説明

微細パターン転写用スタンパ

【課題】本発明の課題は、本発明の課題は、離型処理が不要で、かつ繰り返し転写におけるパターンの転写精度が劣化しない微細構造体層を有するソフトスタンパである微細パターン転写用スタンパを提供することにある。
【解決手段】本発明は、支持基材1上に微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3において、前記微細構造体層2は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有する一種又は複数種のモノマ成分と、を主に含む樹脂組成物の重合体であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被転写体に押し付けてその表面に微細構造体(微細パターン)を形成するための微細パターン転写用スタンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス等で必要とされる微細パターンを加工する技術として、フォトリソグラフィ技術が多く用いられてきた。しかし、パターンの微細化が進み、要求される加工寸法が露光に用いられる光の波長程度まで小さくなるとフォトリソグラフィ技術での対応が困難となってきた。そのため、これに代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
この電子線を用いたパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を用いたパターン形成における一括露光方法と異なり、マスクパターンを直接描画する方法をとる。よって、描画するパターンが多いほど露光(描画)時間が増加し、パターン完成までに時間がかかるという欠点があり、半導体集積回路の集積度が高まるにつれて、パターン形成に必要な時間が増大して、スループットが低下することが懸念される。
【0004】
そこで、電子線描画装置の高速化を図るために各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子ビームを照射することで複雑な形状の電子ビームを形成する、一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、パターンの微細化が進む一方で、電子線描画装置の大型化や、マスク位置の高精度制御等、装置コストが高くなるという欠点があった。
【0005】
これに対し、高精度なパターン形成を低コストで行うための技術として、ナノインプリント技術が知られている。このナノインプリント技術は、形成しようとするパターンの凹凸に対応する凹凸(表面形状)が形成されたスタンパを、例えば所定の基板上に樹脂層を形成して得られる被転写体に型押しするものであり、微細パターンを被転写体の樹脂層に形成することができる。そして、このナノインプリント技術は、大容量記録媒体における記録ビットのパターンの形成や、半導体集積回路のパターンの形成への応用が検討されている。
【0006】
現在、従来ナノインプリント技術に用いられてきた石英等のハードなスタンパは、転写の際、被転写基板の反りや突起に追従できず、広範囲で転写不良領域が発生する問題があった。転写不良領域を低減させるために、基板の反りと突起の両方を吸収することが必要である。そのため、基板の反りと突起の両方に追従する、柔軟な樹脂スタンパが検討されている(非特許文献1)。更に、基材と微細構造体層の間に緩衝層と呼ばれる柔軟な樹脂層を有する多層型の樹脂スタンパの報告例もある。また、ナノインプリント技術において、被転写体と微細構造体層の剥離は、転写精度に大きく影響を与えるため、両者の離型性が非常に重要となる。従来、ナノインプリントに用いられてきた石英等のスタンパは、表面をフッ素系の離系剤により処理することで離型性を付与している(特許文献1)。ソフトスタンパの表面に対しても同様な離型処理を施し、転写に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−351693号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B. Michel et al.、Macromolecules、vol.33、p.3042(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の前記したスタンパでは、塗布した離型剤の厚さムラによりパターンの転写精度が低下しやすいことや、繰り返し転写するにつれて離型層が劣化し、転写不良を生じるという課題がある。
【0010】
そこで、本発明の課題は、離型処理が不要で、かつ繰り返し転写におけるパターンの転写精度が劣化しない微細構造体層を有するソフトスタンパである微細パターン転写用スタンパを提供することにある。なお、本発明における微細構造体とは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの構造体を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する本発明は、支持基材上に微細構造体層を有する微細パターン転写用スタンパにおいて、前記微細構造体層は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有する一種又は複数種のモノマ成分と、を主に含む樹脂組成物の重合体であることを特徴とする。
【0012】
また、前記課題を解決する本発明は、支持基材上に微細構造体層を有する微細パターン転写用スタンパにおいて、前記微細構造体層は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有する一種又は複数種のモノマ成分と、を主に含む樹脂組成物の重合体であって、前記微細構造体層の無機分率が31質量%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、前記課題を解決する本発明は、光透過性硬質基板と、光透過性弾性プレートと、可撓性硬質支持基材と、微細構造体層とをこの順番に有する微細パターン転写用のスタンパであって、前記微細構造体層は、シルセスキオキサン誘導体にフッ素成分を添加した樹脂組成物の重合体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、離型処理が不要で、かつ繰り返し転写におけるパターンの転写精度が劣化しない微細構造体層を有するソフトスタンパである微細パターン転写用スタンパを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る微細パターン転写用スタンパを示す模式図である。
【図2】(a)から(c)は、微細パターン転写用スタンパの製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【図3】微細パターン転写用スタンパの微細パターンを被転写体に転写する様子を示す模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る微細パターン転写用スタンパを示す模式図である。
【図5】(a)から(d)は、支持基材に対する微細構造体層の形成態様を平面視で例示する模式図である。
【図6】微細パターン転写用スタンパの微細構造体層の無機分率と、最大寸法誤差及び耐久性との関係を示すグラフであり、横軸が微細構造体層の無機分率[%]を示し、右縦軸が最大寸法誤差[%]を示し、左縦軸が微細構造体層の耐久性[回]を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態の微細パターン転写用スタンパについて適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(微細パターン転写用スタンパ)
図1は、本発明の実施形態の微細パターン転写用スタンパを示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る微細パターン転写用スタンパ3は、支持基材1上に微細構造体層2を有している。ここで微細構造とは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズで形成された構造のことを指す。
【0017】
前記支持基材1としては、微細構造体層2を保持する機能を有するものであれば、形状、材料、サイズ、作製方法は特に限定されない。
支持基材1の形状としては、平面形状で円形、正方形、長方形等が挙げられ、中でも長方形が好ましい。
支持基材1の材料としては、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック等のように強度と加工性を有するものであればよい。具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、Ni、Cr、Cu、及びこれらを1種以上含むものが例示される。特に、少なくとも365nmの波長の光を透過するものが好ましく、中でも石英やガラスは透明性が高いので好ましい。このような透明性が高い材料で支持基材1を形成すると、微細構造体層2を後記するように光硬化性樹脂で構成する場合にこの光硬化性樹脂に光が効率的に照射されることとなる。また、このような透明性が高い材料で支持基材1を形成すると、支持基材1と微細構造体層2との間に光硬化性樹脂で形成される緩衝層(図示省略)を設ける場合においても、この緩衝層となる光硬化性樹脂に光が効率的に照射されることとなる。
また、支持基材1の表面には、微細構造体層2や前記した緩衝層(図示省略)との接着力を強化するためにカップリング処理を施すことができる。
【0018】
また、支持基材1は、弾性率の異なる2種以上の層で構成することもできる。このような支持基材1においては、弾性率の高い層と低い層との積層順や、組み合わせ、層数等について特に制限はない。
【0019】
このような2種以上の層を有する支持基材1としては、例えば、前記した材料を2種以上選択して各層を形成したものや、前記した材料からなる層と樹脂からなる層とを組み合せたもの、樹脂からなる層同士を組み合せたもの等が挙げられる。
【0020】
前記した樹脂の具体例としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン(PUR)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、シクロオレフィンポリマ、ポリ乳酸、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。これらのいずれかを単独で用いても、異なる樹脂を複数混合して用いてもよい。また、無機フィラーや有機フィラー等の充填剤を含んでいてもよい。
【0021】
前記微細構造体層2は、次に説明する光硬化性の樹脂組成物の重合体で構成されており、その表面に、ナノメートルからマイクロメートルのサイズの微細構造を有している。
【0022】
(樹脂組成物)
微細構造体層2を形成する樹脂組成物は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体と、複数の重合性官能基を有するモノマ成分と、光硬化重合開始剤とを主に含んで構成されている。
【0023】
<シルセスキオキサン誘導体>
シルセスキオキサン誘導体は、RSiO1.5の組成式で示されるネットワーク状ポリシロキサンの総称である。このシルセスキオキサン誘導体は、構造的には無機シリカ(組成式;SiO)と有機シリコーン(組成式;RSiO)との中間に位置付けられ、特性も両者の中間であることが知られている。
このようなシルセスキオキサン誘導体の具体例としては、例えば、下記式(1)から式(5)で示されるものが挙げられる。ちなみに、式(1)ははしご構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(2)はランダム構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(3)はT8構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(4)はT10構造のシルセスキオキサン誘導体を示し、式(5)はT12構造のシルセスキオキサン誘導体を示している。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

(但し、前記式(1)から式(5)中、Rは、相互に同一でも異なっていてもよく、Rは水素原子又は有機基を示すと共に、有機基は2以上、好ましくは3以上の後記する重合性官能基を示す)
【0026】
重合性官能基としては、ビニル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基、及び(メタ)アクリル基から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
【0027】
このようなシルセスキオキサン誘導体は、本発明の微細パターン転写用スタンパを使用した後記する転写方法で選ばれる硬化性樹脂材料(図3の符号6)の硬化機構と、シルセスキオキサン誘導体の硬化機構とが異なるものが望ましい。具体的には、転写用の硬化性樹脂材料がラジカル重合性のものである場合には、光カチオン重合性のシルセスキオキサン誘導体が望ましく、逆に転写用の硬化性樹脂材料が光カチオン重合性であれば、光ラジカル重合性のシルセスキオキサン誘導体が望ましい。
シルセスキオキサン誘導体は、上市品を使用することができる。
【0028】
樹脂組成物中のシルセスキオキサン誘導体の含有率としては、50質量%以上が望ましい。
【0029】
<モノマ成分>
モノマ成分としては、ビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、及びビニルエーテル基から選ばれる重合性官能基を2以上含有するものが挙げられ、骨格等に制限はないが、前記したシルセスキオキサン誘導体が有する重合性官能基と同機構で硬化するモノマ成分が望ましい。また、モノマ成分としては、パーフルオロ骨格を有するもの(フッ素成分)を使用することができる。
【0030】
エポキシ基を有するモノマ成分としては、例えば、ビスフェノールA系エポキシ樹脂モノマ、水添ビスフェノールA系エポキシ樹脂モノマ、ビスフェノールF系エポキシ樹脂モノマ、ノボラック型エポキシ樹脂モノマ、脂肪族環式エポキシ樹脂モノマ、脂肪族直鎖エポキシ樹脂モノマ、ナフタレン型エポキシ樹脂モノマ、ビフェニル型エポキシ樹脂モノマ、2官能アルコールエーテル型エポキシ樹脂モノマ等が挙げられる。
【0031】
オキセタニル基を有するモノマ成分としては、例えば、3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0032】
ビニルエーテル基を有するモノマ成分としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4−ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0033】
以上、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基のいずれかの官能基を有する有機成分を例示したが、本発明はこれに限定されない。分子鎖中にビニル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等の重合性官能基を有するものであれば基本的に本発明に用いることができる。また、本実施形態でのモノマ成分は、常温で液体のものを想定しているが、固体のものをも使用することもできる。
なお、本実施形態でのモノマ成分は、1種又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0034】
<光硬化重合開始剤>
光硬化重合開始剤としては、樹脂組成物に含まれるシルセスキオキサン誘導体や、モノマ成分の重合性官能基に合わせて適宜選択される。特に、カチオン重合開始剤は酸素阻害による硬化不良を防ぐ点において望ましい。
【0035】
カチオン重合開始剤としては、求電子試薬であり、カチオン発生源を持っているもので、有機成分を光により硬化させるものであれば特に制限はなく、公知のカチオン重合開始剤を用いることができる。特に、紫外線により硬化を開始させるカチオン重合性触媒は、室温での凹凸パターン形成が可能となり、より高精度なマスタモールドからのレプリカ形成が可能となるので望ましい。
【0036】
カチオン重合性触媒としては、例えば、鉄−アレン錯体化合物、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ピリジニウム塩、アルミニウム錯体/シリルエーテルや、プロトン酸、ルイス酸等が挙げられる。
【0037】
また、紫外線により硬化を開始するカチオン重合触媒の具体的な例としては、IRGACURE261(チバガイギー社製)、オプトマーSP−150(旭電化工業社製)、オプトマーSP−151旭電化工業社製)、オプトマーSP−152(旭電化工業社製)、オプトマーSP−170(旭電化工業社製)、オプトマーSP−171(旭電化工業社製)、オプトマーSP−172(旭電化工業社製)、UVE−1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、CD−1012(サートマー社製)、サンエイドSI−60L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−80L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−100L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−110(三新化学工業社製)、サンエイドSI−180(三新化学工業社製)、CI−2064(日本曹達社製)、CI−2639(日本曹達社製)、CI−2624(日本曹達社製)、CI−2481(日本曹達社製)、Uvacure 1590(ダイセルUCB社製)、Uvacure 1591(ダイセルUCB社製)、RHODORSIL Photo InItiator 2074(ローヌ・プーラン社製)、UVI−6990(ユニオンカーバイド社製)、BBI−103(ミドリ化学社製)、MPI−103(ミドリ化学社製)、TPS−103(ミドリ化学社製)、MDS−103(ミドリ化学社製)、DTS−103(ミドリ化学社製)、DTS−103(ミドリ化学社製)、NAT−103(ミドリ化学社製)、NDS−103(ミドリ化学社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカ−バイト日本社製)等が挙げられる。これら重合開始剤は単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。このほか公知の重合促進剤及び増感剤等と組み合わせて適用することもできる。
【0038】
このような樹脂組成物は、光硬化重合開始剤を除く成分の全てが重合性官能基を有する樹脂であることが望ましい。
しかしながら、製造工程により意図せず混入する反応性官能基を有しない溶剤成分は樹脂組成物に含まれていても本発明の効果を阻害するものではない。また、樹脂組成物には、本発明の課題を阻害しない範囲で、支持基材1と樹脂組成物との密着力を強化するための界面活性剤が含まれていてもよい。また、必要に応じて重合禁止剤等の添加剤を加えてもよい。
以上のような光硬化性の樹脂組成物は、官能基当量が180g/eq以上となっていることが望ましい。
この樹脂組成物の官能基当量とは、樹脂組成物を構成する各成分の官能基当量の平均値を意味する。なお、前記した「成分の官能基当量」は、次式(6)で示される。
【0039】
成分の官能基当量=(成分の分子量)
/(成分の1分子あたりの官能基数)・・・式(6)
【0040】
また、この樹脂組成物の硬化収縮率は、8.0%以下であることが望ましい。
この硬化収縮率は、次式(7)で示される。
【0041】
硬化収縮率=100×(樹脂組成物の重合体の比重−硬化前の樹脂組成物の比重)
/(硬化前の樹脂組成物の比重)・・・式(7)
【0042】
また、この樹脂組成物の無機分率は、31質量%以下であることが望ましい。
この無機分率とは、シルセスキオキサン誘導体(RSiO1.5)を構成するケイ酸分(−SiO1.5)の、樹脂組成物における割合を意味し、次式(8)で示される。
無機分率=100×樹脂組成物中のケイ酸分(−SiO1.5)の質量
/樹脂組成物の質量・・・式(8)
【0043】
また、この樹脂組成物の硬化後の弾性率、つまり微細構造体層2の弾性率は、1.0GPa以上であることが望ましい。
なお、本実施形態での弾性率とは、変形のし難さを表す物性値であり、弾性変化内での応力とひずみの間の比例定数を意味する。ちなみに、弾性率は温度に依存するため、材料組成に対して一義的に決まる値ではないが、本実施形態では、光ナノインプリントプロセスの温度条件下である30℃における値とした。
【0044】
以上のような、微細パターン転写用スタンパ3においては、支持基材1及び微細構造体層2は、光透過性(少なくとも365nmの波長の光透過性)となるように形成することが望ましい。このような微細パターン転写用スタンパ3によれば、後記する被転写体の硬化性樹脂材料6(図3参照)に光硬化性樹脂を使用することができる。つまり、この微細パターン転写用スタンパ3は、光ナノプリント用のレプリカモールドとして使用可能となる。
【0045】
<微細パターン転写用スタンパの製造方法及び転写方法>
次に、本実施形態に係る微細パターン転写用スタンパ3の製造方法について説明する。ここで参照する図2(a)から(c)は、微細パターン転写用スタンパの製造方法を模式的に示す工程説明図である。
【0046】
先ずこの製造方法では、図2(a)に示すように、微細パターン4aが形成されたマスタモールド4が準備される。その一方で、支持基材1上に、前記樹脂組成物2aが塗布される。
【0047】
次に、図2(b)に示すように、樹脂組成物2a上に、微細パターン4aが形成されたマスタモールド4が押し付けられる。そして、マスタモールド4を押し付けた状態で、樹脂組成物2aを硬化させることによってマスタモールド4の微細パターン4aが樹脂組成物2aに転写される。ちなみに、この樹脂組成物2aの硬化は、光照射により行われればよい。
【0048】
そして、図2(c)に示すように、硬化した樹脂組成物2a(図2(b)参照)からマスタモールド4が剥離されることによって、支持基材1上に微細構造体層2が形成された、本実施形態に係る微細パターン転写用スタンパ3が得られる。なお、形成された微細構造体層2は、後に具体的に説明するように、支持基材1上のいずれの場所に位置していても構わず、微細構造体層2の形成領域の形状も円形、正方形、長方形等のように特に限定されない。
【0049】
次に、この微細パターン転写用スタンパ3を使用した微細パターンの転写方法について説明する。図3は、微細パターン転写用スタンパの微細パターンを被転写体に転写する様子を示す模式図である。
この転写方法では、図3に示すように、被転写基板7上に硬化性樹脂材料6を設けた被転写体5が使用される。
【0050】
被転写基板7としては、特に制限はなく、微細パターンを転写して得られる微細構造体の用途に応じて適宜に設定することでき、具体的には、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック、樹脂等が挙げられる。
【0051】
硬化性樹脂材料6としては、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。なお、硬化性樹脂材料6として、光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを使用する場合には、前記したように、前記した樹脂組成物の主成分であるシルセスキオキサン誘導体の硬化機構と異なる硬化機構を有する光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂が望ましい。
【0052】
この転写方法は、被転写体5の硬化性樹脂材料6に微細パターン転写用スタンパ3が型押しされることで、硬化性樹脂材料6に微細パターン4aが転写されて微細構造体が得られる。なお、前記したように、微細パターン転写用スタンパ3の支持基材1及び微細構造体層2を、波長365nm以上の光が透過可能となるように形成することで、硬化性樹脂材料6として光硬化性樹脂を使用することができる。
【0053】
以上のような、本実施形態に係る微細パターン転写用スタンパ3によれば、シルセスキオキサン誘導体、及びモノマ成分を主成分とする樹脂組成物の重合体(硬化物)で形成された微細構造体層2を支持基材1上に有しているので、被転写体5に対して、離型処理を必要とせず、高精度で連続転写が可能となる。この際、被転写体5の硬化性樹脂材料6の硬化機構と異なる硬化機構を有するシルセスキオキサン誘導体で微細構造体層2を形成することで、微細パターン転写用スタンパ3は更に離型性に優れる。
このように離型処理を必要とせずに、連続転写性を向上させることができる微細パターン転写用スタンパ3は、微細構造体の製造時におけるランニングコストを低減することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、支持基材1上に微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3について説明としたが、支持基材1の微細構造体層2とは反対側の面に、更に他の基板を配置することができる。次に参照する図4は、本発明の他の実施形態に係る微細パターン転写用スタンパを示す模式図である。
【0055】
図4に示すように、この微細パターン転写用スタンパ10は、微細構造体層2を設けた可撓性を有する支持基材1の反対側の面に、弾性プレート8と、光透過性硬質基板9とをこの順番に設けたものである。なお、この微細パターン転写用スタンパ10は、図3に示す被転写体5の硬化性樹脂材料として光硬化性樹脂組成物を使用することを想定しており、微細構造体層2、支持基材1、及び弾性プレート8は、光透過性のものが使用されている。
【0056】
弾性プレート8は、ゴム部材で形成されている。このゴム部材の具体例としては、例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。弾性プレート8の厚さは、3mm〜15mmの範囲が好ましい。
【0057】
光透過性硬質基板9としては、例えば、透明性を有するガラス板、石英板、プラスチック板等が挙げられる。プラスチック板としては、例えば、アクリル樹脂板、硬質塩化ビニル板等が挙げられる。光透過性硬質基板9の厚さは、10mm〜30mmの範囲が好ましい。
【0058】
支持基材1、弾性プレート8、及び光透過性硬質基板9は、相互に接着剤を使用して接合することができる。この接着剤としては、光透過性の接着剤を使用することができ、例えば、アクリルゴム系光学接着剤、UV硬化型ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0059】
これらの弾性プレート8と光透過性硬質基板9は、別途用意した治具(リング等)や締結具(ボルト等)を使用して相互に機械的に接合することができる。また、光透過性硬質基板9に吸引孔を形成すると共に、この吸引孔を介して弾性プレート8を吸引ポンプで吸着することもできる。なお、この吸着と前記した機械的な接合とは、併用することもできる。
【0060】
以上のような微細パターン転写用スタンパ10によれば、これを図3に示す被転写体5に押し付けて微細パターンを転写する際に、弾性プレート8の発揮する弾性によって、微細構造体層2が図3に示す硬化性樹脂材料6を均等な力で押圧するので、微細パターンを精度よく硬化性樹脂材料6に転写することができる。また、微細構造体層2が図3に示す硬化性樹脂材料6を均等な力で押圧するので、微細構造体層2と硬化性樹脂材料6との間に空気が巻き込まれるのを、より確実に防止することができる。
【0061】
ちなみに、前記したように、弾性プレート8の厚さを3mm以上とすることによって、支持基材1及び微細構造体層2を必要十分に変形させることができるので、微細パターンの転写精度は、より一層高められる。また、弾性プレート8の厚さを15mm以下とすることによって、この微細パターン転写用スタンパ10を使用した転写時に、弾性プレートの面方向の変形を抑え、支持基材1が横方向にずれることを、より確実に防止することができる。このことによっても、微細パターンの転写精度は、より一層高められる。
【0062】
また、この微細パターン転写用スタンパ10によれば、光透過性硬質基板9の発揮する剛性によって、微細パターン転写用スタンパ10の機械的強度を、より向上させることができる。
ちなみに、前記したように、光透過性硬質基板9は厚さを10mm以上とすることによって、微細パターン転写用スタンパ10に、十分な機械的強度を付与することができる。また、光透過性硬質基板9の厚さを30mm以下とすることによって、光透過性硬質基板9の光透過性を良好に維持することができる。
【0063】
また、本発明の微細パターン転写用スタンパは、支持基材上に形成する微細構造体層の形成領域の形状(平面形状)、形成位置を前記した支持基材の平面形状にかかわらずに適宜に決定することができる。
次に参照する図5(a)から(d)は、支持基材に対する微細構造体層の形成態様を平面視で例示する模式図である。
図5(a)に示すように、この微細パターン転写用スタンパ3は、平面形状が長方形の支持基材1の略中央に、平面視で円形の微細構造体層2が形成されている。
図5(b)に示す微細パターン転写用スタンパ3では、平面形状が正方形の支持基材1の略中央に、平面視で円形の微細構造体層2が形成され、図5(c)に示す微細パターン転写用スタンパ3では、平面形状が円形の支持基材1の略中央に、平面視で円形の微細構造体層2が形成されている。
また、図5(d)に示す微細パターン転写用スタンパ3では、平面形状が長方形の支持基材1の中央から外側に変位して平面視で円形の微細構造体層2が形成されている。
また、微細構造体層2の平面形状は、円形に限らず、楕円形、多角形等の他の形状であってもよい。
また、微細構造体層2の形成位置は、支持基材1の平面形状、及び微細構造体層2の平面形状にかかわらずに、支持基材1の中央であってもよいし、その中央から外側に変位した位置であってもよい。
【実施例】
【0064】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。以下の説明において使用する「部」及び「%」は特に示さない限りすべて質量基準である。
(実施例1)
本実施例では、図2(a)から(c)に示す工程で微細パターン転写用スタンパ3を作製した。
【0065】
<樹脂組成物2aの調製>
はじめに、下記表1に示すように、複数個のオキセタニル基を有するシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製、表1中、SQ(a)と記す。以下同じ)0.7部と、モノマ成分としての2官能オキセタンである3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン(東亞合成社製、表1中、モノマ成分(a)と記す。以下同じ)0.3部と、カチオン重合開始剤としてのアデカオプトマーSP−172(旭電化工業社製、表1中、単に「重合開始剤」と記す。以下同じ)0.06部を配合して微細構造体層3を形成するための光硬化性の樹脂組成物2aを調製した。
この樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
<微細パターン転写用スタンパ3の作製>
次に、支持基材1として、表面にKBM403(信越シリコーン社製)によりカップリング処理した20mm×20mm、厚さ0.7mmのガラス板を準備した。この支持基材1のカップリング処理表面に、微細構造体層2となる樹脂組成物2aを塗布した(図2(a)参照)。次に、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)によってその表面を離型処理したシリコン(Si)製のマスタモールド4を準備した(図2(a)参照)。このマスタモールド4に形成された微細パターンは、ラインアンドスペースパターン(ピッチ90nm、高さ50nm)であった。
【0068】
次に、図2(b)に示すように、マスタモールド4を樹脂組成物2aに押し付けた状態で、365nmの波長の紫外線を600秒間照射して、樹脂組成物2aを硬化させた。そして、図2(c)に示すように、硬化した樹脂組成物2a(図2(b)参照)からマスタモールド4を剥離し、支持基材1上に微細構造体層2を形成して本発明の微細パターン転写用スタンパ3(ソフトスタンパ)を作製した。この微細パターン転写用スタンパ3は、支持基材1と微細構造体層2との2層構成(表1中、スタンパ構成として記す)となっている。
【0069】
次に、微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び前記式(8)に示す樹脂組成物2aの無機分率[質量%](以下、無機分率において同じ)を求めた。その結果を表1に示す。
【0070】
<微細パターンの転写>
次に、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて連続転写を行った。図3に示す被転写基体5には、被転写基板7としてのガラス基板上に、硬化性樹脂材料6としてのアクリレート系モノマを主成分とする光ラジカル重合性の樹脂組成物を塗布したものを使用した。
そして、微細パターン転写用スタンパ3を用いて連続転写を行った際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。
【0071】
最大寸法誤差[%]は、転写1回目と、転写400回目とにおける被転写体5の硬化した硬化性樹脂材料6のパターン形状を原子間力顕微鏡(ビーコ社製)により測定し、それらの最大寸法誤差として算出した。
【0072】
また、耐久性は、転写回数が400回を超えても微細パターン転写用スタンパ3における微細構造体層2の形状が良好に維持されたものを良好とし、400回に満たないうちに微細構造体層2が破損したものを不良と判定した。表1中、耐久性が良好なものを「○」と記し、不良なものを「×」と記す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。図6は、微細パターン転写用スタンパの微細構造体層の無機分率と、最大寸法誤差及び耐久性との関係を示すグラフであり、横軸が微細構造体層の無機分率[%]を示し、右縦軸が最大寸法誤差[%]を示し、左縦軸が微細構造体層の耐久性[回]を示すグラフである。
【0073】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)を0.9部とし、表1のモノマ成分(a)に代えて、パーフルオロ骨格を有するジエポキシである1,4−ビス(2,3−エポシキプロピル)パーフルオロブタン(ダイキン工業社製、表1中、モノマ成分(b)と記す。以下同じ)を0.1部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0074】
(実施例3)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1のモノマ成分(a)に代えて、モノマ成分(b)としての1,4−ビス(2,3−エポシキプロピル)パーフルオロブタン(ダイキン工業社製)を0.3部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0075】
(実施例4)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1のモノマ成分(a)としての3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン(東亞合成社製)を0.2部、モノマ成分(b)としての1,4−ビス(2,3−エポシキプロピル)パーフルオロブタン(ダイキン工業社製)を0.1部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0076】
(実施例5)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)を0.9部とし、表1のモノマ成分(a)に代えて、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製、表1中、モノマ成分(c)と記す。以下同じ)を0.1部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0077】
(実施例6)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)を0.9部とし、表1のモノマ成分(a)としての3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン(東亞合成社製)を0.1部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0078】
(実施例7)
本実施例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表1中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)を0.6部とし、表1のモノマ成分(a)としての3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン(東亞合成社製)を0.4部使用した以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表1に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0079】
(実施例8)
本実施例では、実施例2と同様の樹脂組成物を調製した。
微細パターン転写用スタンパ3の作製は、次の手順で行った(図示省略)。
まず、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)で離型処理を施した実施例1と同様のマスタモールドを準備した。
【0080】
次に、このマスタモールドの微細パターンが形成された面に、樹脂組成物をスピンコート法によって塗布した後、これに365nmの波長の紫外線を600秒間照射して硬化させた。
【0081】
次に、この硬化した樹脂組成物層の表面に光硬化性のエポキシ系樹脂をスピンコート法にて塗布した後、これに光透過性を有する高弾性の支持基材を押し付けた状態で、エポキシ系樹脂を硬化させた。なお、支持基材のエポキシ系樹脂と接する面には、KBM403(信越シリコーン社製)によりカップリング処理を施した。
【0082】
そして、マスタモールドを剥離することで、実施例2の樹脂組成物が硬化した微細構造体層、硬化したエポキシ系樹脂からなる支持層、及び高弾性の支持基材(20mm×20mm、厚さ0.7mm)がこの順番に積層された3層構成(表1中、スタンパ構成として記す)の微細パターン転写用スタンパを作製した。
【0083】
なお、この微細パターン転写用スタンパにおける支持層は、微細構造体層よりも低弾性となっている。また、支持基材は、ガラスで形成されており、微細構造体層及び支持層よりも高弾性となっている。表1に、樹脂組成物の官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパを用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパの耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0084】
(実施例9)
本実施例では、実施例2と同様の樹脂組成物を調製した。
微細パターン転写用スタンパの作製は、次の手順で行った(図示省略)。
まず、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)で離型処理を施した実施例1と同様のマスタモールドを準備した。
【0085】
次に、このマスタモールドの微細パターンが形成された面に、樹脂組成物をスピンコート法によって塗布した後、これに365nmの波長の紫外線を600秒間照射して硬化させた。
【0086】
次に、この硬化した樹脂組成物層の表面に光硬化性の不飽和ポリエステルをスピンコート法にて塗布した後、これに紫外線を照射して硬化させることで第1支持層を形成した。
【0087】
次に、この第1支持層の表面に光硬化性のエポキシ系樹脂をスピンコート法にて塗布した後、これに光透過性を有する高弾性の支持基材を押し付けた状態で、エポキシ系樹脂を硬化させて第1支持層と支持基材との間に第2支持層を形成した。なお、支持基材のエポキシ系樹脂と接する面には、KBM403(信越シリコーン社製)によりカップリング処理を施した。
【0088】
そして、マスタモールドを剥離することで、実施例2の樹脂組成物が硬化した微細構造体層、硬化した不飽和ポリエステルからなる第1支持層、硬化したエポキシ系樹脂からなる第2支持層、及び高弾性の支持基材(20mm×20mm、厚さ0.7mm)がこの順番に積層された4層構成(表1中、スタンパ構成として記す)の微細パターン転写用スタンパを作製した。
なお、この微細パターン転写用スタンパにおける第1支持層は、微細構造体層よりも低弾性となっている。第2支持層は、第1支持層よりも低弾性となっており、ガラスで形成された支持基材は、第2支持層よりも高弾性となっている。
【0089】
表1に、樹脂組成物の官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパを用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパの耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0090】
(実施例10)
本実施例では、実施例2と同様の樹脂組成物を調製した。
微細パターン転写用スタンパの作製は、次の手順で行った(図示省略)。
まず、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)で離型処理を施した実施例1と同様のマスタモールドを準備した。
【0091】
次に、このマスタモールドの微細パターンが形成された面に、樹脂組成物をスピンコート法によって塗布した後、これに365nmの波長の紫外線を600秒間照射して硬化させた。
表1に、樹脂組成物の官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
【0092】
次に、この硬化した樹脂組成物層をマスタモールドから剥離した。この樹脂組成物層を図4に示す微細構造体層2として使用すると共に、図4に示す支持基材1、弾性プレート8、及び光透過性硬質基板9を別途準備した。そして、これらを図4に示す順番で接着剤を解して積層して微細パターン転写用スタンパ10を作製した。
【0093】
なお、支持基材1としては、ガラス板(20mm×20mm、厚さ0.7mm)を使用し、弾性プレート8としては、シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社製、シルガード(登録商標)、厚さ10mm)を使用し、光透過性硬質基板9としては、石英基板(厚さ0.7mm)を使用した。
そして、この微細パターン転写用スタンパ10用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパの耐久性の評価を行った。その結果を表1に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0094】
(比較例1)
本比較例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、下記表2中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)を1.0部とし、表2のモノマ成分は使用しなかった以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表2に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の最大寸法誤差[%]を測定すると共に、微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表2に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0095】
【表2】

【0096】
(比較例2)
本比較例では、実施例1と同様の方法で微細構造体層2を有する微細パターン転写用スタンパ3を作製した。この際、表2中、SQ(a)としてのシルセスキオキサン誘導体OX−SQ SI−20(東亞合成社製)に代えて、複数個のアクリル基を有するシルセスキオキサン誘導体AC−SQ(東亞合成社製、表2中、SQ(b)と記す)1.0部とし、表2のモノマ成分は使用しなかった以外は、実施例1と同様に樹脂組成物2aを調製し、これを用いて微細パターン転写用スタンパ3を作製した。表2に、樹脂組成物2aの官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層2の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパ3を用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の微細パターン転写用スタンパ3の耐久性の評価を行った。その結果を表2に示す。
なお、本比較例では、転写回数10回目で微細構造体層2が破損した。よって、本比較例においては、最大寸法誤差[%]を測定していない。
本比較例における無機分率[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0097】
(比較例3)
本比較例では、実施例2と同様の樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を使用して実施例8と同様にして微細パターン転写用スタンパを作製した。表2に、樹脂組成物の官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパを用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の微細パターン転写用スタンパの耐久性の評価を行った。その結果を表2に示す。また、無機分率[%]、及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0098】
(比較例4)
本比較例では、実施例2と同様の樹脂組成物を調製した。そして、この樹脂組成物を使用して実施例9と同様にして微細パターン転写用スタンパを作製した。表2に、樹脂組成物の官能基当量[g/eq]、並びに微細構造体層の弾性率[Pa]、硬化収縮率[%]、及び無機分率[質量%]を記す。
そして、この微細パターン転写用スタンパを用いて実施例1と同様に連続転写を行って、その際の微細パターン転写用スタンパの耐久性の評価を行った。その結果を表2に示す。また、無機分率[%]、最大寸法誤差[%]及び耐久性[回]を図6に併せて記す。
【0099】
(実施例及び比較例における微細パターン転写用スタンパの評価結果)
表1及び表2に示すように、シルセスキオキサン誘導体と、モノマ成分としての3−エチル−3−{[3−エチルオキセタン−3−イル]メトキシメチル}オキセタン、パーフルオロ骨格を有するジエポキシである1,4−ビス(2,3−エポシキプロピル)パーフルオロブタンとを含む樹脂組成物を使用して微細構造体層を作製した実施例1から実施例10の微細パターン転写用スタンパにおいては、400回の連続転写後の最大寸法誤差が比較的小さく、また良好な耐久性を示している。
【0100】
これに対して、シルセスキオキサン誘導体を含み、モノマ成分を含まない樹脂組成物を使用して微細構造体層を作製した比較例1、4、5の微細パターン転写用スタンパにおいては、耐久性を有するものの、最大寸法誤差が大きく、転写回数を重ねるごとに転写精度が低下することが判明した。また、比較例2,3の微細パターン転写用スタンパにおいては、耐久性が不十分となっている。
【0101】
次に、図6に示すように、最大寸法誤差が小さく、かつ耐久性に優れる微細パターン転写用スタンパは、微細構造体層の無機分率が31%以下であることが判明した。
【符号の説明】
【0102】
1 支持基材
2 微細構造体層
2a 樹脂組成物
3 微細パターン転写用スタンパ
4 マスタモールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材上に微細構造体層を有する微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記微細構造体層は、複数の重合性官能基を有するシルセスキオキサン誘導体と、
複数の重合性官能基を有する一種又は複数種のモノマ成分と、
を主に含む樹脂組成物の重合体であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項2】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物は、前記シルセスキオキサン誘導体を50質量%以上含有することを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項3】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物は、光硬化重合開始剤を含むことを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項4】
請求項3に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記光硬化重合開始剤は、紫外線により硬化を開始させるカチオン重合性触媒であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項5】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも2つの重合性官能基を有するモノマ成分であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項6】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項7】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、パーフルオロ骨格を有するモノマであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項8】
請求項1に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、1,4−ビス(2,3−エポキシプロピル)パーフルオロブタンであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項9】
支持基材上に微細構造体層を有する微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記微細構造体層は、複数の重合性官能基(−R)を有するシルセスキオキサン誘導体(RSiO1.5)を主に含む樹脂組成物の重合体であって、
前記樹脂組成物の下記式で示される無機分率が31質量%以下であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
無機分率=100×樹脂組成物中のケイ酸分(−SiO1.5)の質量
/樹脂組成物の質量
【請求項10】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物は、前記シルセスキオキサン誘導体を50質量%以上含有することを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項11】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物は、光硬化重合開始剤を含むことを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項12】
請求項11に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記光硬化重合開始剤は、紫外線により硬化を開始させるカチオン重合性触媒であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項13】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物は、少なくとも2つの重合性官能基を有するモノマ成分を含有することを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項14】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、3−エチル−3−{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタンであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項15】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、パーフルオロ骨格を有するモノマであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項16】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記モノマ成分は、少なくとも1種が、1,4−ビス(2,3−エポキシプロピル)パーフルオロブタンであることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項17】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記微細構造体層の弾性率が1.0GPa以上であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項18】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物の硬化収縮率が8.0%以下であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項19】
請求項9に記載の微細パターン転写用スタンパにおいて、
前記樹脂組成物の官能基当量が180g/eq以上であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。
【請求項20】
光透過性硬質基板と、光透過性弾性プレートと、可撓性硬質支持基材と、微細構造体層とをこの順番に有する微細パターン転写用のスタンパであって、
前記微細構造体層は、シルセスキオキサン誘導体にフッ素成分を添加した樹脂組成物の重合体であることを特徴とする微細パターン転写用スタンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−204309(P2011−204309A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69558(P2010−69558)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】