説明

微粒子配向装置及び微粒子配向方法

【課題】微粒子を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる微粒子配向装置及び微粒子配向方法を提供する。
【解決手段】微粒子配向装置1は、磁場発生部12と、微粒子を懸濁させた試料容器2を、回転磁場を形成するのに必要な速度で前記磁場発生部12に対して相対回転させる駆動部13と、前記試料容器2が180度回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間tの間、前記相対回転を一時的に略停止させるように前記駆動部13を駆動制御する制御部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間的に変動する磁場を印加することによって試料中に懸濁した微粒子を三次元配向させる微粒子配向装置及び微粒子配向方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の結晶構造を解析するものとして、X線構造解析が知られている。このX線構造解析は、通常100μm程度以上の単結晶又は微結晶粉末を用いて行う。近年、試料中に懸濁した微結晶粒子(以下、単に「微粒子」という)を三次元配向させ、擬単結晶化した状態で解析を行う方法が開発されている。
この方法に関しては、従来、相互に直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる微粒子を三次元配向させるものとして、前記微粒子を懸濁させた試料に、時間的に変動する磁場を印加することによって微粒子を三次元配向させる微粒子配向装置が知られている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1参照)。
【0003】
前記時間的に変動する磁場は、例えば非特許文献1に示すように、xy平面上に発生させた磁場において、xy平面に対して垂直なz軸回りに試料を90度毎に角速度を変化させながら回転させることによって形成される。前記角速度は、x軸を通過する90度の範囲内では低く、y軸を通過する90度の範囲内では高く設定されている。これにより、試料が低速回転するx軸付近では静磁場が形成されるとともに、高速回転するy軸付近では回転磁場が形成されるため、静磁場では微粒子の磁化容易軸をx軸方向に配向し、回転磁場では微粒子の磁化困難軸をz軸方向に配向することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−039699号公報
【特許文献2】特開2006−057055号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】木村恒久、「強磁場を用いた微結晶粉末の配向制御−回折法,分光法への応用−」、「日本中性子科学会誌」、2007年 VOL17 No1 55〜58頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の前記微粒子配向装置にあっては、試料を90度の広範囲に亘って低速回転させながら静磁場を形成しているため、静磁場において微粒子の磁界容易軸を配向させているときに、その直前の回転磁場で配向させた磁化困難軸が揺らいで、磁化困難軸の配向が乱れるという問題があった。
【0007】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、微粒子を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる微粒子配向装置及び微粒子配向方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微粒子配向装置は、互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる微粒子を懸濁させた試料に、時間的に変動する磁場を印加して、前記微粒子を三次元配向させる微粒子配向装置であって、磁場発生部と、前記試料を、前記磁場発生部に対して、回転磁場を形成するのに必要な速度で相対回転させる駆動部と、前記試料が略180×n度(nは任意の自然数)相対回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間の間、前記相対回転を一時的に略停止させるように前記駆動部を駆動制御する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の微粒子配向方法は、互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる微粒子を懸濁させた試料に、時間的に変動する磁場を印加して、前記微粒子を三次元配向させる微粒子配向方法であって、前記試料を、磁場発生部に対して、回転磁場を形成するのに必要な速度で相対回転させ、前記試料が略180×n度(nは任意の自然数)相対回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間の間、前記相対回転を一時的に略停止させることを特徴とする。
【0010】
本発明の微粒子配向装置及び微粒子配向方法によれば、微粒子を懸濁させた試料を、駆動部により磁場発生部に対して相対回転させることにより、回転磁場が形成されるため、微粒子の磁化困難軸を回転磁場面に対して垂直な方向に配向させることができる。また、前記試料の相対回転を一時的に略停止させることにより、静磁場が形成されるため、微粒子の磁化容易軸を静磁場面と平行になるように配向することができる。その際、前記相対回転を略180×n度の回転位置で局所的に略停止させているため、従来のように試料を90度の広範囲に亘って低速回転させる場合に比べて、静磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子の磁化容易軸を配向している間に、磁化困難軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記試料が180度相対回転するたびに、その相対回転を一時的に略停止させるように前記駆動部を駆動制御することが好ましい。
この場合は、試料が180度相対回転するたびに、その相対回転を略停止させているため、試料が360度以上回転する場合に比べて回転磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子の磁化困難軸を配向している間に、磁化容易軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0012】
また、前記制御部は、前記相対回転を略停止させる際に、当該相対回転を完全に停止させるように前記駆動部を駆動制御することが好ましい。
この場合は、前記相対回転を完全に停止させているため、安定した静磁場を形成することができる。これにより、微粒子の磁化容易軸の配向を正確に行うことができるため、微粒子を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0013】
また、前記試料を相対回転させる前記所定時間は、次式の関係を満たすように設定されていることが好ましい。
<δ/D
ここで、tは試料を相対回転させる時間、δはX線構造解析に必要な回折スポットの許容最大半価幅、Dは磁化容易軸まわりの回転拡散係数である。
この場合は、微粒子を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0014】
また、前記試料の相対回転を略停止させる前記所定時間は、次式の関係を満たすように設定されていることが好ましい。
<δ/D
ここで、tは試料の相対回転を略停止させる所定時間、δはX線構造解析に必要な回折スポットの許容最大半価幅、Dは磁化困難軸まわりの回転拡散係数である。
この場合は、微粒子を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0015】
また、前記試料を相対回転させる時間と、前記試料の相対回転を略停止させる前記所定時間とは、次式の関係を満たすように設定されていることが好ましい。
/t=2(χ1−χ2)/(χ3−χ2)
ここで、tは試料を相対回転させる時間、tは試料の相対回転を略停止させる所定時間、χ1は磁化容易軸の磁化率、χ2は中間軸の磁化率、χ3は磁化困難軸の磁化率である(ただし、χ1>χ2>χ3)。
この場合は、微粒子を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0016】
また、前記試料の相対回転速度は、次式の関係を満たすように設定されているのが好ましい。
ωq×6ημ/(B(χ1−χ2))>>1/2
ここで、ωqは試料が相対回転する角速度、ηは懸濁液の粘性係数、μは真空の透磁率、Bは磁場強度、χ1は磁化容易軸の磁化率、χ2は中間軸の磁化率である(ただし、χ1>χ2)。
この場合は、磁化容易軸の配向精度をさらに高めることができる。
【0017】
また、前記駆動部は、前記試料を回転させるものであることが好ましい。この場合は、試料を回転させるようにしたので、磁場発生部を回転させる場合に比べて装置全体をコンパクトにすることができる。
【0018】
また、前記駆動部は、ステッピングモータであることが好ましい。この場合は、ステッピングモータを用いることにより、制御部による駆動部の駆動制御を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微粒子の磁化容易軸を配向している間に磁化困難軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る微粒子配向装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】微粒子の磁化軸を示す斜視図である。
【図3】制御部による駆動部の制御方法を示す模式図である。
【図4】微粒子の三次元配向を説明する斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る微粒子配向装置の制御部による駆動部の制御方法を示す模式図である。
【図6】本発明の微粒子配向装置により擬単結晶化した試料のX線回折で得られたピークの半価幅を示す表である。
【図7】図6の条件Bにより擬単結晶化した試料のX線回折像を示す図面代用写真である。
【図8】図6の条件Dにより擬単結晶化した試料のX線回折像を示す図面代用写真である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る微粒子配向装置の概略構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る微粒子配向装置の概略構成を示す側面図である。微粒子配向装置1は、所定位置に配置された試料容器2に時間的に変動する磁場(以下、時間変動磁場という)を印加するようになっている。試料容器2は、例えば、医薬分野、バイオテクノロジー分野、高分子材料分野等における有機化合物、無機化合物、生体物質等の微粒子3(図2参照)を懸濁させた試料が収容されたものである。
【0022】
前記微粒子3は、互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる二軸結晶からなり、磁気的に二軸異方性を有する。図2は、微粒子3の磁化軸を示す斜視図である。微粒子3は、図2に示すように、三軸方向それぞれに3つの異なる磁化率χ1、χ2及びχ3を有し、χ1>χ2>χ3の大小関係にある。以下、磁化率χ1の軸を磁化容易軸、磁化率χ2の軸を中間軸、磁化率χ3の軸を磁化困難軸という。
【0023】
前記微粒子配向装置1は、ケーシング11と、このケーシング11内に配置された磁場発生部12と、この磁場発生部12に対して試料容器2を回転させる駆動部13と、この駆動部13を駆動制御する制御部14とを備えている。
【0024】
磁場発生部12は、ケーシング11に固定された上下一対の永久磁石12a,12bからなる。各永久磁石12a,12bは、球状に形成されており、互いにN極とS極とが向かい合うように配置されている。これらの永久磁石12a,12bの間には、試料容器2を配置するための空間Sが形成されている。
【0025】
駆動部13は、例えばステッピングモータからなり、その回転軸13aの先端には、試料容器2を保持するチャック15が取り付けられている。これにより、駆動部13を駆動させると、回転軸13a及びチャック15を介して試料容器2が、固定された磁場発生部12に対して回転するようになっている。その際、試料容器2の回転速度は、回転磁場を形成するのに必要な速度に設定されている。より具体的には、試料容器2の回転速度は、下記式の関係を満たすように設定されている。
ωq×6ημ/(B(χ1−χ2))>>1/2 ・・・(1)
ここで、ωqは試料容器2が回転する角速度、ηは懸濁液の粘性係数、μは真空の透磁率、Bは磁場強度である。
【0026】
制御部14は、試料容器2が略180×n度(nは任意の自然数)回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間tの間、その回転を一時的に略停止させるように駆動部13を駆動制御している。その際、試料容器2は、所定時間tをかけて、略180×n度回転するようになっている。ここで「略停止」とは、完全に停止している状態だけでなく、実質的に静磁場が形成されるように局所的にゆっくりと回転している状態も含む意味である。
【0027】
試料配管2を回転させる前記所定時間t、及び試料配管2の回転を略停止させる前記所定時間tは、それぞれ下記式(2)、(3)及び(4)の関係を満たすように設定されている。
<δ/D ・・・(2)
<δ/D ・・・(3)
/t=2(χ1−χ2)/(χ3−χ2) ・・・(4)
ここで、δはX線構造解析に必要な回折スポットの許容最大半価幅、Dは磁化容易軸まわりの回転拡散係数、Dは磁化困難軸まわりの回転拡散係数である。
【0028】
図3は、制御部14による駆動部13の制御方法を示す模式図である。本実施形態では、図3に示すように、制御部14によってxy平面上に時間変動磁場を印加するようになっている。以下、例えばz軸よりも上側のx軸を基準(0度)として、試料容器2をz軸を中心に時計回り方向に回転させる場合について説明する。なお、x軸は矢印Bで示す磁場方向と平行に配置されている。
【0029】
まず、0度の位置から180度の位置までのy軸を含む180度の範囲(回転角度αq)では、所定の角速度ωq(好ましくは60rpm)により試料容器2を回転させる。そして、x軸上である180度の位置では、試料容器2を所定時間t(好ましくは1秒)の間、完全に停止させる。
【0030】
その後、180度の位置から0度(360度)の位置までのy軸を含む180度の範囲(回転角度αq)では、前記角速度ωqにより試料容器2を再び回転させる。そして、0度の位置であるx軸上では、試料容器2を所定時間t(好ましくは1秒)の間、完全に停止させる。このように、試料容器2が180度回転するたびにその回転を一時的に停止させるように、制御部14が駆動部13を駆動制御することにより、時間変動磁場が印加される。
【0031】
このように時間変動磁場が印加されると、試料容器2内において懸濁された微粒子3は、回転中に回転磁場が形成されることにより、微粒子3の磁化困難軸がxy平面(回転面)に対して垂直なz軸方向に配向される。そして、停止中に静磁場が形成されることにより、微粒子3の磁化容易軸が磁場方向Bと平行に配置されたx軸方向に配向されるとともに、残りの軸も自動的にy軸方向に配向される。これにより、微粒子3は、図4(a)に示すようにランダムに配置された状態から、図4(b)に示すように三次元配向された状態、すなわち擬単結晶化した状態となる。この状態において、試料容器2に対してX線源(図示省略)から図1の紙面垂直方向にX線aを照射することにより、X線構造解析を行うことができる。
【0032】
以上、本実施形態の微粒子配向装置及び微粒子配向方法によれば、微粒子3を懸濁させた試料容器2を、磁場発生部12に対して回転させることにより、回転磁場が形成されるため、微粒子3の磁化困難軸を回転磁場面に対して垂直な方向に配向させることができる。また、前記試料容器2の回転を一時的に略停止させることにより、静磁場が形成されるため、微粒子3の磁化容易軸を静磁場面と平行になるように配向することができる。その際、試料容器2の回転を略180×n度の回転位置で局所的に略停止させているため、従来のように試料を90度の広範囲に亘って低速回転させる場合に比べて、静磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子3の磁化容易軸を配向している間に、磁化困難軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【0033】
また、制御部14は、試料容器2が180度回転するたびにその回転を一時的に略停止させるように駆動部13を駆動制御しているため、試料容器2が360度以上回転する場合に比べて回転磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子3の磁化困難軸を配向している間に、磁化容易軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0034】
また、制御部14は、試料容器2の回転を完全に停止させるように駆動部13を駆動制御しているため、安定した静磁場を形成することができる。これにより、微粒子3の磁化容易軸の配向を正確に行うことができるため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。
【0035】
また、試料容器2を相対回転させる所定時間t及び試料容器2の相対回転を略停止させる所定時間tは、それぞれ上記式(2)、(3)及び(4)の関係を満たすように設定されているため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度をさらに高めることができる。特に、式(4)を満たす場合には、磁化容易軸、中間軸及び磁化困難軸のいずれの回折スポットの半価幅も等しくすることができる点で有効である。
【0036】
また、試料容器2の回転速度は上記式(1)の関係を満たすように設定されているため、微粒子3の磁化容易軸の配向精度をさらに高めることができる。
【0037】
また、駆動部13は試料容器2を回転させるようにしたので、磁場発生部12を回転させる場合に比べて装置全体をコンパクトにすることができる。
また、試料容器2を回転させる駆動部13としてステッピングモータを用いているため、制御部14による駆動部13の駆動制御を容易に行うことができる。
【0038】
図5は、本発明の第2の実施形態に係る微粒子配向装置の制御部14による駆動部13の制御方法を示す模式図である。本実施形態の微粒子配向装置は、試料容器2を完全に停止させずに、局所的にゆっくりと回転させることによって略停止状態としている点で、第1の実施形態と相違している。
【0039】
図5において、例えばz軸よりも上側のx軸を基準として試料容器2を時計回り方向に回転させる場合について説明すると、5度の位置から175度の位置までのy軸を含む170度の範囲(回転角度αq)では、所定の角速度ωq(好ましくは60rpm)により試料容器2を高速回転させる。そして、175度の位置から185度の位置までのx軸を含む10度の範囲(回転角度αs)では、所定の角速度ωs(好ましくは10rpm)により、試料容器2を低速回転させて略停止状態とする。
【0040】
その後、185度の位置から355度の位置までのy軸を含む170度の範囲(回転角度αq)では、前記角速度ωqにより試料容器2を高速回転させ、さらに355度の位置から5度(365度)の位置までのx軸を含む10度の範囲(回転角度αs)では、前記角速度ωsにより試料容器2を低速回転させて略停止状態とする。このように、試料容器2が170度高速回転するたびに、一時的に低速回転(略停止)させるように、制御部14により駆動部13を駆動制御することにより、時間変動磁場が印加される。
【0041】
このように時間変動磁場が印加されると、試料容器2内において懸濁された微粒子3は、高速回転中に回転磁場が形成されることにより、微粒子3の磁化困難軸がxy平面(回転面)に対して垂直なz軸方向に配向される。そして、低速回転中に静磁場が形成されることにより、微粒子3の磁化容易軸が磁場方向Bと平行に配置されたx軸方向に配向されるとともに、残りの軸も自動的にy軸方向に配向される。これにより、微粒子3は、図4(a)に示すようにランダムに配置された状態から、図4(b)に示すように三次元配向された状態、すなわち擬単結晶化した状態となる。この状態において、試料容器2に対してX線源(図示省略)から図1の紙面垂直方向にX線aを照射することにより、X線構造解析を行うことができる。
【0042】
以上、本実施形態の微粒子配向装置及び微粒子配向方法においても、試料容器2を局所的にゆっくりと回転させて略停止状態としているため、従来のように磁場発生部32を90度の広範囲に亘って低速回転させる場合に比べて、静磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子3の磁化容易軸を配向している間に、磁化困難軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【0043】
図6は、本発明の微粒子配向装置により擬単結晶化した試料のX線回折で得られたピークの半価幅を示す表である。この半価幅は、その値が小さいほど微粒子の配向精度が高いことを示すものである。図6の表では、高速回転時の回転角度αq及び角速度ωq、低速回転時の回転角度αs及び角速度ωsのいずれかが異なるA〜Dの4種類の試験条件下において、リゾチームを擬単結晶化させたときのX線回折結果を示している。
【0044】
図6において、条件Aは、第1の実施形態の制御方法と同一の条件(前記角速度ωqは上記式(1)の関係を満たしており、前記所定時間t,tはそれぞれ上記式(2)〜(4)の関係を満たしている)に設定されている。また、条件Bは、第2の実施形態の制御方法と同一の条件(前記角速度ωqは上記式(1)の関係を満たしており、前記所定時間t,tはそれぞれ上記式(2)〜(4)の関係を満たしている)に設定されている。条件Aと条件Bとを比較すると、条件Aが条件Bよりも半価幅の値が小さいことが分かる。すなわち、微粒子の三次元配向時に試料の回転を略停止させる際は、ゆっくりと回転させるよりも、完全に停止させたほうが、微粒子の配向精度が高くなるのが分かる。
【0045】
条件Cは、回転角度αq,αsが条件Bと同一の条件に設定され、角速度ωq,ωsが条件Bよりもそれぞれ低く設定されている。条件Bと条件Cとを比較すると、条件Bが条件Cよりも半価幅の値が小さいことが分かる。
【0046】
一方、条件Dは、角速度ωq,ωsが条件Bと同一の条件に設定され、回転角度αqが条件Bよりも小さく、回転角度αsが条件Bよりも大きく設定されている。条件Bと条件Dとを比較すると、条件Bが条件Dよりも半価幅の値が小さいことが分かる。条件B〜DのX線回折結果より、高速回転を略停止させる際に低速回転させる場合には、条件Bの回転角度及び角速度に設定すれば、微粒子の配向精度が高くなるのが分かる。
【0047】
図7は、図6の条件Bにより擬単結晶化した試料のX線回折像を示す図面代用写真であり、図8は、図6の条件Dにより擬単結晶化した試料のX線回折像を示す図面代用写真である。図7の(a),(b),(c)は、図8の(a),(b),(c)にそれぞれ対応しており、両図の(a),(b),(c)は、微粒子の3方向の磁化軸をa軸,b軸及びc軸としたときのac平面、bc平面、ab平面のX線回折像をそれぞれ示している。図7と図8とを比較すると、図7の(a),(b),(c)は、いずれも図8の(a),(b),(c)よりも、ピークPの尾の長さが短くなっており、微粒子の配向精度が高い状態であることが分かる。
【0048】
図9は、本発明の第3の実施形態に係る微粒子配向装置の概略構成を示す側面図である。本実施形態の微粒子配向装置は、試料容器2を固定した状態で磁場発生部32を回転させて時間変動磁場を印加している点で、第1の実施形態と相違している。
【0049】
前記微粒子配向装置は、回転台31と、この回転台31上に取り付けられた前記磁場発生部32と、この磁場発生部32を回転させる駆動部33と、この駆動部33を駆動制御する制御部34と、前記駆動部33が固定されている基台35とを備えている。
【0050】
磁場発生部32は、回転台31上に固定された左右一対の永久磁石32a,32bからなる。各永久磁石32a,32bは、互いにN極とS極とが向かい合うように配置されている。これらの永久磁石32a,32bの間の上方には、試料容器2が配置されるようになっている。なお、試料容器2は、図示しない固定部材によって基台35上に固定されている。
【0051】
駆動部33は、例えばステッピングモータからなり、その回転軸33aには前記回転台31が固定されている。前記回転軸33aは、固定された試料容器2の真下に配置されている。これにより、駆動部33を駆動させると、回転軸33a及び回転台31とともに磁場発生部32が、固定された試料容器2を中心に回転するようになっている。その際、磁場発生部32の回転速度は、回転磁場を形成するのに必要な速度に設定されている。
【0052】
制御部34は、試料容器2を固定した状態で磁場発生部32が略180×n度(nは任意の自然数)回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間tの間、その回転を一時的に略停止させるように駆動部13を駆動制御している。制御部34の具体的な制御方法は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0053】
基台35は、図示しないゴニオメータ上に取り付けられており、X線構造解析時に前記ゴニオメータを駆動させると、基台35が試料容器2を中心として振れ回る歳差運動を起こすようになっている。これにより、X線源(図示省略)から図5の右側から試料容器2に向けて照射されたX線aに対して試料容器2の向きを任意に調節することができる。
【0054】
以上、本実施形態の微粒子配向装置及び微粒子配向方法においても、磁場発生部32の回転を局所的に略停止させているため、従来のように磁場発生部32を90度の広範囲に亘って低速回転させる場合に比べて、静磁場が形成される時間を短くすることができる。これにより、微粒子3の磁化容易軸を配向している間に、磁化困難軸の配向が乱れるのを抑制することができるため、微粒子3を三次元配向させる際の配向精度を高めることができる。
【0055】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、略180度毎に相対回転を略停止させているが、360度(1回転)毎や540度(1回転半)毎など複数回転毎に相対回転を略停止させたり、毎回異なる回転角度で略停止させるようにしてもよい。要するに、略180度の任意の自然数倍まで相対回転させたときに略停止させるようにすればよい。
【0056】
また、上記実施形態では、試料を相対回転させる所定時間及び試料の相対回転を停止させる所定時間は、それぞれ上記式(2)及び(3)の関係を満たすように設定されているが、少なくともいずれか一方の所定時間が上記式の関係を満たすように設定されていればよい。
【0057】
また、第3の実施形態にでは、相対回転を略停止させる際に、完全に停止させているが、局所的にゆっくりと回転させるようにしてもよい。
さらに、上記各実施形態においては、駆動部としてステッピングモータを用いているが、サーボモータ等の他のアクチュエータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 微粒子配向装置
2 試料容器
3 微粒子
12,32 磁場発生部
13,33 駆動部
14,34 制御部
χ1,χ2,χ3 磁化率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる微粒子を懸濁させた試料に、時間的に変動する磁場を印加して、前記微粒子を三次元配向させる微粒子配向装置であって、
磁場発生部と、
前記試料を、前記磁場発生部に対して、回転磁場を形成するのに必要な速度で相対回転させる駆動部と、
前記試料が略180×n度(nは任意の自然数)相対回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間の間、前記相対回転を一時的に略停止させるように前記駆動部を駆動制御する制御部と、を備えていることを特徴とする微粒子配向装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記試料が180度相対回転するたびに、その相対回転を一時的に略停止させるように前記駆動部を駆動制御する請求項1に記載の微粒子配向装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記相対回転を略停止させる際に、当該相対回転を完全に停止させるように前記駆動部を駆動制御する請求項1又は2に記載の微粒子配向装置。
【請求項4】
前記試料を相対回転させる時間は、次式の関係を満たすように設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
<δ/D
ここで、tは試料を相対回転させる時間、δはX線構造解析に必要な回折スポットの許容最大半価幅、Dは磁化容易軸まわりの回転拡散係数である。
【請求項5】
前記試料の相対回転を略停止させる前記所定時間は、次式の関係を満たすように設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
<δ/D
ここで、tは試料の相対回転を略停止させる所定時間、δはX線構造解析に必要な回折スポットの許容最大半価幅、Dは磁化困難軸まわりの回転拡散係数である。
【請求項6】
前記試料を相対回転させる時間と、前記試料の相対回転を略停止させる前記所定時間とは、次式の関係を満たすように設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
/t=2(χ1−χ2)/(χ3−χ2)
ここで、tは試料を相対回転させる時間、tは試料の相対回転を略停止させる所定時間、χ1は磁化容易軸の磁化率、χ2は中間軸の磁化率、χ3は磁化困難軸の磁化率である(ただし、χ1>χ2>χ3)。
【請求項7】
前記試料の相対回転速度は、次式の関係を満たすように設定されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
ωq×6ημ/(B(χ1−χ2))>>1/2
ここで、ωqは試料が相対回転する角速度、ηは懸濁液の粘性係数、μは真空の透磁率、Bは磁場強度、χ1は磁化容易軸の磁化率、χ2は中間軸の磁化率である(ただし、χ1>χ2)。
【請求項8】
前記駆動部が、前記試料を回転させるものである請求項1〜7のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
【請求項9】
前記駆動部が、ステッピングモータである請求項1〜8のいずれか一項に記載の微粒子配向装置。
【請求項10】
互いに直交する三方向の磁化率がそれぞれ異なる微粒子を懸濁させた試料に、時間的に変動する磁場を印加して、前記微粒子を三次元配向させる微粒子配向方法であって、
前記試料を、磁場発生部に対して、回転磁場を形成するのに必要な速度で相対回転させ、
前記試料が略180×n度(nは任意の自然数)相対回転するたびに、静磁場を形成するのに必要な所定時間の間、前記相対回転を一時的に略停止させることを特徴とする微粒子配向方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173042(P2012−173042A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33264(P2011−33264)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】