微粒子細胞担体及びそれを含む細胞導入システム及び細胞培養システム
【課題】注射器やカテーテルを通して注入しても目詰まりを生じない適度な大きさを有し、各種細胞を安定に保持し生存させることのできる細胞担体を提供する。
【解決手段】低分子ヘパリンとプロタミンから構成される微粒子からなる微粒子細胞担体を提供する。この微粒子細胞担体は、各種接着性細胞と適度な大きさの細胞凝集体を容易に形成し、その細胞凝集体は注射器などを用いて体内に注入できる。再生医療における細胞移植の担体として使用可能である。また、前記微粒子で表面を被覆した基板上で、各種細胞、特に従来は十分な収率が得られにくかったCD-34陽性造血系幹細胞や間葉系幹細胞の無血清或いは低濃度血清培養(1~2%程度)が可能となった。
【解決手段】低分子ヘパリンとプロタミンから構成される微粒子からなる微粒子細胞担体を提供する。この微粒子細胞担体は、各種接着性細胞と適度な大きさの細胞凝集体を容易に形成し、その細胞凝集体は注射器などを用いて体内に注入できる。再生医療における細胞移植の担体として使用可能である。また、前記微粒子で表面を被覆した基板上で、各種細胞、特に従来は十分な収率が得られにくかったCD-34陽性造血系幹細胞や間葉系幹細胞の無血清或いは低濃度血清培養(1~2%程度)が可能となった。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される微粒子(マイクロパーティクル)の微粒子細胞担体(細胞マイクロキャリア)及び被覆材としての使用に関する。さらに本発明は、前記微粒子細胞担体を用いた有効な細胞導入法、並びに当該微粒子で被覆した培養基材を用いた低血清培地での有効な細胞増殖法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、盛んに研究されている再生医療としての細胞導入療法は、導入細胞自身の生着及び導入細胞が生成する因子を目的部位に注入して生着・増殖させ組織再生を誘発することを狙う方法である。血管新生療法には血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の遺伝子や血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell: EPC)などが用いられているが、有効な方法として研究成果は挙がっているものの、安全性に対する懸念や費用対効果の問題があり、実用化には至っていない。また骨髄移植において、骨髄バンクの発足以来大きな進展があるものの、骨髄移植の症例は伸び悩み、造血系幹細胞の増殖や生着の高度化による効率的で有効な骨髄移植技術の研究・開発が求められている。
【0003】
ところで骨髄や脂肪組織を含んだ多くの組織が、組織の維持や修復のため多分化能を保持した前駆体細胞を含んでいることが知られている。特に骨髄細胞は造血系幹細胞や間葉系幹細胞を含み、各種血液細胞のみならず、皮膚、骨、軟骨、血管、筋肉の細胞に分化しそれぞれの組織再生を促進する。同様に、脂肪組織由来間葉系幹細胞も皮膚、骨、軟骨、血管、筋肉の細胞に分化することが知られており、人において豊富な幹細胞資源となる脂肪に大きな注目が集まっている。
【0004】
しかし、各種幹細胞の収率は低く、増殖させるには高濃度の動物血清を必要とするなどの問題があり、効率的に低濃度の血清入り培地で増殖させる培養法が求められている。さらに細胞移植において、その生着性及び増殖性を高める細胞担体を併用する必要がある。
【0005】
本発明者等は、光硬化性キトサンハイドロゲル(特許文献1)や6-O-位脱硫酸化ヘパリンの複合ハイドロゲル(特許文献2)が塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの様々な成長因子の活性を保護し、それを徐放する担体として有効であることを報告してきた。上記ハイドロゲル内で保護され活性を保持したFGF-2が、ハイドロゲルの生分解に伴い周辺部位へ徐放され、生体内での血管新生や肉芽形成の促進に寄与することが実証されている。
【特許文献1】WO03/090765号パンフレット
【特許文献2】WO2005/025538号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらのハイドロゲルは、例えば皮膚潰瘍などの外傷部位に適用することを意図したものであり、液だれ等を防止するため高い粘性を有するように設計されていた。従って、注射器やカテーテルを通して投与した場合に、目詰まりを頻繁に引き起こす場合があった。また、単にキトサン等の濃度を下げて粘度を低下させたのでは、担持させることのできる薬物量が限定され、所望の効果が得られない可能性があった。特に、これらのハイドロゲルは、各種接着性細胞をゲル内に保持、生存させることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、低分子ヘパリンとプロタミンとの組み合わせを用いることにより、簡便に平均粒径10μm未満、ひいては1μm以下の微粒子を作成でき、得られた微粒子が各種細胞と適度な大きさの凝集体を形成でき、注入可能な細胞担体として使用しうることを見出した。また、当該微粒子がガラスやプラスチック表面を簡便に被覆(コーティング)でき、得られた基板上で各種細胞の増殖が促進されることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が5μm未満の微粒子からなる微粒子細胞担体および当該微粒子を含んでなる被覆材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微粒子細胞担体は、例えば骨髄或いは脂肪組織由来の間葉系幹細胞、毛細血管内皮細胞、線維芽細胞等の細胞表面に接合し、細胞凝集体(スフェロイド)の形成を促進させ、細胞の生存性や生着性を高めることができる。本発明の微粒子細胞担体は平均粒径が10μm未満、あるいは1μm以下であるため、形成される細胞凝集体のサイズも容易に制御でき、細針を装着したシリンジでも注入可能な細胞凝集体が得られ、取扱い性及び操作性に優れている。本発明で使用するダルテパリンなどの低分子ヘパリンやプロタミンは医薬品として市販されている材料であり、それらの安全性は確保されている。また、本発明の微粒子細胞担体は生体内で細胞を保護しその生存性を高めるとともに生分解されるため、スフェロイドを体内に注入すると、その生分解や細胞の遊走に伴ってスフェロイドは消失するため、細胞移植の担体として特に優れている。
【0009】
一方、本発明の微粒子で被覆されたガラスやプラスチックプレートには、高濃度にFGF-2等のヘパリン‐結合性増殖因子やサイトカインが効率的に吸着され、それらの効率的な活性発現により各種細胞の被覆プレートへの接着性や増殖性が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記したように、本発明の微粒子細胞担体および被覆材は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される微粒子を用いており、その平均粒径は10μm未満、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、およそ0.5μm程度である。粒径の下限は特に限定されないが、一般には約0.01μm以上とされる。
【0011】
本発明の微粒子細胞担体および被覆材を構成する低分子ヘパリン(Low Molecular Weight Heparin)は、一般に天然ヘパリン(分子量15,000~20,000程度)を解重合して得られる低分子量のヘパリンである。その分子量範囲は、プロタミンと混合することにより微粒子状の細胞担体(平均粒径:1~0.5 μm)を形成できる程度のものであればよく、一般的には約10,000未満、好ましくは約8,000未満、さらに好ましくは約6,000未満の平均分子量を有するものが用いられる。
【0012】
例えば、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(ダルテパリン)は、フラグミン(商品名)として市販されており、約3,000~5,000の平均分子量を有する。同様に、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(レビパリン)はローモリン(商品名)として、ウシ又はブタ小腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と酢酸第二銅により分解して得られる解重合ヘパリン(パルナパリン)はローへパ(商品名)として市販されており、これらは何れも本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。
【0013】
ヘパリンは単独では抗凝固作用を持たず、血漿中のATIIIと結合することによってその作用を発揮し、第IIa因子、第XIIa因子、第XIa因子、第Xa因子、第IXa因子などの凝固系酵素を阻害、不活化する。一方、本発明で使用する低分子ヘパリンは抗第XIIa、抗第Xa因子活性を持つものの、第IIa、第XIa、第IXa因子に対する阻害活性は軽微であることが医薬品として明らかにされているので、創傷部位に注入しても当該部位における出血傾向を助長させることなく使用できる。
【0014】
本発明の低分子ヘパリンは上記市販されているものを使用してもよいが、例えば過ヨウ素酸酸化・還元により低分子化したヘパリン、あるいは特異的脱硫酸化ヘパリン等も使用することができる。本発明の低分子ヘパリンは、一般的には約10,000未満、好ましくは10,000~7,000未満、より好ましくは3,000~5,000程度の分子量を有する。このような低分子量のヘパリンを使用することにより、プロタミンと混合した際に微粒子状の細胞担体を得ることができる。
【0015】
一方、本発明の微粒子細胞担体および被覆材を構成するプロタミンは、動物の精子の核中でDNAと結合して存在する塩基性の高いたんぱく質として知られている。一般的には、27~65残基からなる低分子量たんぱく質であり、アミノ酸の40~70%をアルギニンが占めると言われている。プロタミンも医薬品として市販されており、本発明では市販のプロタミンをそのまま使用することができる。低分子ヘパリンとプロタミンの重量比は特に限定されないが、プロタミンに対する低分子ヘパリンの重量を等量あるいはやや過剰にした方が得られる微粒子の収率が向上する傾向がある。
【0016】
低分子ヘパリンに代えて、高分子量ヘパリン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸を用いた場合は、本発明で得られたような微粒子を得ることはできない。低分子ヘパリンとプロタミンという独特の組み合わせを採用することにより、10μm未満さらには1μm以下の平均粒径を有する微粒子を得ることができる。
【0017】
本発明の第一の態様は、前記の微粒子からなる微粒子細胞担体である。
本発明の微粒子細胞担体は、各種接着細胞と容易に結合する性質を有している。従って、接着細胞とインキュベーションすることにより、数個から数十個の細胞よりなる各種接着細胞凝集体(スフェロイド)が浮遊状態で容易に形成される。しかも、1〜5時間程度のインキュベーションで形成される細胞凝集体の平均粒径は50〜100μm程度であり、注射器やカテーテルなどを目詰まりさせることもないため、それらを介して体内に注入する細胞組成物として使用するのに適している。また、その組成物に各種細胞の維持・増殖・分化に関わるヘパリン結合性増殖因子やサイトカイン等を同時添加することで、付加的な細胞維持、増殖、分化誘導、及び生着効果が期待できる。
【0018】
よって本発明は、前記の微粒子細胞担体と接着細胞とからなる細胞凝集体を提供する。この細胞凝集体においては、凝集体を形成する細胞が安定して生存できる。そして、本発明の細胞凝集体は、体内に注入するのに適したサイズとすることができるので、体内の目的部に注入して生着させることにより、従来は困難であった細胞移植を可能にする。
【0019】
前記細胞凝集体は、注入可能な微小サイズであり、媒体中に浮遊状態で分散させることができるため、種々の医薬品として応用が可能である。例えば、本発明の微粒子細胞担体と脂肪組織由来間葉系幹細胞とからなる細胞凝集体の分散液を体内の目的部位に注入することにより、当該目的部位に細胞が生着する。その結果、目的部位における血管新生を促進させることができる。さらに、細胞の増殖に適した各種生理活性分子を共存させることにより、目的部位における細胞増殖が更に促進され、当該細胞の機能を発揮させることが可能になる。
【0020】
よって本発明は本発明の細胞凝集体と、必要に応じて適当な生理活性物質とを含有する医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物に用いられる細胞凝集体を構成する細胞としては、特に限られないが、例えば、細胞導入を伴う再生医療の際に用いられる脂肪組織或いは骨髄由来間葉系幹細胞、CD34陽性造血系幹細胞、血管内皮細胞及びその前駆体細胞、肝細胞及びその前駆体細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞及びその前駆体細胞、骨細胞及びその前駆体細胞、その他再生医療に用いられる万能細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、細胞株等が挙げられる。
【0021】
本発明の医薬組成物に任意に添加される生理活性物質としては、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く微粒子に担持されやすい物が好ましい。特に線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子や幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン−3(IL-3), 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子GM-CSF)等ヘパリン結合性蛋白質が好ましい。
【0022】
本発明の第二の態様は、前記微粒子を含んでなる被覆材である。
本微粒子は水溶液中に良好に分散され、それをガラス或いはプラスチック等の基板プレート上に添加して数時間静置するだけで微粒子被覆基板を得ることができる。この基板表面には、各種増殖因子やサイトカイン等、細胞増殖に必要なタンパク質などが吸着されやすい。そして、この基板を用いると、低濃度のヘパリン−結合性増殖因子やサイトカインを添加するだけで、各種細胞を低濃度血清培養(1~2%程度)することが可能となる。特に、造血系サイトカイン(SCF: stem cell factor, Tpo: thrombopoietin, Flt-3: Flt-3 ligand)は、本発明の微粒子で被覆した基板によく吸着し、その基板を用いれば、従来は十分な収率が得られなかったCD34−陽性造血系幹細胞や間葉系幹細胞を低(無)血清培地で増殖させることができる。
【0023】
よって本発明は、本発明の微粒子被覆材で表面を被覆した基板からなる細胞培養基材を提供する。本発明の細胞培養基材には、細胞培養に先立って、各種増殖因子やサイトカイン等の生理活性物質を吸着させておいてもよい。また、これらの生理活性物質は、細胞培養する際の培地中に共存させてもよい。
例えば、本発明者等は、本発明の細胞培養基材を用いた場合、CD34陽性−造血系幹細胞の増殖率が、低濃度の造血系サイトカイン(SCF; 5 ng/ml、Tpo; 10 ng/ml、Flt-3; 10 ng/ml)を含んだ無血清培地で有意に向上したことを確認している。
【0024】
本発明の細胞培養基材で培養される細胞は特に限られないが、再生医療の際に用いられる、脂肪組織或いは骨髄由来間葉系幹細胞、CD34陽性造血系幹細胞、血管内皮細胞及びその前駆体細胞、肝細胞及びその前駆体細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞及びその前駆体細胞、骨細胞及びその前駆体細胞、その他再生医療に用いられる万能細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、細胞株等が含まれる。また同時投与する生理活性物質としては、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く微粒子に担持されやすい物が好ましい。特に線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子や幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン−3 (IL-3), 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)等のヘパリン結合性蛋白質が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)本発明の微粒子細胞担体による浮遊細胞の凝集化促進と細胞生存性の向上
低分子ヘパリンとして、市販のダルテパリンであるフラグミン(商品名)(6.4 mg/ml, 1,000 IU/ml, キッセイ薬品工業株式会社)を使用し、同様に市販のプロタミン(10 mg/ml, 持田製薬株式会社)を容積比7:3となる割合で混合し微粒子分散液を得た。このときの1 mlの微粒子分散液あたりの乾燥微粒子収量は約7mgであった。
【0026】
上記微粒子分散液を、ヒト毛細血管内皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、マウス脂肪組織由来間葉系幹細胞とともに約1時間インキュベーションした。その結果、図1に示すように、本微粒子はヒト毛細血管内皮細胞(A)、ヒト皮膚線維芽細胞(B)、及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞(C)の表面に接合し、1時間以内の培養で細胞凝集体(スフェロイド)を形成した。
【0027】
この細胞凝集体を、10%ウシ胎児血清及び1.4 mg/ml 微粒子を含んだ培地を用いて浮遊培養し、セルカウンティングキット(同仁化学研究所)を用いて生存細胞を定量した。その結果、ヒト皮膚線維芽細胞及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞は1.4 mg/ml 微粒子の存在下、毛細血管内皮細胞は1.4 mg/ml 微粒子と5 ng/ml FGF-2の存在下で、少なくとも3日以上の細胞生存性の延長を認めた(図2)。
【0028】
(実施例2)本発明の微粒子被覆基板表面への各種増殖因子・サイトカインの吸着
各種増殖因子・サイトカイン(FGF-1、FGF-2、HGF、IL-3、GM-CSF、SCF、Tpo、Flt-3)についてプロタミン/フラグミン微粒子コーティング−プラスチックプレートへの吸着性についてELISA法を用いて測定した。1.4 mg/ml 微粒子(図3A)を含んだ燐酸バッファー(PBS)で細胞培養プレートを4℃で24時間静置した後、PBS溶液を除き、乾燥させることでコーティングを行った(図3B)。さらに蛍光標識(Texas Red-X Protein Labeling Kit;Invitrogen Japan K. K., Tokyo, Japan)したプロタミンを用いて同様に微粒子を調製し、コーティングを行った(図3C)。この微粒子は乾燥によりペースト状に変化し、プラスチック等の表面に安定的にコーティングされることがわかった。
【0029】
この48ウェル‐コーティング−プラスチックプレートにそれぞれの8、4、2 ng/mlの増殖因子(FGF-1、FGF-2、HGF、IL-3、GM-CSF、SCF)を含んだ2%FBS含有培地を200μl或いは20、10、5 ng/mlのサイトカイン(Tpo, Flt-3)を含んだ造血系幹細胞培地(HPGM: Hematopoietic Progenitor Growth Medium)を200μl加え、2時間室温で静置することによって各サイトカインを吸着させた。次に使用済み各溶液(200μl)を別のコーティング‐ウェルに入れ2度目の吸着量を定量した(図4)。1度目の吸着量から2度目(使用済溶液)の吸着量を減ずることにより、室温で2時間のインキュベーションにより48ウェル-プレート(ウェル面積:0.78 cm2)当りに吸着される各増殖因子及びサイトカイン量を見積もった。
【0030】
ELISA法は、各増殖因子及びサイトカインを吸着させたプレートにそれぞれの一次抗体を反応させ、さらに洗浄後2次抗体を反応させた。最後にパーオキシダーゼ基質(バイオ・ラッド製)を用いて定量した。200μlの各種増殖因子・サイトカイン(4 ng/ml)溶液をコーティング‐ウェルに加えて室温で2時間インキュベートした時の吸着量は(FGF-1:0.42 ng、FGF-2:0.36 ng、HGF:0.32 ng/ml、IL-3:0.36 ng/ml、GM-CSF:0.36 ng/ml、SCF:0.34 ng/ml、Tpo:0.27 ng/ml、Flt-3:0.32 ng/ml)と見積もられた。
【0031】
(実施例3) 本発明の微粒子被覆基板及び5 ng/ml FGF-2含有2%血清培地を用いたヒト骨髄及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞の増殖促進
微粒子コーティング48ウェル組織培養プレートにヒト骨髄及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞を播種し、5ng/ml FGF-2含有2%血清DMEM培地で5日間培養し、その増殖率をコーティングしない48ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図5)。
【0032】
明らかに微粒子コーティングはFGF-2の存在下、1%の低血清で骨髄及び脂肪組織由来間葉系幹細胞両者の増殖性を大きく促進させた。またデータは示さないが本条件で培養・増殖させた両者の間葉系幹細胞は脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞等に分化誘導されることが確認された。したがって、本微粒子コーティングプレートを用いた間葉系幹細胞の増殖法は、用いる培地の血清低濃度化と増殖促進を可能にする有効な培養法である。
【0033】
(実施例4)本発明の微粒子被覆基板及びIL-3とGM-CSF含有1%血清培地を用いたTF-1細胞株の増殖促進
ヒトTF-1細胞株は通常浮遊培養で増殖するために、5%以上のウシ胎児血清とIL-3及びGM-CSF等の造血系サイトカインを要求する。微粒子コーティング48ウェル組織培養プレートにTF-1細胞株を播種し、5 ng/ml IL-3及び5 ng/mlGM-CSF含有1%血清DMEM培地で5日間浮遊培養し、その増殖率をコーティングしない48ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図6)。
【0034】
明らかに微粒子コーティングはIL-3及びGM-CSFの存在下、1%の低血清でTF-1 細胞の増殖性を大きく促進させた。また、5 ng/ml IL-3及び5 ng/mlGM-CSF含有2%血清DMEM培地でサイトカインを事前に4℃で18 h吸着させた微粒子コーティング48ウェル組織培養プレート上でTF-1細胞は良好な増殖を示し(図7)、微粒子コーティングプレートに吸着したサイトカインは活性型を保っていることが明らかになった。
【0035】
(実施例5)本発明の微粒子被覆基板及び低濃度サイトカイン(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清培地を用いたヒトCD 34-陽性造血系幹細胞の増殖促進
ヒトCD 34-陽性造血系幹細胞は通常浮遊培養で増殖するために、高濃度のサイトカイン(20 ng/ml SCF、40 ng/ml IL-3、40 ng/ml Flt-3)を含んだ造血系幹細胞培地(HPGM)で培養することが必要である。微粒子コーティング24ウェル組織培養プレートにCD 34-陽性造血系幹細胞を播種し、低濃度(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清HPGM培地で6日間浮遊培養し、その増殖率をコーティングしない24ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図8)。
【0036】
明らかに微粒子コーティングは低濃度サイトカインの存在下、CD 34-陽性造血系幹細胞の増殖性を大きく促進した。さらに、フローサイトメトリーによるCD 34-陽性細胞率の測定の結果を含めて、本微粒子コーティング−プラスチックプレート及び低濃度(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清培地を用いたヒトCD 34-陽性造血系幹細胞は、7日間で10倍以上に増殖させることができた。
【0037】
(実施例6)本発明の微粒子細胞担体及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体投与による細胞生着及び血管新生促進
GFP(Green Fluorescent Protein)マウスより採取した脂肪組織由来間葉系幹細胞を増殖させ、500万個の細胞と微粒子(3.5 mg)を1 mlの培地に浮遊させ、1h室温で凝集塊浮遊培養した後、ヌードマウス背部にその200 μlを皮下注射した。そして3、7、10日後に注射部位の蛍光を蛍光顕微鏡により観察したこところ、10日目以降では微粒子を伴う凝集塊溶液を投与した群のみに蛍光が観察され、投与細胞の生存と生着が確認された(図9)。
【0038】
また注射部位の組織の病理写真を基に顕微鏡視野あたりの新生毛細血管数を測定したところ、7日目以降14日にわたって、他の群に比して有意に顕微鏡視野あたりの新生毛細血管数が高いことが明らかになった(図10)。このように本微粒子細胞担体及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体投与による細胞生着及び血管新生促進は他のコントロール群に比して微粒子を伴う凝集塊溶液を投与した群のみが有意に高く、脂肪組織由来間葉系幹細胞導入による血管新生療法において本発明の微粒子細胞担体の有効性が確認された。
【0039】
(実施例7)本発明の微粒子細胞担体及び骨髄組織由来細胞の凝集塊の大腿骨移植による血液再生促進
マウス(C57BL/6J; 日本エスエルシー(株)、静岡)に致死量である10G の放射線(放射線照射装置MBR-1505R2 日立メディコ(株))を用いて被爆させ、2時間後骨髄細胞50万個のみ(コントロール群)、等量の骨髄細胞+350μgの微粒子(微粒子群)、及び等量の骨髄細胞+350μgの微粒子+サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(微粒子+サイトカイン群)を含む培地溶液25μlを大腿骨内注射により投与した。本条件で、3群すべてのマウスを骨髄死から救命できた。そして投与後1,2、3、4週間後末梢血の白血球、ヘモグロビン、および血小板の変化を調べ血液再生の評価を行った。
【0040】
図11に示すように、微粒子群及び微粒子+サイトカイン群はコントロール群と同様に、1週間後では白血球等大きく減少するが、2週間後では白血球等の再生促進が観察された。しかし、サイトカインによる付加的な促進活性は認められなかった。この結果は、サイトカインの直接効果というよりも本発明の微粒子細胞担体による浮遊細胞の凝集化促進、細胞生存性の向上、及び細胞生着性の促進によるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の微粒子細胞担体による浮遊ヒト毛細血管内皮細胞の凝集体(A)、ヒト皮膚線維芽細胞の凝集体(B)、脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体(C)の顕微鏡写真である。
【図2】本発明の微粒子細胞担体とヒト毛細血管内皮細胞(A)、ヒト皮膚線維芽細胞(B)又は脂肪組織由来間葉系幹細胞(C)との細胞凝集体の生存期間を示すグラフである。ヒト毛細血管内皮細胞の凝集体はFGF-2含有10% FBS 含有DMEMで、浮遊培養で3日間生存することができた(A)。微粒子とヒト皮膚線維芽細胞の凝集体(B)および脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体(C)は10% FBS 含有DMEMで(FGF-2非存在下)、浮遊培養で3日間生存することができた。
【図3】本発明の微粒子(A)、プラスチックプレートにコーティングした外観(B)及び蛍光標識(Texas Red-X Protein Labeling Kit)した微粒子をコーティングした外観(C)の顕微鏡写真である。
【図4】各々の1度目の吸着量(○)から2度目の吸着量(□)を減ずることにより、室温で2時間のインキュベーションにより48ウェル-プレート(ウェル面積:0.78 cm2)当りに吸着される各サイトカイン量を見積もったグラフである。微粒子をコーティングしないコントロールプレートへの吸着量は(△)で示した。
【図5】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒト骨髄間葉系幹細胞(A)及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞(B)を2%FBS及び5 ng/ml FGF-2を含んだDMEMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図6】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒトTF-1細胞株を1%FBS、5 ng/ml IL-3及びGM-CSFを含んだDMEMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図7】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)をそれぞれの濃度のIL-3及びGM-CSFを4℃、18時間静置で吸着させ、そのプレートを培地で3度洗浄し、その洗浄プレート上でヒトTF-1細胞株を1%FBSのみを含んだDMEMで5日間培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図8】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒトCD34-陽性造血系幹細胞を5 ng/ml SCF, 10 ng/ml Tpo, 10ng/ml Flt-3を含んだ無血清HPGMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図9】微粒子を含まない脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞単独投与群(上段)と微粒子を含んだ脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞スフェロイド投与群(下段)をヌードマウスの背部に皮下注射した際の、経時的な蛍光実体顕微鏡写真である。
【図10】微粒子と脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞のスフェロイド注射群、脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞単独注射群、及び微粒子のみ注射群の注射部位の毛細血管数の経時的変化を示すグラフである。注射部位の病理組織像(H&E染色)を撮影し、その写真から視野当りの毛細血管数をカウントしたデータである。
【図11】マウスに致死量である10Gの放射線を照射して被爆させ、2時間後骨髄細胞50万個のみ(コントロール群;白棒)、等量の骨髄細胞+350μgの微粒子(微粒子群;黒棒)(B)、及び等量の骨髄細胞+350μgの微粒子+サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(微粒子+サイトカイン群;黒棒)、等量の骨髄細胞++サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(サイトカイン(+)コントロール群;白棒)(A)を含む培地溶液25μlを大腿骨内注射により投与した場合の白血球(WBC)、ヘモグロビン(Hb)及び血小板(PLT)の変化を示すグラフである。投与後1,2、3、4週間後末梢血の白血球、ヘモグロビン、および血小板の変化を調べ血液再生の評価を行った結果である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される微粒子(マイクロパーティクル)の微粒子細胞担体(細胞マイクロキャリア)及び被覆材としての使用に関する。さらに本発明は、前記微粒子細胞担体を用いた有効な細胞導入法、並びに当該微粒子で被覆した培養基材を用いた低血清培地での有効な細胞増殖法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、盛んに研究されている再生医療としての細胞導入療法は、導入細胞自身の生着及び導入細胞が生成する因子を目的部位に注入して生着・増殖させ組織再生を誘発することを狙う方法である。血管新生療法には血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の遺伝子や血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell: EPC)などが用いられているが、有効な方法として研究成果は挙がっているものの、安全性に対する懸念や費用対効果の問題があり、実用化には至っていない。また骨髄移植において、骨髄バンクの発足以来大きな進展があるものの、骨髄移植の症例は伸び悩み、造血系幹細胞の増殖や生着の高度化による効率的で有効な骨髄移植技術の研究・開発が求められている。
【0003】
ところで骨髄や脂肪組織を含んだ多くの組織が、組織の維持や修復のため多分化能を保持した前駆体細胞を含んでいることが知られている。特に骨髄細胞は造血系幹細胞や間葉系幹細胞を含み、各種血液細胞のみならず、皮膚、骨、軟骨、血管、筋肉の細胞に分化しそれぞれの組織再生を促進する。同様に、脂肪組織由来間葉系幹細胞も皮膚、骨、軟骨、血管、筋肉の細胞に分化することが知られており、人において豊富な幹細胞資源となる脂肪に大きな注目が集まっている。
【0004】
しかし、各種幹細胞の収率は低く、増殖させるには高濃度の動物血清を必要とするなどの問題があり、効率的に低濃度の血清入り培地で増殖させる培養法が求められている。さらに細胞移植において、その生着性及び増殖性を高める細胞担体を併用する必要がある。
【0005】
本発明者等は、光硬化性キトサンハイドロゲル(特許文献1)や6-O-位脱硫酸化ヘパリンの複合ハイドロゲル(特許文献2)が塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの様々な成長因子の活性を保護し、それを徐放する担体として有効であることを報告してきた。上記ハイドロゲル内で保護され活性を保持したFGF-2が、ハイドロゲルの生分解に伴い周辺部位へ徐放され、生体内での血管新生や肉芽形成の促進に寄与することが実証されている。
【特許文献1】WO03/090765号パンフレット
【特許文献2】WO2005/025538号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらのハイドロゲルは、例えば皮膚潰瘍などの外傷部位に適用することを意図したものであり、液だれ等を防止するため高い粘性を有するように設計されていた。従って、注射器やカテーテルを通して投与した場合に、目詰まりを頻繁に引き起こす場合があった。また、単にキトサン等の濃度を下げて粘度を低下させたのでは、担持させることのできる薬物量が限定され、所望の効果が得られない可能性があった。特に、これらのハイドロゲルは、各種接着性細胞をゲル内に保持、生存させることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、低分子ヘパリンとプロタミンとの組み合わせを用いることにより、簡便に平均粒径10μm未満、ひいては1μm以下の微粒子を作成でき、得られた微粒子が各種細胞と適度な大きさの凝集体を形成でき、注入可能な細胞担体として使用しうることを見出した。また、当該微粒子がガラスやプラスチック表面を簡便に被覆(コーティング)でき、得られた基板上で各種細胞の増殖が促進されることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が5μm未満の微粒子からなる微粒子細胞担体および当該微粒子を含んでなる被覆材を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微粒子細胞担体は、例えば骨髄或いは脂肪組織由来の間葉系幹細胞、毛細血管内皮細胞、線維芽細胞等の細胞表面に接合し、細胞凝集体(スフェロイド)の形成を促進させ、細胞の生存性や生着性を高めることができる。本発明の微粒子細胞担体は平均粒径が10μm未満、あるいは1μm以下であるため、形成される細胞凝集体のサイズも容易に制御でき、細針を装着したシリンジでも注入可能な細胞凝集体が得られ、取扱い性及び操作性に優れている。本発明で使用するダルテパリンなどの低分子ヘパリンやプロタミンは医薬品として市販されている材料であり、それらの安全性は確保されている。また、本発明の微粒子細胞担体は生体内で細胞を保護しその生存性を高めるとともに生分解されるため、スフェロイドを体内に注入すると、その生分解や細胞の遊走に伴ってスフェロイドは消失するため、細胞移植の担体として特に優れている。
【0009】
一方、本発明の微粒子で被覆されたガラスやプラスチックプレートには、高濃度にFGF-2等のヘパリン‐結合性増殖因子やサイトカインが効率的に吸着され、それらの効率的な活性発現により各種細胞の被覆プレートへの接着性や増殖性が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記したように、本発明の微粒子細胞担体および被覆材は、低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される微粒子を用いており、その平均粒径は10μm未満、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、およそ0.5μm程度である。粒径の下限は特に限定されないが、一般には約0.01μm以上とされる。
【0011】
本発明の微粒子細胞担体および被覆材を構成する低分子ヘパリン(Low Molecular Weight Heparin)は、一般に天然ヘパリン(分子量15,000~20,000程度)を解重合して得られる低分子量のヘパリンである。その分子量範囲は、プロタミンと混合することにより微粒子状の細胞担体(平均粒径:1~0.5 μm)を形成できる程度のものであればよく、一般的には約10,000未満、好ましくは約8,000未満、さらに好ましくは約6,000未満の平均分子量を有するものが用いられる。
【0012】
例えば、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(ダルテパリン)は、フラグミン(商品名)として市販されており、約3,000~5,000の平均分子量を有する。同様に、ブタの小腸粘膜由来のヘパリンを亜硝酸分解して得られる解重合ヘパリン(レビパリン)はローモリン(商品名)として、ウシ又はブタ小腸粘膜由来のヘパリンを過酸化水素と酢酸第二銅により分解して得られる解重合ヘパリン(パルナパリン)はローへパ(商品名)として市販されており、これらは何れも本発明における低分子ヘパリンとして使用できる。
【0013】
ヘパリンは単独では抗凝固作用を持たず、血漿中のATIIIと結合することによってその作用を発揮し、第IIa因子、第XIIa因子、第XIa因子、第Xa因子、第IXa因子などの凝固系酵素を阻害、不活化する。一方、本発明で使用する低分子ヘパリンは抗第XIIa、抗第Xa因子活性を持つものの、第IIa、第XIa、第IXa因子に対する阻害活性は軽微であることが医薬品として明らかにされているので、創傷部位に注入しても当該部位における出血傾向を助長させることなく使用できる。
【0014】
本発明の低分子ヘパリンは上記市販されているものを使用してもよいが、例えば過ヨウ素酸酸化・還元により低分子化したヘパリン、あるいは特異的脱硫酸化ヘパリン等も使用することができる。本発明の低分子ヘパリンは、一般的には約10,000未満、好ましくは10,000~7,000未満、より好ましくは3,000~5,000程度の分子量を有する。このような低分子量のヘパリンを使用することにより、プロタミンと混合した際に微粒子状の細胞担体を得ることができる。
【0015】
一方、本発明の微粒子細胞担体および被覆材を構成するプロタミンは、動物の精子の核中でDNAと結合して存在する塩基性の高いたんぱく質として知られている。一般的には、27~65残基からなる低分子量たんぱく質であり、アミノ酸の40~70%をアルギニンが占めると言われている。プロタミンも医薬品として市販されており、本発明では市販のプロタミンをそのまま使用することができる。低分子ヘパリンとプロタミンの重量比は特に限定されないが、プロタミンに対する低分子ヘパリンの重量を等量あるいはやや過剰にした方が得られる微粒子の収率が向上する傾向がある。
【0016】
低分子ヘパリンに代えて、高分子量ヘパリン、ヒアルロン酸、又はコンドロイチン硫酸を用いた場合は、本発明で得られたような微粒子を得ることはできない。低分子ヘパリンとプロタミンという独特の組み合わせを採用することにより、10μm未満さらには1μm以下の平均粒径を有する微粒子を得ることができる。
【0017】
本発明の第一の態様は、前記の微粒子からなる微粒子細胞担体である。
本発明の微粒子細胞担体は、各種接着細胞と容易に結合する性質を有している。従って、接着細胞とインキュベーションすることにより、数個から数十個の細胞よりなる各種接着細胞凝集体(スフェロイド)が浮遊状態で容易に形成される。しかも、1〜5時間程度のインキュベーションで形成される細胞凝集体の平均粒径は50〜100μm程度であり、注射器やカテーテルなどを目詰まりさせることもないため、それらを介して体内に注入する細胞組成物として使用するのに適している。また、その組成物に各種細胞の維持・増殖・分化に関わるヘパリン結合性増殖因子やサイトカイン等を同時添加することで、付加的な細胞維持、増殖、分化誘導、及び生着効果が期待できる。
【0018】
よって本発明は、前記の微粒子細胞担体と接着細胞とからなる細胞凝集体を提供する。この細胞凝集体においては、凝集体を形成する細胞が安定して生存できる。そして、本発明の細胞凝集体は、体内に注入するのに適したサイズとすることができるので、体内の目的部に注入して生着させることにより、従来は困難であった細胞移植を可能にする。
【0019】
前記細胞凝集体は、注入可能な微小サイズであり、媒体中に浮遊状態で分散させることができるため、種々の医薬品として応用が可能である。例えば、本発明の微粒子細胞担体と脂肪組織由来間葉系幹細胞とからなる細胞凝集体の分散液を体内の目的部位に注入することにより、当該目的部位に細胞が生着する。その結果、目的部位における血管新生を促進させることができる。さらに、細胞の増殖に適した各種生理活性分子を共存させることにより、目的部位における細胞増殖が更に促進され、当該細胞の機能を発揮させることが可能になる。
【0020】
よって本発明は本発明の細胞凝集体と、必要に応じて適当な生理活性物質とを含有する医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物に用いられる細胞凝集体を構成する細胞としては、特に限られないが、例えば、細胞導入を伴う再生医療の際に用いられる脂肪組織或いは骨髄由来間葉系幹細胞、CD34陽性造血系幹細胞、血管内皮細胞及びその前駆体細胞、肝細胞及びその前駆体細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞及びその前駆体細胞、骨細胞及びその前駆体細胞、その他再生医療に用いられる万能細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、細胞株等が挙げられる。
【0021】
本発明の医薬組成物に任意に添加される生理活性物質としては、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く微粒子に担持されやすい物が好ましい。特に線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子や幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン−3(IL-3), 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子GM-CSF)等ヘパリン結合性蛋白質が好ましい。
【0022】
本発明の第二の態様は、前記微粒子を含んでなる被覆材である。
本微粒子は水溶液中に良好に分散され、それをガラス或いはプラスチック等の基板プレート上に添加して数時間静置するだけで微粒子被覆基板を得ることができる。この基板表面には、各種増殖因子やサイトカイン等、細胞増殖に必要なタンパク質などが吸着されやすい。そして、この基板を用いると、低濃度のヘパリン−結合性増殖因子やサイトカインを添加するだけで、各種細胞を低濃度血清培養(1~2%程度)することが可能となる。特に、造血系サイトカイン(SCF: stem cell factor, Tpo: thrombopoietin, Flt-3: Flt-3 ligand)は、本発明の微粒子で被覆した基板によく吸着し、その基板を用いれば、従来は十分な収率が得られなかったCD34−陽性造血系幹細胞や間葉系幹細胞を低(無)血清培地で増殖させることができる。
【0023】
よって本発明は、本発明の微粒子被覆材で表面を被覆した基板からなる細胞培養基材を提供する。本発明の細胞培養基材には、細胞培養に先立って、各種増殖因子やサイトカイン等の生理活性物質を吸着させておいてもよい。また、これらの生理活性物質は、細胞培養する際の培地中に共存させてもよい。
例えば、本発明者等は、本発明の細胞培養基材を用いた場合、CD34陽性−造血系幹細胞の増殖率が、低濃度の造血系サイトカイン(SCF; 5 ng/ml、Tpo; 10 ng/ml、Flt-3; 10 ng/ml)を含んだ無血清培地で有意に向上したことを確認している。
【0024】
本発明の細胞培養基材で培養される細胞は特に限られないが、再生医療の際に用いられる、脂肪組織或いは骨髄由来間葉系幹細胞、CD34陽性造血系幹細胞、血管内皮細胞及びその前駆体細胞、肝細胞及びその前駆体細胞、皮膚線維芽細胞、軟骨細胞及びその前駆体細胞、骨細胞及びその前駆体細胞、その他再生医療に用いられる万能細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、細胞株等が含まれる。また同時投与する生理活性物質としては、低分子ヘパリン又はプロタミンとの親和性が高く微粒子に担持されやすい物が好ましい。特に線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子や幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(Tpo)、インターロイキン−3 (IL-3), 顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)等のヘパリン結合性蛋白質が好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)本発明の微粒子細胞担体による浮遊細胞の凝集化促進と細胞生存性の向上
低分子ヘパリンとして、市販のダルテパリンであるフラグミン(商品名)(6.4 mg/ml, 1,000 IU/ml, キッセイ薬品工業株式会社)を使用し、同様に市販のプロタミン(10 mg/ml, 持田製薬株式会社)を容積比7:3となる割合で混合し微粒子分散液を得た。このときの1 mlの微粒子分散液あたりの乾燥微粒子収量は約7mgであった。
【0026】
上記微粒子分散液を、ヒト毛細血管内皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、マウス脂肪組織由来間葉系幹細胞とともに約1時間インキュベーションした。その結果、図1に示すように、本微粒子はヒト毛細血管内皮細胞(A)、ヒト皮膚線維芽細胞(B)、及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞(C)の表面に接合し、1時間以内の培養で細胞凝集体(スフェロイド)を形成した。
【0027】
この細胞凝集体を、10%ウシ胎児血清及び1.4 mg/ml 微粒子を含んだ培地を用いて浮遊培養し、セルカウンティングキット(同仁化学研究所)を用いて生存細胞を定量した。その結果、ヒト皮膚線維芽細胞及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞は1.4 mg/ml 微粒子の存在下、毛細血管内皮細胞は1.4 mg/ml 微粒子と5 ng/ml FGF-2の存在下で、少なくとも3日以上の細胞生存性の延長を認めた(図2)。
【0028】
(実施例2)本発明の微粒子被覆基板表面への各種増殖因子・サイトカインの吸着
各種増殖因子・サイトカイン(FGF-1、FGF-2、HGF、IL-3、GM-CSF、SCF、Tpo、Flt-3)についてプロタミン/フラグミン微粒子コーティング−プラスチックプレートへの吸着性についてELISA法を用いて測定した。1.4 mg/ml 微粒子(図3A)を含んだ燐酸バッファー(PBS)で細胞培養プレートを4℃で24時間静置した後、PBS溶液を除き、乾燥させることでコーティングを行った(図3B)。さらに蛍光標識(Texas Red-X Protein Labeling Kit;Invitrogen Japan K. K., Tokyo, Japan)したプロタミンを用いて同様に微粒子を調製し、コーティングを行った(図3C)。この微粒子は乾燥によりペースト状に変化し、プラスチック等の表面に安定的にコーティングされることがわかった。
【0029】
この48ウェル‐コーティング−プラスチックプレートにそれぞれの8、4、2 ng/mlの増殖因子(FGF-1、FGF-2、HGF、IL-3、GM-CSF、SCF)を含んだ2%FBS含有培地を200μl或いは20、10、5 ng/mlのサイトカイン(Tpo, Flt-3)を含んだ造血系幹細胞培地(HPGM: Hematopoietic Progenitor Growth Medium)を200μl加え、2時間室温で静置することによって各サイトカインを吸着させた。次に使用済み各溶液(200μl)を別のコーティング‐ウェルに入れ2度目の吸着量を定量した(図4)。1度目の吸着量から2度目(使用済溶液)の吸着量を減ずることにより、室温で2時間のインキュベーションにより48ウェル-プレート(ウェル面積:0.78 cm2)当りに吸着される各増殖因子及びサイトカイン量を見積もった。
【0030】
ELISA法は、各増殖因子及びサイトカインを吸着させたプレートにそれぞれの一次抗体を反応させ、さらに洗浄後2次抗体を反応させた。最後にパーオキシダーゼ基質(バイオ・ラッド製)を用いて定量した。200μlの各種増殖因子・サイトカイン(4 ng/ml)溶液をコーティング‐ウェルに加えて室温で2時間インキュベートした時の吸着量は(FGF-1:0.42 ng、FGF-2:0.36 ng、HGF:0.32 ng/ml、IL-3:0.36 ng/ml、GM-CSF:0.36 ng/ml、SCF:0.34 ng/ml、Tpo:0.27 ng/ml、Flt-3:0.32 ng/ml)と見積もられた。
【0031】
(実施例3) 本発明の微粒子被覆基板及び5 ng/ml FGF-2含有2%血清培地を用いたヒト骨髄及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞の増殖促進
微粒子コーティング48ウェル組織培養プレートにヒト骨髄及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞を播種し、5ng/ml FGF-2含有2%血清DMEM培地で5日間培養し、その増殖率をコーティングしない48ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図5)。
【0032】
明らかに微粒子コーティングはFGF-2の存在下、1%の低血清で骨髄及び脂肪組織由来間葉系幹細胞両者の増殖性を大きく促進させた。またデータは示さないが本条件で培養・増殖させた両者の間葉系幹細胞は脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞等に分化誘導されることが確認された。したがって、本微粒子コーティングプレートを用いた間葉系幹細胞の増殖法は、用いる培地の血清低濃度化と増殖促進を可能にする有効な培養法である。
【0033】
(実施例4)本発明の微粒子被覆基板及びIL-3とGM-CSF含有1%血清培地を用いたTF-1細胞株の増殖促進
ヒトTF-1細胞株は通常浮遊培養で増殖するために、5%以上のウシ胎児血清とIL-3及びGM-CSF等の造血系サイトカインを要求する。微粒子コーティング48ウェル組織培養プレートにTF-1細胞株を播種し、5 ng/ml IL-3及び5 ng/mlGM-CSF含有1%血清DMEM培地で5日間浮遊培養し、その増殖率をコーティングしない48ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図6)。
【0034】
明らかに微粒子コーティングはIL-3及びGM-CSFの存在下、1%の低血清でTF-1 細胞の増殖性を大きく促進させた。また、5 ng/ml IL-3及び5 ng/mlGM-CSF含有2%血清DMEM培地でサイトカインを事前に4℃で18 h吸着させた微粒子コーティング48ウェル組織培養プレート上でTF-1細胞は良好な増殖を示し(図7)、微粒子コーティングプレートに吸着したサイトカインは活性型を保っていることが明らかになった。
【0035】
(実施例5)本発明の微粒子被覆基板及び低濃度サイトカイン(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清培地を用いたヒトCD 34-陽性造血系幹細胞の増殖促進
ヒトCD 34-陽性造血系幹細胞は通常浮遊培養で増殖するために、高濃度のサイトカイン(20 ng/ml SCF、40 ng/ml IL-3、40 ng/ml Flt-3)を含んだ造血系幹細胞培地(HPGM)で培養することが必要である。微粒子コーティング24ウェル組織培養プレートにCD 34-陽性造血系幹細胞を播種し、低濃度(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清HPGM培地で6日間浮遊培養し、その増殖率をコーティングしない24ウェル組織培養プレートのコントロールと比較した(図8)。
【0036】
明らかに微粒子コーティングは低濃度サイトカインの存在下、CD 34-陽性造血系幹細胞の増殖性を大きく促進した。さらに、フローサイトメトリーによるCD 34-陽性細胞率の測定の結果を含めて、本微粒子コーティング−プラスチックプレート及び低濃度(SCF (5 ng/ml)、Tpo (10 ng/ml), Flt-3 (10 ng/ml))含有無血清培地を用いたヒトCD 34-陽性造血系幹細胞は、7日間で10倍以上に増殖させることができた。
【0037】
(実施例6)本発明の微粒子細胞担体及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体投与による細胞生着及び血管新生促進
GFP(Green Fluorescent Protein)マウスより採取した脂肪組織由来間葉系幹細胞を増殖させ、500万個の細胞と微粒子(3.5 mg)を1 mlの培地に浮遊させ、1h室温で凝集塊浮遊培養した後、ヌードマウス背部にその200 μlを皮下注射した。そして3、7、10日後に注射部位の蛍光を蛍光顕微鏡により観察したこところ、10日目以降では微粒子を伴う凝集塊溶液を投与した群のみに蛍光が観察され、投与細胞の生存と生着が確認された(図9)。
【0038】
また注射部位の組織の病理写真を基に顕微鏡視野あたりの新生毛細血管数を測定したところ、7日目以降14日にわたって、他の群に比して有意に顕微鏡視野あたりの新生毛細血管数が高いことが明らかになった(図10)。このように本微粒子細胞担体及び脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体投与による細胞生着及び血管新生促進は他のコントロール群に比して微粒子を伴う凝集塊溶液を投与した群のみが有意に高く、脂肪組織由来間葉系幹細胞導入による血管新生療法において本発明の微粒子細胞担体の有効性が確認された。
【0039】
(実施例7)本発明の微粒子細胞担体及び骨髄組織由来細胞の凝集塊の大腿骨移植による血液再生促進
マウス(C57BL/6J; 日本エスエルシー(株)、静岡)に致死量である10G の放射線(放射線照射装置MBR-1505R2 日立メディコ(株))を用いて被爆させ、2時間後骨髄細胞50万個のみ(コントロール群)、等量の骨髄細胞+350μgの微粒子(微粒子群)、及び等量の骨髄細胞+350μgの微粒子+サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(微粒子+サイトカイン群)を含む培地溶液25μlを大腿骨内注射により投与した。本条件で、3群すべてのマウスを骨髄死から救命できた。そして投与後1,2、3、4週間後末梢血の白血球、ヘモグロビン、および血小板の変化を調べ血液再生の評価を行った。
【0040】
図11に示すように、微粒子群及び微粒子+サイトカイン群はコントロール群と同様に、1週間後では白血球等大きく減少するが、2週間後では白血球等の再生促進が観察された。しかし、サイトカインによる付加的な促進活性は認められなかった。この結果は、サイトカインの直接効果というよりも本発明の微粒子細胞担体による浮遊細胞の凝集化促進、細胞生存性の向上、及び細胞生着性の促進によるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の微粒子細胞担体による浮遊ヒト毛細血管内皮細胞の凝集体(A)、ヒト皮膚線維芽細胞の凝集体(B)、脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体(C)の顕微鏡写真である。
【図2】本発明の微粒子細胞担体とヒト毛細血管内皮細胞(A)、ヒト皮膚線維芽細胞(B)又は脂肪組織由来間葉系幹細胞(C)との細胞凝集体の生存期間を示すグラフである。ヒト毛細血管内皮細胞の凝集体はFGF-2含有10% FBS 含有DMEMで、浮遊培養で3日間生存することができた(A)。微粒子とヒト皮膚線維芽細胞の凝集体(B)および脂肪組織由来間葉系幹細胞の凝集体(C)は10% FBS 含有DMEMで(FGF-2非存在下)、浮遊培養で3日間生存することができた。
【図3】本発明の微粒子(A)、プラスチックプレートにコーティングした外観(B)及び蛍光標識(Texas Red-X Protein Labeling Kit)した微粒子をコーティングした外観(C)の顕微鏡写真である。
【図4】各々の1度目の吸着量(○)から2度目の吸着量(□)を減ずることにより、室温で2時間のインキュベーションにより48ウェル-プレート(ウェル面積:0.78 cm2)当りに吸着される各サイトカイン量を見積もったグラフである。微粒子をコーティングしないコントロールプレートへの吸着量は(△)で示した。
【図5】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒト骨髄間葉系幹細胞(A)及びマウス脂肪組織由来間葉系幹細胞(B)を2%FBS及び5 ng/ml FGF-2を含んだDMEMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図6】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒトTF-1細胞株を1%FBS、5 ng/ml IL-3及びGM-CSFを含んだDMEMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図7】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)をそれぞれの濃度のIL-3及びGM-CSFを4℃、18時間静置で吸着させ、そのプレートを培地で3度洗浄し、その洗浄プレート上でヒトTF-1細胞株を1%FBSのみを含んだDMEMで5日間培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図8】微粒子コーティングプレート(●)及びコーティングしないコントロールプレート(○)上でヒトCD34-陽性造血系幹細胞を5 ng/ml SCF, 10 ng/ml Tpo, 10ng/ml Flt-3を含んだ無血清HPGMで培養したときの増殖率を示すグラフである。
【図9】微粒子を含まない脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞単独投与群(上段)と微粒子を含んだ脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞スフェロイド投与群(下段)をヌードマウスの背部に皮下注射した際の、経時的な蛍光実体顕微鏡写真である。
【図10】微粒子と脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞のスフェロイド注射群、脂肪組織由来間葉系GFP発光細胞単独注射群、及び微粒子のみ注射群の注射部位の毛細血管数の経時的変化を示すグラフである。注射部位の病理組織像(H&E染色)を撮影し、その写真から視野当りの毛細血管数をカウントしたデータである。
【図11】マウスに致死量である10Gの放射線を照射して被爆させ、2時間後骨髄細胞50万個のみ(コントロール群;白棒)、等量の骨髄細胞+350μgの微粒子(微粒子群;黒棒)(B)、及び等量の骨髄細胞+350μgの微粒子+サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(微粒子+サイトカイン群;黒棒)、等量の骨髄細胞++サイトカイン(SCF:3.125 ng、Tpo:6.25 ng、Flt-3:6.25 ng)(サイトカイン(+)コントロール群;白棒)(A)を含む培地溶液25μlを大腿骨内注射により投与した場合の白血球(WBC)、ヘモグロビン(Hb)及び血小板(PLT)の変化を示すグラフである。投与後1,2、3、4週間後末梢血の白血球、ヘモグロビン、および血小板の変化を調べ血液再生の評価を行った結果である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が10μm未満の微粒子からなる微粒子細胞担体。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子細胞担体と接着細胞とからなる細胞凝集体。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞凝集体及び任意に生理活性物質を含有する医薬組成物。
【請求項4】
低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が10μm未満の微粒子を含んでなる被覆材。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆材で基板を被覆してなる細胞培養基材。
【請求項1】
低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が10μm未満の微粒子からなる微粒子細胞担体。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子細胞担体と接着細胞とからなる細胞凝集体。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞凝集体及び任意に生理活性物質を含有する医薬組成物。
【請求項4】
低分子ヘパリンとプロタミンとから構成される粒径が10μm未満の微粒子を含んでなる被覆材。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆材で基板を被覆してなる細胞培養基材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−24423(P2011−24423A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147231(P2008−147231)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行者名: 日本創傷治癒学会(会長 嶋田 紘) 刊行物名: 第37回日本創傷治癒学会プログラム・抄録集 発行年月日: 平成19年12月6日 (2)発行者名: 社団法人 防衛衛生協会(会長 芳賀 稔) 刊行物名: 防衛衛生、第55巻 別冊 発行年月日: 平成20年1月20日 (3)発行者名: 日本獣医学会学術集会(大会長 有嶋 和義) 刊行物名: 第145回日本獣医学会学術集会講演要旨抄録集 発行年月日: 平成20年3月7日
【出願人】(508168125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行者名: 日本創傷治癒学会(会長 嶋田 紘) 刊行物名: 第37回日本創傷治癒学会プログラム・抄録集 発行年月日: 平成19年12月6日 (2)発行者名: 社団法人 防衛衛生協会(会長 芳賀 稔) 刊行物名: 防衛衛生、第55巻 別冊 発行年月日: 平成20年1月20日 (3)発行者名: 日本獣医学会学術集会(大会長 有嶋 和義) 刊行物名: 第145回日本獣医学会学術集会講演要旨抄録集 発行年月日: 平成20年3月7日
【出願人】(508168125)
【Fターム(参考)】
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