微粒子操作装置及びそれを用いた微粒子操作方法
【課題】安価で簡単な装置を用い、複数の微粒子を1つずつ速やかに、容易にアレイ状などの特定の位置に配置させること及び、特定の位置に配置させた微粒子を取り残すことなく速やかに効率的に取り出すことを可能とする微粒子操作装置及び微粒子操作方法を提供する。
【解決手段】微粒子操作領域34内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極14,15と、前記一対の電極間に平板状のスペーサー16を介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔9を有した平板状の絶縁体8からなる微粒子操作容器13と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源4と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる微粒子操作装置及び微粒子操作方法を用いる。
【解決手段】微粒子操作領域34内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極14,15と、前記一対の電極間に平板状のスペーサー16を介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔9を有した平板状の絶縁体8からなる微粒子操作容器13と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源4と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる微粒子操作装置及び微粒子操作方法を用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子の動きを制御し、微粒子を特定の位置に固定し、その後、固定した特定の位置から微粒子を取り出す微粒子操作装置及び微粒子操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無機材料系微粒子、有機材料系微粒子、生物試料系微粒子などを、それぞれの微粒子の物理的形状や物性を損なうことなく非接触、非破壊で補足、選択、移動、分別回収する操作として、光による微粒子の操作方法及び操作装置などが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。この方法は、一般に光ピンセットや光トラップと呼ばれ、光源に主としてレーザーを用いることから、レーザートラッピングなどとも呼ばれている。この手法は、光源からのレーザー光を集光光学系により円錐状に集光し、媒体中の微粒子近傍に照射することにより、微粒子に発生する光の放射圧を利用して、微粒子を補足、保持したり移動させたりするものである。しかしながら、この方法はレーザー光源や光学系を有するため、装置が高価であり大掛かりになるという課題があった。また、光学系の光軸調整を必要とするため、操作する前の調整に熟練を有する上、調整に時間を要するという課題があった。さらに、基本的に微粒子1個を顕微鏡等を用いて視覚的に確認しながら操作するため、一度に大量の微粒子を操作できないという課題があった。
【0003】
また、上記のような微粒子操作方法及び操作装置の応用事例として、細胞等の生物試料系微粒子を操作し、異なる細胞同士を融合させ、1つの交雑細胞とする細胞融合技術への応用が従来から試みられている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、特許文献4の方法は、特許文献1と同様に、装置が高価であり大掛かりになり、また光学系の光軸調整を必要とするため操作する前の調整に熟練を有する上調整に時間を要するという課題があった。さらに、基本的に細胞1個を顕微鏡等を用いて視覚的に確認しながら操作するため、一度に大量の細胞を操作できないため、細胞の操作効率が極めて悪いという課題があった。
【0004】
また、細胞操作を伴う細胞融合の別の事例として、細胞融合用チャンバーの融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図1は上記、特許文献2に示された細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度のパルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切り替える為のスイッチ(7)とから構成されている。ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる絶縁体(8)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの融合領域内の懸濁液内におかれている。
【0006】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切り替えスイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切り替えスイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切り替える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0007】
前記特許文献2に記載された方法により複数の細胞を同時に細胞融合させる場合、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、2細胞を一対ずつ固定する必要がある。ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、図24に示すように、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、アレイ状に形成した複数の微細孔において目的とする2細胞一対を固定できないこと、細胞融合後、融合細胞を微細孔から速やかに取り出せず、微細孔に融合細胞が残ってしまうという課題があった。
【0008】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の方法は、微細孔(特許文献3では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献3では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に概ね1つの細胞を固定している。
【0009】
しかしながら、前記特許文献3に記載された方法により1つの微細孔に概ね1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいこと、細胞を微細孔から速やかに細に取り出せず微細孔に細胞が残ってしまうという課題があった。特に、細胞などの生体試料を扱う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましい。また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すことを目的にした処理を行う場合などは、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0010】
【特許文献1】特開2001−290083公報
【特許文献2】特公平7−4218号公報(図1)
【特許文献3】特許第3723882号公報(図1)
【特許文献4】特開平7−31455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、安価で簡単な装置を用い、複数の微粒子を1つずつ速やかに、容易にアレイ状などの特定の位置に配置させること及び、特定の位置に配置させた微粒子を取り残すことなく速やかに効率的に取り出すことを可能とする微粒子操作装置及び微粒子操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するものとして、微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記微粒子操作容器が有する前記複数の微細孔がアレイ状に形成した絶縁体からなる微粒子操作容器であり、前記電源が微粒子固定用電源と微粒子取り出し用電源から構成され、前記微細孔は1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための形状を有し、前記電源が、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための波形を有する交流電圧を前記電極間に印加する第1の交流電源と、前記微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出すための第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源から構成される微粒子操作装置及びそれを用いた微粒子操作方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の微粒子操作装置は、微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる微粒子操作装置である。
【0014】
また本発明の微粒子操作装置は、微粒子操作装置が備えた電源のうち、微粒子固定用電源が第1の交流電圧を印加する第1の交流電源からなり、微粒子取り出し用電源が第2の交流電圧を印加する第2の交流電源からなり、前記第1の交流電源と前記第2の交流電源とを切り替える切替機構を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0015】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電源により、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加される、上記の微粒子操作装置である。
【0016】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電源により、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加される、上記の微粒子操作装置である。
【0017】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である、上記の微粒子操作装置である。
【0018】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形が、矩形波、台形波またはこれらを組み合わせた波形である、上記の微粒子操作装置である。
【0019】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形の0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が、微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、上記の微粒子操作装置である。
【0020】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定できる形状である、上記の微粒子操作装置である。
【0021】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満である、あるいは、前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満である、上記の微粒子操作装置である。
【0022】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状である、上記の微粒子操作装置である。
【0023】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状が、四辺形である、上記の微粒子操作装置である。
【0024】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている、上記の微粒子操作装置である。
【0025】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されている、上記の微粒子操作装置である。
【0026】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である、上記の微粒子操作装置である。
【0027】
また本発明の微粒子操作装置は、スペーサーが、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0028】
また本発明の微粒子操作装置は、スペーサーが、微粒子を導入する導入流路および排出する排出流路を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0029】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体が微粒子と親和性を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0030】
また本発明の微粒子操作方法は、前述した微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、微粒子操作領域内に微粒子を導入し、第1の交流電圧を印加することで微細孔内に前記微粒子を固定した後、切替機構により前記第1の交流電源を第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出す、微粒子操作方法である。
【0031】
以下では、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
本発明の微粒子操作装置は、微粒子を操作する領域内に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極に電圧を印加する電源と、を備えた装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる、微粒子操作装置である。
【0033】
本発明で取り扱うことができる微粒子は、電気的に静電容量性を有する微粒子であれば特に制限はなく、例えばシリカやジルコニア、酸化ニッケルなどの無機材料系微粒子、ポリスチレンなどの有機材料系微粒子、細胞などの生物試料系微粒子などが挙げられる。
【0034】
図5に本発明の微粒子操作装置の概念図を示す。本発明の微粒子操作装置は大きく分けて、微粒子操作容器(13)と電源(4)から構成される。
【0035】
微粒子操作容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔(9)をアレイ状など絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、絶縁体と下部電極の間にスペーサーを挟んだ態様としてもよいし、絶縁体と上部電極の間及び絶縁体と下部電極の間の両方にスペーサーを挟んだ態様としてもよい。
【0036】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよい。例えば、微粒子操作容器内の微粒子の動きを観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0037】
上部電極と下部電極の面積には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0038】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ微粒子操作容器に微粒子懸濁液を入れておくスペースを確保するためのものであり、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有し、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等が挙げられる。
【0039】
またスペーサーには、微粒子操作容器に微粒子を導入する導入流路およびそれに連通する導入口(19)と、微粒子を排出する排出流路およびそれに連通する排出口(20)が設けられていてもよい。
【0040】
スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。微粒子操作領域(34)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、微粒子懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。
【0041】
絶縁体(8)には複数の微細孔(9)がアレイ状として代表されるように、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。また、微細孔がほぼ等間隔に配置されていれば、縦方向のみ、あるいは横方向のみのように直線状に微細孔が配置される態様であってもよい。このように等間隔に微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。
【0042】
また、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の微粒子が固定される確率が高くなり結果として微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に微粒子が残されてしまい、微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。具体的には、微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満程度であることがより好ましい。微細孔は、電極方向に絶縁体(8)を貫通させて形成されている。1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための微細孔の詳細な形状は後述する。
【0043】
絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔をアレイ状に複数形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。
【0044】
また、絶縁体の材質は、微粒子を絶縁体に形成した微細孔に引き寄せて固定することから、微粒子と親和性のある材質が好ましい。ここで、微粒子と親和性のある絶縁体の材質とは、親水性の微粒子に対しては親水性の絶縁体であり、疎水性の微粒子に対しては疎水性の絶縁体であることを意味する。親和性の目安としては、一般的には、絶縁体の表面に前記微粒子に近い親和性を有する液体を滴下したときに形成される液滴と絶縁体の表面との接触角で示され、接触角が小さいほど液体と絶縁体の表面との親和性が高く、接触角が大きいほど液体と絶縁体の表面との親和性が低くなる。親水性の比較的高い絶縁体としては、ガラスや酸化チタン等があり、疎水性の比較的高い絶縁体としては、ポリスチレン、ポリイミド、テフロン(登録商標)等の樹脂があり、扱う微粒子の親水性、疎水性に応じてこれらの材料を絶縁体として用いればよい。
【0045】
また微粒子との親和性が低い絶縁体を用いる場合は、絶縁体の表面を改質することによって、微粒子との親和性を高めることもできる。
【0046】
樹脂等の疎水性の絶縁体を親水化する方法としては、既知の方法である、プラズマ処理、化学修飾、タンパク質の物理吸着などによる修飾、或いはこれらの方法を任意に組み合わせた方法などが挙げられ、本発明において用いることができる。
【0047】
ここで、絶縁体の表面のプラズマ処理とは、電子・イオン・ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を絶縁体の表面に照射することにより、絶縁体の表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、絶縁体の表面を改質する処理である。プラズマ処理には、非重合性ガス(Ar、O2など)を用いるプラズマ表面処理と有機モノマーを用いて絶縁体の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合がある。プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、絶縁体の表面の親水性を向上させることで親水性の微粒子との親和性を高めることが可能である。
【0048】
また、絶縁体の表面の化学修飾による親水化とは、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを絶縁体の表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と疎水性を示す反応基(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。このため、シランカップリング剤の希薄溶液に疎水性の絶縁体を浸漬すれば、シランカップリング剤の疎水性を示す反応基が疎水性の材料の表面に化学的に結合し、親水性を示す反応基が表面を覆うため、容易に疎水性の材料の表面を均一に親水化することが可能である。
【0049】
さらに、BSA(ウシ血清アルブミン)などのタンパク質含有溶液に絶縁体を数分〜数時間を浸漬することで、タンパク質を物理吸着させ、絶縁体の表面を親水化することができる。
【0050】
一方、ガラス等の親水性の絶縁体を疎水化する方法としては、シランカップリング剤を親水性の絶縁体表面に結合させる化学修飾による方法がある。前述したように、シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と疎水性を示す反応基(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、シランカップリング剤の希薄溶液に親水性の絶縁体を浸漬すれば、シランカップリング剤の親水性を示す反応基が親水性の絶縁体の表面に化学的に結合し、疎水性を示す反応基が表面を覆うため、絶縁体の表面を均一に疎水化することが可能である。
【0051】
また親水性及び疎水性の評価方法としては、以下に記載する一般的な手法を用いることができる。すなわち、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定することによって絶縁体の表面の親水性及び疎水性を評価することができる。ここで、一般的に親水性及び疎水性の厳密な定義はないが、本発明における親水性とは、前記接触角が45°以下、好ましくは30°以下であると定義し、本発明における疎水性とは、前記接触角が45°より大きく、好ましくは60°より大きいと定義する。
【0052】
樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体に光硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。
【0053】
なお図6は、図5の微粒子操作容器のA−A’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように張り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせる方法や、加圧した状態で過熱して融着させる方法などの他にも、スペーサーとして、PDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような表面粘着性のある樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法などがあり、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した微粒子操作領域(34)を形成することができる。
【0054】
次に、本発明の微粒子操作容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源から構成されており、切り替えスイッチ等の切替機構により適宜切り替えて使用することができる。ここで前記微粒子固定用電源は、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電圧を印加するための第1の交流電源であり、前記微粒子取り出し用電源は、上部電極と下部電極の電極間に第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源である。ここで交流電圧とは、半周期ごとに対称的に正の電圧と負の電圧を周期的に繰り返す波形を有する電圧を意味する。なお、対照的とは線対称であっても点対称であってもよい。
【0055】
第1の交流電圧は、本質的に1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができれば特に制限はない。ここで、微細孔に固定するとは、微粒子が微細孔の中に入ること及び、微粒子が微細孔の中に入らないまでも微細孔の縁に留まることを意味する。
【0056】
以下では、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための波形を有する第1の交流電圧と微細孔の形状に関して説明する。ここで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するとは、1つの微細孔に1つの微粒子が固定されている割合が、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定されているか、1つの微細孔に微粒子が固定されていない割合よりも大きいか、あるいは1つの微細孔に1つの微粒子が固定されている割合が1つの微細孔に2以上の微粒子が固定されておりかつ1つの微細孔に微粒子が固定されていない割合よりも大きいか、のいずれかを意味する。
【0057】
本発明の微粒子操作装置は、図5に示した電源(4)により1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されるものであり、より具体的には前記電極間に印加される第1の交流電圧の波形が、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す微粒子操作装置である。ここで微粒子の充電とは、微粒子に一定の電圧を印加することで微粒子に電荷が蓄積され微粒子にかかる電圧が印加した電圧に等しくなり、微粒子に電荷が蓄積されるまでに過渡的に微粒子に流れていた電流が流れなくなる状態を意味する。また微粒子の放電とは、微粒子に印加していた電圧を0にすることで、微粒子に蓄積された電荷を放出し、微粒子にかかる電圧が0に等しくなることを意味する。なお、微粒子の放電の際には、微粒子の充電の際に流れていた過渡的な電流とは逆向きの電流が過渡的に流れる。
【0058】
またより具体的には、前記第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である微粒子操作装置である。さらに好ましくは、前期第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、微粒子操作装置である。
【0059】
また本発明の微粒子操作装置は、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するため、前記絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満であるか、もしくは前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満であり、さらに前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である微粒子操作装置である。またさらに、微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状であることが好ましく、さらには、微細孔の形状が四辺形であることがより好ましい。
【0060】
上記のような第1の交流電圧の波形を用い、微細孔の形状とすることで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができる。
【0061】
本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の波形は、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図7にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図7の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記微粒子の充電と放電が繰り返される。なお図7の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記微粒子が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。なお、本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により微粒子が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により微粒子を微細孔に固定することが困難になること、また微粒子を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより微粒子が熱運動を起こすため、誘電泳動力により微粒子の動きを制御することができなくなり微粒子を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0062】
またより具体的には、本発明の微粒子操作装置に用いる前記第1の交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である。図7におけるS[s]が電圧が一定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間S[s]が微粒子の静電容量C[F]と微粒子を含有する懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S>τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0063】
なお、本発明における第1の交流電圧の波形は図7に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、第1の交流電圧の波形が、矩形波(図8)、台形波(図9)、またはこれらを組み合わせた波形(図10)であってもよい。
【0064】
また本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の電圧値と周波数は、微粒子を微細孔に引き寄せる方向に誘電泳動力がはたらけば特に制限はなく、微粒子操作容器の電極間距離や、操作対象となる微粒子の種類や大きさ、微粒子を含有する懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。
【0065】
例えば、微粒子操作容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、操作対象の微粒子が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の微粒子操作容器に300nMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、微粒子の静電容量C[F]と微粒子を含有する懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。
【0066】
例えば、図8に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に微粒子を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に微粒子が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に微粒子を微細孔に固定することができる。
【0067】
次に、上記態様の第1の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔に概ね1つの微粒子が固定される理由を図11〜図21を用いて説明する。
【0068】
図11〜図13には本発明の微粒子操作装置において、微細孔に微粒子が入る過程の概念図を示した。微細孔の深さ、すなわち絶縁体(8)の厚みは微粒子A(18)及び微粒子B(22)の直径より小さく、微細孔の内径は微粒子A及び微粒子Bの直径より小さい。また図12に示すように微細孔A(17)に微粒子Aが入った後、図13に示すように微細孔B(21)に微粒子Bが入る場合を想定している。図14〜図16には、それぞれ図11〜図13を電気的な等価回路で表現した図を示す。微粒子を含有する懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、微粒子はコンデンサー(容量:1pF)により電気的等価回路で表現することができる。
【0069】
図17に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の第1の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで微粒子に対して誘電泳動力が発生し、微粒子が微細孔に引き寄せられ、微細孔Aに微粒子Aが固定され微粒子Aが微細孔Aを塞ぐ。微粒子Aで塞がれた微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーA(29)と電気的に等価となる。
【0070】
図17に示す電圧波形を印加した場合、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を図18、電流波形を図19に示す。図18のようにコンデンサーAは微粒子Aの容量C[F]と微粒子を含む懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いることが好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図19に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になり、微粒子Aの入った微細孔Aでは、電気力線の集中が生じなくなる。このため微粒子Aの入った微細孔Aには別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が断続的に生じなくなり、微細孔Aが新たに微粒子を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔Bには電気力線の集中が生じているため、別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が連続的に発生し、微粒子Bが誘電泳動力により引き寄せられ微細孔Bに微粒子Bが固定され微粒子Bが微細孔Bを塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと微粒子が入っていくことで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができる。
【0071】
微細孔の内径が微粒子の直径より大きいと、微粒子は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し微粒子が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が入る確率が高くなる。従って、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する微粒子の直径未満であることが最も好ましい。もしくは、微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満倍の範囲でありかつ微細孔の深さが微粒子の直径の2倍未満であれば、1つめの微粒子が微細孔に入った後、2つめの微粒子が引き寄せられても微細孔に入って固定される確率は非常に低くなるため、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定する確率が高くなる。なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図15におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、微粒子Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、微粒子Bは微粒子Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定される確率が高くなる。
【0072】
また、図27で示される本発明の微粒子操作装置は、前記微細孔(9)の平面形状が、1以上の角を有する形状である、微粒子操作装置であって、さらには、前記微細孔の平面形状が、四辺形である、微粒子操作装置である。ここで、角とは微細孔の形状を構成する2辺が鋭角あるいは鈍角で交わる部分であり、角の先端が若干丸みを帯びた形状も含む。図25に、微細孔の平面形状が1以上の角を有する代表的な形状を示した。また、四辺形とは、前記微細孔の形状が前記角を4つ有しており、前記4つの角は、角の先端が若干丸みを帯びた形状なども含む。また、4本の辺は直線であってもよいし、4本全ての辺あるいは4本のうち任意の辺が微細孔の中心あるいは外側に向かって若干湾曲していてもよい。図26に、本発明における四辺形の微細孔の形状の代表的な例を示す。
【0073】
上述したように、微細孔の平面形状の一部に角が存在していれば、前記角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で微粒子が引き寄せられる結果、微粒子が微細孔に固定される確率が向上する。角は微細孔に少なくとも1箇所存在すればよいが、複数存在していた方がより好ましい。しかしながら、角の形状は鈍角よりも鋭角の方が電気力線の集中が生じやすく誘電泳動力が強いため、五角形以上の多角形よりも四角形以下の多角形の方がより好ましい。また、四角形であれば特に制限はなく、例えば図26に示すように台形や菱形、平行四辺形などの態様があるが、四辺形の微細孔の形状が4つの角を結ぶ辺の長さが4本ともほぼ等しく、微細孔の中心において90度の角度で点対称であれば、四辺形の微細孔の4つの辺に生じる誘電泳動力が4つとも等しく、4つの角に生じる誘電泳動力も4つとも等しくなり、微細孔の方向によらず微細孔の誘電泳動力の分布が点対称となるため、微細孔に対する微粒子の位置によらず、偏りの少ない誘電泳動力を作用させることが可能となるため、微細孔の形状は図26の(a)〜(d)のような正方形あるいは正方形に近い形状であることがより好ましい。
【0074】
また、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の微粒子が固定される確率が高くなり結果として微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に微粒子が残されてしまい、微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満程度であることがより好ましい。
【0075】
次に、図20に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで微粒子に対して誘電泳動力が発生し、微粒子が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、微粒子Aが微細孔Aを塞ぐ。微粒子Aが塞いだ微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーAと等価となる。図20に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図21に示す。図21に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、微粒子Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため微粒子Aの入った微細孔Aには別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が連続的に発生し、微粒子Bは微粒子Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化し、微粒子の充電と放電を十分に行えない交流電圧の波形では、複数の微粒子が集中して固定される微細孔と、微粒子が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することが難しくなることがある。
【0076】
なお、印加する電圧が直流の場合は、微粒子を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより微粒子が熱運動を起こすため、誘電泳動力により微粒子の動きを制御することができなくなり微粒子を微細孔に引き寄せることが困難となることがある。
【0077】
以上の理由から、本発明の微粒子操作装置は、前記電源により前記電極間に印加する第1の交流電圧の波形が、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、またより具体的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、前期第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、微粒子操作装置であって、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する微粒子の直径未満であるか、もしくは、微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ微細孔の深さが微粒子の直径の2倍未満であり、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である、微粒子操作装置とすることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することが可能となる。
【0078】
なお、図11〜図13では、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以上であり、微粒子が下方向に沈降する場合を想定し、微細孔を形成した絶縁体が下面にある図を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以下であり、微粒子が上方向に浮上する場合は、微細孔を形成した絶縁体が上面にあってもよい。
【0079】
また、図28に示すように、微細孔を形成した絶縁体が、上と下のスペーサーを介して、上部電極と下部電極の間に配置されていてもよい。図28の微粒子操作装置では、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以上である場合、微粒子は下方向に沈降するので、微粒子を含有した懸濁液を微細孔が形成された絶縁体と上部電極で構成される領域に入れればよく、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以下である場合、微粒子は上方向に浮上するので、微粒子を含有した懸濁液を微細孔が形成された絶縁体と下部電極で構成される領域に入れればよい。なお図29は図28に示した微粒子操作容器のBB’断面図である。
【0080】
次に、微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出すために用いる第2の交流電源によって印加される第2の交流電圧に関して記述する。
【0081】
本発明における第2の交流電圧の電圧と周波数は、微粒子を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらけば特に制限はなく、微粒子操作容器の電極間距離や、操作対象となる微粒子の種類や大きさ、微粒子を含有する懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、微粒子操作容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、操作対象の微粒子が直径10μm程度のマウスミエローマ細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞に対しては、20kHz未満の周波数でマウスミエローマ細胞を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらき、さらに好ましくは、10kHz未満の周波数で確実にマウスミエローマ細胞を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらく。またこの場合の交流電圧の電圧値は、微細孔に微粒子を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔から微粒子が取り出される時間は1〜5秒程度であり、瞬時に微粒子を微細孔から取り出すことができる。また、本発明における第2の交流電圧の波形は、交流電圧であれば特に制限はない。
【0082】
なお、微粒子を微細孔に引き寄せる方向にはたらく誘電泳動力を正の誘電泳動力、微粒子を微細孔から取り出す方向にはたらく誘電泳動力を負の誘電泳動力と定義する。正の誘電泳動力と負の誘電泳動力は、対象とする微粒子の誘電率とその微粒子を含有する懸濁液の誘電率、及び使用する交流電圧の周波数によって制御できる。例えば、前述のように微粒子として直径10μm程度のマウスミエローマ細胞を用い、懸濁液に300mMのマンニトール水溶液を用いた場合は、交流電圧の周波数が30kHz以上で正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは50kHz以上で確実に正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、20kHz未満の周波数で負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは10kHz未満で確実に負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、微粒子として直径6μm程度のポリスチレン微粒子を用い、懸濁液に純水を用いた場合は、交流電圧の周波数が1kHz以上で負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは1MHz以上で確実に負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。また、100Hz未満で正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは10Hz未満で確実に正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。
【0083】
ここで、ある周波数で正の誘電泳動力と負の誘電泳動力が切り換わる理由を説明する。本発明の微細孔における誘電泳動力は、微粒子半径、交流電圧、微粒子の誘電率、懸濁液の誘電率により、一般に以下の式1で示される。
誘電泳動力∝(細胞半径)3×(細胞の誘電率−細胞懸濁液の誘電率)×(微細孔で集中した交流電圧の大きさ)2
・・・(式1)
ここで、一般に微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率は交流電圧の周波数に依存して変化する。よって、交流電圧の周波数を変化させたときの微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率の大小により誘電泳動力の符号が決まる。すなわち、交流電圧の周波数を変化させたとき、微粒子の誘電率が懸濁液の誘電率よりも大きくなれば正の誘電泳動力が働き、微粒子の誘電率が懸濁液の誘電率よりも小さくなれば負の誘電泳動力が働く。従って、理論的には、計算により微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率が等しくなる周波数を求めれば、その周波数がちょうど正の誘電泳動力と負の誘電泳動力が変化する境界の周波数(以下、境界周波数と称する。)となる。しかしながら、一般に微粒子の誘電率や懸濁液の誘電率を周波数ごとに測定することは難しいため、微粒子の動く方向の変化で、境界周波数を実験的に決定することが多い。この境界周波数は、当然、取り扱う微粒子の種類や懸濁液の種類によって異なる。
【0084】
従って、本発明では、第1の交流電圧の周波数は微粒子が微細孔に引き寄せられる周波数であれば特に制限はなく、第2の交流電圧の周波数は微粒子が微細孔から引き離される周波数であれば特に制限はない。例えば、本発明で用いたマウスミエローマ細胞は300mMのマンニトール水溶液において、交流電圧の周波数が30kHz以上で正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは50kHz以上で確実に正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、20kHz未満の周波数で負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは10kHz未満で確実に負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、微粒子として直径6μm程度のポリスチレン微粒子を用い、懸濁液に純水を用いた場合は、交流電圧の周波数が1kHz以上で負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは1MHz以上で確実に負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。また、100Hz未満で正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは10Hz未満で確実に正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。
【0085】
次に本発明の微粒子操作方法を説明する。本発明の微粒子操作方法は、前述した微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、微粒子操作領域内に微粒子を導入し、第1の交流電圧を印加することで微細孔内に前記微粒子を固定した後、切替機構により前記第1の交流電源を第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出す微粒子操作方法である。この方法の概念図を図30に示した。まず、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電源(39)を接続し、第1の交流電圧を印加して微粒子に正の誘電泳動力(37)をはたらかせ、微粒子を微細孔に固定する。次に、上部電極と下部電極の電極間に第1の交流電源を切替機構により第2の交流電源(40)に切り替えて接続し、第2の交流電圧を印加して微細孔に固定された微粒子に負の誘電泳動力(38)をはたらかせ、微粒子を微細孔から取り出す。このようにして絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に微粒子を効率的に固定すること及び、それに引き続き、微細孔に固定した微粒子を、微細孔に残すことなく効率的に取り出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0086】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を速やかに固定することができ、複数の微粒子を1つずつ速やかにアレイ状に配置させることが可能となる。
(2)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定できる確率を上げることが可能となる。
(3)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に固定された微粒子を、速やかに微細孔から取り出すことが可能となる。
(4)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出す際に、微細孔に残すこと無く取り出すことが可能となる。
(5)本発明の微粒子操作方法は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に微粒子を効率的に固定すること及び、微細孔に固定した微粒子を効率的に取り出すことが可能となる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0088】
(実施例1)
図5に実施例に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は大きく分けて、微粒子操作容器(13)と電源(4)から構成される。微粒子操作容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を用いた。
【0089】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。
【0090】
また、図5に示すように、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図22に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0091】
まずはじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。
【0092】
次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ7μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。
【0093】
現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図6のように積層し圧着した。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。
【0094】
スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源として、信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)をリード線を介して接続した。本実施例の場合、この信号発生器が第1の交流電源と第2の交流電源を兼用している。
【0095】
微粒子には、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0096】
また、微細孔付き絶縁体の親水性を評価するために、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°(疎水性)であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性であることを確認した。この場合、絶縁体表面は操作対象であるマウスミエローマ細胞(親水性を有する)と親和性は比較的高い。
【0097】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間で図23に示すようにアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。ただし、「固定することができた」とは、微細孔に細胞が入った場合及び、微細孔の縁に細胞が留まった場合の両方を意味し、実施例2及び比較例1でも同じ定義とした。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約90%であった。ここで微粒子固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、微粒子を導入して固定したときの、1個の微粒子が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の実施例及び比較例での微粒子固定率も同じ定義である。
【0098】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、取り出した細胞数は、導入した細胞数の約80%であった。
【0099】
(実施例2)
図27に実施例2に用いた微粒子操作装置を示した。絶縁体に形成した微細孔の形状が、一辺が7μmの正方形の微細孔形状であること以外は、実施例1に用い微粒子操作装置と同じである。微粒子には、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0100】
微細孔付き絶縁体の親水性を評価するために、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性が向上したことを確認した。この場合、絶縁体表面は操作対象であるマウスミエローマ細胞(親水性を有する)と親和性は比較的高い。
【0101】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約95%であった。これは、微細孔の形状が正方形であるため、微細孔の正方形の角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で微粒子が引き寄せられる結果、実施例1よりも微粒子固定率が向上したと考えられる。
【0102】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、取り出した細胞数は、導入した細胞数の約82%であった。
【0103】
(比較例1)
実施例2と同じ微粒子操作装置を用いて、細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約96%であった。
【0104】
次に交流電圧の印加を停止し、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、微粒子操作容器から取り出した細胞数は、導入した細胞数の約60%であった。細胞懸濁液を取り出した後、微粒子操作容器の微細孔を顕微鏡で観察したところ、いくつかの微細孔に細胞が残っていることを確認した。
【0105】
(実施例3)
実施例1と同じ微粒子操作装置を用い、微粒子にはポリスチレン微粒子(φ6μm、ポリスチレン微粒子濃度2.5%、フナコシ製)を用い、純水に懸濁させて0.8×106個/mLの密度になるようにポリスチレン微粒子懸濁液を調整した。ただし、実施例1と異なり、微細孔付絶縁体一体型下部電極の絶縁体の親水化処理は行わなかった。この場合、本実施例3の絶縁体は疎水性であり、すなわちポリスチレン微粒子(疎水性を有する)と、本実施例3の絶縁体は親和性は比較的高い。
【0106】
上記ポリスチレン微粒子懸濁液500μL(微粒子数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として、信号発生器により電圧15Vpp、周波数9Hzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、概ね1つのポリスチレン微粒子を固定することができ、ポリスチレン微粒子をアレイ状に配置させることができた。ここで、「固定することができた」とは、微細孔にポリスチレン微粒子が入った場合及び、微細孔の縁にポリスチレン微粒子が留まった場合の両方を意味し、比較例2でも同じ定義とした。このときの、1つの微細孔に概ね1つのポリスチレン微粒子が入る微粒子固定率は約60%であった。
【0107】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧15Vpp、周波数100kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていたポリスチレン微粒子を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けてポリスチレン微粒子懸濁液を取り出したところ、取り出したポリスチレン微粒子数は、導入したポリスチレン微粒子数の約78%であった。
【0108】
なお、本実施例3で用いた微粒子操作措置を用いて、交流電圧の周波数とポリスチレン微粒子の微細孔への固定と取り出しをさらに検討した結果、第1の交流電圧(電圧15Vpp)の周波数が約100Hz未満で微細孔にポリスチレン微粒子が固定されはじめ、10Hz未満になると、約50〜60%のポリスチレン微粒子が微細孔に固定された。また、第2の交流電圧(電圧15Vpp)の周波数が約1kHz以上で微細孔からポリスチレン微粒子が出はじめ、1MHz以上になると、微細孔に固定されたポリスチレン微粒子のうちほぼ90%以上のポリスチレン微粒子を微細孔から取り出すことができた。
【0109】
(比較例2)
実施例3と同じ微粒子操作装置を用いて、ポリスチレン微粒子懸濁液500μL(微粒子数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として、信号発生器により電圧15Vpp、周波数9Hzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、概ね1つのポリスチレン微粒子を固定することができ、ポリスチレン微粒子をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つのポリスチレン微粒子が入る微粒子固定率は約58%であった。
【0110】
次に交流電圧の印加を停止し、微粒子操作容器を傾けてポリスチレン微粒子懸濁液を取り出したところ、微粒子操作容器から取り出したポリスチレン微粒子数は、導入したポリスチレン微粒子数の約55%であった。ポリスチレン微粒子懸濁液を取り出した後、微粒子操作容器の微細孔を顕微鏡で観察したところ、いくつかの微細孔にポリスチレン微粒子が残っていることを確認した。
【0111】
(実施例4)
図5に実施例4に用いた微粒子操作装置の概念図を示した。実施例1と同じ様に、図22に示すようにITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの円形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0112】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源(4)は、細胞固定用電源、細胞取り出し用電源から構成されており、切替えスイッチ等の切替え機構により適宜切替えて使用することができる。ここで前記細胞固定用電源は、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電圧を印加するための第1の交流電源であり、前記細胞取り出し用電源は、上部電極と下部電極の電極間に第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源である。
【0113】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した装置を用いて、後述する実験を行った。
実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、第1の交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を10秒間電極間に印加したところ、アレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔につき1個のマウスミエローマ細胞が入る確率は約91%であった。ここで細胞固定率とは、懸濁液を導入して顕微鏡の視野内に存在した174個のマウスミエローマ細胞のうち微細孔に固定された細胞数を、視野内細胞数の174個で割った値で定義した。電圧および矩形波交流電圧印加時間は上記のままで周波数だけを小さくする実験を行った。その結果、図31のように50kHzでは固定率は約81%を示し、30kHzで約50%が固定された。しかし10kHzではほとんど固定されなかった。この結果から、細胞固定用交流電源の交流周波数は30kHz以上、好ましくは50kHz以上が望ましいことを確認した。
また、同様に手法を用いて細胞脱離率の測定を行った。細胞脱離率とは、懸濁液を導入して第1の交流電源を用いて固定されたマウスミエローマ細胞のうち第2の交流電源に切替えた際微細孔から取り出されたマウスミエローマ細胞の細胞数を、固定された細胞数で割った値で定義した。第2の交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数10kHzの矩形波交流電圧を10秒間電極間に印加したところ、アレイ状に形成した複数の微細孔に固定されていたマウスミエローマ細胞を取り出すことができた。このときの、マウスミエローマ細胞の脱離率は約100%であった。電圧および矩形波交流電圧印加時間は上記のままで周波数だけを大きくする実験を行った。その結果、図32のように10kHzでは脱離率は約100%を示し、20kHzでは約50%が脱離した。しかし100kHzではほとんど脱離しなかった。この結果から、細胞取り出し用交流電源の交流周波数が20kHz未満、好ましくは10kHz未満であることが望ましいことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の微粒子操作装置及び、実施例1〜3で用いた微粒子走査装置の概念図である。
【図6】図5の微粒子操作容器のAA’断面図である。
【図7】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図8】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図11】本発明の微粒子操作方法を説明する第1の図である。
【図12】本発明の微粒子操作方法を説明する第2の図である。
【図13】本発明の微粒子操作方法を説明する第3の図である。
【図14】図11を電気的な等価回路で表した図である。
【図15】図12を電気的な等価回路で表した図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図18】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図19】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図20】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図21】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図22】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図23】実施例による、アレイ状の微細孔に1つずつの微粒子を固定した実験結果を示す図である。
【図24】アレイ状の微細孔に1つずつの微粒子を固定できなかった様子を示す図である。
【図25】本発明における微細孔形状の第1の例を示す図である。
【図26】本発明における微細孔形状の第2の例を示す図である。
【図27】本発明における実施例2に用いた微粒子操作装置の概略図である。
【図28】本発明における、微細孔を形成した絶縁体が、上と下のスペーサーを介して、上部電極と下部電極の間に配置された微粒子操作装置の例を示す概略図である。
【図29】図28に示した微粒子操作容器のBB’断面図である。
【図30】本発明における微粒子操作方法を示す概念図である。
【図31】本発明の微細孔への細胞固定率と周波数の関係を示した図であり、図中、X軸(横軸)は交流電圧の周波数(単位はkHz)であり、Y軸(縦軸)は細胞固定率(単位は%)である。
【図32】本発明の微細孔への細胞脱離率と周波数の関係を示した図であり、図中、X軸(横軸)は交流電圧の周波数(単位はkHz)であり、Y軸(縦軸)は細胞脱離率(単位は%)である。
【符号の説明】
【0115】
1:融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:微粒子操作容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:微細孔A
18:微粒子A
19:導入口
20:排出口
21:微細孔B
22:微粒子B
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:コンデンサーA
30:コンデンサーB
31:抵抗
32:融合細胞
33:現像液
34:微粒子操作領域
35:微粒子
36:微細孔
37:正の誘電泳動力
38:負の誘電泳動力
39:第1の交流電源
40:第2の交流電源
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子の動きを制御し、微粒子を特定の位置に固定し、その後、固定した特定の位置から微粒子を取り出す微粒子操作装置及び微粒子操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、無機材料系微粒子、有機材料系微粒子、生物試料系微粒子などを、それぞれの微粒子の物理的形状や物性を損なうことなく非接触、非破壊で補足、選択、移動、分別回収する操作として、光による微粒子の操作方法及び操作装置などが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。この方法は、一般に光ピンセットや光トラップと呼ばれ、光源に主としてレーザーを用いることから、レーザートラッピングなどとも呼ばれている。この手法は、光源からのレーザー光を集光光学系により円錐状に集光し、媒体中の微粒子近傍に照射することにより、微粒子に発生する光の放射圧を利用して、微粒子を補足、保持したり移動させたりするものである。しかしながら、この方法はレーザー光源や光学系を有するため、装置が高価であり大掛かりになるという課題があった。また、光学系の光軸調整を必要とするため、操作する前の調整に熟練を有する上、調整に時間を要するという課題があった。さらに、基本的に微粒子1個を顕微鏡等を用いて視覚的に確認しながら操作するため、一度に大量の微粒子を操作できないという課題があった。
【0003】
また、上記のような微粒子操作方法及び操作装置の応用事例として、細胞等の生物試料系微粒子を操作し、異なる細胞同士を融合させ、1つの交雑細胞とする細胞融合技術への応用が従来から試みられている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、特許文献4の方法は、特許文献1と同様に、装置が高価であり大掛かりになり、また光学系の光軸調整を必要とするため操作する前の調整に熟練を有する上調整に時間を要するという課題があった。さらに、基本的に細胞1個を顕微鏡等を用いて視覚的に確認しながら操作するため、一度に大量の細胞を操作できないため、細胞の操作効率が極めて悪いという課題があった。
【0004】
また、細胞操作を伴う細胞融合の別の事例として、細胞融合用チャンバーの融合領域に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置され、且つ前記一対の電極方向に貫通した微細孔を有する絶縁体とよりなる細胞融合用チャンバーの例が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図1は上記、特許文献2に示された細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。図1において、例えば樹脂材からなる細胞融合用チャンバーの融合領域(1)の両側には、導電部材からなる電極(2)が配置され、これら電極は導電線(3)を介して外部に設けられた電源(4)と接続されている。外部に設けられた電源は電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHz程度の高周波交流電圧を出力する交流電源(5)と、約7kV/cm、パルス幅50μsec程度のパルス電圧を出力する直流パルス電源(6)と、電極と交流電源又は直流パルス電源の電気的接続を切り替える為のスイッチ(7)とから構成されている。ここで、交流電源から出力する交流電圧の波形は、特に断りがない限りは一般に正弦波の波形を用いる。細胞融合用チャンバーは、電気的に絶縁な材料、例えばシリコーン樹脂からなる絶縁体(8)により2つの空間に区分けされている。ここで、絶縁体には最小口径が1μm〜数十μmの微細孔(9)が設けられている。また、細胞A(10)及び細胞B(11)はそれぞれ細胞融合用チャンバーの融合領域内の懸濁液内におかれている。
【0006】
上記例の動作を図2〜図4を用いて説明する。最初に、電源(4)の切り替えスイッチ(7)を電界の強さが約400V/cm〜700V/cm、周波数1MHzの高周波電圧を出力する交流電源(5)に接続させる。この状態において電気力線(12)は、図2に示すように微細孔(9)に集中する。細胞A(10)および細胞B(11)は、ここに集中する電気力線(12)のため誘電泳動力を受け、図3に示すように微細孔(9)の中心付近に固定される。ここで細胞A(10)と細胞B(11)は出会い接触する。次に、電源(4)の切り替えスイッチ(7)を直流パルス電源(6)に切り替える。図3に示した状態におかれた細胞A(10)及び細胞B(11)は、パルス電圧により細胞A(10)および細胞B(11)の接触点で細胞膜の可逆的破壊が起こり、図4に示すように融合が生ずる。このようにすることで、微細孔において細胞Aと細胞Bを2細胞一対で細胞融合させることができる。
【0007】
前記特許文献2に記載された方法により複数の細胞を同時に細胞融合させる場合、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に、2細胞を一対ずつ固定する必要がある。ここでアレイ状とは、複数の微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。しかしながら、交流電源を接続して細胞を微細孔に固定する際に、図24に示すように、複数の細胞が集中して固定される微細孔や、細胞が全く固定されない微細孔があり、アレイ状に形成した複数の微細孔において目的とする2細胞一対を固定できないこと、細胞融合後、融合細胞を微細孔から速やかに取り出せず、微細孔に融合細胞が残ってしまうという課題があった。
【0008】
一方、アレイ状に形成した複数の微細孔に1つずつ細胞を固定する方法の例が報告されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3記載の方法は、微細孔(特許文献3では、マイクロウエルと記載されている)の内径と深さがそれぞれ細胞(特許文献3では、被検体リンパ球と記載されている)の直径の1〜2倍の大きさの複数の微細孔に、複数の細胞を含む液を微細孔を覆うように加え、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と、微細孔外の細胞を洗い流す洗浄の過程を繰り返し行うことで1つの微細孔に概ね1つの細胞を固定している。
【0009】
しかしながら、前記特許文献3に記載された方法により1つの微細孔に概ね1つの細胞を固定する方法は、重力により細胞が沈むのを待つ時間が5分程度と長いこと、微細孔内に細胞が沈むのを待つ過程と微細孔外の細胞を洗い流す洗浄過程を繰り返す必要があり操作が煩雑な上さらに時間を要すること、微細孔に入らなかった細胞を洗い流す過程で細胞が失われる可能性があるため、細胞すべてを有効に使用することが難しいこと、細胞を微細孔から速やかに細に取り出せず微細孔に細胞が残ってしまうという課題があった。特に、細胞などの生体試料を扱う場合は、細胞の活性を維持するためにその処理時間はできる限り短いことが好ましい。また、細胞1つ1つが持つ特異性を見出すことを目的にした処理を行う場合などは、できる限り細胞の喪失がないことが好ましい。
【0010】
【特許文献1】特開2001−290083公報
【特許文献2】特公平7−4218号公報(図1)
【特許文献3】特許第3723882号公報(図1)
【特許文献4】特開平7−31455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来の実状に鑑みて提案されたものであり、安価で簡単な装置を用い、複数の微粒子を1つずつ速やかに、容易にアレイ状などの特定の位置に配置させること及び、特定の位置に配置させた微粒子を取り残すことなく速やかに効率的に取り出すことを可能とする微粒子操作装置及び微粒子操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するものとして、微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記微粒子操作容器が有する前記複数の微細孔がアレイ状に形成した絶縁体からなる微粒子操作容器であり、前記電源が微粒子固定用電源と微粒子取り出し用電源から構成され、前記微細孔は1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための形状を有し、前記電源が、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための波形を有する交流電圧を前記電極間に印加する第1の交流電源と、前記微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出すための第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源から構成される微粒子操作装置及びそれを用いた微粒子操作方法を用いることにより、上記の従来技術の課題を解決することができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の微粒子操作装置は、微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる微粒子操作装置である。
【0014】
また本発明の微粒子操作装置は、微粒子操作装置が備えた電源のうち、微粒子固定用電源が第1の交流電圧を印加する第1の交流電源からなり、微粒子取り出し用電源が第2の交流電圧を印加する第2の交流電源からなり、前記第1の交流電源と前記第2の交流電源とを切り替える切替機構を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0015】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電源により、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加される、上記の微粒子操作装置である。
【0016】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電源により、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加される、上記の微粒子操作装置である。
【0017】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である、上記の微粒子操作装置である。
【0018】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形が、矩形波、台形波またはこれらを組み合わせた波形である、上記の微粒子操作装置である。
【0019】
また本発明の微粒子操作装置は、第1の交流電圧の波形の0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が、微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、上記の微粒子操作装置である。
【0020】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定できる形状である、上記の微粒子操作装置である。
【0021】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満である、あるいは、前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満である、上記の微粒子操作装置である。
【0022】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状である、上記の微粒子操作装置である。
【0023】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の平面形状が、四辺形である、上記の微粒子操作装置である。
【0024】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている、上記の微粒子操作装置である。
【0025】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されている、上記の微粒子操作装置である。
【0026】
また本発明の微粒子操作装置は、微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である、上記の微粒子操作装置である。
【0027】
また本発明の微粒子操作装置は、スペーサーが、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0028】
また本発明の微粒子操作装置は、スペーサーが、微粒子を導入する導入流路および排出する排出流路を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0029】
また本発明の微粒子操作装置は、絶縁体が微粒子と親和性を有する、上記の微粒子操作装置である。
【0030】
また本発明の微粒子操作方法は、前述した微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、微粒子操作領域内に微粒子を導入し、第1の交流電圧を印加することで微細孔内に前記微粒子を固定した後、切替機構により前記第1の交流電源を第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出す、微粒子操作方法である。
【0031】
以下では、図を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
本発明の微粒子操作装置は、微粒子を操作する領域内に対向するように配置された導電部材よりなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極に電圧を印加する電源と、を備えた装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなる、微粒子操作装置である。
【0033】
本発明で取り扱うことができる微粒子は、電気的に静電容量性を有する微粒子であれば特に制限はなく、例えばシリカやジルコニア、酸化ニッケルなどの無機材料系微粒子、ポリスチレンなどの有機材料系微粒子、細胞などの生物試料系微粒子などが挙げられる。
【0034】
図5に本発明の微粒子操作装置の概念図を示す。本発明の微粒子操作装置は大きく分けて、微粒子操作容器(13)と電源(4)から構成される。
【0035】
微粒子操作容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔(9)をアレイ状など絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、絶縁体と下部電極の間にスペーサーを挟んだ態様としてもよいし、絶縁体と上部電極の間及び絶縁体と下部電極の間の両方にスペーサーを挟んだ態様としてもよい。
【0036】
上部電極と下部電極の材質は導電部材であって化学的に安定な部材であればとくに制限はなく、白金、金、銅などの金属やステンレスなどの合金及び、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明導電性材料を成膜したガラス基板などでもよい。例えば、微粒子操作容器内の微粒子の動きを観察するには、ITOなどの透明導電性材料を成膜したガラス基板を電極として用いることが好ましい。
【0037】
上部電極と下部電極の面積には特に制限はないが、取り扱いやすいサイズとして、例えば、縦70mm×横40mm×厚さ1mm程度のサイズが好ましい。
【0038】
スペーサーは、上部電極と下部電極が直接接触しないように設けられ、かつ微粒子操作容器に微粒子懸濁液を入れておくスペースを確保するためのものであり、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有し、その材質は絶縁材料であればよく、例えばガラス、セラミック、樹脂等が挙げられる。
【0039】
またスペーサーには、微粒子操作容器に微粒子を導入する導入流路およびそれに連通する導入口(19)と、微粒子を排出する排出流路およびそれに連通する排出口(20)が設けられていてもよい。
【0040】
スペーサーのサイズは上部電極と下部電極が接触しなければ特に制限はないが、前記電極に合わせたサイズが好ましい。例えば、電極サイズが縦70mm×横40mm程度であれば、スペーサーのサイズは例えば縦40mm×横40mm程度が好ましい。微粒子操作領域(34)を形成するスペーサーの内側の空間と厚みも特に制限はないが、微粒子懸濁液を例えば数μL〜数mL程度入れる容量があればよく、例えば、スペーサーのサイズが縦40mm×横40mm程度の場合、スペーサーの内側の空間は、縦20mm×横20mm程度であればよく、スペーサーの厚みは0.5〜2.0mm程度であればよい。
【0041】
絶縁体(8)には複数の微細孔(9)がアレイ状として代表されるように、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されている。ここでアレイ状とは、微細孔の縦と横の間隔がほぼ等間隔に配置されていることを意味する。また、微細孔がほぼ等間隔に配置されていれば、縦方向のみ、あるいは横方向のみのように直線状に微細孔が配置される態様であってもよい。このように等間隔に微細孔をアレイ状に配置することで、電極間に印加した電圧によって生じる電界がすべての微細孔にほぼ均等に生じる。
【0042】
また、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、アレイ状に形成した微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の微粒子が固定される確率が高くなり結果として微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に微粒子が残されてしまい、微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。具体的には、微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満程度であることがより好ましい。微細孔は、電極方向に絶縁体(8)を貫通させて形成されている。1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための微細孔の詳細な形状は後述する。
【0043】
絶縁体(8)の材質は、例えばガラス、セラミック、樹脂等の絶縁材料であれば特に制限はないが、貫通した微細孔をアレイ状に複数形成させる必要があることから、樹脂等の比較的加工が容易な材料が好ましい。
【0044】
また、絶縁体の材質は、微粒子を絶縁体に形成した微細孔に引き寄せて固定することから、微粒子と親和性のある材質が好ましい。ここで、微粒子と親和性のある絶縁体の材質とは、親水性の微粒子に対しては親水性の絶縁体であり、疎水性の微粒子に対しては疎水性の絶縁体であることを意味する。親和性の目安としては、一般的には、絶縁体の表面に前記微粒子に近い親和性を有する液体を滴下したときに形成される液滴と絶縁体の表面との接触角で示され、接触角が小さいほど液体と絶縁体の表面との親和性が高く、接触角が大きいほど液体と絶縁体の表面との親和性が低くなる。親水性の比較的高い絶縁体としては、ガラスや酸化チタン等があり、疎水性の比較的高い絶縁体としては、ポリスチレン、ポリイミド、テフロン(登録商標)等の樹脂があり、扱う微粒子の親水性、疎水性に応じてこれらの材料を絶縁体として用いればよい。
【0045】
また微粒子との親和性が低い絶縁体を用いる場合は、絶縁体の表面を改質することによって、微粒子との親和性を高めることもできる。
【0046】
樹脂等の疎水性の絶縁体を親水化する方法としては、既知の方法である、プラズマ処理、化学修飾、タンパク質の物理吸着などによる修飾、或いはこれらの方法を任意に組み合わせた方法などが挙げられ、本発明において用いることができる。
【0047】
ここで、絶縁体の表面のプラズマ処理とは、電子・イオン・ラジカルなどの活性種が存在する電気的に中性な電離気体(プラズマ)を絶縁体の表面に照射することにより、絶縁体の表面における有機汚染物の除去や化学結合状態を変化させ、絶縁体の表面を改質する処理である。プラズマ処理には、非重合性ガス(Ar、O2など)を用いるプラズマ表面処理と有機モノマーを用いて絶縁体の表面を高分子薄膜でコーティング処理するプラズマ重合がある。プラズマ表面処理は、Arなどの非反応性ガスによる表面架橋層の形成、O2などの反応性ガスによる官能基の導入などがあり、酸素プラズマ処理により−COOHや−COを導入し、絶縁体の表面の親水性を向上させることで親水性の微粒子との親和性を高めることが可能である。
【0048】
また、絶縁体の表面の化学修飾による親水化とは、水酸基やカルボキシル基、アミノ基、スルホン基などの親水基を有する誘導体やシランカップリング剤などを絶縁体の表面へ結合させることで親水化する方法である。シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と疎水性を示す反応基(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。このため、シランカップリング剤の希薄溶液に疎水性の絶縁体を浸漬すれば、シランカップリング剤の疎水性を示す反応基が疎水性の材料の表面に化学的に結合し、親水性を示す反応基が表面を覆うため、容易に疎水性の材料の表面を均一に親水化することが可能である。
【0049】
さらに、BSA(ウシ血清アルブミン)などのタンパク質含有溶液に絶縁体を数分〜数時間を浸漬することで、タンパク質を物理吸着させ、絶縁体の表面を親水化することができる。
【0050】
一方、ガラス等の親水性の絶縁体を疎水化する方法としては、シランカップリング剤を親水性の絶縁体表面に結合させる化学修飾による方法がある。前述したように、シランカップリング剤は有機物とケイ素から構成される化合物であり、分子中に親水性を示す反応基(水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基など)と疎水性を示す反応基(ビニル基、メチル基、エチル基、プロピル基など)の2種以上の異なった反応基を有している。そのため、シランカップリング剤の希薄溶液に親水性の絶縁体を浸漬すれば、シランカップリング剤の親水性を示す反応基が親水性の絶縁体の表面に化学的に結合し、疎水性を示す反応基が表面を覆うため、絶縁体の表面を均一に疎水化することが可能である。
【0051】
また親水性及び疎水性の評価方法としては、以下に記載する一般的な手法を用いることができる。すなわち、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定することによって絶縁体の表面の親水性及び疎水性を評価することができる。ここで、一般的に親水性及び疎水性の厳密な定義はないが、本発明における親水性とは、前記接触角が45°以下、好ましくは30°以下であると定義し、本発明における疎水性とは、前記接触角が45°より大きく、好ましくは60°より大きいと定義する。
【0052】
樹脂に貫通した微細孔を形成する手段としては、形成する微細孔の位置にレーザーを照射する方法や、微細孔の位置に貫通孔を形成するためのピンを有する金型を用いて成形する方法などの既知の方法を用いればよい。また、絶縁体に光硬化性樹脂などを用いる場合は、微細孔に相当するパターンを描画した露光用フォトマスクを用いて一般的なフォトリソグラフィー(露光)とエッチング(現像)により貫通した微細孔を形成することができる。
【0053】
なお図6は、図5の微粒子操作容器のA−A’断面図を示した概略図である。上部電極(14)、スペーサー(16)、絶縁体(8)、下部電極(15)を図6のように張り合わせる手段としては、それぞれを接着剤で貼り合わせる方法や、加圧した状態で過熱して融着させる方法などの他にも、スペーサーとして、PDMS(poly−dimethylsiloxane)やシリコンシートのような表面粘着性のある樹脂を用いて作製することで圧着することにより貼り合わせる方法などがあり、既知の方法を用いればよい。このようにすることで図6に示した微粒子操作領域(34)を形成することができる。
【0054】
次に、本発明の微粒子操作容器の上部電極と下部電極には導電線(3)を介して電源(4)が接続されている。電源(4)は微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源から構成されており、切り替えスイッチ等の切替機構により適宜切り替えて使用することができる。ここで前記微粒子固定用電源は、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電圧を印加するための第1の交流電源であり、前記微粒子取り出し用電源は、上部電極と下部電極の電極間に第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源である。ここで交流電圧とは、半周期ごとに対称的に正の電圧と負の電圧を周期的に繰り返す波形を有する電圧を意味する。なお、対照的とは線対称であっても点対称であってもよい。
【0055】
第1の交流電圧は、本質的に1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができれば特に制限はない。ここで、微細孔に固定するとは、微粒子が微細孔の中に入ること及び、微粒子が微細孔の中に入らないまでも微細孔の縁に留まることを意味する。
【0056】
以下では、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するための波形を有する第1の交流電圧と微細孔の形状に関して説明する。ここで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するとは、1つの微細孔に1つの微粒子が固定されている割合が、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定されているか、1つの微細孔に微粒子が固定されていない割合よりも大きいか、あるいは1つの微細孔に1つの微粒子が固定されている割合が1つの微細孔に2以上の微粒子が固定されておりかつ1つの微細孔に微粒子が固定されていない割合よりも大きいか、のいずれかを意味する。
【0057】
本発明の微粒子操作装置は、図5に示した電源(4)により1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されるものであり、より具体的には前記電極間に印加される第1の交流電圧の波形が、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す微粒子操作装置である。ここで微粒子の充電とは、微粒子に一定の電圧を印加することで微粒子に電荷が蓄積され微粒子にかかる電圧が印加した電圧に等しくなり、微粒子に電荷が蓄積されるまでに過渡的に微粒子に流れていた電流が流れなくなる状態を意味する。また微粒子の放電とは、微粒子に印加していた電圧を0にすることで、微粒子に蓄積された電荷を放出し、微粒子にかかる電圧が0に等しくなることを意味する。なお、微粒子の放電の際には、微粒子の充電の際に流れていた過渡的な電流とは逆向きの電流が過渡的に流れる。
【0058】
またより具体的には、前記第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形である微粒子操作装置である。さらに好ましくは、前期第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、微粒子操作装置である。
【0059】
また本発明の微粒子操作装置は、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するため、前記絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満であるか、もしくは前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満であり、さらに前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である微粒子操作装置である。またさらに、微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状であることが好ましく、さらには、微細孔の形状が四辺形であることがより好ましい。
【0060】
上記のような第1の交流電圧の波形を用い、微細孔の形状とすることで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができる。
【0061】
本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の波形は、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返すことが可能であれば特に制限はなく、図7にこの態様の交流電圧の波形の一例を示す。図7の交流電圧の波形の半周期であるT/2ごとに前記微粒子の充電と放電が繰り返される。なお図7の場合、半周期ごとに電圧の極性の正と負が反転するため、半周期ごとに前記微粒子が充電されたときに電荷の極性が正と負に反転する。なお、本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の波形は、直流成分を有しないことが好ましい。これは、直流成分により発生した静電気力により微粒子が特定の方向に偏った力を受けて移動するため誘電泳動力により微粒子を微細孔に固定することが困難になること、また微粒子を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより微粒子が熱運動を起こすため、誘電泳動力により微粒子の動きを制御することができなくなり微粒子を微細孔に引き寄せることが困難となるためである。
【0062】
またより具体的には、本発明の微粒子操作装置に用いる前記第1の交流電圧の波形は、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形である。図7におけるS[s]が電圧が一定時間変化しない時間である。本発明では、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間S[s]が微粒子の静電容量C[F]と微粒子を含有する懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]以上であることが好ましいことから、S>τ(=C×R)の関係であることが好ましい。
【0063】
なお、本発明における第1の交流電圧の波形は図7に示す波形のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、第1の交流電圧の波形が、矩形波(図8)、台形波(図9)、またはこれらを組み合わせた波形(図10)であってもよい。
【0064】
また本発明の微粒子操作装置に用いる第1の交流電圧の電圧値と周波数は、微粒子を微細孔に引き寄せる方向に誘電泳動力がはたらけば特に制限はなく、微粒子操作容器の電極間距離や、操作対象となる微粒子の種類や大きさ、微粒子を含有する懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。
【0065】
例えば、微粒子操作容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、操作対象の微粒子が直径10μm程度の細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞の静電容量は一般に1pF程度、面積2cm×2cm程度、電極間距離1mm程度の微粒子操作容器に300nMのマンニトール水溶液を入れたときの抵抗値が5kΩ程度であることから、微粒子の静電容量C[F]と微粒子を含有する懸濁液の抵抗R[Ω]の積からなる時定数τ[s]は5nsとなる。従って電極間に印加する第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が少なくとも5nsだけ変化しない時間を半周期内に1以上有する交流電圧波形であることが好ましい。
【0066】
例えば、図8に示した矩形波交流電圧波形を用いた場合、Sの時間が5nsより長くなる、すなわち、周波数が100MHz(=1/(2×5ns))未満であることが好ましく、さらには電気的な取り扱いのしやすさや市販の信号発生器で容易に扱うことができることを考慮すると、周波数は1〜3MHz程度の矩形波交流電圧波形が好ましい。またこの場合の矩形波交流電圧波形の電圧は、微細孔に微粒子を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔に微粒子が引き寄せられる時間は1〜5秒程度であり、瞬時に微粒子を微細孔に固定することができる。
【0067】
次に、上記態様の第1の交流電圧の波形と上記態様の微細孔を用いた場合に、1つの微細孔に概ね1つの微粒子が固定される理由を図11〜図21を用いて説明する。
【0068】
図11〜図13には本発明の微粒子操作装置において、微細孔に微粒子が入る過程の概念図を示した。微細孔の深さ、すなわち絶縁体(8)の厚みは微粒子A(18)及び微粒子B(22)の直径より小さく、微細孔の内径は微粒子A及び微粒子Bの直径より小さい。また図12に示すように微細孔A(17)に微粒子Aが入った後、図13に示すように微細孔B(21)に微粒子Bが入る場合を想定している。図14〜図16には、それぞれ図11〜図13を電気的な等価回路で表現した図を示す。微粒子を含有する懸濁液は抵抗(抵抗値:5kΩ)、微粒子はコンデンサー(容量:1pF)により電気的等価回路で表現することができる。
【0069】
図17に示す、周波数f[Hz]の矩形波形の第1の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで微粒子に対して誘電泳動力が発生し、微粒子が微細孔に引き寄せられ、微細孔Aに微粒子Aが固定され微粒子Aが微細孔Aを塞ぐ。微粒子Aで塞がれた微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーA(29)と電気的に等価となる。
【0070】
図17に示す電圧波形を印加した場合、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を図18、電流波形を図19に示す。図18のようにコンデンサーAは微粒子Aの容量C[F]と微粒子を含む懸濁液の抵抗値R[Ω]の積で求められる時定数τ[s](=C×R)の時間を要して充電される。なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下が好ましいことから、τ<1/2fを満たす周波数の矩形波交流電圧を用いることが好ましい。コンデンサーAが充電されると電流は流れなくなるため、図19に示すように、コンデンサーAに流れる電流は、時定数τの時間だけパルス状に電流が流れるものの、その後は電流が流れなくなり絶縁体と電気的に等価になり、微粒子Aの入った微細孔Aでは、電気力線の集中が生じなくなる。このため微粒子Aの入った微細孔Aには別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が断続的に生じなくなり、微細孔Aが新たに微粒子を引き寄せる確率は低くなる。一方、微細孔Bには電気力線の集中が生じているため、別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が連続的に発生し、微粒子Bが誘電泳動力により引き寄せられ微細孔Bに微粒子Bが固定され微粒子Bが微細孔Bを塞ぐ。これを繰り返すことにより、空の微細孔につぎつぎと微粒子が入っていくことで、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することができる。
【0071】
微細孔の内径が微粒子の直径より大きいと、微粒子は微細孔を十分塞ぐことができず、電気力線の集中が発生し微粒子が誘電泳動力により引き寄せられるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が入る確率が高くなる。従って、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する微粒子の直径未満であることが最も好ましい。もしくは、微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満倍の範囲でありかつ微細孔の深さが微粒子の直径の2倍未満であれば、1つめの微粒子が微細孔に入った後、2つめの微粒子が引き寄せられても微細孔に入って固定される確率は非常に低くなるため、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定する確率が高くなる。なお、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以下である場合、図15におけるコンデンサーAが十分充電されないため、コンデンサーAに電流が流れ続け、微粒子Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ電気力線の集中が生じる。よって、微粒子Bは微粒子Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定される確率が高くなる。
【0072】
また、図27で示される本発明の微粒子操作装置は、前記微細孔(9)の平面形状が、1以上の角を有する形状である、微粒子操作装置であって、さらには、前記微細孔の平面形状が、四辺形である、微粒子操作装置である。ここで、角とは微細孔の形状を構成する2辺が鋭角あるいは鈍角で交わる部分であり、角の先端が若干丸みを帯びた形状も含む。図25に、微細孔の平面形状が1以上の角を有する代表的な形状を示した。また、四辺形とは、前記微細孔の形状が前記角を4つ有しており、前記4つの角は、角の先端が若干丸みを帯びた形状なども含む。また、4本の辺は直線であってもよいし、4本全ての辺あるいは4本のうち任意の辺が微細孔の中心あるいは外側に向かって若干湾曲していてもよい。図26に、本発明における四辺形の微細孔の形状の代表的な例を示す。
【0073】
上述したように、微細孔の平面形状の一部に角が存在していれば、前記角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で微粒子が引き寄せられる結果、微粒子が微細孔に固定される確率が向上する。角は微細孔に少なくとも1箇所存在すればよいが、複数存在していた方がより好ましい。しかしながら、角の形状は鈍角よりも鋭角の方が電気力線の集中が生じやすく誘電泳動力が強いため、五角形以上の多角形よりも四角形以下の多角形の方がより好ましい。また、四角形であれば特に制限はなく、例えば図26に示すように台形や菱形、平行四辺形などの態様があるが、四辺形の微細孔の形状が4つの角を結ぶ辺の長さが4本ともほぼ等しく、微細孔の中心において90度の角度で点対称であれば、四辺形の微細孔の4つの辺に生じる誘電泳動力が4つとも等しく、4つの角に生じる誘電泳動力も4つとも等しくなり、微細孔の方向によらず微細孔の誘電泳動力の分布が点対称となるため、微細孔に対する微粒子の位置によらず、偏りの少ない誘電泳動力を作用させることが可能となるため、微細孔の形状は図26の(a)〜(d)のような正方形あるいは正方形に近い形状であることがより好ましい。
【0074】
また、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定するためには、微細孔の間隔が狭すぎても広すぎても不適当となることがある。微細孔の間隔が狭すぎる場合は、1つの微細孔に複数の微粒子が固定される確率が高くなり結果として微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。また、微細孔の間隔が広すぎる場合には、微細孔と微細孔の間に微粒子が残されてしまい、微粒子の入らない微細孔が生じる確率が高くなることがある。従って具体的には、微細孔の間隔は、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下程度の範囲であることが好ましく、さらには微細孔の間隔が固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満程度であることがより好ましい。
【0075】
次に、図20に示す周波数f[Hz]の正弦波形の交流電圧を印加すると、図2〜図3に示した場合と同様に微細孔において電気力線の集中が生じることで微粒子に対して誘電泳動力が発生し、微粒子が誘電泳動力により微細孔に引き寄せられ、微粒子Aが微細孔Aを塞ぐ。微粒子Aが塞いだ微細孔Aの部分は、図15に示すようにコンデンサーAと等価となる。図20に示す電圧波形を印加した場合、コンデンサーAにおける電圧波形と電流波形を図21に示す。図21に示すように印加する交流電圧の波形が正弦波の場合は、正弦波の位相が90度すすむだけで、正弦波の波形は変化しないため、微粒子Aが入った微細孔Aにおいて引き続き電流が流れ、電気力線の集中が生じる。このため微粒子Aの入った微細孔Aには別の微粒子を引き寄せる誘電泳動力が連続的に発生し、微粒子Bは微粒子Aの入った微細孔Aに引き寄せられる可能性があるため、1つの微細孔に2以上の微粒子が固定される確率が高くなる。従って、正弦波や三角波のように常に電圧が連続的に変化し、微粒子の充電と放電を十分に行えない交流電圧の波形では、複数の微粒子が集中して固定される微細孔と、微粒子が全く固定されない微細孔があり、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することが難しくなることがある。
【0076】
なお、印加する電圧が直流の場合は、微粒子を含有する懸濁液に含まれるイオンが電極表面で電気反応を生じることで発熱が起こり、それにより微粒子が熱運動を起こすため、誘電泳動力により微粒子の動きを制御することができなくなり微粒子を微細孔に引き寄せることが困難となることがある。
【0077】
以上の理由から、本発明の微粒子操作装置は、前記電源により前記電極間に印加する第1の交流電圧の波形が、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形であり、またより具体的には、前記交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であり、例えば矩形波、台形波、またはこれらを組み合わせた波形であって、さらに好ましくは、前期第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上である、微粒子操作装置であって、絶縁体を貫通する微細孔の平面形状に内接する最大円の直径は、微細孔に固定する微粒子の直径未満であるか、もしくは、微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲でありかつ微細孔の深さが微粒子の直径の2倍未満であり、さらに複数の微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲である、微粒子操作装置とすることで、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定することが可能となる。
【0078】
なお、図11〜図13では、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以上であり、微粒子が下方向に沈降する場合を想定し、微細孔を形成した絶縁体が下面にある図を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以下であり、微粒子が上方向に浮上する場合は、微細孔を形成した絶縁体が上面にあってもよい。
【0079】
また、図28に示すように、微細孔を形成した絶縁体が、上と下のスペーサーを介して、上部電極と下部電極の間に配置されていてもよい。図28の微粒子操作装置では、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以上である場合、微粒子は下方向に沈降するので、微粒子を含有した懸濁液を微細孔が形成された絶縁体と上部電極で構成される領域に入れればよく、微粒子の比重が微粒子を含有する懸濁液の比重以下である場合、微粒子は上方向に浮上するので、微粒子を含有した懸濁液を微細孔が形成された絶縁体と下部電極で構成される領域に入れればよい。なお図29は図28に示した微粒子操作容器のBB’断面図である。
【0080】
次に、微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出すために用いる第2の交流電源によって印加される第2の交流電圧に関して記述する。
【0081】
本発明における第2の交流電圧の電圧と周波数は、微粒子を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらけば特に制限はなく、微粒子操作容器の電極間距離や、操作対象となる微粒子の種類や大きさ、微粒子を含有する懸濁液の種類によって適切な値を設定すればよい。例えば、微粒子操作容器の面積が2cm×2cm程度、電極間距離が1mm程度、操作対象の微粒子が直径10μm程度のマウスミエローマ細胞、懸濁腋の成分が300mMのマンニトール水溶液の場合、直径10μm程度の細胞に対しては、20kHz未満の周波数でマウスミエローマ細胞を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらき、さらに好ましくは、10kHz未満の周波数で確実にマウスミエローマ細胞を微細孔から取り出す方向に誘電泳動力がはたらく。またこの場合の交流電圧の電圧値は、微細孔に微粒子を引き寄せるのに十分な誘電泳動力を発生させるため、10〜20Vpp程度であることが好ましい。なお、この例の条件の場合、微細孔から微粒子が取り出される時間は1〜5秒程度であり、瞬時に微粒子を微細孔から取り出すことができる。また、本発明における第2の交流電圧の波形は、交流電圧であれば特に制限はない。
【0082】
なお、微粒子を微細孔に引き寄せる方向にはたらく誘電泳動力を正の誘電泳動力、微粒子を微細孔から取り出す方向にはたらく誘電泳動力を負の誘電泳動力と定義する。正の誘電泳動力と負の誘電泳動力は、対象とする微粒子の誘電率とその微粒子を含有する懸濁液の誘電率、及び使用する交流電圧の周波数によって制御できる。例えば、前述のように微粒子として直径10μm程度のマウスミエローマ細胞を用い、懸濁液に300mMのマンニトール水溶液を用いた場合は、交流電圧の周波数が30kHz以上で正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは50kHz以上で確実に正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、20kHz未満の周波数で負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは10kHz未満で確実に負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、微粒子として直径6μm程度のポリスチレン微粒子を用い、懸濁液に純水を用いた場合は、交流電圧の周波数が1kHz以上で負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは1MHz以上で確実に負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。また、100Hz未満で正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは10Hz未満で確実に正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。
【0083】
ここで、ある周波数で正の誘電泳動力と負の誘電泳動力が切り換わる理由を説明する。本発明の微細孔における誘電泳動力は、微粒子半径、交流電圧、微粒子の誘電率、懸濁液の誘電率により、一般に以下の式1で示される。
誘電泳動力∝(細胞半径)3×(細胞の誘電率−細胞懸濁液の誘電率)×(微細孔で集中した交流電圧の大きさ)2
・・・(式1)
ここで、一般に微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率は交流電圧の周波数に依存して変化する。よって、交流電圧の周波数を変化させたときの微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率の大小により誘電泳動力の符号が決まる。すなわち、交流電圧の周波数を変化させたとき、微粒子の誘電率が懸濁液の誘電率よりも大きくなれば正の誘電泳動力が働き、微粒子の誘電率が懸濁液の誘電率よりも小さくなれば負の誘電泳動力が働く。従って、理論的には、計算により微粒子の誘電率と懸濁液の誘電率が等しくなる周波数を求めれば、その周波数がちょうど正の誘電泳動力と負の誘電泳動力が変化する境界の周波数(以下、境界周波数と称する。)となる。しかしながら、一般に微粒子の誘電率や懸濁液の誘電率を周波数ごとに測定することは難しいため、微粒子の動く方向の変化で、境界周波数を実験的に決定することが多い。この境界周波数は、当然、取り扱う微粒子の種類や懸濁液の種類によって異なる。
【0084】
従って、本発明では、第1の交流電圧の周波数は微粒子が微細孔に引き寄せられる周波数であれば特に制限はなく、第2の交流電圧の周波数は微粒子が微細孔から引き離される周波数であれば特に制限はない。例えば、本発明で用いたマウスミエローマ細胞は300mMのマンニトール水溶液において、交流電圧の周波数が30kHz以上で正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは50kHz以上で確実に正の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、20kHz未満の周波数で負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらき、さらに好ましくは10kHz未満で確実に負の誘電泳動力がマウスミエローマ細胞にはたらく。また、微粒子として直径6μm程度のポリスチレン微粒子を用い、懸濁液に純水を用いた場合は、交流電圧の周波数が1kHz以上で負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは1MHz以上で確実に負の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。また、100Hz未満で正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらき、さらに好ましくは10Hz未満で確実に正の誘電泳動力がポリスチレン微粒子にはたらく。
【0085】
次に本発明の微粒子操作方法を説明する。本発明の微粒子操作方法は、前述した微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、微粒子操作領域内に微粒子を導入し、第1の交流電圧を印加することで微細孔内に前記微粒子を固定した後、切替機構により前記第1の交流電源を第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出す微粒子操作方法である。この方法の概念図を図30に示した。まず、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電源(39)を接続し、第1の交流電圧を印加して微粒子に正の誘電泳動力(37)をはたらかせ、微粒子を微細孔に固定する。次に、上部電極と下部電極の電極間に第1の交流電源を切替機構により第2の交流電源(40)に切り替えて接続し、第2の交流電圧を印加して微細孔に固定された微粒子に負の誘電泳動力(38)をはたらかせ、微粒子を微細孔から取り出す。このようにして絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に微粒子を効率的に固定すること及び、それに引き続き、微細孔に固定した微粒子を、微細孔に残すことなく効率的に取り出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0086】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を速やかに固定することができ、複数の微粒子を1つずつ速やかにアレイ状に配置させることが可能となる。
(2)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔において、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を固定できる確率を上げることが可能となる。
(3)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に固定された微粒子を、速やかに微細孔から取り出すことが可能となる。
(4)本発明の微粒子操作装置は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に固定された微粒子を微細孔から取り出す際に、微細孔に残すこと無く取り出すことが可能となる。
(5)本発明の微粒子操作方法は、絶縁体上にアレイ状に形成した複数の微細孔に微粒子を効率的に固定すること及び、微細孔に固定した微粒子を効率的に取り出すことが可能となる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0088】
(実施例1)
図5に実施例に用いた微粒子操作装置の概念図を示す。微粒子操作装置は大きく分けて、微粒子操作容器(13)と電源(4)から構成される。微粒子操作容器は、図5に示すように上部電極(14)と下部電極(15)の間に、スペーサー(16)を配置し、複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体(8)をスペーサーと下部電極で挟んだ構造を有する。なお、本実施例では、後述するように一般的なフォトリソグラフィーとエッチングにより、下部電極(15)と複数の微細孔をアレイ状に形成した絶縁体を一体形成した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を用いた。
【0089】
上部電極と下部電極は、縦70mm×横40mm×厚さ1mmのパイレックス(登録商標)基板に、ITOを成膜(膜厚150nm)したものを用いた。スペーサーは、縦40mm×横40mm×厚さ1.5mmのシリコンシートの中央を縦20mm×横20mmにくりぬいた形状にして用いた。
【0090】
また、図5に示すように、微粒子が含有した懸濁液を導入、排出するための導入口(19)と排出口(20)を設けた。複数の微細孔を有する絶縁体(8)は、図22に示すフォトリソグラフィーとエッチングによる方法により下部電極に一体形成することで作製した。
【0091】
まずはじめに、ITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を2.5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、45分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(80℃、15分)を行った。レジストにはキシレン系のネガタイプレジストを用いた。
【0092】
次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ7μmの微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい2.5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。
【0093】
現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(115℃、30分)を行いレジストを固めた。このようにして作製した上部電極(14)、スペーサー(16)、微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)を図6のように積層し圧着した。シリコンシートの表面は粘着性があり、圧着することで各部品は密着し、微粒子を含有した懸濁液を漏れなく微粒子操作容器の中に入れることができた。
【0094】
スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源として、信号発生器(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)をリード線を介して接続した。本実施例の場合、この信号発生器が第1の交流電源と第2の交流電源を兼用している。
【0095】
微粒子には、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0096】
また、微細孔付き絶縁体の親水性を評価するために、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°(疎水性)であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性であることを確認した。この場合、絶縁体表面は操作対象であるマウスミエローマ細胞(親水性を有する)と親和性は比較的高い。
【0097】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間で図23に示すようにアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。ただし、「固定することができた」とは、微細孔に細胞が入った場合及び、微細孔の縁に細胞が留まった場合の両方を意味し、実施例2及び比較例1でも同じ定義とした。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約90%であった。ここで微粒子固定率とは、顕微鏡の視野に縦15個×横15個の225個の微細孔が見えるようにし、微粒子を導入して固定したときの、1個の微粒子が入った微細孔数を225個の微細孔数で割った値で定義した。なお、以下の実施例及び比較例での微粒子固定率も同じ定義である。
【0098】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、取り出した細胞数は、導入した細胞数の約80%であった。
【0099】
(実施例2)
図27に実施例2に用いた微粒子操作装置を示した。絶縁体に形成した微細孔の形状が、一辺が7μmの正方形の微細孔形状であること以外は、実施例1に用い微粒子操作装置と同じである。微粒子には、マウスミエローマ細胞(φ10μm)を用い、300mMの濃度のマンニトール水溶液に懸濁させ、0.7×106個/mLの密度になるように細胞懸濁液を調整した。
【0100】
微細孔付き絶縁体の親水性を評価するために、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約47°であった。そこで、微細孔付き絶縁体を親水化するために、微細孔付き絶縁体一体型下部電極をBSA(1mg/mL)含有の300mM濃度のマンニトール水溶液に約1時間浸し、絶縁体表面にBSAを物理吸着させた。BSAを物理吸着させた後、同様に、絶縁体表面に純水を滴下し、そのときに絶縁体の表面に形成される液滴と絶縁体の表面との接触角を測定したところ、接触角は約27°であり、親水性が向上したことを確認した。この場合、絶縁体表面は操作対象であるマウスミエローマ細胞(親水性を有する)と親和性は比較的高い。
【0101】
上記細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約95%であった。これは、微細孔の形状が正方形であるため、微細孔の正方形の角の部分において電気力線の集中が生じ誘電泳動力が強くなり、より強い誘電泳動力で微粒子が引き寄せられる結果、実施例1よりも微粒子固定率が向上したと考えられる。
【0102】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数1kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていた細胞を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、取り出した細胞数は、導入した細胞数の約82%であった。
【0103】
(比較例1)
実施例2と同じ微粒子操作装置を用いて、細胞懸濁液600μL(細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として信号発生器により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、1つの細胞を固定することができ、細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つの細胞が入る微粒子固定率は約96%であった。
【0104】
次に交流電圧の印加を停止し、微粒子操作容器を傾けて細胞懸濁液を取り出したところ、微粒子操作容器から取り出した細胞数は、導入した細胞数の約60%であった。細胞懸濁液を取り出した後、微粒子操作容器の微細孔を顕微鏡で観察したところ、いくつかの微細孔に細胞が残っていることを確認した。
【0105】
(実施例3)
実施例1と同じ微粒子操作装置を用い、微粒子にはポリスチレン微粒子(φ6μm、ポリスチレン微粒子濃度2.5%、フナコシ製)を用い、純水に懸濁させて0.8×106個/mLの密度になるようにポリスチレン微粒子懸濁液を調整した。ただし、実施例1と異なり、微細孔付絶縁体一体型下部電極の絶縁体の親水化処理は行わなかった。この場合、本実施例3の絶縁体は疎水性であり、すなわちポリスチレン微粒子(疎水性を有する)と、本実施例3の絶縁体は親和性は比較的高い。
【0106】
上記ポリスチレン微粒子懸濁液500μL(微粒子数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として、信号発生器により電圧15Vpp、周波数9Hzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、概ね1つのポリスチレン微粒子を固定することができ、ポリスチレン微粒子をアレイ状に配置させることができた。ここで、「固定することができた」とは、微細孔にポリスチレン微粒子が入った場合及び、微細孔の縁にポリスチレン微粒子が留まった場合の両方を意味し、比較例2でも同じ定義とした。このときの、1つの微細孔に概ね1つのポリスチレン微粒子が入る微粒子固定率は約60%であった。
【0107】
次に、第2の交流電圧として信号発生器により電圧15Vpp、周波数100kHzの正弦波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状の微細孔に固定されていたポリスチレン微粒子を、微細孔から取り出すことができた。引き続き、微粒子操作容器を傾けてポリスチレン微粒子懸濁液を取り出したところ、取り出したポリスチレン微粒子数は、導入したポリスチレン微粒子数の約78%であった。
【0108】
なお、本実施例3で用いた微粒子操作措置を用いて、交流電圧の周波数とポリスチレン微粒子の微細孔への固定と取り出しをさらに検討した結果、第1の交流電圧(電圧15Vpp)の周波数が約100Hz未満で微細孔にポリスチレン微粒子が固定されはじめ、10Hz未満になると、約50〜60%のポリスチレン微粒子が微細孔に固定された。また、第2の交流電圧(電圧15Vpp)の周波数が約1kHz以上で微細孔からポリスチレン微粒子が出はじめ、1MHz以上になると、微細孔に固定されたポリスチレン微粒子のうちほぼ90%以上のポリスチレン微粒子を微細孔から取り出すことができた。
【0109】
(比較例2)
実施例3と同じ微粒子操作装置を用いて、ポリスチレン微粒子懸濁液500μL(微粒子数:約40万個)をスペーサーの導入口よりシリンジを用いて注入し、第1の交流電圧として、信号発生器により電圧15Vpp、周波数9Hzの矩形波交流電圧を電極間に印加したところ、2〜3秒程度の極めて短い時間でアレイ状に形成した微細孔1つに、概ね1つのポリスチレン微粒子を固定することができ、ポリスチレン微粒子をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔に概ね1つのポリスチレン微粒子が入る微粒子固定率は約58%であった。
【0110】
次に交流電圧の印加を停止し、微粒子操作容器を傾けてポリスチレン微粒子懸濁液を取り出したところ、微粒子操作容器から取り出したポリスチレン微粒子数は、導入したポリスチレン微粒子数の約55%であった。ポリスチレン微粒子懸濁液を取り出した後、微粒子操作容器の微細孔を顕微鏡で観察したところ、いくつかの微細孔にポリスチレン微粒子が残っていることを確認した。
【0111】
(実施例4)
図5に実施例4に用いた微粒子操作装置の概念図を示した。実施例1と同じ様に、図22に示すようにITO(23)を成膜したパイレックス(登録商標)ガラス(24)のITO成膜面にレジスト(25)を5μmの膜厚になるようスピンコーターを用いて塗布し、1分自然乾燥後、ホットプレートを用いてプリベーク(65℃、1分 → 95℃、3分)を行った。レジストにはエポキシ系のネガタイプレジストであるSU−8を用いた。次に、縦30mm×横30mmのエリアに、微細孔と微細孔の縦と横の間隔が30μmで、縦1000個×横1000個のアレイ状に並べた直径φ8.5μmの円形の微細孔パターンを描いた露光用フォトマスク(26)を用いて、UV露光機にてレジストを露光(27)し、現像液(33)で現像した。露光時間と現像時間は、微細孔の深さがレジストの膜厚と等しい5μmになるように調整し、微細孔の底面にITOが露出するようにした。現像後、ホットプレートを用いてポストベーク(150℃、15分)を行い、レジストを固め、微細孔付き絶縁体一体型下部電極を製作した。
【0112】
このようにして作製した微細孔付き絶縁体一体型下部電極(28)と上部電極(14)、スペーサー(16)を図6のように積層し圧着した。図6は、図5に示した細胞融合容器のA−A’断面図である。スペーサーをくりぬいた面積が縦20mm×横20mmであることから、この空間に存在する微細孔の数は約40万個である。また、電極間に電圧を印加する電源(4)は、細胞固定用電源、細胞取り出し用電源から構成されており、切替えスイッチ等の切替え機構により適宜切替えて使用することができる。ここで前記細胞固定用電源は、上部電極(14)と下部電極(15)の電極間に第1の交流電圧を印加するための第1の交流電源であり、前記細胞取り出し用電源は、上部電極と下部電極の電極間に第2の交流電圧を印加するための第2の交流電源である。
【0113】
上記微細孔付き絶縁膜一体型下部電極で構成した装置を用いて、後述する実験を行った。
実施例1で用いたマウスミエローマ細胞の細胞懸濁液600μL(マウスミエローマ細胞数:約40万個)をスペーサーの導入口より1mL容量の分注器を用いて注入し、第1の交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数3MHzの矩形波交流電圧を10秒間電極間に印加したところ、アレイ状に形成した複数の微細孔の1つずつに1個のマウスミエローマ細胞を固定することができ、複数の細胞をアレイ状に配置させることができた。このときの、1つの微細孔につき1個のマウスミエローマ細胞が入る確率は約91%であった。ここで細胞固定率とは、懸濁液を導入して顕微鏡の視野内に存在した174個のマウスミエローマ細胞のうち微細孔に固定された細胞数を、視野内細胞数の174個で割った値で定義した。電圧および矩形波交流電圧印加時間は上記のままで周波数だけを小さくする実験を行った。その結果、図31のように50kHzでは固定率は約81%を示し、30kHzで約50%が固定された。しかし10kHzではほとんど固定されなかった。この結果から、細胞固定用交流電源の交流周波数は30kHz以上、好ましくは50kHz以上が望ましいことを確認した。
また、同様に手法を用いて細胞脱離率の測定を行った。細胞脱離率とは、懸濁液を導入して第1の交流電源を用いて固定されたマウスミエローマ細胞のうち第2の交流電源に切替えた際微細孔から取り出されたマウスミエローマ細胞の細胞数を、固定された細胞数で割った値で定義した。第2の交流電源(エヌエフ回路設計ブロック製、WF1966)により電圧10Vpp、周波数10kHzの矩形波交流電圧を10秒間電極間に印加したところ、アレイ状に形成した複数の微細孔に固定されていたマウスミエローマ細胞を取り出すことができた。このときの、マウスミエローマ細胞の脱離率は約100%であった。電圧および矩形波交流電圧印加時間は上記のままで周波数だけを大きくする実験を行った。その結果、図32のように10kHzでは脱離率は約100%を示し、20kHzでは約50%が脱離した。しかし100kHzではほとんど脱離しなかった。この結果から、細胞取り出し用交流電源の交流周波数が20kHz未満、好ましくは10kHz未満であることが望ましいことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの断面図を示した概念図である。
【図2】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第1の図である。
【図3】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第2の図である。
【図4】特許文献1記載の細胞融合用チャンバーの動作を説明する第3の図である。
【図5】本発明の微粒子操作装置及び、実施例1〜3で用いた微粒子走査装置の概念図である。
【図6】図5の微粒子操作容器のAA’断面図である。
【図7】本発明に用いる交流電圧の波形の一例である。
【図8】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波を示した図である。
【図9】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、台形波を示した図である。
【図10】本発明に用いる交流電圧の波形の一例として、矩形波と台形波を組み合わせた波形を示した図である。
【図11】本発明の微粒子操作方法を説明する第1の図である。
【図12】本発明の微粒子操作方法を説明する第2の図である。
【図13】本発明の微粒子操作方法を説明する第3の図である。
【図14】図11を電気的な等価回路で表した図である。
【図15】図12を電気的な等価回路で表した図である。
【図16】図13を電気的な等価回路で表した図である。
【図17】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を示す図である。
【図18】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形を示す図である。
【図19】周波数f[Hz]の矩形波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電流波形を示す図である。
【図20】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を示す図である。
【図21】周波数f[Hz]の正弦波交流電圧の波形を電極間に印加した場合の、図15のコンデンサーAにおける電圧波形または電流波形を示す図である。
【図22】一般的なフォトリソグラフィーとエッチング方法の概略図である。
【図23】実施例による、アレイ状の微細孔に1つずつの微粒子を固定した実験結果を示す図である。
【図24】アレイ状の微細孔に1つずつの微粒子を固定できなかった様子を示す図である。
【図25】本発明における微細孔形状の第1の例を示す図である。
【図26】本発明における微細孔形状の第2の例を示す図である。
【図27】本発明における実施例2に用いた微粒子操作装置の概略図である。
【図28】本発明における、微細孔を形成した絶縁体が、上と下のスペーサーを介して、上部電極と下部電極の間に配置された微粒子操作装置の例を示す概略図である。
【図29】図28に示した微粒子操作容器のBB’断面図である。
【図30】本発明における微粒子操作方法を示す概念図である。
【図31】本発明の微細孔への細胞固定率と周波数の関係を示した図であり、図中、X軸(横軸)は交流電圧の周波数(単位はkHz)であり、Y軸(縦軸)は細胞固定率(単位は%)である。
【図32】本発明の微細孔への細胞脱離率と周波数の関係を示した図であり、図中、X軸(横軸)は交流電圧の周波数(単位はkHz)であり、Y軸(縦軸)は細胞脱離率(単位は%)である。
【符号の説明】
【0115】
1:融合領域
2:電極
3:導電線
4:電源
5:交流電源
6:直流パルス電源
7:スイッチ
8:絶縁体
9:微細孔
10:細胞A
11:細胞B
12:電気力線
13:微粒子操作容器
14:上部電極
15:下部電極
16:スペーサー
17:微細孔A
18:微粒子A
19:導入口
20:排出口
21:微細孔B
22:微粒子B
23:ITO
24:パイレックス(登録商標)ガラス
25:レジスト
26:露光用フォトマスク
27:露光
28:微細孔付き絶縁体一体型下部電極
29:コンデンサーA
30:コンデンサーB
31:抵抗
32:融合細胞
33:現像液
34:微粒子操作領域
35:微粒子
36:微細孔
37:正の誘電泳動力
38:負の誘電泳動力
39:第1の交流電源
40:第2の交流電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなることを特徴とする微粒子操作装置。
【請求項2】
前記電源のうち、前記微粒子固定用電源が第1の交流電圧を印加する第1の交流電源からなり、前記微粒子取り出し用電源が第2の交流電圧を印加する第2の交流電源からなり、前記第1の交流電源と前記第2の交流電源とを切り替える切替機構を有することを特徴とする請求項1記載の微粒子操作装置。
【請求項3】
前記第1の交流電源により、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子操作装置。
【請求項4】
前記第1の交流電源により、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項5】
前記第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項4記載の微粒子操作装置。
【請求項6】
前記第1の交流電圧の波形が、矩形波、台形波またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の微粒子操作装置。
【請求項7】
前記第1の交流電圧の波形の0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が、微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の微粒子操作装置。
【請求項8】
絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき概ね1つの微粒子を固定できる形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項9】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項10】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項11】
前記微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の微粒子操作装置
【請求項12】
前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする請求項11に記載の微粒子操作装置。
【請求項13】
絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項14】
絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項13記載の微粒子操作装置。
【請求項15】
前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の微粒子操作装置。
【請求項16】
スペーサーが、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項17】
スペーサーが、微粒子を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項18】
前記絶縁体が微粒子と親和性を有することを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、前記微粒子操作領域内に微粒子を導入し、前記第1の交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記微粒子を固定した後、前記切替機構により前記第1の交流電源を前記第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出すことを特徴とする微粒子操作方法。
【請求項1】
微粒子操作領域内に対向して配置される導電部材からなる一対の電極と、前記一対の電極間に平板状のスペーサーを介して配置され、かつ前記対向して配置された電極の方向に貫通した複数の微細孔を有した平板状の絶縁体からなる微粒子操作容器と、前記一対の電極間に電圧を印加する電源と、を備えた微粒子操作装置であって、前記電源が微粒子固定用電源および微粒子取り出し用電源からなることを特徴とする微粒子操作装置。
【請求項2】
前記電源のうち、前記微粒子固定用電源が第1の交流電圧を印加する第1の交流電源からなり、前記微粒子取り出し用電源が第2の交流電圧を印加する第2の交流電源からなり、前記第1の交流電源と前記第2の交流電源とを切り替える切替機構を有することを特徴とする請求項1記載の微粒子操作装置。
【請求項3】
前記第1の交流電源により、1つの微細孔に概ね1つの微粒子を微細孔に固定する波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微粒子操作装置。
【請求項4】
前記第1の交流電源により、前記微粒子の充電と放電を周期的に繰り返す波形を有する第1の交流電圧が前記電極間に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項5】
前記第1の交流電圧の波形が、0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間を半周期内に1以上有する波形であることを特徴とする請求項4記載の微粒子操作装置。
【請求項6】
前記第1の交流電圧の波形が、矩形波、台形波またはこれらを組み合わせた波形であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の微粒子操作装置。
【請求項7】
前記第1の交流電圧の波形の0以外の値を有する電圧が一定時間変化しない時間が、微粒子の静電容量と微粒子を含有する懸濁液の抵抗の積からなる時定数以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の微粒子操作装置。
【請求項8】
絶縁体に形成される微細孔が、1つの微細孔につき概ね1つの微粒子を固定できる形状であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項9】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項10】
前記微細孔の平面形状に内接する最大円の直径が、前記微細孔に固定する微粒子の直径の1倍以上2倍未満の範囲であり、かつ前記微細孔の深さが前記微粒子の直径の2倍未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項11】
前記微細孔の平面形状が、1以上の角を有する形状であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の微粒子操作装置
【請求項12】
前記微細孔の平面形状が、四辺形であることを特徴とする請求項11に記載の微粒子操作装置。
【請求項13】
絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面において、いずれの微細孔からも隣合う微細孔の位置が同じ位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項14】
絶縁体に形成される複数の微細孔が、絶縁体の面においてアレイ状に形成されていることを特徴とする請求項13記載の微粒子操作装置。
【請求項15】
前記微細孔の隣り合う間隔が、固定する微粒子の直径の0.5倍以上6倍以下の範囲であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の微粒子操作装置。
【請求項16】
スペーサーが、微粒子操作領域を形成する貫通孔を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項17】
スペーサーが、微粒子を導入する導入流路および排出する排出流路を有することを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項18】
前記絶縁体が微粒子と親和性を有することを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の微粒子操作装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の微粒子操作装置を用いた微粒子操作方法であって、前記微粒子操作領域内に微粒子を導入し、前記第1の交流電圧を印加することで前記微細孔内に前記微粒子を固定した後、前記切替機構により前記第1の交流電源を前記第2の交流電源に切り替え、前記第2の交流電圧を印加することで、前記微粒子を前記微細孔から取り出すことを特徴とする微粒子操作方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2008−260008(P2008−260008A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38188(P2008−38188)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】
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