微細構造体及びその製造方法
【課題】従来にない新規な手法によりパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンを転写し得る微細構造体及びその製造方法を提案する。
【解決手段】転写部2となるパターン形成層2aにPTFE分散液を用いたことにより、モールド5の凹凸パターン上に形成したパターン形成層2aに対し電離放射線を照射することで、当該パターン形成層2aを硬化させることができる。かくして、本発明の微細構造体1の製造方法では、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線Rによりパターン形成層2aを硬化させるインプリント方式であり、従来にない新規な手法によりパターン形成層2aを硬化させ、モールド5の凹凸パターンを転写し得る。
【解決手段】転写部2となるパターン形成層2aにPTFE分散液を用いたことにより、モールド5の凹凸パターン上に形成したパターン形成層2aに対し電離放射線を照射することで、当該パターン形成層2aを硬化させることができる。かくして、本発明の微細構造体1の製造方法では、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線Rによりパターン形成層2aを硬化させるインプリント方式であり、従来にない新規な手法によりパターン形成層2aを硬化させ、モールド5の凹凸パターンを転写し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノオーダーの微細加工技術として、インプリント方式による微細構造体の製造方法が知られている。ここで、インプリント方式とは、表面に微細な凹凸パターンが形成されたモールドを用い、凹凸パターンに被加工物を接触させた状態で被加工物を硬化させ、その後、この被加工物をモールドから引き離すことで、モールドの凹凸パターンを転写させた微細構造体を成形する技術である。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインプリント方式による微細構造体の製造方法としては、モールドの凹凸パターンを被加工物に転写させる際に熱を用いる熱方式(以下、これを熱インプリント方式と呼ぶ)と、光(UV)を用いる光方式(以下、これを光インプリント方式と呼ぶ)の2種類が知られている。熱インプリント方式では、被加工物として熱可塑性樹脂を用いており、加熱溶融させた熱可塑性樹脂に対しモールドの凹凸パターンを押し当てパターン形成層を形成し、この状態で冷却することにより、熱可塑性樹脂であるパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンが転写された微細構造体を成形し得る。
【0004】
一方、光インプリント方式では、石英基板表面に凹凸パターンをつけた透明なモールドを用いるとともに、被加工物として光硬化樹脂を用いており、粘度の低い光硬化樹脂をモールドで変形させてパターン形成層を形成した後、この状態のまま当該光硬化樹脂に対して紫外光を照射することにより、光硬化樹脂たるパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンが転写された微細構造体を成形し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−194142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような熱インプリント方式や、光インプリント方式による微細構造体の製造方法は、加熱冷却や光照射によってそれぞれパターン形成層を硬化させてモールドの凹凸パターンを転写できるものの、近年ではそれ以外の新たな手法によって、モールドの凹凸パターンを転写させるインプリント方式の開発も望まれている。
【0007】
特に、光インプリント方式による微細構造体の製造方法では、モールドの凹凸パターンを光硬化樹脂に転写する際、モールドに光を透過させてパターン形成層に当該光を照射していることから、光が透過可能な石英ガラスやフッ素樹脂等の材質でモールドを製造する必要がある。そのため、近年ではモールドの材質にも制約がない新たな手法によるインプリント方式の開発も望まれている。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来にない新規な手法によりパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンを転写し得る微細構造体及びその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、パターン形成層がモールドにより変形された状態で硬化され、前記モールドの凹凸パターンが転写された転写部を備え、前記転写部は、電離放射線が電離放射線硬化部材に照射されて硬化されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2は、前記転写部には、前記電離放射線硬化部材に架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさせて形成した架橋体又は重合体が含まれていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3は、前記電離放射線硬化部材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4は、前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項5は、凹凸パターンが形成されているモールドの表面に、電離放射線硬化部材を含有したパターン形成層を形成する形成ステップと、前記パターン形成層に電離放射線を照射することにより該パターン形成層を硬化させ転写部を形成し、前記モールドの凹凸パターンが該転写部に転写した微細構造体を成形する成形ステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項6は、前記成形ステップは、前記電離放射線が照射されることにより、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を前記電離放射線硬化部材に起こさせ前記パターン形成層を硬化させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項7は、前記電離放射線硬化部材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項8は、前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線を用いてパターン形成層を硬化させるインプリント方式を実現でき、かくして、従来にない新規な手法によりパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンを転写し得る微細構造体及びその製造方法を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の微細構造体の全体構成を示す概略図である。
【図2】モールドの全体構成を示す概略図である。
【図3】微細構造体の製造方法を示す概略図である。
【図4】架橋反応の説明に供する概略図である。
【図5】PTFEの架橋反応の説明に供する化学式である。
【図6】加熱電圧を変えたときのエネルギー蓄積と、水中への透過との関係を示すグラフである。
【図7】モールドの製造方法を示す概略図である。
【図8】他の実施の形態による架橋構造を示す概略図である。
【図9】ポリエチレンの架橋反応を示す化学式である。
【図10】他の実施の形態による微細構造体の製造方法を示す概略図である。
【図11】実施例によるモールド及び微細構造体のSEM写真である。
【図12】他の実施例によるモールド及び微細構造体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0020】
(1)微細構造体及びモールドの構成
図1において、1は本発明の微細構造体を示し、モールド(後述する)の凹凸パターンが転写された転写部2が転写基板3上に形成されており、例えば高さ250nm、縦横それぞれ20μm程度の「EB」の微細な文字が転写基板3から突出するように転写部2が形成されている。ここで、この実施の形態の場合、微細構造体1は、転写部2が従来の熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂とは異なり、例えば電子線等の電離放射線が照射されることにより硬化するPTFE分散液(例えば、旭硝子フルオロポリマーズ社製、XAD-911又はXAD-912)を用いて形成されている。
【0021】
この実施の形態においてインプリント用組成物の一例として挙げるPTFE分散液は、フッ素樹脂たるポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene 以下、PTFEと呼ぶ)が、例えば非イオン界面活性剤等の水性分散液に均一に分散されている。このPTFE分散液は、電離放射線が照射されることにより硬化するとともに、電離放射線が照射される際に、無酸素雰囲気下でPTFEが加熱溶融していると、硬化する際に架橋反応が起こり得る。
【0022】
PTFE分散液は、微細構造体1の製造過程において、凹凸パターンが形成されたモールドの表面にスピンコートにより均一に延ばされ、無酸素雰囲気下、PTFEが加熱溶融された状態で電離放射線が照射されることで、PTFEが架橋反応を起こし、かつそのまま硬化して転写部2となり得る。
【0023】
この実施の形態の場合、微細構造体1は、製造過程において、PTFEが架橋反応を起こしており、転写部2に架橋構造を有することで、当該転写部2における耐摩耗性等の機械的強度や、耐熱性の向上が図られている。因みに、ここで電離放射線とは、電子線のほか、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれら電子線等の混合放射線であってもよい。
【0024】
一方、この微細構造体1を製造する際に用いるモールドは、従来の熱インプリント方式や光インプリント方式等その他種々のインプリント方式において用いられている各種モールドを用いることができる。図2に示すように、モールド5は、例えばシリコン等の種々の部材により形成された基台6を有し、この基台6の表面に所望形状の溝部7が形成されて凹凸パターンが形成され得る。この実施の形態の場合、モールド5には、微細構造体1の転写部2に突出した「EB」の文字を転写させるために(図1)、「EB」の文字を反転させた溝部7が基台6の表面に形成され得る。そして、本発明の微細構造体1は、このようなモールド5を用いて、以下のようにして製造される。
【0025】
(2)微細構造体の製造方法
先ず初めに、図2に示したモールド5を用意した後、凹凸パターンが形成されたモールド5の表面にPTFE分散液を塗布し、スピンコートによりモールド5の表面にPTFE分散液を流延させる。これにより、PTFE分散液は、図3(A)に示すように、モールド5における凹凸パターンの溝部7に入り込み、当該モールド5の表面にて表面が均一なパターン形成層2aを形成し得る。
【0026】
次いで、無酸素雰囲気下でPTFE分散液を加熱することによりPTFEを加熱溶融させ、図3(B)に示すように、例えばシリコン、アルミナ、ガラス等のセラミックや、ニッケル等の金属等からなる転写基板3をパターン形成層2aに圧着させて、転写基板3の上方から当該パターン形成層2aに向けて電離放射線Rを均一に照射する。これにより電離放射線Rは、転写基板3を透過してパターン形成層2aまで到達し、当該パターン形成層2a全体に照射され得る。パターン形成層2aは、電離放射線Rが照射されることで、PTFEが架橋反応を起こし、図4(A)に示すような直鎖状のPTFEが、図4(B)に示すようにネットワーク化し、そのまま硬化して転写基板3に固着し転写部2となり得る。
【0027】
因みに、電離放射線Rの照射時における無酸素雰囲気下とは、真空下のほか、ヘリウムや窒素等の不活性ガスで大気を置き換えた雰囲気も含み、このような無酸素雰囲気下でPTFEが加熱溶融され、電離放射線Rが照射されることによりPTFEが架橋反応を起こし得る。なお、その他の製造方法としては、大気中であっても、電離放射線の吸収線量を高くすることによって、PTFEの酸化分解が抑制され、PTFEに架橋反応を起こさせることもできる。
【0028】
実際上、この実施の形態の場合、電離放射線硬化部材として用いるPTFEは、図5に示すように、フッ素(F)と炭素(C)とから構成されており、電離放射線Rだけを単に照射すると、主鎖骨格の炭素が切断し、ラジカルとなり分解してしまう(図5中、右矢印X1)。これに対して、PTFEは、無酸素雰囲気下(酸素不在)、加熱して溶融状態になっているときに電離放射線が照射されると(図5中、下矢印X2)、ラジカルとなった炭素同士が架橋反応し化学結合してY-タイプやY´-タイプ(Y-タイプとはフッ素の数が異なる)等の架橋構造となり、網目状の構造体が転写部2に形成され得る。
【0029】
なお、この実施の形態の場合、PTFE分散液は、340〜350℃で融解された後、過冷却状態の310〜325℃の温度条件下で電離放射線が照射されることで、高効率な架橋処理を行え得る。PTFE分散液に対し電離放射線として電子線を照射する際の吸収線量は、100kGy〜1MGyが好ましい。このうち、耐磨耗性を向上させる場合には、吸収線量を100kGy〜300kGyとすることが好ましく、また、耐熱性を向上させる場合には、吸収線量を500kGy以上とすることが好ましい。さらに、PTFEを含有させた転写部2は、200℃での熱クリープ特性が大きく改善し得る。また、従来から転写部として用いている熱可塑性樹脂や光硬化樹脂はβ転移のため、温度変化により誘電率が変化し不安定であったが、PTFEを含有させた転写部2は、誘電特性が-70〜100℃の範囲で安定になり得る。
【0030】
因みに、図6は、電離放射線である電子線について、照射時における加速電圧を30kV〜200kVの間で任意に変えてゆき、各加速電圧でのエネルギー蓄積と、水中への透過との関係を示したグラフである。この結果から、微細構造体1の製造過程において、パターン形成層2aの膜厚に応じて電子線の加速電圧を調整すればよいことが分かり、例えば膜厚100μm程度のパターン形成層2aであれば電子線の加速電圧を100kV以上とすれば、パターン形成層2aの膜厚全体に電子線を照射できることが分かる。
【0031】
なお、加熱しつつ電離放射線を照射する際の温度制御は、通常の気体循環式の恒温槽や、赤外線ヒーター、パネルヒーター等の間接的な熱源の他、直接的な熱源を用いてもよく、その他、電子加速器から得られる電子線のエネルギーを制御することによる発熱をそのまま熱源として利用してもよい。
【0032】
このようにして、上述した製造方法により、モールド5には、凹凸パターンが転写部2に転写した微細構造体1がその表面に成形され得る。最後に、図3(C)に示すように、モールド5の表面から微細構造体1を剥離することで、モールド5の凹凸パターンが転写部2に転写された微細構造体1だけを得ることができる。ここで、この実施の形態の場合、転写部2は、離型性が優れているPTFEが含有されていることから、製造工程において従来用いられていた離型剤を用いなくとも、モールド5の表面から容易に剥離させることができる。
【0033】
因みに、この製造方法に用いるモールドは従来からある種々のモールドを用いることができるが、例えば以下のような製造方法によって製造したモールド5を微細構造体1の製造に用いることができる。ここでは、先ず初めに、表面にレジスト材を塗布した基台をホットプレート上に載置する。次いで、図7(A)に示すように、ホットプレートHPにより基台6を加熱することにより、レジスト材の溶剤を揮発させたレジスト8を基台6上に形成する。次いで、図7(B)に示すように、所定パターンに開口したマスク9をレジスト8上に形成し、レジスト8を露光することによりレジスト8をパターンニングした後、マスク9を除去する。
【0034】
次いで、所定の溶液を用いてレジスト8をエッチングして、露光されたレジスト8a部分を除去し、図7(C)に示すように、所定パターンに基台6が露出した所定形状のレジスト8を形成する。次いで、図7(D)に示すように、このレジスト8をマスクとして基台6をドライエッチングし、最後にレジスト8を除去することにより、図7(E)に示すように、凹凸パターンの溝部7が基台6の表面に形成されたモールド5を形成でき、このモールド5を用いて本発明の微細構造体1を製造し得る。
【0035】
(3)動作及び効果
以上の構成において、本発明の微細構造体1の製造方法では、転写部2となるパターン形成層2aにPTFE分散液を用いたことにより、モールド5の凹凸パターン上に形成したパターン形成層2aに対し電離放射線を照射することで、当該パターン形成層2aを硬化させることができ、かくしてモールド5の凹凸パターンが転写部2に転写した微細構造体1を製造できる。
【0036】
このように、本発明では、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線によりパターン形成層2aを硬化させるインプリント方式を実現でき、かくして、従来にない新規な手法によりパターン形成層2aを硬化させ、モールド5の凹凸パターンを転写し得る。
【0037】
また、この実施の形態の場合では、パターン形成層2aにPTFEが含有されていることから、製造過程において、無酸素雰囲気下でPTFEを加熱溶融させた状態のまま電離放射線を照射することにより、PTFEに架橋反応が起こり架橋体が形成され、転写部2における耐摩耗性等の機械的強度や、耐熱性等の物理的特性を向上させることができる。すなわち、この微細構造体1では、製造過程において、架橋助剤を用いなくとも、転写部2に架橋構造を形成できることから、架橋助剤等の不純物がパターン形成層2aに添加されることを回避できる。
【0038】
また、この実施の形態の場合、微細構造体1では、転写部2に含有しているPTFEが離型性に優れていることから、製造過程において剥離剤を用いなくとも、モールド5の表面から容易に剥離させることができる。
【0039】
さらに、この微細構造体1の製造方法では、光インプリント方式のようにモールドに光を透過させてパターン形成層に当該光を照射する必要がないため、例えば黒色材料等の光が不透過な各種材質でモールド5を製造することでき、かくして各種材質からなるモールドを用いも、当該モールドの凹凸パターンを転写した転写部2を形成できる。
【0040】
(4)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば電離放射線による電子の発生方式については、タングステンフィラメント等に電流を流しフィラメント加熱して発生する熱電子発生を適用してもよい。その他、銅やマグネシウム、セシウムテルライド等に紫外線を照射して光電子を発生させる方法、媒体にイオンを衝突させ、その衝撃により2次電子を発生させる方法を適用してもよい。電子の加速方式は、コッククロフト回路による静電場加速や、高周波によるRF加速等でもよい。因みに、本発明では、電子の飛程が100μm以下の照射を行う場合、静電場による加速が好ましく、電圧は、無酸素雰囲気下であれば40kV〜100kV程度が好ましいが、それ以上であってもよい。
【0041】
また、上述した実施の形態においては、モールド5から微細構造体1を剥離して、当該微細構造体1だけを得て各種技術分野に利用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モールド5から微細構造体1を剥離することなく、微細構造体1にモールド5が連結した状態のまま各種技術分野に利用するようにしてもよい。
【0042】
さらに、上述した実施の形態においては、PTFEを含有した液体状のPTFE分散液をインプリント用組成物として適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モールド5により凹凸パターンを形成できれば、PTFEを含有したゲル状のインプリント用組成物等その他種々の状態のインプリント用組成物を適用してもよい。
【0043】
さらに、上述した実施の形態においては、無酸素雰囲気下、加熱溶融された状態で電離放射線が照射されることにより架橋反応を起こして架橋体を形成するPTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電離放射線が照射されることにより、重合反応を起こして重合体を形成する電離放射線硬化部材や、架橋反応及び重合反応の両方の反応を起こして、架橋体及び重合体を形成する電離放射線硬化部材等その他種々の電離放射線硬化部材を適用してもよい。
【0044】
また、本発明では、電離放射線の照射によりパターン形成層を硬化できれば、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさない電離放射線硬化部材を適用してもよい。例えば、放射線分解型であるポリカーボネートを電離放射線硬化部材として用いた場合には、当該ポリカーボネートを含有させたパターン形成層を加熱してガラス転移点以上の150℃付近とし、無酸素中、2kGy〜20kGyの電離放射線をパターン形成層に照射することで、架橋反応は起こらないが硬化(ビッカース硬度が初期値の1.5倍から2倍となる)し、転写部を形成し得る。
【0045】
さらに、上述した実施の形態においては、電離放射線硬化部材として、PTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ビニリデン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂のほか、スチレン系、ビニル系、ビニリデン系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系の各種モノマー、ダイマー、オリゴマー等、重合性官能基や不飽和結合を持つ材料を電離放射線硬化部材として適用してもよく、具体的には、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物を電離放射線硬化部材として適用してもよい。ここで、これら電離放射線硬化部材のうちポリイプシロンカプロラクトン及びポリ乳酸を適用した場合について、以下具体的に説明する。
【0046】
(4‐1)電離放射線硬化部材について
(4‐1‐1)ポリイプシロンカプロラクトンを電離放射線硬化部材として適用した場合
ポリイプシロンカプロラクトンを含有させたパターン形成層は、電離放射線が照射されることにより硬化し、モールド5の凹凸パターンが転写した転写部を形成し得る。また、このポリイプシロンカプロラクトンは、放射線架橋型であることから、電離放射線を照射することで架橋反応が起こり、転写部の物理的特性を向上させ得る。放射線架橋型である生分解性プラスチックとしては、ポリイプシロンカプロラクトン以外にも、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ポリブチレンテレフタレート・アジペート共重合体等も利用可能である。
【0047】
具体的には、製造過程においてパターン形成層に対し100kGy以上の電離放射線が照射されると、ポリイプシロンカプロラクトンに起こる架橋反応によって、転写部の耐熱性が改善し得る。例えば、ポリイプシロンカプロラクトンを含有させた試料に200kGyの電離放射線を照射した試料について、高温クリープ試験による耐熱性を評価した。その結果、電離放射線を照射していない試料は融点の60℃で直ちに切断してしまうが、電離放射線を照射した試料では、100℃に保持した状態が24時間以上続いても切断することなく安定であった。また、この電離放射線を照射した試料は30分程度の短時間であれば150℃にも耐えた。かくして、ポリイプシロンカプロラクトンを含有させたパターン形成層は、電離放射線が照射されることにより架橋反応が起こり、転写部の物理的特性を向上させ得る。
【0048】
また、このパターン形成層では、加熱しながら電離放射線が照射されると、電離放射線の吸収線量を半減させても、加熱させないで電離放射線を放射したときと同様にポリイプシロンカプロラクトンに架橋反応を起こさせて硬化させることができる。さらに、この転写部では、ポリイプシロンカプロラクトンの架橋反応によって生分解特性も変化し、条件にもよるが、1.5倍から2倍程度、生分解耐性が向上し得る。
【0049】
(4‐1‐2)ポリ乳酸を電離放射線硬化部材として適用した場合
電離放射線硬化部材としてポリ乳酸を含有させたパターン形成層でも、電離放射線が照射されることにより硬化し、モールド5の凹凸パターンが転写した転写部を形成し得る。しかしながら、このポリ乳酸は、放射線分解型であるため、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)や、グルタル酸ジビニル(GDV)、アジピン酸ジビニル(ADV)等を架橋助剤として添加することで、電離放射線を照射した際に架橋反応まで起こさせ、物理的特性を改質させた転写部を形成し得る。
【0050】
この際、パターン形成層へ照射する電離放射線の吸収線量は、50kGy〜200kGy程度が好ましく、そのうち80kGy程度が最も好ましい。例えば、ポリ乳酸は約50℃で軟化し強度が落ちて100℃で熱変形してしまうが、ポリ乳酸100に対して架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を3添加し、電離放射線の照射により架橋反応を起こさせた場合には、200℃以上でも熱変形しないようになり、架橋助剤を添加する前に比べて100℃以上も耐熱性改善が図れる。 因みに、ポリ乳酸に架橋助剤を含有させた場合には、製造過程において、スピンコートによりモールド5の表面にパターン形成層を形成する際、ポリ乳際から架橋助剤が分離して球晶をつくり、放射線分解になるが、加熱照射、或いは大電流(高線量率)で電離放射線を照射することにより、架橋反応を起こさせることができる。かくして、ポリ乳酸に架橋助剤を含有させたパターン形成層でも、電離放射線の照射により架橋反応を起こさせ、転写部の物理的特性を改善し得る。
【0051】
(4‐2)架橋反応について
また、上述した実施の形態においては、所定条件下で電離放射線の照射により、Y字状の架橋構造となるY-タイプやY´-タイプのPTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電離放射線の照射により、図8(A)に示すように、H字状の架橋構造となるH-タイプの電離放射線硬化部材や、図8(B)に示すように、X字状の架橋構造となるX-タイプの電離放射線硬化部材等その他種々の架橋構造となる電離放射線硬化部材を適用してもよい。
【0052】
例えば、電離放射線硬化部材として、図9(A)に示すように、炭素と水素とで構成されるポリエチレンを適用した場合には、電離放射線がポリエチレンに照射されると、図9(B)に示すように、炭素がラジカルとなり、その後、図9(C)に示すように、ラジカルとなった炭素同士が架橋反応し化学結合してH-タイプの架橋構造となり、網目状の構造体が転写部に形成され得る。
【0053】
(4‐3)他の実施の形態による製造方法
さらに、上述した実施の形態においては、図3(A)〜(C)に示したように、凹凸パターンが形成されたモールド5の表面にパターン形成層2aを形成して、当該パターン形成層2aに転写基板3を圧着させた後に電離放射線Rを照射し、パターン形成層2aを硬化させて転写部2を形成する製造方法について述べたが、本発明はこれに限らず、パターン形成層2aに対し電離放射線Rを照射することにより当該パターン形成層2aを硬化させて転写部2を形成できれば、その他種々の製造方法を用いてもよい。
【0054】
例えば、その一例として、先ず初めに、PTFEを含有させたPTFE分散液をインプリント用組成物として用意し、図10(A)に示すように、このPTFE分散液を転写基板3上に塗布して表面が均一なパターン形成層2aを形成する。次いで、図10(B)に示すように、基台16の表面に溝部7が形成され凹凸パターンを有したモールド15を用意し、このモールド15をパターン形成層2aの上方から下げてゆき、モールド15の凹凸パターンをパターン形成層2aに押し当て、この状態のまま無酸素雰囲気下、PTFEを加熱溶融して電離放射線Rを転写基板1側から照射する。これにより電離放射線Rは、転写基板3を透過してパターン形成層2aまで到達し、当該パターン形成層2a全体に照射され得る。パターン形成層2aは、電離放射線Rが照射されると、電離放射線硬化部材であるPTFEが架橋反応を起こし、直鎖状のPTFEがネットワーク化し、そのまま硬化して転写基板3と固着し、転写部2となり得る。
【0055】
このようにして、転写基板3には、転写部2に凹凸パターンが転写した微細構造体1が成形され得る。最後に、図10(C)に示すように、モールド15を微細構造体1から引き離すことにより、モールド15から微細構造体1を剥離し、モールド15の凹凸パターンが転写された微細構造体1だけを得ることができる。
【0056】
(5)実施例
次に、図11(A)、(C)、(E)及び(G)に示すように、直線状の複数の溝部27をそれぞれ基台26毎に形成し、基台26毎にそれぞれ溝部27の幅寸法が異なる4種類のモールド25a,25b,25c,25dを用意して、モールド25a,25b,25c,25d毎にそれぞれ微細構造体を製造してみた。
【0057】
ここでの微細構造体の製造方法としては、先ず初めに、モールド25a,25b,25c,25dの溝部27が形成された凹凸パターンの表面に、PTFE分散液(旭硝子フルオロポリマーズ社製、XAD-912)を塗布してスピンコートによりパターン形成層を形成した。次いで、このパターン形成層に対して、窒素雰囲気下で、温度350℃で10分間加熱して、PTFE分散液中の乳化剤を揮発させるとともに、PTFEを溶融させ、320℃で電子線を加速電圧200kV、照射電流1mAで照射した。これにより、パターン形成層が硬化して転写部が形成され、モールド25a,25b,25c,25dの表面に微細構造体を製造できた。
【0058】
次いで、各モールド25a,25b,25c,25dからそれぞれ微細構造体を剥離し、これら微細構造体を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観測したところ、図11(A)に示すモールド25aから図11(B)に示す微細構造体21a、図11(C)に示すモールド25bから図11(D)に示す微細構造体21b、図11(E)に示すモールド25cから図11(F)に示す微細構造体21c、図11(G)に示すモールド25dから図11(H)に示す微細構造体21dが得られた。
【0059】
これら結果からいずれの微細構造体21a,21b,21c,21dでも、モールド25a,25b,25c,25dの溝部27の幅寸法に合わせて突出した凸部22が転写部23に形成されており、これら全ての微細構造体21a,21b,21c,21dにおいてモールド25a,25b,25c,25dの微細な凹凸パターンが正確に再現されて転写されていることが確認できた。
【0060】
また、これとは別に、他の実施例として、図12(A)、(C)及び(E)に示すように、文字「EB」を反転させた大きさが異なる溝部37をそれぞれ基台36毎に形成し、基台36毎に溝部37の文字寸法が異なる4種類のモールド35a,35b,35cを用意して、モールド35a,35b,35c毎にそれぞれ微細構造体を製造した。
【0061】
実際上、ここでの微細構造体の製造方法も、上述した実施例と同じように、先ず初めに、モールド35a,35b,35cの溝部37が形成された凹凸パターンの表面に、上述と同じPTFE分散液を塗布してスピンコートによりパターン形成層を形成した。次いで、このパターン形成層に対して、窒素雰囲気下で、温度350℃で10分間加熱して、PTFE分散液中の乳化剤を揮発させるとともに、PTFEを溶融させ、320℃で電子線を加速電圧150kV、照射電流1mAで照射した。
【0062】
これにより、パターン形成層が硬化して転写部が形成され、モールド35a,35b,35cの表面に微細構造体を製造できた。次いで、各モールド35a,35b,35cからそれぞれ微細構造体を剥離し、これら微細構造体を走査型電子顕微鏡で観測したところ、図12(A)に示すモールド35aから図12(B)に示す微細構造体31a、図12(C)に示すモールド35bから図12(D)に示す微細構造体31b、図12(E)に示すモールド35cから図12(F)に示す微細構造体31cが得られた。これら結果から、いずれの微細構造体31a,31b,31cでも、各モールド35a,35b,35cの溝部37の文字寸法に合わせて突出した凸部32が転写部33に形成されており、これら全ての微細構造体31a,31b,31cにおいてモールド35a,35b,35cの微細な凹凸パターンが正確に再現されて転写されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0063】
1 微細構造体
2 転写部
3 転写基板
5 モールド
6 基台
7 溝部
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノオーダーの微細加工技術として、インプリント方式による微細構造体の製造方法が知られている。ここで、インプリント方式とは、表面に微細な凹凸パターンが形成されたモールドを用い、凹凸パターンに被加工物を接触させた状態で被加工物を硬化させ、その後、この被加工物をモールドから引き離すことで、モールドの凹凸パターンを転写させた微細構造体を成形する技術である。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインプリント方式による微細構造体の製造方法としては、モールドの凹凸パターンを被加工物に転写させる際に熱を用いる熱方式(以下、これを熱インプリント方式と呼ぶ)と、光(UV)を用いる光方式(以下、これを光インプリント方式と呼ぶ)の2種類が知られている。熱インプリント方式では、被加工物として熱可塑性樹脂を用いており、加熱溶融させた熱可塑性樹脂に対しモールドの凹凸パターンを押し当てパターン形成層を形成し、この状態で冷却することにより、熱可塑性樹脂であるパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンが転写された微細構造体を成形し得る。
【0004】
一方、光インプリント方式では、石英基板表面に凹凸パターンをつけた透明なモールドを用いるとともに、被加工物として光硬化樹脂を用いており、粘度の低い光硬化樹脂をモールドで変形させてパターン形成層を形成した後、この状態のまま当該光硬化樹脂に対して紫外光を照射することにより、光硬化樹脂たるパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンが転写された微細構造体を成形し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−194142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような熱インプリント方式や、光インプリント方式による微細構造体の製造方法は、加熱冷却や光照射によってそれぞれパターン形成層を硬化させてモールドの凹凸パターンを転写できるものの、近年ではそれ以外の新たな手法によって、モールドの凹凸パターンを転写させるインプリント方式の開発も望まれている。
【0007】
特に、光インプリント方式による微細構造体の製造方法では、モールドの凹凸パターンを光硬化樹脂に転写する際、モールドに光を透過させてパターン形成層に当該光を照射していることから、光が透過可能な石英ガラスやフッ素樹脂等の材質でモールドを製造する必要がある。そのため、近年ではモールドの材質にも制約がない新たな手法によるインプリント方式の開発も望まれている。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来にない新規な手法によりパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンを転写し得る微細構造体及びその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明の請求項1は、パターン形成層がモールドにより変形された状態で硬化され、前記モールドの凹凸パターンが転写された転写部を備え、前記転写部は、電離放射線が電離放射線硬化部材に照射されて硬化されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2は、前記転写部には、前記電離放射線硬化部材に架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさせて形成した架橋体又は重合体が含まれていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3は、前記電離放射線硬化部材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項4は、前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項5は、凹凸パターンが形成されているモールドの表面に、電離放射線硬化部材を含有したパターン形成層を形成する形成ステップと、前記パターン形成層に電離放射線を照射することにより該パターン形成層を硬化させ転写部を形成し、前記モールドの凹凸パターンが該転写部に転写した微細構造体を成形する成形ステップとを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項6は、前記成形ステップは、前記電離放射線が照射されることにより、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を前記電離放射線硬化部材に起こさせ前記パターン形成層を硬化させることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項7は、前記電離放射線硬化部材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項8は、前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線を用いてパターン形成層を硬化させるインプリント方式を実現でき、かくして、従来にない新規な手法によりパターン形成層を硬化させ、モールドの凹凸パターンを転写し得る微細構造体及びその製造方法を提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の微細構造体の全体構成を示す概略図である。
【図2】モールドの全体構成を示す概略図である。
【図3】微細構造体の製造方法を示す概略図である。
【図4】架橋反応の説明に供する概略図である。
【図5】PTFEの架橋反応の説明に供する化学式である。
【図6】加熱電圧を変えたときのエネルギー蓄積と、水中への透過との関係を示すグラフである。
【図7】モールドの製造方法を示す概略図である。
【図8】他の実施の形態による架橋構造を示す概略図である。
【図9】ポリエチレンの架橋反応を示す化学式である。
【図10】他の実施の形態による微細構造体の製造方法を示す概略図である。
【図11】実施例によるモールド及び微細構造体のSEM写真である。
【図12】他の実施例によるモールド及び微細構造体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0020】
(1)微細構造体及びモールドの構成
図1において、1は本発明の微細構造体を示し、モールド(後述する)の凹凸パターンが転写された転写部2が転写基板3上に形成されており、例えば高さ250nm、縦横それぞれ20μm程度の「EB」の微細な文字が転写基板3から突出するように転写部2が形成されている。ここで、この実施の形態の場合、微細構造体1は、転写部2が従来の熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂とは異なり、例えば電子線等の電離放射線が照射されることにより硬化するPTFE分散液(例えば、旭硝子フルオロポリマーズ社製、XAD-911又はXAD-912)を用いて形成されている。
【0021】
この実施の形態においてインプリント用組成物の一例として挙げるPTFE分散液は、フッ素樹脂たるポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene 以下、PTFEと呼ぶ)が、例えば非イオン界面活性剤等の水性分散液に均一に分散されている。このPTFE分散液は、電離放射線が照射されることにより硬化するとともに、電離放射線が照射される際に、無酸素雰囲気下でPTFEが加熱溶融していると、硬化する際に架橋反応が起こり得る。
【0022】
PTFE分散液は、微細構造体1の製造過程において、凹凸パターンが形成されたモールドの表面にスピンコートにより均一に延ばされ、無酸素雰囲気下、PTFEが加熱溶融された状態で電離放射線が照射されることで、PTFEが架橋反応を起こし、かつそのまま硬化して転写部2となり得る。
【0023】
この実施の形態の場合、微細構造体1は、製造過程において、PTFEが架橋反応を起こしており、転写部2に架橋構造を有することで、当該転写部2における耐摩耗性等の機械的強度や、耐熱性の向上が図られている。因みに、ここで電離放射線とは、電子線のほか、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれら電子線等の混合放射線であってもよい。
【0024】
一方、この微細構造体1を製造する際に用いるモールドは、従来の熱インプリント方式や光インプリント方式等その他種々のインプリント方式において用いられている各種モールドを用いることができる。図2に示すように、モールド5は、例えばシリコン等の種々の部材により形成された基台6を有し、この基台6の表面に所望形状の溝部7が形成されて凹凸パターンが形成され得る。この実施の形態の場合、モールド5には、微細構造体1の転写部2に突出した「EB」の文字を転写させるために(図1)、「EB」の文字を反転させた溝部7が基台6の表面に形成され得る。そして、本発明の微細構造体1は、このようなモールド5を用いて、以下のようにして製造される。
【0025】
(2)微細構造体の製造方法
先ず初めに、図2に示したモールド5を用意した後、凹凸パターンが形成されたモールド5の表面にPTFE分散液を塗布し、スピンコートによりモールド5の表面にPTFE分散液を流延させる。これにより、PTFE分散液は、図3(A)に示すように、モールド5における凹凸パターンの溝部7に入り込み、当該モールド5の表面にて表面が均一なパターン形成層2aを形成し得る。
【0026】
次いで、無酸素雰囲気下でPTFE分散液を加熱することによりPTFEを加熱溶融させ、図3(B)に示すように、例えばシリコン、アルミナ、ガラス等のセラミックや、ニッケル等の金属等からなる転写基板3をパターン形成層2aに圧着させて、転写基板3の上方から当該パターン形成層2aに向けて電離放射線Rを均一に照射する。これにより電離放射線Rは、転写基板3を透過してパターン形成層2aまで到達し、当該パターン形成層2a全体に照射され得る。パターン形成層2aは、電離放射線Rが照射されることで、PTFEが架橋反応を起こし、図4(A)に示すような直鎖状のPTFEが、図4(B)に示すようにネットワーク化し、そのまま硬化して転写基板3に固着し転写部2となり得る。
【0027】
因みに、電離放射線Rの照射時における無酸素雰囲気下とは、真空下のほか、ヘリウムや窒素等の不活性ガスで大気を置き換えた雰囲気も含み、このような無酸素雰囲気下でPTFEが加熱溶融され、電離放射線Rが照射されることによりPTFEが架橋反応を起こし得る。なお、その他の製造方法としては、大気中であっても、電離放射線の吸収線量を高くすることによって、PTFEの酸化分解が抑制され、PTFEに架橋反応を起こさせることもできる。
【0028】
実際上、この実施の形態の場合、電離放射線硬化部材として用いるPTFEは、図5に示すように、フッ素(F)と炭素(C)とから構成されており、電離放射線Rだけを単に照射すると、主鎖骨格の炭素が切断し、ラジカルとなり分解してしまう(図5中、右矢印X1)。これに対して、PTFEは、無酸素雰囲気下(酸素不在)、加熱して溶融状態になっているときに電離放射線が照射されると(図5中、下矢印X2)、ラジカルとなった炭素同士が架橋反応し化学結合してY-タイプやY´-タイプ(Y-タイプとはフッ素の数が異なる)等の架橋構造となり、網目状の構造体が転写部2に形成され得る。
【0029】
なお、この実施の形態の場合、PTFE分散液は、340〜350℃で融解された後、過冷却状態の310〜325℃の温度条件下で電離放射線が照射されることで、高効率な架橋処理を行え得る。PTFE分散液に対し電離放射線として電子線を照射する際の吸収線量は、100kGy〜1MGyが好ましい。このうち、耐磨耗性を向上させる場合には、吸収線量を100kGy〜300kGyとすることが好ましく、また、耐熱性を向上させる場合には、吸収線量を500kGy以上とすることが好ましい。さらに、PTFEを含有させた転写部2は、200℃での熱クリープ特性が大きく改善し得る。また、従来から転写部として用いている熱可塑性樹脂や光硬化樹脂はβ転移のため、温度変化により誘電率が変化し不安定であったが、PTFEを含有させた転写部2は、誘電特性が-70〜100℃の範囲で安定になり得る。
【0030】
因みに、図6は、電離放射線である電子線について、照射時における加速電圧を30kV〜200kVの間で任意に変えてゆき、各加速電圧でのエネルギー蓄積と、水中への透過との関係を示したグラフである。この結果から、微細構造体1の製造過程において、パターン形成層2aの膜厚に応じて電子線の加速電圧を調整すればよいことが分かり、例えば膜厚100μm程度のパターン形成層2aであれば電子線の加速電圧を100kV以上とすれば、パターン形成層2aの膜厚全体に電子線を照射できることが分かる。
【0031】
なお、加熱しつつ電離放射線を照射する際の温度制御は、通常の気体循環式の恒温槽や、赤外線ヒーター、パネルヒーター等の間接的な熱源の他、直接的な熱源を用いてもよく、その他、電子加速器から得られる電子線のエネルギーを制御することによる発熱をそのまま熱源として利用してもよい。
【0032】
このようにして、上述した製造方法により、モールド5には、凹凸パターンが転写部2に転写した微細構造体1がその表面に成形され得る。最後に、図3(C)に示すように、モールド5の表面から微細構造体1を剥離することで、モールド5の凹凸パターンが転写部2に転写された微細構造体1だけを得ることができる。ここで、この実施の形態の場合、転写部2は、離型性が優れているPTFEが含有されていることから、製造工程において従来用いられていた離型剤を用いなくとも、モールド5の表面から容易に剥離させることができる。
【0033】
因みに、この製造方法に用いるモールドは従来からある種々のモールドを用いることができるが、例えば以下のような製造方法によって製造したモールド5を微細構造体1の製造に用いることができる。ここでは、先ず初めに、表面にレジスト材を塗布した基台をホットプレート上に載置する。次いで、図7(A)に示すように、ホットプレートHPにより基台6を加熱することにより、レジスト材の溶剤を揮発させたレジスト8を基台6上に形成する。次いで、図7(B)に示すように、所定パターンに開口したマスク9をレジスト8上に形成し、レジスト8を露光することによりレジスト8をパターンニングした後、マスク9を除去する。
【0034】
次いで、所定の溶液を用いてレジスト8をエッチングして、露光されたレジスト8a部分を除去し、図7(C)に示すように、所定パターンに基台6が露出した所定形状のレジスト8を形成する。次いで、図7(D)に示すように、このレジスト8をマスクとして基台6をドライエッチングし、最後にレジスト8を除去することにより、図7(E)に示すように、凹凸パターンの溝部7が基台6の表面に形成されたモールド5を形成でき、このモールド5を用いて本発明の微細構造体1を製造し得る。
【0035】
(3)動作及び効果
以上の構成において、本発明の微細構造体1の製造方法では、転写部2となるパターン形成層2aにPTFE分散液を用いたことにより、モールド5の凹凸パターン上に形成したパターン形成層2aに対し電離放射線を照射することで、当該パターン形成層2aを硬化させることができ、かくしてモールド5の凹凸パターンが転写部2に転写した微細構造体1を製造できる。
【0036】
このように、本発明では、熱インプリント方式や、光インプリント方式とは全く異なる電離放射線によりパターン形成層2aを硬化させるインプリント方式を実現でき、かくして、従来にない新規な手法によりパターン形成層2aを硬化させ、モールド5の凹凸パターンを転写し得る。
【0037】
また、この実施の形態の場合では、パターン形成層2aにPTFEが含有されていることから、製造過程において、無酸素雰囲気下でPTFEを加熱溶融させた状態のまま電離放射線を照射することにより、PTFEに架橋反応が起こり架橋体が形成され、転写部2における耐摩耗性等の機械的強度や、耐熱性等の物理的特性を向上させることができる。すなわち、この微細構造体1では、製造過程において、架橋助剤を用いなくとも、転写部2に架橋構造を形成できることから、架橋助剤等の不純物がパターン形成層2aに添加されることを回避できる。
【0038】
また、この実施の形態の場合、微細構造体1では、転写部2に含有しているPTFEが離型性に優れていることから、製造過程において剥離剤を用いなくとも、モールド5の表面から容易に剥離させることができる。
【0039】
さらに、この微細構造体1の製造方法では、光インプリント方式のようにモールドに光を透過させてパターン形成層に当該光を照射する必要がないため、例えば黒色材料等の光が不透過な各種材質でモールド5を製造することでき、かくして各種材質からなるモールドを用いも、当該モールドの凹凸パターンを転写した転写部2を形成できる。
【0040】
(4)他の実施の形態
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば電離放射線による電子の発生方式については、タングステンフィラメント等に電流を流しフィラメント加熱して発生する熱電子発生を適用してもよい。その他、銅やマグネシウム、セシウムテルライド等に紫外線を照射して光電子を発生させる方法、媒体にイオンを衝突させ、その衝撃により2次電子を発生させる方法を適用してもよい。電子の加速方式は、コッククロフト回路による静電場加速や、高周波によるRF加速等でもよい。因みに、本発明では、電子の飛程が100μm以下の照射を行う場合、静電場による加速が好ましく、電圧は、無酸素雰囲気下であれば40kV〜100kV程度が好ましいが、それ以上であってもよい。
【0041】
また、上述した実施の形態においては、モールド5から微細構造体1を剥離して、当該微細構造体1だけを得て各種技術分野に利用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モールド5から微細構造体1を剥離することなく、微細構造体1にモールド5が連結した状態のまま各種技術分野に利用するようにしてもよい。
【0042】
さらに、上述した実施の形態においては、PTFEを含有した液体状のPTFE分散液をインプリント用組成物として適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、モールド5により凹凸パターンを形成できれば、PTFEを含有したゲル状のインプリント用組成物等その他種々の状態のインプリント用組成物を適用してもよい。
【0043】
さらに、上述した実施の形態においては、無酸素雰囲気下、加熱溶融された状態で電離放射線が照射されることにより架橋反応を起こして架橋体を形成するPTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電離放射線が照射されることにより、重合反応を起こして重合体を形成する電離放射線硬化部材や、架橋反応及び重合反応の両方の反応を起こして、架橋体及び重合体を形成する電離放射線硬化部材等その他種々の電離放射線硬化部材を適用してもよい。
【0044】
また、本発明では、電離放射線の照射によりパターン形成層を硬化できれば、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさない電離放射線硬化部材を適用してもよい。例えば、放射線分解型であるポリカーボネートを電離放射線硬化部材として用いた場合には、当該ポリカーボネートを含有させたパターン形成層を加熱してガラス転移点以上の150℃付近とし、無酸素中、2kGy〜20kGyの電離放射線をパターン形成層に照射することで、架橋反応は起こらないが硬化(ビッカース硬度が初期値の1.5倍から2倍となる)し、転写部を形成し得る。
【0045】
さらに、上述した実施の形態においては、電離放射線硬化部材として、PTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ビニリデン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂のほか、スチレン系、ビニル系、ビニリデン系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系の各種モノマー、ダイマー、オリゴマー等、重合性官能基や不飽和結合を持つ材料を電離放射線硬化部材として適用してもよく、具体的には、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物を電離放射線硬化部材として適用してもよい。ここで、これら電離放射線硬化部材のうちポリイプシロンカプロラクトン及びポリ乳酸を適用した場合について、以下具体的に説明する。
【0046】
(4‐1)電離放射線硬化部材について
(4‐1‐1)ポリイプシロンカプロラクトンを電離放射線硬化部材として適用した場合
ポリイプシロンカプロラクトンを含有させたパターン形成層は、電離放射線が照射されることにより硬化し、モールド5の凹凸パターンが転写した転写部を形成し得る。また、このポリイプシロンカプロラクトンは、放射線架橋型であることから、電離放射線を照射することで架橋反応が起こり、転写部の物理的特性を向上させ得る。放射線架橋型である生分解性プラスチックとしては、ポリイプシロンカプロラクトン以外にも、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体、ポリブチレンテレフタレート・アジペート共重合体等も利用可能である。
【0047】
具体的には、製造過程においてパターン形成層に対し100kGy以上の電離放射線が照射されると、ポリイプシロンカプロラクトンに起こる架橋反応によって、転写部の耐熱性が改善し得る。例えば、ポリイプシロンカプロラクトンを含有させた試料に200kGyの電離放射線を照射した試料について、高温クリープ試験による耐熱性を評価した。その結果、電離放射線を照射していない試料は融点の60℃で直ちに切断してしまうが、電離放射線を照射した試料では、100℃に保持した状態が24時間以上続いても切断することなく安定であった。また、この電離放射線を照射した試料は30分程度の短時間であれば150℃にも耐えた。かくして、ポリイプシロンカプロラクトンを含有させたパターン形成層は、電離放射線が照射されることにより架橋反応が起こり、転写部の物理的特性を向上させ得る。
【0048】
また、このパターン形成層では、加熱しながら電離放射線が照射されると、電離放射線の吸収線量を半減させても、加熱させないで電離放射線を放射したときと同様にポリイプシロンカプロラクトンに架橋反応を起こさせて硬化させることができる。さらに、この転写部では、ポリイプシロンカプロラクトンの架橋反応によって生分解特性も変化し、条件にもよるが、1.5倍から2倍程度、生分解耐性が向上し得る。
【0049】
(4‐1‐2)ポリ乳酸を電離放射線硬化部材として適用した場合
電離放射線硬化部材としてポリ乳酸を含有させたパターン形成層でも、電離放射線が照射されることにより硬化し、モールド5の凹凸パターンが転写した転写部を形成し得る。しかしながら、このポリ乳酸は、放射線分解型であるため、例えばトリアリルイソシアヌレート(TAIC)や、グルタル酸ジビニル(GDV)、アジピン酸ジビニル(ADV)等を架橋助剤として添加することで、電離放射線を照射した際に架橋反応まで起こさせ、物理的特性を改質させた転写部を形成し得る。
【0050】
この際、パターン形成層へ照射する電離放射線の吸収線量は、50kGy〜200kGy程度が好ましく、そのうち80kGy程度が最も好ましい。例えば、ポリ乳酸は約50℃で軟化し強度が落ちて100℃で熱変形してしまうが、ポリ乳酸100に対して架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を3添加し、電離放射線の照射により架橋反応を起こさせた場合には、200℃以上でも熱変形しないようになり、架橋助剤を添加する前に比べて100℃以上も耐熱性改善が図れる。 因みに、ポリ乳酸に架橋助剤を含有させた場合には、製造過程において、スピンコートによりモールド5の表面にパターン形成層を形成する際、ポリ乳際から架橋助剤が分離して球晶をつくり、放射線分解になるが、加熱照射、或いは大電流(高線量率)で電離放射線を照射することにより、架橋反応を起こさせることができる。かくして、ポリ乳酸に架橋助剤を含有させたパターン形成層でも、電離放射線の照射により架橋反応を起こさせ、転写部の物理的特性を改善し得る。
【0051】
(4‐2)架橋反応について
また、上述した実施の形態においては、所定条件下で電離放射線の照射により、Y字状の架橋構造となるY-タイプやY´-タイプのPTFEを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電離放射線の照射により、図8(A)に示すように、H字状の架橋構造となるH-タイプの電離放射線硬化部材や、図8(B)に示すように、X字状の架橋構造となるX-タイプの電離放射線硬化部材等その他種々の架橋構造となる電離放射線硬化部材を適用してもよい。
【0052】
例えば、電離放射線硬化部材として、図9(A)に示すように、炭素と水素とで構成されるポリエチレンを適用した場合には、電離放射線がポリエチレンに照射されると、図9(B)に示すように、炭素がラジカルとなり、その後、図9(C)に示すように、ラジカルとなった炭素同士が架橋反応し化学結合してH-タイプの架橋構造となり、網目状の構造体が転写部に形成され得る。
【0053】
(4‐3)他の実施の形態による製造方法
さらに、上述した実施の形態においては、図3(A)〜(C)に示したように、凹凸パターンが形成されたモールド5の表面にパターン形成層2aを形成して、当該パターン形成層2aに転写基板3を圧着させた後に電離放射線Rを照射し、パターン形成層2aを硬化させて転写部2を形成する製造方法について述べたが、本発明はこれに限らず、パターン形成層2aに対し電離放射線Rを照射することにより当該パターン形成層2aを硬化させて転写部2を形成できれば、その他種々の製造方法を用いてもよい。
【0054】
例えば、その一例として、先ず初めに、PTFEを含有させたPTFE分散液をインプリント用組成物として用意し、図10(A)に示すように、このPTFE分散液を転写基板3上に塗布して表面が均一なパターン形成層2aを形成する。次いで、図10(B)に示すように、基台16の表面に溝部7が形成され凹凸パターンを有したモールド15を用意し、このモールド15をパターン形成層2aの上方から下げてゆき、モールド15の凹凸パターンをパターン形成層2aに押し当て、この状態のまま無酸素雰囲気下、PTFEを加熱溶融して電離放射線Rを転写基板1側から照射する。これにより電離放射線Rは、転写基板3を透過してパターン形成層2aまで到達し、当該パターン形成層2a全体に照射され得る。パターン形成層2aは、電離放射線Rが照射されると、電離放射線硬化部材であるPTFEが架橋反応を起こし、直鎖状のPTFEがネットワーク化し、そのまま硬化して転写基板3と固着し、転写部2となり得る。
【0055】
このようにして、転写基板3には、転写部2に凹凸パターンが転写した微細構造体1が成形され得る。最後に、図10(C)に示すように、モールド15を微細構造体1から引き離すことにより、モールド15から微細構造体1を剥離し、モールド15の凹凸パターンが転写された微細構造体1だけを得ることができる。
【0056】
(5)実施例
次に、図11(A)、(C)、(E)及び(G)に示すように、直線状の複数の溝部27をそれぞれ基台26毎に形成し、基台26毎にそれぞれ溝部27の幅寸法が異なる4種類のモールド25a,25b,25c,25dを用意して、モールド25a,25b,25c,25d毎にそれぞれ微細構造体を製造してみた。
【0057】
ここでの微細構造体の製造方法としては、先ず初めに、モールド25a,25b,25c,25dの溝部27が形成された凹凸パターンの表面に、PTFE分散液(旭硝子フルオロポリマーズ社製、XAD-912)を塗布してスピンコートによりパターン形成層を形成した。次いで、このパターン形成層に対して、窒素雰囲気下で、温度350℃で10分間加熱して、PTFE分散液中の乳化剤を揮発させるとともに、PTFEを溶融させ、320℃で電子線を加速電圧200kV、照射電流1mAで照射した。これにより、パターン形成層が硬化して転写部が形成され、モールド25a,25b,25c,25dの表面に微細構造体を製造できた。
【0058】
次いで、各モールド25a,25b,25c,25dからそれぞれ微細構造体を剥離し、これら微細構造体を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観測したところ、図11(A)に示すモールド25aから図11(B)に示す微細構造体21a、図11(C)に示すモールド25bから図11(D)に示す微細構造体21b、図11(E)に示すモールド25cから図11(F)に示す微細構造体21c、図11(G)に示すモールド25dから図11(H)に示す微細構造体21dが得られた。
【0059】
これら結果からいずれの微細構造体21a,21b,21c,21dでも、モールド25a,25b,25c,25dの溝部27の幅寸法に合わせて突出した凸部22が転写部23に形成されており、これら全ての微細構造体21a,21b,21c,21dにおいてモールド25a,25b,25c,25dの微細な凹凸パターンが正確に再現されて転写されていることが確認できた。
【0060】
また、これとは別に、他の実施例として、図12(A)、(C)及び(E)に示すように、文字「EB」を反転させた大きさが異なる溝部37をそれぞれ基台36毎に形成し、基台36毎に溝部37の文字寸法が異なる4種類のモールド35a,35b,35cを用意して、モールド35a,35b,35c毎にそれぞれ微細構造体を製造した。
【0061】
実際上、ここでの微細構造体の製造方法も、上述した実施例と同じように、先ず初めに、モールド35a,35b,35cの溝部37が形成された凹凸パターンの表面に、上述と同じPTFE分散液を塗布してスピンコートによりパターン形成層を形成した。次いで、このパターン形成層に対して、窒素雰囲気下で、温度350℃で10分間加熱して、PTFE分散液中の乳化剤を揮発させるとともに、PTFEを溶融させ、320℃で電子線を加速電圧150kV、照射電流1mAで照射した。
【0062】
これにより、パターン形成層が硬化して転写部が形成され、モールド35a,35b,35cの表面に微細構造体を製造できた。次いで、各モールド35a,35b,35cからそれぞれ微細構造体を剥離し、これら微細構造体を走査型電子顕微鏡で観測したところ、図12(A)に示すモールド35aから図12(B)に示す微細構造体31a、図12(C)に示すモールド35bから図12(D)に示す微細構造体31b、図12(E)に示すモールド35cから図12(F)に示す微細構造体31cが得られた。これら結果から、いずれの微細構造体31a,31b,31cでも、各モールド35a,35b,35cの溝部37の文字寸法に合わせて突出した凸部32が転写部33に形成されており、これら全ての微細構造体31a,31b,31cにおいてモールド35a,35b,35cの微細な凹凸パターンが正確に再現されて転写されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0063】
1 微細構造体
2 転写部
3 転写基板
5 モールド
6 基台
7 溝部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン形成層がモールドにより変形された状態で硬化され、前記モールドの凹凸パターンが転写された転写部を備え、
前記転写部は、電離放射線が電離放射線硬化部材に照射されて硬化されている
ことを特徴とする微細構造体。
【請求項2】
前記転写部には、前記電離放射線硬化部材に架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさせて形成した架橋体又は重合体が含まれている
ことを特徴とする請求項1記載の微細構造体。
【請求項3】
前記電離放射線硬化部材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物である
ことを特徴とする請求項1記載の微細構造体。
【請求項4】
前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の微細構造体。
【請求項5】
凹凸パターンが形成されているモールドの表面に、電離放射線硬化部材を含有したパターン形成層を形成する形成ステップと、
前記パターン形成層に電離放射線を照射することにより該パターン形成層を硬化させ転写部を形成し、前記モールドの凹凸パターンが該転写部に転写した微細構造体を成形する成形ステップと
を備えることを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記成形ステップは、前記電離放射線が照射されることにより、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を前記電離放射線硬化部材に起こさせ前記パターン形成層を硬化させる
ことを特徴とする請求項5記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記電離放射線硬化部材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物である
ことを特徴とする請求項5記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である
ことを特徴とする請求項5〜7のうちいずれか1項記載の微細構造体の製造方法。
【請求項1】
パターン形成層がモールドにより変形された状態で硬化され、前記モールドの凹凸パターンが転写された転写部を備え、
前記転写部は、電離放射線が電離放射線硬化部材に照射されて硬化されている
ことを特徴とする微細構造体。
【請求項2】
前記転写部には、前記電離放射線硬化部材に架橋反応、重合反応又はその両方の反応を起こさせて形成した架橋体又は重合体が含まれている
ことを特徴とする請求項1記載の微細構造体。
【請求項3】
前記電離放射線硬化部材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物である
ことを特徴とする請求項1記載の微細構造体。
【請求項4】
前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の微細構造体。
【請求項5】
凹凸パターンが形成されているモールドの表面に、電離放射線硬化部材を含有したパターン形成層を形成する形成ステップと、
前記パターン形成層に電離放射線を照射することにより該パターン形成層を硬化させ転写部を形成し、前記モールドの凹凸パターンが該転写部に転写した微細構造体を成形する成形ステップと
を備えることを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記成形ステップは、前記電離放射線が照射されることにより、架橋反応、重合反応又はその両方の反応を前記電離放射線硬化部材に起こさせ前記パターン形成層を硬化させる
ことを特徴とする請求項5記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
前記電離放射線硬化部材が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカルボシラン、ポリシラン、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、ポリイミド、それらの変性体及びそれらの共重合体のうちいずれか1種、或いはこれらの混合物である
ことを特徴とする請求項5記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記電離放射線が、電子線、X線、ガンマ線、中性子線及び高エネルギーイオンのうちいずれか1種、或いはこれらの混合放射線である
ことを特徴とする請求項5〜7のうちいずれか1項記載の微細構造体の製造方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図6】
【図11】
【図12】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図6】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−187779(P2012−187779A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52359(P2011−52359)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】
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