説明

微粒子保存方法

【課題】 微粒子を効率よく容器中に保存する方法を提供すること。
【解決手段】(a)微粒子を高分子体により容器中に包括固定する工程、(b)前記高分子体を溶解させることで前記微粒子を回収する工程、を含むことを特徴とする微粒子保存方法であって、好ましくは高分子体が水溶性ポリマー溶液と水溶性化合物溶液とを混合して形成させた三次元架橋体で、水溶性ポリマー及び水溶性化合物が水酸基を有し、水酸基同士の可逆的共有結合の生成により三次元架橋体を形成するものである微粒子保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子を効率良く容器中に保存させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗体ビーズ、レクチンビーズ、アビジンビーズ、ビオチンビーズ、ヒドラジドビーズなど表面を活性化させた微粒子が多数市販されている。しかし、それらの大半は水溶液あるいは有機溶媒の分散液として保存し、使用時に必要量分取するという使用方法である。しかし、微粒子のような固体を液体中に均一に分散させるのは困難であり、使用毎に分取量が変化してしまう。また、処理する検体数が多い場合、分散液を反応容器に移すのに手間がかかるという欠点があった。
【0003】
この様な背景から、あらかじめ一定量の微粒子が反応容器に保存された状態での提供が求められる。カラムにあらかじめ微粒子が充填された状態で販売されている例もあるが、分散液での保存、乾燥状態での保存ともに容器の表面等に付着してしまうことで一部の微粒子を失ってしまう。特に、少量の微粒子を反応に用いるような系の場合、そのことが原因で結果にばらつきが生じやすくなってしまう。
【0004】
そこで、微粒子を失わず、且つ、表面の活性基を失活させることなく保存させる方法が必要とされる。また、保存した微粒子を容易に反応に持ち込む状態にできる方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/046716号公報
【特許文献2】特表2008−536821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の小分けにした微粒子の容器内での保存の場合の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは微粒子を失ったり表面の活性基を失活したりすることなく、微粒子を効率よく容器中に保存する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の通りである。
(1)(a)微粒子を高分子体により容器内に包括固定する工程、
(b)前記高分子体を溶解させることで前記微粒子を回収する工程、
を含むことを特徴とする微粒子の保存方法。
(2)前記高分子体が三次元架橋体である(1)記載の微粒子保存方法。
(3)前記三次元架橋体が、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、又は合成ポリマーである(1)又は(2)記載の微粒子保存方法。
(4)前記三次元架橋体が多価水酸基を有する化合物である(2)又は(3)記載の微粒子保存方法。
(5)前記三次元架橋体が水溶性ポリマー溶液と水溶性化合物溶液とを混合して形成させたものである(2)〜(4)いずれか記載の微粒子保存方法。
(6)前記水溶性ポリマー及び前記水溶性化合物が水酸基を有し、水酸基同士の可逆的共有結合の生成により三次元架橋体を形成するものである(5)記載の微粒子保存方法。
(7)前記水溶性ポリマーがホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基を含有するポリマーであり、前記水溶性化合物が多価水酸基を有する化合物である(6)記載の微粒子保存方法。
(8)前記多価水酸基を有する化合物が単糖類、二糖類、多糖類、低分子多価アルコール、及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一つである(7)記載の微粒子保存方法。
(9)前記(b)の工程において、高分子体の溶解が高分子体を加熱することによりなされる(1)〜(8)いずれか記載の微粒子保存方法。
(10)前記(b)の工程において、高分子体の溶解が高分子体に溶液を加えることによりなされる(1)〜(8)いずれか記載の微粒子保存方法。
(11)前記高分子体に加える溶液が、複数の水酸基を有する化合物の溶液である(10)記載の微粒子保存方法。
(12)前記複数の水酸基を有する化合物が、糖または糖アルコールである(11)記載の微粒子保存方法。
(13)前記(b)の工程において、高分子体の溶解が有機溶媒を加えることによりなされる(1)〜(8)いずれか記載の微粒子保存方法。
(14)前記有機溶媒が、アルコールである(13)記載の微粒子保存方法。
(15)前記微粒子が、シリカ微粒子、高分子微粒子、金微粒子、セファロース微粒子、アガロース微粒子、及びセルロース微粒子から選ばれる少なくとも一つである(1)〜(14)いずれか記載の微粒子保存方法。
(16)前記微粒子が、活性基を有するものである(1)〜(15)いずれか記載の微粒子保存方法。
(17)前記活性基が、アビジン、ビオチン、抗体、レクチン、カルボニル基、アミノ基、アミノオキシル基、ヒドラジド基、エステル基、マレイミド基、及びチオール基から選ばれる少なくとも一つである(16)記載の微粒子保存方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微粒子保存方法によれば、微粒子を失うことなく容器内に微粒子を保持することが可能となる。また、熱をかけるあるいは溶液を加えることで、もとの微粒子の状態に戻すことができるため、容易に微粒子を反応に持ち込むことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の三次元架橋体により保存をしたビーズを用いて作製した、2−AB標識ウシ由来IgG糖鎖を高速液体クロマトグラフィにより測定した結果を示すチャート図である。
【図2】比較例1の三次元架橋体による保存を行っていないビーズを用いて作製した、2−AB標識ウシ由来IgG糖鎖を高速液体クロマトグラフィにより測定した結果を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
【0011】
本発明は、(a)微粒子を高分子体により容器内に包括固定する工程、(b)前記高分子体を溶解させることで前記微粒子を回収する工程、を含むことを特徴とする微粒子の保存方法である。
(a)の工程において、微粒子は溶液に分散した状態でも、乾燥した状態でも良い。前者の場合、水、アルコール、その他有機溶媒どの溶媒に分散した状態でも良いが、水あるいはアルコールに分散しているのが好ましく、さらに好ましくは水に分散していることである。
【0012】
本発明に使用する微粒子としては、シリカ微粒子、高分子微粒子、金微粒子、セファロース微粒子、アガロース微粒子、セルロース微粒子等が挙げられる。微粒子は、表面に活性基として、アビジン、ビオチン、抗体、レクチン、カルボニル基、アミノ基、アミノオキシル基、ヒドラジド基、エステル基、マレイミド基、チオール基等を有するものが好ましい。
【0013】
本発明に使用する高分子体は三次元架橋体であることが好ましく、コラーゲン、ゼラチン、合成ポリマー等が挙げられる。より好ましくは、水溶性ポリマー溶液と水溶性化合物溶液とを混合して形成させた三次元架橋体である。水溶性ポリマー溶液として好ましいのは、フェニルボロン酸基を含有するポリマーであり、より好ましくはホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基の両方を含有するポリマーである。
このポリマーは、ホスホリルコリン基を含有するモノマー、フェニルボロン酸基を有するモノマー及び必要に応じて他のモノマーを共重合させて得られる。
【0014】
ホスホリルコリン基を含有するモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素−炭素二重結合を重合性基として有し、かつホスホリルコリン基を同一分子中に有する化合物であることが好ましい。
例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、(2−メタクリロイルオキシルエチル−2’−(トリメリチルアンモニア)エチルホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート等が挙げられるが、特に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)が好ましい。
【0015】
フェニルボロン酸基を有するモノマーとしては、ビニル基やアリル基などの炭素−炭素二重結合を重合性基として有し、かつホフェニルボロン酸基を同一分子中に有する化合物であることが好ましい。
例えば、p−ビニルフェニルボロン酸、m−ビニルフェニルボロン酸、p−(メタ)アクリロイルオキシルフェニルボロン酸、m−(メタ)アクリロイルオキシフェニルボロン酸、p−(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、p−ビニルオキシフェニルボロン酸、m−ビニルオキシフェニルボロン酸、ビニルウレタンフェニルボロン酸などが挙げられるが、p−ビニルフェニルボロン酸又はm−ビニルフェニルボロン酸が好ましい。
【0016】
他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ビニルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の親水性モノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、スチレン、酢酸ビニル等の疎水性モノマー、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等のアルキルオキシシラン基を有するモノマー、シロキサン基を有するモノマー、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基を含むモノマー、アリルアミン、アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有するモノマー、カルボキシル基、水酸基、アルデヒド基、チオール基、ハロゲン基、メトキシ基、エポキシ基、スクシンイミド基、マレイミド基を有するモノマーを挙げることができる。
【0017】
前記の内、特に好ましいモノマーの組み合わせは、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下MPCと略す)、p−ビニルフェニルボロン酸、及びブチル(メタ)アクリレートによる3元共重合体である。重合はラジカル重合が好ましい。
ラジカル発生剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の脂肪族アゾ化合物、過酸化ベンゾイルやこはく酸パーオキシド等の過酸化物が好ましい。
【0018】
ポリマー中の組成モル分率は、モノマー混合溶液の組成で制御することができる。ホスホリルコリン基を有するモノマー単位のモル分率の範囲は0.01〜0.99であり、好ましくは0.30〜0.70の範囲であり、さらに好ましくは0.45〜0.60の範囲である。ポリマー中のフェニルボロン基を有するモノマー単位のモル分率の範囲は0.01〜0.99であり、好ましくは0.03〜0.50の範囲であり、さらに好ましくは0.30〜0.40の範囲である。
【0019】
また、該ポリマーの分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで測定し、ポリエチレンオキシドを標準物質として換算し、その範囲は、1,000〜10,000,000であり、好ましくは10,000〜1,000,000、さらに好ましくは、20,000〜300,000である。分子量が上限値を超えると、水媒体への溶解性が低下する可能性がある。
【0020】
水溶性化合物としては、多価水酸基を有する化合物であることが好ましい。多価水酸基を有する化合物は水系溶媒に対して溶解し、均一な溶液となることが必要である。例としては、単糖類、二糖類、多糖類、低分子多価アルコール、ポリビニルアルコール等が挙げられるが、多糖類又はポリビニルアルコール(PVA)を選択することが構造の安定した三次元架橋体を構成するために好ましい。
【0021】
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を含有するポリマーを含む溶液と、多価水酸基化合物を含む溶液を混合することで、三次元架橋体が製造できる。
三次元架橋体中に生体成分を捕捉し安定に保存するためには、溶媒は水系が好ましく、有機溶媒の使用は避けるべきである。
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を含有するポリマー、及び多価水酸基化合物は水系溶媒に溶ける範囲の濃度で使用可能であるが、0.5〜20重量%が好ましく、2.5〜10重量%がさらに好ましい。
【0022】
三次元架橋体を形成するための温度は、−100℃〜100℃であることが好ましく、より好ましくは0℃〜50℃、さらに好ましくは0℃〜40℃である。
【0023】
本発明の工程(a)において、予め微粒子と水溶性ポリマー溶液を混合しておき、この分散液に多価水酸基化合物を含む水溶液を混合し、三次元架橋体を形成することによって、微粒子を三次元架橋体内に封入することができる。
逆に微粒子と多価水酸基化合物を含む水溶液を予め混合し、この分散液に対して水溶性ポリマー溶液を混合し、三次元架橋体を形成することもできる。
【0024】
微粒子に対する三次元架橋体の体積比は、微粒子の0.01倍〜100倍であるのが好ましく、より好ましくは0.1倍〜50倍であり、さらに好ましくは0.5倍〜20倍である。体積比が大きくなるにつれて、(b)の工程の高分子体の除去が困難になるので注意が必要である。
【0025】
(b)の工程において、上記のように形成された三次元架橋体を溶解させるための方法として、加熱あるいは溶解用溶液と接触させるのいずれかまたは両方を行う方法がある。
【0026】
加熱する場合は、その温度は30℃〜150℃であることが好ましく、より好ましくは30℃〜100℃であり、さらに好ましくは40℃から90℃である。
【0027】
加える溶解用溶液としては、三次元架橋体が溶解する溶液であり、且つ、微粒子に悪影響を及ぼさない溶液であれば特に限定されない。
【0028】
三次元架橋体がホスホリルコリン基とフェニルボロン酸基を含有するポリマーを含む溶液と、多価水酸基化合物を含む溶液から得られるものである場合、溶解のために加える溶液の溶媒としては、水あるいはアルコールであることが好ましい。
【0029】
また、溶解用の溶液には複数の水酸基を含有する化合物を含有することが好ましい。複数の水酸基を含有する化合物としては、糖あるいは糖アルコールが好ましい。
糖としてはグルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、キシロース、マンノースなどが挙げられるが、グルコースが好ましい。
糖アルコールは糖を還元した構造を有するものであり、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、マンニトール、ラクチトール、ソルビトール、マルチトール等が挙げられるが、キシリトール、マンニトール、又はマルチトールが好ましい。
【0030】
溶解用溶液中の複数の水酸基を含有する化合物の濃度は、高濃度であることが短時間で三次元架橋体を溶解させるために好ましい。例えば、キシリトール、マルチトールでは40〜85w/v%の濃度が好ましく、更に好ましくは60〜80w/v%の濃度である。又、マンニトールでは40〜65w/v%の濃度が好ましく、更に好ましくは50〜60w/v%の濃度である。他の種類の糖アルコールあるいは糖を用いる場合も、その化合物が溶解できる最大濃度に近いところでの使用が最も好ましい。
【0031】
溶解用溶液の添加量に関しては、条件にもよるので特に定めるものではないが、三次元架橋体の容量の当倍量から20倍量を用いることが好ましく、より好ましく3〜10倍量である。この分量を用いた場合、5〜30分で三次元架橋体を完全に溶解することが可能である。
【0032】
より、短時間に溶解させたい場合は、溶解用溶液の添加後加熱するのが良い。3〜10倍量の溶解用溶液を添加し、80℃に加熱した場合、1〜5分で三次元架橋体を完全に溶解することが可能である。
【0033】
三次元架橋体を溶解させるためには、三次元架橋体に溶解用溶液を添加して接触させ、ピペッティング等の操作により短時間攪拌することが好ましい。
【実施例】
【0034】
《実施例1》
(1)ポリマーの作製
ホスホリルコリン基とフェニルボロン酸を含有するポリマーの合成を以下の方法で行った。
フラスコに2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)5.3gを秤量し、エタノール30gを仕込み、攪拌しながら容器内をアルゴンガス置換した。p−ビニルフェニルボロン酸(VPBA)0.44g、ブチル(メタ)アクリレート(BMA)1.3gおよび2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加し、均一なるように攪拌、密栓した後、60℃に加温、48時間反応させた。得られた反応溶液をジエチルエーテル/クロロホルム(8/2)溶液に滴下し固体ポリマーを得た。ポリマーのNMR分析の結果、MPC/VPBA/BMA=53/11/36(モル比)であった。また分子量は、27,000であった。本共重合体をPMBVと略す。
多価水酸基化合物は、市販のポリビニルアルコール(PVA)平均重合度500(和光純薬製、160−03055)を用いた。PVAを加温した超純水に溶かして9wt%溶液を作製した。
PMBVを超純水に溶解し、9wt%溶液を作製した。
【0035】
(2)微粒子の保存
96ウェルフィルタープレート(Waters社、186002780)にヒドラジドビーズ分散液(ポリマー粒子、球状、0.5mg/uL、ヒドラジド基保有、住友ベークライト社製、BS−45603)50uLを分注し、Extraction plate maniflod for Oasis 96−well plates (Waters社、 186001831)を用いてバキュームにより溶媒を排出させた。9wt%のPMVB溶液をビーズの上に10uL分注し、続いて9wt%のPVA溶液を10uL分注した。プレートを振とうさせて、溶液を良く攪拌しゲル化させた。
ゲル化は数分で起こり、逆さにしても溶液が落ちてこないことを確認した。
【0036】
(3)タンパク質の前処理
ウシ免疫グロブリンG(ウシIgG)1mgを100mM重炭酸アンモニウム50μLに溶解させた後、120mM DTT(ジチオスレイトール)を5μL加え、60℃で30分間反応させた。反応終了後、123mM IAA(ヨードアセトアミド)10μLを加えて遮光下、室温で1時間反応させた。続いて400Uのトリプシンによってプロテアーゼ処理をし、タンパク質部分をペプチド断片化した。反応溶液を90℃で5分処理した後、5UのグリコシダーゼFによる処理を行って糖鎖をペプチドから遊離させ、予備処理済の生体試料を得た。
【0037】
(4)微粒子の回収
キシリトール(東京化成製、X0018)を純水で50w/v%に調整した。(2)の固定化した微粒子にキシリトール溶液を100uL加えて、80℃で5分間静置した。溶液をバキュームにより排出した後、200uLメタノールおよび200uL純水でビーズを洗浄した。
【0038】
(5)微粒子と生体試料の反応
予備処理済の生体試料の懸濁物20μLおよび180μLの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で1時間反応させビーズ上のヒドラジド基に糖を固定させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発しビーズが乾固した状態であることを目視で確認した。続いて、グアニジン溶液、水、メタノール、トリエチルアミン溶液にてビーズを洗浄後、10%無水酢酸/メタノールを添加し、室温で30分間反応させ、未反応のヒドラジド基をキャッピングした。キャッピング後、メタノール、塩酸水溶液、水にてビーズを洗浄した。
ビーズの入ったディスポカラムに超純水20μLおよび2%酢酸/アセトニトリル溶液180μLを加え、70℃で1時間反応させビーズ上の糖鎖を切り出した。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発しビーズが乾固した状態であることを目視で確認した。
【0039】
(6)標識化工程
ビーズの入ったディスポカラムに、2−aminobenzamide(2−AB)およびシアノ水素化ホウ素ナトリウムの終濃度がそれぞれ0.35M、1Mになるように30%酢酸/DMSO混合溶媒に溶解させて調整した溶液50μLを添加し、60℃で2時間反応させた。
【0040】
(7)余剰試薬除去工程
反応溶液50μLを回収し、アセトニトリルで10倍に希釈した後、付属のクリーンアップカラムに吸着させた。アセトニトリル、アセトニトリル/水混合溶液(95:5)にてカラムを洗浄後、超純水50μLにて標識糖鎖を回収した。
【0041】
(8)標識化糖鎖の検出
得られた標識糖鎖をHPLCにて測定した。アミドカラム(TSK−GEL Amide−80 4.6*250)を用いて励起波長330 nm、蛍光波長420 nmにて測定した。溶媒Aは50mMギ酸、25%アンモニア水にてpH4.4に調整したものを使用し、溶媒Bとしてアセトニトリルを使用し、溶媒A液20% (0min)→A液58%(158min)で送液した。カラム温度は30℃で流速は0.4mL/minとした。図1に測定結果を示す。実線はウシIgG糖鎖由来ピークである。
【0042】
《比較例1》
実施例1と同様のヒドラジドビーズを用いて、3次元架橋体で保存する操作を行わない以外は実施例1と同様して標識化糖鎖の検出を行なった。図2に測定結果を図2に示す。実線はウシIgG糖鎖由来ピークである。
【0043】
実施例1及び比較例1により、本手法により保存したヒドラジドビーズを用いても、通常と同様の結果が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の保存方法は、抗体ビーズ、レクチンビーズ、アビジンビーズ、ビオチンビーズ、ヒドラジドビーズ等の微粒子を一定量任意の容器に保存するのに使用できる。三次元架橋体により保存するため、保存中に微粒子が分散したり、容器壁面に付着したりすることも回避できる。微粒子を使用する際は、有機溶媒や水溶液を加える、あるいは、加熱することにより三次元架橋体を融解させ、容易に微粒子と分離することができる。また一連の操作により微粒子の有する活性基等を破壊することもない。使用毎に量り取る手間や、ロスを心配することなく微粒子保存するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)微粒子を高分子体により容器内に包括固定する工程、
(b)前記高分子体を溶解させることで前記微粒子を回収する工程、
を含むことを特徴とする微粒子の保存方法。
【請求項2】
前記高分子体が三次元架橋体である請求項1記載の微粒子保存方法。
【請求項3】
前記三次元架橋体が、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、又は合成ポリマーである請求項1又は2記載の微粒子保存方法。
【請求項4】
前記三次元架橋体が多価水酸基を有する化合物である請求項2又は3記載の微粒子保存方法。
【請求項5】
前記三次元架橋体が水溶性ポリマー溶液と水溶性化合物溶液とを混合して形成させたものである請求項2〜4いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項6】
前記水溶性ポリマー及び前記水溶性化合物が水酸基を有し、水酸基同士の可逆的共有結合の生成により三次元架橋体を形成するものである請求項5記載の微粒子保存方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマーがホスホリルコリン基及びフェニルボロン酸基を含有するポリマーであり、前記水溶性化合物が多価水酸基を有する化合物である請求項6記載の微粒子保存方法。
【請求項8】
前記多価水酸基を有する化合物が単糖類、二糖類、多糖類、低分子多価アルコール、及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一つである請求項7記載の微粒子保存方法。
【請求項9】
前記(b)の工程において、高分子体の溶解が高分子体を加熱することによりなされる請求項1〜8いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項10】
前記(b)の工程において、高分子体の溶解が高分子体に溶液を加えることによりなされる請求項1〜8いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項11】
前記高分子体に加える溶液が、複数の水酸基を有する化合物の溶液である請求項10記載の微粒子保存方法。
【請求項12】
前記複数の水酸基を有する化合物が、糖または糖アルコールである請求項11記載の微粒子保存方法。
【請求項13】
前記(b)の工程において、高分子体の溶解が有機溶媒を加えることによりなされる請求項1〜8いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項14】
前記有機溶媒が、アルコールである請求項13記載の微粒子保存方法。
【請求項15】
前記微粒子が、シリカ微粒子、高分子微粒子、金微粒子、セファロース微粒子、アガロース微粒子、及びセルロース微粒子から選ばれる少なくとも一つである請求項1〜14いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項16】
前記微粒子が、活性基を有するものである請求項1〜15いずれか記載の微粒子保存方法。
【請求項17】
前記活性基が、アビジン、ビオチン、抗体、レクチン、カルボニル基、アミノ基、アミノオキシル基、ヒドラジド基、エステル基、マレイミド基、及びチオール基から選ばれる少なくとも一つである請求項16記載の微粒子保存方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−249566(P2010−249566A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96907(P2009−96907)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】