説明

微粒子多重検出を用いた異数性の検出法

【課題】微粒子混合物中の微粒子を検出および分類する方法を提供する。
【解決手段】検出および分類は、微粒子サイズ、結合されている任意のレポーター分子の蛍光スペクトル、レポーター分子の蛍光強度、および各分類ビン中の粒子数に基づく。これらの微粒子クラスは、特に生物または生物の胚の異数性を検出するための結合剤として、特定の用途を有する。ヒトでは、全染色体の異種性を同時検出する単一チューブ法に対して、少なくとも24クラスの微粒子の検出および分類で十分であり、この場合、異なる微粒子クラスはそれぞれ、特定のヒト染色体にただ1つしかないポリヌクレオチド配列に相補的でありかつ特異的なポリヌクレオチド配列を含む。さらに、216対以下の染色体を有する生物について全染色体の異数性を同時検出するのにも応用でき、1種または複数種のヒト染色体の異数性を同時検出するためのキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、微粒子混合物中の微粒子を検出および分類する方法を提供する。本発明のこの方法により、多くの異なる微粒子クラスの検出および分類が可能になる。検出および分類は、微粒子サイズ、結合されている任意のレポーター分子の蛍光スペクトル、レポーター分子の蛍光強度、および各分類ビン中の粒子数に基づく。これらの微粒子クラスは、多くの遺伝的または生化学的多重研究において、特に生物または生物の胚の異数性を検出するための結合剤として、特定の用途を有する。ヒトでは、全染色体の異種性を同時検出する単一チューブ法に対して、少なくとも24クラスの微粒子の検出および分類で十分であり、この場合、異なる微粒子クラスはそれぞれ、特定のヒト染色体にただ1つしかないポリヌクレオチド配列に相補的でありかつ特異的なポリヌクレオチド配列を含む。さらに、現在利用できる技術を用いることで、本方法は、216対以下の染色体を有する生物について全染色体の異数性を同時検出するのにも応用できる。1種または複数種のヒト染色体の異数性を同時検出するためのキットもまた提供する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
本明細書において言及する出版物(非特許文献1〜4)の書誌的詳細もまた、本記載の末尾に収載する。
【0003】
本明細書におけるいかなる先行技術に対する言及も、この先行技術があらゆる国における共通の一般知識の一部を形成することを認識するものでも、いかなる形で示唆するものでもなく、またそのように解釈されるべきではない。
【0004】
二倍体生物の正常な状況下では、各親の一方の染色体が子孫の胚に伝達される。しかし、母方、父方、または両者での不分離事象により、異数性として知られる状態である異常な染色体数を有する胚が生じ得る。
【0005】
正倍数性とは、構造的に正常な染色体を正しい数だけ有する状態である。例えば、正倍数体のヒト女性は46本の染色体(44本の常染色体および2本のX染色体)を有し、正倍数体の雄ウシは60本の染色体(58本の常染色体ならびにX染色体およびY染色体)を有する。
【0006】
異数性とは、染色体が天然の二倍体数の染色体よりも少ないかまたは多い状態であり、最も頻繁に見られる細胞発生異常の形態である。すなわち、異数性とは正倍数性からの逸脱であるが、多くの著者らはこの語句の使用を、少数の染色体のみが欠損するかまたは付加される状態に限定している。
【0007】
一般に、異数性は正倍数性からのわずかな逸脱として認識されているが、それは、単に、大きな逸脱では生存できることは稀であって、通常、そのような個体は出生以前に死亡するという理由による。
【0008】
最もよく見られる異数性の2つの形態は、モノソミーとトリソミーである。
【0009】
モノソミーとは、ある染色体対の一方の欠如である。染色体6の一方のみを有する個体は、モノソミー6を有すると称される。多くの種において共通して見られるモノソミーは、ヒトのターナー症候群としても知られるX染色体モノソミーである。モノソミーは通常、出生前の発生段階で致死的である。
【0010】
トリソミーは、特定の種類の染色体を3本有する。ヒトにおいてよく見られる常染色体トリソミーはダウン症候群またはトリソミー21であり、このようなヒトは、通常は染色体21を2本有するところを3本有する。トリソミーは、(二倍体生物において)任意の所与の染色体を3本以上有することを表わす、より一般的な用語であるポリソミーの具体的な例である。
【0011】
別の種類の異数性は三倍性である。三倍体の個体は、すべての染色体を3本、すなわち染色体の単相セットを3セット有する。三倍体のヒトは69本の染色体(23本の単相セットを3セット)を有することになり、三倍体のイヌは117本の染色体を有することになる。三倍体の生成は比較的よく見られ、例えば2種類の精子による受精によって起こり得る。しかし、三倍体が生きたまま出生することは極めて稀であって、そのような個体はかなり異常である。出生後2、3時間以上生存する稀な三倍体は、ほとんど間違いなく、二倍体細胞をかなりの割合で有するモザイクである。
【0012】
染色体が切断されてその断片が失われた場合に、染色体欠失が起こる。このことは言うまでもなく遺伝情報の欠損を含み、その染色体の「部分的モノソミー」と見なされ得る状態が生じる。
【0013】
関連する異常は染色体の逆位である。この場合、1つまたは複数の切断が起こり、染色体断片は失われるのではなく、反転して再結合する。したがって、逆位は、切断点によって重要な遺伝子が破壊されない限り、遺伝物質の欠損を含まない再編成であり、逆位を保有する個体は正常な表現型を有する。
【0014】
2n-1本の染色体を有するモノソミー試料では、1本の完全な染色体およびその遺伝子座すべてが欠失している。同様に、2n+1のトリソミー試料では各細胞中に染色体が1本余分に存在し、1つの特定の染色体が、一般に女性の配偶子形成における不分離事象に起因して3倍示されることを意味する。同様の、しかしより顕著な状況は、各染色体が各細胞において2倍示されるところが3倍示される三倍体試料の場合に起こる。
【0015】
不妊女性の場合、妊娠は体外受精(IVF)の技法を用いて確立され得る。体外受精率は高いにもかかわらず、これらの手順後の妊娠率は比較的低く、15%〜25%である。体外受精に失敗した後に固定したヒト卵母細胞の細胞遺伝学的研究から、染色体異常(異数性)の発生率が比較的高いことが示される。また、多くの自然流産および早産胚の研究から、染色体異常が胎児消失の主要な原因であることが示される。IVFによって生じた胚での染色体異常の頻度は、精子および卵母細胞について報告されている異常全体よりもはるかに高い。
【0016】
IVF手順では、生じた胚において最も頻繁に見られる異常は異数性である。多くの報告から、染色体の異数性が、卵母細胞の受精の失敗および胚の着床の失敗の主たる原因であることが強く示唆される。異数性は主に減数分裂の不分離の過程で生じる;しかし、多くの環境因子もまた紡錘体機能を乱し、最終的に異数性胚の形成をもたらし得る。
【0017】
胚の全体的な染色体構成を評価するための、当技術分野において現在周知である方法を用いて、染色体分析などの細胞遺伝学的解析を行うことができる。しかし、この方法は単一細胞についての実際的な解決法ではなく、そのため着床前スクリーニングとして実施することは不可能である。
【0018】
したがって、体外受精の着床設定に適用できる、胚の異数性を検出するための迅速で、安価であり、自動化可能な方法を開発する必要性が存在する。本発明は、とりわけ対象の1つ、複数、またはすべての染色体における異数性を同時検出するための迅速な単一チューブ法としての用途を有する方法を提供する。
【0019】
特に、胚形成の遺伝子成分の着床前調査によって異常な染色体数を有する(異数性)胚が排除され得るため、この方法によりIVFの成功率が上昇する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Bianchi et al., Prenat. Diag. 22(7):609-615, 2002
【非特許文献2】Bonner and Laskey, Eur.J. Biochem. 46:83, 1974
【非特許文献3】Jenderney et al., Mol. Hum. Reprod. 6(9)855-860, 2000
【非特許文献4】Marmur and Doty, J. Mol. Biol. 5:109, 1962
【発明の概要】
【0021】
本発明は、微粒子混合物中の微粒子を検出および分類する方法を提供する。本発明のこの方法により、多くの異なる微粒子クラスの検出および分類が可能になる。検出および分類は、微粒子サイズ、結合されている任意のレポーター分子の蛍光スペクトル、レポーター分子の蛍光強度に基づく。4つめの限界決定因子は、特定クラス中の粒子数である。別個の実験の結果を識別するために反復数を用いることにより、微粒子での実験を多重化することが可能である。これらの微粒子クラスは、生物または生物の胚の異数性を検出するための結合剤として、特定の用途を有する。ヒトでは、全染色体の異種性を同時検出する単一チューブ法に対して、少なくとも24クラスの微粒子の検出および分類で十分であり、この場合、異なる微粒子クラスはそれぞれ、特定のヒト染色体にただ1つしかないポリヌクレオチド配列に相補的でありかつ特異的なポリヌクレオチド配列を含む。さらに、現在利用できる技術を用いることで、本方法は、216対以下の染色体を有する生物について全染色体の異数性を同時検出するのにも応用できる。1種または複数種のヒト染色体の異数性を同時検出するためのキットもまた提供する。
【0022】
本発明は、一部、微粒子サイズ、微粒子上に存在する任意の標識、標識の強度、および存在する粒子数に基づいて、微粒子混合物からいくつかの異なる微粒子クラスを多重検出および多重分類する方法を根拠とする。
【0023】
本発明者らは、特定サイズの微粒子上の、所与の蛍光標識の強度を識別できることを確認した。また本発明者らは、所与の蛍光について6つの異なる蛍光強度を有する微粒子を作製した。さらに、粒子数に基づき、事象の識別を行うことができる。
【0024】
したがって、微粒子サイズデータおよび蛍光強度データを組み合わせることにより、本発明は、単一標識微粒子に関して36の異なる微粒子クラスを識別する方法を提供する。しかし、本発明はまた、二重標識微粒子などの多重標識微粒子も包含し、この場合には少なくとも216クラスに分類することができる。さらに本発明では、粒子数に基づいた識別分類を基礎として、無限のクラスが可能になる。
【0025】
したがって本発明は、以下の特徴の1つまたは複数に基づいて、微粒子混合物から標識または非標識微粒子を検出および分類する方法を意図する:
(i) 微粒子サイズ
(ii) 微粒子標識
(iii) 微粒子標識強度
(iv) 微粒子数
【0026】
好ましい態様において、微粒子は、フローサイトメトリーを使用し本発明の方法に従って、検出および/または分類される。
【0027】
本発明の特に好ましい用途は、生物または生物の胚の1種または複数種の染色体における異数性の同時多重検出である。
【0028】
限られた数の結合標的に対して、既知の対照二倍体DNAに由来する特定の染色体数を示す所与量のDNAを、所与の生物試料に由来する同等量のDNAと競合させた場合、DNAはそれらの相対頻度で標的に結合するはずである。
【0029】
本発明の目的のために標準物質を試料と識別するためには、試料と標準物質の標識が異なる放射スペクトルを有することが好ましい。さらに、多重反応の一部である場合、試料および標準物質の標識の蛍光スペクトルは、結合剤に結合している1つまたは複数の蛍光スペクトルと異なる必要がある。
【0030】
したがって本発明は、対象の1種または複数種の染色体における異数性を同時に検出する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(i) 対象中の各染色体の存在量を表すレポーター分子標識ポリヌクレオチド試料を作製する段階;
(ii) 異なるレポーター分子で標識された、各染色体に対する等価な非異数性ポリヌクレオチド標準物質を作製する段階;
(iii) 試料および標準物質を各染色体に対する限られた量の結合剤と混合する段階であって、結合剤は各染色体に対する試料および標準物質と相補的なポリヌクレオチドを含み、結合剤ポリヌクレオチドは微粒子上に固定化されており、各染色体に対するポリヌクレオチド配列と結合している微粒子は、サイズおよび/または蛍光標識および/または蛍光標識強度に基づいて異なる段階;
微粒子上の蛍光標識は、存在する場合、試料および標準物質の標識のいずれとも異なる放射スペクトルを有し;結合剤に対する試料および標準物質の非同等な結合によって異数性が検出される。
【0031】
本発明の多重検出法を用いることで、生物の全染色体における異数性の同時検出が可能になる。各結合剤または結合剤群は、微粒子に固定化された特定の染色体に特異的な(かつ、その染色体に由来する試料および標準物質ポリヌクレオチド配列と相補的な)ポリヌクレオチドを含み、その微粒子は、サイズ、蛍光標識、蛍光強度、またはこれらの特徴の組み合わせに基づいて他のすべての結合剤と異なる。次いでこれらの異なる微粒子は、試料および標準物質の結合に関して個々に評価され得る。したがって、これにより、試料中の複数の染色体の相対頻度に関する同時測定が提供される。
【0032】
1つの局面において、微粒子に結合している、特定の染色体に由来するポリヌクレオチドの数は約1〜約40,000であってよい。好ましい局面において、微粒子に結合しているポリヌクレオチドの数は約1〜約3,000である。最も好ましい局面では、微粒子に結合しているポリヌクレオチドの数は約2,000である。
【0033】
本発明の方法は、いかなる生物の異数性の検出にも応用できる。
【0034】
本発明の好ましい態様において、対象は体外受精により作製されたヒトまたは他の動物の胚である。
【0035】
本発明の方法は、単一細胞から抽出および/または増幅されたDNAの異数性を検出することができる。したがって、本出願の方法はとりわけ、体外受精によって作製された動物胚の異数性を、胚が着床する前に検出するのに適している。
【0036】
本発明は、生物における染色体数の検出に加えて、生殖細胞での不分離事象の検出にも応用できる。
【0037】
本発明はさらに、生物、胚、または生殖組織中の複数の染色体の異数性を同時検出するのに有用なキットを提供する。
【0038】
本明細書で使用する略語のリストを表1に提供する。
【0039】
(表1)略語

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】典型的なフローサイトメーターを示す。
【図2】単一検出チャネルでの、4つのビーズサイズおよび3つの蛍光強度レベルを用いたAmpaSand(商標)ビーズの12重識別を実証する。ビーズは、サイズ(3.0、4.12、5.0、および6.8μm)および蛍光強度(この場合、蛍光なし、1/3蛍光、および十分な蛍光)によって分離される。使用したマーカーはテトラメチルローダミンであり、蛍光レベルはチャネル2で測定される。
【図3】異なる試料の解析における2つの異なるビーズ量の使用を実証する、フローサイトメトリーのドットプロットの代表的な例である。ビーズは最初にFSCおよびSSCに基づいて選択し、次いで蛍光マーカーに基づいて解析する。下のプロットは試料を比較したドットプロットであり、一方はhGATA4遺伝子配列に関してホモ接合性であり、もう一方はヘテロ接合性である。解析から、2つの異なる群がヌクレオチドの差に基づいて分離されることが実証される。
【図4】異なる試料の解析における2つの異なるビーズ量の使用を実証する、フローサイトメトリーのドットプロットの代表的な例である。ビーズは最初にFSCおよびSSCに基づいて選択し、次いで蛍光マーカーに基づいて解析する。下のプロットは試料を比較したドットプロットであり、一方はhGATA4遺伝子配列中の「A」に関してホモ接合性であり、もう一方は陰性対照である。解析から、2つの異なる群がヌクレオチドの差に基づいて分離されることが実証される。
【図5】異なる試料の解析における2つの異なるビーズ量の使用を実証する、フローサイトメトリーのドットプロットの代表的な例である。ビーズは最初にFSCおよびSSCに基づいて選択し、次いで蛍光マーカーに基づいて解析する。下のプロットは試料を比較したドットプロットであり、一方はhGATA4遺伝子配列中の「A」に関してホモ接合性であり、もう一方はヘテロ接合性である。解析から、2つの異なる群がヌクレオチドの差に基づいて分離されることが実証される。
【図6】異なる試料の解析における2つの異なるビーズ量の使用を実証する、フローサイトメトリーのドットプロットの代表的な例である。ビーズは最初にFSCおよびSSCに基づいて選択し、次いで蛍光マーカーに基づいて解析する。下のプロットは試料を比較したドットプロットであり、いずれもhGATA4遺伝子配列においてホモ接合性「A」である。解析から、両試料を構成する1つの群の存在が実証される。
【図7】異なる試料の解析における2つの異なるビーズ量の使用を実証する、フローサイトメトリーのドットプロットの代表的な例である。ビーズは最初にFSCおよびSSCに基づいて選択し、次いで蛍光マーカーに基づいて解析する。下のプロットは試料を比較したドットプロットであり、一方はhGATA4遺伝子配列中の「G」に関してホモ接合性であり、もう一方は「A」に関してホモ接合性ある。解析から、2つの異なる群がヌクレオチドの差に基づいて分離されることが実証される。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
本発明は、微粒子混合物中の微粒子を検出および分類する方法を提供する。本発明のこの方法により、多くの異なる微粒子クラスの検出および分類が可能になる。検出および分類は、微粒子サイズ、結合されている任意のレポーター分子の蛍光スペクトル、レポーター分子の蛍光強度、および粒子数を伝える事象の識別を基礎とする。これらの微粒子クラスは、生物または生物の胚の異数性を検出するための結合剤として、特定の用途を有する。ヒトでは、全染色体の異数性を同時検出する単一チューブ法に対して、少なくとも24クラスの微粒子の検出および分類で十分であり、この場合、異なる微粒子クラスはそれぞれ、特定のヒト染色体にただ1つしかないポリヌクレオチド配列に相補的でありかつ特異的なポリヌクレオチド配列を含む。さらに、現在利用できる技術を用いることで、本方法は、216対以下の染色体を有する生物について全染色体の異数性を同時検出するのに応用できる。1種または複数種のヒト染色体の異数性を同時検出するためのキットもまた提供する。
【0042】
本発明を詳細に説明する前に、特に明記しない限り、本発明は薬剤の特定の製剤化、製造法、方法論などに限定されず、変更され得ることが理解されねばならない。また、本明細書で使用する専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定する意図はないことも理解されねばならない。
【0043】
本明細書で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」とは、特記する場合を除き、その複数局面も含む。したがって、例えば「1つの微粒子」についての言及は、単一の微粒子と同時に2つまたはそれ以上の微粒子も含む。
【0044】
本発明の説明および特許請求では、以下の専門用語を以下に示す定義に従って用いる。
【0045】
本明細書で用いる「対象」とは、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは下等霊長動物を含む霊長動物、さらにより好ましくは本発明の方法から恩恵を受け得るヒトを指す。対象はまた、植物などの非動物であってもよい。対象は、ヒトであるかもしくは非ヒト動物であるかまたは胚であるかにかかわらず、個体、対象、動物、患者、宿主、またはレシピエントと称される。本発明の化合物および方法は、ヒトの薬、動物薬、ならびに一般に家畜または野生動物の管理および園芸産業/農産業に応用できる。便宜上、「動物」は、特にウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ラクダ種、ヤギ、およびロバなどの家畜種を含む。ウマに関しては、これには競馬産業で用いられるウマおよびレクリエーションまたは畜産業で用いられるウマが含まれる。
【0046】
最も好ましい標的はヒトである。しかし、本発明の方法は、実験動物を含む任意の他の非ヒト動物の異数性の検出にも適している。
【0047】
実験動物の例としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、およびハムスターが挙げられる。ウサギならびにラットおよびマウスなどの齧歯動物は、簡便な試験系または動物モデルを提供し、霊長動物および下等霊長動物も同様である。鳥類、ゼブラフィッシュ、両生類(オオヒキガエルを含む)、およびキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)などのショウジョウバエ(Drosophila)のような非哺乳動物もまた意図される。
【0048】
さらに、本発明の目的のため、「対象」という用語は、問題となっている生物の生まれた状態および生まれる前の状態のすべてを含む。例えば、ヒトについては、本明細書で使用する「対象」は、出生後のヒトに加えて、接合子、胚盤胞、胚、および胎児を含むヒトの出生前の形態をすべて含む。この用語はまた、体外受精法の一環として作製された胚などの、インビトロで作製/およびまたは培養された、生物の接合子、胚盤胞、および胚を包含することも理解されねばならない。したがって、他の生物の出生前の形態およびインビトロ胚もすべて、本発明の方法によって包含される。対象はまた植物種であってもよい。
【0049】
本発明は、一部、微粒子サイズ、微粒子上に存在する任意の標識、標識の強度、および微粒子数に基づく識別を基礎として、微粒子混合物からいくつかの異なるクラスの微粒子を多重検出および多重分類する方法に基づく。
【0050】
多重化は、本発明の目的のため、単一の試料、反応、チューブなどからの複数のシグナルまたは結果の検出として理解されるべきである。例えば、多重ポリメラーゼ連鎖反応は、単一の反応から複数の単位複製配列を産生および検出する方法を提供する。本発明の目的のため、多重化は、混合物中の様々な粒子に結合しているシグナルの同時検出に関して理解されるべきである。好ましくは、多重化データは、微粒子サイズ、微粒子に結合されている任意の標識、結合されている任意の標識の強度、および微粒子の相対数に関する。
【0051】
微粒子とは、典型的に直径0.05μm〜直径1000μmの大きさのビーズおよび他の粒子である。粒子の材質は、一般に以下から選択される化合物である:ガラス、シリカ、アルギン酸塩、ゼラチン、アガー、セルロース、キトサン、ポリ乳酸、ポリd,l-乳酸・グリコール酸重合体(PLGA)、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メラミン、および金。しかし、本発明はこれらの材質の微粒子に限定されず、ポリヌクレオチドが吸収され得る、共有結合され得る、または別の方法で結合され得る任意の材質が本発明によって意図される。
【0052】
本発明の好ましい態様において、微粒子はシリカ微粒子である。
【0053】
フローサイトメトリーとは、液体懸濁液中を移動または流動する細胞の特性を測定する技術として定義され得る。よりなじみのある実験装置、顕微鏡を例にとって、この技術についてさらに説明し得る。ほとんどの顕微鏡は以下の成分を有する:
【0054】
光源
典型的な顕微鏡は、対象を照射するために電球を使用する。フローサイトメーターでは、光源はレーザーである場合が多い。レーザーは、単色光の非常に集中的かつ強力なビームを提供するという理由で用いられる。光の単色特性は、蛍光測定を行う際に特に重要である。
【0055】
ステージ
顕微鏡では、ステージは移動が可能であり、対象を対物レンズの視野にもって行くことができる。フローサイトメーターでは、細胞または粒子は液体懸濁液中に存在する。空気圧に応答した液流は対物レンズを通り過ぎ、そして細胞または粒子を運び視野領域(Viewing field)を通過させる。
【0056】
レンズ
顕微鏡およびフローサイトメーターのいずれにおいても、レンズは対象から光を集める。
【0057】
フィルター
ある種の顕微鏡は、観察者にとって最も重要である光の特性を選択するためのフィルターを有する。これはとりわけ蛍光顕微鏡に当てはまる。蛍光の場合、色素分子が特徴的な波長(または「色」)の光によって励起されて、次いでより長い波長の放射光を発する。フィルターは励起光を除去して、放射光の観察または測定を可能にする。
【0058】
検出器
顕微鏡では、光検出器は観察者である。フローサイトメーターでは、光電子増倍管または「PMT」と称される高感度光検出器を用いる。検出器は、対物レンズの視野を通して、移動している細胞または粒子からの放射光の一瞬の閃光を、1秒間に数千個に及ぶ速度で1つずつ測定できなければならない。
【0059】
ほとんどのフローサイトメーターは、2種類の散乱光および蛍光を測定することができる。
【0060】
図1は、フローサイトメーターの1つの特定モデルの主要な成分を示す。下部にある1つのタンクは、細胞または粒子を運んで装置を通過させる緩衝液を供給し、2つめのタンクはすべての廃液を回収する。キャリア液(一般にシース液と称される)の目的は、細胞または粒子が一列になってレーザー光を通過できるように懸濁液を排出させることにある。
【0061】
左前方に位置するレーザーは、試験管から上向きに流れる細胞または粒子に青色ビームを照射する。前方散乱光は、レーザー光と同一直線上にあるレンズによって収集され(レーザー光自体は小さな不透明なバーによって遮断される)、光検出器上に反射される。側方散乱光および蛍光は、レーザー光に対して直角に位置するレンズによって収集される。この装置は、スペクトルの緑色、オレンジ、赤色領域で蛍光の3色を測定し得る。色は、所望の波長のみを反射するかまたは透過するフィルターによって、適切な検出器に向けて分離される。
【0062】
最終的に、検出器からのすべての電気シグナルがコンピューター(表示していない)へと送られ、コンピューターはそれらを記録し、結果を表示する。測定はすべて各細胞について同時に行われるため、それらの間の相関関係が決定され得る。また、1つの測定値を用いて、別の測定値を用いた研究を行うため細胞のサブセットを選択することができる。例えば、高い前方散乱光によって同定される大きな細胞についてのみ、緑色蛍光を試験することが可能である。
【0063】
好ましい態様において、微粒子は、本発明の方法に従ってフローサイトメトリーにより検出および/または分類される。しかし本発明は、本明細書において上記した特定のフローサイトメトリー法または装置に限定されることは決してない。この例は説明目的のためにのみ提供したのであって、本発明は、提供した例による機器または方法に限定されるものではない。
【0064】
フローサイトメトリーを用いることで、所与の粒子または細胞のサイズを、対象の散乱光によって決定することができる。
【0065】
散乱光とは光と物質との相互作用である。微粒子を含むすべての物質は、光を散乱させる。それは主として、反射されるかまたは屈折される光から構成される。対象を観察する位置で、対象について示され得る事項が決まる場合が多い。フローサイトメーターでは、散乱光検出器は通常、レーザーの反対側(細胞または粒子に対して)、および液流/レーザー光の交点と同一直線上にある、レーザーの片側に位置する。これらの検出器によって得られる測定値は、それぞれ前方散乱光および側方散乱光と称される。
【0066】
前方散乱光は、個々の細胞または粒子の相対的サイズに関するいくつかの情報を提供し、側方散乱光は個々の細胞または粒子の相対的粒度に関するいくつかの情報を提供する。これらの散乱光は、分離されていない哺乳動物血液中の白血球の様々な主要なカテゴリーを識別するために、組み合わせて用いられることが多いが、微粒子サイズの決定など、幅広い種類の他のアッセイにおいても有用である。
【0067】
本発明者らは、フローサイトメトリーが、直径約3.0μm、約3.5μm、約4.12μm、約5.0μm、約5.6μm、約6.2μm、および約6.8μmの粒子を識別できると判定した。したがって、本発明者らは、フローサイトメトリーが最大で少なくとも7種類の異なる微粒子サイズを識別し得ることを確認した。
【0068】
サイズの検出に加えて、フローサイトメーターは典型的に、試料中の蛍光を検出するための1つまたは複数のレーザーおよび検出器を有する。
【0069】
蛍光とは、分子が特定波長の光を吸収し、それよりも長い波長光を再放射する特性である。波長の変化は、その過程で起こったエネルギー損失に関係する。これが、蛍光を極めて有用化する特徴である:フィルターを用いることで、光検出器または観察者から励起光を排除することができる。したがって、測定または観察する光のみが色素分子に由来する。検出器に達するバックグラウンドまたは迷光からの干渉は極めて低い。
【0070】
フローサイトメトリーに有用な多くの蛍光色素が存在する。それらは、核酸;タンパク質;特定の細胞膜、核、および細胞質受容体;細胞内イオン分子;およびその他多くの成分などの、種々の細胞化学的成分に結合する。フローサイトメトリーアッセイにおいて使用できるかどうか、その可能性を決定する蛍光色素の重要な特性は、励起波長である:励起波長は、利用できる光源の波長と一致する必要がある。
【0071】
本発明は、蛍光マーカーなどのレポーター分子による微粒子の標識を意図する。多くの様々な蛍光マーカーが当業者には周知であり、蛍光マーカーの選択が本発明を限定することは決してない。本発明の好ましい態様において、微粒子を標識するために用いられる蛍光マーカーは、微粒子に結合することができ、かつ以下の群より選択される光源を用いて励起される任意の蛍光マーカーを含む:
(i) アルゴンレーザー‐青色の488 nm線を含み、緑色から赤色の領域で蛍光を発する多くの色素および蛍光色素の励起に適している。一連の波長(458 nm、488 nm、496 nm、515 nm、およびその他)で放射する、調節可能なアルゴンレーザーもまた利用することができる。
(ii) ダイオードレーザー‐635 nmの放射波長を有する。現在利用できる他のダイオードレーザーは、532 nmで作動する。この波長はヨウ化プロピジウム(PI)を最適に励起する。約476 nmで放射する青色ダイオードレーザーもまた利用可能である。
(iii) HeNeガスレーザー‐赤色の633 nm線で作動する。
(iv) HeCdレーザー‐325 nmで作動する。
(v) 100W水銀アークランプ‐ヘキストおよびDAPIのようなUV色素の励起に最も有効な光源である。
【0072】
本発明のより好ましい態様では、蛍光マーカーは以下から選択される:Alexa Fluor色素;BoDipy色素(BoDipy 630/650およびBoDipy 650/655を含む);Cy色素(特にCy3、Cy5、およびCy 5.5);6-FAM(フルオレセイン);フルオレセインdT;ヘキサクロロフルオレセイン(HEX);6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE);オレゴングリーン色素(488-Xおよび514を含む);ローダミン色素(ローダミングリーン、ローダミンレッド、およびROXを含む);カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA);テトラクロロフルオレセイン(TET);およびテキサスレッド。本発明の特に好ましい態様では、マーカーはフルオレセインおよびCy5である。蛍光マーカーの例を表2に記載する。
【0073】
(表2)


1Ex:ピーク励起波長(nm)
2Em:ピーク放射波長(nm)
【0074】
好ましい態様において、蛍光標識はBODIPY-F1またはテトラメチルローダミンである。
【0075】
微粒子を蛍光標識するには、通常2つの染色法が用いられる‐内部染色および外部染色(表面標識)。この2つの技法によって独特の特性を有したビーズが作製され、それぞれ異なる用途にとって有益である。内部染色では、典型的に狭い蛍光CVを有した極めて安定な粒子が得られる。これらの粒子は、光退色に対して高い耐性を示す場合が多い。フルオロフォアがビーズ内部に存在するため、表面基を、ビーズ表面へのリガンド(タンパク質、抗体、核酸など)の結合に利用することができる。そのため、内部標識ビーズは典型的に、分析物検出および免疫測定法の用途に用いられる。表面標識は、フルオロフォアの粒子表面への結合を含む。フルオロフォアはビーズの表面上に存在するため、染色細胞上のフルオロフォアと全く同様に、その環境と相互作用することができる。その結果、混入物の存在またはpH変化などの様々な条件下で、染色細胞試料と同じ励起および放射特性を示す、ビーズ標準物質が得られる。表面標識微粒子は「環境反応性」性質を有するため、生物試料を模倣するのに理想的に適している。外部標識微粒子は、蛍光検出を利用する多くの用途において対照および標準物質として用いられる場合が多い。
【0076】
本発明は、任意の手段を介した、微粒子と蛍光標識との結合を意図する。しかし好ましい態様においては、標識は、様々な蛍光強度を付与するようにビーズを化合物で標識し得る方法によって、微粒子に結合される。より好ましくは、微粒子は微粒子の表面に結合される(外部染色)。
【0077】
本発明者らは、特定サイズの微粒子上の、所与の蛍光標識の強度を識別できることを確認した。微粒子の蛍光強度は、微粒子と結合させる蛍光マーカーの絶対量または濃度を変えることで変更することができる。さらに、本発明者らは、所与の標識について最大で6種類の異なる蛍光強度を有する微粒子を作製した。
【0078】
しかし、本発明は、微粒子に対して様々な濃度で結合される標識が分類され得る、異なる蛍光強度の数に決して限定されない。レーザーおよび光電子増倍管技術などの因子は、蛍光標識の検出感度に影響し、したがっていくつの異なる標識強度が明確にされ得るかに影響する。よって本発明は、蛍光標識による微粒子の標識によって達成され得る異なる蛍光強度の数に限定されるべきではない。
【0079】
したがって、微粒子サイズデータと蛍光強度データを組み合わせることにより、本発明は、単一の蛍光標識を用いて36種類の異なる微粒子クラスを識別する方法を提供する。
【0080】
典型的に、フローサイトメーターは2つ以上の検出チャネルを有する。多くのフローサイトメーターは4つの検出チャネルを有する。複数の検出器によって検出される複数の色素を微粒子に利用することで、本発明の方法に従って識別され得る微粒子の範囲がさらに広がる。例えば、所与のビーズサイズについて、単一の検出チャネルを、定量化可能な6種類の異なる蛍光強度と共に用いた場合、6種類の異なる微粒子種が識別され得ると考えられる(蛍光強度のみに基づいて)。しかし、第2チャネルが、微粒子上の第2色素をさらなる6種類の蛍光強度レベルで検出することで、微粒子クラスの検出範囲は36種類にまで拡大されると考えられる(チャネル1での6種類の蛍光強度 x チャネル2での6種類の蛍光強度)。このデータを6種類の異なるビーズサイズと組み合わせることで、所与の二重標識微粒子は216のカテゴリーに分類され得る。
【0081】
したがって、本発明は、以下の特徴の1つまたは複数に基づいて、微粒子混合物から標識または非標識微粒子を検出および分類する方法を意図する:
(i) 微粒子サイズ
(ii) 微粒子標識
(iii) 微粒子蛍光強度
【0082】
好ましい態様において、微粒子は1〜10μmの大きさの範囲内にあり、具体的には約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10μmであり、光源および光検出器によって0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種類の異なる強度レベルで検出され得る、0、1、2、3、4種類の異なる蛍光標識で標識されている。
【0083】
関連の態様において、本発明では、異なる実験に対して異なるビーズ数を用いることに基づいて、微粒子を識別することができる。試料間を識別するのに粒子数を用いる場合、各実験における粒子数は、すべての数が他のあらゆる可能な数の組み合わせとは異なるような方法で関連せねばならない。数が相互に異なることを保証するための近似公式は、

(式中、Yjはj番目の数クラスターである)である。このクラスター中の粒子数は、それまでの数クラスターをすべて加算し、2.15を乗じることによって作成される。
【0084】
本発明の特に好ましい用途は、生物または生物の胚の1種または複数種の染色体における異数性の同時多重検出である。
【0085】
本発明の目的のため、異数性は生物の正倍数性状態からの任意の逸脱として理解されるべきであり、正倍数性とは染色体の正常な2nセットと定義される。例えばヒトでは、染色体の正常な正倍数性2n数は46である。本発明の目的のため、この状態から逸脱した状態はすべて異数性と見なす。ヒトにおける例示的な異数性状態はモノソミーおよびトリソミーであり、このような状態では、所与の染色体が、正倍数性状態に見られるような2コピーの代わりにそれぞれ1コピーまたは3コピーで表される。さらにヒトの異数性は、2つの正倍数性補間物に加えて、染色体の1つ(三倍性)または2つ(四倍性)の完全なセットが存在する倍数性として顕在化し得る。
【0086】
さらに本発明の目的のため、「異数性」という用語はまた、染色体の一部が欠失した部分的モノソミー状態を組み入れると理解されるべきである。
【0087】
本発明のこの局面は一部、DNA試料中の各染色体に由来するDNAを等量サンプリングした場合、全DNA試料に対する各染色体の相対的寄与は、全DNAの1/n(nは、健常な二倍体型生物が保有する染色体対の数である)に等しいという前提に基づく。例えば非異数体ヒト対象では、各染色体は、所与のDNA試料において全DNAの1/23に寄与する。しかし、モノソミー試料ではそのような染色体に由来するDNAの相対量は全DNAの1/46を表し、トリソミー染色体は全DNAの2/23を表す。
【0088】
したがって、限られた数の結合標的に対して、既知の対照二倍体DNAに由来する所与量のDNAを、所与の生物試料に由来する同等量のDNAと競合させた場合、DNAはそれらの相対頻度で標的に結合するはずである。
【0089】
本発明は、対象の複数の染色体の異数性を同時検出する方法に関する。所与の染色体の存在量は、本明細書において「試料」、「DNA試料」、または「ポリヌクレオチド試料」と称する核酸配列によって示される。所与の染色体にただ1つしかなくかつその染色体を代表する任意の核酸配列が、本発明の方法に適切であり得る。所与の核酸配列が所与の染色体にただ1つしかなくかつその染色体を代表するかどうかは、当業者によって容易に確認されると考えられる。
【0090】
本発明に適した染色体特異的ポリヌクレオチド試料は、任意の簡便な手段によって作製され得る。本発明を決して限定しない例示的な方法には:酵素的または物理的に消化したゲノムDNAからの染色体特異的ポリヌクレオチドの単離;PCRによるゲノムDNAからの染色体特異的ポリヌクレオチド配列の増幅;ならびにクローニングおよびスクリーニングを介したゲノムDNAからの染色体特異的配列の同定が含まれる。
【0091】
これらの染色体特異的ポリヌクレオチド試料の作製または同定に適したゲノムDNAは、当業者が通常用いる方法により単離され得る。ゲノムDNAの単離に用いられる組織は、その方法の特定の用途に依存することになる。例えば、出生後の生物の異数性に関して試験する場合、本発明に従って試料を作製するために用いられるゲノムDNAの単離には、生物の体細胞が適している。または、生殖細胞における不分離事象を検出する場合、試料を作製するために、所与の生物の配偶子に由来するDNAを用いる必要がある。最後に、出生前の胚の異数性をスクリーニングする場合、割球が試料を作製するために最も適した組織である。
【0092】
本発明の目的のため、「標準物質」とは試料と等価な核酸であると理解されるべきであるが、標準物質は既知の非異数性供給源のゲノムDNAから作製される。したがって、二倍体生物の場合、標準物質では各染色体が二倍示されることがわかっている。
【0093】
試料および標準物質に関する「等価な」という用語は、ハイブリダイゼーションに用いられる条件下での、所与の核酸配列に対する同等の結合として理解されるべきである。例えば、非常に高いストリンジェンシー条件下では、結合剤に対して試料と標準物質が同等に結合するためには、核酸試料、標準物質、および結合剤はすべて、100%同一なポリヌクレオチド配列を有する必要があり得る。しかしより低いストリンジェンシーでは、試料と標準物質は、相互にいくらか異なるポリヌクレオチド配列を有してもよいが、結合剤のポリヌクレオチドについて同等の結合親和性を有する。したがって、当業者は、ハイブリダイゼーション条件を考慮する場合に、標準物質および試料に関して等価の構成を決定することができる。しかし、試料および標準物質が同一のポリヌクレオチド配列を含み、結合剤がそのような試料および標準物質と相補的なポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0094】
欠失または部分的一倍体として知られる所与の染色体の部分的喪失は、欠失した可能性のある領域内から染色体の試料が選択される場合に、本発明の方法を用いて検出され得る。さらに、欠失したと推定される領域内のマーカーを、欠失したと推定される領域の外部にある同じ染色体上のマーカーと比較して用いて、本発明の方法を応用することで、部分的欠失が確認され得る。この場合、染色体の部分的欠失は、染色体上の1つのマーカーを用いた場合の一倍体、かつ同じ染色体上の別のマーカーを用いた場合の二倍体として検出されることになる。
【0095】
本発明は、蛍光マーカーなどのレポーター分子による、染色体を代表する核酸の標識をさらに意図する。多くの様々な蛍光マーカーが当業者には周知であり、蛍光マーカーの選択が本発明を限定することは決してない。本発明の好ましい態様において、本発明の蛍光マーカーは、ポリヌクレオチドに結合することができ、かつ以下の群より選択される光源を用いて励起される任意の蛍光マーカーを含む:
(i)アルゴンレーザー‐青色の488 nm線を含み、緑色から赤色の領域で蛍光を発する多くの色素および蛍光色素の励起に適している。一連の波長(458 nm、488 nm、496 nm、515 nm、およびその他)で放射する、調節可能なアルゴンレーザーもまた利用することができる。
(ii) ダイオードレーザー‐635 nmの放射波長を有する。現在利用できる他のダイオードレーザーは、532 nmで作動する。この波長はヨウ化プロピジウム(PI)を最適に励起する。約476 nmで放射する青色ダイオードレーザーもまた利用可能である。
(iii) HeNeガスレーザー‐赤色の633 nm線で作動する。
(iv) HeCdレーザー‐325 nmで作動する。
(v) 100W水銀アークランプ‐ヘキストおよびDAPIのようなUV色素の励起に最も有効な光源である。
【0096】
本発明のより好ましい態様では、蛍光マーカーは以下から選択される:Alexa Fluor色素;BoDipy色素(BoDipy 630/650およびBoDipy 650/655を含む);Cy色素(特にCy3、Cy5、およびCy 5.5);6-FAM(フルオレセイン);フルオレセインdT;ヘキサクロロフルオレセイン(Hex);6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE);オレゴングリーン色素(488-Xおよび514を含む);ローダミン色素(ローダミングリーン、ローダミンレッド、およびROXを含む);カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA);テトラクロロフルオレセイン(TET);およびテキサスレッド。本発明の特に好ましい態様では、マーカーはフルオレセインおよびCy5である。
【0097】
本発明の目的のために標準物質を試料と識別するためには、試料と標準物質の標識が異なる放射スペクトルを有することが好ましい。さらに、本明細書において上記したような多重反応の一部である場合、試料および標準物質の標識の蛍光スペクトルは、結合剤に結合されている1つまたは複数の標識の蛍光スペクトルと異なる必要がある。
【0098】
ポリヌクレオチドに蛍光マーカーを結合する方法、または合成もしくは増幅の過程でポリヌクレオチドにそのようなマーカーを取り込む方法の選択は、本発明を決して限定しない。本発明では、ポリヌクレオチドを蛍光標識するためのすべての方法が意図される。例示的な方法として、ポリヌクレオチドの標識の合成前および合成後方法が挙げられる。合成前方法にはPCRプライマーの標識が含まれ、このプライマーはその後PCRを介したポリヌクレオチドの増幅に用いられ、それによってポリヌクレオチドに取り込まれる。この方法では、蛍光マーカーは典型的に、ポリヌクレオチドの増幅に適したプライマーの5'末端に結合される。同様に、フルオロフォアとポリヌクレオチド分子との間にリンカーが典型的に用いられる。適切なリンカー配列は当業者によって容易に確認されると考えられ、これにはC6、C7、およびC12アミノ修飾因子などのリンカーならびにチオール基を含むリンカーが含まれる可能性が高い。容易に確認されるように、プライマーはリンカーおよびフルオロフォアまたはリンカーのみを含み得り、後者の場合には後の段階でフルオロフォアが結合され得る。合成後標識法にはニック標識系が含まれ、この場合、標識ポリヌクレオチドはランダムプライマーからクレノウポリメラーゼによって合成される。蛍光標識ヌクレオチドまたはリンカー基を含むヌクレオチドは、合成中にクレノウポリメラーゼによって合成されるポリヌクレオチド中に取り込まれ得る。しかし、本発明は標識法の選択によって決して規定も限定もされないことが理解されるべきである。
【0099】
したがって本発明は、対象の1種または複数種の染色体における異数性を同時に検出する方法であって、以下の段階を含む方法を提供する:
(i) 対象中の各染色体の存在量を表すレポーター分子標識ポリヌクレオチド試料を作製する段階;
(ii) 異なるレポーター分子で標識された、各染色体に対する等価な非異数性ポリヌクレオチド標準物質を作製する段階;
(iii) 試料および標準物質を各染色体に対する限られた量の結合剤と混合する段階であって、結合剤は各染色体に対する試料および標準物質と相補的なポリヌクレオチドを含み、結合剤ポリヌクレオチドは微粒子上に固定化されており、各染色体に対するポリヌクレオチド配列と結合している微粒子は、サイズおよび/または蛍光標識および/または蛍光標識強度に基づいて異なる段階;
微粒子上の蛍光標識は、存在する場合、試料および標準物質の標識のいずれとも異なる放射スペクトルを有し;結合剤に対する試料および標準物質の非同等な結合によって異数性が検出される。
【0100】
本明細書に上記した多重検出法を用いることで、生物の複数またはすべての染色体における異数性の同時検出が可能になる。各結合剤または結合剤群は、微粒子に固定化された、特定の染色体に特異的な(かつ、その染色体に由来する試料および標準物質ポリヌクレオチド配列と相補的な)ポリヌクレオチドを含む。各染色体を表す微粒子は、サイズ、蛍光標識(もしあるならば)、蛍光強度、またはこれらの特徴の組み合わせに基づいて相互に異なる微粒子である。次いでこれらの異なる微粒子は、試料および標準物質の結合に関して個々に評価され得る。したがって、これにより、試料中の複数またはすべての染色体の相対頻度の同時測定が提供される。
【0101】
生物の異数性を検出するため、本発明の方法は、限られた数の相補的な結合剤に対する、同じ生物の試料および標準物質に由来する等量のDNAの競合的結合に基づく。
【0102】
したがって、本発明の方法はいかなる生物の異数性の検出にも応用できる。多くの生物は複数コピーの染色体を有し、本発明は、通常1コピーまたは複数コピーの染色体を保有するいかなる生物の異数性の検出にも応用できる。例示的な生物には以下のものが含まれるが、これらによって本発明が限定されることは決してない:ある種のスズメバチ、ミツバチ、およびアリの雄などの半数体生物;カキなどの三倍体生物;動物、特にヒトなどの二倍体生物;シクラメンおよびアメリカニレなどのいくつかの植物種ならびにある種のカエルおよびヒキガエルを含む四倍体生物;ならびに植物コムギ(Triticum aestivum)などの六倍体生物。
【0103】
本発明の好ましい態様において、生物は二倍体動物である。さらにより好ましい態様では、動物はヒトまたは家畜動物などの哺乳動物である。本発明の最も好ましい態様において、生物はヒトである。しかし、本発明は植物などの非動物種にまで及ぶ。
【0104】
本発明のさらなる好ましい態様において、ヒト対象は体外受精で作製されるヒト胚である。
【0105】
体外受精は、卵巣刺激、卵子採取、媒精、および胚移植という4つの基本的段階を含む。ヒトのIVF手順の例を以下に詳述する:
(i) 排卵誘発‐卵巣を刺激してより多くの卵子を生成させるため、排卵を促進する濃縮型の天然ホルモンであるヒト閉経ゴナドトロピンを投与する。ゴナドトロピンはいくつかの卵胞を一度に成熟させ、ヒトではその数は2個〜30個である。卵子が成熟したと判定された時点で、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を1回投与する。hCGにより、排卵および受精に用いる卵子が調製される。ここでhCGはタイムキーパーとして働き、摂取時点から約40時間後に排卵が自然に起こることを示す。したがって、卵子採取はhCGのこの投与から約36時間後に行わなくてはならない。
(ii) 卵子採取‐針を卵巣に刺入し、吸引力により卵胞から体液および卵子を採取する。次いで、卵子を試験管に入れる。平均して3分の2を超える卵胞が卵子を生成する。
(iii) 媒精および受精‐卵子を数時間成熟させた後に精子を添加するが、その時間は通常、採取から6〜8時間である。媒精とは、単に精子の培養液への添加である;各卵子をそれぞれのディッシュに単離し、明確な数の精子を各卵子と一緒にする。次いで、このディッシュを生理的温度に設定したインキュベーター内に置く。数時間後、精子が実際に卵子に侵入した時点で受精が起こる。受精が起こると、精子の尾部は消失し、頭部が拡大する。この段階は2PN期として知られているが、それは2つの前核がまだ融合していないからである。胚は、最初は2細胞、次いで4細胞へと分裂を開始する。通常、採取から36〜48時間後に、胚は卵割して4細胞になる。
(iv) 胚移植および着床‐卵子採取から72時間後に、胚移植(着床)を行う。胚をカテーテル中に吸引し、胚を含む液体を子宮腔に注入する。移植する胚の数は様々である。移植した後、子宮壁を見い出しそこに付着するかは卵子次第である。
【0106】
体外受精は、不妊のヒトの生殖を支援するのに加えて、農業にも応用できる。例えばウシにおいて、体外受精はウシの遺伝材料の改良に寄与している。例として以下のものが挙げられる:
(i) 高齢のウシ‐以前は、高齢という理由で、遺伝的利点を有する多くのウシが繁殖プールから排除されていた。価値のあるこれらの高齢雌ウシにおいて、未成熟の卵母細胞または卵子の低リスク採取を行い得る可能性がある。
(ii) 問題のあるウシ‐すべての品種および年齢の雌ウシは、環境的な原因から、繁殖障害を有する可能性がある:排卵障害、卵管輸送障害、子宮の疾患/変性、および刺激ホルモンに対する非反応性。これらの状態であったとしても、多くのウシは、回収可能な卵母細胞を含む卵胞を何とかして生成することができる。
(iii) 健常な周期の雌ウシ‐ドナー雌ウシでは、古典的な過排卵および胚移植と同時に体外受精プログラムが行われ得る。過排卵過程の休止期の合間に、卵母細胞採取と体外受精プログラムを組み合わせることで、ドナーでの成功率は最大に達する。
【0107】
したがって、本発明の方法はまた、体外受精法を用いて作製されたヒト胚および非ヒト胚における異数性のスクリーニングを包含すると理解されるべきである。
【0108】
胚の異数性の検出に関する当技術分野における現行方法は、着床後スクリーニングを含む。Jenderneyら(Mol. Hum. Reprod. 6(9): 855-860, 2000)は、特定染色体上の短いタンデム反復に特異的なQF-PCRを、羊水試料で用いる方法について記載している。蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)などの技法を用いて、母親の血流中の胎児細胞から胎児の異数性の可能性を評価することも可能である(Bianchi et al., Prenat. Diag. 22(7): 609-615, 2002)。しかし、これらの研究でサンプリングされた材料を見てもわかるように、これらの技法は着床後の胚または胎仔における異数性の検出にしか適していない。
【0109】
本発明の方法は、単一細胞から抽出および/または増幅されたDNAの異数性を検出することができる。したがって、本出願の方法はとりわけ、体外受精によって作製された動物胚の異数性を、胚が着床する前に検出するのに適している。
【0110】
単一細胞は、当業者に周知であるように、標準的な割球生検法を用いて胚から単離され得る。簡潔に説明すると、割球生検手順は以下の段階を含む:
(i) IVF 3日後の7細胞胚を生検に供する。保持ピペットを備えたマイクロマニピュレーター上の定位置に胚を保持する。
(ii) 透明帯開孔ピペットを用いて、酸性タイロードにより胚の殻(透明帯)に孔を開ける。
(iii) 次いで、胚生検ピペットをこの開口部に挿入し、穏やかに吸引して胚から単一細胞(割球)を取り出す。
(iv) 次に、生検採取した胚をインキュベーターに戻して、さらに培養する。ここで本発明の方法に従って、割球を異数性についてスクリーニングすることができる。
(v) 割球の解析に基づき、次に、対応する非異数性胚を着床用に選択する。
【0111】
したがって本発明は、体外受精によって作製された動物胚の異数性を、胚が着床する前に検出する方法を提供する。
【0112】
本発明の好ましい態様において、動物胚はヒト胚である。
【0113】
本発明は、生物における染色体数の検出に加えて、生殖細胞での不分離事象の検出にも応用できる。本発明のこの局面では、生物、好ましくはヒトの配偶子を、染色体の欠損および/または重複について試験し得る。本発明のこの局面の方法は、本明細書に上記した方法とほぼ同じである。簡潔に説明すると、配偶子中の所与の染色体を代表する核酸を蛍光マーカーなどのレポーター分子で標識する一方、既知の非異数性配偶子に由来する等価な代表ポリヌクレオチドを別の蛍光マーカーで標識する。体細胞または胚形成細胞の異数性の検出に関して記載した方法と同様に、試料ポリヌクレオチドと標準物質ポリヌクレオチドを、限られた数の結合剤に対して競合的に結合させる。試料中の欠損染色体は、結合剤上の標準物質の検出の増加として明らかとなると考えられる。試料中の染色体の重複は、結合剤に対する試料の結合の増加として検出されると考えられる。試料中に不分離事象が起こっていなかった場合、標準物質と試料の結合剤に対する結合はほぼ同等になるはずである。
【0114】
本発明によって意図される結合剤は、基質に固定化されたポリヌクレオチド配列を含む。結合剤のポリヌクレオチド配列は、前記したように、試料および標準物質の核酸配列と相補的なポリヌクレオチド配列を含む。
【0115】
相補性に基づき、本発明の固定化ポリヌクレオチドが、低ストリンジェンシー条件下で、試料および標準物質の染色体番号を代表するポリヌクレオチドに結合すべきことが理解されるべきである。好ましくは、固定化ポリヌクレオチドは、中程度のストリンジェンシー条件下で試料および標準物質に結合すべきであり、最も好ましくは、固定化ポリヌクレオチドは、高ストリンジェンシー条件下で試料および標準物質に結合すべきである。
【0116】
本明細書における低ストリンジェンシーへの言及は、ハイブリダイゼーションに関して少なくとも約0%から少なくとも約15% v/vのホルムアミド(1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、および14% v/vホルムアミドを含む)および少なくとも約1 Mから少なくとも約2 Mの塩を含有および包含し、ならびに洗浄条件に関して少なくとも約1 Mから少なくとも約2 Mの塩を含有および包含する。一般に、低ストリンジェンシーは、約25〜30℃から約52℃、例えば25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、および52℃である。温度は変更することが可能であり、ホルムアミドを置換するため、および/または別のストリンジェンシー条件を付与するために、より高い温度が用いられる。必要であれば、中程度のストリンジェンシーのような別のストリンジェンシー条件を適用してもよく、この条件は、ハイブリダイゼーションに関して少なくとも約16%から少なくとも約30% v/vのホルムアミド(16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、および30% v/vホルムアミドを含む)および少なくとも約0.5 Mから少なくとも約0.9 Mの塩を含有および包含し、ならびに洗浄条件に関して少なくとも約0.5 Mから少なくとも約0.9 Mの塩を含有および包含し、または高ストリンジェンシーのような別のストリンジェンシー条件を適用してもよく、この条件は、ハイブリダイゼーションに関して少なくとも約31%から少なくとも約50% v/vのホルムアミド、および少なくとも約0.01 Mから少なくとも約0.15 Mの塩を含有および包含し、ならびに洗浄条件に関して少なくとも約0.01 Mから少なくとも約0.15 Mの塩を含有および包含する。一般に、洗浄は、Tm = 69.3 + 0.41 (G+C)%で行う(Marmur and Doty, J. Mol. Biol. 5: 109, 1962)。しかし、二本鎖DNAのTmは、ミスマッチ塩基対の数が1%増加するごとに1℃減少する(Bonner and Laskey, Eur. J. Biochem. 46: 83, 1974)。これらのハイブリダイゼーション条件では、ホルムアミドは任意である。したがって、特に好ましいストリンジェンシーのレベルは、以下のように定義される:低ストリンジェンシーは、6 x SSC緩衝液、0.1% w/v SDSで25〜42℃の温度範囲;中程度のストリンジェンシーは、2 x SSC緩衝液、0.1% w/v SDSで、20℃〜65℃の温度範囲;高ストリンジェンシーは、0.1 x SSC緩衝液、0.1% w/v SDSで少なくとも65℃の温度である。
【0117】
ポリヌクレオチドは、微粒子の作製過程において微粒子中に封入してもよいし、または作製後に微粒子の表面に結合してもよい。当業者に容易に確認されるように、ポリヌクレオチドを基質と結合させるために用いる方法の選択は、使用する材料に依存することになる。さらに、微粒子に対するポリヌクレオチドの結合を増大させるため、微粒子に対してシラン処理(シランによる基質の被覆)を含むさらなる処理を行ってから、ポリヌクレオチドを結合してもよい。
【0118】
一般に、微粒子を、微粒子の表面に共有結合するかまたはその他の方法で吸着する任意の化合物で被覆してもよく、さらにその物質は、チオール基、アミン基、もしくはカルボキシル基などの、ポリヌクレオチドを結合するための化学部分を有すべきである。これらの特徴を有する化合物の例には、アミノプロピルメトキシシランまたはアミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ末端を有するシランが挙げられる。シランに加えて、ガラス表面に非共有結合し、かつポリヌクレオチドのリン酸基を静電気的に吸収するポリ-L-リジンなどの化合物もまた、本発明の範囲内である。したがって、ポリヌクレオチドを表面に結合するのに適した他のシランを含む他の化合物は、当業者に容易に同定されると考えられ、本発明は化合物の選択に限定されない。
【0119】
基質にポリヌクレオチドを固定化する方法は、当業者には周知である。本発明の目的のため、結合剤ポリヌクレオチドの固定化に用いる実際の基質は、本発明の適用に影響しない。したがって、本発明の結合剤は、任意の基質に固定化されたポリヌクレオチドを包含する。基質上へのポリヌクレオチドの固定化の非限定的な例には、ディップスティック;サザンブロッティングに用いられるような、ニトロセルロースおよびナイロンを含むメンブレンに固定化されたポリヌクレオチド;マイクロアレイで用いられるような、スライドなどのガラスまたはセラミック表面上の固定化ポリヌクレオチド;フローサイトメトリーを用いた解析に適した微粒子などの、ビーズに基づいた基質上の固定化ポリヌクレオチド。
【0120】
ポリヌクレオチドは、任意の簡便な手段を用いて基質に結合することができ、典型的にこれは物理的吸着または化学的架橋によって行われる。さらに、アミノシランなどの、基質表面に対するポリヌクレオチドの吸着または結合を促進するまたは増加させる物質で、基質をさらに被覆してもよい。しかし、この機能を行う他の物質は、当業者によって容易に同定されると考えられる。本発明の好ましい態様において、結合剤は試料および標準物質のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドを含み、結合剤ポリヌクレオチドは基質に固定化されており、結合剤はフローサイトメトリーに適合する。
【0121】
より好ましい態様において、結合剤は微粒子に固定化されたポリヌクレオチドを含む。さらにより好ましい態様において、微粒子はシリカ微粒子である。さらにより好ましい態様では、シリカ粒子は核酸の共有結合のためにシラン処理されている。
【0122】
光源での励起による蛍光化合物の検出および特定波長での検出は、様々な装置に適用され得る。特定の光源および光検出器が、エピ蛍光顕微鏡法および共焦点レーザー顕微鏡法のための顕微鏡に適用されている。フローサイトメトリーもまた、細胞分類のために蛍光に基づいた検出系を用いている。さらに、マイクロアレイリーダーなど、特定用途のために蛍光を評価する目的で、多くの特化された検出装置が開発されている。本発明の方法は、蛍光標識の検出に用いられる方法および/または装置に規定されない。検出するための装置は、結合剤が結合されている基質に依存することになる。例えば、微粒子を含む結合剤は、フローサイトメトリーに基づいた検出系と適合する可能性が高く、スライドに固定化された核酸を含む結合剤は、エピ蛍光顕微鏡法またはレーザースキャニング共焦点顕微鏡法で解析される可能性が高い。最後に、スライド上に整列して配列された多くの結合剤は、特化されたアレイ測定装置を用いて解析される可能性が最も高い。上記から確認されるように、結合剤および結合している標識核酸の検出方法の選択は、本発明を規定することも限定することも決してなく、ただ単に結合剤に対して用いられた固定化方法と相関するに過ぎない。
【0123】
しかし、本発明のさらに好ましい態様においては、結合剤に対する標識試料および/もしくは標識標準物質の結合、ならびに/または結合剤に結合した標識標準物質に対する標識試料の相対量の検出は、フローサイトメーターを用いて決定される。
【0124】
本発明はさらに、生物、胚、または生殖組織中の複数またはすべての染色体の異数性を同時検出するために有用なキットを提供する。キットは多区画形態をしていることが都合よく、第1区画は、染色体特異的ゲノムDNA配列の増幅に適した、レポーター分子標識された、例えば蛍光標識された、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプライマーセットを含む。第2区画は、第1区画と同一の配列を有するが、異なるレポーター分子を有するオリゴヌクレオチドプライマーを含む。第3区画には、オリゴヌクレオチドプライマーの予測される単位複製配列と相補的なポリヌクレオチド配列を含む、1つもしくは複数の結合剤または結合剤群が存在する。これらの異なるポリヌクレオチドはそれぞれ、微粒子などの基質に固定化されている。異なる結合剤ポリヌクレオチドそれぞれに関して、ポリヌクレオチドが結合されている微粒子は、サイズ、結合されている任意の標識(例えば蛍光標識)、および/または蛍光標識の強度に基づいて異なる。これらの識別は、異なるクラスの微粒子がフローサイトメトリーにより検出および分類されるというものである。これらの成分に加えて、キットを使用するための説明書もまた含まれる。2つまたはそれ以上の区画の内容物を組み合わせることが可能であるため、キットが多区画形態であることは必要条件ではない。
【0125】
好ましい態様において、試料、標準物質、および微粒子結合剤は蛍光標識で標識されている。さらに好ましい態様では、試料、標準物質、および微粒子結合剤に結合されている標識の放射スペクトルは重複しない。
【0126】
本発明を、以下の非限定的な実施例によりさらに説明する:
【実施例】
【0127】
実施例1
微粒子の12重検出
本方法が12の異なる微粒子クラスを識別する能力について試験した。3.0μm、4.12μm、5.0μm、および6.8μmの微粒子を、テトラメチルローダミンを用いて3つの異なる蛍光強度レベル、0%、33%、および100%で標識し、12クラスの微粒子を作製した。次いで、これらのビーズを、単一検出チャネルを用いたフローサイトメトリーに供した。結果を図2に示す。
【0128】
実施例2
全ヒト染色体の異数性を同時検出するのための例示的な微粒子
表3は、全ヒト染色体の異数性を同時検出するのに適した、例示的な一連の潜在的結合剤を示す。これらの微粒子は、単一の蛍光マーカーによって5つの異なる蛍光強度レベルで標識された、5つの異なるサイズの微粒子を含む。ビーズサイズとマーカー強度のこれらの組み合わせによって、全ヒト染色体を同時に試験するのに必要な24クラスに対応する、25の可能なビーズクラスが生成される。
【0129】
実施例3
数クラスタリングを用いた多重解析
ヒトhGATA4、エキソン4 DNAを、フォワードプライマー上に5'リン酸を有したPCRにより作製した。PCR産物中の一塩基多型に関して、対立遺伝子特異的プローブを構築した。PCRした後、ExoI消化して過剰なプライマーおよびプライマー二量体を除去した。フォワード鎖DNAを、ラムダエキソヌクレアーゼにより優先的に分解した。試験当たり25ビーズまたは試験当たり50ビーズという形態で、PCRによるssDNAを、リン酸化フォワードプライマーと同一のDNAでカスタマイズしたAmpaSand(商標)ビーズ(Genera Biosystems、オーストラリア、メルボルン)と混合した。対立遺伝子特異的プローブ(黄色のチャネルで放射するテトラメチルローダミン(TMR)で標識したSNP-A特異的プローブ;および赤のチャネルで放射するCy5で標識したSNP-G特異的プローブ)。競合的にハイブリダイゼーションさせた後、2つの異なる実験による実験物を混合し、Becton-Dickinson FACSArrayフローサイトメーターに同時に供した。データを取得し、Showplot解析パッケージ(Genera Biosystems)で解析した。簡潔に説明すると、ビーズは、PCR産物の状態に応じて4つの「ポケット」のうちの1つにクラスター形成することになる。PCR中に「A」対立遺伝子のみ(ホモ接合性A)が存在する場合、TMRのみがAmpaSand(商標)ビーズに結合することになり、ビーズは黄色になる。PCR中に「G」対立遺伝子のみ(ホモ接合性G)が存在する場合、Cy5のみがビーズに結合することになり、ビーズは赤色になる。両対立遺伝子が存在する場合には、ビーズは中間となる(「半分」が赤色に輝き/「半分」が黄色に輝く)。試料が陰性である場合には、ビーズ上に蛍光は存在せず、ビーズはいずれのチャネルにおいても非常に低いポケットにクラスター形成することになる。
【0130】
遺伝子型同定の例を図3〜7に示す。数クラスタリング多重化を用いることで、結果を容易に割り当てることができる。
【0131】
(表3)ヒトの異数性を同時検出するのに適した、例示的なシリカ微粒子アレイの組成

【0132】
当業者は、本明細書に記載した本発明が具体的に記載した以外の変更および修飾を受け得ることを理解すると考えられる。本発明はそのような変更および修飾のすべてを含むものと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書に引用するまたは示す段階、特徴、組成物、および化合物のすべてを個別にまたはまとめて含み、さらにそのような段階または特徴の任意の2つまたはそれ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。
【0133】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴の1つまたは複数に基づいて、微粒子混合物から標識または非標識微粒子を検出および分類する方法:
(i) 微粒子サイズ;
(ii) 微粒子標識;
(iii) 微粒子標識強度;および
(iv) 微粒子数。
【請求項2】
微粒子が、蛍光標識によって標識される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
微粒子が、表面標識される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
蛍光標識、が内部に取り込まれる、請求項2記載の方法。
【請求項5】
微粒子が、フローサイトメーターを用いて検出および分類される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
微粒子が、シリカ微粒子である、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
以下の段階を含む、対象の1種または複数種の染色体における異数性を同時に検出する方法であって、微粒子上の蛍光標識は、存在する場合、試料および標準物質の標識のいずれとも異なる放射スペクトルを有し;結合剤に対する試料および標準物質の非同等な結合によって異数性が検出される方法:
(i) 患者中の各染色体の存在量を表す蛍光標識ポリヌクレオチド試料を作製する段階;
(ii) 試料と異なる蛍光マーカーで標識された、各染色体に対する等価な非異数性ポリヌクレオチド標準物質をさらに作製する段階;ならびに
(iii) 試料および標準物質を各染色体に対する限られた量の結合剤と混合する段階であって、結合剤は微粒子上に固定化された、各染色体に対する試料および標準物質と相補的なポリヌクレオチドを含み、各染色体に対する微粒子は、サイズおよび/または蛍光標識および/または蛍光標識強度に基づいて異なる段階。
【請求項8】
患者が、二倍体生物である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
対象が、哺乳動物である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物が、ヒトである、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
動物が、家畜動物である、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
家畜動物が、ウシ、ヒツジ、およびウマから選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
対象が、胚である、請求項7〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
胚が、体外受精によって作製される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
着床前の胚の異数性の検出に適している、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
DNA試料が、割球から単離、作製、または増幅される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
核酸試料および標準物質が、体細胞に由来するゲノムDNAから作製される、請求項7〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
核酸試料および/または標準物質が、生殖細胞または配偶子に由来するゲノムDNAから作製される、請求項7〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
結合剤が、微粒子上に固定化された、試料および標準物質に対する結合特異性を有する核酸を含む、請求項7〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
微粒子が、シリカ微粒子である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
シリカ微粒子が、シラン処理される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
標識試料および/もしくは標識標準物質、ならびに/または標識標準物質に対する標識試料の相対量が、フローサイトメーターを用いて決定される、請求項7〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
以下を含む、生物、胚、または細胞中の1種または複数種の染色体の異数性を同時診断するためのキットであって、微粒子の標識は、存在する場合、いずれの標識オリゴヌクレオチドプライマーの標識とも異なる放射スペクトルを有するキット:
(i) 染色体特異的ポリヌクレオチド配列の増幅に適した蛍光標識オリゴヌクレオチドプライマーセット;
(ii) 第1セットと同一の配列を有するが、第1マーカーとは別の放射スペクトルを有した異なる蛍光マーカーを含む、オリゴヌクレオチドプライマーの複製セット;
(iii) 微粒子サイズ、レポーター分子、またはレポーター分子強度に基づいて異なり、対象中の染色体数と等しい多くの結合剤であって、それぞれ、標識または非標識微粒子に固定化された、オリゴヌクレオチドプライマーの予測される単位複製配列と相補的なポリヌクレオチド配列を含む多くの結合剤;および
(iv) 試薬を使用するための説明書。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−224006(P2011−224006A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97062(P2011−97062)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【分割の表示】特願2006−517896(P2006−517896)の分割
【原出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(507192585)ジェネラ バイオシステムズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】