説明

微細凹凸構造を有する筆記シート

【課題】クレヨンを筆記具として用いた時に、筆記性と消去性のバランスにすぐれ、さらに、室内照明等の光が照射されても、ぎらつきが少なく、どの方向からも見やすい防眩性にすぐれた筆記シートを提供すること。
【解決手段】樹脂製基材シートの表面がコーティング剤でコーティング処理され、かつ微細凹凸構造を有する乾式又は湿式筆記具用の筆記シートであって、コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレヨンタイプの筆記具を用いた時に、筆記性と消去性に優れ、さらに、光が乱反射されるために防眩性にすぐれた筆記シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、掲示板等の、多くの人に情報を提供するための簡易な手段として、黒板が使用されてきた。黒板は、白墨を用いて容易に文字や図形を描くことができ、布等の消去具で拭き取ることにより、容易に消去することができる。しかし、白墨を用いて文字、図形を描く際、あるいは、描いた図形等を拭き取る際、白墨の粉塵が黒板周辺に浮遊するため、人体の呼吸器に悪影響を与えるとの問題がある。
【0003】
このため、黒板に代わるものとして、白墨の粉塵の発生がない、白色ボード(ホワイトボード)が、一般に使用されるようになっている。白色ボードは、一般に、アルミニウム等の金属板の基材の上に、白色塗料等の白色樹脂層が形成されたものである。白色ボードは、水溶性あるいはアルコール可溶性の親水性のインクで、容易に文字や図形を描くことができ、布等の消去具で拭き取ることにより、容易に消去することができる。しかし、インクを拭き取る際には、やはり、粉塵が発生するという問題があり、また、特に、油性のインクを用いた場合は、溶剤の揮発により、使用者に対して健康上の問題が生じる。さらに、使用中、あるいはキャップの閉め忘れ等により、溶剤が揮発し、筆記具としての寿命が短く、比較的短期間で書けなくなってしまうという問題もある。
【0004】
これら従来の筆記具の問題点を改良したものとして、例えば特許文献1および2に記載されているような、クレヨンタイプの筆記具が開発された。これは、高融点のワックスに、顔料、界面活性剤等を配合して得られるもので、白墨や水性、油性インクのように、筆記や消去の際に粉塵が飛散することはなく、有機溶剤の揮散による人体への悪影響もない。また、使用の途中で書けなくなってしまうこともなく、最後まで使い切ることができる、といった利点を有している。
【0005】
一方、これらクレヨンを使用するための筆記シートとしては、例えば、特許文献3に記載されているように、表面にエンボス加工が施された所要粗度を有する表面材を備えているものが提案され、使用されている。エンボスを施すことによって、表面が平滑でなくなるために、クレヨンでの筆記性が向上し(クレヨンの乗りがよくなる)、また、エンボス面で光が乱反射するので、例えば室内照明からの光が特定の方向に強く反射することがない、すなわち、防眩性にすぐれるという特徴を有する。その反面、クレヨンがエンボスの凹部に入り込んでしまうために拭き取りにくい、すなわち、消去性が悪いという問題があった。エンボス密度を疎にしたり、凹凸の深さを浅くすることによって、消去性を改良することはできるが、逆にクレヨンが表面で滑ってしまうために筆記性が悪くなったり、光が乱反射しにくくなるため、見る方向によっては描かれた文字や図形が見づらいという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−49752号公報
【特許文献2】特開2007−31612号公報
【特許文献3】特開2006−181951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、クレヨンを筆記具として用いた時に、筆記性と消去性のバランスにすぐれ、さらに、室内照明等の光が照射されても、ぎらつきが少なく、どの方向からも見やすい防眩性にすぐれた筆記シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、樹脂製基材シートの表面にコーティングを施し、かつ微細凹凸構造を付与するとともに、コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。樹脂製シートの表面に微細凹凸構造を持たせることにより、クレヨンで文字等を記載した際に滑ってしまうことがなく、鮮明に描画することができ(筆記性が良好)、また、光が乱反射されるので、光が特定の方向に強く反射して、文字や図形が見にくくなってしまうことがない(防眩性が良好)。さらに微細凹凸面が特定のコーティングされているために、樹脂シート表面が硬質となり、描いた文字等を布等で拭き取れば、容易に消去することができる(消去性が良好)。
【0009】
すなわち本発明は、樹脂製基材シートの表面がコーティング剤でコーティング処理され、かつ微細凹凸構造を有する乾式又は湿式筆記具用の筆記シートであって、コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有することを特徴とする筆記シートに関する。
【0010】
前記水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)のガラス転移温度が55℃以上であり、さらに、水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体(a)成分を、全単量体100重量部中に20重量部以上含有することが好ましい。
【0011】
前記(メタ)アクリル系重合体(A)が、さらに主鎖末端および/または側鎖にポリシロキサン構造を有することが好ましい。
【0012】
前記ポリシロキサンがジアルキルポリシロキサンであることが好ましい。
【0013】
前記水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)が、さらに主鎖末端および/または側鎖に加水分解性シリル基を有することが好ましい。
【0014】
コーティング剤がシリコーン粉末(C)を含有することが好ましい。
【0015】
コーティング剤が、一般式(I):
(RO)4−a−Si−R (I)
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、aは0または1を示す)で表されるシリコン化合物及び/またはその部分加水分解縮合物(D)を含有することが好ましい。
【0016】
樹脂製基材シートの表面を微細凹凸構造に加工した後、コーティング剤を塗布することにより得られることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記筆記シートを貼った筆記ボードに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂製基材シートの表面にコーティングが施され、かつ微細凹凸構造を有するため、クレヨンを筆記具として用いた時に、筆記性と消去性のバランスにすぐれ、さらに、室内照明等の光が照射されても、ぎらつきが少なく、どの方向からも見やすいという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
(樹脂製基材シート)
本発明に使用可能な筆記シートの基材シートの材料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレートのような結晶性ポリエステル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を共重合させた非晶性ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル/エチレン−プロピレン−ジエン/スチレン共重合体(AES樹脂)等が挙げられる。
【0021】
これらの基材シートは、白色不透明、着色、あるいは無色透明でもよく、さらに部分的に着色されたもの、すなわち、印刷模様や絵柄を有するものでもよく、このような着色や印刷は、いずれも従来技術に準じて行われる。また上記基材シートは、コーティング剤との密着性を改良する目的で、表面にプライマー処理や、コロナ放電、プラズマ放電処理を施したものでもよい。
【0022】
このような基材シートは、あまりに薄すぎると強度その他の面で不都合があり、また、あまりに厚すぎても不経済となるので、好ましい厚みの範囲は10〜500μm程度、さらに好ましくは50〜300μm程度である。
【0023】
上記基材シートには、コーティング剤が塗布される。コーティング処理は、クレヨンを用いて描いた文字や図形を消去しやすくする目的の他に、樹脂シートの表面に硬度を付与するために使用される。コーティング処理により、本筆記シートの表面に耐磨耗性が付与され、クレヨンでの筆記と消去の作業が繰り返されても、表面に傷が付くことがなく、筆記シートとして長期に安定した筆記性と消去性が得られる。
【0024】
(コーティング剤)
本発明に使用可能なコーティング剤としては、主鎖末端および/または側鎖に水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)が好ましい。水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体は、ポリイソシアナート化合物(B)と架橋反応を伴うことで緻密な塗膜を形成し、これにより筆記シートの表面に耐溶剤性、耐汚染性、耐磨耗性を付与することができる。本発明において「(メタ)アクリル」という表現は、アクリルおよび/またはメタアクリルを表すこととする。
【0025】
水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)は、例えば、水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体(a)成分とその他の共重合可能な単量体(b)成分を従来公知のラジカル重合、すなわち、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等を用いたフリーラジカル重合により製造することができる。
【0026】
水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体(a)成分の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、4−ヒドロキシスチレンビニルトルエン、東亞合成(株)製のアロニクス5700、4−ヒドロキシスチレン、(株)日本触媒製のHE−10、HE−20、HP−1およびHP−2(以上、何れも末端に水酸基を有するアクリル酸エステルオリゴマー)、日油(株)製のブレンマーPPシリーズ、ブレンマーPEシリーズ、ブレンマーPEPシリーズ等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート誘導体、水酸基含有化合物とε−カプロラクトンとの反応により得られるε−カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系共重合体化合物PlaccelFM−1、FM−4(以上ダイセル化学工業(株)製)、TONEM−201(UCC社製)、HEAC−1(ダイセル化学工業(株)製)等のポリカーボネート含有ビニル系化合物などが挙げられる。
【0027】
これらの水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体(a)成分は、単独で用いてもよいし、また2種以上を併用しても良い。(a)成分の使用割合は、十分な消去性を得るために、全単量体100重量部中に20重量部以上が好ましい。上限は、40重量部、さらには30重量部が消去性、加工性の観点から好ましい。
【0028】
その他の共重合可能な単量体(b)成分の具体例としては、(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、α−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類とリン酸またはリン酸エステル類との縮合生成物などのリン酸エステル基含有(メタ)アクリル系化合物、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸、4−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族炭化水素系ビニル化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸、これらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などの塩;無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の酸無水物、これら酸無水物と炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖を有するアルコールまたはアミンとのジエステルまたはハーフエステルなどの不飽和カルボン酸のエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ジアリルフタレートなどのビニルエステルやアリル化合物;ビニルピリジン、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ基含有ビニル系化合物;イタコン酸ジアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド、N−ビニルピロリドンなどのアミド基含有ビニル系化合物;(メタ)アクリロニトリル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、メチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、フルオロオレフィンマレイミド、N−ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸などのその他ビニル系化合物などが挙げられる。
【0029】
これらのその他の共重合可能な単量体(b)成分は、単独で用いてもよいし、また2種以上を併用しても良い。(b)成分の使用割合は、十分な消去性を得るために、全単量体100重量部中に20〜80重量部が好ましい。
【0030】
これらの水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)のガラス転移温度は、55℃以上が好ましく、さらには55〜80℃が加工性の点から好ましい。55℃未満では、十分な消去性を得ることが出来にくくなる場合がある。ここでガラス転移温度とは、下記に示したFOX式から計算された数値である。
1/Tg=Σ(mi/Tgi)
Tg:共重合体のガラス転移温度
mi:モノマーi成分の重量分率
Tgi:モノマーi成分のホモポリマーのガラス転移温度(K)
本発明では、以下のホモポリマーのTgの値を用いガラス転移温度を計算することとする:メチルメタクリレート 378K、ブチルメタクリレート 293K、ブチルアクリレート 219K、2−ヒドロキシエチルメタクリレート 328K、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 316K、片末端メタクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン 316K、メタクリル酸 438K。
さらに、これら水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)の主鎖末端および/または側鎖にポリシロキサン構造を導入することも可能である。ポリシロキサン構造を導入することにより、シート(塗膜)表面が撥水性となり、筆記性と消去性のバランスがより良好な筆記シートを得ることができる。
【0031】
ポリシロキサン構造の導入方法としては、(メタ)アクリル酸変性ポリシロキサン(c)を用いて、上記ラジカル重合により共重合する方法や、アミノ基変性ポリシロキサン(d)や水酸基変性ポリシロキサン(e)を用いて、イソシアネートなどを架橋剤として樹脂骨格に導入する方法や、エポキシ変性ポリシロキサン(f)とカルボン酸との反応により導入する方法などが挙げられる。
【0032】
中でも、(メタ)アクリル酸変性ポリシロキサン(c)を用いて、上記ラジカル重合により共重合する方法が、撥水性が高く、より外観に優れるため好ましい。
【0033】
(メタ)アクリル酸変性ポリシロキサン(c)の具体例としては、片末端(メタ)アクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン、片末端(メタ)アクリロキシプロピルフェニルメチルポリシロキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シロキサン、両末端(メタ)アクリロキシプロピルジメチルポリシロキサン、両末端(メタ)アクリロキシプロピルフェニルメチルポリシロキサンなどが挙げられ、チッソ(株)製のサイラプレーンFM−0721やFM−0725、TM−0701、FM−7721、FM−7725などが市販されている。
【0034】
アミノ基変性ポリシロキサン(d)の具体例としては、片末端もしくは両末端或いは側鎖をアミノ基で変性したポリシロキサンが挙げられ、チッソ(株)製のサイラプレーンFM−3325や東レ・ダウコーニング(株)製のFZ−3785、BY16−893などが市販されている。
【0035】
水酸基変性ポリシロキサン(e)の具体例としては、片末端もしくは両末端或いは側鎖を水酸基で変性したポリシロキサンが挙げられ、チッソ(株)製のサイラプレーンFM−0425、FM−DA21、FM−4425、ビック・ケミー・ジャパン(株)製のBYK−SILCLEAN3700などが市販されている。
【0036】
エポキシ変性ポリシロキサン(f)の具体例としては、片末端もしくは両末端或いは側鎖をエポキシ基で変性したポリシロキサンが挙げられ、東レ・ダウコーニング(株)製のSF8411、SF8421などが市販されている。これらの中でも、より消去性を向上させるためには、ジメチルポリシロキサン骨格が好ましく、さらに片末端変性ポリシロキサンがより好ましい。
【0037】
これらの変性ポリシロキサンの使用量は、全単量体100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下用いられるのが好ましい。0.1重量部未満であると期待する撥水性が不十分となる場合がある。また30重量部を超えると(メタ)アクリル系重合体(A)と結合を有しないポリシロキサンが多くなる場合がある。
【0038】
さらに加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分を共重合することも可能である。加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分を共重合した場合には、硬化の際、強固なシロキサン結合を導入することができる。シロキサン結合を導入することにより、耐磨耗性をさらに向上することができる。加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリ−n−プロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分は、単独で用いてもよいし、また2種以上を併用しても良い。
取扱いの容易さ、価格および重合安定性、得られる組成物の硬化性が優れるという点から、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が特に好ましい。
【0039】
加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分は、全単量体100重量部中に2〜50重量部用いて共重合されることが望ましい。2重量部未満では、充分な硬度が発現せず、耐摩耗性が向上しない場合がある。一方、50重量部を超えると貯蔵安定性が悪化する傾向にある。
【0040】
(メタ)アクリル系重合体(A)の重量平均分子量は、5,000〜150,000が好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は、未重合の単量体が残存し易くなる場合がある。一方、重量平均分子量が150,000を超えると、塗装時に糸引き等の欠陥を生じることが多くなる場合がある。
【0041】
(メタ)アクリル系重合体(A)の水酸基価は、42mgKOH/g以上が好ましく、45〜63mgKOH/gが加工性の観点からより好ましい。水酸基価が、42mgKOH/g未満であると、十分な消去性が得られない場合がある。ここで、水酸基価とは、下記で示した式から計算された数値である。
水酸基価=KOHmg/溶剤を含む樹脂全量
KOHmg:水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体モル数×56,100
【0042】
(ポリイソシアナート化合物(B))
本発明のコーティング剤には、架橋剤としてイソシアナート基を2個以上有する化合物(以下、ポリイソシアナート化合物という)を使用することができる。ポリイソシアナート化合物としては、脂肪族系もしくは芳香族系のものが挙げられる。
【0043】
脂肪族系多官能性イソシアナートの具体例として、ヘキサメチレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−イソシアナート、2,2,4−トリメチル−1,6−ジイソシアナート、イソフォロンジイソシアナートがある。芳香族多官能性イソシアナートとしては、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、ポリメチレン−ポリフェニレル−ポリイソシアナートなどがある。構造としてはともに単量体、ビュレット型、アダクト型、イソシアヌレート型がある。
【0044】
これらの化合物は常温硬化用に用いることができるが、さらにこれらのイソシアナート基をブロック剤でマスクしたものを加熱硬化用に用いることもできる。そのブロック剤としてはメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、シクロヘキシルアルコール、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、チモール、p−ニトロフェノール、β−ナフトールなどがある。また、これらの化合物は、2種以上混合して用いることもできる。
【0045】
ポリイソシアナート化合物(B)の使用量としては、イソシアナート基が前記(A)成分中の水酸基に対して0.3等量以上2等量以下であることが好ましい。
【0046】
(シリコーン粉末(C))
本発明で使用可能なシリコーン粉末の性状は限定されず、例えば、比較的高硬度のゴム状、あるいはレジン状が挙げられ、また、その形状も限定されず、例えば、球状、扁平形状、不定形状が挙げられるが、特に、防眩性を高める観点で不定形状が好ましい。
【0047】
本発明の筆記シートは、基材シート表面が微細凹凸構造となっているが、コーティング剤を塗布した際、コーティング剤に含まれる溶剤により基材シートが溶解し、微細凹凸構造が潰れたり、また、塗布量が多すぎた場合には、凹凸構造の凹部が樹脂により埋まってしまい、その結果、表面が平滑になり、クレヨンの筆記性が悪化するとともに、防眩性が低下することがある。
【0048】
シリコーン粉末(C)を添加した場合、塗膜自体に防眩性を付与することができ、かつ、シリコーン粉末(C)が塗膜表面に露出することで凹凸ができ、適度な筆記性も付与することができる。また、シリコーン粉末はジメチルポリシロキサン骨格を有しているので、消去性が損なわれることもない。基材シートの耐溶剤性が低い場合や、コーティング剤に溶解性が高い溶媒を使用した場合に、特に有効である。
【0049】
シリコーン粉末(C)の具体例としては、モメンティブ・パフォーマンス・マアテリアルズ・ジャパン社製のトスパール120、トスパール130、トスパール145、トスパール240、トスパール2000B、トスパール1110、信越化学工業(株)製のKMP−600、KMP−601、KMP−602、KMP−605、X−52−7030、KMP−597、KMP−598、KMP−594、X−52−875、KMP−590、KMP−701、X−52−854、X−52−1621などが市販されている。
【0050】
シリコーン粉末(C)の使用量は、(A)成分100重量部に対して5〜50重量部、好ましくは10〜30重量部、より好ましくは10〜20重量部である。シリコーン粉末(C)成分の量が5重量部未満では、期待する防眩性が得られない場合が多く、50重量部を超えると、コーティング剤の塗装適性が損なわれたり、塗膜が脆くなるなどの点で好ましくない。
【0051】
(シリコン化合物及び/またはその部分加水分解縮合物(D))
本発明で使用可能なシリコン化合物及び/またはその部分加水分解縮合物(D)としては、下記一般式(I)
(RO)4−a−Si−R (I)
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、aは0または1を示す)で表されるシリコン化合物及び/またはその部分加水分解縮合物(D)成分(以下、オルガノシリケート化合物(D)成分という)を使用することができる。
【0052】
オルガノシリケート化合物(D)を使用した場合には、塗膜の硬度を高めることができ、消去性が向上する。オルガノシリケート化合物(D)成分の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−i−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン及びそれらの部分加水分解・縮合物が例示できる。中でも得られる塗膜の外観が優れるという点から、メチルシリケート51、メチルシリケート56(以上、三菱化学(株)製)、エチルシリケート40(コルコート(株)製)が望ましい。上記化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用しても良い。
【0053】
また、同一分子中に異なったアルコキシシリル基を含有するオルガノシリケートも使用可能である。例えば、メチルエチルシリケート、メチルプロピルシリケート、メチルブチルシリケート、エチルプロピルシリケート、プロピルブチルシリケートなどである。これら置換基の比率が0〜100%の間で任意に変更可能である。また、これらのシリケートの部分加水分解・縮合物も使用可能であると記述したが、縮合度は1〜20程度が好ましい。更に好ましい縮合度の範囲は、3〜15である。
【0054】
前記(D)成分の使用量は、(A)成分100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは、10〜50重量部、より好ましくは10〜20重量部である。オルガノシリケート化合物(D)成分の量が5重量部未満では、期待する消去性が得られない場合が多く、100重量部を超えると、塗膜が硬くなりすぎてクラックが入ったり、充分な外観を得にくいので好ましくない。
【0055】
(脱水剤)
(A)成分中の加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)や、シリコーン粉末(C)、シリコン化合物(D)が、湿分との反応性を有するため、さらに脱水剤を配合することによって、組成物の保存安定性を向上させることができる。
【0056】
脱水剤としては、例えば、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチルもしくはオルソ蟻酸ブチル等のオルソ蟻酸アルキル;オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチルもしくはオルソ酢酸ブチル等のオルソ酢酸アルキル;またはオルソほう酸メチル、オルソほう酸エチル、オルソほう酸ブチル等のオルソほう酸アルキル等のオルソカルボン酸エステルや、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等の高活性シラン化合物などが挙げられる。
【0057】
脱水剤の使用量としては、(メタ)アクリル系重合体(A)100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下であることが好ましい。
【0058】
(硬化触媒)
本発明の(A)成分に加水分解性シリル基含有ビニル系単量体(g)成分が共重合された場合には、加水分解縮合し、架橋して硬化皮膜を形成するが、架橋反応を促進するために、通常は触媒が使用される。触媒としては、特に限定されず、公知のシラノール縮合触媒、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトネート、オクチル酸錫、等の錫系化合物、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ジイソプロピルチタンビス(エチルアセトアセテート)等のチタン系化合物、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等のアルミニウム系化合物等が挙げられる。
【0059】
硬化触媒の使用量としては、(メタ)アクリル系重合体(A)100重量部に対して0.01重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0060】
(その他)
本発明においては、硬化速度を調整する目的で、メルカプト基含有化合物を配合することができる。メルカプト基含有化合物の具体例としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン化合物やγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等が挙げられる。
【0061】
また、基材シートとの付着性を向上させる目的で、アミノシランやエポキシシラン等のシランカップリング剤を用いることもできる。
【0062】
以上のようなコーティング剤は、例えば、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、ロッドコーティング法、ナイフコーティング法、リバースロールコーティング法、スプレーコーティング法、オフセットグラビアコーティング法、キスコーティング法等、任意の塗布方法により基材シートに塗布されるが、塗布厚の精度、塗布表面の平滑性等にすぐれたグラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、オフセットグラビアコーティング法等が好適である。
【0063】
本発明の筆記シートにおいては、クレヨンを用いて文字や図形を描くときの筆記性を向上させるため、また、シート表面での光を乱反射させ、防眩性を付与するために、その表面に微細凹凸構造を形成させる。
【0064】
微細凹凸構造を付与する方法としては、大別して2つあり、一つは、エンボス、サンドブラスト等の物理的手法を用いる方法、もう一つは、微粒子を艶消し材として添加する方法である。
【0065】
前者の物理的手法として好ましいのは、エンボス法であり、例えば、エンボスロールを用いる方法、高周波エンボス法、微細凹凸形状を有するエンボスフィルムを用いる方法等が挙げられる。エンボスによる微細凹凸構造の形成は、硬化性樹脂を塗布する前の段階で、基材シートに施してもよいし、塗布した後でもよい。また、塗布後に行う場合は、硬化性樹脂が完全に硬化した後でもよいし、硬化前、あるいは硬化途中であってもよい。硬化性樹脂を塗布前に、基材シートにエンボスを行うときは、所望の微細凹凸形状を有する金属ロール等のエンボスロールを、基材シートがある程度軟化する温度、例えば、40〜200℃程度の温度に加熱し、エンボスロールとバックアップロールとの間にシートをはさんで連続的に微細凹凸構造を付与することができる。
【0066】
基材シートにエンボスにより微細凹凸構造を付与した後、硬化性樹脂を塗布する場合、該硬化性樹脂を溶剤で希釈してから塗工することが好ましい。特に固形分が100%である硬化性樹脂の場合は、希釈することが好ましい。固形分100%の硬化性樹脂をそのまま塗布し、硬化させると、凹凸構造の凹部が樹脂により埋まってしまい、その結果、表面が平滑になり、クレヨンの筆記性が悪化するとともに、防眩性が低下する。硬化性樹脂を溶剤に溶解して塗工すると、硬化前に溶剤が揮発し、微細凹凸面に沿って硬化皮膜が形成されるので、凹凸構造が保持される。その結果、クレヨンでの筆記性と防眩性が保持され、さらに消去性にすぐれたシートとなる。希釈の倍率は、それぞれの微細凹凸形状に合わせ、クレヨンの筆記性、消去性と防眩性が最適なバランスとなるように、適宜、設定される。
【0067】
基材シートにコーティング剤を塗布し、完全に硬化させた後に、微細凹凸構造を付与する場合は、エンボスロールを硬化した樹脂がある程度軟化する温度、例えば、80〜150℃程度に加熱し、前記と同様にしてシートに連続的に微細凹凸構造を付与することができる。
【0068】
基材シートにコーティング剤を塗布し、必要に応じて溶剤の蒸発や加熱により部分的に硬化させ、硬化性樹脂で被覆された層が粘着性を失った状態で、エンボスロールにより微細凹凸構造を形成し、その形成と同時あるいはその後に熱や電離放射線によって完全に硬化させる方法も好適に用いることができる。基材シートに硬化性樹脂を塗布した後にエンボスを行う場合、塗布面から行っても、基材側から行ってもよい。
【0069】
以上のようにして、筆記シートの表面に形成される微細凹凸構造は、その形状により、クレヨンの筆記性、消去性および防眩性のバランスに大きな影響が生じ、好適には、算術平均粗さRaが1.0〜10.0μmであり、隣接凸部間の平均山間隔Smが30〜300μmであることが好ましい。
【0070】
また、防眩性の別の指標である光沢値については、入射角60°での光沢が5〜20の範囲にあるのが好ましく、さらに好ましくは10〜15である。光沢が5よりも低いと、防眩性は良好であるが、クレヨンの消去性が悪くなる傾向があり、逆に20より高いと、防眩性が悪くなる。
【0071】
本発明の筆記シートは、基材シートの表面がコーティング処理され、かつ、微細凹凸構造を有することを必須とするが、それらを達成するために採用する方法により、製造法は下記のようないくつかのパターンを取りうる。
i)基材シート表面にエンボスロール等で微細凹凸構造を付与した後、コーティング剤を塗布する方法。
ii)基材シート表面にコーティング剤を塗布し、その硬化前、硬化中、あるいは、完全硬化後に、エンボスロール等を用いて微細凹凸構造を付与する方法。
【0072】
また、微細凹凸構造を付与するための手段としては、エンボスロール等によるエンボス加工等の物理的手法を用いる方法と、微粒子を添加する方法を併用しても構わない。例えば、エンボス加工された基材シートに対して、微粒子を含むコーティング剤を塗布することも可能である。両者を併用することによって、クレヨンの筆記性と防眩性が一層改良されるが、クレヨンの消去性を確保するために、エンボスの形状や微粒子の粒子径、配合量を十分調整する必要がある。
【0073】
前記のようにして得られる筆記シートは、その裏面に粘着剤層を設けることができる。粘着剤層は、一般に粘着剤組成物を塗布、乾燥することにより形成される。粘着剤の主成分としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−イソブチレン共重合体等の合成ゴム系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル等が使用される。通常、粘着付与樹脂(例:ロジン、ロジンエステル、エステルガム、クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、テルペン樹脂、炭化水素樹脂、フェノール樹脂)や軟化剤(例:脂肪酸エステル、動植物油脂、ワックス、石油重質成分)が添加される。粘着剤層の厚さは、一般に1〜50μmの範囲にあり、好ましくは、3〜30μmである。
【0074】
上記粘着剤層の表面には、離型紙等の離型シートが貼りつけされていることが好ましい。裏面に粘着剤層および離型シートが設けられた本発明の筆記シートは、例えば、ロール状に巻き取られ、使用にあたっては、そのロールから必要な分だけ裁断して、離型シートを剥がし、黒板や壁等に貼りつけることにより、貼りつけた箇所をクレヨン用の筆記ボードとして使用することができる。また、粘着層を設けた筆記シートを、金属板や樹脂板に貼りつけることにより、筆記ボードとすることも可能である。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0076】
(基材シートの製造例1)
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(電気化学工業社製)を用い、カレンダーロール成形にて厚さ200μmのシートを得た。次いで、得られたシートにエンボスロールにて、表面に微細凹凸構造を形成した。凹凸構造の算術平均粗さRaは3.38μmであり、隣接凸部間の平均山間隔Smは、200μmであった。
【0077】
(基材シートの製造例2)
アクリロニトリル/エチレン−プロピレン−ジエン/スチレン共重合樹脂(三菱化学社製)を用い、カレンダーロール成形にて厚さ200μmのシートを得た。次いで、得られたシートにエンボスロールにて、表面に微細凹凸構造を形成した。凹凸構造の算術平均粗さRaは3.38μmであり、隣接凸部間の平均山間隔Smは、200μmであった。
【0078】
(重合体(A)成分の製造方法:製造例A−1〜9)
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応器に表1の(イ)成分を仕込み、窒素ガスを導入しつつ110℃に昇温した後、表1の(ア)成分の混合物を滴下ロートから5時間かけて等速滴下した。次に、(ウ)成分の混合溶液を1時間かけて等速滴下した。その後、引き続き、110℃で2時間攪拌した後に、50℃まで冷却した。冷却後に表1の(エ)成分を加えて攪拌し、重合体(A)を合成した。得られた重合体(A−1〜9)の固形分濃度、GPCで測定した重量平均分子量、計算により求めたガラス転移温度、および計算により求めた水酸基価を表1に示した。
【0079】
【表1】

(表中、(ア)〜(エ)成分の量は重量部)
【0080】
【表2】

コロネートHX;日本ポリウレタン工業(株)製ポリイソシアネート
NCO%=21.3%
【0081】
実施例1〜14および比較例1〜2
コーティング時には、(e)成分、(C)成分、(D)成分を配合した後、酢酸ブチルで40%濃度へ希釈した。さらに、表2で作成した硬化剤を配合し、No18バーコーターを用いて塗布した。80℃で20分乾燥させ、コーティング剤によるクレヨン書き消し性の比較テストを行った。結果を表3に示す(実施例1〜10、比較例1〜2)。更に最も防眩性が良かった実施例3より、シリコーン粉末の防眩効果について比較テストを行った。基材シートを耐溶剤性の劣る製造例2のシートを用い、No18バーコーターを用いて塗布し、80℃で20分乾燥後、防眩性の比較テストを行った(実施例11〜14)。結果を表4に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
(筆記シートの評価)
各筆記シートに、クレヨン(日本理化学工業株式会社製キットパス(黒))を用いて文字や図形を描き、さらに、布製クリーナー(日本理化学工業株式会社製キットパス専用クリーナークロスタイプ)で拭き取り、筆記性と消去性を評価した。また、描いた文字や図形をあらゆる角度から観察し、防眩性を評価した。評価の基準は、以下によった。
[グロス]
得られた筆記シートのグロスをコニカミノルタ株式会社製GM−60光沢計を用いて60°の光沢値を測定した。
[筆記性]
◎:クレヨンが良く書け、色がはっきりと見える。
○:クレヨンが表面ですべったり、文字や図形がかすれてしまうことなく、滑らかに筆記することができる。
△:クレヨンで問題なく書けるが、色によっては薄く見えたりする。
×:クレヨンがすべったり、文字や図形がかすれてしまい、明瞭な文字や図形を描くことができない。
[消去性1]
シートに筆記後、室温で24時間放置した後に評価を行った。
◎:布製クリーナーにて軽く拭き取れ、クレヨン跡が全く残らない。
○:布製クリーナーにて軽微な力で拭き取れ、クレヨン跡を全く残さず消すことができる。
△:布製クリーナーにて軽微な力で拭き取れるが、クレヨンの書いた跡が若干残る。
×:布製クリーナーでの拭き取りに力を要し、クレヨンの書いた跡が残る。
[消去性2]
シートに筆記後、40℃で1週間放置した後に評価を行った。
◎:布製クリーナーにて軽く拭き取れ、クレヨン跡が全く残らない。
○:布製クリーナーにて軽微な力で拭き取れ、クレヨン跡を全く残さず消すことができる。
△:布製クリーナーにて軽微な力で拭き取れるが、クレヨンの書いた跡が若干残る。
×:布製クリーナーでの拭き取りに力を要し、クレヨンの書いた跡が残る。
[防眩性]
◎:あらゆる角度から文字や図形が明瞭に見え、光の反射がまったくない。
○:光が多少反射するものの、あらゆる角度から文字や図形が明瞭に見える。
○△:強い光があたるとその部分が残って見えるが、あらゆる角度から全体的に文字や図形を確認することは可能。
△:光の反射があり、強い光があたると角度によっては文字や図形が見え難くなる。
×:光が反射してしまい、文字や図形を確認できない。
【0085】
実施例から明らかなように、本発明の筆記シートは、クレヨンでの筆記性、消去性に優れているとともに、防眩性にもすぐれている。比較例1、2では、コーティング剤に水酸基が含まれない為、緻密な架橋塗膜が得られず、消去性に劣る。また、耐溶剤性に劣る基材シートを用いた場合には、コーティング剤に含まれる溶剤でシートのエンボスの一部が溶解し、防眩性が低下する傾向にあるが、シリコーン粉末を添加することで、耐溶剤性に劣る基材シートを用いた場合でも、十分な防眩性を確保でき、さらに、筆記性、消去性も両立できる(実施例11〜14)。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の筆記シートは、筆記性と消去性のバランスに優れ、さらに、室内照明等の光が照射されても、ぎらつきが少なく、どの方向からも見やすい防眩性に優れており、特にクレヨンを筆記具として最適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製基材シートの表面がコーティング剤でコーティング処理され、かつ微細凹凸構造を有する乾式又は湿式筆記具用の筆記シートであって、
コーティング剤が主鎖末端および/または側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、ポリイソシアナート化合物(B)を含有することを特徴とする筆記シート。
【請求項2】
前記水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)のガラス転移温度が55℃以上であり、
さらに、水酸基含有ビニル系単量体および/またはその誘導体(a)成分を、全単量体100重量部中に20重量部以上含有する、請求項1に記載の筆記シート。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系重合体(A)が、さらに主鎖末端および/または側鎖にポリシロキサン構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の筆記シート。
【請求項4】
前記ポリシロキサンがジアルキルポリシロキサンであることを特徴とする請求項3に記載の筆記シート。
【請求項5】
前記水酸基および/またはその誘導体を有する(メタ)アクリル系重合体(A)が、さらに主鎖末端および/または側鎖に加水分解性シリル基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の筆記シート。
【請求項6】
コーティング剤がシリコーン粉末(C)を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の筆記シート。
【請求項7】
コーティング剤が、一般式(I):
(RO)4−a−Si−R (I)
(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数7〜10のアラルキル基からなる群から選ばれた1価の炭化水素基であり、aは0または1を示す)で表されるシリコン化合物及び/またはその部分加水分解縮合物(D)を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の筆記シート。
【請求項8】
樹脂製基材シートの表面を微細凹凸構造に加工した後、コーティング剤を塗布することにより得られる請求項1〜7のいずれかに記載の筆記シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の筆記シートを貼った筆記ボード。

【公開番号】特開2011−140166(P2011−140166A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2122(P2010−2122)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】