説明

微細気泡生成ノズル

【課題】気体が加圧下で溶解している液体中に生成させる微細気泡の生成量を容易に調整可能とし、しかも、それを低コストで実現することのできる微細気泡生成ノズルを提供すること。
【解決手段】微細気泡生成ノズル1は、気体が加圧下で溶解した液体2の流路3が内部に形成され、その流路の入口6側を形成する流入部7と、出口8側を形成する吐出部9とを備え、これらの流入部と吐出部の間に、流路において最も小さい流路断面積を有する気泡生成部5が設けられ、この気泡生成部では、その内周面11において液体が接触する部分に、撥水性を有する撥水処理部12が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡径が0.1-1000μm程度である微細気泡を液体中に生成させ、微細気泡を含んだ液体を生成し、吐出する微細気泡生成ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
空気などの気体を水などの溶媒に加圧下で溶解させた液体をベンチュリ管などの微細気泡生成ノズルに供給し、通過させると、流速が増加する際の減圧にともない液体の流れの中で圧力が、液体の飽和蒸気圧より低くなり、キャビテーションが発生する。このキャビテーションによって溶存気体が遊離し、気泡径が0.1-1000μm程度である微細気泡が液体中に生成する。この微細気泡は、洗浄効果をはじめ、肌の保湿効果や温熱効果などの入浴の効能をもたらすものなどとして注目されている。
【0003】
液体に含まれる微細気泡と溶存気体のそれぞれの比率は、微細気泡を含んだ液体の用途などに応じて最適なものに調整されることが望ましく、一般的には、微細気泡生成ノズルの大きさや形状の変更によって対応している。
【0004】
一方、下記特許文献1には、噴孔に導かれる液体にキャビテーション現象により気泡を生成させる気泡生成部と、気泡の状態を変化させて噴孔から噴霧されるミストの粒径を調整可能としたミスト粒径調整手段とを備えた液体噴霧ノズルが記載されている。
【0005】
上記液体噴霧ノズルは、また、気泡生成部から噴孔に導かれる液体を加熱可能とした加熱手段、もしくは液体に波動エネルギーを印加可能とした波動エネルギー印加手段または液体にガスを混入可能としたガス混入手段を備えている。そして、上記ミスト粒径調整手段は、上記加熱手段もしくは波動エネルギー印加手段の出力またはガス混入手段のガス混入量を調整可能としている。
【0006】
このような液体噴霧ノズルでは、気体生成部でキャビテーションにより気泡を生成させた液体を加熱することによって、気泡の膨張や液体の飽和蒸気圧の上昇を起こさせ、気泡数を増加させることができ、加熱手段の出力調整により気泡の増加の程度を変化させることができる。同様に、液体噴霧ノズルでは、気泡を生成させた液体に波動エネルギーを印加することによって、液体と気泡の界面を振動させて気泡を微細化し、気泡数を増加させることができ、波動エネルギーの周波数や振幅を調整することにより気泡の増加の程度を変化させることができる。また、液体噴霧ノズルでは、気泡を生成させた液体にガスを混入させることによって、気泡数を増加させることができ、ガス混入量の調整により気泡の増加の程度を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−212574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された液体噴霧ノズルでは、液体に含まれる気泡の数の増加およびその調整のために、加熱手段もしくは波動エネルギー印加手段またはガス混入手段の配設とともに、それら各手段用のミスト粒径調整手段の配設が必要とされている。
【0009】
このため、上記液体噴霧ノズルは、その構成が必ずしも簡便であるとは言えず、液体に含まれる微細気泡と溶存気体のそれぞれの比率の調整を低コストで実現するのに適しているとは言いにくい面がある。
【0010】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、気体が加圧下で溶解している液体中に生成させる微細気泡の生成量を容易に調整可能とし、しかも、それを低コストで実現することのできる微細気泡生成ノズルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の微細気泡生成ノズルは、気体が加圧下で溶解した液体の流路が内部に形成され、その流路の入口側を形成する流入部と、出口側を形成する吐出部とを備え、これらの流入部と吐出部の間に、流路において最も小さい流路断面積を有する気泡生成部が設けられ、この気泡生成部では、その内周面において液体が接触する部分に、撥水性を有する撥水処理部が形成されていることを特徴としている。
【0012】
この微細気泡生成ノズルにおいては、撥水処理部は、凹凸表面を有し、その凹部もしくは凸部の数、または隣り合う2つの凹部同士もしくは凸部同士の間の間隔が調整され、微細気泡の生成量を制御可能としていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微細気泡生成ノズルによれば、気体が加圧下で溶解している液体中に生成させる微細気泡の生成量を容易に調整可能とし、しかも、それを低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の微細気泡生成ノズルの一実施形態を示した断面図と、微細気泡生成ノズルを液体が通過するときの液体の圧力および流速の変化を模式的に示したグラフである。
【図2】図1に示した微細気泡生成ノズルの斜視図である。
【図3】図1に示した微細気泡生成ノズルにおける微細気泡の生成原理を模式的に示した要部断面図である。
【図4】気泡生成部の性状が異なる2つの微細気泡生成ノズルに、空気が加圧下で溶解した水を、流速を変えて供給し、気泡生成部における水の流速と微細気泡の生成量の関係を測定した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の微細気泡生成ノズルの一実施形態を示した断面図と、微細気泡生成ノズルを 液体が通過するときの液体の圧力および流速の変化を模式的に示したグラフである。図2は、図1に示した微細気泡生成ノズルの斜視図である。
【0016】
微細気泡生成ノズル1は、ベンチュリ管を構成することのできる、金属製、エンジニアリング・プラスティック製などの円管状の部材であり、内部に、空気などの気体が水などの溶媒に加圧下で溶解した液体2の流通を可能にした流路3が形成されている。微細気泡生成ノズル1では、流路3の途中に、流路断面積が他の部分より縮小された絞り部4を有し、この絞り部4に気泡生成部5が形成されている。
【0017】
すなわち、微細気泡生成ノズル1は、液体2の入口6側を形成する円管状の流入部7と、液体2の出口8側を形成する円管状の吐出部9とを備えている。流入部7と吐出部9の流路断面積は等しくされている。そして、これらの流入部7と吐出部9との間に、上記のとおりの絞り部4が設けられ、この絞り部4に気泡生成部5が形成されている。
【0018】
流入部7では、最も絞り部4側に位置する端面7aが、流路3に対して直交方向に配置されている。気泡生成部5は、絞り部4において流入部7側に位置し、流路断面積が流入部7より小さく、また、絞り部4において最も流路断面積が小さくなっている。つまり、気泡生成部5は、微細気泡生成ノズル1に形成されている流路3において最も小さい流路断面積を有している。このような気泡生成部5は、絞り部4において微細気泡生成ノズル1の長さ方向に延びている。そして、気泡生成部5の最も吐出部9側に位置する端部から絞り部4は、吐出部9に向かって次第に流路断面積が増大し、吐出部9に連設されている。
【0019】
このような微細気泡生成ノズル1に気体が加圧下で溶解した液体2が供給され、液体2が流路3を入口6から出口8に向かって流れるとき、図1に示したように、流入部7で一定であった液体2の流速は、流入部7から気泡生成部5に流出するとき、急激に増加する。この流速の急激な増加は、気泡生成部5の流路断面積が流入部7の流路断面積より小さくなっていることによる。このような液体2の流速の増加にともない、液体2の圧力は急激に減少し、流れの中の圧力が液体2の飽和蒸気圧より低くなる。その結果、気泡生成部5においてキャビテーションが発生する。このキャビテーションにより液体2中の溶存気体が遊離し、気泡径が0.1-1000μm程度である微細気泡10が液体2中に生成する。
【0020】
液体2が、気泡生成部5を流れ、絞り部4において流路断面積が次第に増大している部分を流れると、液体2の流速は次第に遅くなり、液体2の圧力が次第に増加する。吐出部9の流路断面積は、流入部7の流路断面積と等しくされているため、出口8から吐出する液体2の流速および圧力は、入口6に流入するときとほぼ等しくなる。微細気泡生成ノズル1の出口8からは、上記のとおりの微細気泡10を含んだ液体2が吐出される。
【0021】
また、微細気泡生成ノズル1では、気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分に、撥水性を有する撥水処理部12が形成されている。撥水処理部12の撥水性は、水の接触角が90°以上であることが一般的な目安として例示され、また、撥水処理部12の撥水性は、110-150°の高撥水性や150°以上の超撥水性を含んでもいる。このような撥水性を実現する撥水処理部12は、気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分を、たとえばブラスト処理や切削加工などによって微小な凹凸を有するものとして形成することができる。また、たとえば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などを塗布などによってコーティングして皮膜により形成することもできる。この場合、皮膜を形成する材料には、トリフルオロメチル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基、長鎖アルキル基などの官能基を有する有機材料なども例示される。皮膜の厚さは、特に制限はなく、一般的には、10数nmから数十μm程度が例示される。
【0022】
撥水処理部12を、微小な凹凸を有するものとして形成する場合には、図3に示したように、その表面に、微小な凹凸13が形成されている。このため、気体が加圧下で溶解した液体2を微細気泡生成ノズル1に供給すると、気泡生成部5の撥水処理部12が形成されている部分において流路3に液体2が満たされるとき、撥水処理部12の凹部13aに空隙14が発生し、キャビテーションが発生しやすくなり、微細気泡10の生成を促進させる。また、撥水処理部12を、皮膜をコーティングして形成する場合にも、キャビテーションが発生しやすくなり、微細気泡10の生成を促進させる。このため、撥水処理部12は、微細気泡10の数を増加させ、液体2中の微細気泡10の比率を増加させることができる。
【0023】
したがって、図1および図2に示した微細気泡生成ノズル1は、撥水処理部12の撥水性によって、気体が加圧下で溶解している液体2中に生成させる微細気泡10の生成量を容易に調整することができ、その調整は、低コストで実現可能となる。このため、微細気泡生成ノズル1に供給する液体2が比較的低速の場合であっても、撥水処理部12によってキャビテーションを容易に発生させることが可能であり、たとえば、液体2を圧送するポンプの出力を低減させることができるなどの省エネルギー化が図られる。また、撥水処理部12は、微細気泡10の生成を促進させるため、気泡生成部5の長さの短縮化が可能となるとともに、気泡生成部5の下流側の長さを短縮化することも可能となり、微細気泡生成ノズル1の小型化が図られる。
【0024】
なお、撥水処理部12では、図3に示したように、空隙14の間隔dが短いほど、微細気泡10の生成を促進させることができる。空隙14の間隔dが短いとは、言い換えると、液体2の接触角が大きいことであり、接触角が大きくなるにしたがい、気泡生成部5で生成する微細気泡10の数が増加する。空隙14の間隔dは、たとえば、撥水処理部12の凹凸表面における凹部13aまたは凸部13bの数により決定され、また、空隙14の間隔dは、撥水処理部12の凹凸表面において隣り合う2つの凹部13a同士または凸部13b同士の間隔によっても決定可能である。したがって、撥水処理部12の凹凸表面における凹部13aもしくは凸部13bの数、または隣り合う2つの凹部13a同士もしくは凸部13b同士の間の間隔を調整することによって、液体2中の微細気泡10の生成量を制御することが可能となる。たとえば、撥水処理部12を形成する切削加工や、形成する皮膜の材料の選択、コーティング方法などを適宜変更することによって、微細気泡生成ノズル1の微細気泡生成能力を用途などに応じた適当なものに容易に設定することが可能となる。
【0025】
以下に、本発明の微細気泡生成ノズルの実施例を示す。
【実施例】
【0026】
図1、2に示した微細気泡生成ノズル1をエンジニアリング・プラスティックの一種であるポリフェニレンエーテル(PPE)により2つ作製した。1つは、気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分を切削加工し、表面に微小な凹凸13(図3参照)を多数形成し、撥水性を有する撥水処理部12を形成したものである。もう一つは、表面を平滑に作製した金型を用いて作製したものであり、気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分の撥水性は、切削加工したものより低く、比較的親水性を有するものである。
【0027】
これら2つの微細気泡生成ノズル1を用い、空気が加圧下で溶解した水を液体2として流入部7に流速を変えて供給し、気泡生成部5における水の流速と微細気泡10の生成量の関係を測定した。その結果が、図4に示したグラフである。
【0028】
気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分に撥水処理部12を形成した微細気泡生成ノズル1では、水の流速が低速側でキャビテーションが発生し、その発達は速い。微細気泡10の生成効率が高いことが確認される。つまり、撥水処理部12を形成した微細気泡生成ノズル1では、気泡生成部5におけるキャビテーションの発生および発達が促進され、水、すなわち、液体2の流速が比較的低速であっても、微細気泡10の生成量が多い。
【0029】
一方、気泡生成部5の内周面11において液体2が接触する部分が親水性を有する微細気泡生成ノズル1では、水の流速が高速側でキャビテーションが発生し、その発達は遅い。微細気泡10の生成効率は、撥水処理部12を形成した微細気泡生成ノズル1に比べ低くなる。
【0030】
もちろん、本発明は、上記のとおりの実施形態および実施例によって限定されるものではない。微細気泡生成ノズルの構成および構造や形状などの細部については様々な態様が可能である。また、撥水処理部の形成方法についても同様である。
【符号の説明】
【0031】
1 微細気泡生成ノズル
2 液体
3 流路
5 気泡生成部
6 入口
7 流入部
8 出口
9 吐出部
10 微細気泡
11 内周面
12 撥水処理部
13 凹凸
13a 凹部
13b 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体が加圧下で溶解した液体の流路が内部に形成され、その流路の入口側を形成する流入部と、出口側を形成する吐出部とを備え、これらの流入部と吐出部の間に、前記流路において最も小さい流路断面積を有する気泡生成部が設けられ、
この気泡生成部では、その内周面において前記液体が接触する部分に、撥水性を有する撥水処理部が形成されていることを特徴とする微細気泡生成ノズル。
【請求項2】
前記撥水処理部は、凹凸表面を有し、その凹部もしくは凸部の数、または隣り合う2つの凹部同士もしくは凸部同士の間の間隔が調整され、微細気泡の生成量を制御可能としていることを特徴とする請求項1に記載の微細気泡生成ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−86177(P2012−86177A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235883(P2010−235883)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】