説明

微細気泡発生器および微細気泡供給システム

【課題】 微細気泡を安定して生成することのできる、新規な構造を有する微細気泡発生器および十分に多量の微細気泡を安定して供給することのできる微細気泡供給システムの提供。
【解決手段】 微細気泡発生器は、一方の開口が微細気泡吐出口とされた筒状のケーシングの他方の開口部に、供給される気体溶解液が流過される複数の細孔が形成された減圧プレートが設けられており、前記気体溶解液が、当該気体溶解液が減圧プレートを流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で減圧プレートの細孔を流過されると共に、これにより生ずる衝撃波のエネルギーが気体溶解液の流出方向に拡散することを禁止する半密閉領域を区画する衝撃波伝播方向規制プレートが、ケーシングの内部における減圧プレートと離間した位置において当該減圧プレートと平行に設けられている。微細気泡供給システムは、上記微細気泡発生器を具えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば加圧された気体溶解液が供給されることにより、直径が数μm程度の微細気泡(「マイクロバブル」と称される。)を生成する微細気泡発生器およびこの微細気泡発生器を具えた微細気泡供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、水中(常圧下)での直径が数μmから50μm程度の範囲内の大きさである、いわゆる「マイクロバブル」と称される微細気泡、あるいは0.1μm以下である、いわゆる「ナノバブル」と称される微細気泡は、直径が1mm以上である通常気泡に比して、以下の(1)〜(4)などの優れた特質を有することから、例えばマイクロバブル風呂、半導体の洗浄処理、医用応用として血管造影、船舶の摩擦抵抗の低減、天然ガスハイドレート製造等ですでに実用化されていると共に、水浄化処理や、例えば牡蠣や貝の養殖等で有用であると考えられている。
【0003】
(1)気泡界面表面積が著しく大きいこと。
例えば直径10μmのマイクロバブルの気泡界面表面積は、気相体積比(ボイド率)が同一の気泡であれば、直径1mmの気泡(通常気泡)の100倍の大きさとなり、気泡界面表面積が大きいことにより、気泡表面の界面活性の違いによる物質伝達や物質吸着が著しく大きくなるため、強い洗浄力を有するものとなる。
(2)気泡泡内圧力が大きいこと。
直径10μmのマイクロバブルの気泡泡内圧力は、直径1mmの気泡(通常気泡)の100倍の大きさとなり、例えば3気圧程度にもなる。マイクロバブルは、気泡泡内圧力が高いことにより、気体溶解効率が高くなると共に、自己加圧効果によってその径を縮小させることとなり、さらに気泡に圧力振動が加わることによって、体積振動を起こして急激に収縮し、これに伴って、断熱圧縮状態となって気泡内が超高圧、超高温の極限状態となる結果、気泡は強い酸化力を持つOHフリーラジカル等を生成し、有害化学物質を分解する化学活性能力を有するものとなる。
(3)気体溶解効率が高いこと。
上記(1)、(2)で述べたように、気泡泡内圧力の大きいマイクロバブルは、その界面表面積の著しく大きいことによる理由と、ヘンリーの法則による理由とによって、効率よく気体を溶解させる性質を有する。例えば酸素やオゾンガスによってマイクロバブルを形成すると、水浄化処理を高い効率で行うことができるので、例えば牡蠣や貝の養殖等の水産業に利用した場合に有用なものとなる。
(4)気泡上昇速度が遅いこと。
一般に、気泡径が小さくなると上昇速度は小さくなる。具体的には、例えば直径1mmの気泡(通常気泡)の上昇速度が100mm/secであるのに対し、直径10μmのマイクロバブルは、30μm/secである。気泡の、水中における滞留時間が長いことにより、洗浄効果や有害物質の浄化効果、酸素富化等の多くの利点が得られる。
【0004】
このようなマイクロバブルの生成方法としては、これまでに種々の方法が提案されていると共に実施もされている。例えば、加圧ポンプによって導入した水と空気とをよく撹拌しながら気液混合タンクに送り、気体を水に溶解させた後、吐出ノズルによって、気液混合水に減圧作用を加えて初期気泡を発生させ、その後、加圧作用およびせん断作用を加えることにより初期気泡の微細化を図り、マイクロバブルを生成する方法(加圧溶解法)が知られている(非特許文献1および特許文献1参照)。
【0005】
非特許文献1に示された微細気泡吐出ノズルは、複数の細孔が形成された減圧プレートと、その直後に設けられた複数の金網(メッシュ体)とからなるネットカートリッジを具えている。このような構成によれば、細孔より吐出された気液混合液が高速でこの金網にぶつかって衝突減速されることにより気泡の核ができ、微細気泡が析出される、と記載されている。
また、特許文献1に示された微細気泡を生成するノズルは、複数のオリフィスと複数のメッシュ体とを具えてなるものであり、気液混合液がオリフィスを通過するときに加圧されると共にオリフィスから放出されるときに減圧され、これにより、微細気泡を生成し、この微細気泡をメッシュ体を通過させることによりさらに微細化させる気液混合撹拌機構が複数段設けられていることにより、さらに気泡径の小さい微細気泡を生成することができる、と記載されている。
【0006】
【非特許文献1】「松下電工技報」,No41,Jul,1990
【特許文献1】特許第3620797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、上記のような加圧溶解法による微細気泡の生成方法おいては、気液混合水が細孔あるいはオリフィスを通過するときに、減圧されて初期気泡を発生し、その後、初期気泡は急激に膨張するもすぐに、金網またはメッシュ体による加圧作用、せん断作用を受けて圧壊、分裂して微細気泡を大量に生成する。
ところで、どの程度の減圧作用を気液混合水に与えることにより初期気泡が発生し、どの程度の加圧作用およびせん断作用を与えることによって微細気泡を生成するのかについての数式的な(理論的な)解明はなされておらず、非特許文献1および特許文献1のいずれのものにも、微細気泡の生成メカニズムについての具体的な説明はなされていない。
従って、非特許文献1に開示されている微細気泡吐出ノズルおよび特許文献1に開示されているノズルにおける、細孔あるいはオリフィスの大きさや、メッシュ体あるいは金網の開口径の大きさなどの具体的構成は、実験的に試行錯誤して決められたものと推察され、例えばポンプによる流量、圧力等の条件によって、ノズルの構成についての、微細気泡を安定して得るための最適条件はその都度別個に実験的に求めなければならない。
また、上記のようなノズルを構成する金網およびメッシュ体は、実際上、その目の寸法が数百μmと小さいものであるので、目詰まりを起こしやすく、実用性に問題がある。
【0008】
以上のように、加圧溶解法による微細気泡の生成方法においては、加圧作用による気体の液体中への溶解と、減圧作用による気泡の発生、という単純なメカニズムで発現するものではない。非特許文献1にも記載されているように、単に、加圧された気液混合液を高速でノズルを通過させることにより減圧しても、少量のしかも直径の大きな気泡は得られるものの、すぐに消滅してしまい、大量の微細気泡を得ることができない。
【0009】
以上のような事情に基づいて、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、加圧溶解法による微細気泡の生成方法において、細孔を通過させる流速の大きさの適正化を図ると共に、減圧作用を受けて発生する初期気泡を圧壊、分裂させるエネルギーを受けるための、半密閉領域を形成することにより、多量の微細気泡を確実に得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の目的は、気泡径が50μm以下である微細気泡を安定して生成することのできる、新規な構造を有する微細気泡発生器を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、十分に多量の微細気泡を安定して供給することのできる微細気泡供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の微細気泡発生器は、加圧された気体溶解液が供給されることにより微細気泡が生成される微細気泡発生器において、
一方の開口が微細気泡吐出口とされた筒状のケーシングと、当該ケーシングの他方の開口部に設けられた、供給される気体溶解液が流過される複数の細孔が形成された減圧プレートとを具えており、前記気体溶解液が、当該気体溶解液が減圧プレートを流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で、減圧プレートの細孔を流過されると共に、これにより生ずる衝撃波のエネルギーが気体溶解液の流出方向に拡散することを禁止する半密閉領域を区画する衝撃波伝播方向規制プレートが、ケーシングの内部における減圧プレートと離間した位置において当該減圧プレートと平行に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の微細気泡発生器においては、減圧プレートにおける細孔が、下記式(1)および式(2)の関係を満足するよう、孔径の大きさおよび数が設定された構成とされていることにより、気体溶解液を、当該気体溶解液が減圧プレートを流過されることにより発生する気泡流体中の音速を超える速度で、減圧プレートの細孔を通過させることができる。
【0012】
【数1】

【0013】
上記式(1)および式(2)において、Vaは気泡流体中の音波の速度〔m/sec〕、P0 は気体溶解液の加圧圧力〔Pa〕、Qは気体溶解液の流量〔m3 /sec〕、dは細孔の孔径〔mm〕、nは細孔の数〔個〕である。
【0014】
また、本発明の微細気泡発生器においては、減圧プレートと衝撃波伝播方向規制プレートとの間の間隙の大きさが1.5mmより小さい構成とされていることが好ましい。
【0015】
さらにまた、本発明の微細気泡発生器においては、ケーシングが円筒状であり、
衝撃波伝播方向規制プレートは、ケーシングの内径寸法より小さい外径寸法を有し、当該衝撃波伝播方向規制プレートの外周面とケーシングの内周面との間に環状空隙を形成する円板状のものであって、
前記環状空隙を介して吐出口方向に流過される、半密閉領域において生成された微細気泡液をケーシングの径方向内方に向かって流れるよう転向させ、撹拌しながら中央部に形成された開口を介して流出させる撹拌プレートが、衝撃波伝播方向規制プレートと離間した位置において減圧プレートおよび衝撃波伝播方向規制プレートと平行に設けられた構成とされていることが好ましい。
【0016】
本発明の微細気泡供給システムは、液体に気体を混合して気液混合液として吐出する渦流ポンプと、この渦流ポンプから供給される気液混合液を加圧することにより気体を液体に溶解して気体溶解液を生成する加圧溶解手段と、この加圧溶解手段から気体溶解液が供給されることにより微細気泡を生成する上記微細気泡発生器とを具えてなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の微細気泡発生器によれば、加圧された気体溶解液を、当該気体溶解液が減圧プレートを流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度以上の流速で、減圧プレートの細孔を流過させると共に、減圧プレートと離間した位置においてこれと平行に衝撃波伝播方向規制プレートが設けられて衝撃波のエネルギーの伝播方向を規制する半密閉領域が形成されていることにより、気体溶解液に対する十分な減圧作用を得ることができると共に半密閉領域で生ずる衝撃波のエネルギーの作用を確実に得ることができるので、減圧作用によって初期気泡を確実に発生させることができると共に当該初期気泡を衝撃波のエネルギーによって圧壊、分裂させて微細化することができる結果、十分に多量の微細気泡を確実に生成することができる。
【0018】
また、撹拌プレートが設けられていることにより、半密閉領域において生成された微細気泡液の流れ方向が転向されることによって撹拌作用が得られるので、当該微細気泡の更なる微細化を図ることができる。
【0019】
上記のような微細気泡発生器を具えてなる本発明の微細気泡供給システムによれば、気泡径が50μmである微細気泡、いわゆるマイクロバブルを十分に多量に安定して供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の微細気泡供給システムの一例における構成の概略を示す説明図、図2は、本発明の微細気泡発生器の一構成例における概略を、ケーシングの一部を破断した状態で示す分解斜視図、図3は、図2に示す微細気泡発生器の軸方向断面図である。
この微細気泡供給システム10は、例えば浴槽11内の液体例えば水Wを渦流ポンプ15によって汲み上げ、これに気体例えば空気Aを混合し、加圧溶解手段である加圧溶解タンク(気液混合タンク)18に供給し、加圧溶解タンク18において空気を水に溶解させて生成した気体溶解水WAを微細気泡発生器20に供給し、これにより、微細気泡を生成して浴槽11内に還流させる循環システムとして構成されている。図1において、12は浴槽11内の水W中のごみを除去するための吸引フィルターであり、16は導入される空気Aを水Wの流量に応じた適正な量に調整して所期の吐出圧力を得るための流量調整バルブである。
【0021】
加圧溶解タンク18は、渦流ポンプ15から供給される気液混合水を加圧することにより空気を水中に溶解させると共に、水中に溶解せずに気泡(通常気泡)となっている空気を排除する機能を有する。
加圧溶解タンク18内の圧力、すなわち供給される気液混合水に対する加圧圧力は、例えば2〜4気圧(2×105 〜4×105 Pa程度)であり、空気を水中に溶解させるのに要する時間は、例えば5〜6secである。
【0022】
微細気泡発生器20は、加圧溶解タンク18から供給される加圧された状態の気体溶解水WAに対して減圧作用を付加することによって初期気泡を発生させ、この初期気泡を圧壊、分裂させることにより微細気泡を生成するものである。
微細気泡発生器20の構成について具体的に説明すると、図2および図3に示すように、一端に微細気泡吐出口22を有する、例えばプラスチックス製の円筒状のケーシング21と、このケーシング21の他端側の開口部23に設けられた、ケーシング21の内径と同等の外径を有する円板状の減圧プレート25とを具えており、減圧プレート25には、その中央部に、複数の細孔26が同心円上の位置に等角度間隔毎に離間して形成されている。27は、加圧溶解タンク18に連結される気体溶解水供給管である。
【0023】
この微細気泡発生器20は、気泡流体中で衝撃波を発生させ、この衝撃波のエネルギーの作用によって初期気泡を圧壊して微細気泡を生成するものである。
例えばジェット機が空気の音速を超える速度で飛行するとき、ジェット機の先端から強い衝撃波(圧力波)がでることが知られているが、この微細気泡発生器20においては、気泡流体中で衝撃波を発生させるために、気体溶解水WAを、当該気体溶解水WAが減圧プレート25の細孔26を流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で、減圧プレート25の細孔26内を流通される。
【0024】
そして、この微細気泡発生器20においては、気体溶解水WAが、減圧プレート25の細孔26を流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で、減圧プレート25の細孔26を流過されることにより生ずる衝撃波のエネルギーがケーシング21の軸方向に拡散することを禁止して当該エネルギーを径方向に伝播させるための半密閉領域を区画すると共に、気体溶解水WAの微細気泡吐出口22方向への直接的な流出を禁止する邪魔板としての機能を有する衝撃波伝播方向規制プレートが、ケーシング21の内部における、減圧プレート25とケーシング21の軸方向に離間した位置において、減圧プレート25と平行に設けられている。
【0025】
この衝撃波伝播方向規制プレート30は、ケーシング21の内径より小さい直径を有する円板状のものであって、衝撃波伝播方向規制プレート30の外周面とケーシング21の内周面との間に環状空隙31が形成されている。
衝撃波伝播方向規制プレート30は、衝撃波のエネルギーの伝播方向を規制するものであるので、減圧プレート25における複数の細孔26の形成領域すなわち気体溶解水WAが吐出される領域に対向する円領域のみに設けられていればよいという性質のものではなく、当該円領域の直径の大きさより少なくとも150%以上大きい直径を有するものとされる。
また、衝撃波伝播方向規制プレート30と減圧プレート25との間の間隙(離間距離)の大きさgは、例えば0.2〜1.5mmであることが好ましい。これにより、半密閉領域Sにおいて発生する衝撃波のエネルギーによる作用を確実に得ることができる。
【0026】
また、この微細気泡発生器20においては、衝撃波伝播方向規制プレート30の外周面とケーシング21の内周面との間に形成された環状空隙31を介して微細気泡吐出口22方向に流過される、半密閉空間Sにおいて生成された微細気泡水MBの流れを転向させ、これにより微細気泡水MBを撹拌する撹拌プレート35が設けられている。
撹拌プレート35は、ケーシング21の内径寸法と同一の大きさの直径を有する円板状であって、その中央部に、微細気泡水MBを微細気泡吐出口22方向に流出させる開口36が形成されており、従って、半密閉領域Sから流出される微細気泡水MBは、ケーシング21の内壁に沿って軸方向外方に流れることが禁止されてケーシング21の径方向内方側に向かって流れるよう転向される。
撹拌プレート35と衝撃波伝播方向規制プレート30との離間距離の大きさhは、例えば3〜10mmであることが好ましい。これにより、半密閉領域Sにおいて生成された微細気泡水MBに対する十分な撹拌作用を得ることができる。
【0027】
以上のように、この微細気泡発生器20においては、減圧プレート25の細孔26から流出される気体溶解水WAが衝撃波伝播方向規制プレート30によって径方向外方に向かって流れるよう転向され、衝撃波伝播方向規制プレート30の外周面とケーシング21の内周面との間に形成される環状空隙31を介して半密閉領域Sから軸方向外方に向かって流出され、その後、撹拌プレート35によって径方向内方に向かって流れるよう転向されて開口36を介して微細気泡吐出口22から吐出される、蛇行する流路が形成されている。このような流路を備えていることにより、半密閉領域Sにおいて生成された微細気泡水MBに対する十分な撹拌作用が得られ、更なる気泡の微細化を図ることができる。
【0028】
上述したように、本発明に係る微細気泡発生器は、加圧溶解タンク18から供給される加圧状態にある気体溶解水WAを、当該気体溶解水WAが減圧プレート25を流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で、減圧プレート25の細孔26内を流通させ、気泡流体中で衝撃波を発生させるものである。
上記微細気泡発生器20においては、減圧プレート25に形成される細孔26の孔径および数が、上記式(1)および式(2)を満足するよう設定されており、これにより、気体溶解水WAを当該気体溶解水WA中の音速を超える速度で減圧プレート25の細孔26内を流過させることができる。
【0029】
上記式(1)は、細孔26内を流通される気体溶解水WAの流量をQ〔m3 /min〕、流速をV〔m/sec〕、総面積をA〔m2 〕とすると、流量Qは流速Vと総面積Aとの積で示されることから、流速Vを気泡流体中の音波の速度Va以上とすることにより、得られる。
【0030】
上記式(2)は、次のように導かれたものである。すなわち、一般に、気泡流体中の音波の速度(音速)Vaは非常に小さく、圧力をP〔Pa〕、ボイド率(気泡体積/総体積)をα、液体の密度をρ〔kg/m3 〕とすると、下記式(イ)により示される。
また、ベルヌーイの定理から、流速Vが気泡流体中の音速Vaに等しくなるとき、音速Vaは下記式(ロ)により示され、さらに、加圧溶解タンク18の圧力(気体溶解液に対する加圧圧力)をP0 とすると、この値はV=0のときの圧力であるから、下記式(ロ)におけるKは下記式(ハ)により示される。ここに、本実施例のように液体が水である場合には、密度ρは103 〔kg/m3 〕であり、半閉鎖領域Sにおけるボイド率αを0.1とすると、下記式(ロ)および式(ハ)より上記式(2)が得られる。
【0031】
【数2】

【0032】
例えば、加圧溶解タンク18内の圧力(供給される気体溶解水WAの加圧圧力)P0 を3気圧(3×105 Pa)に設定した場合には、気体溶解水WAが減圧プレート25を流過されることにより発生する気泡流体中の音速Vaは上記式(2)より22.6m/secとなり、この演算結果から、上記式(1)に基づいて、細孔26の孔径dおよび細孔26の数nが設定される。
そして、気泡流体中の音速Va以上の速度が得られる構成とされていることにより、基本的には半密閉領域Sにおいて衝撃波を確実に発生させることができ、しかも、細孔26を通過させることによる気体溶解水WAに対する十分な減圧作用を得ることができて初期気泡を確実に発生させることができる。
【0033】
以下、上記微細気泡供給システム10の動作について説明する。
まず、渦流ポンプ15が作動されると、浴槽11内の水Wが吸引フィルター12を介して汲み上げられると共に流量調整バルブ16によって適正量に調整された空気(外気)Aが吸入されて、水Wと空気Aが混合されて気液混合水として加圧溶解タンク18に吐出される。
そして、加圧溶解タンク18内において、供給された気液混合水が加圧されることにより空気Aが水W中に溶解されると共に、溶解せずに気泡となっている空気が排除され、これにより、空気が限界まで水に溶解されて飽和状態とされた気体溶解水WAが生成される。
その後、加圧された状態にある気体溶解水WAが微細気泡発生器20に供給され、当該気体溶解水WAが、減圧プレート25を流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度Vaを超える速度で、減圧プレート25の細孔26内を流通されることにより、減圧作用を受けて半密閉領域Sにおいて初期気泡が発生されると共に発生した初期気泡が半密閉領域Sにおいて生ずる衝撃波のエネルギーによって圧壊、分裂されて微細化され、これにより微細気泡が生成される。ここに、衝撃波は、衝撃波伝播方向規制プレート30が設けられていることにより、ケーシング11の軸方向に対して拡散することが禁止されて、例えば気体溶解水WAの流出方向(軸方向)に対して垂直な方向(衝撃波伝播方向規制プレート30の面方向)に沿って伝播され、径方向外方に向かって流れる初期気泡混合水に作用されることとなる。
そして、半密閉領域Sにおいて生成された微細気泡水MBは、環状空隙31を介して軸方向外方に向かって流出され、その後、撹拌プレート35によってそのまま直接的に微細気泡吐出口22に向かって流れることが禁止されることによって径方向内方に向かって転向され、これにより、撹拌されて更に微細気泡が微細化されながら、撹拌プレート35の開口36を介して微細気泡吐出口22から浴槽11内に還流されて、微細気泡水MBが供給される。
【0034】
而して、上記構成の微細気泡発生器20によれば、加圧された気体溶解水WAを、当該気体溶解水WAが減圧プレート25を流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度Va以上の流速で、減圧プレート25の細孔26を流過させると共に、減圧プレート25と離間した位置においてこれと平行に衝撃波伝播方向規制プレート30が配設されて衝撃波のエネルギーの伝播方向を規制する半密閉領域Sが形成されていることにより、気体溶解水WAに対する十分な減圧作用を得ることができると共に半密閉領域Sで生ずる衝撃波のエネルギーの作用を確実に得ることができるので、減圧作用によって初期気泡を確実に発生させることができると共に発生した初期気泡を衝撃波のエネルギーによって圧壊、分裂させて微細化することができる結果、十分に多量の微細気泡を確実に生成することができる。
また、撹拌プレート35がさらに設けられていることにより、半密閉領域Sにおいて生成された微細気泡水MBの流れ方向が転向されることによって撹拌作用が得られるので、当該微細気泡の更なる微細化を図ることができる。
従って、このような微細気泡発生器20を具えてなる微細気泡供給システム10によれば、気泡径が50μmである微細気泡、いわゆるマイクロバブルを十分に多量に安定して供給することができる。
【0035】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
図2および図3に示す構成を参照して、本発明に係る微細気泡発生器(20)を作製した。各構成部材の具体的な構成は以下に示すとおりである。
〔ケーシング(21)〕
材質;プラスチックス、内径;φ46mm、長さ;50mm
〔減圧プレート(25)〕
材質;ステンレス鋼、直径;φ46mm、厚み;2mm、細孔の孔径(d);φ1.1mm、数(n)8個、形成位置;形状中心を中心とした半径6mmの同心円上における等角度間隔毎に離間した位置
〔衝撃波伝播方向規制プレート(30)〕
材質;プラスチックス、直径;φ40mm、厚み;5mm、減圧プレートとの離間距離(g);1.0mm
〔撹拌プレート(35)〕
材質;プラスチックス、直径;φ46mm、厚み;5mm、開口の開口径;φ26mm、衝撃波伝播方向規制プレートとの離間距離(h);1mm
【0036】
上記微細気泡発生器を用いて図1に示す構成に従って微細気泡供給システム(10)を構成し、液体として温度が20℃の水、気体として空気を用い、水10リットル/min(流量(Q):0.17×10-33 /sec)に対して空気300cc/minの割合で両者を混合すると共に、加圧溶解タンク内の圧力(加圧圧力)P0 を3気圧(3×105 Pa程度)に設定して作動させた。
この微細気泡発生器により得られる気泡は、気泡径が平均で32μm程度である、いわゆる「マイクロバブル」と称される微細気泡であることが確認されると共に、微細気泡水を10リットル/minの流量で安定して得られることが確認された。ここに、気泡径の測定は、細管を上昇してくる気泡を4.5倍のズームレンズをつけたCCDカメラによって観察することにより、行った。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、微細気泡発生器に供給される気体溶解液を構成する液体およびこれに溶解される気体の種類(組み合わせ)は、水と空気に限定されるものではなく、液体としては、例えば海水、シリコーン油等を例示することができ、気体としては、例えば酸素、オゾン、炭酸ガス等を例示することができる。
また、微細気泡発生器を構成する各プレートの材質、厚みおよびその他の具体的構成は、特に制限されるものではなく、また、撹拌プレートを有さない構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の微細気泡発生器により得られる微細気泡(マイクロバブル)は、例えば真白な牛乳の様を呈したミルキー状であり、更に、上述したような特質を有することから、マイクロバブル風呂や洗浄器などに適用した場合には、美容効果、温熱効果、洗浄効果等を得ることができ、極めて有用なものとなることが期待される。
また、マイクロバブルそれ自体が洗浄効果、有害物質の浄化効果等を有するものであるので、例えば半導体の洗浄処理、医用応用として血管造影、船舶の摩擦抵抗の低減、天然ガスハイドレート製造等に適用した場合には、液体に溶解させる気体として酸素やオゾン等を利用することにより一層高い洗浄効果、有害物質の浄化効果を得ることができ、極めて有用なものとなる。
さらに、水浄化(水質改善)処理や、例えば牡蠣や貝の養殖等の水産業に利用した場合においても有用なものとなることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の微細気泡供給システムの一例における構成の概略を示す説明図である。
【図2】本発明の微細気泡発生器の一構成例における概略を、ケーシングの一部を破断した状態で示す分解斜視図である。
【図3】図2に示す微細気泡発生器の軸方向断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 微細気泡供給システム
11 浴槽
12 吸引フィルター
15 渦流ポンプ
16 流量調整バルブ
18 加圧溶解タンク
20 微細気泡発生器
21 ケーシング
22 微細気泡吐出口
23 開口部
25 減圧プレート
26 細孔
27 気体溶解水供給管
30 衝撃波伝播方向規制プレート
31 環状空隙
35 撹拌プレート
36 開口
S 半密閉領域
W 水
A 空気
WA 気体溶解水
MB 微細気泡水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧された気体溶解液が供給されることにより微細気泡が生成される微細気泡発生器において、
一方の開口が微細気泡吐出口とされた筒状のケーシングと、当該ケーシングの他方の開口部に設けられた、供給される気体溶解液が流過される複数の細孔が形成された減圧プレートとを具えており、前記気体溶解液が、当該気体溶解液が減圧プレートを流過されることにより発生する気泡流体中の音波の速度を超える速度で、減圧プレートの細孔を流過されると共に、これにより生ずる衝撃波のエネルギーが気体溶解液の流出方向に拡散することを禁止する半密閉領域を区画する衝撃波伝播方向規制プレートが、ケーシングの内部における減圧プレートと離間した位置において当該減圧プレートと平行に設けられていることを特徴とする微細気泡発生器。
【請求項2】
減圧プレートにおける細孔は、下記式(1)および式(2)の関係を満足するよう、孔径の大きさおよび数が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の微細気泡発生器。
【数1】

【請求項3】
減圧プレートと衝撃波伝播方向規制プレートとの間の間隙の大きさが1.5mmより小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細気泡発生器。
【請求項4】
ケーシングが円筒状であり、
衝撃波伝播方向規制プレートは、ケーシングの内径寸法より小さい外径寸法を有し、当該衝撃波伝播方向規制プレートの外周面とケーシングの内周面との間に環状空隙を形成する円板状のものであって、
前記環状空隙を介して吐出口方向に流過される、半密閉領域において生成された微細気泡液をケーシングの径方向内方に向かって流れるよう転向させ、撹拌しながら中央部に形成された開口を介して流出させる撹拌プレートが、衝撃波伝播方向規制プレートと離間した位置において減圧プレートおよび衝撃波伝播方向規制プレートと平行に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の微細気泡発生器。
【請求項5】
液体に気体を混合して気液混合液として吐出する渦流ポンプと、この渦流ポンプから供給される気液混合液を加圧することにより気体を液体に溶解して気体溶解液を生成する加圧溶解手段と、この加圧溶解手段から気体溶解液が供給されることにより微細気泡を生成する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の微細気泡発生器とを具えてなる微細気泡供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−149209(P2008−149209A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336790(P2006−336790)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000137476)株式会社マルコム (15)
【Fターム(参考)】