説明

微粒子製剤のろ過滅菌方法およびろ過滅菌システム

【課題】菌のリークの原因の一つである製剤やフィルターの品質のバラツキに左右されることなく工業化スケールで安定、且つ、効率的に、ろ過滅菌二次側での無菌性保証をすることができる、微粒子製剤のろ過滅菌方法およびろ過滅菌システムを提供することを課題とする。
【解決手段】滅菌フィルターを用いる微粒子製剤のろ過滅菌工程を有し、前記ろ過滅菌工程において、限界流量減少率(YMAX)を設定し、流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、前記流量減少率(Y)は、初期流量(Qinit)に対する、流量減少分の百分率と定義され、前記限界流量減少率(YMAX)は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される、微粒子製剤のろ過滅菌方法およびそのろ過滅菌方法を使用する微粒子製剤のろ過滅菌システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子製剤のろ過滅菌方法および/またはろ過滅菌システムに関する。
【背景技術】
【0002】
注射剤は、注射針を用いて皮内、皮下の組織または血管内等に直接投与する液状または用時溶解して液状にして用いる医薬品の製剤である。
【0003】
注射剤の特徴としては、(1)消化器官を通らないため効果の発現が早く、投与量も少なくてすむ、(2)消化管から吸収されにくいものや消化や代謝を受けることで効果が無くなるものも投与することができる、(3)患者に意識が無くても投与が可能である、等が挙げられる。
【0004】
注射剤は、体内に直接投与するものであるため、まず無菌であることが求められる。注射剤の無菌化の方法(滅菌方法)としては、高圧蒸気滅菌等の加圧加熱滅菌を用いることが一般的である。しかし、熱に不安定な成分を含む注射剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、エマルション製剤等のように、注射液成分の分解・変性、粒子の凝集、粒子に含有された薬物のリークなどの問題から、加圧加熱滅菌を適用することができない製剤も数多く存在する。そこで、これら加圧加熱滅菌を適用することができない製剤を無菌化する方法の一つとして、ろ過滅菌フィルターを用いて注射液をろ過する、ろ過滅菌法がある。この滅菌方法は、製剤に熱をかけずに無菌化するので、製剤を、安定な状態のまま無菌化することができる(非特許文献1)。
【0005】
注射剤の製造工程におけるろ過滅菌工程では、定圧ろ過が行われるが、そのプロセス管理として、圧力、温度、ろ過時間、フィルター(ろ過膜)面積およびろ過量をパラメータとして、それぞれ、設定範囲内で行うことが求められている(非特許文献2)。
【0006】
ろ過滅菌工程のプロセスバリデーションにおけるフィルターバリデーションでは、ろ過条件をシミュレートして行うバクテリアチャレンジ試験が重要なステップである。ところが、近年の事例として、脂肪乳剤やリポソーム製剤等の微粒子製剤にて、バクテリアチャレンジ試験で菌がリークすることが報告されている。その結果、無菌操作による製造や、ろ過滅菌工程の前工程での無菌化処理や、ろ過滅菌フィルターの追加など、煩雑な対応が必要となり、製造工程の複雑化や、コストの上昇を招く場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】厚生省薬務局監視指導課(監修),GMPテクニカルレポート6「注射剤製造工程のバリデーション」,薬業時報社,平成6年7月.
【非特許文献2】PDA Technical Report 26 (TR26),Revised 2008,「Sterilizing Filtration of Liquids」,PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology,米国,Parenteral Drug Association(PDA),2008年,第62巻,第S−5号.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、菌のリークの原因の一つである製剤やフィルターの品質のバラツキに左右されることなく工業化スケールで安定、且つ、効率的に、ろ過滅菌二次側での無菌性保証をすることができる、微粒子製剤のろ過滅菌方法および濾過滅菌システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、滅菌フィルターを用いる微粒子製剤のろ過滅菌工程において、プロセス管理のパラメータとして流量減少率を新たに導入し、流量減少率が限界流量減少率以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行うと、菌のリークの原因の一つである製剤やフィルターの品質のバラツキに左右されることなく、工業化スケールで安定、且つ、効率的に、ろ過滅菌二次側での無菌性保証をすることができる微粒子製剤のろ過滅菌方法および濾過滅菌システムを提供することができることを知得し、本発明を完成させた。
ただし、上記流量減少率は、ろ過開始時の流量(「初期流量」ともいう。)に対する、流量減少分の百分率と定義され、上記限界流量減少率は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に掲げる(1)〜(14)を提供する。
(1)滅菌フィルターを用いる微粒子製剤のろ過滅菌工程を有し、
前記ろ過滅菌工程において、
限界流量減少率(YMAX)を設定し、
流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記流量減少率(Y)は、初期流量(Qinit)に対する、流量減少分の百分率と定義され、
前記限界流量減少率(YMAX)は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される、微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(2)前記ろ過滅菌工程において、
ろ過時間(t)およびろ過量(V)をモニタリングし、
設定された前記限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止ろ過量(VSTOP)を算出し、
前記ろ過量(V)が前記停止ろ過量(VSTOP)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記停止ろ過量(VSTOP)は、前記流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)となる時のろ過量と定義される、上記(1)に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(3)前記停止ろ過量(VSTOP)が、下記式(i)〜(iii)に基づいて算出される、上記(2)に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法:
STOP=Vmax×XSTOP ・・・(i)
MAX=−0.01XSTOP+1.9934XSTOP+0.5137 ・・・(ii)
Vmax=1/a ・・・(iii)
ここで、(Vmax)は、前記微粒子製剤と前記滅菌フィルターとの組合せで得られる最大ろ過量であり、
aは、tとt/Vとの関係を下記式
t/V=at+b
[ただし、a,bは定数である。]
に一次近似したときの定数aである。
(4)前記ろ過滅菌工程において、
流量(Q)をモニタリングし、
設定された前記限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止流量(QSTOP)を算出し、
前記流量(Q)が前記停止流量(QSTOP)以下となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記停止流量(QSTOP)は、前記流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)となる時の流量と定義される、上記(1)に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(5)前記停止流量(QSTOP)が、下記式(iv)に基づいて算出される、上記(4)に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法:
STOP=Qinit×(1−YMAX/100) ・・・(iv)
ここで、Qinitは初期流量である。
(6)前記許容値が、対数減少率(LRV)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(7)tとt/Vとの間の相関係数Rが、R≧0.90である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(8)定圧でろ過される、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(9)前記微粒子製剤が脂質粒子である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(10)前記微粒子製剤が、脂肪乳剤、リポソーム製剤、エマルション製剤およびミセル製剤からなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(11)前記微粒子製剤が、平均粒子径50〜200nm、ゼータ電位−50〜+50mV、pH5〜9および浸透圧200〜400mOsmを満たす、上記(9)または(10)に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(12)前記滅菌フィルターのろ過膜の材質が、セルロース系、ナイロン系、親水性ポリエーテルスルホン、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)および親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)からなる群から選択されるいずれか1つである、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに記載のろ過滅菌方法を使用する微粒子製剤のろ過滅菌システム。
(14)微粒子製剤を調製する微粒子調製工程と、調製された微粒子製剤をろ過滅菌する、上記(1)〜(12)のいずれかに記載のろ過滅菌方法におけるろ過滅菌工程と、を有する微粒子製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、菌のリークの原因の一つである製剤やフィルターの品質のバラツキに左右されることなく工業化スケールで安定、且つ、効率的に、ろ過滅菌二次側での無菌性保証をすることができる、微粒子製剤のろ過滅菌方法およびろ過滅菌システムを提供することができる。
【0012】
さらに、本発明によれば、微粒子製剤のろ過滅菌工程において、滅菌フィルターの菌の捕捉能力が低下することを防ぐろ過滅菌方法を提供することができる。
これにより、ろ過滅菌による菌の捕捉能力を確保し、医薬品製造における品質管理を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明のろ過滅菌システムの実施態様を表す構成図である
【図2】図2は図1のシステム構成図の運転方法を示したチャートである。
【図3】図3はろ過滅菌システムの別の実施態様を表すシステム構成図である。
【図4】図4は図3のシステム構成図の運転方法を示したチャートである。
【図5】図5は流量減少率(%)とフィルターによるLRVとの関係を表すグラフである。
【図6】図6はtとt/Vとの関係を表すグラフである。ただし、tはろ過時間を、Vはろ過量を意味する。
【図7】図7はtとt/Vとの関係を表すグラフである。ただし、tはろ過時間(sec)を、Vはろ過量(kg)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の微粒子製剤のろ過滅菌方法(以下「本発明の方法」という場合がある。)は、「滅菌フィルターを用いる微粒子製剤のろ過滅菌工程を有し、前記ろ過滅菌工程において、限界流量減少率(YMAX)を設定し、流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、前記流量減少率(Y)は、初期流量(Qinit)に対する、流量減少分の百分率と定義され、前記限界流量減少率(YMAX)は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される、微粒子製剤のろ過滅菌方法」である。
以下、本発明の方法について詳細に説明する。
【0015】
菌のリークに関するメカニズムは明らかになってはいないが、脂肪乳剤やリポソーム製剤は、その滅菌プロセスにおいて目詰まりが起こるケースが多いことから、本発明者らは、フィルターの目詰まりが菌のリークの原因になっているものと推定し、本発明を完成させるに至った。ただし、原因はこれのみに限定されるものではない。
【0016】
フィルターでの目詰まりは一般的に3種類のメカニズムによって説明される。すなわち、(1)完全閉塞、(2)標準閉塞および(3)ケーキろ過の3モデルである。
【0017】
注射製剤のろ過滅菌の場合には、ろ材を直径と長さが一様な平行毛細管の集合とみなし、粒子が毛細管の中に入ってその内壁に捕捉され、その結果、ろ過の進行とともに毛細管の半径が減少すると仮定した目詰まりモデルである標準閉塞モデルが最も一般的な目詰まりメカニズムである(小杉公彦,「Vmax試験 フィルターの選定および最適化方法」,バイオプロセス・テクニカルシート 基礎技術No.2,日本ミリポア,平成9年8月.)。
【0018】
標準閉塞の場合は以下の関係式(理論式)が成り立つことが知られている。
t/V=(Ks/2)t+1/Qinit (式1)
ここで、t:ろ過時間
Ks:標準閉塞における係数(処理液によって異なる)
V:ろ過量(総処理量)
init:ろ過開始時の流量(初期流量)
である。
【0019】
したがって、標準閉塞の場合には、一定圧力下で一定時間(例えば、1分)毎にろ過処理量(V)を測定するろ過実験を行い、その結果を横軸に時間(t)、縦軸にt/Vをとってグラフにプロットすると、このグラフは直線となる。すなわち、tとt/Vとの相関係数R(−1≦R≦1)は、R=1となる。
【0020】
ろ過が標準閉塞モデルに従っている場合には、例えば、10分程度のろ過実験の結果より得られる、次の実験式(式2)におけるaおよびbを求めることによりさまざまなろ過に関する情報が得られる。
t/V=at+b (式2)
【0021】
まず、理論式(式1)の1/Qinitは実験式(式2)のb(y切片)であるため、初期流量(Qinit)は次のようになる。
init=1/b (式3)
【0022】
また、式2は次のように表すことができる。
V=t/(at+b) (式4)
t=b/(1/V−a) (式5)
式4から、任意の時間におけるろ過量を、式5から、バッチ量を処理するまでの時間を、それぞれ、計算できる。
【0023】
また、このろ過において最大限得られる処理量(Vmax)は、式4においてtを無限大とした場合の近似式
Vmax=1/a(式6)
で表され、傾きaの逆数がVmaxとなる。
【0024】
さらに、任意の時間における流量(Q)は、Vをtで微分して、
Q=b/(at+b) (式7)
となる。
【0025】
さらに、流量減少率(Y)(%)とフィルター使用率(X)(%)の関係は、例えば、流量減少率(%)が10,25,50,75,80,90,95,100のとき、フィルター使用率(%)は順に5,13,29,50,55,68,78,100となっており、(小杉公彦,「Vmax試験 フィルターの選定および最適化方法」,バイオプロセス・テクニカルシート 基礎技術No.2,日本ミリポア,平成9年8月.より引用)、この関係から近似式導くことができる。一例として、該近似式はフィルター使用率(%)をX、流量減少率(%)とした場合、
Y=−0.01X+1.9934X+0.5137 (式8)
と表すことができる。
【0026】
ある時点の流量減少率(Y)は、初期流量(Qinit)に対する、その時点の流量減少分(Qinit−Q)の百分率と定義される(Qは当該ある時点の流量を表す)。
Y=100×(Qinit−Q)/Qinit (式9)
初期流量(Qinit)およびある時点の流量(Q)を求める方法は特に限定されず、例えば、ろ過量(V)およびろ過時間(t)をモニタリングして、上記式3および7によって求めてもよいし、流量計により流量(Q)をモニタリングして、初期流量(Qinit)および流量(Q)から、
Y=100×(Qinit−Q)/Qinit (式10)
によって求めてもよい。
【0027】
限界流量減少率(YMAX)は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される。
上記許容値は、特に限定されないが、下記式11で計算される、対数減少値(Log Reduction Value)を用いることが好ましい。
LRV=log10(一次側菌数/二次側菌数) (式11)
LRVは、フィルターの微生物捕捉効率についての数値的表現であり、ろ過後の液中の菌数とチャレンジ菌数の割合を常用対数で表したものである。LRVが高い方が捕捉率が高く、例えば、LRV=7は99.99999%の捕捉率を意味する。本発明において菌捕捉率の許容値は特に限定されるものではないが、LRV7以上を許容値とすることが好ましい。
【0028】
本発明一つの実施態様は、ろ過時間(t)およびろ過量(V)をモニタリングし、設定された限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止ろ過量(VSTOP)を算出し、ろ過量(V)が停止ろ過量(VSTOP)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行う方法である。
【0029】
前記停止ろ過量(VSTOP)は、定数であり、下記式(i)〜(iii)に基づいて算出されることが好ましい:
STOP=Vmax×XSTOP ・・・(i)
MAX=−0.01XSTOP+1.9934XSTOP+0.5137 ・・・(ii)
Vmax=1/a ・・・(iii)
ここで、(Vmax)は、前記微粒子製剤と前記滅菌フィルターとの組合せで得られる最大ろ過量であり、
aは、tとt/Vとの関係を下記式
t/V=at+b
[ただし、a,bは定数である。]
に一次近似したときの定数aである。
【0030】
また、本発明の方法では、ろ過時間(t)およびろ過量(V)をモニタリングし、ろ過時間(t)およびろ過量(V)に基づいて、その時の流量減少率(Y)をリアルタイムで算出し、その値が設定された限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行ってもよい。
【0031】
上記流量減少率(Y)は、ろ過時間(t)の関数であり、下記式に基づいて算出されることが好ましい:
Y=100×(Qinit−Q)/Qinit
init=1/b
Q=b/(at+b)
ここで、a,bは、tとt/Vとの関係を下記式
t/V=at+b
[ただし、a,bは定数である。]
に一次近似したときの定数a,bである。
【0032】
また、本発明別の実施態様は、流量計により直接流量(Q)をモニタリングし、設定された限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止流量(QSTOP)を算出し、流量(Q)が停止流量(QSTOP)以下となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行う方法である。
【0033】
前記停止流量(QSTOP)は、定数であり、下記式(iv)に基づいて算出されることが好ましい:
STOP=Qinit×(1−YMAX/100) ・・・(iv)
ここで、Qinitは初期流量である。
初期流量(Qinit)は、最大流量(QMAX)でもある。
【0034】
また、本発明の方法では、流量(Q)をモニタリングし、流量(Q)に基づいてその時の流量減少率(Y)をリアルタイムで算出し、その値が設定された限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行ってもよい。
【0035】
前記流量減少率(Y)は、流量(Q)の関数であり、下記式に基づいて算出されることが好ましい:
Y=100×(Qinit−Q)/Qinit
【0036】
本発明の方法では、ろ過時間(t)およびろ過量(V)をモニタリングしたとき、tとt/Vとの間の相関係数R(−1≦R≦1)は、R≧0.90が好ましく、R≧0.95がより好ましく、R≧0.99がさらに好ましい。
【0037】
本発明の方法では、定圧でろ過を行う。
【0038】
微粒子製剤(以下、微粒子製剤液ということもある)は、その種類は、特に限定されないが、微粒子として脂質粒子を含有する製剤は、本発明の効果がより顕著に発現されることから好ましい。特に、脂肪乳剤、リポソーム製剤、エマルション製剤およびミセル製剤からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
また、微粒子製剤に含有される微粒子は、その平均粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径50〜200nm、ゼータ電位−50〜+50mV、pH5〜9および浸透圧200〜400mOsmを満たすことが好ましい。
【0039】
滅菌フィルターは、そのろ材(ろ過膜)の材質は、特に限定されないがセルロース系、ナイロン系、親水性ポリエーテルスルホン、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、および親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)からなる群から選択されるいずれか1つが好ましい。
【0040】
また、滅菌フィルターは、そのろ過膜の孔径は、菌を除去するために十分な従来公知の孔径であれば特に限定されないが、この点から通常0.22μm以下とすることが好ましく、また下限はろ過効率に基づいて設定され、例えば、0.22μm、0.2μm、0.1μm等から選択することができる。
【0041】
さらに、滅菌フィルターは、プレフィルターと組み合わせて使用してもよく、そのろ過膜の材質は、セルロース系、ナイロン系、親水性ポリエーテルスルホン、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリプロピレン、および親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)からなる群から選択されるいずれか1つが好ましく、その孔径は、滅菌フィルターの孔径以上であれば特に限定されず、例えば、1.2μm、0.8μm、0.45μm、0.35μm、0.2μm等から選択することができる。
【0042】
本発明は、また、上記ろ過滅菌方法を使用する微粒子製剤のろ過滅菌システムを提供する。
図1は、本発明のろ過滅菌システム構成図の一例である。
ろ過滅菌システム10は、加圧タンク1から回収容器7まででラインが構成されている。滅菌フィルター4a〜4cの1次側および2次側には、自動バルブ3a〜3cおよび5a〜5cがある。図1では、滅菌フィルターが3本並列されている態様を示したが、滅菌フィルターの本数は特に限定されない。
回収容器7は、天秤8によって重量を測定する。
制御部9は、予め、計算に必要となる条件をインプットできるようになっており、ろ過開始後に天秤8の重量およびろ過時間が読み込まれる。
制御部9は、リアルタイムにろ過特性について計算し、その結果を反映して自動バルブの開閉制御をすることができる。
【0043】
図2は、図1のシステム構成図の運転方法をチャートに示したものである。
ステップS1では、目標とする限界流量減少率(%)を入力する。また、制御部9では、計算条件として、プロットを開始する時間、プロットの間隔(時間)、Vmax算出開始時間、相関係数の閾値を入力する。ただし、相関係数の閾値の入力が無しの場合は、Vmax算出時間における値がVmaxとなる。
【0044】
ステップS2では、加圧タンク1が一定圧になったことを確認し、フィルター1本ずつ、バルブを開閉制御しろ過をする。ろ過開始は自動バルブ3a,5aが開き、滅菌フィルター4aを微粒子製剤液が通過し、天秤8にろ過された微粒子製剤液の回収が開始した時点となる。
【0045】
ステップS3では、制御部9で時間およびろ過量の読み込みが行われ、Vmax算出開始時間よりVmaxおよび相関係数の算出が行われる。
次に、設定した相関係数の閾値以上になったところで、目標の流量減少率における停止ろ過量を算出する。相関係数の閾値を設けない場合は、Vmax算出時間になったところで、停止ろ過量を算出する。
【0046】
ステップS4では、制御部9からの停止ろ過量になる時点で、自動バルブ3a,5aが閉じ、1本の滅菌フィルターでのろ過が終了する。工程設定フィルターが1本の場合、ろ過は終了する。
また、2本以上をろ過する場合は、直ちに自動バルブ3b,5bが開放し、ステップS2からステップS4の操作を繰り返す。
【0047】
ステップS3では、ステップS1にて入力された、目的とする限界流量減少率(%)、プロットを開始する時間、プロットの間隔(時間)、Vmax算出開始時間、相関係数(閾値)にて停止ろ過重量の計算をする。まず、プロットを開始する時間よりプロットの開始1ポイント目が始まり、横軸にt(時間)、縦軸にt/V(時間/ろ過量)がプロットされる。以降、プロットの間隔(時間)毎にプロットされる。
Vmax算出開始時間よりt−t/V関数の傾きa、切片b、相関係数Rが算出され、Vmax(1/a)が算出される。ここで、相関係数がステップS1にて入力した閾値以上の場合は、停止ろ過量が算出される。閾値以下の場合は次のプロットにて同様の判定をする。
【0048】
停止ろ過量の算出はVmax×(フィルター使用率)(%)から算出されるが、ここで、フィルター使用率(%)は、限界流量減少率(%)から下記近似式(式8)により予め求めることができる。
Y=−0.01X+1.9934X+0.5137 (式8)
【0049】
図3は、本発明のろ過滅菌システムのシステム構成図の別の一例である。
ろ過滅菌システム10は加圧タンク1から回収容器7までラインが構成されている。滅菌フィルター4a〜4cの1次側、および2次側には自動バルブ3a〜3c、5a〜5cがある。滅菌フィルターが3本並列されている態様を示したが、滅菌フィルターの本数は1本以上であれば特に限定されず、2本以上の複数本であってもよい。
2次側バルブ5a〜5cの先には流量計6が設置してあり、ろ過流量を測定する。回収容器7は天秤8によって重量測定する。
制御部9では予め、限界流量減少率(%)、および処理する微粒子製剤液量(kg)を入力できるようになっており、リアルタイムにろ過流量を読み込み、その結果を反映して自動バルブを開閉制御することができる。
【0050】
図4は、図3のシステム構成図の運転方法をチャートに示したものである。
ステップS5では目的とする限界流量減少率(%)を入力する。
ステップS6では加圧タンク1が一定圧になったことを確認し、フィルター1本ずつ、バルブを開閉制御し、ろ過をするが、滅菌フィルター4aを微粒子製剤液が通過し、流量計6に微粒子製剤液が到達した時点が開始となる。
ステップS7では、制御部9で流量計6のろ過流量の読み込みが行われ、最大流量を認識する。
ステップS8では限界流量減少率における停止流量を算出する。
ステップS9では停止流量になる時点で、制御部9よりフィードバックされ自動バルブ3a,5aが閉じ、1本のフィルターろ過が終了する。
工程設定フィルターが1本の場合、ろ過は終了する。
複数本をろ過する場合は、直ちに自動バルブ3b,5bが開放し、ステップS6からステップS9の操作を繰り返す。
ステップS8で停止流量は(最大流量)×{1−(限界流量減少率)}によって算出される。
本発明のろ過をする微粒子製剤が標準閉塞のろ過モデルとなることが条件となるため、予め、このモデルに相当する微粒子製剤であるかどうか、ろ過特性試験で実証しておくことが必要となる。
本発明を実施するに当たり、流量減少率(%)と菌の捕捉率を表す指標であるLRV(Log Reduction Value)の関係が明らかになっており、設定する流量減少率を定めることができるようになっていることが前提となる。
【0051】
なお、目詰まりによって起こる菌のすり抜けはフィルターのロットや微粒子製剤液のロットにより異なる可能性がある。現在、フィルターのロット差はバクテリアチャレンジ試験にて、完全性試験のバブルポイント値が低いロットを用い、ワーストケースを想定することで、バリデートをすることが一般的である。また微粒子製剤液のロット差の保証は、各開発機関がそれぞれの考えに基づき実施している。
従って、フィルターのロット差と微粒子製剤液のロット差による菌のすり抜けを同時に制御するろ過滅菌のシステムおよび運転方法として公知のものはない。
【0052】
本発明はさらに、微粒子製剤を調製する微粒子調製工程と、調製された微粒子製剤をろ過滅菌する、上記したろ過滅菌方法におけるろ過滅菌工程と、を有する微粒子製剤の製造方法を提供する。
微粒子調製工程は、特に限定されず、例えば、従来公知の微粒子調製工程を選択し、本発明に係るろ過滅菌工程と組み合わせることができる。
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
(1)ろ過滅菌時のろ過特性が異なるHSPC(水素添加ホスファチジルコリン)、コレステロール、カチオン化脂質(3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(合成方法は国際公開第97/42166号パンフレットの記載に準拠)からなるリポソーム粒子にリン酸プレドニゾロンを内封したリポソーム製剤(外水相はリン酸溶液)を2種類調製した。
【0055】
(2)ろ過時間が長い製剤を検体1、短い製剤を検体2とし、ろ過時の膜材質、処理膜面積、処理量、温度、圧力を同条件としたとき、検体1がLRV=5.2、検体2がLRV>7.4となった。
検体1ではフィルターろ過が目詰まりしたため、菌のすり抜けが起こり、検体2ではフィルター目詰まりの程度が小さいため、菌が全て捕捉されと推察される。
この事例から、ろ過時のフィルター目詰まり程度とLRVに関係性に注目した。
そこで、目詰まりを表すパラメータとして流量減少率(%)を選択し、本実施例にて菌の捕捉能力が変化する(低下する)ことを防ぐことにした。
【0056】
本実施例では、時間とろ過量の変化から、ろ過特性をリアルタイムに捉え、ろ過時の流量減少率を計算し、予め設定された許容値内に流量を制御する。これにより、ろ過滅菌における菌の捕捉能力の低下を防ぐことが目的である。ただし、このシステムを運転するには、微粒子製剤液が標準閉塞のろ過モデルとなること、微粒子製剤液の流量減少率(%)とLRVの関係を明らかにし、設定する流量減少率(%)を決めることが必要となる。そこで、以下に示すリポソーム製剤を調製し、予め、ろ過モデルが標準閉塞であることの確認と、流量減少率(%)とLRVの関係を明らかにし、限界流量減少率(%)の決定を行った。
【0057】
調製した製剤はHSPC、コレステロール、カチオン化脂質からなるリン酸プレドニゾロンを内封したリポソーム製剤(外水相はリン酸溶液)である。本検討で調製したリポソーム製剤a〜eの物性を表1に示す。これらリポソーム製剤について、ろ過試験を実施し、横軸にt(時間)、縦軸にt/V((時間)/(ろ過量)をとり、プロットしたところ、図6に示すような直線関係となった。これから、標準閉塞のろ過モデルであることが分かった。直線性を表す指標として相関係数Rを用い、これを算出すると、リポソーム製剤a〜eのRはいずれもR≧0.99となった。
【0058】
【表1】

【0059】
次に、流量減少率(%)とLRVの関係を明らかにするため、バクテリアチャレンジ試験にてリポソーム製剤a〜eのLRVを算出した。
指標菌としてBrevundimonas diminuta ATCC 19146を1×10cfu/cm以上加え、試料溶液を調製した。調製した試料溶液をろ過滅菌フィルターに通過させ、ろ過流量を計測した後に、流量減少率(%)を算出し、菌の捕捉率を算出するため通過菌の測定を実施した。
その結果、流量減少率(%)とフィルターによるLRVとの関係は図5のようになった。図5中、a〜eは、それぞれ、製剤a〜eに対応する。この結果から、流量減少率75%前後まではLRV=7付近で保持されていることが推定され、また、流量減少率100%に近くづくにつれLRVが低下し、6以下となることが推定された。
従って、LRVの低下(菌のすり抜け)が起こらない効果的なろ過を実施するため、ろ過システムに入力する限界流量減少率(%)を70%に決定した。
【0060】
以降、図1、図2を用い、ろ過システムの運転方法の実施例について示す。
まず、ろ過滅菌用フィルター10インチ(膜面積0.6m)3本を4a,4b,4cに設置し、処理する微粒子製剤液重量を50kgとする。
ステップS1として、限界流量減少率を70%、プロット開始時間を10秒後、プロットの間隔を10秒、Vmax算出開始時間を50秒後、相関係数を0.995と入力する。ステップ2として加圧タンクを一定圧にし、自動バルブ制御にて3a,5aを開き、滅菌フィルター4aを微粒子製剤液が通過し、天秤8にろ過された微粒子製剤液重量が表示された時点をろ過開始として、時間計測を開始する。
【0061】
ろ過プロット開始から10,20,30,40,50秒後で3.168,5.808,8.184,10.296,12.144kgと推移したとすると、図7に示すプロットとなり、傾きa=0.02363、Vmax(=1/a)は42.3kgと算出される。
ここで近似式Y=−0.01X+1.9934X+0.5137を用い、流量減少率70%のときの、フィルター使用率が45%であることから、流量減少率70%のときの、停止ろ過量はVmax×(フィルター使用率)で算出され、19.0kgとなる(ステップS3)。
【0062】
天秤8の重量が19.0kgに到達した時点でステップS4となり、自動バルブ3a,5aが閉じ、1本目のフィルターろ過が終了する。
次に自動バルブ3b,5bが開き、2本目の滅菌フィルター4bに進み、ステップS2からステップS4を繰り返す。このとき、2本目からのろ過プロットの重量は自動バルブ3b,5bが開き天秤8の重量増加分をプロットする。1本目と同様にろ過プロットおよび算出を行い、2本目での停止ろ過量が18.0kgと算出されたとすると、天秤8の重量が37.0kgになった時点で自動バルブ3b,5bが閉じ、2本目のろ過が終了する。
【0063】
次に自動バルブ3c,5cが開き、3本目の滅菌フィルター4cに進み、2本目同様にステップS2からステップS4を繰り返す。このときも3本目からのろ過プロットの重量は自動バルブ3c,5cが開き天秤8の重量増加分をプロットする。
3本目の停止ろ過量が18.5kgと算出されたとすると、最大18.5kgをろ過できるが、この場合、3本目にて13.0kgのろ過が達成されると、目的とする微粒子製剤液ろ過量50kgに到達するため、13.0kgのろ過が達成された時点でろ過終了となる。
【0064】
このようにろ過量を制御することで、菌の捕捉能力を安定に保持したろ過滅菌が可能となる。流量減少率(%)の設定を行わなかった場合、すなわち、従来の方法で、成り行きでろ過を行った場合、適切な流量制御が出来ず、菌の捕捉率の低下を招く恐れがある。
【実施例2】
【0065】
本実施例では、流量計による流量測定により、ろ過流量減少率を計算し、予め設定された許容値内に流量を制御する。これにより、ろ過滅菌における菌の捕捉能力の低下を防ぐことが目的である。このシステムを運転するために、予め、表1のa〜eのリポソーム製剤を用い、標準閉塞のろ過モデルになることと、流量減少率(%)の入力を70%に決定した。
以降、図3、図4に示した方法にて実施例を示す。
【0066】
ろ過滅菌用フィルター10インチ(膜面積0.6m)3本を4a,4b,4cに設置し、処理する微粒子製剤液重量を50kgとする。ステップS5として、限界流量減少率70%を入力する。ステップS6として加圧タンクを一定圧にし、自動バルブ制御にて3a,5aを開き、滅菌フィルター4aを微粒子製剤液が通過し、流量計6に微粒子製剤液が到達した時点を開始として、流量測定を開始する。
【0067】
ステップS7として、制御部9で流量計6のろ過流量の読み込みが行われ、最大流量が19kg/minとなったとすると、ステップS8で限界流量減少率70%のときの流量を5.7kg/minと算出する。ステップS9としてろ過流量が5.7kg/minに到達した時点で自動バルブ3a,5aが閉じ、1本目のフィルターろ過が終了し、1本目のろ過量は天秤8にて19kgとなったとする。
次に自動バルブ3b,5bが開き、2本目の滅菌フィルター4bに進み、ステップS6からステップS9を繰り返す。
【0068】
2本目のろ過として自動バルブ3b,5bが開き、流量測定を再開する。最大流量が18kg/minになったとすると、ステップS8で限界流量減少率70%のときの流量を5.4kg/minと算出する。ステップS9として流量が5.4kg/minに到達した時点で自動バルブ3b,5bが閉じ、2本目のフィルターろ過が終了し、2本目のろ過量は18kgとなり、天秤8にて計37kgとなったとする。
次に自動バルブ3c,5cが開き、3本目の滅菌フィルター4cに進み、ステップS6からステップS9を繰り返す。
【0069】
3本目のろ過として自動バルブ3c,5cが開き、流量測定を再開する。最大流量が18.5kg/minになったとすると、ステップS8で限界流量減少率70%のときの流量を5.6kg/minと算出する。
【0070】
ステップS9では3本目のろ過量が約13kgとなり、総ろ過量約50kgに達したとき流量が急激に低下し、流量計6が流量5.6kg/minをモニタリングした時点で自動バルブ3c,5cが閉じ、3本目のフィルターろ過が終了する。
【0071】
このようにろ過量を制御することで、菌の捕捉能力を安定に保持したろ過滅菌が可能となる。流量減少率(%)の設定を行わなかった場合、すなわち、従来の方法で、成り行きでろ過を行った場合、適切な流量制御が出来ず、菌の捕捉率の低下を招く恐れがある。
【符号の説明】
【0072】
1 加圧タンク
2 微粒子製剤液
3a〜3c,5a〜5c 自動バルブ
4a〜4c 滅菌フィルター
6 流量計
7 回収溶器
8 天秤またはロードセル
9 制御部(流量減少率算出手段、バルブ切替手段)
10 ろ過滅菌システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌フィルターを用いる微粒子製剤のろ過滅菌工程を有し、
前記ろ過滅菌工程において、
限界流量減少率(YMAX)を設定し、
流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記流量減少率(Y)は、初期流量(Qinit)に対する、流量減少分の百分率と定義され、
前記限界流量減少率(YMAX)は、滅菌フィルターの菌捕捉率が許容値以下となる時の流量減少率と定義される、微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項2】
前記ろ過滅菌工程において、
ろ過時間(t)およびろ過量(V)をモニタリングし、
設定された前記限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止ろ過量(VSTOP)を算出し、
前記ろ過量(V)が前記停止ろ過量(VSTOP)以上となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記停止ろ過量(VSTOP)は、前記流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)となる時のろ過量と定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記停止ろ過量(VSTOP)が、下記式(i)〜(iii)に基づいて算出される、請求項2に記載の方法:
STOP=Vmax×XSTOP ・・・(i)
MAX=−0.01XSTOP+1.9934XSTOP+0.5137 ・・・(ii)
Vmax=1/a ・・・(iii)
ここで、(Vmax)は、前記微粒子製剤と前記滅菌フィルターとの組合せで得られる最大ろ過量であり、
aは、tとt/Vとの関係を下記式
t/V=at+b
[ただし、a,bは定数である。]
に一次近似したときの定数aである。
【請求項4】
前記ろ過滅菌工程において、
流量(Q)をモニタリングし、
設定された前記限界流量減少率(YMAX)に基づいて、停止流量(QSTOP)を算出し、
前記流量(Q)が前記停止流量(QSTOP)以下となる前に、滅菌フィルターを交換してろ過滅菌工程を継続、またはろ過滅菌工程を中断もしくは終了する制御を行い、
前記停止流量(QSTOP)は、前記流量減少率(Y)が前記限界流量減少率(YMAX)となる時の流量と定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記停止流量(QSTOP)が、下記式(v)に基づいて算出される、請求項4に記載の方法:
STOP=Qinit×(1−YMAX/100) ・・・(iv)
ここで、Qinitは初期流量である。
【請求項6】
前記許容値が、対数減少率(LRV)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
tとt/Vとの間の相関係数Rが、R≧0.90である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
定圧でろ過される、請求項1〜7のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項9】
前記微粒子製剤が脂質粒子である、請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項10】
前記微粒子製剤が、脂肪乳剤、リポソーム製剤、エマルション製剤およびミセル製剤からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項11】
前記微粒子製剤が、平均粒子径50〜200nm、ゼータ電位−50〜+50mV、pH5〜9および浸透圧200〜400mOsmを満たす、請求項9または10に記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項12】
前記滅菌フィルターのろ過膜の材質が、セルロース系、ナイロン系、親水性ポリエーテルスルホン、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)および親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項1〜11のいずれかに記載の微粒子製剤のろ過滅菌方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のろ過滅菌方法を使用する微粒子製剤のろ過滅菌システム。
【請求項14】
微粒子製剤を調製する微粒子調製工程と、調製された微粒子製剤をろ過滅菌する、請求項1〜12のいずれかに記載のろ過滅菌方法におけるろ過滅菌工程と、を有する微粒子製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−206988(P2012−206988A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74480(P2011−74480)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】