善し、結晶化度90%未満の合成有機材料にも、各種の機能を付加する研究を行なったところ、結晶化度の他に配向度も大きく寄与していることが判明し、またそれに伴い強酸によって表面を活性化させる前処理工程も不要であることが判明した。更に本発明は、フッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料に後加工で且つ液相中での着色や蓄光化等の表面修飾することが可能な微粒子コーティング有機材料及び有機材料の微粒子コーティング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の微粒子コーティング有機材料は、結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、この基材表面にシラン系またはアルミネート系、チタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤を介して、粒径10μm以下の金属やセラミックの無機物の微粒子を固定したことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2記載の微粒子コーティング有機材料は、請求項1において、結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料として、フッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料を用い、シラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3記載の有機材料の微粒子コーティング方法は、結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、これをシラン系またはアルミネート系、チタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤に、粒径10μm以下の金属やセラミックの無機物の微粒子を分散させた溶媒中に浸漬し、その溶媒中で当該微粒子を基材表面に付着・固定させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項4記載の有機材料の微粒子コーティング方法は、請求項3において、結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料としてフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料を用い、シラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項5記載の有機材料の微粒子コーティング方法は、請求項3または4において、同一または異なる種類の微粒子を分散させた溶媒中に繰り返し浸漬、乾燥させて、基材表面に微粒子を付着・固定させる工程を繰り返して行なうことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る請求項1記載の微粒子コーティング有機材料によれば、糸状物やフィルムまたはバルク体成型品などの合成有機材料の結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上に規定することにより、基材の表面に、金属やセラミックなどからなる機能性材料の微粒子を強固に固定して、任意の機能を付加した基材を得ることができる。このため、多様な機能性材料微粒子により各種の要望に応じた機能を付加した有機材料製品を得ることができる。
【0014】
本発明に係る請求項2記載の微粒子コーティング有機材料によれば、合成有機材料としてフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料を用い、シラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有するものを用いることにより、フッ素系有機材料に後加工で着色や蓄光化等の表面修飾することが可能となった。
【0015】
また請求項3記載の有機材料の微粒子コーティング方法によれば、糸状物やフィルムまたはバルク体成型品などの合成有機材料の基材の表面に、任意の機能を簡単に付加することができるので、素材の状態だけではなく素材を原材料に用いて作製した製品後にでも、機能を簡単に付加することができる。また本発明方法は、湿式法により処理することができるので、従来の微粒子原着法のように成型性の問題がなく、また強酸による表面を活性化させる前処理が不要であるため基材が全く傷まない利点がある。更に、PVDやCVD等の乾式法では適用される基材形態は、平面基材が中心であったが、本技術では凹凸がある自由曲面を有する基材にも適用可能で基材の影部や裏部にも微粒子が回り込み表面修飾が可能である。且つまた大掛かりな装置や高価な装置が不要なため、製品を安価に大量に製造することができる。
【0016】
また請求項4記載の有機材料の微粒子コーティング方法によれば、シラン系またはアルミネート系、もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有するので、同じフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料と前述の結合剤分子の間には双方CF基同士で接するため同質性や親和性が有り着色や蓄光化等の表面修飾が可能となった。
【0017】
また請求項5記載の有機材料の微粒子コーティング方法によれば、同一または異なる種類の微粒子を分散させた溶媒中に繰り返し浸漬、乾燥させることにより、微粒子コーティング層を厚く形成したり、異なる機能を併せて付加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を詳細に説明する。本発明において各種の機能を付加させる基材としては、合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品である。この糸状物としては、単繊維を撚り合わせたものや、単繊維を編んだ編み物、単繊維を製織した織物や生地、更にこれを縫製した衣服などの製品を基材として用いることができる。
【0019】
また基材となる合成有機材料としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素系材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等を用いることができる。微粒子は結晶化していない非晶質の合成有機材料には付着しにくい。合成有機材料の場合には、結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上の時に、微粒子が基材表面に付着する。その理由や過程の詳細は現在不明であるが、微粒子が基材に固定されるには、基材表面の結晶化部分の割合(結晶化度)と、及びその結晶化部分を構成している高分子がどの程度一方向に向いて揃っているか(配向度)も同時に要求される。即ちこの理由としては基材表面の結晶化した各部分がそれぞれ一方向に向いて揃い配向化した状態、つまり、基材を構成している高分子の配列に一定の規則性や周期性があれば、その結晶配向化した部分を足場として微粒子が取り付き、その後複数の微粒子も順次固定されていくことで基材表面に微粒子による小さな島が形成され、その後各島が二次元的に広がり大島に成長し、それら大島同士も最終的には合一して大陸化していく結果、微粒子が基材表面全体を被覆するものと考えられる。そのため、結晶化度と配向度fの増加に比例して、基材表面の活性化処理を行なわなくても、付着量が増加していくことが判明した。この場合、結晶化度は少なくとも60%以上が望ましく、これ未満であると微粒子密着性が低くなる。また配向度fは少なくとも0.5以上が望ましく、これ未満であると微粒子密着性が低くなる。
【0020】
ここで結晶化度について説明すると、合成有機材料(プラスチック)は、高分子が規則正しく配列する状態と、高分子が糸玉状になったり絡まったりして存在する配列していない状態との2つの状態に大別することができる。前者は結晶状態と呼ばれ、又後者は無定形または非晶状態と呼ばれる。このように、合成有機材料の配列状態の違いにより、結晶性プラスチックと非晶性プラスチックとに分けられる。結晶性プラスチックでも、すべての部分が結晶状態であるというわけではなく結晶部分と非晶部分とが混在している。プラスチック中の結晶部分の割合は「結晶化度」と呼ばれる。
結晶化度( %) = 結晶領域/(結晶領域+非晶領域)
ここで、結晶化度の算出法はX線回折( θ-2θ) 法により結晶領域部分と非晶領域部分をそれぞれ割り出し、上式により試料の結晶化度とした。
【0021】
また配向度fとは、結晶性有機材料を構成している高分子が折りたたまれたラメラ晶などの各部微結晶の向きがそれぞれどの程度全体的に一方向を向いて揃っているかの度合いを数値化したもので、f=0は無配向の状態を示し、f=1は100%完全に配向している状態を示すものである。従って合成有機材料基材の表面に密着した微粒子の摩擦に対する堅牢性を得るためには、60%以上の結晶性と配向度f=0.5以上の両者が同時に規定値以上である事が必要であり、結晶化も配向もしていない非晶質の配向度fが規定値未満の場合には付着しにくく、結晶化度と配向度fの増加に比例して微粒子の付着量も、また摩擦に対する堅牢性も増加していくことが判明した。
【0022】
本発明に用いる、結合剤としてはシラン系またはアルミネート系、チタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤を用いる。特にフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料に用いるシラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤では、それらの各結合剤分子において末端基にCF基を有するものが効果的である。
【0023】
末端基にCF基を有するシラン系結合剤としては、例えば 3,3,3- トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2‐テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2‐テトラヒドロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2- テトラヒドロデシルトリイソプロポキシシランなどがある。
【0024】
またフルオロ系アルミネート結合剤としては、例えばトリフルオロプロピルジイソプロピルアルミネート、ノナフルオロヘキシルジエチルアルミネート、トリデカフルオオロ- 1,1,2,2-テトラヒドロオクチルジメチルアルミネートがある。またフルオロ系チタネート結合剤としては、例えばトリフルオロプロピルトリイソプロピルチタネート、ノナフルオロヘキシルトリメチルチタネート、ヘプタデカフルオロ口‐1,1,2,2 ‐テトラヒドロオクチルトリエチルチタネー卜がある。
【0025】
また有機物の基材に付着させる微粒子の種類としては、金属やセラミック、最表面を金属やセラミックで覆われた有機物の微粒子が用いられる。この金属微粒子としては、例えばタングステン、銅、銀、金、鉄、アルミニウム、チタン、ケイ素、鉛、ビスマスなどを用いることができる。またセラミック微粒子としては、例えばアルミン酸ストロンチウム(蓄光材)、アルミン酸コバルト(青色顔料)、水酸化セリウム(特定元素捕集材)、酸化アンチモン(難燃材)、酸化鉄(磁性体)、酸化亜鉛(UVカット材)、酸化チタン(光触媒)、酸化ハフニウム(撥水材)、炭化硼素(研磨材)、炭化チタン(半導体)、窒化硼素(潤滑材)、窒化チタン(耐摩耗材)、炭素(導電材)、生石灰(発熱材)などを用いることができる。また最表面を金属やセラミックで覆われた有機物の微粒子としては、スピロピラン系、ナフトピラン系、ベンゾピラン系又はスピロオキサジン系等の有機フォトクロミック化合物を透明なセラミックス等でカプセル化した微粒子などがある。
【0026】
また付着させる微粒子の粒径は10μm以下が望ましい。微粒子の粒径が10μmを超えると、付着しにくくなって、摩耗により剥離する恐れがあり、また触った時に表面がザラザラした感じになるからで、最も望ましい範囲は3μm以下である。
【0027】
次に本発明方法について説明する。先ず糸状物やフィルムまたはバルク体成型品などの合成有機材料基材を洗浄してから乾燥させる。結合剤は濃度が、0.01〜3%程度の濃度になるように溶媒を調整すると良い。このように調整した溶液に、付着させる微粒子を分散させて溶媒を作成する。この場合、結合剤と微粒子の割合は、結合剤1重量部に対して、微粒子が1〜20重量部が望ましい。
【0028】
このように作成した溶媒を反応容器に入れ、基材を浸漬してマグネチックスターラー等で攪拌を行なうと、徐々に基材表面に微粒子が付着していく。この場合、濃度調整した結合剤の溶液に、微粒子と基材を同時に投入しても良い。この後、基材を溶媒から引き揚げて乾燥機などで乾燥させることにより、微粒子が更に表面に固定されてコーティングされた有機材料が得られる。
【0029】
また微粒子を分散させた溶媒中に浸漬、乾燥する工程を繰り返し行なうことにより、強固な微粒子コーティング層を厚く形成することができる。また異なる微粒子を複合して付着させても良く、例えば先にタングステン微粒子を分散させた溶媒中に浸漬、乾燥させた後、蓄光材の微粒子を分散させた溶媒中に浸漬、乾燥することにより、比重の増加と、表面の蓄光という2つの機能を併せ持った有機材料を製造することもできる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)ポリエチレン製糸状物の高比重化の実施例
基材として、市販されているポリエチレン製糸状物(結晶化度90%で且つ配向度f=0.9の単繊維125dを125本×8本組み紐加工し単繊維計1000本を1本の糸状物とした物)を用いた。また、微粒子として平均粒径0.6μmのタングステン微粒子を用い、結合剤にシラン系カップリング剤であるトリデカフルオロ-1,1,2,2‐テトラヒドロオクチルトリメトキシシランを用いた。
【0031】
初めに基材のポリエチレン製糸状物をエタノール中で超音波洗浄した後、これを乾燥した。次にビーカーに蒸留水500mlを入れ、これにシラン系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。この溶媒を溶媒Aとする。次に基材の糸状物1.0g(約10m)と、タングステン微粒子1.0gをビーカー中に同時に加えて約3時間マグネチックスターラーで攪拌すると、徐々に糸状物の表面にタングステン微粒子が付着した。
【0032】
最後に糸状物を引き揚げて乾燥機で約12時間乾燥した。このポリエチレン製糸状物の比重を、精密天秤を使用したアルキメデス法で測定したところ、元の比重0.9のものが1.3に増加した。またタングステン微粒子の密着性は摩擦堅牢度試験機で摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS L0849)を行った所、乾燥試験で4級、湿潤試験で4−3級であり、リール等で摩擦摩耗を受ける釣り糸やロープとして密着性も十分であった。
【0033】
(実施例2)ポリエチレン糸状物の成形品(撚糸品・織物・編み物・不織布)への実施例
上記実施例1で使用したポリエチレン製糸状物を加工し成形した撚糸品、織物、編み物、不織布(比重0.9)へも同様に高比重化を行った。即ちポリエチレン製糸状物成形品である撚糸品(撚り数500T/m)、織物(平織り品)、編み物(たて編み品)、不織布(メルトブロー品)の各2gと、平均粒径0.6μmのタングステン微粒子5.0gとを、前記溶媒Aが1000ml入ったビーカー中に同時に投入して、室温中で、約5時間マグネチックスターラーで攪拌し、各ポリエチレン糸状物成形品の表面にタングステン微粒子を付着させた。その後、各成形品を引き揚げ乾燥機で約12時間乾燥した。その結果、各ポリエチレン糸状成形品の比重は、撚糸品は比重1.5、織物が比重1.8、編み物が比重1.7、不織布が比重1.6まで高比重化することができた。
【0034】
(実施例3)糸状物に蓄光剤微粒子を固定して暗中で光るようにした実施例
基材に実施例1と同じポリエチレン製糸状物(結晶化度90%で且つ配向度f=0.9)を用い、微粒子として蓄光材の平均粒径3.0μmのアルミン酸ストロンチウム、結合剤にチタネート系カップリング剤を用いた。
【0035】
初めに基材の糸状物をエタノール中で超音波洗浄した後、乾燥した。次にビーカーに蒸留水150mlを入れ、結合剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。この溶媒を溶媒Bとする。次に基材の糸状物1.0g(約10m)と平均粒径3.0μmのアルミン酸ストロンチウム微粒子0.2gをビーカー中に同時に加え約12時間マグネチックスターラーで攪拌しながら糸状物表面にアルミン酸ストロンチウム微粒子を付着・固定させた。最後に糸状物を引き揚げ乾燥機で乾燥した。
【0036】
その結果、でき上がった糸状物は、表面に蓄光材微粒子がコーティングされているので、夜釣りや夜間災害救助用のロープなどの夜間や暗中でも青色等に発光して糸状物の状態をはっきり確認することができた。また蓄光材微粒子の密着性は摩擦堅牢度試験機で摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS L0849)を行った所、乾燥試験で4級、湿潤試験で4−3級であり、リール等で摩擦し摩耗を受ける釣り糸やロープとして密着性も十分であった。
【0037】
(実施例4)ポリエチレン製糸状物への蓄光化の実施例
基材としてハイデンポリエチレン(結晶化度70%で且つ配向度f=0.7)糸状物を用意し、実施例3と同様の方法で溶媒Bに基材のハイデン糸状物1.0g(約10m)と平均粒径3.0μmのアルミン酸ストロンチウム微粒子0.2gをビーカー中に同時に加え約12時間マグネチックスターラーで攪拌しながら各糸状物の表面に蓄光材であるアルミン酸ストロンチウム微粒子を付着・固定させた。その結果、ハイデンポリエチレン糸状物には実施例1のポリエチレン製糸状物の密着性には及ばないものの(乾燥試験で4−3級、湿潤試験で3級)蓄光材を実用上十分な密着力で固定できた。
【0038】
(比較例1) 基材としてローデンポリエチレン(結晶化度40%で且つ配向度f=0.4)糸状物1.0g(約10m)を用意し、他の条件は実施例4と同一の方法に蓄光材であるアルミン酸ストロンチウム微粒子を付着・固定させた。しかしながら結晶化度が60%未満で且つ配向度fが0.5未満であるローデンポリエチレン糸状物には蓄光材微粒子が基材表面に付着はするものの、手で擦ると簡単に蓄光材微粒子が脱落し(乾燥試験で2級、湿潤試験で2−1級)、ハイデンポリエチレン糸状物程に強固には固定できず実用には耐えられない密着性だった。
【0039】
(実施例5)形態が平板であるポリエチレン基材への実施例。
基材としてポリエチレン製平板(結晶化度60%で且つ配向度f=0.6、厚さ1mm)を3×3cm角に作ったもの2.0gを用い、顔料微粒子として平均粒径1.0μmの銀微粒子1.0gとを、前記溶媒Aが200ml入ったビーカー中に同時に投入して、室温中で、約5時間マグネチックスターラーで攪拌し、基材表面に銀微粒子を付着させた。その後、ポリエチレン製平板を引き揚げ乾燥機で約4時間乾燥した。その結果、元は素材の色が白色であったポリエチレン平板基材に、微粒子を表面に付着させることにより銀色に着色することができた。また着色以外に銀微粒子による抗菌性も付与できた。
【0040】
(実施例6)フッ素系有機材料に蓄光化した実施例
基材としてフッ素系有機材料の1種であるポリテトラフルオロエチレン( PTFE) の糸状物を用いた。また微粒子に蓄光材である平均粒径3.0μmのアルミン酸ストロンチウム微粒子を用い、結合剤には末端基にCF基を有するシラン系カップリング剤を用いた。
【0041】
初めに基材の糸状物をエタノール中で超音波洗浄した後乾燥した。次に結合剤濃度1%にしたアルコール溶媒を調整した。この溶媒を溶媒Cとする。この溶媒Cが500ml入ったビーカーの中にPTFE糸状物0.5gと、蓄光材であるアルミン酸ストロンチウム微粒子0.2gとを同時に投入して、室温中で、約12時間機械式の攪拌棒で攪拌しながら蓄光材微粒子を徐々に付着させた。この後、PTFE糸状物を引き揚げて乾燥機で乾燥した。でき上がったPTFE糸状物の表面にはアルミン酸ストロンチウム微粒子が固定されていた。
【0042】
その結果、アルミン酸ストロンチウム微粒子により夜間に糸道が視認できる蓄光性を付与でき、加えて更に末端基にCF基を有するシラン系カップリング剤により水をはじく撥水性の2つの特性を同時に付与できた。また蓄光微粒子の密着性は摩擦堅牢度試験機で摩擦に対する染色堅牢度試験(JIS L0849)を行った所、乾燥試験で5−4級、湿潤試験で4級であった。
【0043】
(実施例7)フッ素系有機材料で形態が平板でも着色できた実施例
基材としてエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)(結晶化度60%で且つ配向度f=0.5)製の時計皿を3×3cm角に切ったものを用い、顔料微粒子として青色顔料である平均粒径1.0μmのアルミン酸コバルト微粒子を用い、結合剤として末端基にCF基を有するアルミネート系カップリング剤を用いた。
【0044】
初めに基材の小片をエタノール中で超音波洗浄した後乾燥した。次にビーカーにアルコール100mlを入れ、結合剤1.0mlを徐々に加え完全に溶解するまで室温中で、ガラス棒で良く攪拌した。次に基材の小片5gとアルミン酸コバルト微粒子1.0gをビーカー中に同時に投入して約12時間機械式の攪拌棒で攪拌しながら徐々に基材表面にアルミン酸コバルト微粒子を付着させた。次に基材の小片を引き揚げて乾燥機で乾燥した。
【0045】
その結果、元は素材の色が白色であったものが、アルミン酸コバルト微粒子を表面にコーティングすることにより青色に着色することができた。これによりポリエチレンより後加工での着色が更に困難なフッ素系有機材料にも着色など表面修飾ができることが確認された。
【0046】
(実施例8)液相中からの特定元素を捕集する実施例
基材に実施例1と同じポリエチレン製糸状物(結晶化度90%で且つ配向度f=0.9)を製織して織物を作成した。微粒子としてヒ素など元素捕集効果がある平均粒径1.0μmの水酸化セリウム微粒子、結合剤にアルミネート系カップリング剤を用いた。初めに基材のポリエチレン製織物をエタノール中で超音波洗浄した後、これを乾燥した。次にビーカーにアルコール500mlを入れ、これにアルミネート系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。次に基材の糸状物1.0g(約10m)と、水酸化セリウム微粒子1.0gをビーカー中に同時に加えて約10時間マグネチックスターラーで攪拌すると、徐々に糸状物の表面に水酸化セリウム微粒子が付着した。この後、処理した織物を引き揚げて乾燥機で乾燥した。
【0047】
この水酸化セリウム微粒子を表面に固定したポリエチレン製織物を捕集フィルターとして、廃液中に浸漬する。この捕集フィルターにより、廃液中に存在しているヒ素やフッ素やホウ素やリンなどの元素を捕集することができ、これにより上下水道や地下水に存在するヒ素やリンを取り除き環境浄化したり、また海水中からホウ素を捕集し資源として回収したりする捕集フィルターとして利用することができる。
【0048】
(実施例9)磁気スケール用釣り糸及びロープの実施例
基材に実施例1と同じポリエチレン製糸状物(結晶化度90%で且つ配向度f=0.9)を用い、微粒子として強磁性体である平均粒径1.0μmの酸化鉄(III )微粒子、結合剤にアルミネート系カップリング剤を用いた。初めに基材のポリエチレン製糸状物をエタノール中で超音波洗浄した後、これを乾燥した。次にビーカーにアルコール500mlを入れ、これにアルミネート系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。次に基材のポリエチレン糸状物1.0g(約10m)をリング状に巻いた輪の下部だけをビーカーに浸漬し、その後酸化鉄(III )微粒子1.0gもビーカー中に加えて約10時間機械式の攪拌棒で攪拌すると、徐々に糸状物の浸漬した基材表面だけに酸化鉄(III )微粒子が付着した。この後、糸状物を引き揚げて乾燥機で乾燥した。でき上がったポリエチレン製糸状物には基材表面に一定の間隔で部分的に酸化鉄(III )微粒子がコーティングされた。
【0049】
この糸状物を糸送り出し部に設置した磁気センサーが糸状物表面に一定の間隔で付着している酸化鉄微粒子を感知してカウントし、送り出した糸状物の長さを正確にはかることができる。そのため、これにより釣りにおいて釣り人から放った釣り糸の海底や川底までの距離や、災害救助時に被災者がいる崖下や谷底までの救出距離長さを正確に知ることができ災害救助用ロープとしても利用できる。
【0050】
(実施例10)手術後X線で確認できる手術糸の実施例
基材としてポリプロピレン糸状物(結晶化度70%で且つ配向度f=0.7)を用い、X線による視認用の微粒子として平均粒径1.0μmの金微粒子を用い、結合剤としてシラン系カップリング剤を用いた。初めに基材のポリプロピレン糸状物による生地をエタノール中で超音波洗浄して乾燥した。次に基材のポリプロピレン糸状物0.5gと、金微粒子0.2gを前述した溶媒Aが200ml入ったビーカー中に同時に投入して室温中で、約5時間マグネチックスターラーで攪拌し、各ポリプロピレン糸状物の表面に金微粒子を付着させた。すると、徐々に基材表面に金微粒子が付着していった。その後、ポリプロピレン糸状物を引き揚げ乾燥機で乾燥した。
【0051】
でき上がったポリプロピレン糸状物は表面に金微粒子がコーティングされているため、X線写真やX線CTで視認できる。これを医療現場において誤って手術後に体内に取り残し、残留してしまった手術糸を手術後でもX線写真やX線CTなどのX線装置を使用して体内のどこに残留しているのかをその所在を確認するのに利用できる。
【0052】
(実施例11)周囲の水と反応し発熱・溶解するシートの実施例
基材としてポリビニルアルコール(PVA)糸状物(結晶化度60%で且つ配向度f=0.6で溶解温度約70℃)を織成したシートを用い、発熱微粒子として平均粒径1.0μmの生石灰微粒子を用い、結合剤としてアルミネート系カップリング剤を用いた。初めに基材のPVA糸状物によるシートをエタノール中で超音波洗浄して乾燥した。次にビーカーにアルコール500mlを入れ、これにアルミネート系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。次に基材のPVA生地5.0gと、生石灰微粒子1.0gをビーカー中に同時に加えて約12時間マグネチックスターラーで攪拌した。すると、徐々にPVA生地の表面に生石灰微粒子が付着していった。この後、処理したPVA生地を引き揚げて乾燥機で乾燥した。
【0053】
このPVAシートは表面に生石灰微粒子がコーティングされているため、外界の水と生石灰微粒子が接触すると、水と生石灰による激しい発熱反応が起こり、その熱によってPVA糸状物生地全体の温度も上昇する。一方、PVA糸状物は温水に可溶な材質であるため、生石灰の発熱反応で生地温度が約70℃に達するとシート自体が外界の水に溶け消滅した。これを降雪時や凍結時の使い捨て型の融雪製品として利用することができる。
【0054】
(実施例12)日光のUV光に反応して発色する糸状物の実施例
基材に実施例1と同じポリアミド製糸状物(結晶化度90%で且つ配向度f=0.9)を用い、微粒子として紫外線が照射されると発色したり変色したりするフォトクロミック分子を含有した顔料微粒子(平均粒径1.0μm)を用い、結合剤にアルミネート系カップリング剤を用いた。初めに基材のポリアミド製糸状物をエタノール中で超音波洗浄した後、これを乾燥した。次にビーカーにアルコール500mlを入れ、これにアルミネート系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中で、マグネチックスターラーで良く攪拌した。次に基材のポリアミド糸状物1.0g(約10m)をビーカーに浸漬し、そのフォトクロミック顔料微粒子1.0gもビーカー中に加えて約10時間マグネチックスターラーで攪拌すると、徐々に糸状物のフォトクロミック顔料微粒子が付着した。この後、糸状物を引き揚げて乾燥機で乾燥した。
【0055】
でき上がったポリアミド製糸状物には基材表面にフォトクロミック顔料微粒子がコーティングされた。またフォトクロミック顔料微粒子は日光やブラックライト等の光源中の紫外線に反応して発色したり、変色したりする性質がある。そのためこて糸状物を服地などの生地に使用し、その生地で作った洋服やスカートを着用して屋内から屋外へと外出した時には、初めは何も柄無い無地であった所に日光を受けると鮮やかな柄や文字が現れる新しいアパレル製品に利用できる。
【0056】
(実施例13)POM製歯車に電磁波シールド機能を付与した実施例
基材にポリアセタール樹脂(POM)製歯車(結晶化度65%かつ配向度55%)を用い、微粒子として電磁波シールド材でもある銀微粒子(平均粒径1.0μm)を用い、結合剤にアルミネート系カップリング剤を用いた。初めに基材のPOM製歯車をエタノール中で超音波洗浄した後、これを乾燥した。次にビーカーにアルコール500mlを入れ、これにアルミネート系カップリング剤2mlを徐々に加え溶媒が白濁から透明になるまで室温中でマグネチックスターラーで良く攪拌した。次に基材のPOM製歯車3.0gをビーカーに浸漬し、その銀微粒子1.0gもビーカー中に加えて約6時間マグネチックスターラーで攪拌すると、徐々にPOM製歯車表面に銀微粒子が付着した。この後、POM製歯車を引き揚げて乾燥機で乾燥した。出来上がったPOM製歯車には基材表面に銀微粒子がコーティングされた。また銀微粒子を表面固定したPOM製歯車は銀が電磁波シールド材でもあるため、この歯車を使用すれば放射ノイズ低減部品として電化製品などに利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、この基材表面にシラン系またはアルミネート系、チタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤を介して、粒径10μm以下の金属やセラミックの無機物の微粒子を固定したことを特徴とする微粒子コーティング合成有機材料。
【請求項2】
結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料としてフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料を用い、シラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有することを特徴とする請求項1記載の微粒子コーティング有機材料。
【請求項3】
結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料で形成された糸状物やフィルムまたはバルク体成型品を基材として、これをシラン系またはアルミネート系、チタネート系、もしくはフルオロ系結合剤のうち少なくとも1種の結合剤に、粒径10μm以下の金属やセラミックの無機物の微粒子を分散させた溶媒中に浸漬し、その溶媒中で当該微粒子を基材表面に付着・固定させることを特徴とする有機材料の微粒子コーティング方法。
【請求項4】
結晶化度60%以上で且つ配向度f=0.5以上からなる合成有機材料としてフッ素を含んだ高分子からなるフッ素系有機材料を用い、シラン系またはアルミネート系もしくはチタネート系結合剤の結合剤分子において、末端基にCF基を有することを特徴とする請求項3記載の有機材料の微粒子コーティング方法。
【請求項5】
同一または異なる種類の微粒子を分散させた溶媒中に繰り返し浸漬、乾燥させて、基材表面に微粒子を付着・固定させる工程を繰り返して行なうことを特徴とする請求項3または4記載の有機材料の微粒子コーティング方法。

【公開番号】特開2009−235586(P2009−235586A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79513(P2008−79513)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(391041062)福島県 (42)
【Fターム(参考)】