説明

微細セルロース繊維分散液およびセルロース繊維複合体並びにその製造方法

【課題】本発明は、微細セルロース繊維がゴム成分中に均一に分散し、液安定性および製膜性に優れ、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分との複合体を生産性よく製造することができる微細セルロース繊維分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】微細セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備える、微細セルロース繊維分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細セルロース繊維分散液の製造方法に関する。より詳しくは、ゴム成分の存在下にて、セルロース繊維の解繊を行う、微細セルロース繊維分散液の製造方法に関する。また、本発明は、前記製造方法によって得られる微細セルロース繊維分散液および該分散液から得られるセルロース繊維複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムに繊維を混合して硬度やモジュラスなどを改善する技術は既に知られており、径が太い繊維はゴムへ分散しやすいが、耐疲労性などの物性が低下し、径が細いと逆に耐疲労性は向上するが、繊維同士が絡まったりしてゴムへの分散性が悪化する傾向がある。そこで、断面が海島構造を持つ混紡糸繊維をゴムに分散させて、混合時のせん断力によってフィブリル化させることによってゴムとの接触面積を増し、分散性と耐疲労性を両立させた繊維が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この繊維は樹脂の相分離によって海島構造を形成するため、太さや長さが不均一であり、具体的に直径は1μm及び0.7μmと太く、ゴムとの接触面積が十分大きいとは言えず、大きな補強効果は期待できない。
【0003】
特許文献2には耐摩耗性向上を目的として補強剤である澱粉と共に0.1μmと微細な直径をもつバクテリアセルロースをジエン系ゴムに混ぜると、澱粉単独で配合する場合に比べて耐磨耗性指数が向上することが開示されている。しかし、セルロース単体では加工性に問題があるとされ、澱粉をセルロースの5倍以上いれている。バクテリアセルロースは水中ではナノサイズに分散しているが、ゴム中では凝集しやすい傾向があることから、澱粉の配合によって、分散性の向上を図ったものと考えられるが、この澱粉により補強効果が相殺され、補強効果としては未だ十分ではないと予想される。
【0004】
また、特許文献3では、平均粒子径40μmの微粉末セルロース繊維を乾燥状態で、シランカップリング剤とともにゴム組成物中に投入してバンバリー型ミキサーで混練することが提案されている。ミキサーで練る程度では乾燥状態で生じたセルロース繊維同士の水素結合をほぐして、細い径の繊維状にすることは困難であり、40μmの粒子のままゴム中に分散していると思われる。したがって、細くて長い繊維による補強効果は期待できない。
【0005】
また、特許文献4では、平均繊維径0.1μmの変性したミクロフィブリルセルロースを用いてゴム成分に混合することが提案されている。ここでは、ミクロフィブリルセルロースをあらかじめ、水中で回転式のホモジナイザーを用いて分散体を調整しておき、そこにゴムラテックスを投入して、回転数7000rpmにて10分間混合することが示されている。回転式のホモジナイザーを用いているが、水分が除去される際に繊維は凝集する傾向があり、この程度の回転数では凝集繊維を解すほどの剪断力は得られない。目視により、凝集物がないことを確認しているが、実際にはミクロフィブリルセルロースがどの程度の太さでゴム中に分散しているかは不明である。
【0006】
特許文献5では、セルロース繊維にジエン系ポリマーをグラフト重合した繊維を用いてゴム成分との親和性、分散性を高める提案をしている。しかし、水中で解繊した繊維に対してTHF(テトラヒドロフラン)中でグラフト化処理を施しており、この段階で一旦は水中で解繊した繊維が凝集してしまうと考えられる。一度強固に分子間で水素結合が形成されると、再びナノサイズまでの解繊は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−7811号公報
【特許文献2】特開2005−133025号公報
【特許文献3】特開2005−75856号公報
【特許文献4】特開2009−84564号公報
【特許文献5】特開2009−263417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みて、微細セルロース繊維がゴム成分中に均一に分散し、液安定性および成形性や製膜性に優れ、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分との複合体を生産性よく製造することができる微細セルロース繊維分散液の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、該製造方法によって得られる分散液を用いた、セルロース繊維複合体およびその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、セルロース繊維の解繊処理を、ゴム成分の存在下で実施することにより、上記課題を解決できることに着眼した。
解繊処理前のセルロース繊維に対して、ゴム成分中で強い剪断力をかけて解繊処理することで、ゴム成分中に微細セルロース繊維が安定的に分散した分散液を得ることができることがわかった。そして、該分散液を用いて製造されるセルロース繊維複合体(ゴム)は、複合体中に均一に分散する微細セルロース繊維によりゴムの繊維補強効果が増大することがわかり本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
<1> 微細セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備える、微細セルロース繊維分散液の製造方法。
<2> 前記セルロース繊維が、化学修飾されたセルロース繊維である、請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
<3> 上記<1>ないし<2>のいずれかに記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法より得られる、微細セルロース繊維分散液。
<4> 上記<3>に記載の微細セルロース繊維分散液を用いて製造される、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体。
<5> 上記<3>に記載の微細セルロース繊維分散液を用いて、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体を得る複合化工程を備える、セルロース繊維複合体の製造方法。
<6> 前記複合化工程前に、前記微細セルロース繊維分散液にさらにゴム成分を添加する添加工程を備える、上記<5>に記載のセルロース繊維複合体の製造方法。
<7> 上記<4>に記載のセルロース繊維複合体を用いてなるタイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細セルロース繊維がゴム成分中に均一に分散し、分散安定性に優れ、微細セルロース繊維とゴム成分との複合体を生産性よく製造することができる微細セルロース繊維分散液の製造方法を提供することができる。
さらに、該製造方法によって得られる分散液を用いて製造されたセルロース繊維複合体
は、繊維補強効果の高い複合体である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の微細セルロース繊維分散液およびその製造方法、並びに、セルロース繊維複合体およびその製造方法について詳述する。
[I.微細セルロース繊維分散液の製造方法]
本発明の微細セルロース繊維分散液の製造方法は、セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備える。該工程を経ることにより、従来の手法では避けられなかった微細セルロース繊維の凝集や沈降といった問題が解決され、微細セルロース繊維が均一に安定して分散した分散液を得ることができる。本発明においては、ゴム成分の存在下で解繊処理を施すことにより、解繊後直ちにゴム成分表面に微細セルロース繊維が吸着・分散するため、微細セルロース繊維の再凝集が抑制され、分散液の安定性が向上するものと推測される。
特に、セルロース繊維表面の水酸基を化学修飾によって疎水化などしたセルロース繊維を用いると、ゴム成分に対する親和性が高く、微細セルロース繊維分散液の安定性が向上すると考えられる。該工程を経て得られる微細セルロース繊維分散液は、成形性に優れる。
【0013】
まず、本発明において使用される材料(セルロース繊維、ゴム成分など)について詳述する。
<セルロース繊維>
本発明で使用されるセルロース繊維は、微細セルロース繊維の原料となる材料であり、セルロースを含有する物質(セルロース含有物)またはセルロース含有物の精製等を経たもの(セルロース繊維原料)であればその種類は特に限定はされない。セルロース繊維として、セルロースを使用してもよいし、不純物を一部含むセルロースを使用してもよい。なかでも、本発明で使用されるセルロース繊維は、セルロース含有物から精製を経て不純物を除去されたものであることが好ましい。
【0014】
セルロース含有物としては、例えば、針葉樹や広葉樹等の木質、コットンリンターやコットンリント等のコットン、さとうきびや砂糖大根等の絞りかす、亜麻、ラミー、ジュート、ケナフ等の靭皮繊維、サイザル、パイナップル等の葉脈繊維、アバカ、バナナ等の葉柄繊維、ココナツヤシ等の果実繊維、竹等の茎幹繊維などの植物由来原料、バクテリアが産生するバクテリアセルロース、バロニアやシオグサ等の海草やホヤの被嚢等の天然セルロースが挙げられる。これらの天然セルロースは、結晶性が高いので低線膨張率、高弾性率になり好ましい。特に、植物由来原料から得られるセルロース繊維が好ましい。
バクテリアセルロースは微細な繊維径のものが得やすい点で好ましい。また、コットンも微細な繊維径なものが得やすい点で好ましく、さらに原料が得やすい点で好ましい。
【0015】
さらには針葉樹や広葉樹等の木質も微細な繊維径のものが得られ、かつ地球上で最大量の生物資源であり、年間約700億トン以上ともいわれる量が生産されている持続型資源であることから、地球温暖化に影響する二酸化炭素削減への寄与も大きく、経済的な点から優位である。木質を本発明のセルロース繊維として使用する場合は、木材チップや木粉などの状態に破砕して用いることが好ましい。
【0016】
(精製方法)
本発明においては、セルロース含有物に精製処理を施して(精製工程)、セルロース含有物中のセルロース以外の物質、例えば、リグニンやヘミセルロース、樹脂(ヤニ)などを必要に応じて除去する。
精製方法は特に制限されないが、例えば、脱脂処理、脱リグニン処理、脱ヘミセルロース処理などが挙げられる。一例としては、セルロース含有物をベンゼン−エタノールで脱脂処理した後、ワイズ法で脱リグニン処理を行い、アルカリで脱ヘミセルロース処理をす
る方法が挙げられる。
【0017】
また、脱リグニン処理としては、上記ワイズ法の他に、過酢酸を用いる方法(pa法)、過酢酸過硫酸混合物を用いる方法(pxa法)なども利用される。
また、必要に応じて、塩素、オゾン、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、二酸化塩素などで漂白処理を行ってもよい。
また、精製方法としては、一般的な化学パルプの製造方法、例えば、クラフトパルプ、サリファイドパルプ、アルカリパルプ、硝酸パルプの製造方法も挙げられる。また、セルロース含有物を蒸解釜で加熱処理して脱リグニン等の処理を行い、更に漂白処理等を行う方法も挙げられる。
【0018】
精製処理には、分散媒として一般的に水が用いられるが、酸または塩基、その他の処理剤の水溶液であってもよく、この場合には、最終的に水で洗浄処理してもよい。
また、セルロース含有物を木材チップや木粉などの状態に破砕してもよく、この破砕は、精製処理前、処理の途中、処理後、いずれのタイミングで行ってもかまわない。
セルロース含有物の精製処理には、通常、酸または塩基、その他の処理剤を用いるが、その種類は特に限定されない。例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、硫化ナトリウム、硫化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酢酸、シュウ酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、二酸化塩素、塩素、過塩素酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素、オゾン、ハイドロサルファイト、アントラキノン、ジヒドロジヒドロキシアントラセン、テトラヒドロアントラキノン、アントラヒドロキノン、また、エタノール、メタノール、2−プロパノールなどのアルコール類およびアセトンなどの水溶性有機溶媒などが挙げられる。これらの処理剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、2種以上の処理剤を用いて、2以上の精製処理を行うこともでき、その場合、異なる処理剤を用いた精製処理間で、水で洗浄処理することが好ましい。
精製処理時の温度、圧力は特に制限はなく、温度は0℃以上100℃以下の範囲で選択されることが好ましく、1気圧を超える加圧下での処理の場合、温度は100℃以上200℃以下とすることが好ましい。
【0020】
セルロース含有物を精製して得られたセルロース繊維は、通常、含水状態(水分散液)として得られる。セルロース含有物を精製して得られたセルロース繊維を以下セルロース繊維原料ということがある。
セルロース繊維原料としては、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ、広葉樹漂白クラフトパルプ、針葉樹漂白クラフトパルプ、リンターパルプなどが挙げられる。
【0021】
(繊維径)
本発明に用いられるセルロース繊維は、上記セルロース含有物を精製処理や、切断、破砕等を行うことにより、下記範囲の大きさとして用いることが好ましい。例えば、セルロース含有物のチップ等の数cm大のものを使用する場合、リファイナーやビーター等の離解機で機械的処理を行い、数mm程度にすることが好ましい。
【0022】
セルロース含有物の切断ないし破砕は、後述のセルロース含有物の精製などの処理を行う場合、その処理前、処理中、処理後のいずれの時期に行ってもよい。例えば、精製処理前であれば衝撃式粉砕機や剪断式粉砕機などを用い、また精製処理中、処理後であればリ
ファイナーなどを用いて行うことができる。
本発明に用いられるセルロース繊維の繊維径は特に制限されるものではなく、後述する解繊処理時の解繊効率、および取扱い性の点から、数平均繊維径としては10μm〜100mmであることが好ましく、50μm〜0.5mmであることがより好ましい。
通常、一般的な精製を経たものは数百μm程度(50〜500μmが好ましい)である。
【0023】
なお、数平均繊維径の測定方法は特に限定されず、SEMやTEM等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点の測定値を平均して求めることができる。
(修飾処理)
本発明において、使用されるセルロース繊維は、セルロース中の水酸基が他の基で修飾された(置換された)ものを使用することが好ましい。具体的には、化学修飾によって誘導化されたもの(化学修飾セルロース繊維)であり、例えば、セルロース中の水酸基が化学修飾剤と反応して修飾された(置換された)ものである。尚、本発明における化学修飾とは、化学反応により、セルロース中の水酸基が他の基に誘導または他の基に置換されることをいう。
【0024】
化学修飾は、上述した精製処理の前に行っても、後に行ってもよいが、化学修飾剤の効率的な反応の観点で、精製処理後のセルロース(セルロース繊維原料)に対して化学修飾することが好ましい。
化学修飾によってセルロースの水酸基に導入する置換基(水酸基中の水素原子と置換して導入される基)は特に制限されず、用いるゴム成分との親和性を考慮して、ゴム成分の骨格に近い構造の基、等を選択すればよい。例えば、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2−ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基等のアシル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、チイラン基、チエタン基、カルボキシ基等が挙げられる。これらの中では特にアセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の炭素数2〜12のアシル基やカルボキシ基が好ましい。
【0025】
より具体的には、以下の式(1)で表されるX1、X2、X3が、上記列挙した置換基で
あることが好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
上記X1、X2、X3の他の態様として、芳香環含有置換基が挙げられる。芳香環含有置
換基とは、炭化水素芳香族化合物、複素環芳香族化合物、または非ベンゼノイド芳香族化合物由来の置換基である。
炭化水素芳香族化合物とは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン等のベンゼン環の単環化合物、またはその2〜12個が縮合した化合物である。縮合数は、好ましくは6個以下である。
【0028】
複素環芳香族化合物とは、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール等の5〜10員環の複素環の単環化合物、またはその2〜12個が縮合した化合物である。縮合数は好ましくは6個以下である。
非ベンゼノイド芳香族化合物とは、アヌレン等、シクロペンタジエニルアニオン等、シクロヘプタトリエニルカチオン等、トロポン等、メタロセン等、アセブレイアジレン等が挙げられる。
【0029】
これらの中では、炭化水素芳香族化合物、複素環芳香族化合物由来の置換基が好ましく、さらには炭化水素芳香族化合物由来の置換基が好ましい。また、特に、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン由来の置換基が好ましい。
これらの芳香環含有置換基は、該置換基中の水素原子が炭素数1〜12のアルキル基で置換されていても構わない。また、芳香環含有置換基は、上記炭化水素芳香族化合物、複素環芳香族化合物、および非ベンゼノイド芳香族化合物からなる群から選ばれる2個以上が、単結合または炭素数1〜3のアルキレン基で連結されていても構わない。
【0030】
芳香環含有置換基において、芳香環とセルロースとを結合する連結基としては、セルロースの水酸基と反応した結果得られたものであれば特に限定されるものではない。例えば、上記式中のO(酸素原子)と芳香環が直接結合してもよいし、連結基として−CO−、−CONH−を介してセルロースのO(酸素原子)と結合してもよく、なかでも−CO−が特に好ましい。
【0031】
セルロース繊維中のセルロースに導入される置換基の芳香環含有置換基としては、ベンゾイル基、ナフトイル基、アントロイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基が好ましく、とりわけベンゾイル基が好ましい。
また、セルロースへの置換基の導入方法として、セルロースの6位の1級水酸基にアルデヒドあるいはカルボキシ基を導入する方法も挙げられる。
【0032】
(修飾剤)
修飾方法は、特に限定されるものではないが、セルロースと次に挙げるような化学修飾剤とを反応させる方法がある。
化学修飾剤の種類としては、例えば、エステル基を形成させる場合は、酸、酸無水物、およびハロゲン化試薬等が、エーテル基を形成させる場合は、アルコール、フェノール系化合物、アルコキシシラン、フェノキシシラン、およびオキシラン(エポキシ)等の環状エーテル化合物等が、カルバマート基を形成させる場合は、イソシアナート化合物、カルボキシ基を形成させる場合は、オゾン、塩素ガス、フッ素ガス、二酸化塩素、亜酸化窒素、2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)などのN−オキシル化合物等が挙げられる。また、ジカルボン酸を反応させてもよい。ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、イソフタル酸、テレフラル酸等が挙げられる。これらの化学修飾剤は、1種または2種以上を用いても構わない。
【0033】
エステル基を形成させる化学修飾剤である酸としては、例えば、酢酸、アクリル酸、メタクリル酸、プロパン酸、ブタン酸、2−ブタン酸、ペンタン酸、安息香酸、ナフタレンカルボン酸等が、酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水プロパン酸、無水ブタン酸、無水2−ブタン酸、無水ペンタン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸等が挙げられる。
【0034】
ハロゲン化試薬としては、例えば、アセチルハライド、アクリロイルハライド、メタクロイルハライド、プロパノイルハライド、ブタノイルハライド、2−ブタノイルハライド、ペンタノイルハライド、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライド、塩化ステアロイル等が挙げられる。
エーテル基を形成させる化学修飾剤であるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール等が挙げられる。
【0035】
フェノール系化合物としては、フェノール、ナフトール等が挙げられる。アルコキシシランとしては、例えば、メトキシシラン、エトキシシラン等が、また、フェノキシシラン等が挙げられる。
環状エーテルとしては、例えば、エチルオキシラン、エチルオキセタン、オキシラン(エポキシ)、フェニルオキシラン(エポキシ)が挙げられる。
【0036】
カルバマート基を形成させる化学修飾剤であるイソシアナート化合物としては、メチルイソシアナート、エチルイソシアナート、プロピルイソシアナート、フェニルイソシアナートが挙げられる。
これらの中では、特に、無水酢酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、ベンゾイルハライド、ナフトイルハライドが好ましい。
【0037】
これらの化学修飾剤は、セルロースの水酸基と反応する部位以外にゴム成分と反応する官能基を有していてもよい。このような官能基としては、例えばメルカプト基、アルケニル基、(メタ)アクリロイル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
これらの化学修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(化学修飾方法)
化学修飾は、公知の方法によって実施することができる。すなわち、常法に従って、セルロースと化学修飾剤とを反応させることによって、化学修飾を実施できる。この際、必要に応じて溶媒や触媒を使用してもよく、加熱、減圧等を行ってもよい。
【0038】
なお、精製後のセルロース繊維(セルロース繊維原料)を用いる場合、該セルロース繊維は通常含水状態であるので、この水を反応溶媒と置換して、化学修飾剤と水との反応を極力抑制することが好ましい。また、水を除去するためにセルロース繊維の乾燥を行うと、後述する解繊工程でのセルロース繊維の微細化が進行しにくくなるため、乾燥工程を入れることは好ましくない。
【0039】
化学修飾剤の量は特に限定されず、化学修飾剤の種類によっても異なるが、セルロースの水酸基のモル数に対して、0.01倍以上が好ましく、0.05倍以上がより好ましく、100倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましい。
溶媒としては、エステル化を阻害しない水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、アセトン、ピリジン等の有機溶媒や、蟻酸、酢酸、蓚酸等の有機酸が挙げられ、特に酢酸等の有機酸が好ましい。酢酸等の有機酸を用いることで、化学修飾がセルロースに均一に進行するため、後述する解繊がしやすくなり、得られるセルロース繊維複合体が高耐熱性、高生産性を示すと考えられる。また、上記溶媒以外のものを併用しても構わない。
【0040】
使用される溶媒の量は特に限定されないが、通常、セルロース重量に対して、0.5倍以上が好ましく、1倍以上がより好ましく、200倍以下が好ましく、100倍以下がより好ましい。
触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性触媒や、酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒を用いることが好ましい。触媒の量は
特に限定されず、種類によっても異なるが、通常、セルロースの水酸基のモル数に対して、0.01倍以上が好ましく、0.05倍以上がより好ましく、100倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましい。
【0041】
温度条件は特に制限されないが、高すぎるとセルロースの黄変や重合度の低下等が懸念され、低すぎると反応速度が低下することから、10〜130℃が好ましい。反応時間も特に制限されず、化学修飾剤や化学修飾率にもよるが、数分から数十時間である。 また、ガスとセルロース繊維を接触させることにより、化学修飾を行ってもよい。例えば、セルロース繊維をオゾンなどの酸化性ガスが存在する雰囲気に所定時間保持したり、酸化性ガスの気流中に暴露させたりして酸化処理を行うことにより、セルロース中の水酸基を置換することができる。
【0042】
このようにして化学修飾を行った後は、反応を終結させるために有機溶剤や水で十分に洗浄することが好ましい。未反応の化学修飾剤が残留していると、後で着色の原因になったり、樹脂と複合化する際に問題になったりするので好ましくない。
(化学修飾率)
化学修飾率とは、セルロース中の全水酸基のうちの化学修飾されたものの割合を示し、化学修飾率は下記の滴定法によって測定することができる。
【0043】
(測定方法)
乾燥した化学修飾セルロース0.05gを精秤し、これにメタノール6ml、蒸留水2mlを添加する。これを60〜70℃で30分攪拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液10mlを添加する。これを60〜70℃で15分攪拌し、さらに室温で一日攪拌する。ここにフェノールフタレインを用いて0.02N塩酸水溶液で滴定する。
【0044】
ここで、滴定に要した0.02N塩酸水溶液の量Z(ml)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)={0.05(N)×10(ml)/1000}−{0.02(N)×Z(ml)/1000}
この置換基のモル数Qと、化学修飾率X(mol%)との関係は、以下の式で算出される(セルロース=(C6510n=(162.14)n,繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17)。なお、以下において、Tは、上記置換基の分子量に酸素原子量(16)を足した値である。
【0045】
【数1】

【0046】
これを解いていくと、以下の通りである。
【0047】
【数2】

【0048】
本発明において、上記の化学修飾率は特に制限されないが、セルロースの全水酸基に対して、1mol%以上が好ましく、5mol%以上がより好ましく、10mol%以上が特に好ましい。また、65mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、
40mol%以下がさらに好ましい。上記範囲内であれば、分散液中における微細セルロース繊維の分散安定性がより向上し、また、ゴム成分と複合化した際、低線膨張係数を示すセルロース繊維複合体が得られる。
【0049】
<ゴム成分>
ゴム成分は天然ゴムと合成ゴムに大別できるが、両者を単独で用いても、混合して用いてもよい。合成ゴムとしては公知のものから目的に応じて選択されるが、ジエン系ゴムが好ましく、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、およびブチルゴム(IIR)等が挙げられる。
【0050】
<溶媒>
本発明でゴム成分中でセルロース繊維を解繊する際、必要に応じて溶媒を添加してもよい。添加する溶媒としては、ゴム成分が溶解または分散すれば特に限定されないが、例えば、水、アルコール系溶媒などのプロトン性極性溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、アミド系溶媒、芳香族系炭化水素などの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。好ましくは、水、アミド系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒である。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
なお、本発明で使用される溶媒は、後の工程で溶媒を除去する工程があることから沸点が高すぎないことが好ましい。溶媒の沸点は300℃以下が好ましく、200℃以下が好ましく、180℃以下が更に好ましい。また、取扱い性などの点から、70℃以上が好ましい。
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。
【0052】
ケトン系溶媒(ケトン基を有する液体を指す)としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソプロピルケトン、ジ−tert−ブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキシルメチルケトン、アセトフェノン、アセチルアセトン、ジオキサン等が挙げられる。この中でも、好ましくは、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロペンタノン、シクロヘキサノンであり、より好ましくは、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンである。
【0053】
グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0054】
芳香族系炭化水素の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
非プロトン性極性溶剤としては、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0055】
<微細セルロース繊維分散液の製造手順>
本発明の製造方法における解繊工程は、セルロース繊維と、ゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維の解繊処理を行い、微細セルロース繊維を得る工程である。
(原料分散液の製造方法)
原料分散液の製造方法は特に限定されず、使用される各成分を混合することにより調製することができる。通常は、セルロース繊維を分散した分散液(セルロース繊維分散液)とゴム成分とを混合することにより調製することができる。
【0056】
セルロース繊維を分散させる分散媒としては、通常水が用いられるが、有機溶媒(分散媒)を利用してもよい。有機溶媒を利用する場合、セルロース繊維原料のようなセルロース繊維の水分散液をセルロース繊維として用いるには、あらかじめ水分散液中の水を有機溶媒に置換してもよい(溶媒置換工程)。
溶媒を置換する方法は特に限定されないが、セルロース繊維(好ましくは、精製後または化学修飾後のセルロース繊維)を含有する水分散液から濾過などにより水を除去し、ここに解繊時使用する有機溶媒を添加し、攪拌混合し、再度濾過により有機溶媒を除去する方法が挙げられる。有機溶媒の添加と濾過を繰り返すことで、分散液中の媒体を水から有機溶媒に置換することができる。
【0057】
なお、使用する有機溶媒が非水溶性の場合、水溶性の有機溶媒に一度置換した後、非水溶性の有機溶媒に置換してもよい。
セルロース繊維分散液と、ゴム成分の混合に際しては、セルロース繊維分散液にゴム成分を直接加えて混合してもよいし、ゴム成分を溶媒に溶解または分散させた液を調製後、該液を加えて混合してもよい。該液に対し、セルロース繊維分散液を加えて混合してもよく、混合順序はいずれでも構わない。また、ゴム成分として、ラテックスのようなエマルジョンを用いてもよい。
【0058】
尚、ゴム成分を溶解または分散させる溶媒は、上記溶媒置換工程で使用した溶媒と同じであってもよいし、また相溶するものであれば異なってもよい。
なお、上記溶媒置換工程においては、分散媒としてゴム成分を含有する溶媒を使用することもでき、この場合、上記混合工程は実施しなくてもよい。
原料分散液中におけるセルロース繊維の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
【0059】
原料分散液中におけるゴム成分の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、2重量%以上が好ましく、2.5重量%以上がより好ましく、95重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましい。
原料分散液中における分散媒の含有量は特に限定されないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、原料分散液全量に対して、1重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましく、97.5重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましい。
【0060】
原料分散液中においてゴム成分と分散媒との重量比は特に限定さないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の点から、溶媒の含有量は、ゴム成分100重量部に対して、5〜2000重量部が好ましく、25〜1000重量部がより好ましい。
原料分散液中においてセルロース繊維とゴム成分との重量比は特に限定さないが、得られる微細セルロース繊維分散液の粘度や液安定性が好適なものになるといった取扱い性の
点から、セルロース繊維の含有量は、セルロース繊維およびゴム成分の合計量(100重量部)に対して、2.5重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましく、97.5重量部以下が好ましく、97重量部以下がより好ましく、95重量部以下がさらに好ましい。
【0061】
(解繊方法)
本発明では、上記のように調製した原料分散液中で、セルロース繊維を解繊する解繊工程を備える。本発明において、解繊とは、繊維を解すことであり、通常は繊維をより小さなサイズにすることができるものである。
解繊工程(解繊処理)の具体的な方法は特に制限されないが、例えば、直径1mm程度のセラミック製ビーズをセルロース繊維濃度0.5〜50重量%、例えば、1重量%程度の原料分散液に入れ、ペイントシェーカーやビーズミル等を用いて振動を与え、セルロース繊維を解繊する方法などが挙げられる。
【0062】
また、ブレンダータイプの分散機や高速回転するスリットの間に、このような原料分散液を通して剪断力を働かせて解繊する方法(高速回転ホモジナイザー)や、高圧から急に減圧することによって、セルロース繊維間に剪断力を発生させて解繊する方法(高圧ホモジナイザー法)、マスコマイザーXのような対向衝突型の分散機(増幸産業)等を用いる方法などが挙げられる。つまり、ビーズミルによる解繊処理、噴出による解繊(微細化)処理、回転式解繊方法による解繊処理、または超音波処理による解繊処理などが挙げられる。
【0063】
特に、高速回転ホモジナイザーおよび高圧ホモジナイザーによる処理は、解繊の効率がより向上する。
これらの処理で解繊する場合は、原料分散液中の固形分濃度(セルロース繊維とゴム成分との総量)は特に制限されないが、2.5重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましく、99重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。この解繊工程に供する原料分散液中の固形分濃度が低過ぎると処理するセルロース量に対して液量が多くなり過ぎ効率が悪くなり、固形分濃度が高過ぎると流動性が悪くなる。
【0064】
高速回転ホモジナイザーの場合、周速が速い方が、剪断が掛かり、解繊効率が高くなる。周速としては15m/s以上、好ましくは30m/s以上であり、100m/s以下、好ましくは50m/s以下である。なお、周速と回転数には以下の関係が成り立つ。
周速(m/sec)=2×回転羽の半径(m)×π×回転数(rpm)/60
よって、半径15mmの回転羽を用いる場合であれば、回転数としては、例えば、10000rpm以上程度が好ましく、20000rpm以上程度が特に好ましい。なお、回転数の上限は特に制限されないが、装置の性能上の観点から、30000rpm以下程度が好ましい。回転数が5000rpm以下ではセルロース繊維の解繊が不十分になる。
【0065】
処理時間は、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が特に好ましい。なお、処理時間は生産性の点から、6時間以下が好ましい。剪断により発熱が生じる場合は、液温が50℃を越えない程度に冷却することが好ましい。
また、原料分散液に均一に剪断がかかるように、攪拌または循環することが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いる場合、原料分散液を増圧機で好ましくは30MPa以上、より好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が好ましくは30MPa以上、より好ましくは80MPa以上、さらに好ましくは90MPa以上となるように減圧する。この圧力差で生じるへき開現象により、セルロース繊維を解繊する。ここで、高圧条件の圧力が低い場合や、高圧から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維径とするための繰り返し噴出回数が多く必要となる
ため好ましくない。また、原料分散液を噴出させる細孔の細孔直径が大き過ぎる場合にも、十分な解繊効果が得られず、この場合には、噴出処理を繰り返し行っても、所望の繊維径のセルロース繊維が得られないおそれもある。
【0066】
原料分散液の噴出は、必要に応じて複数回繰り返すことにより、微細化度を上げて所望の繊維径のセルロース繊維を得ることができる。この繰り返し回数(パス数)は、通常1回以上、好ましくは3回以上で、通常20回以下、好ましくは15回以下である。パス数が多い程、微細化の程度を上げることができるが、過度にパス数が多いとコスト高となるため好ましくない。
【0067】
高圧ホモジナイザーの装置は特に制限されないが、例えば、ガウリン社製や、スギノマシン社製の「スターバーストシステム」を用いることができる。
噴出時の高圧条件が高いほど、圧力差により大きなへき開現象でより一層の微細化を図ることができるが、装置仕様の上限として、通常245MPa以下である。
同様に、高圧条件から減圧下への圧力差も大きいことが好ましいが、一般的には、増圧機による加圧条件から大気圧下に噴出することで、圧力差の上限は通常245MPa以下である。
【0068】
また、原料分散液を噴出させる細孔の直径は小さければ容易に高圧状態を作り出せるが、過度に小さいと噴出効率が悪くなる。この細孔直径は、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましく、800μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、350μm以下がさらに好ましい。
噴出時の温度(分散液温度)には特に制限はないが、通常5℃以上100℃以下である。温度が高すぎると装置、具体的には送液ポンプや高圧シール部等の劣化を早める恐れがあるため好ましくない。
【0069】
なお、噴出ノズルは1本でも2本でもよく、噴出させた原料分散液を噴出先に設けた壁やボール、リングにぶつけてもよい。更にノズルが2本の場合には、噴出先で原料分散液同士を衝突させてもよい。
なお、このような高圧ホモジナイザーによる処理のみでも、本発明の微細セルロース繊維分散液を得ることは可能である。その場合には、十分な微細化度とするための繰り返し回数が多くなり、処理効率が悪いことから、1〜5回程度の高圧ホモジナイザー処理後に後述の超音波処理を行って微細化することが好ましい。
【0070】
本発明において、超音波処理が施される、解繊処理が施された原料分散液(以後、適宜、超音波処理用原料分散液と称する)中のセルロース濃度は、液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
超音波を照射する超音波処理用原料分散液中のセルロース濃度が低過ぎると非効率であり、高過ぎると粘度が高くなり解繊処理が不均一になる。
【0071】
<微細セルロース繊維分散液>
上記解繊工程を経て得られた微細セルロース繊維分散液中には、微細セルロース繊維が均一に分散しており、微細セルロース繊維の凝集や沈降が抑制され、優れた液安定性を有する。
また、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する該分散液を用いて得られる加硫工程後の複合体中においては、微細セルロース繊維が加硫ゴム成分中に均一に分散し、高弾性率、低発熱性を示す。
【0072】
(セルロースI型結晶)
上記解繊工程によって得られる微細セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶は、他の結晶構造より結晶弾性率が高いため、高弾性率、高強度、低線膨張係数であり好ましい。
微細セルロース繊維がI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0073】
(微細セルロース繊維の数平均繊維径)
上記方法によって得られた微細セルロース繊維分散液中の微細セルロース繊維の数平均繊維径は、分散液中の分散媒を乾燥除去した後、SEMやTEM等で観察することにより計測して求めることができる。
本発明により得られる解繊された微細セルロース繊維の数平均繊維径は、得られる複合体がより優れた低線膨張性を示す点より、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。更に好ましくは50nm以下である。尚、この数平均繊維径の下限は通常4nm以上である。
【0074】
なお、上記数平均繊維径は、SEMやTEM等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点を測定して、平均した値である。
微細セルロース繊維分散液中における微細セルロース繊維の含有量は使用される出発原料であるセルロース繊維量によって適宜調製されるが、分散液の安定性の点から、分散液全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0075】
平均繊維径が上記の範囲未満の場合は、セルロースのI型結晶が壊れており、繊維自体の強度や弾性率が低下するため、補強効果が得られ難い。また、上記範囲を超える場合はゴムとの接触面積が小さくなるため、補強効果が小さくなる。
なお、微細セルロース繊維分散液中の分散媒、ゴム成分は、上述した原料分散液の各成分の含有量と同じであり、好適な範囲も同じである。
【0076】
また、微細セルロース繊維とゴム成分との重量比は、上記セルロース繊維とゴム成分との重量比と同じである。さらに、ゴム成分と分散媒との重量比も、上述の通りである。
繊維量が少ないと補強効果が充分でなく、逆に多いとゴムの加工性が低下する場合がある。
(乾燥)
得られた微細セルロース繊維分散液を以下に詳述する加硫反応に用いる場合は、通常、加熱処理、減圧処理等を行うことにより、該微細セルロース繊維分散液を乾燥、固化などさせ、分散液中の溶媒(分散媒)を除去する。溶媒(分散媒)はその後の工程にあわせ、適当な量を除去すればよい。加熱処理の場合、加熱温度は、溶媒(分散媒)が水である場合には、通常100℃程度であり、分散液に含まれる溶媒(分散媒)の種類により適宜変化させることができる。
【0077】
<その他添加剤>
本発明の微細セルロース繊維分散液には、必要に応じて表面を改質した微細セルロース繊維、ゴム成分の他に、従来ゴム工業で使用される他の配合剤を添加してもよい。たとえば、他の補強剤としてシリカ粒子やカーボンブラック、繊維などの、無機、有機のフィラー、シランカップリング剤、以下に説明する加硫剤、ステアリン酸、アミン類、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの加硫促進剤や加硫促進助剤、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、通常は、解繊処理後の微細セルロース繊維分散液に添加するが、あらかじめ、原料分散液中に添加させてもよい。
【0078】
(加硫剤)
加硫剤としては、有機過酸化物または硫黄系加硫剤を使用することが可能である。有機過酸化物としては従来ゴム工業で使用される各種のものが使用可能であるが、中でも、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼンおよびジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができ、中でも硫黄が好ましい。これらの加硫剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明の微細セルロース繊維分散液中の加硫剤の配合量としては、ゴム成分100重量部に対して硫黄の場合、7.0重量部以下、好ましくは6.0重量部以下である。また、通常0.5重量部以上、好ましくは1.0重量部以上、より好ましくは3.0重量部以上、中でも4.0重量部以上である。
[II.セルロース繊維複合体の製造方法]
本発明のセルロース繊維複合体の製造方法は、本発明の微細セルロース繊維分散液の製造方法を経て得られる本発明の微細セルロース繊維分散液を加硫反応させ、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体(以下、本発明のセルロース繊維複合体と称することがある。)を得る複合化工程を備える。なお、本発明のセルロース繊維複合体の製造方法は、必要に応じて、該複合化工程の前にゴム成分を添加する添加工程を備えていてもよい。
【0080】
<複合化工程>
複合化工程では、微細セルロース繊維分散液を用いて、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体を得る。例えば、微細セルロース繊維分散液を加硫反応させることにより(加硫工程)、微細セルロース繊維と加硫ゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体を得ることができる。本発明のセルロース繊維複合体は、本発明の微細セルロース繊維分散液から、必要に応じて溶媒を除去し、更にゴム成分と前述の各種配合剤を、ゴム用混練機等、公知の方法を用いて混合した後、成形して、公知の方法で加硫反応させることにより得られる。
【0081】
加硫工程に先立つ成形には、各種の方法が可能であり、例えば、微細セルロース繊維分散液を、基板上へ塗布して塗膜状としてもよく、型内に流し込んでもよく、或いはは押し出し加工してもよい。この際、必要に応じて、乾燥処理を施して、溶媒を除去してもよい。
たとえば、本発明のタイヤを例にとると、本発明のタイヤは本発明のセルロース繊維分散液を用いて、従来公知の方法で製造される。すなわち、ゴム成分中に分散したセルロース繊維から水分やその他溶媒を除去し、必要な配合剤を加えてゴム組成物とし、混練りして、未加硫状態でタイヤの所望の適用部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤの他の部材とともにタイヤ成形機上にて通常の方法により成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明のセルロース繊維複合体を用いたタイヤを得ることができる。かかる本発明のタイヤは、転がり抵抗が小さく、良好な操縦安定性、耐久性を有する。
【0082】
加硫工程の条件は特に限定されず、ゴム成分を加硫ゴムとできる温度以上であればよい。なかでも、有機溶媒を揮発させて除去できる点から、加熱温度は、60℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。なお、微細セルロース繊維の分解を抑制する点から、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。加熱時間は、生産性などの点から、5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上、180分以下が好ましい。加熱処理は複数回にわたって、温度・加熱時間を変更して実施してもよい。
【0083】
<セルロース繊維複合体>
(微細セルロース繊維の数平均繊維径)
上記方法によって得られたセルロース繊維複合体中の微細セルロース繊維の数平均繊維径は、複合体を必要に応じて切り出し、SEMやTEM等で観察することにより計測して求めることができる。
【0084】
本発明により得られる解繊された微細セルロース繊維の数平均繊維径は、得られる複合体がより優れた低線膨張性を示す点より、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。更に好ましくは50nm以下である。尚、この数平均繊維径の下限は通常4nm以上である。
なお、上記数平均繊維径は、SEMやTEM等で観察して、写真の対角線に線を引き、その近傍にある繊維をランダムに12点抽出し、最も太い繊維と最も細い繊維を除去した10点を測定して、平均した値である。
【0085】
(微細セルロース繊維の含有量)
セルロース繊維複合体中における微細セルロース繊維の含有量は目的に応じて適宜調製されるが、補強の点から、複合体全量に対して、0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0086】
平均繊維径が上記の範囲未満の場合は、セルロースのI型結晶構造が維持できず、繊維
自体の強度や弾性率が低下し、補強効果が得られ難い。また、上記範囲を超える場合はゴムとの接触面積が小さくなるため、補強効果が小さくなる。
なお、セルロース繊維複合体中に含まれる微細セルロース繊維とゴム成分との重量比は、上記原料分散液および微細セルロース繊維分散液におけるセルロース繊維とゴム成分との重量比と同じである。
繊維量が少ないと補強効果が充分でなく、逆に多いとゴムの加工性が低下する場合がある。
【0087】
(微細セルロース繊維の分散状態)
このようにして得られる本発明のセルロース繊維複合体は、数平均繊維径が4〜400nm、好ましくは4〜100nm、更に好ましくは4〜50nm以下の微細セルロース繊維が凝集塊を作ることなく加硫ゴム成分中に安定に分散しており、微細セルロース繊維による補強効果によって、高い弾性率が達成されると同時に、繊維径が細いためにゴム本来の伸びが阻害されないため、高い破断のびとが達成されると考えられる。即ち、補強ゴムとして、耐久性及び剛性に優れた特性を示し、タイヤ等のゴム製品に好適に用いられる。
なお、本発明のセルロース繊維複合体における、微細セルロース繊維の分散状態は、SEM等により断面構造を観察することにより確認することができる。
【0088】
(弾性率)
本発明のセルロース繊維複合体の好ましいものは、弾性率が25MPa以上、中でも4MPa以上、10GPa以下である。
なお、弾性率は、セルロース繊維複合体(加硫ゴム)より2mm厚のゴムスラブシートを作製し、10x40x2mmの測定用試験片を切り出し、SII社製DMS6100等の粘弾性装置を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、E*(複素弾性率)を測定することにより求めることができる。
【0089】
(破断伸び)
本発明のセルロース繊維複合体の好ましいものは、破断伸びが200%以上、中でも400%以上、10000%以下、好ましくは2000%以下である。
なお、破断伸びは、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、測定することができる。
【実施例】
【0090】
以下、製造例、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
(製造例1 セルロース繊維1の調製)
セルロース繊維原料として広葉樹クラフトパルプ(以下LBKPと略する)を用いた。LBKP 200g(固形分20%、水分80%、絶乾セルロース換算で40g)を0.
1M硫酸500mlに懸濁し撹拌した。この懸濁液をろ紙を用いて減圧ろ過して希硫酸で湿潤したLBKPを得た。このLBKPをセパラブルフラスコ内に収め、オゾンガス発生機(エコデザイン社製ED-OG-A10型)から発生するオゾン含有酸素ガス(ガス流速2L/
min、オゾン濃度32g/m)への通気暴露を5時間行い、セルロースの水酸基の一部をカルボキシ基に置換した。その後、セパラブルフラスコよりLBKPを取り出し、イオン交換水で懸濁洗浄を繰り返し行い、洗浄水のpHが4.5以上をもって洗浄の終点とした。
【0091】
得られたセルロース繊維50g(絶乾セルロース換算で10g)に、pH4に調整された2%亜塩素酸ナトリウム水溶液150gを注ぎ、撹拌した後、室温で48時間静置してさらに酸化処理を行った。その後、イオン交換水で懸濁洗浄を繰り返し行い、洗浄水のpHが8以下をもって洗浄の終点とした。ろ紙を用いて減圧ろ過し、蒸留水を加えて、セルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液1(固形分5%)を得た。
【0092】
(製造例2 セルロース繊維2の調製)
セルロース繊維含有物としてベイマツの木粉(B.D.(絶乾重量)15g)を用いた。ベイマツの木粉を2重量%炭酸ナトリウム水溶液中に懸濁させ、90℃で5時間攪拌して脱脂処理した。脱脂処理後、ろ別したセルロース繊維の原料を10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した後、蒸留水を加えて濃度を調製し、スラリー状にした。
【0093】
次に、無水酢酸と30%過酸化水素を液量として1:1に分散し、過酸水溶液を調製した。該スラリー状のセルロース繊維の原料(B.D.15g)に対して、該過酸水溶液750ml(過酸化水素当量で4.5%に相当)を加え、90℃で1時間脱リグニン処理した。脱リグニン処理後、ろ別したセルロース繊維の原料を10倍量の蒸留水で洗浄した。
次に、得られたスラリー状のセルロース繊維の原料(B.D.15g)に5重量%水酸化カリウム水溶液を加え、室温で24時間浸漬し、脱ヘミセルロース処理した。脱ヘミセルロース処理後、ろ別したセルロース繊維の原料を10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した後、蒸留水を加えて、セルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液2(固形分5%)を得た。
【0094】
(製造例3 セルロース繊維3の調製)
製造例1で得られたセルロース繊維分散液1を濾過により脱水した。これを酢酸中に分散して濾過する工程を3度行い、水を酢酸に置換した。トルエン25ml、酢酸20ml、60%過塩素酸水溶液0.1mlを分散させておき、そこに酢酸置換したセルロース繊維1gを添加した後、無水酢酸1.3mlを添加し、攪拌しながら1時間反応させ、セルロースの水酸基の一部をアセチル基に置換した。反応後、反応液を濾過して、メタノール、脱塩水の順で洗浄し、セルロース繊維を含有するセルロース繊維分散液3を得た。
得られたセルロース繊維の化学修飾率を、上述した化学修飾率の測定方法に従って求めたところ、30.7mol%であった。
【0095】
(実施例1)
天然ゴムラテックス(NR-LATEX、ハイラテック社製、固形分濃度61%)100重量部に対し、セルロース繊維として、製造例1で得られたセルロース繊維分散液1(固形分5%)を乾燥重量が10重量部となるように加え、セルロース繊維濃度が0.5重量%となるように蒸留水を加えてセルロース繊維‐天然ゴム分散液(原料分散液)を調製した(第1工程)。
【0096】
得られた原料分散液を回転式高速ホモジナイザー(エム・テクニック社製クレアミックス2.2S)にて20000rpm(周速31.4m/sに相当)で10分処理してセルロース繊維の解繊を行い、微細セルロース繊維が分散した微細セルロース繊維‐天然ゴム分散液(微細セルロース繊維分散液)を得た(解繊工程/第2工程)。
この微細セルロース繊維分散液をバットに入れ、110℃のオーブン中にて乾燥固化(溶媒除去)し、セルロース繊維配合天然ゴムを得た(第3工程)。
【0097】
セルロース繊維配合天然ゴムのゴム成分100重量部に対して、下記の表1に示す配合に従い、セルロース繊維複合体を作製した。詳細には、セルロース繊維配合天然ゴムに対し、加硫促進剤と硫黄を除く成分を添加し、140℃で5分間混練した(第4工程)。混練装置は東洋精機社製ラボプラストミルμを使用した。
この第4工程で得られた分散物に加硫促進剤と硫黄を添加し、80℃で3分間混練した(第5工程)。この第5工程で得られた分散物を160℃で20分間加圧プレス加硫し、厚さ2mmのセルロース繊維複合体を得た。
【0098】
(実施例2)
セルロース繊維分散液1に代えて、製造例2で得られたセルロース繊維分散液2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして微細セルロース繊維分散液およびセルロース繊維複合体を得た。
(実施例3)
セルロース繊維分散液1に代えて、製造例3で得られたセルロース繊維分散液3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして微細セルロース繊維分散液およびセルロース繊維複合体を得た。
【0099】
(比較例1)
セルロース繊維を用いず、下記の表1に示す配合に従い、実施例1と同様の方法で、ゴムを作製した。
(比較例2)
実施例1において、解繊工程(第2工程)を省略してセルロース繊維複合体を作製した。すなわち、ゴム成分として天然ゴムラテックス(固形分濃度61%)100重量部に対し、製造例1で得られたセルロース繊維分散液1(固形分5%)を乾燥重量が10重量部
となるように加え、セルロース繊維濃度が0.5重量%となるように蒸留水を加えてセルロース繊維‐天然ゴム分散液(原料分散液)を調製した(第1工程)。
【0100】
この原料分散液をバットに入れ、110℃のオーブン中にて乾燥固化し、セルロース繊維配合天然ゴムを得た(第3工程)。
セルロース繊維配合天然ゴムのゴム成分100重量部に対して、下記の表1に示す配合に従い、セルロース繊維複合体を作製した。詳細には、セルロース繊維配合天然ゴムに対し、加硫促進剤と硫黄を除く成分を添加し、140℃で5分間混練した(第4工程)。混練装置は東洋精機社製ラボプラストミルμを使用した。この第4工程で得られた分散物に加硫促進剤と硫黄を添加し、80℃で3分間混練した(第5工程)。この第5工程で得られた分散物を160℃で20分間加圧プレス加硫し、厚さ2mmのセルロース繊維複合体を得た。
【0101】
(比較例3)
セルロース繊維分散液1に代えて、製造例2で得られたセルロース繊維分散液2を用いたこと以外は、比較例2と同様の方法で微細セルロース繊維分散液およびセルロース繊維複合体を得た。
<評価試験1>
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたセルロース繊維複合体を所定のダンベル形状の試験片にし、M300を評価した。評価方法は以下の通りである。
【0102】
M300:JIS K6251に準じた引っ張り試験により、300%伸長時の引張り
応力を測定し、天然ゴムのみ(比較例1)の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど補強性に優れることを示す。
結果を表1に示す。表1に示す結果から、実施例のようにして得られたセルロース繊維複合体は、天然ゴムのみである比較例1や原料分散液中で解繊していない比較例2〜3と比べ、高い弾性率を示し、補強性に優れることが分かる。原料分散液中で解繊することにより、セルロース繊維が微細になり、加硫ゴム成分中での分散性が格段に優れた結果と考えられる。
【0103】
【表1】

【0104】
注)*1:浅岡窯業原料社製1号亜鉛華、*2:和光純薬工業社製 N-tert-ブチル-2-ベン
ゾチアゾールスルフェンアミド、
*3:鶴見化学工業社製 5%油処理粉末硫黄、*4:和光純薬工業社製 ステアリン酸
<評価試験2>
実施例1と比較例2得られたセルロース繊維複合体を、評価試験1と同様に、所定のダンベル形状の試験片にし、tanδを測定し評価した。評価方法は以下の通りである。
【0105】
tanδ:JIS K6394に準じて、温度70℃、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%の条件で損失係数tanδを測定し、比較例2の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低発熱性に優れることを示す。
結果を表2に示す。表2に示す結果から、実施例1のようにして得られたセルロース繊維複合体は、原料分散液中で解繊していない比較例2と比べ、低発熱性に優れることが分かる。原料分散液中で解繊することにより、セルロース繊維が微細になり、加硫ゴム成分中での分散性が格段に優れた結果と考えられる。(表2中の*1〜4は表1と同じ)
【0106】
【表2】

【0107】
(製造例4)
木粉((株)宮下木材、米松100、粒径50〜250μm、平均粒径138μm)を炭酸ナトリウム2重量%水溶液で80℃にて6時間脱脂した。これを脱塩水で洗浄した後、亜塩素酸ナトリウムを用いて酢酸酸性下、80℃にて5.5時間脱リグニンした。これを脱塩水で洗浄した後、水酸化カリウム5重量%水溶液に16時間浸漬して、脱ヘミセルロース処理を行った。これを脱塩水で洗浄し、セルロース繊維(数平均繊維径60μm)を得た。
【0108】
(製造例5)
製造例4において、脱ヘミセルロースして、脱塩水洗浄したセルロース繊維を濾過により脱水した。これを酢酸中に分散して濾過する工程を3度行い、水を酢酸に置換した。トルエン25ml、酢酸20ml、60%過塩素酸水溶液0.1mlを混合しておき、そこに酢酸置換したセルロース繊維1gを添加した後、無水酢酸1.3mlを添加し、攪拌しながら1時間反応させた。反応後、反応液を濾過して、メタノール、脱塩水の順で洗浄した。
【0109】
得られたアセチル化セルロース繊維の化学修飾率を、上述した化学修飾率の測定方法に従って求めたところ、0.16mol%であった。
(製造例6)
製造例4において、脱ヘミセルロースして、脱塩水洗浄したセルロース繊維を濾過により脱水した。これを酢酸中に分散して濾過する工程を3度行い、水を酢酸に置換した。30gの酢酸に酢酸ナトリウム1gを溶解させ、ここに得られたセルロース繊維1gを分散させた。この分散液を80℃に加温し、ベンゾイルクロライドを2.1g添加し、攪拌しながら5時間反応させた。反応後、反応液を濾過して、メタノール、脱塩水の順で洗浄した。
【0110】
このベンゾイル化セルロース繊維の化学修飾率を、上記のようにして求めたところ、0.37mol%であった。
(実施例4)
製造例5で得られた含水アセチル化セルロース繊維(繊維含有量5重量%、残部は主に
水)100重量部に天然ゴムラテックス(固形分濃度60%) 75重量部を加える。アセチル化セルロース繊維とゴムラテックスの重量比は1:9である。さらに、水を加えてセルロース濃度1重量%とする。
【0111】
得られた原料分散液を回転式高速ホモジナイザー(エム・テクニック社製クレアミックス2.2S)にて20000rpm(周速31.4m/sに相当)で30分処理して、セルロース繊維の解繊を行い、微細セルロース繊維が分散した微細セルロース繊維分散液を得る。
次に、この分散液中の水を100℃のオーブン中にて乾燥固化する。得られた微細セルロース繊維とゴムラテックスの混合物100重量部に対して加硫促進剤を1重量部、カーボンブラックを50重量部、亜鉛華3重量部、硫黄1.5重量部を添加し、ラボ混錬機にて通常の混練を行う。次に加圧プレス機を用いて160℃で20分間加熱加硫を行う。
【0112】
このようにして得られるセルロース繊維複合体は、解繊後のセルロース繊維に対してゴム成分を配合して得られる従来のセルロース繊維複合体に比し、加硫ゴム成分中での微細セルロース繊維の凝集が少なく、分散性が格段に優れると考えられる。このため、通常のゴムは弾性率を高めると破断伸度が低下するのに対し、少なくとも数平均繊維径100nm以下、好ましくは50nm以下に解繊されると予想される微細セルロース繊維を6.4重量部含む本発明のセルロース繊維複合体は、高い弾性率を示すと同時に、破断伸びにおいても、優れた特性を示すことが推測されるのである。
【0113】
また、上記混錬後の未加硫状態の組成物で、タイヤの所望の適用部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤの他の部材とともにタイヤ成形機上にて通常の方法により成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で過熱加圧することにより、本発明のセルロース繊維組成物を用いたタイヤを得ることができる。かかる本発明のタイヤは、転がり抵抗が小さく、良好な操縦安定性、耐久性を有すると考えられる。
【0114】
(実施例5)
製造例6で得られた含水ベンゾイル化セルロース繊維を用いること以外は実施例4記載の方法で微細セルロース繊維分散液および複合体を得る。
実施例4と同様優れた特性を示すと考えられる。
(比較例4)
セルロース繊維を入れずに天然ゴムラテックスのみを用いて、実施例4記載の方法で加硫ゴムを製造する。
【0115】
セルロースを含まないゴムは、弾性率が低く、これを用いて製造したタイヤは転がり抵抗が高く、耐久性に劣る。
(比較例5)
製造例5で得られた含水アセチル化セルロース繊維の代わりに、ダイセル化学工業社製セリッシュYG−100G(繊維含有率10重量%、水分90重量%、平均繊維径0.1μm)を67mol%アセチル化したセルロース繊維を調製して用いた。該アセチル化セルロース繊維分散液(繊維含有率10重量%、水分90重量%)50重量部に天然ゴムラテックス(固形分濃度60%)75重量部を加え、さらに、水を加えてセルロース濃度1重量%とする。
【0116】
得られた原料分散液を回転式高速ホモジナイザー(エム・テクニック社製クレアミックス2.2S)にて7000rpm(周速11.0m/sに相当)で10分処理して、セルロース繊維とゴムラテックスの混合を行い、セルロース繊維分散液を得る。
次に、この分散液中の水を100℃のオーブン中にて乾燥固化する。ここに、セルロー
ス繊維とゴムラテックスの複合体100重量部に対して加硫促進剤を1重量部、カーボンブラックを50重量部、亜鉛華3重量部、硫黄1.5重量部を添加し、ラボ混錬機にて通常の混練を行う。次に加圧プレス機を用いて160℃で20分間加熱加硫を行う。
【0117】
この分散複合体ではセルロース径が100nm程度であるセルロース繊維が配合されているため、比較例4よりも高弾性、高破断強度を示すが、微細セルロース繊維の水分散液にゴムラテックスを混合していることから、本願実施例4〜6に比べると、複合体におけるセルロース繊維の分散性は劣ると考えられ、従って、実施例4〜6ほどの優れた特性は示さないと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、補強性が向上したゴム組成物を製造することができるので、各種タイヤのゴム部材やホース、ベルト、防振シートなどに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維とゴム成分とを含有する微細セルロース繊維分散液の製造方法であって、セルロース繊維とゴム成分とを含有する原料分散液中で、セルロース繊維を解繊して、微細セルロース繊維を得る解繊工程を備えることを特徴とする、微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項2】
前記セルロース繊維が、化学修飾されたセルロース繊維である、請求項1に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の微細セルロース繊維分散液の製造方法より得られる、微細セルロース繊維分散液。
【請求項4】
請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液を用いて製造される、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体。
【請求項5】
請求項3に記載の微細セルロース繊維分散液を用いて、微細セルロース繊維とゴム成分とを含有するセルロース繊維複合体を得る複合化工程を備える、セルロース繊維複合体の製造方法。
【請求項6】
前記複合化工程前に、前記微細セルロース繊維分散液にさらにゴム成分を添加する添加工程を備える、請求項5に記載のセルロース繊維複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のセルロース繊維複合体を用いてなるタイヤ。

【公開番号】特開2012−25949(P2012−25949A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141060(P2011−141060)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】