説明

微細パターンを有するプレート部材

【課題】“剛性”や“ビーズ収容特性”などを考慮しつつも、ビーズのウェル通過現象に好適に対処した微細構造体を提供すること。
【解決手段】同一形状の複数の凹部から構成された微細パターンを有するプレート部材であって、凹部を形成している側壁面が、その凹部の開口面側に位置する第1側壁部と凹部の底面側に位置する第2側壁部とから少なくとも構成されており、水平面に対する第1側壁部の傾斜角度α1(プレート部材の中実部側の傾斜角度)が水平面に対する第2側壁部の傾斜角度α2(プレート部材の中実部側の傾斜角度)よりも小さくなっていることを特徴とするプレート部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細パターンを有するプレート部材に関する。より詳細には、ミクロンオーダーの複数の凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンオーダー以下の微細構造は、一般的に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)やμ-TAS(Micro Total Analysis System)などの幅広い分野において用いられており、機械加工やフォトリソグラフィーなどの技術が応用されている。
【0003】
近年、このような微細構造作製技術は、化学、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においても適用されており、作製された微細構造体は、物質もしくは細胞などの分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などの各種処理に好適に用いられている。そのような微細構造体は、一般的に、平板状(もしくはチップ状)のプレート形態又はこれらを積層して成る積層形態を有しており、例えば、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等の他、マイクロ化学チップ、バイオチップ、DNA(deoxyribonucleic acid)チップ、マイクロアレイチップ等と称されている。
【0004】
例えば、DNA解析に用いることができるマイクロアレイチップを例にとると、大量の情報を一度に処理・解析を行うためにチップ上に数千個〜数十万個という多くの微細な“凹部”ないしは“窪み”を作製する必要がある。かかる“凹部”または“窪み”は一般にウェルと呼ばれており、マイクロビーズや液体(反応液)などを収容することができる(例えば、各ウェルの容積を一定にすると、規定容量の反応液をウェルに溜めることができる)。
【0005】
このようにウェルを多数設ける必要があるので、微細構造を1つ1つ機械加工するよりも、フォトリソグラフィーを用いて一括露光によって作製することが適している。つまり、フォトリソグラフィーを用いてレジストマスタを作製して、それからスタンパを作製し、次いで、そのスタンパを金型として用いた射出成形やホットエンボスなどの転写技術を適用することによって、微細構造体を一括して得ている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】住友ベークライト株式会社の製品情報(製品名:培養用マルチプレート)[online]、[平成22年12月17日検索]、インターネット〈URL:http://www.sumibe.co.jp/sumilon/plate.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者らは、上記のウェルプレート等の構造体につき鋭意検討した結果、その使用時にて“微細構造”に特有の問題があることを見出した。具体的には、マイクロビーズと液体(反応液)との混合物を微細構造体に供した際、本来ウェル内へと沈降すべきビーズが、ウェルに捕集されずに通り過ぎてしまう現象を見出した(以下「ウェル通過現象」とも称す)。
【0008】
“ウェル通過現象”は、ウェル間の構造体平坦部上をマイクロビーズが通り過ぎることによって発生する。個々のマイクロビーズは液体に懸濁・分散しており、液体の流れに左右されてビーズの動きは非常に複雑となる。よって、ウェル間の平坦部を通り過ぎるビーズの進路につき制御を行うことは困難である。
【0009】
解決策として、ウェル配列のピッチを狭めて平坦部分を少なくする手法が考えられるものの、各ウェルを形成する側壁部分が薄くなるので微細構造体の剛性が低下し、結果的に構造的に弱いプレートとなってしまう。ウェルサイズはミクロンオーダーであるために、構造体自体の剛性がそもそも高くなく、それゆえ、ウェル間の距離を縮めることは困難である。つまり、平坦部分の寸法を単純に狭くすることはできない。
【0010】
また、ウェルにおけるビーズ収容率を上げるために、単にウェル径を大きくする手法も考えられる。しかしながら、ウェル径を大きくすることも、各ウェルを形成する側壁部分が薄くなることにつながるので、プレート構造が弱くなって剛性が低下してしまう。側壁幅を変更せずにウェル径を大きくすると、ウェルのピッチ自体を変更する必要があり、製造装置全体の設計変更が必要となってしまう。
【0011】
更にいえば、ウェル径を大きくする場合においては、ウェル自体の容積が必要以上に増加する可能性があり、ウェル内へと収容されるマイクロビーズが想定数以上となり得る。その結果、反応液とビーズ表面積との関係を当初の計画・予定から変更するなどの数々の仕様変更を余儀なくされてしまう。特に、ウェル内に収容されるマイクロビーズの数が予め決められ、それに応じて容積が決定されている場合が多いので、かかる場合においてウェル径を安易に大きくすることはできない。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、“剛性”や“ビーズ収容特性”などを考慮しつつも、ビーズのウェル通過現象に好適に対処できる微細構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、実質的に同一形状の複数の凹部から構成された微細パターンを有するプレート部材であって、
凹部を形成している側壁面が「凹部の開口面側に位置する第1側壁部」と「凹部の底面側に位置する第2側壁部」とから少なくとも構成されており、
水平面に対する第1側壁部の傾斜角度α1(プレート部材の中実部側の傾斜角度)が第2側壁部の傾斜角度α2(プレート部材の中実部側の傾斜角度)よりも小さくなっていることを特徴とするプレート部材が提供される。
【0014】
本発明の特徴の1つは、凹部の側壁面が傾きの異なる少なくとも2つの部分から構成されており、より上側(開口面側)に位置する第1側壁部が、より下側(底面側)に位置する第2側壁部よりも傾きが緩やかになっていることである(図1参照)。これにより、凹部容積・ウェル容積の増加および構造体の剛性低下を抑制しつつも、マイクロビーズを効率的に凹部(ウェル)内へと導くことができる微細構造体を実現している。
【0015】
本明細書において「微細パターン」とは複数の微細な凹部が連続することで構成されたパターンのことである。連続する複数の微細凹部は微細な凹凸形状を結果として生じるので、「微細パターン」は微細な凹凸形状から成るパターンであるともいえる。本発明において、かかる「微細パターン」は、その微細な凹凸形状を構成する“微細凹部(もしくは微細な窪み)”または“微細凸部(もしくは微細な隆起部)”の寸法(幅・高さ・深さなどの寸法)が、ミクロンオーダー(0.1μm〜1000μmの範囲、例えば1μm〜600μm)となっているものを実質的に意味している。例えば、プレート部材がウェルプレートなどに相当する場合では“微細凹部”または“微細な窪み”はウェル形状を成すことが多い一方、プレート部材がマイクロ化学チップなどに相当する場合では“微細凹部”または“微細な窪み”はチャンネル形状(溝形状)や流路形状を成すことが多い。
【0016】
また、本明細書にいう「プレート部材」とは、化学、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野などで用いられる“板状”または“チップ状”の部材のことを指している。かかるプレート部材は、例えば100μm〜50mm程度の厚さを一般に有し得る。
【0017】
ある好適な態様では、第1側壁部の傾斜角度α1が第2側壁部の傾斜角度α2に対して5°〜60°小さくなっている。第1側壁部の傾斜角度自体(α1)は、例えば、30°〜70°の範囲となっていることが好ましい。一方、第2側壁部の傾斜角度自体(α2)は、例えば、75°〜90°の範囲となっていることが好ましい。
【0018】
別のある好適な態様では、各凹部の幅寸法のうち、鉛直方向(即ち凹部深さ方向)に沿ってみた場合に最も開口面側に位置する幅寸法L開口部が最も大きくなっている。特に、「最も開口面側に位置する幅寸法L開口部」は、複数の凹部配列のピッチ以下の長さとなっていることが好ましい。
【0019】
第1側壁部および第2側壁部の形態としては、例えば、第1側壁部および第2側壁部の少なくとも一方が曲面形状を成していてよい。あるいは、第1側壁部および第2側壁部の少なくとも一方が平面形状を成していてよい。換言すれば、第1側壁部と第2側壁部とが共に曲面形状あるいは平面形状を成していてもよいし、第1側壁部が曲面形状を成していて第2側壁部が平面形状を成していたり、あるいはその逆で、第1側壁部が平面形状を成していて第2側壁部が曲面形状を成していてよい。
【0020】
ある好適な態様では、第1側壁部と第2側壁部との境界部分が角張っている。即ち、第1側壁部と第2側壁部との境界部分において角が出ている。かかる場合、例えば、第1側壁部が曲面形状を成している一方、第2側壁部が平面形状を成してしてよい。
【0021】
別のある好適な態様では、第1側壁部と第2側壁部との境界部分が平滑になっている。つまり、第1側壁部と第2側壁部との境界部分が角張ることなく連続的に滑らかに形成されている。
【0022】
更に別のある好適な態様では、各凹部が、第2側壁部よりも更に底面側に位置する第3側壁部を有している。かかる場合、水平面に対する第3側壁部の傾斜角度α3(プレート部材の中実部側の傾斜角度)は、第1側壁部の傾斜角度α1および第2側壁部の傾斜角度α2よりも大きくなっていることが好ましい。
【0023】
各凹部の底面はいずれの形態を有していてよい。例えば、凹部の底面が平面のみならず、円錐面または半球状面を成していてよい(あるいは、凹部断面で見た場合に円弧形を成す底面であってもよい)。また、各凹部においては上記の第1〜第3の側壁部などとは別の側壁部が付加的に設けられていてよい。例えば、「第1側壁部よりも更に開口面側に位置する垂直側壁部(水平面に対する垂直側壁部の傾斜角度が90°)」を凹部が更に有するものであってもよい。
【0024】
本発明では、上述のプレート部材を成形するために用いる金属製金型も提供される。かかる金属製金型は好ましくはロール状または平面板状の形態を有している。このような金属製金型は、Ni(ニッケル)、Ag(銀)、Au(金)、Bi(ビスマス)、Cd(カドミウム)、Co(コバルト)、Cr(クロム)、Cu(銅)、Fe(鉄)、In(インジウム)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、Ru(ルテニウム)、Sn(スズ)およびZn(亜鉛)から成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属を含んで成る。
【発明の効果】
【0025】
本発明のプレート部材では、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。つまり、本発明のプレート部材は、その剛性を実質的に損なわずに、“ウェル通過現象”に好適に対処されたものとなっている。
【0026】
特に、プレート部材において微細凹部が高密度に配されていたとしても(例えば、各凹部にて最も開口面側に位置する幅寸法L開口部が凹部配列のピッチ以下の長さであったとしても)、隣接する凹部間のプレート中実部が肉厚となっているので、プレート部材の剛性が実質的に損なわれていない。
【0027】
このように剛性を保ちつつも、微細凹部が高密度であり、かつ、第1側壁部の傾斜角度に起因して凹部(ウェル)の開口部分が広くなっているので、本発明のプレート部材はマイクロビーズを凹部へと効果的に誘導することができる(図2参照)。また、凹部(ウェル)の開口部分はそのように広くなっているといえども、凹部(ウェル)の底側に向けて凹部幅寸法が小さくなっているので、一旦凹部に収容されたビーズは抜け出にくいものとなっている。
【0028】
更にいえば、凹部の底側部分の幅寸法や第2側壁部の傾斜角度などを適宜調整することによって、所定の個数(例えば1個)のビーズのみを各凹部に収容する設計も可能である。この点、第1側壁部の傾斜角度などとも併せて考慮することによって、所定のビーズ個数を凹部に収容するように制御しつつも、適量の液体を凹部に保持することができるプレート部材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明に係る凹部形状(ウェル形状)を模式的に示した斜視図および断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る凹部(ウェル)に対してマイクロビーズが捕捉される態様を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図4】図4は、図3における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図5】図5は、“傾斜角度”を説明するための図である。
【図6】図6は、“傾斜角度”(特に曲面を成す側壁部の傾斜角度)を説明するための図である。
【図7】図7は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図8】図8は、図7における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図9】図9は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図10】図10は、図9における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図11】図11は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図12】図12は、図11における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図13】図13は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図14】図14は、図13における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図15】図15は、本発明に係るプレート部材および凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図である。
【図16】図16は、図15における凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図17】図17は、本発明に係る凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図18】図18は、本発明に係る凹部(ウェル)の態様を模式的に示した斜視図、上面図および補足図である。
【図19】図19は、従来技術として比較例1の凹部(ウェル)の態様を模式的に示した図である。
【図20】図20は、比較例1で用いたクロムマスクを模式的に示した平面図である。
【図21】図21は、実施例1で用いた多階調マスクを模式的に示した平面図である。
【図22】図22は、実施例1で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図23】図23は、実施例2で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図24】図24は、実施例4で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図25】図25は、実施例4で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図26】図26は、実施例4で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図27】図27は、実施例4で形成された凹部(ウェル)の電子顕微鏡写真図である。
【図28】図28は、「プレート部材の剛性特性の確認試験」において構造シミュレーションの対象となったウェル形状を示した図である。
【図29】図29は、荷重負荷時におけるウエル側壁の変位量のシミュレーション結果を示したグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0031】
《プレート部材の一般的な特徴》
本発明のプレート部材100は、図3に示すように、そのボディー部60において複数の凹部50が形成されている。特に本発明では、各凹部の側壁面が「凹部の開口面側に位置する第1側壁部10」と「凹部の底面側に位置する第2側壁部20」とから少なくとも構成されている。図示するように、第1側壁部10と第2側壁部20とは凹部の深さ方向に沿って連続的に設けられている。そして、水平面に対する第1側壁部の傾斜角度α1(プレート部材の中実部側に位置する傾斜角度)は、水平面に対する第2側壁部の傾斜角度α2(プレート部材の中実部側に位置する傾斜角度)よりも小さくなっている。つまり、相対的に上側(開口面側)に位置する第1側壁部が、相対的に下側(底面側)に位置する第2側壁部よりも傾きが緩やかになっている。
【0032】
本発明のプレート部材100の材質(即ち、ボディー部60の材質)は、樹脂、ガラス、シリコンまたは金属などであってよい。例えば樹脂について例示すると、特に制限されるわけではないが、シクロオレフィン樹脂(ノルボルネン樹脂)、シクロオレフィン共重合体樹脂、ポリカーボネート(PC)、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリビニルアルコール、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポアミドイミド、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマー樹脂であってよい。
【0033】
本発明のプレート部材100の寸法は、用途によって種々に変わり得る。例えば図3に示すようなウェルプレート形態のプレート部材100を例にとると、デバイス寸法(L、H、W)は、L=5〜300mm、H=0.2〜50mm、W=10〜300mm程度であり得る。
【0034】
凹部50の幅寸法および深さ寸法は、一般的には、マイクロビーズの直径寸法Dよりも大きい寸法を有していることが好ましく、それによって、反応液などの液体を各凹部に適量収めることができる。後述する第1側壁部・第2側壁部の傾斜角度にもよるが、図3に示すようなウェルプレートを例にとると、例えば、各凹部は以下のような幅寸法および高さ寸法の範囲を有している:

幅寸法
・W:6μm〜600μm
・w1:2μm〜200μm
・w2:3μm〜300μm

高さ寸法
・H:5μm〜400μm
・h1:2μm〜160μm
・h2:3μm〜240μm

凹部50の幅寸法Wおよび深さ寸法Hは大きくなれば反応等に必要な液体量が増えるので好ましい場合が多いといえるものの、必要成分の量が反応等に必要十分とされる量を超えてしまうと不要な液体コストが生じることになる。このため、凹部50の形態(例えばその側壁面の形態)にもよるが、凹部50の幅寸法Wおよび深さ寸法Hの上限としては、約10D以下が好ましいといえ、約5D以下が更に好ましい(D:マイクロビーズの平均サイズ)。ちなみに、振動等に付すことによって効率的な攪拌が可能である場合には、必要成分を広範囲に移動させることが可能となるため、更に大きな幅寸法および深さ寸法であってもよい。
【0035】
本発明のプレート部材100に設けられる凹部50の個数も、用途に応じて種々に変わり得る。例えば、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等、複数の凹部50の多くが“ウェル”に相当するような場合では、窪み(即ち“ウェル”)の個数は、好ましくは2500〜1億個、より好ましくは1万〜5千万個、更に好ましくは5万〜1千万個となり得る。
【0036】
好ましくは、本発明のプレート部材100は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる。具体的には、プレート部材の“凹部設置面”(即ち、微細パターンが設けられているプレート面)に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、凹部の各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが凹部を通過するように分散液を流したりする。例えばかかる“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを振揺に付したり、あるいは遠心処理に付したりしてもよい。更には、液体や気体のフローを供したり、あるいは、磁性マイクロビーズの場合では磁場を印加したり、もしくは、帯電可能なマイクロビーズの場合では電場を供したりしてもよい。
【0037】
「マイクロビーズ」および「液体」について詳述しておく。「マイクロビーズ」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において常套的に用いられている微粒子のことを実質的に意味している。マイクロビーズとしては、金属微粒子、ポリマー微粒子またはガラス微粒子などの微粒子だけでなく、細胞、微生物、細菌類、花粉、胞子およびその他の生体関連粒子などの粒状物であってもよい。このようなマイクロビーズは、球状、楕円状、米粒状、針状または板状などの各種形状を有し得る。ここでいう「球状」とは、アスペクト比(種々の方向で測定した場合の最大長さと最小長さとの比)が1.0〜1.2の範囲にある形状を指し、「楕円状」とは、アスペクト比が1.2〜1.5の範囲(但し、1.2を含まない)にある形状を指している。また、「米粒状」とは、その名の通り、“米粒”のような形状を意味している。“凹部への収容”が促進されるといった観点でいうと、マイクロビーズは球形状を有していることが好ましい。マイクロビーズの平均サイズDは、例えば、好ましくは0.01μm〜10mm程度、より好ましくは0.1μm〜5mm程度である。ここでいう「サイズ」とは、ビーズのあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味している。そして、「平均サイズ」とは、ビーズの透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個のビーズのサイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。一方、「液体」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においてマイクロビーズと共に常套的に用いられる液体であって、例えば、水、溶剤、バッファー、反応溶液または検体液などである。液体の粘度は、特に制限はなく、液体中の成分を利用するときの条件下にて液体が流動性を有していればよい。マイクロプレートデバイスに供される分散液(即ち、マイクロビーズと液体とから成る分散液)のマイクロビーズ含量は、特に制限されるわけではないが、0.01〜50体積%程度である。尚、マイクロビーズの絶対量または個数は用途によって変わり得る。例えば“凹部”が1万個のウェルであれば、マイクロビーズの個数も少なくとも1万個であることが好ましく、それに応じた絶対量を有するマイクロビーズが分散液に含まれていればよい。
【0038】
本発明は、プレート部材における凹部(窪み)の形態、特に、凹部側壁面の形態に着目して為されたものである。本発明では、図1に示すように、凹部の各々において側壁面が、その凹部の開口面側に位置する第1側壁部10と凹部の底面側に位置する第2側壁部20とから少なくとも構成されており、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている(ちなみに、凹部の周方向に沿ってみた場合では第1側壁部または第2側壁部の各傾斜角度は全て同じとなっていることが好ましい)。
【0039】
本発明のプレート部材の凹部の典型的な形態は、第1側壁部および第2側壁部との相対的な傾斜角度に起因して、図3や図4などに示されるように、より上側(開口面側)に位置する第1側壁部10が、より下側(底面側)に位置する第2側壁部20よりも緩やかな傾きとなっている。換言すれば、凹部50では最大長部分Lmaxから最短長部分Lminへと徐々に可変する構造が形成されており、それによって最大長部分Lmaxの開口部が最も幅が広い形状となっている(図4参照)。これによって、ウェルのピッチを変化させず、チップの剛性を下げることなく、ビーズの捕集率を上げることができる。つまり、プレート部材の微細パターンにおける剛性を保ちつつも、プレート部材の使用に際してはウェル中心へと効果的にビーズを誘導することができる。
【0040】
ここで、本明細書で使用する「傾斜角度」とは、図5に示すように、水平面Z(開口面Aに相当し得る)に対する角度であって、特に図示するようにプレート部材の中実部側・外側に位置する角度α(α1、α2、・・)のことを意味している(図5(a)参照)。換言すれば、プレート部材(特に底面が平面を成しているデバイス)を水平な面に置いた場合、「側壁面」と「水平面Z」とが成す外側の角度が「傾斜角度」に相当する。ここで、図5(b)に示すように側壁面が曲面を成している場合では、「傾斜角度」は「平均傾斜角度」に相当する。簡易的には、この「平均傾斜角度」とは、図5(c)に示すように「側壁部の上側エッジと下側エッジとを相互に結んだ直線」が凹部開口面または水平面Zと成す角度のことを実質的に意味している。また、かかる「平均傾斜角度」は、図6(a)および(b)に示すように『“曲面の中間ポイントSを接点とする接線”が窪みの開口面または水平面Zと成す角度』とみなしてもよい(尚、「曲面の中間ポイントS」は対象となる側壁部の深さ寸法の半分に位置する曲面ポイントである)。
【0041】
第1側壁部の傾斜角度α1は、特に制限はされないが、例えば30°〜70°の範囲となっていることが好ましい。一般的には、かかる傾斜角度α1が小さいほど、マイクロビーズを効率的に凹部(ウェル)内へと導くことができ、ビーズのウェル通過現象に対処し易くなる一方、傾斜角度α1が必要以上に小さくなると、単位プレート面あたりの凹部数(凹部密度)が減じられることになる。ある場合では、第1側壁部の傾斜角度α1が35°〜50°の範囲となっていてよい。
【0042】
第2側壁部の傾斜角度α2は、特に制限はされないが、例えば75°〜90°の範囲となっていることが好ましい。一般的には、かかる傾斜角度α2が大きいと、ビーズが側壁部で停滞したり、側壁部分に乗り上げることが減じられる。また、かかる傾斜角度α2が大きいほど、凹部(ウェル)に一旦捕捉されたビーズを凹部(ウェル)内に確実に保持しておくことができるものの、傾斜角度α2が必要以上に大きくなると、凹部(ウェル)内に捕捉されたマイクロビーズを凹部(ウェル)内から取り出したい場合にそれが困難となり得る。ある場合では、第2側壁部の傾斜角度α2が85°〜90°の範囲(例えば約90°)となっていてよい。
【0043】
本発明のプレート部材では、第1側壁部の傾斜角度α1が第2側壁部の傾斜角度α2よりも5°〜60°小さくなっていることが好ましい。このような傾斜角度の差は必要に応じて選択してよい。一般的には、かかる傾斜角度の差が大きいほど、隣接する凹部間の平均的な肉厚(中実部厚さ)を多くすることができるので剛性保持に寄与し得るものの、必要に以上に大きいと単位プレート面あたりに設けられる凹部数(凹部密度)が減じられることになる。従って、「第1側壁部の傾斜角度α1」と「第2側壁部の傾斜角度α2」との差(α1<α2)は、より好ましくは10°〜55°程度、更に好ましくは25°〜50°程度である。
【0044】
図2に示す態様から分かるように、各凹部の幅寸法のうち「鉛直方向・深さ方向に沿ってみた場合に最も開口面側に位置する幅寸法L開口部」が最も大きい寸法となっている。このように大きくなっているからこそ、マイクロビーズを効率的に凹部(ウェル)内へと導くことができ、ビーズのウェル通過現象に好適に対処できるといえる。特に、かかる幅寸法L開口部は、複数の凹部のピッチP以下の長さとなっていることが好ましい。これによりパターン同士の重なりが無く、最も接近した場合であっても外縁同士が接する程度であり、それゆえ、凹部(ウェル)の配置を実質的に変更することなく効率良く捕集率を上げることができる。換言すれば、微細パターンの剛性を保ちつつも、プレート単位面積あたりの凹部数(凹部密度)を大きくすることができる。また、図3および図4などに示すようにウェルは開口部が広く、底に行くほど徐々に狭くなっているので、ビーズがウェルに捕集されやすくかつ1度ウェルに捕集されたビーズが液流れによって不必要に抜け出てしまうことが減じられる。
【0045】
《凹部の種々の態様》
“凹部”の態様としては、その他に種々の態様が考えられる。以下それについて説明する。
【0046】
(第2側壁部が垂直面となった態様)
第2側壁部20が垂直面となった態様を図7および図8に示す。かかる態様であっても、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。図示されるような凹部態様では、第2側壁部の傾斜角度α2が約90°となっているのに対して、第1側壁部の傾斜角度α1が約45°となっている。
【0047】
図8に示されるように、各凹部50においては第1側壁部10および第2側壁部20が共に平面形状を成していると共に、第1側壁部10と第2側壁部20との境界部分が角張っている、即ち、角が出ている。このように境界部分が角張っていると、「1度ウェルに捕集されたビーズが液流れによって不必要に抜け出てしまう」といった現象を更に効果的に減じることができる。
【0048】
図7および図8に示す凹部態様のプレート部材100であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0049】
(第1側壁部が曲面状となった態様−ケース1)
第1側壁部10が曲面状となった態様(ケース1)を図9および図10に示す。かかる態様でも、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。図示されるような凹部態様では、第2側壁部の傾斜角度α2が約70°〜約85°となっているのに対して、第1側壁部の傾斜角度α1が約30°〜約50°となっている。特に第1側壁部10の曲面は底側に向かって弧を描くように形成されている。
【0050】
図10に示されるように、各凹部50においては第1側壁部10が曲面形状を成している一方、第2側壁部20が平面形状を成している。また、第1側壁部10と第2側壁部20との境界部分が角張っている、即ち、角が出ている。このように境界部分が角張っていると、「1度ウェルに捕集されたビーズが液流れによって不必要に抜け出てしまう」といった現象を更に効果的に減じることができる。
【0051】
図9および図10に示す凹部態様のプレート部材100であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0052】
(第1側壁部が曲面状となった態様−ケース2)
第1側壁部10が曲面状となった態様(ケース2)を図11および図12に示す。かかる態様も、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。図示されるような態様では、第2側壁部の傾斜角度α2が約90°となっているのに対して、第1側壁部の傾斜角度α1が約30°〜約50°となっている。特に第1側壁部10の曲面は、開口側に向かって弧を描くように形成されている。
【0053】
図12に示されるように、各凹部50においては第1側壁部10が曲面形状を成している一方、第2側壁部20が平面形状を成している。また、第1側壁部10と第2側壁部20との境界部分が平滑となっている。つまり、第1側壁部と第2側壁部との境界部分が角張ることなく連続的に滑らかに形成されている。このように境界部分が滑らかに形成されていると、ビーズをより効果的にウェル中心部へと誘導することができる。
【0054】
図11および図12に示す凹部態様のプレート部材100であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0055】
(第3側壁部を有する態様−ケース1)
第3側壁部30を有する態様(ケース1)を図13および図14に示す。図示する態様から分かるように、本態様においては、第2側壁部20よりも更に底面側に第3側壁部30が設けられている。かかる態様であっても、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。そして、第3側壁部30の傾斜角度α3は、図示されるように、第1側壁部10の傾斜角度α1および第2側壁部20の傾斜角度α2よりも大きくなっている(即ち、凹部の側壁部は“多段テーパー構造”となっている)。第1〜第3側壁部の具体的な傾斜角度を例示すれば、第1側壁部の傾斜角度α1が約30°〜約50°となっており、第2側壁部の傾斜角度α2が約60°〜約70°となっており、そして、第3側壁部の傾斜角度α3が約90°となっている。
【0056】
図14に示されるように、各凹部50においては第1側壁部10、第2側壁部20および第3側壁部30が全て平面形状を成している。また、第1側壁部10と第2側壁部20との境界部分が角張っていると共に、第2側壁部20と第3側壁部30との境界部分も角張っている。
【0057】
このように図13および図14に示す凹部態様のプレート部材100であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0058】
(第3側壁部を有する態様−ケース2)
第3側壁部30を有する態様(ケース2)を図15および図16に示す。図示する態様から分かるように、本態様においても、第2側壁部20よりも更に底面側に第3側壁部30が設けられている。かかる態様でも、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。そして、第3側壁部30の傾斜角度α3は、図示するように、第1側壁部10の傾斜角度α1および第2側壁部20の傾斜角度α2よりも大きくなっている(即ち、凹部の側壁部は“多段テーパー構造”となっている)。第1〜第3側壁部の具体的な傾斜角度を例示すれば、第1側壁部の傾斜角度α1が約50°〜約60°となっており、第2側壁部の傾斜角度α2が約60°〜約70°となっており、そして、第3側壁部の傾斜角度α3が約90°となっている。
【0059】
図16に示すように、各凹部50においては第2側壁部20および第3側壁部30が平面形状を成している一方、第1側壁部10が曲面形状を成している。また、第1側壁部10と第2側壁部20との境界部分が角張っていると共に、第2側壁部20と第3側壁部30との境界部分も角張っている。
【0060】
このように図15および図16に示す凹部態様のプレート部材100であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0061】
(開口面に位置する垂直側壁部を備えた態様)
開口面に位置する垂直側壁部を備えた態様を図17に示す。図示する態様から分かるように、本態様では、第1側壁部10よりも更に開口面側に垂直側壁部40が設けられている。かかる態様であっても、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。図示される凹部態様では、第2側壁部20の傾斜角度α2が約90°となっているのに対して、第1側壁部10の傾斜角度α1が約30°〜約50°となっている。そして、垂直側壁部40の傾斜角度は、その名の通り、約90°となっている。図17に示すような態様であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0062】
(凹部の底面が円錐面または半球状面を成している態様)
凹部の底面が円錐面または半球状面を成している態様を図18に示す。図示する態様から分かるように、本態様では、凹部の底面が略円錐状の面(図18(a))または略半球状の面(図18(b))を成している。かかる態様であっても、第1側壁部10の傾斜角度α1が第2側壁部20の傾斜角度α2よりも小さくなっている。図示される凹部態様では、第2側壁部20の傾斜角度α2が約90°となっているのに対して、第1側壁部10の傾斜角度α1が約20°〜約50となっている。図18に示すような態様であっても、微細パターンの剛性を保ちつつも、マイクロビーズをウェル中心に誘導することができ、効率的にビーズをウェル内に収容することができる。
【0063】
《本発明の利用方法》
次に、本発明のプレート部材の利用法について説明しておく。本発明のプレート部材の典型的な利用方法としては、上述のプレート部材の凹部に対して「マイクロビーズ70と液体80との混合物」を流して、各凹部50にマイクロビーズと液体とを収容し、それによって、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、反応または混合などの所望の処理を行う(図2参照)。
【0064】
一般に液体の比重は1前後であることから、沈降するビーズとしては比重1.02より大きいものが好適に利用される(ここでいう“比重”は、4℃の水[約1.0g/cm]を基準にした値である)。また、傾きに応じて容易に移動できるビーズとしては、比重2より大きいものが好適に利用される。最も好適には比重3.5より大きいビーズである。尚、比重が大きくなれば慣性も大きくなり、また、ビーズを含んだデバイスとしての全体重量も大きくなることから、ビーズの比重の好ましい上限値は10以下である。
【0065】
必要に応じてマイクロビーズに検討対象物質や反応に関係する物質等を固定すると、ビーズの移動に伴ってそれら物質のプレート部材における移動が可能となる。かかる態様では、検討対象物質や反応に関係する物質等を固定あるいは吸着することが可能な物質や官能基等をビーズ表面に固定することが好ましい。固定化させる物質・官能基としては、核酸や蛋白質を結合可能なシリカ、金、水酸アパタイトのような無機物や、これらを化学結合可能な官能基、互いに結合可能なアビジンまたはビオチン、特異的に抗原を結合可能な抗体、特異的に抗体を結合可能な抗原等を挙げることができる。
【0066】
以下にて実際の用途を見据えた各種処理法について触れておく。本発明のプレート部材を用いると、標的物質の分離、固定化、分析、抽出または反応などを好適に行うことができるが、これらの処理に関する具体的な態様を例示する目的でウェルプレートを用いた標的物質の分析・抽出および精製ならびに分離・検出・スクリーニングについて説明する。

標的物質の分析・抽出・精製:「標的物質の分析」では、例えば、標的物質を含むか含む可能性のある検体液または検体液と他の液の混合液(以下検体含有液という)と、標的物質と特異的に結合する抗原、抗体、核酸等を表面に固定したビーズをウェル内にて接触させ、標的物質をビーズ表面に十分結合する条件を与えた後、検体液を除くかあるいは洗い流し、必要に応じて洗浄を繰り返す。標的物質に特異的に結合する別の抗原、抗体、核酸等と、検出に利用可能な蛍光物質、発色基質、発光基質、磁性体等を結合した「標識物質」を含む液をビーズの入ったウェルに加え、ビーズ表面に結合した標的物質を標識する。この「標識物質」による蛍光、発色、発光、磁気等を検出することにより、標的物質の存在の有無、存在量等を測定することができ、即ち「標的物質の分析」ができる。また、先の操作の中の洗浄後に、結合した標的物質を溶出可能な液を入れて標的物質を溶出させれば、「標的物質の抽出」ができる。さらに、精製したい標的物質を含む液で同様の操作を行えば、「標的物質の精製」ができる。

細胞の分離・検出・スクリーニング:「細胞の分離」では、例えば、細胞を含む液をウェルプレート上に付与することにより細胞をウェル内に入れることによって、細胞を分離できる。また、「細胞の検出」では、例えば、ウェル内に入ったものを顕微鏡で観察したり、検出したい細胞に特異的に結合する標識物質により標識することによって、細胞を検出できる。更に、「細胞のスクリーニング」では、例えば、ウェル内に入った様々な細胞、例えばBリンパ球の中から、予め標識した抗原が特異的に結合したものを標識を基に見つけ出すことによって、目的とする細胞をスクリーニングできる。
【0067】
《本発明のプレート部材の製造法》
次に、本発明のプレート部材の製造法について詳述する。本発明のプレート部材は、
まず、その形状が模された「レジスト原盤」なるものから「スタンパ」を製作し、その後、かかるスタンパを鋳型(金型)として用いた射出成形を行う。かかる一連の製造工程を経時的に説明する。
【0068】
(レジスト原盤の作製)
鋳型の製作に用いる“レジスト原盤”を製造する。まず、“レジスト原盤”の原型となる基板を用意する。用意する基板は、その表面が平坦かつ平滑であれば、どのような種類のものであってよい。例えば、表面が平滑であって鏡面状に研磨されており、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハを用いることができる。また、石英もしくは金属から成る基板を用いてもよい。
【0069】
次いで、かかる基板の表面にレジストを形成する。レジストを形成した後、レジスト上にマスクを配して露光を行う。露光は、マスクによる一括露光に限定されるものでなく、直接レーザや電子線により露光パワーを変更した描写によって作製してよい。更には、LIGA (Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスのように、シンクロトロン放射光を使用してもよい。
【0070】
上記露光に際しては、マスクの階調を自由に変えることが可能な多階調フォトマスクを使用してよい。かかる多階調フォトマスクとしてはグレイトーンマスクおよび/またはハーフトーンマスクを用いることができる。グレイトーンマスクは、露光機の解像度以下のスリットを作り、そのスリット部が光の一部を遮り、中間露光を実現する。一方、ハーフトーンマスクは“半透過”の膜を利用することで中間露光を実現する。いずれも、1回の露光で「露光部分」「中間露光部分」「未露光部分」の3つの露光レベルを実現し、現像後に厚さが異なる微細構造物を得ることができる。本発明に関連していうと、グレイトーンマスクの濃度を調整し、現像後の深さを制御することによって高さ調整が可能となるので側壁部の傾斜角度を自由に調整することができる。
【0071】
露光を行った後、現像処理を行う。例えば、露光された基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)溶液に浸し現像を行ってよい。かかる現像によって、マイクロプレートデバイスの形状が模された「原盤」が得られる(得られた「原盤」は、レジストによりパターン作製して得られたものなので、“レジスト原盤”と称すことができる)。
【0072】
(スタンパの作製)
次いで、「レジスト原盤」から「スタンパ」を作製する。具体的には、レジスト原盤に対してスパッタやめっき処理を行って、原盤パターンの反転パターンを有するスタンパを作製する。例えば、原盤に対してNiスパッタ膜を導電膜として形成し、スルファミン酸ニッケルめっきを行ってスタンパを作製できる。導電膜の形成をスパッタによって行うことに限定されず、無電解めっきやCVD (Chemical Vapor Deposition)などを用いて行ってもよい。
【0073】
上記めっき処理に用いるめっき液としては、応力の少ないスルファミン酸ニッケルめっき液を使用し、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進する塩化Niを添加してもよい。また、めっき液のpH調整にスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるようにしてもよい。めっき液の温度は例えば50℃であってよい。更に、めっき液は常時濾過に付してもよい。
【0074】
スタンパ材質としては、Niに限定されるわけでなく、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、Snおよび/またはZn等の金属を用いてもよい。
【0075】
(プレート部材の射出成形)
次いで、スタンパを鋳型として用いた射出成形を行うことによってプレート部材を製造する。具体的には、金属製スタンパの外形を加工し、それを成形機に取り付けた上で射出成形を実施する。成形樹脂としては、種々の樹脂を用いることができる。例えば、シクロオレフィン樹脂を用いることができる。このような射出成形によって、本発明のプレート部材が最終的に得られることになる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0077】
● 凹部における側壁面の段数(側壁部の個数)は、2段や3段に限定されるものでなく、それ以上の段数であってもよい。例えば、4段、5段および6段などから成る側壁面であってもよい。

●スタンパ製造方法で用いる電鋳では、Ni、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種類以上の金属を用いることができるものの、必ずしもかかる態様に限定されるわけではない。例えば、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、Sn、Znのいずれかの金属を主体とした合金めっきや、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)などを分散してめっき皮膜に取り込みロール状あるいは平面板のスタンパを作製することも出来る。また、Mn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、B、Sなどをめっき皮膜中に積極的に取り込むことによって、硬度や潤滑性、粘り強さを高めたロール状あるいは平面板の合金製スタンパを作ることもできる。
【0078】
● 本明細書では、めっき液を用いた湿式めっきによってレジストマスタを得る態様について触れたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、溶融めっきおよび真空めっき(PVDやCVDなど)などの乾式めっきであっても、本発明の効果としては実質的に変わりはない。
【0079】
● 本明細書では主としてフォトリソグラフィーによってレジストマスタを得る態様について触れたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの作製法を採用してもよい。
【0080】
● 本明細書では主として射出成形によってプレート部材を得る態様に触れたが、必ずしもかかる態様に限定されるわけではなく、同様の微細パターンおよび凹部パターンを形成できるのであれば、いずれの成形法を採用してもよい。例えば、UV硬化樹脂やPDMS樹脂(polydimethylsiloxane)を用いて成形してよいし、あるいは、ナノインプリントなどの技術を適用したり、ホットエンボスによりパターン転写を行ってもよい。更には、レーザー光による光造形も可能である。
【0081】
尚、本発明は、下記の態様を有するものであることを確認的に述べておく。

[第1態様]:同一形状の複数の凸型あるいは凹型の微細パターンAが形成された微細パターン群であって、
微細パターンAの断面において側壁の一部あるいは全部に最大長部分Lmaxが最短長部分Lminへ向けて徐々に可変する構造が形成されており、該微細パターンAの中心軸に対して垂直な面における断面積を微細パターンAの高さ方向Hの全長に渡って測定したとき、最大長部分Lmaxが最も幅が広い形状となる構造であることを特徴とする微細パターンの集合構造物。
[第2態様]:上記第1態様において、微細パターンAの形状において、微細パターンAの幅方向の最大長部分Lmaxは微細パターンA間のピッチ以下の長さであることを特徴とする集合構造物。
[第3態様]:上記第1または第2の態様において、微細パターンAの断面形状であって、水平面に対する傾斜角度が0°(0°を除く)〜90°となった側壁部を少なくとも1箇所以上有することを特徴とする集合構造物。
[第4態様]:上記第1〜第3の態様のいずれかにおいて、微細パターンAの断面形状としてみた場合に微細パターンAの角部の一部分が1箇所以上面取りされていることを特徴とする集合構造物。
[第5態様]:上記第1〜第4の態様のいずれかにおいて、微細パターンAの断面形状としてみた場合に微細パターンAの角部部分が曲線(円弧)状に作製されていることを特徴とする集合構造物。
[第6態様]:上記第1〜第5の態様のいずれかにおいて、微細パターンAの断面形状としてみた場合に側壁部分が面取りと曲線部分とにより構成されていることを特徴とする集合構造物。
[第7態様]:微細パターンの集合構造物が基板であって、該基板が環状ポリオレフィン、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマーであることを特徴とする、上記第1〜第6の態様のいずれかの集合構造物。
[第8態様]:微細パターンの集合構造物が基板であって、該基板がシリコンあるいはガラスを含んで成ることを特徴とする、上記第1〜第6の態様のいずれかの集合構造物。
[第9態様]:微細パターンの集合構造物が金属製金型であって、該金属製金型がAg、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、SnおよびZnから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板となっていることを特徴とする、上記第1〜第6の態様のいずれかの集合構造物。
[第10態様]:上記第1〜第6の態様のいずれかの微細パターンの集合構造物が金属製金型であって、該金属製金型がMn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、BおよびSから成る群から選択される少なくとも1種以上の成分を含んで成るロール状あるいは平面板となっていることを特徴とする金属製金型。
【実施例】
【0082】
本発明の効果を確かめるために、以下の比較例および実施例1〜7を実施した。
【0083】
《プレート部材の作製およびビーズ捕集率の確認試験》
(比較例1)
従来技術のウェルプレートとして、図19に示すような凹部形状から成る微細パターンを備えたプレート部材を作製した。まず、“レジストマスタ”を作成した。具体的には、「表面が平滑で鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザン(HMDS)を塗布し、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P-LA900PM)を30μm厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンが形成されているクロムマスク(図20参照:φ30μmの穴が60μm置きに規則正しく形成されているクロムマスク/実際には用いたものは穴配列がいわゆる“千鳥配置”となったクロムマスク)をレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液に浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。尚、図20にて黒い部分は完全に光を遮断し、白い部分はUV光が透過するため、露光・現像後は白い部分が凹みとなる。
【0084】
得られたレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液は常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施し、400μm厚さのスタンパを得た。
【0085】
得られた金属製スタンパの外形を加工して成形機に取り付けた上で、シクロオレフィン樹脂を成形樹脂として用いて射出成形を実施した(樹脂温度:340℃、鋳型温度:125℃、射出速度:300mm/s、保持圧力:70MPa)。かかる射出成形によって、図19に示すような凹部形状から成る微細パターンのプレート部材を得ることができた。
【0086】
(実施例1)
本発明の実施例1として「図8に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示されるように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。
【0087】
具体的には、「表面が平滑で鏡面状に研磨されていると共に、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハ基板」に対してヘキサメチルジシラザンを塗布して、140℃で10分間ベークした。次いで、厚膜用のポジ型フォトレジスト(東京応化製PMER P−LA900PM)を30μm厚さでスピンコート法により塗布した。引き続いて、微細なウェルパターンが形成されているマスクをレジスト上に配置して超高圧UV光により密着露光を行った。本実施例では、図21に示すような濃淡を有するガラス製の多階調マスクを用いた(穴配列がいわゆる“千鳥配置”となっているマスクを用いた)。図21において、黒い部分は完全に光を遮断し、白い円の部分はUV光が透過し、傾斜となるグレイ部分はその濃淡の濃さに応じたUV光を透過する。このように透過率を制御することにより、凹部側壁部の傾斜角度を調整した。個々のパターンのピッチおよび配置は比較例1と同様に60μmとし、ウェル密度も比較例1と同様にした。具体的には、本実施例におけるウェルは図8に示すLmaxを60μmとし、Lminは30μmとした。
【0088】
露光後、基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)3%の溶液に浸して現像を行うことによって、レジストマスタを得た。
【0089】
得られたレジストマスタに対して導電膜としてNiスパッタ膜を形成した後、電鋳を実施した。具体的には、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進するための塩化Niを添加した。pH調整にはスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるように調整した。めっき液の温度は50℃とし、めっき液は常時濾過した。このような条件下で電鋳を実施し、400μm厚さのスタンパを得た。
【0090】
得られた金属製スタンパの外形を加工して成形機に取り付けた上で、シクロオレフィン樹脂を成形樹脂として用いて射出成形を実施した(樹脂温度:340℃、鋳型温度:125℃、射出速度:300mm/s、保持圧力:70MPa)。かかる射出成形によって、図8に示すような凹部形状から成る微細パターンを備えたプレート部材を得ることができた(図22に形成されたウェルの電顕写真を示す)。
【0091】
(実施例2)
実施例2として「図4に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。
【0092】
本実施例2におけるウェルは図4に示すLmaxを60μmとし、Lminは30μmとした。実施例1では開口部の幅を一回の面取りにより広げたが、本実施例2では図4のように2回の面取りによって、第1側壁部および第2側壁部の傾斜角度を変えたウェルを作製した。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である(図23に形成されたウェルの電顕写真を示す)。
【0093】
(実施例3)
実施例3として「図14に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。本実施例3では図14におけるLmaxを60μmとし、Lminは30μmとした。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である。
【0094】
(実施例4)
実施例4として「図10に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。本実施例4では図10に示すLmaxを45μmとし、Lminは30μmとした(図10に模式的に示した図についていうと、Lmaxをピッチと同等の大きさにするとウェル同士が接触し、剛性を弱めるため、ウェルのピッチ幅よりも小さめにLmaxを作製することが必要とされる)。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である(図24〜27に形成されたウェルの電顕写真を示す)。
【0095】
(実施例5)
実施例5として「図12に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。本実施例5では図12におけるLmaxを60μmとし、Lminは30μmとした(実施例4の図10とは異なり、Lmaxをウェルピッチと同じ幅まで広げることができる)。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である。
【0096】
(実施例6)
実施例6として「図16に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。本実施例6では図16におけるLmaxを60μmとし、Lminは30μmとした。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である。
【0097】
(実施例7)
実施例7として「図17に示すような凹部から成る微細パターンを備えたプレート部材」を作成した。つまり、図示するように開口部が最も広い断面となった凹部の微細パターンを備えたプレート部材を作成した。本実施例7では図17におけるLmaxを45μmとし、Lminは30μmとした(Lmaxをピッチと同等の大きさにするとウェル同士が接触し剛性を弱め、また、ウェル同士の接触によりウェルの形状が変化するため、ウェルのピッチ幅よりも小さめにLmaxを作製する必要がある)。プレート部材の作製法自体は、実施例1と同様である。
【0098】
(ビーズ捕集効率の確認試験)
比較例1および実施例1〜7のプレート部材(プレート中央部に縦横320の合計10400個のウェル)を用いてビーズ捕集率を調べた。
【0099】
確認試験に際しては、別途流路を作製した蓋となる基板をプレート部材に圧着して用いた。水に11万個以上のジルコニア製ビーズを分散させ水溶液を流した。ビーズを流す方法としては、一度のみ通過させる使用法や何度も往復運動させウェル部を何度か通過させる方法があるが、本確認試験では一度のみ通過させた。ウェル内に沈降して入ったビーズを数え、これを10回繰り返した。結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1から分かるように、比較例1に対して、実施例1〜7は総じてビーズ捕集率が高くなった。つまり、実施例1〜7のプレート部材が“ウェル通過現象”を効果的に減じることができることを確認できた。
【0102】
《プレート部材の剛性特性の確認試験》
本発明のプレート部材における剛性を調べるため、CAE(Computer Aided Engineering)を用いて構造シミュレーション(形状によるウェル変形の比較)を行った。
【0103】
構造シミュレーションの対象としたウェル形状は、比較例1(図19)、実施例1(図8)および実施例7(図17)のウェル形状とした。捕集率をほぼ同じ値にするため、比較例1における開口部と実施例1および実施例7の開口部を同一の直径60μmとした。
【0104】
図28にシミュレーションで用いたウェル形状を示す。高さ欄のカッコ内の数値は、形状の分割点である。実施例1のウェルでは底面から15μmの地点でテーパ状となり、実施例7のウェルでは10μm間隔でウェル側壁部が変化している。
【0105】
【表2】

【0106】
構造物(プレート部材)の物性は、シクロオレフィン樹脂として、密度1.01g/cm、ポアソン比0.3、ヤング率3100MPaとして線形静解析を行った。
【0107】
解析モデルは縦横に3つのウェルを配列し、その中心のウェルにのみ一様に1方向から荷重が分布するようにした(応力は15MPaとした)。ウェルの底面の境界条件は完全固定として、荷重負荷時の変形と最大変位点について調べた。その結果、同一の捕集率での比較では、比較例1における最大変位0.439μmを100%としたとき、実施例1では36.9%の0.162μm、実施例7では49.7%の0.218μmに低減できることが分かった。これはウエルの開口が同じ径であっても、断面をテーパ形状にした事によりウエルの剛性が向上し、荷重に対して変形し難くなったためである。
【0108】
図29に荷重負荷時におけるウエル側壁の変位量のシミュレーション結果を示す。横軸はウェル断面における底面からの距離を示している。比較例1はウェル断面が垂直であるため底面からトップ面までの距離が高さと同じ30μmとなっている。実施例1のウェル形状では、側壁の途中からテーパ状になっているため、底面からトップ面までの側壁断面の長さがウェルの高さよりも長くなっている。更に実施例7のウェルでは、形状が複雑になり表面積が増える分、底面からトップ面までの長さがウエル高さよりも長くなっている。
【0109】
図29に示されるように、従来のウエル形状(比較例1)に比べて、本発明に係るウエル形状(実施例1および実施例7)においては、同じ荷重負荷に対してウェル変形が半分程度になっていることが分かった。これによって、同じ開口部の直径を有するウェルを同じ密度で配置した場合、本発明におけるウェル形状の方が、同じ荷重に対しての変形量が少なく、より剛性が高い構造であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のプレート部材はメディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において用いることができる。例えば、本発明のプレート部材を用いると、標的物質の分析、抽出、精製、細胞の分離、検出またはスクリーニングなどができる(特に、かかる処理・操作を一度に多量に行うことができる)。従って、本発明のプレート部材は、例えば遺伝子解析、発現解析、蛋白解析、抗原・抗体反応解析または細胞解析等の種々の用途に供すことができる。
【符号の説明】
【0111】
10 第1側壁部
20 第2側壁部
30 第3側壁部
40 垂直側壁部
50 凹部(窪み)
60 プレート部材のボディー部
70 マイクロビーズ
80 液体
100 プレート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一形状の複数の凹部から構成された微細パターンを有するプレート部材であって、
前記凹部を形成している側壁面が、該凹部の開口面側に位置する第1側壁部と該凹部の底面側に位置する第2側壁部とから少なくとも構成されており、
水平面に対する前記第1側壁部の傾斜角度α1(前記プレート部材の中実部側の傾斜角度)が該水平面に対する前記第2側壁部の傾斜角度α2(前記プレート部材の中実部側の傾斜角度)よりも小さくなっていることを特徴とする、プレート部材。
【請求項2】
前記第1側壁部の傾斜角度α1が、前記第2側壁部の傾斜角度α2よりも5°〜60°小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載のプレート部材。
【請求項3】
前記凹部の幅寸法のうち、鉛直方向に沿ってみた場合に最も開口面側に位置する幅寸法L開口部が最も大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のプレート部材。
【請求項4】
前記幅寸法L開口部が前記複数の凹部のピッチ以下の長さとなっていることを特徴とする、請求項3に記載のプレート部材。
【請求項5】
前記第1側壁部の傾斜角度α1が30°〜70°となっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項6】
前記第2側壁部の傾斜角度α2が75°〜90°となっていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項7】
前記第1側壁部および前記第2側壁部の少なくとも一方が曲面形状を成していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項8】
前記第1側壁部と前記第2側壁部との境界部分が角張っていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項9】
前記第1側壁部が曲面形状を成している一方、前記第2側壁部が平面形状を成していることを特徴とする、請求項8に記載のプレート部材。
【請求項10】
前記第1側壁部と前記第2側壁部との境界部分が平滑となっていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項11】
前記第2側壁部よりも更に底面側に位置する第3側壁部を前記凹部が有して成り、
水平面に対する前記第3側壁部の傾斜角度α3(前記プレート部材の中実部側の傾斜角度)が、前記傾斜角度α1および前記傾斜角度α2よりも大きくなっていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項12】
前記凹部の底面が円錐状面または半球状面を成していることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項13】
前記凹部が前記第1側壁部よりも更に開口面側に位置する垂直側壁部を更に有して成り、
水平面に対する該垂直側壁部の傾斜角度が90°となっていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のプレート部材。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のプレート部材を成形するために用いる金属製金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図28】
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【図29】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−157267(P2012−157267A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18407(P2011−18407)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】