説明

微細修飾セルロースの製造方法

【課題】有機オニウム化合物で処理して得られる微細修飾セルロース繊維を効果的に製造する手法を提供すること。
【解決手段】天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理することを特徴とする微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【化1】


(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、特定のカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理することを特徴とする微細修飾セルロース繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、技術の進展に伴い、使用される用途に応じて樹脂に対してより高度な特性が要求されるようになってきた。このような要求特性を満たす技術の一つとして、樹脂に層状化合物、ナノフィラーをナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットが最近注目されている。ナノコンポジットを形成することにより、高耐熱化、高弾性化、難燃化、ガスバリア性能の向上等、様々な特性の向上が実現している(非特許文献1)。ナノコンポジットを形成するためには、層状化合物をナノスケールで分散させる必要があり、様々な方法が試みられている。
【0003】
ナノフィラーとしてはカーボンナノファイバーなどの繊維状ファイバー、層状珪酸塩などの層状化合物を用いた材料開発が盛んに行われている。特に生物由来のフィラーとしてミクロフィブリル化セルロースは軽くて強度が高く、さらには生分解性も高いためパソコン、携帯電話等の家電製品の筐体、文房具等の事務機器、スポーツ用品、輸送機器、建築材料など幅広い分野への応用が期待されている。このようなミクロフィブリル化セルロースの機械的特性を、既に幅広く利用されている樹脂の分野に活用することが試みられている。例えば、樹脂の物性、機能等の向上、新たな物性、機能等の付与を目的として、樹脂にミクロフィブリル化セルロースを混合、複合等することが試みられている。特に、環境負荷の観点から生分解性樹脂が注目されており、この生分解性樹脂とミクロフィブリル化セルロースを混合、複合することが試みられている。
【0004】
またミクロフィブリル化セルロースは、セルロース系繊維をリファイナー、ホモジナイザー等により磨砕ないし叩解することにより製造できることが知られている(例えば特許文献1参照)。しかしこのようなプロセスではエネルギーコストが高く、かつミクロフィブリルセルロースが凝集しやすいといった問題があった。さらにミクロフィブリル化セルロースを樹脂中に分散させることが非常に困難であり、均一な複合樹脂を得ることが難しかった。
【0005】
さらに汎用的に入手可能な植物系の精製セルロース(木材パルプやリンターパルプ等)を元のミクロフィブリルまでダウンサイジングする技術として、特許文献2には、高圧ホモジナイザーと呼ばれる、極めて高い圧力でフィブリル状物質を高度に微細化できる装置を用いることによりセルロースのナノファイバーが得られることが開示されている。しかしながら、該方法では、高圧ホモジナイザーによる処理時に多大なエネルギーを要し、コスト的に不利であると同時に、得られる微細化繊維の繊維径にも分布が存在し、一般的な処理条件下では微細化の程度も不完全であり、1μm以上の太い繊維も若干残ることが多い。
【0006】
なお、分散機の改良として分散液を高圧で対向衝突させる方法が開示されている(特許文献3)。この方法ではセルロースの分子鎖の切断を比較的防止できることに成功している。しかしながら繰り返し回数が多いこともあり効率性に欠ける方法であった。さらにこのようにしてできたセルロースを、アセチルセルロースのような従来の再生セルロースの製造方法のような手法にて疎水化しようとすると、一旦有機溶媒に溶解し疎水化処理を行わなければならない。得られたセルロースは結晶構造がI型からII型に変化してしまい結晶弾性率の高いI型を維持することはできなかった。
【0007】
一方、特許文献4においては天然セルロース原料を2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと略称することがある)触媒にて酸化および精製した後、水分散体とし、該分散体中へ比較的弱い分散力を加える事によって得られる繊維径が数nmから数10nmの微細セルロース繊維の分散体が開示されており、この繊維は水中において良分散したナノファイバーで、かつ天然セルロースが有するセルロースI型結晶構造が、上記の微細セルロース繊維では維持されている事が報告されている。従って上記の微細セルロース繊維は良好な弾性率、強度を有しているものと考えられている。しかし、上記の微細セルロース繊維を有機溶媒に分散して、例えば樹脂との組成物の製造に用いるなどの用途については、何ら報告がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭50−38720号公報
【特許文献2】特開昭56−100801号公報(米国特許第4,374,702号明細書)
【特許文献3】特開2005−270891号公報(米国特許第7,357,339号明細書)
【特許文献4】特開2008−1728号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中条澄著、「ナノコンポジットの世界」、第1版、工業調査会、2000年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、前記特許文献3のような微細セルロース繊維と樹脂とからなる組成物(ナノコンポジット)の調製を試みたが、該微細セルロース繊維は、前記のとおり繊維径がnmオーダーと非常に微細なため凝集し易く、ポリマーや、有機溶媒、特に疎水性有機化合物中で充分に分散せず、良好な組成物を得ることができなかった。
【0011】
そこで、本発明者らは、該微細セルロース繊維を、更に修飾(誘導体化)して疎水性を付与することを試みたが、該微細セルロース繊維は有機溶媒中では分散しにくく容易に凝集や沈降がおこり、また、水には良好に分散するものの分散濃度を極めて薄くしないと容易にゲル状になってしまうなど修飾処理が困難という問題に直面した。また、分散濃度を極めて薄くして、水に分散させる方法では、取り扱う液量が非常に多くなり処理効率が悪いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討した結果、天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理することにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0013】
1. 天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理することを特徴とする微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【化1】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
2. 湿式分散処理が連続式である上記1項記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
3. 反応物繊維が、カルボキシ基とアルデヒド基を合計で0.1〜2.2mmol/g(反応物繊維の質量当たり)有する微細セルロース繊維である上記1項又は2項に記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
4. 有機オニウム化合物が有機アンモニウム化合物及び有機ホスホニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである上記1〜3項のいずれか1つに記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
5. 湿式分散処理が、該反応物繊維と、該式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物と、水とを含む混合液を30〜300MPaの高圧で分散処理するものである上記1〜4項のいずれか1つに記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
6. 上記1〜5項のいずれか1つに記載の製造方法により得られた微細修飾セルロース繊維と、有機溶媒とを含む微細修飾セルロース繊維分散液。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により、有機オニウム化合物によって処理され、有機溶剤やポリマーへの分散性が良好な微細修飾セルロース繊維を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の微細修飾セルロース繊維の製造方法は、天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、前記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理するものである。
【0016】
本発明の製造方法にて得られる微細修飾セルロース繊維は、I型結晶構造を有し、かつ、有機溶媒も含め種々の溶媒への分散性が極めて良好なものであり、後述するとおり、N−オキシル化合物および共酸化剤による天然セルロースの処理によって、セルロース鎖の構成モノマー単位であるグルコピラノーズ環中のC6位の一級ヒドロキシ基が選択的に酸化され、アルデヒド基やカルボキシ基にまで酸化された反応物繊維において、該反応物繊維表面のカルボキシ基と塩を形成しているアルカリ金属カチオン(酸化処理工程で用いた共酸化剤に由来する)が、有機オニウムによってイオン交換されたものと考えられる。
【0017】
本発明で用いる天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、BC(バクテリアセルロース)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。天然セルロースは、好ましくは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができる。さらに、天然セルロースとして、単離、精製の後、ネバードライで保存していたものを使用するとミクロフィブリルの集束体が膨潤し易い状態であるため、やはり反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができ好ましい。
【0018】
本発明において、セルロースの酸化触媒として用いるN−オキシル化合物としては、公知のものが使用できる(「Cellulose」Vol.10、2003年、第335〜341ページにおけるI. Shibata及びA. Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事)が、特に、2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO、2−アザアダマンタン−N−オキシル、1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル、及び1,3−ジメチル−2−アザアダマンタン−N−オキシルよりなる群から選ばれる1つ以上のものが、常温での反応速度が良好な点において好ましい。
【0019】
本発明において用いる共酸化剤として、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸よりなる群から選ばれる1つ以上のものが挙げられる。上記の共酸化剤のうち塩であるものについてはアルカリ金属、マグネシウム及びアルカリ土類金属よりなる群から選ばれる1つ以上の塩が好ましく、なかでもアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩を使用する場合、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムの存在下で反応を進めることが反応速度を高めるにおいて特に好ましい。
【0020】
前記の天然セルロースに、これらのN−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させ反応物繊維を得る際の具体的な方法、条件については、特開2008−1728号公報に開示されたものが好適である。該反応物繊維を得る際は、天然セルロースを溶媒中に分散させて行うのが好ましい。溶媒としては原料の天然セルロース、N−オキシル化合物、および共酸化剤と、酸化反応や取り扱いの条件下で顕著な反応性を示さず、かつ天然セルロース及び反応物繊維が良く分散するものであることが必要であり、安価で扱い易いなどの点で水が最も好ましい。
【0021】
なお、上記のN−オキシル化合物および共酸化剤による天然セルロースの処理によって、セルロース鎖の構成モノマー単位であるグルコピラノーズ環中のC6位の一級ヒドロキシ基が選択的に酸化され、アルデヒド基やカルボキシ基にまで酸化された反応物繊維が得られる。
【0022】
本発明において用いる反応物繊維においては、そのカルボキシ基とアルデヒド基の量の総和が、反応物繊維の質量に対し0.1〜2.2mmol/gであることが好ましい。
本発明において用いる反応物繊維においては、その最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2〜150nmのものが好ましく、最大繊維径が500nm以下かつ数平均繊維径が2〜100nmであるものがより好ましく、最大繊維径が30nm以下かつ数平均繊維径が2〜10nmであるものが更に好ましい。このように、該反応物繊維は非常に微細であり、以下、該反応物繊維を微細セルロースと称することがある。
【0023】
さらに、カルボキシ基の量が、反応物繊維の質量に対し0.1〜2.2mmol/gであることが好ましい。
本発明において用いる有機オニウム化合物としては、下記式(1)で示されるカチオン構造を有するものから選ばれる少なくとも1つを好ましく挙げることができる。
【0024】
【化2】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
【0025】
、R、RおよびRが炭化水素基である場合の例として、アルキル基、アラルキル基、および芳香族基を挙げることができる。アルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルを例示することができる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例としてはベンジル基、o−トルイルメチル基、m−トルイルメチル基、p−トルイルメチル基、2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などが挙げられる。また、芳香族基としては、炭素数6〜20の芳香族基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トシル基などを例示することができる。R〜Rは、それらの熱安定性に影響を及ぼさないメチル、エチル、弗素、塩素などのような置換基を有してもよい。
【0026】
ヘテロ原子を含む炭化水素基の例としては、炭素数1〜30のヒドロキシ置換炭化水素基、アルコキシ置換炭化水素基、およびフェノキシ置換炭化水素基が挙げられ、好適には、以下のような置換基およびその異性体を例示することができる。(ここで下記式中、aおよびbは1以上29以下の整数であり、置換基中での炭素数が30以下になる整数である。また、cは1以上15以下の整数、dは1以上14以下の整数である。)
【0027】
ヒドロキシ置換炭化水素基
【化3】

【0028】
アルコキシ置換炭化水素基:
【化4】

【0029】
フェノキシ置換炭化水素基:
【化5】

【0030】
フタルイミド置換炭化水素基:
【化6】

【0031】
ポリ(オキシアルキレン)基:
【化7】

【0032】
さらにR、R、R及びRが環を形成する場合にはピリジン、メチルピリジン、エチルピリジン、ジメチルピリジン、ヒドロキシピリジン、ジメチルアミノピリジン等のピリジン誘導体、イミダゾール、メチルイミダゾール、ジメチルイミダゾール、エチルイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール誘導体、ピラゾール、メチルピラゾール、ジメチルピラゾール、エチルピラゾール、ベンズピラゾール等のピラゾール誘導体からなる有機オニウムを挙げることができる。
【0033】
前記式(I)中のMが窒素原子である場合の具体例としては、各種のテトラアルキルアンモニウムを好適なものとして挙げられるがその他にも、例えば、N,N′−ジメチルイミダゾリニウム、N−エチル−N′−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1−エチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、4−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,4−ジエチル−3−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−2,3,5−トリメチルイミダゾリニウム、1−エチル−3,4,5−トリメチルイミダゾリニウム、2−エチル−1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、4−エチル−1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、4−エチル−1,3,5−トリメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、1,2−ジエチル−3,5−ジメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2,4−ジメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2,5−ジメチルイミダゾリニウム、1,4−ジエチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,5−ジエチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,5−ジエチル−3,4−ジメチルイミダゾリニウム、2,3−ジエチル−1,4−ジメチルイミダゾリニウム、2,3−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、2,4−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、2,5−ジエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、3,4−ジエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3,4−ジエチル−1,5−ジメチルイミダゾリニウム、3,5−ジエチル−1,2−ジメチルイミダゾリニウム、3,5−ジエチル−1,4−ジメチルイミダゾリニウム、4,5−ジエチル−1,3−ジメチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリエチル−5−メチルイミダゾリニウム、2,3,4−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、2,3,5−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、3,4,5−トリエチル−1−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウム、1,3,4,5−テトラエチルイミダゾリニウム等の各種イミダゾリニウム、などのアンモニウムイオンが挙げられるが、合成の容易さ、コスト面から特にテトラアルキルアンモニウムイオンがさらに好ましい。具体例としてはドデシルトリメチルアンモニム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、オレイルトリメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、ジテトラデシルジメチルアンモニウム、ジヘキサデシルジメチルアンモニウム、ジオクタデシルジメチルアンモニウム、ジオレイルジメチルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム、オレイルジメチルベンジル、ヒドロキシポリオキシエチレンドデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウム、ヒドロキシポリオキシエチレンオレイルジメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシポリオキシエチレンオレイルメチルアンモニウムが挙げられる。これらは単独で、又は組み合わせて用いることができる。
【0034】
さらに前記式(I)中のMがP原子、つまり有機オニウムが有機ホスホニウムイオンである場合の具体例としてはテトラエチルホスホニウム、トリエチルベンジルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、トリメチルデシルホスホニウム、トリメチルドデシルホスホニウム、トリメチルヘキサデシルホスホニウム、トリメチルオクタデシルホスホニウム、トリブチルメチルホスホニウム、トリブチルドデシルホスホニウム、トリブチルオクタデシルホスホニウム、トリオクチルエチルホスフォニウム、トリブチルヘキサデシルホスフォニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ジフェニルジオクチルホスホニウム、トリフェニルオクタデシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、トリブチルアリルホスフォニウムなどが挙げられる。これらの有機ホスホニウムイオンは、単独でも組み合わせても用いることができる。
【0035】
以上述べた有機オニウムの中で、耐熱性の点から好ましいのは前記式(I)中のMがリン原子である有機オニウム、つまりホスホニウムイオンである。
また、前記の有機オニウムと対を成す陰イオン成分としては、塩素イオンや臭素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロフォスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヒドロキシイオンなどが好ましいものとして挙げられるが、特に好ましいものはハロゲンイオンである。
【0036】
すなわち本発明の製造方法の好ましい態様の一つとして、以下の工程からなるものを示すことができる。
(1)天然セルロースをN−オキシル化合物と共酸化剤を使用して酸化処理を行い、反応物を得る工程(酸化反応工程)
(2)不純物を除去して溶媒を含浸させた該反応物繊維を得る工程(精製工程)
(3)該反応物中にオニウム塩を添加し、これを湿式分散処理する事により微細修飾セルロース繊維を得る工程(分散・修飾工程)
ただし、上記精製工程については省くことも可能である。
【0037】
以下、各工程について説明する。
[酸化反応工程]
まず、酸化反応工程では、溶媒に天然セルロースを分散させた混合液に前記のN−オキシル化合物、および共酸化剤を添加して酸化反応を行い、反応物繊維を得る。反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬の十分な拡散が可能な濃度であれば任意であるが、通常、溶媒の質量に対して約5%以下である。また、N−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/L、さらに好ましくは0.2〜2mmol/Lの範囲で上記混合液に添加する。前記のとおり、溶媒としては、安価で扱い易いなどの点で水が最も好ましい。
【0038】
溶媒として水を用いる時は、反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0039】
該酸化反応工程で用いる共酸化剤の添加量は、天然セルロース1gに対して約0.5〜8mmolの範囲で選択することが好ましく、前記のとおり、次亜ハロゲン酸塩と臭化アルカリ金属を併用する際は、臭化アルカリ金属の添加量が、N−オキシル化合物に対して1〜40倍モル量が好ましく、5〜30倍モル量であるとより好ましく、10〜20倍モル量であるとより一層好ましい。
【0040】
本発明で用いる微細修飾セルロース繊維を得るために好ましい反応物繊維中のカルボキシ基量は天然セルロース種により異なり、カルボキシ基量が多いほど、微細化処理後の最大繊維径、及び数平均繊維径は小さくなる。たとえば、木材系パルプおよび綿系パルプでは0.2〜2.2mmol/g、BC(バクテリアセルロース)やホヤからの抽出セルロースでは0.1〜0.8mmol/gの範囲でカルボキシ基が導入されて微細化は進む。従って、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御し、天然セルロース種に応じた酸化条件を最適化することで、目的とするカルボキシ基量を得ることが好ましい。なお、反応は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0041】
[精製工程]
精製工程に於いては、未反応の次亜塩素酸や各種副生成物等の反応スラリー中に含まれる反応物繊維と水等の溶媒以外の化合物を系外へ除去し、溶媒を含浸させた該反応物繊維とするが、反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち洗浄と濾過を繰り返すことで高純度(99質量%以上)の反応物繊維と溶媒の分散体とする。該精製工程における精製方法は遠心分離を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどんな装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の含溶媒物は絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10質量%〜50質量%の範囲にある。この後の工程で、ナノファイバーへ分散させることを考慮すると、50質量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0042】
[分散・修飾工程]
分散・修飾工程においては、上述した精製工程にて得られる溶媒を含浸した反応物繊維(微細セルロース)中に有機オニウム化合物を添加して混合溶液を作成し、湿式分散処理を施すことにより微細修飾セルロース繊維の分散体とし、生じた微細修飾セルロース繊維を濾過、遠心分離等の方法により媒体と分離し洗浄して、高純度の微細修飾セルロース繊維を得る。
【0043】
ここで、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)やN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を使用してもよい。また、これらの混合物も好適に使用できる。しかし、上記分散媒は水が50質量%以上であることが好ましく、水が80質量%以上であるとより好ましく、水以外の溶媒を加えない、つまり水100質量%であるとより一層好ましい。
【0044】
次に、分散・修飾工程で使用する分散処理装置としては、種々なものを使用することができる。具体例を示せば、反応物繊維における反応の進行度(アルデヒド基やカルボキシ基への変換量)にも依存するが、好適に反応が進行する条件下では、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等の工業生産機としての汎用の分散処理装置で十分に本発明の微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。
【0045】
しかし、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、およびグラインダーのようなより強力で叩解能力のある装置を使用すると、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、さらに、これらの装置を使用することにより、アルデヒド基やカルボキシ基の量が比較的小さい場合(例えば、アルデヒド基やカルボキシ基のセルロースに対する総和量として、0.1〜0.5mmol/g)にも高度に微細化された本発明の微細修飾セルロース繊維を提供できるので好ましい。
【0046】
なかでも、高圧ホモジナイザーが湿式分散処理装置として好ましい。高圧ホモジナイザーとしては、内部に小径オリフィスを備え、このオリフィスに被処理液(分散液)を通過させることにより圧力を負荷し、容器内壁などの壁面に衝突させることにより、剪断応力又は切断作用を付与するタイプ、さらには分散液を一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させるタイプがあるがどちらも好適に用いる事ができる。なお、湿式分散処理装置は、湿式粉砕処理装置、または湿式微細化処理装置と称されることもある。
前者のタイプの装置としては、みずほ工業社製の「マイクロフルイダイザー」、ゴーリン社製の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。
【0047】
このタイプの装置を用いて処理する場合は高圧ホモジ。ナイザーによる微小繊維状セルロースのフィブリル化と懸濁液の均質化の程度は、高圧ホモジナイザーへ圧送する圧力と、高圧ホモジナイザーに分散液を通過させる回数(パス回数)に依存し、圧送圧力は、通常3×10〜30×10N/cm(30〜300MPa)であり、好ましくは3×10〜10×10N/cm、より好ましくは3.5×10〜8×10N/cm、さらに好ましくは4×10〜6×10N/cmである。また、パス回数は、例えば、1〜10回、好ましくは2〜5回程度である。オリフィス通過により負荷される圧力は、上記圧送圧力と同様の範囲から選択できる。また、オリフィス通過と壁面への衝突とを繰り返して行うことにより、均質化の程度を適宜調整することができ、上記工程の繰り返し数は、前記パス回数と同様の範囲から選択できる。
【0048】
さらに後者のタイプの高圧ホモジナイザーとしてはスギノマシン株式会社製の「アルテマイザーシステム」がある。分散回数としては、1〜10回、特に2〜5回が好ましい。分散回数が多すぎると多糖類の重合度の低下が著しくなる可能性がある。分散回数を重ねるに従い、分散液の温度が上昇するので、一度湿式分散された後の分散液は、熱交換器を通過して冷却されることが好ましい。通常圧力は30MPa〜300MPaで行う事が好ましい。30MPaより低い圧では分散、修飾工程も不十分になる。より好ましくは30MPa〜250MPa、更に好ましくは100MPa〜230MPaの圧力範囲である。このように本微細セルロースを使用してセルロースの分散、修飾を行う場合には、従来のセルロースを使用する場合と比較して分散回数も比較的少なくてすみエネルギー的にも優位である。
なお、以上述べた、本発明の製造方法における湿式分散処理は、バッチ式、連続式のいずれでも良いが、大量の処理が可能で、分散回数が少ない程よい。
【0049】
また分散前の反応物繊維の分散溶媒への濃度は0.01%〜10%程度である。0.01質量%よりも濃度が低い場合には、溶液全体の量が多くなり過ぎ、取り扱う上で好ましくない場合がある。10質量%を超える場合には分散液の粘度が高くなりすぎるため、陽イオン交換率が低下することがある。好ましくは0.1〜5%程度。より好ましくは0.2〜3%の範囲である。反応時の温度としては、例えば、水の場合には、概略20〜100℃程度で陽イオン交換反応を行うことが好ましい。こうして得られた微細修飾セルロースは反応終了後、未反応の有機ホスホニウムイオンを取り除くため十分に洗浄することが好ましい。洗浄方法としては特に限定するものではないが、例えば有機溶媒等の有機オニウム化合物の良溶媒にて洗浄することが挙げられる。
【0050】
また液中に添加する有機オニウム化合物は反応物繊維中1gにつき0.1〜10mmol/g(反応物繊維の質量当たり)程度添加すれば十分である。より好ましくは反応物繊維中のカルボキシ基量に対して等倍〜5倍程度添加すれば十分である。なお分散前の反応物繊維中にはアルデヒド基が存在する事があるが、必要によりさらなる酸化を行い完全にカルボキシ基に変換したものを使用しても良い。
【0051】
上記の分散・修飾処理後の微細修飾セルロースの分散体をそのままポリマーとのコンポジットになどの用途に用いても良いが、分散処理において用いた溶媒が、微細修飾セルロースの用途に好ましくないなどの場合は、微細修飾セルロースを当該溶媒から公知の濾過や遠心分離などの方法により分離して用いたり、他の溶媒に再分散させて用いてもよい。また、用途に好ましい溶媒を該分散体に混合して、溶媒置換して用いても良い。
【0052】
なお、本工程における処理の効果は、主に、反応物繊維表面のカルボキシ基が塩を形成しているアルカリ金属カチオン(酸化処理工程で用いた共酸化剤に由来する)が、有機オニウムによってイオン交換されることによるものと考えられる。これは、有機オニウム処理によって得られた微細修飾セルロース繊維がN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの有機溶媒に分散し容易に沈殿を生じないことからも明らかである。
【0053】
上記のように、本願発明は、上記製造方法によって得られた微細修飾セルロースと、有機溶媒を含む微細修飾セルロース分散液についての発明でもある。当該有機溶媒としては、上記の分散・修飾工程で示したアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキサイド等の非プロトン性極性溶媒類のほか、石油エーテル、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの非極性溶媒も使用可能である。上記微細修飾セルロース分散液における組成は、有機溶媒100質量部あたり、微細修飾セルロースが0.01〜100質量部であると好ましく、0.1〜80質量部であるとより好ましく、0.5〜50質量部であると更に好ましく、1〜30質量部であると極めて好ましい。上記微細修飾セルロース分散液を調製するには、微細修飾セルロースを有機溶媒中で分散させればよく、当該分散処理の方法及びその装置については、上記の分散・修飾工程で示したものを用いても良いが、当該微細修飾セルロースは極めて分散性が高く、微細修飾セルロースと有機溶媒との混合物を通常の方法で攪拌するだけで、良好な微細修飾セルロース分散液を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
(1)セルロースの結晶形態
本発明の微細修飾セルロース繊維がI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と2シータ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0056】
(2)セルロース繊維の質量に対するセルロースのアルデヒド基およびカルボキシ基の量(mmol/g)
乾燥質量を精秤したセルロース試料から0.5〜1質量%スラリーを60ml調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液量(V)から、下式を用いて官能基量1を決定する。該官能基量1がカルボキシ基の量を示す。
次に、セルロース試料を、酢酸でpHを4〜5に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量2を測定する。この酸化によって追加された官能基量(=官能基量2−官能基量1)を算出し、アルデヒド基量とした。
官能基量1または2(mmol/g)=V(mL)×0.05/セルロースの質量(g)
【0057】
[参考例1]反応物繊維(微細セルロース繊維)の合成
反応物繊維(微細セルロース繊維)の合成は、天然セルロースとして日本製紙株式会社製のLBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)を用いて、特開2008―1728号公報に従って行った。得られた微細セルロースのアルデヒド基の量およびカルボキシ基の量は、それぞれ0.30mmol/gおよび0.8mmol/gであった。
【0058】
[実施例1]
参考例1で得られた反応物繊維(微細セルロース繊維)10質量部、イオン交換水4990質量部を、攪拌羽根を供えたビーカーに入れ攪拌した。ここにトリ−n−ブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド(日本化成工業製、カタログナンバー:PX416)21質量部をイオン交換水300質量部で溶解させた溶液を加えて得られた混合溶液を、スギノマシン(株)製の高圧湿式微粒化システム「スターバースト(登録商標)ミニ」を用いて、180MPaにて連続的に湿式分散処理を行い、白色の微細修飾セルロースを含む溶液を得た。さらに上記の連続的な湿式分散処理をもう1度行い、得られた分散液から固体を濾別したところ、得られた微細修飾セルロースが疎水化されているために水中では沈殿しており濾別は容易であった。その後メタノールで3回、水で3回洗浄した後、有機オニウム処理された微細修飾セルロース繊維を得た。この得られた微細修飾セルロース繊維(乾燥質量で10質量部)を、N−メチルピロリドン(490質量部)に加えて攪拌したところ、速やかに分散し、6時間後も沈降しなかった。
【0059】
[実施例2]
参考例1で得られた微細セルロース繊維分散体10質量部を、イオン交換水1657質量部にして濃度を変えた他は実施例1と同様に微細修飾セルロースを得た。この得られた微細修飾セルロース繊維(乾燥質量で10質量部)を、N−メチルピロリドン(490質量部)に加えて攪拌したところ、速やかに分散し、6時間後も沈降しなかった。
【0060】
[実施例3]
実施例1で用いたオニウム塩をヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(日油株式会社製、ニッサンカチオン(登録商標)PB−40R)14質量部に変えた他は実施例1と同様に行い微細修飾セルロースを得た。この得られた微細修飾セルロース繊維(乾燥質量で10質量部)を、N−メチルピロリドン(490質量部)に加えて攪拌したところ、速やかに分散し、6時間後も沈降しなかった。
【0061】
[比較例1]
フナイ化学(株)より販売されている結晶セルロースであるフナセルII粉末を純水に投入し、オニウム塩としてトリ−n−ブチルヘキサデシルホスホニウムブロミドを加えて特開2005-270891に記述される手法を用いて、結晶性セルロースの湿式分散処理を行った。湿式分散機はスギノマシン(株)製の高圧湿式微粒化システム「スターバースト(登録商標)ミニ」を使い、200MPaにて50回の粉砕処理を行った。得られた分散液から固体を濾別し、メタノールで3回、水で3回洗浄した後、微細セルロース繊維を得た。この得られた微細修飾セルロース繊維(乾燥質量で10質量部)を、N−メチルピロリドン(490質量部)に加えて攪拌したところ、沈殿が生じ、分散する事ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製造方法により得られる微細修飾セルロースは、ナノフィラーとして樹脂にナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットとすることにより、パソコン、携帯電話等の家電製品の筐体、文房具等の事務機器、スポーツ用品、輸送機器、建築材料など幅広い分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロースに、N−オキシル化合物、および共酸化剤を作用させることにより得られる反応物繊維を、下記式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物の存在下に湿式分散処理することを特徴とする微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【化1】

(式中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。R、R、RおよびRの炭素数の合計は4〜120である。R、R、RおよびRは互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項2】
湿式分散処理が連続式である請求項1記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
反応物繊維が、カルボキシ基とアルデヒド基を合計で0.1〜2.2mmol/g(反応物繊維の質量当たり)有する微細セルロース繊維である請求項1又は2に記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
有機オニウム化合物が有機アンモニウム化合物及び有機ホスホニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1〜3のいずれか1つに記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
湿式分散処理が、該反応物繊維と、該式(1)に示すカチオン構造を有する有機オニウム化合物と、水とを含む混合液を30〜300MPaの高圧で分散処理するものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の微細修飾セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法により得られた微細修飾セルロース繊維と、有機溶媒とを含む微細修飾セルロース繊維分散液。

【公開番号】特開2011−127067(P2011−127067A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289111(P2009−289111)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】