説明

微粒子分散粗糸織物及びその製造方法

【課題】微粒子分散粗糸織物及びその製造方法において、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態として織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られること。
【解決手段】合成樹脂の溶液に微粒子を混合して分散させ(S10)、定法によって微粒子分散合成繊維を紡糸し(S11)、数十本ずつ束ねて切断し(S12)、綿状態にして(S13)、撚糸して粗糸状態とし(S14)、水溶性繊維糸を巻き付けて織物用糸とし(S15)、この織物用糸を織機で織成して、織物とする(S16)。この織物を温水に浸して、水溶性繊維糸を温水に溶解させる(S17)。これによって、巻き付けられていた水溶性繊維糸が除去され、織物用糸は元の粗糸状態に戻り、最大限まで膨らんで織り目は全て密に塞がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場等で発生した、ガス状の人体に有害な物質を捕集除去する有害物質除去フィルターのフィルター材等として使用することができる微粒子分散粗糸織物及びその製造方法に関するものである。なお、本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、「粗糸織物」とは、粗糸の状態の繊維束を織成してなる織物を意味するものとする。
【背景技術】
【0002】
従来、工場等で発生した粉塵や人体に有害な物質を含む排ガスを大気中に放出するには、チャコールフィルター等の有害物質除去フィルターを通して、これらの物質を吸着・除去した後に排出している。ここで、従来から、チャコールフィルター等における圧力損失や吸着効率を改善することが課題となっている。
【0003】
そこで、特許文献1においては、基材に粒径0.01μm〜65μmの範囲の活性炭超微粒子を保持した機能性材料をフィルターに形成した機能性フィルターの発明について開示している。このように、超微粒子の活性炭を用いることによって、その表面積が著しく大きくなって吸着効果が著しく増大するとともに、基材に対する保持性が著しく向上することから、使用中における微粒子活性炭の脱落がなく、長期間に亘って優れた効果が持続するとしている。
【0004】
また、特許文献2においては、脱臭剤・抗菌剤とともに可視光応答型の光触媒酸化チタンを不織布シートに付着させた空調器具吸排気口用脱臭フィルターの発明について開示している。これによって、室内照明として使用されている蛍光灯等の光エネルギーを利用することができる可視光応答型の光触媒を、物理的吸着を行う脱臭剤または抗菌防臭を行う抗菌剤とともに複合的に用いて、長期間に亘って脱臭や浄化を維持できる家庭用のエアコン等の空調器具吸排気口用脱臭フィルターが得られるとしている。
【特許文献1】特開2005−169382号公報
【特許文献2】特開2006−280906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の機能性フィルターにおいては、基材として何を用いるかが特に限定されておらず、具体的に実施例として挙げられているのはエチレンー酢酸ビニル共重合体からなる熱接着性シートのみであり、その吸着性の試験もアンモニア性窒素の検査液にシート状材料を浸漬するという試験方法であるため、排ガス(気体)に対する吸着効果は実証されていない。加えて、実施例において基材として用いられている熱接着性シートに対して粒径0.01μm〜65μmの範囲の活性炭超微粒子を保持させる方法は、ホットローラーによる熱圧着であるため、活性炭超微粒子を基材に均一かつ高密度に分散させることができない。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の空調器具吸排気口用脱臭フィルターにおいては、基材としての不織布に光触媒酸化チタンを脱臭剤・抗菌剤とともに付着させる方法として、光触媒酸化チタン・脱臭剤・抗菌剤をバインダーとともに分散させた溶液を作製し、この溶液に不織布を浸漬し、またはこの溶液を不織布に塗布する方法を採っているため、これらの微粒子を均一かつ高密度に付着させることができず、不織布への恒久的な密着性も得られないという問題点があった。
【0007】
これらの技術に対して、不織布を構成する合成繊維を紡糸する際に、予め活性炭超微粒子や光触媒酸化チタン微粒子等を合成樹脂溶液に分散させておいて、この分散液から合成繊維を紡糸することによって、これらの微粒子を高密度に分散させた合成繊維を作製し、この合成繊維を撚糸して更に織成して織物とし、またはこの合成繊維から不織布を形成することが考えられる。
【0008】
しかし、かかる合成繊維を撚糸して更に織成して織物とした場合には、織物の織り目が大きくなるため、排気ガス等の気体が合成繊維に保持された微粒子に接触する割合が極端に少なくなって、フィルターとしての大きな効果が得られなくなる。また、かかる合成繊維をそのまま不織布とした場合には、合成繊維を紡糸する際に生ずる合成繊維の長手方向における微粒子の不均一な分散がそのまま残って、フィルターとしての平面方向の微粒子の均一な分散が得られず、更に、不織布とした場合には密度が低くなるため、空気の通る隙間が大きくなってしまい、やはりフィルターとしての大きな効果が得られなくなるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明においては、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係る微粒子分散粗糸織物は、合成樹脂中に微粒子を分散して紡糸してなる微粒子分散合成繊維を所定長さに切断して、綿状態にして粗糸状態にまで撚糸した粗糸状態の微粒子分散合成繊維を織成してなる微粒子が略均一に分散した粗糸織物であって、前記粗糸状態の微粒子分散合成繊維に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて細くしてから織成し、織成された織物を温水に浸漬して前記水溶性繊維を溶解させてなるものである。
【0011】
ここで、「合成繊維」としては、ポリエステル繊維、6−ナイロン、6,6−ナイロン、ビニロン、アクリル繊維、塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、レーヨン等を始めとする有機質繊維を単独で、またはこれらの繊維を混用することができる。また、「微粒子」としては、炭粉、特に活性炭微粒子、備長炭微粒子、竹炭微粒子等、ゼオライト微粒子、二酸化チタン微粒子、等を用いることができる。更に、「水溶性繊維」としては、水溶性ビニロン繊維、水溶性ポバール繊維、等を用いることができる。
【0012】
請求項2の発明に係る微粒子分散粗糸織物は、請求項1の構成において、前記微粒子分散合成繊維を切断する前記所定長さは2cm〜10cmの範囲内であるものである。
【0013】
請求項3の発明に係る微粒子分散粗糸織物は、請求項1または請求項2の構成において、前記粗糸状態にまで撚糸する際の糸撚り回数は7回〜10回の範囲内であるものである。
【0014】
請求項4の発明に係る微粒子分散粗糸織物は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、前記微粒子の平均粒子径は0.5μm〜30μmの範囲内であるものである。ここで、「平均粒子径」とは、JIS(日本工業規格)で定めるように、粒子群を顕微鏡等で観察して測定した粒子径の算術平均をいうものとする。
【0015】
請求項5の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法は、微粒子が平面方向及び厚さ方向に略均一に分散した粗糸織物の製造方法であって、合成樹脂中に前記微粒子を分散して微粒子分散合成繊維を紡糸する工程と、前記微粒子分散合成繊維を所定長さに切断する工程と、切断された前記微粒子分散合成繊維を綿状態にする工程と、綿状態にされた前記微粒子分散合成繊維を粗糸状態にまで撚糸する工程と、粗糸状態にまで撚糸された前記微粒子分散合成繊維の束に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて織物用糸とする工程と、前記織物用糸を織成して織物とする工程と、前記織成された織物を温水に浸漬して前記水溶性繊維からなる糸を溶解させる工程とを具備するものである。
【0016】
請求項6の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法は、請求項5の構成において、前記微粒子分散合成繊維を切断する工程における前記所定長さは2cm〜10cmの範囲内であるものである。
【0017】
請求項7の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法は、請求項5または請求項6の構成において、前記粗糸状態にまで撚糸する工程における糸撚り回数は7回〜10回の範囲内であるものである。
【0018】
請求項8の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法は、請求項5乃至請求項7のいずれか1つの構成において、前記紡糸する工程における紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、前記微粒子の平均粒子径は0.5μm〜30μmの範囲内であるものである。ここで、「平均粒子径」とは、JIS(日本工業規格)で定めるように、粒子群を顕微鏡等で観察して測定した粒子径の算術平均をいうものとする。
【0019】
請求項9の発明に係る微粒子分散粗糸織物または微粒子分散粗糸織物の製造方法は、請求項1乃至請求項4または請求項5乃至請求項8のいずれか1つの構成において、前記合成樹脂は耐酸性に優れたポリエステル樹脂であり、前記合成繊維は耐酸性に優れたポリエステル繊維であるものである。
【0020】
ここで、「耐酸性に優れたポリエステル樹脂」及び「耐酸性に優れたポリエステル繊維」としては、代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂及びポリエチレンテレフタレート繊維を始めとして、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート繊維や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂及びポリブチレンテレフタレート繊維、等がある。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明に係る微粒子分散粗糸織物は、合成樹脂中に微粒子を分散して紡糸してなる微粒子分散合成繊維を所定長さに切断して、綿状態にして粗糸状態にまで撚糸した粗糸状態の微粒子分散合成繊維を織成してなる微粒子が略均一に分散した粗糸織物であって、粗糸状態の微粒子分散合成繊維に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて細くしてから織成し、織成された織物を温水に浸漬して水溶性繊維を溶解させてなる。
【0022】
ここで、「合成繊維」としては、ポリエステル繊維、6−ナイロン、6,6−ナイロン、ビニロン、アクリル繊維、塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、レーヨン等を始めとする有機質繊維を単独で、またはこれらの繊維を混用することができる。また、「微粒子」としては、炭粉、特に活性炭微粒子、備長炭微粒子、竹炭微粒子等や、ゼオライト微粒子、二酸化チタン微粒子、等を用いることができる。更に、「水溶性繊維」としては、水溶性ビニロン繊維、水溶性ポバール繊維、等を用いることができる。
【0023】
このように、一度合成樹脂中に微粒子を分散して紡糸してなる微粒子分散合成繊維を、切断して綿状態に戻し、もう一度粗糸状態にまで撚糸することによって、粗糸状態の微粒子分散合成繊維における長手方向の微粒子の分散も、粗糸の断面方向における微粒子の分散も、ランダムになることから均一化されて、かかる粗糸を織成してなる粗糸織物においては、平面方向についても厚さ方向についても、略均一でかつ高密度の微粒子の分散を得ることができる。
【0024】
更に、粗糸状態の微粒子分散合成繊維に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて細くしてから織成し、織成された織物を温水に浸漬して水溶性繊維を溶解させることによって、織物が粗糸状態に戻ることから密度の高い粗糸織物となり、空気の通る隙間も狭くなって、粗糸織物を透過する気体が微粒子に接触する割合も多くなる。
【0025】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物となる。
【0026】
請求項2の発明に係る微粒子分散粗糸織物においては、微粒子分散合成繊維を切断する所定長さが2cm〜10cmの範囲内である。
【0027】
切断された微粒子分散合成繊維の長さが2cm未満であると、綿状態としても粗糸状態にまで撚糸することが困難となり、切断された微粒子分散合成繊維の長さが10cmを超えると、切断して綿状態とした場合の微粒子の長手方向の分散状態を均一にする効果が少なくなってしまう。したがって、所定長さは、2cm〜10cmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物となる。
【0029】
請求項3の発明に係る微粒子分散粗糸織物においては、粗糸状態にまで撚糸する際の糸撚り回数が7回〜10回の範囲内である。糸撚り回数が7回未満では、綿状態とした微粒子分散合成繊維を粗糸状態にすることができず、糸撚り回数が10回を超えると、粗糸状態を超えて撚り糸に近くなってしまう。したがって、糸撚り回数は、7回〜10回の範囲内であることが好ましい。
【0030】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物となる。
【0031】
請求項4の発明に係る微粒子分散粗糸織物においては、紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、微粒子の平均粒子径が0.5μm〜30μmの範囲内である。ここで、「平均粒子径」とは、JIS(日本工業規格)で定めるように、粒子群を顕微鏡等で観察して測定した粒子径の算術平均をいうものとする。
【0032】
本発明に係る微粒子分散粗糸織物をフィルター等として用いるためには、微粒子の大きさとしては平均粒子径が30μm以下であることが好ましい。一方、一般的に、平均粒子径が0.5μm未満の微粒子を得るのは困難である。したがって、微粒子の平均粒子径は、0.5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0033】
また、かかる平均粒子径の微粒子を分散させるためには、紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.1mm未満であると、微粒子を取り込むことができずに繊維がばらばらになってしまう可能性がある。一方、紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.5mmを超えると、太過ぎて綿状態にすることが困難になる。したがって、紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは、0.1mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0034】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物となる。
【0035】
請求項5の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法は、微粒子が平面方向及び厚さ方向に略均一に分散した粗糸織物の製造方法であって、合成樹脂中に微粒子を分散して微粒子分散合成繊維を紡糸する工程と、微粒子分散合成繊維を所定長さに切断する工程と、切断された微粒子分散合成繊維を綿状態にする工程と、綿状態にされた微粒子分散合成繊維を粗糸状態にまで撚糸する工程と、粗糸状態にまで撚糸された微粒子分散合成繊維の束に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて織物用糸とする工程と、織物用糸を織成して織物とする工程と、織成された織物を温水に浸漬して水溶性繊維からなる糸を溶解させる工程とを具備する。
【0036】
まず、合成樹脂中に微粒子を分散して微粒子分散合成繊維を紡糸することによって、微粒子が合成繊維中に高密度に分散した微粒子分散合成繊維が得られる。しかし、こうして得られた微粒子分散合成繊維中における微粒子の分散状態は、合成繊維の長手方向についても、断面方向についても、均一ではない。この微粒子分散合成繊維を所定長さに切断して、綿状態にして、粗糸状態にまで撚糸することによって、この粗糸における微粒子の分散状態は、合成繊維の長手方向についても、断面方向についても、略均一となる。
【0037】
但し、かかる粗糸状態の合成繊維の束は、そのままでは太過ぎて織成することができないため、水溶性繊維からなる糸を巻き付けて細く絞り上げて織物用糸とする必要がある。この織物用糸を織機等を用いて織成して織物とした後、温水に浸漬することによって、水溶性繊維からなる糸が溶解して、織成された粗糸状態の合成繊維の束が粗糸状態に戻り、高密度の織物となる。
【0038】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物の製造方法となる。
【0039】
請求項6の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法においては、微粒子分散合成繊維を切断する工程における所定長さが2cm〜10cmの範囲内である。
【0040】
切断された微粒子分散合成繊維の長さが2cm未満であると、綿状態としても粗糸状態にまで撚糸することが困難となり、切断された微粒子分散合成繊維の長さが10cmを超えると、切断して綿状態とした場合の微粒子の長手方向の分散状態を均一にする効果が少なくなってしまう。したがって、所定長さは、2cm〜10cmの範囲内であることが好ましい。
【0041】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物の製造方法となる。
【0042】
請求項7の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法においては、粗糸状態にまで撚糸する工程における糸撚り回数が7回〜10回の範囲内である。糸撚り回数が7回未満では、綿状態とした微粒子分散合成繊維を粗糸状態にすることができず、糸撚り回数が10回を超えると、粗糸状態を超えて撚り糸に近くなってしまう。したがって、糸撚り回数は、7回〜10回の範囲内であることが好ましい。
【0043】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物の製造方法となる。
【0044】
請求項8の発明に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法においては、紡糸する工程における紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、微粒子の平均粒子径が0.5μm〜30μmの範囲内である。ここで、「平均粒子径」とは、JIS(日本工業規格)で定めるように、粒子群を顕微鏡等で観察して測定した粒子径の算術平均をいうものとする。
【0045】
本発明に係る製造方法により得られる微粒子分散粗糸織物をフィルター等として用いるためには、微粒子の大きさとしては平均粒子径が30μm以下であることが好ましい。一方、一般的に、平均粒子径が0.5μm未満の微粒子を得るのは困難である。したがって、微粒子の平均粒子径は、0.5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
また、かかる平均粒子径の微粒子を分散させるためには、紡糸する工程における紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.1mm未満であると、微粒子を取り込むことができずに繊維がばらばらになってしまう可能性がある。一方、紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さが0.5mmを超えると、太過ぎて綿状態にすることが困難になる。したがって、紡糸する工程における紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは、0.1mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0047】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物の製造方法となる。
【0048】
請求項9の発明に係る微粒子分散粗糸織物または微粒子分散粗糸織物の製造方法においては、合成樹脂が耐酸性に優れたポリエステル樹脂であり、合成繊維が耐酸性に優れたポリエステル繊維である。
【0049】
ここで、「耐酸性に優れたポリエステル樹脂」及び「耐酸性に優れたポリエステル繊維」としては、代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂及びポリエチレンテレフタレート繊維を始めとして、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂及びポリトリメチレンテレフタレート繊維や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂及びポリブチレンテレフタレート繊維、等がある。
【0050】
このように、微粒子分散粗糸織物を構成する合成繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を始めとする耐酸性に優れたポリエステル繊維を用いることによって、これらの合成繊維は加熱状態の弱酸や常温の強酸にも殆ど侵食されないため、微粒子分散粗糸織物が汚れた場合に酸による洗浄を行うことができ、微粒子分散粗糸織物をフィルターとして用いた場合に吸着された汚染物質を酸で溶かして除去することによって、微粒子分散粗糸織物をフィルターとして再使用することが可能となる。
【0051】
このようにして、微粒子を高密度に分散させた合成繊維を所定長さに切断して粗糸状態としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子の高密度かつ均一な分散が得られる微粒子分散粗糸織物及びその製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物及びその製造方法について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0053】
図1は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法を示すフローチャートである。図2(a)〜(f)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の製造工程の主な部分を示す説明図である。図3(a)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の水溶性繊維糸を溶解させる前の全体構成を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の完成状態を示す斜視図である。図4(a)〜(c)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物における微粒子の分散状態を示す説明図である。
【0054】
まず、本実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の製造工程について、図1のフローチャートを参照して説明する。図1に示されるように、まずステップS10において、合成樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート)の溶液に、微粒子(例えば、活性炭の微粒子)を混合して、良く分散させる。ここで、微粒子を均一に分散させるために、適宜分散剤等を使用しても良い。この分散溶液から、定法によって(例えば、押し出しノズルから溶液を押し出して、空気中で瞬間的に乾燥させることによって)微粒子分散合成繊維を紡糸する(ステップS11)。
【0055】
続いて、紡糸された微粒子分散合成繊維(フィラメント)を、後述する所定長さ範囲内になるように、数十本ずつ束ねて切断する(ステップS12)。そして、切断した微粒子分散合成繊維を綿状態にして(ステップS13)、糸撚り回数7回〜10回の範囲内で撚糸して粗糸状態とする(ステップS14)。この粗糸状態のままでは織機で織ることができないため、水溶性繊維糸としての水溶性ビニロン糸をZ撚り及び/またはS撚りで巻き付けて、織物用糸とする(ステップS15)。
【0056】
そして、この織物用糸を織機で織成して、織物とする(ステップS16)。この時点では、織物としての織り目があるため、微視的に見た場合には大きな通気孔が織物一面に存在する。この織物を、温水に浸して、用いられた水溶性ビニロン糸の溶解温度(50℃〜90℃)まで加熱することによって、水溶性ビニロン糸を温水に溶解させる(ステップS17)。これによって、巻き付けられていた水溶性ビニロン糸が除去されるため、織物用糸は元の粗糸状態に戻り、最大限まで膨らんで織り目は全て密に塞がれる。このようにして、本実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物1が製造される。
【0057】
次に、図2及び図3を参照して、各工程を具体的に説明する。図2(a)に示されるように、合成樹脂(本実施の形態においては、ポリエステル樹脂としてのポリエチレンテレフタレート(PET))を紡糸して得られた合成繊維(本実施の形態においては、ポリエステル繊維としてのPET繊維であって、太さが0.2mmの繊維)2においては、微粒子(本実施の形態においては、平均粒子径20μmの活性炭微粒子)4が、PET樹脂3の中に密に分散しているが、PET繊維2の長手方向においても断面方向においても、均一な分散は得られていない。
【0058】
図2(b)に示されるように、この微粒子分散合成繊維2を所定長さLの短繊維2aに切断する。ここで、所定長さLは、2cm〜10cmの範囲内である。図2(c)に示されるように、こうして切断された短繊維2aを綿状態5として、図2(d)に示されるように、このような綿5から、粗糸6を撚糸する。このときの糸撚り回数は、7回〜10回の範囲内とする。糸撚り回数が7回未満では、綿状態5とした微粒子分散合成繊維2aを粗糸状態6とすることができず、糸撚り回数が10回を超えると、粗糸状態6を超えて撚り糸に近くなってしまうからである。本実施の形態においては、糸撚り回数を7.5回とした。
【0059】
図2(e)に示されるように、こうして撚糸された粗糸6は、太さが10mm程度の糸になりかけの繊維の束である。このままでは、織機で織ることができないため、図2(f)に示されるように、水溶性繊維糸としての水溶性ビニロン糸7を巻き付けて細く締め付けて、太さが2mm〜3mm程度の織物用糸8とする。本実施の形態においては、水溶性ビニロン糸7をZ撚り方向に巻き付けているが、S撚り方向に巻き付けても、またZ撚り方向・S撚り方向両方に巻き付けても良い。
【0060】
そして、図3(a)に示されるように、かかる織物用糸8を織機で織成して、織物9を織り上げる。織り上げられた織物9は、図3(a)の拡大図に示されるように、織物用糸8の織り目があって、通気性が良い状態にある。この織物9を温水に浸して、水溶性ビニロン糸7を温水に溶解させることによって、巻き付けられていた水溶性ビニロン糸7が除去されるため、織物用糸8は元の粗糸状態6に戻り、最大限まで膨らんで織り目は全て密に塞がれ、図3(b)に示されるように、本実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物1が得られる。
【0061】
次に、本実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物1における微粒子(平均粒子径20μmの活性炭微粒子)4の分散状態について、図4を参照して説明する。図4(a)に示されるように、微粒子分散粗糸織物1を構成する粗糸6は、上述の如く、所定長さに切断された微粒子分散合成繊維2の短繊維2aの束で構成されている。ここで、図3(b)に示されるように、微粒子分散粗糸織物1の長さ方向をX軸、幅方向をY軸、厚さ方向をZ軸とする。
【0062】
図4(a)に示されるように、厚さ方向に重なった短繊維2aの中の活性炭微粒子4は、それぞれの短繊維2aについて見ると、長さ方向にも断面方向にも不均一に(ランダムに)分散している。しかし、これらの短繊維2aを束ねた粗糸6全体として見ると、例えばZ方向を見た場合には、ランダムな分散状態が何本も重ねられることによって、図4(b)に示されるように、Z方向を透過して見た場合には、長さ方向にも断面方向にも、均一に、かつ高密度に、活性炭微粒子4が分散している。
【0063】
これは、粗糸6全体をX方向に透過して見た場合にも、Y方向に透過して見た場合にも同様である。したがって、図4(c)に示されるように、微粒子分散粗糸織物1を拡大して見た場合には、粗糸6全体に活性炭微粒子4が均一に、かつ高密度に分散しているため、微粒子分散粗糸織物1全体としても、平面方向にも厚さ方向にも、活性炭微粒子4が均一に、かつ高密度に分散している。
【0064】
そして、水溶性ビニロン糸7を巻き付けて細く締め付けて織成して織物9とした後に、水溶性ビニロン糸7を温水に溶解させて除去することによって、図4(c)に示されるように、織物用糸8が元の粗糸状態6に戻り、最大限まで膨らんで織り目は全て密に塞がれて、密度が高い微粒子分散粗糸織物1となる。
【0065】
このようにして、本実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物1においては、微粒子としての活性炭微粒子4を高密度に分散させた合成繊維2を所定長さに切断して粗糸状態6としてこれを織成することによって、密度が高く、かつ、平面方向においても厚さ方向においても微粒子4の高密度かつ均一な分散を得ることができる。
【0066】
本実施の形態においては、微粒子分散粗糸織物1に分散させる微粒子として、平均粒子径20μmの活性炭微粒子4を用いた場合について説明したが、これに限られるものではなく、微粒子としては、活性炭微粒子4以外の炭粉である備長炭微粒子、竹炭微粒子等や、ゼオライト微粒子、二酸化チタン微粒子、等の微粒子を始めとして、微粒子分散粗糸織物の用途に応じて、あらゆる種類の微粒子を用いることができる。また、平均粒子径についても、種々の大きさのものを用いることができ、特に平均粒子径が0.5μm〜30μmの範囲内のものが好ましい。
【0067】
また、本実施の形態においては、微粒子分散粗糸織物1を構成する合成繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)繊維2を用いた場合について説明したが、合成繊維としてはPET繊維2に限られるものではなく、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、等の他のポリエステル繊維を始めとして、6−ナイロン、6,6−ナイロン、ビニロン、アクリル繊維、塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、レーヨン等の有機質繊維を単独で用いることができ、更にはこれらの繊維を混用することもできる。
【0068】
更に、本実施の形態においては、PET繊維2の太さを0.2mmとした場合について説明したが、合成繊維の種類や微粒子分散粗糸織物の用途、また分散させる微粒子の種類等に応じて、合成繊維の太さは自由に設定することができる。特に、平均粒子径が0.5μm〜30μmの範囲内の微粒子を用いる場合には、合成繊維の太さは0.1mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0069】
本発明を実施するに際しては、微粒子分散粗糸織物のその他の部分の構成、形状、数量、材質、太さ、厚さ、大きさ、接続関係等についても、微粒子分散粗糸織物の製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【0070】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物1は、平均粒子径20μmの活性炭微粒子4が高密度に、かつ均一に分散されていることから、工場等で発生したガス状の人体に有害な物質を捕集除去する有害物質除去フィルターのフィルター材として使用することができる。更には、微粒子として、ゼオライト微粒子、二酸化チタン微粒子等を用いることによって、空気の除菌フィルター・防臭フィルターのフィルター材としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)〜(f)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の製造工程の主な部分を示す説明図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の水溶性繊維糸を溶解させる前の全体構成を示す斜視図、(b)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物の完成状態を示す斜視図である。
【図4】図4(a)〜(c)は本発明の実施の形態に係る微粒子分散粗糸織物における微粒子の分散状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 微粒子分散粗糸織物
2 合成繊維
3 合成樹脂
4 微粒子
5 綿
6 粗糸
7 水溶性繊維糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂中に微粒子を分散して紡糸してなる微粒子分散合成繊維を所定長さに切断して、綿状態にして粗糸状態にまで撚糸した粗糸状態の微粒子分散合成繊維を織成してなる微粒子が略均一に分散した粗糸織物であって、
前記粗糸状態の微粒子分散合成繊維に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて細くしてから織成し、織成された織物を温水に浸漬して前記水溶性繊維を溶解させてなることを特徴とする微粒子分散粗糸織物。
【請求項2】
前記微粒子分散合成繊維を切断する前記所定長さは2cm〜10cmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の微粒子分散粗糸織物。
【請求項3】
前記粗糸状態にまで撚糸する際の糸撚り回数は7回〜10回の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子分散粗糸織物。
【請求項4】
前記紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、前記微粒子の平均粒子径は0.5μm〜30μmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の微粒子分散粗糸織物。
【請求項5】
微粒子が平面方向及び厚さ方向に略均一に分散した粗糸織物の製造方法であって、
合成樹脂中に前記微粒子を分散して微粒子分散合成繊維を紡糸する工程と、
前記微粒子分散合成繊維を所定長さに切断する工程と、
切断された前記微粒子分散合成繊維を綿状態にする工程と、
綿状態にされた前記微粒子分散合成繊維を粗糸状態にまで撚糸する工程と、
粗糸状態にまで撚糸された前記微粒子分散合成繊維の束に水溶性繊維からなる糸を巻き付けて織物用糸とする工程と、
前記織物用糸を織成して織物とする工程と、
前記織成された織物を温水に浸漬して前記水溶性繊維からなる糸を溶解させる工程と
を具備することを特徴とする微粒子分散粗糸織物の製造方法。
【請求項6】
前記微粒子分散合成繊維を切断する工程における前記所定長さは2cm〜10cmの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の微粒子分散粗糸織物の製造方法。
【請求項7】
前記粗糸状態にまで撚糸する工程における糸撚り回数は7回〜10回の範囲内であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の微粒子分散粗糸織物の製造方法。
【請求項8】
前記紡糸する工程における紡糸してなる微粒子分散合成繊維の太さは0.1mm〜0.5mmの範囲内であり、前記微粒子の平均粒子径は0.5μm〜30μmの範囲内であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1つに記載の微粒子分散粗糸織物の製造方法。
【請求項9】
前記合成樹脂は耐酸性に優れたポリエステル樹脂であり、前記合成繊維は耐酸性に優れたポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の微粒子分散粗糸織物または請求項5乃至請求項8のいずれか1つに記載の微粒子分散粗糸織物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−308774(P2008−308774A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155972(P2007−155972)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(503210441)松山毛織株式会社 (11)
【Fターム(参考)】