説明

微粒子固定化無機材料及びその製造方法

【課題】様々な機能性無機微粒子を強固に無機材料表面に固定した、微粒子固定化無機材料を提供する。
【解決手段】少なくとも表面が無機材料からなる基体1と、基体の表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤2からなり、基体の表面に形成されたカップリング層と、シランモノマーが表面に固定された無機微粒子4aからなり、カップリング層のカップリング剤と無機微粒子のシランモノマーとが共有結合し無機微粒子同士のシランモノマーが共有結合してカップリング層100aの表面に形成された無機微粒子層100bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機材料からなる基体表面上に無機微粒子が固定されることで様々な用途に応用可能な微粒子固定化無機材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性無機微粒子を基体上に固定することで、新たな特性を付与するという機能材料の開発が注目されている。様々な機能を有する無機微粒子を基体上に固定する方法としては、コロイド状の無機物や金属を水やメタノール、エタノールなどの溶媒に分散させたものを基体上にコーティングした後、加熱乾燥などにより水や溶媒を除去するものが一般的であるが、この方法で得られた微粒子固定化体では、使用環境により、微粒子が容易に剥落してしまう問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するために、反応性に優れた不飽和結合を有するシランモノマーを用いることにより、様々な材料からなる微粒子を、強固に、且つ、基体の風合いを損ねないように結合させる方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−264347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法では表面が樹脂である基体にのみ様々な機能性を有する無機微粒子を固定することができるが、金属などの無機材料への無機微粒子の固定はできなかった。
【0005】
そこで本発明は、少なくとも表面が無機材料からなる基体表面の水酸基と、カップリング剤のシラノール基が縮合反応にて結合し、さらに、カップリング剤と無機微粒子表面に固定したシランモノマー、及び、無機微粒子表面に固定したシランモノマー同士を共有結合させることにより、様々な機能性無機微粒子を強固に無機材料表面に固定した、微粒子固定化無機材料とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、第1の発明は、少なくとも表面が無機材料からなる基体と、基体の表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤を含み、基体の表面に形成されたカップリング層と、シランモノマーが表面に固定された無機微粒子を含み、カップリング層のカップリング剤と無機微粒子のシランモノマーとが共有結合し、無機微粒子同士のシランモノマーが共有結合してカップリング層の表面に形成された無機微粒子層とを有する微粒子固定化無機材料を提供するものである。
【0007】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、無機微粒子表面に固定されたシランモノマーは、不飽和結合部またはチオール基のいずれかを有する微粒子固定化無機材料を提供するものである。
【0008】
さらに、第3の発明は、上記第1または第2の発明において、カップリング層は、カップリング剤が有する不飽和結合部、チオール基、カルボキシル基、及び、アミノ基から選ばれた少なくとも1種または2種以上の官能基が、基体表面の水酸基との縮合反応にて結合して、基体の表面に形成された微粒子固定化無機材料を提供するものである。
【0009】
さらに、第4の発明は、上記第1から第3の発明において、共有結合がグラフト重合である微粒子固定化無機材料を提供するものである。
【0010】
第5の発明は、上記第4の発明において、グラフト重合が、放射線グラフト重合である微粒子固定化無機材料を提供するものである。
【0011】
第6の発明は、第1から第5の発明の微粒子固定化無機材料を用いてなる建装材を提供するものである。
【0012】
第7の発明は、第6の発明の建装材を用いてなるタイルを提供するものである。
【0013】
第8の発明は、第6の発明の建装材を用いてなるガラスを提供するものである。
【0014】
第9の発明は、第1から第5の発明の微粒子固定化無機材料を用いてなる内装材を提供するものである。
【0015】
第10の発明は、第1から第5の発明の微粒子固定化無機材料を用いてなる金属繊維構造物を提供するものである。
【0016】
第11の発明は、第10の発明の金属繊維構造物を用いてなる印刷用メッシュを提供するものである。
【0017】
第12の発明は、第10の発明の金属繊維構造物を用いてなる防虫網を提供するものである。
【0018】
第13の発明は、第10の発明の金属繊維構造物を用いてなるフィルターを提供するものである。
【0019】
第14の発明は、少なくとも表面が無機材料からなる基体の表面の水酸基とカップリング剤とを縮合反応にて結合して、基体の表面に前記カップリング剤を含むカップリング層を形成する工程と、カップリング剤と無機微粒子の表面に固定されたシランモノマーとを共有結合させるとともに、無機微粒子同士のシランモノマーを共有結合させて、カップリング層の表面に無機微粒子を含む無機微粒子層を形成する工程とを有する微粒子固定化無機材料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無機材料の基体表面に施したカップリング剤と様々な機能を有する無機微粒子表面に固定したシランモノマーとを共有結合にて結合させるため、無機微粒子は無機材料表面に強固に固定することが可能となり無機微粒子の持つ機能が充分に発現し、さらに、無機微粒子は、単粒子膜状、多層粒子膜状、島状、及び、点状など様々な形態で固定できることから、目的に合った微粒子固定化無機材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下に、本発明の第1実施形態の微粒子固定化無機材料及びその製造方法について詳述する。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態の微粒子固定化無機材料100の模式図である。本実施形態の微粒子固定化無機材料100は、無機材料の基体1と、無機材料の基体1の表面の水酸基との縮合反応によって結合したカップリング剤2からなるカップリング層100aと、シランモノマー5を表面に固定した無機微粒子4aからなる無機微粒子層100bとで構成されている。無機微粒子層100b中の無機微粒子4aはシランモノマー5がカップリング剤2の不飽和結合部またはチオール基と共有結合(図中のA)することで、カップリング剤2を介して、無機材料の基体1に固定されている。さらに、無機微粒子層100b中の無機微粒子4a同士は、無機微粒子4aの表面に固定したシランモノマー同士が共有結合(図中のA)にて互いに結合し、無機微粒子層100bを構成している。また、無機微粒子層100bは島状や点状のように構成され、無機微粒子4aが無機材料の基体1の表面の全てを覆ってなくともよい。
【0023】
本発明の第1実施形態の微粒子固定化無機材料100の無機材料の基体1を構成する無機材料としては、シランカップリング剤2による共有結合Aが可能な材料であれば特に限定されないが、金属及びセラミックスなど、材料の表面に酸化物の薄膜が形成されていることが好ましい。具体的には、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM、W-Reなどの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金及びその合金、ステンレス鋼、亜鉛及びその合金、マグネシウム及びその合金、などの汎用金属、また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などで処理した無機材料が用いられる。
【0024】
本実施形態の基体1を構成する無機材料が金属及びその合金である場合には、その表面には、カップリング剤2が脱水縮合反応により共有結合するための酸化薄膜が形成されていることが、無機微粒子4aを無機材料の基体1の表面に強固に固定する為には特に必要となる。上述した金属及びその合金表面には、通常、自然酸化薄膜が形成されており、この酸化薄膜を利用するためには、予め、通常の公知の方法により付着している油分や汚れを除去することが、安定に,且つ、均一に無機微粒子4aを固定するためには好ましい。さらに、公知の方法により化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な公知の方法により酸化薄膜を形成してもよい。
【0025】
さらに、本実施形態の基体1を構成する無機材料がセラミックスである場合には、土器、陶器、せっき、磁気などの陶磁器、ガラス、セメント、石膏、ほうろう及びファインセラミックスなどを用いることができる。本実施形態の無機材料の基体1を構成するセラミックスの組成は、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系などのセラミックスを用いることができ、また、それらの複合物でもよい。
【0026】
本実施形態の基体1を構成する無機材料がガラスである場合には、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、有機ガラス、ウランガラス、アクリルガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどのガラスを用いることが可能である。
【0027】
本実施形態の基体1を構成する無機材料がセメントである場合には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を添加した混合セメントである高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメントなどのセメントを使用することが可能である。
【0028】
本実施形態の基体1を構成する無機材料がファインセラミックスである場合には、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを用いることが可能である。
【0029】
また、本実施形態の無機材料の基体1として、セラミックスを用いたタイルを使用することができる。具体的には、陶磁器タイル、ガラスタイル、吹きつけタイル、光触媒タイル、抗菌タイル、防かびタイル、防藻タイル、その他の加工タイルなどを用いることが可能である。
【0030】
本実施形態の基体1を構成する無機材料の形態は、板状や、柱状や、繊維状、ハニカム状、ディスク状、フィルム状、メッシュ状など、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものが適用でき、特に制限されるものではない。
【0031】
本実施形態のカップリング層100aは、カップリング剤2が基材1の表面上に配列して固定することにより構成される。本実施形態のカップリング層100aを構成するカップリング剤2としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基、チオール基などを有するシランカップリング剤が主に用いられる。
【0032】
本実施形態の無機微粒子層100bは、無機微粒子4aがカップリング層100aの表面上に配列して固定することにより構成される。本実施形態の無機微粒子4aの表面には、不飽和結合部またはチオール基を有するシランモノマー5が結合している。シランモノマー5は、不飽和結合部またはチオール基を無機微粒子4aの外側に向けて主に配向する。これは、シランモノマー5の片末端であるシラノール基が親水性であるため、無機微粒子4a表面との親和性が高く、逆末端の不飽和結合部またはチオール基はシラノール基よりも疎水性であるため、無機微粒子4aの表面から離れようとする傾向があるからである。このため、シランモノマー5のシラノール基は、無機微粒子4aの表面に縮合反応により結合し、シランモノマー5は不飽和結合部またはチオール基を外側に向けて主に配向する。従って、多くのシランモノマー5については不飽和結合部またはチオール基を外側に向けて無機微粒子4aと結合しており、また、一部のシランモノマー5については、シラノール基を外側に向けて無機微粒子4aと結合している。
【0033】
そして、本実施形態の無機微粒子4a同士は、互いのシランモノマー5の不飽和結合部またはチオール基同士が共有結合して結合して無機微粒子層100bを形成している。さらに、無機微粒子4aの表面に固定されたシランモノマー5の不飽和結合部またはチオール基が無機材料の基体1上のカップリング剤2と共有結合して、カップリング層100aの表面に無機微粒子4aが固定されることで、本実施形態の微粒子固定化無機材料100は構成される。
【0034】
本実施形態のシランモノマー5が有する不飽和結合部としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基や、チオール基などが挙げられる。
【0035】
本実施形態の微粒子固定化無機材料100で用いられるシランモノマー5の例としては、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランや、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩や、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランや、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランや、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランや、p-スチリルトリメトキシシランや、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランや、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランや、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランや、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランや、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-(トリヒドロキシル)-1-プロパンスルフォン酸、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、(3-トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、N-(トリメトキシシリルプロピル)イソチオウロニウムクロリド、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリn-ブチルアンモニウムクロリド、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリn-ブチルアンモニウムブロミド、3-トリヒドロキシルプロピルメチル-リン酸,ナトリウム塩、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン トリ酢酸,ナトリウム塩、などが挙げられる。
【0036】
本実施形態の微粒子固定化無機材料100に用いられる無機微粒子4aとしては、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物、窒化物、及び、炭化物などが用いられる。また、無機微粒子4aの結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物として酸化珪素や、金属酸化物として、例えば、酸化マグネシウムや、酸化バリウムや、過酸化バリウムや、酸化アルミニウムや、酸化スズや、酸化チタンや、過酸化チタンや、酸化ジルコニウムや、酸化鉄や、水酸化鉄や、酸化タングステンや、酸化ビスマスや、酸化インジウムや、金属複合酸化物として、酸化チタンバリウムや、酸化コバルトアルミニウムや、酸化ジルコニウム鉛や、酸化ニオブ鉛や、TiO2-WO3や、AlO3-SiO2や、WO3-ZrO2や、WO3-SnO2や、窒化物として窒化チタンや、窒化タンタル、窒化ニオブや、炭化物として炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ニオブなどが挙げられる。
【0037】
更に、本実施形態の無機微粒子4aの内部又は表面に、触媒活性を示す金属微粒子や金属化合物、例えばイリジウム、コバルト、クロム、ニッケル、バナジウム、パラジウム、ランタン、ルテニウム、銅、銀、白金、金などを含有または担持させても良い。
【0038】
図2は、本発明の第2実施形態の微粒子固定化無機材料を示す図である。本発明の第1実施形態では、無機微粒子層100bは無機微粒子4aが1種類の単粒子層で形成されていたが、本発明の第2実施形態の微粒子固定化無機材料200では、無機微粒子層200bの無機微粒子4aは複数重なって積層して構成されている。また、無機微粒子層200bの構成はこれに限られず、さらに、無機微粒子層200bが島状や点状のように構成され、無機微粒子4aが無機材料の基体1の表面の全てを覆ってなくともよい。
【0039】
図3は、本発明の第3実施形態の微粒子固定化無機材料を示す図である。図3に示すように、本発明の第3実施形態の微粒子固定化無機材料300は、無機微粒子4aが形成する無機微粒子層300bの表面には、異なる種類の無機微粒子4bを1種もしくは2種以上混合した無機微粒子層300cをさらに形成してある。
【0040】
図4は、本発明の第4実施形態の微粒子固定化無機材料を示す図であり、図5は、本発明の第5実施形態の微粒子固定化無機材料を示す図である。微粒子固定化無機材料400及び500の無機微粒子層400b及び500bは、無機微粒子4aと無機微粒子4bが混在して構成されている。
【0041】
上記各実施形態の微粒子固定化無機材料300から500に用いられる無機微粒子4bとしては、例えば光触媒機能を発現する材料や、抗菌性を有する材料や、マイナスイオンを放出する材料や、遠赤外線を放出する材料や、反射防止特性を有する材料や、近赤外線を吸収する材料などが挙げられる。
【0042】
ここで無機微粒子4bとして光触媒微粒子を用いる場合、または、光触媒微粒子を含む場合には、光触媒微粒子のもつ親水性機能により、付着した汚れが容易に洗い流されるなどの効果や、光触媒微粒子のもつ有機物を光分解する機能による付着汚れの分解除去の効果も加わることにより、粒子状浮遊物質だけでなく液状やタール状、噴霧状、煙霧状、ガス状の汚染物質、吸着物質に対しても優れた防塵・防汚効果が得られる。
【0043】
ここで光触媒微粒子とは、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射することで、光触媒機能を発現する粒子のことであり、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化鉄、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、セレン化カドミウムなどの公知の金属化合物半導体を、単一または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
光触媒微粒子の内部やその表面には、光触媒機能を増す目的で、イリジウム、コバルト、クロム、ニッケル、バナジウム、パラジウム、ランタン、ルテニウム、銅、銀、白金、金などの金属微粒子や金属化合物を含有または担持させても良い。
【0045】
無機微粒子4bとして抗菌性を有する微粒子を用いる場合は、特に黴や細菌、微生物の繁殖による汚れを防止することができる。無機系の抗菌性を有する材料としては、銀、銅、亜鉛、錫、鉛及びこれらの化合物などが通常知られているが、特にその中でも、銀、銅、亜鉛及びそれらの化合物から選ばれる1種以上の抗菌性を有する材料は、抗菌特性や人体への安全性などの観点から様々な分野で利用されている。
【0046】
これらの金属及びそれらの化合物は、単体としても用いられるが、材料によっては変色したり抗菌性を付与する材料の着色の原因となることから、無機微粒子4aに担持して使用される。また、一般に市販されている抗菌性を有する材料の微粒子、例えば、東亞合成(株)製「ノバロン」、(株)シナネンゼオミック製「ゼオミック」、(株)サンギ製「アパタイザーA」、大日精化工業(株)製「ダイキラー」、松下電器産業(株)製「アメニトップ」、触媒化成工業(株)製「アトミーボール」、カネボウ化成(株)製「バクテキラー」なども用いることができる。
【0047】
図6は、本発明の第6実施形態の微粒子固定化無機材料を示す図である。上記各実施形態に示す無機微粒子4a及び4bからなる無機微粒子層100b〜500bの厚さが厚くなると、層自身の応力や使用環境によっては凝集破壊により劣化することもある。図6に示すように、本発明の第6実施形態の微粒子固定化無機材料では、シランモノマー5で無機微粒子4aを被覆した後に、バインダー成分7を添加している。バインダー成分7は、無機微粒子4aに固定したシランモノマー5同士、及び無機材料の基体1に固定したカップリング剤2とを相互に結合することにより、無機微粒子層600bが凝集破壊等により劣化し、剥離することを抑制する。バインダー成分7としては、無機微粒子4aを被覆しているシランモノマー5の反応性基や、基材1に固定したカップリング剤2の反応性基と化学的に結合しうる反応サイトとして、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基等の不飽和基や、アルコキシ基を、分子の構成要素として保有することが望ましい。
【0048】
具体的なバインダー成分7としては、不飽和結合を有する単官能、2官能、多官能のビニル系モノマー、例えば、アクリル酸、メチルメチルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、イタコン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが用いられる。
【0049】
さらに、バインダー成分7としては、不飽和結合を有するシランモノマーとして、例えば、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシランや、ビニルトリアセトキシシランや、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが用いられる。
【0050】
さらに、バインダー成分7としては、Si(OR14(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、例えば、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR34n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、メチルトリルメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなどが用いられる。
【0051】
また、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体やシランカップリング剤をバインダー成分7に用いた場合には、表面が撥水性や撥油性などの特性を発現し、且つ、摩擦帯電がし難くいことから、土埃や花粉などの粒子状浮遊性物質や、醤油やコーヒー、ジュースなどの液状物質が付着し難くなる。これにより、実用に優れた防汚性を有する微粒子固定化無機材料が提供できる。
【0052】
さらに、バインダー成分7としては、撥水性や撥油性を有する物質として、例えば、ステアリン酸アクリレートや、反応性シリコーンオイルが用いられる。
【0053】
さらに、バインダー成分7としては、撥水性や撥油性を有する物質として、反応性シリコーンオリゴマー、例えば、松下電器産業株式会社製ブルッセラDが用いられる。
【0054】
さらに、バインダー成分7としては、撥水性や撥油性を有する物質として、パーフルオロアルキル基を有するアクリル単量体、例えば、2-(パーフルオロプロピル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロペンチル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロノリル)エチルアクリレートや、2-(パーフルオロデシル)エチルアクリレートや、3-パーフルオロヘキシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレートや、パーフルオロオクチルエチルメタクリレートや、3-パーフルオロオクチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレートや、3-パーフルオロデシル-2-ヒドロキシプロピルアクリレートなどが用いられる。
【0055】
さらに、バインダー成分7としては、撥水性や撥油性を有する物質として、その他のフッ素化合物、例えば、2-パーフルオロオクチルエタノールや、2-パーフルオロデシルエタノールや、2-パフルオロアルキルエタノールや、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)や、パーフルオロアルキルアイオダイドや、パーフルオロオクチルエチレンや、2-パーフルオロオクチルエチルホスホニックアシッドなどが用いられる。
【0056】
さらに、バインダー成分7としては、撥水性や撥油性を有する物質として、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、CF3(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)5(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)11(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)15(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3や、CF3(CH2)2SiCH3(OCH3)2や、CF3(CF2)2(CH2)2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)5(CH2)2SiCH3(OCH3)2や、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OCH3)2や、CF3(CF2)7(CH2)2SiCH3(OC2H5)2や、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3や、CF3(CF2)7(CH2)2Si(OC2H5)3や、CH3(CF2)9(CH2)8Si(OC2H5)3や、CF3(CF2)7CONH(CH2)3Si(OCH3)3や、CF3(CF2)7CONH(CH2)2SiCH3(OCH3)2や、パーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー、例えば、KP-801M(信越化学工業株式会社製)や、X-24-7890(信越化学工業株式会社製)などが用いられる。
【0057】
本実施形態の無機微粒子層600b中のバインダー成分7の含有量は、無機微粒子4aの含有量に対して0.1質量%以上の含有量となるように添加すればよい。また、バインダー成分7の添加量の増加とともに、無機微粒子層600bは強固な層を形成でき、耐久性の向上も期待できる。しかしながら、バインダー成分7が、無機微粒子4aの含有量に対して40質量%を超える場合には、無機微粒子4aの表面を被覆する割合が大きくなることにより表面が帯電しやすくなる。
【0058】
これにより、防塵性や、付着した粒子状浮遊性物質の塵離れ性は低下し、無機微粒子4aが凝集して、無機微粒子層600bにピンホールなどの欠陥が顕著に発生することとなる。また、バインダー成分7が、無機微粒子4aの含有量に対して0.1質量%未満であると、無機微粒子層600bを強固に固定することができず耐久性が不十分となる。したがって、防塵性、塵離れ性を保持しつつ耐久性の向上が達成できる範囲としては、バインダー成分7の含有量は、無機微粒子4aの含有量に対して0.1質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。
【0059】
本実施形態では、シランモノマー5で被覆した無機微粒子4aの表面にバインダー成分7が自己組織化的に任意の間隔で配向するので、バインダー成分7の充填量を少なくすることが可能となり、また、効率的にバインダー成分7の持つ様々な機能も発現できる。さらに、抗菌性、抗ウィルス性、抗アレルゲン性、抗血栓性などの特性を発現する物質をバインダー成分7の一部と置き換えることで、防塵性や塵離れ性、或いは撥水・撥油性などの防汚性の機能を低下させないで、様々な機能を有した本実施形態の微粒子固定化無機材料600を提供することが可能となる。
【0060】
次に、本発明の各実施形態の微粒子固定化無機材料100から600の製造方法について説明をする。
【0061】
本発明の各実施形態の微粒子固定化無機材料100から600の製造方法は、無機材料の基体1の表面を洗浄剤により洗浄して基材の表面に存在する酸化薄膜の表面に吸着している汚れを除去して水酸基を露出させたり、或いは、汚れを除去した後、酸化薄膜を酸やアルカリを含む溶液に浸漬して除去し、新たに従来の公知の方法により酸化薄膜を形成して水酸基を導入し、カップリング剤2を縮合反応により無機材料の基体1表面に固定してカップリング層を形成する工程と、不飽和結合部またはチオール基を有するシランモノマー5のシラノール基を縮合反応により無機微粒子4a及び4bの表面に共有結合させる工程と、無機材料の基体1の表面のカップリング剤2と無機微粒子4a及び4bの表面のシランモノマー5とを、後述するグラフト重合などにより共有結合させて無機微粒子層を形成する工程とを含む。
【0062】
本発明の各実施形態の無機微粒子4a及び4bは、シランモノマー5の溶液に分散した状態で製造に用いられる。無機微粒子4a及び4bの分散は、ホモミキサーやマグネットスターラーなどを用いた撹拌分散や、ボールミルや、サンドミルや、高速回転ミルや、ジェットミルなどを用いた粉砕・分散、超音波を用いた分散などにより行われる。
【0063】
さらに、無機微粒子4a及び4bは、分散したコロイド状分散液や、粉砕により微粒子化して得られた分散液の状態で用いられる。無機微粒子4a及び4bの分散液は、コロイド状分散液や粉砕して得られた分散液にシランモノマー5を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子4a及び4bの表面にシランモノマー5を縮合反応により固定させる方法や、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー5を加えた後、或いは、シランモノマー5を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー5を無機微粒子4a及び4bの表面に縮合反応により固定させ、次いで、粉砕・解砕して再分散して用いられる。
【0064】
その方法としては、シランモノマー5を、無機微粒子4a及び4bが有機溶剤に分散した溶液に、無機微粒子4a及び4bの重量%に対して0.01質量%から40質量%加えて、粉砕により微粒子化した後、上記分散溶液を固液分離して、得られた微粒子化した無機微粒子4a及び4bを100℃から180℃で加熱してシランモノマー5を無機微粒子4a及び4bの表面に固定させる方法や、有機溶剤に分散させた溶液に、シランモノマー5無機微粒子4a及び4b重量%に対して0.01質量%から40質量%加えて、粉砕により微粒子化した後、上記分散溶液を、冷却管を備えたフラスコに移して、フラスコをオイルバスで加熱処理することにより、シランモノマー5を無機微粒子4a及び4bの表面に固定させる方法などがある。
【0065】
粉砕により微粒子化して得られた無機微粒子4a及び4b分散液にシランモノマー5を加えた後、或いは、シランモノマー5を加えて粉砕により無機微粒子4a及び4bを微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー5を無機微粒子4a及び4bの表面に共有結合させる場合には、無機微粒子4a及び4bの質量%に対して、0.01質量%から40質量%のシランモノマー5(すなわち、無機微粒子4a及び4bとシランモノマー5との重量比が、100:0.01〜40)が、無機微粒子4a及び4bの表面に結合されてあれば、無機微粒子4a及び4bの無機材料の基体1の表面への結合強度は実用上問題ない。
【0066】
次に、基材1の表面に水酸基を導入する手法について説明をする。基材1が金属の場合には、表面の汚れや腐食生成物を含む酸化薄膜を酸やアルカリで除去した後、硝酸やクロム酸などの酸化性酸を含む水溶液や酸化剤を含むアルカリ水溶液などに浸漬して、金属表面に化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な方法により酸化薄膜を形成する一般的な公知の方法で水酸基を導入すればよい。また、基材1がセラミックス及びセメントの場合には、表面の汚れを除去する程度でよく、セラミックスの材料の種類によっては汚れを除去した後に高温熱処理を行なえばよい。さらに、基材1がガラス及び金属酸化物の場合には、組成中の酸化物が水酸基に置換され易いので、汚れを除去する程度でよい。
【0067】
次に、シランモノマー5が表面に結合した無機微粒子4a及び4bを無機材料の基体1の表面に固定する。
【0068】
第一の好適な方法としては、洗浄及び酸化皮膜を除去し水酸基を露出した無機材料の基体1の表面にカップリング剤2を塗布し脱水縮合する。次に、シランモノマー5が固定された無機微粒子4a及び4bが分散した溶液を、カップリング剤2が共有結合した無機材料の基体1の表面に塗布し、必要に応じて溶剤を加熱乾燥などの方法により除去した後、γ線や、電子線や、紫外線などの放射線を照射する。これにより、無機微粒子4a及び4b表面上のシランモノマー5と無機材料の基体1表面のシランカップリング剤2とをグラフト重合させると同時に無機微粒子4a及び4bを結合させる、同時照射グラフト重合により製造される。
【0069】
具体的なカップリング剤2及び無機微粒子4の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、または部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0070】
また、本発明の各実施形態の無機材料の基体1の表面の汚れの除去は、一般公知のアルカリ洗剤、アルカリ性脱脂剤、酸性脱脂剤、バフカス除去剤、フッ素系、臭素系、炭化水素系、水系、準水系、塩素系、リン酸系などの洗浄剤や各金属専用洗剤などを用いて行えばよい。
【0071】
次に、本発明の各実施形態での無機材料の基体1表面のカップリング剤2とシランモノマー5が結合した無機微粒子4a及び4bとを共有結合させる方法について説明する。本発明の各実施形態では、共有結合させる方法としてグラフト重合による結合方法を用いる。
【0072】
本発明の各実施形態で用いるグラフト重合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合や、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合や、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられる。
【0073】
このうち、重合プロセスの簡便性や、生産スピード等の観点より、放射線グラフト重合が特に適している。ここで、グラフト重合において用いられる放射線としては、α線や、β線や、γ線や、電子線や、紫外線などを挙げることができるが、γ線や、電子線や、紫外線が特に適している。
【0074】
図7は、上記製造方法にて製造された本実施形態の微粒子固定化無機材料における無機材料の基体1とカップリング剤2とシランモノマー5と無機微粒子4aとの結合関係の詳細を示す図である。図に示すように、無機材料の基体1とカップリング剤2とは、無機材料の基体1表面の水酸基とカップリング剤2のシラノール基(加水分解基)とが脱水縮合反応することによる共有結合により結合する(図中のB)。また、カップリング剤2とシランモノマー5とは、互いの不飽和結合部またはチオール基(有機官能基)の共有結合により結合する(図中のA)。また、シランモノマー5と無機微粒子4aとは、シランモノマー5のシラノール基(加水分解基)が無機微粒子4aの表面との縮合反応により結合する(図中のC)。
【0075】
上記の結合関係がもたらす特徴として、カップリング剤2とシランモノマー5とが共有結合により結合する(図中のA)ため、水素結合などによる結合方法と比べ無機微粒子4aを基体1に強固に固定することが可能となる。またこの結合Aは電子線照射によるラジカル重合により形成されるため簡便かつ再現性がよく、また水分の影響も受けにくい。更に、不飽和結合部とチオール基が反応する場合には、酸素による重合阻害を抑制でき、より高い反応性を示し、耐熱性にも優れるという特徴を有する。
【0076】
また、基体1と結合するカップリング剤2の量及び無機微粒子4aと結合するシランモノマー5の量を調整することにより、基体1に固定化する無機微粒子4aの量及び密着性を自在に制御することも可能である。
【0077】
更に、通常のバインダー樹脂などで無機微粒子4aを基体1に固定化した方法などでは、無機微粒子4aの機能がバインダー樹脂の影響により妨げられるが、本方法では、無機微粒子4a表面に僅かな量のシランモノマー5を結合(図中のC)させることが可能であるため、無機微粒子4aの機能を妨げることが少ない。
【0078】
以上説明したように、本発明の各実施形態の微粒子固定化無機材料及びその製造方法によれば、無機材料の基体1の表面に固定されたカップリング剤2と不飽和結合を有するシランモノマー5が被覆された無機微粒子4a及び4bとが共有結合しているため、無機微粒子4a及び4bに対して通常樹脂などをバインダーとして用いた場合より、無機微粒子4a及び4bの機能が効率よく発現できる。さらに無機材料の基体1の表面に対して脱水縮合により反応させたカップリング剤2と、無機微粒子4a及び4bの表面に縮合反応で共有結合させて導入された不飽和結合部またはチオール基を有するシランモノマー5とが結合すること、及び、無機微粒子4a及び4bの表面に導入した不飽和結合同士が強力に結合することにより、優れた耐久性が長期間維持できるものである。
【0079】
また、本実施形態の微粒子固定化無機材料及びその製造方法によれば、無機微粒子4a及び4bを共有結合により無機材料の基体1に強固に固定できることから、製品形状とした後で、または、製品化の過程で行うことが可能であり、様々な分野で応用できる微粒子固定化無機材料を提供することができる。
【0080】
なお、本発明の各実施形態の微粒子固定化無機材料及びその製造方法において、無機材料の基体1は、例えば、板状、柱状、繊維状、メッシュ状、ハニカム状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることが可能であるため、これら様々な形態の各種無機材料の基体に無機微粒子4a及び4bの様々な機能を付加することが可能となる。これにより、ビルなどの掃除のしにくい窓ガラスをはじめ、窓枠、外壁材、サッシ、ドアノブ、ブラインド、鉄筋コンクリート、鉄骨材、及び防虫網などの建装材や、タイル、及び鏡などの内装材や、バグフィルター、自動車用、エアコン用、空気清浄機用、掃除機用、洗濯機用、及び自動車用、などのフィルター類や、製粉用、トナー用、及び砂金用などの篩網類や、ハードディスク、及び電子基板などの電子部品や、金網、印刷用メッシュ、粉体を処理する気流式粉砕機、ジェットミル、インラインシフター、及びスクリューフィーダなどの製粉プラントの粉体が付着し易い部品や、印刷用メッシュ、防虫網、及びフィルターなどの金属繊維構造物など、幅広い分野に優れた各種製品を提供することが可能となる。
【実施例】
【0081】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
本発明方法による下記実施例1〜実施例11の微粒子固定化体の製造にあたっては、岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型電子線照射装置CB250/15/180Lを用い、電子線グラフト重合により実施した。これに対して、各比較例の防塵性を有する複合部材の製造にあたっては、特に記載が無い限り電子線は用いず、塗布後加熱、乾燥の方法とした。
【0083】
(実施例1)
市販の二酸化チタン粒子(石原産業株式会社製、TTO-S-1)をメタノールに10.0質量%分散してpHを3.0に塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径15nmに粉砕分散した。得られた分散溶液にシランモノマーとして不飽和結合を有する3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を微粒子に対して3.0質量%加えた後、この粉砕分散溶液を、冷却管を備えたフラスコに移してフラスコをオイルバスで加熱し、4時間還流下で処理することにより二酸化チタン微粒子表面にシランモノマーを脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。ビーズミルにより再度粉砕分散したところ、得られた分散溶液中の二酸化チタン微粒子の平均粒子径は14nmであった。なお、ここでいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。
【0084】
また、AGCファブリテック社製の厚さ1mmガラス板FL11Aの表面をアルカリ洗剤で洗浄後、イオン交換水で洗浄し、メタノールに浸漬後、乾燥機で乾燥させる。洗浄したガラス板に3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-803)を0.5質量%加えたイソプロピルアルコールをスピンコーターを用い2000rpm、2分塗布した。得られたガラス板を乾燥機にいれ150℃、30分脱水縮合を行った。更に上記二酸化チタン微粒子分散液3質量%をスピンコーターを用い2000rpm、2分塗布し、150℃、5分間乾燥した。次に、二酸化チタン微粒子分散液を塗布したガラス板に電子線を200kVの加速電子で5Mrad照射することで、二酸化チタン微粒子表面のシランモノマーと、ガラス板上に脱水縮合により固定化されたシランカップリング剤とをグラフト重合させることにより、二酸化チタン微粒子をガラス板上に固定したガラス板を得た。
【0085】
(実施例2)
基材に純アルミニウム系A1050P板の表面を奥野製薬工業株式会社製、弱アルカリ性脱脂剤トップアルクリーン161を30g/L含む、50℃に加温した水溶液に5分間浸漬した後、アルカリ洗浄剤アルクリーン水溶液で洗浄し、次いでイオン交換水で洗浄した。その後、希硝酸5質量%に30秒間浸漬してアルカリ成分を中和除去し、その後、メタノールに浸漬後、70℃の雰囲気下で10分間乾燥して清浄な自然酸化薄膜を形成した以外は実施例1と同様である。
【0086】
(実施例3)
基材にタフビッチ銅C1100P板を用い、希塩酸5質量%に30秒間浸漬した以外は実施例2と同様である。
【0087】
(実施例4)
基材に高級ステンレス鋼SUS304板を用いた以外は実施例2と同様である。
【0088】
(実施例5)
市販のジルコニア微粒子(日本電工株式会社製、PCS)をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を微粒子に対して5.0質量%加えてpHを4.0に塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径16nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱してシランモノマーをジルコニア微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。
【0089】
メタノールに上記方法で作製したシランモノマー被覆ジルコニア微粒子を3質量%となるよう加え、シランモノマー被覆ジルコニア微粒子に対して、バインダー成分としてテトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-04)を30.0質量%分散し、ビーズミルにより平均粒子径16nmに再度粉砕分散した。
【0090】
実施例1で用いたガラス板を同様の条件で洗浄した後、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-503)を1.0質量%含むメタン−ル溶液をスプレーにて塗布し、120℃、10分間乾燥することで、シランカップリング剤をガラス表面に脱水縮合反応により結合させた。次に、バインダーを含むシランモノマー被覆ジルコニア分散液をスプレーにて塗布し、100℃、5分間乾燥後、電子線を200kVの加速電子で5Mrad照射することで、ジルコニア微粒子が固定されたガラス板を得た。
【0091】
(実施例6)
バインダー成分としてパーフルオロアルキル基とシラノール基を有するオリゴマー(信越化学工業株式会社製KP-801M)を、シランモノマーで被覆されたジルコニア微粒子の含有量に対して10質量%加える以外は実施例5と同様である。
【0092】
(実施例7)
ステンレス鋼SUS304の板を奥野製薬工業株式会社製、弱アルカリ性脱脂剤トップアルクリーン161を30g/L含む、50℃に加温した水溶液に5分間浸漬し、SUS表面の汚れを除去した。次に、60質量%の50℃に加温した濃硝酸溶液に、洗浄したSUS304板を10分間浸漬して緻密な酸化薄膜を形成した。酸化薄膜を形成したSUS304板表面にシランカップリング剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-803)を0.5質量%加えたイソプロピルアルコールをスプレーにて塗布し、120℃、5分間乾燥してSUS304表面にシランカップリング剤を脱水縮合により結合させ、その後、実施例5で用いたバインダーを含むシランモノマー被覆ジルコニア分散液をスプレーにて塗布し、100℃、5分間乾燥後、電子線を200kVの加速電子で5Mrad照射することで、ジルコニア微粒子が固定されたSUS304板を得た。
【0093】
(実施例8)
純アルミニウム系A1050P板を、水酸化ナトリウムを3質量%含む50℃に加温した水溶液に30秒間浸漬し、水洗後、5質量%硝酸水溶液に浸漬してアルカリ成分を除去した。水洗後、15質量%の硫酸を含む20℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボン電極を設置して、アルミニウム板を陽極として1.5A/dmの電流密度で30分間電流を印加し、7ミクロンの厚さの多孔質酸化皮膜を形成した以外は実施例7と同様である。
【0094】
(比較例1)
洗浄したガラス板に3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-803)を加えたイソプロピルアルコールを塗布しないこと以外は実施例1と同様である。
【0095】
(比較例2)
洗浄した純アルミニウム系A1050P板に清浄な自然酸化薄膜を形成し、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-803)を0.5質量%加えたイソプロピルアルコールを塗布しない以外は実施例2と同様である。
【0096】
(比較例3)
洗浄したSUS304板の表面に60質量%の50℃に加温した濃硝酸溶液にSUS板を浸漬して緻密な酸化薄膜を形成し、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM-803)を0.5質量%加えたイソプロピルアルコールを塗布しない以外は実施例7と同様である。
【0097】
以上の実施例1から8及び比較例1から3の各条件について表1にまとめた。
【0098】
【表1】



【0099】
(固定した無機微粒子の特性評価)
各種無機材料表面に固定した無機微粒子の密着性はJIS K 5400の碁盤目セロテープ(登録商標)剥離試験で試験し、剥離の状態は光学顕微鏡にて確認した。
【0100】
防塵性は、得られた微粒子固定化無機材料の表面にJIS Z 8901に準拠した混合ダストを、万遍なく振りかけた後、過剰分の混合ダストを軽い衝撃を加えて除去し、その表面を光学顕微鏡で観察して混合ダストの付着を観察した。
【0101】
また、固定した微粒子の耐久性は、得られた無機微粒子固定化体をイオン交換水で30分間超音波洗浄した後、その表面を操作型電子顕微鏡を用い観察し、評価した。
【0102】
さらに、各実施例で得られた微粒子固定化無機材料の表面の水に対する濡れ性は、1.0mWの強度で紫外線をUVランプ(東芝ライテック株式会社製、FL20SBLB)用いて10時間照射後、協和界面科学株式会社製固液界面解析装置Drop Master 300を用いて、微粒子固定化無機材料の表面に蒸留水を2.0μL滴下し、形成した水滴の接触角を測定することで行った。
【0103】
表2に得られた微粒子固定化無機材料の無機微粒子の密着性、防塵性、耐久性を評価した結果を示す。
【0104】
【表2】



【0105】
表2からわかるように、実施例1から8までの無機微粒子固定化体では、無機微粒子の密着性が優れ、また、高い防塵性を有しており、さらに、耐久性にも優れていることが確認された。
【0106】
これらの結果に対し、比較例1から3では、固定した無機微粒子の殆どが剥離し、防塵性も低く、耐久性も低いことが確認された。特に,防塵性では、混合ダストを満遍なく振りかけた後、過剰分の混合ダストを軽い衝撃を加えて除去する際に、固定した無機微粒子の一部が剥離していることが主な原因であった。
【0107】
また各実施例の濡れ性を耐久試験前後の接触角変化により示した。これらの結果から、実施例1から8までの微粒子固定化体では、耐久試験後も無機微粒子は基体に固定化されており、無機微粒子の機能が保持されていることが確認された。バインダーを入れた実施例6から8においても、バインダーの持つ撥水性の機能を持ちつつ、高い防塵性、耐久性も併せ持つ事が確認された。
【0108】
以上、実施例の結果が示すように、本実施例で得られた微粒子固定化無機材料は、各種無機材料表面に無機の微粒子が強固に固定されており、また、塵がつき難い特性を有することも確認でき、さらに、耐久性にも優れていることから、建装材、内装材、フィルター、ガラス、防虫網、触媒体、車両、紛体関連設備部品、製粉プラントの構成部品などの様々な分野で応用できる有用な複合部材であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の第1実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図3】本発明の第3実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図4】本発明の第4実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図5】本発明の第5実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図6】本発明の第6実施形態の微粒子固定化無機材料の模式図である。
【図7】本実施形態の無機材料の基体と無機微粒子の結合関係を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0110】
100:微粒子固定化無機材料(第1実施形態)
200:微粒子固定化無機材料(第2実施形態)
300:微粒子固定化無機材料(第3実施形態)
400:微粒子固定化無機材料(第4実施形態)
500:微粒子固定化無機材料(第5実施形態)
600:微粒子固定化無機材料(第6実施形態)
100a〜600a:カップリング層
100b〜600b:無機微粒子層
300c:無機微粒子層
1:基体
2:カップリング剤
4a、4b:無機微粒子
5:シランモノマー
7:バインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が無機材料からなる基体と、
前記基体の表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤を含み、前記基体の表面に形成されたカップリング層と、
シランモノマーが表面に固定された無機微粒子を含み、前記カップリング層のカップリング剤と前記無機微粒子のシランモノマーとが共有結合し、前記無機微粒子同士のシランモノマーが共有結合して、前記カップリング層の表面に形成された無機微粒子層と、
を有することを特徴とする微粒子固定化無機材料。
【請求項2】
前記無機微粒子の表面に固定されたシランモノマーは、不飽和結合部またはチオール基のいずれかを有することを特徴とする請求項1に記載の微粒子固定化無機材料。
【請求項3】
前記カップリング層は、
前記カップリング剤が有する不飽和結合部、チオール基、カルボキシル基、及び、アミノ基から選ばれた少なくとも1種または2種以上の官能基が前記基体表面の水酸基との縮合反応にて結合して、前記基体の表面に形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の微粒子固定化無機材料。
【請求項4】
前記共有結合が、グラフト重合であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の微粒子固定化無機材料。
【請求項5】
前記グラフト重合が、放射線グラフト重合であることを特徴とする請求項4に記載の微粒子固定化無機材料。
【請求項6】
請求項1から5に記載の微粒子固定化無機材料を用いてなることを特徴とする建装材。
【請求項7】
請求項6に記載の建装材を用いてなることを特徴とするタイル。
【請求項8】
請求項6に記載の建装材を用いてなることを特徴とするガラス。
【請求項9】
請求項1から5に記載の微粒子固定化無機材料を用いてなることを特徴とする内装材。
【請求項10】
請求項1から5に記載の微粒子固定化無機材料を用いてなることを特徴とする金属繊維構造物。
【請求項11】
請求項10記載の金属繊維構造物を用いてなることを特徴とする印刷用メッシュ。
【請求項12】
請求項10記載の金属繊維構造物を用いてなることを特徴とする防虫網。
【請求項13】
請求項10記載の金属繊維構造物を用いてなることを特徴とするフィルター。
【請求項14】
少なくとも表面が無機材料からなる基体の表面の水酸基とカップリング剤とを縮合反応にて結合して、前記基体の表面に前記カップリング剤を含むカップリング層を形成する工程と、
前記カップリング剤と無機微粒子の表面に固定されたシランモノマーとを共有結合させるとともに、前記無機微粒子同士のシランモノマーを共有結合させて、前記カップリング層の表面に前記無機微粒子を含む無機微粒子層を形成する工程と、
を有することを特徴とする微粒子固定化無機材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−36500(P2010−36500A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203483(P2008−203483)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】