説明

微細構造体の製造方法

【課題】 ピッチズレが抑制されためっき物からなる微細構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 導電性の基板表面に感光性樹脂の層を形成する第1工程と、前記感光性樹脂の層を露光および現像することで前記基板表面の一部を露出させ、前記感光性樹脂の構造体を形成する第2工程と、前記感光性樹脂の構造体を第1のめっき液に浸漬し、前記基板表面が露出した部分から第1のめっき層を形成する第3工程と、前記第1のめっき層を形成した後、前記感光性樹脂の構造体を硬化させる第4工程と、前記感光性樹脂の構造体を硬化させた後、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去する第5工程と、硬化させた前記感光性樹脂の構造体を前記第1のめっき液と異なる第2のめっき液に浸漬し、前記第1のめっき層を除去した部分から第2のめっき層を形成する第6工程とを有する微細構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属めっき物からなる微細構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周期構造を有する微細構造体からなる回折格子は分光素子として様々な機器に利用されている。また、近年ではX線の吸収特性を利用した金からなる微細構造体は、工業的利用として物体の非破壊検査、医療的利用としてレントゲン撮影、等に用いられている。これらは、物体や生体内の構成元素や密度差によりX線透過時の吸収の違いを利用してコントラスト画像を形成するものであり、X線吸収コントラスト法と言われる。
【0003】
しかしながら、軽元素を用いたX線吸収コントラスト法では、軽元素はX線吸収が非常に小さいため、生体の構成元素である炭素、水素、酸素などからなる生体軟組織、あるいはソフトマテリアルを画像化することは困難である。
【0004】
これに対して、1990年代より、X線の位相差を用いた位相コントラスト法の研究が、放射光施設を中心に行なわれてきた。また、実験室でのX線管を用いた位相イメージングについても研究が行なわれ、伝播法やタルボ干渉法、等が原理的に可能となっている。
【0005】
タルボ干渉を実現していくにあたりにX線吸収の大きな周期構造の金からなる吸収格子を使用する方法が一般的である。周期構造の金からなる吸収格子の作製方法としては、モールドにめっきにより金を充填していくことが好適な方法である。ところがモールドの構造が狭ピッチで高アスペクト比(アスペクト比とは、構造体の高さまたは深さhと横幅wの比(h/w)である。)になるにつれてスティッキング(貼りつき)が発生しやすくなる。
【0006】
スティッキングが発生したモールドにめっきを充填してもピッチズレが生じ所望のイメージング像が得られにくい。特許文献1には、X線吸収金属部をマスクとして用いて感光性樹脂を選択的に露光する選択露光工程と、選択露光工程の場合と逆向きの照射線を感光性樹脂に照射し、感光性樹脂の表層部を露光し非露光部分を除去する方法が開示されている。この方法では感光性樹脂壁を形成するとともに、隣り合う感光性樹脂壁の先端同士を接続する膜状の架橋部を形成されるためスティッキングの発生は抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−169098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、感光性樹脂壁を形成する領域が大きくなるにつれ非露光部分の領域も大きくなり、未露光部分の感光性樹脂を除去することは必ずしも容易ではない。特に現像液を用いた除去においては、感光性樹脂壁間に現像液を循環させ溶解除去させることもまた容易ではない。めっきシード層上に除去しきれなかった感光性樹脂が残ってしまうと、その領域からはめっきが析出しないためX線の吸収が不十分となる。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、ピッチズレが抑制されためっき物からなる微細構造体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る微細構造体の製造方法は、
導電性の基板表面に感光性樹脂の層を形成する第1工程と、
前記感光性樹脂の層を露光および現像することで前記基板表面の一部を露出させ、前記感光性樹脂の構造体を形成する第2工程と、
前記感光性樹脂の構造体を第1のめっき液に浸漬し、前記基板表面が露出した部分から第1のめっき層を形成する第3工程と、
前記第1のめっき層を形成した後、前記感光性樹脂の構造体を硬化させる第4工程と、
前記感光性樹脂の構造体を硬化させた後、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去する第5工程と、
硬化させた前記感光性樹脂の構造体を前記第1のめっき液と異なる第2のめっき液に浸漬し、前記第1のめっき層を除去した部分から第2のめっき層を形成する第6工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ピッチズレが抑制されためっき物からなる微細構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の微細構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【図2】本発明の微細構造体の製造方法の一工程の概要を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施例1の微細構造体の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の実施例2の微細構造体の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明の実施例3の微細構造体の製造方法を示す工程図である。
【図6】本発明の撮像装置の一実施態様を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、微細構造体の製造方法に係り、下記の各工程を有することを特徴とする。
(1)導電性の基板表面に感光性樹脂の層を形成する第1工程。
(2)前記感光性樹脂の層を露光および現像することで前記基板表面の一部を露出させ、前記感光性樹脂の構造体を形成する第2工程。
(3)前記感光性樹脂の構造体を第1のめっき液に浸漬し、前記基板表面が露出した部分から第1のめっき層を形成する第3工程。
(4)前記第1のめっき層を形成した後、前記感光性樹脂の構造体を硬化させる第4工程。
(5)前記感光性樹脂の構造体を硬化させた後、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去する第5工程。
(6)硬化させた前記感光性樹脂の構造体を前記第1のめっき液と異なる第2のめっき液に浸漬し、前記第1のめっき層を除去した部分から第2のめっき層を形成する第6工程。
【0015】
本発明の微細構造体の製造方法は、感光性樹脂の構造体を第1のめっき液に浸漬し第1のめっき層を形成した後、前記第1のめっき層を有する感光性樹脂の構造体を硬化する。硬化させた感光性樹脂の構造体から前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去した後、第2のめっき層を形成することにより、ピッチズレが抑制された微細構造体を製造することができる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の微細構造体の製造方法の一実施態様を示す工程図である。図中、1は基板、2は導電性の基板表面、3は感光性樹脂の層、4は感光性樹脂の構造体、5はリンス液、6は第1のめっき液、7は第1のめっき層、9は洗浄液、10は第2のめっき液、11は第2のめっき層、12は微細構造体、14は硬化させた感光性樹脂の構造体、15および16は凹部である。
【0018】
(第1工程)
まず、図1(a)および(b)に示す様に、導電性の基板表面2に感光性樹脂の層3を形成する第1工程について説明する。
【0019】
本発明は、図1(a)に示す基板1として導電性の基板表面2を有する基板を用いる。
【0020】
基板1の材料としては、金属、半導体、絶縁体の何れの材料を使用することも可能である。基板として金属材料を使用するのであれば、導電層を形成する必要はない。また、半導体を用いる場合、めっきが可能な程度の導電性を有するのであれば、必ずしも導電層を形成する必要はない。
【0021】
表面が導電性でない基板は、基板表面に導電材料からなる導電層を形成する。導電層の形成方法としては、真空蒸着方法、スピンコート法、ディップ法等の薄膜形成方法を用いることができる。表面が導電性の基板の基板表面が金からなることが好ましい。
【0022】
本発明では、図1(b)に示すように導電性の基板表面2に感光性樹脂の層3を形成する。感光性樹脂の層3の形成方法としては液状の感光性樹脂を、スピンコート法、ディップ法にて行っても良いし、感光性樹脂フィルムを貼り付けても良い。感光性樹脂としては、光の照射により重合して光硬化物となり、さらに加熱によりさらに硬化し薬品耐性が向上する熱硬化型の感光性樹脂が好ましい。感光性樹脂の具体例としては、ネガ型レジストのSU−8(化薬マイクロケム)、KMPR(化薬マイクロケム)等が挙げられる。
【0023】
(第2工程)
次に、図1(c)に示す様に、前記感光性樹脂の層3を露光および現像することで前記基板表面の一部を露出させ、前記感光性樹脂の構造体4を形成する第2工程について説明する。
【0024】
本発明では、感光性樹脂の層3をマスクを通して露光し、所望の構造体形状を光硬化させ、現像液にて現像することで前記基板表面2の一部を露出させ、感光性樹脂の構造体4を形成する。前記感光性樹脂の層3を貫通して、底部には基板表面2が露出している凹部15が形成される。前記感光性樹脂の構造体4は、底部に基板表面2が露出している前記凹部15を有する。
【0025】
露光に用いる光源としては、紫外光、放射光または電子線を用いることができる。用いる光源は所望のアスペクト比と使用する感光性樹脂の感光性能と膜厚とから適宜決定する。これらの光源の中でも感光性樹脂の構造体14の高さを大きく且つ狭ピッチに形成する場合は放射光を用いることが好ましい。本発明において、凹部15のアスペクト比(高さh/横幅w)が5以上、好ましくは12以上100以下が望ましい。
【0026】
本発明では、現像後に基板からリンス液5にて現像液を除去し、過剰な現像を防止する。リンス液は使用する感光性樹脂に適したものから選択することができ、好ましくは最終的に水をリンス液として用いる。次の第3工程における第1のめっき液6を汚染しないで、所望の第1のめっき層7が得られるならば、必ずしも水をリンス液5に使用する必要はない。水以外のリンス液5としては、例えばイソプロピルアルコールを使用することができる。
【0027】
(第3工程)
次に、図1(d)に示す様に、前記感光性樹脂の構造体4を第1のめっき液6に浸漬し、前記基板表面が露出した部分から第1のめっき層を形成する第3工程について説明する。
【0028】
本発明では、図1(d)に示すようにリンス液5で洗浄した感光性樹脂の構造体4が形成された基板1を第1のめっき液6に浸漬し、導電性の基板表面2から第1のめっき層7を形成する。本発明においては、第2工程の現像から、第3工程の導電性の基板表面上の感光性樹脂の構造体4に第1のめっき層7を形成するまで、感光性樹脂の構造体4を液に浸漬した状態を保って乾燥させない。これにより、凹部15におけるリンス液5の乾燥時に働く表面張力により、凹部15の壁面同士がスティッキングしてしまうことを回避することができる。なお、本発明における乾燥とは、凹部15の表面のリンス液5を、気体を吹き付けて除去することや気化させて除去することをいう。
【0029】
本発明の第1のめっき液6としては、感光性樹脂の構造体4に対してアタック性の少ないものから選択する。本発明の第1のめっき層7としては、ニッケル、銅、鉄、錫の何れかもしくはこれらの合金等を使用することができる。これらの金属は幅広い種類のエッチング液で選択的なエッチング除去が可能である。第1のめっき層7の厚さは、後述の感光性樹脂を硬化させるときにスティッキングしない厚さが好ましい。本発明の第1のめっき層7の形成方法は、電気めっきでも無電解めっきまたはこれらの組み合わせでも良い。
【0030】
(第4工程)
次に、図1(e)に示す様に、前記第1のめっき層7を形成した後、前記感光性樹脂の構造体4を硬化させる第4工程について説明する。
【0031】
本発明の第4工程では、第1のめっき層7を形成後、感光性樹脂の構造体4を硬化させ、硬化させた感光性樹脂の構造体14を得る。硬化の方法は使用する感光性樹脂の特性に応じて行う。紫外線硬化型の感光性樹脂の場合は、紫外線を照射し、熱硬化型の場合では加熱することで容易に感光性樹脂を硬化させることができる。硬化させた感光性樹脂の構造体14の耐性は更に向上し、第1のめっき層7のエッチング液や第2のめっき液に対して耐性を有するようになる。感光性樹脂が、熱硬化型の感光性樹脂であり、第4工程では、前記感光性樹脂の構造体4を熱硬化させることが好ましい。
【0032】
なお、第2工程において露光した感光性樹脂は第1のめっき液に対する耐性を有し、第4工程において硬化した感光性樹脂は第2のめっき液に対する耐性を有する。第2工程では、所望のパターンができるように感光性樹脂を光硬化させているだけであり、この硬化の程度では、第1のめっき液に対する耐性を有するが、第2のめっき液に対しては十分な耐性を有しない。
【0033】
また、第2工程において露光した前記感光性樹脂の、前記第1のめっき液に対する耐性のほうが、前記第2のめっき液に対する耐性よりも、高い。また、前記第4工程において硬化した前記感光性樹脂のほうが、前記第2工程において露光した前記感光性樹脂よりも、前記第2のめっき液に対する耐性が高い。
【0034】
また、第2工程では露光することによって感光性樹脂は光硬化する。適切な露光量で光硬化することによって、現像液にて溶解せずに基板表面に感光性樹脂の構造体4として残る。ここで適切な露光量でないとマスクによって影になっているところにも光が回り込んで硬化してしまい所望の形状の構造体を形成することが困難になる。
【0035】
一方、第4工程での感光性樹脂の硬化は、エッチング液や第2のめっき層のめっき液に対して耐性を向上させるための硬化のために、光硬化や熱硬化の方法で行う。これにより、第4工程では、第2工程で光硬化させた感光性樹脂を更に硬化(光硬化または熱硬化)させることで、第2のめっき液に対して耐性を有するようになる。
【0036】
(第5工程)
次に、図1(f)に示す様に、前記感光性樹脂の構造体を硬化させた後、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去する第5工程について説明する。
【0037】
硬化させた感光性樹脂の構造体14から第1のめっき層7の全てもしくは一部をエッチング液で除去した後、洗浄液で洗浄してエッチング液を除去する。
【0038】
本発明の第5工程では、第1のめっき層7の全てもしくは一部をエッチング液にて除去する。この際に用いるエッチング液は硬化させた感光性樹脂の構造体14および基板1に対してアタック性の少ないものから選択する。本発明では第1のめっき層7の全てを必ずしも除去する必要はない。
【0039】
図2は、本発明の微細構造体の製造方法の第5工程の概要を説明する模式図である。図2(a)に示すように、第1のめっき層7の一部を残すことによって導電性の基板表面2上に、硬化させた感光性樹脂の構造体14をリジッド(強固)に保持させることができる。また、図2(b)に示すように、導電性の基板表面2と第1のめっき層7の間に合金層8が形成された場合においても必ずしも合金層8を除去する必要はない。合金層8は図2(b)に示すように導電性の基板表面2上に、硬化させた感光性樹脂の構造体14をリジッドに保持する効果がある。導電性の基板表面として金を用いると、金は合金層8を形成しやすい金属であり、その上に形成される第1のめっき層7との界面において合金層8を形成する。また、金をエッチングできるエッチング液は限られており、第1のめっき層7をエッチング除去するときに金もエッチング除去されることはない。
【0040】
本発明では、図1(f)に示す様に、洗浄液9でエッチング液を基板から除去する。洗浄液9としては水溶性溶媒が挙げられるが、中でも水が好ましい。次の第6工程の第2のめっき液10を汚染しないで、所望の第2のめっき層11が得られるのであれば、必ずしも洗浄液9に水を使用する必要はない。水以外の洗浄液9としては、例えばイソプロピルアルコールを使用することができる。
【0041】
(第6工程)
次に、図1(g)に示す様に、硬化させた感光性樹脂の構造体14を前記第1のめっき液と異なる第2のめっき液10に浸漬し、前記第1のめっき層を除去した部分から第2のめっき層11を形成する第6工程について説明する。
【0042】
本発明の第6工程では、洗浄液9で洗浄された硬化させた感光性樹脂の構造体14が形成された基板1を第2のめっき液10に浸漬し、導電性の基板表面2もしくは第1のめっき層7、または合金層8から第2のめっき層11を形成する。第5工程では、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去して前記基板表面の一部を露出させ、第6工程では、前記基板表面が露出した部分から前記第2のめっき層を形成することが好ましい。また、第6工程では、第1のめっき層の残っている部分から第2のめっき層を形成することが好ましい。
【0043】
本発明では、第5工程の第1のめっき層7のエッチングから、第6工程の第2のめっき層11を形成するまで、硬化させた感光性樹脂の構造体14を液に浸漬した状態を保って乾燥させない。この場合も前述と同様に凹部16の液体の乾燥時に働く表面張力による凹部16の壁面同士のスティッキングを回避することができる。これにより、ピッチズレを防止した微細構造体12を得ることができる。
【0044】
本発明の第2のめっき層11としては、金、白金、パラジウム等の金属を使用することができる。本発明の第2のめっき層11の形成方法は電気めっきでも無電解めっきまたはこれらの組み合わせでも良い。
【0045】
第2のめっき層11として金を用いることにより狭ピッチで高アスペクト比な放射光の吸収格子を作製することができる。高アスペクト比な金の微細構造体はX線の吸収が大きいため、X線透過領域が小さく、空間的可干渉性が向上されたイメージングを可能にする放射線用吸収格子になる。
【0046】
以下に本発明の微細構造体の製造方法の特徴を説明する。
【0047】
本発明の微細構造体の製造方法によれば、凹部の側壁同士のスティッキングを回避することができる。このため感光性樹脂の構造体のピッチズレを防止した微細構造体を製造できる。
【0048】
前記表面が導電性の基板の基板表面に金を用いることにより、合金層によって導電性の基板表面と感光性樹脂の構造体との固着性が向上する。
【0049】
前記第1のめっき層が、ニッケル、銅、鉄、錫の何れかもしくはこれらの合金からなることにより、めっき液のレジストアタック性が低いため、感光性樹脂の構造体に損傷を与えることなくめっき層を形成することができる。また、幅広い種類のエッチング液で選択的なエッチング除去が可能となる。
【0050】
前記第2のめっき層が、金からなることにより、X線の高吸収材料からなる微細構造体が製造できる。
【0051】
前記露光に放射光を用いることにより、狭ピッチな感光性樹脂の構造体を形成することができ、これにより狭ピッチな微細構造体が製造できる効果を奏する。
【実施例】
【0052】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
【0053】
(実施例1)
図3は、本発明の実施例1の微細構造体の製造方法を示す工程図である。本実施例は図3を用いて説明する。
【0054】
本実施例ではシリコンを基板1として用いる(図3(a))。両面ミラーの直径が100mm(4インチ)で、厚さ525μmのシリコンウエハに、電子ビーム蒸着装置にて導電層13としてチタン、金の順番でそれぞれ5nm、100nm成膜し、表面が導電性の基板2とする(図3(b))。
【0055】
感光性樹脂として、ネガ型レジストのSU−8(化薬マイクロケム)を用いる。導電層13上にSU−8を塗布し、40μmの厚さの感光性樹脂の層3を形成し、95℃で10分間のソフトベークを行う(図3(c))。次に光源が紫外光のキヤノン製マスクアライナー「MPA600」(商品名)にてフォトマスクを通じて感光性樹脂の層3を露光する。露光後65℃で5分間ベークを行い、2μm角のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置されたパターンを感光性樹脂の層3へ潜像させる。次にSU−8現像液(化薬マイクロケム)を用いて現像を行う。これにより感光性樹脂の層3の未露光領域の感光性樹脂は現像液中に溶解していき、2μm角の四角柱のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置された高さ40μmの感光性樹脂の構造体4が形成される。現像後、イソプロピルアルコールを用いてリンスを行い(図3(d))、感光性樹脂の構造体4から現像液を除去し、基板を純水にて浸漬させる。
【0056】
本実施例では第1のめっき液6として、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、第1のめっき層7としてニッケルのめっき層を形成する。
【0057】
スルファミン酸ニッケルめっき液は、次の組成にて調製されたものを用いる。
スルファミン酸ニッケル・6水和物 450(g/L)
塩化ニッケル・6水和物 5(g/L)
ホウ酸 30(g/L)
基板を純水にて浸漬させた基板を乾燥させることなくスルファミン酸ニッケルめっき液に浸漬させる。導電層13の金から通電し、電流密度1.5A/dmにて室温で2時間めっきを行うと高さ36μmのニッケルめっき層が形成される(図3(e))。基板をスルファミン酸ニッケルめっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。このときに凹部15にはニッケルめっき層が存在するためスティッキングは発生しない。
【0058】
続いて、基板を200℃にて1時間加熱し、感光性樹脂の構造体4を熱硬化させ、硬化させた感光性樹脂の構造体14を作成する(図3(f))。これにより感光性樹脂の構造体の耐性は向上する。また、加熱によって導電層13の金と第1のめっき層7のニッケルとの間に合金層8が形成される。次に第1のめっき層7のニッケルをエッチング除去して凹部16を形成する。ニッケルのエッチング液は次の組成にて調製されたものを用いる。
硝酸:248ml
ペルオキソ二硫酸アンモニウム:132g
純水:750ml
ニッケルのエッチング液によって第1のめっき層7はエッチングされ合金層8は導電層13の金上に残る。エッチング後、洗浄液9として純水を用いて基板を洗浄し(図3(g))、基板を乾燥させることなく第2のめっき液10に浸漬させる。
【0059】
本実施例では第2のめっき液10として金めっき液を用い、第2のめっき層11として金のめっき層を形成する。金めっき液はミクロファブAu1101(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて6時間のめっきを行うと38μmの金めっき層が形成される。基板を金めっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。これにより幅2μm、高さ38μmの高アスペクト比なメッシュ状の金の微細構造体12が得られる(図3(h))。
【0060】
このメッシュ状の金の微細構造体を格子の頂上部からX線顕微鏡にて観察すると感光性樹脂の構造体の部分はX線が透過し、金のめっき層部分はX線を吸収しコントラストが大きくなる。
【0061】
(比較例1)
本比較例では、現像にて感光性樹脂の構造体4を形成するところまでは実施例1と同様の条件で行う。本比較例では現像後イソプロピルアルコールを用いてリンスを行い、感光性樹脂の構造体4から現像液を除去し、窒素ブローにて感光性樹脂の構造体4の乾燥を行う。感光性樹脂の構造体4の表面のイソプロピルアルコールの表面張力によって隣接する凹部15の壁面同士のスティッキングが発生する。
【0062】
(比較例2)
本比較例では、感光性樹脂の層3を現像後、イソプロピルアルコールを用いてリンスを行い、感光性樹脂の構造体4から現像液を除去し、基板を純水にて浸漬させるところまでは実施例1と同様の条件で行う。純水に浸漬させた基板を乾燥させることなく、すぐに金めっき液に浸漬させる。金めっき液はミクロファブAu1101(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにてめっきを行う。感光性樹脂の構造体4は金めっき液にて浸食され、導電層13上から欠落し、めっき前に導電層13上に感光性樹脂の構造体4が設けられていたところからも金めっきが析出する。
【0063】
(実施例2)
図4は本発明の実施例2の微細構造体の製造方法を示す工程図である。本実施例は図4を用いて説明する。本実施例ではシリコンを基板1として用いる(図4(a))。両面ミラーの直径が100mm(4インチ)で厚さ525μmのシリコンウエハに、真空スパッタ装置にて導電層13としてクロム、白金の順番でそれぞれ5nm、100nm成膜し表面が導電性の基板2とする(図4(b))。
【0064】
感光性樹脂として、ネガ型レジストのSU−8(化薬マイクロケム)を用いる。導電層13上にSU−8を塗布し、60μmの厚さの感光性樹脂の層3を形成し、95℃で10分間のソフトベークを行う(図4(c))。次に光源が放射光のX線露光装置にてX線マスクを通じて感光性樹脂の層3を露光する。露光後65℃で5分間ベークを行い2μm角のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置されたパターンを感光性樹脂の層3へ潜像させる。次にSU−8現像液(化薬マイクロケム)を用いて現像を行う。これにより感光性樹脂の層3の未露光領域の感光性樹脂は現像液中に溶解していき、2μm角の四角柱のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置された高さ60μmの感光性樹脂の構造体4が形成される。現像後、イソプロピルアルコールを用いてリンスを行い感光性樹脂の構造体4から現像液を除去し(図4(d))、基板を純水にて浸漬させる。
【0065】
本実施例では第1のめっき液6として硫酸銅めっき液を用い、第1のめっき層7として銅のめっき層を形成する(図4(e))。
【0066】
硫酸銅めっき液は次の組成にて調製されたものを用いる。
硫酸銅・5水和物 200(g/L)
98%濃硫酸 14(mL/L)
35%塩酸 0.09(mL/L)
Cu−Brite VFII−A(荏原ユージライト社製) 20(mL/L)
Cu−Brite VFII−B(荏原ユージライト社製) 1(mL/L)
基板を純水にて浸漬させた基板を乾燥させることなく硫酸銅めっき液に浸漬させる。導電層13の白金から通電し、電流密度1.5A/dmにて室温で3時間めっきを行うと高さ約56μmの銅めっき層が形成される。基板を硫酸銅めっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。このときに凹部15には銅めっき層が存在するためスティッキングは発生しない。
【0067】
続いて、基板を200℃にて1時間加熱し、感光性樹脂の構造体4を熱硬化させ、硬化させた感光性樹脂の構造体14を作成する(図4(f))。これにより感光性樹脂の構造体の耐性は向上する。次に第1のめっき層7の銅をエッチング除去して凹部16を形成する。銅のエッチング液は次の組成にて調製されたものを用いる。
硝酸:248ml
ペルオキソ二硫酸アンモニウム:132g
純水:750ml
エッチング後、純水にて基板を洗浄し(図4(g))、基板を乾燥させることなく第2のめっき液10に浸漬させる。
【0068】
本実施例では第2のめっき液10として金めっき液を用い、第2のめっき層11として金のめっき層を形成する。金めっき液はミクロファブAu1101(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて8時間のめっきを行うと56μmの金めっき層が形成される。基板を金めっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。これにより幅2μm高さ56μmの高アスペクト比なメッシュ状の金の微細構造体が得られる(図4(h))。
【0069】
このメッシュ状の金の微細構造体を格子の頂上部からX線顕微鏡にて観察すると感光性樹脂の構造体の部分はX線が透過し、金のめっき層部分はX線を吸収しコントラストが大きくなる。
【0070】
(実施例3)
図5は、本発明の実施例3の微細構造体の製造方法を示す工程図である。本実施例は図5を用いて説明する。
【0071】
本実施例では、直径が100mm(4インチ)で厚さ500μmのステンレス板を表面が導電性の基板2とする(図5(a))。感光性樹脂として、ネガ型レジストのSU−8(化薬マイクロケム)を用いる。ステンレス板上にSU−8を塗布し、60μmの厚さの感光性樹脂の層3を形成し、95℃で10分間のソフトベークを行う(図5(b))。
【0072】
次に光源が放射光のX線露光装置にてX線マスクを通じて感光性樹脂の層3を露光する。露光後65℃で5分間ベークを行い2μm角のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置されたパターンを感光性樹脂の層3へ潜像させる。次にSU−8現像液(化薬マイクロケム)を用いて現像を行う。これにより感光性樹脂の層3の未露光領域の感光性樹脂は現像液中に溶解していき、2μm角の開口のパターンが4μmのピッチで2次元状に配置された高さ60μmの感光性樹脂の構造体4が形成される。現像後、イソプロピルアルコールを用いてリンスを行い感光性樹脂の構造体4から現像液を除去し(図5(c))、基板を純水にて浸漬させる。
【0073】
本実施例では第1のめっき液6として、スルファミン酸ニッケルめっき液を用い、第1のめっき層7としてニッケルのめっき層を形成する(図5(d))。
【0074】
スルファミン酸ニッケルめっき液は次の組成にて調製されたものを用いる。
スルファミン酸ニッケル・6水和物 450(g/L)
塩化ニッケル・6水和物 5(g/L)
ホウ酸 30(g/L)
基板を純水にて浸漬させた基板を乾燥させることなくスルファミン酸ニッケルめっき液に浸漬させる。ステンレス板面から通電し、電流密度1.5A/dmにて室温で3時間めっきを行うと、高さ55μmのニッケルめっき層が形成される。基板をスルファミン酸ニッケルめっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。このときに凹部15にはニッケルめっき層が存在するためスティッキングは発生しない。
【0075】
続いて、基板を200℃にて1時間加熱し、感光性樹脂の構造体4を熱硬化させ、硬化させた感光性樹脂の構造体14を作成する(図5(e))。これにより感光性樹脂の構造体の耐性は向上する。次に第1のめっき層7のニッケルをエッチング除去して凹部16を形成する。ニッケルのエッチング液は次の組成にて調製されたものを用いる。
硝酸:248ml
ペルオキソ二硫酸アンモニウム:132g
純水:750ml
ニッケルのエッチングによって第1のめっき層7の厚さ方向に約50μmエッチングし、ステンレス板上に約5μmの厚さのニッケルめっき層を残った時点でエッチングを終了させる。純水にて基板を洗浄し(図5(f))、基板を乾燥させることなく第2のめっき液10に浸漬させる。
【0076】
本実施例では第2のめっき液10として金めっき液を用い、第2のめっき層11として金のめっき層を形成する。金めっき液はミクロファブAu1101(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース)にてめっき液温度60℃、電流密度0.2A/dmにて7時間のめっきを行うと約5μmの厚さの第1のめっき層7のニッケル上に約50μmの金めっき層が形成される。基板を金めっき液から取りだし純水にて洗浄し、窒素ブローにて乾燥させる。これにより幅2μm、高さ50μmの高アスペクト比なメッシュ状の金の微細構造体が得られる(図5(g))。
【0077】
このメッシュ状の金の微細構造体を格子の頂上部からX線顕微鏡にて観察すると感光性樹脂の構造体の部分はX線が透過し、金のめっき層部分はX線を吸収しコントラストが大きくなる。
【0078】
(実施例4)
次に、X線タルボ干渉法を用いた撮像装置について図6を用いて説明する。図6は、前述の実施形態または実施例で製造した微細構造体をX線吸収格子として用いた撮像装置の構成図である。
【0079】
本実施形態の撮像装置は、空間的に可干渉なX線を放出するX線源100、X線の位相を周期的に変調するための回折格子200、X線の吸収部(遮蔽部)と透過部が配列された吸収格子300、X線を検出する検出器400を備えている。吸収格子300は、前述の実施形態または実施例で製造した微細構造体である。
【0080】
X線源100と回折格子200の間に被検体500を配置すると、被検体500によるX線の位相シフト情報がモアレとして検出器に検出される。つまりこの撮像装置は被検体500の位相情報を持つモアレを撮像することで被検体500を撮像する。この検出結果に基づいてフーリエ変換等の位相回復処理を行うと、被検体の位相像を得ることができる。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0082】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、微細構造体を高精度で容易に得ることができるので、X線吸収格子や、X線ビームスプリッターや、フォトニック結晶や、メタマテリアルや、透過電子顕微鏡用金属メッシュなどに利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 導電性の基板表面
3 感光性樹脂の層
4 感光性樹脂の構造体
5 リンス液
6 第1のめっき液
7 第1のめっき層
8 合金層
9 洗浄液
10 第2のめっき液
11 第2のめっき層
12 微細構造体
13 導電層
14 硬化させた感光性樹脂の構造体
15 凹部
16 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板表面に感光性樹脂の層を形成する第1工程と、
前記感光性樹脂の層を露光および現像することで前記基板表面の一部を露出させ、前記感光性樹脂の構造体を形成する第2工程と、
前記感光性樹脂の構造体を第1のめっき液に浸漬し、前記基板表面が露出した部分から第1のめっき層を形成する第3工程と、
前記第1のめっき層を形成した後、前記感光性樹脂の構造体を硬化させる第4工程と、
前記感光性樹脂の構造体を硬化させた後、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去する第5工程と、
硬化させた前記感光性樹脂の構造体を前記第1のめっき液と異なる第2のめっき液に浸漬し、前記第1のめっき層を除去した部分から第2のめっき層を形成する第6工程と、を有することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において露光した前記感光性樹脂は前記第1のめっき液に対する耐性を有し、前記第4工程において硬化した前記感光性樹脂は前記第2のめっき液に対する耐性を有することを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程において露光した前記感光性樹脂の、前記第1のめっき液に対する耐性のほうが、前記第2のめっき液に対する耐性よりも、高く、
前記第4工程において硬化した前記感光性樹脂のほうが、前記第2工程において露光した前記感光性樹脂よりも、前記第2のめっき液に対する耐性が高いことを特徴とする請求項1に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第5工程では、前記第1のめっき層の少なくとも一部を除去して前記基板表面の一部を露出させ、前記第6工程では、前記基板表面が露出した部分から前記第2のめっき層を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第6工程では、前記第1のめっき層の残っている部分から前記第2のめっき層を形成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記導電性の基板表面が金からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第1のめっき層が、ニッケル、銅、鉄、錫の何れかもしくはこれらの合金からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第2のめっき層が、金からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項9】
前記感光性樹脂が、熱硬化型の感光性樹脂であり、前記第4工程では、前記感光性樹脂の構造体を熱硬化させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項10】
前記露光に放射光を用いることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の微細構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−173708(P2012−173708A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38559(P2011−38559)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】